「ヴィア=ヒビキのことだけ ど……少し、解かるかもしれない」

唐突に切り出したレイナに、 一同は不審そうに首を傾げる。視線が集中するなか、レイナは懐から一枚の記録ディスクを取り出し……それを、ブリーフィングルームに備わっているモニター 画面の端末へと歩み寄り、ディスクをセットする。

端末がディスクの内容を読み 取り……やがて、モニター画面に映像が映し出されていく。

ノイズの映像が切り替わ り……やや粗い画面に所々ノイズが入るが……映し出されたのは、工場のような場所だった。

映し出される映像に…見覚え のあったレイナやリンは眼を細める……はっきりとは解からないが、メンデルで見た、あのMSデッキのようだ。

やがて、そこに声が入ってく る。

『マルス博士……』

透き通ったような女性の 声……そして、呼ばれた名前にフィリアとリーラがビクっと身を震わせる。

映像には、機械パーツを扱う 白衣の男性が映し出され……そこに、茶髪の女性が歩み寄るように映された。

その二人の顔を見た瞬間、 フィリアは思わず声を張り上げた。

「ヴィア! マルス博 士……っ」

間違いない……と、同じ ウォーダンの研究ラボで別の部署ではあったが、同僚のマルス=フォーシアと親友であるヴィア=ヒビキだった。

だが、フィリアの言葉に反応 し、キラ、カガリ、リーラは喰い入るように映像に見入る。

画面には、自分達の本当の両 親が映っている……両親の姿を眼に焼きつけようと必死に見入る。

『どうですか……タイプTと タイプUは?』

『ああ…なんとか、本体は間 に合いそうだが……肝心の動力源がな………こればっかりは、私の専門分野ではないからな…せめて、セシルが…あ、いや……すまない』

『いいんです……セシルのこ とも、吹っ切れたわけじゃないですけど…いつまでも、哀しんでばかりはいられませんから』

デスクに置かれた記録媒体に 映し出されるヴィアとマルスは、画面の上を見上げている……それが何かははっきりと解からないが、それでも二人が祈るようななにかを感じ取る。

(この人が……私の………)

リーラは半ば、放心した面持 ちで映像に映るブラウンの髪を持つ男性を見やる。

この人物が……母であるアリ シアが真に愛し、そして自分の本当の父親である人物……ジークマルとは違った、優しげな男性………その声と姿に、リーラはどこか嬉しさにも似た感覚を感じ ていた。

キラもカガリも、初めて聞く 母親の声に真剣に集中し、聞き入る。

『私は……卑怯なのかもしれ ない………』

映像に映るヴィアが哀しげに 微笑を浮かべる。

『結局は…あの子達に頼って しまっている………どんなに言い訳しても……あの子達を戦いへと追いやってしまうことには変わりない………』

被虐的に自嘲するヴィア…… 眼を伏せるヴィアに向かって、マルスが硬い…それでいて苦い口調で告げる。

『それは私も同じだ…… ウォーダンの口車に乗り、疑問を持たずにあの機体を造り上げてしまった私の………そして、それに対抗するためにとはいえ、アリシアと…リスティアには、本 当に詫びても赦されないことをしてしまった私の方が大罪人だ』

「お父さん……」

映像の向こうで苦悩するマル スに…リーラは、アリシアから聞かされた時に感じた身勝手さを憤ったことを、悔やんだ。母の言った通り……父も、悩み…そして苦しんで自分を遺伝子変革し たのだ。自ら、手を罪に染めて………

