オーディーンの艦長室を訪れ たレイナとリン……そして、眼前の執務デスクのシートに腰掛けるダイテツを見据える。

「話……って何?」

自分達二人を呼んだ訳……恐 らく、自分達だけに関係あることだからこそ、あそこでは渋った。そこから、導かれるのはきょうだい達に関係することと察するのはさほど難しくない。

話し掛けられたダイテツは暫 し、パイプを噴かし……一服すると、パイプ内に溜まった灰を手元の灰皿に落とす。

「お前達のきょうだい……セ シルの研究成果まで持ち出してきた以上、この先何が起こるか想像もできん」

セシルの研究成果という確固 たる確証は得られなかったが、それでもあの天使の戦闘能力は眼を見張るものがあった。

アレだけの能力を備えた機体 を既に増産しているとすれば……この先、彼らとの戦いはより激しさを増すであろう。

重々しい口調で語るダイテ ツ……だが、そんなことは解かりきっている。

一筋縄でいく相手ではないの は………そして…避けられない相手であることは…………

「そして……今のお前達では 勝てん………」

静かにそう評するダイテ ツ……リンはやや歯噛みし、視線を逸らす。レイナも悔しげに拳を握り締めるが、思わず叫ぶ。

「そんな事解かっている!  だけど、奴らは…カインは私が止める……! 私の……!」

「お前の命を捨てても…… か」

レイナの言葉を紡ぐダイテ ツ……だが、レイナは無言のまま押し黙る。

それのなにが悪い……自分の 命など……まったく価値のないもの……どう棄てようがそれは自分の勝手だろう。

そんな被虐的な考えを見透か したように、ダイテツは今一度重い溜め息をついた。

「そうやって……お前は自分 を否定し続けるのか……この先も…死ぬまで」

呆れたような口調で呟くが、 レイナは言い返さない。

死ぬまで……だが、自分達は 本来、存在してはならない禍がいもの………レイナの内にもそれは燻っている。

「ヴィアの……彼女の言葉を 忘れたわけではあるまい………それに、わしもお前達にはそんな道を選んでほしくはない………」

とっくにダイテツにはお見通 しだった……レイナやリンの考えも………わざわざ戦後のお膳立てまでして、その最大の障害を自分達の命を以って取り払おうとしていると………

ダイテツは、無言のままパイ プを置き、徐にデスクの抽斗を引き……そこから2枚のディスクを取り出す。

訝しげに見るレイナとリンに 向けて、ディスクを見せる。

「これは、わしがヴィアから 託されたもの……そして、ヴィアの最後の遺言だ」

その言葉に息を呑む。

ヴィア=ヒビキの託したも の……最後の遺産……それらが二人の脳裏を掠める。

「お前達二人が本当の意味で 自身の道を進む刻が来たら……DEMとともに…これを渡してくれとな」

差し出す2枚のディスクを受 け取り…手に翳す。

「それには、インフィニティ とエヴォリューションに秘められた能力を引き出すためのプログラムが入っている」

「インフィニティとエヴォ リューションの……」

「秘められた…能力……?」

「そうだ……お前達には、そ の力の一端に心当たりがあるのではないかな?」

そう問われ……逡巡し…ハッ と顔を上げた。

オーブのカグヤ周辺で感じた あの奇妙な感覚……機体と一体化するような融合感……それらが脳裏を掠める。

「ヴィアと…マルスは、お前 達が真の意味であの2機を使う刻のために……敢えてその能力にリミッターをかけた。それは、それを解くために必要なキー……」

そう……メタトロンに対抗す るためにマルスが持てる技術を注ぎ込んで造り上げたインフィニティとエヴォリューション……だが、その中枢に埋め込まれたメタトロンと同型のシステムのみ だけがどうしてもマルスに制御できない代物だった。

そのために、マルスはそのシ ステムにリミッターをかけ……その部分を発動させるプログラムをわざと抜いた。

そのプログラムと…システム 発動のキーをヴィアへと託した。

そしてヴィアは、そのプログ ラムとキーをダイテツへと託そうとしたが、それができない状況になり、ヴィアはウズミのもとへと送った。ダイテツと旧友でもあるウズミなら、必ずそれを渡 してくれると………

万が一に備えて、プログラム ディスクとキーは別々にし、それぞれ3つに分散させた。

そして、ダイテツことウェ ラードがオーブによって救助され、プラントへと上がる時、ウズミはそれをダイテツへと託した。

「それを起動させるための キーは既に……お前達はヴィアから受け取っているはずだ」

弾かれたように、視線が胸元 のペンダントへ向けられる。

「これが………」

記憶の彼方で……ヴィアが二 人に与えたもの………これが、インフィニティとエヴォリューションの能力を引き出すためのキー………

インフィニティとエヴォ リューションの2機の能力を3つへと分散させ、マルスとヴィアはそれぞれに託した。

ペンダントとディスクを、強 く握り締める。

「最後に……これだけ言って おこう……死を恐れないことと死を望むことは違う………お前達が自身の死さえ無価値と捉えれば、そのシステムはお前達の身を滅ぼす……それだけは忘れる な………」

