ドミニオンを中心にメンデル より遠ざかっていく地球軍……MSやMAがそれぞれ帰還してくる。

ナタルはやや苦い思いで溜め 息をついたが、そこへオペレーターが声を上げた。

「艦長! ゲイル、ヴァニシ ング、ディスピィアの3機が戻っていません!」

「何!? 識別は?」

撃墜されたのか…と一瞬考え たが、違っていた。

「3機のビーコンは、メンデ ル周辺より確認!」

メインモニターに表示された 友軍ビーコンを示すパネルにはメンデルの外周部に反応する3機のマーカーが表示されている。

「呼び戻せ! 一時撤退 だ!」

「ダメです! 通信回線を 切っています!!」

ナタルは歯軋りしながら、拳 を握り締める。

「進路そのまま! 撤退の打 電は続けておけ!」

スタンドプレーで友軍を危機 に晒すわけにはいかない……3機が帰還するのを待っていれば、さらに損害が大きくなる。

アズラエルがなにか言うかと 思ったが、意外にもアズラエルは口を挟まなかった。

「よろしいですね、アズラエ ル理事?」

訝しげに一応の確認を取る と、アズラエルは飄々としたまま手を上げて答える。

「ええ、構いませんよ…… ウォルフのことだ。なにか考えがあるのでしょう」

腑には落ちなかったが、オブ ザーバーがそう言うのであれば、問題はないと判断したナタルは展開していた機動兵器が着艦し終えると、そのままメンデルから離れていった。

 

 

戦闘宙域を迂回し、メンデル へと近付くゲイル、それを追うインフィニティ……それに続くようにヴァニシング、ディスピィア、エヴォリューション………

レイナはやや怪訝な面持ちで ゲイルを追っていた…ここに、何があるというのだ……自分の何が………内に渦巻く疑念と微かに感じる不安を胸にレイナはゲイルを追う。

その時、後方から接近してき たヴァニシング、ディスピィアがインフィニティを追い抜く……そして加速したままこちらを威嚇するように攻撃してくる。

レイナは舌打ちして、操縦桿 を動かし機体を傾ける。

追ってくる姿を満足げに見や ると、ウォルフはメンデルの外壁に沿うように飛行する……そして、コロニー外壁の一部に見える外部ハッチが眼に入ると、ゲイルのファーブニルのビーム砲で 狙撃した。

ハッチが破壊され、コロニー 内に滞在する空気が漏れ始める……その中へと飛び込むゲイル、ヴァニシング、ディスピィア……ハッチの上空で制動をかけ、滞空する。

数秒ほどその破られたハッチ を見詰めていたが、やがて意を決したように飛び込もうとすると…インフィニティの肩が掴まれた。

ハッと振り返ると、そこには 追いついたエヴォリューションがインフィニティを引き止めていた。

「姉さん……あの男になにを 言われたかは知らないけど…この先に進めば、もう後戻りはできない………下手をしたら、貴方自身が変わってしまうわよ」

脅すような…そして確かめる ような口調で問う。

レイナもやや真剣な面持ちを 浮かべる……だが……

「……解かっている…だけ ど、私は進まなきゃいけない………」

そう決めたのだから……この 先に、自身があるのなら………立ち止まることはできない…たとえそれが……地獄への道だとしても……………逡巡を赦さないようにハッチの緊急閉鎖用の隔壁 が閉じようと作動し始めている……決然とした面持ちでレイナはインフィニティをそのハッチへと滑り込ませ、内部へと突入する。

その姿にやや溜め息混じりに 肩を落とすと、リンのエヴォリューションもその後を追う。

そして……隔壁が閉じられ る………その先にある……全てを闇へと封じるように………

 

 

 

彼方へと去っていく地球軍艦 艇の様……撤退する時にも感じた見事な引き際……やはり流石と畏怖の念を抱かずにはいられない。

キラはやや複雑な面持ちで 去っていくドミニオンの艦影を見詰めていた。かつてはアークエンジェルを支えたクルーが今や敵であるという現実……そして、共にいる存在……ナタルは果た して、どんな気持ちで対峙しているのだろう、と………

そんなフリーダムにジャス ティスとスペリオルが近付く。

「キラ……」

「大丈夫ですか?」

ジャスティスがフリーダムの 肩に手を置き、通信からアスランとリーラの声が響く。

「僕は大丈夫…そっちは?」

「こっちも大丈夫だ…しか し、あのパイロット達………」

アスランやリーラも怪訝そう に眉を顰めながら離脱したMSを思い浮かべる。

「うん……オーブの時も感じ たけど………」

「ちょっと正規軍とは思えな いな……」

「そうですね……いくらなん でも、あんな戦い方………」

オーブでの戦闘には参加して いないが、流石のリーラもあの3機の不審性には引っ掛かった。正規の訓練を受けたパイロットがあんな同士討ちまがいの攻撃を仕掛けるとは考えにくい。

「うん……それに…ナチュラ ルでもないみたいだ………」

キラも模索しながら感じた疑 問を口にする。

その言葉に、アスランもリー ラもやや腑に落ちない気味悪さを憶えた………普通のナチュラルとは違う……それは確かに感じていた。

あの新型特機は量産機のダ ガー系列とは明らかに動きが違う……操縦のほとんどをOSに頼る自動的な動きでは、あれ程の機敏な動きは不可能だ。

「ですけど、ドミニオンに 乗ってるのはブルーコスモスの盟主ですよね? コーディネイターの存在を認めない人が、いくら勝つためとはいえそのコーディネイターをパイロットとして使 うとは考えにくいですよ?」

