メンデルの地表に降り立った バスターとブリッツビルガーから降りてきた人物は紛れもなくディアッカとニコルであった。

イザークの困惑はますます強 くなる……ディアッカにしてもニコルにしてもプラントを裏切るような真似をするとは思えない。だが、アスランやリン、ラクスらと同様で秘めたる思いまでは 解からない。

銃を向けずに話をしようと言 い、その身を機外へと晒した二人……イザークからしてみれば、裏切り者などと話をする気にはなれなかった。どんな理由にせよ、母国を裏切ったのだ……それ だけでも討つ理由としては充分なのに、あろうことか反逆まがいの行動にまで出ている……だが、イザークは躊躇いを感じていた。

確かに赦せない……それでも イザークは知りたいという欲求があった。ディアッカやニコル…アスランやリン、ラクス達は何を思い、自分達と敵対するのかを……何を思い、戦っているのか を知りたくなったのだ。

そしてリーラの行動の真意 も……だからこそ、その話し合いにも応じる気になったのだ……デュエルを2機の前に着陸させ、イザークもまたヘルメットを外して機外へとその身を晒す。

乾燥した赤茶けた大地に降り 立ったイザークが顔を上げると、そこには懐かしい顔……ディアッカとニコルはやや表情を緩めて歩み寄ろうとするが、それを制するようにイザークは唐突に銃 を構えた。

「銃を向けずに…敵のそんな 言葉を信じるほど、俺は甘くない!」

険しい表情と厳しい口調で銃 を向けるイザークに、ディアッカとニコルは足を止め、銃を向け『敵』だと言われたことに、表情を曇らせながらその場に立ち尽くす。

確かに話を聞く気にはなった が、それでも警戒を緩めるつもりはなかった…もし、いい加減な理由や言い訳を口にしようものなら、即座に撃つぐらいの気概であった。

ディアッカとニコルは複雑そ うに表情を歪め、小さく肩を竦めて見せる。

「俺らは……お前の敵か?」

武器を持たずに丸腰で出てき た二人が逆に問い返し、イザークは銃を握る手を震わせる。

アカデミーの頃からの相部屋 のディアッカに、アスランとの衝突時によく仲裁に入ったニコル……彼らは仲間だった…なのに、何故今自分は銃を向けているのか………やり切れずに辛いのは イザークの方であった。

「敵となったのは貴様らの方 だろうが!!」

自分だけを置いて皆去って いった……悲壮感を漂わせるイザークの言葉に、ディアッカとニコルは自嘲的な笑みを口元に浮かべた。

「イザーク……僕は、貴方の 敵になったつもりはありませんよ」

以前以上に感じさせる力強さ を携えた口調……だが、イザークは逆に激情する。

「フザケるな! 貴様らも裏 切り者だ!!」

アスランやリンと同じく…… 自分と同じ評議会議員を親に持ちながらもプラントを裏切った裏切り者……険しい表情で銃口を向けたまま睨みつけるイザークに対して、ディアッカが続ける。

「「プラントを裏切ったつも りも(ありません)ない」」

動じることなく少し強い口調 になったディアッカとニコルに、イザークが歯噛みする。

「何だと!?」

……白か黒か……どちらが正 しいか間違っているか………それをはっきりさせて行動するのがイザークの価値観だ。

敵と味方……その考えを根底 に持つイザークにしてみれば、ザフトに叛旗を翻したディアッカとニコルのプラントを裏切ったのではないという発言は理解できなかった。

そんなイザークに、ディアッ カとニコルは自分が見てきた、今までイザークが知らなかった世界について話し出す。

「…けど…ただナチュラル を………」

二人の脳裏を駆け抜ける様々 な光景………ディアッカはアークエンジェルで見た泣き叫ぶ少女との出逢い…ニコルはTFに命を救われてから見た外の世界………

………見て、知ってしまった のだ…………プラントに、ザフトにいたままでは知ることのできなかった、プラントの外の世界を……無論、それが一部に過ぎないとは解かっている。

だが、それでも知り得たこと は大きかった。

「イザーク……僕達は、外の 世界に触れて…そして疑問を持ちました……今のザフトの自分達の在り方に……」

「ああ……黙って軍の命令に 従って、ただナチュラルを全滅させるために戦うって気も……もう無くなっちまっただけだ」

これまで見たこともないよう な真剣な面持ちの表情で言い放つディアッカとニコルの態度と、その言葉にイザークは息を呑んだ。

微かに動揺し、その銃口の向 ける先が鈍った。

 

 

 

 

メンデル内に突入したイン フィニティ、エヴォリューションの2機はそのままゲイル、ヴァニシング、ディスピィアを追う。

(いったい、何処へ行こうと している……?)

