C.E.71・8・6……こ の日、明後日に差し迫った地球軍のザフト地上基地:カーペンタリア攻略を目的とした『オペレーション・八・八』のために編成された降下部隊が輸送艦に艦載 され、次々と月基地から発進していた。

降下編成はGAT−333の 試作機からフィードバックしたGAT−333Production:レイダープロダクションモデル。大量生産され た制式レイダーの5機編成6個小隊が降下カプセルを使って直上からカーペンタリアを襲撃し、海上からの上陸部隊と挟み撃ちにする二面作戦だ。

降下部隊は先制攻撃を仕掛け るエアーズロック降下作戦により、内陸から攻撃…そこへ太平洋上艦隊からの上陸強襲部隊の奇襲で一気に殲滅するというものだった。

その配置のために降下部隊を 艦載した輸送艦が護衛艦隊に護られ、随時発進していく。

「しかし、よろしいので…… 護衛の数はあれだけで」

発進していく様を満足そうに 見やるアズラエルに向かってサザーランドが懸念を漂わせるように尋ねる。

今回の高速輸送艦に付けられ た護衛は駆逐艦2隻ずつの編成……いくら衛星軌道までの輸送とはいえ、些か戦力的に不安があると感じるのは仕方ないだろう。

だが、アズラエルは悪びれも なく肩を竦める。

「大丈夫ですよ……サザーラ ンド大佐…情報では、今回はザフトは動きません…僕の情報は確かですよ」

自信を漂わせ、アズラエルは 不適に笑う。そう……プラントの指導者たるパトリックの側近たるクルーゼからの情報はまず間違いなく信頼度は高い。

そのクルーゼからの情報で は、ザフトはカーペンタリアへの増援は出さないとのこと……半ば、地上での戦線維持を諦めたということだろう。

「それとも、僕の情報があて にはならないと?」

「いえ、そのようなこと は……」

揶揄するように話すアズラエ ルに向かって取り繕うように頭を下げる。

「それよりも、復旧の見込み は立っているのですか?」

「はっ……早くとも2週間程 は………」

先のハイペリオンによる月面 襲撃で破壊された区画の修復には、やはり時間が掛かる。

「まったく……怠慢ですよ、 奇襲を赦すなど………」

「申し訳ありません……調査 では、アレはユーラシア製のMSで、脱走した部隊が使っているそうです」

「へぇ……ユーラシアでも MSを造っていたとは驚きですね」

呆れていたアズラエルだった が、やや興味深げに問い返す。

ユーラシアは大西洋連邦より もMS開発に着手するのは遅かった……ゆえに、アズラエルの情報網でも引っ掛からなかったのであろう。

「……ですが、ユーラシアは 量産化に至らず頓挫したようです。この件に関しましてもユーラシア上層部に責任を問い、ユーラシアの部隊をヨーロッパのゲリラ狩りに派遣しております」

たとえ脱走した部隊とはい え、責任は責任……ユーラシア上層部はそのためにヨーロッパ各地の残存ゲリラ鎮圧と兵力の譲渡を指示され、ますます国力を低下しつつあった。

自分達の立場をさらに堅持す るために、まさに怪我の功名だろう……

「例のラインはどうなって る? エルピスにはどれ程の影響が出る?」

「奇襲した相手の目的はライ ンで製造中のものだったらしく、被害はありません。ですが、MSの製造ラインが一部破壊されたので、部隊編成がやや遅れるかと」

「まあ仕方ありませんね…… なるべく急がせてください」

今はとにかくカーペンタリア 攻略を最優先としよう……そう割り切り、アズラエルは今一度モニターを見やる。

「まあ、確かに念には念を入 れておいた方がいいね………ハルバートン少将を呼んでもらえるかな?」

「はっ」

アズラエルの指示に従い、す ぐさまサザーランドは内線でハルバートンに司令室まで出頭するように指示を出した。

 

 

数分後……艦隊司令、そして サザーランド、アズラエルが待つ司令室への扉が開き、制帽を被ったハルバートンと副官であるホフマンが入室してきた。

「第8機動艦隊…デュエイン=ハルバートン少将、参りました」

「同じく、副官のシャーダ= ホフマン大佐、参りました」

敬礼する二人に向けて、艦隊 司令が頷くと、アズラエルがねっとりとした視線と口調で話し掛けた。

「お久しぶりです、ハルバー トン准将…おっと、今は少将でしたね」

「アズラエル理事……」

やや内心に不快感を憶えなが らハルバートンは憮然とした表情を浮かべる。ハルバートンとアズラエルの関係は深い……なにしろ、上層部に却下されたG計画を推進したスポンサーだ。

