メンデルで激しい攻防を繰り 広げるネェルアークエンジェル、クサナギ、エターナル、オーディーンの4隻と地球軍……

戦艦が互いを激しく撃ち合 い、その周囲ではMSが交錯する。

そしてその時……後方に潜ん でいたザフト側が動き出した。

レーダーを見詰め、動向を 窺っていたサイが声を張り上げる。

「ナスカ級です! 距離 80、ブルーΔ!!」

遂に恐れていた事態が動き出 した……マリューや他のクルー達、そしてカガリやラクス、バルトフェルドやダイテツの表情が強張る。

進攻を開始した以上、そちら にも身構えなければならない。

その時、唐突に接近してくる ヴェサリウスから全周波で通信が送られてきた。

《地球連合軍艦アークエン ジェル級に告げる。戦闘を開始する前に、本艦で拘留中の捕虜を返還したい………》

その通信に誰もが眉を顰め た……エターナルやオーディーンに対する降伏勧告でもなく地球軍に対する一方的な捕虜返還…しかも、今現在戦闘中のこの最中で……と、誰しもが思った。

不審感を憶える中で、唯独 り…クルーゼだけが冷笑を浮かべていた………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-44  滅びの神天使(メタトロン)

 

 

地球軍との攻防が続く中、ク ルーゼ率いるナスカ級3隻とザフトのMS部隊が介入してきた。

3隻からジンが次々と発進し てくる。

《目標はあくまでエターナル とオーディーンだ》

通信機から聞こえてくるク ルーゼの言葉を聞き終えてから、イザークが操縦桿を握る。

「イザーク=ジュール、デュ エル、出るぞ!」

ケーブルをパージし、デュエ ルがヴェサリウスを飛び立つ。

「シホ=ハーネンフース、出 ます!」

「ヴァネッサ=ルーファス、 いくぜっ! 続け! 野郎ども!!」

それに続くように、シホのゲ イツハイマニューバ、ヴァネッサのシグー・ディープアームズもヴェサリウスから出撃した。

ヴァネッサ隊のシグーASと シグー隊もそれに続く。

更にスタンバイしていたク ルーゼのシグーが、カタパルトの前に立つと、クルーゼはヴェサリウスのブリッジに通信を繋ぐ。

「私が出たらポッドを射出し ろ」

《はっ》

アデスが頷き、それを聞き届 けてクルーゼはシグーを発進させた。

 

 

MS隊が先行し、それに続く ヴェサリウス、ヘルダーリン、ホイジンガーの3隻……その主砲が起動し、エターナルとオーディーンに向けられる。

「我が艦のMS隊を右翼に展 開…回頭20、グリーン73、マーク17β…目標はオーディーン!」

タリアはかつての上官の乗っ ているであろう艦に狙いをつける。

あの人に下手な小細工は通じ ない…クルーゼが何を考えてこの状況で捕虜の返還を実行したのかは解からないが、こちらが全力でかからなければまず間違いなくこちらが敗北する。

「ヴェサリウスより通信!」

オペレーターが声を上げると 同時にメインモニターにアデスの姿が映し出される。

《グラディス艦長、エターナ ルとオーブ艦がこちらへと進攻を変えた…まずはエターナルを墜とす》

「解かりました…目標変更、 右回頭50! 主砲発射準備!!」

タリアはやや表情を顰めたも のの、すぐに意識を切り換えてエターナルとクサナギに注意を向ける。

2艦は転進し、こちらに向け て発砲してきた…MS隊もこちらに向かってくる。

「撃てぇぇぇ!!」

タリアの号令とともにナスカ 級3隻からもビームの砲火が轟いた。

 

 

 

 

加速し、進攻してくるザフト 艦……このタイミングで奇妙な捕虜の返還という通信に停戦を求めるのかと思ったが、ザフト側の進攻速度は鈍らず、しかもMSを出撃させてくる。

明らかな戦闘行為に誰も困惑 する。こんな状況で捕虜の受け渡しなどができるはずがない。

《いったい、何を考えてい る…クルーゼめ》

リンクで繋がる各艦の艦長達 の気持ちを代弁するようにダイテツが表情を顰めて呟く。

ナスカ級の真意を誰もが掴め ずにいた。ただでさえこの周辺は砲火が飛び交う戦場である。その真っ只中に捕虜を放り出すなど、何かの意味があるとは思えない。下手をすればその捕虜は死 んでしまうというのに。

