暗闇のなか……二人の影が佇 み、言葉を交わしている。

「アクイラの情報通り……い え、やはり現われてくれましたね」

右眼のインターフェイスに表 示されている映像にウェンドは口元を微かに歪める。

「さて……連中、どうでるか しらね?」

揶揄するような口調で呟き、 髪を掻き上げるのは、ルン……鼻を鳴らすルンに対し、隣に立つウェンドは含みのある笑みを浮かべる。

「どう出ようとも、関係あり ませんよ……まあ、ほんの少し余興を講じるのも面白いかもしれませんね」

くぐもった笑みを噛み殺す ウェンドに、ルンはやや冷ややかな視線を向ける。

「どうなの……エンジェルの 方は?」

「貴方が持ち帰ってくれた データのおかげで機体の方は約束できますよ」

「そうじゃない……中身のこ とを言っているのよ」

睨むようなルンに、ウェンド はああとばかりに相槌を打ち、手を叩く。

「勿論、抜かりはありません よ……アレほど、パーツとして相応しいものはありませんしね……虫けらは虫けら同士…互いに殺し合ってくれた方が面白い」

自信ありげに囁くウェンドに フンと鼻を鳴らす。

「マルス=フォーシアの脳髄 が手に入っていれば、もっと早くあの4機も完成したんですがね………いやはや、なかなかの策士ですよ。肝心の部分をブラックボックスで固めておくなど」

肩を竦めながら溜め息をつ く。

「フン……プラントに逃げた 男を捕まえるどころか、自殺されるとはな………御丁寧に死体も残らないようにするとは」

忌々しげに舌打ちする……メ タトロンの開発者であり生みの親……マルス=フォーシア……少なくとも、そのロボット工学に関する才能だけはルン達も認めざるをえなかった。

マルスの設計したDEMの データは詳細な部分は全てマルスの手で抹消され、肝心のメタトロン本体はブラックボックスを多く抱えてバラして調べるわけにもいかない。

マルス本人を拉致しようとも 考えたが、マルスはプラントに逃げ込んだ後、巧妙に身を隠し、居場所を突き止めたときには既に自殺し、肉片を残すことなく廃棄場の焼却場で灰となってい た。

死体があれば、脳髄だけでも 取り出したのだが、こちらの手を呼んでいたらしい……

「しかし、テルスもお前も何 をやっていた……DEMの2機はプラントにあったというのに………」

「見事こちらの眼を欺いてく れましたからね……まさかバラバラのパーツ状態で廃棄処分場に隠していたとは……組み立てられた時は他のナンバーにまじっていて気づきませんでしたよ」

マルスはインフィニティとエ ヴォリューションの2機をバラバラのパーツ状態にしてプラント内に持ち込み、廃棄場の廃棄物のなかに隠してあったのだ。

まさに木の葉を隠すなら森に 隠せである……その後、アマノ=バーネットがマルスの遺言に従い、廃棄場内に隠されていたインフィニティとエヴォリューションのパーツを工廠内へと持ち込 み、EXナンバーと偽装して完成させた。

後にアマノは蒸発……いや… 消した………プラント内に潜入していたテルスが情報を改竄し、表向きは行方不明とし、殺した。アマノ=バーネットのプラズマジェット理論が邪魔だったの だ……だがそれは奇しくもインフィニティとエヴォリューションに搭載され、その後、2機はそれぞれの主へと委ねられた。

