修理を進めるケルビム、スサ ノオとの通信を繋ぎ、マリューやダイテツ、そしてカガリ達がハルバートンとトダカに会談を持ちかけていた。

《これで……我々も追われる 立場になったというわけか………》

どこか苦々しげに呟くハル バートンは、疲れを滲ませるように項垂れる。

そんなハルバートンに同情を 浮かべながらも、マリューは語り掛ける。

「提督……ここで来てくださ いと言うのは簡単です…ですが、それじゃいけないと私は思います……だから、お訊きします……これから、どうされるのですか?」

そう……できることなら、自 分達と一緒に来てもらいたい………今は、少しでも多くの仲間が必要だ…だが、それはあくまで自分達の覚悟であってそれを強要することはできない。

ハルバートンがこの先どうい う答を出そうとも、それがハルバートン自身の決めた道なら、自分達にはなにも言うことはできない。

暫し、場を沈黙が支配す る……だが、やがてハルバートンは言葉を発する。

《私は何時の間にか……道を 見失っていたのかもしれんな………》

やや自虐的にポツリと呟 く……ハッとして顔を上げると、ハルバートンは口元を歪めていた。

最初は祖国を護るために…… これ以上の犠牲を出さないために軍に属し、そしてG計画を上層部に具申した……だが、上層部はそれをコーディネイターを滅ぼすために使おうとしてい る…………それを考えると、そのきっかけをつくってしまった自分にも責任がある。