しかし、その意図を探る暇も なかった。

《っ! MS、来ます! 熱 紋照合…ジン25、シグー4! 未登録の機体とシグーのカスタム機らしき機影2、それとデュエルです! マーク18α!!》

ミリアリアの叫びに誰もが歯 噛みする……相手の意図がどうであれ、ザフトは明らかに戦闘行為に出ている……これでは、挟み撃ちにされたも同然だった。

奇妙な捕虜の受け渡しなどに 構っていられる状況ではない…前方を地球軍、後方にザフト軍に挟まれたまさに前門の虎、後門の狼だ。

「MSが来るわ! ブルー 12、マーク18Δ!!」

アイシャが苦い表情で告げ る。こちらへと急接近してくるザフト側のMS部隊。

「ナスカ級接近! 距離 30! オレンジ14、マーク33から87チャーリー!」

「ちっ、クルーゼめ! 嫌な 時に嫌な位置に!!」

バルトフェルドは思わず悔し げに歯噛みする……相変わらず姑息な方法を選ぶ奴だと毒づくバルトフェルドにダイテツが声を掛ける。

《バルトフェルド隊長、地球 軍はオーディーンとネェルアークエンジェルで対処する! エターナルとクサナギはザフトへ!!》

《「了解したっ!」》

バルトフェルドとキサカが素 早く応じ、エターナルとクサナギが回頭する。

「転進! イエロー17、 マーク25α! 推力70!!」

転進するエターナルとクサナ ギ……周囲に展開していたM1部隊、及びジンやシグー隊がザフト側のMS部隊に向かう。

接近するザフト側のMS部隊 も敵陣に布陣するジンやシグーに戸惑う……だが、それはネェルアークエンジェル側の元ザフトパイロット達にとっても同様だった。

だが、互いに退くわけにはい かない…トリガーが引かれ、銃火が轟く。

エターナルとクサナギもまた 主砲とゴッドフリートを一斉射し、ナスカ級3隻とぶつかった。

 

 

 

 

その頃…メンデルの奥深くに 存在する工場区で、レイナ達は困惑と戸惑いの中にいた。

ペンダントで開いたこの工場 区への道……MSデッキに破棄されたインフィニティやエヴォリューションと酷似した機体のパーツ………

墓場と形容する場所で眼前に 現われた光景に先程からの痛みが鈍く響く。

コンソールに置かれた写真立 てに映されていた双子と女性……その写真立てを持ち上げた指に当たった感触………レイナは表情を顰めながら裏に固定されていたものを取り出すと……それは 一枚の記録ディスク………

「何…それ?」

レイナが手の中で持つディス クにリンやカムイも首を傾げる。

レイナとてこれが何か解から ない……いや、そもそもこの写真に映っている人物からして困惑しているのだ。

今一度写真を見詰める……銀 と蒼銀の髪をもつ双子の少女……それを屈み込んで微笑みを浮かべる女性………

「リン……これは…私と…… 貴方ね?」

唐突にリンの方に振り返 り……そしてやや躊躇いがちに尋ねる。

だが、リンは無言のまま…… 表情を顰めて逸らす。その態度が、肯定を意味していた。

「……ヴィア…ヒビ キ………」

無意識に頭の中に浮かび上 がった名前を反芻する……カガリの持っていた写真にも映っていた人物………何故、自分はこの人の名を知っているのか………

頭に突き刺すような傷みが駆 け巡る……

 

 

――――自分に向かって微笑 む女性………

――――優しく抱き締め、そ して啜り泣く声………

 

 

それらの映像が傷みとともに 脳裏を駆け抜ける。

「っ……」

微かに歯噛みして傷みを振り 払うように頭を振り、手をコンソールに叩きつけた。

刹那……コンソールの棚に置 かれていたファイルが音を立てて落ちた。

レイナ達がそれに振り向く と……落ちたファイルから書類や写真が散らばっている。

訝しげながら…散らばった書 類や写真を拾い上げる。

書類には、MSの設計理論と 思しき図式や項目が記載されていた。だが、おかしかいと感じたのはある図に記載されていたものだった。

「これは……」

図面に記されたのはMSの原 型にもなったジョージ=グレンが木星探査船に積み込んでいた船外作業機……無論、人型とは程遠いが、それでもMSに通じる2本のアームと2脚のバーニ ア……それらの要所が細部に至るまで研究され、そこから発展させたMSと思しき人型兵器との相互間比較図なども載せられていた。

「MSの設計図のようです が……でも、ジンじゃないですね………」

設計図を拾ったカムイもまた それに眼を通しながら怪訝そうに首を傾げる。

機械工学に従事している彼で さえも、アストレイシリーズの開発にはGの基礎理論が……さらにそのGシリーズはザフトのジンが基本になっている。

いわば、ジンは全てのMSの 原点とも言うべき機体のはずだが……ここに記されているのはジンではない。

いや……それ以上に性能を高 められたMSのフレーム設計図だ。

船外作業機から直接発展させ た高性能MS……ここに破棄されているMSの残骸らしきものはそのパーツか。

そして……写真を拾い上げ て、そこに映されているものを視界に入れると………レイナ達は息を呑んだ。

写真には、数人の研究員が 映っている……その中には、レイナが持つ写真に映るヴィア=ヒビキの姿もある。

そして……写真の中で数多く 映る人物がいる。紺色の髪を肩で切り揃え、黒ぶちの眼鏡をかけた白衣を纏った男………指示を出し、MSらしき組立作業風景から機械部品の作成を行ってい る。その様から、責任者らしきものと推察するが……その顔をどこかで見たような……

「姉さん…その男……こいつ じゃないの」

思考が逡巡していると、リン がコンソールに立てられていたもう一枚の写真立てを手に取って見せる。

7人の男女が映る写真……そ の中の一人………端で赤い髪の女性が腕を組んで立つ眼鏡の男……確かにやや年若いが、間違いなくその面影がある。

だが、その写真にはもっと驚 くべき人物が映っていた。

「ノクターン博士…っ、それ に……」

同じく映る小さな眼鏡をかけ た金髪の女性……年が若いことを除けば、間違いなくフィリアであった。そして……そこにはヴィア=ヒビキの姿もあった。

(どういうこと……ノクター ン博士は、顔見知り………?)

