アメノミハシラ防衛ライン上 では、なおも激しい銃火が飛びあう。

M1隊は3機で行動し、ゲイ ツを仕留めている……MSの性能ではゲイツが僅かに上…その上、単体で当たるのは危険すぎるためにオーブ軍は集団戦法を取り、一機一機確実に墜としてい く。

そんななかで唯一孤軍奮闘を 見せるシホのシュトゥルム……だが、シホも今はジャンのM2とバリーのM1A2機を相手にしており、援護に回れない。

「まずいですね……!」

やはり、この作戦遂行には戦 力が不十分すぎる……その時、後方から援護が轟く。

後方から放たれたビームが M2とM1Aを引き離す。

シホが後ろに眼を向ける と……驚愕に眼を見張った。

援護したのは母艦の護衛に残 しておいた訓練兵のジンであった。D型兵装のM66キャニス短距離誘導弾やM68キャットゥス500ミリ無反動砲を構え、ミサイルやバズーカ弾頭を放つ。

それによって周囲に閃光が煌 く。

「あ、貴方達…なん で……!」

《俺達だって、俺達だってや れるんだ!》

《ナチュラルなんかに負ける かよ…!》

困惑するシホは咎めるように 通信を入れるが、血気にいきり立つ訓練兵はその嗜めも聞こえず……そのまま襲い掛かる。

「ダメ……!」

制止は一歩遅かった……加速 し、M1隊に襲い掛かろうとしたが……今の彼らが抱える装備はD型という非常にMS戦では扱いにくい武装………しかも、訓練兵特有のマニュアルの動きしか できない。

照準を合わせようとした瞬 間……M1隊が一斉にビームを放ち……ジンのボディを撃ち抜き、爆発させる。

僚機の撃墜に……ジンは動き を止める。遂先程まで一緒にいた仲間の死に……彼らは過剰に反応してしまった。

だが、戦場で動きを止めると いうのは自殺行為だ……そして、相手も訓練兵だからと手加減などするはずがない。どちらも生き残るのに必死なのだ。

動きの止めたジンに向かい、 ガンナーM1が照準をセットし……ロックオンのアラートがコックピットに響いた瞬間、ハッと気づくが遅い……刹那、ガンナーM1のビーム砲が火を噴き、ジ ンはコックピットを撃ち抜かれ…一拍後、爆散する。

「貴方達! すぐ下がりなさ い! 貴方達じゃいい的です!」

シホの叱咤に我に返った訓練 兵は恥も外聞も関係なく、装備をその場にパージして必死に後退した。

それを援護しようと、シホは シュトゥルムのブラストビームキャノンを放つ。

ビームの奔流を返され、相手 も回避行動に移る。

なんとかシュトゥルムの後方 に逃れられたジンに向かい、シホは叫ぶ。

「早くアレクサンドロスに戻 りなさい!」

半ば涙眼で慌てて後退してい く……それを確認しながら、シホは内心に迂闊だったと毒づいた。訓練兵…しかも選ばれた数名というある種のエリート意識が今回の独走に拍車をかけてしまっ た。そして、それを抑制できなかった自身の責任だと……シホは苦々しい思いで歯噛みし、応戦する。

 

 

その頃……シホ達が前線の注 意を引き付けている隙に、なんとかアメノミハシラに取り付こうと迂回して接近していたハイネ達。

その視界に、アメノミハシラ が接近してくると、その巨大さがよく理解できた。

「しっかし結構な大きさだ ぜ……これで一部っていうんだからな……と、そんな事はどうでもいいか…よーし、いいな! 一機でも取り付いちまえばこっちのもんだ! 各機、このま ま……!」