リーラがそう口にすると、キ ラとアスランは黙り込む……しばし沈黙が漂うも、いくら模索しても答は出ない。

それに今は敵パイロットの正 体を勘ぐっていられる状況でもない。

「取り敢えず、一度戻ろ う……すぐにまた攻撃が始まるかもしれないし」

「そうだな」

「はい」

3機はひとまずスラスターを 噴射し、港へと帰還していくネェルアークエンジェル、クサナギ、オーディーンに向かう。

展開していたMS部隊もそれ ぞれ母艦へと帰還していく。

その時、メンデルで待機して いるエターナルから通信が入った。

《おい、フラガ達から連絡 は?》

バルトフェルドの問い掛け に、初めて皆が気付いたように顔を上げた。確認すると、確かにストライク、ルシファー、バスター、ブリッツビルガーの機影が見当たらない。

《ムウ達が?》

《ああ……ザフトがいると連 絡を最後に通信が途絶えてる》

マリューが聞き返すと、バル トフェルドもやや神妙な表情で答える。

「ザフトが…!」

リーラが思わず声を上げ る……内心で、イザークが来ているのかもしれないという不安が襲う。

《そういえば、レイナとリン の機体も見当たらないぞ》

カガリがインフィニティとエ ヴォリューションの姿も見えないことに改めて気付く。キラとアスランはやや不安な面持ちで周囲を見渡す。

あの二人がそう簡単に墜とさ れるとは思えないが……確かに機影が確認できない。

《そいつもこっちで確認し た……2機とも反応がメンデル内から確認された…生憎とこっちも通信回線を切ってるみたいでな…おまけにNジャマーの影響か、こっちからは通信ができん》

《ミリアリアさん、通信 は?》

マリューが試しにミリアリア に通信を試みてもらう。

《ディアッカ? ディアッ カ? ニコル君?…カムイ君……? 少佐?》

ミリアリアが必死に呼び掛け るが、通信機からはノイズ混じりの雑音しか聞こえてこない……やはり電波障害が酷く、コロニー内部との通信が遮断されている。

《ダメです…コロニー内部と の通進が取れません……》

ミリアリアのやや暗い声…… マリューが拳を震わせる。ムウ達がコロニー内部に突入してから既にかなりの時間が経過している。偵察だけなら時間が掛かりすぎている……だが、もしザフト がいるというのが本当なら、恐らく戦闘に入ったと考えられる。

不安な沈黙が彼らに漂う…… その時、キラが通信に割り込んだ。

「僕が確認しに行きます…… 皆は今のうちに、補給と整備を……」

計器類を操作し、機体に異常 がないのを確認しながら呟くと、皆がやや気遣うような視線を向ける。

《キラ君…お願い》

マリューがやや不安げに頼む と、キラは頷く。

「ジャスティスも問題な い……俺も行く」

「私も……」

アスランが名乗り上げ、それ に続くようにリーラも声を掛けるが、キラは首を振る。

「いや……アスランやリーラ 達は残って。地球軍もまだ完全に引き上げたわけじゃない。攻撃がいつ再開されるか解からないから、下手に戦力を割くわけにはいかないよ」

そう制すると、アスランとリ ンは言葉を呑み込む……確かに、ストライク、ルシファー、バスター、ブリッツビルガーの4機だけでなくインフィニティとエヴォリューションも戻らない以 上、この先フリーダムやジャスティス、スペリオルまで抜けたらこちらの防衛力が著しく低下する。

確かにそれは理解している が、アスランとリンの表情は強張ったままだ。

アスランはキラの身を案じ… リーラもまたザフトが来ているのなら、イザークがいる可能性もあると考え、もう一度話をしたいと考えていた。なにも相談できず、そのまま別れてしまったの がやはりリーラの中でも尾を引いている。

「大丈夫だよ。無茶はしない から……」

そんな二人を安心させるよう に微笑むと、フリーダムは港内を突っ切るように飛び……エアロックを通ってコロニー内部へと突入していった。

その後姿を見送ると、ラクス の凛とした声が響いた。

《各艦は補給と整備を急いで ください……向こうの港にザフトがいるとすれば、事態は再び切迫します……私達は、今ここで討たれるわけにはいかないのです………》

そう……この手を汚してでも 掴まなければならない未来がある………決然とした面持ちで告げるラクスに、皆が一様に頷き返す。

アスランとリーラも一度、機 体のチェックのためにエターナルへと向かう。

帰還するスペリオルのコック ピットでやや俯き加減だったリーラに気付いたラクスが声を掛ける。

《リーラ…心配なのです か?》

「うん……」

「大丈夫だ…キラも行くし、 リン達はそう簡単にやられるような奴じゃない」

気遣うようにアスランが声を 掛ける……そう…確かにキラやレイナ、リン達の腕は無論熟知している。だが、先行したディアッカやニコルはもしザフトと…いや、イザークと遭遇したらどう なるのか………それに……

