デブリベルトを訪れて既に数 日……4隻の艦は漂うデブリに注意を払いつつ、またデブリベルトに潜む海賊などにも警戒しつつ、4隻はデブリに身を隠すように留まっていた。

オーディーンの格納庫では、 レイナが大破したインフィニティの整備を行っていた。

あの衝撃的なフィリアの話か ら既にもう数日……最初は戸惑っていたのも、今では落ち着きを少しずつだが取り戻していた。

まあ、出生を知ったからと いって、嘆くような繊細な心は生憎とレイナは持ち合わせていない。

自分のすべきこと……戦わね ばならない相手がいる以上は…………

コンソールを叩きながら、 OSをセッティングしつつ…頭の片隅で、この機体のことを考える。

マルス=フォーシアが遺し た…DEM……デウス・エクス・マキナシリーズのプロトタイプの改修型……そして…あのメタトロンと呼ぶ機体に対抗できる機体………

だが、それも全ては…自分の 操縦にかかっている。

気を引き締めてコンソールを 叩いていると……ふと、手が止まり…顔を上げると………インフィニティの瞳が一瞬煌き…微かな唸りにも似た駆動音を響かせた。

まるで……主を思うよう に……そんな事あるはずがないと思いつつも、レイナは苦笑を浮かべて肩を竦めた。

「解かっている……インフィ ニティ………私も…お前も……今のままじゃ……カインとメタトロンには勝てない………」

やや苦い口調で呟きながら、 レイナはコンソールを戻し、コックピットから出る。

無重力のなかを浮遊しなが ら……インフィニティを見上げる。

自分と同じ……戦うために造 り出された………レイナにとってパートナーであると同時にもう身体の一部でもあるのだ。

あの時に感じたあの白い天 使……メタトロンから感じた畏怖感………その内に秘める巨大な力に自分もインフィニティも呑まれてしまった……今のままでは、また対峙した時に呑まれない という保証もない。

新たな力が必要なのかもしれ ない……この機体にも…………レイナは大破したインフィニティの修理だけでなく、改修プランも頭のなかに思い浮かべながら、設計を組み立てる。

《前方50、ジャンク屋組合 の補給艦、リ・ホーム接近……補給班はただちに配置につけ》

そこへ、通信が格納庫に響 く。

どうやら、打ち合わせていた ジャンク屋組合からの補給が届いたようだ。その報せにはクルー達もどこか弾んだ様子を見せている。

まあ、遂数日前のあの戦いを 思えば、それも当然だろう……レイナも補給の準備を手伝うため、設計を頭の片隅に留め、その場を離れた。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-46  オーブの影

 

 

デブリを掻き分けながら接近 してくる黄色の艦……リ・ホーム。

その艦影をエターナルのブ リッジでも確認し、ダコスタがラクスに報告する。

「ラクス様、ジャンク屋組合 からの補給艦です」

報告するダコスタも、どこか 声を弾ませている。今回、補給にやって来たのは彼がよく知る人間だからだ。

「解かりました…まずは、エ ターナルから補給を受けましょう……私達は、このデブリベルトに身を隠している間に、補給や整備を済ませなければなりませんから」

ニコリと微笑むラクス……そ して、モニターに接近してくるリ・ホームの甲板にはMSの機影が映り…その一つを眼に入れたバルトフェルドが顎に手をやりながら眉を顰めた。

「ん? あのバクゥは……な んで、あんなところにあるんだ?」

モニターに映っているバクゥ の機体形状が、以前自分が使っていたバクゥの改修型と重なる。

ラゴゥ搭乗前に、プロトラ ゴゥとして稼動テストを行い、バルトフェルドにとっても馴染み深い機体だが……肝心のバクゥはラゴゥが届いたために使わず、ジブラルタルへと戻したはず だ。

「どういうことかね、ダコス タ君?」

その言葉を耳に留めたダコス タはなにかに改めて気づき、顔を引き攣らせる。

「あ……そ、それはですね!  艦長!」

あたふたとやや取り乱しなが ら、ダコスタは理由を絞るような声で伝える。

「地上で緊急事態が起こりま して……それで、基地にも戻せず……」

かなり苦しい言い訳だが…ま あ、嘘ではない……かなり私的な緊急事態だが………

地上でジブラルタルに戻った ダコスタは、そこでブルーコスモスの罠にかかったロウ達を助けるために、ちょうどジブラルタル基地を訪れていたサーペントテールのイライジャ=キールとロ レッタ=アジャーに乗り手が不在となり、倉庫で保管されていたバルトフェルド用の改修バクゥを渡し、援護したのだ。