『だからこそ、これを完成せ ねばならない………見捨ててしまったアリシアとリスティアのためにも……』

悲壮さと決意を感じさせる表 情で、マルスは再度眼前に見えるMSの四肢と思しきものを見上げている。

「アレは…まさか、 DEM………」

フィリアがポツリと漏らし… レイナとリンはその微かな呟きに反応したが、他の誰もそれに気づいた者はいなかった。

『はい……私も……あの子達 を…レイとルイを……私の娘達を…信じています………』

同じく決意と覚悟を垣間見せ る表情を浮かべ、見上げるヴィア……そこで、映像が再びノイズにまみれ……

「あっ……」

カガリが声を上げ、リーラも 思わず身を乗り出しそうになる。

初めて聞いた両親の声……た とえ、未だ受け入れられなくても、やはり気にせずにはいられない………

そのまま数分…映像が雑に乱 れていたが……やがて、再び荒い画像ながらもクリアになり……薄暗い部屋が映し出される。

小さなスタンド照明の灯と、 壁際に眠る二人の少女……その穏やかな寝顔を浮かべ、肩を寄り添うように眠りについているのは、紛れもなく幼き日のレイナとリン……皆が映像とレイナ達を 交互に見比べる。

当の本人達も、やや難しげな 表情で、画面に映る過去の自分達を見詰めている……眠る二人の寝顔はあどけなく……とても、呪われた運命を背負って生まれてきたとは思えないほどの穏やか さが漂っていた。

そこに、影が掛かり…人影が 映像に入ってきた……白衣を纏ったヴィアが、微笑みながら眠る二人に毛布を掛け、その髪を愛おしそうに撫でると……身を翻し、記録媒体が置かれた前のデス クに腰掛け、ジッとこちらを見やりながら一息つくと、表情を俯かせる。

だが、すぐに顔を上げ……こ ちら側を見詰めるように話し掛けてきた。

『今……この映像記録を見て いるのが、誰なのか…私には確かめる手段がない……もしかしたら、まったく関係のない人の手に渡っているかもしれない………』

やや苦笑混じりに話し掛けて くるヴィアに、皆は真剣に聞き入る。

『でも……レイ、ルイ……… 貴方達二人が、この映像を見てくれていると信じています……そして…恐らくこれを見ているということは……もう、私もこの世にはいないということも』

苦い口調で哀しげに微笑 み……そして、口を開く。

『レイ、ルイ…貴方達は、恐 らく自分の出生を知ったはず……だけど、決してその運命に翻弄されないで………貴方達は、自分の命に価値がないと考えるかもしれない……だけど、貴方達は 生きている……今、この刻を………生きている以上は、貴方達もまた、一つの命として……』

ヴィアは後ろを振り向き…眠 るレイとルイを見やり、微笑を浮かべる。

『ウォーダンも…そしてユー レンも……間違ったのかもしれない……だけど、それを止められなかった私も、決して赦されないでしょうね………でも、フィリアが貴方達と巡りあわせてくれ た……私は嬉しかった…こんな私でも、救える命があるって………』

「ヴィア……」

自虐的に微笑むヴィアに、 フィリアは傷ましい思いを浮かべる。

『でも……呪われた運命は… きっと貴方達を離さないということを……私は知ってしまった………カイン=アマデウス………あの子は、ずっとこちらを見ている……そして…全てを呪い、破 滅へと導こうとしている………それは、絶対に赦してはいけない……あの子にも、そんな道は進んでほしくない………』

胸の前で、手を握り締め…… 唇を噛む……己の無力さに…………

『レイ、ルイ…貴方達は、確 かに呪われた運命に縛られているかもしれない……でも、貴方達は、ちゃんと人としての心を持っている……それだけが、私の…唯一の救いで……希望よ……… あの子達を…救ってあげられる……』

懇願するように、眼元に涙を 浮かべて言葉を紡ぐ。

『マルス博士が…貴方達のた めに、2体のDEM…デウス・エクス・マキナを完成させ…プラントへと送ったわ……インフィニティ……エヴォリューション……あの2体は、貴方達二人のも の………』

ヴィアの口から出た単語に全 員が驚いて、二人を見やる……だが、二人は動じた様子も見せず、画面に見入っている。

『…もうすぐ、ここもブルー コスモスに襲撃を受けるでしょう…私にできるのは……貴方達二人をせめて逃がすことだけ……罰を受けるべきなのは、私達……貴方達には、なんの罪もな い………生きて…たとえ、どんなに辛くとも……生きて…それが私の…せめてもの願い………短くても…貴方達と過ごせて、私は幸せだった……貴方達という娘 を持てて、私は………っ』