真っ直ぐにアメノミハシラに 接近しようとした瞬間、突如ビームが飛来する。

「うわっと!」

不意を衝かれたが、ハイネ達 はなんとかそれをかわす。

「何処だ!? 何処から撃っ てきた……!?」

モニターの視界にもレーダー にも敵機の反応は無い……その時、前方の宇宙が歪み、それが形を成す。

浮き上がるように現われたの は、ミラージュコロイドを解除したゴールドフレーム天であった。

「ほう……なかなか優秀なパ イロットのようだ」

不意打ちにも近い今の攻撃を 回避したのはミナを驚かせるには充分だった。

トリケロス改を下げ、腰部に 構えるトツカノツルギを構える。

黒いボディに走るゴールド に、ハイネはどこかゾッとするようなうすら寒さを憶えながらも、ゲイツのビームライフルを構え、応戦する。

ゴールドフレーム天はトリケ ロス改でビームを受け止め、同時にバックパックの翼を開く。それはまるで蝙蝠のような様相を醸し出し、その内部からアンカーのようなものが発射された。 ゴールドフレーム天の最強兵装:マガノイクタチ内に収められたマガシラノホコだ。

弧を描くように向かってくる 二対のアンカーにハイネは眼を見開く。

「ぐっ!」

ハイネのゲイツはなんとかか わし切ったが、僚機はそうはいかず、一機が左右からアンカーに機体を打ち抜かれ、爆発する。

「ちっ……こいつは俺が引き 受ける! お前らは行け!!」

ゴールドフレーム天の注意を 引き付けようと、ビームライフルを斉射しながら加速し、左腕のビームクローを展開して斬り掛かる。

トリケロス改で受け止め、エ ネルギーがスパークする。

その間に、僚機のゲイツ3機 がスラスターを噴かし、アメノミハシラに向かっていく。

「むっ」

その姿を留めたミナの表情が 微かに強張る。

ゲイツを突き放そうとする が、弾かれたゲイツはそのまま一瞬溜め…直後、腰部のアレスターが発射され、ビームアンカーが迫る。

舌打ちし、回避するゴールド フレーム天……その間にも、ゲイツは一気にアメノミハシラへと接近する。

あと少しというところまで 迫った瞬間……攻撃に晒された。

防衛に就いたソキウスの駆る M1Aがビームライフルを構え、正確に狙撃してくる。

その攻撃に一機が機体を撃ち 抜かれ、爆発する……その怯んだ隙を衝き…フォーの駆るソードカラミティが両手のシュベルトゲーベルを振り被り、両断する。

ボディを上下に真っ二つに斬 り裂かれたゲイツ2機は一拍後に閃光のなかに消える。

僚機の撃墜にハイネは苦く歯 噛みした。

「くそっ…! この戦力 じゃ、どうにもならないか……!」

想定していたよりも敵の防衛 網は厚い……このままでは最悪の場合、全滅という恐れもある。

その時、ハイネはコックピッ トに響くアラートにハッと顔を上げると……実弾の応酬が過ぎる。

顔を上げた先には、ガトリン グ砲に変形させたタクティカルアームズを構えるブルーフレームセカンドLの姿があった。

