薄暗いモニターが立ち並ぶ空間……その中央で、膝に座る黒猫を撫でながら、ロード=ジブリールがやや眼元を細めてモニター画面に映る仮面の男を見据えてい た。

「で……アレだけお膳立てを しておいてやりながら、貴様はいったい何をやっていたのだ?」

冷たい口調で責められるの は、ネオであった……モニターの向こうで、仮面に覆われた素顔からは読み取りにくいが、微かに表情が顰まっている。

《ご期待に添えず、申し訳あ りません……》

やや沈んだ声で謝罪する…… 最新鋭の戦艦とMSを渡されておきながら、まったく成果を出せていない……それは確かにネオらの失態であろう。

「フン……まったく、無能無 能無能すぎる! おまけに残存兵力ごときに被験体一体を喪うとは……データもさほど取れていないというのに………」

子供のように癇癪じみた悪態 をつくジブリールに、ネオはさして気にも留めず、やや戸惑いがちに申し出る。

《D−15:ステラ=ルー シェに関しては……》

「損失だっ、まったく……不 良品など、もう要らん…」

苦々しく吐き捨てる……内 心、これでまた失態を演じ、自身の立場もまたもや危ぶまれる。

結果を出せない駒など必要な い……おまけに数週間前に得た情報から、アズラエルがさらに盟主たる立場を確固なものとしてしまった。

「お前達は当分、月での待機 を命じる……暫く、頭を冷やして己の立場を弁えろ」

侮蔑するような視線を向ける ジブリール……今はどう動いても自身にとってはマイナスな要素が多すぎる。

ただでさえ、被験体を一体 喪ったことでまたロドニアのラボから引き抜かなければならず、そんな事をすればアズラエルにまたもや見下される。アズラエルは今やある技術を手にし、連合 軍部内での発言権をさらに拡大している。

《我々は御役御免です か……》

「そうではない…今は力を蓄 えるのだ。お前にはまだまだ働いてもらわねばならん……」

あくまで冷静な口調で応じる ネオにジブリールは鼻を鳴らす。

最近はブルーコスモス穏健派 においても不穏な動きがあるという報告を受けている……その情報は僥倖であった。

穏健派の筆頭であるシオンは アズラエルの方策に好意的ではない……ならば、当然これからアズラエルが取ろうとしている行動に対してなんらかの妨害工作に出る可能性もある。ならば、そ の間に自分は力を蓄えておくべきだろう。連中が互いに潰し合って、消耗したところを衝けば、ブルーコスモス内部でのさらなる地位向上にも繋がる。

《では、アズラエルへの協力 は誰が行う?》

こちらから協力を申請してお きながら、戦果も挙げられずに一方的に引いてはそれこそジブリールの面子は潰れる。

だが、その質問に対しジブ リールはフッと口元を薄く歪める。

「心配要らん……協力には別 の連中を差し向ける。お前が心配する必要などない」

その答にネオは意図を掴め ず、黙り込む。

「いいか、忘れるなよネ オ……お前を生かしてやっているのは私だ。お前を拾ってやったのは私だということをな。お前はただ私の言うように動けばいい」

睨むような視線にネオは恭し く頷く。

《重々、承知しています》

「ならばよい……残った被験 体2体はお前に管理を任せる……スレイヤーの連中にも当面は大人しくしてもらう。いいな…お前達は所詮駒だ。ただ命令を実行するだけでいい」

駒が勝手に動いてはゲームな ど成り立たない……前線の兵士に主義や主張など不要。

そのような余計な感情こそが 敗因に繋がるのだとジブリールは考えている。

「残りの二人も今は睡眠学習 をさせておけ……いいか、くれぐれも駒に情を掛けようなどと思うなよ。もっとも…貴様自身がそんな立場ではないかもしれんがな……」

慇懃な物言いで呟くジブリー ルにネオは憮然とした表情のまま……通信を切った。

鼻を鳴らして一瞥すると、ジ ブリールは別の場所へと通信を繋げる。

「私だ……すぐさま、オーブ へと連絡を繋げ」

ジブリールの次なる駒……そ れは、以前から接触のあったオーブ分家氏族、セイラン家であった。

 

 

 

オーブ本国……ヤラファス島 行政府………現在、喪失した五大氏族に代わり、分家氏族達が暫定政府を樹立し、実験を握っている。

その筆頭たるのが、アスハ家 分家のセイラン家であった。

他の分家首長達が見詰める先 に座るゴーグル型のサングラスをかけた中年の男…セイラン家当主のウナト=エマ=セイランが腕を組み、思考に耽っている。

先程、大西洋連邦内から極秘 裏に伝えられた要請であった。

「それで父上…いったい、ど うされるのですか?」

さして悩んでいなさそうな軽 薄な調子で問い掛けるのは、ウナトの隣に座る息子のユウナ=ロマ=セイラン………

「どうもこうもない……今の 我らは連合の傘下…その意向に反するわけにはいくまい……」

鼻を鳴らすように答えるウナ ト……先程の大西洋連邦を経由して通信してきたのはロード=ジブリール……ウナトが大戦中期から密かに接触していたブルーコスモス内部でも大きな派閥を持 つ強硬派の一員………ウナトがブルーコスモスと接触したのは、いずれ自らの家の力を拡大するためであった。