様々な憶測を飛びかせなが ら……レイナはファイルを持ち上げる…そして、その中に記されていた文章に眼を通す。

ところどころ、学術的な用語 は混ざっているが……それはマルス=フォーシアという人物の開発記録であった。

 

『C.E.45 3月○日   ウォーダンに招集された私は、従来の作業機に変わる新たなマシン開発を依頼された。ジョージ=グレンの使用した船外作業機をベースに、私は従来の作業機 構造の根底を覆す人型作業機の開発に着手した……そして…開発コード:DEMと命名………』

 

ファイルの最初の項目に書か れた日付と文章……20年以上も前の日付………それに……

(DEM……)

思わず頭の中で反芻する…… このコード名…どこかで聞いた覚えが…………

「デウス……エクス…マキ ナ…………」

無意識にレイナの口から言葉 が漏れ、聞いたリンとカムイが思わず怪訝そうになる。

「デウス・エクス・マキ ナ……? 確か、ラテン語で………」

 

 

 

 

――――――……機械仕掛け の神…………

 

 

 

 

リンの言葉を紡ぐレイナ…… だが、自分が発した言葉に実感が持てなかった。

何故…自分はそんなことを 知っているのか………レイナは無言のまま読み進めていく。

 

『C.E.48 7月○□日   DEMシリーズ、零号機フレームの骨格完成。だが、この機体にはまだまだ多くの課題を残している。その主たるものが動力源であった。ウォーダンの要望 にはまだそうような形にはなっていない。だが、ウォーダンは奇妙なことを言っていた。頭部とボディ部分に当たるブロックにある装置を組み込むと意気込んで いる。だが、それが何かはまだ解からない。私の今の仕事はこのフレームを完成させることであった。アリシアはあまりいい顔をしていないが、このDEMシ リーズはやがて星の海を行くうえでの人々の護り手となるもの。私はなんとしてもこいつを完成させたい』

 

『C.E.50 9月×日   プラント内部で理事国側への不満が高まり、黄道同盟が結成されたとの動きがあった。また、人々が星の海を行く夢が遠ざかる…だが、今の私にはこのDEM を開発し続けるしかやる事はなかった。零号機フレームの骨格はほぼ完成を見た…恐らく、これまでの常識を覆すものだろう。私はこの機体に核分裂炉ではな く、バッテリー駆動型のエンジンを搭載しようとウォーダンに発案するが、それを拒否……ここ数年、ウォーダンやユーレンの様子が何かおかしい。遺伝子調整 でのエラーを解消する方法に着手していると聞くが、芳しくないのであろう』

 

「DEM…零号機フレー ム………」

C.E.48年といえば、ま だMSなど完成していなかった時期……いや、そもそもの人型作業機すらなく、ようやくミストラルらが作業機として普及し始めた頃だ。

そんな時期に既にMSが…… やや唖然となっているレイナにカムイが資料を掻き分け、その一つを見やると…驚きに眼を見張って上擦った声を上げる。

「レイナさんっ、これ…これ が、その機体じゃないですか……っ」

カムイが差し出した一枚の資 料……そこには、MSの全体図が描かれ、要所要所に詳細が載せられている。

だが、そのMSの外見を確認 した瞬間……レイナとリンは驚愕に眼を見張った。

表示されていたMSの本体フ レームは……インフィニティ、エヴォリューションとほぼ同型のボディ構造で設計されていた。

その図の上には、機体の形式 番号と開発コードネームも載せられていた。

 

 

 

 

―――――――DEM− 000:Metatron……

 

 

 

 

「メタトロン……?」

天使の王……解放の天 使………天使達にとっての神天使………成る程と、内心に毒づいた。

デウス・エクス・マキナ…機 械仕掛けの神……人造の神を模した機体か………

「でも、どうしてエヴォ リューションやインフィニティと酷似した形なの……?」

それだけが腑に落ちない…… 偶然にしてもあまりに似すぎている。

考えられるのは……インフィ ニティとエヴォリューションの2機が……このDEMシリーズとなにか接点があるということだけ。そう考えた方がしっくりくる。

レイナは急ぎファイルの続き を読み進めた。

 

『G.E.51 1月□日   零号機も既に外装を取り付け始めた……だが、肝心のボディに内蔵すべきエンジンを未だ課題としているなか、ウォーダンが進めていたナノマシンを応用した 半永久機関を搭載することとなった。私にとっては専門分野ではないため、詳しくは解からないが、ナノマシンの研究で第一人者であったウォーダンが造り上げ た分子レベルで構築されるナノマシンに熱エネルギーを発生させ、増殖する機能を持たせたものを機関部とすることで、半永久的な活動を可能とする。半ば半信 半疑ではあるが、それが実用化できればエネルギーの革命にもなるだろう。そしてもう一つ……ウォーダンが保持していたエヴィデンスの遺伝子を組み込んだバ イオマシン・インターフェイスを頭部に組み込むことになった。これにより、人の精神波に干渉することが可能となるとウォーダンは言う。エヴィデンスは未知 の生命体とはいえ、思考パターンは極めて高いことは窺えた。それゆえに地球上のある種の生物のように高い感応力を持つことも可能だと……私は最初、あまり に夢物語だと気には留めなかったが、その時のウォーダンの笑みが酷く暗い笑みであったことが気に掛かった』

 

その内容を読み終えると…… 思わず頭を捻りそうになる。

「ナノマシンを応用した…半 永久機関………?」

核融合炉を持つEXナンバー ならいざ知らす…ナノマシンをエンジンに応用するなどできるのか……どうも、信憑性にかける……それに気になるのは、エヴィデンスの遺伝子を組み込んだと いうバイオマシン・インターフェイスとかいうシステム……