その後、流石に上層部に無断 で持ち出した機体をジブラルタルに戻すわけにはいかず、イライジャ達がロウ達に機体を譲渡したのだ。

だが、こんなところでまさか 遭遇するとは夢にも思っていなかったであろう。

「フフフ…まあ、いいじゃな いアンディ……アレはアレで」

慌てふためくダコスタに助け 舟を出すようにクスクスと笑みを噛み殺していたアイシャが仲裁すると、バルトフェルドはやや不満げだが肩を竦める。

「ま、倉庫で眠ってるよりは いいだろ……」

前を見直しながらそう呟くバ ルトフェルドにダコスタはホッとばかりに息を吐き出す。

だが、続けて発せられた言葉 に再び身を強張らせた。

「それにしても……あの恐ろ しかった虎が…なんとも可愛い猫になっちまったもんだな」

かつて、バルトフェルドがか なり趣味的に機体を改修させたが、今では機体上部にクレーンを固定された姿は、なんともいえぬ雰囲気がある。

その皮肉めいた苦言にダコス タは冷や汗を浮かべ、アイシャとラクスは顔を見合わせて笑みを浮かべる。

「あら…私は結構、可愛いと 思うけど……」

「そうですね…私もそう思い ます」

女性二人のその意見に、バル トフェルドはやや表情を渋くした。

 

 

 

リ・ホームのデッキで、接近 する4隻を見据えるレッドフレームとバクゥ……

「しっかし、まったく奇妙な 組み合わせだよな……」

やや驚いたように眼前の光景 を見るロウ……連合、ザフト、オーブの戦艦が並ぶ光景など、今のご時世では絶対に拝めない光景だ。

「かなり珍しい光景だぜ…な あ、樹里!」

《ホントね》

隣のデッキに鎮座する元バル トフェルド専用バクゥ…今は宇宙用に改修され、樹里の乗機となっている。そのコックピットに座る樹里が同じように驚いた様子で答える。

《ところで、レッドフレーム の修理も手早く終わったね、ロウ》

なにかを思い出したように声 を掛けると、ロウがやや苦い表情で答える。

「ああ……」

脳裏に数週間前の苦い記憶が 過ぎる……グレイブヤードでのいきさつ………地上で回収したレア・メタルを用いて完成させた150mにも及ぶ巨大なガーベラ・ストレート……それを使い、 襲撃してきたザフトの特殊部隊を退けたものの、そのあまりに巨大すぎる刀に振るったレッドフレームの腕が耐えられず、駆動回路が破損したのだ。

