一週間前……ロウ達がアメノ ミハシラへと来訪した。

呼び出したのはバルトフェル ド……レイナやリンも呼ばれ、エターナルの艦長室にロウと……サーペントテールの叢雲劾が現われた。

「あんたが、叢雲劾か…… サーペントテールのリーダー…噂は聞いてるわ」

直に顔をあわせるのはこれが 初だが、サーペントテールの武勇伝を聞き及んでいるレイナは笑みを浮かべ、手を差し出す。

「ああ……俺も君の噂は聞い ている。戦場に舞う黒衣の堕天使、そして漆黒の戦乙女の噂はな」

対し、劾もまた軽く笑みを浮 かべて手を差し出す。劾の仲間であるリードの調べや風花から、既にレイナの存在を聞かされていた劾もまたレイナの活躍ぶりは耳にしている。

リンもまたザフト軍のエース パイロットとして、劾はその実力を聞き及んでいた。

「機会があれば…是非とも一 度手合わせしてみたいわね………」

傭兵の中でも恐らく最強と名 高い劾……その力のほどを知りたいと思うのは、純粋に傭兵だった頃の習性だろう……

「生憎と……傭兵は、無益な 戦いはしない………」

「フッ……そうね」

どうやら、冗談だと劾は受け 取ったらしい……これでのるようなら、傭兵としての実力の底は見えるのだが……掛け値なしにこの叢雲劾という男は食わせ者のようだ。

握手を交わす二人を、ロウは 首を傾げながら見やる。

「なんだなんだ…知り合いな のか、お前ら?」

接点がなかったレイナと劾の 意外な関係に疑念を憶える。

「ええ……まあ、直接会うの は初めてだけど…それに、ロウが知り合いってことの方が驚いたわよ」

ジャンク屋と傭兵……接点が ないだけにレイナが不思議と思うのも当然だろう。

「ああ、まあ、いろいろあっ てな……」

アストレイというMSの奇縁 で繋がった二人……だが、その二人が何故呼ばれかが解からない。

「まあ、その話の前に…一杯 どうかな?」

そう呟くと、控えていたダコ スタがバルトフェルドの淹れたコーヒーを差し出す。

4人はそれを受け取り…バル トフェルドは自身のエンブレムを刻印したカップを口に含む。

そして、劾が話を切り出し た。

「では今回の件…俺から説明 しよう」

「この艦に呼ばれた理由 か?」

コーヒーをストローで吸いな がら問うロウ……レイナやリンも耳を傾けている。

「そうだ……俺は数ヶ月前、 ある男から今回の件に関する依頼を受けた」

「数ヶ月前といえば、スピッ トブレイクの開始前後か」

時間を逆算し、リンが呟く。

「その男は、常にプラントと 世界の今後について考えていた。そして、ザフト軍によって開発された試作MSの処遇について重大な決心をした」

「試作MS……?」

「ドレッドノートのことだ な」

レイナの疑問に答えるように ロウが呟くと、劾は頷く。

だが、聞き覚えのないMS名 にレイナは当惑する。

「ドレッドノート……?」

「YMF−X000A:ド レッドノート……核エンジンとNJCを初めて搭載した次世代型試作MS…EX、そしてXナンバーの基になった機体よ」

プラントに一度戻った時に渡 された資料から、リンはそのプロジェクトの詳細を既に独自に調べていた。奪取した地球軍のG4機を解析し、そのデータをフィードバックして開発したNJC 搭載のプロトタイプ……

「だけど、ドレッドノートは テスト終了後に廃棄処分になったと聞いていたけど……」

試作機であり、テスト機でも あったドレッドノートはあくまでNJCのテスト、そして新基軸の技術のテストのために開発されただけに、データ収集後解体されたと情報にはあった。

「そうだ……地球圏に撒かれ たNジャマーを無力化できるNJC…ザフトはそれをMSに搭載することでその機能が正常に作動するかどうかのテストを行った。そして、テスト機であったド レッドノートは今の話どおり、テスト終了後はバラバラのパーツに分解され、核エンジン及び機密パーツ以外は廃棄処分になるはずだった……それをその男は ジャンク屋を通じて全てのパーツがマルキオ導師に渡るように手配した」

「マルキオ導師に……」

その名を聞いた瞬間、レイナ は劾が誰の依頼で動いているかを察した。NJC機のプロトタイプを根回しできるとなれば、それなりにプラント内部でも立場の強い人物…加えて、マルキオに 渡そうとしたことで、いっそう確信した。

「そいつは地上のエネルギー 問題を解決するためか?」

そう……資源エネルギーが枯 渇し、旧来の原子力にほぼ生産力を頼っていた地球全域で起きたエネルギー不足……いくらマルキオとはいえ、ずっと黙認できる事態ではないだろう。