「なにか……嫌な胸騒ぎがす るんです………背中が凍るような冷たい感じが………」

上手く言い表すことができな いが……悪寒にも似た感覚が過ぎる……キラやレイナ達の身に、何かが起こるような気がしてならない。何か……ひどく暗くて冷たい何かが彼らの身に迫ってい るような予感がする……

無意識に震えを止めるように 身体を抱き締める……不安めいた表情を浮かべ、アスランもラクスも表情を顰める。

二人も…いや、二人だけでな く誰もがその不安を憶えてはいたが、口には出さなかった……出せば、本当に何かが起こりそうで……

「信じよう……今は、キラ達 を……俺達は俺達でやることをしよう」

アスランがそう元気付ける と、リーラはややぎこちない笑みを浮かべたまま頷いた。

未だ胸のうちで収まらぬ不安 をなんとか抑えつつ、3隻は補給と整備のためにメンデルの港口へと戻っていった。

 

 

 

メンデル内では未だ激しい砲 火が轟いていた……デュエルが執拗にバスターとブリッツビルガーを追うが、2機は先程から回避に徹するだけだ。イザークは止まらぬ怒りに突き動かされるま まにバーニアで加速したデュエルが一気に距離を縮めると、ビームサーベルを振るう。

「このナチュラル がぁぁぁっ!!」

ディアッカとニコルはその一 撃を左右に分かれて後方に飛びながら回避する…二人は奥歯を噛み締める。

「貴様らなんぞ に……っ!!」

負けられない……裏切り者の アスランやリンを……そしてリーラに真意を尋ねるまで、負けるわけにはいかない。

その思いのままにデュエルは 追い討ちをかけるようにシヴァと220ミリ径5連装ミサイルを放った。

一斉射で放たれた砲撃にディ アッカとニコルは躊躇いながらもトリガーを引いた。

バスターの350ミリガンラ ンチャーと3連装ビームキャノンが火を噴き、打ち消すように迎撃するが、僅かに散弾がデュエルを掠め、二人は背筋が凍るような悪寒を憶える。

やはり、二人にはできな い……イザークを…ともに戦ってきた仲間を撃つなど、二人にはできるはずもない。二人は思わず以前使用していた通常の通信回線を開いた。

「「イザーク!!」」

「ッ!?」

周波数帯は変更されていな かったらしく、ディアッカとニコルの声はデュエルのコックピットに届いたが、その声にイザークは息を呑んで動きを止める。

明らかにあり得ないタイミン グで飛び込んだ通信…しかも、眼前のバスターとブリッツビルガーから繋がれた回線である以上にその馴染みある声にイザークは呆然と呟いた。

「ディアッカ…ニコ ル………っ?」

その声を、もう随分長く聞い ていなかったような気がする……静止したデュエルと対峙するバスターとブリッツビルガーのコックピットにデュエルの回線が繋がり、モニターにイザークの表 情が映し出される。

ヘルメットのバイザー越しに 見える顔にはまだその傷跡が残り、イザークらしい強情さに二人は思わず苦笑しかけた。

だが、イザークは混乱の極み にあった。

「ディアッカ……ニコ ル………本当に貴様らなのか?」

信じられないような上擦った 口調で、疑念を含ませながらイザークが尋ねる。

「ああ…そうさ」

「お久しぶりですね、イザー ク……」

デュエルのコックピットに映 るのは、紛れもなくかつての仲間……皮肉っぽさを漂わせた同僚とあどけない顔の同僚……通信機から聞こえてくる声も、その独特の口調も、やはりディアッカ とニコルのものであった……死んだと思っていた仲間の姿にイザークはしばし唖然としたままであったが、その表情が喜びよりも徐々に怒りを含ませたものに歪 んできた。

「それが何故ストライクやル シファーと共にいる! どういうことだ! 貴様ら!!?」

イザークは表情を険しくさせ ながら激昂する。

何故ディアッカとニコルがこ こに……オーブ沖で行方不明となった二人が…それぞれの機体に乗り、しかも何故ストライクやルシファーと……疑念が渦巻くイザークの顔の傷が疼くような痛 みが拡がるのを感じる。

明らかに裏切られたという悲 壮感と憤怒を漂わせながらもビームサーベルを構えるデュエルの姿にディアッカとニコルは、そのもどかしさに奥歯を噛み締めた。

何故道を違えるのか……その 迷いと苦しみを今、ディアッカとニコルは感じていた。

どうイザークに伝えればいい のか……頑固で強情なこの友に、どうやったら自分達の今の決意と立場を伝えられるのか、二人は迷う。

そこに、イザークの少し低い 声が通信機から聞こえてくる。

「……生きていてくれたのは 嬉しい。だがっ! ことと次第では貴様らでも許さんぞ!!」

どこか涙混じりの眼で詰問し てくるイザークに、意外な情の篤さを感じて嬉しくも感じる反面、迷いも大きくなる。

「「……イザーク………」」

普段は自尊心が人一倍強い が、意外に熱い想いを秘めるイザークからしてみれば、自分達の今の立場はどう説明しようとも裏切り以外のなにものでもないのでは、とディアッカとニコルは 胸が苦しくなった。

