メンデルの大地で対峙する ディアッカ、ニコルとイザーク……銃を突きつけられながらもディアッカとニコルは臆せず向かい合い、口を開く。

「イザーク……俺達は今、脚 付きにいる」

「なっ!?」

ディアッカの言葉に驚愕し、 眼を見開くイザーク……因縁の艦として追っていた戦艦にいるという事実がイザークを困惑させる。

「僕らだけじゃありませ ん……ミゲルもラスティも………他にも多くの人が脚付き…いえ……今はネェルアークエンジェルと呼ばれる艦に身を寄せています」

続けて発せられたニコルの言 葉にさらに頭に衝撃を受ける……死んだと思っていた眼前の二人だけでなく、かつての戦友の名を出されたのだ。

「ミゲルも……生きているの か…っ?」

絞り出すように尋ねるイザー クにニコルが苦笑を浮かべて頷き返す。

「ええ……相変わらずです よ………僕も、そしてミゲルも…ある人に助けられました……そして…この戦争を外から見ました……」

静かに語り出すニコル……自 分を助け…そして………多くのナチュラルと接する機会を得た……恐らく、プラント育ちのニコルには初めての体験だっただろう。

ナチュラルにもいろいろな人 がいる……中には、この戦争で犠牲になり…自分のような力もなくただ終わりを待ち続ける人達………

そして見た…コーディネイ ター達の残虐性………人は皆…心の何処かに闇を抱えている。

そして…その闇が今最悪の拡 がり方をはじめていることを………

「俺さ、マーシャル諸島で脚 付きの捕虜になっちまったんだ……これまでなーんも深く考えなかったんだけどよ……考えちまった……見ちまったからな」

やや溜め息をつくような口調 で語り出すディアッカ……アークエンジェルの捕虜になり…そしてそこで出逢った少女………

愛する者を奪われ、そして自 分を殺そうと向かってきた少女に恐怖したこと……

「俺は今まで、ナチュラルは 俺らと違うって……そう思ってきた…」

MAや戦艦をいくら墜として もなんの感傷もなかった……ただゲーム感覚で競い合い、ただの的を落としていたような…言うなれば、虫を殺しているのと同じ感覚だった。

「けど……殺された奴を思っ て泣くあいつと………俺らと違わないって………」

直に憎しみを向けられ…初め てディアッカは恐怖と傷つくことを知った……

その言葉に、イザークは苦し そうに表情を歪める。イザークも薄々だがそれは感じていた……自分達は結局…ナチュラルと精神面では差などないことを……同じ赤い血を流すことを………だ が……

「それでっ……コーディネイ ターを殺すことにしたのか…お前達はっ?」

吐き捨てるような口調で喚く ように声を絞り出す。

「違います……僕らは…そう やって互いに殺し合うことを………ただ相手を滅ぼしつくすという道をやめただけです」

凛とした口調で告げるニコ ル……以前よりもさらに落ち着いた口調にイザークは息を呑む。

「エターナルにはラクス嬢や バルトフェルド隊長、メイア=ファーエデン…それにオーディーンのダイテツ艦長にクライン派の奴ら……それにアスランやリンも一緒だ」

ディアッカの口から出される 自分の知りうる者達の名……イザークは、やや逡巡し…そして躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「リーラは……リーラも…一 緒なのか………?」

半ば、間違いであってほしい と願うかのように辛そうに歪む表情にディアッカやニコルも表情を歪めるが……それでもイザークに対し、偽るわけにはいかなかった。

「ええ……一緒です…今 は……エターナルにいます」

その言葉に、さらに愕然とな り、悔しさと怒りに歯噛みしながら銃を握り締める。

「ラクス=クラインにバルト フェルド隊長、ダイテツ艦長…そしてアスランやリン…リーラまでもが………っ」

やや落ち着き始めた口調のイ ザークに、ディアッカやニコルが僅かに胸を撫で下ろす心境となるが、イザークが顔を振り、キッと睨みながら銃口を再度向け、語気を荒くした。

「何故だディアッカ、ニコ ル! 何故!?」

やはり、頑固で直情的な性格 が災いしてか……イザークには彼らの選んだ道が到底認められなかった。

答えることのできないディ アッカやニコルはしばし口を噤み…無言のまま対峙する。

「……イザークは…今のザフ トをどう思ってるんですか?」

唐突に口を開いたニコルに、 イザークは息を呑む。

「アラスカで…パナマで…… あのように、互いを滅ぼし合うことを望んでいるんですか?」

「ニコル…っ」

その問い掛けにイザークはす ぐに否定できなかった……イザークは別にナチュラル全てを滅ぼそうなどと考えていたわけではない。

だが……それ以外に戦争を終 わらせる手段が思いつかないのもまた事実だった。

「俺らはもう…そんな事でき ねえ……相手を…敵を滅ぼして得た未来に…俺らはもう価値を見出せなくなった……だから俺らは…ここに集まった連中は、それを防ごうとしている……」

