「おらっ、いくぞ!!」
火蓋を切ったのは先行するド
ミニオン側の6機……カラミティのシュラークとヴァニシングのロングライフルが火を噴き、その火線を迎撃に出撃したインフィニティ達5機が散開して回避す
る。
その火線に沿うように急接近
するゲイル、ディスピィア、レイダー、フォビドゥン……
ゲイルはのべもなく一気にイ
ンフィニティへと向かっていく…それに応じるようにレイナもゲイルに向かって突き進む。
スペリオルは回り込もうとし
ていたディスピィアに対峙する。
ディスピィア……『絶望』の
名を冠せしMSは右手の2連装ビームライフル:ラルヴァを放つ。リーラは反射するようにそのビームの狙撃をスペリオルの機動性を駆使し、回避する。
「速い……」
イリューシアはポツリと漏ら
すと、左腕のヒートロッド:ヨルムガントを振り被る。蛇のようなしなりを描きながら迫るロッドに対し、両肩のレールガン:シヴァで狙撃する。
先端に命中し、ロッドの勢い
が相殺される……それに追い討ちをかけるように両腰部のビーム兵器:MA105 アクセルビームドライバーを起動し、それを発射する。
ディスピィアに向かって真っ
直ぐ伸びるビームに対し、イリューシアはあるシステムを起動させる。ディスピィアの瞳が煌き、機体を変形させる。両脚部が曲がり、腰が180度回転し両腕
がボディに沿って静止し、その横にラルヴァが分離して装着され、バックパックのリフターがボディに被さり、その中から細長い首と獣の頭部が姿を見せる。怪
鳥を思わせる鳥へと変形したディスピィアは翼を拡げ、先程よりも機動性を発揮しビームの中を掻い潜るように急接近し、スペリオルを弾き飛ばす。
「くっ……!」
予想を遥かに超えるスピード
にリーラは歯噛みする……
「速い……けど、スピードな
らこっちも負けない!」
すかさずリーラもスペリオル
を変形させ、戦闘機形態となってディスピィアを追う……戦闘機と怪鳥………二人の少女を乗せて、二機はぶつかり合う。
その横でエヴォリューション
がドラグーンブレイカーを展開する……この宇宙空間でこそ、この武装は真価を発揮する。だがそれは、ヴァニシングも同じであった。重力という制約をなくし
た今、バックパックのガンバレルを展開して縦横無尽に様々な射程からビームが襲いくる。
だが、ドラグーンブレイカー
は有線式のガンバレルと違ってさらに制約がない。
ドラグーンブレイカーのビー
ムで応戦しながら、右手にインフェルノを抜き、それを左腰のもう一本とドッキングさせ、ハルバート形態にして突っ込んだ。
フリーダムとジャスティス
も、カラミティの砲撃を回避しつつ、レイダーとフォビドゥンの迎撃に回る。
「生け捕れったてさ!」
「どれか一つでもいいの?」
パイロットには4機の捕獲を
命じられていたが、ウォルフはまったく気にもせずただ自分の戦いに満足いく相手と殺し合いたいので、関係ない。
MS戦での戦いは混戦を極め
る………
そして、ドミニオンを含めた
地球軍艦艇はネェルアークエンジェルとクサナギ、オーディーンに向かって加速する。
ナタルは相手艦から発進した
MSに眼をやや見張っていた……まさか、これだけのMSを保有していたとは流石に予想外であった。
中には、ストライクやルシ
ファー、バスター、ブリッツといったアラスカ到着前に撃破・回収された機体やザフト製と思しきMSも数体確認できる。
そして、今現在こちらの所属
機と交戦中のMSが問題の機体だろう……だが、オーブでもこのMS相手に苦戦を強いられたというのに、それを捕獲するなど難題もいいところであった。
「アークエンジェル、及び
オーブ・イズモ級、所属不明艦前進してきます! 針路グリーン94、マーク3ブラボー!」
メインパネルには、こちらへ
と向かってくる敵艦のマークが表示されている。
アークエンジェルも外装がか
なり変化しており、その能力ははっきりとは解からない。加えて、オーブ軍の宇宙艦…小型だが、AA級を開発したモルゲンレーテが造り上げただけに油断はで
きない。そして最後のライブラリ未登録の艦影……黒の高速艦と思しき船体に前方に備わって巨大なビーム砲が特徴的だ。
「艦長、パワーより入電…
『我、アンノウン艦をブラックワンと呼称…迎撃に向かう』とのことです」
「了解した……バロウズを含
めた数隻も援護に向かわせろ!」
艦列から離れ、オーディーン
へと向かっていくパワーと250m級2隻に駆逐艦4隻……
説得に失敗した以上、ナタル
は躊躇いながらも意識を切り替えていた。アズラエルは不満げだったが、艦長としての権限と自由裁量は仮にもナタルにもある。先程の勧告にしても命令からは
逸脱しておらず、また事を交えずに相手が降伏してくれた方がいいに決まっている。そう考えれば、先程の行為はむしろ合理的ではあっただろうが……そこに
は、ナタルの願望も微かに込められていた。
その甘い覚悟を嗜める……マ
リューらの決意にはやや同情する部分もあるが、命令には逆らえない。そして、艦のクルーの命を預かる艦長としてこの戦闘に生き残らなければならないのだ。
なにしろ、この艦に配備され