逡巡し、答えあぐねている 時……そこへ第三者の声が響いた。

「ディアッカ! ニコ ル!!」

「「キラ(さん)!」」

既に馴染みとなった声に二人 がハッとモニターを見やると、こちらへと急接近してくるフリーダムの機影が映る。

無論、その姿はデュエルのモ ニターでも捉えられ、その見覚えのある姿にイザークは驚きに眼を見張る。

「あれは……っ!」

アラスカで見た機体の内の一 機……敵味方も関わりなく救おうとした奴の機体……アレが奪取されたフリーダムであり、本来は自分に受理されるはずであった機体であるということを聞いた のはプラントに戻ってからであった。

アラスカで自分を歯牙にもか けずあしらいながらも、戦闘能力だけを奪い、逃がした機体……それが再び自分の前に現われたという現実にイザークは即座に臨戦態勢に入る。

 

――――もう、やめるん だ……

 

あのパイロットの声が脳裏に 甦るも、一瞬の躊躇いの後、イザークは歯噛みしながらもデュエルをフリーダムに対峙させる。

「くっ…!」

まるでストライクと対峙した 時のようなあの屈辱が甦り、再び傷が疼く……その溢れ出る怒りと屈辱の感情のまま、デュエルはビームサーベルをフリーダムに向けた。

「やめろ、イザーク!」

「キラさんも待ってくださ い!」

その意図を素早く察したバス ターとブリッツビルガーが割り込み、キラも事態をおぼろげながら察したらしく、制動をかけて動きを止める。

「こいつは俺達に任せてく れ」

「キラさんはフラガ少佐とカ ムイさんの方へ…」

イザークの相手はやはり自分 達でなければならない……そして、自分達が見知った相手同士で戦うのを見るのは嫌であった。

「……いいんですか?」

キラが気遣うように尋ねる と、ディアッカとニコルは真剣な面持ちで頷き返した。

「ああ」

「ええ」

親しげなディアッカとニコ ル、キラの会話は、デュエルにも届き、イザークは唖然と眼を剥くばかりだ。

何故フリーダムのパイロット とこの二人はこんなにも親しいのか……

「じゃ、ディアッカ、ニコ ル……でも、僕とアスランや、レイナとリンさん達みたいにはならないでくださいね」

その言葉に、ディアッカとニ コルはやや慄然と息を呑む……そう…互いに道を違え、憎み合ったために殺し合った彼らの苦しみ…その過ちを繰り返すまい、と二人は再度頷き返す。

その答に満足したように、フ リーダムは飛び去っていく……イザークは当惑した面持ちでそれを見送る。

何故、フリーダムのパイロッ トがアスランとリンの名を知っているのか……その疑念を言及する前にフリーダムは飛び去り、呆然とするイザーク。

まったく周りが解からないこ とだらけで困惑と怒りを掻き立てられる。

それをディアッカとニコルは 感じ取っていた……キラとアスラン、レイナとリン…そしてラクス達のこと…自分達の今のこと……説明しなければならないことは山ほどあるが、それをイザー クが納得してくれるかは解からない。

バスターとブリッツビルガー のコックピットハッチが開かれ……イザークは眼を丸くしながら息を詰まらせる。

戦意・敵意のないことを相手 に伝える、最も危険な意思表示の方法だったからだ。

「銃を向けずに話をしよ う……イザーク……」

戦いたくないのなら……殺し 合いたくないのなら………話すしか、方法はないのだ………

イザークは無言のまま何も応 えない。

しかし、ディアッカとニコル が機体をメンデルの大地へと降下し始めると、それに応じるようにビームサーベルを下ろし、イザークは攻撃もせずにそれに続いてデュエルを降下させた。

 

 

 

それとは別に未だ激しい攻防 を繰り広げるストライクとゲイツ……ゲイツがビームライフルでストライクを狙い撃つ。対し、ストライクは対艦バルカン砲で応戦するも、ゲイツはその機動性 を駆使し、掻い潜る。

「くそっ!」

ムウは毒づきながらアグニを 連射する。

だが、そのビームの奔流を回 避し、クルーゼは鼻を鳴らしながら笑みを浮かべる。

「フン…なかなかやるじゃな いか」

MSに乗っての経験も浅いの にここまで戦えるとは、流石にクルーゼにも予想外であり、恐怖や怒りどころか沸き上がるような快感を抑えることはできない。

一人ごちながらまたもやアグ ニの一撃をかわし、コロニーの地表に向かって降下していく。

「貴様! 今日こそ…!」

追うようにガンランチャーを 放つ……グレネード弾が追撃するが、ゲイツは地表ギリギリまで誘き寄せると、そのままブースターを噴かして急上昇する。グレネード弾はそのまま地表に着弾 し、爆発する。