そのためにマルキオは働きか け、NJCの譲渡を依頼した……ロウの推察を肯定するように頷き返す。

「ああ…マルキオならそのた めに尽力してくれるはずだ……だが、それが本当に正しいことなのかどうかその男にもはっきりと確信できなかった」

いくらマルキオが信用に足る とはいえ、もし地球でNJCの存在が露見すれば、それはまず間違いなく新たな混乱を呼び寄せる火種となる。

「もし一つ間違えばかえって 世界は混乱に向かう……プラントの未来に責任を担うその男には、プラントの脅威になるものを生むことは赦されない」

「……成る程、その監視者た るのが劾君なのだな?」

バルトフェルドの言葉に頷 き、なおも話を続ける。

「俺への依頼は事態の変化を 見極め、ドレッドノートの処遇を決めること……連合にもプラントにも不利益にならないよう監視することは求められた………」

「確かに……連合の手に渡れ ば連中は嬉々として使うでしょうしね……ザフトだけの独占技術ならば、さらに戦争は長引き、両国のさらなる疲弊を誘う………」

「それであんなことをしたの か……」

ロウが納得したように頷 く……他でもない…そのドレッドノートの受け渡しを担当したのはロウなのだから………そのドレッドノートは今、自分達の許を離れているが………

「僕は劾君がどのような仕事 をしているのか具体的には知らない……敢えて聞くまい。劾君に討たれても困るしな」

冗談めいた口調で肩を竦 め……バルトフェルドは持っていたカップを置く。

「そこで……だ」

言葉を区切り、懐から一枚の ディスクを取り出す。

「もう一つ厄介な問題があ る……コイツだ。ドレッドノートのテストで得られたデータから生み出されたあるシステムの設計図………」

言いながら、バルトフェルド はリンに視線を移す。

「コイツの扱いをどうすべき なのか非常に悩んだ……これは扱いようによってはドレッドノート本体よりも危険なものだからな………ドレッドノートに搭載された量子通信技術を発展させた 攻撃システム……リン君なら、解かるはずだ」

その言葉に、リンはハッと眼 を見開く。

リンの考えが正しければ…… そのシステムは間違いなくエヴォリューションに搭載されたあのシステム………確かに、アレは扱いによっては危険な代物だろう。従来の戦術を打ち破るシステ ムであり、Nジャマーによって封じられた兵器を復活させる引き金にもなりうるものだ。

「これをこのまま黙殺するこ ともできる……だがそれではあの人の意志を無視することになりかねない……そんな時だった……ロウ君に補給を受けた時にドレッドノートが君の艦に積まれて いることを知った……」

L4を脱出してすぐの補 給……あの時点では、まだ肝心のパーツが劾によって持ち出されたために完全ではなかったが、ドレッドノート本体そのものがリ・ホームに積まれていた。

その報告を聞き、このアメノ ミハシラで落ち着いてからバルトフェルドは思い悩んだ結果、その結論に至った。

「そこで、このデータ……君 に渡すのが良いのではないかと思いついた訳だ。そしてそのことのためのジャッジに監視役の劾君と……君ら二人に来てもらったというわけだ」

含みのある笑みを浮かべてレ イナとリンを見やる…成る程と内心呆れにも似た思いを抱く。

同じNJCを持つ機体を駆る 者として…そしてなにより、そのシステムそのものを扱う者として、自分達以外の機体を持つ者がそれを持つに信用に足るかどうかを見極めさせるために二人を 呼んだのだろう。

暫し瞑目していた劾であった が、やがて口を開く。

「ロウ=ギュールがそのデー タを受け取ることに異存はない……クライアントの意志に反する行為ではないからな……だが、今後の事態の推移によっては大きな危険を伴うことになるだろ う」

やや言葉を濁らせながらそう 呟く。

「成る程……レイナ、リン 君…君らはどうかな?」

話を振られ……二人も暫し考 え込むように口を噤む。

「私にはどうこうは言えない が……少なくとも、私が異を挟む必要はないでしょう…既にその答の一つは私自身が使っているのだから……」

リンにはそこまで気に掛ける ことではないだろう……ならば、そのデータを使う者次第だ。

「私も構わない……少なくと も、この男は信用できる………」

レイナの考えが正しければ、 NJCは既にもうザフトの独占技術ではない……ならば、そのデータを個人が所有しても問題はないだろう。それに、ロウが私利私欲に利用するような輩なら、 バルトフェルドも最初から呼ぼうとはしないだろう。

「ふむ……だ、そうだ。どう するね、ロウ君? 受け取るかどうかの選択は君に任せよう……」

納得したバルトフェルドは改 めて話を振るが、ロウは独り混乱していた。

「ちょっと待ってくれ……そ の中にはいったい何のデータが入ってるんだ?」

ロウだけがどうにも話の主点 が見えず、困惑する。

自分がこのデータを受け取る かどうかの判断を任せられたようだが……そんなロウにリンが声を掛ける。

「これは、ドレッドノートの 能力を強化するためのパーツ……ザフトがNJCと並んで開発したシステムだ………だが、一つ間違えば脅威的な力になる……」

リン自身が使うそのシステ ム……これが加われば、テスト機で核エンジンという駆動システム以外さして秀でた能力を持たないドレッドノートをより強力なものにするための強化パー ツ……ロウはやや戸惑っていたが、やがて意を決したようにディスクを受け取る。

「それをこの先どうするかは 君の判断に任せよう……もし製作する気になったら、ここのファクトリーを使う許可を既に取ってある」

なんとも根回しのいい……と レイナは内心思った。いったいいつ、ミナとそんな交渉を交わしのか………一同が見詰めるなか、ロウの心持ちは既に決まっていた。

なんであれ、まずはやってみ るのがロウの信条……すぐさまアメノミハシラのファクトリーでの製作を開始したのであった………

 

 