中立政策に拘る宗家のアスハ の当主であるウズミが世界情勢を鑑みない中立主義をいつまでも続けられるとは彼自身、これっぽっちも期待していなかった。

大西洋連邦内で勢力を強めて いるブルーコスモスがいずれ、連合内を掌握すると見たウナトはだからこそブルーコスモスと接触した。この先見の才でいえばウナトは有能であるが、如何せん 権力志向が強い。だが、その根は強大な力を恐れる小心的な一面もある。宗家であるアスハに気取られぬようにあくまで水面下でブルーコスモスと接触しようと していたが、サハク家に先んじられ、盟主たるアズラエルとの会合は水泡と消えたが、捨てる神あれば拾うなんとやら……強硬派内部でも巨大な派閥を誇るジブ リールがウナト達と接触してきたのだ。

そしてジブリールを通じてそ の裏にいる軍需産業複合体:ロゴスと接触することに成功し、援助を受ける代わりに、ウナトはオーブ内の現状密告を行っていた。だが、サハク家と違い、ウナ トは国民を第一に考えているわけではない。あくまで自身がいずれ治める国だからこそ、オーブを護ろうとしているのだ。

「しかし、国民の中には国外 へ流浪する者もかなりの数に昇っております」

同じ分家首長の一人がそう報 告する……連合内に組み込まれた以上、その意向に添うのは当然だが、大西洋連邦が課すのは難題ばかり……今、オーブ領土内にある島にカーペンタリア攻略用 の補給基地建設に関しても、あまりに短い期間しか与えられておらず、ウナトは国民を動員して建設に当たらせていたが、そのあまりに過酷な労働に不満を持 ち、国外へと逃亡する国民も多い。

なにせ、重労働を課せられる 国民に比べて政府内の首長は連合に媚を売り、私腹を肥やしているので余計に間が悪い。彼らからしてみれば、後のオーブ独立のためのことではあるが、その姿 勢が今の国民には卑屈に映るのであろう。

「構わん……それより、アメ ノミハシラの方はどうなっておる?」

「それが……数日前から定時 連絡が途絶えております…妨害か…あるいは……」

彼らが今なお厄介と映るのは 衛星軌道上のアメノミハシラ……そこには、五大氏族のサハク家が取り仕切り、なにを思ったかオーブ本国に対して反逆紛いに行動に出る始末……彼らにとって は眼の上の瘤であった。

その動向を探るために、難民 に紛れて間者を送り込んだが……連絡が途絶えたということはそれだけでどうなったかを想像するのは容易い。

ウナトは内心、アメノミハシ ラの存在を抹消するべきだと心に決めていた……アレがこの先どういった動きをするにせよ、それは今のオーブにとっては好ましくない。

「参番艦のパーツは?」

「現在、連合の部隊が月基地 へと移送……既に完成しているそうです」

首長の一人が尋ねると、素早 く返答が返る。

「ならばよい……では、予ね ての要請通り、本国に残留する兵士を月へと上げさせる」

彼らがジブリールより受けた 要請………それは、人員の引き抜きであった。

連合内での上層部から中間層 のほとんどの将校を自らのシンパで固めているアズラエルのために、ジブリールには動かせる兵力が少ない。子飼いのネオが率いるファントムペインは彼の懐 刀……この先の事態に備えて温存しなければならない今、もっとも確実でしかも駒の損失が関係ないオーブのセイラン家へと兵員の差出であった。

これなら、自らの駒を失うと いうことはなく、またそのまま自らの駒の増加にも繋がる。言わば、損がないのだ……流石のセイラン家もこれには難色を示した。

ただでさえ本国に残留してい る兵力は少ない……その数少ないオーブ軍将校をいくらスポンサーの意向とはいえ、差し出すのは躊躇われた。だが、ジブリールは戦後のオーブ独立の具申とさ らにはセイラン家による統治のバックアップを餌に首を縦に振らせた。

いいように扱われているだけ かもしれないが、目先の欲にばかり拘り、全てはオーブのためと自らを言い聞かせているだけの傀儡だ。

「残留している兵士のなかで もっとも階級が高いのは……シンドウ=トダカ一佐だな。彼に選抜は任せる。その後、ビクトリアから宇宙へ上げさせる」

「はっ」

ウナトの指示に一人が席を立 ち、議場を後にする……残った一同は次の議題に入る。

「さて問題は……未だ逃亡中 のアスハの娘のことか」

ややウンザリした口調で呟 く……アメノミハシラと並んで彼らのもう一つの悩みの種は、ウズミが脱出させたクサナギとそれに乗艦しているアスハ家の生き残りであるカガリの存在であっ た。

