ネェルアークエンジェルブ リッジでも、スサノオの突然の攻撃にやや眼を丸くしていた。

突如、スサノオが回頭し、連 合艦艇に襲い掛かったのだ。

「か、艦長! オーブ艦より 入電……『我、これよりそちらを援護する』とのことです!」

ミリアリアの報告に息を呑 む。

言い方が悪いが、どうやらあ のオーブ艦も連合にとっては切り捨てられた不必要な存在だったということ……だが、ケルビムと同じくここで見捨てるわけにはいかない。

「本艦はこれより、負傷艦の 援護に回ります!」

本来なら脱出が最優先のは ず……だが、自分達同じように連合に切り捨てられたハルバートンを見捨てることなどマリューにはできない。

《ラミアス艦長……》

「ダイテツ艦長……私 は……」

艦長としての選択は間違って いるだろう……脱出するチャンスをふいにして戦うなど……

《オーディーンのタンホイ ザーで前面の敵を薙ぎ払う……ネェルアークエンジェルは負傷艦の援護に回ってくれたまえ》

だが、ダイテツの口から飛び 出した予想外の言葉にマリューは言葉を呑み込む。

《ハルバートンの奴に下がれ と伝えておいてくれ……正直辛いが、なんとか切り抜けるしかないな……》

野暮はなしとばかりに苦笑を 浮かべ、ダイテツは通信を切った。

やや呆気に取られていたマ リューだったが、自身を引き締めるとミリアリアに叫ぶ。

「AA級に連絡を取って!」

「はいっ」

素早く応じ、手元の通信機を 持ち上げると、繋がったケルビムに話し掛ける。

「ハルバートン提督、ご無事 ですか!?」

《マリュー=ラミアスか…… フッ…どうやら、私ももう地球軍では用済みらしいな……》

やや悔しげに呟くハルバート ンに傷ましい思いを抱きながらも、マリューは毅然と呟く。

「提督……今から援護に回り ます! 艦を私達の方に下げてください!!」

《何!? なにをバカな…!  私になど構わず、君達は逃げたまえ!!》

驚愕した面持ちでハルバート ンが叫ぶ……全ては自身の浅はかさが招いた結果だ……だが、そのためにマリュー達を犠牲になどできない。

だが、マリューは一歩も引か ず気丈に言い放つ。

「ここで逃げたら、私はきっ と一生後悔するでしょう……たとえ、それがどんなに愚かなことでも……!」

気圧されるような言葉にハル バートンは口を噤む。

「お願いします……どうか、 下がってください………」

《……解かった、済まん》

項垂れるようにハルバートン は弱々しく答え、ダメージを受けたケルビムがゆっくりとネェルアークエンジェルへと近づいていく。

「敵艦を牽制! MS隊を向 かわせて!!」

「了解! ゴッドフリート1 番2番、目標敵艦隊……斉射後、アサルト1から3で迎撃! アサルト7から11は負傷艦の援護に回ってくれ!」

ゴッドフリートが動き、下が ろうとするケルビムを沈めようと迫る艦艇に向けて放たれる。

牽制で放たれた一撃は固まっ ていた艦艇4隻のうち、駆逐艦一隻を掠め、誘爆させる。

僚艦の撃沈に浮き足立つ他の 艦艇に向けてゲイツアサルトが迫る。

複合盾のビームサーバーを展 開し、迎撃してくるストライクダガーを斬り裂き、一気に突破する。

そのままショルダーに背負っ た対艦ミサイルを発射する……離脱した大型ミサイルはそのまま吸い込まれるように艦に着弾し、艦の装甲を内部から突き崩していく。

ゲイツアサルトは発射と同時 に離脱し、周囲で護衛に就いていたMSを巻き込んで艦艇が沈む。

後方の敵艦隊をネェルアーク エンジェル、及びスサノオで迎撃し…前面から進む敵の進攻を少しでも遅らせ、なんとか被弾したケルビムが離脱できるまでの時間を稼ごうとオーディーンが艦 首のタンホイザーを起動させていた。

「目標! 左翼!! 撃 てぇぇぇぇぇ!!」

ダイテツの怒号に呼応し、 オーディーンからタンホイザーが放たれ、陽電子の渦が進路上にいたMSを呑み込みながら、左翼に展開していた艦艇を数隻薙ぎ払った。

左翼は先程までケルビムを追 撃していただけに前面に出すぎたのだ……そのために、タンホイザーの射程に入ってしまい、見事に損害を受けた。

 

 