まさに揃いも揃って自分達の 前に立ち塞がってくる……やや悔しげに舌打ちしながらも、気を取り直したように気持ちを落ち着かせる。

「ですが、あの4機と他の AETシリーズは完成しました…もはや必要ありませんよ」

「だが、テストはエンジェル だけのはず……何故、イヴィルまで出す必要がある?」

「いえね……少しばかり、ア レは特殊なものでね……まあ、作動テストのようなものですよ。今回の実戦には出しませんよ」

手を振るウェンドにルンはや や冷めた眼を浮かべながら、どこか険しい表情を浮かべる。

「何故……あの女を使わない の?」

地を這うような冷たい声…… 憤怒を感じ取らせるような視線に、その意図を察したウェンドが肩を竦めながら答える。

「僕の方針じゃありません よ……彼女は、カイン殿が触れるなと言ったのでね」

その言葉に、ルンの表情がピ クっと動く…どこか、驚きを浮かべるルンにウェンドはからかうように笑みを浮かべる。

「気に入りませんか? ま あ、貴方にとっては認められないでしょうが……カイン殿の意志に反することはできないでしょう?」

そう揶揄するように呟かれ、 ルンはギリリと奥歯を噛み締め、拳を握り締めて震わせる。

そう……ウェンドの言うとお り、カインの意志に反するなど、ルンには絶対にできないことだ。それがたとえどんなにルンに対して苦痛なことでも………

「フン……なら、そのお得意 の情報処理で選んだパーツは大丈夫なのでしょうね? イヴィルはエンジェルとは違う……」

皮肉るような物言いと嘲笑を 僅かに込めた笑みにそれまでにこやかであったウェンドの笑みに微かな強張りが走る。

「フ…ええ、勿論ですよ。わ ざわざテルスにデータベースで確認をさせたぐらいですから……後々使えますよ、イヴィルに組み込んだパーツは」

内心の不快感を押し隠しなが らも、慇懃な物言いで呟き、インターフェイスを持ち上げる。

「……それよりも、貴方も早 く001を扱えるようになった方がよろしいのでは? でなければ、いつまでもお姉さん達には勝てませんよ」

今度こそ、ルンの表情が憤怒 と憎悪に染まり、思わず腰に帯刀していた刀を抜き、刃をウェンドに突きつけた。

「その口……今すぐ閉じろ。 さもなければ…今ここで貴様の命を断つ」

殺気を周囲に放ちながら、刃 をウェンドの首筋に構える……互いに牽制し合うような態勢のまま……一触触発のなか、そこへ音が響く。

その音にハッと振り向く と……離れた宇宙が覗くガラスの前に腰掛けながら宇宙を見詰める人影が入った。

その姿にハッとし、ルンは刀 を離し、鞘に収めるとその場に跪き、ウェンドも続く。

「……ここから見える地球 は、蒼くて美しいな」

なんとなしに、少年…カイン は口を開き、ガラスの向こうに見える地球を見やりながら呟いた。

その言葉の意図が掴めず、困 惑するルンとウェンド……だが、カインはまるで独り言のように呟き続ける。

「だが……それも消え る…………」

そう……あの蒼さも消え…… 紅に染まる…………徐に、懐から取り出した煙草を咥え、火をつけると、それを吸って煙を噴出す。

口に咥えたまま、右腕を膝に のせ、そのまま視線を向けないまま……言い放った。

「……エンジェルには、彼女 を狙うように最優先入力をしておけ」

その言葉に、ウェンドは顔を 上げる。

「………何故に?」

腑に落ちず問い返すウェンド だが、カインは無言のまま答えない。覗く横顔からはその意図を推し量れず、咥えていた煙草の先端がこげ落ちる。

「AEMの完成を急げ……」

それだけ呟くと、ウェンドは それ以上の追求を止める。

「……全ては、ディカスティ スの意志のままに………」

一礼すると、静かにその場を 離れていく。

残されたルンは怪訝そうな顔 を浮かべていたが……カインの口元が微かに緩んでいるの気づき、眼を瞬き、息を呑む。

カインは……待っているの だ………レイナを………再び巡り合う刻を……そして…それまで彼女は誰にも殺されないという強い信頼感と確信………

それが感じ取られ……ルンは 眼を伏せ、悔しげに拳を握り締め…手から微かに血が零れ落ちる。

(……02…レイナ……クズ ハ………)

仇敵の名を呟くように、呪う ように心に呟く……憎むべきオリジナルの名を………

何故……自分ではダメなの だ………同じ存在だというのに………

何故…奴だけが………と…ル ンの心は暗い闇に捉われ…その憎悪が内を駆け巡り……それは向けられる………

そんな様子に一瞥するまでも なく……カインはただ静かにガラスの向こう側の地球を凝視し続けるのであった………

自分の求める者が……自分の もとへとくる刻を待ち望んで………そして…破滅と再生の刻を待ち侘びて…………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-49  白銀の使徒

 

 

衛星軌道での戦いが始まろう としていた時を同じくして、地球の衛星軌道上に向かってザフトの艦艇が航行していた。

ナスカ級二隻にローラシア級 一隻で編成されたこの部隊は、ホーキンス隊と呼ばれるザフトの部隊であった。クルーゼ隊には及ばないものの、開戦初期の頃からのベテランクルーや熟練パイ ロットを持つ数少ない部隊であった。

その旗艦:アレクサンドロス のブリッジには、艦長である壮年の男と二人の人物が戦略パネルを見詰めていた。

「……で、ホントにここに オーブの軍事ファクトリーとやらがあんのか?」

ざっくばらんな態度で問い掛 ける緑の軍服を着た青年…ホーキンス隊のMS指揮官であるハイネ=ヴェステンフルスの問いに、艦長は無骨に答え返す。

「議長の話では、まず間違い ないらしい……我々の目的は、このファクトリーの制圧だ」

そう……ホーキンス隊が受け た命令はオーブの軍事衛星であるアメノミハシラの攻略と占拠であった。

衛星軌道に位置するという利 点とまたその高度な技術が集約されたファクトリー内には、多数のMSが保管されているという……それらを手に入れ、自軍の戦力として使いたいというのが本 音であった。

敗国である以上、ろくな戦力 はないと考えているが、それでも念には念を入れての部隊派遣だ。

「ですが、やはり目標にも防 衛網があると考えるべきでしょう」

口を挟むのは、ホーキンス隊 に同行しているシホであった。先のメンデル戦後、帰還したクルーゼ隊は旗艦損失のために一時的に部隊を解散させることになり、クルーゼは参謀本部直属にな り、イザークは新たに編成されているジュール隊の隊長となっている。

