アメノミハシラのブリーフィングルームに、今後の対策のために主要メン バーが集められた。

レイナ、リン、ラクス、ダイ テツ、キョウ、マリュー、ムウ、バルトフェルド、キサカ、そしてオブザーバーとしてミナが参加している。

「現在の地球の状況は?」

正面のメインモニターに映し 出される地球の地図を見やりながら、レイナがミナに尋ねる。

ここ最近の地上の情勢がどう なっているか、はっきりと解からない。その辺の情報に関しては、恐らくミナの方が詳しいだろう。

「地球軍側が圧倒的に優位に 立っているな……量産化に成功したMSの大量投入だけでなく、ここ最近は局地戦用の量産機の開発にも成功し、ザフトは各戦線の後退を余儀なくされている」

ミナは冷静に今確認されてい る戦況を分布して地図に配色する。

青い色が現在の地球連合の勢 力圏…赤がザフトの勢力圏だ。しかし、見事にほぼ青に染まっている。

特に激戦区のヨーロッパ戦 線……ここはザフトのユーラシア侵攻の足掛かりであるジブラルタルがあるためにザフトも粘っている。後の主だった勢力圏は地上の最大の拠点であるカーペン タリアが配置されている大洋州連合のオーストラリア大陸だろう。

アフリカ大陸の方もビクトリ アが奪還され、ザフトも徐々に勢力圏が後退している。

先のスピットブレイクとパナ マにおいての損失はやはり軽いものではない。

「今現在の、地球軍の最重要 目標はジブラルタル攻略か?」

リンが地図を見詰めながら呟 く。それに対し、ミナは頷く。

「そのようだ……近々、ジブ ラルタル攻略のために大規模な作戦行動に出るという情報も得ている。そのために地中海側の潜水空母に、大陸からの大規模な部隊の集結が確認されている」

