中破したドミニオンとパ ワー、そして残存の地球軍艦艇はデブリの影に隠れつつメンデルの様子を窺っていた。

先の戦闘で損傷した艦の修理 と被弾したMSやMAの整備と補給が急ピッチで進められているが、艦隊の現状は芳しくない。

ナタルは無駄だと解かってい てもダメもとで無重力の中を傍若無人のように浮遊するアズラエルに向かって意見を発する。

「どうしても……お聞き入れ いただけませんか?」

「ん?」

やや硬い声で問うナタルにア ズラエルは気だるげに振り向く…その表情は心底鬱陶しげでナタルの神経を逆撫でるが、それでもナタルはそれを自制し、憮然としたまま言葉を続ける。

「現在の我が艦隊の損耗はお 解かりいただけるはずです……ここは援軍を要請して待つなり、一旦引き上げて陣容を立て直すなりして出直すところです。それを………」

既に先の戦闘で駆逐艦5隻、 戦艦3隻を失っている。ドミニオンやパワーを含めた残存の艦艇も損傷が小さいとは言えない。加えてこちらのMS隊の損耗も大きく、既に全体の半数近い数を 損失している。

こんな状態でまた戦闘を挑め ば、こちらの敗北はさらに濃厚になる。加えて問題はまだあるのだ。

諄々と説くナタルではあった が、アズラエルは呆れるような仕草で溜め息をつく。

「はぁ…しつこいねぇ、君 も……そんなことしてたらザフトにしてやられちゃうじゃないか」

反対側に布陣するザフトの存 在は既に捕捉はしている。

モニターにはデブリの陰に浮 かぶナスカ級が3隻映し出され…相手も沈黙を保っている。

出方を窺っているのか…それ ともこちらとアークエンジェルらが戦闘に突入し、両者の疲弊を待って漁夫の利を狙っているのか……今介入すれば三つ巴必須であり、万全ではない今の艦隊の 現状では、こちら側が最も生存確率が低いだろう。

しかし、ナタルのそんな危惧 もアズラエルには弱腰にしか取られず、苛立ちを憶える。アズラエルが望む結果は彼の都合のいい…それこそ自己本位の願望だ。眼の前に自分の欲しいものがあ る……手を出せばすぐに手に入るのに何故待たなければならないのか…ジッとしていれば誰かに取られるから自分が先に得る………我慢を知らない子供と同じ理 屈だ…いや……自分の欲望に素直すぎるのだ……ナタルは内心毒づく。

客観的にどう考えても勝てる 要素が見えない……アークエンジェルの性能は自分の知っていた頃に比べてかなり強化されている。加えてデータ不足の艦が3隻……先の戦闘ではたった3隻に 5倍の兵力で挑んだのにこちらの損耗が大きい。おまけにナタルを苛立たせているのはアズラエルのご自慢のMSのパイロット達だ……連携もなにも取らずただ 我武者羅に相手を襲い、しかも互いに同士討ちをしかねないような危ない戦法を取る。おまけにそのパイロット達の内3名が命令を無視してメンデルに侵入…… それからまったく連絡すらない。

いかに数の差があろうとも互 いに足並みを乱していては部隊などすぐに敗北する……だからこそ確固たる指揮系統の下で動かなければならないというのにこの部隊を好き勝手にしているのは この傍若無人なオブザーバー……ナタルは軍上層部に軽い嫌悪感を憶えずにはいられない。

「ナスカ級に動きは?」

ザフトがなにかしらアクショ ンをしてくれればそれなりに別の対処手段もある…だが、オペレーターは首を振る。

「これでは先に動いた方が不 利です……残念ですが、成功をお約束できかねますが………」

膠着状態が続く以上、その均 衡を最初に破れば不利なのは明らかだ。

だが、ナタルに向かってアズ ラエルは得意げな笑みを浮かべて小馬鹿にするように呟く。

「無理を無理と言うことくら い、誰にもできますよ……まあ、確かにビジネス界では後にせんじた方が確実なのは鉄則以前に道理です……ですが、敢えて一番手に動いた方がより大きな成功 を得る……それをやり遂げるのが優秀な人物……これ、ビジネス界じゃ常識なんですけどね」

