機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-42  記憶(あ くむ)の眠る地

 

 

L4のメンデルへと身を潜め るネェルアークエンジェル、クサナギ、エターナル、オーディーンの4隻の前に現われた地球軍……

ドミニオンの艦長に就任した ナタルは巧みな戦術で押していた。ドミニオンの砲火が一斉にフリーダムへと迫る。

だが、その瞬間……キラの中 でなにかが弾け、視界がクリアになる。

ミサイルの軌道を読み、操縦 桿を動かし、バーニアが火を噴いてフリーダムは上昇するも、ミサイルはそれを追ってくる。

だが、キラは冷静にコック ピット内の照準モニターにミサイルをロックし、トリガーを引いた。刹那、ルプスビームライフル、レールガン、プラズマビーム砲が火を噴き、ミサイルを撃ち 落とす。

爆発が照らし出される中、レ イダーが急接近する。

「そりゃぁぁぁ! 撲 殺!!」

叫び上げながら、レイダーが ミョルニルを発射する……キラは回避しようとするが、僅かに遅く、背中に直撃を受け、弾き飛ばされる。

「ボディが残ってりゃいいん だろ!」

背後に回り込んだカラミティ がシュラークを放つ。

「っ!」

キラが歯噛みしながらそれを 回避するが、そこへスキュラも加わり、その濃密さに態勢を崩す。その間隙を狙って、レイダーが距離を縮めんと加速してきた。

「うらっあぁっ!!」

MA形態に変形したレイダー がクローを展開し、フリーダムに体当たりする。

「くそぉぉぉぉ!」

衝撃に呻きながら、キラはフ リーダムを駆る。

 

フリーダムの危機がモニター を通じてジャスティスにも確認できた。

「キラ……!」

援護に向かおうとするも、先 程からフォビドゥンにしつこく付き纏われるジャスティスは、援護に向かうことができない。

「くそっ!」

アスランはやや焦燥に駆られ ながらビームライフルを放つも、フォビドゥンはビームを偏屈させながら向かってくる。

そして、フレスベルグの湾曲 ビームをかわしながら、肩のパッセルを抜き、それを投げ飛ばした。

ビーム刃を展開したパッセル が高速回転で迫り、シャニは舌打ちしてリフターを固めるも、流石に零距離ではその効果も薄く、リフターが斬り裂かれ、態勢を崩す。

その隙を逃さず、一気に懐へ と飛び込んだジャスティスはビームサーベルを振り上げ、フォビドゥンのニーズヘグに向かって振り下ろした。

ビームの刃がニーズヘグの柄 を斬り裂き、ジャスティスは離すように蹴り飛ばした。

「ぐぅぅぅぅっ!」

衝撃に呻きながら、フォビ ドゥンは流されていく……ダメージを確認する間もなくジャスティスはフリーダムの援護に向かう。

 

レイダーは機関砲を放ちなが ら高速のスピードで突進してくる。フリーダムはシールドで機関砲を受け止めながら、レイダーの突進を回避する。

目まぐるしく動き回るため、 フリーダムをロックできず、苛立つオルガ……

「どけぇっ、クロト!!」

思わず怒鳴りつけると、クロ トの悪態が聞こえた。

「けっ、ぶっ壊すと怒られっ ぞ!」

そのままレイダーはクローの 先端にビーム刃を形成し、襲い掛かる……シールドでなんとかその攻撃を捌くも、態勢を崩した。

キラが歯噛みする間もなく、 懐に飛び込むカラミティ……

「これでっ!」

胸部のスキュラにエネルギー が集中する……ほぼ至近距離からのスキュラを受けては、流石のフリーダムでも装甲が持たないだろう。

その瞬間を視界に収めたアス ランはスロットルを引き上げて加速する……刹那、視界がクリアに変わったと同時にスキュラが放たれた。

次の瞬間、スキュラの射線上 に飛び込んだジャスティスがシールドでスキュラを正面から受け止める。その行為に驚愕するキラとオルガ……

「うおぉぉぉっ!!」

アスランは吼えながらシール ドを掲げてカラミティに向かって加速した。融解していくシールド表面へのダメージを気にも留めず、そのままカラミティの胸部のスキュラの砲口に向けてシー ルドを押し付けた。

