連合のストライクダガーがほ ぼ一掃され、続けてザフト側のMSの迎撃に向かうMS隊。

敵機の中にジンやシグーが混 ざっていることに戸惑いを憶えずにはいられない。

《隊長、敵のなかに……っ》

「解かってる! ちっ……な んでザフトのMSを墜とさなきゃならねえんだよっ!」

内心に毒づき、ヴァネッサは シグー・ディープアームズのビーム砲を発射する。

M1がシールドでそれを防 ぎ、影からジンが狙撃してくる。

銃弾を回避しながらヴァネッ サはやり難さを感じていた。

ジン数機が散開してクサナギ に向かってくる……護衛に回ったアサギとマユラのM1がGBMの強化装備で迎撃する。

アサギのアグニUとマユラの 狙撃ライフルが火を噴き、ジン2機を貫き、爆散させる。

攻撃を回避したジン2機が回 り込もうとクサナギへ向かって突撃銃を放つ。クサナギの船体に着弾し、爆発が船体を揺さぶる。

「ぐっ、状況は!?」

歯噛みしたカガリが素早く問 うと、シルフィがやや焦った口調で叫ぶ。

「第8区画破損、隔壁閉鎖し ますっ!」

「敵MSを近づけさせるな!  イーゲルシュテルンで迎撃!!」

キサカが指示を飛ばし、イー ゲルシュテルンの弾幕を密集させてジンを追い込む……戦艦のイーゲルシュテルンの集中砲火を受け、ジンが粉々に吹き飛ぶ。

残ったジン一機もその弾幕に 近寄れず、立ち往生していると…そこへマユラのM1が回り込み、ロングビームサーベルを振り被ってジンを両断した。

機体を上下に断たれ、爆発す る……その時、別方角からの銃撃が轟き、反応の遅れたマユラのM1……銃弾がロングビームサーベルを打ち砕く。

アサギとマユラが顔を上げる と、そこにはゲイツハイマニューバが急加速で向かってきた。

「沈めさせてもらうっ!!」

シホが鋭く睨み、手の突撃機 甲銃を連射する。

「「こ、こ のぉぉぉっ!!」」

上擦った叫びでアサギとマユ ラのM1が狙撃するが、機動性を強化したゲイツハイマニューバはそれをひらりとかわし、迫る。

腰部に帯刀する対艦刀を抜 き、それをM1に対して振り払う。

交錯した瞬間……アサギの M1が右腕を斬り飛ばされた……爆発によって弾かれる。

「きゃぁぁっ!」

悲鳴を上げながら弾かれる M1を受け止めるマユラのM1。

「アサギ! アサギ大丈 夫!?」

「う、うん…なんとか……」

切羽詰ったマユラの呼び掛け に弱々しい声で答える……今の衝撃でコンソールの一部が破損し、またアサギも身体を強かに打ちつけていた。

アサギの様子がおかしいこと にマユラは慌ててクサナギへ着艦しようとするが……逃すまいと旋廻して向かってくるゲイツハイマニューバ。

「悪いですけど……ここで墜 ちてもらいますっ!」

トドメをさそうと対艦刀を再 度振り被ってくる……満足に動けない今、回避することも防御することもできない。

二人が死を覚悟した瞬間…… 彼方から割り込んだヴァリアブルがレーヴァティンを構え、振り下ろされた対艦刀を受け止めた。

エネルギーがスパークし、シ ホはヴァリアブルの出現に動揺する。

「君達は早く離脱しろ! そ の状態ではもう無理だ!」

「は、はいっ!」

メイアの叱咤に呆然となって いたマユラは上擦った返事を上げてアサギのM1を曳航しながらクサナギへと戻る。

そして……メイアは眼前のゲ イツハイマニューバに注意を戻すと、バーニアの出力を上げて対艦刀を振り払った。

弾かれるゲイツハイマニュー バ……コックピット内でシホは微かに呻く。

だが、すぐに体勢を立て戻 し、機体を加速させる……機動性を駆使しながら距離を取ってヴァリアブルを牽制するように機甲銃を連射する。

その銃弾をかわしながら、 ヴァリアブルはゲイツハイマニューバを追うが……やはり機体性能の違いか、総合的な機動性ではヴァリアブルは僅かに劣っている。

近接戦時の高機動を主眼とし ているために加速するような機動力を持つ相手にはやや不利だ。だが、シホもヴァリアブルのPS装甲には実体弾は効果がないので機を窺う。

牽制しながら周囲を飛び…そ して見切りをつけてヴァリアブルに向かって急加速し、対艦刀を薙ぐ。

だが、メイアもそれに反応し てレーヴァティンを振り上げ……2機の繰り出す刃が交錯し、火花を散らす。

ガンナーM1隊がビームキャ ノンで狙撃し、ジンを撃ち落とす。その爆発の影から入り込んだデュエルがその銃口の照準をガンナーM1にセットするが……戸惑いを抱いたようにトリガーを 引くのを一瞬、躊躇う。

その時、上方からビームが発 射されたのに気づいたイザークはデュエルを静止させる。

デュエルのすぐ前方を過ぎる ビーム……だが、今のは明らかにこちらを牽制するかのような射撃……イザークがハッと顔を上げると、そこにはバスターとブリッツビルガーが静止していた。

バスターとブリッツビルガー のコックピット内でディアッカとニコルは苦い表情を浮かべる。やはり、戦いは避けられないのだ………

暫し、対峙していた3機は、 そのまま距離を取って互いを牽制し合う。

 

発進したクルーゼのシグーは 戦艦を狙わず、MSの撃破に向かう。

重突撃銃を連射して、ストラ イクダガーを撃ち抜いていく…突然のザフトの介入に戸惑っていた地球軍側のパイロット達は反応できない。

「フッ…所詮はこの程度 か………」

侮るように鼻を鳴らし、戦闘 宙域をグルリと見渡す。

(さぁ、存分に殺し合うがい い……それが望なら………)