啜り泣きながら、ヴィアは顔 を逸らす……手で顔を覆い…眼からは涙が溢れている。

『……さよなら…レイ、ル イ……私の…娘達………もし、赦されるのなら………貴方達があの子達に…キラとカガリに逢えたら…こう伝えて……愛してあげられなくて…ごめんなさい… と………夫を止められなかった…愚かな母を……赦して…と………』

懺悔するような告白と…啜り 泣きを最後に………映像は途切れた…………

キラとカガリは、眼を落と し……母が語った懺悔の言葉を噛み締める。

レイナは徐に立ち上がり…映 像を切り、そのディスクを取り出すと……それをキラに差し出した。

「え……?」

困惑するキラに向かって、レ イナはやや硬い声で呟く。

「これは貴方が持っているべ きよ」

「え…で、でも…これ は……っ」

訳が解からず、戸惑う……こ のディスクに残されたメッセージは、レイナとリンに向けられたもの……ならば、そのディスクを持つのはレイナ達の方だ。

だが、レイナは首を振る。

「彼女が……ヴィア=ヒビキ が託したのは…レイとルイ……私は、レイナ=クズハ…レイじゃない………」

そう言い放つと、ディスクを キラの手に握らせる。

「貴方達の母親の形見よ…… ならば、貴方達が持っていなさい………ヴィア=ヒビキの子である、貴方達が……」

視線にやや優しげなものが混 じり…キラやカガリは、その表情が先程映像で見た母親と重なる。

レイナはそのまま身を翻 し……無言で…どこか、今は干渉を拒むように……ブリーフィングルームを後にし…リンもそれに続いた。

彼女達もまた…考える時間が 必要であろう……だからこそ、誰も声を掛けず…また引き止めることもしなかった。

キラはマジマジと手の中に収 まるディスクを見詰める……最後の母親の言葉……たとえ、思い出はなくとも……本当に自分達を愛してくれていたということが解かっただけで十分だった。

もう……自身の出生に迷って ばかりはいられない………自分は今、ここに生きている。

だからこそ……生き続けなけ ればならない………犠牲になった…きょうだい達の分まで……生きて……生き抜いて…そして……自身の犯した罪を償わなければならない………

そう決意したことを思い出 し……キラは自分を奮い立たせた。

キラの顔に生気が戻り…その ことに安堵するラクス………その様子に、ムウも満足げになり、肩を竦める。

(強えよな…お前らは……)

そう……レイナも…キラ も………強い…だからこそ、自分も戦わねばならない………

同じように恐るべき災いを生 み出した者の関係者として……

それぞれの決意を固めるなか で……フィリアの肩をダイテツが叩き…フィリアはやや眼元に涙を浮かべて頷いた。

イヴはアダムと袂を分か ち……神殺しの天使となった………それがどういった未来を齎すのかは解からない……だが、未来は彼らに委ねられた………自分はもう、それを肩代わりするこ ともできない……だから護っていこう……この子達を………

 

 

 

 

ブリーフィングルームを後に したレイナはそのままオーディーンの展望室に立ち…静かに宇宙を見詰めていた。

後を追ってきたリンもその横 に立ち……二人は暫し、静かにその場に佇んだ。

静かだった……この強化ガラ スの奥に拡がる宇宙………永遠に続く宇宙という世界……ただ、その宇宙を感じるたびに感じていた懐かしさにも似た感覚……今思えば、それも…自分の内に流 れる血がそう感じさせていたのだろう………

「生きて……か」

先程の…ヴィア=ヒビキの言 葉を反芻する。

生きて……そして………救 え…か…………

「貴方が、私を憎んでいた理 由……解かった気がする」

ポツリと漏らすと……リンも やや表情を顰めて、窺うように見やる。

自分のクローン……オルタナ ティブ………生まれた時から、既にその生を決められ…縛られていた………そして…その生を……苦しみを与えた存在を………オリジナルを憎んだ………オリジ ナルさえいなければ……と………