今は修理を終えたが……これ から先、あの刀を用いれば同じように腕が壊れ続けるだろう。

作ったはいいが、どうにも使 い勝手が悪く……今は鞘を作ってそこに収め、リ・ホームの右舷に固定している。

「このままじゃ、あの剣は使 えないな……なにか、うまい手を考えなきゃな………」

逡巡していると…そこへブ リッジからの通信が響く。

《ロウ、あちらから誘導ビー コンが来た……まずはエターナルからだ》

「了解、ジョージ!」

ジョージからの通信を受け、 親指を立てて合図すると…レッドフレームが先導し、エターナルへと進んでいく。

エターナルのハッチが開 き……リ・ホームのカタパルトハッチからレッドフレームとバクゥ、ワークスジンが物資のコンテナを持ち上げ、エターナル内へと運び入れていく。

「樹里、お前そっちのでかい 奴を運んでくれ」

《了解》

格納庫の奥にスペースを占め る巨大なモジュールをバクゥが持ち上げ、それを運んでいく。

先にエターナルへと着艦した レッドフレームから降りたロウが床に近づくと、そこにダコスタが歩み寄ってきた。

「よく来てくれた、ロウ= ギュール!」

どこか懐かしむような声で話 し掛けるダコスタに、ロウも笑みを浮かべる。

「いよっ、ダコスタ! 驚い たぜ、連絡をもらった時には……」

「まあ、いろいろあって な……」

苦笑めいた笑みを浮かべるダ コスタに、ロウが感心したように呟く。

「大変だろう、連合からもザ フトからも独立するなんて……」

今の情勢で、どの陣営にも属 さず戦うことなど、傍から見てもあまりいい選択肢とは思えない。

だが、ダコスタは苦い表情な がらも決然とした面持ちで頷く。

「自分達で決めたことだから な…既に戦闘もあって、かなり損耗もある…今のうちに復旧したいからな」

「じゃあ、俺達は補給で手助 けってことだな!」

ロウが笑みを浮かべ、親指を 立てると、ダコスタは頷き返した。

エターナルに次々と物資が運 び込まれていく……書類を片手に整備士に手渡し、チェックを行う。

「ダコスタ」

その時、通路の奥からバルト フェルドが現われ、呼ばれたダコスタとチェックをしていたロウが振り向いた。

「あ、艦長」

ダコスタが声を掛けると、バ ルトフェルドは笑みを浮かべてロウの前に立ち、腕を差し出す。

「アンドリュー=バルトフェ ルドだ…地上では砂漠の虎と呼ばれたこともあったがね」

「あんた…ひょっとして、レ セップスのカプセルの中にいた……」

なにかに思い至ったロウが声 を上げる。

地上に降りたロウ達が、地上 での移動手段を模索してその足として破棄されていたレセップスを買い取り、それを修復中に隠し部屋で治療中であったバルトフェルドの医療カプセルとそれを 護っていたダコスタ、アイシャと出逢ったのだ。

レイナのルシファーとの戦い において、アイシャはさほど重症ではなかったが、バルトフェルドは片眼を失明し、治療のために医療カプセルに入り、それをダコスタとアイシャが護っていた のだ。

それを発見したのがロウ達で あった。

「ああ、その中身さ…あの時 は世話になったな」

御名答と笑みを浮かべ、差し 出された手をロウも握り返す。

「へっ、礼は別にいいぜ…そ れに、カプセルを運んだのはダコスタとアイシャさんだしな」

修復したレセップスでジブラ ルタル基地近くまで彼らを送り届け、その後は二人がカプセルを基地へと搬送した。

修復したレセップスは今、ギ ガフロートの格納庫に預けている。

談笑を交わす彼らの横で、次 々と物資が搬入されていく。

「それでは……物資のチェッ クをお願いします」

リーアムが詳細が載せられた ボードを差し出し、それを受け取ったダコスタがチェックしていく。

「うわぁ…隊長、各種 ZGMF−Xナンバーの機体や電子パーツにしかもヴェルヌ開発局の新型モジュールまでありますよ!」

その豊富な補給物資に歓声を 上げるダコスタ…バルトフェルドも、半ば感嘆した面持ちでいた。まさか、これ程のパーツを補給させるように手はずできるとは………

(誰かが裏で動いたか な……)

プラント内部のクライン派の 残存兵力ではこれ程のパーツを根回しするのは正直難しいだろう。となれば、上層部…しかも、かなりの軍部内に影響力を持つ人物が手配してくれたと考えるの が自然だ。

「およっ……首のないMSが あるな」

その時、格納庫内を見渡して いたロウが、奥のMSデッキで固定されているMSに気づき、視線を向ける。

メンテナンスベッドに固定さ れたその灰色の機体は、何故か頭部がなかった。

「あ、アレは……」

「ジンやシグーの頭部でも試 しにくっつけてみるか? パーツ余ってるんだけどな〜〜〜」

ニヤニヤしながらその姿を脳 裏に思い浮かべ……案外様になっているので、バルトフェルドはプッと噴出した。

「ワッハハハ! そいつはい いかもしれんなっ!!」

豪快に笑い上げるバルトフェ ルドに、ダコスタは引き攣った表情を浮かべる。

この人の場合、やるといった らまず間違いなくやる……それはもうかなりの高確率で……それを嫌というほど体験したのだから………

「艦長! す、すまないがロ ウ…アレにはちゃんと予備パーツがあるから、心配しないでくれ」

「なんだ……そうか」

焦って言い繕うダコスタに、 ロウはやや残念そうに肩を竦める。

「ロウ、終わりました…次に 回りましょう」

「おう……けどよ、どんな奴 がアレに乗ってるか…見てみたかったな」

リーアムに頷き返しながら、 ロウは今一度メンテナンスベッドに収まる機体:フリーダムを見詰めながら、呟いた。

 