戦線が膠着していることにホ フマンは内心、焦りと苛立ちを憶えていた。

「ええい! なにをしてい る!? もっと艦を前面に出せ!! 数はこちらが有利なのだぞ!!」

癇癪に近い怒号を上げる も……クルー達は押し黙り、指示を実行する。

指揮官が無能というのは艦隊 にとって不幸の極みである……いくら数で圧倒的に勝っていようともただの力押しでは通常の部隊ならいざ知らず……レイナ達のような部隊を相手にしていては 決定打が出ず、そのまま互いに膠着…悪くて消耗戦に入るだけだ。

しかも、ホフマンはハルバー トンには内密に第8艦隊の各艦艇の艦長に向けてアズラエルの極秘指令を伝えていたために若干の指揮系統の混乱が起こり、ホフマンの急な指揮官宣言に戸惑 い、動きが鈍っている。

そのために満足な連携が取れ ず、各自勝手に動く艦艇もあるためにその隙を衝かれ、既に指揮下の艦艇は半数を切り、MS隊の損耗も馬鹿にできないレベルに達している。

このままではたとえ任務を無 事に達成したとしても第8艦隊は半壊滅……その責任を問われる可能性もあるが、野心を燃やすこの男には撤退も近くの友軍を呼ぶという選択肢はなかった。

「ヘンケル少尉とソキウス少 尉はなにをやっている!?」

そう……彼にとっては役立た ずの艦艇よりもアズラエルが与えてくれた子飼いの虎の子に望みを託すしかなかった。

「現在、敵MSと交戦中!」

「MSの一機や二機になにを 手間取っているのだ! 早く片づけて母艦を墜とせ! そうなれば奴らなど烏合の衆なのだ!!」

ヒステリックに喚くホフマン に内心ウンザリしながらも、オペレーターはその旨をレーザー通信にのせて前線で戦闘中のカラミティ3号機とエインヘルヤルに送る。

 

 

エヴォリューションと戦闘を 繰り広げるエインヘルヤルのコックピット内で、レーザー通信を受け取ったユウはその内容を見やり、やや口を噤む。

ホフマンの指示に従うように 命令を受けている彼女はそれを無理にでも実行せねばならない。だが、エヴォリューションが阻み、それを許さない。

ドラグーンブレイカーを展開 し、全方位からの波状攻撃に行動を封じられ、迂闊に動けない。そして、リンの感覚が徐々にエインヘルヤルの動きを捉え、照準の精度が増す。

放たれたビームの一射がエイ ンヘルヤルの肩を掠め、装甲が抉り落ちる。

それに表情を若干歪め、エイ ンヘルヤルは腰部のレールマシンライフルを起動し、レールガンをマシンガンのように放った。

「っ!?」

その攻撃は予想の範囲外で あったのか、リンが舌打ちして回避に入る……雨霰と周囲に拡散するレールガンの光弾はエヴォリューションだけでなく周囲にいた友軍機であるはずのストライ クダガーをも巻き込み、その装甲を紙細工のように粉々に撃ち砕く。

「こいつ……っ!」

この機体のパイロットもあの 連合のパイロットと同じか……だが、それと同時にリンはもう一つある確信を実感した。

「鍵とは…このことか! ク ルーゼ…いや……奴らの!!」

間違いない……この眼前の MSには核動力が搭載されている……それは、地球軍にNJCが在るという事実に他ならない。

あのメンデルでクルーゼが解 放した捕虜に持たせた戦争を終わらせる鍵……それがクルーゼの……いや……連中の思惑だということ。

「くそっ!」

悪態をつき、エヴォリュー ションもレールガンとヴィサリオンを構え、フルオートで相手の弾丸を撃ち落とす。

互いに閃光と爆発が周囲を包 み込み、両者の視界が覆われる……ユウはセンサーで敵機の位置を探る。

そして、レーダーが熱反応を 捉え、その方角に向けてブラスタービームキャノンを放つ。

ビームの一射が物体を捉え… 爆発が起こる……だが、ユウは微かに眼を細める。

おかしい……爆発の熱量が小 さすぎると内心に不審感を抱いたのも束の間……背後から寒気にも似た殺気………ありもしない恐怖という感情に突き動かされ、反射的に身を捻る。

刹那……真紅の軌跡が過ぎ り、エインヘルヤルの右腕を斬り裂く。

煙の奥から姿を見せるエヴォ リューション……右手に握るインフェルノと左手にはヴィサリオン……先程、エインヘルヤルが撃ち落としたのはエヴォリューションが囮に使ったデザイアだっ た。

そのまま持ち手を変え、イン フェルノを至近距離で振るう……接近戦武器を失ったエインヘルヤルにはもうバルカン程度しかない。あとはこの距離では使えない……今まで感じなかった不快 感を胸に、エインヘルヤルは翼を拡げ、距離を取ろうとする。