そして……それを防がなくて はならない………

《…マリュー=ラミアス…… 微力ながら、このハルバートン………力を貸そう》

その言葉に、マリューはやや 驚き…そして、表情が和らぐ。

《むしが良すぎるがな……だ が、少しでも望むものが重なるのなら、私はそのために戦いたい………》

もはや自分は祖国から捨てら れた者……そして、もう自分もそんな祖国に対して未練がないことを………

「提督……」

《もう、私は提督ではな い……志を同じとする者としてな………》

そう……もはやかつての上官 と部下ではない……共にゆく道を選んだ対当の存在なのだ……そう……自分達の信じる道をゆくために………

《ハルバートン……久方ぶり に、酒でも交わすか………》

ダイテツのその一言に、ハル バートンもどこか感慨深げに呟く。

《ああ……そうだな…お前の とっておきをな》

互いに笑みで応酬し合う二 人……マリュー達もどこか、安堵の思いで見守り……それを見ていたカガリもまた、同じように見ていたトダカに向き直る。

「トダカ一佐……聞いていた 通りだ…私も、お前達にどうこう言える立場じゃない……オーブを護りきれなかったのは事実だ………」

言い訳などいくらでもでき る……だが、カガリには無力であった自分自身が赦せなかった……そして、今なお、なにもできずにいる自分に………

そんな自分がトダカ達になに かを言えるだろうか……言えないと……カガリは内心に思う。

「だが……願わくば、オーブ の…いや……新たなオーブを建て直すために……今は、我々に力を貸してほしい……この通りだ」

自分でもあまりに都合がいい と思う……オーブのためにという大義名分を掲げる自分が……罵倒されようが、軽蔑されようが構わない……その覚悟でカガリは頭を下げた。

《カガリ様、面をお上げくだ さい……》

苦い声にカガリが顔を上げる と、トダカ達は一様に表情を顰めている。

《我々こそ、カガリ様に銃を 向けた身……カガリ様に非難されても仕方ありませぬ。かかわらず、そのお言葉……ありがたく思います》

頭を下げるトダカ達にカガリ は慌てふためく。

「い、いや…謝るのは私の方 だ……お前達の方が、遥かに辛い思いをしただろうに……」

《いえ……お赦しいただける のなら……我ら一同…この身に代えましても、カガリ様に付き従いましょう》

その言葉に、カガリは眼に涙 を浮かべる。

「赦すもなにも……頼む、皆 の力……貸してくれ! そして…必ず、生き延びてオーブ再建に力を貸してほしい!」

今一度頭を下げるカガリに、 トダカ達は一斉に敬礼する。

ブリッジの誰もが表情を和ら げ……そして、早くに撤収するべきという考えに至る。

「作業の方は?」

船外で回収作業を行っている はずのインフィニティ達の様子を尋ねる。

「終わったそうです……全機 の収容を完了。例の天使はオーディーンの方に収容するそうです……」

キョウからの報告に、マ リューはやや表情を曇らせながらダイテツを見やる。

「ダイテツ艦長……十分、お 気をつけください」

正直、あの天使が何なのか、 まだはっきりと解かっていない……その正体を探るためには機体そのものを調べるしかないが、何が起こるか解からない。

向こうにはレイナやリンもい るから恐らく大丈夫であるとは思うが……

《解かっている……収容後、 すぐに調査を始める。まあ、注意は怠らんつもりだ》

頷き返すと、ハルバートンら の方に振り向く。

「ケルビム、スサノオはどう ですか?」

《うむ……戦闘は無理だが、 通常航行なら問題はない》

《こちらも大丈夫です》

流石に、応急処置だけなの で、ネェルアークエンジェル、オーディーンも戦闘は無理ではあるが、なんとか航行だけは可能のようだ。

このまま潜行し、そのまま熱 源をカムフラージュしてアメノミハシラに帰還するべきであろう。

《先頭はラミアス艦長が頼 む……オーディーンは後方に回ろう》

「解かりました……ハルバー トン艦長、トダカ一佐…ネェルアークエンジェルが先に潜行します。後に付いてきてください」

ハルバートンとトダカが頷く と、マリューは指示を出す。

「回頭80! 速度70ノッ ト! 潜行する!」

ノイマンとモラシムが舵を取 り、艦首の向きを変え……ネェルアークエンジェルはデブリ海へとその艦体を潜行させていく。それに続くようにケルビム、スサノオが続き……最後にオー ディーンがデブリの中へと身を沈め……静まり返った戦場を後にした………

「艦長、あとの警戒は僕らで やっておきます。フラガ少佐の方へどうぞ……」

キョウにそう声を掛けられ、 マリューはやや眼を見張る。

先の戦闘で被弾し、ほぼ大破 したストライク……その光景にマリューは気が気ではなかった。幸いにも、コックピットは無事だったが……容態がどうなっているのか、ずっと気に掛かってい たが、艦長という立場上、その職務を放棄するわけにはいかず、今まで懸命に抑え込んでいた。

「……お願いね、キョウ君」

済まなさそうに頭を下げ、マ リューは素早くシートから立ち上がり、ブリッジを退出していく。それを見送ると、キョウは次にミリアリアに声を掛けた。

「君はいかなくていいの か?」

「わ、私は別に……!」

やや憮然とした表情でプイっ と表情を逸らすミリアリア……だが、キョウは軽く笑みを浮かべる。

「なら、休めばいい……も う、流石に敵襲はないだろうから……あとは、交代制に移行する」

「そ、それじゃ…そうさせて もらいます」

上擦った声で呟き、ミリアリ アもブリッジを後にし、キョウは気を引き締めると、指示を出す。

「第2警戒体勢に移行……整 備班にはエンジンブロック周辺の作業終了後、交代シフトに移行させてくれ」

「了解」

連戦で傷ついたネェルアーク エンジェルも、各兵装の補修は後回しにし、まずはエンジンブロックの応急処置だけも優先させ、各MSの整備はアメノミハシラに帰還後、開始させることにし た。

ここからデブリ帯で姿を晦ま せてから帰還するために半日以上のロスにはなるが、仕方ないだろう……今は少しでも休息が必要だ。

「副長……オーディーンより 入電。回収したアンノウン機の調査を開始するそうです」

オーディーンからの通信を受 け取ったマリアが報告し、キョウもやや表情を強張らせる。

あの謎の天使……その正体を 探るために………何故か、奇妙な薄ら寒さが背中を襲った………

 

 

 

しんがりを航行するオー ディーンの格納庫では、回収された天使が厳重にメンテナンスベッドに固定拘束されている。だが、その純白のボディが異様な気配を醸し出し、まるで貼り付け にされたかのごとく見え、格納庫内は言い知れぬ雰囲気が漂う。

