激しい攻防が繰り広げられる 戦闘をジッと観察するように見詰める影………

デブリの陰に身を潜め、沈黙 を護る数体の影の中心に佇む機体の真紅の瞳に備わったカメラが倍率を上げ、ズームを繰り返しながら戦闘をモニターする。

その映像は、ある場所へと伝 送されていた。

「ふむ……感度良好…モニタ リングシステム異常なし……コアパーツも問題はない………フッ」

まるで、自身に感動するぐら いにウェンドは含みのある笑みを噛み殺していた。

自身の傑作たるエンジェル… そしてイヴィル………これらは自分にとって最高ではないが、それでも自賛するほどの完成度を誇っていた。

「これを量産し…さらに AEMまで完成すれば……もはや人類など………」

笑みを噛み殺しながら、ウェ ンドは程なく訪れる未来に沸き上がる興奮と快感を抑え切れない。

「……しかし…カイン殿はど うにも慎重すぎるな……」

一点だけ、納得ができない部 分……カインはまだ動こうとしない…無論、こちらの準備が整っていないという問題もあるが………

「………彼女に拘りすぎです ね…」

やれやれとばかりに肩を竦め る……カインはさほど生命の滅びを急いでいるようにはみえない……そんなものは、いつでも可能だという絶対の自信以上に…カインは待っている……あの少女 を………彼女との邂逅を…………

その時、ウェンドの手元のモ ニターの一つが輝き……暫く間を置いた後…ウェンドはほくそ笑む。

「解かっていますよ……プロ フェッサーW…全ては、カイン殿の意思のままに」

恭しく一礼すると、モニター から光が消え……ウェンドは苦笑を浮かべる。

まあいい……カインには一応 の借りがある……それに応えておくのも悪くはないだろう…MCの後継者として………

「それよりも……早く聞きた いものですね…虫けらが上げる悲鳴を………」

歪んだ笑みを浮かべながら、 ウェンドは今一度モニターに表示されている戦闘に眼を向けた。

 

 

 

 

背中を護るようにバックの態 勢で迎撃するオーディーンの周囲には、ゲイツ改とブリッツビルガーが張り付き、母艦を狙ってくるMSの迎撃にあたっていた。

「このぉ!」

ゲイツ改のビームライフルが 火を噴き、ストライクダガーのボディを貫き、爆発させる。

そして、ストライクキャノン ダガーが右肩のキャノン砲をオーディーンの艦橋に向けて構える……だが、突如、一機が爆発する。

その爆発に僚機が動きを止め た瞬間……ミラージュコロイドを解いたブリッツビルガーがスティンガーを発射し、ボディを掴んでそれを振り…隣にいたもう一機に激突し、ストライクキャノ ンダガー2機が爆発する。

そのまま背中合わせのように ビームを放ちながら、ニコルは舌打ちする。

「ミゲル、やはり敵の数が多 すぎます!」

「だな! けど、ここで弱音 を吐いても事態が変わるわけでもねえだろ!」

思わず弱音を出したニコルを 嗜めるようにミゲルがぼやく。

もう既に数十近いMSを墜と したが、一向に減ったように感じない……無論、これだけでも前線で第8艦隊のMS隊を迎撃しているリンやリーラ達の攻撃を掻い潜ってきただけのはずが、そ れでもやはり数が多すぎる。

こちらの戦力も今回の奇襲を 目的としたために通常の半分程度なのだ。

だが、愚痴ったとて敵が減る わけでもない。今はなんとか持ち堪え、この場からの脱出を最優先にするしかない。

その時、駆逐艦の一隻がオー ディーンのビーム砲に船体を撃ち抜かれ、炎上する。だが、そのまま最期の意地とばかりに特攻のコースを取った。

その行動に驚き、ダイテツは すぐさま回避行動に入るように指示を飛ばす……そして、ゲイツ改とブリッツビルガーは駆逐艦の左舷エンジンに向けて狙撃する。

オーディーンの急速回避と左 舷エンジンを撃ち抜かれ、爆発の衝撃で右へと流された駆逐艦はそのままオーディーンの左を掠めるようにコースを外れる。

それに安堵し、一瞬気を抜い た瞬間……駆逐艦の格納庫から一機のストライクダガーが飛び出した。

母艦が破壊され、そのまま衝 突コースを取ったのを見てギリギリまで敵艦に接近し、こちらの気が緩む隙を衝いて飛び出してきたのだ。気づいた瞬間には遅く、ストライクダガーはそのまま オーディーンのブリッジに目掛けて突進してくる。