揶揄するような口調で自分が その大きな成功をおさめた優秀な人物であると仄めかし、さらに自身の属する世界がなによりも優秀な世界だと誇示しているように聞こえてナタルは思わずムッ として言い返す。

「ここは戦場です…失敗は死 を意味します!」

やや硬い声と冷たい声色を混 ぜたが、アズラエルには遠吠えのように聞こえ、眼元を薄く歪める。

「ビジネス界だって同じです よ……失敗は身の破滅…すなわち死ですよ………貴方って、もしかして確実に勝てる戦しかしないタイプ?」

慇懃な物言いで囁いた一言 は、ナタルの胸を鋭く衝き刺す。アズラエルの要望は無茶でもその中には確かに正論があるからこそ、ナタルには強く言い返せない。

その様子に満足したのか、ア ズラエルは鼻を鳴らして視線を再び前へと向ける。

「それもいいですけどね…… ジッとしていてもここで退いてもそれは負け犬です……だったら、少しぐらい無茶でも頑張って流れを変えるぐらいしないと、勝者にはなれませんよ」

アズラエルのように野心ある 人間は、武勲と名誉が欲しい…それは自分にこそ相応しいと錯覚するからだ。ここで諦めれば、それは彼のプライドに大きな傷をつけるのと同じこと……アズラ エルはこうやって言葉巧みに周囲を誘導し、また煙いて自分の意見を押し通してきた。なまじそこに能力が加わるから厄介なのだ。

「メンデルに入った連中にし てもじきに動くよ……その時にこっちが傍観してちゃ話にならいでしょ? 虎穴に入らずんば虎子を得ず…ってね」

議論は終わりとばかりにアズ ラエルは言葉を切り、再びシートに腰掛ける。危険な賭けと言うことは重々承知している……だが、アズラエルの意見は正鵠を得たものであり、自身の意見が実 現不可能だと認めざるを得なくなり……ナタルは苦い顔で号令する。

「全艦に通達……第1戦闘配 備発令! ドミニオン、発進する…MS隊、発進せよ!!」

それは苦渋に満ちた声色だっ た。不利が明らかと解かっている戦闘に出なければならないこと以上にそう命令しなければならない自分が………

ドミニオンが先陣を切り、そ れに続くようにパワー…地球軍艦艇が続く。

ドミニオンのカタパルトが開 き、そこに新たなグリフェプタンを投与されたオルガ達が乗り込むMS3機が既に待機している。

「X131APU分離確 認……カラミティ、発進よし!」

管制官の指示に従い、カラミ ティがケーブルをパージして発進する。それに続いてフォビドゥン、レイダーも発進していく。

 

 

オーディーンとの戦闘で受け た損傷の修理を行うパワーの整備士一同……

「修理の状況は?」

ブリッジにてネオがイアンに 問い掛ける。

「損傷箇所の7割近くが終 わっておりますが……先程の損傷でゴッドフリート1番と3番が使用不可です」

苦い口調で損害報告を告げ る。オーディーンの主砲の一撃で右側面の装甲に大きなビームの焦げ目が残されている。もしラミネート装甲でなければ掠めた瞬間に艦本体にも大きな損害が出 てだろう。加えてゴッドフリートの片門がビームの熱量でコードを焼き切られ、発射が不可能になった。修理を終えるのにはまだ時間が掛かる。

「ふむ……確かに状況は芳し くないな」

ネオも顎をなぞりながら愚痴 をこぼす。

MS隊の損耗も大きい……手 持ちのブリッツダガー3機に105ダガー弐型2機が先程の戦闘で撃破され、ネオのストライクファントムもヴァリアブルとの戦闘でガンバレルパック破壊と機 体にダメージを受けた。