「ん? アレは…サーペント テールのマークじゃねえか……こりゃマジでヤバイぜ」

ブルーセカンドLの胸部に刻 印されているエンブレムにハイネは苦く舌打ちする。

なんとか離脱しようとし、今 一度腰部のアレスターを発射する。

牽制のために発射されたアレ スターをブルーセカンドLは身を翻すようにかわし、手持ちのタクティカルアームズを剣状に切り替え、それを振るった。

次の瞬間、アレスターのアン カーが切り離さる。

「くそっ! 使い勝手悪すぎ だぜ、こいつは!」

思わずゲイツを開発した開発 部の人間に対して毒づく。

この腰部のアレスターは非常 に扱いにくい兵装だ……有線アンカーのために、先を斬られればもう使えず…使いどころが限定されかねない。

しかもこれが無くなるとあと はもう内臓火器は頭部のバルカン砲だけになる。

開発部の連中に文句でも言っ てやりたい気分になり、伸びきったアレスターのコードをパージする。

しかし、相手はただジッとし ている程甘くはなく……タクティカルアームズを構え、ブルーセカンドLは突進してきた。

大振りに振るわれた刃をかわ す。

「ま、それも生きて帰れたら かな!」

自身を奮い立たせるように叫 ぶと、薙ぐブルーセカンドLの攻撃を今一度かわしきる。

タクティカルアームズはその 巨大な武装ゆえにどうしても攻撃の型が限られてくる。振るうか薙ぐか突くか……それを読み取れれば、かわすのはできなくはない。

しかし、それをいつまでも続 けられる自信はない……もう、これ以上の作戦遂行は不可能であろう。

このまま後退しようとした が……刹那、後方から高出力のビームが紙一重で過ぎり、ブルーセカンドLは回避のために一旦距離を取る。

だが、ハイネはその軌跡に息 を呑む。

「うおわっ、あぶねえ!」

もしあと少しでもずれていた らまず間違いなく機体を後方から撃ち抜かれ、コックピットごと焼き切られていただろう。

そう考えるとゾッとする…… 一瞬、敵かと考えたが…後方から迫るのは友軍のシグナルを表示している。

「騎兵隊参上!!」

勇みよく現われたのは先程過 ぎったビームを発射したM59バルルス改・特火重粒子砲を構えるルナマリアの駆るゲイツ…その後方にはバルファス3機が見える。

「ヴェステンフルス隊長、ご 無事ですか!?」

弾んだ声で問うルナマリアに ハイネは頭を押さえ……不審そうに首を傾げた瞬間、怒鳴り声が響いた。

「馬鹿野郎! ちゃんと目標 を絞って撃て! ただでさえそいつは威力が高すぎるんだ! あんな位置で援護したら、下手したら俺も墜ちてたぞ! 味方を殺す気か!?」

「す、すいませ〜ん〜〜」

怒鳴られ、流石にシュンと落 ち込むルナマリア……ルナマリアはどちらかというとこういった大火力を擁する兵装を好む。だが…それをうまく扱える技能がまだまだ未熟だった。