相手の意図が掴めないまま後 を追っていると、前方から戦闘の熱分布がキャッチできた。

微かに瞬き、コンソールを叩 いてモニターに戦闘を表示させ、戦闘を行っている機体をズームさせる。

表示されたのは、ルシファー ともう一機…データ未登録の未確認機が一機………

「アレは……確か、バルファ ス?」

その機影を確認したリンがボ ソッと呟く。

「バルファス?」

聞き慣れぬ単語に尋ね返す と、リンが頷き返す。

「ああ……ゲイツと並んで開 発が進められていた次世代型無人兵器の一号機だ…もうロールアウトしていたのか」

リン自身、プラントに戻った 時に少しだけその情報を得ていた……自分達の乗るXナンバーと次期主力機として量産が計画されている2機種のMSの存在を……次の瞬間、ゲイルら3機が突 然ルシファーに襲い掛かった。

突然のことにルシファーが被 弾し、苦戦に陥る。

「何!?」

「何故奴がザフトに手を貸 す……?」

ウォルフの真意がまったく解 からない……だが、ルシファーであの3機も相手に回すのは無謀だ。微かに舌打ちし、すぐさま援護に向かう。

 

突然現われたゲイル、ヴァニ シング、ディスピィアに驚く間もなく、ルシファーは集中攻撃を浴びた。

「ぐっ……!」

連合の最新鋭G3機を相手に していてはいくら試作機とはいえ、分が悪い……ヴァニシングとディスピィアがガトリングガンとラルヴァで狙撃してくる。スラスターを噴かして回避するも、 横からバルファスがビームクローを展開して斬り掛かる。

反射的に左手でビームサーベ ルを抜いて受け止める……だが、そこへ正面に回り込んだゲイルがファーブニルを飛ばす。

「うわぁぁっ!」

悲鳴を上げながら弾かれるル シファー……ヴァニシングがビームアクスを取り出し、ビーム刃を展開して突進する。

態勢を立て直そうと機体を堪 えさせ、空中に静止した瞬間、眼前にヴァニシングが迫る。

息を呑むカムイ……振り下ろ されるビームアクスに向かって黒い影が割り込んだ。

ビーム刃を受け止め、エネル ギーがスパークする……リンは微かに歯噛みしながらデザイアで受け止め、至近距離からヴィサリオンをヴァニシングに向かって放った。

ビームの弾丸にアクスを破壊 され、ヴァニシングが後退する。

「リンさん…!」

カムイが声を弾ませるが、リ ンは答えずレールガンとドラグーンブレイカーを展開してヴァニシング、バルファスを牽制する。

その機影に満足げに笑みを浮 かべるウォルフ……そして、まるで予測したようにビームサーベルを抜いて振り向いた瞬間、後方からインフィニティがインフェルノを振り被って迫った。

ビーム刃が交錯し合い、エネ ルギーがスパークする。

「フッ……来たか…やはり、 お前も記憶が欲しいのか……BA!」

揶揄するような口調で見下す ような言葉を吐くが、レイナは舌打ちする。

「御託はいい……お前の目的 は何だ、ウォルフ!?」

「目的…ね………俺はただ、 殺しが愉しめりゃいいのさ………」

問い詰めるような口調に対 し、ウォルフは卑下た笑みを浮かべる。

「そして……この世界が滅び ていくのを見届けるのさっ!」

左腕を引き寄せ、そして突き 出すようにファーブニルを飛ばす……だが、その動きを読んだレイナはインフィニティを傾ける。

空いた横を過ぎる……イン フィニティはそのまま右脚を振り被ってゲイルを蹴り上げた。

追い討ちをかけるように右拳 を握り締め、拳を突き出した……拳はそのままゲイルの頭部を捉え、ゲイルは弾き飛ばされる。

刹那、背中に回り込むディス ピィアがバックパックのビームキャノンを展開してインフィニティを狙い撃つ。

それを感じたレイナは機体を 捻り、そのビームを回避し、間髪入れずに左腕のケルベリオスを掴み、投げ飛ばした。

高速回転で迫るケルベリオス を薙刀で弾き飛ばし、イーゲルシュテルンで狙撃する。

銃弾の応酬をかわし、一度距 離を取ってエヴォリューション、ルシファーと合流する。

空中で静止するインフィニ ティ、エヴォリューション、ルシファーの3機……それぞれ武器を構え、周囲にはドラグーンブレイカーが牽制するように浮遊している。

それを取り囲むように周囲に 浮遊するゲイル、ヴァニシング、ディスピィア、バルファス……数の上では不利……だが、何故ザフトの機体が奴らと共闘するのか、それが解からない。