天使周辺には、武装した整備 士が待機し、メンテナンスベッドの前に設置された機器からはいくつものコードが伸び、天使の状態を確認している。

「熱反応、及び機体機能は完 全に停止しとる……取り敢えず、危険はない思うけど……」

機体調査を担当しているル フォンがコンソールを叩きながら、そう呟く。

後方には、レイナ、リン、メ イア、ミゲル…そしてダイテツとリーラ、アスランの姿がある。

「連合やザフトの機体なんで すか?」

「いや……詳しくは解かれへ んけど、少なくともザフト製でも連合のダガーとも違うわ……おまけにIFFの反応もなしやし」

外観は確かに連合のダガー系 統に酷似しているが、連合製ならIFFに反応しないのもおかしい……

「こいつは有人機なのか、そ れとも無人機なのか?」

ミゲルが問うと、ルフォンは コンソールを叩き、機体内の熱反応を調査する……すると、ボディ周辺に低いが、熱反応が確認できた。

そのまま調査を進めると、ル フォンは表示された結果に思わず首を傾げた。

「んん?」

眼を怪訝そうに瞬き、首を傾 げるルフォンに不審そうに尋ねる。

「どうしたの…なにか、引っ 掛かることでもあった?」

モニター画面を覗き込むメイ アに、ルフォンが腑に落ちなさそうな困惑した表情で呟く。

「変なんや……確かに、生体 反応らしき熱反応がボディ周辺で確認できたんやけど……どこにもハッチや搭乗口らしきものが見つかれへんね」

ルフォンのその言葉に、一同 は怪訝そうになり……レイナやリンは表情を微かに顰める。

「けど、熱反応があるってこ とはパイロットが乗ってるてことだろ…おかしくないか?」

さも当然のごとくミゲルが問 い返す……パイロットが乗っているのなら、当然コックピットへの搭乗ハッチがあるはずだ。

それが無いというのはあまり に不自然すぎる…だが、それはルフォンも同じなのか、言葉を濁す。

「せやかて、何処を探しても 見つかれへんね……どうやって搭乗したか、うちが訊きたいぐらいやわ」

ぼやくように肩を落とすと、 アスランが別のことを尋ねる。

「じゃあ、パイロットと交信 はできないんですか?」

ハッチが見つからないなら、 せめて搭乗していると思われるパイロットとの交信しかない。

だが、それに対してもルフォ ンは複雑な表情のまま首を振る。

「全然あかん……連合やザフ ト…他にも国際救難チャンネルからあらゆる周波数で交信を試みたけど、うんともすんとも返ってけえへんのや」

もはやお手上げといった感じ で両手を上げる。

コックピットへのハッチは見 つからず……相手は黙んまりの黙秘……おまけにIFFも未登録となれば、もはや打つべき手は一つであろう。

「なら、強引に訊くしかない わね……」

ポツリと漏らし、ダイテツを 見やると…同意見なのか、頷き返す。

「構わん……やってくれたま え。是が非にでも訊かねばならんからな」

そう……こうなった以上、も はや手段は選んでいられないだろう……最悪、パイロットが自殺という可能性もあるが、まずはコックピットを開けてみないことには始まらない。

ルフォンも反対がないのか、 頷き返すとすぐさま作業を開始する……作業用のアームが動き、先端に融解用のレーザーを構え、ゆっくりとボディ部分へと近づける。

「ほな、やるで」

確認を取るように呟き、ボタ ンを押す……連動し、レーザーが放たれ、ボディの装甲が融解し、その軌跡を動かし、大きく穴を開ける。

線と線が結ばれた瞬間……僅 かにずれた隙間からドロっとした液体のようなものが溢れた。

「何だ!?」

「み、水……?」

あまりに予想を超えた展開に 誰もが息を呑み……コックピットと思しき部位から溢れ出る液体を見詰める。

衝撃吸収用のウォータークッ ションかと思ったが……レイナとリンは眼を顰める。

「ちょっと待って……私が直 接開ける」

作業を制止させ、皆が驚くな か、手前に置かれたトレーラーに乗り、クレーンがゆっくりとボディに近づける。

(なに……この感じ……)

なにか、嫌な気配が漂ってい る……背中に這うように伝わる悪寒にも似た冷たい感覚……

リンとともに銃を構え、互い に頷き……レイナが融解させた部位を掴み、それを外し放り投げた………

「………っ!」

開かれたコックピットを覗き 込んだ瞬間……レイナとリンは眼を見開き、絶句する。

「ど、どうしたんだ!?」

「レイナさん、リンさ ん!?」

様子がおかしいことに近づこ うとした面々に鋭い声が飛ぶ。

「来るな!」

その声にビクっと身を強張ら せ……動きを止め…顔を上げた瞬間、一瞬、怯えそうなほど恐い表情を浮かべているレイナとリンの表情が入った。

「見ない方がいい……」

そう低い声で制するレイナ は、今一度コックピットを見やる……いや…コックピットと言っていいのかも解からない………

中には、充満させた溶液…… 球体状の空間の壁には信号を示すランプ類とコード類が犇き……その中央には、コードで身体に直接繋がれ…頭部頭蓋骨を抉り、脳に直接信号コードが取り付け られている女性が浮かんでいた………

絶望に染まった表情を浮かべ て………もはや…そこにあったのは人間ではない………機械に組み込まれたパーツ……僅かな生体反応は、パーツとして機能させている脳髄のみが動いているに 過ぎなかった……だが、それも半強制的に組み込まれているために『死』となんら変わりない………

連合のブーステッドマンやエ クステンデッドなどとは比べものにならない残虐さ……完全な生体パーツと化した『人』であったもの………

「………カイン…っ」

ギリっと奥歯を噛み締め、拳 を振るわせる。

このやり方は間違いな い………奴らだ……奴らが………これをやったのだ…………

格納庫内を暫し、静寂が漂 う……後にコックピットから這い出された生体パーツとされた女性を見て……誰もが嫌悪感と恐怖を憶えるのであった………

そう……破滅を齎せし白き使 徒達の手は……迫りつつあった……ゆっくりと…ゆっくりと………

 

 

 

 

衛星軌道での戦いを終えた刻 を同じくしてアメノミハシラでは、留守を任された一同が静かに待機していた。

もっとも、今現在宇宙は連 合、ザフトともに戦力を蓄えつつあるために静かなものであり、このアメノミハシラも今のところは平穏に包まれていた。

ドックには、イズモ級壱番艦 のイズモとクサナギ、そしてエターナル……その隣にはナスカ級が一隻停泊している。

このナスカ級は、現在アメノ ミハシラを訪れているサーペントテールが移動用に使っているものであり、独自の改装が施されている。

そして、格納庫ではクサナギ のパイロット達のM1AやM1が整備を受けている。そして、その格納庫周囲では、グランを筆頭にパイロット達がランニングに励んでいた。

「よしっ! 今日はここま で! 各自、十分に休息を取ること!」

決して狭くない格納庫内をラ ンニングし、パイロット達はやや呼吸を乱しながらその場に座り込む。

だが、何度も反復してトレー ニングを重ねているためにすぐに呼吸を戻している。

「おー、グラン隊長は気合が 入ってるな……」

その様子を見やりながら、バ ルトフェルドが頷き…そして、傍で疲れた表情を浮かべているラクスを見やる。

彼女はトレーニングウェアを 着服し、タオルを首からかけて俯いている。彼女もトレーニングに付き合っていたのだが、如何せん体力不足のために開始後、10分ほどでダウンしてしまっ た。やはり元々激しい運動などをしたことの少ないラクスにはパイロットとしての本格的トレーニングは辛いようだ。