「ったく……まあ、助かった のは事実だ。サンキュ、ホーク」

呆れたように肩を竦めるが、 そう言われてルナマリアは表情を微かに和らげる。

「それよりも、お前ビームラ イフルを持ってないか?」

「あ、はい…携帯してます」

腰部に備えてあったビームラ イフルを手渡す……アレスターが欠けた以上、手持ちの火器でなんとかこの場を逃げるしかない。

「ヴェステンフルス隊長、こ のまま一気に…!」

「いや…恐らくこれ以上は不 可能だ。作戦は失敗だ、バルファスに撤退のための援護をさせる。俺達はその隙に後退する」

「ええっ!?」

せっかく意気込んで来たとい うのに……肩透かしを喰らったようなルナマリアはやや不満げに声を上げるも、それをハイネは嗜める。

「敵の防衛網は想定していた よりもかなり高い…それに、さっきから何機もやられちまってる……ホーク、ましてやお前はひよっこだろう? 無駄に命を落とす気か!?」

そう言われると、流石に口を 噤む。

ルナマリアもそこまで自身を 過大評価してはいない……だが、それでもせっかく気合を入れて前線まで喰い込んできたのに、このまま引き下がるというのもなにか悔しい。

その時、二機のコックピット にアラートが響いた。

ハッとすると、見た目かなり いびつな形のMSがこっちに向かってきた。

背中のスラスターが変形し、 外れてそれが手に収まると…巨大な銃となる。その機体…アストレイフリッケライのコックピットで、シンは照準をセットする。

「いけぇぇっ!」

トリガーを引くと同時に、フ リッケライの構えるタクティカルライフルが火を噴き、ビームの閃光が放たれる。

ハイネとルナマリアは左右に 分散して回避する。

「ホーク! 退くぞ!!」

そう叫ぶが、ルナマリアは キッとフリッケライを睨み…そのまま脇に火重粒子砲構える。

「お、おいホーク!」

「このまま退くなんてできま せん…! せめて……!!」

慌てるハイネにルナマリアは 叫び返し……せめて、一機だけでも墜としておかねば、自分はなんのためにここに居るんだという意義すら失ってしまう。

そんな思いに突き動かされ、 ルナマリアはトリガーを引く。

ゲイツの構える火重粒子砲が 火を噴き、ビームの奔流が放たれるも……それはフリッケライのいる場所とは離れた空間へと過ぎる。

「………へ?」

狙われたシン本人もそれに眼 を瞬き…ハイネも眼を丸くし、口をあんぐりと開けてしまっている。

「よ、よくかわしたわ ね……!」

なにか、見当違いのことを上 擦った口調で叫びながら、再度トリガーを引き、連射するもビームの軌跡は全てフリッケライを避けるように過ぎる。

フリッケライはさして動いて いないにも関わらず……だ……………

ルナマリアの射撃能力の低さ と…大型ビーム砲による発射時の反動の大きさが加わり、命中精度が極端に低くなり、ほとんど下手な鉄砲も数を打てば当たる状態になっているが……いくらゲ イツでもそれだけ連射していれば…………

何発目か解からないトリガー を引いた……だが、砲口が微かに煌き…駆動音が落ちていく。

「え、ちょっと何? 故 障……?」

何度もトリガーを引くもなん の反応も返ってこない……そして、ルナマリアはバッテリーがレッドゾーンに入っていることに初めて気づいた。

「え、嘘? バッテリー切 れ……!?」

半ば混乱する……だが、ゲイ ツからの攻撃が止むとともにシンはチャンスと思い、手持ちのタクティカルアームズを銃形態から剣形態へと変形させる。

「うおぉぉぉっ!」

吼え、フリッケライはタク ティカルアームズの刃にビームを走らせ、それを構えて突進してくる。

そのまま懐へと飛び込み…… 剣を振り上げる。

ビームコーティングされた刃 に砲身を斬り裂かれ……フリッケライは素早く離脱するも、呆然となっていたゲイツは僅かに遅れ……火重粒子砲の爆発を直撃した。

「きゃぁぁつ!」

爆発に装甲が焼け焦げ……爆 風に弾き飛ばされる。

そのゲイツをハイネのゲイツ が受け止める。

「おい、ホーク! 大丈夫 か!?」

「は、はい……なんとか」

「だから無茶すんなって言っ ただろうがっ! ま、生きてるだけでも御の字か!」

ぼやくように叫ぶ……周囲を 確認すると、バルファスも既にブルーセカンドLとカスタムジン、ゴールドフレーム天によって全て沈黙している。

「退くぞ!」

ルナマリアのゲイツを抱えた まま、ハイネのゲイツは後退していく。

「逃がすか……!」

「止めておけ…追い払うだけ で充分のはずだ」

いきり立ち、後を追おうとす るシンを劾が嗜める……これで、このアメノミハシラには強固な防衛戦力が残っているとザフト首脳部にも伝わるだろう。

地球軍との戦争が正念場の 今、そこまでの損害を被ってまでやる意味はないはずだ。

シンは渋々攻撃を収める。

前線の方も、既に決着がつい ているようだ……劾達はこのままフレガートに戻ろうとしたが、そこにイライジャが声を上げる。

「劾! なにか接近する物体 があるぞ!」

その言葉に身構える一同。

「識別は?」

「解からん……だが、このス ピードは異常…いや、データ上ではあり得ないスピードだぞ!」

IFFに反応なし……そし て、モニターから捉えられたこの接近する熱源のスピードは確かに劾にも知る限り、決してあり得ないものだ。高機動型のMAでもこれ程のスピードは出せな い。