困惑しながらも警戒した面持 ちで身構える………その時、ゲイルの対外スピーカーからウォルフの声が響いた。

「ククク……これで役者は 揃ったな………ナンバー01から04…そして07、08までな」

言葉の意味が解からず怪訝そ うに眉を寄せるレイナだったが、その意味に気付いたカムイとリンが眼を見開く。

「何故それを……いや、ナン バーは04までしか存在しないはず…っ!?」

冷静な彼女らしくないどこか 狼狽した様子を見せるリンに、レイナは不審そうに見やる。

「リン……?」

らしくない彼女の様子に眉を 顰めていたが、それもウォルフの嘲笑に振り向く。

「そっちの二人はある程度は 知っているようだな……いや、それでも全部は知らないと見える………あの女が伝えなかったのかな…はははっ!」

「女…フィリアさんのこと か!?」

カムイが思わず叫ぶ……だ が、唯一人だけ話の意図が掴めずに苛立つレイナ。

「どういうこと…リン、カム イ!?」

問い詰めるように尋ねるが、 カムイは言葉を噤み…リンはやや視線を逸らす………

「フッ……言っただろう、 BA…ここはお前にとって運命の始まりだとな………さあ来い! 全てを知る覚悟があるのならなっ!」

身を翻し、メンデルの地表に 向かって降下していくゲイル……それに続くように、ヴァニシング、ディスピィア、バルファスも続く。

だが、レイナ達はそれをすぐ 追おうとはせず、その場に静止したまま……レイナはやや疑念を感じさせる眼でリンとカムイに尋ねる。

「いったい、どういうことな の……あの男が言った、ナンバーとは何のこと? あいつと…いや……ここに私の何があるというの?」

憤りを感じさせる口調……も どかしさと不安にも似た不快感がレイナの神経を逆撫でる。

「……………」

「そ、それは……」

リンは無言のまま表情を逸ら し、カムイは言い淀む。

「知る覚悟があるか……?」

唐突に口を開き、射抜くよう な視線を向ける……やや表情を硬くするレイナ。

「これだけは言える……この 先に待つのは、確かに姉さんの過去に……いや…私達全ての運命の始まりにもなった場所………そこで、姉さんは絶望を味わうかもしれないわよ……その覚悟は あるの……?」

この先に待ち構えるものへの 不安と恐れ……そこで、全てを知るかもしれないという誘惑にも似た感覚がレイナの中を駆け巡る。

「以前にも言ったはずよ…… 私は、そのために今まで生きてきた、と……ここまで来て、その事に臆するつもりはない……」

自嘲めいた笑みを浮かべ、肩 を竦める。

たとえ自分の記憶がなんであ れ、その先に答があるのなら……たとえそこが地獄だろうがなんだろうが堕ちてやる……決して、後悔などしない………

その決意を胸に、インフィニ ティは身を翻し、ゲイルらの後を追って地表へと降下していった。

そのレイナの決意を垣間見た リンは、諦めたように溜め息をつく…そして、レイナの身を案じていた自分の心持ちに気付き、内心で嘲笑を浮かべた。

(今まで殺そうとしていた相 手の心配をするなんて……私もどうかしてる…いや、最初から壊れていたんだな………私は禍がいものなんだから……)

肩を竦めると、ルシファーに 見やる。

「聞いたとおりだ……私は行 く………どうやら、私が知らない何かがあるようだしね…それに、私自身もあそこへ行かなきゃいけないようだ…お前は戻れ……お前は唯一、無事に生き延びら れたんだろ……あそこへ行く必要はない」

言い切り、身を翻してエヴォ リューションも降下するように向かっていく……その背中を複雑な表情で見詰めていたが、やがてカムイは意を決したように顔を上げ、その後を追った。

追い縋るルシファーに気付い たリンはやや表情を顰める。

「戻れと言っただろう? お 前までわざわざあそこへ付き合う必要はないんだぞ」

そう嗜めるが、モニターに映 るカムイは首を振る。

「いえ……僕自身も、あそこ とは無関係とは言えません…それに、僕一人だけがその運命から逃げるわけにはいかないでしょう?」

逆にそう言われ、リンは苦笑 を浮かべて肩を竦めた。

「好きにしなさい」

素っ気なくそう呟くと、エ ヴォリューションとルシファーは先行しているインフィニティを追った。

 

 

インフィニティが地表付近に 近付いた時……地表の一画にゲイルを含めた4機が鎮座していた。全てのハッチが開かれており、パイロットが既にコックピットにいないことを示していた。

そのMSが鎮座するすぐ傍に は、長方形状の建造物がひっそりと建っている。周囲には他に建物らしきものはなく、この中へと入り込んだのだという結論に至る。

インフィニティも地表に着陸 し、その場に鎮座するように身を沈め、コックピットハッチが開いてレイナが顔を出す。

ヘルメットを取り、ホルス ターの銃を抜き、撃鉄を起こして弾を装填するとコロニーの大地に降り立つ。乾燥した、冷たい大気が肌に染み渡る。

(まるで、死の臭いと静寂だ な……)

微生物さえも存在できないほ どX線洗浄されたこのコロニーはもはや、地獄というべき場所なのかもしれない。

なんとなく、自分が以前いた 集落跡を思い出し、苦笑を浮かべた。

その時、上空からエンジンの 唸りが響き、降下の際の突風が巻き起こり、レイナは顔を覆いながら上げると、そこにはエヴォリューションとルシファーが着陸してきた。

2機ともその場に鎮座し、 ハッチが開いてヘルメットを取り、銃を持ったリンとカムイが降りてきた。

「なんでついて来たの?」

以前にも確か似たようなこと をムウに尋ねたことがあったな、と内心に考えながら尋ねる。

「私自身も無視はできないか らよ……できれば、二度とここには足は踏み入れないと思っていたけど………やはり、そうもいかないようね」

自嘲めいた笑みを浮かべ、銃 の撃鉄を起こすようにスライドさせ、弾を装填する。

「……いくわよ」

レイナが促すと、リンとカム イは頷いて眼前に佇む建物へと近付いていった。

開かれた入口……ガラス張り のドアの向こうは、薄暗くはっきりとは解からない。

ガラスドアは数枚が叩き割ら れ、この研究所もなにか襲撃でも受けたような状態だ。

だが、腑に落ちない部分が あった……この建物だけ、周囲数キロに渡って他に建造物が見当たらない場所に造られている。まるで、人目を盗んでここに建造したような造りだ。研究所の入 口のドアの上にはGenetic Advanced Reproductive Medical Research and Developmentという文字とその下にBL7 HumanGene Manipulation Evolve LABと表記されていた。

(GARM R&Dの研究施設……第7ラボ…?)