シホもその下に組み込まれて いるが、何故かガルドだけが他の部隊に配備されている。単に他の部隊の底上げを考えているかは解からないが………

そして、今回の派兵にあた り、本来ならイザークが同行するはずであったのが、部隊の訓練とまた自機の改修のために動けず、副官であるシホが同行を渡された。

「けどよ…いくらなんでも訓 練上がりの連中を実戦に出そうなんて、上層部もヤキが回ったよな」

呆れた口調で肩を竦めるハイ ネ…だが、確かに訓練も満足にこなせていない…しかも徴兵した14歳の子供がパイロットとして戦場に出るなど……あまり体面のいいものではない。

だが、逆をいえばそれだけザ フトが追い詰められているということに他ならない。

そればかりは口に出すのは躊 躇われた。

「仕方ありません……命令で ある以上は…彼らには、ジンで後方支援に徹してもらいましょう……相手はもう、MAではないですし……」

シホも苦い表情でそう呟く。

そう……白兵戦の訓練を受け ていない訓練兵は、MSの操縦技術ばかりを教え込まれ、肝心のMSでの白兵戦が難しいのだ。MSにしても白兵戦を行うにはそれなりに白兵戦の訓練や経験が ものをいう。だが、肝心の訓練兵はそれがまったくできておらず…いわば、支援や火器を使った戦法しか取れない。これがまだMAならある程度は対処できるだ ろうが、既にMSがどこの戦場でも投入されている以上、MS同士の白兵戦闘経験の薄いザフトでは無理であろう。

「だな……で、どう攻める?  ハーネンフース殿?」

肩を竦めながら、気を取り直 してパネルを覗き込む。確かに言っても命令が撤回されるわけでもない。ならば、自分達の役目はせめて訓練兵を一人でも生かし、そして戦場の恐怖を教えるだ けだ。

恐怖を知らない奴は戦場で早 死にする…それが熟練パイロットであるハイネの見解であった。

「そうですね……なにしろ、 事前に得たデータが少なすぎます。いったい、どういった防衛網を築いているのか……」

難しい表情を浮かべながら、 シホはパネルに表示されるアメノミハシラの構造図を見やる。

元は軌道エレベーターを用い たステーションになる予定であったアメノミハシラ…だが、ザフトが掴んでいる情報はそれぐらいで、今までオーブを積極的に情報収集していなかったことが裏 目に出たようだ。

周囲に張り巡らされたソーラ パネルを使っての動力……外見からの構造では、対空砲も少なからず装備されているようだが、やはり機動兵器による護りがあると見るべきだろう。

「アレクサンドロスが前面に 出て、後方をシェルドレイクとチャールズで固めます」

シホがいいながら、パネル上 に部隊の進攻図が表示される。

「見る限り、目標には強力な 長距離型の砲台は確認できていません。ならば、距離を詰め、その後MSによる内部への突入を行います」

「どんなに強固そうでも、 潜っちまえばラクなもんってことか?」

ハイネの問い掛けに頷き返 す。

ある程度まで距離を詰め、そ の後はMSによるアメノミハシラに取り付き、内部に侵入してしまえばあとはどうとでもなる。

あの大きさのステーション だ…懐に入り込まれては対処は難しいだろう。

「フォーメーションはどうす る?」

「前衛は私のシュトゥルムと ヴェステンフルス隊長の部隊で……あと、彼らはD型装備のジンで艦の護衛と支援を……一応の援護に、バルファス数機は残しておいてください」

「おう……でもよ、今のMS 隊の指揮権はあんたにあるんだがな……」

そう……ハイネは確かにこの ホーキンス隊のMS部隊指揮官ではあるが、今回特別に編入されたシホはクルーゼ隊のなかでも有数のパイロット……当然ながら、訓練生も多いこの今の編成で はシホが指揮を執った方が士気は高くなる。

だが、それに対しシホは苦笑 を浮かべて首を振る。

「私はまだまだ指揮官という 器ではありませんよ……それに、ヴェステンフルス隊長の方が指揮系統の戸惑いも少ないでしょう」

そう言い、辞退するシホ…… ハイネもどこか肩を竦めながら、別のことを問う。

「けどよ、あの機体…大丈夫 なのか?」

微かに表情を顰めて呟くハイ ネに、シホも表情を若干険しくする。

「仕方ありません……今は少 しでも戦力になる機体を投入しなければならないのは解かっています……ですが、やはり私のような者には気が重くなります」

そう……シホが任された機 体…シュトゥルムは核エンジン搭載型の機体……だが、核動力というのは流石にシホを困惑させていた。

シュトゥルムは元々機動試験 機であり、本来なら破棄される予定であったのを改修したものだ。本来なら、いくら赤服とはいえシホのように新人が任される機体ではないが、多数の試験機の 運用を担当したということもあり、シホが任命された。

「ま、あまり気にすんなよ」

「……はい」

気遣うように肩を叩くハイネ に、シホは苦笑を浮かべて答えた。

「作戦開始は今から3時間後 だな……まあ、道中なにもないことを祈りたいね」

飄々とした態度で呟き、3隻 はゆっくりと宇宙を航行していくのであった。

 