操縦桿を握り締め……未確認 機を待ち構える劾やミナ達……そして、彼方になにかが煌いたのを劾が肉眼で捉えた。

「アレか………っ!?」

刹那……まるで光のごとき速 さでなにかが迫ってきた……それは真っ直ぐにゴールドフレーム天を狙う。

「ロンド、バーニアを噴か せ!」

劾の叫びに……ミナはほぼ反 射的にゴールドフレーム天のバーニアを噴かした。

だが、それは僅かに遅 く………光の刃はゴールドフレーム天を捉えた。

「ぐっうぉぉぉっ!」

刃が通り過ぎた瞬間……ゴー ルドフレーム天は両脚部を斬り落とされていた。

「ぐぅ…こ、この私に当てた だと………」

衝撃に揺れるコックピット内 で、ミナは両脚を斬り落とした機影を睨む。

動きを止めたそれは、高速移 動型の巡航型MA………全身をダークパープルに染めたその機影に、劾は即座にガトリング砲を構え、狙撃した。

だが、相手はかわそうともせ ず……銃弾が機体を掠めるも、全て弾き返す。

「PS装甲……」

その装甲に劾は即座に分析 し、砲撃しながら距離を取るために動く。下手に止まっていては先程のゴールドフレーム天の二の舞だ。

「イライジャ、ロンドを連れ てフレガートに戻れ……」

「劾! だが……!」

「こいつのスピードはお前も 見たはずだ……お前のジンでは反応しきれん」

言い募ろうとしたイライジャ を嗜める。

その言葉にイライジャもぐっ と押し黙る……己の力量を知り、そして客観的な視点と冷静さがなければ、傭兵として生きていくことはできない。

確かに、劾の言うとおり、カ スタム化されているとはいえ、ジンではあのMAには抵抗できないだろう。

「解かった…無茶はすんな よ、劾」

やや悔しげに呟くと、イライ ジャのジンは被弾して漂うゴールドフレーム天を抱えて、フレガートに離脱していく。

その光景を眼に留めたMAの コックピットで、アッシュは眼元を薄める。

「おいおい…逃げるなんて赦 さないぜ……ちゃんと抵抗してくれなきゃ……殺り甲斐がねえだろうがよぉぉぉぉ!!」

狂ったように叫び、MAは離 脱するジンとゴールドフレーム天に襲い掛かろうとする。

だが、それはさせまいと劾の ブルーセカンドLが周囲に浮遊していた残骸を掴み、それをMAへとぶつけてきた。

「ほう……先に死にたいのは お前かぁぁっ!」

鬱陶しいげに吼え、MAが急 加速する。

だが、劾は回避しようとせ ず……そのまま腿部のアーマーシュナイダーを引き抜き、身構える。

回避してもあのスピードでは 完全にかわし切るのは難しく、また運良くかわせてもどう何度も通じるとは思えな。ならば、多少の無茶は致し方ないだろう。

あの急加速ではそうおいそれ と制動はかけられない……機体に負担が掛かりすぎる。それは向こうのパイロットも承知のはず……ならば、一直線に突き進んできたところを衝くしかない。

並のアーマーシュナイダーで はPS装甲は貫けないが、これにはビームコーティングが施せる。

身構えるブルーセカンドLに 向けて、MAが急接近してくる。

捌くタイミングを逃さず…… あと少し…そして、ブルーセカンドLは身体を捌くようにしてアーマーシュナイダーを突き刺した。

このタイミングなら、向こう も絶対にかわせず、カウンターの要領で相手に致命傷を与えられる……そう確信していた劾だが、アッシュはニヤリと口元を歪め……次の瞬間、劾は驚愕に眼を 見開いた。