刹那、頭の中をキンという傷 みが走り、思わず頭を押さえる……鼓動が激しくなる。

(……なに?)

……自分はこの場所を知って いる……ずっと……遥か過去に…失われた記憶の彼方で……バカな、という思いが駆け巡る。

自分は、このメンデルにいた ことがあるのか……先程のウォルフの言葉の意味を信じればそうなるが、鵜呑みにするほどレイナはバカではない。

気持ちを改め、入口の壁に身 を隠し、ガラス越しに研究所内を窺う。

「二人とも、白兵戦の経験 は?」

肝心なことを尋ねる……あの ウォルフ相手に白兵戦を挑むのはある意味では危険だ…自分の身ぐらい自分で護れるようでなければ……

「訓練で何度か……」

カムイはやや言いにくそうに 言葉を濁す……訓練で銃の扱いや白兵の模擬戦は行ったが、実際にやるのはこれが最初だ。

カムイは戦力には数えられな いか…と、内心で舌打ちしながらリンを見やる。

「ザフトに入る前に何度か… それと、華南の攻防で最後まで抵抗した連中を相手にしたことがある」

ザフトに入隊前にはそれなり に治安の悪い地帯を潜り抜けてきた…加えて華南宇宙港陥落の際に最後まで抵抗した歩兵相手にナイフと銃一丁で鎮圧したぐらいだ。

それだけできれば充分だ…… とレイナは中を覗き込みながらゆっくりと研究所内に入った。

壁越しにゆっくりと通路を進 み…その先に見えたのは薄暗いエントランスホール……そこも、荒れ果てていて機材や壁の破片が散乱している。

「っ……」

陰に隠れながら、ホール内を 覗き込み…レイナとリンが息を呑み……カムイは嘔吐感に襲われる。

散乱する機材に混ざって飛び 散っている鮮血……漂う腐敗臭………腐った研究員と思しき死体が周囲に無数に散乱している。

皮膚の腐蝕が始まり、骨が覗 き……血で染まった白衣がそれをより際立たせる………

その異様な光景にやや唖然と なっていると…遠くから銃の発射音が轟き、ハッと瞬時に壁に身を隠した。

壁を銃弾が抉る。レイナとリ ンは銃撃が一瞬やんだ瞬間、銃を構えて撃ち返した。

だが、こう視界が悪くては思 うように狙いが定まらない……

「ッククク…ここを見ても何 も思い出さないか、BA?」

侮るような口調が響き、レイ ナは表情を顰める……微かに息を呑みながら再度撃鉄を起こす。

「ここは全ての始まりになっ た場所……お前達のな!」

刹那……連射にも近い轟音が 轟き、何十発という弾が鋭い勢いで撃ち込まれてきた。

「くっ…フルオート か……っ!」

これでは反撃ができない…… リンも身を隠しながら舌打ちする。

「危ない男だ……っ!」

「そういう奴だから、厄介な の……よっ!」

リンのぼやきに答えながらレ イナが身を滑り込ませ、機材の陰に隠れて銃を弾道から読んで発射点に向けてトリガーを引いた。

銃弾がなにかに着弾し、跳弾 する音が響く。

刹那……銃撃がやみ、怪訝そ うに見やりながら様子を窺う……どうやら、相手は奥へと移動したようだ。

リンとカムイを促すように頷 くと、レイナが先頭に立ち、中央にカムイ、後方にリンを配置した状態で身を隠しながら奥へと向かう。

薄暗い通路には、ホールと同 じように研究員と思しき男女の腐蝕体が無数に転がっている。

その周囲に呑まれないよう に…気配を探るが、近くに気配が感じられない………様子を窺っていると、どこからか音が響き、反射的に銃を構える。

だが、そこには気配はな く……壊れかけた壁の向こうに僅かに開けたドア……微かに先の暗闇が見えた。

警戒した面持ちで近付くと、 それはどうやら地下へと続く階段のようだ。

 

――――Prof.Wodan Amadeus  M.D.,Ph.D.

 

不意に、ドアの上に張られた プレートが眼に入った。

(ウォーダン……アマデウ ス………?)

この施設の責任者の名か…… 片や、北欧の神の名であり、もう片方は破滅神の名を冠する神の名………先程からの頭痛がまたもや酷くなる。

そのドアの奥に見える闇……

(この先へ来い…いや、誘っ ているのか………っ?)