独りほくそ笑み、最後の扉が 開くのを待ち焦がれるクルーゼ……だが、その時脳裏にあの不快な感覚が過ぎった。

「なに……っ、ムウ=ラ=フ ラガ……いや…違うな………」

この感覚を齎す相手はムウし かいないが、ムウは自分が先程手酷い傷を負わせ、また乗機のストライクを大破させた。

ならば誰だ……この感覚を放 つ者は………クルーゼは釈然としない面持ちでその感覚が放たれる方向を目指す。

そして……その姿を視界に収 めた瞬間、やや眉を寄せた。

ジンを撃ち落としながら戦闘 宙域を飛ぶ赤紫の機体……機体形状は紛れもなくストライクだったが、なにかが違った。

それは相手も同じらしく…… 赤紫のストライク…ストライクファントムが静止し、こちらを見やって対峙する。

コックピット内でネオは突如 姿を見せたシグーに戸惑う。

「こいつか…さっきから感じ てた相手は………?」

頭を捻っていると、シグーが 突撃銃を放ってきた……ストライクファントムはエールの機動性を駆使し、その弾道をかわすとビームライフルで狙撃する。

絶妙のタイミングで放った が、シグーもそれを悠々とかわす。

「へぇ、やるじゃないの!  ザフトの白い奴!!」

愉しげに口元を歪めながらバ ルカンで狙撃する……シグーはそれをシールドで防ぎつつ接近し、重斬刀を抜く。

対するようにストライクファ ントムもビームサーベルを抜いて振り下ろす。

刃が交錯し合い、エネルギー がスパークする。

互いに鍔迫り合いになる と……全周波通信が響き…ネオの眼前のモニターがONになり、相手のシグーのコックピットが映し出された。

お互いの眼に映る奇妙な仮 面……クルーゼもネオも驚いたような表情を浮かべる。

「何者だ、君は……」

「おいおい…いきなり通信を 入れておいてそりゃないだろ。俺はあんたのことを一応は知ってるぜ……ラウ=ル=クルーゼ………しかし、怪しすぎるぜ、その仮面」

小馬鹿にするようにネオが囁 くと、ストライクファントムが脚を振り上げてシグーを弾き飛ばす。

クルーゼは歯噛みし、ビーム の熱で刀身が半ば溶けきった重斬刀を投げ飛ばす。

ストライクファントムはシー ルドでそれを弾くと、ビームライフルで狙撃する。

先程まで相手にしていたスト ライクダガーとは打って変わり、まったく隙が見えない。初期設計で既にシグーを上回るスペックを誇っていたGのさらに強化したタイプVであるストライク ファントムを相手にしていては流石に分が悪い。

それにさらにクルーゼを苛立 たせているのはこの黒い仮面で顔を覆い隠した男…自身が宿敵とするムウと酷似した気配だが、ムウよりもさらに得体の知れない部分がある。

(あの男には奴以外に嫡子は いないはず……)

クルーゼの知る限り、アル= ダ=フラガの血縁者はムウだけだ。

困惑するクルーゼを他所にネ オは興味津々といった表情でシグーを狙う。

「いやいや…なかなかやるね え、変態仮面さんよぉ!」

揶揄するように笑い上げ、 ビームライフルを連射する。

クルーゼのシグーは唐突に シールドを外し、それをビームに向かって投げる。

ビームと着弾したシールドが 爆発し、一瞬視界が奪われる。

その隙を衝き、シグーは下方 から回り込み……ほぼ零距離に接近してから宙域に浮遊していたストライクダガーのビームライフルを構えてストライクファントム目掛けて放った。

だが、その動きを察したネオ は即座にビームを下方に向けて放った。

ビームとビームがぶつかり、 相殺された……

「何っ!?」

眼を見開くクルーゼ……それ に対してネオは軽快に笑い上げる。

「あまいねぇ、変態仮面さん よ…ストライクダガーとは違うんだよっ!」

先程の動きは、量産型のスト ライクダガーならまず対処できなかったであろう。ストライクファントムの機体性能とクルーゼの動きを感じ取れたネオの感覚がクルーゼの作戦を看破した。

クルーゼは舌打ちし、距離を 取る……クルーゼとネオ……互いに仮面で自らを隠す者同士の戦いは混迷を極める。

 

 

 

 

メンデルのウォーダン=アマ デウスの研究ラボの奥深く……闇の中にその空間は在った。

闇の中に浮かび上がる白いマ ントを靡かせる4つの影……ルン、ウェンド、テルス、アクイラの4人……その周囲には、機材や物が散乱している………いや、よく見れば………人の一部らし き腐敗した死骸も転がり、異臭を立ち込めさせている。