「先の軌道戦は聞いています よ……」

そう……数ヶ月前のアークエ ンジェル降下の際の攻防で、ハルバートンは指揮下の第8艦隊の艦艇の内、8割近くを損失しながらもあのザフトの名高いクルーゼ隊の艦艇を2隻とMS数機を 撃破し、その功績を認められて少将へと昇進していたが、それも単なる体裁を合わせただけなのは重々承知している。

「ハルバートン少将……君 に、新たな任務を与える……現在、衛星軌道に集結中の降下部隊の護衛を命じる」

アズラエルの顔色を窺ってい た艦隊司令のその指示に、ハルバートンは眼を瞬く。

無論、ハルバートンも現在 カーペンタリア攻略のために部隊を集結中というのは聞いているが、そのために一個艦隊を派遣するというのはやや大げさすぎると勘ぐらずにはいられない。

「ああ、それと…君の艦隊に あと一隻……オーブの艦を編成させるよ……なにが出るかは解からないけど……もし敵が出た場合は速やかに殲滅すること…いいね?」

ニヤつく笑みで呟くアズラエ ルにハルバートンは表情をやや顰める。

「僕は貴方を評価しているん ですよ……だからこそ、新造艦の艦長に任命したのです……なら、その信頼に誠意で応えてもらいたいですね」

「……了解しました、第8機 動艦隊、降下部隊の援護のため、発進します」

どれだけアズラエルに好感が 持てなくとも所詮、ハルバートンも連合という組織に属する一介の軍人でしかない。上から命令は絶対なのだ……

「頼んだぞ……ああ、そう… ホフマン大佐は残ってくれたまえ」

「は、はあ?」

唐突に振られたホフマンは戸 惑うが、ハルバートンはそのまま頷き、司令室を退室していく。

閉じられたドアを背に……ハ ルバートンは拳を握り締め、震わせる。

(マリュー=ラミアス……君 らが今の私を見たら、軽蔑するか………)

アラスカでの作戦を最後に連 合に叛旗を翻したアークエンジェル……その部下の失態をとわれ、ハルバートン自身も現在は立場を冷遇されつつある。どれだけ上層部に不信感を募らせようと も、今の自分の立場ではどうすることもできない。

ただ、命令に従うしかできな い自分を酷く腹立たしく思いながら、ハルバートンはその場を去った。

 

 

一方……司令室に残らされた ホフマンは当惑しながら佇んでいる。

「さて……ホフマン大佐…貴 方に極秘の指示を与える」

含んだ笑みを浮かべるアズラ エルにホフマンは眼を瞬かせる。

「もし、ハルバートン少将が 少しでも不審な行動を示したら………」

揶揄するような口調で呟く が……その先は聞くまでもなく、ホフマンには理解できた。

「作戦行動中における戦死と いうのは珍しくもないことだよね……君も、あの堅物の上司にややウンザリしてるんじゃないかい?」

ホフマンの心情を見透かすよ うな言葉……遠回しになにをしろと言っているのか理解できたが、表情を顰めずにはいられない。

「ホフマン君……もし、ハル バートン少将が戦死した場合……その後は当然、次席にある者が艦隊の提督になる」

誘惑のようなサザーランドの 言葉……逡巡していたホフマンだったが、静かに首を縦に振った。

「よろしい……では、君の作 戦をサポートする人員を紹介しよう」

アズラエルがそう口にした瞬 間、タイミングを合わせたようにドアが開き……イリューシアが入室してきた。

「アズラエル様、お連れしま した」

一礼し、背後にいた人物を促 す……ホフマンも振り向くと、そこには二人の少年少女……片方は破れた軍服のジャケットを無造作に羽織り、虚ろな眼を持った少年。もう片方はピンクの軍服 の下に鎖と拘束具のようなもので身体を覆ったダークパープルの髪をツインテールにした少女……その異様ないでたちにホフマンは息を呑む。