無論、深淵の理由は違うだろ う……だが、イザークにはその意図がまったく解からない。

唖然と訊き返す。

「どうやって……戦争を止め るなど…どうやったらそんな事ができるっ!?」

イザークの憤慨ももっとも だった……ディアッカやニコルとて自分達がいかに甘い幻想に縋っているか……無謀だということは重々承知している。

「たった数隻の戦艦だけ で……いったい何ができる!?」

なおも言い募るイザークに、 二人は神妙な面持ちで口を開く。

「解かっています……でも、 望む未来が少しでも重なるのなら…僕らはそれに手を貸したい……たとえどんなに困難でも、誰かがその未来への道に足を踏み出さなければ……何も変わりませ ん………」

叶わない…無理だ……そう やって最初から放棄していては可能性などまったく無い…ならば、誰かがそれを踏み出さなければならない。

「何もできないって言って何 もしなかったら…もっと何もできない………」

ポツリと呟くディアッカの言 葉に、イザークは衝撃を受けたように眼を見開く。

「だから僕らは…覚悟をもっ てこの道を選びました……無論、この道が正しいという保証も自惚れもありません……あくまで、自分達自身で決めたからです……覚悟をもって道を進め……僕 らはそう言われました」

……覚悟……それがイザーク に酷く圧し掛かる………自分は自分の意志でこの場に…いや……ディアッカとニコルに銃口を向けているのか……それとも、クルーゼが言ったように、自分の意 志など関係なく誰かの思惑でここにいるのか……かつての仲間と敵対している今の状況も……逡巡し、歯噛みする。

「フリーダムとインフィニ ティのパイロット……いや…前のストライクとルシファーのパイロットだった奴が言った言葉さ」

「な、に……っ?」

その言葉に反応し、思わずガ バッと俯いていた顔を上げた。

イザークにとってその2機の 名は決して軽いものではない……幾度となく苦渋をなめさせられ、自身のプライドに傷をつけた機体……それのパイロットが……あの2機のパイロット………脳 裏に、アラスカ戦で遭遇したフリーダムとインフィニティの姿…そして、フリーダムから聞こえた少年の声が甦る。

あの少年が……今までずっと 戦ってきた因縁の相手だというのか……怒りと憎しみ、そして困惑がイザークの中に沸き上がり、思考が混乱する中、さらに衝撃的な言葉が告げられた。

「フリーダムのパイロッ ト……あいつもコーディネイターだ………」

「!!」

やるせないような苦い表情で 告げるディアッカにイザークが眼を見開く。

「……アスランと、ガキの頃 からの友達だって………」

アスランと…友達……思考が 混乱し、なにか言い知れぬ冷たい感覚がイザークを襲う。

「それだけじゃありませ ん……インフィニティのパイロット………その人は、リンさんのお姉さんだそうです………」

「っ……なん、だ と………っ?」

リンの……あのいけ好かない 女の姉が………ルシファーのパイロット………いつもぶっきらぼうに振る舞い、常に冷静だったあの女の……?

「……知らずに…殺し合って いたというのか………?」

震える口調で絞り出す声…… その疑念に答えるように、ディアッカとニコルは苦い表情で俯いたまま首を振る。

「いいや……あいつらは…最 初から気付いてたんだよ………お互いに………」

「そんなバカな!?」

「事実です……アスランはそ れに苦悩し、リンさんは理由は知りませんが、姉妹で殺し合うことを望みながらも…内心で葛藤を抱いていたんです」

その言葉に……ようやくイ ザークは今までの不可解なアスランやリンのあの異常なまでの狂気にも納得できた。

だが……友人で…姉妹で殺し 合っていたという事実にイザーク自身も言い知れぬ怒りを憶える。

「なんで……なんでそんな事 ができるんだ…っ!?」

思わず口に出して叫ぶイザー クだったが、二人の表情は変わらず……暗く俯いたまま……

「確かにそうだけどよ……だ けど、しょうがねえだろ! 敵なら撃たなきゃなんねえだろうがっ! 軍人なんだからよ!!」

言い捨てるように吐き出し、 ディアッカは苦い表情で顔を上げる。

その視線にイザークはハッと 気付き愕然となる……その命題は………今まさに自分達に突きつけられているのだから………

敵ならば……撃たなければな らない……それが軍人の役目であり、至極当然のことだ。

「俺らには奴らほどの業も覚 悟もねぇけどさ………見ちまったから…」

葛藤するイザークにディアッ カが脳裏に自分に襲い掛かったミリアリアの姿を浮かばせながら呟く。

「……あの人達を見て…覚悟 をもって生きるのを見て……そして…世界を見ました………それで、今さらザフトに戻って…ただ軍の命令どおりに戦うなんてことは……僕らにはもうできませ ん……」