「今でも……私が憎い?」

真剣な面持ちで問うと……リ ンは表情を逸らす。

最初はそうではなかった…… だが…ヴィアがリンに心を持たしてくれたことが……その引き金になった。

唯一記憶を持つリンにとって は複雑な相手だった………人としての心を持ってほしい…そう願ってヴィアはリン…ルイにもレイと同じぐらいの愛情で接した。

それが……ルイの心に少しず つ変化を齎した。

あれはいつだったのか……そ れすらも今となってははっきりと思いだせない……それまで、疑問に思わなかった自身の運命に……初めて戸惑った………自分はクローン…オルタナティ ブ………02の剣であり盾………その生き方に…初めて苦い思いを抱いた。

そして……メンデルから生き 延びた時……自分は、生きる意味を見失った………護るべきオリジナルと分かち……自身の存在意義そのものを失った彼女には、生きる意味が見出せなかった。

だが……安易に死を選べな かったのも…リンの内に芽生えた心だった……

「メンデルを脱出する時…貴 方とはぐれた後………ヴィアは、私を逃がそうとした…でも、途中でブルーコスモスに見つかって………」

リンの感覚が、6年前にフ ラッシュバックする。

レイとはぐれ…ヴィアととも に炎が燃え上がる研究所を脱出しようとしたところへ、ブルーコスモスが銃で乱射してきた。

ヴィアは咄嗟にリンを庇い、 傷を負った……だが、リンは身体に染み込まされた戦士としての感覚が動き、追ってきたブルーコスモスを殺した………

負傷したヴィアにリンがどう 接すればいいか困惑していると、ヴィアはそのままリンを連れて研究所の非常脱出口へと彼女を連れ……そして、彼女独りだけを逃がした。

「血に濡れて…傷ついて…… でも、逃げなさい……って笑って……私を逃がしてくれた……」

傷を負って…血を流しなが ら……それでも微笑み…逃げろと…生きてと言って自分を逃がした………あの時に見たその表情が脳裏に焼きつき……安易な死を選べなかった。

だからこそ……リンには戦っ て生きるしか……ただ、死に場所を求めて戦うしか道はなかった……生きることに苦痛を感じるという心を…リンは憎み…そして……哀しんだ。

心の葛藤をぶつける先は、戦 場しかなかった……

矛盾した思いを胸に抱き…… リンは戦い、生き続けた………この生が終わる刻まで……

「私は、自分の生に意味が持 てなかった………」

心など要らなかった……心を 持ったために……自分が自分でなくなり………自分が恐くなった………生きることへの価値を見出せなかった…………

だから欲しかった……自身を 殺す者を………自身に死を与えてくれる相手を………

「けど……」

「けど?」

言葉を切ったリンにレイナが 問い掛けると……リンはなにかを振り切ったように顔を上げた。

「あの時……私は………貴方 を護りたいと思った………」

レイナの脳裏に…先のメンデ ルでのことが過ぎる………

メタトロン…カインと感応 し……それに引き込まれそうになったとき………リンの声が意識を取り戻させてくれた。

あの時……リンの心は純粋に レイナを………姉と呼ぶ存在を助けたいと突き動いた。

「今の私には……生きる意味 が再び戻った………貴方の剣として…戦う……どうやら…私は……貴方を…憎むことができなくなったみたい……ヴィアのせいなのか、おかげなのか…その辺り は曖昧だけど………」

生きる苦しみを与えたヴィ ア……自身の呪われた運命を宿命づけたオリジナル………その存在を憎み、疎んだ……恐かったのかもしれない………与えられた心を憎み、苦しむことを否定さ れることが……リン自身も気づかなかった自分自身を否定されるのを無意識に恐れた……だからこそ…それを……オリジナルを憎むことで自分に言い聞かせた。