「か、彼らは……」

「ああ、彼らは君の行動をサ ポートするための人員さ」

上擦った声を上げるホフマン に、アズラエルは不適に笑って顎をしゃくる。

「この二人と新型3機を君の 艦に配属しよう……これは特別な計らいだよ。もし、先程の指示が無効になっても活躍次第では君を参謀本部に抜擢しても構わない」

ホフマンの眼が驚愕に見開か れ、その眼に野心がありありと浮かび、爛々と燃える。

「僕らはあの厄介者よりも君 のような有能な人材に期待しているよ……成果を楽しみにしているよ」

「は、はっ! 必ずやご期待 に添えてみせます!」

「うん…頼むよ。ケルビムと 例のオーブ艦以外は根回しはしてある……君の命令一つで意のままさ」

そう……厄介者は早く消えて もらった方がいい………仮に邪魔が入らなくとも堅物の老体一人を厄介払いする方法はいくらでもあるとアズラエルは内心に笑みを木霊させていた。

その様子を見やりながら、イ リューシアは内心に思っていた。

(アレのテストにはちょうど いいかもしれない……ウェンドに連絡を取っておきましょう……)

眼の前で道化のように踊る偽 りの主を前に、イリューシアは冷たく無表情を浮かべたまま……そして、後ろの二人はまったく無関心のように佇むのであった。

 

 

 

オペレーション八・八開始当 日……ハルバートン率いる第8機動艦体は降下部隊の護衛のために出撃することになった。

編成は、旗艦ケルビムにメネ ラオス、250m級20、駆逐艦35にオーブのスサノオが組み込まれている。

旗艦ケルビム……AA級3番 艦のブリッジで、ハルバートンは全艦に向かって発進準備を急がせていた。

ケルビムは艦全体を白とアイ スブルーでカラーリングされた、ドミニオンと大差ない性能を持った艦であり、先の功績を評価されたハルバートンが委任されていた。

「ホフマン、メネラオス、頼 んだぞ」

《はっ》

リンクで繋がるかつての自艦 の艦長に任命されたホフマンに呟くと、向こうも敬礼で返す。

だが、ホフマンの内には黒い 感情が渦巻いているのをハルバートンは気づけなかった。

通信を終えると、ハルバート ンはやや疲れを滲ませるようにシートに腰を掛ける。半壊滅に追い込まれた第8艦隊は現在、新たな人員を動員して再編成されている。元ハルバートンの部下達 はほぼこのケルビムに配置換えとなり、メネラオスを含めた他の艦艇は新しい人員で構成されている。まだ再編成されてからの模擬戦などを通した意志疎通とう や連携はシミュレートできておらず、正直荷が重いとしかいいようがないが、それでもやるしかない。

「提督…スサノオより通信で す」

「繋げてくれ」

オペレーターの報告に頷く と、正面モニターに一人のオーブ軍服の男が映し出される。

《御初に御眼にかかりま す……スサノオ艦長、シンドウ=トダカ一…いえ、中佐です》

敬礼するトダカにハルバート ンも敬礼で返す。

「第8機動艦隊提督、デュエイン=ハルバートン少将だ。貴艦の協力を感謝する」

本来なら、オーブ軍はもう連 合に協力できるほど戦力は残していないはずなのだ。それをごり押しに近い形でこうやって前線に送られた身を考えると、同情を憶えずにはいられない。

《いえ……では》

不満を顔に出すことなく…… 軽く首を振ると、通信が途切れる。

ハルバートンは息を吐き出 し、疲れを滲ませながら身をシートに沈める。

「提督……全艦、発進準備完 了です」

その報告に、ハルバートンは 自らを奮い立たせるように表情を引き締めると、制帽を深く被り、怒号に近い号令を発した。

「全艦、発進! これより、 オペレーション八・八降下部隊護衛に向かう!!」

ケルビムがエンジンを噴か し、先陣を切り……それに続くように他の艦艇もまた発進していく。

 

第8艦隊に続くように、スサ ノオもまたエンジンを噴かし、発進していく。

イズモ級参番艦:スサノ オ……オノゴノ島で開発されていた参番艦のパーツは本体と後部エンジンブロック完成後に、本島ヤラフィスへと移送され……その後、オノゴノ陥落に伴い、そ の管理を暫定政府のセイラン家が引き継ぎ、密かに連合との協力強化のための一環として極秘裏に月基地へと移送され、未完成であった参番艦:スサノオは月基 地で製造されていたAA級のパーツを組み合わせることによって完成された。

後部をイズモ級の特徴を残し ながら、前部はAA級と同じ両舷ブレード……両舷と中央部カタパルト下にゴッドフリートを内蔵した従来のイズモ級に比べて火力を強化されている。