どうも動向がおかしい……わ ざわざMSを降りてこんな場所まで引き寄せたということは、なにかしら意図があると見るのが普通だが……肝心の意図が掴めない。

こちらを動揺させるにしても こんな回りくどく引き込むことに腑が落ちないが……どちらにしろ、ここで立ち止まることはできない……その時、不意に視線を感じて天井に振り返って銃を向 けた。

天井の鉄格子で覆われた排気 口のようなダクトに向かって銃口を向けたまま……しばし硬直する。

「どうしたの……姉さん?」

突然の行動にリンが声を掛け ると……レイナはやや肩を落としながら息を吐く。

「いや……なにか、誰かに見 られてたような気がして………」

銃を下ろしながら、やや言葉 を濁す……確かに感じたのだ…こちらを観察するような奇異な視線を………それでいて、殺気のような冷たさを……

(気のせいだったのか……)

神経を尖らせすぎているのか もしれない……この先に、自分の過去に関する何かが存在しているというのが………顔を見合わせ、頷くと……3人はそのまま階段を降りていく……先に拡がる のは、僅か先も見えない闇…それは、地獄への入口を思わせた。

 

 

先程の天井のダクトの中…… 天井裏に潜みながら階段を降りていくレイナ達を見詰める二つの影……ローブのようなものを纏い、顔を隠した人物………

「成る程……アレが 02………あの方の対たる存在か…流石に勘は鋭いようね……」

女の声で呟く影……こちらは 完全に気配を消していたはずなのに、こちらに気付いた……どうやら、能力的には侮れないのは確かのようだ。

「だが、記憶を失っているよ うだな………02としての記憶を…傍らにいたのは03と04か……これで、全てのナンバーが揃ったことになる」

それに答える隣に立つ人 物……声色からして男のようだ。

「フン……私はあの女を認め ない………たとえ、私のオリジナルだとしてもね……」

殺気を感じさせる冷たい口調 で呟きながら、ローブの下から鞘に収まった刀を取り出す。

「だが、彼女がいなければお 前も、そして03もこの世に生は受けなかったのだぞ……」

そう嗜めるが、女は鼻を鳴ら す。

「それは関係ない……ここで 始まりが訪れるのを待ち続けてきた………だが、もう私は影に徹する必要もない………あの女は、私が殺す………」

ローブを纏った女がそう呟い た瞬間、姿が消える……男は肩を竦めながら同じように消えた………

 

 

 

 

キラがムウを追って螺旋階段 を駆け上がっていると、唐突にクルーゼの声が響いた。

「君まで来てくれるとは嬉し いかぎりだ、キラ=ヤマト君……」

突然、身も知らぬザフト兵か ら名を呼ばれ、キラは驚きと戸惑いに一瞬足を止める。

「そうか…君がフリーダムの パイロットか……」

何故か、愉しげに弾んでいる 声……キラは周囲を窺いながらムウの姿を探してブリッジを駆けながら、身を沈めて周囲を見渡し、ムウの姿を見つけ、叫んだ。

「ムウさん!」

「キラ!?」

二重螺旋を模したようなモ ニュメントの陰に身を隠すムウの姿を見つけ、駆け寄っていくと、ムウはやや驚いた表情を浮かべていた。

素早く自分のところまで滑り 込み、息を僅かに乱しているキラを見て、思わずムウは声を荒げた。

「バカ! なんで付いてき た!?」

ムウが咎めるが、キラは息を 乱したまま言い返す。

「あのまま外で待つなんてで きませんよ! 何かあったら、マリューさんに、なんて報告すればいいんですか?」

マリューの名を出され、ムウ は確かにと内心納得するも、やや苦笑を浮かべて肘でキラを小突く。

「ったく、生意気言いやがっ て…!」

軽薄に振る舞ってはいるが、 その顔にやや苦悶が浮かんでいるのに気付き、キラはムウの脇腹から血が流れていることに驚いて眼を見張る。

「ムウさん、その傷……」

「掠り傷だ」

そんなことはないだろう…現 に彼の額には脂汗が浮かび、呼吸もかなり荒い。おまけに冷却スプレーはかけたようだが、それでも完全に止血していない。早く手当てをしなければと思ったキ ラだったが、ムウはやや呆れた声でキラの手元を見ながら呟いた。

「……それよりお前、撃つ気 あるならセーフティ外しとけ」

そう言われて、キラは慌てて 銃を見やった……せっかく覚悟してきたというのに、まさかセーフティロックも解除していない銃で援護にきたなど、呆れるしかない。キラは銃を扱った覚えは ないので仕方ないといえば仕方ないが、それでも情けないような気持ちでロックを外した……そこにクルーゼの笑い声が木霊した。

「さあ、いつまでもそんな場 所に隠れていないで、来たまえ……始まりの場所へな!」

相手の言葉の意味が解から ず、頭を捻るキラとムウ……だが、続けて発せられた言葉にキラは息を呑んだ。

「キラ君……ここは君にとっ ても生まれ故郷なのだからな!」

「えっ……?」

その言葉に思わず身を乗り出 しそうになる……何を言っているのだ………自分はこんな研究施設にいた覚えはない。

どういうことか……と叫ぼう としたが、その前にムウが制して咎めた。

「引っ掛かるんじゃない!  奴の言うことなんか、いちいち気にするな!」

ムウに呼ばれてキラはハッと 我に返った。

「敵はラウ=ル=クルーゼな んだぞ…油断するなよ!」

その名にキラは眼を瞬く…… かつて、自分達を執拗に追ってきた敵であり、アスラン達の上官……その男が今ここにいるのか………やや呆然となっていたが、ムウがクルーゼを追って駆け出 し、キラも慌てて後を追った。