 

その後、ネェルアークエン ジェル、クサナギと物資を搬入し…残りはオーディーンのみとなった。

ネェルアークエンジェルの格 納庫で、マードックに最後のチェックを行ってもらっていると、ロウはなにかを思い出したように手を叩いた。

「おお! そうだそうだ…忘 れるところだったぜ」

ジャケットのポケットに入 れっぱなしだった、プラントを出発する際に手渡されたディスクを取り出す。

これを訪れる先の誰かに渡し てくれという話であったが……誰に渡そうかと周囲を見渡していると、そこへブリッツビルガーの整備報告書をマードックに渡そうと歩み寄ってきたニコルに気 づいた。

「お…おい、あんた」

「え……?」

声を掛けられたニコルが首を 傾げるように声を上げる。

「僕…ですか?」

周囲をキョロキョロ見渡しな がら、自身を指差すニコルにロウは頷く。

「そうそう。実はよ……こい つを預かってくれねえか…プラントを出発する前に渡されたやつなんだけどよ」

そう言って、差し出された ディスクを受け取り、疑問符を浮かべる。

「これ…誰宛ですか? 艦長 なら、ブリッジにいますけど……」

「いや…誰に渡せってのは 言ってくれなくてな……けどよ、ユーリ=アマルフィからだって言やあ、解かるって言ってたぜ」

ロウが口にした瞬間、その出 た名にニコルは驚きに眼を見張った。

「ほ、ホントですか!? ホ ントにユーリ=アマルフィという人がこれを!!」

身を乗り出すような勢いで問 い詰めてくるニコルに、ロウは思わず引きながら、上擦った返事で答える。

「あ、ああ…そうだぜ」

肯定した瞬間、ニコルはその 場に硬直したように佇み……手に握り締めるディスクを凝視する。

その様子に不審そうにロウが 声を掛ける。

「おい…大丈夫か?」

「え……あ、はい…ありがと うございました……これは責任をもって預かります」

ニコルはその場で頭を下げ、 踵を返してその場を離れていった……その背中を、首を傾げ、頭を掻きながら見送るロウ………

「ロウ、これで終わりまし た…次へ……ロウ?」

注意が別のところへ向けられ ているロウにリーアムが声を掛けると、ロウはやや遅れて反応を返した。

「お…おう」

腑には落ちなかったものの、 頼まれた用事は済んだので、ロウもまた踵を返してレッドフレームに乗り込み、ネェルアークエンジェルを離れていった。

 

 