 

同時刻…ナスカ級:アレクサ ンドロスの格納庫では、MSの出撃準備に追われ、慌しかった。

最新鋭のゲイツとバルファス は今までのジンやシグーと違い、整備性がまったく違うために整備兵にも新たな技能が求められている。

そんな慌しい整備班の戦場で ある格納庫を見渡すパイロットブリーフィングルームでは、この作戦に参加している訓練兵達が集い、これから始まる実戦に意気高揚だった。

「いよいよ実戦ね…腕が鳴る わ!」

そんな訓練兵達のなかで一際 意気込んでいる緑のパイロットスーツを着た少女……ルナマリア=ホークはぐっと拳を握り締めている。

現在、15歳の赤髪をショー トカットにした活発そうな少女だ。だが、数少ないMS適正を突破し、この作戦へ任命されたために今彼女のモチベーションは最高にまで高揚していた。

「すっごい気合のはいりよう だよな、ルナマリアは」

呆れたように呟くのは同期の 少年……だが、ルナマリアは肯定するように鼻を鳴らす。

「そりゃそうよ……あれだけ キツーイ訓練を受けたんだもん…早く実戦に出たくてしょうがないのよ!」

確かに……ルナマリアらは今 までの訓練カリキュラムのなかで最短コースを学習してきた。当然、それは全て即実戦を踏まえての厳しいカリキュラムが多く、結局修得できたのは全体の3割 ほど。

さらにそこから実機を使って の演習訓練をみっちりこなし…そしてその選ばれた一部がこの特別任務に駆り出されたのだ。ある意味ではエリートという意識があるかもしれない。

「そうだよな…早くMSを動 かしたいぜ」

「けど、相手は連合じゃねえ んだろ……早くナチュラルの奴らに一泡吹かせたいぜ」

彼らの心持ちは既にMSに 乗って戦うという意識でいっぱいだ。だが、これはある意味まだ心身ともに子供であることが顕著に表われている。とかくこの世代は英雄願望が強く、また訓練 生のなかから選ばれたということが彼らに間違った自信を与えているのだろう。

だからこそ、彼らからしてみ れば、今回のような任務ではなく地球軍の部隊と戦いたいというような方に流れても仕方がないだろう。

「あーあ……私も早く専用機 みたいなのに乗りたいな」

大仰に溜め息をつきながら、 ルナマリアは格納庫の端で整備を受けている機体を見やる。

灰色の装甲を持つその機体 は、既存のMSとは一線を画した形状を誇っている。

「アレってハーネンフース先 輩の機体だろ…やっぱクルーゼ隊の人ってのは待遇も違うよな」

憧れと羨望が半々といった感 じで呟き、全員の眼が向けられる。

X07A:シュトゥルム…… フリーダム、ジャスティスのスラスターやバーニア機構などの機動性テストのために試作された機動試験機。機動試験機ということもあり、機体随所にスラス ターやバーニア機構が施され、また火力向上のために両肩に大型のビームキャノンを装備し、簡易変形機構も備えている。

しかも核エンジンを搭載した ワンオフ機ということもあり、その専用機は尊敬の対象となり、クルーゼ隊というのは半ば、訓練兵の間でも有名だ。高い功績を残し、また重要な任務を果たす ために様々な専用機を与えられている。訓練兵にはまさに憧れの存在であろう。

「だけど、クルーゼ隊のアス ラン=ザラとリン=システィの二人ってあれと同型機を奪って脱走したって話よ」

半ば侮蔑するように呟くルナ マリア……クルーゼ隊のトップガンであったアスランとリンの脱走は軍内部でも有名な話だ。

しかも、アスランは議長の息 子…父親に叛逆を起こしたということになる。

それがルナマリアには理解で きなかった。

「知らねえよ、そんなこ と……けど、裏切り者は赦せねえしな!」

「そうだぜ……俺達でそいつ らを倒して、プラントを護るんだよ!」

意気投合し、気合を振り撒く 同僚にルナマリアは軽く笑みを浮かべて今一度シュトゥルムを見やりながら溜め息を漏らした。

「それでも……やっぱいい な、専用機って。不公平じゃない…ハーネンフース先輩だって私とたいして年齢も変わらないのに専用機なんて」

口を尖らせ、どこか論点のず れた嫉妬を憶えるルナマリアに他のメンバーはくぐもった笑い声を漏らす。

「なによぉ……」

その態度が不満に感じたの か、睨むが笑いは止まらない。

「だ、だってよ……ルナマリ ア、射撃やデブリ戦の成績Dだったじゃん」

そう指された瞬間、ルナマリ アは表情を顰める。

「そうそう……聞いた話だ と、ハーネンフース先輩はなんと全カリキュラムAとSで埋まってたて話だぜ」

「ルナアリアとじゃ、比べる のも失礼だよなあ」

口々に呟かれるが、事実であ るためにルナマリアは言い返せず、グウの音も出ない。

確かに、MS操縦のカリキュ ラムを修得はしたが、ルナマリアは一部のカリキュラムの成績が悪かった。本来なら、卒業も危ぶまれるが今の情勢で形だけでも修得できたということで免除し てもらったのだ。