ている人員はほとんど訓練上がりの新人がほとんどなのだから……
「ミサイル発射管、1番から
6番コリントス装填…終端誘導を自律制御パターンBにセット!!」
相手は激戦を潜り抜けてきた
艦だ……生半可な戦法では勝てない。
「照準、オレンジα17から
42まで、5ポイント刻みの射角で発射せよ。同時に転針、針路インディゴ13、マーク20、チャーリー…機関最大!!」
複雑な指示にクルー達は戸惑
いながらも必死に従う。
「シミュレーションを思い出
せ」
渇を入れるナタルに対し、ア
ズラエルはその指示に不審げな表情を浮かべる。
「そんなあさっての方角にミ
サイルを撃って、どうするんです?」
ナタルが指示した方向は、正
面から迫ってくる敵艦とは別方向……それに加えてその方向に転針しろというのはアズラエルでなくとも訝しげに思うだろう。
「解からないなら、黙ってい
てください」
「へぇ?」
冷ややかに答えるナタルに対
し、アズラエルは興味津々にその手腕のお手並み拝見とばかりに傍観する。
MS部隊が激突し、戦場に火
花が咲き誇る。
群がってくるストライクダ
ガーに対し、ネェルアークエンジェルとクサナギの援護に就いたバスター、ブリッツビルガー、ルシファー、イージスディープが迎撃に向かう。
バスターが対装甲散弾砲に合
体させ、それを放つ……周囲のデブリごと固まっていたストライクダガーがそれに巻き込まれる。体勢を崩したストライクダガーに、ブリッツビルガーとルシ
ファーが撃ち落としていく。
メビウスがミサイルとリニア
ガンで向かってくるが、イージスディープが掻い潜るように攻撃を回避し、ビームライフルで一機を撃ち落とすと、MA形態に変形してスキュラを放った。ビー
ムの奔流が接近していた駆逐艦の船体を貫き、それが誘爆を引き起こして船体が爆発する。
初めて扱う機体ながら、その
ディアッカやニコルにも劣らない腕前は流石ザフトの赤服を着るエースだけはある。
M1・ジン・シグーの混成部
隊がストライクダガー隊に襲い掛かり、慣れない宇宙での戦闘のM1部隊をジンやシグー隊が援護し、ストライクダガー隊を撃破していく。
コスモグラスパー隊が編成を
組んでレールガンやビーム砲で狙撃して迫る。メビウスよりもより宇宙戦闘での強化を施された機体は、従来のメビウスよりも強力だ。
迂回しながら母艦を叩こうと
迫る……それを防ごうと艦隊の護衛に就くゲイツアサルト部隊が立ちはだかる。右手のMA−M221:ユーディキウムビームライフルを構え、コスモグラスパーを撃ち落と
す。編隊の穴があいた隙を衝き、シヴァやミサイルで追い討ちをかける。
ネェルアークエンジェルの甲
板には、一体のMSが立つ……腰部に戦艦からのエネルギーラインを繋ぎ、バックパックには巨大な排熱と冷却用の装置がセットされ、両腕には巨大な狙撃用大
型スナイパーライフルが握られている。
トウベエが新たに開発した
AA級の陽電子エネルギーラインをMS用のラインに接続し、小型ポジトロンライフルとしたポジトロンストライカーパックを装備した105ダガー弐型が狙撃
ライフルを構える。その出力と命中精度故に母艦から離れて運用はできないが、威力は抜群である。照準が250m級の一隻にセットされると、トリガーを引い
た。
蒼白い閃光が真っ直ぐに伸
び、戦艦の主砲を潰し、船体上部を蒸発させながらブリッジを削ぎ取り、戦艦が轟沈する。
ナタルは歯噛みする……敵の
戦力は予想以上であった。
既に駆逐艦3隻に250m級
を2隻も撃沈させられている……MSやMA隊の損耗も大きい。
「僚艦に打電、敵戦艦と距離
を取って長距離からの狙撃に徹しろ! ドミニオン、艦首上げ、ピッチ角30、前速!」
ドミニオンが前進し、デブリ
帯に入る……護衛艦群がやや後退するのをクサナギのブリッジから確認したカガリはやや怪訝そうに見やるが、すぐに意識を切り替える。
「最大船速、ネェルアークエ
ンジェルの左舷につく!!」
クサナギがネェルアークエン
ジェルの左につきながらゴッドフリートを応酬し、MS数機を撃破させる。
「旗艦を墜とす! エンジン
部を……!」
ドミニオンに狙いを定めよう
と指示を出そうとした瞬間、衝撃がクサナギを襲った。
「何だ!?」
艦長シートに座るキサカが声
を上げる。
「解かりません! いや…な
にかケーブルのようなものが船体に……」
敵の攻撃を受けたわけではな
い……モニター越しにクサナギの船外を見やると、細長い弦のようなワイヤーが煌く。まるで蜘蛛の巣に絡め取られたかのごとく、クサナギは船体を頑丈なケー
ブルに拘束され、動きを抑制されてしまった。
「引きちぎれ!」
「できません!」
キサカの指示に、操舵士が呻
くように答える。
クサナギを拘束したのはコロ
ニー構造体として使用されるメタポリマーストリングと呼ばれる高分子化合物の特殊ワイヤーであり、肉眼でも捉えにくく、センサー類でもキャッチできない。
このL4宙域には破壊されたコロニーの残骸が多く漂う場所でもあり、なおかつクサナギのクルー達にはさらに過酷なことに宇宙での戦闘経験がないのだ。宇宙
での戦闘訓練や実戦経験を持つ者ならこのトラップじみたデブリには注意を払えるが、オーブは宇宙軍を擁さないのが仇となった。