刹那、エネルギーは出口を失 い、発射口内からこもれたエネルギーが周囲に拡散し、閃光と爆発を引き起こし、2機はその衝撃で弾かれる。

スキュラの砲口が焼け焦げ、 慣性で漂うカラミティのコックピット内でオルガは微かに舌打ちする。

レイダーが機関砲で狙撃して くるが、ジャスティスは溶けたシールドを掲げたままやや後退する。そこへフリーダムが飛び込み、プラズマビーム砲でレイダーを狙撃する。

「アスラン……!」

あまりに無謀な行為に咎めと 心配が入り混じった声が響く。

「大丈夫だ!」

答えながらジャスティスはフ リーダムと肩を並べてカラミティ、レイダーと対峙する。

 

 

その頃……離れた場所で交錯 を繰り広げるインフィニティ、ゲイルとエヴォリューション、ヴァニシング………

インフィニティはダークネス を振り被り、トリガーを引く……高出力のビームが迫るも、ウォルフは薄く笑い、両腕のファーブニルの火炎放射で応戦する。

二つのエネルギーがぶつかり 合い、周囲は閃光に包まれる。

「ッククク、愉しいな、 BA!」

高らかに笑いながらファーブ ニルを伸ばす……牙を立たせ、襲い掛かる竜に向かってバルカンで狙撃し、速度を僅かに相殺させてデザイアで弾き飛ばす。

「貴様と遊ぶつもりはな い……」

微かに舌打ちする……流石に ナタルの戦術の錬度を熟知しているレイナからしてみれば、厄介な相手だ。そしてどうやら、先程からの行動からこちらの機体を極力傷つけないように渋ってい る…まあ、ウォルフは別だが……と内心に毒づきながらインフェルノを振り被り、ゲイルのビームサーベルを受け止める。

「目的はこの機体か……」

ドミニオンにブルーコスモス の盟主であるアズラエルが乗り込み、わざわざ出向いてきたということはこの機体達に秘められた能力に勘づいたからだろう。

ならば、なおさらここでアズ ラエルは始末しておかなければ……この先、追い掛け回されるのは御免だ…マリュー達に元仲間を殺すことは難しい…ならば、その役は自分がやるしかない。

「リン、こいつの相手を頼 む」

ゲイルを蹴り上げ、弾き飛ば すと同時にリンに通信を繋ぐ。

「私は母艦を叩く……こいつ らの相手、しばらく頼む」

自分を頼ったのが予想外だっ たのか、リンは僅かに呆然となるが……やがて、口元を微かに緩めて苦笑を浮かべた。

「……了解した」

静かに答え返し、リンはドラ グーンブレイカーを展開し、ゲイルに襲い掛かる……突然の横殴りの衝撃にウォルフは鼻を鳴らしながらネオ・スキュラを放つ。

そのビームをかわしながら、 ヴァニシングに向けてデザイアを放つ。

ビームの波が襲い掛かり、 ヴァニシングは僅かに態勢を崩す……その隙を衝いて突進し、ヴァニシングに体当たりする。

「がっ!」

微かに呻くアディン……その まま身を振り被り、エヴォリューションはヴァニシングを蹴り飛ばす。弾くと同時に振り向き、背腰部からスクリューウィップを抜き取り、それを振り被った。

撓りながらスクリューウィッ プはゲイルの右腕に絡み、固定する……互いにウィップを引き合いながら膠着する。

その隙にインフィニティはド ミニオンへと向かって加速する。

「ちっ」

それに気付いたウォルフは舌 打ちしながらエヴォリューションを睨む……そして、ふとなにかに気付いたように口端が微かに吊り上がる。

「そうか……お前は、奴 か…」

何気に囁いた一言は、通信越 しにリンにも聞こえ……微かに息を呑む音が聞こえる。

「ッククク、なんとも滑稽だ な……お前がまさかBAを…オリジナルを護るとはな…いや、元々(・・)そう(・・)いう(・・)()造られた(・・・・)んだったなぁ!」

「っ!」

刹那……リンは歯噛みし、ゲ イルを鋭く睨みながらウィップを引き上げる。鋭く引き寄せられたゲイルはそのまま流れにのり、エヴォリューションに向かって加速し、ビームサーベルを抜い て迫る。