「大丈夫、ラクス?」

「は、はい…だ、大分落ち着 きましたから……」

アイシャが気遣うように声を 掛けると、まだ上擦った口調ながらなんとか答え返す。

「ラクス嬢、パイロットとい うのは想像よりも体力をかなり消耗する……体力はパイロットにとってなにより求められるものだ。これを克服しないことには、前線に立たせるわけにはいかな いな」

操縦技術や実戦経験も確かに 大切だが、なによりもそれらを得るためには体力が必要になってくる。優れた体力はパイロットには欠かせない……カガリはまだこれらの基礎トレーニングをこ なしていたために早々と実機での実戦に出ることができたのだが、ラクスはまだもう少し掛かりそうだった。

だが、彼女は絶対に諦めな い……必ずレイナやキラ達と同じ場所に立ってみせるという意気込みを自身に誓うのであった。

そんなラクスを横に見なが ら、バルトフェルドは内心、ラクスが前線に出られる可能性は低いと考えざるをえなかった。

彼とて伊達にパイロットを やっていた訳ではない……MSパイロットには体力、反射神経、動態視力など、実に様々な技能が求められ、一朝一夕で身につくようなものではないことは骨身 に染みて理解している。もっとも、ザフトはその無茶を実践していることを彼は知る由もないが……確かにラクスの吸収力と柔軟性は驚愕に値するが、現実問題 として彼女の乗れる機体が無いという根本的問題がある。今までの結果から彼女は砲撃支援型の機体が能力的に適正があるという結果が出ているが、その肝心の 砲撃用の機体というのが空いていない。

バスターダガー、ゲイツアサ ルト、ガンナーM1といった砲撃量産機は貴重な機体で既にどれもが所属パイロットに割り当てられており、また整備班も連日の整備や開発途上であった機体の 完成など多忙であり、新しく機体を一から設計し、造る余裕もないのだ。

だが、ひたむきに努力するラ クスの姿を見ていると、その事実を伝えるのは酷であった。

軽く溜め息をつくと、不審そ うにラクスが問い返す。

「どうかしましたか、バルト フェルド艦長?」

「ん…あ、いえ……それより も、お疲れでしょう…あとで私がコーヒーをご馳走しますよ」

取り繕ったような言葉だった が、いつもの飄々とした口調にラクスは特に気にした様子もなく応じる。

「苦いのはご遠慮ください ね」

「はは……では、少し甘めに ブレンドしましょうか」

軽く笑いながら、ラクス達は そのまま格納庫を後にする。バルトフェルドの胸に小さな燻りを残して………

 

 

同じ頃…アメノミハシラの医 務室では、ステラの診断が行われていた。

ここ最近の薬の投与で、少し ずつだが身体機能が正常値に戻りつつあり、自我もようやく安定し始めていた。

「はい、これでいいわ」

注射を終えたフィリアがそう 呟き、ステラの腕を布で包み、包帯を巻く。

「このまま続けていけば、も う薬は必要なくなるわ……でも、戦闘の後遺症なんかもあるかもしれないから、あまり無理はね……」

定期的に薬を摂取しておけ ば、徐々に身体機能は元に戻るだろう…だが、深層意識下に刷り込まれたものはそう簡単に消えはしない。

自我が安定し、自身の意識を はっきりと保てれば、それらを抑え込めるだろうが、なにかのきっかけで無意識にそれが出る可能性もある。

だが、ステラは首を傾げてい る……どうも、一般常識に関してはかなり疎いようだ。

言い換えれば、そういった知 識が不要だという状況もあったかもしれないが………

この辺の情緒教育は感心する ぐらいにステラに看かりっきりのシンやマユに任せた方がいいだろう……

カルテに経過を書き込みつ つ、フィリアは内心思った。

「フィリア先生…もういいで すか? さっきからお兄ちゃんずっとドアの前でウロウロしてるんですよ……」

検査が終わると、傍に控えて いたマユが尋ねる。

検査上、ステラの肌を晒すこ とも多いので、シンはずっと医務室の外に閉め出されている。

流石のマユもそんな過保護ぶ りに呆れていた。

フィリアはクスリと笑い、頷 く。

「ええ」

マユがドアを開くと、ドアの 前で往生していたシンが顔を上げ、駆け込むように入ってきた。

「あ、あの…! ステラはど うなんですか!?」

「大丈夫よ……まだ、無理は できないけど………すぐに身体の異常も収まるわよ」

咳き込むように尋ねるシンに そう答えると、シンは大きく溜め息をついて肩を落とす。

「もうお兄ちゃんってば…… それ、前から何度訊いてるの? フィリアさんだっていい加減嫌になるよ」

「いいのよ、マユちゃん…い つもそうやって心配してるんだから」

ステラの検査と薬摂取がある 度にシンはフィリアに容態を訊くものだから、もう傍で聞いているマユの方が嫌になっている。

もうステラの顔色も最初に収 容された時に比べれば大分マシになったであろう。

ここ最近は、アメノミハシラ を動いているようで、特にシンがいる格納庫に行くものだから、整備班からは半ばマスコットキャラのように扱われており、何故か茶菓子を一緒にしているシー ンも見かけたが……