キサカは素早く対処手段を弾
き出し、通信機で外で戦闘中のグランに指示を出す。
「グラン二佐! 船体に何か
が絡んだ! 処理を頼む!」
《了解した…アサギ機、クサ
ナギの方に回れ!!》
M1部隊を率いてストライク
ダガーを迎撃していたグランがアサギに指示を飛ばす。
《了解! ジュリ、マユラ、
ここをお願いね!!》
アサギのM1が機体を翻し、
クサナギへと後退する。
「あれ…もう終りじゃ
ん……」
クサナギが動けないでいるの
を眼に留めたシャニがボソッと呟き、フォビドゥンがクサナギへと真っ直ぐに向かう。
「クサナギ…っ!」
その動きに気付いたアスラン
が叫ぶと、素早く後を追う…グラン達はストライクダガーやメビウス隊の対処で動けない……身動きのできない状態でMSに対抗はできない。
だが、突然のシャニの行動に
クロトが毒づく。
「おいシャニ! ちっ、あの
野郎……!」
人にばかり面倒なことを押し
付けて身勝手な行動をするお仲間に歯噛みし、レイダーがゲイルと交戦しているインフィニティに接近する。
レイダーの接近に気付いたレ
イナはゲイルを弾くように離れ、接近してきたレイダーが2機の間を過ぎる。ダークネスで追い討ちをかけるが、そこへカラミティが回り込んできた。
「前回のお返しをしてやる
ぜっ!!」
オルガが前回の屈辱を思い出
し、スキュラを放つ……加えてゲイルもまたベルフェゴールで砲撃してくる。
2機の火線を回避するイン
フィニティにレイダーが旋廻し、再び迫る。
「レイナ!!」
フリーダムがインフィニティ
の援護に回ろうとするが、レイナは叫ぶ。
「私に構うな! 母艦を叩
け!!」
母艦さえ墜とせばバッテリー
稼動のMSはもはや烏合の衆……制止するフリーダムの前で打ち出されたミョルニルをインフィニティはバルカンで狙撃し、加速を相殺させると、そのミョルニ
ルをデザイアで受け止め、軌道を逸らして弾き飛ばす。
レイナの狙い通り、軌道が逸
れて弾き返されたミョルニルは近くに回り込んでいたカラミティに直撃し、カラミティを弾き飛ばした。
キラは頷き、ドミニオンへ向
かい加速する。
そして、クサナギに絡んだス
トリングをビームサーベルで焼き切ろうとするアサギのM1……そこへアラートが響く。
アサギが気付いた瞬間には、
ほぼ眼前にフォビドゥンが現われた。
「っ!?」
突然のことに息を呑み、硬直
するアサギの前で、シャニはほくそ笑む。
「墜ちな……」
冷たく呟き、ニーズヘグを振
り上げた瞬間、フォビドゥンは横から何かに弾き飛ばされた。
アサギのM1の前にファトゥ
ムOOが立ち塞がり、そこへジャスティスが舞い降りる。
「何をしている…急げっ!」
「は、はい!」
叱咤され、アサギは慌てて作
業を続行する……仲間と艦の危機を救ってくれたジャスティスにカガリが安堵の表情を浮かべる。
だが、弾かれたフォビドゥン
は態勢を立て直し、ニーズヘグを構えて突撃してきた。
「邪魔すんなよ……」
歪んだ笑みを浮かべるシャ
ニ……ジャスティスは再度リフターを装着し、両腰部からビームサーベルを抜き、ハルバート形態に接続し、シールドを掲げて加速する。
「でぇぇぇぇぃぃ!!」
ジャスティスが振り下ろした
ビームサーベルをゲシュマイディッヒ・パンツァーで受け止めるフォビドゥン……2機の間にエネルギーがスパークする。
クサナギよりやや離れた位置
でクサナギのM1部隊と地球軍側のMS隊の戦闘が繰り広げられていた。
クサナギの援護から誘き出さ
れたことに気付いたグランは軽く毒づいた。
「なかなか優秀な指揮官がい
るようだ……ガンナーM1部隊はクサナギへと後退! クサナギの護衛に就け! 残りは小隊を編成して対処しろ!!」
ガンナーM1が距離を置き、
砲戦に徹する……陣形の崩れた隙を衝き、宇宙用に装備されたブースターユニット装備のM1部隊がビームライフルで応戦する。
グランのM2もまたキリサメ
を振るい、ストライクダガーを両断する。
GBMを装着したマユラ、
ジュリ、バリーのM1もまた奮戦を見せる…そこへ敵機の接近を告げるアラートが響く。
「新しい敵…って! またあ
いつら〜〜!!」
マユラが思わず不快げに声を
上げる……地上でも戦闘を繰り広げたトライ・スレイヤーのストライククラッシャーだ。
「フフフ…今度こそ、息の根
を止めてあげるよ」
不適に笑い、カミュのストラ
イククラッシャーがエクステンショライフルで狙撃する。M1がボディを撃ち抜かれ、爆散する。
「このぉぉぉっ!!」
龍牙を装備したジュリのM1
が肩部のアグニUを放つ。伸びるビームの奔流をストライククラッシャーに着弾する瞬間、ワイズの機体が割り込み、外肩部に備えられたリフターでビームを偏
屈させる。
「うぉぉぉっ、そんなもんで
俺がやられるかぁぁぁぁ!!」
勇みよく吼えながら、ワイズ
のストライククラッシャーが右腕のドリルアームを回転させて突貫してくる。
ジュリのM1が標的にされる
が、そこへ割り込む影……バリーの獣牙を装備したM1がテールマシンガンで狙撃し、態勢を崩したストライククラッシャーに手のクローで弾き飛ばす。