「パイロットの状況は?」

「スティングとアウルがやや 興奮気味だな…ま、初実戦だ。無理ないといやあ無理がない……だがステラは冷静だな…調子がいいのかおかしいのかは解からんが……」

帰還した3人のうち、スティ ングとアウルはやや疲れを滲ませながらも興奮気味だ……戦闘によって戦意向上するように暗示をかけてあるとはいえ、これまで経験した模擬戦よりも遥かに強 い興奮とストレスを齎したはずだ。だが、それは許容範囲内の状態……問題はステラ……オーブ戦を終えてからというもの、やや精神的に不安定な部分がある。 混乱したと思えば冷静になる……研究員の見立てでは単に戦闘によるブロックワードの暗示の副作用ではないかとなっているが……言葉を濁すネオにイアンは軽 く息をつく。

「精神的に不安定なパイロッ トなど、やはり役に立つとは思えません……いくらジブリール氏の要請とはいえ、このまま使うとなると…不安が拭えきれかねますが………」

毒づくイアンにネオは苦笑を 浮かべる。

「そう言うなって……今回の はあくまでデータを取るだけだ。成果を出すわけじゃない…奴らがここで墜とされるようなら、それだけのことだ」

今しがたまでの軽薄な調子で はなく、口調と仮面の奥の眼光に冷徹なものを感じさせるネオ……その様子にイアンはやや気圧される。

「ドミニオンから通信です!  全艦発進スタンバイ! 再攻撃に出るとのことです!」

そこへCICからの報告が飛 び、ネオとイアンは顔を見合わせてやや驚愕する。

「この状況で再攻撃とは…… 少しばかり無謀と思えますが………」

全体の戦力は最初の半分以 下……そのうえにザフトまでこの場に来ている以上、迂闊に動くのは流石に無謀としか思えなかった。

「やれやれ……アズラエルの 坊ちゃんがまた我侭を言ったかな………」

呆れたように肩を竦める…… 静止していたドミニオンや他の艦艇が発進に移行している。

「だがまあ、命令なら仕方な い……3人を起こしてMSへ搭乗させろ。トライ・スレイヤーの連中もだ」

ネオが矢継ぎのように指示を 飛ばす。残念ながらストライクファントムは先程の戦闘での被弾の修理が完了していない。

パワーもまたエンジンを噴か し、先行していくドミニオンらに追い縋っていく。

「生き残れますかな?」

勝てるではなく生き残れる か……既にイアンの中ではこの戦闘に対する結果は出ていた。

「さあな……白旗でもあげ りゃ、案外見逃してくれるかな?」

それに対し、ネオははぐらか すように笑みを浮かべた。

 

 

 

戻らぬ仲間達の安否を気遣い ながらも敵の動きに神経を尖らせている面々……地球軍だけでなくザフトまで姿を見せたというのは予想以上に分が悪い。こちらは両方から狙われるが、向こう はどちらかが動いてから漁夫の利を狙う戦法も取れる。疲弊している隙を衝かれれば、さらに状況は悪化する。

緊迫感の漂う膠着の時間は唐 突に終わりを告げた。

メンデルに近づく熱源を捉え た……警報が各ブリッジに鳴り響く。

「地球軍、来ます! 距離 50、グリーンブラボー!!」

クルー達の間に緊張が走 る……先に動き出したのは地球軍……確認された熱源から増援はないようだが、こちらも主力機を何機か欠き、しかも後方にはザフトが控えているのだ。

「総員、第1戦闘配備!!」

マリューの怒号に近い指示が 木霊する。

「先行接近する熱源3! あ の3機です!!」

サイが声を上げる……艦に先 行して向かってきたのは例の次世代型GATシリーズの3機…その後方にはストライクダガー隊が控えている。

港内ではすぐさま4隻の発進 が進められる……今回はエターナルも調整を終えて出撃できる。そして先行するようにMSが発進していく。

エターナルからジャスティ ス、スペリオル、ヴァリアブルが……クサナギからM1部隊が……ネェルアークエンジェルからもインフィニート、イージスディープ、ゲイツ改とジンやシ グー、ゲイツアサルトが発進していく。