その散乱しているものの上に 腰掛けているウォルフと無言で佇むアディン……

ルンは今一度……レイナにつ けられた傷跡が残る頬をなぞる……指に付着した鮮血に奥歯をギリっと噛み締め、拳を握り締めた。

よりにもよってあの女に傷を つけられるとは……ルンのプライドを傷つけるには充分だった。

「クックク、相当おかんむり だな……」

揶揄するように言葉を振る ウォルフをギロっと睨むが、ウォルフはどこ吹く風とばかりに肩を竦める。

その様子に舌打ちし、悪態を つく。

「それで…どうします、 05? 外は随分、慌しいようですが……」

ウェンドが右眼を覆うイン ターフェイスに情報を表示させる。

メンデルの外では三つ巴の激 しい戦闘が繰り広げられている……そして、自分達はこのまま静観を決め込むのか……それとも…

意思を推し量るように全員が 見やると……ルンは視線を逸らして空間の中央に位置するものに向ける。

天井から伸びるケーブルのよ うなパイプに繋がれた一つのカプセル……それは、まるで玉座のようにも見える。

しばし…無言でいたルン達で あったが………突如、脳裏に電流のような感覚が駆け抜けた。

ハッと顔を上げると……カプ セル周辺の機器に灯が灯り………エネルギーゲージが流れていく。

カプセルの蓋が…ゆっくりと 開いていく……内部にこもっていた冷気のようなものが溢れ、周囲に舞う。

その中からゆっくりと身を起 こす一人の少年と思しき人影……その姿を確認した瞬間、ルンは歓喜にも似た表情を浮かべ、そして呟いた。

「ようやく……貴方が眼醒め られるのですね………カイン様…」

惚然とした表情で…愛しそう に相手の名を呼ぶ。

他の3人も恭しく頭を下げる などを見せ、相手への敬意を表す。

カプセルから身を起こした少 年は、黒のアンダーシャツに白いズボンとジャケットを羽織っている。そしてその髪は…全てを呑み込むような漆黒の黒……流れるような黒髪に上げた顔に は……真紅に輝く瞳があった。

 

「………刻は来た………始ま りと終わりの刻が……滅びと、新たなる再生の刻…………」

 

静かに…だが、聞くもの全て の心を侵食するかのような冷たい声………

「俺はカイン………カイン= アマデウス…………あまねく命を…断つ者…………」

カインと名乗った少年の言葉 に呼応するように……カプセルの後方に浮かび上がる影……唸りを上げ、真紅の瞳が輝く。

巨大な四肢を持つ影が唸 る……それは…神の覚醒…………全てを破滅へと誘う………破滅の神………

その影を見上げるカイン…… そして、フッと口元を薄める。

「さぁ…いこう、メタトロ ン………俺達の半身を取り戻しに…………」

歪んだ笑みを浮かべる少 年……その眼に映るのはなんなのか………

「まずは……君を手に入れ る………MC−02…REI………いや………レイナ=クズハ………」

鼓動を響かせる天使……少年 のもつ黒髪が靡く………その後姿を見詰めながら、唯独り…ルンが悔しげに歯軋りし、拳を震わせた。

その様子に気づいたウォルフ が愉しげにニヤニヤし……アディンは微かに響く頭痛に顔を顰めた。

そして……テルス、アクイラ が一礼し…その場を霞のように消える……ウォルフとアディンもまた闇の中へと姿を消していった……

 

―――――神は眼醒め る………その片割れを取り戻し……そして…滅びを誘うために……………

 

 

 

 

MSデッキの階段を駆け上 がったレイナ達はコロニーの地表部分に出られ、そのまま機体へと向かって急いでいた。

振動がより激しさを増すな か、鎮座する各々の機体へと乗り込む……起動させていると………3人の脳裏に電流に似た傷みが駆け抜ける。

「うっ……」

思わず頭を押さえる……苦悶 を浮かべながら、歯噛みする。

(な、なんだ…今の は………)

先程まで感じていた記憶の断 片ではない……もっと…より冷たい……闇の気配………

悪寒にも似た冷たさが纏わり ついて手に冷や汗が流れている。

「姉さん……」

そこにモニターが表示さ れ……自分と同じように顔色をやや蒼くし、表情を顰めているリンとカムイが映る。

どうやら、この冷気にも似た 気配を感じているのは自分だけではないらしい……低く唸る…ひたひたと忍び寄る破滅の足音………たとえるなら、天災の前触れのようだ………

「長居は無用ね……急いで外 へ………」

このメンデルが地球軍とザフ トの両方から発見された以上、もはやこの宙域に留まるのは危険だ。

恐らく、他のメンバー達もこ の宙域より離脱しようとするはず…なにより、このままここにいるのは危険だと本能が告げている。

レイナの言葉に頷き、イン フィニティ、エヴォリューション、ルシファーの3機が立ち上がる。

そして……外部へと脱出しよ うとした瞬間、後方からビームが降り注いだ。

「っ!」

反射的にデザイアを掲げて ビームを受け止める。

眼を向けると……コロニーの 空に滞空するゲイル、ヴァニシング、ディスピィア、バルファスの4機………まるで、こちらを待っていたような状況だ。

「BA……お望みの過去は知 れたかな?」

皮肉るように呟くウォルフに 歯噛みする……だが、レイナは否定できない。

過去は確かに知れた……半 ば、悪夢に近い形で…………そんなレイナの苦悶を見透かしたようにウォルフは笑う。

「さあて……次のステージの 前座だ………俺と愉しもうぜ、BAぇぇぇぇぇっ!!」

吼え叫びながら……ゲイルが ブースターを噴かして急加速する。やや呆然となっていたレイナは咄嗟に反応できず、インフィニティはゲイルに体当たりを喰らい、そのままコロニーの強化ガ ラスへと機体をぶつけられた。

「ぐぁ……っ」

小さな呻き声を漏らすレイ ナ……だが、ゲイルはなおもブースターを噴かし、インフィニティを押し進める。

その圧力によって強化ガラス に亀裂が走り……やがて、均衡が崩れ落ち、弱体化していたガラスは粉々に砕け散り、インフィニティはそのまま宇宙へと弾き飛ばされた。

空気の排出が始まり、コロ ニー内部に気流の嵐が巻き起こる。

「姉さん……っ!」

インフィニティの後を追おう としたが、そこへビームの銃弾が轟く。

ハッと顔を上げると…ヴァニ シングがビームアクスを振り上げて迫ってきた。

舌打ちしてインフェルノを抜 いて受け止める……エネルギーがスパークし、そのままヴァニシングは押し切ろうと力を込める。

だが、リンはエヴォリュー ションのレールガンを起動させ、発射した。

レールガンの直撃を受け、 ヴァニシングは弾かれる……だが、その後方から姿を見せたディスピィアがビーム薙刀を振り回しながら迫る。

縦横無尽に…しかも長いリー チの武器の猛攻に反撃できず、後退する。距離を取るが、追い討ちをかけるように2連装ビームライフル:ラルヴァを発射する。

気流が吹き荒れるなかで、動 きも満足にできない……ビームをデザイアで受け止めながら、エヴォリューションは先程のガラスの穴から宇宙へと脱出する。

その後を追うディスピィアと ヴァニシング……そして、バルファスは手持ちのビームキャノンを所構わず連射し、ルシファーを追い込む。

高出力のビームがコロニーの 地表を吹き飛ばし、内部の崩壊が始まっていく……カムイは歯噛みしながらビームを回避し、なんとかコロニー外部に出ようとする。

下手をすれば、コロニーが崩 壊してその余波が襲い掛かる……後方からのビームに晒されながらも、ルシファーは崩れた外壁を突破し、宇宙へと脱出すると同時に機体を反転させ、ビーム キャノンで砲撃する。