「奴の相手は俺がする…君達
は残りを」
静かに伝えると、バリーはワ
イズのストライククラッシャーに向かって加速する。
マユラとジュリが態勢を立て
直そうとすると、カミュとクルツのストライククラッシャーが砲撃してくる。
二人は歯噛みしながら火器を
駆使し、応戦する。
トライ・スレイヤー隊の出現
にグランが歯噛みする間もなく……別方向からビームが飛来し、グランは反射的にシールドを翳した。
「ぐっ!」
ビームがシールドに着弾し、
衝撃にコックピットが振動する。
ビームが放たれる方角から
は、ストライクダガーとはやや機体形状が違う機体と真紅のMSが向かってきた。
モーガンの駆るエールダガー
とエドのソードカラミティだ……グランはエールダガーのボディ中央に刻印されたエンブレムを視界に入れた瞬間、眉を顰めた。
「アレは…月下の狂犬……
モーガン=シュバリエか!」
南アメリカ軍に属していた時
にもグランはユーラシアの大戦車部隊を指揮する優秀な男がいるという話は聞き及んでいた。
エールダガーはビームライフ
ルで濃密に狙撃を繰り返す……舌打ちするグラン…接近戦用にカスタマイズされているこの機体は、距離を置かれての戦闘は不利だ。推進剤を噴かし、ビームの
射線から離脱する……その時、真下からソードカラミティがシュベルトゲーベルを抜いて迫ってきた。
「むっ!」
グランもキリサメを構え、振
り下ろす……キリサメとシュベルトゲーベルが激突し、火花が散る。M2が脚を振り被り、ソードカラミティを蹴り飛ばす。
だが、そこへエールダガーが
ビームサーベルを抜いて急接近してきた。
「やらせるかよっ!!」
M2を庇うようにミゲルのゲ
イツ改がシールドのビームクローを展開して受け止める。
「っ! やるな…っ!」
相手の技量を瞬時に推し量
り、エールダガーは距離を取る…ゲイツ改が追い、ルプスビームライフルで狙撃するが、エールダガーはシールドで受け止める。
性能でいえば、ゲイツ改の方
が上だ……リフターのバーニアを噴かし、高機動で銃撃戦を繰り広げる。
その傍で交錯を繰り広げる
M2とソードカラミティ……ソードカラミティの振り被ったシュベルトゲーベルをシールドで受け止め、キリサメを薙ぐ。その斬撃をシュベルトゲーベルを逆手
で持ち、受け止める。
膠着状態に陥る……
「ひゅ〜やるねぇ、あん
た!」
不意に通信から軽薄な声が飛
び込んでくる……その声を聞いた瞬間、グランは息を呑んだ。
「貴様……エド…エドワード
=ハレルソンか!」
冷静なグランらしくない動揺
した感情で叫び、モニターに映るソードカラミティを見る…だが、それは向こうも同じで息を呑む音が聞こえてきた。
「その声…ひょっとして、グ
ラン隊長なんですかい!?」
エドも眼を見開き、驚愕に叫
ぶ。
互いに驚きに固まり……動き
を止めて空中で静止する。
「エド……一年半ぶりだ
な……まさか、お前が大西洋連邦に組み込まれていたとは……」
どこか、郷愁を漂わせる表情
でグランは語る……
「もう、そんなになります
か……」
そう……開戦前……南アメリ
カ合衆国がプラント側につくことを表明したため、大西洋連邦に武力侵攻を受けた。グランはその時、戦闘機部隊を率い、エドもその中にいた。
そして、敗戦後……グランは
オーブに亡命し、エドは大西洋連邦内に組み込まれた。
「切り裂きエドも、今や奴ら
の飼い犬ということか……」
探るような視線を向ける……
すると、自嘲めいた笑みをエドは浮かべた。
「かもしれませんね……今の
俺は、大西洋連邦の軍人ですから……」
エドは嫌というほど解かって
いる……もはや護るべき祖国はない……自分の生き方が虚しいことも解かっているが、今の自分がこの生き方を決めた以上は簡単には退けない。
「そうか…ならば、もはや…
語るまい!」
エドの信念を感じ取ったグラ
ンは、静かにキリサメを構える。
道を違えた以上、戦場にいる
限りは敵だ……グランは、かつての部下達にそう教えた。
そして、信念を持っている以
上は、なにも語らない……ただ、ぶつかり合うことでしか解かり合えない、と………
「そうですね……俺も、全力
で行かせてもらいますよ! グラン隊長!!」
ソードカラミティもシュベル
トゲーベルを構える……互いに構えたまま相手の出方を窺う。
その時、離れた場所で閃光が
煌いた……刹那、M2とソードカラミティは一気に加速し、相手に向かって突貫する。
中央でキリサメとシュベルト
ゲーベルが交錯し……エネルギーがスパークする。
オーディーンとパワーが対峙
する……ともにダークカラーを施された艦同士で、主砲の撃ち合いが起こる。
パワーのゴッドフリート4門
が火を噴く。
「回避! 艦首上げ、ピッチ
角60!!」
エンジンノズルが火を噴き、
艦首を上げてそのビームの射線から回避する。
アンチビーム爆雷を展開して
いるが、ゴッドフリートのビームの熱量はそれを遥かに上回る……オーディーンはミサイル発射管を開き、ミサイルを発射する。
単艦での運用を前提とされて
いるオーディーンには対機動兵器用の対空ミサイルが数多く内蔵されている。