ナチュラルとコーディネイ ターに完全な共存をしいることは難しい……それは痛感している。だが…互いを滅ぼし合うという道だけは選べない………

「ディアッカ…ニコ ル……っ!」

険しい表情と弱々しい声で銃 を向けるイザークに臆することなく、ディアッカとニコルは真っ直ぐにイザークの瞳を見据えた。

二人の静かな…それでいて以 前は感じさせなかった落ち着きと途方もない疎遠感を憶え、イザークは呆然となっていた。

最初はただの裏切りだと決め つけていた……アスランやリンと同じく……地球軍に与した裏切り者だと………だからこそ、その真意をただしたかった。だが…イザークは聞かなければよかっ たと…知らなければよかったと激しい自責と後悔の念に苛まれていた。

単に裏切っただけであるな ら…イザークはなんの躊躇いもなくこのトリガーを引けるだろう……だが………イザーク自身のそんな考えも及ばない険しい道を選んだ二人にイザークはかつて のような親近感を持てず…またそれに反論することも自身の今の立場を堅持することもできなかった。

自分に傷をつけたストライク のパイロットも……多くの同胞をその手で葬ってきたルシファーのパイロットもイザークには赦せない…だが、そのパイロット達と……かつての敵と共に戦う道 を選んだ仲間達……彼らも敵であるはずだ………だが、イザークにはその撃つべき銃のトリガーを引く手が汗ばみ、震える。

軍人である以上、イザークの 役目は自軍の敵となる者を排除すること……そんな当たり前の論理が今は重く圧し掛かる……そんな価値観を否定するかつての仲間達を前に、イザークの迷いは 混迷を深めるだけであった。

そんなイザークを、ディアッ カとニコルは言葉を発しないまま静かに見詰める……自分達の決意と意志は確かに伝えた。

だが…それをイザークに押し 付けはしない………自分達も悩み…そして迷いながらも出した答だ。ならば、それに対しどう判別するかはイザーク自身の問題。

彼がザフトに対し強い忠誠心 を持っているからこそ辛い葛藤ではあるが、それでも自分自身で答は出さねばならないのだから………

 

 

 

 

研究室の階下に降り、機材の 陰に身を潜めたキラとムウ……先程のクルーゼの言葉に呆然となっているキラを無理矢理引っ張り、動いたため傷がまた拡がり、鋭い傷みが全身を駆け巡り、苦 悶を漏らす。

薬品棚が置かれた機材の後ろ に身を潜めながらムウが窺うように顔を上げると、階段を降りてくる足音が響く。

「……僕は…僕の秘密を今明 かそう………僕は人の自然そのままに…ナチュラルに生まれた者ではない………」

芝居が掛かったような口調と 冷たく響く足音……そしてクルーゼが発した言葉はこの世界においてあまりにも有名で…そして混乱を齎した言葉だ………

階段を一歩ずつ降りるクルー ゼの眼が壁にかけられた写真楯に収まるファースト・コーディネイター:ジョージ=グレンに向かって嘲笑を浮かべる。

その嘲笑を含んだ声を聞きな がらムウは毒づきながら銃のカートリッジを交換する。

「くそっ、あの野郎……」

呼吸を荒くしながらムウは隣 で呆然と座り込んだままのキラに向き直り、肩を揺さぶる。

「おいっ、キラ!」

乱暴に揺さぶるもキラは呆け たように虚空を見詰めたまま……それほどまでにクルーゼが語った内容は衝撃だった。

歯噛みするムウの耳には、ク ルーゼの言葉がなおも響く。

「受精卵の段階で、人為的な 遺伝子操作を受けて生まれた者……人類最初のコーディネイター、ジョージ=グレン………」

階段を降り、歪んだ含み笑い をしながら証明のスイッチに手を伸ばし、獲物をいたぶるように、部屋のライトをひとつひとつ追い詰めるように点けていく。

「奴の齎した混乱はその後、 何処までその闇を広げたと思う? あれから人は、一体何を始めてしまったのか、知っているのかね?」

次々とフロア内に明かりが灯 り、研究室の中が眼に見えてくる。

医療具や様々な薬品……そし て実験台………そしてそれに続くようにクルーゼの言葉は続く。

「あらゆる容姿、才能……そ れら全てが金次第で自らのものとなる………いや…正確には自分の子供を自らの欲望を満たすための道具にする…かな……?」

ッククとくぐもった笑い声が 響く……ジョージ=グレンが公表した遺伝子操作………それらは瞬く間に世界を侵食していった。

人は常に上を…そしてより多 くを求める………他者よりも賢く、強く…それらは決して消えぬ人としてのあくなき性情………そこへ齎された遺伝子操作は神へと近づく所業に見えたのかもし れない………

自らが成し得なかったこと を……自分の遺伝子を受け継ぐ者………自らの子供にさらなる高みへのチケットを託した。

だが……それは完璧とは程遠 い技術であった。

母体の影響による欠陥、母体 と胎児との不適合、流産、早産……肝心の胎児が育つ母体が生身である以上、当然あるべきエラーが起こって然りだった。

だが……人のあくなき高みへ の望みはそれらの問題を決して見ようとしなかった。

「高い金を出して買った夢 だ……誰だって叶えたい。誰だって壊したくはなかろう………」

まるで誘惑にも聞こえるク ルーゼの声……生まれてくる自らの子を自身の思うままに遺伝子調整し、望む容姿を得られないまま誕生した子にその身勝手な期待を抱いた者達はそれらのエ ラーの解消を求めた。