宗家にあたるというのに、ウ ナトには敬意の念が少ない……長年、アスハ家の下で働き…そして遂に機を得たと考えている彼らには厄介者でしかない。

「でも、父上…カガリには是 が非にでも戻ってもらわなくちゃ……なにせ、僕の大事な花嫁になるんだからね」

ユウナが得意げには鼻を鳴ら す。

そう……カガリはユウナの婚 約者でもある…といっても、許婚だが………ウズミにカガリの相手としてユウナを薦めたのはアスハに取り入るためであったが、そのアスハが消え…立場が逆転 した今、カガリにそこまでの価値はないが、それでもアスハの名はオーブの国民にとっては心の拠り所であり、内政統一のためのプロパガンダになる。

「捜索はどうなっている?」

「はっ…それが、八方手を尽 くしているのですが……L4宙域での戦闘を最後に行方を晦ましております」

苦々しく答える首長の一 人……カガリの身柄確保とクサナギ内に移されているモルゲンレーテの全データの奪取…そのためにはどうしてもクサナギの掌握が必要不可欠であり、早急に行 き先を掴まねばならない。

「急げ……では、本日の会議 はこれまで」

短く言い放つと、ウナトが席 を立ち…それに続くように首長達も席を立って議場を後にする。

残ったウナトは一人、窓から 見える空を見上げながら、内心に呟いた。

(私はこのまま終わる男では ない……必ず、このオーブを私の手の中に置き、世界に名を馳せる国としてみせよう………ウズミ=ナラ=アスハ…貴公のやり方は間違っていたとね)

静かに野心を滾らせるウナ ト……だが、その野心が齎そうとしているものが国の分裂ということを……彼は知る由もない………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-48  望まぬ追撃者

 

 

ジブリールが暗躍している 頃……同じくしてシオンもまた裏で動いていた。

連合政府内のブルーコスモス 強硬派シンパの政治家のスキャンダルネタによる裏取引と戦後の和平交渉における仲介役のために赤道連合、スカンジナビア王国への根回し…加えてOEAFOの 活動などもやらねばならない。

だが、彼らはあくまで表立っ て動けないためにOEAFOの方は完全に現場の指揮官に任せてしまうが、今現在は南アメリカ合衆国の軍部が指揮 を執っている。

「譲渡されたMSのうち、既 に8割近くが無事に南米へと届けられました。順次、集結中の兵士達による演習訓練などが行われていますが、やはり連合の監視もあり、なかなか進まぬようで す」

苦い口調ながらも淡々と告げ る秘書にシオンは内心舌打ちする。

本拠である南米大陸は永世中 立地帯とはいえ、その管轄は大西洋連邦にあり、厳しい監視の眼が置かれている。そんななかで密かにMSの訓練を行うというのは難しいのだ。

「ですが、MSの増加により 以前よりはマシになったでしょう」

せめて害した気分を和らげよ うと発する……レイナ達の譲渡で今やMSの数はかなりのものになっている。

以前は数が揃わなく、訓練云 々以前の問題だった…それに比べればまだ幾分かマシだろう。

「その他、ライラック女史に よるサルベージされた連合及びザフトの艦艇は順次、アルカードコロニーに安価で回してくれるそうです。それと、連合政府内の中間層による強硬派への移行に 歯止めをかけておりますが、やはり芳しくありません」

マルキオ導師を通じてジャン ク屋組合のフォルテと密かに連絡を取り、各戦場で放棄されたものやデブリベルトに流された艦艇などをサルベージし、通常よりも安価で彼らの宇宙の拠点であ るL3の民間コロニーに偽装した軍事基地へ順次移送してもらっている。

既に連合のアガメムノン級や ザフトのナスカ級やローラシア級など、多数の艦艇が揃い、順次修理を行っている。

軍備面は少なくとも今のとこ ろ順調だろう…問題は連合政府内のパワーバランスだ。ここ最近の連合の快勝に浮かれた政治家が次々と強硬派路線に移っている。これ以上、中立派からも移行 者が増えれば、間違いなく時期が来るよりも早く穏健派の政治家は議会から駆逐される。

「スカンジナビア、赤道連合 への根回しは……?」

「現在、水面下で交渉中で す……ですが、スカンジナビア王国のリンデマン外相によりますと、既にスカンジナビア王も賛同の意を示していると報告があります」

「まあ、あそこはな……」

シオンは元々ヨーロッパ地方 の出身……スカンジナビア王国の王族とは何度か交流がある。ゆえに、今回の根回しにも賛同の意を示してくれたのだろう。

それに、かの国王は今は亡き ウズミ=ナラ=アスハとも交流があったと聞く……その遺志を汲んでいるのかもしれないが、シオンにとっては別段それは気に掛けることではない。

赤道連合はまだ時間が掛か る……なにせ、あそこは上を東アジア…下にカーペンタリアと挟まれた状態……迂闊な動きで両軍を刺激するのは避けたいのだろう。

「ジブラルタルは陥ち……ザ フトもほぼ宇宙へと撤退している…機を逃せばそれだけで我らの動きは水泡に帰す」

「その事ですが……」

独りごちたシオンに秘書官が 口を挟み、シオンが顔を向ける。

「連合の部隊編成が思った以 上に早いです。既にカーペンタリア攻略のための部隊が集結中との情報があります」

「なにっ!? ジブラルタル からまだ一週間程だぞ!」

あまりに連合の体勢の立て直 しが早い……シオンの予想を遥かに上回る。ジブラルタルという地上におけるザフトの拠点を攻め落とすのは今の連合の戦力なら不可能ではなかろうが、それで もザフトも必死に抵抗してくる。事実、投入されたユーラシア・東アジアの陸上部隊はかなりの被害を受けた。MSの損失や戦車・戦闘機とうの兵器の消失…人 員の損耗もばかにならない。大西洋連邦も水中部隊を叩かれ、少なくはない損害を受けているはず。陥落させてからまだ一週間程度…その戦闘で喪った人員や兵 器の補充、部隊の編成には少なくとも数週間は掛かると踏んでいた。