夥しいミサイルがパワーへと
迫る。
「対空!! 弾幕を張
れ!!」
パワーのイーゲルシュテルン
が起動し、全方位に向かって放ち、ミサイルを撃ち落とす。パワー護衛に就いている対艦用の砲戦パックを装備した105ダガー弐型もそれに応戦する。振動に
揺れる中、カタパルトハッチが開く。
カタパルトには赤紫のカラー
リングのストライクファントムがドッキングし、ガンバレルストライカーとビームライフル、シールドを装着する。
「リー、俺が発進したら一度
距離を取れ! ファントム隊には敵艦を攻撃させろ!」
指示を出した瞬間、発進が告
げられ、カタパルトがストライクファントムを打ち出す。
戦場に舞ったストライクファ
ントムはガンバレルを展開し、迫るミサイルを撃ち落とす。
縦横無尽に動くガンバレルは
まるで生き物のごとく動き回り、ミサイルを撃ち落としながら、ストライクファントムはブリッツダガー4機に105ダガー弐型3機、イージスコマンド3機を
引き連れてオーディーンに向かう。
「各機散開! 4方向から仕
掛ける……っ!?」
友軍機に指示を出していた瞬
間、ネオの脳裏に電流のようなものが走った。
その感覚と同時に操縦桿を
捻った……刹那、別方向から大出力のビームの奔流が襲い掛かり、MSがバッと散らばる。
だが、僅かに遅れたブリッツ
ダガー一機がビームに呑み込まれ、爆散する。
「何だ……この感じは!?」
やや苛立たしげにその方向を
見やると、そこからアグニを構えたストライク、インフィニート、ヴァリアブル、ダガーが姿を見せる。
「少佐! あの機体…!」
ストライクファントムの機影
に気付いたアルフがムウに通信を送る。
「ああ……ストライクの同型
機かよ……それに、背中にしょってるのは俺のメビウス・ゼロのパクリじゃねえか!」
軽く毒づきながらも、ムウは
神妙な面持ちだった。
(何だ……この妙な感じ
は………っ?)
眼前の黒いストライクから感
じる気配……親近感にも既視感にも不快感にも似た奇妙な感覚……こんな感覚はクルーゼ以外には感じた覚えがない。
(クルーゼ……いやっ、違
う………!)
宿敵の気配を読み間違えるは
ずがない……それに、クルーゼが地球軍に加わったとは考えられない。
そうこう錯綜している間にも
ストライクファントムがビームライフルで狙撃してくる。
4機は散開し、ヴァリアブル
がレーヴァティンを抜き、対艦用のキャノン砲で砲撃してきた105ダガー弐型の懐に飛び込み、レーヴァティンで機体を真っ二つに斬り裂く。
爆発の炎が蒼い機体を照ら
す。
「アルフ! 少年を連れて
オーディーンの援護に回ってくれ!!」
「了解! いくぞ、坊主!」
「は、はい!」
ブリッツダガー3機とイージ
スコマンド3機がオーディーンに向かい、対空機関砲で応戦している。
アルフのインフィニートが対
空機関砲で迂闊に近づけずにいるブリッツダガー一機に向かってトリガーを引く。ガトリング砲が火を噴き、機体を蜂の巣のように撃ち抜かれ、爆散する。だ
が、ブリッツダガー2機が突如、姿を消す。
「っ! ミラージュコロイド
か!」
完全なステルス性を誇るミ
ラージュコロイドを標準装備しているブリッツダガー2機の反応が完全にレーダーやセンサーから途絶え、アルフは歯噛みする。
だが、そこへ新たな敵機が迫
る。
「おっしゃっっ! こいつは
俺の獲物だぜ!!」
スティングがいきりながら
イージスコマンドをMA形態の高機動モードで突撃しながらビームライフルを連射してくる。
「ぐっ!!」
ビームガトリング砲で砲撃す
るが、イージスコマンドの前面に展開されたゲシュマイディッヒ・パンツァーがビームを全て偏屈させる。
アルフは操縦桿を切り、高機
動で突撃してきたイージスコマンドをかわすが、そこへビームサーベルを展開したアウルのイージスコマンドが迫る。
「獲物の独り占めはいただけ
ないぜ、スティング!」
狂気に染まった瞳で振るう
ビームの刃が、左手のガトリング砲の砲身を斬り落とし、爆発する。
ガトリング砲を捨て、イン
フィニートはミサイルを発射する……それに対し、イージスコマンドがスキュラでミサイルを狙撃し、撃ち落とす。
「大尉!」
2機のイージスコマンドに苦
戦するインフィニートの援護に向かおうとシンのダガーが進もうとした瞬間、そこへビームが過ぎり、シンはシールドを掲げて受け止める。
シンが顔を上げると、そこに
はもう一体のイージスコマンドが加速して向かってきた。
「見つけた……私を不愉快に
させる奴……っ!」
オーブ戦で味わった奇妙な感
覚……苛立ちを与える感覚にステラはそれを齎した原因であるシンのダガーを狙う。
「っ!」
シンも汗をかきながら操縦桿
を握り、ビームライフルで応戦する。
アンチビームシールドで防ぎ
ながら、イージスコマンドが足の先端からビーム刃を展開し、脚を振り上げる。
ダガーは寸でのところで機体
をバックさせ、その光状をかわす……だが、もう片方の脚のビームが振り上げられた。
それを反射的にシールドで受
け止め……エネルギーがスパークする中、シンは奇妙な感覚が頭を襲う。
(この、感じ……あの子なの
か…っ!)