その爆発に紛れてゲイツが左 腕に装備したシールドの2連装ビームクローを展開して大きく振り被って突進してくる。

ムウは咄嗟に機体を捻るが、 アグニの砲身を斬り落とされる…それだけに留まらずゲイツはさらに振り被ってビームクローを振るう。

ストライクは左手でそのシー ルドを受け止め、右手でビームライフルを持ったゲイツの右腕を抑える。

膠着状態に陥り、歯噛みする ムウ…その時、コックピットに声が響いた。

《フッ…貴様に討たれるなら それもまたとも思ったがな…ここで!》

接触回線から聞こえてきたの はJOSH−Aで聞いた忘れえぬ宿敵の声……だが、その声色にどこか奇妙な既視感を憶え、戸惑う。

だが、一瞬気を逸らされた隙 を衝かれ、ゲイツがストライクを蹴り飛ばす。

《だが、どうやらその器では ないようだ……所詮、子は親には勝てぬということかな……》

「何!?」

何を言っているのだ……揶揄 するような口調とともに発せられた意図が掴めない言葉……だが、ビームに晒され、その逡巡も消えてムウはランチャーストライカーをパージする。もはやアグ ニは使えず、バッテリーも残り少ない状態では少しでも身軽な方がいい。

同時に両腰からアーマーシュ ナイダーを引き抜き、構える。刹那、ゲイツが溜め込むように腕を引いた瞬間、ゲイツの両腰から何かが射出された。

ワイヤーで繋がれたビーム兵 装のエクステンショナルアレスターだ。先端にビーム刃を形成したアンカーが鋭く迫る。

片方がストライクの右腕を飛 ばし、もう片方が腹部に突き刺さった……内部にまで抉り込んだ一撃がコックピットにまで届き、コックピットの正面モニターが割れ、飛び散った破片がムウの 脇腹に刺さった。

そのままストライクはメンデ ルの地表へと激突する……コックピット内でムウは歯噛みする。機体を動かそうとするも、各駆動部分からエラー音が響き、起動しない。

「やはり運命は私の味方 だ……っ!」

嘲笑いながらビームライフル を構えた瞬間……脳裏に別の感覚が過ぎった。だが、それはムウも同じであった。

振り向いたゲイツのビームラ イフルが別方向から飛来したビームに貫かれ、爆発する。

《ムウさん!》

彼方から舞い降りてくるフ リーダム。

「フリーダム!?」

クルーゼはすぐさま臨戦しよ うとするも、フリーダムの動きが速い……ビームライフルから幾状ものビームが放たれ、ゲイツの頭部が吹き飛ばされた。それに続くようにビームサーベルを抜 いたフリーダムが急接近し、すれ違いざまにゲイツの両脚を薙ぎ、両脚が斬り飛ばされた。

大破したゲイツはそのまま赤 茶けた地表に転がるように落下する。

計器類がショートし、APU もダウンしてゲイツは戦闘能力を失った……クルーゼは舌打ちしてハッチを開き、機外へと飛び出す。

ザフトの軍服を纏ったクルー ゼが姿を見せたのをモニターで確認したムウも身体に走る激痛にコックピットに常備してあった冷却スプレーを浴びせながら片手でシートベルトを外し、銃を手 に持って身を立ち上がらせた。

ハッチを開くと、その音に気 付いたクルーゼがすかさず発泡する…発射音に気付いたムウは素早く起こしかけた身をハッチの壁に隠す。弾丸がハッチに跳弾し、跳ね返る。ムウも窺うように 身を乗り出し撃ち返す。

「今日こそつけるかね、決着 を!?」

挑発するように嘲笑い、銃を 連射する。

ハッチの壁に釘付けにされる ように動きを抑制されていたが、一瞬銃撃がやんだ瞬間素早く身をハッチから飛び出させ、機体の下へと降りる。

「くっ…あの野郎、何 を……」

相手の意図がまったく掴め ず、毒づきながら研究施設と思しき建物に向かって駆けていくクルーゼを狙撃する。だが、それに動きを止めようともせず走り、入口と思しき場所で一度振り 返って撃ち返してくる。

ムウは機体の陰に隠れて銃弾 をやり過ごす……相手の銃の腕前はJOSH−Aでも一度垣間見たが、予想以上に正確だった。

「ならば来たまえ……引導を 渡してやるよ…この私がな!」

誘うような嘲笑を残し、ク ルーゼは円筒形の研究施設へと駆け込んでいく。ムウは傷を押さえながらその後を追った。

 

 

「ムウさん!」

キラはフリーダムを降下させ ながら地表付近を走る人影をズームにする。

白い軍服の人影が建物の中に 入るとそれを追ってムウもまた建物の中へと消えていく。キラはフリーダムをストライクの傍に着陸させ、シートベルトを外す。

先程確認したかぎりではムウ はどこか負傷したらしい……このまま放っておけないとキラはハッチを開き、シートがせり上がるとやや躊躇いながらシートの傍に置いてあった銃を手に取る。 無論、キラは本物の銃を扱ったことなど一度もない……

(レイナだったら、多分自分 の身ぐらい自分で護れって言うんだろうな……)

苦笑を浮かべながら無いより はマシと自身を奮い立たせ、銃を手にキラもまたコックピットから降り、巨大な円筒形にいくつものボルトのような外観の建造物は、破棄されたこのコロニーの 研究施設の一つのようだ。

キラ大きな入口のゲートを潜 り、内部へと足を踏み入れる……銃を手に窺いながらゲートを進んでいると、やがてエントランスホールと思しき天井部までの吹き抜けのような場所に出た。

ホール内は無人で静まり返 り、キラは周囲を窺いながらホールに足を踏み入れる。天井から差し込む微かな灯りがホール内を薄暗いながらも照らし、僅かだが周囲の様子が見て取れる。 ホールの中央にはシャフトと思しき巨大な円柱が聳え、それに繋がるように各階の外周から渡し通路が螺旋を描くようなデザインで繋がっている。