最後のオーディーンに接近 し、物資の最後の搬出を行う。これでリ・ホーム内に積載された物資の約8割近い量を搬入した。

「ようっ、おやっさん!」

「おうっ、久しぶりじゃな、 ロウ!」

顔馴染みのトウベエに向かっ て手を挙げて挨拶すると、トウベエも同じように手を挙げて応じ、互いに手を叩く。

「へへっ、いいパーツを持っ てきたからよ、無駄に使うなよ」

「フッ……お前に言われたら お終いじゃ」

軽口を叩き合うロウとトウベ エに向かって近づいていたレイナがその顔を見た瞬間、声を上げた。

「ロウ=ギュール……?」

「ん? ああっ! レイナ じゃねえか! お前、この艦に乗ってたのか!」

名を呼ばれ…振り向いた先に あった見知った顔に驚き、そのまま近づくように無重力のなかを跳ぶ。

「怪我、もう大丈夫なのか よ?」

宇宙に上がる前に、オーブ沖 での攻防でマルキオの伝導所に運ばれたレイナの状態を見ていただけに、ロウはやや気遣うように声を掛けると、レイナは苦笑で応じる。

「ええ……もう大丈夫よ」

正確にいえば、あの時の傷は 既に完治し、今は別の傷の治療中なのだが……敢えてその部分には触れなかった。

「それならいいけどよ…… お! 見たこともねえ機体だな!」

奥に視線を向け……メンテナ ンスベッドに固定されているインフィニティに気づき、声を上げる。

ジャンク屋のロウにとって未 知や新型のMSは興味の対象であろう。

「私の機体だけど……今修理 中だけどね」

やや苦い口調で肩を竦める。

左腕を欠損し、本体にもダ メージが酷い今の状態だが、正直このままただ修理するだけでは恐らくダメだろう。

「へぇ……随分派手に壊した な………なんだったら、俺が直してやろうか! ジンとかシグーのパーツならあるぜ」

「……遠慮しとく」

溜め息をつきながら、肩を落 とす……ジンやシグーのパーツでは規格が違いすぎるし、なにより想像したくないものができそうで恐い。

「なんなら新しく設計する か…たとえば、肩にバーニアをくっつけるとか外付けの強化装備をするとかさ」

そう言われ……レイナは考え 込む。まあ、確かに新しく設計し直すというのも一つの手ではある。だとしたら、相当バランスを調整しなければ、下手をしたらインフィニティの特性を殺すこ とになりかねない。

「そういや……レイナ、蘊・奥って爺さん知ってるか?」

その名を出され…レイナはや や反応して顔をロウに向ける。

「……ヘリオポリスに行く前 に…世界樹コロニーで一度だけ逢ったことがある………」

遂2年近く前に……地上を離 れ、ヘリオポリスへと身を隠そうと世界樹コロニーに降り立った時、そこでレイナは蘊・奥と出逢った。

まあ、出逢いはそんななにか ある訳でもなく……

「一緒に喧嘩をしていた連中 を一蹴しただけだ……その後、茶を一緒にしたけど……」

ステーション内のターミナル で、連合の軍人が威張り散らし、しかも民間人に絡んでいたので、鬱陶しくなったレイナだったが、なにを思ったか、その軍人達はレイナにも声を掛けたのだ。 まあ、本人はあまり自分の容姿に無自覚だが、レイナは傍目からはかなりの美人だ。だからこそ声を掛けたのだろうが……相手が悪かった。

レイナはそのまま軍人をその 場で叩き伏せた。関節を外し、顎を砕くなど……のた打ち回る軍人だったが、流石に騒ぎを聞きつけて警備兵がやって来たので、その場を離れようとした時に、 蘊・奥に声を掛けられ、そのまま彼の住む居住区に一週間ほど厄介になった。

まあ、その時にお茶以外に剣 術の指南や娯楽に付き合わされたが……

「変わった老体だったが…… まあ、少なくともこのご時世では珍しいタイプだったな…確か、世界樹コロニー崩壊前に居住区を分離したと聞いているけど……今はどうしている?」