自分でもよく解からない感情
に困惑し、シンはオーブ戦で感じた相手への感覚に戸惑う。
だが、ステラはそんなことは
お構いなしに脚部のビーム刃とビームサーベルを振り被り、攻撃してくる。シンのダガーは必死に防御に徹する。
そして……ムウのストライク
とネオのストライクファントムが交戦を繰り広げていたが、明らかにムウの不利であった。なにせ、今現在ストライクが装備しているのは対艦用のランチャー装
備であり、小回りのきくMS…ましてや、相手はガンバレルを模したストライカーパックを装備しており、不利なのは明らかであった。
ストライクファントムのガン
バレルが展開され、ビームが縦横無尽から放たれる。
かつての自身が使っていた武
器で攻撃されるというのはなんともいえぬ感じではあるが、ムウはその攻撃を持ち前の反射神経で回避する。
ガンバレルを使用した攻撃法
を熟知しているだけにガンバレルの軌道もある程度だが読める。
そのまま対艦バルカンとガン
ランチャーで狙撃する……ストライクファントムに真っ直ぐに向かうが、ネオはガンバレルのビームを発射し、自機の前に壁を作り、それを防ぐ。
「フッ……流石はファントムのお兄さん!!」
ネオは口元を歪めながら、操
縦桿を切り、ストライクファントムがビームライフルとガンバレルを先程よりも縦横無尽に放つ。
間隙もない程の弾幕にムウは
眼を見開く。
「って、冗談じゃない
ぞっ!」
軽口を思わず叩くが、回避し
ようとするが全てを回避し切れるものでもない……微かに機体にビームが掠り、装甲が焦げる。その時、蒼い影が割り込む。
ヴァリアブルがレーヴァティ
ンを掲げ、ビームを打ち払いながら防ぐ。
煙の昇るレーヴァティンを抱
えながら、メイアはムウに呼び掛ける。
「こいつの相手は私がす
る……あんたは一度ネェルアークエンジェルに戻れ…どの道、その装備じゃこいつの相手は無理だ」
ムウはグウの音も出ない……
確かに、今の装備ではこのMSの相手はキツイ…乗っているパイロットは気にはなるが、仕方ないとばかりに一度ネェルアークエンジェルに向かって後退する。
どの道、ストライカーパックを交換してもう一度戻るつもりだった。
ストライクが後退し、ヴァリ
アブルとストライクファントムが対峙する。
暫し睨み合っていたが……弾
かれたようにヴァリアブルが駆け、レーヴァティンを振り上げる。クロスするように振り下ろすが、ストライクファントムはそれをかわす……そすて、ガンバレ
ルとビームライフルで攻撃してくる。それを回避するヴァリアブル……
(こいつが…グリマルディ戦
役で連合の切り札だったガンバレル使いか……!)
グリマルディ戦役、エンデュ
ミオンクレーターの攻防で連合がミストラルに代わる新型兵器として投入したメビウス・ゼロ部隊……MAに複雑な動きをするガンバレルという特殊な武装を装
備させたこのMA部隊はこの攻防でザフトに多くの被害を齎した。
だが、その戦いでガンバレル
を扱える人間はほとんどいなくなったと聞いていたが……そんな逡巡も、眼前に迫るガンバレルに注意を向けたことで消える。
レーヴァティンでビームを撃
ち落としながら、それを振り払い…それがガンバレルを繋いでいたワイヤーを斬り裂き、ガンバレル一つが稼動不能となる。
「おっと! やるねぇ…蒼の
稲妻さん!!」
ヴァリアブルの肩のエンブレ
ムに眼をやり、おどけながらもその応戦は激しい。
ネオはコンソールを操作し、
ストライクファントムの姿がぼやける……怪訝そうな表情を浮かべるメイアの前で、ストライクファントムの姿が完全に消える。
「ミラージュコロイ
ド……っ!」
レーダー類から完全に反応の
消えたステルス能力……メイアは素早く索敵システムを切り替える。
別のモニターに反応が微かに
現われる……ミラージュコロイドで機体を覆うガスの分子を分析する……宇宙空間に漂うガス粒子はあるが、それでもMSを覆い、なおかつ不規則な動きをすれ
ばある程度だが読める。
このコロイド粒子索敵装置も
ヴァリアブルに試験的に導入されたシステムだ……ミラージュコロイドは元々地球軍の技術…当然、それを得たザフトが対抗策を練るのも至極当然だろう。
ガスの中で一際不規則な動き
をするものを見つけ、メイアはその方向に向けて左腕のビームバスターアンカー:スペクターを発射する。
先端が開き、ビームの刃が構
成されて高速で発射されるスペクターが真っ直ぐに向かう……そこへ影がぼやけ、姿を見せたストライクファントムがスペクターをシールドで弾く。
「ちぃ……やるねぇっ!」
舌打ちしながらも、ネオは愉
しげに笑い、ヴァリアブルとストライクファントムはぶつかり合う。