肩を落としながらも、まだ諦 めがつかないのか溜め息混じりにぼやく。

「あーあ……私もせめてゲイ ツぐらいには乗りたいな」

「ルナマリアが?」

「無理無理……俺達はまだま だジンだってよ」

そう……訓練兵である彼らに はまだゲイツが支給されていない。増産を急いではいるが、ゲイツは主に熟練パイロットに優先的に配備されている。それまでのジンやシグーはコックピットモ ジュールの交換で無人機に改修し、配備し…残りは訓練兵用に回されている。

ジンはやはり訓練には最適な 機体ということもあろうが、訓練兵達にはやはり新型のゲイツとうが眩しく見えるのであろう。

「解かってるわよ…でも、こ の戦闘で私の実力を示してやるわよ!!」

口を尖らせてそっぽを向くル ナマリアは、自身を奮い立たせるように叫び上げた。

彼らの戦いは、もう眼前にま で迫りつつあった…………

 

 

 

 

地球の衛星軌道上……地球軍 のオペレーション八・八の降下部隊の強襲を受けた彼らは降下部隊を奇襲し、その戦力を削ぐことには成功した。

だが、離脱しようとした彼ら の前に新たな敵が現われる。それは、彼らにとっては望まない追撃者であった。

ネェルアークエンジェルと オーディーンを挟み込むように現われたのは、第8機動艦隊……そして、その旗艦に位置するのは、マリューにとっては見覚えがありすぎる艦影………

「ド、ドミニオン……」

艦隊の中心に位置するのは、 紛れもなくメネラオスとドミニオンに瓜二つな外見を持つ艦だが、カラーリングが異なる。

「違います……恐らく、ドミ ニオンの同型艦………」

キョウが苦い口調で告げ る……ドミニオン、パワーとAA級の戦艦が既に増産されていることは知っている。恐らく、アレもその過程で造られたAA級だろう。

「艦長…地球軍AA級より通 信です!」

その時、ミリアリアが声を上 げ……マリューはハッと振り向き…そして、やや逡巡した後、短く告げた。

「……繋げて」

次の瞬間、正面のメインモニ ターに一人の男が映し出された。

「ハルバートン…提 督………」

マリューがどこか歯噛みする ように呟き……向こうに映るハルバートンもどこか苦虫を踏み潰したような表情を浮かべていた。

《やはり君だったか……マ リュー=ラミアス…》

「お久しぶり…ですね……提 督」

《ああ……このような形で再 び君らと向き合うことになるとはな………》

かつての上官と部下……ハル バートンの提唱したG計画に賛同し、そのためにGを開発したマリューにとっては、まさに恩師と呼ぶ人物。

そのハルバートンが今は自分 達の造り上げたアークエンジェルの同型艦に乗って敵対している。それが言い知れぬ苦痛を味あわせる。

《フン! 脱走した裏切り者 が………》

そこへメネラオスに乗るホフ マンの侮蔑を込めた罵声が飛ぶ。マリュー達はやや表情を苦く顰める……たとえ、どのような形であれ自分達は脱走兵には変わりない。それが軍内部ではどのよ うに卑屈に扱われているかも………

だが、今は自分自身で選んだ 道だ……たとえ罵倒されようとも耐えなければならない。

《ホフマン、黙れ……》

《し、しかし提督……》

だが、そこにハルバートンの 低い声が響き…それに気圧されたホフマンが息を呑む。

《黙れ、と言っているのだ… 今は、私が話しているのだ……余計な口を挟むな》

有無を言わせぬ低い口調…… ホフマンはどこか苦々しながらも口を噤む。ハルバートンにしてみれば、アラスカでのことを知るために彼らの立場に同情を憶えずにはいられない。

そして、いかなる立場になろ うとも相手に対する敬意を損なってはならないのがハルバートンの信条だった。

ハルバートンの言葉にマ リューはどこか安堵する思いもあった……やはり、連合の体質は腐っていようともハルバートンは染まっていないと…敵になりながらも、それは敬意に変わりな い。

《……マリュー=ラミアス… 君らの行動は、私個人としては同情を憶えなくはない……》

その言葉にマリューだけでな く指揮下の第8艦隊の間からもどよめきが起こる。

《だが……私はその前に軍人 でもある…軍人である以上、受けた命令は遂行せねばならない……私は、君らとは戦いたくはない……このまま降伏するのなら、身の安全を私が必ず保証する》

《提督、軍規違反ですぞ!》

ホフマンの驚愕の声が響 く……受けた命令は降下部隊の援護でそれを妨害にきた相手の排除……ハルバートンの今の発言は命令違反もいいところだ。

だが、そんなことは気にも留 めず…ハルバートンは苦悩を感じさせる表情で黙り込み、マリューを凝視している。

「……ハルバートン提督…あ りがとうございます」

感謝の念を込め…そして、そ の気遣いには絶対に答えられないマリューにはこの先の言葉を言うのはまさに苦痛だった。ナタルの時よりも遥かに………

「ですが、私達は今更戻るつ もりはありません……戻ったところで、私達は処分されるでしょうから……それに、今の連合のやり方を見過ごすわけにはいきません……かつて、連合に身を置 いた身として!」