時間を戻って現在……ファク トリーの一画を借りたロウは樹里、リーアム、風花、そしてリ・ホームからのジョージの遠隔演算でそのシステム……ドラグーンユニットの製作に取り掛かって いた。

渡されたデータに眼を通した 時、その複雑さと精密さに舌を巻いたものだ……確かに、これは個人で造るのは不可能に近い…それなりに設備の整った場所でなければ……バルトフェルドの手 回しに感謝しつつ、ロウ達は製作を行い、数日間かかりっきりであった。

《いやいや……しかしこれは 凄いな…量子通信にこんな応用があるとは………》

システムを解析し、再現のた めの演算を担当するジョージも感嘆を浮かべている。

「ああ……こいつはすげえ代 物だぜ………」

製作しながら、ロウ自身もこ のシステムに興奮を憶えていた。

その時、ドアが開き……ロウ 達にとっての仲間、ドレッドノートのパイロットであるプレア=レヴェリーが姿を現わした。

「あ、帰ってきたよ!」

樹里が弾んだ声を上げ、全員 が振り向くと、歩み寄ってくるプレアに安堵したような笑みを浮かべる。

「プレア!」

「よう、流石劾……ちゃんと 連れてきてくれたな!」

そう……ドラグーンユニット 製作にあたり、ロウはすぐさま劾にプレアの所在の捜索を依頼し、劾はオルテュギアの所在を捜した。

肝心のドレッドノート本体が なくてはどうしようもないのもあるが、それ以上にプレアのやろうとしている事に必要だと思ったからだ。

「皆さん、心配をおかけしま した」

申し訳ないような表情で誤る プレアにロウはニッと笑みを浮かべる。

「なぁに、いいってことよ… それより、これを見てみろよ」

ロウに促され、視線を移した プレアはそこで製作されているものに眼を驚愕に見張った。

「ロウさん、これは……ドラ グーンですね?」

大きな穴があいた円形の中央 部ユニットから伸びるケーブルの先には攻撃ポッドが4基……ドレッドノート本体腰部に搭載された試作型ドラグーンのプリスティスと同じものだ。

「ああ、そうだぜ……知り合 いから貰ったデータから造ってるとこだ」

悪びれもなく言い放つロウに プレアは表情を顰める。

「すみません、ロウさん…… 僕はこれを使って人を傷つけるようなことは………」

ドラグーンユニットを造って いるということは、まず間違いなく自分のためであろう……ロウのその気持ちは嬉しいが、プレアは戦うことを好まない。

「そうか…まあ、とにかく せっかく造ったんだ……コイツをドレッドノートに付けさせてくれ……使うかどうかお前次第だ」

有無を言わせず呟き、ロウは 黙々と作業を進める……プレアは黙ってその様子を見守る。

ファクトリー内に移されたド レッドノート本体にゆっくり大きなドラグーンユニットがバックパックに装備されていく。

「オーライオーライ!」

樹里の誘導に従い、ドッキン グが施される……電子系等のセッティングを行い、全システムが繋がった。

「よしっ、完成だ!」

声を張り上げるロウ……一同 が見上げる先には、灰色のボディに薄いダークレッドの巨大なX字型ドラグーンが映える。

「これが……ドレッドノート の真の姿………」

「すっごい強そうだね……」

驚愕するプレアとは対照に風 花は感嘆を浮かべる。

だが、プレアは浮かない表情 でロウに振り向くと、済まなさそうに項垂れる。

「ロウさん…やっぱり、僕は これに乗れません……僕は、兵器に乗るなんて…もう耐えられない………」

やるせない表情で俯くプレ ア……気遣うように風花が声を掛ける。

「プレア……」

「そうか……でもよ、そんな 風に思われてたら、コイツも可哀相だな」

プレアの悲壮さを否定も咎め もせず……ロウはどこか論するように呟き、ドレッドノートを見上げ、プレアは眉を顰める。

「道具ってのは使う人間に よってどうなるかが決まる……こいつらは機械だしな。それ自体に罪があるわけじゃない……造られた以上、使われるのがこいつらにとっての幸せじゃないかっ て俺は思うんだ」

機械は使われるために造ら れ、生み出される……人間が生まれたときには罪がないように、機械自体がどのような意図で造られたとしても機械自体に罪はない。ロウは少なくともそう考え ている……だからこそ、ロウはジャンク屋という自分の仕事に誇りを持っている。

「兵器として造られたからっ て、人殺しのために使う必要も使われる必要もないだろ……兵器でも使う奴次第……お前が人殺しをしない決心があるなら、コイツは絶対に兵器にならな い……」

「たとえ、兵器として生まれ ても……使い方次第で兵器じゃなくなる………」

ロウの言葉を反芻しながら、 プレアは今一度ドレッドノートを見上げる。

「ロウさん…これで……ド レッドノートで人を…誰かを救うことはできるんでしょうか?」

「さあな……だが、俺なりに 感じてることはある。メカと使い手の運命みたいなものをな」

呟きながら、ロウはプレアの 相手であり、そして自身も相対した相手を思い浮かべる。

「カナード……って言ったけ な、あの兄ちゃん? 奴のMSは強力なバリアに護られている……あの兄ちゃんの心も一緒だ。殻に閉じこもって隔たりをつくって全てを拒絶している……逆に お前はコイツと同じだな。ドレッドノート……勇敢な者…そして今、その想いを遠くまで飛ばせる力がある」