だが、バルファスはエネル ギーシールドを展開してビームを拡散させる。

「はっ、無駄無駄!」

卑屈に笑いながらテルスは ビームキャノンを乱射する。

それを回避しながら遠距離戦 が不利だと悟ると、カムイはビームサーベルを抜いて斬り掛かる。対し、バルファスも左腕のビームクローを展開して受け止める。

エヴォリューションが態勢を 立て直し、ヴィサリオンでヴァニシングとディスピィアを狙撃するも、ヴァニシングはプラネットを展開してビームを弾き、ディスピィアはMA形態に変形して 突進してくる。

その突進をかわし、ドラグー ンブレイカーで砲撃する……幾条ものビームが伸び…ディスピィアは螺旋を描くように回避するが、全てをかわせず一発が機体を掠め、失速する。

エヴォリューションはそのま ま注意をヴァニシングへと戻し、スコーピオンを飛ばす。アンカークローがヴァニシングの右腕を掴み取り、そのまま引き付ける。

均衡の体勢になる……リンと アディンは互いに相手をコックピット越しに睨む。

弾かれ、宇宙へと身を放り出 されたインフィニティは態勢を立て直すが、そこへゲイルがファーブニルを飛ばす。

竜の牙を身を翻してかわし、 ケルベリオスを掴んで投げ飛ばす……ビーム刃を展開し、高速回転で迫るケルベリオスをゲイルはビームサーベルで弾く。

弾かれたケルベリオスを掴 み、装着すると同時にオメガを放つ。間髪入れずゲイルもまたネオスキュラを発射し、ビームが2機の中央で激突し…周囲にビームが拡散し、明々と機体を映え させる。

歯噛みするレイナ……その 時、通信が入ったので音声が繋がる。

《レイナ、無事だったのです か!?》

聞こえてきたのはラクスの 声……音声のみで表情は解からないが、かなり切羽詰ったような焦った口調だ。

「なんとかね………状況 はっ!?」

サイドレールガンを乱射して くるゲイルの攻撃をかわしながら…そして、やや低い声で問う。立て続けに垣間見た自身の出生…そして、その中に存在する闇に流石のレイナも平然とまではし ていられず、内心に微かな動揺と苦悶を憶えていた。

だが、それをなんとか押し隠 して現在の状況を尋ねる……レイナ様子が若干おかしいことにラクスは微かに感じ取ったが、敢えてそれ呑み込み、素早く応じる。

《現在、エターナルとクサナ ギでザフトと、オーディーンとネェルアークエンジェルで地球軍側と交戦中ですが、状況的にはかなりまずい状態です》

苦い口調で告げるラク ス………ただでさえ、地球軍との連戦で消耗している横合いにザフトの介入……こちらの被害もかなり大きくなっている。

「そう……ラクス、メンデル は放棄する。この宙域から脱出する……!」

ビームサーベルを振り被って 迫るゲイルをデザイアで受け止め、それを弾きながらレイナはこの状況を切り抜ける策をラクスに実行するように言い放つ。

 

 

レイナからの通信を受けたラ クスは、考え込む……恐らく、レイナ達も地球軍側の例の新型機を相手に回っており、こちらの援護にも向かえない状態。

だからこそ、レイナは自分に この宙域を脱する手段を探せと……いや、任したのだ。

その責任にラクスは攻撃を続 けている真正面のザフトの艦艇を睨みながら頭の中に脱出をシミュレートする。

前後を地球軍艦艇とザフト艦 艇に挟まれ、砲撃が轟き、周辺宙域にはMSが三つ巴になって激しい混戦を繰り広げている。それを見渡し……やがて、一つの案を導き出したラクスは眼下のバ ルトフェルドに言葉を掛ける。

「バルトフェルド隊長」

「何です?」

振り向いたバルトフェルド に、ラクスは前を見据えながら自ら考えた作戦を提示した。

「クサナギとともに全ての火 線をヴェサリウスに集中させてください」

冷静な口調で告げられた指示 にバルトフェルドは思わず眼を丸くする。

「……あの艦を突破し、最大 船速で現宙域を脱出しましょう」

「そんな! アレに向かって いったら、3隻からの集中砲火に晒されますよ!?」

オペレーター席のダコスタが 驚きの声を上げる。彼からしてみれば、戦略シミュレーションなどを経験してもいないラクスの案は無謀と思えたのだろうが、ラクスはそれを覆すほどの聡明さ と大胆さもその内に兼ね備えていた。

「ですが…突破できれば、一 番追撃される可能性も低いのではありませんか?」

微笑を浮かべてそう言い放 つ。

そこには自信と先見が見え隠 れする……バルトフェルドも内心、感心したように舌を巻く。

「それに、地球軍艦艇がAA 級だとすれば、あちらを正面突破するのは危険です」

さらにラクスはその案を補足 するように呟いた。

「……成る程」

その意図を察したバルトフェ ルドは不適に笑う。

確かに、地球軍は今一番損害 を受けていて突破するのは容易いだろうが、地球軍側の旗艦ともう一隻はAA級……ならば、当然陽電子砲が艦首に備わっている。もし正面突破を試みてアレを 放たれてはこちらが一溜まりもない。