艦長を務めるのはオーブ軍の シンドウ=トダカ一佐……オノゴノ戦線時、民間人の脱出護衛を受け負い、本島へと逃れた軍人であった。

その後、暫定政府下で監視に 近い形で本島に留まっていたが、この度のセイラン家の策略のために、本島に残留していた兵士を率い、この作戦への参加を余儀なくされていた。

今一度、トダカは深く息を出 す。

いくら今は連合の支配に屈し ていようとも、その信念はオーブの時のものと変わらない。

他国を侵略せず、他国の侵略 を赦さず…他国の侵略に介入しない………オーブ軍の信念はあくまで護るためのもの……それを誇りにしているからこそ、オーブ軍の兵士達は命を懸けて国に尽 くせる。だが、今回の派兵は不満に思う兵士も多い……トダカは無論、政治的な思惑やオーブの今の立場を理解している。

理想だけでは今のオーブは維 持できない……だが、そうやって信念を曲げてまでオーブという国を維持しなければならないのかという疑心もある。

なにか……死んでいった同胞 に対して後ろめたい思いを抱かずにはいられない。

頭では理解していてもやは り、心持ちは納得いかない……そんな心労を見せるトダカに副官であるアマギが声を掛けた。

「トダカ一佐、大丈夫です か…?」

「ん? ああ……それと、今 の俺は一佐じゃない…中佐だ…アマギ大尉」

苦笑いを浮かべて答え返す。

暫定的に地球軍の指揮下に組 み込まれた彼らは、階級も地球軍のものに合わされている。

「はぁ、申し訳ありませ ん……」

謝罪するアマギに対してトダ カは責めもせず、ただ苦笑浮かべるのみだ。トダカ自身も、あまり地球軍の階級で呼ばれるのは不本意なのであろう。

「しかし、今回の派兵いくら オーブのためとはいえ、自分は疑問です」

やや表情を俯かせて呟くアマ ギ……本来なら、口に出してはいけないことなのだろうが、それでも言わずにはいられない。

オーブという国のためとセイ ラン家に示唆されたが、今のオーブはもうかつてのオーブではなくなっている。国民の過半数が国外へと逃れ、残された国民は過酷な労働の日々……敗国である 以上、仕方がないことかもしれないが、それでも今のセイラン家のやりように不満を持つ国民は多い。

そこまでしてオーブという名 に拘る必要があるのかと……変わってしまったオーブに……

なにか、そう考えると死んで いった同僚達に申し訳ない思いになる……

「カガリ様やロンド様がせめ ていてくだされば……」

「そうだな……だが、今は従 うしかあるまい。これも祖国のためだ……せめて、カガリ様達が我らのこの行いを知ってくださり、そして本来のオーブを取り戻そうとしてくれることを信じよ う………」

なんの根拠もない未来だが、 その気遣いに頷き返し、スサノオは戦場へと向かう………

 

 

 

 

同時刻……アメノミハシラの ドックは、慌しさに包まれていた。

これから、連合軍のカーペン タリア攻略戦:オペレーション八・八のために衛星軌道に集結中の降下部隊を奇襲し、戦力を削らねばならないからだ。

無論、無謀といえば無謀だ が……シオンからの申し出である以上、断るわけにもいかなかった。ここで少しでも協調性を見せておかねば、後に支障をきたす。

協力関係というのが裏目に出 たが……だが、今回はあくまで奇襲……敵を全滅させる必要もなく、また今までのように物資を強奪するわけではないので短時間での作戦進行が前提となる。だ が、通称破壊とは違い護衛の数も多い……また、だからといって大勢で行動するわけにはいかず、オーディーンとネェルアークエンジェルの2隻で向かうことに なった。

クサナギ、エターナルは万が 一に備えてアメノミハシラで待機……そのため、作戦に参加するパイロット達は機体の準備に追われている。

それを見詰めながら、レイナ はカガリに問い掛けた。

「ホントに来る気?」

「当たり前だっ、キラもいな いんだろ…だったら、少しでも戦力があった方がいいし、なにより私も実戦を経験しなきゃいけない」

自らを奮い立たせるように拳 を握り締めるカガリ……そう…今回の作戦において、キラは不参加……キラは今、ロウ達とともに改修の終わったドレッドノート、そしてフリーダムを搭載した リ・ホームに乗ってアメノミハシラを離れている。

キラの同行を希望したのはド レッドノートのパイロットのプレアとフィリア、そしてリンであった。プレア達が戦わねばならない相手は、キラにとっても関係ある人物だと……

そのためにキラは今いなく、 フリーダムの抜けは確かに厳しいが、仕方ないといえば仕方ない……だが、そこへカガリがまた唐突に作戦への参加を直訴してきたのだ。

(この子はこういう子よ ね……)