忙しなく動き回る格納庫でシ ンがトウベエに向かって憤っていた。

「何で!? どうして俺は出 られないんですか!?」

「お前さんの機体はまだ修理 が終わっていない! 右腕だって無い状態なんだ! そんな状態で出て行っても足手纏いになるだけだ!」

先の戦闘で被弾したシンのダ ガーは思いのほか損傷が大きく、先に損傷の少ないMSから作業を行っていたため、ダガーは右腕が欠損したまま……シンも状態の悪いのは理解しているが、そ れでも何もできないという状況に歯痒くなっている。

「でも、砲台ぐらいになるな ら……っ!」

「ダメだ! 出撃は許可でき ん!!」

なおも言い募ろうとしたシン を一喝し、トウベエは息を呑んで呆然となるシンの頭を叩く。

「お前さんの気持ちも解から んでもないがな……もうちっと仲間を信じてみろ」

そう囁くと、トウベエは作業 を再開するために無重力内を移動する。

残されたシンはその場に浮遊 したまま……悔しさと無力さに歯噛みし、拳を震わせた。

 

メンデルから飛び出すジャス ティス、スペリオル、ヴァリアブルの3機……先行する地球軍側の3機はM1やジンでは抗しきれない。

「二人とも、あの3機は私ら で抑える…いいなっ!」

「「了解!!」」

メイアの問い掛けに頷き、 ヴァリアブルがレーヴァティンを抜き、ジャスティスとスペリオルがビームライフルを構える。

そしてメンデルより発進して くるネェルアークエンジェル、クサナギ、エターナル、オーディーン……周囲にはMS隊が布陣する。

ザフトの動きに気を配りなが ら……MS同士の交錯から戦闘は再開された。

 

 

 

 

クルーゼの口から発せられた 驚愕の言葉……ムウは混乱の極みにあった。

以前から確かに異常なほど相 手の存在を感じ取れるとは不審に感じていたが……だが……もしクルーゼの言葉が真実なら………

ムウの父親の遺伝子をコピー されて生まれた者……同一の遺伝子を持つ存在………まさしく分身たる存在………

「お…親父のクローンだ と!? そんなお伽話、誰が信じるか!」

まるで防衛本能のようにムウ は激しい口調で否定するが、その声には困惑と戸惑い…そして迷いが滲み出ている。

それに対し、クルーゼは自嘲 めいた笑みを浮かべたまま皮肉るように返す。

「私も信じたくはないが な……だが残念なことに事実でね」

遺伝子操作が行われる以前か ら既に理論としては確立していたクローニング問題ではあるが、それは道徳的観念から人の領域を侵すとして違法として禁忌されてきた。

だが……それでも人は裏でそ の方法を常に追求し続けた。

そして……ムウの父であった アル=ダ=フラガは研究資金と引き換えに優秀な跡取りを望んでユーレン=ヒビキにクローニングを依頼した。

その結果誕生したのが……ラ ウ=ラ=フラガ………そして…今現在、ラウ=ル=クルーゼと名乗る人物であった。

銃にマガジンを装填し、狂気 に歪んだ表情のままクルーゼはムウに歩み寄る。

「間もなく最後の扉が開 く……私が開くっ!」

身に纏う狂気と果てない憎 悪……身勝手に生み出されたことに対しての怒りを糧に叫ぶ。

「そしてこの世界は終わる… この果てしなき欲望の世界は………」

ゆっくりと…そして確実にム ウに近づいていく………自分を生み出した身勝手な男の息子をまずは血祭りにあげる……それがクルーゼの最初の一歩………世界の破滅への………

クルーゼが歩み寄る様を機器 に隠れながら窺っていたキラは慌てて周囲を見渡す。

キラの様子に気付かないま ま、クルーゼは荒々しい口調のまま吐き捨てた。

「そこで足掻く思い上がった 者達……全ては………神の望むままになっ!」

――――神…そう形容したク ルーゼに一抹の不審感をムウが憶えたのも束の間………

「ムウさんっ!」

響くキラの声……それでク ルーゼもようやくキラの存在を思い出したようにハッとした。

「そんなこと……っ!」

キラは駆け出し、傍に落ちて いた金属片を掴み上げ、クルーゼに向かって腕を振り被ろうとする。クルーゼも弾かれたようにキラに銃口を向けて発砲するが、キラの瞬発力を追いきれない。