地球軍は海中と陸上からの両 面作戦でジブラルタルを攻略するつもりだろう。ジブラルタルも必死に抵抗はするだろうが……最終的な結果は容易に予想できる。

地球軍が既にストライクダ ガーだけでなく、水中用MSのバリエーションを開発し、増産していることも確認できている。

こうなれば、ザフトの局地戦 機も苦戦せざるをえないだろう。

「最終目標はカーペンタリア 攻略……んでもって、ザフトは地上から追い出される」

軽薄な物言いで先の展開を見 据え、口にするバルトフェルド……だが、表情には苦いものが混じっている。

「ザフト側も地上の戦線は放 棄せざるをえないだろう……そのために、各戦線から部隊を呼び戻しているのか?」

「それも確認されている…… ここ最近は、ジブラルタル、カーペンタリアから無数のシャトルやHLVの類が次々と発進し、宇宙に上がっているのが確認できている」

モニター画面が切り替わり、 地上へと打ち出されたシャトルやHLVがナスカ級やローラシア級に回収されていくのが映っている。

ザフトもまたこれ以上の地上 での戦線維持は不利と踏んだのか、各戦線から部隊を呼び戻している……だが、全ての部隊を呼び戻すことは不可能だろう。

そのために、地上に残る部隊 は決死の覚悟をせねばならない。

「どの道、このままじゃザフ トは圧倒的に不利ね」

戦力を宇宙に呼び戻したと て、それは単なる悪足掻きだ。圧倒的に国力の劣るザフトが通常戦力だけでMSを得た連合の物量に抗えるはずがない。

このままでは、遅くとも一ヶ 月以内にザフトは宇宙に篭城を余儀なくされるだろう。

「……オーブの方はどうなっ ている?」

キサカが静かに問う……無 論、この事に触れるのは躊躇われるが、やはり祖国が今現在どうなっているのか気に掛かるのも事実だった。

その問いに、ミナはやや憮然 とした表情を浮かべるが……それをすぐさま自制し、モニターを見やると、映像が切り替わり……衛星からのオーブが映し出される。

「生き残った民は皆、本島の ヤラファスに避難している……そして現在、セイラン家を中心とした暫定政府が大西洋連邦の保護下に入っている」

「セイラン? 分家氏族のセ イランか?」

「そうだ……あの狸め、ここ ぞとばかりに自らの地位を誇示しようとしたのだろう」

どこか、忌々しげに吐き棄て るミナ……それまで冷静だったミナらしくない感情的な物言いに、一同は一瞬呆気に取られる。

「あの……セイラン、と は?」

オーブの内部事情にそこまで 通じていないラクスが戸惑うように尋ねる。

ミナはそれに対し、憮然と口 を噤む……その心情を察したキサカから話が続けられた。

「セイランとは、アスハ家の 分家氏族にあたる一族だ」

オーブを束ねる五大氏族…… その5つの家の下には、当然分家たる一族が複数存在している。その中で最大の勢力を誇るのが、アスハ家の分家筆頭、セイラン家であった。

「確か、ウナト=エマ=セイ ランが当主のはずよね?」

レイナも分家氏族の情報に関 しては僅かだが知りえている。そして、その分家達が虎視眈々とその地位を狙っていることも………

「ああ……アスハ家を補佐す る一族なんだが………」

「連中はオーブにとっては害 だ。奴らは国を護ると言いながら自分の保身のみに固執し、民を見捨てても構わぬ連中なのだからな……」

ミナは嫌悪感を見せながら毒 づく。この点に関してはミナはウズミの方がマシと考えるくらいだ。少なくとも、ウズミはまだ民が世界の争いに巻き込まれることを善しとしなかった。だが、 セイラン家は己の利潤のためには民の命など考えない輩だ。

理想だけを求めるのも困る が、誇りさえも捨てるのはミナには到底赦せるものではない。

事実、セイラン家は先のオー ブ攻防戦で真っ先に自分達の一族のみで本土に逃げ、決して防衛にも加わろうとせず、またウズミ達に意見することすらなかった。

それらの行動がミナに嫌悪感 を抱かせる要因であった。事実、暫定政府がいくら発足したとはいえ、明らかに大西洋連邦に媚を売るような真似ばかり行っている。現在も、オーブの領土内の 島にカーペンタリア攻略用の補給基地建造にオーブの民を反強制労働に駆り出している。それらが、まるで以前の自分を見ているようで、なおさらミナの神経を 逆撫でるのだろう。

その話を聞き入りながら、レ イナは思考を巡らせる。

(成る程……なら、不満を持 つオーブの残党軍にももしかしたら協力を取り付けられるかもしれないな)

オーブ攻防戦において、オノ ゴノ島から脱出した民間人の護衛のために幾人かの軍人達もまた本土へと逃れ、現在は暫定政府の指揮下にあるはずだが、そういった状況なら、恐らく不満を持 つ兵士も多いだろう。