しみじみと思いながら肩を落 とす……ジッとするのが苦手な性分なのは解かるが……確かに腕前はもうオーブ軍の正規パイロットにも劣らないだろうが、正直実戦を経験もしていないのだ。 それが不確定要素といえばそうだ。

「絶対に私も行くからな…… キサカにもちゃんと許可はもらった……無茶はしない」

また苦労したんだろうなと聞 きながら、キサカに怒鳴られながらも言い返すカガリの光景がありありと浮かび、またもや溜め息を漏らした。

「………覚悟があるのなら、 文句は言わない…けど、もう迷うことはできないわよ?」

脅すような口調でそう呟く と、一瞬呑まれそうになったが、力強く頷き返す。

もう覚悟はできている……で きていても、ここでなにもせずにいたらそれこそ嫌だとカガリ自身が感じているのだ。

《オーディーン、ネェルアー クエンジェル発進準備完了……搭乗員は速やかに乗艦せよ》

ドック内にアナウンスが流 れ、レイナとカガリは今一度手を叩き合うと、そのままそれぞれの搭乗艦へと乗り込んでいった。

 

 

アメノミハシラのドックから 発進したオーディーンとネェルアークエンジェルの2隻は、デブリベルトを潜行しながら、シオンから届けられた降下部隊の集結ポイントを目指す。

そして、オーディーンのブ リーフィングルームとネェルアークエンジェルのブリーフィングルームがモニターによって繋がれ、作戦の概要を説明している。

「本作戦は、ヒットアンドア ウェイ…スピードが重視される……まずは、敵降下部隊の規模と護衛艦隊の確認後、オーディーン、ネェルアークエンジェルの艦砲による長距離砲撃で先制を取 る」

無論、長距離砲撃といっても レーダー探知のギリギリのラインからの砲撃だ。無論、それだけの距離が離れていては艦の特定は困難であろうから、うまく敵降下部隊の艦載した輸送艦に当た るという保証もない。

最初の艦砲はあくまで敵艦の 損失と混乱を狙ったもの……輸送艦に当たればよし、護衛艦に当たってもまず間違いなく混乱は引き起こせる。

「そして、その後MSによる 奇襲を行う……だが、あくまで目的は降下部隊の規模を削ることだ。全滅を狙う必要はない」

そう……あくまでシオンから 依頼されたのは敵降下部隊規模の削減であった全滅ではない。

無理に戦う必要はない……輸 送艦を少しでも叩けばいいのだ。

「よって、降下部隊を強襲す るチームと護衛艦隊を相手するチームに分ける……各機、それぞれのポジションで行動すること……」

降下部隊を強襲するのは機動 性に優れた機体……それらは主にオーディーンに。護衛艦隊は砲撃をいかし、敵の数を減らしてMS戦で護衛艦隊と衝突し、時間を稼ぐためにネェルアークエン ジェル側で受け持つことになった。

それぞれ、エクシードフォー ス、ヴァーミリオンフォース、アサルトフォースという3チームで分担することに決まり、そのフィーメーションの打ち合わせも進む。

「作戦開始は10分後……各 自、至急持ち場につけ!」

怒号に近いダイテツの号令に 従い、一斉に散らばる……レイナとリンはMSに搭乗して待機するために格納庫を目指す。

「しかし……あの男もこちら をうまく扱ってくれるな」

皮肉めいた物言いに、レイナ も苦笑を浮かべる。

確かに、協力関係にある以 上、多少の要望には応える義務がある……今回の降下部隊の戦力を削ぐのも地上での彼らの動きを連合に勘付かれたくないからであることも薄々察知している。

まあ、こちらとしてもまだOEAFOは 表沙汰になっては困る。あくまで影の組織だからこそ立ち回れるということもある。

「だけど……わざわざコイツ を持ってくる必要があったの? まだ試運転もしていないんでしょ?」

格納庫へと到着した二人が見 上げる先には、M1Aとエヴォリューション……その後方には改修の終えたインフィニティが現在最終チェック中だ。

インフィニティもまた、大き く外見を変えていた……以前との大きな相違点は両肩だ。以前よりもより大きくなった肩アーマーには、レイナが考案し、そして奪取したハイペイオン3号機の システムを参考にしたリフレクターシールドを展開できるユニットを内蔵している。