戦闘が開始され、メンデル前
方宙域では激しい火華が咲き乱れる。
その様をメンデルの反対側の
港付近に留まって静観するヴァサリウスと同型艦の2隻……
「さてと……どうしたものか
な? 既に幕が上がっているとはね……」
頬づえをつき、やや考え込む
ように呟く。
戦略パネルを見るイザークや
ヴァネッサ、ガルド、シホはその交錯する反応に見入る。
アークエンジェルと思しき反
応と、それに酷似した外観を持つアンノウン戦艦が2隻…そして地球軍の艦艇ともう一隻、そしてオーディーンの反応……その周辺宙域では数十近い数のMSが
交錯し、激しい戦闘を繰り広げている。
「エターナル、オーディーン
の他に数隻……」
メンデルの港内部にはエター
ナルの反応と、現在戦闘を繰り広げている戦艦の中にはオーディーンの熱源反応もある。だが、その他の艦艇の勢力の詳細が解からない。
「一つは脚付きのようです
が……残りの3隻の未確認艦は地球軍側なのでしょうか……?」
地球軍艦艇を戦闘を繰り広げ
ているアークエンジェルと思しき艦艇……その他のアークエンジェルと同型と思しき戦艦2隻は敵対している。イザーク自身も、その艦影をオーブでの戦闘で確
認した。オーブ側に立って戦う因縁の艦が、もはや地球軍から追われる立場となり、また彼らが脱走した理由もアラスカでの地球軍の行いを知ったイザークから
見れば理解できなくもない。
「しかし…エターナルとオー
ディーンは地球軍側に持ち去られたと思っていましたが…いったい、地球軍の狙いは何なのでしょう……?」
シホが頭を捻りながら尋ね
る。
エターナルとオーディーンを
奪取したのはクライン派……スピットブレイクの目標を地球軍に密告したはずの彼らが、何故今は地球軍と敵対しているのか…こちらを欺くための策かとも思っ
たが、こんなL4の辺境で戦闘をしてもさして意味がない。
思考のループに陥り、考え込
む一同の中で、クルーゼがさして戸惑いも逡巡も見せずに顔を上げた。
「ともあれ、こう状況が解か
らぬのでは、手の打ちようがない……イザーク、そしてガルドは私とともにコロニー内部に潜入し、まずは情報収集にあたる」
イザークとガルドを見やりな
がら呟いた言葉に、一同は眼を丸くする。
「隊長自らですか?」
流石のアデスも戸惑わずには
いられないだろう……偵察任務を部隊の隊長が行うなど本来ならあり得ない。
「でしたら、私が……」
そんな任務、本来なら新人の
役目とでも言うようにシホが名乗り上げるが、クルーゼはそれを制し、指示を変更する素振りは見せない。
「構わん…私自身、確かめた
いのでね。ヴェサリウスとヘルダーリン、ホイジンガーはここを動くなと打電しておけ」
すっとシートから立ち上が
り、身を翻す。
「コロニー、メンデル……う
まく立ち回れば、いろいろなことに片がつく………」
一人ごちるように呟き、ブ
リッジを退出するクルーゼの後を、ガルドが微かに口元に笑みを浮かべて追い、イザークも釈然としないまま続く。
ここ最近で考える上官への不
信感と苛立ちがイザークを落ち着かなくさせていた。
やがて……ヴェサリウスのカ
タパルトハッチが開き、そこにクルーゼが搭乗するゲイツがスタンバイする。
「いいかな、イザーク、ガル
ド……出るぞ」
《はいっ》
《了解》
クルーゼの確認に頷くと、ゲ
イツ、デュエル、バルファスの3機がヴェサリウスより発進した。
ネェルアークエンジェルに装
備の換装に戻ろうとしていたムウ……だが、そこへ展開しているストライクダガーやメビウス、コスモグラスパーが立ち塞がる。
「ちぃぃっ、邪魔なんだ
よ!」
アグニを構え、トリガーを引
く。高出力のビームが過ぎり、ストライクダガーやコスモグラスパーを呑み込み、蒸発させる。
だが、ストライクダガー隊は
回り込んで囲むように向かってくる。
だが、ビームの一射が降り注
ぎ、ストライクダガー一体のボディを貫いて、撃墜する。
「大丈夫ですか、フラガ少
佐!」
カムイの駆るルシファーがス
トライクの援護に回る……オーバーハングのビームキャノンで陣形を崩し、そこへバスター、ブリッツビルガーが追い討ちをかけて敵機を撃破していく。
瞬く間に周辺の敵機の反応が
消えた瞬間……ムウは唐突に、背筋を凍らせるような悪寒が全身を駆け抜けていく。
「この感じ……まさか…!」
もう何度この感覚を味わった
のか、正確な数は覚えていないが……先程の赤紫のストライクから感じたものとは明らかに違う…そして、決して忘れえぬ感覚だ。
間違いなく……『ヤツ』が近
くにいるということを示していた。
宿敵がこの近くにいる……そ
う考えた瞬間、急に機体を反転させ戻っていくストライクを見て、他の3人は眼を見開いた。