迷いも感じさせない瞳で…… マリューは強く言い放った。

そう……もう、今更戻ること はできない。そう自分を決意させ、ここまで来たのだ………

マリューの決意を垣間見…… ハルバートンはその真っ直ぐさにどこか羨望の思いが浮かぶ。

《相変わらずだな、ハルバー トン》

唐突に囁かれた声に反応し、 ハッと顔を上げると……ネェルアークエンジェルと並ぶオーディーンからの回線が割り込んでいた。

《ウェ、ウェラード……っ》

先程よりも驚愕に眼を見開く ハルバートン……かつて、大西洋連邦宇宙軍にともに属していた同僚……そして、死んだと聞かされていた旧友の姿に流石に冷静さを保っていられなかった。

《こうして顔を合わすのは久 しぶりだな……それがこのような形になって、残念に思うよ》

表情を落とし、言い淀むダイ テツにハルバートンもまた黙り込む。

《お前は相変わらず真っ直ぐ だな……わしはそんなお前を友とすることを誇りに思っていた。だが、今のわしらには退けん一線がある……たとえ、相手がお前であろうともな》

力強く言い切ったダイテ ツ……マリューと同じ決意と覚悟を漂わせる瞳……変わらないな…とハルバートンは内心に思った。

自身の乗るケルビムと第8機 動艦隊という一個艦隊にたった2隻で対峙するなど、傍から見れば無謀としか形容できない。

だが、そんな見た目の数に怯 むような相手ではない……ハルバートンも内心に腹を括った。

《解かった……なら、もは や…語るまい………私の全力を以って、お前達と戦おう!》

そう宣言したハルバートン に、マリューとダイテツは即座に迎撃に準備に入る。

「ダイテツ艦長!」

《解かっている……まともに ぶつかるのはどう考えても不利だ……なんとか、後方の部隊を振り切って離脱する!》

相手がハルバートンなら、生 半可の策では破れない……地球軍の智将と言われるだけはあるのだ。それに、先の降下部隊の護衛艦隊との連戦でこちらも少なからず消耗している今、正面から ぶつかるのは明らかに不利。ならば、ここは逃げの一手を取るしかない。

《前方はオーディーンがなん とか防ぐ…ラミアス艦長は後方の敵を牽制して活路を拓いてくれ!》

「解かりました! キョウ 君! アサルトフォースを呼び戻して本艦の甲板に配置して!」

「了解! HQよりアサルト フォースへ…ネェルアークエンジェル甲板まで後退! 密集形態で後方の敵を牽制し、脱出する!」

ネェルアークエンジェルが向 きを変え……オーディーンはその背中を護るようにバックの態勢で前方の艦隊を牽制するように後退する。

ハルバートンは圧倒的な兵力 で前後を挟み、降伏させようとしたのだろう……無論、普通ならこの状況は圧倒的不利であり、降伏も仕方がないだろうが、彼らには降伏はできない。

そして、この前後の挟み撃ち の弱点は艦砲の使用が制限されるということだ。

挟まれた状態では、確かに前 後から攻撃を受けるが、片方に向かって突破を試みれば、当然艦砲で砲撃してくるだろうが、こちらは2隻…当然、撃ちもらせばその艦砲は後方の友軍に着弾す る可能性が高い。

だが、それでもこちらが不利 なのは変わらない。敵艦隊のなかを突破するというのはかなり無謀な策だが、やるしかない。

火力の高いネェルアークエン ジェルとバスターダガーとうの砲撃機を甲板に配置し、火力を一点に集中させて突破を試みる。

「HQよりヴァーミリオン リーダーへ! チームを2つにしてオーディーンの援護と残りはネェルアークエンジェルに!」

《こちらヴァーミリオンリー ダー! 了解!!》

ヴァーミリオンフォースの指 揮官機であるムウのストライクから返事が飛び、そしてバスターダガーやジンD型兵装機がネェルアークエンジェルのデッキに立つ。

《ヴァーミリオンリーダーよ り各機へ! ヴァーミリオン3、及び5、6は俺とオーディーンの援護に回る! 残りはネェルアークエンジェルの援護へ! アルフ! そっちはお前が指揮を 執れ!》

《ヴァーミリオン2了解!》

ストライク、ルシファー、バ スター、ブリッツビルガーの4機が反転し、オーディーンの援護に回る。

そして、アルフのインフィ ニート率いるチームがネェルアークエンジェルの方に回り、遊撃隊となって活路を切り拓こうとする。

 

 

第8艦隊からも無数のストラ イクダガーが放出される。

そして、各MSが護衛と遊撃 に回る。

そんななか、カガリのストラ イクルージュは後方の艦隊の中心に座する艦艇を視界に入れた瞬間、微かに眼を瞬いた。

「アレは……っ!」

思わず眼を見開くが、そこへ アラートが響き、ハッと振り返り、ビームサーベルを振り被ってきたストライクダガーをシュベルトゲーベルで受け止め、そのまま弾き返し、一閃して斬り捨て る。