ミゲルやニコルが眼を見開 き…ブリッジ内でダイテツが息を呑む……そのままビームサーベルを振り上げて艦橋を斬り落とそうとしたが、下方から飛来したビームがコックピットを貫き、 ストライクダガーは機能を失って艦橋周辺で浮遊する。

ダイテツらがビームの放たれ た方角を見やると……オーディーンのカタパルト付近に佇むレイナのM1Aがビームライフルを構えていた。

核動力のエヴォリューション やスペリオルと違い、バッテリー駆動であるM1Aはバッテリーの充電と推進剤の補給のために一度オーディーンに着艦していた。そして、発進準備が整った時 にあのストライクダガーの奇襲に気づき、機体を爆発させないようにコックピットだけを狙撃したのだ。

下手をしたら艦橋ごと爆発に 巻き込みかねない行動だが、レイナはそれを億尾にも出さずブリッジに通信を入れる。

「これは貸しにしておくわ よ」

それだけ呟くと、M1Aはス ラスターを噴かし、前線へと飛び立っていく。

その姿にダイテツはどこか一 本を取られたとばかりに苦笑を浮かべ、帽子を深く被る。

(馬鹿娘が……)

と内心、苦笑混じりに毒づい た。

 

 

前線に戻ったレイナのM1A は携帯の狙撃ライフルを構え、ピンポイントでストライクダガーを撃ち抜き、爆発させていく。

そのままエヴォリューショ ン、スペリオルと合流する。

「敵の部隊の錬度が低いのが 幸いしたわね……これならなんとかなる」

リンがそう呟き、ヴィサリオ ンでストライクキャノンダガーを粉々に撃ち砕く。

その評どおり、確かに敵の MS部隊の錬度は低い……ほぼマニュアル通りのフィーメーションや攻撃しかしてこない。目立った動きができる機体はほとんどない……この第8艦隊に配備さ れた人員もほぼ実戦を未経験のパイロットが多く占めているために、仕方がないといえばそうだが……

「ですけど、やはり敵の数の 方が多すぎます……」

そう……いくら能力で勝って いようとも数は暴力という言葉通り、エヴォリューションなどの特機で相手するにも限度がある。

「なんとか後退するまで時間 を稼げればいい……私達はこのまま中央を保たせる…エクシード4には右翼の方を……」

その時、コックピットにア ラートが響いたのと銃弾が降り注いだのは同時だった。

レイナ達は半ば反射的に操縦 桿を切り……3機が分散した空間を光弾とビームが過ぎった。

「敵MS……でも、反応が違 う!」

モニターに識別された機体は ストライクダガーではない……接近している機体の機種を索敵したコンピューターが表示する。

「一機は連合の例の新型だ… だが、もう一機はデータ未登録の機体……しかし、この出力は少し異常すぎる………」

モニターに表示されたのは連 合の新型GATシリーズの一機であるカラミティと同型の機種……だが、もう一機は『UNKNOWN』と表示されている。

リンが訝しげに呟き…モニ ターにその機影が捉えられた。

迷彩カラーを施されたカラミ ティ3号機とグレーのカラーリングに巨大なウイングを備えたMS……その後方にはデュエルダガーが5機………

「少しは厄介な相手を出して きたようね……」

どうやら、今までのストライ クダガーとは違った特殊部隊……言い換えれば、この艦隊の切り札たるものだろう。

だが、不審に感じたのはその 中のグレーのGと同じ形状を誇る機体……計測された出力が通常の機体よりも高い。

思考を巡らしていると、カラ ミティ3号機のシュラークが火を噴いた。身を捻るようにかわし、ビームライフルを放つ。

だが、カラミティ3号機とエ インヘルヤルは螺旋を描くようにかわし……そのまま過ぎるように掠め、エインヘルヤルはウイングのブラスタービームキャノンを放つ。

巨大な熱量がM1A達を掠め る……その威力にレイナはある錯覚を起こす。

「今のは……!」

今の武装はフリーダムとどこ か似通っている……まさかという思いが駆け巡った瞬間、リンの叫びが響いた。

「姉さん! 右!!」

その声にハッと振り向くと、 デュエルダガーがビームサーベルを振り被ってきた。

レイナは歯噛みし、ビーム サーベルを左手に構えて振り上げ、受け止めると同時にデュエルダガーを蹴り離す。

蹴り飛ばされたデュエルダ ガーはそのままバランスを崩し……次の瞬間、上方より降り注いだビームが機体を牽制する……そしてその後から放たれた一射に機体を貫かれ、爆発する。