「人の精神に感応するシステ ム……そんなことが可能なのか?」

半信半疑の表情でリンがカム イを見やると……カムイは表情を顰め、考え込む。

「理論的には…不可能、とは 言いきれませんが……ですが、人の意思というのは未だ謎の多いものです。そもそも、意思といった不確かなものに干渉するという概念自体があまりに突拍子も ありませんから」

言葉を濁しながらカムイが答 える。

人の意思……魂、生命とでも 置き換えられるが……それがどういうメカニズムを持つかは、未だはっきりと解かっていない。人の肉体が遺伝子の衰退で老い、そして死を迎えるのは解かるが その魂というべき意思がどこへ消えるのかなどはっきり解かっていない。

そんな曖昧で不確かなものに 干渉するなど、現実味がなくて当然だ。

袋小路に陥る3人はそれ以上 の詮索を諦め、続きを読む。

 

『C.E.51 10月△日   遂にDEM−000:メタトロンの本体フレーム完成。そして、ウォーダンがそのパイロットとなる者を連れてきた。カイン=アマデウス……そう名乗った 少年は、黒髪に真紅の瞳を持っていた……』

 

「……っ」

真紅の瞳……確か、ルンが 言っていた……それはMCナンバーの証………ならばカインと呼ばれたこの人物は……

 

『……私は不審感を憶えた。 ウォーダンには子供はいないはず……そして、ウォーダンは私にメタトロンの試乗をすると言い、カインと名乗る少年をメタトロンへと乗せた。そしてその結 果……アレが起こった………』

 

そこで文面が途切れ……レイ ナ達は表情を顰めた。

いったい、何が起こったとい うのだ……慌てて続きを探す…だが、それ以降の数日は空白になっており、やや間を空けて記録は続けられていた。

 

『C.E.52 3月△△日   私は、とんでもないモノを造り上げてしまった。メタトロンは、もはや悪魔の兵器と化してしまった。アリシアが危惧していた通りになってしまった……ア レは…いや、カインはもはやウォーダンの手に負えるものでもなくなった…そして、フィリアが私に話してくれた事実……まさか、そんな事になっていたとは… 何も知ろうとせず、また放って置いた私は大馬鹿者だ。だが…どうすればいい……あの悪魔を止めるには………』

 

内心の葛藤を綴るなか……と ころどころは殴り書きのような乱暴な筆跡が残されている。

天使が悪魔に変わった…… いったい、どういうことだ………だが、少なくともこの内容からこのマルス=フォーシアという男はフィリアやウォーダン…そして、ヴィア=ヒビキとも関係は 深いということは間違いない。

 

『C.E.52 5月××日   フィリアから、ウォーダンが次の被験体に着手したという話を聞かされた。そして……それにヴィアが利用されているということも…フィリアはせめてもの 償いとヴィアを呼んだのだろう。私は未だ迷っていた……どうすればいいのかを………』

 

『C.E.53 2月△○日   ジョージ=グレン暗殺…そのニュースが今、世間を騒がせている。恐らく、ブルーコスモスの暗躍であろう。ここも、そしてユーレン達も狙われる可能性が 高い』

 

『C.E.54 5月□日   誕生したMCナンバーの子供達……私は、アリシアの中に宿っていた私達の子の受精卵を用い、フィリアの協力を得て彼女に遺伝子操作を施した。無論、アリ シアにもフィリアにも…そして、この子には辛い道を選ばせてしまった……だが、私は鬼にならなければならない………カインを止めるために…そして、メタト ロンに対抗するための新たなマシンを開発に着手した』

 

「ジョージ=グレンの暗殺… それに、MCナンバー………」

それは恐らく、自分達…初期 ナンバーを持つ者達だろう………失敗作という………

「だけど、この遺伝子操作を 施した受精卵というのは……」

腑に落ちず、レイナは頭を捻 る……マルス=フォーシアが遺伝子操作を施した者……文章の前後から、恐らく自分達と同じ操作が施されているとは思うが………

だが、その該当人物にリンは 心当たりがあった。

(アリシア…確か、アリシア =ブラッドという女がプラントにいたな……そして…あいつか………)

脳裏に、リーラの姿が過ぎ る……あのMCナンバーが持つはずの赤い瞳とそしてあの気配………ようやく納得がいった。彼女も言わば、規格外の存在だったのだ……いや、正確には存在し ないはずのMCの子供か………

そして気になる用語はまだあ る……

「メタトロンに対抗するため の……?」

 

『C.E.56 4月○日   メタトロンに対抗するには、それだけの出力を持たせる必要があった。だが、あのナノマシンを応用した半永久機関は正直、私にも解からない部分が多い。そ れを使うわけにもいかず、私はプラントにいる友人であるアマノ=バーネットに協力を要請。そして、エンジン駆動部分を任せ、私はフレームの開発に着手す る。一から設計している時間はなかった。私は、メタトロンの図面を修正しながら新たなDEMの設計を進めることにした。だが、メタトロンに搭載されたあの システムに対抗するためにはやはり同じシステムが必要になる。だが、全て同じにしては何にもならない。システムの一部を変更して組み直さなければ……だ が、問題はパイロットだ。この機体を扱える者を……恐らく、私の子ではこれを扱えないだろう。どうすればいい……』

 