「キラっ!」

ムウも弾かれるように陰から 身を乗り出し、クルーゼに向かって発砲する。

「させるもんか!…… がぁっ!」

それぞれの動作がスローモー ションのように流れる……クルーゼの撃った銃弾は、キラのパイロットスーツを掠めて飛び、キラが傷みに呻く。ムウの放った銃弾はクルーゼの右腕を掠め、ク ルーゼは態勢を崩す。そこへキラの投げつけた金属片はクルーゼの素顔を隠す銀色のマスクに当たり、それを弾き飛ばした。

マスクが外れ、金色の髪を靡 かせながらクルーゼはよろめく……バランスを保った瞬間、マスクの下に隠れていた素顔が晒され、その顔を見た瞬間……キラとムウは、息を呑んで凍りつき、 その場で呆然となった。

ムウの父親の跡継ぎ……確か にそう言い、そして生み出されたのなら………彼の立ち振る舞いから、ムウとさして年齢は変わらないはずの男の顔には、老人のように幾重にも深い皺を刻み、 衰えている……だが、その蒼く輝く瞳だけは憎悪を爛々と燃やし、その口元には自虐的な嘲笑を浮かべていた。

その表情が、彼の全てを表わ していた……

「……はっ! 貴様らだけで 何ができる! もう誰にも止められはしないさ! この宇宙を覆う憎しみの渦はな!」

勝ち誇った嘲笑を浮かべてそ う言い捨てると、クルーゼはそのまま踵を返し、走り去っていく。

「待て…ぐっ………!」

後を追おうとしたムウは、柱 の陰から出ようとしてよろめき、その場に蹲る……度重なる傷と出血で既に体力を失い、顔色も蒼白であった。

「忘れるなっ! 全ては滅び る運命にある……神がそう望んでいるのだからなぁ……フフフ……フハハハハハハッ!!!

去っていくクルーゼの哄笑が 闇に響く……まるで、この打ち棄てられた研究所に潜む悪霊のごとく………キラは呆然と、その冷笑を聞きながら足元を震わせていた。

暫しその場に佇んでいたキラ は、重い足取りで蹲り、呻き声を漏らすムウに歩み寄る。

「行きましょう……立てます か?」

キラが気遣うように尋ねる と、ムウは苦い表情を浮かべて頷いた。

「ああ……」

ムウに手を貸して立ち上がら せると、二人はそのまま重い足取りで施設を後にした。

少しでも…この場から離れた いという衝動にかられて…………

 

 

 

 

メンデルの外では既に激しい 戦闘が繰り広げられていた。

先行するカラミティ、フォビ ドゥン、レイダーの3機が真っ直ぐ向かってくるジャスティス、スペリオル、ヴァリアブルの機影に気付いた。

「あいつだ」

ジャスティスの機影を視界に 入れた瞬間、シャニが愉しげにほくそ笑む。

「おいおい、あとの連中はど うした?」

フリーダムやインフィニティ の機影が見つからないのが不満なのか、オルガが愚痴る。

「どうでもいいよ……ちゃ ちゃっとやっちゃおうぜ…今度はさ」

クロトがぼやき、レイダーが 変形して先行する。

「そらぁぁぁぁっ! 抹 殺!!!」

叫び上げながらレイダーが ミョルニルを発射する。

アスラン達は歯噛みし、三方 に分散して回避する……ジャスティス、スペリオルがビームライフルでレイダーを狙撃する。

だが、そこへフォビドゥンが 割り込み、リフターでビームを偏屈させる。

フォビドゥンはそのままジャ スティスに向かって突進する……ジャスティスの放つビームを全て偏屈させながらニーズヘグを振るう。

「ちぃっ!」

アスランは舌打ちしてシール ドでニーズヘグを受け止め、至近距離からフォルティスビーム砲を放つが、フォビドゥンはそのまま受け止められている鎌を支柱にして回転してかわす。そこへ カラミティがシュラークを連射してきた。