彼らと連絡を取れば、うまく いけば戦力のアップにも繋がる。

「地上の戦況は着実になりつ つある……問題は、宇宙ですね」

キョウが地上での戦況を分析 し、既に地上での戦況が決着しつつあることを理解し、決戦の場として地球軍、ザフトともに宇宙に戦力を集結させつつあることを。

「ここ最近は、ビクトリアか らの打ち上げも増加している……」

現在の地球軍にとって唯一の 宇宙港であるビクトリアは連日に渡って輸送船を次々と打ち上げている。それらは全て月へと向かっている。

「あの……地球軍側の月での 動きは?」

マリューが脳裏に、ナタルと ドミニオンを思い浮かべ……そして、恩師でもあるハルバートンの今の状況がどうなっているのか、気になる点であった。

「月基地の詳しいデータはな い……だが、少し前に入手した情報では、ここ最近の宇宙での主だった大規模戦闘は確認されていない」

少なくとも、地上とは違い、 宇宙は今は静寂を保っているのだろう……地球軍もザフトも互いを牽制する以上、迂闊な戦力消耗を招くのは不本意だろう。

大戦前期における多数の艦隊 損失を埋めるために、地球軍も必死なのだのだろう。

「嵐の前の静けさ、か……」

顎に手をやりながら、ムウも 神妙な面持ちで考え込む。

「やはり、私達だけでは苦し いものがあります……なんとか、連合内の和平派の方々と連絡を取りたいですが………」

ラクスが苦い表情で告げ る……先にも触れたが、やはり協力者というのはいくらいても足りないのだ。特に、地球連合やザフトのような大国を相手にするには………

「それだったら、なんとかな らないでもないわよ……」

ポツリと漏らしたレイナに、 皆の視線が集中する。

「嬢ちゃん、そりゃどういう ことだ?」

探るような視線を向けるムウ に、レイナは肩を竦める。

「反連合の勢力と連絡を取れ ないでもないってこと……まあ、その辺はマルキオ導師の手腕に期待するしかないけど………」

「レイナは、マルキオ様 に……?」

「ええ…前にプラントで逢っ た時に少しね……」

驚くラクスに向かってレイナ は不適な笑みを浮かべる。

もうあの時点で……レイナは 既にラクス達の行動を予期していた。だからこそ、そのために反連合勢力や連合内の和平派などと連絡を取れるようにマルキオ導師に依頼した。

その先見の明に、ラクスは畏 怖と驚嘆の念を抱かずにはいられない。

「マルキオ導師が連絡を取り 繋いでくれてれば、向こうから連絡が来るはず……まあ、それを待つしかないけど」

あくまで自分は連絡を取り付 けるだけ……あとの向こうが応じてくれるかどうかは交渉しだいだろう。

「それよりも……私達のこれ からだけど……」

レイナは当面の自分達の活動 方針に対し、意見を発する。協力組織との接触…及び、艦載MSのパイロット錬度の向上…及び機体強化を具体案として挙げた。

「前の二つはともかく……最 後の項目に関しては物資との兼ね合いもある」

保有MSの強化というのは予 想以上に物資を消費する……なによりも、彼らが所有するMSは半数以上が試作機や高性能ワンオフ機……どれもが機体維持だけで通常のMSよりも精度の高い 電子パーツや稀少な資材を浪費するので、迂闊に強化などもできない。

無論、このアメノミハシラに も物資は多く貯蓄されているだろうが、流石にそこまで頼るわけにもいかない。

こうして設備を貸してくれた だけでほぼここに来た意味は果たしているのだ。

「物資の補給に関しては、ま あやれない事もないけど……」

そう口にしたレイナに、視線 が集中する。

「どうやるんだ?」

「簡単よ……敵から、奪えば いいのよ」

不適な笑みを浮かべてそう口 にしたレイナに……一同は一瞬、唖然となる。

「地球軍は今、大量の補給物 資を月へと上げている……それを襲って、連中の補給物資を奪う」

要は、通商破壊だ……こちら としても地球軍に大量の物資が流通するのは避けたい。無論、ならば補給部隊を襲えばいいだけだろうが、敵が運んでいる物資を奪えば、敵の戦力を削るだけで なくこちらの物資調達にも繋がる。

古今東西、戦争においては有 効かつ有益な手段だ。

「成る程……つまりは、海賊 になるというわけか、僕らが」

意図を理解したバルトフェル ドがニヤリと笑うと、レイナは御名答とばかりに肩を竦める。

「でも、それは……」

流石に無謀ではなかろう か……と、マリューが懸念を口にした。

海賊という行為自体も確かに あまり気の良いものではないが、今の現状でそんな些細なことに拘っている場合ではないだろう。それに、敵の補給線を妨害する通商破壊と物資の調達は戦争を やる上で決して切り離せない行為だ。卑怯と罵るかもしれないが、そんな奇麗事ばかりに拘っていてはなにもならない。

それに、そんな覚悟ではここ にいることはできないだろう。

それは恐らくこの場にいる誰 もが熟知している……だが、マリューの懸念はその補給部隊の護衛についてだった。

地球軍は今まで散々苦渋を舐 めさせられたMSを護衛船団に配備している。それらを相手に短時間で…しかも敵の補給物資を奪うという行動に出られるのかどうかだった。

敵の護衛MSもそうだが、な により時間を掛けては哨戒部隊に見つかる可能性もある。

「その方法なら、既に決まっ ているでしょう……通商破壊に出るのはオーディーンだけ。敵護衛艦と補給艦の沈黙は艦載機の3ないし4機で電撃戦法で仕留める」

リンがレイナを見やりなが ら、この通商破壊の戦法を口にすると、レイナは頷く。

ダイテツも当然とばかりに 持っていたパイプを噴かす……オーディーンは高速艦のうえ、奇襲を踏まえた潜行航行を前提に設計されている。艦本体には特殊なステルス素材を使用し、N ジャマーを活かしたギリギリのラインまで敵部隊に忍び寄り、艦載機であるインフィニティ、エヴォリューションの圧倒的戦闘能力で後方からの敵部隊の殲滅と 増援の寸断、そして通商破壊が主だった任務として挙がっていたのだ。

「だけどレイナ……君の機体 は…」

キョウが言葉を濁しながら呟 く……レイナのインフィニティはまだ使用できる状態ではない。修理だけでなく、機体強化も同時に行おうと今機体の最終チェックのために動かせないのだ。

「インフィニティは使えな い…だから、代わりに別の機体を使う。それに、さっきも言ったけどこれは短時間での実行を主眼にしているから、あまり大部隊じゃ目立ちすぎる。だから、 オーディーンには私とリン……それに、あと隠密性と機動性に優れた機体が欲しい」

インフィニティが使えない以 上、レイナは別の機体を使用せざるをえないだろう。なにより、こういった仕事も仕方がないとはいえ、キラやアスラン、それにリーラ達にはあまり気分ののる ものではないだろうから、連れていっても恐らく足手纏いになる可能性が高い。