だが……それが徐々に薄れて いったのは……自身の内に芽生えた……リン自身の心が変わったからかもしれない。

02のオルタナティブで も……剣でも盾でもない………リン=システィという一つの生を持ったことが…彼女を変えたのかもしれない………

「それに……私にも…止めな きゃ……倒さなきゃいけない相手がいるみたいだしね………」

自分と同じ……オルタナティ ブという運命に縛られた少女………全てを憎み、破滅へと誘うことで自身を保つルン……もし、ヴィア…そしてレイナという救いがなければ……自分もああなっ ていたかもしれない………

「そう………」

どこか、表情を緩ませ……視 線を宇宙へと戻す。

「逆に問うわ……貴方はどう するの………全てを知って…これから………」

リンの問い掛けに……レイナ は黙り込む。

無意識に手が胸元のペンダン トに伸びる……脳裏に記憶が過ぎる。

自分達に微笑み…そして…… 歌を教えてくれた………

ヴィア=ヒビキは……人とし ての心を持ってほしい……人としての傷みを解かる心を……記憶を失って……その望んでいた心を得るとは……皮肉なものだと内心、自嘲する。

「知ったから……だから…生 き方を変える………そんなことはできない………」

過去を知ったとて……今さ ら、この生が変わるわけでもない……いや………変えることはできない…赦されない………

闇から生まれた自分には…… 闇のなかで生き続けることしか赦されない………

「思い出した……あの瞬間 を………」

ポツリと呟く……レイナの脳 裏に、ある光景が浮かぶ………

「あの男を……ウォーダン= アマデウスを殺したのは…………カイン…奴だった………」

「っ!? な、に……っ」

その言葉にリンが驚愕を露に 眼を見開く。

ウォーダン=アマデウス は……あの男は…彼女に……ルンに殺されたのではなかったのか……メンデルで彼女は確かにそう自ら言ったのだ。

だが、リンのそんな考えを否 定するようにレイナは首を振る……

「あの時……」

レイナの意識が過去へとフ ラッシュバックする……ブルーコスモスの襲撃……ヴィアに手を引かれてリンとともに研究所を脱出しようとした時、研究所が襲撃により混乱に陥り、自分は逸 れたのだ………

炎が舞う研究所のなかで…… レイナは見た………

 

――――紅蓮の炎のなかで佇 み、人影を持ち上げる影………

 

白衣を纏った男の首を握り締 め……そして持ち上げる影………それがこちらに振り向き……深い闇と虚無を漂わせる真紅の眼光が絡み合った………

 

――――綺麗な…それい て……哀しい瞳だった…………

 

その時に感じた既視感にも似 た感覚……無言のまま対峙していた自分達の間を裂くように……炎が舞い上がり……あの瞬間、記憶が奥底へと閉じられた………

レイの記憶とともに……それ が、あの瞬間再び甦った………同じ、真紅の瞳を持って…………

「カイン……もし…あいつの 運命が私と交錯するのなら……いずれは、避けて通れない運命なら……私は…あいつを倒す………それが、私達の…運命なら……」

ヴィアがどういう意図でカイ ンを救ってくれと言ったのかは…今となっては解からない…だが、自分は戦うことしかできない……奴が闇を…全てに破滅を誘おうとしているのなら……それを 止めるのは、自分に課せられた運命だろう………

決して逃れられないのな ら……

同じ……エヴィデンスの遺伝 子から生み出された…破滅の忌み子として………

身勝手に造り出され……そし て、なにがカインにそう至らせたのかは解からない……だが、そのために全てを否定され…眠りに就かされた………闇のなかで…ずっと積もり続けてきた闇…… ルンも…いや、彼らも同じなのだろう………

ただ、自らのエゴのために生 み出し…そして、その身を弄んだ創造主に………自らの生きる意味すら持たされず……闇から生まれ………無為な価値のない命……それらの闇が彼らを破滅へと 誘う道を選ばせた……生み出された自分達の存在意義………全てを超越した存在……それを、全てを滅ぼすことで証明するために………