リンは僅かに舌打ちし、デザ イアを離し、左手でインフェルノを抜いてビームの刃を受け止める。エネルギーがスパークし、ウォルフは不適に笑い、リンは歯噛みする。

「貴様も所詮、運命からは逃 れられないのさ……禍いものである貴様にはなぁぁぁぁ!!」

あいた左腕のファーブニルを 至近距離から発射し、エヴォリューションを弾き飛ばす。

咄嗟のことで反応できなかっ たリンは衝撃に微かに呻く……だが、すぐさま態勢を立て戻し、その様にレールガンを発射する。

レールガンの光弾をかわしな がら、ウォルフはほくそ笑みながら通信を繋ぐ。

「おい、イル……あのお坊 ちゃんがピンチだ。行ってやれ」

「……畏まりました」

通信を受けたイリューシアは その眼を細め、眼前のスペリオルに向かって急加速する。

ディスピィアがそのクローで スペリオルを弾き飛ばす。

衝撃に呻きながら、リーラは スペリオルをMS形態に戻し、ビームライフルで狙撃するも、ディスピィアはそれを掻い潜るように回避し、そのまま急接近する。

MS形態へと変形し、両肩の ビームキャノンで狙撃する……ビームの射線をかわすも、ディスピィアは両脚部の外部から2本の棒状のユニットを取り出し、それを中央でドッキングさせる と、片方が伸び、その先端に刃が展開される。

その刃先にビームが展開さ れ、それを回転させて構えると同時に加速する。

ビーム薙刀:ライトニングが 突き出される……リーラはほぼ反射的にその軌道を読んだ…だが、対処手段がない。

刹那……スペリオルの瞳が煌 き、スペリオルのバックパックに搭載されていたユニット:ブリューナクが起動し、スペリオルの真正面でデルタを描くように展開し、3つの頂点が結ばれ、そ の中に光が満ちる。

リーラだけでなくイリューシ アも僅かに眼を顰める前でその光の壁にライトニングの先端が触れる……だが、それはビームの不干渉を引き起こし、ディスピィアは弾かれる。

「っ……ビームシール ド……」

僅かに眼を見張る……対し、 リーラも未だ呆然としたままだ。自分の機体にこんな機能があったとは知らなかった。

スペリオルには、バルファス と同様のビームシールド展開ユニットをドラグーンシステムに対応させた特殊発生器:ブリューナクが搭載されており、状況に応じてそれらの用途を変更でき る。

リーラはやや呆然としていた が、すぐさま表情を引き締めて……意識を展開しているブリューナクに送り、そのままシールドを展開させた状態で動き出し、ディスピィアをビームライフルと 腰部のビームドライバーで狙撃する。

ビームの射線に晒され、動き を抑制される……これではドミニオンの援護に向かえない。

一刻も早く行かなければ…… その時、スペリオルに向かってビームの弾丸が何十発と放たれた。リーラは慌ててブリューナクのシールドで受け止める。

そこには先程、エヴォリュー ションに弾かれたヴァニシングが向かってきた……ガンバレルを展開し、スペリオルを翻弄する。

「……ここをお任せします」

間髪入れずにアディンに対し て通信を行うと、そのまま機体を翻しドミニオンへと向かう。

だが、リーラには追うことが できない……ヴァニシングはガンバレルの予測不可能な動きだけでなく手持ちの重装備を駆使する。バックパックから肩にセットされたミサイルポッドからミサ イルが放たれる。

ミサイルの爆発に備えて構え る……刹那、別方向から放たれたビームがミサイルを撃ち落とす。

リンのエヴォリューション だ……だが、その隙を衝いてゲイルがファーブニルのビームを連射してくる。

「っ!」

微かに舌打ちしてデザイアで 受け止める。

「リンさん!」

スペリオルが慌てて援護に入 ろうとするも……背後からアラートが響き…背後に回り込んだヴァニシングがスペリオルを蹴り飛ばす。

宇宙空間では少しの力で衝撃 を受けるだけで弾かれる……ヴァニシングの蹴りを直撃されて吹き飛ばされるスペリオルはそのままエヴォリューションに向かって激突コースを取る。