フォビドゥンも巻き込むかの ような砲撃が二機を引き離す。

「こいつ……っ!」

メイアも相手の異常にやや唖 然となったが、すぐさま気を引き締めてシュラークの砲撃を掻い潜り、カラミティに接近する。

「ちぃ、なんだこいつ!?」

懐に飛び込むと同時にレー ヴァティンを振り上げ、薙ぐ……未確認の機体の登場にオルガは疑問を浮かべるもそんな思考はすぐに消え、カラミティはバーニアを噴かして機体を後退させ る。

だが、ヴァリアブルは一撃目 がかわされたと同時にもう片方のレーヴァティンを振り被る。

振り下ろされた一撃がカラミ ティの胸部を掠め、スキュラの発射口が抉られる。

小規模な爆発がカラミティを 弾き飛ばす。

「ぐぉぉっ! この野 郎……っ!」

「へん、お前は動きがトロす ぎんだよ!」

苦く歪むオルガに向かってク ロトが馬鹿にするように嘲笑を浮かべ、弾かれたカラミティの背後からMA形態で真っ直ぐにヴァリアブルに向かう。

「こいつは僕が墜とさせても らうよ! 瞬殺!!」

機関砲を放ちながらクローを 展開して突進するレイダーが、ヴァリアブルに体当たりを喰らわせる。

弾かれる衝撃にコックピット で歯噛みするメイア……弾き飛ばしたレイダーはそのまま飛行する。

「ああ、しぶとい…今度…… うわっ!」

注意が疎かになっていたレイ ダーに衝撃が襲う……真っ直ぐにこちらへと向かってくる戦闘機形態のスペリオル。

そのまま加速し、MS形態に 変形してビームドライバーを放つ。

ビームの奔流がレイダーの翼 を掠め、被弾する。

一進一退の攻防を繰り広げる MS……仲間達が戻るまで、決してここで敗れるわけにはいかない……その思いでアスラン達は機体を駆る。

その他のMSも互いに戦闘を 開始する……M1、ジン、シグー、ゲイツアサルトの混成部隊を引き連れてM2が迫る。

「来たか…エド……っ!」

やや苦い表情で眼前を睨む。

逆方向からストライクダガー 隊が迫り、その先頭にはソードカラミティとエールダガーの姿がある。

ガンナーM1、D型兵装のジ ンが砲撃を開始する……火線が迫り、ソードカラミティ、エールダガーや他の機体も回避するも、一部の機体が回避しきれずに被弾し、宇宙に閃光の華を咲か す。

「各機分散! 3機編成で攻 撃に当たれ!!」

ガンナーM1を中心にノーマ ルのM1、ジンやシグーなどが固めて小隊編成で攻撃する。

砲撃で陣形の崩れたストライ クダガーをM1やジンが撃ち落としていく。

その中でグランのM2が単独 行動を取り、ソードカラミティに向かう。相手もそれを感じ取ったのか、シュベルトゲーベルを抜き取り、単機で突進してくる。

M2もまたキリサメを抜き、 加速する……中央で互いの剣が激突し、火花が散る。

モーガンの駆るエールダガー もミゲルのゲイツ改と戦闘に突入する。

エールダガーがロングビーム ライフルを構えて狙撃する……それをひらりと回避し、螺旋を描くようにゲイツ改が迫り、ビームライフルを撃つ。

シールドで防ぎながら、エー ルダガーはロングライフルを腰部に固定し、ビームサーベルを抜いて振り被る。ゲイツ改もシールドのビームクローを薙ぐ。

ビームが交錯し、エネルギー がスパークする……月下の狂犬と黄昏の魔弾……互いに二つ名を持つエースの戦いは熾烈を極める。

3機編成でストライクダガー 隊を圧倒していた混成軍だが、そこへビームが飛来し、M1とジンが撃ち抜かれ、爆散する。

パワーから発進したトライ・ スレイヤーのストライククラッシャーと3機のイージスコマンドだ。その機影に気付いたバリーがストライクダガー一機のボディを殴りつけて破壊すると同時に 加速する。