向かってきたMAが突如変形 したのだ。

そのまままるで、虫が脱皮す るように先端が四方に分かれ、脚部となり……本体が立ち上がり、そこから姿を見せる四肢と人型を表すツインアイの頭部………

「MSだったのか……」

静かに…それでいて驚きを滲 ませながら劾が呟く。

変形した機体のなかで、アッ シュはその驚きを見透かしたようにほくそ笑む。

「ックク…なかなか面白い手 だったが……この機体には通じない…このリジェネレイドにはな………」

いびつな四肢を成すアッシュ の搭乗機は、ZGMF−X11AU:リジェネレイド……スペリオルとともに開発されたX11シリーズの2号機。可変機構を導入した核動力機。

「さあ、貴様の死を俺にみせ てみろ!!」

アッシュが叫び、リジェネレ イドは両腕にビーム刃を展開し、ブルーセカンドLに斬り掛かる。

劾は舌打ちし、タクティカル アームズの剣を起動させ、ビーム刃を受け止める。

だが、アッシュは口元を歪 め……劾は反射的に身を捻った。

弾くように後方へと跳ぶブ ルーセカンドL……だが、その胸部には鋭い斬撃の跡が残る。

劾のエンブレムであるサーペ ントを模したエンブレムに刻まれた傷跡……顔を上げた劾の眼には、腕だけでなく足の爪先からもビーム刃を展開しているリジェネレイドが映る。

「ほう……なかなかいい反応 だ…それでこそ、殺り甲斐がある!!」

致命傷には至らなかったとい うのに、アッシュは愉しげに笑い、再度斬り掛かる。

ブルーセカンドLも身構え る…だが、そこへビームが過ぎり…リジェネレイドは動きを止め、アッシュが顔を上げると、そこにはフリッケライがビーム砲を構えている。

「くそっ……!」

スコープを戻しながら、シン はタクティカルアームズを剣状に戻し、フリッケライを加速させる。

そのままリジェネレイドに斬 り掛かる……だが、リジェネレイドは悠々とかわす。

「なぁんだ…そんな攻撃が俺 に当たるか!」

単調すぎるその攻撃に、アッ シュはつまらなげに毒づき、フリッケライを蹴り上げる。

「うわぁぁっ!」

衝撃に呻くシン……フリッケ ライに向けてそのままビーム刃を振り下ろす。

それはタクティカルアームズ を斬り裂き……爆発がフリッケライを包む。

 

 

 

「お兄ちゃん!」

アメノミハシラの医務室で戦 闘をモニターで見詰めていたフィリア達……シンのフリッケライがリジェネレイドにやられ……手持ちの装備を破壊されて爆発に包まれる光景にマユは叫ぶ。

フィリアも表情を強張らせな がら息を呑む……あの出現した謎のMS:リジェネレイドの能力はかなり高い…しかも、今はレイナ達主力メンバーがほぼ出払っているという最悪のタイミン グ……

「……シン…?」

ステラはただ、静かにその光 景に見入っている……それが、彼女の記憶を呼び起こす。

迫る白銀の天使……恐怖に震 える自分………

そして……自分を助けるため に現われたシンの姿…………

「…まも、る………ステラ を………まもる…シン…………」

自分の肩を抱きながら、護る と言ったシンの顔が過ぎる………ステラはそのまま、夢見心地のような表情のまま、医務室を出て行く……フィリアもマユもそれに気づかなかった……

通路に出て……そのままフラ フラと彷徨うように歩くステラの足は、格納庫へと進む。

格納庫内では、被弾したM1 の収容や整備のために慌しくなっており、ステラに気づく者はいない……ステラはそのまま、奥にあるハンガーの前に立つ。

3機のメンテナンスベッドの 内、2つは空……ストライクルージュとフリッケライが以前は収容されていたが、今は空……ステラは、中央のフリッケライが固定されていたメンテナンスベッ ドを見上げる。

何度も足を運んだ格納庫で は、シンはここでよくフリッケライのシミュレーターと整備を行い、整備班に怒鳴られたり笑いあいながらいた。

「護る…護る………ステ ラ……護る………シン……護る」

玩具のように何度も呟いてい たステラの瞳に決意のような鋭さが宿る……そのまま、ステラはフリッケライのメンテナンスベッドの横に固定されているハイペリオン3号機のコックピットに 続くラダーを手に取り、ハッチへと昇っていく。