この速度と質量で激突すれば 両機とも無事ではすまない……

「パニックになるな! 制動 をかけろ!」

リンが防御しながら叫ぶと、 リーラは衝撃に呻きながらペダルを踏み込み、操縦桿を引いて逆制動をかける。バーニアノズルが火を噴き、速度を減速させていく……なんとか、寸前で静止し たが……そこへゲイル、ヴァニシングが火器の応酬を浴びせ、エヴォリューションとスペリオルは動きを封じられる。

 

 

 

ドミニオンのブリッジでナタ ルは先程のフリーダムの動きを見てやや称賛の眼差しを浮かべていた。あの絶妙の攻撃をかわし、なおかつ2機の攻撃にも対応している……驚くべき性能とパイ ロットの腕だ。あれ程の手強いMSを生け捕るなど、不可能なのではないかとナタルは考えていたが、隣のアズラエルがややガッカリしたような声を上げたの で、不快さがまた込み上げてきた。

「ああ惜しい……ほら、なに やってるんです? どんどん撃っちゃってくださいよ」

子供じみた口調で急かすアズ ラエル……だが、とナタルは反論する。

「この状況では友軍機に当た ります」

ドミニオンとの距離を取ら れ、なおかつMSが混戦を繰り広げている以上、迂闊に撃てば友軍のMSが巻き込まれる。

それすらも解からないのか、 と内心苛立っていたがアズラエルの回答はさらにナタルを呆れさせるものだった。

「当たっても大丈夫ですよ… TP装甲なんだから」

そういう問題ではない…とナ タルは溜め息をつき、肩を落とそうとしたが、以前は自分もそうやって機体性能を鑑みて友軍機のMSを危機に追いやったことを思い出し、軽く自己嫌悪した。

その瞬間……オペレーターが 声を上げた。

「敵MS接近! インディゴ 6、ブルーγ!」

レーダーを見詰めていた通信 兵が叫ぶと、ナタルがハッと顔を上げる……モニターには、迫り来るインフィニティが映し出されていた。

「イーゲルシュテルン、ヘル ダート……撃てぇぇぇ」

対空用のイーゲルシュテルン と艦橋後部のヘルダートが放たれる。だが、レイナはその軌道を読み、間隙を縫うようにドミニオンに迫る。

デザイアを構え、トリガーを 引いた瞬間……幾条ものビームがドミニオンに向かって放たれる。

アンチビーム爆雷にいくらか は阻まれたが、それでもそれを突破したビームがドミニオンのイーゲルシュテルンに被弾し、爆発が船体を衝撃に揺さぶる。

被弾の衝撃にクルー達は小さ く悲鳴を上げる。

「浮き足立つな! 状況を報 告しろ!!」

クルー達が取り乱しては戦艦 などあっという間に沈められる……ナタルの叱咤にクルー達は混乱しながらも被害状況を確認する。

「イ、イーゲルシュテルン3 番5番、沈黙!」

「艦の出力、11%低 下!!」

その時…またもや衝撃がブ リッジを襲う……ドミニオンに接近したインフィニティがケルベリオスを投げ飛ばし、バリアントの砲身を斬り落とした。

艦内でも爆発が襲う。

「バリアント1番、沈 黙!!」

ナタルは歯噛みする……いく ら特装艦とはいえ、あのようなMSを相手にしていてはもたない。

「ちょっと、しっかりしてく ださいよ……このボクが乗ってるんですから、沈んでもらっちゃ困りますよ」

自分が乗っているのだから、 自分のノルマをこなしてもらわねば困る…そして、自分が死なないためにも頑張れと言っているようでナタルは腹立たしさを憶えさながらもそれを命令を出すこ とで自制した。