同じく3機で行動していたア サギ達も迎撃に出る。

3機のイージスコマンドが戦 艦に向かおうとするが、それを阻むようにインフィニート、イージスディープが立ち塞がる。

アルフが両手のガトリング砲 を構え、3機を狙撃する……3機は分散して回避する。

「ちぃ! この野郎!!」

前回と同じく立ち塞がるイン フィニートとイージスディープに屈辱を思い出し、苛立ったアウルが突撃する。

「アウル! ったく、あの野 郎……ステラ、こいつらは俺達が抑える! お前は戦艦を叩け!!」

スティングが毒づき、ステラ に指示を出す。

「解かった……」

淡々と呟き、ステラはイージ スコマンドを加速させて戦場を迂回する……その行動に気付いたアルフが舌打ちする。

「母艦を叩く気か……っ」

「させないっしょ…っ たぁっ!」

ラスティが追おうとするも、 アウルのイージスコマンドがイージスディープに迫る。

「さぁ、今度は墜ちちゃって くれよなぁっ!」

狂気じみた笑みを浮かべ、ア ウルはビームライフルを連射する……ラスティは歯噛みしてビームをかわし、撃ち返す。

スティングもまたリフターを 前面に押し出してビームの弾丸を弾きながらインフィニートを高機動形態で翻弄するように狙撃する。ビームをかわしながら、アルフは撃ち落とそうとミサイル を放つ。

無数のミサイルがイージスコ マンドを追尾するも、スティングは機体を変形させてスキュラを放ち、ミサイルを撃ち落とす。

 

 

MSが戦場を交錯する中、戦 艦も互いに射程範囲に入り、互いに砲撃を開始した。

先攻を取ったのは地球軍 側……ドミニオン、地球軍艦艇からビームの光状が放たれる。

ネェルアークエンジェルはス ラスターを噴かし、ビームをかわす……だが、そこへミサイルが弧を描きながら迫る。

「ミサイル5、グリーン α!」

サイの報告に素早くマリュー とキョウが叫ぶ。

「取り舵10!」

「イーゲルシュテルン3番か ら9番で迎撃!!」

ノイマンとモラシムが舵を切 り、戦艦を傾けてイーゲルシュテルンの絶好のボジションで発砲し、ミサイルを撃ち落とす。

「ゴッドフリート! 撃 てぇぇ!!」

ネェルアークエンジェルから ビームが放たれ、真っ直ぐにドミニオンに向かう。

ドミニオンはスラスターを全 開にして艦首を下げ、ビームが艦上方を掠める……だが、それは後方に控えていた戦艦と駆逐艦の装甲を蒸発させ、2隻が撃沈する。

爆発の余波がドミニオンの船 体を揺さぶる。歯噛みするナタル……やはり、分は明らかにこちらが悪い。ここで退くことをこの男はよしとしないだろうが……イザとなればそれを無視してで も戦線を放棄するつもりであった。

いくら命令とはいえ、部下の 命を捨て駒のように扱うことはナタルにはできない。

そう静かに決意を固めるナタ ルだったが、ドミニオンと隣接していた駆逐艦が急接近したクサナギの艦橋に構えるアーマードM1隊のミサイルの応酬を受け、轟沈される。

 

 

 

 

不意に轟音が響き、メンデル の地表を大きく揺らす。その震動に向かい合ったまま対峙していた3人は思わずよろめく。

「ディアッカ…」

ニコルがディアッカを見やる と、その意図を察して頷き返す。地球軍側の攻撃が再開されたのだ。思っていた以上に再開が早い……苦い表情のまま、話し合う時間が終わりを告げたことも二 人は悟った。