「グゥレイト!! ビンゴだ ぜっ!」

インパルスライフルを構え、 バスターのコックピットでディアッカがぐっと拳を握り締める。そして、後方から現われたIWSPストライクが全兵装を一斉射し、デュエルダガーを牽制す る。

「こちらヴァーミリオンリー ダー! エクシードリーダーへ…ここは俺達が抑える! お前らは中央の方に回れ!」

ムウからの指示に、レイナは 苦く表情を顰める。

ここに戦力を集中させている ために中央の防衛線が弱くなっている……今まで左翼を担っていたストライクとバスターの元へと誘導されたために、中央と右翼をメイア達がなんとか抑え込ん でいる。

「解かった……エクシード2 から3は私と中央に………」

刹那……背後から殺気を感 じ…レイナは舌打ちして機体をかわすが、レイナの反応に対して機体が遅れ、振り下ろされたビーム刃に左手のシールドが斬り裂かれた。

爆発が赤々と照りつけるな か、右腕のビームサーバーを構えるグレーのエインヘルヤルが静かに佇む。

「……よけた」

コックピット内でユウは目標 を逃したことにどこか驚きを浮かべていた…だが、その表情は無表情であり、読み取れない。

そのままビームサーバーを振 り被り、再度M1Aに斬り掛かる。

応戦しようとするM1Aだ が、そこへエヴォリューションが割り込み、インフェルノでビームサーバーを受け止める。

エネルギーがスパークするな か、リンは僅かに舌打ちし、そのまま至近距離からレールガンを放ち、直撃を受けたエインヘルヤルは突き放される。

「こいつの相手は私がす る……姉さんとリーラは中央へ!」

それだけ叫ぶと、エヴォ リューションは身を翻し、スラスターを噴かしてエインヘルヤルに向かってヴィサリオンを放ちながら迫る。

だが、エインヘルヤルはウイ ングのブラスタービームキャノンを放つ。

「この出力……新型だけじゃ ないな………まさか…っ」

その確信を強めた瞬間、エイ ンヘルヤルは腕のビームサーバーをハンドガンの切り替え、接近を許さない。

「ちっ!」

微かに舌打ちし、エヴォ リューションはドラグーンブレイカーを展開し、全方位からビームを浴びせる。

その攻撃に表情は変化しない が、眼を僅かに瞬き操縦桿を切って攻撃をかわすが、完全にかわせず左腕のハンドガンを撃ち抜かれ、瞬時にパージし、ハンドガンは爆発する。

「……強い」

ユウはまったく動いていない 思考の隅でそう感じた……これまでアズラエルの指示で暗殺を行ってきた彼女ではあるが、そのどれもが彼女の敵ではなかった。

強い敵との邂逅にエクステン デッドとしての戦闘の本能が無意識に反応し、エインヘルヤルは右手のビームサーバーを構え、エヴォリューションに斬り掛かる。

だが、接近戦はエヴォリュー ションにも分がある……インフェルノを抜き、それを振り被る。ビームの刃が干渉し合い、エネルギーがスパークする。

 

 

そして、ストライクとバス ターはデュエルダガーとカラミティ3号機を相手に苦戦をしいられていた。

「ひゃーっはははは! 死 ね! みぃぃんな死んじまえっ!!」

狂気に笑いながらカラミティ 3号機は全火器を無造作に放ち、その火力の前にどうしても動きを抑制される。

「くそっ、なんなんだよあい つ! まるでメチャクチャじゃねえか!」

思わず毒づきながら、ディ アッカは反撃ができないことに歯噛みする。カラミティはバスターの設計思想を受け継いで強化された機体だけにバスター単体で当たるには分が悪い。