そう尋ねると、ロウは表情を 曇らせ……それから察したのか、レイナは表情を顰めた。

「そうか……」

「訊かないか?」

「訊いたところで……愉快な 話じゃないだろう………お互いにな」

やや苦笑混じりに呟くと、ロ ウも黙り込み……二人はそのままインフィニティを見上げる。

「俺よ……この戦争はバカげ てるって、そう思ってるぜ……」

ポツリと語り出したロウに、 レイナは耳を傾ける。

「俺はジャンク屋だ……この 戦争は外で見ているだけしか今はできねえ………けどよ、世界ってのはそこに住む皆でつくっていくもんだろ」

以前、ゴールドフレームのパ イロットに向かって叫んだ自分の考えを述べる。

ナチュラル、コーディネイ ターとくだらないことに拘って殺し合いを続けるなど、ロウの観点からしてみればバカげてるのだろう。

ナチュラルでありながら偏見 を持たず…また、ジャンク屋という自身の生き方を貫いているからこそ、そう考えるのであろう。

「……やっぱり…変わってる な…あんたは」

苦笑を浮かべ、笑みを噛み殺 すように呟く……相変わらず変わった男だと………だが、そうやってバカを突っ走るのが、ある意味ではもっとも強いのかもしれない。

決して、折れない…強い意志 があるのだから………ロウはやや照れを隠すように鼻をこする。

「それで……どうするの?  この世界で……」

「俺は俺の……ジャンク屋、 ロウ=ギュールとしてやれる事をやるぜっ」

レイナの問い掛けに……胸を 張ってロウが答えた。

その瞳には、なににも負けな い…侵されない意志の強さが込められていた。

「成すべきことを成せ……そ れが人の生き方………か。あの人も言っていたな」

蘊・奥がレイナに最後に伝え た言葉……決して世界に惑わされるな………自分の生き方を貫け……と。

その時、ロウの通信機が受信 し、樹里の声が聞こえてきた。

《ロォォウ! そろそろ チェックが終わるからこっち戻って!》

「ああ、解かった」

通信を切ると同時に、ロウは レイナに向かって笑みを浮かべ……レイナも微笑を浮かべて腕を上げ、互いに手を叩き合った。

そのまま撤収しようとし…… 刹那、艦内に警報が鳴り響いた。

《緊急警報! 総員、ただち に持ち場へ! コンディションレッド発令!》

オーディーンの格納庫内にオ ペレーターの緊迫感の漂う声が響く。

訝しげにしていたレイナだっ たが……その時、手元の通信機から通信が入った。

《姉さん》

「リン、どうしたの?」

《地球軍の哨戒部隊が接近し ているらしい……規模的には小規模だけど、下手に援軍を呼ばれても厄介だから、速攻で撃破するわ》

「解かった」

通信を切ると、レイナはロウ に向き直る。

「地球軍の哨戒部隊が接近し ている、あんた達は早く撤収した方がいい」

「俺もレッドフレームで出る か?」

そう切り出したロウに向かっ てレイナは首を振る。

「いや、いい……あんたは早 く撤収した方がいい…」

下手に介入し、連合がジャン ク屋組合に対しても脅迫紛いの行動に出られても困る。

「自分のすべき事をすべき場 所でしろ……もし、自分のやるべき場所がここだと思ったら、その時は力を貸してくれるだけでいい」

ロウにはロウのやるべき事が 必要とされる場所がある……それが交錯するときには、その力を借りるかもしれない。

その意図を察したロウは強く 頷いた。

「ああ、解かったぜ!」

ぐっと親指を立てて応え…… ロウはそのまま撤収準備に入る。

そして、格納庫内で待機して いたエヴォリューションが起動し、カタパルトに乗る。

《EX000AU…スタンバ イ! 進路クリア…発進よし!》

管制の指示に従い、エヴォ リューションがオーディーンから発進していく。

それに続くようにエターナル からジャスティス、ヴァリアブル…ネェルアークエンジェルからインフィニート…クサナギからM1隊が発進する。

先陣を切るエヴォリューショ ン…続くジャスティスとヴァリアブル……刹那、エターナルの艦首に備わった白い強化モジュール:ミーティアが離脱し、そのまま自動制御で変形し、空いた空 間にジャスティスとヴァリアブルがドッキングする。

刹那、ミーティアのバーニア ノズルが火を噴き、臨界点を超えたエンジンが加速し、ミーティアを装着したジャスティスとヴァリアブルが急加速で飛び立つ。

その様をオーディーンから見 詰めていたロウは思わず見入り、首を傾げながら尋ねた。

「なんだ、今合体したや つ……?」

MSに合体する戦闘機のよう なユニットに流石のロウも疑問を憶えた。

「アレは、MS用の強化武装 パーツよ」

「強化パーツ?」

「ええ……まあ、機密扱いだ けど…あんたならいいか。MSは汎用性の高い兵器だけど、それが投入される戦況は様々よ。それに、局地戦ではどうしても専用機の方がアビリティが高くな る。だけど、その状況に見合った強化パーツを装備すれば、そのMSからより高い性能を引き出せる」

一般的なジンやシグーは宇 宙・地上と汎用性の高い機体だが、どうしても水中戦や空中戦ではディンやグーン、ゾノの方が能力に勝る。だからこそ、その戦況に応じて外部強化パーツを装 備させることで局地戦や様々な戦況にも対応できる。

ミーティアは外部強化型の火 力・機動力強化ユニット……ZGMF−Xナンバーの内蔵する核エンジンによって通常のMSでは持ちえない機動力と火力を兼ね備える拠点攻撃用外部強化パー ツ。

「へぇ……」

レイナの説明にロウが感心し た面持ちで納得する……その時、ロウの脳裏になにかが閃いた。

(ん? 待てよ……)

ロウは今レイナの言った強化 パーツに対して思考を巡らせる。ロウは今まで、MSそのものにあの数倍はある巨大な刀を振らせることばかり考えていたが…それを、MSのような小型サイズ ではなく……もっと…ビクともしないような巨大なアームとそれを支えられるパワーを供給するユニット……そして尚且つ、MSの動きをトレースできるシステ ム……

ロウの脳裏に、おぼろげなが らその形が見え始めた。

(強化パーツのアイデア…… できたぜっ!)