そう論され、プレアはどこか 逡巡するようにドレッドノートを見上げる。

「ドレッドノート……もう一 度僕に…『勇気』を貸してくれるかい? 僕は、あの人を救うためにキミに乗る………」

自分と同じような運命を背負 い、そして迷う存在を……だが、今ひとつ踏み出せないプレア……そんなプレアを後押しするようにロウがなにかを思い至ったように呟く。

「コイツもアストレイだ な?」

「え?」

唐突な言葉に思わず振り向 く。

「『王道じゃない』って意味 さ……兵器でありながら、人を助けるために使われる。そうだな……大きな『X』を背負ってるから、さしずめ……Xアストレイだな」

アストレイ……ロウが駆る レッドフレームもまたその名を冠するMS………ロウの信念を貫くために使われる兵器………

「アストレイ………」

「まあ、道なんて自分で選ぶ もんさ……王道ばかりが道じゃねえ………」

道は自分で選ぶもの……それ が人の生き方だ………たとえそれが、どのような運命であっても………

顔を上げたプレアの瞳には、 もう迷いはなかった………

(カナードさん……僕は貴方 を止めてみせます。このXアストレイで………)

静かな決意を胸に抱くと、プ レアは身を翻す。

「ロウさん、ドレッドノー ト……お願いします。僕にはまだ、やらなきゃいけないことがありますから」

すっきりした笑顔で告げるプ レアに、ロウはなにも聞かず……笑顔で頷いた。

「おう、最終点検はやってお いてやるから……行ってこい」

「はい」

プレアはそのままアメノミハ シラ内に向かう……ここを訪れた時に感じたあの感覚……あの人がここに居ると………

そんなプレアの背中が気に なった風花は、こっそりと後を追うのであった。

 

 

数十分後……プレアはアメノ ミハシラの一室を借りて、そこにムウとマリューを呼んでいた。

「ムウ=ラ=フラガさん…… ですよね?」

訪れたムウに向かって話し掛 ける少年に、ムウはやや上擦った声で答えた。

「ああ…君は確か……サーペ ントテールの奴が連れてきた奴だよな?」

確認を取るように問い掛ける と、プレアは頷く。

「俺達に何の話があるん だ?」

その言葉に暫し沈黙し、瞑目 する……その会話を壁越しにこっそりと聞き耳を立てる風花。

やがて、意を決したように顔 を上げるプレア……マリューには、その表情にどことなく奇妙な既視感を憶える。

プレアが意識を集中させる と……その気配を感じ取ったムウは驚愕に眼を見開く。

「な、に……?」

今感じた感覚はムウにとって 馴染みある感覚……クルーゼと…連合のパイロットから感じた気配と同じものだ。

「いったい、君は……?」

「ムウ……?」

どこか警戒した面持ちのムウ を不審そうにプレアと交互に見やるマリュー……そんな二人に向かって、プレアは静かに呟き始めた。

「僕は、プレア=レヴェ リー……ムウ=ラ=フラガさん…貴方の遺伝子を基に連合で造られたエクステンデッドです」

プレアの告白にムウとマ リューが驚愕を露にする。

数週間前にもレイナ達の衝撃 的な出生を聞かされ、ある程度の耐性はできていたが……しかし、いきなり自分のクローンと言われては混乱するなという方が無理であろう。

同じく、その内容に聞き耳を 立てていた風花もあまりに非現実的な言葉に呆然となっていた。

「どういうことだ……?」

「順を追って説明します…… 以前、ムウさんは連合の第3艦隊のメビウス・ゼロ隊に所属していましたよね?」

「ああ」

大戦初期……ムウはある適正 によってそれまで連合の主力兵器であったミストラルに代わる新型兵器:メビウス・ゼロのパイロットとして選ばれ、メビウス・ゼロ隊が配備された地球連合軍 第3機動艦隊に配属になり、月のグリマルディ戦線において初陣を飾った。

「そして……メビウス・ゼロ 部隊はムウさんを除いて全滅…ですが、当時の連合上層部にとっては、ガンバレルを扱える人間というのはまさに貴重でした」

新兵器であるメビウス・ゼロ に搭載されたガンバレルは高度な空間認識能力が必要になり、誰にでも扱える代物ではない。そのためにメビウス・ゼロ部隊は連合にとって戦局を切り拓く切り 札になるはずだったが、それが壊滅してしまったために連合は戦略の変更を余儀なくされ、簡易量産型のガンバレルを擁さないメビウスが大量生産されたが、そ の裏では密かにある計画が進行していた。

「当時の連合上層部の一部の 人間が、メビウス・ゼロ隊を再編しようとしました。それも、今度はパイロットの補充が容易になる手段を用いて………」

そこまで話され、ムウはある 結論に至った。

「まさか……」

その意図を察し、プレアも頷 く。

「そうです……ガンバレル使 いの生き残りであり、唯一でもあったムウさんのクローンを使用したメビウス・ゼロ部隊の再編成と増強を一部の上層部がブルーコスモス関連の財閥と結託し、 極秘裏に進めていました。ですが………」

「失敗だった……だな?」

聞くまでもないことだろ う……クローンというのはあまりに不確定要素の大きいものだ。先に聞かされたリン達ならいざ知らず…連合に完全なクローニングを施せる技術があるはずもな い。