両肩のミサイルを発射する も、カラミティ3号機はシュラークを連射してミサイルを撃ち落とす。爆発と閃光が周囲を覆い、レーダーやセンサーが一時的に麻痺する。

「くそっ!」

敵の姿を見失ったバスターが 周囲を探るように見渡すと、爆煙を裂くようにデュエルダガーがビームサーベルを振り被ってきた。

「うおっ!」

半ば反射的に身を捻り、ビー ムの刃をかわす……そのままデュエルダガーの背中に向けて狙撃しようとした瞬間…その背中がデュエルに重なり、ディアッカは一瞬戸惑う。

だが、次の瞬間……デュエル ダガーは別方向からのビームに機体を撃ち抜かれ、爆散した。

「坊主! 生きてるか!?」

ムウのストライクが援護に現 われ、その言葉にどこか助かったという思いでディアッカは答えた。

「サンキュ、おっさん!」

その言葉にムウはもう訂正す る気も起きないのか、深く溜め息をついている。

だが、ディアッカは内心感謝 していた……やはりまだ、自分は覚悟がないと…イザークと対峙する覚悟ないと内心に毒づく。

そこへ再びビームが轟き、ス トライクとバスターは分散し、カラミティ3号機に対峙する。

 

 

その頃……カガリのストライ クルージュはシュベルトゲーベルを振り被りながら、ストライクダガーを次々に斬り捨て、そして真っ直ぐにスサノオに向かっていた。

「カガリ! くそっ!」

「まったく無茶するねえ、あ のお嬢さんは!」

アスランとラスティが毒づき ながら後を必死に追う……そして、ストライクルージュの接近がスサノオ方でもキャッチできた。

「トダカ中佐! 敵MS接 近!」

その声に反応し、メインモニ ターに接近する機影が映し出され、それを視界に入れた瞬間……トダカの眼がストライクルージュの左肩に刻印されたエンブレムに留まり、微かに細まった。

「MSの左肩付近を拡大し ろ!」

「は…はっ!」

一瞬戸惑ったものの、オペ レーターがすぐさま表示し……ストライクルージュの左肩がズームされ、そこに刻まれたエンブレムに誰もが息を呑んだ。

「ト、トダカ中佐…あの紋章 は……!」

獅子に百合の華が添えられた エンブレム…しかも、そこには『ORB』という文字が刻印されている。

アレは間違いなくオーブ の……アスハ家の者にだけ赦された獅子のエンブレム…そして、百合の華を添えているということは………

その疑念が浮き上がるなか、 戸惑った声が上がる。

「接近中のMSより通信…… オーブの通信回線です」

「……繋げろ」

もう、半ば確信していたかも しれないが……メインモニターに荒いノイズ混じりの映像に声が響いてくる。

《こち……スト……ルー ジュ……カガリ………スサノオ………せよ………》

ノイズ混じりであった音声が 次第にクリアになり……その聞こえてきた声にブリッジの誰もが表情を驚愕に染めた。

《こちら、ストライクルー ジュ……カガリ=ユラ=アスハ……スサノオ、応答せよ!》

はっきりと聞こえてくる声と 映し出されたカガリの姿に思わずアマギが叫んだ。

「カガリ様!」

そのアマギの言葉が代弁する ようにブリッジの誰しもが息を呑み、そしてトダカは眼元を伏せる。

《やはり、スサノオだったの か……それに、お前は確か……トダカ一佐じゃないか!?》

ブリッジ中央に立つトダカの 姿にカガリは困惑を隠せない。

「……お久しぶりです、カガ リ様。ご息災でなにより……」

眼元を伏せたまま、恭しく礼 をするトダカ……オーブ軍のなかでも古参であり、カガリにとっても軍事訓練でキサカと並んで何度も世話になっただけに嬉しさを隠せない。

《ああ……そちらも…だが、 何故お前達が地球軍に…! お前達は本土に脱出したんじゃなかったのか…それがどうしてこんなところに……!》

トダカ達一部の軍人がオノゴ ノ島を脱出した民間人の護衛のために本土へと逃れたのはカガリも知っている。それが何故地球軍の部隊にいるのか……だが、トダカは低い口調で答えた。

「………それについてはなに も申しません。ですが、今の我々はもうオーブの軍人ではないのです」

どこか、自身を追い立てるよ うに苦い声で呟き、カガリは気圧される。

「そして……今の我々の敵 は、カガリ様達ということです」

《トダカ一佐!》

信頼していたトダカに敵と はっきりと告げられ、カガリは悲痛な叫びを上げる。だが、それがなによりも辛い。

「……もはや、なにも言いま すまい。カガリ様……今の我々はもはやオーブの者ではない…地球軍の兵なのです。そして……カガリ様の…オーブを滅ぼした敵です。決して迷われるな……ご 自身の道を行くのならば、我らの屍……しかと乗り越えていかれるがいい!」