 

同じ頃……セカンドの駆るカ ラミティ3号機はストライク、バスターを相手にしながら苛立っていた。

「チョコマカチョコマカ…… 鬱陶しいんだよ! ああっ!!」

苛立ちを浮かべ、カラミティ 3号機はスキュラを連射する……だが、ストライクとバスターは紙一重で回避し、バスターが砲撃で相手を牽制し、ストライクが接近戦を挑んでくる。

対装甲散弾砲が火を噴き、そ れをシュラークで相殺させる……下方から回り込むストライクが対艦刀を振り被る。

だが、カラミティ3号機は脚 部のバーニア機構を噴かし、機体の重心をずらして回避する。AMBACで態勢を戻し、スキュラを零距離で放ち、それがストライクを掠める。

「うおっ!」

左腕を対艦刀ごと奪われ、被 弾するストライク……

「おっさん!」

ディアッカが援護に向かおう とするが……カラミティ3号機はストライクに急接近し、脚を振り上げてストライクを弾き飛ばす。

呻くムウ……吹き飛ばされた ストライクはそのままバスターへと向かい、2機は激突する。

そのまま態勢を崩し……カラ ミティ3号機がバスターに急接近する。

「バスター……だったけか!  そんな旧式で勝てると思うなよなぁぁぁぁ!!」

直系の発展機たるカラミティ 3号機……トーテスブロックの残弾を全て発射し、バスターに着弾する。

「どわぁぁぁぁっ!!」

衝撃に呻くディアッカ…… PS装甲のおかげで本体は低ダメージで済んでいるが、武装はそうもいかず、主兵装のガンランチャーとライフルが破壊される。

「おらおらっ! おネンネに はええぜぇっ!!」

そのままトーテスブロックを 離し、バスターに掴み掛かり、腹部目掛けて膝打ちを叩き込む。激しい振動にディアッカは防御もできない。

そのまま蹴りを叩き上げ、バ スターを弾き飛ばす。

「ヒャーッハハハハ! 死 ねぇぇぇぇ!!!」

眼を大きく見開きながらトリ ガーを引き、シュラークとスキュラが放たれ……バスターの腕部、脚部をもぎ取っていく。

頭部を掠め、頭部が融解して 半壊する……刹那、バスターはPS装甲がダウンし、灰色に戻り、慣性に流れていく。

「ディアッカ……!」

その光景をモニターしていた ネェルアークエンジェルのブリッジではクルーが眼を見開き、声が出ないなか……ミリアリアが叫び、席を立つ。

慣性に流れていくバスターに トドメを刺そうと構えるカラミティ3号機……舌を舐めずりまわし、照準がゆっくりとコックピットにセットされ……だが、次の瞬間上方より降り注いだビーム に気づき、身を捻る。

高速で迫る戦闘機形態のスペ リオル……コックピット内でリーラは焦燥しながらも引き離そうとシヴァを放ち、カラミティ3号機を引き離す。

「今のうちにディアッカ を……!」

ようやく意識を戻したムウに 叫ぶと、そのままカラミティ3号機を引き離しにかかる。

ムウもすぐに大破したバス ターに近づく。

「おいっ! 大丈夫か、坊 主!?」

「な、なんとかな……けど、 機体がマジヤバイ………」

見ても解かるように深刻なの は一目瞭然……コックピット内も計器類の一部が弾け、ディアッカも額から微かに血を流している。

レッドシグナルとエラー音が 響くなか、誘爆しないために駆動炉を切り、機体を静止させる。

「ディアッカ、大丈夫です か!?」

そこへ同じくバスターの被弾 を眼にしたニコルのブリッツビルガーが近づいてくる。

「おい、こいつを連れてすぐ にネェルアークエンジェルへ戻ってくれ!」

「解かりました! ディアッ カ、少し辛抱してくださいね!」

大破したバスターを抱え、ブ リッツビルガーはゆっくりとネェルアークエンジェルに向かって帰還していく。

「さてと……こっから先は通 せないぜ!」

ストライクもかなりダメージ とパワーを消費しているが、戦力が低下した今、自分まで後退するわけにはいかない。

「俺だって伊達に歳喰ってる わけじゃねえぜ……これぐらい持ち堪えてやる!!」

もうおっさん呼ばわりされる ことに慣れ、半ば自棄になったように叫び、ストライクはストライクダガーに向かっていく。

 

 

 