『C.E.56 8月△×日   ヴィアが私の許を訪れてきた。そして、どうやらユーレンの方でも彼女のなかの受精卵を使っての実験を行っているらしい。何故、彼女だけがこんな目にあ わねばならないのか……だが、ヴィアはそれを決して悲観していなかった。そして……驚くべきことを私に提案した。DEM零号機フレームタイプTのパイロッ トに、例の子を頼むと言ってきた。私は迷った……カインと同じ遺伝子を持つ者をパイロットにすれば、同じ結果になるのではないかと…だが、ヴィアは首を 振って言った。この子は私の子だと……道標になることを運命られた子だと………ヴィアは彼女なら必ず呪われた呪縛を超えられると……私も、その言葉に賭け てみる気になった。そして…その子達のためにこの機体を完成させようと……私はタイプTをメタトロンの対抗用の機体として…そして、タイプUをその護衛機 として開発を行うことに決めた。コードネーム…『DEM−000T:インフィニティ』、『DEM−000U:エヴォリューション』と命名……』

 

そこでファイルの記録は終 わっていた……フレームを組み上げられていくMSの写真の添付とともに……

そこに映る機体は…外装こそ 取り付けられていないが、間違いなく自分達の機体………

「インフィニティとエヴォ リューションが……DEMの機体………?」

あの2機が…DEM……機械 仕掛けの神の名を冠するマシン………それに、この話の流れからすると……あの2機は自分とリンのために造られた機体だということ………それで、あの奇妙な 既視感にも似た馴染み感に納得がいった。

静かにファイルを閉じ、その 場で無言で佇んでいると……突如激しい震動がデッキ内を襲い、レイナ達はハッと顔を上げる。

今のは外部からの衝撃……と いうことは、中断していた戦闘が再開されたということだ。

「とにかく…一度戻ろう…… なにか、嫌な予感がする………」

先程から背中に走る冷たい気 配……このデッキ内に染みついた記憶がそう錯覚させているのか、それとも……

リンとカムイは互いに頷き合 い、デッキ内を出る出口を探して周囲を見渡す。

その時、またしても震動が起 こり、デッキ内のハンガーに吊られていた頭部を支えるワイヤーが途切れ、頭部が投げ出された。

飛ばされた頭部はそのまま前 方のデッキへと放り出され、壁に激突する。

顔を覆うレイナ達……朦々と 上がる粉塵………ゆっくりと眼を開くと、そこには崩れた壁の壁面に隠し階段が現われていた。

偶然か…それとも、この DEMの……自分達の機体の兄弟機達が道を指し示してくれたのか……それは解からないが、とにかく今はここを脱出する方が先だった。

このままメンデルに留まると いうのは危険だ。

レイナはファイルとディス ク、そして写真立てを脇に挟むと、その階段へと向かって駆けていく。

振動はますます強くなり、 デッキ内の天井が落ち、崩壊が始まっていく……

リンとカムイが先に階段を駆 け上がっていく…レイナは階段を登ろうとし、一度足を止めて振り返った……

「マルス=フォーシア…それ に、カイン=アマデウス、メタトロン………」

まだ、自分達が知らないこと が多々ある……このファイルの記録を裏付けるものとその闇を知る者は……自分達の知る限りにおいては一人しかいない。

レイナは、決意した面持ちで リンとカムイの後を追うように階段を駆け上がっていく。

その背中を見届けたのを安心 したのか…それとも、彼女達の機体を造り上げたマルスの意思があったのかは解からないが……半壊したDEMフレームの頭部のカメラアイが一瞬煌き……次の 瞬間には、崩れてきた破片に潰されていった………

 

 

 

 

戦闘開始と同時にヴェサリウ スよりパージされる一つのライフポッド……その中には、フレイの姿あった。狭いポッド内で宇宙服を着た彼女は突然のポッドの浮遊感に恐怖を憶え、モニター に映し出される宇宙とそのすぐ近くで繰り広げられている戦闘の火に震え上がった。

クルーゼの言った手伝うとい う意味が、まさかこんな事だったとは予想外だったらしい…知ったとて抵抗できるはずもなかったかもしれないが………

すぐ近くで戦艦同士が砲撃を 繰り返し、幾体ものMSが交錯して爆発の閃光が煌くたびにフレイは息を呑み、恐怖に歪む。激しい戦場のなかでこんな小さなポッドはあまりに頼りないもの だった……戦闘中のために、自分の存在に気づく者がいるだろうか………流れ弾に当たって炎に焼かれるか…それともこのまま気づいてもらえず一人ぼっちのま ま宇宙に棄てられるか……震える身体を抱き締めるフレイの眼に、砲火の中で煌く一隻の戦艦が入った。

形状は若干記憶のなかにある ものと違っているが、それは紛れもなくかつて自分が乗っていた艦の形を留めていた。

「アークエンジェル……っ」

彼女は眼を見張りながら身を 乗り出す……帰りたいと願った艦がそこにある……だが、ポッドの中に押し込められているフレイには近づく術がない。フレイは恐怖と嬉しさをごちゃ混ぜに し、泣きそうな表情で手元の通信機を必死に操作した。

「アークエンジェル……お願 い、アークエンジェル………っ」

気づいてほしいと…願いなが らフレイは必死にボタンを操作するのであった……

 

 

 