「ヘルダート、撃 てぇぇ!!」

艦橋後部からミサイルが放た れるも、インフィニティはバルカンでそれらを撃ち落としながら一気に艦橋に迫る。

「悪いけど……ここで沈んで もらう」

レイナは眼を細め、冷たく睨 む。

マリューやキラ達は悲しむか もしれないが、私情で戦争はできない……この艦にアズラエルが乗っている以上、頭は早いうちに潰しておいた方がいい。

そのままブリッジに向かって ダークネスを構えようとした瞬間……横から急接近する高速体を捉え、アラートが響く。

「っ!」

レイナが気付いた瞬間……横 殴りの衝撃がインフィニティを襲う。

MA形態に変形したディス ピィアが突進し、インフィニティに体当たりしたのだ。

衝撃に歯噛みしながらレイナ はインフィニティの態勢を立て戻す。

「新型……!?」

例の5機と並んで新たに開発 された機体か……と内心に毒づきながらダークネスを発射する。

ディスピィアはビームをかわ し、左腕のヨルムガント振り被る……蛇のごとき柔軟な動きで襲い掛かるヒートロッド……レイナはバルカンでその軌道をずらそうとするも、それらを撥ね退け て迫るロッドがインフィニティを弾き飛ばす。

「墜とさせるわけにはいかな いのです……今はまだ

小声で誰に聞かれることもな く消えていった言葉……レイナはハッと気付いた瞬間、ドミニオンから援護射撃が襲い掛かった。

ゴッドフリートの砲口から ビームが発射される……戦艦のビームを真正面から受け止める気などさらさらない。機動性を駆使し、ビームの射線を外しながらディスピィアに向かってオメガ を放った。

ディスピィアがアンチビーム シールドで受け止めるも表面が融解する。

やや表情を顰めるイリューシ アだったが……次の瞬間、ほぼ眼前に入り込んだインフィニティがインフェルノを抜いて薙いだ。

咄嗟にスラスターを噴かし、 その一閃をかわすも…ヨルムガントが斬り裂かれ、爆発する。

「流石…ですね………02… いえ………あの方に次ぐ唯一の成功体……」

表情を変えないまま……イ リューシアはインフィニティを見詰めながら囁く。

対し、レイナもなにか奇妙な 感覚に捉われはじめていた。

(何だ……この感じは……リ ンともカムイとも違う…)

眼前の白い機体から感じる奇 妙な感覚……リンのような感覚でもカムイらのような感覚とも違う………だが、単なる錯覚だと疑念を内にしまい込み、レイナは一度距離を取る。

その時、モニターの隅でゲイ ルとヴァニシングによって火器の集中砲火を受け、動きを封じられるエヴォリューションとスペリオルが眼に留まる。

そして……別のモニターをチ ラッと眼を向けると、駆逐艦を轟沈させたネェルアークエンジェルがこちらへと向かってきている。

レイナはすぐさま頭を切り替 え、ディスピィアに向かって加速する……ディスピィアは近づけさせまいとラルヴァを放つ。

ビームを掻い潜りながら、急 接近したインフィニティはディスピィアに向かってバルカンを至近距離から狙撃し、態勢を崩した瞬間…右手を伸ばし…その首を掴む。

首を強く握り締め……頭部を 捥ぎ取るかのような強さでそのままディスピィアの機体を振り被る。勢いをつけ、ディスピィアを狙いをつけて放り投げた。

衝撃でやや態勢を崩していた イリューシアは機体を制御できず……加速したディスピィアがヴァニシングに激突する。

宇宙空間では質量そのものが 大きな武器になる……激しい振動が2機を襲い、アディンとイリューシアは身体を強かに打ちつける。

その光景にウォルフがやや気 を取られた瞬間……好機とばかりにリンは叫んだ。

「リーラ!」

「はいっ!」

ザラ隊時の呼吸か……スペリ オルがビームライフルとビームドライバーでゲイルを狙撃する。ビームが機体を掠め、ゲイルが態勢を崩す……その隙を狙い、エヴォリューションがスコーピオ ンを飛ばす。