さらには、バックパックと脚 部にバーニアを追加して機動力を強化してあるが、それに増して以前よりも扱いが難しい機体となってしまった。

だが、恐らくこれぐらい使い こなさなければメタトロンには対抗できない。

「装備の方はまだだけど…… ただ、念のためにね」

そう……本体の改修はほぼ終 えたのだが、肝心の追加装備がまだ完成していない……本体だけをオーディーンに艦載して持ってきたが、そこまでして持ってきたのは、この機体の力が必要に なる事態が起こりうる可能性があるということ。

「………奴らか」

レイナがそこまで警戒する相 手といえば、連中しかいない……だが、あくまで可能性だ。

「ええ……連中がなにを企ん でいるかは知らないけど……でも、地球軍、ザフトともにいいように操られている以上、用心はしておいた方がいい」

言葉を濁しながら肩を竦め る。

なにかが既に裏で進行中のは ずだ……それがいつ引き金をひくのかは解からない……

《目標ポイント到達まであと 180……会敵まで120! コンディションレッド発令!!》

その放送に、レイナとリンは 互いに頷き合い、それぞれの機体へと乗り込んでいった。

 

 

「目標補足……識別レッド… 地球軍です!」

オペレーターの報告にダイテ ツは頷き、マリューに向かって呟く。

「ラミアス艦長」

《解かりました…総員、第1 戦闘配備!!》

艦砲が起動し、ゴッドフリー トと主砲が構えられる。

「敵艦の数は?」

「艦種特定は困難ですが、数 はおよそ30です!」

その報告に、ダイテツとマ リューは微かに眉を寄せた。

《妙ですね……》

「ああ、思った以上に少な い……」

考えていた敵の規模より僅か に少ない……一個艦隊にも満たない数だが、これはあくまで降下部隊の作戦行動…当然、編成のうち数隻は降下部隊を艦載した輸送艦のはずだ。それを差し引い ても護衛艦隊の数が少なすぎる。

もうザフトに自分達の妨害を する余裕はないとタカを括っているのか……

「だが、それなら好都合 だ……作戦はこのまま続行する、主砲発射準備!」

余計な詮索は無用だろう…… 護衛艦隊の数が少ないのなら、こちらにとっても幸いだ。

「索敵厳に……MS隊、発進 準備……主砲、目標…連合艦隊………」

オーディーンとネェルアーク エンジェルのカタパルトハッチが開き、MSの発進体制が整うと同時に主砲とゴッドフリート、セイレーンの砲口がデブリの向こう側にいる連合艦群にセットさ れた。

事前に合わせた時間が『0: 00:00』を刻んだ瞬間、ダイテツとマリューの声が上がった。

「《撃 てぇぇぇぇぇ!!!》」

刹那、オーディーンとネェル アークエンジェルからビームが放たれ……光の渦が進路上のデブリを薙ぎ払いながら、連合艦隊に襲い掛かった。

突然の奇襲に対応できず、 ビームの渦は展開していた艦隊のうち、輸送艦一隻…そして護衛艦一隻に駆逐艦二隻の艦体を貫き、轟沈させた。

「敵熱源、4ロスト!」

「エンジン始動! 微速前 進…デルタ1よりエクシードフォース、発進せよ!!」

狙い通り、先制は取れた…… 敵艦隊もうまいぐあいに削れ、混乱を起こせた。

浮き足立てば、それだけで隙 はできる……二隻は加速し、デブリ帯から姿を見せる。

「熱紋照合……輸送艦4、護 衛艦8、駆逐艦14!」

艦隊の中央に位置する輸送艦 が4隻……アレが恐らく降下部隊を艦載した艦だろう。

既にハッチが開かれ、大気圏 突入が開始されようとしている。

オーディーンは加速し、それ と同時にMS隊が発進していく。

エクシードフォースに編成さ れたM1A、エヴォリューション、スペリオル、ヴァリアブル、ゲイツ改が飛び出し……こちらに向かってくる護衛艦隊を突破するように加速する。

 

「エクシード1から5、目標 に接近!」

「よし、エクシードフォース を援護する……HQよりヴァーミリオン、及びアサルトフォース発進! フォーメーションA4!」

突入を援護するために、ネェ ルアークエンジェルからもMSが発進していく。

修理の終えたムウのIWSP 装備のストライク、インフィニート、ルシファー、ジャスティス、バスター、ブリッツビルガー、イージスディープのヴァーミリオンフォースと支援を目的とし たゲイツアサルト、バスターダガー、ジンD型装備で編成されたアサルトフォースだ。