ザフトからの突然の捕虜返還 の通信と戦闘行動に地球連合側も混乱していた。

「ナスカ級より、ポッド射出 されました……シグナルを確認」

オペレーターが戸惑った様子 で報告すると、ナタルも表情を顰めた。

「一方的な通告のみで、こん な宙域に……?」

相手の意図がまったく掴めな いというのが本音だ…それはアズラエルも同じらしく、首を傾げている。

「どういうことですか ね……」

モニターには、ヴェサリウス から射出されるポッドの存在が映し出されている。

ご丁寧に救助発光信号まで発 している…だが、その行為があからさまに不審すぎて逆に疑問を抱かせる。

「撃ち落とさせたい? 回収 させたい? 罠にしても妙ですしね……どうします、艦長さん?」

アズラエルの問い掛けにもナ タルは表情を顰める……アズラエルの言うとおり、確かにザフト側の行動に疑念を抱いているが、今は戦闘の真っ最中だ。

既に残存兵力はドミニオンと パワー、そして護衛艦が2隻…MSも展開していたストライクダガー部隊が壊滅に近い損耗を受けている。加えてネェルアークエンジェルとオーディーンの2隻 がこちらに激しい砲撃を繰り返している。

ただでさえ先の戦闘の損傷を 応急処置すら満足に行わずに戦闘を再開したものだからこちらの艦の動きも鈍い。回避と迎撃で手一杯なのだ…とてもポッドにまで気を回していられる状態では ない。

「ホントに乗ってんの捕虜な んですかね?」

ナタルの疑念を代弁するよう にアズラエルが囁く。

一方的な通告のみで、戦場に ポッドを射出するなど、正気の沙汰ではない…これではポッドを破壊してくださいと言っているようなものだ。

もし、本当に友軍の捕虜が 乗っているのであれば、なんとかして回収したいとは思うが、罠の可能性も捨て切れない。迂闊に手も出せず、また気を配る余裕もない……八方塞に陥っていた が、ネェルアークエンジェルのゴッドフリートとセイレーンの砲門が火を噴き、駆逐艦の船体を貫いて轟沈させ、爆発の余波が船体を揺さぶり、そんな思考も消 えた。

 

 

パワーもまたオーディーンと 砲撃の応酬を繰り広げていたが、やはり不利なのは覆せない。

オーディーンの主砲が火を噴 き、ビームが迫る。

「回避! 面舵60!!」

「間に合いません!」

イアンが号令を飛ばすが、オ ペレーターが悲痛な声を上げる。

「ゴッドフリート2番、上方 に向けて発射しろ! 同時に艦首下げ、ピッチ角40!!」

間髪入れずネオが叫び、ク ルー達はそのまま反射的に指示を実行する。

パワーのゴッドフリートが上 方に向けて発射され、その反動とスラスターの駆動動作が連鎖し、艦首が下げられ、ビームがパワーの船体上部を掠める。

クルー達の間に安堵の息がつ くのも束の間……オーディーンから追い討ちをかけるようなミサイルが発射される。

「ヘルダート、イーゲルシュ テルンで迎撃!」

ミサイルがミサイルを撃ち落 とし、イーゲルシュテルンが旋廻しながら砲撃し、ミサイルを撃ち落としていく。

「いやはや…流石にまずい状 況だな、これは……」

おどけて言うネオだが、その 口調は空元気だった……不利なのは否めない。おまけにザフト側もこちらへ向けて進軍してきている。

「ザフトが動いたようです が……このような状況で捕虜の返還とは何を考えているのでしょう?」

パワーが距離を取りながら迎 撃を行うなか、イアンが先程の通信の意図を尋ねるように問うが、ネオも首を傾げる。

「さあね……だが、こっちが ヤバイってのは確かだな。あのアズラエルの坊ちゃんが退くと言うわけはないし……さて、どうしたものか…」

思案しながらネオは顎をさす る。アズラエルの性格からして撤退はまずあり得ない……だが、それに付き合ってこちらまで命を落とすという愚行をおかすつもりなど毛頭ない。

ここいらが潮時だろう…向こ うの艦の艦長もこちらの戦法を尽く看破してくれるのだからますます手に負えない。

そして、しばし逡巡していた ネオだったが…不意に奥で始まったザフトとの戦闘がモニターされた画面を見やると……電流のような奇妙な感覚が脳裏を過ぎった。

「どうされました、大佐?」

突然、黙り込んだネオの様子 に不審そうに訊くと…ハッとしたようにネオは気づいた。

「あ、いやすまん……」

歯切れの悪い返答を返すと、 またもや爆発が轟き、船体を揺さぶった。

「このままじゃ、最悪戦死だ な…そこまであのお坊ちゃんに付き合う義理はないしな……」

やや肩を竦め、ネオは格納庫 に通信を繋いだ。

「格納庫、ファントムは出せ るか?」

《なんとか、戦闘は行えま す…ですが、予備のガンバレルの調整がまだ……》

言葉を濁す整備士にネオは首 を振る。

「構わん、すぐに出る…装備 はエールで構わん、すぐに準備しろ!」

《は、はっ!》

慌てて通信を切る整備士…… ネオは徐に顔を上げると、こちらを窺うように見上げているイアンに声を掛ける。

「俺は出て時間を稼ぐ…その 間に艦は撤退準備を進めろ、トライ・スレイヤーの連中を護衛に呼び戻せ。それと、ローエングリンの発射準備も進めておけ」

その指示にイアンは怪訝そう になる。

「よろしいのですか?」

ここで撤退すれば、まず間違 いなく戦線放棄ということで軍罰ものだ。イアンとてこの戦闘が最初から勝ち目がないということは理解しているが、アズラエルが軍上層部に絶大な影響力を持 ち、また上層部もその利権にあやかろうという輩が多い以上、最悪でも敵前逃亡、よくて不名誉除隊だ。

だが、それに対してネオは不 適な笑みを浮かべる。

「構わんさ…ここまで付き 合ったんだ。少なくとも義理は果たしたしな……まあ、あのお坊ちゃんの意向に従ったが失敗した……理由は立つだろう。それに、ジブリールとてまだ俺達を切 り捨てる時じゃないって思ってるしな」