仮に突破できても、まず高速 艦のナスカ級であるザフトの追撃を振り切ることは難しい。

だが、ザフト側の旗艦を叩け ばまず間違いなく指揮系統が一時は混乱する。そして負傷者の救助などですぐには動けなくなる。そうなれば、地球軍側もザフトを突破してこちらを追撃するの は難しくなる。共通の敵がいるとはいえ、両者は所詮、敵同士なのだから……

「その作戦、いただきましょ う」

その笑みにラクスは毅然と頷 いた。

 

「ヴェサリウスを突破す る!?」

リンクが繋がれた各艦の艦長 達に向かってバルトフェルドが先程のラクスの提案を伝え、マリューがやや驚きに眼を見張る。

マリューも同じように3隻で 向かってきているザフト艦の旗艦を突破して離脱するのは無謀と思えたのだろう。

おまけに地球軍側も執拗に 狙ってくるために背をなかなか向けられない。

だが、そんなマリューの困惑 を承知でバルトフェルドは頷く。

《ああ…どの道、このまま挟 まれればどうにもならん……厳しいが一か八かだ!》

その時、負傷したムウがブ リッジに入り、マリューの隣に立つ。

マリューは驚いて負傷したム ウを見やる……すると、ムウはやや苦しげな表情だが苦笑を浮かべて頷いた。

《解かった…やってみよ う……しんがりはオーディーンとネェルアークエンジェルで務めよう。ラミアス艦長、振り切れるか?》

ダイテツがバルトフェルドの 提案に頷き、マリューを見やる。

しばし逡巡し、ムウを窺うよ うに見上げると…ムウも苦笑のまま頷く。

「やるしかねえだろ?」

確かにその通りだ……このま まではこちらがジリ貧になってしまう。

決意したマリューは強く頷き 返した。

「解かりました! 各パイ ロット達にもそれを伝えて!」

矢継ぎのごとく指示を飛ば す。

展開中のMS部隊が他を牽制 し、艦へと帰還していく。

その時だった………

 

――――――アークエンジェ ル……!

 

戦場に少女の声が響いたの は……突如、宙域全てに響いたその叫びに近い声に、一瞬戦艦やMSの動きが止まる。

戦場は静寂に包まれる……そ の声が誰のものであるかを察していたイザークは歯軋りする。

あんなナチュラルの少女を戦 闘宙域に落として隊長は何がしたいのだ……

「ジュ、ジュール先輩……こ れはいったい……?」

冷静なシホも困惑と戸惑いを 隠せない……だが、イザークにはそれに答える術を持ち合わせていない。

誰もが困惑するなか……ネオ のストライクファントムと交戦していたクルーゼはほくそ笑み…そして………ウォルフ、テルスの二人が全てを察したように表情を歪めていた。

息を呑むネェルアークエン ジェルのクルー達……ノイズ混じりに響く少女の声には確かに聞き覚えがある。

《アークエンジェル……!  私…っ、私ココ………っ!!》

必死に自分の存在を示し、助 けを求める声……その声の主を口にする前に、泣きじゃくるような悲鳴が響く。

《フ、フレイです…っ、フレ イ=アルスター……! 私…っ、サイ! マリューさん!!》

はっきりと名を告げ…そして この場にはあり得ない人物の声にクルーは動揺を隠せない。

マリューは愚か、ムウでさえ も困惑している。

確か、自分と同じ艦に乗るは ずだった少女……あの時、乗るように指示したの間違いなく自分だ。

「フレイ……?」

「どうして……?」

ミリアリアとサイが呆然と呟 きながら、メインモニターに映る戦火に視線を向けた。

この戦場のどこかに、フレイ がいる……アラスカで転属になったはずのフレイが、なぜこのような宙域にいるというのだ。

彼女はてっきり未だ地球軍に いるものとばかり思っていた彼らからしてみれば不可解極まりない。

《おい、何の騒ぎだ、これ は!?》

通信から状況の呑み込めない バルトフェルドが苛立ちを隠せずに荒い声を上げる。

だが、当の彼女のことを知り えていても今の事情を知らないマリュー達には答えられない。

カガリもフレイの声に一瞬、 呆然となった……砂漠での戦いからずっとキラと一緒にいた少女……自分はあまり言葉を交わさなかったが……

そして、同じくその声に聞き 覚えのあるラクスは、ただ黙って前を見ていた。

デブリ帯で出逢い、そして父 を眼の前で失ったナチュラルの民間人の少女……何故、彼女が……ラクスも内心の動揺を隠せずに強張った面持ちだった。

 

 

 

「……フ…レイ………?」

国際救難チャンネルでの通信 は、フリーダムにも届いていた。

コックピット内でキラは呆然 となり……そして、胸を引き裂くような傷みとともにフレイの名を反芻する。

地球にいるはずのフレイが何 故ここに……混乱する思考のなかで、キラの脳裏に、マーシャル諸島での出撃直前に見た、フレイの姿が甦る。

もう数ヶ月も前のことだとい うのに……まるで昨日のことのように鮮明に記憶が駆け巡る。

最後にフレイを見た、あの時 のことを………

潤んだ瞳で…俯いて…躊躇っ て……それでも何かを伝えようとしていて……もどかしげにしていたフレイに向かって……後でと…帰ってからと約束したまま聞いてあげられなかったまま…… そのままずっと離れて………フレイの話を聞くことも……彼女を傷つけたまま、ずっと話を聞いてあげていなかった………