悲痛な叫びとともにトダカは 通信を切った。

「……トダカ中 佐!…っ!?」

反論しようとしたアマギは言 葉を呑み込む……握り締めたトダカの拳が強く震え、噛み締めた唇から微かに血が滲み出ているのを………

一番辛いのはトダカなの だ……カガリに軍訓練を施した一人として、カガリは仕える主以上に娘のようにトダカは感じていた。

そんな相手を敵にしなければ ならない苦悩と今の祖国のために尽くさねばならない忠義と板ばさみになり、トダカは辛辣な思いだった。

「……済まぬ、今のは俺の勝 手な判断だ…だが、我らは今は地球軍の一員として戦わねばならん……この俺の方針に異のある者は、今すぐ退艦準備をしろ」

これからの苦難の道を進むの は自分だけでいい……だが、そんなトダカの意志を汲み取ったクルー達は真っ直ぐに自身の作業を再開する。

「お前達……」

「我々はどこまでもお供しま しょう……それに、難しいですぞ。なにせ、うまく彼らと苦戦して逃さねばならぬのですから………」

呆然となるトダカに向かって アマギは含みのある笑みを浮かべ、その意図を察したトダカも苦笑を浮かべて軍帽を被り直した。

「……済まんな。お前達の 命……俺が預かる…スサノオ……前進する!」

トダカの号令に従い、スサノ オは連合艦艇より前に出て、ネェルアークエンジェル目掛けてゴッドフリートを構え……次の瞬間、ゴッドフリートが放たれた。

 

 

「トダカ一佐……!」

通信が遮断され、カガリは悲 痛な表情でスサノオに縋ろうとするが、そこへストライクダガーが迫る。

囲まれ…一斉にロックオンさ れた瞬間、カガリの表情が強張る。

だが……刹那、ストライクダ ガーはビームにボディを撃ち抜かれ、爆発する。

ストライクルージュの前に立 ち塞がるジャスティスがビームライフルを斉射し、ストライクダガーを撃ち落としていく。

「カガリ! これ以上前に出 るのは危険だ! 一度戻れ! お前の機体のパワーもそろそろ限界が近いだろう!」

アスランの叱咤に改めてエネ ルギーゲージを見やると、既に残量バッテリーがーイエローゾーンに突入し、推進剤も半分以上消費している。

「で、でも……!」

カガリとて今の自機の状態や 自分の周りの現状は解かっている……だが、眼の前にオーブの関係することを放っておくことができないでいる。

「お前の気持ちは解かるが、 今は戻れ……ここで君が墜ちたらなんにもならないだろう!」

怒鳴るように論され……カガ リも押し黙る。

そこへ駆逐艦が急接近してき た……だが、イージスディープがMAに変形し、スキュラを構える。

次の瞬間、スキュラから放た れたビームが駆逐艦の船体を貫き、轟沈させる。

「アスラン! 今のうちに退 くぜ! 流石にコイツもそろそろパワーがヤバイっしょ!」

苦い口調でラスティがぼや く。

流石のイージスディープも長 い戦闘と今のスキュラで残量エネルギーがレッドゾーンに突入した。

「解かった……艦の援護は俺 がする! ラスティとカガリはネェルアークエンジェルで補給を!!」

後退しながら、イージス ディープとストライクルージュを庇いつつ2機をネェルアークエンジェルまで下がらせる。

カガリは後ろ髪を引かれる思 いでスサノオを見詰めるが……だが、気持ちを新たに奮い立たせるとネェルアークエンジェルにレーザー通信を送った。

 

 

そして……後方の艦隊を突破 し、なんとか脱出しようと突き進むネェルアークエンジェル。

ブリッジには絶え間なく報告 が飛び交う。

敵艦やストライクキャノンダ ガーから放たれた弾頭が艦を掠め、爆発の振動が揺さぶる。

「第7、及び第13ブロック 被弾!」

「隔壁閉鎖! 艦の損害率、 31%を超えます!!」

次々に入る被害報告にマ リューは歯噛みする……やはり、地球軍の一個艦隊を相手にして強行突破は容易ではない。

「イージスディープ、着艦!  整備班はすぐさま補給を!」

「ストライクルージュから、 エールストライカーの射出通信が!」

マリアからの報告を受けた キョウはすぐさまストライカーパックの射出ポイントを算出し、格納庫のトウベエに指示を飛ばす。

「おやっさん! エールスト ライカーの射出準備を! HQからヴァーミリオン8へ…今から300秒後、オレンジ11、マークβに向けて射出する! 換装のタイミングを間違うな!」