そして……そのエラーを解消 すべく、ある方法に手を出した一人の男がいた。

胎児を育てる生身の母体こそ が最大の不確定要素……常に予想もできない変化をもたらす不安定なものと……その環境要因を最大の理由として捉え……それを克服するためにまったく逆の… 常に胎児に安定した環境を自ら与えてやればいい……そして実行に移された。

「だから挑むのか? それが 夢と望まれて叶えるために……っ」

クルーゼの声に感情がこも る……キラの脳裏にうろぼやけた光景が……まるでこの研究所に染み付いた両親の所業が駆け抜けるようだった………

その考えを実行した者の名 は…ユーレン=ヒビキ……キラの実父であり…そしてキラを生み出した者であった………

不安定な母体ではなく…常に 安定した環境を設定できる人工の擬似子宮……多くの遺伝子操作を施した胎児達を使い……数多の犠牲と失敗を繰り返しながら………その過程で誕生しながらも 失敗作として破棄された者も少なくはない。

だが……ユーレンが望む結果 は出なかった……そして…………

「人は何を手に入れたの だ!? その手に! その夢の果てに!」

ユーレンは遂に最後の試みに 出た……自身の妻の中にあった受精卵……自らの遺伝子を受け継ぐ者を最高のコーディネイターとしようと………自らの子を実験に用いることで失敗は許さない と自らを追い詰める要因も微かにあったかもしれない………妻の身に宿った双子の受精卵のうち、1つを彼女の身体内に残したのは、実験に反対する彼女へのせ めてもの思いやりだったのかもしれない。

そして……実験は成功し た………誕生したスーパーコーディネイターの第一号体……キラ=ヒビキ………

「知りたがり…欲しがり…… やがてそれが何のためだったかも忘れ……命を大事と言いながら弄び、殺し合う………!!」

荒々しく問うクルーゼにキラ は唇を噛みながら自問する。

父は何を望んで自分を生み出 したのか……コーディネイターを超えることが幸せに繋がると錯覚したのか……ただ能力的に優秀ならば………幸せなど簡単に手に入ると………

そのために……母の身体から ではなく、冷たい機械から生み出された命が………多くの屍の果てに生み出された命に価値があるのか………

「ほざくなっ!!」

ムウが叫び、撃ちながら機材 の陰から飛び出す。

そんなムウの姿を追うよう に、クルーゼから撃ち放たれた銃弾は棚に並んでいた薬瓶や実験機器、壁に備え付けられていたモニターを次々と破壊していく。

「何を知ったとて、何を手に したとて変わらない!」

冷静なクルーゼらしくない感 情剥き出しの表情で荒々しく顔から汗を飛ばしながら口元が歪む。

「最高だな、人は………!」

先へと望んだ結果……よりよ い未来が約束されたはずの夢………それが齎したのは混乱と対立……そして新たなる争いの火種………果てなき争いの連鎖を紡ぐもの………

「そして妬み、憎み、殺し合 うのさ………ならば存分に殺し合うがいい! それが望なら!!」

高らかに叫ぶクルーゼにキラ が俯き、顔が辛く歪む………

人の本質は変わらない……た とえどんなに優れた能力を持とうとも………人の本質は何一つ変わらない………自分の決意さえも…無駄なことではないのか………

戦争をとめるなど……自分の 甘い考えなど………所詮は自己満足でしかないのではないか……自分は何のために生み出されたのだ………絶望がキラの胸を覆い尽くす。

「何を! 貴様ごときが、偉 そうに!」

ムウも汗を浮かべ、苦い表情 ながらも振り払うようにトリガーを引く。

銃弾がクルーゼの髪を掠め る……だが、クルーゼは微動だにしない……代わりに忌々しげに舌打ちし、銃口を上に向けて発砲した。

銃弾は天井から吊り下げられ ていた巨大な照明機を支えていたケーブルを撃ち抜き、凄まじい轟音とともに照明機が落下し、周囲に破片と煙が舞い上がる。思わず身を庇うムウ……対し、ク ルーゼは銃の弾倉をその場に落としながら狂ったように笑い上げる。

「私にはあるのだよ! この 宇宙でただ一人……全ての人類を裁く権利がな!」

勝ち誇ったように叫ぶクルー ゼにハッと我に返ったキラが耳を傾ける。

「ふざけるな! この野 郎!!」

あまりに狂気じみた言葉にム ウが毒づくように叫ぶ。

ムウでなくても異常に思うだ ろう……人を裁く権利を自ら有するなどと自負するのは…だが、その言葉にさして言い返そうともせず、クルーゼは新しいマガジンを装填し、不意に漏らした言 葉にムウは反応した。