そして、ヴァーミリオンの一 機であるカガリのストライクルージュがカタパルトに乗る。

「APU分離確認……カタパ ルト接続…システム、オールグリーン……装備は、ソードストライカーを!」

ミリアリアの管制に従い、カ タパルトに乗ったストライクルージュにはソードストライカーが装備される。接近戦を得意とするカガリにはこれが一番肌に合う。

《カガリ=ユラ=アスハ…ス トライクルージュ! いくぞ!!》

発進のGが身体を圧迫し、微 かに表情を顰めながらカタパルトがストライクルージュを打ち出す。

宇宙に躍り出たストライク ルージュに真紅のカラーリングが施され、左肩の獅子のエンブレムが煌く。

 

 

 

先制の砲撃と奇襲に連合の降 下部隊は混乱に陥っていた。

「おいおい……こんな時に敵 さんかよ」

降下部隊、レイダー第1小隊 の隊長であるエドは軽薄そうに呟くが、内心はかなりの焦りを抱いていた。

降下中というのは一番無防備 であり、また今の自分は身動きが取れない状態だ。

「このまま艦と運命をとも にってのはシャレにならんな……」

軽くぼやいていると、モニ ターに光が灯り、艦載されている輸送艦の艦長が映る。

《ハレルソン中尉、今我が艦 隊は攻撃を受けている》

「知ってますよ!」

爆発音と振動…そして耳を劈 くようなけたたましい警告音が先程から鳴り響いている。

「敵はザフトっすか?」

《解からん…識別は確認でき ていない……だが、敵であることに変わりはない》

一瞬、識別不明ということが 気に掛かったが、攻撃してきている以上はまず間違いなく敵だ。

《このままでは、本艦も沈む 可能性がある…よって、君達はすぐに降下シークエンスに入ってくれ》

その言葉に、飄々であったエ ドも表情が変わる。

《貴公らごと艦が沈めば、そ れは我らの恥じになる……よいな?》

有無を言わせぬ眼光……輸送 艦の艦長である以上、積荷ごと落ちるというのは耐え難い苦痛だろう。

それを理解しているからこ そ、エドも敬礼で返す。

「了解しました……Good Luck」

それに対し、艦長も敬礼で答 えると……通信が途切れ、エドは操縦桿を握り締め、APUが起動し、輸送艦のハッチから見える地球を見据え、降下シークエンスに突入する。

「突入角確認……座標固 定……目標、ベースカーペンタリア! 俺に続け!!」

力強い声とともにエドの駆る 制式レイダーが発進し、降下カプセルを正面にして大気圏に突入していく。

それに続くように小隊の各制 式レイダーも発進し、降下していく。

艦載していた制式レイダーを 全て射出した瞬間、この輸送艦はビームにエンジンを貫かれ、轟沈した。

 

 

「っ! 降下が始まっ た……っ」

輸送艦を沈めたM1Aのコッ クピット内で、レイナは微かに歯噛みした。

今したが墜とした輸送艦から は既に降下部隊が発進し、大気圏に突入した。

これ以上の追撃はできな い……意識を切り替え、他の輸送艦に向かおうと機体を旋回させるが、そこへ護衛のストライクダガーがビームサーベルを振り被って向かってきた。

だが、レイナはその動きを読 み…M1Aもビームサーベルを抜き、振り上げてボディを両断し、爆発させる。

爆発が宇宙を照らし出すな か、次の目標へと向かう。

後方からオーディーン、ネェ ルアークエンジェルが砲撃し、護衛艦隊を撃ち抜き、轟沈させていく。

バスターダガー隊が両腕のガ ンランチャーと収束ライフルを連射し、向かってくるMS隊を撃ち落とす。

それを掻い潜り、母艦を沈め ようとするストライクダガーを護衛のバスター、ブリッツビルガー、イージスディープが撃ち抜き、近づけさせない。

護衛のMSが少なくなり、敵 母艦に接近するゲイツアサルト数機が火器をフルオープンし、その火力に艦体を撃ち抜かれ、駆逐艦が爆発する。

ストライク、インフィニー ト、ルシファーもまた防衛MSを次々と墜としていく。

そして、ジャスティスに援護 されながらストライクルージュもまた奮戦を見せていた。

「でぇぇぇいい!!」

シュベルトゲーベルを振り被 り、ストライクダガーを縦に両断する。

爆発が起こるなか、別の方角 から降り注ぐビームを左腕のパンツァーアイゼンで受け止める。だが、その隙を衝いて下方向から急接近してくるストライクダガー。

カガリの表情が微かに強張る が、ジャスティスが割り込み、ビームライフルで狙撃し、腕を吹き飛ばされ、誘爆が起こり、爆発する。

「カガリ、大丈夫か!?」

「あ、ああ! すまない、ア スラン!」

「お前はまだ初陣だ! 無理 はするな!!」

叱咤するアスランに流石に強 かなカガリも今回ばかりは強く言い返せない。

そのまま、ジャスティスに援 護されながらストライクダガーの掃討に向かう。

 