そう通信を飛ばすと、今度は チャンドラが声を荒げる。

「11時方向、アンノウン艦 の砲台、ロックされました!!」

「っ!? 回避! 艦首下 げ! ピッチ角40!!」

その指示にノイマンとモラシ ムは瞬時に対応し、ネェルアークエンジェルは艦首を下げ、スサノオから放たれたゴッドフリートのビームをかわす。

だが、動作が遅れたにも関わ らず……ビームはネェルアークエンジェル上方を少なからずあけて過ぎる。

その軌跡に不審そうに感じた キョウだったが、今はこの場を突破する方が先だと思考を切り替える。

「カタパルト接続……エール ストライカー射出!」

カタパルトから打ち出された エールストライカーの進行上にランデブーするストライクルージュはソードストライカーをパージし、エールストライカーとのドッキングシーケンスに突入す る。

それを阻止しようとストライ クダガーが迫るが、護衛に就いているアサルトフォースが近づけさせまいと阻む。

エールストライカーが装着さ れ、ストライクルージュに再び真紅のカラーリングが走り、シールドを片手に右手にシュベルトゲーベルを構え、ストライクルージュは戦線へと戻る。

無事換装が済んだことにホッ としたのも束の間……マリューがキョウを見やり、声を掛ける。

「キョウ君! 敵の配置状態 は!?」

「右翼が若干防御が薄い…… そこなら突破できますが……」

どこか、言い淀むキョウにマ リューは眉を寄せる。

「どうしたの?」

「敵艦の動きが少しおかしい です……あまり、積極的に前に出ない………」

MSは積極的に狙ってきてい るが、艦数では圧倒的に劣り、数を推して攻められればこちらの方が明らかに不利だというのに敵艦はあまり積極的に前に出ず、ミサイルなどの自動制御の攻撃 ばかりを繰り返している。

この布陣……単純に歯牙にも ならない相手と見られているのか………それとも、なにか別の思惑があるのか………

そう問われ、マリューも思考 を巡らせる。

確かに……アンチビーム爆雷 によって長距離ビームはあまり効果がないが、距離を詰められればそれだけ効果は薄くなる。ハルバートンの乗艦たるケルビムはオーディーンに対して前に出て いるが、他の艦艇はどうも動きが鈍い。

「でも、今の私達は脱出が最 優先よ……アサルトフォースの機体をネェルアークエンジェルのデッキに集めて! ネェルアークエンジェルの全火器と合わせて右翼を突破します!」

連合の艦艇の動きは気に掛か るが、右翼が手薄な以上そこを衝くしかない。

キョウも頷き、指示を飛ば す。

「アサルト4から11はネェ ルアークエンジェルデッキに集結! アサルト1から3は上方、ヴァーミリオン2、7は下方から援護! 全速前進!!」

右翼に向けて加速するネェル アークエンジェルのデッキにはバスターダガー3機とD型兵装ジン4機、ダガー弐型が立ち、手持ちの超高インパルスライフル、バルルス改特火重粒子砲、ポジトロンライフルを構える。

「各機、エネルギー反応上 昇! ネェルアークエンジェルゴッドフリート及びセイレーン、ローエングリン発射スタンバイ!」

それに合わさるようにゴッド フリート、セイレーン…そしてローエングリンが起動し、咆哮にエネルギーが収束していく。

全ての大口径砲を束ね、射程 に向かって突き進む。

 

 

 