「覚えてないかな、ム ウ?……私と君は遠い過去…まだ戦場で出会う前、一度だけ会ったことがある……」

ムウは内に疑念を走らせ る……クルーゼの言葉の意図がまったく理解できない。

「何だと……?」

自分とクルーゼが出逢ったこ とがある……それも戦場で出逢う前………まったく身に覚えがないムウだった……だが…脳裏に幼い頃の情景が走る。

 

 

―――――幼い自分の前に立 つ自分と似た容姿の少年……

―――――父親の自分への悪 態………

―――――燃え盛る家………

―――――泣く自身と薄ら笑 う少年………

 

 

それらを見透かしたようにク ルーゼが自嘲めいた笑みを禍々しく浮かべ、声を漏らす。

「ククク……私は…己の死す ら、金で買えると思い上がった愚か者……貴様の父……アル=ダ=フラガの出来損ないのクローンなのだ からな!

「なっ……!?」

予想もしなかった言葉に…ム ウは絶句し、キラも愕然と二人を見比べた………

 

 

 

 

さらに奥へと逃れたレイナ 達……

(まだ……敵がいるの か………)

先程襲い掛かってきたローブ を纏った人物……ウォルフ達以外にもまだ何か別の相手がいるという状況に歯噛みする。

だが、それはリンも同じで あった……まったく自分の知りえている情報とはあまりにかけ離れた状況に戸惑いと困惑を隠せない。

3人が薄暗い回廊を抜け…… 一つの部屋へと飛び込む。そこに拡がる光景に眼を見開いた。

「な、何だ……ここは…?」

呆然と呟くレイナ……幾体も 並ぶカプセル………その中に浮かぶ影に眼を向けた瞬間、息を呑んだ。

カプセル内にはられた溶液の 中に浮かぶ影……それは人とはあまりにかけ離れた異質な身体を持つものが………膨張した肉体が裂けるように拡がり、動物のような鋭い牙や爪を携えた異質な もの……それがかろうじて人間の成れの果てと察せたのはその人間としての特徴を微かに留めているからだろう。

「これはいったい……人…な のか…これが……?」

外見からではとてもそう思え ない……これではまるで…化物ではないか………それが幾体もここに並べられている。

リンもカムイも唖然とした面 持ちでそのカプセルを見上げている。リンはカムイを見やるが、その意図を察したカムイは首を振る。

(私もこいつも知らない…何 だ、これは……戦闘時における能力解析?)

カプセル内に固定されている 化物の身体に取り付けられた幾本ものケーブルや端末……それらのデータが逐一カプセルの下に設置されたモニターに表示されている。

変異化した人間……ここは いったい、何を行っている場所なのか………冷たい汗が頬を流れる。

「……遥かな昔………神はこ の世界に生命を生み出した……」

唐突に響いた声にレイナ達は ハッと我に返って身構える。

「そして……神が最後に創り 出したのが………愚かな人間達…………」

足音とともに響いてくる少女 の声……刹那、薄暗かった研究ラボに照明が灯り、ラボ内が光に照らし出される。

カプセルが並び立つ回廊の奥 から姿を見せる人影……ローブを纏った人物とその横に立つ地球軍とザフトのパイロットスーツに身を纏った二人…イリューシアとテルス………

反射的にレイナとリンは銃を 構え、銃口を向ける……だが、相手は臆した様子も見せずに歩み寄り……数メートルの距離を開けて対峙する。

「……神は最後に失敗し た………人間という愚かな種を生み出した、というね………」

嘲笑を浮かべるローブの人 物……気を緩めないレイナ達の背後から別の声が響く。

「人間どもの高み…神へと続 く望は際限なく肥大化し続けた………そして…神の所業を真似て新たな人類…コーディネイターをこの世に生み出した………」

レイナ達が振り向くと、そこ には反対側の奥から歩み寄る人影……同じくローブを纏った人影にその脇には地球軍のパイロットスーツを纏ったウォルフとアディン……

挟まれた…と内心舌打ちして 両者を見やる。

「ファースト・コーディネイ ター……ジョージ=グレンが齎した新たな火種……それが新たなる業への始まり………ここに並ぶ連中…何だと思う?」

止まらぬ囁き……息を呑み、 緊迫した面持ちのまま、レイナ達は自分達の周囲に並ぶ夥しい数のカプセルを見渡す。

「失敗作さ……私達、MCナ ンバーを生み出すためのね………」

肩を竦め、見下すように横に 並ぶカプセルを見やる。

「フフフ…アハハハ! ナ チュラルからコーディネイターになっても人の高みへの愚かな羨望は止まらなかったっ…ナチュラルが神を真似てコーディネイターを創り出したように……次は コーディネイターが新しい種を生み出そうとしたのさ」

そう……コーディネイターに なろうとも人の本質は変わらなかった………いや…むしろ逆に優れた能力を持って生まれてきたためにその能力以上のものを求めた………

コーディネイターを超える種 を生み出す……流産、早産、死産………遺伝子操作が胎児に齎す影響は詳しくは解からなかった。

人は……自身の身体を形成す る全てを理解しているわけではない………人を形成する肉体、遺伝子情報……それらは一つの未知の宇宙であったのだ………遺伝子操作のエラーを克服する手段 を模索した者……そして……胎児そのものの遺伝子を活性化させ、より最高の潜在能力を持たせようとした男がいた。