しかも今度はカーペンタリ ア……地上における最大拠点…当然、ジブラルタルよりも大部隊を送り込むと予想はできるが…それだけの部隊を編成するにしては時間が短すぎる。

「まだ未確認ですが、その理 由について気になる情報が……」

「何だ?」

「北米のデトロイト工場地帯 において、現在MSの大量生産が行われているという情報が入っています」

その言葉に、シオンは怪訝そ うに首を傾げる。

「妙だな……デトロイト地区 は確か今は稼働率が極端に低いはずだが………」

北米のデトロイト工場区…… 開戦以前は大西洋連邦の兵器開発における軍需産業の担い手であったが、その巨大なオートメーションシステムは原子炉に頼ったものであり、Nジャマーが投下 後、その生産能力を極端に低下させていた。

そのデトロイトで現在MSが 大量に増産されているというのは腑に落ちない。

「まさか………至急、デトロ イト地区の情報を集めさせろ!」

声を張り上げるシオンに秘書 官は面を喰らったように表情を強張らせる。

だが、シオンは内心確信して いた……生産力の回復……それは原子炉の復活…そして……Nジャマーを無力化することを意味している。

暫し呆けていた秘書官は慌て て応じ、手元の端末に入力する。

「それで……連合の動き は?」

「は、はい……現在、オーブ と赤道連合の仮設基地に洋上艦隊が集結しつつあります。また、数日後には月基地より編成された降下部隊が衛星軌道に向かうものと思われます」

「空と陸……両面から仕掛け るつもりか」

苦々しい口調で呟く……ザフ トお得意の降下作戦をもってカーペンタリアを攻略するつもりなのだろう。

海上からの揚陸部隊と降下部 隊……この分では、航空MSも量産に入ったとみていいだろう。

だが、この状況はまさしくシ オン達OEAFOにはまずい状況だ。

彼らとしては、地上での連合 の眼がザフトに集中してくれているからこそ裏で動き回れるのだが、もしザフトが地上から追い出されればそれだけ地上の他の地域での動きに眼を光らせる可能 性もある、

いわば、シオンらにしてみれ ばまだザフトが地上から駆逐されるのは避けたい……

「カーペンタリア攻略の作戦 の開始時期は?」

「予想ですが、作戦名、オペ レーション八・八と連合内で進行していますことから、遅くとも一週間後かと……」

地上の連合艦船は妨害は難し いであろう……ならば、宇宙から降下する部隊を叩くしかない。

「アメノミハシラだった か……そこへ通信を送れ。連合の作戦妨害のために降下部隊を強襲するように発信しろ」

宇宙にいるOEAFOと 協力関係を結んでいる3国同盟軍……彼らに衛星軌道から降下する部隊を強襲させ、少しでも戦力を削ぐしかない。

最悪でもザフトの地上戦力は 膠着状態にあと少しは持ってもらわねば……

「彼らが従うでしょうか?」

疑念を覗かせて秘書官が顔を 顰める。

「解かっている……だが、少 なくとも協力関係にある以上、無下にはできまい。それに、この申し出を断れば連中にもまずい事態だろうしな」

連合政府内とのパイプを繋げ る意味でOEAFOに接触してきたのだ。ここで少なくとも反友好的な態度には出にくいとシオンは踏んで いる。

「解かりました……それと、 ロード=ジブリールですが、ここ最近不穏な動きをみせております」

「あの男がか?」

アズラエルと並んで強硬派で もはばをきかせているジブリール……当然、シオンら穏健派とは対立関係にある。

「はっ……未確認ですが、 オーブ暫定政府とも密かに接触しているようです」

その言葉に、考え込む……確 かに気にはなるが、ジブリールもここ最近はアズラエルにおされている。今はそこまで気を配らなくてもいいだろうと内心区切りを入れる。

「盟主は?」

「今朝未明、ビクトリアから 再び宇宙へと戻られました……恐らく、八・八作戦のためと思われます」

アズラエルの動向を探ってい たシオン……一度は宇宙に上がり、その後地上に戻っていたアズラエルは連合のグリーンランド本部を訪れた後、すぐさまビクトリアから宇宙へと上がってい た。

間もなく発動される八・八作 戦の視察も兼ねているのだろう……

「解かった……とにかく、ま だカーペンタリアに陥ちてもらっては困る。連中に降下部隊の強襲を依頼しろ…少しでも戦力は削ってもらわねば。それと、ジブリールの動きにも気を配ってお け。あの男も何をしでかすか解からんところがあるからな……それと、アンダーソン中将に連絡を取って赤道連合へのアプローチの強化を……」