しばしそのホールの中央付近 で呆然と見上げていたが、その時静寂を裂くような銃撃音が響き、上から人の叫び交わしが聞こえてきた。

キラはその方角へと向かって 駆ける。

そして、一足先に施設内へと 入っていたムウはクルーゼと銃撃、問答を繰り返しながら互いに距離を取っていた。

馴染みある感覚が異常なほど 相手の位置を正確に教えてくれる…気味は悪いが、今はありがたい。

「……ここがなんだか知って いるかね、ムウ!?」

通路の陰に隠れて窺っていた ムウの耳にクルーゼの侮るような声が響く。

「知るか! バカ野郎!!」

苛立ちを込めながらムウが怒 鳴り返し、銃を撃つ…だが、それに応じて相手もまた正確に撃ち返してくる。相手の位置が解かるということは、向こうにもこちらの位置が解かっているという ことだ……微かに歯噛みする。

「罪だな…君が知らぬという のは!」

揶揄するような口調で憤りを 感じさせる侮蔑を吐く……クルーゼの意図が掴めずに困惑するが、脇腹から鈍い痛みが走る。

冷却スプレーで鎮静させたと はいえ、予想以上に傷は深かったらしい…また血が流れ出し、ムウのパイロットスーツを真っ赤に染めている。

キラはムウ達がいると思しき 上の階へとシャフトの階段を駆け上がっていた、何故ムウが敵の指揮官と旧知の仲のごとく言葉を交わしているのかが引っ掛かったが、今は急いでムウの元へと 急ぐ。周囲に向かって銃口を向けながらムウの名を呼ぶ。

「ムウさん!」

その声に反応し、ムウが顔を 上げる。

「キラ!?」

驚きに思わず名を叫び返 す……その声は身を潜めるクルーゼにも届いた。

(キラ…ヤマト……生きてい たのか……?)

ムウが発した相手の名にク ルーゼは仮面の奥の眉を僅かに顰めた。

 

 

 

 

その頃、メンデルの港口の宇 宙艦ドックでは先程の戦闘で受けた損傷の補修と整備、被弾した機体の修理と補給が急ピッチで進められていた。

ネェルアークエンジェル、ク サナギ、オーディーンの3隻はすぐにでもまた出撃できるように発進シークエンスのまま待機し、エターナルの方も発進準備が進められている。

「えっ、ザフトが!?」

ネェルアークエンジェルの格 納庫で待機しているラスティやミゲルが先の戦闘の疲れを少しでも休めようと栄養ドリンクを片手にルフォンの話を聞き入っている。

「せや…詳しいことは今クサ ナギから偵察に出とるらしいから解かれへんけど……」

「ミゲル、まずいっしょ、こ の状況」

ラスティが隣のミゲルを窺う ように尋ねると、ミゲルも顎に手をやって考え込む。

「確かにキツイ状況だな…… ルフォン、あいつらはまだ戻らないのか?」

先行してコロニー内に突入し たムウ達の所在を尋ねると、首を振る。

「まだなんや……それに、イ ンフィニティとエヴォリューションの2機も戻っとらん」

「俺らも行った方がいいん じゃないか?」

「いや、ダメだ…こっちの戦 力が低下するのは今は避けなきゃならん……地球軍もまだ撤退したわけじゃないしな」

ミゲルが被りを振るが、その 表情は険しい……戻らない仲間のことは気掛かりではあるが、今自分達がここを離れて戦艦を墜とさせるわけにはいかない。

その葛藤を察したラスティと ルフォンも黙り込み、仲間の安否を信じるしかなかった。

 

 

被弾したダガーはそのままア ルフのインフィニートに回収されてネェルアークエンジェルへと帰還した。

「大丈夫か?」

アルフがコックピットから連 れ出したシンを気遣うように声を掛けると、シンはやや疲れを見せる表情で答えた。

「は、はい……なんとか…そ れより、俺の機体は?」

「こいつは少し出られん な……かなりダメージがでかい……」

トウベエが被弾したダガーを 見上げながらやや苦い表情を浮かべる。

バックパックの換装コネク ター部分の破損、右腕の欠損…各駆動部分にもかなりのダメージが及び、修理には時間が掛かる。

ただでさえ、この機体は横流 しで手に入れただけに、予備パーツにもストックが少なく、何度も大きなダメージを受けてはすぐに修理は難しい。

イザとなったら、他のMS パーツを転用して改装するしかないが、それを今行う時間も余裕もない。

「とにかく最善は尽くすが… 他の機体の整備と補給もしなきゃならん…あまり期待はせんでくれよ」

トウベエはそのまま修理を 行っている機体に取り付いていく。

シンはそのまま憔悴した表情 で格納庫の隅に移動する……コンテナの上に腰掛け、無重力に疲れた身を休ませる。

不意に、自分の手を見詰め る……

(何だったんだ……あの時の 感覚は…?)