その意図を察し、リンは頷く と……後同行させるMSとパイロットの選定に思考を巡らせる。

電撃奇襲を考慮する以上、あ まり火力を重視させた機体は同行できない。

「そうね……あとは、ヴァリ アブル…それに、ゲイツ改ぐらいか」

ミラージュコロイドを装備す るヴァリアブルと機動性に決して低くない火力…加えて、核エンジンによる長時間稼動の可能なこの2機なら、少なくとも大丈夫だろう。

リンの提案にレイナも同意見 なのか無言で頷き……一同を見渡すと、反対がないのか、全員押し黙っている。

ラクスは複雑だった……彼女 としては、人の命が失われていくのを見るのは心苦しい。

だが、そんな感情論ではどう しようもないことだ……無力を感じながらも、今は鬼になれと必死に自分に言い聞かせるのであった。

浮かない表情のラクスの心情 をレイナは感じ取ったが……声を掛けようとはしなかった。

「あとは……物資の運搬のた めの貨物船みたいなものがあればいいんだけど………」

やや表情を顰めて呟く。

オーディーンは確かに単艦で の任務を考慮しているが、いかんせん艦載量が低すぎる。MSを4機も搭載しては、それだけで格納庫はスペースが無くなる。だが、これ以上MSの数を減らす わけにはいかない。

かといって、他の艦を同行さ せるわけにもいかない……他の艦では目立ちすぎる。ここは、運搬・積載能力に優れた貨物船のような艦が望ましい。

「補給艦を改装したものでよ ければ、貸し出しても構わないが……」

事態を見守っていたミナの申 し出に意表を衝かれたように顔を向ける。

ミナは端末を操作し、モニ ターの映像を切り替える……モニターには、一隻の艦と思しき見取り図が映し出される。

各セクションの用途を載せた 艦の映像……

「連合が現在運用している コーネリアス級補給艦を、イズモ級の装甲材などを用いて改装した補給輸送艦:シルバラードだ」

ロウ達も改装して使っていた コーネリアス級補給艦を改装した艦……装甲材などを強化し、さらには積載量と整備能力を挙げた純粋な後方支援艦。

「武装の類は微々たるものし かないが……その分、高速性を増している」

補給艦にはろくな装備類は備 わっておらず、対空砲ぐらいだが、エンジンの強化によりナスカ級に匹敵する高速性を持っている。

「これを運搬に使うがい い……それと、君用にMSを一機、回しておこう」

「いいの?」

「構わん……こちらとして も、MSの実戦データが欲しい。それが交換と思ってくれればいい」

アメノミハシラで開発された M1Aはまだ数回の戦闘しか投入されておらず、実戦でのデータがまだ不足がちであった。

その戦闘データ収集のために は、一機ぐらいどうということはないだろう。

「じゃ、ありがたく使わせて もらうわ」

レイナが指を振って応じる と、最後の課題である地球軍の補給部隊の航路図の検索であった。闇雲に出ても返り討ちにあう可能性もないとは言い切れない。

そのためには、地球軍の補給 路の航路を検討し、最適な襲撃ポイントと時間差などを調査する必要がある。

「あとは補給部隊の運用情報 だけど……手に入れるのに打ってつけの相手がいるわ。その手の情報に通じなきゃ、己の恥って思うぐらいの奴がね」

最後の課題に関しても、レイ ナには無論、打つ手があった。

こういった情報なら、あの男 は恐らく知っているだろう……まあ、連絡を取るのは結構骨だが………頭を掻きながら、レイナは溜め息をついた。

無論、これには物資補充以上 に連合の戦力削除だけでなく時間稼ぎ的な意味合いもある。

なんとか協力者を得て、万全 とまではいわなくとも双方の陣営に根回しできるように手を打たなければならない。

問題が山積みであることに、 深々と今一度溜め息をついた。

 

 

 

 

宇宙の闇のなか……衛星軌道 を漂う無数のデブリに身を潜めながら、オーディーンとオーブの輸送船:シルバラードが静かに進んでいく。

隠密潜行による奇襲……その ためには極力その身を晒さないことが大前提だ。

なにより、地球と月の間の周 回軌道上にリングのように浮遊しているデブリもまた身を隠すのに適していた。戦闘で破壊されたコロニーや戦艦の残骸…そして過去からの遺物がこうして身を 隠すのに役立っているとは皮肉なものである。月の軌道がデブリの外にある以上、どうしてもデブリ帯を避けて通らなければならない。だからこそ、死角からの 奇襲が可能なのだ。