内を刺す鋭い傷みにキラは今 が戦闘中ということも忘れ、フリーダムは動きを止めてしまう。

「キラ?」

突然、無防備に静止するフ リーダムに向かってアスランが不審げに呟く。

だが、そんな隙を敵は見逃さ なかった。

「もらっ たぁぁぁぁぁっ!!」

クロトが吼え、背後に接近し ていたレイダーがフリーダムの背中に向けてツォーンを放った。

ビームが無防備なフリーダム の背中に着弾し、直撃を受けてフリーダムの左翼が吹き飛んだ。

「ぐっ…!」

「キラ!!」

「いけない!」

アスランが叫び、リーラも強 張った表情でメインモニターに映る動きの止まったフリーダムに焦りを感じた。

その間にも、レイダーとフォ ビドゥンがフリーダムに迫る。

レイダーがツォーンを、フォ ビドゥンがフレスベルグをフリーダムに放つ……それを庇うようにジャスティスとスペリオルが割り込む。

ジャスティスがシールドで ツォーンを防ぎ、スペリオルがブリューナクのシールドでフレスベルグを防ぐ。

だが、執拗に攻撃を続ける敵 機にジャスティスのシールドが融解し、限界が近づいていた。スペリオルのコックピットでも長時間のドラグーンシステムの使用にリーラも疲労を憶えていた。

だが、キラは衝撃に動こうと せず……ただ叫ぶフレイの声と姿に呆然となるだけであった…………

 

 

 

 

《やめて……もう、やめ て………っ》

悲鳴にも近い金切り声を荒げ るフレイの叫びはドミニオンにも届き、アズラエルも訝しげにナタルを見上げる。

「何なんです、コレ?」

だが、ナタルはそんなアズラ エルの疑問に答えられず、半ば放心状態となっていた。

自分に聞き間違いがなけれ ば……あの少女のはずだ………

「ザフト脱出ポッドより、国 際救難チャンネルです」

通信士からの報告に、ナタル の中の疑念が確信に変わる。

フレイ=アルスター……彼女 のことはナタルも記憶のなかに留めていた。

アークエンジェルを退艦する 時に一緒に降りたはずの少女だ……自分とは別の搭乗艦であったために彼女の詳しい経緯は解からなかったが、少なくとも転属先に現われなかったことから、ア ラスカでサイクロプスに巻き込まれたか、てっきりアークエンジェルと行動を共にしているとばかり思っていただけに思考が混乱する。

そして、ネェルアークエン ジェルからの砲撃が一瞬緩まったことから、恐らく向こう側も同様に困惑しているのだ。

何故彼女がザフトの捕虜など に……困惑するナタルを他所にアズラエルはなおも不審げに首を傾げる。

「捕虜って……この子がです か? 子供ですよね?……アルスター………?」

緊張感のない声で、フレイの ファミリーネームに聞き覚えがあったアズラエルが、やや眉を寄せて顎をなぞりながらその名を思い出そうとする。

だが…ナタルは僅かに俯き、 自分が今すべき行動について思考を巡らせ……そして、今まで沈黙していたナタルが手元の通信機をカラミティへと繋いだ。

「カラミティ、サブナック少 尉! ポッドを回収しろ!」

《はぁっ!?》

唐突な指示にオルガが声を上 げるが、それに構わずナタルはなおも言いつける。

「急げ!」

キツイ口調でそう言われ、流 石に命令に逆らえないように調整されている以上、命令に渋々と従った。

カラミティが戦線を迂回し、 ポッドの救難信号を追って飛ぶ……その勝手な指示にアズラエルが不満そうに声を上げる。

「ちょっと艦長さん?」

心外そうに…それでいてそん な事は放っておけと言わんばかりの態度にナタルは面倒げに答えた。

「彼女は、亡くなったジョー ジ=アルスター事務次官の令嬢です。急げ、サブナック少尉!」

ブルーコスモスのシンパで あったジョージ=アルスターの遺児であり、そして捕虜として捕まっていたのなら救出は正当なものだ。だが、そんな建前の理由がなくともナタルは感情的にフ レイを助けようとしたのだ。

今現在、自分達とザフトの両 方から挟まれているアークエンジェル側では救出に困難だという理由もあったかもしれない……だが、アズラエルはなおも不審げに口を挟む。

「いや、しかし…だから、罠 じゃないってことないじゃない! それに、アルスターって偽名を使っているだけかもしれないじゃない」

ナタルに言われてアズラエル もようやく思い出していた。ブルーコスモス内部でもサザーランドに並ぶぐらいの自分へのシンパであり、使い勝手のいい部下であったが、所詮はその程度だ。

そんな相手の娘だというだけ で救助を行うなどアズラエルからみれば余計なことにしかならないのだろう。

「ですが…!」

ナタルも一歩も引かず、なお も言い募ろうとした時……通信機から奇妙な単語が出た。

《か……鍵を持ってるわっ!  私!!》

――――鍵……

そう形容したフレイの言葉に またもや一同は怪訝そうな表情を浮かべる。

ナタルやアズラエルも例外で はなく……聞き間違いかと思ったが、なおもフレイの言葉が続く………

《戦争を終わらせるための 鍵……! だから…だからお願い!!》

あまりに抽象的で奇妙な言葉 に、誰もが疑念を渦巻かせるなか……唯独り、アズラエルだけは眼の色を変えて歪んだ笑みを浮かべる。

「へぇ……面白いことを言い ますね、彼女………」

まるで、獲物を狙うかのよう な眼と嫌悪感を憶える笑みを浮かべるアズラエル……

「なにをお持ちなのかな…… 鍵って………いいでしょう…そのポッド、回収してください」

打って変わった態度にナタル は呆れと不審そうに皮肉るように返す。

「そんなもの…そちらは信用 なさるのですか?」

「だって気になるじゃない… 普通言いませんよね……戦争を終わらせるための鍵…なんて言葉………」

皮肉も通じず、しれっと返 す…まるで、新しい玩具を前に興味津々の表情を浮かべる子供のような無邪気な笑み……ナタルはなおも嫌悪感を憶えながらも、頭にはアズラエルの言うように フレイの言葉が引っ掛かっていた。