「畏まりました」

矢継ぎのように指示を出し、 間髪入れず頷くと、秘書官は一礼して執務室を後にする。

シオンは疲れを滲ませながら シートに身を沈める……だが、天井を一瞥すると、改めてOEAFOの運用と連合政府内への根回しを再開した。

 

 

 

 

衛星軌道………ビクトリアか ら打ち上げられたシャトル………一隻は通常のタイプともう一隻は大型の輸送機タイプだ。

重力圏を離脱し、2隻はその まま航行モードに入り、真っ直ぐに月基地へと向かう。

デブリを迂回していくと、そ こで待機していた護衛船団とランデブーする。

周囲を護衛艦隊に囲まれた シャトルには、アズラエルと隣にはウォルフ、そしてイリューシアの姿がある。

「で……どうだったんだ、ボ ケ爺どもとの会議は?」

批評するような口調とともに 問い掛けると、アズラエルはやや鼻を鳴らして見下すような視線を浮かべる。

「まったく……どいつもこい つもここに来て尻込みするような連中ばかりさ。まあ、黙らせたけどね……」

数週間前のグリーンランドで の会議を思い出し、アズラエルは悪態をつく。

メンデルで手に入れたNジャ マーキャンセラーのデータは彼にはまさになによりも追い求めていたピースだったのだ。

それを基に核ミサイルを大量 生産し、プラントを直接攻撃しようと連合首脳陣に具申してみれば、軍首脳部の閣僚達はこぞって顔を顰めた。彼らにしてみれば、まずは地上のエネルギー問題 を解決したいと望んでいるのだ。自分の治める地帯の回復を先に願うのは勝手だが、それがアズラエルには卑屈に見えるのだろう。

核はもう以前にも一度撃っ た……今さら躊躇う必要がどこにあると………そう言ってみれば、それは自分達の独断専行と愚痴る始末……もう、アズラエルは首脳陣はあてにしていない。

どの道、連中には作戦に口を 挟む勇気さえないのだ……軍上層部は既にアズラエルシンパのブルーコスモスの将校で固めてある。言わば、今回の首脳陣との会議でさえ、一応の筋を通しただ けにすぎない。

「既に地上で随時量産して、 月基地へと配備中だ……遅くとも、一ヵ月後にはプラント攻略戦に入れる」

「そうか……ならば、俺の機 体はどうなっている?」

「君が派手に壊してくれたか らね……まあ、技術連中も次の改修プランを考えていたようだから、ちょうどよかったよ……例の新型機とともに月で改修中さ。あのデータのおかげで、完成が 早まったからね」

先のメンデル戦で中破した ウォルフのゲイルは現在、プトレマイオスクレーターで改修中だ。そして、手に入れたNJCを搭載しているMSのデータから、以前から進めていた新型機の開 発も飛躍的に進み、アズラエルにはまさに僥倖が続くばかりだ。

「それで、降下部隊は?」

「もう編成が済んでいる…… サザーランド大佐に任せておけば問題はないさ」

この間にも既にカーペンタリ ア攻略部隊が着々と編成され、順次衛星軌道に向かう。

「護衛艦隊は?」

「第8艦隊に任せるさ……例 の機体とX131の3号機をそのために持ってきたんだ。まあ、少しは貢献してくれたことに感謝しておかないとね」

「ほう……あの耄碌老い耄れ の艦隊か」

ハルバートンが具申したG計 画を真っ先に取り上げたのは他でもないアズラエルだ。その後、軍上層部で却下されるはずだったG計画を軌道にのせ、さらには開発にまでこじつけさせたハル バートンの功績は確かに無にはできないものだろう。

だが、肝心のハルバートンは 現在の軍上層部にとって厄介者でしかない。ザフト攻略はともかく、その後のプラントを軍事制圧することには常に反対している。

彼にしてみれば、コーディネ イターとはいえ民間人を軍事力で屈服させることは不本意なのであろうが、アズラエルには関係ない。

故に厄介払いをしたいと常々 考えている……幸いにも、先の地球軌道の戦いでハルバートン旗下の第8艦隊は多大な損耗を受け、現在再編成されている。

「彼にケルビムを任せてあ る…そこまで恩を売ったんだ………しくじれば当然、始末するさ……」

新型艦とMSを与えた以上、 少なくとも恩恵としては充分すぎるものであろう……これでしくじれば、ハルバートン派を失脚させることもできる。

それにもし万が一の場合は、 別の指示を別の者に出している……編成された第8艦隊の旗艦以外のほぼ艦艇の人員を総入れ替えてある。

「ああ、それと…アルスター 事務次官の娘には、ドミニオンに配属してもらう」

「使えるのか…あんな小娘 が?」

アズラエルが発した予想外の 言葉に思わず問い返す。

メンデルでNJCのデータを 持ってきたフレイ……その彼女は、重要かつ有益な情報を持ち帰り、さらにはあのクルーゼ隊の捕虜から逃れてきたという御大層な看板まで掲げられて、異例の 昇進を受け、二等兵から少尉へとなり、ドミニオンに配属された。