予想外の敵の粘りと自軍の損 耗に強気であったホフマンの表情がどんどん蒼褪めていく。

「こ、こんなはずでは……」

そう、まるで理解できな い……ここで厄介な上官も消え、そして自分の前には輝かしい道が約束されていたはずなのに……なのに、敵は怯むどころか逆に勢いづくように次々と攻勢を仕 掛け、逆に自軍の損耗が増加するばかり……このままでは自分は不名誉除隊という烙印を押されかねない。

だが、もうそんな事に拘って いる場合ではなくなってきた……特に実戦経験の浅い錬度の低いクルーの搭乗する艦艇が浮き足立ち、勝手に後退していくものまである。

このままでは、メネラオスに まで被害が及ぶのは眼に見えている。

不名誉除隊も嫌だが、自分の 命を喪うのはもっと嫌なことだ。

ホフマンはそれに忠実に従 い、上擦った声を上げた。

「こ、後退だ! 後退す る!! 急げ!!」

その指示に逆に混乱するク ルー達……僚艦にも打電し、それが余計に混乱を悪循環で引き起こし、各個に撤退を始めた。

だが、そんなものに構ってい る暇もなく……メネラオスも転進しようとした瞬間、突如、隣に展開していた艦艇が爆発…轟沈した。

「な、何事だ!?」

恐怖が入り混じった声を上げ る。

「わ、解かりません!」

敵艦からの攻撃にしては距離 が遠すぎる……データからでも敵艦からの砲撃ではない。まさに突然轟沈したのだ。

だが、その一隻だけでなくメ ネラオスの周囲に展開していた駆逐艦と護衛艦が次々と轟沈していく。

訳が解からずに混乱するホフ マン……その時、ブリッジに影が掛かった。

ハッと顔を上げる……ブリッ ジのクルー達の眼が、ブリッジ直前の強化ガラスの前に佇む機影を捉えた。

異様な気配を纏いながら佇む MSらしき機影……真紅の瞳を煌かせ、マスク部分が上下に分かれ、口を覗かせる。

刹那……ホフマン達は眩い光 に覆われ……その身体をこの世から消滅させた………

メネラオスのブリッジに向 かって突き刺されるビームの刃……それを引き抜き…ブリッジが爆発し、メネラオスは制御を失って蛇行していく……

ブリッジから誘爆を起こさな いためにゆっくりと蛇行し、小規模な爆発が揺さぶる船体内では、生き残ったクルー達の恐怖が木霊しているだろう……

それらを見詰める白きMS は、そのまま開いたマスクから獣のような唸りを上げる。

その機影に気づいたレイナ達 は動きを止め……戦場が一瞬、静けさに包まれる……振り向いた機体の形状を見た瞬間、誰も驚愕に眼を見張った。

特に、アスランの動揺が大き かった……全身を白一色に染め、佇むのはジャスティスとほぼ同型の形状を持つMSだった……だが、腰部にはフリーダムと通じるレールガンに、脚部にバーニ ア機構など、より改良されている。なによりも、その頭部は真紅の瞳が煌き、獣のごとき上下に開く禍々しいマスク……そこから獣のような唸りと殺気が伝わっ てくるようだった。

まるで、ジャスティスという 名に反するような邪悪な意思を感じさせる………

「けっ…なんなんだよ、てめ えは!」

スペリオルと戦闘を行ってい たカラミティ3号機が突如出現した機体に向けて向き直り、悪態をつきながら襲い掛かろうとバーニアを噴かす。

だが、眼前まで迫った瞬間、 カラミティ3号機は突然四方八方からビームの応酬を浴び、シュラーク、腕部、脚部を撃ち抜かれる。

刹那……ジャスティスを模し た機体の前に現われる白い翼を羽ばたかせる機影……天使のごとき純白の羽を拡げて舞い降りたのは、同じく純白のボディに巨大な槍を思わせる銃を構え、バッ クパックには丈ほどもある双斧刀を抱え、頭部はダガーを思わせる形状だが、その眼を真紅のバイザーが覆い、額にはザフト系列のMSと同じくモノアイが不気 味に煌く。

中央に立つ白銀のジャスティ スを守護するかのように立ち塞がる3機の天使……いいしれぬ畏怖感を漂わせる機体の出現に、誰もが息を呑む。

「こ、この野郎ぉぉぉ」

殺すような視線を浮かべ、地 を這うようなセカンドの憤怒の声……既に四肢を失い、戦闘不能となったカラミティ3号機は残っているバーニアを動かし、なんとか機体を起き上がらせる と……天使達に向けてスキュラを放った。