その時、イザークの腕の通信 機から雑音混じりのクルーゼの声が流れた。

《イザーク…聞こえるか?  退くぞ……》

短く告げて切られたクルーゼ の言葉にイザークが返答する前に切られ、イザークがやや呆然としてしまう。

そのタイミングで踵を返し、 各々の機体に向かって歩き出したディアッカとニコルの背中にイザークは我に返って銃を向けた。

「ディアッカッ! ニコ ルッ!!」

イザークらしくない、懇願す るような苦悶の声……辛いのだろう………だが、もはやそれに応えることはできない。

ディアッカとニコルは足を止 め、肩越しに振り返りながら硬い声で告げる。

「ザフトじゃなきゃ敵だって いうんなら、撃てよ」

「……それぐらいの覚悟はあ ります」

無防備に背中を向ける二人… だが、イザークにはその引き金をひくことができない……いや、できるはずがない。

かつての友を…仲間を……た とえ、それが軍人としての責務だとしても………イザークは苦しげに喚く。

「騙されてるんだ、お前ら はッ!!」

そんな使い古された言葉しか 叫べない自分が、イザークにはもどかしかった。

だが、そうとしか思えな い……彼らがやろうとしているのは甘い戯言だ………たった数隻の戦艦とMSでどちらの陣営にも属さず戦うなど……馬鹿げてるとしてか言いようがない。

しかし、その困難で愚かな道 を選択したのはかつての戦友達……そして…自身の大切な者………その事実が、イザーク自身の信じるものを信じられなくしている……まるで…正しいのは彼ら で、間違っているのは自分であるように………

無論、イザークにしてもナ チュラルを全滅させてまで勝利することが正しいとは思わない。だが、それは自分の属する組織の者達も同じはずだと……そこまで愚かな選択をする必要などな いではないか、と……自らが属する組織への信義を信じて………

だが、それに対する二人の反 応は冷ややかだった。

「俺らが騙されてるって言っ たな……イザーク」

ビクっとイザークの肩が震え た。

「騙されてる…とまでは言い ませんが……全ての人が同じとは限らないんですよ………僕らは自分で信じたから……ここにいます」

そう……全ての人が同じ考え を持つなど………絶対にあり得ない………皆、深淵はそれぞれ違うのだから………

「……わかんねえけど、俺ら は行く………」

完全に背を向け、ディアッカ がラダーを掴み、バスターのコックピットへと昇っていく。その途中で、彼は少し苦笑したように零した。

「できりゃ、お前とは戦いた くねえけどな……」

イザークの表情が曇る……そ して、最後にニコルが告げた。

「イザーク……僕らは貴方に こちらへ来てくださいとは言いません…でも……リーラとだけは、戦わないでいてあげてください」

「……!」

やや辛そうに零すニコルの言 葉にイザークは絶句する。

「もし僕達が敵だというのな ら……僕達が相手になります。でも…リーラだけは、絶対に貴方と戦わせません………たとえ、彼女がそれを望まなくても………」

それを告げると、ニコルも愛 機に駆け寄り、ラダーを使ってコックピットへと昇っていく。

「イザーク……話せてよかっ たです。でも、僕もできるのなら貴方とは戦いたくはありません……」

最後に寂しげに呟き、バス ターとブリッツビルガーのコックピットハッチが閉じる。

砂煙を上げ、2機は仲間の援 護のために飛び立っていった。

敵となったはずのディアッカ とニコル……だが自分は遂に彼らを撃てなかった。彼らも自分を撃とうとはしなかった……ただ、自分の信じるもののために戦えと………

そして……敵に回ったのに戦 いたくないと告げた二人に………微かな憤りを憶えた。

だが……同時に迷いも生まれ ていた。

(俺、は………リーラ…っ)

苦しげな表情でイザークはそ の場に呆然と佇んだまま……かつての友が消えていくのを見送った………

 


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