しかし、ウォルフの観点から 見たフレイはおどおどしたなんとも情けない……おまけにすぐに泣き出しそうになるような腑抜けと映っている。彼女の個人データにも眼を通したが、ヘリオポ リスでのカレッジにおける成績はパッともせず、また軍に関する知識すら皆無……はっきり言えば、単なるお荷物としか映っていない。

ドミニオンで帰還する時に軽 くからんでみたら、泣きそうに縮こまり、ナタルに止められた。

そんな小娘を見て、レイナと 比べても仕方がないことだろうが……やはり、ウォルフのこの満たされない渇きを潤してくれる相手はレイナしかいない。

「大丈夫さ…バジルール少佐 が面倒を見てくれてる……それに、なかなか美談じゃないか。死んだ父親の敵討ちに燃える少女というのも………」

教養の足りないフレイが軍に 残り、しかもドミニオンに配属を希望した。アズラエルはそれをプロパガンダに使おうとした。

戦死したアルスター事務次官 の愛娘がコーディネイターへの敵討ちを誓うというのはなかなか美談だ……いい宣伝効果にもなる。

そして、肝心のフレイの指導 はナタルが積極的に申し出てくれたので、問題は無いだろう。

「ファントムペインとやらは どうするんだ?」

「ああ、その事なら問題ない よ…彼女に戻ってもらった……例の機体の内一機を彼女に任せようと思ってね…まあ、少しは完成度が高められたらしいからね。彼女を配属させるさ……」

有体に言えば、監視であ る……ジブリールがどういう思惑を持っているかは知らないが、少なくとも今は下手な動きはできないであろうとアズラエルは踏んでいる。

だが、このまま放置しておく のも危険なので、子飼いのファントムペインに自分の息の掛かった駒を配備させ、監視と万が一の場合に備えさせようともう一隻の大型輸送機に乗船させてい る。

「ほう、奴か……幽霊の処刑 人…成る程、打ってつけだな」

アズラエルが指す人物に思い 至り、ファントムペインを監視するには確かに打ってつけだろうと内心笑みを浮かべる。

「奴が例のRGXナンバー か……ああ、それと…3号機には例のナンバーを乗せるんだろ? お前はなんの感慨もないのかな?」

揶揄するような口調でアズラ エルとウォルフが腰掛けるシートとは別のシートに座るイリューシアに話し掛けるが、イリューシアは無表情で淡々と呟き返す。

「私には関係ありません…… それに、アズラエル様のお役に立てるのなら、セカンドも本望でしょう」

イリューシア……いや、アク イラの本心を既に知りながらも含みのある態度で皮肉るウォルフは口元を緩めながら声を押し殺している。

「で……例の部隊のコード ネームは?」

「『Peace  Maker』……いい名だろう。あの化け物どもを一掃するための平和の導き手」

興奮げに語るアズラエルは、 期待に満ちた眼で胸を張る。

「編成は主にドゥーリットル 以下に現在配備中さ……それと、5番艦にはダガーのLタイプを配備させる」

全ては順調……あの汚らわし い化け物ども……幼い頃に受けたあの屈辱を晴らすことができると……その刻が来るのを心待ちにアズラエルはほくそ笑む。

そんなアズラエルの様子に満 足げに見詰めるウォルフと…無言のまま見るイリューシア……そのまま護衛艦隊を伴いながら、アズラエル達の乗ったシャトルが月軌道にのろうとした瞬間…… 突如、艦隊が制動をかけ…それに従うようにシャトルも制動をかけてその場に静止する。

「? どうしたのですか?」

もう月基地はすぐそこだとい うのに何故静止するのか……アズラエルはやや腑に落ちない表情で首を傾げるが、窓から月の上空付近を見やったウォルフが唐突に呟いた。

「どうやら、戦闘のようだ な」

特に慌てもしない様子でそう 呟く……窓からは、月面の上空で煌く閃光が幾条も見える。

その時、艦内放送が響く。

《アズラエル理事…現在、月 基地でトラブルが起こっております。しばらくお待ちください……すぐに収集つけさせますので》

恐縮するようなパイロットの アナウンスに……アズラエルは不満を露にしてその場に頬づえをつく。

「いけませんね……警備ぐら いはちゃんとしてもらわないと…それに、僕を待たせるなんて非常に遺憾ですね」

元来、待つというのが性分に 合わないアズラエル……仮にも連合の最大の拠点であるプトレマイオスクレーターなのだ、いつまでも手間取ってもらっては困る…自分にはまだまだやらねばな らない事が多々あるのだ。

「イリューシア……あっちに 連絡を取ってくれ。セカンドと3号機を出せとね」

ここで待ちぼうけというのも 面白みがない……ならば、少しでも楽しませてくれる要素を投入した方が退屈凌ぎにはなる。それに、持ってきた機体の調整もできる。

「畏まりました」

恭しく一礼すると、イリュー シアはすぐさま端末に寄り……並行してきたシャトルへと連絡を取った。

 

 

シャトルと並行して静止して いた大型輸送機……その格納庫では、一体のMSが発進を進められている。

機体形状は、オルガの駆るカ ラミティと同型だ。GAT−X131−03……カラミティ3号機だ。武装こそ変わらないが、より迷彩に塗装されたカラーリングが機体を際立たせる。ラダー の下りた先には一団が歩み寄る。