そのままシートに着くと同時 にハッチが閉じ……APUを起ち上げていく。

駆動音を響かせ、瞳に光を宿 しながら……ステラは操縦桿を切り、ハイペリオン3号機は半ば強引にメンテナンスベッドの固定具を引き千切った。

「な、なんじゃ……!?」

その時になって、ようやくト ウベエ達整備班も異常に気づいた。

パイロットが未だ未決定のは ずのハイペリオン3号機が突如として動き出し、そのままハッチへと向かっていく。

《ハッチを開けて!》

「なっ、お嬢ちゃんか!?」

ハイペリオン3号機のコック ピットから響いてきた声に聞き覚えのあったトウベエは思わず上擦った声を上げる。

《護る、護るの! ステラ、 護るの!》

要領を得ない叫びだが……ト ウベエはやや表情を苦くしながらも怒鳴った。

「おい、ハッチを開けるん じゃ! ここでハッチを壊されたらたまらん!!」

こんな場所でハッチを壊され でもしたらそれこそ内部から崩壊だ……それに、引き止めても無理と悟ったのか、素早くトウベエの指示を実行し、外部へと続くハッチが開く。

そこへ歩んでいくハイペリオ ン3号機……その背中に向けてトウベエが叫ぶ。

「必ず帰って来い! いい なぁぁぁ!!」

その声が聞こえたかは解から ないが、ハイペリオン3号機はそのまま外部ハッチへと続く空間に出ると、格納庫へのハッチが閉じられ…続けて宇宙へと続くハッチが開く。

見えるのは拡がる宇宙……怖 い……と感情がせめぎあう。

「護る………護る…戦 う………ステラ…戦う!」

護るために戦う……以前…誰 かにそう言われた………それを反芻させながら、ステラはペダルを踏み込む。

刹那、ハイペリオン3号機の バーニアが火を噴き……レバーを押した瞬間、ハイペリオン3号機は機体を飛び立たせる。

堕ちし流星は今……新たな星 となって飛び立つ…………共にあるべき星を護るために…………

 

 

 

突然の乱入者に困惑したのは オーブ側だけでなく、ザフト側もだった。

「いったい、何なの……で も!」

シホは乱入したリジェネレイ ドがザフト製のMSだということを知らない……自身の乗るシュトゥルムの兄弟機であることも……それは仕方ないだろう。リジェネレイドは完成後すぐにアッ シュの搭乗機として極秘裏に配備されたためにその所在を知るのはパトリックと一部の人間達のみだ。

IFFにも反応がないが、今 のシホにはそんな事を気に掛けている余裕もない。

だが、アレのおかげでオーブ 側もかなり混乱している……撤退するなら、今しかないだろう。

《ハーネンフース、聞こえる か!?》

その時、コックピットにハイ ネからの通信が響く。

「ヴェステンフルス隊長…そ ちらは!?」

《こっちはダメだ…俺以外は 墜とされちまったし、あとはホークだけだ》

直接攻撃に出たハイネ達の部 隊もほぼ壊滅……そして、やはりそちらにも訓練兵が回っていたという事実に歯噛みする。

「そうですか……こちらも、 訓練兵のジンが3機ほど墜とされました………」

《皆がっ!?》

ハイネは苦々しく舌打ちし、 ルナマリアは驚愕に眼を見張る。

同僚の死に……ルナマリアは 信じられない思いだが、戦場で恐怖を知らない者は早死にするだけ……今回ではその恐怖を知ってもらおうとしたのだが、その恐怖が過剰に反応してこのような 結果になってしまった。