「挑み……そして…成果が出 るために多くの人体実験を繰り返し、長い試行錯誤の果てに………自らの行いを神の所業と錯覚し………」

謳い上げるように囁くローブ の少女……ここに並ぶ失敗作はそのための代償………偉業を成すための尊い犠牲………そう謳い上げる少女にレイナが視線を鋭くする。

「貴様…っ!」

銃口を向けるレイナに少女が 鼻で笑う。

「なにがおかしい? こいつ らとて本望だろう……私達を生み出すための礎になったのだから………」

そう………数多くの人体実験 と失敗を経て……コーディネイターを超える存在を生み出す方法を考えついた男……名は…ウォーダン=アマデウス………

刹那、テルスやイリューシ ア、そしてアディンが銃を構えて発砲してきた。

開けた通路で遮るものもなく 向かってくる銃弾が床やカプセルを跳弾する。

「っ!」

舌打ちしてレイナ達は横に伸 びていた通路に飛び、転がりながら銃弾をかわすと同時に駆け出す。

カプセルのオブジェが並び立 つ回廊を抜け……ラボの奥の行き止まりと思しき機器が並び立つ場所へと辿り着いたレイナ達……

小さな区画に設けられた空間 には、機材やコード類が散乱し……その中心にはライトブルーの輝きを放つ不思議なカプセルが佇む。

天井からも伸びたパイプ類が カプセルに繋がれ……中心には、作業用のレーザーメスや針が備わったアームが中心に伸びている。

だが、今はそんな物に思案し ている余裕もなかった。

(行き止まり…ちっ!)

歯噛みする……追い詰められ えしまった……即座に機器の陰に身を隠そうとしたが…その時……天井に吊られたオブジェに気付いた。

「エヴィデンス……」

コーディネイターの象徴…… ジョージ=グレンが木星から持ち帰った未知の生命体の痕跡を示すもの……その模造品……それがまるでこのラボのシンボルとでもいうように吊られている。

「ジョージ=グレンが木星か ら持ち帰った全ての混乱の元凶……」

背後から響く声と足音に反応 し、機器に身を隠しながら銃を構える。

「だが……奴が持ち帰ったの はそれだけではなかった………あったのよ……別の…さらなる高みへのピースがね……」

揶揄するような口調で語る少 女にレイナは眉を顰める。

だが、銃声が轟き……機器や 周囲に散らばっていた道具や薬品瓶が撃ち抜かれ、周囲に散乱する。

思わず身を隠すが、素早く撃 ち返す。

「自らを神と驕り、そして失 敗を認めない! その果てに遂にその所業は完成した……っ」

だが……相手は銃弾をローブ の下から抜き取った鈍く光る刃を煌かせ、叩き落とす。

ウォーダンは幾体もの人体実 験を繰り返し……その果てに遂にコーディネイターを超える存在を生み出す方法を確立させた。

母体ではなく……試験官の中 で遺伝子操作を施した受精後間もない胎児の脳内細胞に向けて細胞を活性化させる特殊なパルスを使用し、人間の脳内に眠っている潜在能力を極限まで引き出そ うとした。

通常の人間の脳髄における能 力はその本来の20%も使われていない……それ以上の能力の行使は身体の限界を超え、身体の方が保たないからだ。だが、遺伝子操作によって強靭な肉体の素 体を既に形成されたコーディネイターに爆発的な潜在能力を極限まで開花させれば、動体視力、筋力、反射神経……それはもはやコーディネイターという枠組み を超えた存在となる……その能力を限界まで行使するために身体の細胞を媒体にして分子レベルで伝達神経系を再構成・強化するナノマシン:生体変換ナノマシ ンの投与……そして名付けられたプロジェクト名…………

 

 

―――――――CodeMC:Machine Children―――――――

 

 

「多くの失敗を経て……そし てようやく完成したのが私達………真紅の瞳を持ち…MCナンバーと呼ばれる子供達………」

口元を歪めながら笑う少 女……実験は全てがうまくいくわけではなかった………

パルスによる脳内細胞の活性 化の肥大による細胞崩壊……ナノマシンの不適合による肉体変異……誕生時における自我崩壊………

それらが全てここに並ぶ幾体 もの変異した者達………

「コーディネイターが望んだ さらなる高みへの産物……それが私達……だがっ、それが何を齎す? 私達は何のために生きればいい? ただ己の自己満足のためだけに……そしてその結果造 られた私達はっ!?」

先程の見透かしたような高慢 な物言いとは打って変わり、声が苦く、荒々しくなってくる。

造り出された存在……狂気の 夢の産物……呪われた忌み子………それらがレイナの脳裏を掠め………このラボ内に染み付いた歪んだ望みへの記憶が突き刺さる。

(そうだ……私は…ここ で………造られ…そして………っ!)