ジッと息を潜めながら、地球 から打ち上げられた補給船団が現われるのを待つ。

無論、補給部隊の規模にもよ る……部隊規模を見定めてから行動に移すため、皆息を潜めて緊張した面持ちで待ち構えている。

パイロットもまた各々のMS で待機している。

メイアのヴァリアブルとミゲ ルのゲイツ改……そしてリンのエヴォリューションにレイナのM1Aだ。

《情報が確かなら、あと数分 で地球軍の補給船団の一つがここを通る……規模は小艦隊クラスだな》

《ま、こういった任務はあい つらには気が進まねえだろうし……》

ミゲルが頭を掻くように呟 く。

メイアもブリーフィングの終 了後に聞かされた通商破壊だが、確かに有効な戦略であることは間違いないが、ここには子供が多い。彼らにこのような海賊まがいの戦いをやらせるのは確かに 気が重くなる。

《しかし……あてになるの、 あの情報屋の男は?》

不審感を拭えていないリンが レイナに問い掛けると、レイナも苦笑混じりに肩を竦めた。

「ええ……まあ、人間として はともかく…情報は正確よ。それは保証するわ」

溜め息を軽くつき、肩を竦め るリン……レイナも苦笑を浮かべたまま、数時間前の出来事を思い出していた。

 

 

ブリーフィングを終え、準備 にそれぞれ取り掛かるなか……レイナとリンは通信室の使用許可を貰い、訪れていた。

通信室の一つに腰掛けると、 レイナはコンソールを叩き、目的の相手の連絡端末を探索する。

「で……その情報を握ってい る相手というのは?」

先のブリーフィングでの場で 出た地球軍の補給船団の行動を把握するスケジュールのようなものの入手……だが、それは恐らく地球軍内部においてもかなりの機密だろう。そんな情報を手に 入れるということにリンも半信半疑だった。

「ケナフ=ルキーニ……ま あ、人間性は問題ありだけど、情報は正確よ」

苦笑を浮かべながら答える。

以前にも、何度か接触した情 報屋の男……情報を制する者が世界を動かすというポリシーを持っている男で、あらゆる情報に精通している。まあ、本人からしてみれば、自分が知らない情報 など、あってはならないという変なプライドだろうが………

情報の正確さだけは保証でき る……なにせ、JOSH−Aのサイクロプスの情報を手に入れたのはこの男からなのだから。

だが、この男は情報を売るの は勿論だが、時折情報を唐突に相手に伝えることもやっている。彼が言うには情報は価値あるものが知ってこそ生きるということらしいが………

現に、ヘリオポリスでは一方 的に情報を流してきた……それもほぼ直前に………

「まあ、とにかく連絡を取っ てみる価値はある……と」

話しながら、目的の端末を見 つけたのか……接続キーを押すと、正面のモニターが起動し、乱雑な映像が流れ……それがやがてクリアに切り替わる。

《誰だ……私のこの回線に繋 げてきたのは…?》

不快気味な…それでいて睨む ような視線を向ける男がモニターに映った。

「久しぶりね、ルキーニ」

《ん? ああ、君だったの か……フッ…この私に直接連絡を繋げられるのは君ぐらいだな》

余裕の笑みを浮かべている が、その表情はどこか悔しそうに引き攣っているのが見て取れる。

「今度は、もう少し頭を捻っ たプロテクトを組んでおくことね」

《肝に銘じておこう……私と しても、プライドが何度も傷つけられるのは堪えるからね……それで、わざわざ嫌味を言いに私に連絡を取ったわけではないだろう? なにが望みかな?》