伊達に子供パイロットが多い この部隊由縁だろう………

「ダメですよ…少しはけじめ つけておかないと……お兄ちゃん、ステラさんの事ばかり気にしてて全然部屋の掃除とかしてくれないんですよ!」

そう……ステラに献身的なの は結構なのだが、それ以外が完全にズボラになっているシン……自室には洗濯物は放りっ放しなど、同居しているマユからしてみれば気にするなというのも無理 であろう。

マユとてもう年頃の女の子な のだから……兄とはいえ、いろいろと気遣うのだ。

「う、うるさいなあマユ は……今からそんな口喧しくしてると、お嫁にいけなくなるぞ」

口を尖らせながら愚痴るシン だが、どうも口喧嘩では敵わないらしい。

「いいもん…私は、レイナさ んみたいな女性を目指すもん!」

どうやら、マユの眼にはレイ ナは理想の女性に映っているらしい……本人が聞いたら、苦笑を浮かべそうだが………

「お兄ちゃんこそ、もっと しっかりしないと! 格納庫の掃除終わったの!? トウベエさんから私は任されてるんだからね…終わるまで、食事は抜き!!」

「いいっ!」

腕を組み、そう言い放つマユ にズーンとなるシン……ここまで妹にボロくそに言われては流石にショックだろう。

だが、そんなシンの頭にステ ラがポンと手を乗せ……顔を上げるシンと眼を向けるマユの前でステラはシンの頭をポンポンと叩いた。

「シン、頑張る………」

そう励ますステラ……シンは なにか、感動で言い知れない気持ちだった。

「もう!」

その光景に呆れたのか、マユ は腰に手を当てて悪態をつく。

そんな様子を完全に外に出さ れているフィリアが小さく笑みを噛み殺しながら見ていた。

やはり、この子達は笑ってい るべきなのだ……ヴィアやセシルがこの光景を見たら、きっと喜んだかもしれないと……心の内でそう苦く思った。

 

 

 

一時の休息が訪れるアメノミ ハシラの管制室では、ミナ、キサカ、バルトフェルド、ラクスに劾が集まり、モニターに映るオーストラリア大陸を見詰めていた。

開始された地球軍によるカー ペンタリア攻略戦:オペレーション八・八の経過を確認していた。

「戦況は膠着しているみたい だな……」

モニター画面を見やりなが ら、劾は呟く。

オペレーション八・八が発動 して既に半日……今、オーストラリア周辺は夜といった時間帯だろう。にも関わらず、海上では衛星からキャッチしている熱源反応や、モニターに表示される連 合のカーペンタリア攻略の様を放送する映像が流れている。

「ああ、もっとも連合の艦隊 が沖に居座ってるからな……この膠着もどこまで続くか………」

バルトフェルドが顎に手をや り、やや沈んだ声で評する。

既に海岸線の一部は戦場にな り、かなりの損害を受けている。もっともそれでもなんとか進攻を防いだらしく、上陸部隊は後退を余儀なくされ、今はカーペンタリア湾の沖合上の艦艇に待機 し、補給を行っているのだろう……ザフト側も流石に地上の拠点だけあった抵抗は激しい。

詳しい戦闘の内容は解からな いが、ザフトも量産化したラゴゥのプロダクションモデルや熟練パイロットの宇宙への帰還と引き換えに僅かに補給されたゲイツといった最新機でなんとかパイ ロット不足をカバーしている。

中には、ヨーロッパ戦線やカ サブランカ沖戦線において連合から鹵獲したストライクダガーを修理し、使用している者までいる始末だ。

ナチュラルの兵器を使うのは 確かに屈辱的ではあるが、ストライクダガーは量産機としてはまさに理想の機体なうえ、しかもビーム兵器を標準装備している点で明らかにジンやシグーの攻撃 力を上回るので、数の少ないゲイツの代用品として重宝している。この際プライドは二の次である。

「レイナ達の方はどうなって いるのでしょう……?」

上陸部隊と連動して宇宙から の降下部隊も派遣される予定であったので、その降下部隊の奇襲に向かったレイナ達の身を案じる。

「Nジャマーの影響で長距離 通信は無理だからな……どうなっているかは解からん」

もっとも、長距離通信などお いそれとできるものではないが……だが、レイナ達によって降下部隊も4割近い損耗を受けたために空からの支援力が見積もっていたよりも低くなったために陸 上部隊も流石に深くは進軍できなかった。