ビームの刃が先端に施され、 それがゲイルの肩を掠り、装甲が抉られる。

だが、被弾したにも関わら ず、ウォルフはさらに愉快そうに笑い、ゲイルのネオ・スキュラで2機を砲撃する。

ブリューナクで受け止める2 機……そこへインフィニティが駆けつけ、インフェルノを振り被る。

目まぐるしく交錯し合う戦闘 を横にナタルはドミニオンの体勢を戻そうとする。

その時、レーダーを見詰めて いたクルーが叫んだ。

「アークエンジェル接近!」

立ちはだかっていた駆逐艦を 沈め、ドミニオンへと接近するネェルアークエンジェル。

「ゴッドフリート照準、撃 てっ!!」

マリューの指示とともにネェ ルアークエンジェルのゴッドフリート2門からビームが放たれる。

「回避!! 取り舵!!」

操舵士が必死に操縦桿を動か し、ドミニオンは左舷スラスターを全開させて機体を傾けてビームをかわす。

マリューは僅かに舌打ちし た。

 

 

 

 

その頃……メンデルへと下 がったストライク、バスター、ブリッツビルガー、ルシファーの4機は港口のゲートを潜り、待機中であったエターナルの横をすり抜けていく。

4機の行動を疑問に思ったバ ルトフェルドが通信を繋ぐ。

「おい、何だ!?」

補給なら、前線のネェルアー クエンジェルやクサナギでも可能だ…しかも、未だ戦闘が続いているにも関わらずここに戻ってくるとは、明らかに異常事態だ。

ストライクは答えずに先行 し、後を追う3機から通信が開く。

《ザフトがいるって言うん だ! ええっと………アイツが!》

まだ名前を覚えていなかった らしく……しかも、もう一度おっさんと呼ぼうとして怒鳴られるのを嫌がったのか、ディアッカが別の代名詞で答える。

《もう、フラガ少佐ですよ》

そこへカムイが訂正するよう に通信を入れる。

《そう! そいつ!!》

その助け舟にのるディアッ カ……ニコルが苦笑を浮かべるも、すぐに表情を引き締めて答える。

《とにかく、僕達で確認して きます……もし、ザフトが近くに来ているなら、危険です!》

通信画面が消え、先行するス トライクを追いながらメンデルのシャフト内を突き進む。

通信を終えたバルトフェルド は通信機を戻しながら舌打ちする。

「反対側の港口か……ちっ」

メンデルを挟んで反対側にザ フトが布陣しているとなれば、最悪挟み撃ちになる可能性がある……そうなれば、由々しき事態だ。

「うまく撒いたとは思ってな かったですが……」

バルトフェルドが苦々しく告 げる……やはり宇宙での索敵に眼を光らせているザフトの監視網は伊達ではない。

「しかしまあ……なんとタイ ミングのいいこと……ザフトが連合と共闘するとは思えませんし………」

遅かれ早かれザフトにここを 発見されるとは考慮していたが…なんともまあ、嫌なタイミングであろうか……連合軍に先制攻撃を受けたと同時にザフトが反対側に現われるとは…まさに前門 の虎、後門の狼……

「恐らく、エターナルとオー ディーンの追撃を負ってきた部隊でしょう……エターナルはとにかく最終調整を急いでください」

ラクスは冷静な口調で呟く。

「騒いでいたって動けないの では、お任せするしかありませんわ」

焦ることも動揺することもな く穏やかに告げるラクスにバルトフェルドはニヤリと笑みを浮かべた。

「ご尤も…アイシャ、ダコス タッ! 準備を急げ!」

忙しなく動き回るクルー 達……ラクスの言うとおり、今は仲間達を信じ、自分達にできる最良のことをするのが先決だ。

 

 

 

メンデル内部に突入したゲイ ツ、デュエル、バルファスの3機……コロニー内部は荒廃した大地が広がり、とても徹底に管理されたコロニー内とは思えなかった。

かつて行われたX線洗浄によ り、メンデルコロニー内部は微生物さえも生息できない赤茶けた不毛の死の大地と荒れ果てていた。壁面には、かつての遺伝子研究と思しき建造物が遺棄されて いた。居住区がこれほどまでに荒れている姿など、プラント育ちのイザークでも見たことがない。その光景にイザークはやや言いようのない焦燥感を憶える。