あの瞬間……死を強く感じた 瞬間、身体の中から何かが沸き上がるような不思議な感覚が全身を駆け巡った。次の瞬間には、自分でも信じられないぐらい、相手の動きに対応できた。シン は、うすら寒いものを感じ、手を強く握り締める。

「お兄ちゃん……」

自分を呼ぶ声に振り向くと… そこにはこちらへと漂ってくるマユの姿があった。

「マユ…」

「お兄ちゃん、これ…わっ」

慣れない無重力の中を懸命に 泳ぎながらシンの元に近付き、手に持ったドリンクを差し出そうとする。

その様子にやや安心したよう にシンも手を伸ばし、マユの手を握り、引き寄せる。

「ほら、あんまりここには来 るなって言ってあっただろ」

やや咎めるように論すると、 マユはバツが悪そうに苦笑を浮かべる。

「ま、ありがとな」

それでも素直に感謝し、マユ の頭をくしゃっと掻く。

「お兄ちゃん……どうかした の?」

唐突に問われ、口に運んだド リンクを噴出しそうになり、シンは驚いてマユを見やる。

「なにかあったの……解かる よ、お兄ちゃん心ここにあらずって感じだもん」

伊達に妹ではない……兄の細 かな様子を察しており、シンはやや表情を顰める。

確かにいろいろあった……あ の時のMSから感じた感覚…それを確かめようとして邪魔されたこと……

思い悩んでいると、マユがシ ンの背中を叩いた。

「な、マユ…?」

「元気がなかったらこうした 方がいいって…レイナお姉ちゃんに教えてもらったんだ」

悪戯が成功したような表情を 浮かべるマユ…呆気に取られるシンの顔を覗き込み、表情をやや歪めた。

「お兄ちゃん…絶対に、無茶 はしないでね……マユ、独りぼっちになるのは……凄く、嫌だから……」

震えるような口調でパイロッ トスーツを握り締めるマユに、シンは微笑を浮かべて安心させるようにその手を握った。

 

 

通信回線越しにリンクさせ、 ブリーフィングを行う各艦の艦長達……そこへ外周部から偵察に出ていたM1が一機、帰還する。

《アサギ機、戻ります》

港口から帰還するM1……偵 察任務を帯びていたアサギが反対側の様子を探りに出、映像を撮ってきた。

《ナスカ級が3隻、反対側の 港口……デブリの陰です!》

映像とともに伝えられる報 告……モニターには、デブリに身を潜める3隻のナスカ級が映し出され、艦長達は表情を険しくする。

《チィ、ナスカ級3隻とは、 また豪勢な!》

バルトフェルドが硬い表情で 舌打ちする…マリュー達の表情も沈痛させている。内部へ入ったまま連絡を絶っているパイロット達のことも気に掛かるが、まさかザフト側もナスカ級を3隻も 派遣してくるとは予想を遥かに超えていた。高速艦のナスカ級を相手にしていては、逃げきるのは難しい…しかも、背を見せれば後方からドミニオンを含めた地 球軍艦艇が迫ってくる。

《地球軍は?》

《依然、動きはありませ ん……》

後退した地球軍艦艇の動向を キサカが問い返す……ドミニオンを含めた残存の艦隊はそのまま撤退せず、L4の外縁のデブリの密集地帯に留まったままこちらを牽制している。ザフト側の出 現も向こうの知るところであろう…ザフトの出方を窺い、漁夫の利を狙おうとしているのか、それとも援軍を待っているのかは解からないが……

双方から狙われている今の状 態は非常に危うい。

《フラガ達が情報を持ち帰っ てくれるか……くそっ、誰の隊だ?》

指揮官が誰か解かれば、少な くとも対策も練れるだろう……独り言のように愚痴るバルトフェルドにマリューは思わず答えた。

「……クルーゼ隊です」

ポツリと囁いた一言に、一同 は一斉に不審そうに表情を顰める。

「だから、ムウには解かった んだわ……」

あの戦闘の最中、ムウは的確 にザフトの接近に気付いて行動に出た……それは、センサーよりも的確で確実な彼の感覚であったのだろう。

《どういうことかね、ラミア ス艦長?》

意図が掴めないマリューの言 葉の意味をダイテツが問い返す。

「彼には解かるのよ……何故 だかは、自分でも解からないということだけど…ラウ=ル=クルーゼの存在が」

マリューの言葉に、ますます 困惑する一同……ムウのその異常な感覚を知らない者には混乱するだろう。マリュー自身もそのムウが持つ感覚に驚いているのだから…最初のヘリオポリスでの 脱出から相手がクルーゼ隊であることを見抜き、確信していた。そして地上に降りてから追撃してきた部隊はクルーゼ隊ではないとはっきり言い、後にアスラン やリンに確認を取るとそれが正しかったことも解かり、ますます驚愕させられた。

マリューがムウにその感覚に ついて尋ねたのはJOSH−Aでの攻防の後だった。サイクロプスの存在をどうやって知り得たのか、それを尋ねたのが始まりだった。

クルーゼの存在を感じ取り、 それを追ってあの作戦の全貌を掴んだこと……勘の鋭いムウではあるが、なら最初にその感覚を憶えたのは何処で………

ムウが最初にその感覚を憶え たのは彼がメビウス・ゼロでの初実戦に挑んだグリマルディ戦線だった。エンデュミオンクレーターの攻防でザフト側の指揮官機らしき機体…ザフトのジンのカ スタム機を前にした時、初めてその感覚を味わった。そのカスタムジンのパイロットは手強く、また僚機のメビウス・ゼロを次々と撃破した凄腕だった。そして エンデュミオンクレーターの攻防はサイクロプスにより双方に甚大な被害を齎し、ムウ以外のメビウス・ゼロのパイロットは全て戦死…そしてその帰投時に唐突 に相手から通信が入り、そしてラウ=ル=クルーゼと名乗ったのだ。