真っ直ぐに襲い掛かるスキュ ラのビーム……だが……天使達は微動だにしない。

次の瞬間、着弾したビームが 爆発し…周囲は煙に包まれる……セカンドは高らかに笑い上げる。

「ひゃははは! みた か……っ!?」

嘲笑していたセカンドの表情 が、固まる……爆発の向こうから姿を見せる無傷の天使達……天使の一機の右手には、赤に色付くシールドのようなものが形勢されていた。

それを視界に入れた瞬間、レ イナとリンは眼を瞬いた……アレは、ハイペリオンに装備されていたものと同じ…光波シールド………

完全に防がれ……次の瞬間、 脇に控えていた2体の天使が翼を拡げ……手のランチャーを構える。

一機が構える先は砲口が収束 したガトリング……もう一機は巨大な砲口がセットされたライフル型に……刹那、光弾とエネルギーの光状が解き放たれ……カラミティ3号機の機体を粉々に撃 ち砕き…コックピットを貫き………カラミティ3号機は爆散した。

残骸になるまで破壊し続けた 天使に、まるで容赦のないやり方に誰もが冷たい気配を背中に感じる。

「連合…じゃないな……それ に………」

ザフトでもない……この気配 は………レイナは対峙しながら、そう確信していた。

天使達から感じるのは、明ら かな破壊衝動……純粋な殺意………この気配を感じさせる相手はレイナの思いつく限り、一つしかいない……刹那、天使が散開し、レイナ達に襲い掛かってき た。