遠ざかっていく足音を追いな がら、二人は施設をさらに奥へと進む……やがて、一つの部屋のドアが閉じられたのに気付き、そのドアに向かって駆け寄り、脇に身を潜めながらムウが眼で合 図してドアを開こうとスイッチを押す。不意に、ドアの脇のプレートが眼に飛び込んできた。

 

―――BL4+ HumanGene  Manipulation LAB

 

それに眼を留める間もなく、 ドアが開いた瞬間、奥から銃声が轟き、壁に跳弾して火花が散る。身を引いて壁に身を隠す……銃撃がやむと、素早く内部へと駆け込んだ。

だが、その内部に拡がる異様 な光景に眼を奪われた……

その空間には、床に大きな底 抜けがあり、まるで反対側へと細長い通路のような橋が渡され、その周囲の床下は青い液体の冷却槽でその中には竈のようなカプセル状のものがいくつも浸かっ ている。その冷却槽の周囲に張り巡らされた鉄格子に身を隠しながら窺う。

「なんだ、ここは……?」

ムウが呆然と呟く。

冷却槽の中に浸かるカプセル 状の装置の上にはモニターが並び、装置の状態を随時モニタリングしているらしく、モニターには胎児のような映像とその横には膨大なデータが随時流れてい る。

施設が破棄された今でも、こ の装置は作動しているらしいが……そのカプセルの中にいるのは……ここに棄てられた胎児達なのだろうか……ゾクっとするような冷たい悪寒が過ぎる。

二人はそのまま不可解な表情 で奥へと渡されている通路を歩んでいく。

部屋の奥の棚にはガラス瓶が いくつも並び立ち、中には人の胎児らしき標本が浮かんでおり、そのあまりの異様さにキラは悪寒と嫌悪感に身を強張らせる。

「キラ!」

咄嗟にムウが気を逸らしてい たキラの頭を押さえつけた。間一髪、二人の頭上を薙いでいった銃弾が通路の手摺に当たって小さな火花を散らす。

ムウが素早く奥に向かって撃 ち返す。

「懐かしいかね、キラ 君………?」

暗闇の奥から嘲笑うクルーゼ の揶揄する声が聞こえてくる。

「君はここを知っているはず だ……」

混乱するキラを横に、ムウが 歯噛みしながら銃を撃ち、奥の部屋へと続くドアの脇に向かっていく。

「知っている……僕 が………」

呆然と呟く……知るはずがな い……自分はこんな施設に…いや、今までL4にすら来た記憶すらないのに……だが、クルーゼの言葉に沸き上がる不安を抑えることができない。

何とか自分を落ち着かせよう と、キラは大きく息を吐いた。

再びしっかりと前を見据え、 クルーゼの入っていった通路の先の部屋のドアの脇に駆け寄る。ドアの横のプレートには、この施設の責任者らしき人物の名が記されたプレートがかけられてい た。

 

――――Prof.Ulen Hibiki  M.D.,Ph.D.

 

その名に逡巡する間もなく、 ムウは弾倉を装填し、脇から中を窺う。開けたドアの奥に見える部屋の奥の機材の陰から銃声と火花が轟き、壁に跳弾する。

ムウは撃ち返しながら部屋の 中へと飛び込む…銃弾に晒されながらそのまま部屋を突っ切り、右手に置かれたソファへと飛び込み、身を乗り出してクルーゼが身を隠している場所へと向かっ て発砲したが、クルーゼの放った銃弾が右肩を掠め、鮮血が飛ぶ。

「ぐぁっ!」

小さい悲鳴を上げてムウは 握っていた銃を落とす。

「ムウさん!」

キラは眼を見開き、ほとんど 反射的に部屋に飛び込み、銃弾を避けながらムウがいるソファの陰に飛び込み、呻き声を上げるムウに声を掛ける。

「大丈夫ですが!?」

「ぐっ……」

肩を押さえる指の隙間から滲 み出す血……ムウも先程の軽口を叩ける余裕がなくなっている。

「殺しはしないさ………」

奥から含み笑うような声が聞 こえ、キラは身を乗り出して銃を構えた。

だが、クルーゼが攻撃してく る様子は見られない。

「せっかくここまでおいで 願ったんだ………全てを知ってもらうまではね」

ぎこちなく銃を構えるキラの 横に、静かな声とともに暗がりから何かが飛んできた。

キラはビクッとして思わずそ れに眼をやる…床に落ちて滑ってきたそれは写真立て……その中に収められている写真を見たキラの表情が変わり、凝視する。

茶色い髪をした女性が双子ら しき赤ん坊を抱えている写真……それは、宇宙に上がってすぐ、キラがカガリから見せられたあの写真と同じものだった。

ウズミから託された自分達の 名を記した写真と違わぬものだった……

(な、なんでこれがここ に……!?)