いくら数で勝ろうとも、空中 からの支援無しでは流石に苦しいのだ。

もっとも、そのレイナ達もそ の後第8艦隊との戦闘に突入したために予想以上の損耗を受け、今はデブリ帯で追手を撹乱するために潜行中なので連絡の取りようもないが……

「夜の間は待つとしても…… 数日後には陥ちるな、カーペンタリアも」

半ば篭城に近い状態である以 上に、連合は近隣の赤道連合とオーブの補給基地から増援を出しているのに対し、ザフト側は補給が一切無いのだ。

さらには、この作戦には乱れ 桜:レナ=イメリア、白鯨:ジェーン=ヒューストン、切り裂きエド:エドワード=ハレルソンといったエースパイロットも多く参戦しているために陥落は時間 の問題だろう。

「だが、連合の損耗も決して 低いものではない……そちらのクライアントの目的は達しているのではないか?」

客観的に述べる劾……シオン からの依頼は降下部隊の戦力削減による連合のカーペンタリア攻略を少しでも遅らせるといったもの。

連合の投入戦力がシオン達の 予想以上に大きかったために大した時間稼ぎはできないだろうが、それでも損耗した戦力の建て直しのために地上での監視の眼が緩むだろう。

そう考えれば少なくとも目的 は達したと見るべきだろう。

「そう思いたいね……こっち もあまりのんびりは構えてられんしな」

そう……カーペンタリアが陥 落すれば、次は宇宙……月基地には既に多数の艦隊が集結しつつあるとサーペントテールのリードから情報を受け取っている。

第6、第7…そして再編され た第4、第8に新たに編成された第9艦隊……それ以外の部隊を併せても、プトレマイオスクレーターには最低でも5個以上の艦隊が常駐していることになる。 もっとも、その第8艦隊も半ば壊滅し…残存部隊は他の艦隊に再編成されるだろうが………

連合政府内にはシオンなどが 手を回している…こちらもプラント内部でクライン派の議員の救出プランや他の議員に連絡を取り、政権交代の準備を急いでいる。

「とにかく……事は彼女達が 戻ってからまた話し合うしかないな」

肝心の主要メンバーが半数近 く不在の今、迂闊に動くこともできない……彼らが戻るまではこちらも待機するしかないだろう。

その提案に彼らが管制室を後 にしようとした時……突如警報が鳴り響いた。

「何事だ!?」

ミナの鋭い問い掛けに、オペ レーターが声を上げる。

「Nフィールド周辺で爆発の 熱量を探知! 熱量からして、恐らくNフィールドに設置した機雷と思われます!」

Nフィールドといえば、アメ ノミハシラから見てデブリ帯側……そこはアメノミハシラにとっても死角ともいえるポイントであり、一番敵襲の可能性が高い。

そこへ機雷を設置し、防衛ラ インを作っていたが、それが爆発したということは何者かがアメノミハシラのテリトリーに入り込んだということに他ならない。

「識別は!?」

すぐさま何者かの確認を急が せる……長距離レーダーに探知された反応……戦艦クラスが3隻……その艦種を照合した結果が表示される。

「IFF確認! ザフトのナ スカ級2隻、ローラシア級1隻と思われます!!」

「ザフトだと……!?」

「ここ最近大人しいと思って いたが……僕らを追ってきたのかね!?」

ザフトが現われたということ は、自分達を追ってきたということかと一瞬思ったが、そこへ別のオペレーターが声を上げた。

「ロ、ロンド様! 接近中の ザフト艦より入電!!」

その言葉に驚愕し、息を呑 む……ミナが内容を促す。

「何と言っている……?」

「はっ……『オーブ軌道衛 星、アメノミハシラに告げる……ただちに武装解除し、ステーションをザフトに譲渡せよ……この回答が得られぬ場合、そちらを攻撃する』……」

つまり……現われたザフトは ラクス達を追撃してきたのではなく、このアメノミハシラを欲してきたということだ。

ザフトが今切に欲している軍 事ファクトリーとして……だが、当然受け入れられるはずがない。

「第1戦闘配備! 隔壁閉 鎖…対空砲スタンバイ!」

「ロンド様、我々も出ま す!」

キサカがそう進言すると、ミ ナは頷く。

元々ここの護衛が条件なの だ……すぐさま駆け出そうとしたが、ミナは呼び止める。

「待て……クサナギは使え ん。イズモを使え……私も天で出る」

そう……クサナギは現在パー ツを分割した状態で整備中だ……今から組み立てて出撃するには時間が掛かる。

ならば、待機中のイズモの方 がいいだろう……同型艦であるなら、戸惑いも少ない。

そしてミナ自身も天で出撃す る……カガリがいない今、これ程戦意高揚はないだろう。

深々と頭を下げるキサカ…… ミナは頷くと、すぐさま指示を飛ばす。

「イズモ発進準備! 天も出 す!」

ミナの指示にすぐさま応じ、 ドックではイズモ級の発進準備に移行し、待機しているパイロット達が搭乗機に乗り込み、イズモに移動していく。

「バルトフェルド艦長、私達 もエターナルでの出撃はよした方がよろしいですね……」

そう……自分達を直接狙って きたのではないにしろ、エターナルで出撃すれば、自分達がここに居るという情報が伝わってしまう。

それはバルトフェルドも同意 見なのか、否定はしない…だが、唸るように考え込む。

それではイズモだけになり、 艦数で不利になる……そこへ劾が口を挟んだ。

「なら、俺達のフレガートを 出そう……」

「いいのかな?」

少なくとも、劾達は無関係の はずだ……だが、劾は被りを振る。

「ここでただ静観しているわ けにはいくまい……それに、借りを返しておきたいからな」

そう……傭兵である以上、な にもせずに死ぬということはできない。ザフトに見つかった以上、ここから離脱するのは難しいだろう。別にアメノミハシラの防衛戦力を疑うわけではないが、 静観していて安全という保証もないのだ。