そして再度その艦……スサノ オを視界に入れ…逡巡していた思考がやがて答を出す。

「間違いないっ…アレは…… スサノオ………っ」

間違いない……資料でしか見 てはいないが、イズモ級の参番艦としてオノゴノ島で建造されていたはずの艦だ。若干形状は違うが、後部の艦橋ブロックにはクサナギやイズモと同型の特徴が 残っている。

だが、何故スサノオがここ に……と根本的な疑念に逡巡し、動きが一瞬止まる。

その隙を狙ってストライクダ ガー数機がビームライフルを構えて狙い撃つ……ロックオンのアラートに気づいた時は遅く、カガリが身を強張らせたが、そこへ高速回転の光の軌跡が描かれ、 それがストライクダガーを過ぎった瞬間、機体を上下に両断されて爆発する。

切り裂いたビームブーメラン が回転しながら戻り、掴み取るジャスティスがストライクルージュに近づく。

「ボウッとするな、カガ リ!」

アスランの叱責にカガリはや や安心したが、それでもその注意はスサノオに向けられている。

「アスラン……! 私…あの 艦とコンタクトを取ってみる!!」

突拍子もないカガリの言葉に アスランは一瞬、言葉を失う。

「カガリ、こんな時になに を……!」

艦の援護と活路を切り拓くの に手が一杯の現状で、後方の旗艦らしき艦にコンタクトを取ってみるなど、馬鹿な行為以外に取れないだろう。

だが、カガリは反論せず必死 に叫ぶ。

「アレは……アレは、オーブ の艦かもしれないんだ!」

それだけ叫ぶと、カガリはス トライクルージュを加速させてスサノオに向かっていく。

「カガリ! おいっ!」

制止させようとするも、カガ リは止まらない……そこへ通信が開く。

《ヴァーミリオン2から ヴァーミリオン4へ! 何をやっている!?》

フォーメーションの乱れに気 づいたアルフが戻そうと通信を繋げてきたが、アスランはやや困惑した面持ちで呟く。

「カガリが…敵の艦 に……!」

《何!? 死にたいのか、あ のお嬢さんは!?》

事態を理解したアルフも思わ ず正気かと疑いたくなった……ただでさえ、今は突破のために後方の敵艦隊に向かっている状態であり、その艦載機との戦闘中だ。

艦隊に向かっていくというの は自殺行為に近い。

「あの艦がオーブの艦かもし れないと……! 恐らくそれを確かめるために…!」

ストライクダガーを撃ち落と しながら、アスランはカガリの行動の意図を探る……もし、敵の艦にオーブの艦が混じっているとなれば、平然とはしていられないだろう。

だが、あまりに危険すぎる。

アルフもカガリの思いは理解 できなくはないがこの状況でのスタンドプレーは自分だけでなく味方にも危険を及ぼしかねない。

だが、カガリを見捨てるわけ にはいかない。

《ヴァーミリオン2から ヴァーミリオン4、7へ! お前達はヴァーミリオン8の援護に回れ!!》

その指示にアスランはやや驚 く。この状況でカガリの援護のためにジャスティスとイージスディープを抜けさせるのはあまり現実的ではない。

《ネェルアークエンジェルの 方はどうするっしょ?》

ラスティもどこか上擦った口 調で叫ぶ。

《心配するな! なんとか保 たせる! それよりもお前達はあのお嬢さんの援護に向かえ! それと……帰ったら訓練メニューは倍だと伝えておけ!!》

半ば自棄のように叫び、イン フィニートの火器をフルバーストさせて周辺のストライクダガーと接近していた駆逐艦を撃破させ、活路を切り拓く。

「了解!!」

そのアルフの意志を無駄にし ないため、ジャスティスとイージスディープは加速し、先行したストライクルージュの援護に向かった。

 

 

 

ケルビムのブリッジから戦闘 を見詰めるハルバートンもどこか感嘆の眼差しを浮かべていた。

「流石だな……」

それは誰に向かっての称賛 か……この状況での無茶な突破を試みるかつての部下と戦友に対してか………

挟み込んで相手を威圧し、降 伏を迫ろうとしたが…相手はその裏をかいてきた。相手も十単位の艦数ならいざ知らず、たった2隻では挟み込んだ状態では迂闊に艦砲を使えば同士討ちになる 可能性もあり、互いにアンチビーム爆雷を展開した状態ではなかなか決定打にならず、また敵側が既に機動兵器を展開済みというのは厄介な状態だった。

これではミサイルも撃ち落と され、こちらもMSを発進させて迎撃を展開せねばならず、結果的に艦の長距離砲撃は半ば封じられたに等しい。あとは、MSに援護を行わせながら接近し、艦 を墜とすしかない。