「はい……結局は、クローニ ングを施した被験体の能力維持の問題で頓挫しました。その過程で、何人もの貴方のクローンが処分されました」

硬い声で告げるプレアにムウ は憤怒にも似た感情を滾らせる。自分のあずかり知らぬところで勝手に英雄扱いされた以上に腹立たしい行為だ。

だが、そうやってまで進めた 計画だが、結局結果は出ず……研究チームは解散された。大戦中期末のことだ。

「それじゃ、貴方は……」

そこまで聞かされたマリュー はある結論に至った……そして、それを肯定するように重く頷く。

「僕は、ムウさんのクローン の一人です……ガンバレルを操るためのエクステンデッドの一人………僕は、失敗作として棄てられたのをマルキオ様に拾われたんです」

ガンバレルを操るための空間 認識能力の強化のために施された強化手術……だが、プレアは不完全で長くは戦闘に耐えられず、またクローニングの不備によりさほど長くは生きられない身体 だ。それが判明すると、連合の研究チームは躊躇うことなくプレアを…いや、例外なく失敗作となった者達を棄てた。

プレアは運良くマルキオに拾 われ…これまでずっとマルキオの許で静かに暮らしていたが、自身の不甲斐なさに戸惑っていたのも確かだった。そのマルキオからドレッドノートの輸送を預か り、自分でも役に立てることがあると意気込んで宇宙へと上がったのだ。

「僕は今まで、自分の生き方 に自信がもてませんでした……こんな僕になにができるのかと……でも、ようやくその答が出たような気がします」

そう……だからこそ、ムウ に…オリジナルたる存在に話す気になったのだ。

その決意したような眼差しに ムウ自身もどこか敬意の思いを抱く。

「もう一つ聞いていいか…… そのプロジェクト………お前以外にもクローンが存在するってことだよな?」

「はい……成功したかどうか は解かりませんが…しかし、かなりの数の被験体が処分されました。僕のように生き延びれられたのは本当に極僅かでしょう」

だがそれでも、失敗作となっ た者が長く生きられるはずもない。恐らく、今ではもうほぼ生き残りはいないだろう……だが、ムウは逡巡する。

メンデルで対峙した赤紫のス トライクから感じた気配……アレは、今先程のプレアの感覚に微かに似ていた………ということは……奴は………

(あとは……自分で確かめ るっきゃねえな)

ここでいくら思考を巡らして も答は出ない……ならば、戦って答を得るまで。

「サンキュ……よく話してく れたな、プレア」

そう……少なくともきっかけ は与えてくれた…謎を解くためのピースは渡された。それだけで充分だった。

ムウが頭を撫でると、プレア も笑みを浮かべる。

「ありがとうございます…… 僕も、伝えておきたかったんです。僕自身の思いを伝えなきゃいけない人のために」

これでもう心残りはない…… あとは、自分の思いと決意がどこまで通じるかだろう………

そんなプレアの話を立ち聞き していた風花は、どこか辛そうに表情を歪め、その場を静かに去った………

 

 

 

 

プラントでは、連日の連合の 攻勢に頭を悩ませていた。

「地上部隊は、ほぼカーペン タリアへと後退しました」

エザリアがそう告げると、パ トリックは苦々しく舌打ちした。ジブラルタルが陥落し、華南も放棄した以上、もはや実質的な勢力圏はカーペンタリアのみだ。

ヨーロッパ戦線、アフリカ戦 線で敗走した残存部隊も動けるものしかカーペンタリアには後退できていない。

「大洋州連合内でも、不安の 兆候が見られます」

いくら国内への情報規制を 行っているとはいえ、ここ最近の不穏さを微かに大洋州連合の国民も感じ取っている。このままでは大洋州連合は内部崩壊を起こしかねない。

そうなれば、もはや地上から の資源と食料、水を輸入することは難しくなる。

「カーペンタリアは陥とさせ てはならん……駐留部隊にはなんとしても死守せよと伝えろ!」

パトリックとしてもこのまま 地上の最大拠点を失うのは不本意だ。

だが、その指示に驚愕する一 同。

「し、しかし…連合のカーペ ンタリア攻略用の降下部隊が月基地を発進したという情報も入っております…カーペンタリア駐留だけの残存部隊だけでは………」

カーペンタリア周辺のオー ブ、赤道連合から既に連合の洋上艦隊が攻略に向けて発進したという情報と、それに並行して月基地より降下部隊と思しき大規模な部隊が発進し、衛星軌道に向 かっているという情報も入っている。

その圧倒的な物量に対して、 カーペンタリアに駐留する残存部隊だけではとてもではないが守護できるはずがないと誰も思っている。一応、万が一に備えてグングニールを配備しているが、 もし使用すれば間違いなく大洋州連合までも敵に回しかねないのでまさに最後の手段だ。

「構わん……最悪陥落して も、時間を稼げればよい」

非情に言い切るパトリッ ク……彼としてはもう地上に拘るつもりはなかった。切り札たる超兵器と強化した宇宙軍で月基地を陥落させれば、地上への侵攻などどうとでもなると考えてい るからだ。