 

レイナのM1Aが残存の輸送 艦のエンジン部に向けてビームライフルを放ち、エンジンが爆発し、格納庫に艦載されていた制式レイダーもろとも地上へと墜ちていく。

作戦か開始から十数分後…… 戦闘は終結した。

輸送艦、護衛艦隊を全滅させ たが、降下部隊の内、半数以上が脱出するように降下した。

「流石に全滅、とまではいか なかったわね」

揶揄するように話し掛けるリ ンに、レイナも頷き返す。

確かに、今回はあくまで降下 部隊の戦力を削ることであったので、全滅ではない。だが、ものの十数分で全滅させたのは驚きだろう。

「地球軍の後方部隊の錬度は かなり低いみたいね………」

今回の戦闘を鑑みながら、レ イナはそう評する。

実際に戦ってみたが、輸送艦 の動きはまあ悪くなかった……艦載機をイの一番に降下させようと動いていた。恐らく、かなりの実戦経験者だろう。だが、護衛艦隊の方は動きがお粗末過ぎ た。MS隊同士の連携もほとんどなっておらず、マニュアル通りの動きしかしない。レイナ達を相手にするのは酷としか思えないようなレベルだった。

まあ、連合軍も前線維持のた めに後方の部隊の約5割を新兵や一卒兵で固めている以上仕方がないだろう。

(私の取り越し苦労だったか な……)

さして苦戦もなく、特に何か があるというわけではない……インフィニティを持ってきたのはやや取りこし苦労だったかと内心に考えていると、レーダーに新たな反応が表示された。

 

 

「か、艦長! 前方に熱反応 多数!」

その報告に思わず表情を強張 らせて振り向くマリュー。

「規模は!?」

「約32!」

冷静に問い返すキョウに素早 く応じると、マリューとキョウは顔を見合わせ、息を呑む。

規模的には一個艦隊に匹敵す るクラスだ。恐らく、連合の哨戒部隊などではなく相当規模の部隊だ。

正面からぶつかるのは得策で はない……本来の目的は既に達した。無理をして留まり、艦隊とやりあう必要はない。

すぐさま後退しようとする が、そこへミリアリアのさらなる報告が飛ぶ。

「こ、後方からも熱源! 数 26!!」

挟まれた……誰もが緊迫感に 身を包むなか、シグナルを確認していたサイが声を張り上げた。

「か、艦長……」

「どうしたのっ!?」

震えるような口調のサイに振 り向くと、サイが上擦った声で呟いた。

「こ、このシグナルは……地 球軍、第8艦隊のものです!!」

その言葉に、マリューは絶句 した……第8艦隊……それは、かつてマリュー達が属していた部隊……ならば………

立ち往生するネェルーアーク エンジェル、オーディーンの前後に艦隊が出現する。

望まぬ戦いを告げるよう に…………

 

 

 

 

その様子を、離れたデブリの 密集地帯から静かに見詰める影………

宇宙の闇に同化するように静 寂を護り、ジッと見下ろしている機影……前方に位置し、佇み、膝をつきながら様子を窺う3体の影の頭部には、カメラアイを覆うように真紅のバイザーが施さ れ、さらに額には円状のモノアイが不気味な輝きを放っている。

翼を収納したようなバック パックを持ち、手にはランチャーと思しき銃を構えている。

そして……その奥に佇む最後 の一機……前方のMSが従者のごとく護る機体は、暗い闇に覆われて全貌を隠している。

その頭部の真紅の瞳が、不気 味に輝き……今から始まろうとしている戦いを見下ろすのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

今、相対するかつての上司… 部下………

望まぬ戦いが引き起こす憤怒 と絶望………

だが、そこには卑劣な罠が潜 んでいた………そして、全てを超越したかのごとく………

 

白き天使達が舞い降りる 刻………黒衣の天使は再び翼を拡げる………

真紅の翼を………

 

 

そして……新たなる運命の邂 逅が迫る………

果たして、彼らは天界を護り きれるのか………

 

 

次回、「白銀の使徒」

 

真紅の翼を拡げ…舞え、イン フィニティ


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