「ナイアヘッドからパンプト ンを回せ! MS隊は敵MS隊の迎撃に向かわせろ! パープルからレッド小隊は援護に回せ! ケルビム、前進する!」

その指示にクルー達はやや驚 愕を浮かべる。

旗艦自ら敵艦に向かっていく など通常ではあり得ない。

だが、ハルバートンにはこれ がマリューやダイテツに対してのせめてもの敬意であった。相手が危険な賭けに出てる以上、こちらもそれなりの覚悟で臨まねばならないという戦士としての誇 りだろう……

「メネラオスは後方で待機!  及びスサノオには敵艦への進攻阻止を打電しろ!」

ハルバートンの有無を言わせ ぬ怒号にクルー達は覚悟を察したのか、そのまま従う。この艦に乗っているクルーは大戦初期からの数少ないハルバートンの生き残りの部下だ。だからこそ、こ の上官の無茶にも既に慣れているのであろう。

駆逐艦、護衛艦を数隻伴い、 ケルビムもまた後退していくネェルアークエンジェルとオーディーンに追い縋っていく。

そして、こちらのMSを迎撃 している相手側のMSに向けて攻撃を開始する。

ストライクダガーと、ストラ イクダガーの改修機であるストライクキャノンダガーが迎撃に向かう。

GAT−01C:ストライク キャノンダガー……ストライクダガーの右肩に大型キャノン砲を装備させた砲撃支援改修機。通常生産のストライクダガーに実弾の大口系キャノン砲を装備させ た簡易改修型のMSがストライクダガーと並び、襲い掛かる。

 

 

ケルビムが前線に立ち、メネ ラオスが後方に回すというハルバートンの指示にホフマンは内心、上官への呆れを肥大させていた。

今でこそ、別々の艦に搭乗し ているが、ハルバートンの副官として上官の無茶にはほとほと愛想がつきていた。先の衛星軌道上でも無茶をしただけに肝を冷やした。

先の降伏勧告にしても、相手 がたとえ部下だろうが裏切り者は消去するべきだという思いがあった。

(やはり、甘すぎるのです よ…提督………)

内心に毒づくが、ホフマンは ハルバートンの行動に注意を配りながらもまた自身もここで働きを見せておかなければならないと考え、格納庫にアズラエルから譲渡された新型機に発進を指示 する。

仮にハルバートンがここでボ ロを出さなくとも自身の指揮下のMSが敵艦を墜とせば、それはホフマンの功績になる。

野心を沸々と燃やしながら、 口元に小さく含み笑みを浮かべた。

 

メネラオスの格納庫では、旗 艦であるケルビムよりもアズラエルの息が掛かったクルーが多く、また艦載機も最新鋭機を優先的に配備されている。

フォルテストラ装備のデュエ ルダガーがカタパルトに乗り、発進していく。

そして、セカンド=ソキウス の乗るカラミティ3号機がカタパルトに乗り、打ち出される。

続けて…グレーを基調とした カラーリングのMSがカタパルトに乗る。ダガーやカラミティら次世代型GATシリーズとはまた異彩な形状を誇る機体……

 

―――――RGX−P00 U:エインヘルヤル

 

北欧神話に登場する神の戦士 を意味する機体……だが、この機体は今までの機体とは明らかに桁が違う出力を持つ。その訳は、フレイの手によって齎されたNJCのデータから、NJCと核 動力を搭載したMSとして開発された試作機の2番目の機体……巨大なビームキャノンを内蔵したウイングを兼ね備え、高機動を意識した機体だが、その機動に かかるパイロットへの負担は大きく、通常のパイロットどころかエクステンデッドやブーステッドマンでも耐えられないため、Gから身体を保護する特殊な強化 スーツが必須となり、まるでコックピットに一体化するように備えられている。

その強化スーツを纏うのは、 ツインテールにしていたダークパープルの髪を下ろした少女……アズラエルがホフマンに預けた強化兵の一人、ユウリョング=デル=ヘンケル……幽霊の処刑人 というコードネームを付けられた少女………

その名の通り、冷酷で無表情 な顔を上げ……コックピットに開いた通信モニターに灰色の瞳を向ける。

《解かっておるな……今はと にかくあの裏切り者どもを始末しろ…だが、もし万が一の場合は……》

どこかオドオドした様子で話 すホフマンだが、ユウはなんの感情も出さず、ただ機械的に答えた。

「………了解(ヤー)

そのまま操縦桿を握り、計器 類を操作し発進シークエンスを進める。

同時にメネラオスに艦載され たエインヘルヤルの兄弟機であるRGX−P00:テスタメントではなく、Uのエインヘルヤルはほぼ彼女の専用機として開発されたためにユウはアズラエルに 指示された通りに完成したばかりで不確定要素の高いエインヘルヤルに搭乗している。

電磁パネルがONになり、ユ ウは無感動に宇宙を見据えながら小さく呟いた。

「………GO」

刹那、カタパルトが動き、エ インヘルヤルを打ち出す。

幽霊のごとき処刑人はその死 神の鎌たる機体を駆り、戦場へと舞い踊った。

 


BACK  BACK  BACK


inserted by FC2 system