要は、作戦失敗と称して撤退 するということだった。作戦遂行時における失敗による撤退は少なくともそれ程珍しいことではない。ここまで善戦した以上、もう充分だろう。

その意図を察したイアンは頷 いた。

「頼んだぞ」

「はっ! 格納庫、ファント ムを出す! いいな!?」

軽く指を振ると、ネオは踵を 返してブリッジを後にする。

イアンは矢継ぎのごとく指示 を飛ばす。ローエングリンの発射時期の見定めを行い、友軍機が後退した瞬間を見計らってローエングリンで敵艦を牽制、それと同時に最大船速で撤退する。

格納庫では、ネオがパイロッ トスーツも着ずにストライクファントムに乗り込む。

蒼いカメラアイを煌かせ、赤 紫の機体がカタパルトに乗り、エールストライカーが装着される。

「まったく、あいつら熱心な のは結構だけど、ちゃんと通信が届く範囲にいろよな」

愚痴るようにネオがぼやく。

イージスコマンド3機は母艦 を墜とすためにかなり奥深くまで突入し、Nジャマーの影響で通信が届きにくい位置にいるために撤退の旨を伝えるためにもわざわざ出向かなくてはならなく なった。

(それに……)

ネオにとってはもう一つ…… 気に掛かることがあった。先程の戦闘でも感じたあの奇妙な感覚とはまた違った感覚……敢えていうなら、冷たい不快感とでも形容すべきか。

その気配を放つ何かがこの先 にいる…それを確かめるために、ネオは操縦桿を握る。

カタパルトが開き、オー ディーンを牽制しようとパワーがゴットフリートで砲撃し、発進の時間を稼ぐ。

刹那、APUが分離し、スト ライクファントムを宇宙へと向けて射出した。

 

 

 

 

フリーダム、ジャスティス、 スペリオル、ヴァリアブルの4機はカラミティ、フォビドゥン、レイダーの3機を相手に圧倒していたが、相手の3機もしぶとくなかなか決定打が出ない。

ジャスティスがフォルティス ビーム砲でフォビドゥンを砲撃するも、リフターによってビームを湾曲させられ、そこへレイダーが割り込むように突撃し、ミョルニルを発射する。

ヴァリアブルがレーヴァティ ンでミョルニルを弾き飛ばし、スペリオルがビームドライバーキャノンで砲撃する。

レイダーは素早くMA形態に 変形してその火線を外す。

カラミティはフリーダムを執 拗に狙う…オルガは狂気に笑いながらシュラークとスキュラを連射する。

それを回避しながらキラは呼 吸を荒くし、顔には汗がびっしょりと浮かび上がっていた。

思わずバイザーを上げて顔を 振る……汗が周囲に舞う…ぼやける視界にクルーゼの嘲笑と父親の言葉が過ぎり……視界が暗転しそうになるが、キラはなんとかそれを堪える。

だが、次の瞬間にはほぼ眼前 に飛び込んできたカラミティが映り、キラは息を呑んでバルカンで狙撃する。

「すげえ、すげえぜ!  ヒャッハハハハ!!」

狂ったようにオルガが叫び、 バルカンをカラミティのTP装甲で弾き、ものともせず突進してくる……キラは歯噛みしてビームライフルで狙撃しながら後退する。

フォビドゥンがフレスベルグ を連射し、その湾曲するビームが縦横無尽に過ぎり、動きを拘束される。

「まずいぞ、キラ! このま まじゃ……っ!」

アスランが焦燥感を漂わせた 口調で叫ぶ……ザフトまで介入してくる以上、こちらの不利は決定的なものになる。

「それに捕虜って…どういう こと……っ!?」

スペリオルがフォビドゥンを ビームライフルで狙撃しながらリーラが先程の通信の意図が掴めずに声を上げる。

いったい、自分達の隊長は何 がしたいのだ……こんな戦闘宙域にポッドを射出し、なおかつ進攻を開始する。こんな状況で、捕虜のやり取りなどできるはずがないのは一目瞭然。

かつての上官の意図がはかり かねず、歯噛みするアスランとリーラ。

(イザーク……っ!)