白衣を纏った研究員と思しき 者が数名に武装した衛兵の中心に手枷をはめられ、連行されているような少年が一人……ラダーの下まで歩み寄ると、研究員が促し、衛兵が手枷を外し……研究 員の差し出した注射を受け取ると、少年は無言でラダーを昇っていく。

ヘルメットも被らず、生身に 近い状態でコックピットに収まると……固定していたメンテナンスベッドが移動し、後部貨物ハッチへと移動する。

ハッチが開放され……宇宙が 覗くと、少年は注射を自らの腕に刺した。

刹那……注射を握っていた手 が離れ、注射器具がコックピット内を浮遊する……無表情だった少年の顔に不気味な笑みが浮かぶ。

「っククク……いひひ……… 殺してやる…殺してやるぞ……このセカンドがなっ」

狂ったように笑いながら…… 少年…セカンド=ソキウスは操縦桿を握り…レバーを押した。

次の瞬間、固定具が外れ…カ ラミティ3号機を船外へと射出する。

「さぁ…獲物は何処 だっ!?」

その叫びに呼応するよう に……自動索敵が働き、それが月面の上空を指し示すと、セカンドは迷うことなくペダルを踏み込み、操縦桿を引いた。

カラミティ3号機のバーニア が火を噴き……機体を真っ直ぐに突き進めた。

 

 

 

月面……プトレマイオスク レーターの上空では激しい攻防が繰り広げられていた。

群がるストライクダガーを相 手にしているのはハイペリオン1号機……カナード=パルスの駆る機体だ。

先のアルテミス脱走の際に手 に入れたハイペリオン2号機の残骸を予備パーツとして修復した機体を駆り、彼はある目的のために連合軍の月面基地襲撃を決めた。

たった一機で連合の最大の拠 点を襲撃するなど、普通では考えられない大胆な行動だが…それを推してでも求めるものがここにあるのだ。

Nジャマーキャンセラー…… 大西洋連邦が手に入れ、増産を開始している代物…その情報を先のアルテミスで得たカナードはそれを手に入れるために味方の識別コードを利用して接近し、一 気に強襲した。防御機能に特化したハイペリオンだからこそできる迅速な襲撃方法だろう。

基地に侵入さえしてしまえば あとはこちらのものだろう……自分達の基地内ではそう派手な行動が取れない…対し、こちらは暴れ放題だ。滞りなく進み、NJCの量産物を手に入れたカナー ドは用は済んだとばかりに離脱しようとしたが、そこへ待ち構えていたモーガンの率いる部隊と対峙した。

『1』というナンバーとエン ブレムを機体に刻印したモーガンのガンバレルダガーと同じ月下の狂犬のエンブレムとナンバーを刻印された部隊を表すマーキングを持つ105ダガー部隊…… 全機がエールパック装備だ。

先陣を切るモーガンのガンバ レルダガーがガンバレルを展開して、四方からビームを浴びせるもハイペリオンは悠々とかわし、カナードは歓喜にも似た笑みを浮かべる。

「おもしろいっ! こんなと ころで奴らと似たような武器と戦えるとは……っ!」

ガンバレルダガーの攻撃法は 彼が敗れた二人の相手……エヴォリューションとドレッドノートが使用したドラグーンに酷似していた。

二度も同じ手に敗れたカナー ドのプライドを傷つけた相手と再びあいまみえるためにもいい前哨戦になる。

「そいつを打ち破ってや る!!」

いきりながらカナードはハイ ペリオンのアルミューレ・リュミエールを展開する。

全身を覆う球体状の防御シー ルドに攻撃が阻まれる。その異様な光景に指揮下のエールダガーのパイロット達は戸惑い、または恐怖しながら攻撃するが全方位を覆う光波シールドに阻まれ、 届かない。

ハイペリオンはビームマシン ガンを乱射し、近づくエールダガーや布陣していたストライクダガーを撃ち砕いていく。

「こいつがアルテミスの傘を 応用したという……少々厄介だなっ」

モーガンはその光景を見なが ら内心舌打ちする。

元ユーラシア連邦の軍人であ る彼もユーラシア内部で極秘裏に開発されたハイペリオンのことは聞き及んでいたが、話以上に厄介な代物だと内心毒づく。

乱射してくるハイペリオンの 攻撃をシールドで防ぎながら、モーガンは指揮下のMSと連携して波状攻撃を仕掛けるが、一発もハイペリオンには届かない。

歯噛みするモーガンの前で痺 れを切らした部下のエールダガーやストライクダガーがビームサーベルを抜いて接近戦を挑もうとする。懐に飛び込み、ビームサーベルを振り被るも光波シール ドに防がれ、弾かれる。