その疑問を問う暇さえ与え ず、クルーゼはもう一つ、何かを投げて寄越した。

ムウもそちらに眼をやると、 ファイルから資料と思しき書類と何枚かの写真が散らばる……その中から覗いた一枚を見て、今度はムウが驚きの声を上げた。

「親父……!?」

「え…?」

キラもその声に反応してその 写真に眼を向ける……金髪の少年が模型を手に同じような金髪の男に肩車をされたごくありふれた家族の写真………

「君達も知りたいだろ う……」

部屋の奥…闇から浮き出るよ うに姿を見せ、銃口を向けながら歩み寄ってくる。

キラは慌てて構え直すも、ク ルーゼは意にも返さず……口元を歪め…ねっとりとした口調で続ける。

「人の飽くなき欲望の果 て……進歩の名の下に狂気の夢を追った…愚か者達の話を………」

マスク越しにも感じるその異 様な気配……キラは額に汗を浮かべながら震える手で銃を構える。

仮面に隠れていない口元を 薄っすらと上げ、そして告げた。

「君達もまた、その息子なの だから………」

キラの心臓が大きく鼓動を鳴 らす………それは警鐘……眼の前の男が語ろうとしている真実に対する、本能が乱打する警鐘だった………

 

 

 

 

研究所の地下深くへと続く階 段を警戒した面持ちで進むレイナ、リン、カムイ………

「随分、深いですね……」

意外そうにカムイが呟く…先 程からもうかれこれ5分以上は降っているはずだが、一向に先が見えてこない。

ただ、階段が奥深くへと続く だけ……一寸先すら見えないその道は、果てない闇の回廊であった。

「案外、地獄の一丁目だった りしてね……」

自虐めいた笑みを浮かべなが らレイナは先を進む……だが、先程から内に抱える鼓動が速くなっているのが自分でも感じる。

脳裏を駆け抜ける鈍い痛みと ぼやけた光景……やはり、この先には何かがある。

自分に関する何かが………確 信めいたものを抱きながら歩みを進めていると、やがて微かに灯りが見え始めた。

「灯りだ……注意しろ」

レイナが階段の壁に身を預け ながらゆっくりと歩み降りていく……階段の下に拡がっていたのは、研究室のような空間………

用途が掴めない作業台や様々 な電子機器……そしてデータを逐一モニタリングするモニター画面………散乱する機材と医療具…………それらが微かに生きている非常灯の灯りに照らし出され ている。

ややその光景に呆然となって いたが、すぐさま周囲を見渡し、気配が感じないのを確認すると、首を振ってリンとカムイを促し、跳ぶように階段から降り、機材の陰に身を隠しながら周囲を 窺う。

上からでは部屋の全体がよく 見渡せなかったが……壁に預けられた棚には受精卵の標本らしきものと様々な異形のもの……いや、それは違った…………眼が大きく腫れ上がり、または身体の 一部が欠けるか、まるで変貌したような異形を形造っているのは……人間の…胎児であった………

(何、これは……遺伝子改変 時のミス? それとも………)

コーディネイター誕生時にお ける遺伝子改変のミスか、それとも母体による影響かは解からない……だが、そこに在ったのは紛れもなくかつては生命あったものの成れの果て……

レイナは嫌悪感を憶えなが ら…視線を逸らすと……驚愕に眼を見開いた。

施設の奥に見えるガラスの向 こう側には……カプセル内に遺棄された子供が何人も放置されていた。

「やはり、何度見ても趣味が 悪いな……」

リンがポツリと吐き捨て る……レイナもしばし、嫌悪感を胸に抱きながらそれを見詰めていたが、赤いレーザーのようなものが暗闇を照らしているのに気付いた瞬間、叫んだ。

「リン!」

「っ!?」

その声に反応し、身を捻った 瞬間……リンの直前を弾道らしきものが過ぎり、近くにあった機材に抉り込んだ。

「身を隠せ! サイレンサー ガンだ!!」

発砲時の音がまったくしな かったのとあの赤外線のような暗視線……サイレンサーつきの銃を持っている奴がいるのか。

周りの異様さに呑まれて遂油 断してしまった。

だが、これでは発砲時の音源 から発射場所を特定するのは困難だ……銃を握り締めながら、機材の隙間から発射されたと思しき奥の方を探ろうとするが、そこへ赤い線が突き付けられ、慌て て身を隠した。

刹那、弾道が隙間を通って後 方の機材と散乱していたフラスコ類を粉々に破壊する。

「ぐっ…!」

歯噛みしながら撃ち返す…… 銃声が轟き、機材の計器を割る音が響き渡る。

空になった弾倉を装填し、再 度トリガーを引く……リン、カムイも手持ちの銃で応戦するが、相手の位置がはっきりと掴めず、舌打ちする。

向こうはウォルフのフルオー トの機関銃にサイレンサーつきのガン……明らかに装備の差があり過ぎる。

「フフフ……どうだ、BA… 古巣へ…いや、自身が生を生み出された場所へ帰ってきた気分は?」

嘲笑うようなウォルフの 声……ここが、自分の生まれた場所………鼻を鳴らす。

「はっ…私みたいな奴にはお 似合いの故郷だな………私がその程度で動揺すると思うのかっ!」

皮肉った言葉を叫びながら身 を乗り出し、銃を連射する……周囲のものが割れる音が木霊する。

硝煙を上げる銃口を構えたま ま、周囲を威嚇する。

もう、この部屋にはいないの か………その時、部屋の奥から遠ざかる声が響いてきた。

「それでこそだな……ならば 来い…全ての始まりの場所へな………地獄はまだ続くんだぜ」

遠ざかっていく足音……レイ ナはやや表情を顰めてその先を見据える。

(まだ奥があるのか……)