そのために、必要な人員は既 に宇宙へと呼び戻し、ボアズ、ヤキン・ドゥーエに配備し、超兵器の完成と新型のゲイツと兵力を補うための無人兵器、バルファスの増産を急いでいる。フリー ダムやジャスティスは流石にコストの問題で頓挫した。おまけに操作性が難しく、誰にでも扱えるというわけではないのだ。それなら、ゲイツやバルファスを増 産した方が数を稼げるとばかりにパトリックは指示を出した。

パトリックの方針に黙り込む 一同……意見したところで、もはや聞く耳がないのは明らかだからこそ、意見する者は少ない。

「ですが、ここ最近の情報規 制に国民も不安が拡がっています」

この一ヶ月近くはほとんど戦 線での情報を規制しているとしか言いようがない。地球軍の攻勢による各戦線の後退とジブラルタルの陥落…さらにはカーペンタリア攻略戦が始まろうとしてい るなど、伝えられるはずもない。そんな事をすれば、国民が暴徒と化す可能性もあり、プラントは内部崩壊をしかねない。

ただでさえ、徴兵制を布いた ことで今まで自主性であった市民軍というザフトの意義がほぼ失われつつあるからだ。

「あと数ヶ月ほどのことだ。 数ヵ月後には我らの勝利に終わる……国民とて、それは理解してくれる」

半ば、独善に近い形の言 葉……誰もが押し黙るなか、パトリックは別の議員に振り向く。

「訓練兵の方はどうなってい る?」

「は、はっ……現在、訓練を 急いでおり…極一部の者は既に演習を踏まえた作戦に参加させております」

そう……度重なる兵員の枯渇 に、ザフトは徴兵制を布いただけでなく、兵役義務の年齢を14歳にまで引き落としていた。プラントでは15で成人と認められるため、兵役の義務を課してい たのだが、もはやそこに拘っている余裕はない。

MSはバルファスの生産のお かげで数は揃いそうだが、肝心の部隊を指揮するパイロットや戦艦のクルーなどはそうはいかない。

そのために、パナマ戦後、パ トリックは14歳の少年少女にも兵役を課す法案を議会に提出し、可決させていた。

そうやって選出された14歳 の少年少女は白兵戦を除いた最短コースで訓練を課している。今現在、白兵戦の必要性がほぼない現状に白兵戦の課題を課しても時間の無駄とパトリックは指示 し、主にMSのシミュレーターと操縦技術の修得、そして動態運動などをカリキュラム項目としているが、通常でも半年近くは掛かるコースを僅か数ヶ月で修得 させるのはいくらコーディネイターでも容易ではなく、カリキュラムに付いていけずに頓挫する訓練兵も多い。

だが、その中から耐え抜き、 潜り抜けた者こそ今ザフトが最も欲している人材なのだ。そういった人材はパイロットとしての適正ありと判断され、次はMSを使用しての訓練に入り、それ以 外の脱落者は戦艦のクルーや中央作戦室のオペレーターとして電子機器や戦略の演習に入る。

そして、MSの演習訓練を終 えた一部の者達は、実戦を踏まえた演習に投入するためにある場所の強襲を任務として与えられていた。

「間違いないのだな……オー ブのその軍事ファクトリーとやらは?」

「はっ……情報部からの情報 では確かに」

パトリックが向かわせた先は アメノミハシラ……オーブ所有であった宇宙ステーションで、その内部に巨大な軍事ファクトリーを備えているというものであった。ただでさえ、今はプラント 内部の生産施設をフル回転させてMSや戦艦の建造を急いでいるが、やはりその基となる資源が現在では連合の通商破壊によってなかなかプラントに持ち運べな いという状況だ。そんななかで、オーブのファクトリーというのは喉から手が出るほど欲しいものだ。軍事技術の高さはいうに及ばず……そこに在るファクト リーと保有する戦力は多少無理をしてもザフトとしては確保しておきたい。うまくことが進めば、将来的には地球侵攻のための足掛かりの中継基地にもなる。

「部隊は?」

「ホーキンス隊に訓練兵20 名…編成はナスカ級2隻にローラシア級1隻です。それと、開発部で廃棄予定であったX07を載せております」

「X07のパイロットは?  ちゃんと信頼できる者であろうな?」

ジロリと睨むパトリックの鋭 い視線に萎縮しながら、補佐官は頷く。

「はっ! クルーゼ隊のパイ ロットである者に任せております……万が一の場合は、機体の自爆装置も作動させるように艦隊司令官に指示は出しております」

ホーキンス隊には電撃奇襲の ためにナスカ級を2隻もつけた。部隊編成も訓練兵のパイロットが13名に正規兵が25名……訓練兵にジンを、正規パイロットにゲイツを与え、そしてバル ファスも10数機ほど配備させた。さらに、部隊の要として廃棄予定であったX07を回した。

X07は、Xナンバー開発過 程での機動試験機として設計され、フリーダムやジャスティスとうの機動性の試験を行っていた。その後、解体予定であった機体を改装し、NJCと核エンジン に換装することでさらに能力強化を施した。無論、貴重な機体……全幅の信頼がおけるパイロットに譲渡しなければならず、クルーゼ隊からパイロットを一時的 に引き抜き、保険として機体の自爆装置を遠隔操作で作動させられるように細工をした。