「雑魚がっ!!」

鼻を鳴らしながら、ハイペリ オンがビームマシンガンで狙い撃ち、機体を粉々に撃ち砕く。

瞬く間に数機のMSが撃ち墜 とされ、モーガンは歯軋りする。

「おのれっ……お前らは下が れ! 後は俺がやるっ!」

生半可な攻撃ではハイペリオ ンは倒せない…ならば、部下のMSは的にしかならないと踏んだモーガンは部下のMSを下がらせ、一機のみで対峙する。

「なぁに…完璧な兵器などな いさ……」

自分に言い聞かせるように呟 くと、モーガンは全神経を集中させてハイペリオンの機体を凝視する。

互いに急加速で接近するガン バレルダガーとハイペリオン……機体の周囲を回るガンバレルが縦横無尽に動き…モーガンはハイペリオンの展開している光波シールドの展開ユニットをその脳 裏に捉える。

「そこだっ!」

吼えるように叫び……モーガ ンの意思に呼応してガンバレルが一点目掛けて一斉にビームを放つ。

「ちぃっ!」

だが、その軌道を読んだカ ナードはハイペリオンのバーニアを噴かし、機体の位置をずらす。展開ユニットは僅かに着弾点からずれ…ビームは光波シールドに阻まれて拡散する。

「よけた、だと……っ!」

絶妙のタイミングで放った攻 撃をかわされ、モーガンは驚愕する。

カナードは以前、エヴォ リューションと戦った時に光波シールドの展開ユニットを破壊されて敗れた。それ以降、その弱点を衝かれまいとカバーしていた。

「悪くない戦い方だ…だが、 二度も喰らうほど俺は間抜けではない! 俺の駆るハイペリオンをなめるなっ!」

間髪入れずビームマシンガン で狙撃し、一瞬呆然となったために動きの止まったガンバレルを撃ち落とし、そしてフォルファントリーを構える。

刹那、ビームの奔流が真っ直 ぐにガンバレルダガーへと襲い掛かる。

かわせない……モーガンは瞬 時に悟り、歯噛みした瞬間……脳裏に声が響いた。

『背中の装備を…切り離すん だっ』

「なに!?」

その声が何なのかを思案する 間もなく、ほぼ反射的にモーガンはその脳裏に響いた声に従い、ガンバレルパックをパージする。

そのドッキング解除の衝撃が ダガーをガンバレルパックから弾き出すように押し出す。

次の瞬間、ビームの奔流がガ ンバレルパックを焼き払う……モーガンは助かったと自覚する間もなく即座に戦闘宙域を離脱する。

手持ちの武装を全て失った以 上、これ以上戦闘続行は不可能であろう。

月面へと撤退するMSを追撃 することなく、カナードは一瞥する。

「フン……いつでも相手をし てやるぞ……」

打ち破った……次は、あの忌 々しい2機だと内心に呟いた瞬間…レーダーが急接近する機影を捉えた。

「懲りない連中だな……ハイ ペリオンは無敵だということを…」

別の追手かと身構えた先に は、急接近するMS……先程、衛星軌道付近から飛び出したカラミティ3号機だ。

モニターにハイペリオンを捉 えた瞬間、セカンドは狂気と歓喜が入り混じった笑みを浮かべる。

「ひゃはははは! アレが獲 物かよ……殺してやるぜ…どいつもこいつも皆殺しだぁぁぁっ!!」

戦闘狂のごとく、セカンドは カラミティ3号機の全火器をフルオープンして撃ち放った。

その桁外れな火力に光波シー ルドで防いだとはいえ、衝撃で押し戻される。

「ぐっ!」

カナードは舌打ちし、ビーム マシンガンを連射する……だが、カラミティ3号機はそれをよけようとも防御しようともせず、攻撃で撃ち返し、相殺させた。

シュラークが火を噴き、光波 シールドを衝撃に包む。

歯噛みしていたカナードだ が、ふと見やったモニターの展開時間が残り1分を切った……このままでは、光波シールドが解除された瞬間にあの火力を受けて機体も無事では済まない。逃げ るというのはプライドが赦さないが、今回の目的はあくまでNJCを手に入れること……眼の前の機体の破壊はその後でもいいと自らに言い聞かせ、カナードは バーニアを噴かして加速させる。

「玉砕かよ……なら、望通り にしてやるよっ!!」

特攻かとまともに働いていな い思考で察したセカンドは全火力を放つ。

だが、衝撃に怯むことな く……懐にまで飛び込んだ瞬間、アルミューレ・リュミエールの展開時間がタイムリミットを迎えた。

光波シールドが消える……だ が、ハイペリオンは構うことなくカラミティ3号機に突撃し…腕部に収納されているビームナイフを掴み、カラミティ3号機に向かって突き刺す。

だが、カラミティ3号機は右 手のトーデスブロックを引き上げ、ビーム刃を受け止める。

エネルギーがスパークした瞬 間、一瞬の間をあけて……バズーカとビームナイフが爆発する。

ハイペリオンはその爆発に紛 れて離脱する……逃すまいとカラミティ3号機はシュラークとスキュラを連射する。

だが、最高速にのってハイペ リオンは月の上空付近に待機しているオルテュギアへと離脱していった……

「ぐぅぅ…… うぉぉぉぉっ!!」

敵を仕留められず…また見逃 してしまったことで溜まった怒りをぶつけるように咆哮を上げ、シュラークを虚空へと向けて何度も放つのであった………


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