脳裏を掠める情景……ここで 自分は造られた………コーディネイターを凌駕する能力を持って……そして…全てに完璧であれと……機械になれと………

MCナンバー02…レ イ………ただそう名付けられただけの個体だった……拳を握り締め……表情が苦悶に歪む。

自分の出生に隠された秘 密……確かに言うとおりだ………どんなに力があろうとも…どんなに能力が高くても……それをどのようにして使い、どのように生きればいい………

全てに完璧であれ……なら… その能力を万能にしろと………全てにおいて万能…?

そんなものは幻想でしかな い……万能であることは………言い換えれば価値などないも当然だ………ただ孤独をしい…そして……その結果が齎すのは自身の破滅への道標………

だから自分は……破壊し か……戦いしかできない………自分を造り出したウォーダンの思惑がどんなものだったかは今となってはどうでもいい……

はっきりしているのは……自 分は生まれながらにして呪われた運命を定められているということだけ……命ある母からではなく………冷たい試験官とカプセルの中で造られた化物………だ が………

「私には……関係ないっ」

吐き捨てるように呟くと、 キッと顔を上げる……自分の出生がどのようなものであれ、覚悟はしていた……知ったからとて、今さら自分の生き方を変えることなどできない。

だから………

「私は……突き進むだけ…た とえこの身が呪われたものであろうと………その先に破滅が待っていようとも……私は戦い続けるだけ……っ」

断言するように叫ぶレイ ナ……リンやカムイはどこか唖然とした面持ちを浮かべていた。

相手側もやや呆気に取られた ようにしていたが……そこへ噛み殺すような笑みと拍手が響く。

「ッククク…ハハハッ! 最 高だ…最高だぜ、BA……やはりお前はこんな程度じゃ絶望も揺らぎもしないか」

どこか称賛するような物言い で揶揄するウォルフ……そう批評されても、レイナは憮然としたままだ。

レイナとて内心に動揺と戸惑 いを感じていないわけではない……だがそれでも…それを必死に抑え込むのは彼女の覚悟と意志だった。

「フッ……やはり、貴方は… いえ……初期MCナンバーは失敗作のようね………」

その言葉にレイナだけでなく 先程からやや気圧されていたリンやカムイもようやく腑に落ちない点にぶつかった。

その表情に気付いた少女が愉 悦を感じさせるような笑みを浮かべたように見える。

「初期ナンバー01、02、 03、04………つまりは貴方達……ウォーダン=アマデウスにとって、貴方達は失敗作だったのよ……人としての心を持った貴方達など……」

小馬鹿にするような見下す口 調……眉を顰めるレイナだが、リンやカムイは苦い表情を浮かべる。

「フィリア=ノクターン… ヴィア=ヒビキ………彼女らはウォーダン=アマデウスにとっては邪魔な存在でしかなかった……」

フィリアともう一人……ヴィ ア=ヒビキの名を出され、レイナの鼓動が激しくなる。

無意識に胸元を押さえる……

「ウォーダン=アマデウスは 初期ナンバーの状態に嫌悪した……そして…独自に新たなナンバーを造り出す方法に着手した……そして9年前………新たな4つのナンバーがこの世界に造り出 された」

「それが……お前達…かっ」

淡々とした口調で述べる少女 に向かってリンが硬い声で問うと、相手は肩を竦める。

「そう……それが私達…05 から08までのナンバーを持つ者達………」

自らの存在を鼓舞するように 佇む4人……

「改めて名乗ろう……俺はナ ンバー08…テルス………」

「私はナンバー07……アク イラ…以後、お見知りおきを………」

赤のザフトのパイロットスー ツに纏ったテルスが鼻を鳴らし、愉悦の笑みを浮かべ…イリューシア…いや……瞳が青から真紅に変わり…無表情で佇むアクイラ………

「そして……」

少女の隣に立つもう一人の ローブを纏った人物がローブに手を掛け…それを勢いよく剥ぎ取る。

アイスブルーに黒の色が混ざ りあった髪……そして真紅に輝く瞳………右眼に機械のセンサーらしきマシン・インターフェイスを取り付けた少年……

「自分はナンバー06…… ウェンド………」

口元に嫌な笑みを浮かべ…… くぐもった笑い声を漏らすウェンド………残った最後の少女がローブに手を掛け……それを放り投げるように剥ぎ取った。

宙を舞うローブ……その下か ら現われた黒に緑が濃く混ざった髪が靡く………その下にあった顔を視界に収めた瞬間……レイナ、リン、カムイが驚愕に眼を見開き、息を呑んだ………