これがムウとクルーゼの最初 の出逢いであり、その後も幾多の戦場で巡り合い、その度に相手の存在を感じ取っていた。何故その特定の相手に決まって同じ感覚を憶えるのか、ムウ自身にも はっきりとは解からないらしい……宿命のライバル……一度、冗談めかしてそうたとえたこともあった。だが、それは聞きようによっては不吉な意味にも取れ る…宿命ということは、生まれながらにして相手に対しなにかを運命られているのではないのか、と……それが何なのか、マリューには解からない………

暗い雰囲気の漂う中、ダイテ ツは徐にパイプを加え、火をつけ…一服し、息を吐き出す。

《もしかしたら、他にも要因 があるかもしれんな………》

ポツリと呟いたダイテツの一 言に、一同は反応する。

《どういうことですか…ダイ テツ様?》

ラクスが窺うように尋ねる と、またもやパイプを口に含み…白煙を周囲に漂わせる。

《皆は、このメンデルがどう いった場所かご存知かな?》

唐突にそう問われ、一同は怪 訝そうに首を傾げる。

「私達は、ここがバイオハ ザードを起こして破棄されたとしか……」

メンデルについての詳細を知 らないマリューが世間一般に報道されている情報を述べる。

《私もです…そして、ここは コーディネイターにとっては聖域とも称される場所ぐらいしか……》

ラクスもプラントで知られて いる知識しか心当たりはない……ここがかつて、遺伝子工学の最先端の場所であり、コーディネイトの先駆的場所であり、多くのコーディネイター達にとっての 神聖な場所であり、それ故にブルーコスモスなどのコーディネイター排斥を掲げる者達の攻撃の的であった。

バイオハザードによりこのコ ロニーがX線洗浄されたのもブルーコスモスの暗躍と噂されたほどだ。

《世間一般的に知られている のはそれぐらいだろうがな……バイオハザードが起きたのは開戦前だが、それ以前にもここは幾度かブルーコスモスによって襲撃されている。その主たる理由は コーディネイターの聖域というのが表向きだが……》

「何か、他に理由が?」

《ここは、遺伝子工学の最先 端の研究コロニーであると同時に学術都市でもあってね…Genetic Advanced Reproductive Medical Research and Development、通称GARM R&Dと呼ばれる企業がここを担っていた。その研究機関うちの幾つかが『新たな人類』という研究テーマに取り組んでいた》

《新たな人類…ですか?  コーディネイターのことではないようですが…?》

聞き慣れぬ単語と疑問を感じ たラクスが口を挟むと、ダイテツは頷く。

《うむ……コーディネイター を超える存在を生み出す………それが目的だったようだ…なにをしてコーディネイターを超えるのかは、はっきりとは解からんが……》

「コーディネイターを…超え る……」

《なんだよそれ…全然解かん ないぞ》

あまりに突拍子もないことに 戸惑う……コーディネイターは高い知能と身体能力の容易な発露を誕生時に既に用意されている存在だ。それを超えるという定義は、あまりにも抽象的でしっく りこない。

ダイテツはチラリとカガリを 見やる…だが、すぐに視線を閉じて逸らす。

《わしにも詳しくは解から ん……ただ、その研究のために非人道的な人体実験が幾度も行われたとも聞いている……》

やや硬い声で囁くと、全員が 驚愕して眼を見開く。

《それは穏やかじゃない な……まあ、今でこそ安定はしているが、当時は第一世代のコーディネイター誕生にはかなりの不確定要素があったとは聞いていますが……》

バルトフェルドが軽い口調な がらも渋い表情で呟く。

《その不確定要素の除去も研 究テーマには含まれていたようだがな……どちらにしろ、愉快な話ではない…》

不快感を漂わせながら答え返 す…確かに、そんなことが行われていたとすれば、嫌悪感を憶えずにはいられないだろう。

《では、ブルーコスモスの狙 いはその研究計画を潰すことだった、と……?》

《恐らくな……そして、その 研究テーマに取り組んでいた人物が、当時のGARM R&Dの研究主任であったユーレ ン=ヒビキと副主任であったウォーダン=アマデウスの2名であり、両者ともブルーコスモスの襲撃で死亡したと聞いている》

《その研究は成功したのです か…?》

ラクスが眉を寄せながら尋ね る……だが、ダイテツは黙り込んで答えない。

訝しげになる一同の前で、ダ イテツは今一度パイプを噴かし、一息つく。

《ここは……全ての始まりと もいえる場所かもしれん………そして、ここはレイナ達にとっては運命の場所でもある……》

驚愕する一同だったが、問い 詰めようとした瞬間、ダイテツは通信を切った……これ以上は追及されたくないという意思表示であろうか……険しい表情を浮かべる一同は、コロニー内にいる はずの者達の身の安全を祈った。

 


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