それに、劾は以前大破したブ ルーフレームの修理をモルゲンレーテで行い、その借りを返さなければならないと考えていた。

「よし、じゃあ頼む」

頷き合うと、一同はすぐさま 管制室を後にし、ドックへと急ぐ。

 

 

警報は医務室にも伝わった。

《総員、第1戦闘配備!!  ザフト艦接近…パイロットはすぐさま所定の位置に就け!》

その放送にシンはハッと顔を 上げ、フィリア達も表情を強張らせる。

ザフト艦の襲撃によるスクラ ンブル……パイロットであるシンも当然出撃だ。

「行かなくちゃ……」

医務室から出ようとしたシン は、服の裾を掴まれ…振り返ると、ステラが窺うように見ていた。

「シン……?」

首を傾げているステラ……こ れから戦闘に赴くと解かっていないようだった。

そんなステラにシンは笑みを 浮かべ、肩を抱く。

「大丈夫……絶対に護るか ら…君も、マユも…そして、皆もな………」

「護る……?」

「そう……絶対に護る」

そう言い放つと、シンは踵を 返し……医務室を駆け出していった。

「お兄ちゃん……死なないで よ………」

祈るように呟くマユ……ステ ラは一人、シンの言葉を内に反芻し続けた………

 

 

 

格納庫では臨戦体勢にパイ ロット達が搭乗機に搭乗し、イズモに向かっていく。

そして……イズモがドックか ら発進していく。

「おやっさん! 俺の機体 は!?」

格納庫に駆け込んだシンは、 トウベエの姿を見つけ、叫ぶ。

「修理は終えた…じゃが、ま だ慣らしもしとらんぞ!」

「解かった! 無茶はしな い!」

「おっし! ならフレガート に搭乗しろ! そっちにもう積んである!!」

「了解!!」

素早く身を翻し、発進の進む フレガートに向かう。

フレガートには劾のブルーフ レームにイライジャのジン…そしてシンの機体…アストレイフリッケライが既に積まれていた。

大破した105ダガーをアス トレイ系、ザフト系のパーツで改修したまさに『フリッケライ』の名を冠するMS……ゲイツと似通ったスラスターに、腰部にはレールガン…そして背後にはブ ルーセカンドLと同じタクティカルアームズの改修型が搭載されており、シンはヘルメットを被ると同時にコックピットに飛び込む。

収容を終えたフレガートも ドックから発進していく。

アメノミハシラから出撃した イズモ、フレガート……そして、MS隊が発進してくる。

グランとジャンのM2、そし てバリーのM1A、アサギ、マユラ、ジュリらのGBM装備のM1A…イズモの周囲には、M1、ガンナーM1…そしてデッキにはアーマードM1が布陣する。

フレガートの艦長シートに腰 掛けるバルトフェルドとオペレーター席にはラクスとアイシャ、ロレッタが座る。

劾のブルーセカンドL…イラ イジャのカスタムジン……そしてシンのアストレイフリッケライ………

最後に…イズモのカタパルト にミナの乗るゴールドフレーム天が固定され……カタパルトがゴールドフレーム天を打ち出す。

防衛に布陣するMS隊……機 雷群を超えてきたMS隊に向かって、イズモとフレガートから主砲が発射された。

 

 

 