歪んでしまった生き方以外… 選ぶことすらできなかった呪われた存在………もし……彼らにも救いがあれば………

そう考えたところで、レイナ は首を振った……もう…今さら言っても仕方がない………

彼らは闇に身を委ね……全て を破滅へと誘う道を選んだ………そして…そのやり方を違える以上……自分達は決して交錯する運命を変えることはできない………

自分達が彼らときょうだいと はいえ…それは過去のことでしかなく…またこれから先に交錯することはあり得ない………

「私には……レイナ=クズハ には……過去も…未来も必要ない…………」

そう……もう、戻ることもで きない過去も……予想もできない未来も必要ない………自分に必要なのは……現在(いま)だけ。

戦い……そして、この血塗ら れた道を突き進むしか………いつか…裁きを受ける刻まで………

「私の内に……あいつと…カ インと同じように、エヴィデンスの影響を受けた本来の人格が少しずつだけど、感じられる………」

胸元を押さえ……眼を伏せる レイナ………カインと感応してから微かに感じる…内に宿る鼓動音………BAという狂気じゃない……もっと奥に眠る…本来の……

「もしかしたら……レイナ= クズハ自身が…消えるかもしれない………」

禍がいものであるレイナ=ク ズハという人格……本来の人格が眼覚めれば……レイナ=クズハは消えるかもしれない………

やや不安そうに表情を顰める レイナにリンも表情を顰める。

「もし……私が消えて……本 来の人格が、カインと同じように破滅へと全てを誘おうとしたら………その時は……貴方が…私を殺して」

その言葉に……リンは微かに 息を呑み…表情を険しくする。

レイナ自身にも解からない本 来の人格……もし、それがカインと同じように……全てを闇へと誘うものなら……それはあってはならない………

全てを闇へと誘う権利な ど……誰にも無い………もし、生命が滅びに向かう運命だとすれば、それはいずれ訪れる……自分達が、それを肩代わりする必要などない………

ヴィア=ヒビキの願いには反 するかもしれないが……別段、人類のためなどという義務感でもない……ただ…自分が恐いだけなのかもしれない………

死は別に恐ろしくない……た だ……全てを破滅へと誘うようになるかもしれないことが恐いだけなのかもしれない………

レイナの葛藤を感じ取ったの か……黙り込んでいたリンが…決然と覚悟を感じさせる瞳と表情で顔を上げた。

「……解かった…もし、貴方 がその運命から逃れたくなったら……私が…貴方を断ち切る……そして…私もまた……」

もし……レイナがカインと同 じように狂ってしまったら……その時はリンの命を懸けて止めよう……そして…共に消えよう………

この世界は……MCナンバー という忌み子の生きるべき世界ではない………

レイナは、微笑を浮かべ…… 展望室の椅子に腰掛けると………歌を謳い始めた………リンも隣に座り……同じように口ずさむ。

彼女達に……彼女達自身の証 としてヴィアが教えてくれた歌………

自分達は……人であると…姉 妹であると………そう教えてくれた………

内に巣食う闇と哀しみ……呪 われた運命をのせるように………二人は静かに謳い…そして……その場に肩を預けあいながら、深い闇に意識を堕としていく………

あたかも…過去の自分達のよ うに………

自分達は、決して相容れない 存在……だが…決して切れぬ絆で結ばれた存在………

ただ孤独でないことが……彼 女達にとって…唯一の救いとでもいうように………

 

 

 

 

 

――――――呪われた9つの 凶星の下に生を受けた者達………

―――――――堕ちし4つの 星………

――――――――それが齎す ものは…………

 

 

 

傷つき…呪われた運命の下に 生きる二人の少女達……今は眠れ…………

その傷ついた翼を再び拡げる 刻まで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

宇宙を漂う彼らは、新たなる 目的地を目指す……

動き出す世界の中で…決して 灯を消さぬために………

 

彼らが行く先は……宇宙に浮 かぶ影………

そこは、よく知る国の裏 側………

そこで彼らを待つ者は………

 

 

混迷の果てに…彼らが見るも のは………

 

次回、「オーブの影」

 

強大な影…立ち向かえ、ガン ダム。

 


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