いったい、フレイは何を持っ ているのか……アラスカでの後、いったいどのような経緯を辿って捕虜になり、そして鍵なるものを手に入れて再び姿を見せたのか……その疑念がナタルの中に 渦巻き、ポッドを回収に向かうカラミティを見やった。

 

 

 

 

フレイの言葉と存在にしばし 我を失っていたキラだったが……視界の隅でカラミティが発光信号を点灯させるポッドに向かっていくのを収め、ハッと我に返る。

「フレイ……っ!」

フレイが言った鍵のことなど 頭になく……ひたすらに彼女を救うためだけにキラはフリーダムで懸命に後を追った。

既に片翼を失っているフリー ダムでは通常の加速にも届かない…だが、キラは必死に残ったウイングとバーニアを全開にして追い縋る。

「キラ! やめろ!!」

「無茶だよ!」

アスランやリーラの静止も聞 こえず…キラはスロットルを踏み込む。

先行するカラミティの先に見 えるポッド……あの中にフレイがいる……泣いている…自分が護ると約束した相手が………

だが、そのポッドにばかり眼 のいっていたキラは背後から接近する機影に気づかなかった。

上方からフォビドゥンがフレ スベルグを放つ……ビームはそのままフリーダムの頭部を掠め、頭部の半分が抉り取られた。

装甲が溶け、PS装甲がダウ ンし、灰色に戻った瞬間…回り込んだレイダーがミョルニルを発射し、それはフリーダムの頭部を完全に破壊した。

頭部を失い、態勢を崩すフ リーダム……衝撃に揺れるコックピット内でキラは呻き、全周囲モニターが一瞬ぶれる。

その姿にアスランとリーラは 眼を見開いた。

 

 

 

ゲイルと戦闘を繰り広げてい たレイナにもフレイの叫びは聞こえていた。

(フレイ=アルスター……?  なんで、こんなとこに……っ)

全周波通信で聞こえてきた少 女の声は、レイナにも聞き覚えがある。

まったく解からない……何 故、彼女がここにいるのだ………てっきり地球軍に残っているとばかりに思っていたレイナは戸惑っていたが、それよりも気になるのはフレイの発した言 葉………

(鍵? 戦争を終わらせ る……?)

まるで甘い誘惑のような言 葉……だが、逆にそれがレイナに不審感を抱かせ、全身を巡る嫌な予感と悪寒は増す。

その鍵がいったい何なのかは 解からない……だが、それを地球軍の手に渡してはならないという直感……すぐにでもポッドを回収に向かいたいが、ゲイルが阻み、なかなか向かわせてくれな い。

ファーブニルをかわした瞬 間……先程から断片的に続いていた頭への傷みが鋭く…しかも大きくレイナの脳裏を駆け抜け、レイナは思わず片手で頭を押さえる。

「うぁ…っ………」

まるで頭の中が粉々にされそ うな鋭い傷み……レイナはヘルメットのバイザーを上げ、ヘルメットを乱暴に剥ぎ取る。

無重力のコックピットに舞う 銀の髪……レイナは右手で頭を押さえたまま呼吸を荒くし、苦しむ。

「な、なに……これは…この 感じは………っ」

まるで……頭が壊れそうなぐ らいの巨大な波のような感応波………何かが…くる……

そう確信した瞬間……懐にゲ イルが飛び込んできた。

反応のできなかったインフィ ニティは振り下ろされたビーム刃にダークネスを斬り裂かれ、砲身が斬り落とされる。

ダークネスが爆発し、その衝 撃が機体を襲う。

「ぐっぅぅ!」

頭を刺す傷みと衝撃に呻くレ イナ………だが、ゲイルは追い討ちをかけようとせず…そのまま静止する。

なにかを待っているような体 勢……そして…それは現われた。

メンデルの外壁の一部が内部 から破壊され、爆発が舞い踊る。

その巨大な爆発に多くの者が 動きを止める……爆発の中から現われたのは………純白の物体………まるで、サナギのような外観を持つ純白の姿………

宇宙の闇に浮かび上がるその 純白で覆うものが剥がれるように崩れていく。

その様は…まるで、天使の羽 が舞い散るように錯覚する……上部に位置する外装が落ちた瞬間…そこには人型と思しき頭部が現われる。

そして……その姿は、羽を閉 じた天使であった。

頭部に真紅の瞳を煌かせ…… 身体を覆っていた純白の羽がゆっくりと拡げられていく…………

白き8枚の羽を拡げた下から 現われる純白と銀のボディ……その姿は、まさに白き天使であった………そして…その機体形状は……インフィニティ、エヴォリューションと同型であっ た………

一点の曇りもない白銀のボ ディに身を包み、白き8枚の翼を羽ばたかせるボディのなかで唯一……真紅に輝く瞳…………

今……白き天使が戦場に舞い 降りた。

 

 

 

その白き天使の姿に誰もが眼 を奪われ、呆然となる………

だが……その姿を確認した者 のなかで、二人だけが違った反応を見せていた………

オーディーンのブリッジで、 その姿に眼を見張り、歯噛みしながら拳を握り締めて振るわせるダイテツ……そして、クサナギの医務室でモニター越しにその姿を確認したフィリアがまるで、 金縛りにあったかのように凝視する。

「遂に…眼醒めてしまっ た………DEM−000……メタトロン………」

呆然と……その天使の名を呟 く。

そして、ハッとメタトロンと 呼んだ白銀の機体の前に対峙するインフィニティに気づき、モニターに縋りついた。

「い…いけない……逃げ てっ、レイナ………っ!」

必死に呼び掛けるも……その 叫びは届かなかった………

 

 