どちらにしろ、進むしか選択 肢はない……残りの弾倉はあと3つ……弾を装填し、先へと進んでいく。

その後を追うリンとカム イ……レイナの背中を追いながら、リンは先程から思考を巡らせていた。

(あのウォルフという男…… この場所を知りすぎている…それに、奴と一緒にいた3人………一人は01のはずだが…あとの二人は………?)

この研究所を知り尽くしてい るウォルフのことも気にはなるが、それよりも引っ掛かるのは一緒に同行している3人……一人は知っている…だがあとの二人は………

(07と08……奴は確かに そう言った…だが、MCの完成体は4人しかいないはず……)

腑に落ちない……逡巡と混乱 した思考のまま、後を追っていると、隣の部屋へと続くドアが見えた。

レイナが右脇に身を隠し、反 対側にリンとカムイが身を隠す……レイナとリンが顔を見合わせて頷き合い、窺うように中を覗き込む。

隣の部屋らしきものも非常灯 のみで薄暗いが……先程の部屋に比べて幾分か小さい。

部屋の端に見えるのはデータ 収集用の端末にその前にはガラスと思しき割れたものが見える。

窺いながら意を決して中に足 を踏み入れる………足音だけが響く静寂の支配する場所……そのまま端末の前まで歩み寄ると、データを表示するモニター画面が割られ、コンソールも破損して いる。だが、それを見渡していたレイナの眼が一点に止まった。

「これ、は……」

震えるような口調で手にした のは……コンソールに飾られた写真立て……だが、驚いたのはその写真に映るものだ。

茶色の髪を揺らす女性が屈み 込み、二人の少女の肩に手を置いて笑顔を浮かべている。対し、二人の少女は無表情のまま……銀と蒼銀の髪を持ち、真紅の瞳を携えた双子……それが、自分と リンであることに気付くまで、時間は掛からなかった。

写真立てを無意識に裏返 す……

 

―――――C.E.62… ヴィア=ヒビキ・レイ=ヒビキ・ルイ=ヒビキ………

 

「ヴィア…ヒビ キ………っ!」

脳裏を駆け巡る激痛が激しく なる……額を押さえ、その場に手をつき、呼吸が乱れる。

「姉さん?」

「レイナさん、どうしたんで すか…!?」

尋常でない様子にカムイが歩 み寄るが、レイナは顔を押さえたまま、指の隙間から見える前面のガラスの向こうに見えるシリンダーのようなカプセルに眼を向ける。

脳裏にいくつもの光景が過ぎ る………

 

――――シリンダー内から見 える液体とそれを見上げる男……

――――怒りを露にする女 性………

――――自分の頭を撫でて、 微笑む女性………そして、自分にペンダントをかける………

 

 

―――――――私の……… 娘……………

 

女性の顔が微かに涙で滲み、 自分を抱き締める。

(子……誰……? 貴方 は……誰……?)

誰なのだ……自分と似た顔を 持って微笑む女性は………激痛と苦悶に呻いていたが、リンがハッと何かに気付いた瞬間、リンはレイナとカムイを突き飛ばした。

刹那、ガラスの向こう側から ガラスをさらに叩き割って銃弾が連射される。

突き飛ばされた拍子に飛んだ 写真立てが宙を舞い……銃弾に砕かれる。

息を呑むレイナ……機器の陰 に隠れた3人………リンは舌打ちして僅かに身を起こして撃ち返す。

「ッククク……思い出してき たか………BA………ここが、全ての始まりになった場所………お前がこの世に生を受けて造られた場所………」

ウォルフの言葉に反応し、顔 を上げる。

闇から聞こえる声は、なおも 続く……

「果てない高みへの挑 戦………狂気に取り付かれ、先へと望んだ羨望…………それがやがて、始まりになった………」

始まり……そう……始まり だったのだ…………自分は…ここで造られた……………

 

 

 

――――レイ=ヒビキ……い や……MCナンバー02…REIとして…………

 

 

 

 

今……闇への扉が開かれ た…………全ての運命を狂わせた…闇への扉が……………

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

今明かされる過去………

飽くなき欲望と嫉妬…人の闇 が生み出せし呪われた運命………

 

全ての始まりとなった場所 で、少女は過去と向き合う………

己が存在に架せられた業…… そして…哀しみ………

 

 

希望の裏に潜む絶望……今、 破滅への扉が開かれる………

 

次回、「暴かれた真実」

 

過去の闇…乗り越えろ、ガン ダム。


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