「よろしい……ならば、速や かに実行させろ…アマルフィ議員、X12とX13の方はどうか?」

話を振られたユーリは、静か に答え返す。

「X12、X13ともにまだ ロールアウトまで今しばらくの時間が掛かります……X12はパーツの一部をαの方にグレイ特務兵の要望で回しましたので、本体ブロックの完成と武装のセッ ティングで手間取っております。X13の方は本体はロールアウトしましたが、Dシステムの調整で完成にはまだ……」

「もうよい!」

長々と説明するユーリにパト リックは癇癪を起こすように遮り、ユーリも言葉を呑み込みながら憮然とした表情を浮かべる。

「言い訳など聞かん…あと、 どれぐらいで2機は完成する!?」

「最終的な機動試験も含め て、遅くとも一ヶ月は………」

詰め寄るような問い掛けに、 冷静に答え返す。

今現在、マイウスの工廠で開 発中のXナンバーの最新鋭機、X12とX13……だが、ともに未だ問題を抱えており、ロールアウトには至っていない。

Xプロジェクトの中心メン バーであったルフォンらが抜けたのが、完成に遅れをきたしている。だが、パトリックにはそれを理解することができない。

舌打ちし、なおも睨むように 問い掛ける。

「掛かりすぎる…もっとなん とかならんのか!?」

「不可能です……現在、技術 者が不足し、作業効率も低下しています。これ以上無理を課せば、他のラインにも影響が出ます」

度重なる重労働に倒れる技術 者が増加している……いくらコーディネイターでも疲労というものがある。そのためにXナンバーの開発も思うように進まず、またこれ以上Xナンバー開発に人 員を回せば、ゲイツやバルファス、また艦艇の作業にも影響が出る。それこそ本末転倒だろう。

そう言われ、パトリックも流 石に苦々しく押し黙る。

暫し逡巡していたが、やがて なにかを決めたように顔を上げる。

「X12とX13……どちら の作業が進んでいる?」

一瞬、問われた意味が解から ず戸惑うが……すぐに答え返す。

「X13の方です。本体は ロールアウトしていますので、あとはDシステムの調整を終えて本体に搭載するだけですので……」

「そうか……ならば、X12 の開発を現時点で停止、凍結する…その空いた人員をX13の完成に回せ。X13の作業はヤキン・ドゥーエの工廠で行う。すぐさま移動に掛かれ」

「……解かりました。しか し、パイロットは…?」

「クルーゼに任せる……奴も 適正は出ているはずだ」

問答は終わりとばかりに話を 終わらせると、パトリックは別の補佐官に向き直る。

「例の空母は?」

「既に6割方完成しておりま す……ですが、やはりあれだけの大型になりますとまだ時間が………」

言葉を濁す補佐官に、パト リックは舌打ちして暫し逡巡した後、指示を飛ばす。

「ローラシア級の製造ライン を一時停止させろ……その資材と人員を配置させろ」

「し、しかし…それでは艦数 が………」

「構わん……例の艦が完成す ればローラシア級2、3隻分の穴は埋められる」

有無を言わせず怒号を上げる と、誰も反対できずに黙り込む。

その後、ボアズ、ヤキン・ ドゥーエにおける防衛ラインの強化と地上からの資源確保の最優先……さらには国民への情報の規制強化を指示し、議会は終了した。

だが、パトリックの強引なや り口は、確実に議会に小さな禍根を拡げ……裏で動く者達の動きを活発化させることになるのであった。

会議終了後、ユーリは人目を 憚るように議会場を後にし……一路、別室へと向かった。

 

 

ユーリが訪れたのは小会議 室……そこに入ると、内部に設置されたデスクと取り囲むように備わったシートには二人の議員が腰掛けていた。

「すまぬ、待たせた」

「いや、構わぬ」

謝罪するユーリに手を振るの はタッドと…もう一人……老年の男がユーリに視線を送る。

「急に呼び出して済まぬな、 ジュセック議員」

「……気にはしていない。今 は、我らは厄介者だからな」

深い…静かな口調で答えるの は、評議会議員の一人、パーネル=ジュセック。パトリック、シーゲル両名とも古い付き合いであり、両者の関係を纏めていた人物でもある。

だが、中立派として両者の間 で保っていたのが、パトリックにとっては厄介者と映ったらしく、今はこうして立場を冷遇され動けない状態だった。

既に評議会はパトリックの傀 儡と化し、穏健派の議員は拘束・謹慎され、中立だった議員は冷遇され、重要会議に招集されるのはパトリックと同じ強硬派のみだ。

「それで…私を呼び出した理 由を聞かせてもらえるかな、アマルフィ議員、エルスマン議員?」

ジュセックが問うと、両者は 頷いて言葉を交わす。

「既に知っていると思うが、 ここのところの連合の攻勢でザフトも苦戦をしいられている」

「ああ……ザラの奴がそれに 規制をかけていることもな」

流石に冷遇されているとはい え、仮にも評議会議員……その辺りの情報は一般に規制されている部分も伝わっている。

「国民が今、己の政策に失望 させないためだろうが……正直、もう戦争を継続するのは困難だ」

苦々しい口調ながらもジュ セックは客観的な視点を失ってはいない。

開戦初期の快勝に浮かれすぎ て地上へと進攻を開始したのがそもそもの失敗だったのだ。

地上への進攻を行うなら、そ の前に全兵力を集結させてでも宇宙での連合の拠点を全て陥としておくべきだったのだ。

Nジャマーという兵器を用い たことで、早期終結ができると思ったからこそ、ジュセックもオペレーション・ウロボロスに賛同したが、その予想を裏切って続く膠着に既にプラント内は疲弊 しきっている。