内心でガッツボーズを取り、 笑みを浮かべる。

「サンキュ、レイナ!」

不意打ちに近い形でロウはレ イナに向かって叫び……まったく意図の掴めないその言葉にレイナが眼を剥き…声を掛ける前にロウは駆け出し、レッドフレームへと駆けていった。

残されたレイナは頭を掻き、 首を傾げながらそれを見送るのであった。

 

 

レッドフレームが帰還し、 リ・ホームが離れていくなか……迎撃に出たMS部隊はデブリベルトのテリトリー近くの軌道上を哨戒していた地球軍艦艇と邂逅していた。

制空権争いが激化し、両軍と も哨戒やハンター部隊を展開し、地球への航路を確保するのに必死になり、小競り合いが続いている。

恐らく、この部隊もその内の 一つであろう。

「見えた……」

モニターに捉えたのは、地球 軍の標準型250m級戦艦1隻に、駆逐艦3隻の編成だ。向こうもこちらに気づいたようで、MSやMAを展開してきている。

「時間を掛けると増援を呼ば れる可能性がある……一気にいくぞ!」

部隊指揮を任せられたアルフ が叫び、MSが分散する。

そして、ミーティアを装着し たジャスティス、ヴァリアブルが120センチ高エネルギー収束火線砲を発射した。

戦艦のビームにも匹敵する熱 量のビームの光状が真っ直ぐに艦隊へと伸びていく。

射線上に展開していたMSや MA数機を巻き込みながら、ビームの奔流が駆逐艦一隻の船体を貫き、駆逐艦が轟沈する。

突然の敵襲と先制攻撃に連合 側の指揮系統が混乱する……動きの鈍るストライクダガーに向かってM1隊がビームライフルで狙撃し、機体を撃ち抜き、爆発させる。

瞬く間にMS隊が撃破され、 艦艇は展開している友軍機を見捨てて撤退しようとする。

だが、リンのエヴォリュー ションがそれを阻むように艦艇に急接近する。ヴィサリオンを構え、トリガーを引く。

ビームの弾丸が駆逐艦の砲台 とエンジン、ブリッジを撃ち砕き……粉々に吹き飛ぶ。

護衛に残っていたストライク ダガーが撃ち落とそうとビームを放ってくるが、ミーティアの推進力を噴かし、ヴァリアブルが火線を掻い潜りながら急接近し、アームのMA−X200:ビー ムソードを展開し、その巨大なビームの刃を振り被り、駆逐艦をクロスするように斬り裂き……四分割された駆逐艦は一拍置いた後に……宇宙に散る。

最後の一隻となった250m 戦艦がせめてもの抵抗と対空砲で弾幕を張りながら抵抗する。

「悪いけど……今、私達の姿 を見られるわけにはいかない………見たものは…生きて戦場から還しはしない」

冷たく呟きながら、リンはエ ヴォリューションインフェルノを抜き、弾幕の間隙を縫うように接近し、ブリッジに向かってインフェルノを振り下ろした。

ブリッジを斬り落とされ…… そのまま船体にまで振り下ろしたビームを抜き、エヴォリューションは離脱する。

誘爆が起こり、爆発が船体を 引き裂き、艦は爆発に消える……それを見届けると、MS隊はすぐさま帰還する。

「これ以上、ここに留まると ヤバイな……一旦、場所を変えよう」

バルトフェルドの提案で、4 隻はデブリに身を潜めながら宙域より離脱する。下手にこの場に留まれば、事態を不審に思った連合の部隊がやって来る可能性もある。

デブリ間を縫うように、補給 を終えた4隻は航行し、潜航していった。

 


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