皮肉を返すように、見透かし た物言いで呟くルキーニにレイナも不適に笑う。

「話が早くて助かる……連合 の現在のビクトリアからの補給船団の輸送スケジュールに関するデータが欲しい」

その言葉に、ルキーニは興味 深そうに顎をさすった。

《ほう? となると、君がク ライン派やオーブの残党勢力に加わっているという情報は確かのようだな?》

「相変わらず耳が早いわ ね……まあ、そんな訳よ。とにかく、それに関する情報……まさか、持っていないなんてことはないわよね? ケナフ=ルキーニともあろう男が……」

挑発じみた物言いに、リンは 内心、この姉への呆れが大きく浮かんだ。

だが、そのレイナの挑発にも ルキーニは涼しい顔で応じる。

《勿論だとも……この私が知 らぬ情報など、ありはしないのだからな………》

その自信はどこからくるん だ……と、こちらにもリンは呆れた面持ちでこっそり溜め息をついた。

《いいだろう……その情報、 すぐ君のもとへ送ろう》

「助かる…送信ルートは今 送っておいたから……」

送られてきた送信ルートを確 認すると、あらゆる場所を経由し、また送信先はダミーが数多くあるため、特定するのが困難になっていた。

《君も相変わらずだな……君 のコードには私もアクセスが難しくて手を焼いている。是非とも教えてほしいものだが………》

「お得意の情報網で調べるこ とね」

さらっとルキーニの言及をか わすと、送られてきたデータが暗号化されてレイナが持つ隠しコードに移動される。

「それで……報酬は?」

問題はこの情報の値だ。向こ うとてボランティアで情報の提供をやっているわけではない。

この辺の交渉も厄介なところ だが……だが、ルキーニの答は予想外のものであった。

《今回は報酬は構わんさ》

「どうして?」

不審そうに見やる……正直、 気まぐれで情報をただ払いするような男ではないとレイナは認識していた。

探るような視線に、ルキーニ も苦笑を浮かべて肩を竦める。

《いや、そんな勘ぐらなくて も本当だ。情報は、価値あるものがもってこそ価値がある。君に渡した情報も、私のなかではあまり意味がないものなのでね》

地球軍の極秘情報を娯楽程度 で手に入れ、なおかつ安売りする……なにか、別の意味で底が知れない男だとリンは思った。

「そう? じゃ、ありがたく もらうわ」

《ああ……ああ、あとそれと だがね……君らが数週間前にメンデルで戦闘した艦にブルーコスモスの盟主が乗っていただろう?》

不意打ちに近いその言葉にレ イナとリンは一瞬、眼を剥く。その反応に気をよくしたルキーニは話を続ける。

《ブルーコスモスの盟主だ が、今は地球に降りているらしい》

「? 地球へ……?」

疑問符を浮かべながら首を傾 げる。

「どういうこと?」

リンも不審そうに頭を捻 る……あれ程執拗にこちらを狙ってきたアズラエルが自分達をほったらかしにして地球に降りたというのが腑に落ちなかった。

《その辺りのことは私も知ら んがね……では、失礼させていただく。次は、もっと複雑なプロテクトを組んでおくとしよう》

「期待してる」

その言葉と同時に途切れる通 信……レイナはシートに身を預け、逡巡する。

アズラエルが地球に降り た……それの意味するところは、こちらに興味が失せたということに他ならない。

なら、その理由は………

 

―――――鍵…鍵を持ってる わ……私…戦争を終わらせるための鍵………

 

脳裏に、メンデルで出逢った フレイが叫んだあの言葉………そして、フレイが乗った救命ポッドは地球軍に回収された。

「あの少女……確か、戦争を 終わらせるための鍵……そう言っていたな?」

同じ結論に達したのか、リン がレイナに問い掛ける。

「戦争を終わらせる……そし て地球軍………まさか…」

「……その可能性は高い」

表情を顰めながら、やや苦い ものを浮かべる……いくらMSの開発と増産に成功したとはいえ、ザフトはそれだけで敗れるほど脆くはない…加えて、仮に勝利しても地球軍側に出る被害も膨 大なものになる。

それを覆すために地球軍が投 入するものも……容易に想像がつく。

「この事は……まだ黙ってお いた方がいいわね」

確証が得られるまで、迂闊に 不安がらせるのも毒だ。

その心情を察し、リンも頷 く……だが、彼女達の予感は既にこの時点で当たっていたことを、彼女らは後に苦く思い出すことになる。

 

 

場所を戻して再びデブリ 帯……レイナがルキーニから受け取った補給部隊の航路データを見た結果、予想以上に詳細な数字が載せられていた。

補給部隊の打ち上げ時刻と航 路データ…さらには護衛部隊の規模など………見せられた一同は呆気に取られ、逆にムウやアルフなどはそのあまりの詳細さに逆に勘ぐった程だ。

無論、レイナもこれが必ずし も正確だという保証はない……与えられた情報全てを鵜呑みにするのは危険すぎる。

だが、少なくとも参考にはな るだろう……そして、そのデータを基に作戦を練り…今彼女達はここに居る。

静寂と緊張が続くなか…… オーディーンの長距離レーダーが熱源反応をキャッチした。

「熱紋照合……250級2、 駆逐艦3、コーネリアス級2、コンテナ船4…地球軍の第319補給部隊に間違いありません!」

艦首照合をしたオペレーター がそう報告し、ダイテツは思考を巡らせる。

「周囲に他の部隊は?」

「周辺戦闘可能宙域に連合、 ザフトともに他の熱源はありません!」

索敵レーダーを見詰めていた オペレーターが叫ぶ。

「成る程……どうやら、情報 通りのようだな」

レイナ経由で渡されたルキー ニの情報は確かに正確のようだ……無論、だからといって時間を掛けるわけにはいかない。

電撃かつ短時間に戦闘を終わ らせなければならないからだ。

「総員、コンディションレッ ド発令! MSスタンバイ!!」

怒号に近いダイテツの号令に クルー達は呼応し、指示を実行する。

「総員、コンディションレッ ド発令!」

「MSは各機スタンバイ!」

次々と準備が進み、艦載MS が発進体勢に入る……先行はヴァリアブル……続けてエヴォリューション、M1A、ゲイツ改の順番だ。

「シルバラードはここで待機 を……主砲、目標敵戦艦!」

傍に控えるシルバラードに待 機を命じ……オーディーンがゆっくりと加速する。

そのままオーディーンの主砲 が臨界を超え、ビームの閃光が煌いた。

デブリの中から突如飛来した ビームに、戦艦が反応できるはずもなく……標的となった250m級戦艦一隻の船体を貫き……艦中央部が裂け、二つに割れる…そのまま裂けた部分から誘爆 し、戦艦は宇宙に爆発の華を咲かせた。