特に一般経済市場での疲弊は 大きい……ほぼ軍需に移行し、軍が主体となっている今、プラントの経済は眼に見えて下落している。

「国民も不安に怯え、それが いつ爆発するか解からん」

一般経済の下落…生活の不 備……さらには若者の減少………これらが社会不安となってプラント内に充満しつつある。

今や限界ギリギリまで抑えら れた不安感がいつ爆発するか解からない……こんな内に爆弾を抱えた状態では戦争など継続できるはずがない。

「その事について、ジュセッ ク議員に話があって来てもらった」

微かに眉を寄せるジュセック に、タッドが話を切り出す。

「我々も、もはや継戦をする のは得策ではないと踏んでいる……そのために、連合への和平交渉を持ちかけたいと思っている」

そのあまりに唐突な内容に ジュセックは表情を顰める。

ジュセックはどちらかといえ ば穏健派よりの中立派だったが、タッドは強硬派寄りでユーリは強硬派へと移った。その二人から和平という話を切り出されるのは正直予想外だった。

「最近のザラ議長の政策は眼 にあまる……それに、連合政府内でも和平を行おうという勢力がある」

「連合にか?」

「ああ、連合も一枚岩ではな い……それに、連合の政策に反対する者達が組織立ち、反政府活動による政権交代を行っているとの情報を掴んでいる」

だが、ジュセックは表情を険 しくしたままだ。

「一つ訊きたい……その情報 は何処からきたものだ?」

ユーリやタッドを疑うわけで はないが、それでも油断はせず用心に越したことはないだろう。

その連合の動きや反政府運動 を行っているという者の確証もないままに話にのるわけにはいかない。

二人はやや表情を強張ら せ……そして、周囲を窺うように見渡すと…意を決したように小声で呟いた。

「ジュセック議員……今から 話すことは、決して他言無用と約束してくれるか?」

真剣な面持ちでそう確かめる タッドに、ジュセックは腕を組み……静かに頷いた。

「実は……数日前に、クライ ン派の連絡員から受けたのだ。ラクス=クラインらが、今言った組織と接触し、和平のために行動しているということをな」

「何!? ラクス=クライン が……!」

あまりに意外な人物にジュ セックは思わず立ち上がりそうになる。

旧友であった故シーゲルの娘 でジュセックも何度か会ったことはある…そして、彼女が反逆者としてプラントから追われたということも。

そのラクス……クライン派が 接触してきたなどと俄かには信じがたいことだった。

「我々も驚いた……どうや ら、我々に和平のために現政権を変えるように働きかけたいようだ」

連絡員が極秘裏にユーリや タッドの許を訪ねてきたときは流石に二人も眼を見張った。

いくらなんでも危険すぎる行 動だろう……だが、連絡員が伝えたラクスからの伝言は、さらに驚愕するものであった。

ラクスの仲間が連絡を取り付 けた反連合組織との協力体制と同時期による政権奪取のためのプランと現在の連合の実情などが知らされた。

それだけの情報を持ってきた のも、ひとえにプラント内部ではもう立場が弱いラクスにはどうしようもない事態になり、旧クライン派の議員達も今は拘束されている以上、依頼できるのは極 僅かだと感じたのだろう。

ラクスはレイナからその旨を 託され、そしてバルトフェルドを通じてプラント内の信頼における人物……つまりは、ザラ政権に対し不信感を抱いている議員に接触し、協力を取り付けるよう に動いた。

そして、連絡員からの報告 で、ユーリやタッド…そして父親の旧友であったジュセックに協力を取り付けようとしたのだが、これは一種の賭けであった。

果たして、反逆者となって自 分の願いを聞き届けてくれるかどうかの……そして、ユーリやタッドはその旨を受け、こうしてジュセックにも話そうという結論に至ったのだ。

「そうか………」

事が事である以上、少数…し かも気取られぬように慎重に進めねばならない。

そして………ジュセック自身 も今の自分に不甲斐なさを感じていた。仲立ちさせようと奮闘したつもりだったが、結局シーゲルはパトリックによって命を絶たれた。

そう考えると、自分自身がい かに無力かを知らしめた。

それを少しでも返上するため に今自分がすべきことは、ただ無為に戦争を見ることではないとジュセックは意志を固めた。

「解かった……私の方で進め よう。ザラからの政権交代…その後の和平交渉への準備もな」

ジュセックのその申し出に、 ユーリやタッドは微かに表情を和らげて頷いた。自分達の息子達が今、そのために動いている……それに少しでも応えてやるのが親の務めだというように………

「連絡員から、既にその組織 との対話ルートは受け取っている……あちらと連絡を取り、こちらも早急にプランを固めねばな」

「うむ……それと、ラクス嬢 は何処に?」

「それは流石に教えてはもら えなかった……だが、彼女らも無為に動いているわけではないと解かった。それと、こちらを信用してくれた代として、彼女らにあるものを送るように手配し た」

「あるもの?」

タッドが問い返すと、ユーリ は静かに頷く。

「凍結が決まったX12号 機:マーズ……それを彼らへと送る」

ユーリの言葉は静かに響 き……そして、3人は秘密会談を終え、何事もなかったようにその場を別れた。


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