首を振り…髪を靡かせながら こちらに向け、その閉じていた瞳を開く……真紅に輝く瞳とその顔は……レイナやリンと同じ顔であった………

「な、に……?」

レイナが冷静な彼女らしくな く唖然と呟く……リンも眼前の光景に二の句が告げないほど声を呑み込んでいる。

自分達と同じ顔を見ていれ ば……当然そうなるだろう………そんなレイナとリンに向かって少女が口元に歪んだ笑みを浮かべる。

「MCナンバー05………私 の名は………ルン…初めまして………レイ姉さん…ルイ姉さん……愚かな姉達………」

同じ顔でありながら……その 笑みは嘲笑と侮蔑を含んでいる。

「ル…ン……? っ!?  ま、まさか……お前もっ!?」

その名を反芻したリンが何か に気付き……思わず声を上げて身を乗り出しそうなぐらいの驚いた状態を見せる。その言葉の意味を感じ取ったルンは御名答とばかりに眼を薄く歪める。

「そう………私もお前と同じ よ……ルイ姉さん…いえ……ナンバー03……」

自嘲めいた笑みを浮かべるル ンにリンはやや後ずさる。その様子に怪訝そうになるレイナ……

「リン……?」

思わず振り返り声を掛ける が……リンはやや放心したまま…そこへルンの嘲笑が響く。

「ククク……アハハハハ! なに…まだ話してなかったの? まあ、ここの記憶を失っている時点でそうじゃない かとは思っていたけど……冷たいわね、03………アハハハ!

高らかに…そして、同じ顔で 侮蔑するような笑みを浮かべるルンにリンはどこか悔しげに…辛そうに表情を歪め、拳を震わせている。

「どういうこと……貴方とリ ン………そして私……いったい何があるっていうのっ!?」

鋭い口調と視線で銃口を再度 構え直して問い詰める……そのレイナの様子に声を押し殺し…だが、それでも肩を震わせたままのルン………

「フフ…いいわ……私が教え てあげる………でも…これは私にとっても嫌悪することだけど…それは貴方達にとっても同じ…いえ……それ以上かもしれないわね………」

歪んだ嘲笑を浮かべたま ま……ルンの口が動く………リンが無意識に止めようと声を出そうとする……だが、まるで水の中を動いているように息苦しく…また動きが鈍い………

「私とナンバー03……そこ にいるリン=システィと名乗る個体は………レイ姉さん…いえ……ナンバー02……レイナ=クズハ……貴方のオルタナティブ………この意味が解かる?」

揶揄するような問い掛け……

(オルタナティブ……?)

代わり……自分の……戸惑う レイナ。

だが、そんなレイナに向かっ てルンは冷然と答えた。

「私は……私達は……貴方の 遺伝子細胞から造り出された……貴方のクローンなのよ………」

禁忌への扉が開かれた……静 寂が周囲を支配する………レイナは囁かれた言葉に思考を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

(……クローン? リン が……私の……クローン……)

混乱と錯乱で思考がうまく纏 まらない……このルンと名乗った自分と同じ顔の少女の言葉を信じるなら……リンが…そしてこの少女が……自分のクローン………?

だが、その答にどこか納得で きる部分も確かにあった……双子以上に似通った顔………あの奇妙な感覚…………そして…リンが自分をあれだけ憎んだ訳も………

「信じられない? フフフ… 私としても不本意だけど……生憎と事実でね………」

見透かした口調でダメ押しを する……だが、その表情は苦々しげだ。

リンに真意を問うように振り 返るが…リンは苦悶を浮かべて表情を俯かせる……だが、それが肯定を意味していた。

レイナ本人でさえ未だに信じ られないのだ……単にこちらを惑わすだけならもう少し違った言い方がある。だが、リンの状態とルンのあの慇懃な物言いが逆に真実味を感じさせる。

やや愕然となっていたが、ル ンは意味ありげに笑みを浮かべる。

「残念だけど……まだ続きが あるのよ………02……レイ姉さん……いえ…オリジナル……」

揶揄するように囁き……その 真紅の瞳に暗い陰が宿る。

「ウォーダン=アマデウスは 確立した方法以上にさらに神の依り代と呼ぶに相応しい遺伝子を持つ者を求めた………」

そう……ウォーダンは満足し なかった………いくらコーディネイターを超える存在を造り出す技術を確立させたとはいえ、その身は脆弱な人のもの……もっと…より神に近い存在をこの手で 造り出す………その果てない先への試み…………

「そして……その依り代たる 存在を造り出すためのピースを………あの男はその手に収めていた………」

ルンの視線が天井に吊られる エヴィデンスへと向けられ……やがて、歪んだ笑みを浮かべてレイナを見やり、口を開いた………

「…MCナンバー02…… REI………貴方は……ナチュラルと……エヴィデンスと呼ばれる生命体の遺伝子を融合させて造り出された…ウォーダン=アマデウスの造り上げた最高のマシ ンチルドレンの一人………」

「っ!!?」

息が止まり…時が凍る……… レイナの視界が暗転する…………

持っていた銃が手から零れ落 ち……静寂の中に落下音と機器に当たり、叩きつける音が周囲に響き渡る。

彼女らを見渡すエヴィデンス のレプリカがそれを静かに見下ろす……まるで全てを超越した存在のごとく…………

闇への扉が開かれる……歯車 が回るように…………全ての運命を巻き込んで……………

 


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