突然の奇襲に連合側は混乱す る……その隙を衝き、オーディーンからMSが発進していく。

先行して出撃したヴァリアブ ルがミラージュコロイドを展開し……その機体を宇宙の闇のなかに溶け込ませる。

そして、M1A、エヴォ リューション、ゲイツ改が続く……敵の襲撃に護衛船団が慌てて艦載機を出撃させてくる。

ストライクダガーが全部 15……護衛船団には多すぎる数だが、レイナ達からしてみれば物の数ではない。

しかも、15機全てがこちら に向かって前進してきた。

「こいつら…素人か?」

護衛部隊である以上、全機で 迎撃に向かってくるなどということは本来あり得ない。敵がどこに潜んでいるか、規模がどの程度なのか解からない以上、護衛対象を護るためにディフェンスを 残しておかなければならない。

それを実行しないということ は…戦闘に慣れていない素人ということだ。

レイナ達は知りもしない が……地球連合は度重なる戦闘で多くの熟練パイロットを損失し、後方部隊や護衛部隊のパイロットを引き抜いて前線を維持しているが、そのために護衛船団に 配備されているパイロットはほとんどが士官学校上がりの新人ばかりなのだ。

無論、彼らは訓練の頃から MSのシミュレーターを経験はしているが、それでもレイナ達を相手にしていては荷が重いとしか言いようがない。

「いくぜっ!!」

ミゲルが吼え、ゲイツ改の ビーム砲、レールガン、ビームライフルを一斉射した。

幾条ものビームが降り注ぎ、 突進してきたストライクダガーの前衛3機を撃ち抜き、爆発させる。

瞬く間に僚機が撃破され、竦 んで動きが鈍るストライクダガー……だが、その隙を逃さず懐に飛び込んだエヴォリューションがインフェルノを振り薙ぎ、一体を上下に両断する。間髪入れず に振り向き、後方にいたストライクダガーに向かってスコーピオンを放つ。

刃にビームをコーティングさ れたアンカーが腹部に掴み掛かり、ビームがボディに喰い込む。そのまま振り被って別のストライクダガーに激突させ、2機が爆発する。

恐怖にかられ、ストライクダ ガーは一斉にビームライフルを我武者羅に放つが、そのビームを掻い潜るようにM1Aが加速し、ビームライフルを連射してストライクダガーを撃ち抜く。

加速したままビームサーベル を抜き、一体の頭部から突き刺し、刃を引き抜くと同時に離脱する……爆発がまたもや煌き…M1Aはそのまま船団に向かう。

船団の方は、突然の奇襲に慌 てふためき、混乱していた……そこへ敵機の接近を告げるアラートが響く。

索敵するがどこにも機影が見 えない……周囲を見渡していたクルー達の前で、突然宇宙から抜け出すように機体が現われた。

ミラージュコロイドを解除し たヴァリアブル……3機で護衛MSを引き付けている間に艦を叩くのがメイアの役目だった。流石にMSが全機迎撃に出たのは予想外だっただろうが……そのた めに苦もなく艦に肉縛し、ヴァリアブルは脚部からビームナイフ:レイピアを引き抜き、ビーム刃をブリッジ目掛けて突き刺した。

ビーム刃がブリッジを貫き、 沈黙する……そのまま離脱し、頭部と胸部、そして腕のアームガトリングガンを放ち、主砲やエンジンを撃ち抜き、誘爆させた。

爆発が咲くなか、すぐさま駆 逐艦へと加速する……駆逐艦は対空砲で近づけまいとさせるが、ヴァリアブルはレーヴァティンを構え、トリガーを引いた。

ビームが駆逐艦のエンジンを 撃ち抜く…慌ててエンジン区画を閉鎖・分離させる。だが、既にもう迎撃などできるはずもなく……態勢を崩した駆逐艦はそのまま隣で航行していた僚艦に激突 し、2隻が爆発に消える。