このように、破棄されて荒廃 したコロニーが、この宇宙にはあとどれだけ存在するのか……だが、イザークの逡巡もそこまでだった。

《来るぞ》

通信から響いたクルーゼの声 にイザークは逡巡を止め、顔を上げる。

同時に、デュエルのモニター に反対側から向かってくるMSの姿が映し出された。

4機の機影……機首を特定し たコンピューターがその機影を拡大し、型式番号が表示される。

いや、わざわざ型式を見なく てもその機影が拡大された瞬間、イザークにはその機体を判別できた。

 

――――GAT−X105・ GAT−X000……

 

「ストライク…ルシ ファー……っ!」

アスランとリンが倒したはず の機体が何故ここに……だが、困惑するイザークの思考は次に表示された機影に驚きに眼を見張り、息を呑んだ。

 

――――GAT−X103・ GAT−X207………

 

「バスター…ブリッツ……だ とっ!?」

自身の乗るデュエルと同じ型 式番号を持つ機体……オーブ沖でともにMIAとなったまま戻らなかったバスター…そして、若干形状は違うが紛れもなくその面影を残すブリッツ……瞬時に、 その2機に乗っていた皮肉さを感じさせる顔とあどけない幼い同僚の顔が過ぎり、イザークは背中に冷たいものが走った。

イザーク自身、ディアッカと ニコルのことは既に諦めかけていた……だが、それでもと心の何処かでその生存を信じていたのも事実だった。

MIAとして認定されたとは いえ、その死を直接確認したわけではない……ただ連絡が取れないだけで必ず何処かで生きている……イザークはそう微かに希望を抱いていた。

だが……こうして自分の眼の 前に連合のストライク、ルシファーとともに姿を見せたということは……ディアッカとニコルは……動揺するイザークを横に、ゲイツとバルファスは既にビーム を放ち、敵を牽制しつつ距離を縮めていた。

 

 

メンデル内に突入したムウも その赤茶けたコロニーの大地に眼をくれることもなくただ、ひたすら眼前だけを直視していた。刹那……あの独特の忘れえぬ冷たい感覚が脳裏に駆ける。

「来るぞ!」

ムウが叫ぶと、その後ろにつ いていたカムイ、ディアッカ、ニコルの3人は息を呑んだ。

モニターの遥か向こうに確認 される3機のMSの機影……一機は見慣れたデュエル…そしてもう一機は先程僅かに見たゲイツとかいう機体ともう一機の見慣れぬ機体………

「デュエル…!」

「…イザーク」

ディアッカとニコルはその機 影に当惑し、息を呑む……だが、互いに逡巡する間もなく、銃撃戦に入った。

ゲイツとバルファスがビーム を放ち、ストライクとルシファーもアグニとビームライフルで応戦し、そのまま7機は擦れ違い、互いに相手へと向かう。

ストライクは因縁の相手とも いうべき男が乗るゲイツに向かって肩の対艦バルカン砲で狙撃するも、ゲイツはその機動性をいかし弾道をかわす。

コックピット内でクルーゼは やや感嘆したように声を上げた。

「ほう……今度は貴様がソレ のパイロットか……ムウ=ラ=フラガ!」

これでもはやMSとMAとい うハンデはない……やや狂気の笑みを浮かべながらゲイツがビームを放つ。

それを掻い潜るように動きな がらアグニを放つも、ゲイツには当たらない。

「例の新型か…くっ、この装 備じゃ……!」

アグニを構えながらムウは内 心で舌打ちする……対艦装備のランチャーストライカー装備ではMS相手には分が悪い。クルーゼの感覚を感じたと同時に反転したのが裏目に出た。

早くに装備換装しておけばよ かったかもしれないが…今更愚痴っても仕方ない。

装備不利で負けるわけにはい かないのだ。

アグニを下げ、対艦バルカン 砲で狙撃するも、ゲイツは悠々とかわす。

「ここでこうして貴様と戦え るとはな……!」

クルーゼは一人ごち、MA− MV03:2連装ビームクローを展開して加速する。

「ぐっ…ラウ=ル=クルー ゼ……!」

ムウは宿敵の名に毒づきなが ら急接近して振り下ろされたその一撃をかわす。

「私も嬉しいよ……ムウ」

クルーゼは愉悦を感じさせる 笑みを浮かべて呟いた。

 