「少佐?」
「おい、おっさん!?」
カムイが疑問の声を上げ、
ディアッカが咎めるように呟く。
「だからおっさんじゃな
いッ!」
まったく最近のガキは……俺
はまだ28歳だぞ!、と怒鳴りつけてやりたいのを必死に堪えつつ、ムウは緊迫した声で告げた。
「ザフトがいる!」
「ええっ!?」
何故そんなことが解かったの
か、と3人は思うだろうが、悠長に自分のこの感覚の説明をしている暇はないのだ。
「ディアッカ!」
ニコルの呼び掛けに、身を翻
し、後を追うバスター、ブリッツビルガー、ルシファーの3機……確証はないが、仮にムウの言葉が本当なら、ザフトがこの戦闘に介入するということになりか
ねない。
その真意を確かめるため、4
機はそのままメンデルへと戻った。
MS部隊は混戦を極めてい
る……ネェルアークエンジェルは動けないクサナギの援護に回るようにゴッドフリートとセイレーンの砲口を地球軍艦艇へと向ける。
「ゴッドフリート、セイレー
ン! 撃てぇぇぇぇ!!」
キョウの指示に従い、砲口が
火を噴き、それが地球軍の艦艇の船体を貫き、轟沈させる。
「ドミニオンは!?」
そこに来て、先程から姿をロ
ストした地球軍の旗艦の所在を探す。
「デブリが多くて……」
サイが慌てて索敵するも、こ
の周囲はコロニーの残骸のデブリが数多く漂い、身を隠すには打ってつけといえよう。
だが、次の瞬間……レーダー
に敵艦の接近を告げるアラートが響いた。
「ブルー19、αにドミニオ
ン!!」
ネェルアークエンジェルのほ
ぼ直上……デブリの陰から姿を見せる艦影……
「いつの間に!」
背筋に冷たいものが走った瞬
間、ドミニオンのゴッドフリートが火を噴く。
「回避!!」
「おおっ! あらよっ!!」
矢継ぎのごとく叫んだマ
リュー……モラシムが操縦桿を切り、ネェルアークエンジェルの船体が傾き、なんとか射線を外したが…それも束の間、またもや新たな警告音が響く。
「オレンジΔより、ミサイル
急速に接近!!」
トノムラの叫びに、キョウは
瞬時に罠と察した……
「イーゲルシュテルン、3番
5番9番で迎撃!!」
ネェルアークエンジェルの右
舷側に設置されたイーゲルシュテルンが火を噴き、ミサイルを撃ち落とす……だが、それで全て撃ち落とせなかったが、周囲に展開していたゲイツアサルト部隊
が手持ちの火器で狙撃し、ミサイルを撃ち落とすも爆発の衝撃が船体を揺さぶる。自律制御にセットされたミサイルの罠へと追い込む手腕……マリューはやは
り、流石という称賛の思いを抱かずにはいられなかった。
ドミニオンのブリッジでも、
ナタルは僅かに舌打ちしていた……強化されたアークエンジェルは自分の奇襲にも見事に耐えた。やはり、MSが護衛に就いていてはなかなか決定打が与えにく
い。
「MS接近!!」
その時、蒼い翼を煌かせ、白
いMSが真っ直ぐにドミニオンに向かってきた。
目標に定められたMSの内の
一機だ……
「アレを鹵獲すればよろしい
のですね?」
「うん、そう♪」
事務的な声で尋ねるが、アズ
ラエルはさして気にも留めず、無邪気に頷く。
「では、カラミティとレイ
ダーを……残存艦はアークエンジェルを。バリアント、ゴッドフリート、照準敵MS……撃てぇぇぇ!!」
鋭く命じると同時にゴッドフ
リートからビームの光状が放たれる……戦艦のビームをMSのシールドでは完全に防ぎきれない。
キラはフリーダムの機動性を
駆使し、回避する……だが、そこへ後退したレイダーがミョルニルをを飛ばす。
フリーダムはなんとかその一
撃はかわすも、背後に回り込んだカラミティから砲撃を受け、前のめりにバランスを崩す。そこへMA形態のレイダーが突進し、体当たりで態勢を崩す。
ドミニオンのゴッドフリー
ト、そしてカラミティの砲撃が一斉に放たれ、襲い掛かるもフリーダムは素早く回避し、その攻撃を捌く。
その動きにナタルはやや称賛
にかられながら、オブザーバーの指示を完遂しようと指示をくだす。
「スレッジハマー照準、敵
MS……撃てぇぇぇ!!」
ドミニオンから放たれるミサ
イルが四方からフリーダムに迫る。
コックピット内でキラは歯噛
みした………
戦いは混迷を極める……最後
のステージへの幕開けは、ひしひしと迫っていた…………
《次回予告》
互いの信念をかけ、交錯し合
う者達……
互いに譲れぬものを背負い、
ぶつかり合う姿は真実か、愚かか………
そして彼らは誘われる……全
ての始まりの地へと………
そこで見るものは、真実か…
幻か………
果てない闇の奥底に潜むもの
は………
次回、「記憶の眠る地」
黒き過去の闇、斬り裂け、ガ
ンダム。