残ったのは駆逐艦一隻の み……ビーム砲台をヴァリアブルへと照準を合わせるが…そこへM1Aが甲板に降り立つ。

ビームサーベルを振り被り、 砲台ごと船体を斬り裂く……裂け目から炎が上がり…駆逐艦は轟沈した。

護衛船団が壊滅し、もはや打 つ手がなくなった補給部隊…だが、そこは軍人としての意地があるのか、貧弱な補給船で必死に抵抗してくる。

抵抗が止むなら、別に命を取 るつもりはなかったが、抵抗する以上は迎撃せねばならない。

ヴァリアブルがスペクターを 放ち、コンテナ船のブリッジを吹き飛ばす。誘爆をなるべく防ぐために、M1Aはビームサーベルでコーネリアス級のブリッジを斬り落とす。

全ての船が沈黙するのに数分 しか掛からなかった……迎撃に出たストライクダガーもエヴォリューションとゲイツ改によって沈黙していた。

当初の見立てでは、船団を沈 黙させるのにかかっても15分程度という目安をつけていたが、それより早い9分ほどで終わった。

連合側の能力不足もあろう が、やはり単純に経験の違いであろう……

「こちらレイナ……敵はほぼ 沈黙…これから輸送するから、シルバラードをこっちへと回して」

《了解した》

オーディーンからダイテツの 応じる声が聞こえ…デブリ帯から姿を見せるシルバラードは既にブレード側部にいくつも設けられたハッチを開き、収納体勢に入っている。

周辺の警戒にエヴォリュー ションとゲイツ改がつき……M1Aとヴァリアブルがコンテナ船やコーネリアス級から外した物資をシルバラードの格納庫へと放り込んでいく。

この移送が一番時間掛かるう えに無防備を晒すため、ゆっくりやっている暇はない。

コンテナ船に詰め込まれた武 器弾薬やMS用の資材を満載したコンテナを一つ一つ内部へとヴァリアブルが搬送する。

レイナのM1Aはそのまま コーネリアス級の積載ハッチを開く……そこには、プトレマイオスクレーターへと届けられる予定のストライクダガーが大量に積み込まれていた。

数を確認しながらチェックし ていると、奥にストライクダガーとはややディテールが異なる機体が数機ハンガーに固定されて並んでいるのに気づいた。

「確か……オーブで見た機体 ね」

それは、GAT−01D1: デュエルダガーであった。フォルテストラこそ装備されていないが、ナチュラル用に改装されたこの機体も少数ながら増産しているのだろう。

そのまま固定されていたスト ライクダガーを10機ほど…そしてデュエルダガー3機をシルバラード内に移し……積載量が限界に達したシルバラードが離れていく。

流石に、全ての物資を載せる ことはできない……だが、こうして残しておけば、後に回収される恐れもあるため、沈めておく必要がある。

《連合の哨戒部隊が接近して いるわ…急いだ方がいい》

周囲の索敵、警戒に眼を光ら せていたリンが通信を入れる。

ようやく補給部隊の連絡途絶 を知った連合の哨戒部隊がこちらへと向かってきている。だが、彼らと戦うつもりはない。

得るものは得た以上、長居は 無用だ。

《各機、すぐさま帰還せ よ……及び、タンホイザー起動!》

ダイテツの指示に、4機はそ のままオーディーン艦内へと帰還していく。

格納を終えると、オーディー ンの艦首部分のハッチが開き…その下から、巨大な砲口が一門、姿を見せた。

ザフトがAA級の陽電子砲を 参考に再現したオーディーンの最強武器、タンホイザーだ。

ハッチから起き上がり、セッ トされる……砲口にエネルギーが収束し、臨界を超える。

《撃てぇぇぇぇぇっ!!》

ダイテツの咆哮とともにタン ホイザーが発射された。陽電子の波が真っ直ぐに突き刺さり……残存のコンテナ船、コーネリアス級が轟沈し、閃光のなかに掻き消えていった……

《よしっ! 回頭! 現宙域 より急速離脱!!》

もはや長居は無用……そのま ま回頭し、オーディーンは潜行するシルバラードを追って再びデブリ帯のなかに潜行していった。

残存の兵は救命ランチに乗っ て周囲を漂っている……あとはここに来た部隊が回収するだろう。

通商破壊最初の目標は、見事 果たした。

だが、これはまだ……通過点 でしかない………未だ、彼らの進む先は…深い闇に覆われているのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

様々な思惑が交差し…動き出 す世界………

反連合政府組織の者と交わす 言葉は、なにを齎すのか………

 

そして……世界の裏側で戦う 者達………

複雑に絡む世界……戦場で邂 逅する時、彼らはなにを思い、感じるのか………

 

王道ではない者達が見せる戦 いは………

 

 

次回、「アストレイ(王道でない者達)

 

王道を逸れし道、突き進め、 アストレイ

 


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