そのネェルアークエンジェル の動きはケルビム、スサノオからもキャッチできた。

「提督! 敵艦に超エネル ギー反応!」

「右翼が狙われています!」

その報告にハルバートンはマ リューの行動よりも右翼の艦の展開の少なさに気が引っ掛かった。

いや……全体的に艦隊の動き が鈍い…単に錬度の低さが災いしているのか……その疑問を浮かべながら、ハルバートンは指示を出す。

「右翼の艦隊に回避命令を出 せ……あれだけの熱量を受けては一溜まりもないだろう」

「し、しかしそれでは…敵が 脱出を……」

「あのまま立ちはだかっても 無駄死だ……右翼に展開している艦艇を下がらせろ。本艦もこのまま追撃する。後方の艦隊にも一旦距離を取らせろ」

「はっ」

まだ戸惑っていたが、すぐに 答え返し…通信を送る。

MS隊の損耗は全体の3割近 くに達しているが、艦艇は未だ1割程度……この状況、果たしてこちら側の優位かと信じていいのかハルバートンは考え込む。

既に疲弊していた以上、向こ うの不利は覆せないだろうが……どうもこちらの部隊の動きも鈍いためにそう認識してしまう。

「提督、敵MS接近!」

その声に現実に引き戻される ハルバートン……前進していたケルビムは最前線の方の交戦地帯に差し掛かった。

MS同士が交錯し合う戦場の 中央を突破し、M1Aがこれ以上前進させまいとケルビムに向かってくる。

「対空! 近づけさせるな!  パープル8から11を呼び戻せ!!」

ケルビムのイーゲルシュテル が起動し、弾幕を張る。それらに阻まれ、動きを止めるM1A……レイナはビームライフルでイーゲルシュテルンを狙い、沈黙させる。

爆発がケルビム船体を揺さぶ り、ハルバートンは歯噛みする。

「イーゲルシュテルン7番、 9番沈黙!」

弾幕が緩み、M1Aがブリッ ジを押さえようとするが、そこへ援護に戻ったストライクダガーが体当たりでM1Aを突き放す。

数機掛かりで抑えに掛かり、 そのまま縺れるようにケルビムを離れ、隣の護衛艦に流される。

レイナは歯噛みし、操縦桿を 切ってスラスターを噴かし、拘束を強引に振り解くと、一機の腕を掴み、そのまま大きく振り被って護衛艦のエンジンに叩き付けた。

MSのエンジンが爆発し、誘 爆が護衛艦のエンジンを巻き込み、そのまま轟沈する護衛艦……レイナは機体状態を確認し、舌打ちして一旦後退する。

 

「トダカ中佐、敵艦が母艦を 中心に密集隊形で突進してきます!」

同じく、ネェルアークエン ジェルの行動をキャッチしたスサノオのブリッジでもその動きが伝えられ、トダカは表情を若干強張らせる。

「進攻目標は?」

「右翼です! 敵艦及びデッ キのMSより高エネルギー反応!」

ネェルアークエンジェルの兵 装とデッキに立つMSの構える火器からエネルギーがこもれているのがここからでも確認できる。

「取り舵! 距離を取れ!  攻撃に巻き込まれるぞ!!」

その怒号に応じ、スサノオは 攻撃の影響範囲からスサノオを離脱させていく。

 

 

 

「撃てぇぇぇぇぇ!!!!」

マリューの号令と同時に、 ネェルアークエンジェルのゴッドフリート、セイレーン…そしてローエングリン……デッキのMSからの砲撃が合わさり、それは巨大なビームの奔流となり、倍 化…いや、何倍もの熱量をもって突き進み、右翼に展開していたMSや艦艇を呑み込んでいく。

その膨大な熱量にMSは耐え 切れず蒸発し、戦艦も駆逐艦クラスがほぼ全壊し、護衛艦も大破させられた。

「ダイテツ艦長!」

ぽっかりと空けられた空 間……そこへと向かって加速するネェルアークエンジェルとオーディーン………

だが、それをホフマンは狼狽 して叫ぶ。

「提督! このままでは逃げ られてしまいますぞ!」

だが、ハルバートンは無言の まま答えない……そんなハルバートンに向かってマリューは呟いた。

「ハルバートン提督……提督 から受けた御恩は決して忘れません……ですが、今の我々には進まねばならない道があります。たとえそれが、どんなに苦難な道でも……だから、私達はいきま す! 推し通ります!!」

そう宣言したマリューに向 かって、ハルバートンは深く息を吐き出した。

「……成長したな、ラミア ス………もはや、私を大きく超えていったのだな………」

疎遠感と子の成長を喜ばしく 感じる気持ちを抱き、ハルバートンは肩を落とす。

「行きたまえ……自分の信じ る道をな………」

「提督……」

なんともいえない熱い感情を 胸に抱き、マリューはハルバートンを見やる。

「………そうはいかないので すよ」

不意に……冷たい声が囁か れ………突如、ケルビムが後方からビームを浴び、エンジンが被弾する。

「ぐぉぉっ!」

激しい振動に襲われ、煙を噴 き上げるケルビム……苦悶を漏らすハルバートンにマリューとダイテツは眼を見開く。

「「ハルバートン(提 督)!!」」

今の攻撃は後方……メネラオ スから放たれたビームだった。

「ぐっ……ホ、ホフマン…貴 様なにを………?」

訳が解からず、冷静なハル バートンも困惑する……だが、その問いに対してホフマンは冷ややかに応じた。

「もう、貴方には付いていけ ないということですよ……提督………貴方は甘すぎる! 私は上層部よりある指令を受けました。もし、提督が少しでも不審な動きを見せれば…即座に始末し ろ……とね」