十数分前……アメノミハシラ のNフィールドに侵入したザフト艦群……そして、まずは降伏勧告を送った。

彼らとて、無駄な消耗は避け たい……事を荒立てずに済めばいいと考えていたが、やはり相手側の答えはNOであった。

「ま、いきなり来て家を貸せ と言って貸す奴はいねえよな」

冗談めかした口調でハイネが 肩を竦める。

押し込み強盗に近い立場であ る自分達は、やはり受け入れてもらえず……アメノミハシラは防衛体勢に移行した。

「しかし、油断しました ね……まさか機雷が散布されているとは………」

罠としては常套手段とはい え、機雷を味わうというのは宇宙軍ではなかなかなく、ザフト側も単なるデブリと見て油断し…接近したところに機雷が反応し、爆発した。

「向こうも無警戒というほど 間抜けではないということだな…被害は?」

「チャールズ、被弾! 右舷 ブロックで火災! 航行能力が低下しています!」

先程の機雷によってローラシ ア級:チャールズが被弾し、煙を上げている。

格納庫やエンジンには支障は ないようだが……

「いきなし一隻が使えなく なった…いや、あっちに乗ってる連中もか」

チャールズ使用は勿論だが、 あちらに乗っていた訓練兵も今の衝撃に慄き、使いものにならなくなっている可能性が高い。

「ですが、機雷群を突破しな ければ……取り付くこともできません」

「だな……艦長、アレクサン ドロスとシェルドレイクの主砲で機雷を吹き飛ばし、進むぞ!」

ハイネの言葉に頷き、艦長は 指示を飛ばす。

「チャーチルはその場で待 機……ひよっこどもは護衛に就けろ! 本艦とシェルドレイクの主砲で前方の機雷群を突破する! 敵フィールドに突入後、MSスタンバイ!」

シホとハイネが頷き、格納庫 に向かう。

そしてナスカ級2隻の主砲が 起動し……火を噴く。

ビームの渦が進攻上に設置さ れた機雷群を吹き飛ばし、爆発が連続的に巻き起こる。

「進攻上の機雷、約6割損 失!」

「微速前進!」

空いた空間を縫うように、ア レクサンドロスが残存の機雷群の範囲ギリギリを潜り抜け、それに続くようにシェルドレイクも突破してくる。

互いに艦砲の射程を取った瞬 間、激しい応酬が轟く……長距離からのビームはアンチビーム爆雷と精度の問題で決定打にはなり難いが、牽制には十分すぎる。

しかし、こちらは攻める 側……護りと違って位置を固定できず、また敵艦の背後にあるアメノミハシラを傷つけるわけにはいかないのでかなり分が悪く、MSによる衛星突入しか術がな い。

「敵MS、展開!」

「MS隊、発進せよ!!」

艦長の指示に従い、2隻のナ スカ級のカタパルトがセットされる。

 

 

アレクサンドロスの格納庫で は、慌しくMSの発進が進められる。

「いいか、お前らはまだひ よっこだ! 無理はせず後方からの支援に徹しろ! いいな!!」

《《《りょ、了解!!》》》

怒鳴るように訓練兵の乗るジ ンに指示を飛ばすと、ハイネのゲイツがカタパルトに乗る。

「ハイネ=ヴェステンフル ス…ゲイツ、出るぜ!」

ケーブルが外れ、白の指揮官 カラーに肩アーマーにオレンジの着色を施したゲイツが発進する。

それに続くようにヴェステン フルス隊のゲイツも発進していく。隊のマークとでもいうように、ショルダーをオレンジに染めている。

さらにMMのバルファスも続 けて発進していく。

「シホ=ハーネンフース…… シュトゥルム、いきます!!」

灰色のMSがカタパルトから 打ち出され、バックパックのウイングが開く。

刹那、白いボディに藍色のポ イントカラーが施される。両肩に巨大な砲身を構え、シュトゥルムは宇宙に舞う。

最後に訓練生のジンが後方支 援のために、D型兵装を装備し、次々と出撃していく。

だが、ルナマリアが怒鳴るよ うに整備士に喰って掛かった。

「どういうことよ!? なん で私のジンが出られないのよ!?」

「す、すいません! 先に ヴェステンフルス隊のゲイツの整備を行っていたので、そちらまで手が回らず……!」

シホのシュトゥルムやゲイツ をはじめとして新型機が多数配備されたために、今までの整備よりも時間が掛かり、訓練兵のジンは後回しにされていた。

そのためにルナマリアが割り 当てられたジンは調整が間に合わず、ルナマリアは舌打ちする。

せっかく意気込んできたとい うのにここで立ち往生しているというのはじれったい。

その時、アレクサンドロスが 急速回避を行ったために格納庫内が激しい振動に包まれる。

「もう……なにもせずにい るってのは絶対に嫌だわ!」

キョロキョロと周囲を見渡す と、ハンガーに収まった予備のゲイツが眼に入った。

見るや否や、バッと無重力の なかを飛び、ゲイツのコックピットに取り付く。

「あ、ちょ、ちょっと…!」

「うるさい! 機体を遊ばせ ておける状況!? ジンだろうがゲイツだろうが、この私に任せなさい!」

妙な自信を振り翳し、ルナマ リアはハッチを閉じる。

そのままAPUを起ち上げ、 火器管制など照準システムを自分用にセッティングする。

モノアイが輝き、固定具の外 れたゲイツが動き出し、用意されていたM69バルルス改特火重粒子砲を担ぎ、カタパルトに乗る。

「ルナマリア=ホーク……ゲ イツ、出るわよ!!」

大型砲を構え、ゲイツが射出 される。

 

 

 

両軍からビームが放たれ、戦 闘開始の狼煙が上がる……

ここに…アメノミハシラ攻略 戦は開始された…………

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

知らずにいた者……知ってい た者…………

同じ出生を持ちながらも相反 する二つの星………

天を征く流星と自由の剣がぶ つかり合う………

 

 

刻を同じくして始まる天界の 攻防……

運命に導かれ、邂逅する戦士 達………そしてその時…少女は戦場へと還る………

 

 

だが……白き破滅の葬送曲は もう始まっていた…………

 

次回、「導かれし星々」

 

星を越え、飛べ、フリーダ ム。


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