突然の未確認の機体…イン フィニティ、エヴォリューションと同型のボディを持つ白銀の天使の姿は3つの勢力に混乱を齎していた。

それは、これから起こるであ ろう扉が開かれるのを待つクルーゼも例外ではなった。

「むぅ…なんなのだ、アレ は……?」

流石に動揺を隠せない……あ のような機体は自分が書いたシナリオには登場しない。

だが、そこへ通信が入った。

《クルーゼ隊長》

「ガルドかね? 今まで何を やっていたのだ…それと、あの機体は何なのだ?」

ガルドだけが先程戻らず…ま た、彼らがメンデルから出たと同時に姿を見せた機体の所在を尋ねると、ガルド…いや、テルスは用意された答を答えるかのように呟いた。

《あれは、メンデル内部にい た傭兵のもののようです。こちらには仕掛けない限りはあちらも仕掛けてはきません》

その答にクルーゼはやや考え 込む……だが、相手をしているストライクファントムがビームライフルで狙撃してきたので、深く思考している余裕が消えた。

(まあいい…多少のイレギュ ラーはあろう………)

今回は単なる部外者の登場と ばかりに割り切るクルーゼ……

「解かった…君は、そのまま エターナルとオーディーンの迎撃に向かってくれたまえ」

《了解》

通信を切ると同時に……テル スは含んだ笑みを噛み殺す。

(出来損ないのクローンのあ んたにも、もう少し頑張ってもらわないといけないんでな……あんたは所詮、自己満足のシナリオに心酔している三文作家なのさ)

内心でクルーゼに皮肉るよう に嘲笑を浮かべる。

クルーゼは自らがシナリオを 書いたように錯覚しているが…そのシナリオも仕組まれたものであり、そのシナリオを書いた脚本家であり、傍観者にでもなったような神気取りのクルーゼ自身 も、愚かな喜劇の役者を演じる役回りであることを知る由もない……道化という名の役回りを………

「さて……」

テルスはバルファスのビーム キャノンで砲撃しながら、ルシファーに接近する。

ルシファーはビームを回避、 シールドで防御しながら耐えるが……急接近したバルファスは左腕のビームクローを振り上げて、ルシファーのビームライフルを弾く。

「ぐっ…!」

カムイは歯噛みする…咄嗟に 引き離そうとバルカンを発砲するも、バルファスはそのままビームクローを振り下ろし、ルシファーのボディを斬り裂く。

瞬時にシールドを突き上げて ビームを受け止めたが、ビーム排熱の許容を超え、シールドは斬り裂かれ、ボディにビームの傷跡が走る。

もしシールドで威力を半減さ せていなければ、間違いなくコックピットごと焼き斬られていただろう。

爆発が起き、ルシファーは弾 かれる。

「04…貴様の始末は後回し だ……まずは…規格外品を抹消するか………」

侮るように鼻を鳴らし、ルシ ファーを一瞥すると…そのまま、視線を離れた場所で戦闘を行うスペリオルに向け、バルファスは加速した。

 

 

 

ゲイルはそのまま宙域を飛 び、周囲に展開していたザフトのジンがゲイルに向かって発砲してきた。

無論、ジンの携帯する突撃銃 など、TP装甲のゲイルには効果がない。

「はっ……雑魚がっ!」

見下すように慇懃な物言いで 叫び、ファーブニルを飛ばす……左右に向かって放たれた竜の牙は、ジン2機のボディを貫き、爆散させる。

ファーブニルを戻すと同時に 残った一機が恐怖にかられたように突撃銃を乱射する。

「いいねぇ…もっと怯えろ!  竦み上がれっ!!」

相手の恐怖を愉しむようにゲ イルはファーブニルのビーム砲を放ち、ジンの右腕、左腕、右脚、左脚…と順番に撃ち抜いていく。

じわじわと死を愉しむよう に……そして…最後にネオスキュラを放ち、ジンの機体を蒸発させた。

「つまらん……遊び相手にも ならん…」

あまりに呆気ないことに不満 気味に鼻を鳴らす。

そこへ、ドミニオンからの通 信が響き…ウォルフは面倒くさげにONにする。

《アスカロト特務大尉、貴様 勝手な行動を起こすな!》

最初に飛び込んできたのはナ タルの叱咤……最初の戦闘で勝手に単独行動を取った挙句、しかも連絡すら断つのは指揮系統の乱れに繋がるとばかりに諌めようとするが、ウォルフはどこ吹く 風とばかりに笑みを浮かべる。

「別にあんたにそこまで話を する必要は無いな……まあ、どうしても理由が聞きたいんだったら、ベッドの上で教えてやってもいいぜ」

《貴様…っ!》

こんな時にまで侮辱混じりに 相手をからかう男に生真面目なナタルは憤怒を抑えることができない。

《まあ、落ち着いて艦長さ ん…ウォルフ、それよりあの白いMSは何なのかな……?》

割り込むように通信に出たア ズラエルに、ウォルフは相槌を打つ。

「ああ…アレはメンデル内に いた傭兵らしい……まあ、手を出さなければ害は無い」

《へぇ…でも、アレもなんか よくあの2機に似ているね……できれば、手に入れたいのだけど……》

流石に鋭い物言い……アズラ エルとしては、興味を引かれたものはなんとしても手に入れたい性質だ。それに対し、ウォルフは苦笑混じりに答える。

「別に構わんだろ……それ に、鍵を持っているとかいう小娘の声があったな。まずはそっちを手に入れてからの方がよかろう」

《……やれやれ、仕方ない ね》

意外にもあっさり引いたこと にナタルは怪訝そうに見やる。

「俺は雑魚の掃討をする…… 切るぞ」

無愛想に通信を切り、含みの ある笑みを浮かべる。

「鍵か……テルスの持ってい た例のやつか。まあ、あれは是非にもあの坊主に渡してもらわなきゃな」

内心に興奮を憶えながら、 ウォルフはポッド回収に向かったカラミティとそれを追うフリーダムらの方向に向かって機体を加速させる。

 


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