「ぐっ……!」

半ば反射的に身を捻り、天使 の突進をかわす……ビームライフルを構えるが、天使は異常なほどの機動性で宇宙を翔ぶ。

「速い……!」

その機動性に照準が捉えられ ない……だが、一機に気を取られていたために背後に回り込んだもう一機に反応が遅れた。

背後からビーム弾を受け、ス ラスターが破損する。

「ぐぅぅぅうう!!」

歯噛みしながら衝撃に呻 く……

「姉さん……!」

エインヘルヤルとの戦闘を中 断したエヴォリューションのコックピットでリンもそれに気づく…だが、天使がこちらへと向かい、ランチャーを放ってくる。

咄嗟に2機は回避する……天 使の額のモノアイが不気味に動き、天使の背中から何かが離脱し、飛行する。

それは宇宙を縦横無尽に動 き、ビームを放ってくる。

「なに…!?」

ドラグーンと同じ攻撃機動 ポッド……それらがエヴォリューションとエインヘルヤルに襲い掛かる。

リンは舌打ちしてビームをか わし、ドラグーンを狙い撃つも、ドラグーンは小型性を駆使し、次々とかわす。

エインヘルヤルもレールライ フルで応戦していたが、既に損傷を負っている状態では分が悪かった。

モニターの隅で、大破したメ ネラオスから生き残り要員が脱出ランチで脱出し、近くの友軍艦艇に向かっていく。残っていた艦艇も撤退を始めた。

カラミティ3号機まで喪った 以上、もうこれ以上の作戦続行は不可能であろう……そう判断したユウは近くを浮遊していた残骸を盾にしながら急速離脱をかける。

そのまま急加速で振り切るよ うに離脱し、天使もそれを追おうとはしない……彼らには、地球軍などどうでもいい相手でしかない。

天使はそのままレイナ達に攻 撃を続行する。

被弾したM1Aのコックピッ トで、レイナは体勢を立て直そうとコンソールを操作するが、スラスターが破損し、既に機能も半分ほど停止し、能力が低下している。

だが、そんなM1Aに向かっ て天使が二機、襲い掛かってくる……歯噛みし、防御しようとする……そこへスペリオルが割り込み、ブリューナクで受け止める。

同じく援護に入ったストライ クとジャスティスがビームライフルで狙撃し、二機を牽制する。

「嬢ちゃん! 一度戻れ!  その機体じゃ……!」

刹那……ストライクが下方か らビームを受け、IWSPが撃ち抜かれ…爆発する。

「ぐぉぉ!」

衝撃に呻くムウ……バック パックが破損し、ストライクは天使のドラグーンの応酬を受け、腕、脚部を撃ち落とされる。

コックピットを狙おうとした 瞬間……ジャスティスがパッセルを放ち、天使を引き離す。

ヴァリアブルがレーヴァティ ンを振るい、天使に斬り掛かるが、天使はバックパックの双斧刀を抜き、刃にビームコーティングが施される。

それを振り上げて受け止め る……エネルギーがスパークするなか、メイアは予想以上の戦闘能力と反応速度に歯噛みする。

「こいつら……!?」

反応速度と戦闘能力が桁外れ に高い……鍔迫り合いのそこへ、横殴りにビームが撃ち込まれ……天使の羽を捥ぎ取り、天使は態勢を崩す。

「メイアさん! 今!!」

ビームドライバーで援護した スペリオル……メイアは頷き、そのままレーヴァティンを振り上げて双斧刀を弾き、空いたボディ目掛けて蹴りを叩き込んだ。

ほぼインパクトで入った蹴り に弾かれ、天使がそのまま浮遊していた戦艦の残骸に激突し、バチバチと機体をショートさせていたが、カメラアイから光が消え、沈黙した。

だが、それに眼もくれること なく……残りの一機に向かっていく。あちらはジャスティス一機で苦戦している。

そして……被弾したストライ クを抱え、M1Aが帰投する。

「少佐、生きてますか?」

「なんとかな……けどよ、も う少し労わるように気遣ってくれてもいいんじゃないか」

「それだけ軽口が叩けるのな ら大丈夫ね」

実際、コックピット内が破損 し、ムウも少なからず傷を負っているのだが、それを誤魔化す意味合いもあるのだろう。

レイナはそのままM1Aで オーディーンへと着艦する。

被弾した2機の消火作業と救 助作業が開始され、コックピットから引きずり出されたムウがそのまま医務室へと向かう。

それを見詰めながら、レイナ はM1Aを見上げる……もうこの機体は使えない……その時、鼓動が大きくレイナの内で脈打った。

そして……格納庫に固定され ているインフィニティを見上げた……レイナの意思に反応するように、インフィニティの瞳が輝き……コックピットハッチが主を待ち構えている。

「解かるのね……インフィニ ティ…お前も……アレは……決して存在を赦してはならない………」

意を決し、レイナはインフィ ニティへと乗り込んでいく。

ハッチを閉じ、久方ぶりの シートに着くと同時にAPUを起ち上げる。

「CPシステムエンゲー ジ……火器管制、アップロード…ナブコムデータリンク…起動確認、濃度正常……全システムオンライン…パワーブロー正常……VPSライン、バイパス へ……」

コンソールを叩くレイナの入 力に呼応し、OS内のシステムが新たに構築され、全システムのネットワークが繋がり、システムが起ち上がる。

 

ALL SYSTEM  UPDATED】

 

瞳が煌き………そのままメン テナンスベッドから外れ、発進カタパルトに乗る。

突然のことに整備班は驚き、 困惑しているが…この状況で説明する暇はない。

カタパルトに乗ると同時にブ リッジに通信を繋ぐ。

「こちらレイナ……ハッチを 開けて」

《レイナか……しかし、イン フィニティはまだ………》

通信に出たダイテツが言い淀 む。

インフィニティはまだ完全に 改修を終えていない……だが、この状況に対応するためにはインフィニティの力が必要なのだ。

「どうとでもする……それ に、アレは絶対に存在してはいけないもの………必ず、滅す」

低い口調で呟き、通信を切 る……同時にハッチが開放され、ラインが繋がる。

開かれるハッチに照らし出さ れるインフィニティ……スラスターとバックパック、そして脚部背後に備わったバーニアが真紅の粒子を迸らせる。

《ゆけ……EX000AT、 発進せよ!》

電磁パネルが点灯し、『LAUNCH』の文字が表示される。

顔を上げたレイナの瞳が…… 宇宙を捉える。

「レイナ=クズハ……イン フィニティ、出撃する!」

ペダルを踏み込み……バーニ アが火を噴き、スラスターから光の粒子がこもれる。

操縦桿を引き、レバーを引い た瞬間……最高潮に達したエンジンが火を噴き、カタパルトがインフィニティを射出する。

漆黒のカラーリングが機体を 駆け抜け、スラスターが拡がり、真紅の光が迸る。

ブラスターカスタムと呼ばれ る改修を施された無限の翼は再び戦場に舞う……ウェンディスの真紅の翼が拡がり、堕天使は天使を滅ぼすために翔ぶ。

前線では、天使の機動性に翻 弄されて決定打が出せずに動きを抑制されるジャスティス達……エヴォリューションは一機でなんとか抑えているが、こちらもドラグーンを利用しての波状攻撃 と光波シールドのために生半可な攻撃では決定打ができずにいた。