 

ゲイツとストライクが一対一 の戦闘に突入したと同時にバルファスとルシファーが激突する。バルファスが手持ちのMA−M27C:ビームキャノンでルシファーを狙撃する。

カムイは歯噛みしながら操縦 桿を切り、その一射を回避するとビームキャノンを発射する。

刹那、バルファスのコック ピット内でガルドは口元を歪め、バルファスの遠隔操作型シールドユニットを展開し、それが前面でエネルギーフィールドを形成する。

ビームがエネルギーフィール ドに着弾するも、そのフィールドによってビームが拡散する。

眼を見開くカムイの前でガル ドは鼻を鳴らす。

「フン…その程度では俺は倒 せんぜ……04!」

刹那、フィールドユニットが 分離し、バルファスの周囲を付き纏うように取り囲みながらゲイツと同じ2連装ビームクローを展開し、急加速する。

ルシファー目掛けて振り下ろ される一撃が、ルシファーのシールドを斬り裂く。

「速い……っ!?」

鈍重そうな機体形状からは想 像もできないほど機動性が高い。ルシファーの機動性がなければ、間違いなく致命傷を受けていただろう。

至近距離からバルカンを連射 するも、バルファスに装甲に阻まれる。ルシファーは左手にビームサーベルを展開して薙ぐ。

それをビームクローで受け止 めると同時にガルドはニヤリと笑い……至近距離から右手のビームキャノンを放った。

カムイは操縦桿を引き、瞬時 にルシファーを後退させてその一撃をかわすも、振動が機体をビリビリさせる。

黒と白のMSが激しい火花を 散らす。

 

 

その横でデュエルがバス ター、ブリッツビルガーと対峙する。イザークは僅かに躊躇いつつも、その引き金を引き2機を狙う。

かつての仲間の機体が自分と 敵対していると完全に認識した瞬間……イザークは先程まで感じていた凍るような感覚が一気に沸騰するような怒りに変わる。

「貴様らぁぁぁっっ!!」

デュエルはビームサーベルを 抜き、2機に斬り掛かる。

自分の仲間の命を奪ったばか りか、その機体を我が物顔で乗り回すように感じたイザークは怒り任せにビームサーベルを振る。

「よくもディアッカとニコル の機体で!!」

上段から斬り掛かるデュエル の攻撃を、バスターとブリッツビルガーはバーニアを噴かしてかわす。

バスターは遠距離後方支援型 に特化したMSであり、距離を取って間合いを開けなければ対処できない。ブリッツビルガー自体は近接戦を向上されているため、デュエルと渡り合うこともで きようが、ディアッカとニコルは攻撃せずただ回避に徹するのみ。その姿が、逃げ回ってばかりいるように見えてさらにイザークの怒りを掻き立てる。近接戦用 に特化されたデュエルの能力と今のイザークは怒り任せにビームサーベルを振り回す。

だが、そんなイザークの動き はディアッカやニコルからしてみれば読みやすい……訓練時代からともに相手の動きを見てきたのだ。直情的なイザークの攻撃方法はほぼ熟知しており予想範囲 内の攻撃だからだ。

「「イザーク……!」」

だが、ディアッカとニコルに はその引き金を引くことはできない。

反撃せず、ひたすら回避に徹 するバスターとブリッツビルガーに対し、デュエルはシヴァを放ち、2機を逃しまいと動きを抑制する。

ザフトと敵対する道を選んだ のは確かに自分自身だ……だが、ディアッカやニコルは葛藤の中にいた。イザークが…同僚だった少年の乗る機体を撃てるのか……ディアッカとニコルの脳裏 を、キラとアスラン、そしてレイナとリンの姿が過ぎった。

今まで親友でありながら…… 姉妹でありながらも互いにその銃口を向け合ってきた彼ら……キラとアスランが感じた辛さ…レイナとリンを苦しめた相手への憎しみと葛藤……それらが今、 ディアッカとニコルの胸を苦しめている。

操縦桿を握るこの手に力が入 らないのは、初めてだった……この苦しみを、彼らはずっと背負ってきたのだ………

 


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