慇懃な物言いでニヤリと笑み を浮かべるホフマンに、ハルバートンは表情を顰め、マリューが叫ぶ。

「そんな……っ、どうし て……!?」

取り乱すマリューに対し、ハ ルバートンは静かに呟く。

「厄介払いか……アズラエ ル………っ」

ギリリと奥歯を噛み締め、悔 しげに吐き捨てるハルバートンが発した言葉にマリュー達は愕然となる。

ハルバートンも、もはや連合 には邪魔者……始末できるのならば始末したい人物になっていたのだ。そして……それを指示している者も………

「第8艦隊は私が貰い受けま すぞ……全艦に通達! 裏切り者どもを抹殺せよ!!」

ホフマンの号令に応じ、周囲 に展開していたケルビム以外の艦艇が傷ついたケルビムとネェルアークエンジェル、オーディーンを狙う。

 

同じく……スサノオのブリッ ジでも混乱が起こっていた。

メネラオスが突如ケルビムを 狙い、しかもホフマンのあの宣言……流石のトダカもやや唖然となっていた。

「ト、トダカ中佐! 本艦周 囲の艦がこちらを識別不能に!」

その言葉にトダカは自分達が 嵌められたということを悟った……妨害者を始末すればよし…それが不可能なら、ここで厄介払いと称して一緒に墜とす。

己の不甲斐なさと浅はかさに トダカは歯噛みする。

「敵ビーム砲、本艦をロック しています!」

「回避ぃぃぃぃ!」

刹那、周囲の護衛艦から放た れたビームがスサノオを掠める……振動が艦を揺さぶり、クルー達は呻く。

だが、周囲を囲まれた状態で は全てをかわすことはできない……艦を掠めるビームがスサノオのゴッドフリートを一門撃ち抜き、破壊する。

爆発が起こり、スサノオは態 勢を崩す。

「も、MS接近!」

堪え、顔を上げたトダカはそ の報告に息を呑み、顔を強張らせる。

態勢の崩したスサノオを墜と そうとストライクダガーが迫り、ブリッジに向かってビームライフルを構える。

トダカ達は死を覚悟した瞬 間……ブリッジ前に突如影が割り込み、放たれたビームを受け止めた。

思わず眼を閉じたトダカ達が 眼を開けると……そこにはブリッジを護るようにシールドを翳すストライクルージュの姿があった。

「カガリ様……!」

驚愕するブリッジにカガリの 声が聞こえてきた。

《スサノオ! 無事か!?》

身を案じる叫び……だが、ト ダカにはそれが逆に辛い…………

「カガリ様、我々は……」

《もういい、何も言うな!  私は、国を護れなかった愚か者だ……だが、それでもオーブの者達を護りたいという思いだけは決して捨てない!》

カガリはストライクルージュ を駆り、スサノオを墜とそうとするストライクダガーのなかへと突進していく。

《だから私は戦う…! 決し て、お前達を死なせはしない……っ!》

刹那……カガリの内でなにか が弾け飛び………視界が拡がり、よりクリアに鋭敏に変わった。敵の動きがまるでスローモーションのように感じ、ストライクルージュは機動性を駆使し、スト ライクダガーの攻撃を掻い潜りながらシールドを投げ飛ばし、一機を破砕すると同時に右手のシュベルトゲーベル、左手のビームサーベルを構えて密集地帯に飛 び込み、ストライクダガーを斬り裂いていく。

鬼神のごとき戦闘能力を見せ るストライクルージュ……そして、スサノオのブリッジではアマギがトダカに直訴していた。

「トダカ中佐…いえ、一佐!  カガリ様は、我らを救おうとしてくれています……ならば、我らもそれに応えるべきではありませんか!」

そう……オーブの人間とし て………無きオーブという国のために……その誇りを失わないためにも………

逡巡していたトダカは、なに かを決断したように顔を上げた。

「スサノオ前進! カガリ様 を援護する!」

その指示を待っていたように ブリッジの誰もが敬礼し、すぐさま指示を実行する。

スサノオがゴッドフリートの 向きを変え、回頭してその照準を駆逐艦にセットし、ゴッドフリートが火を噴いた。

放たれたビームの一撃が駆逐 艦の船体を貫き、爆散させる……スサノオの動きに、カガリは眼を輝かせた。


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