そこへ飛翔してくるインフィ ニティ……ダークネスを構え、トリガーを引く。

それによって引き離される一 同……ジャスティスらの前に立ち塞がると、呼び掛ける。

「こいつらの相手は私がや る……あんた達は下がれ…どの道、今の状態じゃもう満足に戦うのもできないだろ」

そう……降下部隊、そして第 8艦隊と立て続けの連戦で流石のジャスティス達も機体に負荷が掛かっている。

そんな状態では本来の力を発 揮しきれない……逡巡を断ち切るように天使がドラグーンで攻撃し、インフィニティはデザイアで受け止め、そのまま飛ぶ。

天使に向かっていくが、天使 はドラグーンとランチャーを連続で放ってくる……全方位から鋭く放たれるビームの嵐……だが、レイナはインフィニティに追加されたシステムを起動させた。

両肩のパーツが駆動し、そこ から出現したユニットからエネルギーが形成され、インフィニティのボディを光の盾が覆う。

その光波シールドに遮られ、 ビーム兵器は無効化される……奪取したハイペリオン3号機に装備されていたアルミューレ・リュミエールの発生システムを参考に、レイナが考案したリフレク タービームシールド……そして、機体に追加したバーニア機構でより高機動を可能とする……操縦桿を切り、インフィニティが動きを変えるたびにコックピット に強力な負担が掛かる。

そのGは以前のインフィニ ティよりも強い……レイナも表情を微かに歪めるが、そのGを押し返すぐらいの勢いで操縦桿を切り、天使に回り込むように機動する。近づけさせまいと天使は バルカン砲を放ってくるが、それを掻い潜り、インフィニティは腰部のMMV02:フォルスビームヴェスヴァーを構える。

起動した砲身の砲口が煌 き……高出力のビームが放たれる。

閃光はそのまま天使の右腕と 左脚部を抉り取る……そのまま固まりながらも、動こうとする天使の後ろを取る。

インフェルノを引き抜くと同 時に一閃し……胴体を上下に斬り裂く。

刹那……血にも似た赤いオイ ルのような液体が飛び散り……それがインフィニティに降り掛かると同時に離脱する。

一拍置き……天使が爆発す る。

降り掛かった血を振り払うよ うにインフィニティは身を翻し、エヴォリューションを見やるが、エヴォリューションの方も既に相手の手の内を知りえたようで、天使の攻撃を見切り、イン フェルノを両手に構え……波状攻撃を掻い潜り、左手のインフェルノを投げ飛ばす。