もうこの作戦はいうまでもな く失敗だろう……そもそもほぼ無傷で手に入れるというのが本来は不可能に近いのだ。

そこへ、ビームが轟く。シュ トゥルムが両肩のリフレクトシールドでビームを弾き、被弾したゲイツ二機の盾になる。

「あちらがなにか混乱してい ます……それに、潮時でしょう」

《……だな。撤退するぜ!》

アレクサンドロスに通信を送 ると、中破したローラシア級のチャールズがなんとか自力航行ができるまでに回復したらしい。

ならば、もう長居は無用 だ……撤退の旨を送ると、アレクサンドロスとシェルドレイクは反転していく。

そして、撤退のためにシホは ハイネ達を促す。

「私が時間を稼ぎます…… ヴェステンフルス隊長は皆をまとめて後退を!」

M2とM1Aを牽制しなが ら、シホが叫ぶ。

ただでさえ、浮き足立ってい るなか…撤退のために誰かが時間を稼がねばならないだろう。

本来なら、それはハイネがや るべき役割なのだろうが、今の自機の状態ではそれは不可能だ。それを理解しているからこそ、ハイネは硬い声で応じた。

《ああ…死ぬなよ、ハーネン フース》

「はい……ジュール隊長の部 隊で戦えないまま死ぬのは御免ですから」

冗談めかした口調で答えると 同時に、シホは操縦桿を切り、シュトゥルムは腰部から長い棒のようなロッドを取り出す。

シュトゥルムの白兵用兵装: トライデント……先端に、三椏のビーム刃が展開される。

それを回転させながら、構え ると同時にシュトゥルムは加速する。

接近戦に移ったシュトゥルム にジャンとバリーはやや表情を強張らせる。

「接近戦は俺がやる!」

「解かった…援護する」

互いに役割を確認するまでも ない……バリーのM1Aはシールドにビームサーベルを構え、シュトゥルムに向かって加速する。

そのまま中央で交錯するよう に激突する。

突き出されたトライデントの ビーム刃をシールドで捌く……表面が融解するも、ビーム刃は滑るように捌かれ、M1Aはビームサーベルを突き刺す。

だが、シュトゥルムはその軌 道を読み、機体を逸らしてかわす。

そのまま流れるような要領で トライデントを振り、それがM1Aを弾き飛ばす。

そのパワーにバリーは微かに 歯噛みする。

一回転し、そのままトライデ ントを構えてM1Aに襲い掛かろうとするも、そこにジャンのM2からの援護射撃が割り込む。

リフレクトシールドで弾きな がら、腰部のレールガンで狙撃する。

M2はスラスターを噴かし、 それを螺旋を描くように回避すると同時にビームライフルを放つ。

その火線に晒されるシュトゥ ルムに向けて態勢を立て直したM1Aが拳を振り被り、突撃してきた。僅かに反応が遅れ……シュトゥルムのボディ目掛けて拳が叩き込まれる。

「ぐぅぅぅ!」

コックピットに響く振動…… 微かに呻くシホは、友軍機のシグナルが艦へと帰還するのを確認し、ブラストビームキャノンを展開し、その兵装に身構えるM2とM1Aに向かい、トリガーを 引いた。

ビームの奔流とレールガンの 弾頭が轟く。

それは2機を掠め……気が逸 れた瞬間を衝き、シホはシュトゥルムに備わった機能を作動させた。

両腕、両脚が真っ直ぐ伸 び……そのままボディが倒れ、バックパックのスラスターが変形し、前面へと倒れる。

刹那……脚部のバーニアとス ラスターが火を噴き、高速型MAに変形したシュトゥルムは離脱していく。

その去っていく姿に、ジャン とバリーは無言で見送る。

「なかなか見事な引き際 だ……」

「ああ……己を盾とすると は………かなりのパイロットだ」

危険なしんがりを務め、しか も2機を相手に互角に耐えた……戦士としての感覚が、その戦いへの高揚を冷ませない。

《ジャン、バリー! なにを ぼうっとしている! あちらの援護に回る!》

そこへグランの叱咤が飛び、 ジャンとバリーはハッと気づく。

別の場所では未だ戦闘が続い ているのだ……グランはM1部隊に周辺の警戒を与え、別部隊か別の敵の出現に残し、自身のM2とジャンのM2、バリーのM1Aが未だ銃火が飛び交っている 場所へと向かう。

 


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