それに、ザフト…しかもク ルーゼ隊となればまず間違いなくイザークがいる。

イザークと戦わねばならない という現実に覚悟していても、やはり息苦しさとやるせなさが全身を襲う。

「こんのぉぉぉっ!!」

眼を大きく見開きながらシャ ニがフレスベルグとエクツァーンを連射し、スペリオルとジャスティスが分散する。

「くそっ!」

ザフト側の迎撃に向かいたい が、なかなかそれを許さない連合の3機……歯噛みするアスラン。そこへリーラの通信とアラートが同時に響いた。

「アスラン、右!」

アスランがハッと気づいた瞬 間、レイダーがミョルニルを発射した。

真っ直ぐに向かうミョルニル がジャスティスに向かってくる……今からでは回避も防御も間に合わない。

だが、そこへヴァリアブルが 割り込み…ミョルニルをレーヴァティンで受け止め、それを弾き返す。

弾かれたミョルニルはそのま まレイダーに跳ね返り、レイダーが弾かれる。

「お前達、ここは任せる!  あたしはあっちの援護に回る!!」

メイアはそう言うや否やブー スターを噴かし、ザフトの進攻側へと向かって飛ぶ。

「逃がすかっ!」

獲物を逃すまいとクロトが MA形態に変形してヴァリアブルに追い縋る。

その接近に気づいたメイアは 舌打ちする……加速力でいえば明らかにレイダーの方が上だ。

MS形態に変形して、背中か らツォーンを放とうと口部にエネルギーが収束する。

「させないっ!」

刹那、スペリオルが戦闘機形 態に変形し、バーニアを噴かして急加速でレイダーに向かって飛ぶ。

レイダーのツォーンが臨界を 越えて放たれようとした瞬間、スペリオルの両肩のシヴァが放たれ、被弾したレイダーは態勢を崩す。

呻くクロト……それに向かっ てスペリオルはMS形態へとなりビームサーベルを抜いて振り被った。

「えぇぇぇぇいい!」

リーラの咆哮とともに振り下 ろされたビームの刃がレイダーの右腕を2連装超高初速防盾砲ごと一閃し、斬り裂く。

爆発に怯むレイダー……その 間にヴァリアブルは離脱し、援護に向かう。

ジャスティスはビームライフ ルとビーム砲でフォビドゥンを狙うが、リフターで固めたまま突進してくるフォビドゥンに歯噛みする。

フリーダムは未だカラミティ の激しい砲撃に晒されていた。シュラークの射線をかわしながら飛行するも、カラミティはそのまま懐近くまで間合いを詰めてスキュラを放った。

「……っ!」

だが、キラはシールドを離し て機体を下へずらす……スキュラの一射がシールドに着弾し、弾くもオルガが一瞬、注意を削がれた。

その隙を衝き、スラスターの 推力を最大限に上げ、カラミティの懐に飛び込むと、フリーダムはビームサーベルを振り上げてトーデスブロックを斬り落とし、脚を振り上げて機体を蹴り飛ば す。

爆発と機体への衝撃にオルガ が呻き声を上げる。

それを追撃せず、キラはモニ ターに映るいくつもの戦闘の混戦模様にさらに息を荒くし、眼が血走っている。

前方を地球軍、後方をザフト に挟まれた最悪の状況……この状況をなんとかしなくてはならないと、半ば脅迫概念じみた思考がキラの中を駆け巡る。

 

 

 

アサギ達のM1と交戦を繰り 広げていたトライ・スレイヤーだったが、カミュの機体にパワーからの入電が入り、カミュは表情を顰めた。

内容は、パワーの援護に戻 り、頃合を見計らって戦闘宙域より撤退するというものだった。

カミュも別に異論はない…… ザフトまで進攻してきた以上、これ以上の戦闘継続はリスクが高すぎる。

傭兵が任務遂行のために命を 懸けるという思想がカミュ達にはない。雇われた報酬に対等な働きさえすればそこまでする義理はないのだ。それに、依頼主が撤退を指示した以上従わないわけ にはいかない。

カミュは素早くワイズとクル ツの機体に通信を繋いだ。

「ワイズ、クルツ…撤退指示 だ。パワーの後退援護に回る」

《了解》

《なに!? また敵に背中を 見せろってのかよ!!》

クルツは冷静に頷いたが、ワ イズはまたもや不満を露にする……幾度となく決着をつける機会を逃し、かなり苛立っているようだ。

「状況をよく見ろ…ザフトが 来た以上、これ以上留まればこちらの分が悪すぎる……ここで死にたいのなら別に構わないさ……だが、僕達はそこまで付き合う義理はない。それに、クライア ントの指示だ」

その言葉に、ワイズは押し黙 る。

「状況を見計らって宙域を離 脱する……それまではパワーの援護に回るよ」

言い捨てると、カミュのスト ライククラッシャーが反転して飛び去る。

呆気に取られるアサギ達…… ワイズも舌打ちしながら身を翻そうとするが………

「貴様はここで倒すっ!」

バリーのM1がビームファン グを展開してワイズのストライククラッシャーに追い縋る。

「うっせえんだよっ!!」

苛立ちがピークに達したの か、ワイズも憤怒に吼えながら右腕のドリルアームを飛ばした。

「っ!?」

眼を見開くバリー……真っ直 ぐに飛んでくるドリルミサイル………バリーは鍛えた動体視力でなんとか機体をずらすも…ここで操縦というタイムラグが出た。

ドリルミサイルがバリーの M1の左腕を抉り取った…爆発に弾かれるM1。

「ホー一尉!」

アサギ達が向かおうとする が、そこへクルツのストライククラッシャーがシュラークを連射し、動きを抑制する。

その隙にトライ・スレイヤー のストライククラッシャーは離脱していった。

やや怒りと自身の不甲斐なさ を感じていたアサギ達は、バリーのM1に近づく。

「大丈夫ですか、ホー一 尉?」

「あ、ああ…だが、機体のバ ランサーがやられたようだ……」

やや苦い表情で告げる…… コックピット内に機体のエラーを告げるレッドシグナルが点灯している。

「その機体じゃ、もう戦闘は 無理です…ジュリ、貴方がホー一尉を連れてクサナギに戻って……私とマユラでザフトの方に回るから!」

「うん、解かった!」

ジュリのM1がバリーのM1 に寄り添い、曳航するようにクサナギへと向かう。

「マユラ、私達はザフトに回 るよ! 相手は連合よりも厄介だから!」

「解かってるよ、ジンなんか に負けるもんですかっ!」

これまで戦ってきた連合のス トライクダガーよりは性能が劣るであろうが、それでもザフトはMSの操縦に慣れた者達なのだ。

内心の恐怖を押し隠し、アサ ギとマユラのM1がザフト側のMS迎撃に向かって加速した。


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