鋭く飛ぶインフェルノが真っ 直ぐに向かうが、天使はバルカンで狙撃し、撃ち落とす。

その爆発にほんの一瞬、セン サーが遮られる……だが、その一瞬があれば十分だった。

爆発を裂き、右手のインフェ ルノを振り上げ、天使に向かって振り下ろす。

頭部から両断され……同じよ うに血が飛び散り、同時に爆発する。

爆発を振り払い……エヴォ リューションにインフィニティが近づく。

「リン!」

「姉さん……当たったわね、 嫌な予感」

やや苦く呟くと、レイナもや や表情を顰めて肩を竦める。

「こいつらは……」

「見当はついている…でも、 まだ相手が残っている………」

そう……天使は倒したが、残 りのジャスティスを模した白銀の機体がまだ残っている。

だが、その機体だけは戦闘を 仕掛けず…天使の援護も行おうとせずただ宇宙に佇んでいるだけ………

「ジャスティスとは形状は似 ているが……」

そう…天使ですらあれだけの 戦闘能力を持っていた……この白銀の機体もどんな能力を秘めているか、油断はできない。

構えるインフィニティとエ ヴォリューション……だが、白銀の機体は真紅の瞳を煌かせ……急加速した。

息を呑む前でインフィニティ とエヴォリューションの前を過ぎり……そのまま後方にいたジャスティス達に襲い掛かる。

「なに……っ!?」

驚愕したアスランは咄嗟に ビームライフルを構える……だが、モニターに映る自身のジャスティスと相似の機体に若干戸惑う。

そのために、僅かに照準がズ レ……放たれたビームは白銀の機体を掠める。

「しま……っ」

迂闊と毒づく前に相手のリフ ターのフォルティスビーム砲が起動し、火を噴いた。

二条のビームの光状がジャス ティスの右腕と左肩を撃ち抜く。

「うわっ!」

被弾し、呻くアスラン……白 銀の機体がジャスティスにトドメを刺そうとばかりにビームライフルを構える。

その光景にカガリが眼を見開 く。

「アスラン!!」

思わず全周波で叫ぶ……その 瞬間、白銀の機体は動きを止めた。

訝しげに見やるアスラン…… 暫し沈黙していたが、白銀の機体は後方からビームを受け、リフターが破損し、煙を上げる。

後方からインフィニティとエ ヴォリューションが迫ってきていた。

そして、白銀の機体は身を翻 し……あさっての方角へと離脱していく………

「どういうこと?」

「さあ……追撃する?」

リンがそう問い返すと、レイ ナは被りを振る。

「いや……深追いは禁 物………それに、こっちもかなり損耗している………」

その行動に不審感を抱く も……追撃は難しいだろう。

なにせ、連戦で各機の消耗と パイロットの疲労、艦のダメージなども予想よりも高くなってしまい、今すぐにでもアメノミハシラに戻って補給しなければならない。

「そうね……アスラン、大丈 夫?」

被弾したジャスティスの状態 からして、少なくともパイロットにはそれ程大きな被害は出ていないはずだが……と、アスランもやや沈んだ声で応える。

「ああ……しかし、あの機 体……いったい…?」

何故……トドメを刺さずに動 きを止めたのか………内に浮かぶ疑念を募らせながら、アスランは鏡合せのような機体が去った方角を見やった………

「どう思う、姉さん……?」

「さあ……直接確かめてみる しかないわね………」

あの天使達は奴らの……その 真意を探るためには、直接聞くのが早い………レイナは、向きを変え……ある方向を見やる。

モニターには、残骸に叩き付 けられ、機能を停止した天使の一体が沈黙していた………

 

 

 

 

離脱していく白銀のジャス ティス……それがモニターに映し出され、それを見ていたウェンドは眼を見開く。

「そんな……バカなぁぁぁぁぁぁっ

到底信じられないように、取 り乱し……両手をコンソールに叩き付ける。

自分の造った機体が負け る……そんなはずがない……と…そんなウェンドに向かって失笑が飛ぶ。

バッと振り返ると、そこには 腕を組んだルンが壁に寄り掛かって佇んでいた。

「フフフ……策に溺れたよう ね、ウェンド………そのお得意の情報処理で造った人形もまだまだのようね………」

くぐもった…含みのある口調 で揶揄するように囁くルンに、ウェンドは歯軋りし、悔しげに拳を握り締める。

それだけでは収まらず、拳を モニターに叩き付ける……モニター画面が割れ、ショートしているが、そんなウェンドの怒りを意にも返さず、ルンは肩を竦める。

「らしくないわよ…06…… 感情をニュートラルに戻しなさい………」

そう嗜められ、ウェンドは歯 噛みしたままだったが、怒りを抑制するように拳を下ろす。その様子に満足したのか、ルンが鼻を鳴らす。

「たかがテスト用のエンジェ ル数機失った程度で感情を取り乱すな……今回はあくまでテスト……なら、次はもっと強化した機体を造ればいいだけのこと……違う?」

侮るような物言いだが、正論 だけにウェンドは言い返せず…そして、フッと笑みを浮かべる。

「ええ……言われるまでもあ りませんよ。次はもっと強力な機体を造り上げましょう……」

「結構ね…でも、イヴィルは やはりあのパーツでは不確定要素が強すぎるようね……」

すっと立ち上がり、そしてそ のまま歩み寄り……二人の前に佇む白銀の機体…メタトロン…そして、その周囲には4体の影がある………

一体は…アルテミスを崩壊さ せた墓守のごときマントを纏った機体………だが、残りの3機は闇に覆われ、その全貌は確認できない………

「イヴィルもエンジェル も……そしてこの4体もあの方をお護りするための僕………不確定要素の高いものは信用できないわね」

そう言い放つルンだが、ウェ ンドは肩を竦める。

「ご心配には及ばないさ…… 帰還後、すぐに調整をする……それに、それは不確定要素の排除ではなく、あの女を使えという貴方の願望でしょう?」

そう指摘され、余裕げだった ルンの表情が強張る……その反撃が満足だったのか、ウェンドは幾分か表情を和らげる。

「仕上げてみせますよ……神 を護る最高の使徒にね…………」

そう宣言したウェンドは、笑 い声を漏らした………ルンはそんなウェンドを一瞥し、そして今一度……主の機体、メタトロンをどこか切なげに見上げるのであった………

 

 

 

 

戦闘が終結した衛星軌道に は、多くのMSや戦艦の残骸が浮遊している。それだけ戦闘の大きさを物語っている……動ける機体で周囲の警戒にあたりつつ、ケルビム、スサノオの応急処置 を行っている。

そんななか、インフィニティ が警戒した面持ちで残骸にめり込む天使を引き上げる。

コンソールで天使の熱源の反 応に気を配りながら、慎重に持ち上げる。

《姉さん……こっちは使えそ うな機体をメネラオスから回収したわ…オーディーンに回すわね》

大破したメネラオスの調査と 物資の回収にあたっていたリンから通信が入り、頷き返すとレイナも天使を抱え、そしてオーディーンへと向かう。


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