ジッとディスクとペンダント を凝視しようとした瞬間、突如艦内にアラートが響いた。

身構えるレイナとリン……ダ イテツも反射的に手元の通信機を押し、ブリッジに繋げる。

「ブリッジ! この警報は何 だ?」

《きゅ、救難信号です! 距 離7000! 識別はジャンク屋組合の輸送艦です、現在攻撃を受けている模様、至急救援をと!》

その報告に眉を寄せる。

こんな宙域でジャンク屋組合 の輸送艦が一隻で航行…しかも、襲撃されている。

「見過ごすわけにはいかん か……」

本来なら、ここで自分達を曝 け出すわけにはいかないが、民間船が襲われているのなら放っておくことはできない。

しかし、距離が遠すぎる…… おまけにまだ各艦の機体は調整中で満足に動ける機体は少ない。

「私が行く……インフィニ ティなら、すぐに行ける」

思考を巡らしていると、レイ ナが口を挟む……インフィニティは幸いに調整を終えてすぐに出られる。それに、加速力を考えればインフィニティの方が適任だろう。

ダイテツは間髪入れず頷く。

「解かった……頼むぞ」

「ええ…リン、格納庫へ…… インフィニティを回して」

「解かった」

すぐさまインフィニティの発 進を進めようと、リンが格納庫に…レイナも後を追おうとするが、その背中にダイテツが声を掛けた。

「レイナ………」

その言葉に、ドアを半分潜 り、動きを止める。

振り向こうとしないレイナ に……ダイテツは深い口調で問い掛けた。

「お前が自分をどれだけ信じ ていないかは解かる……だが、お前は今生きている……そして、生きている以上は、幸せになる権利がある……ヴィアはお前にそう望んでいた……お前は、それ を決して掴もうとしないのか………?」

自分自身が信じられない…… それは生きるうえで辛すぎることであろう………レイナは…いや……レイナ自身は本来なら禍がいものの人格……奥底に潜む本来の人格……それがレイナには自 身を信じられなくしている。

「………こんな…血で濡れた 手で………幸せになれるの? 私が? 仮になれたとしても……私のように呪われた運命を背負うことになる………」

静かに持ち上げる手……きょ うだいを……多くの命を奪った手………それに後悔はしていない……だが、だからといって自分が特別などと自惚れるつもりもない………

命を奪い…これからも奪い続 ける自分には………そんな道は赦されない………

ヴィアがたとえ望んでいて も……自分には選べない………赦せない…………

そして………そんな生き方を 自分以外に架すつもりもない………

「私の生き方は…私が決め る………たとえ、どんな道だろうと……………呪縛の鎖は…私の死で終わらせる………」

裁きの刻まで……突き進むだ け………その道が終わるのなら…………

たとえそれが……自分の死で あっても…誰も望まないとしても…………

一度も振り返らず、駆け出す レイナ……閉じられるドア…それを見送ると、ダイテツはシートに深く腰掛け、大きく息をつく。

「ヴィア……あの子は優しく なった…だが、それと同時に哀しい生き方しかできなくなってしまったようだ………」

項垂れるように額に手を置 き、見えない相手に向けて懺悔するように囁く。

感情は滅多に見せなかっ た……いつも冷静に…ただ機械のように生きていたレイナ……感情を表には出せるようには変えられた……だが、彼女の内の覚悟と運命だけは変えられなかっ た………

「………わしは、結局あの子 の父親にはなれなかったな……」

レイナの生き方を変えること はできなかった……そう自嘲し、寂しげに笑うと…その場を立ち、ブリッジに向けて歩みを進めた。

 

 

 

オーディーンの格納庫では、 インフィニティの発進準備が進められ、インフィニティがカタパルトに乗る。

「ちょいあんた、パイロット スーツは!?」

私服のまま、コックピットに 入ろうとするレイナにルフォンが驚いて声を掛ける。

「必要ない…それに、時間が 惜しい」

素っ気なく振り払うと、その ままコックピットに入り、ハッチを閉じる。

APUを起ち上げ、コンソー ルに光が灯り……インフィニティの瞳が煌く。

そのままカタパルトデッキへ と移動し、格納庫ハッチが閉じられ…発進口が開く。

レイナは無言のまま、懐から ディスクを取り出す……それを凝視していたが、やがて意を決したようにディスクをコンソールの挿入口へと差し込む。

ディスクがセットされ、プロ グラムがロードされていく……画面に、インフィニティの機体図が映し出され、プログラムリンクの流れが繋がり、インフィニティの頭部と繋がる。

「やはり……」

これまで、インフィニティの 内部構造のチェックでブッラクボックスであった部分……改修時にも、トウベエやルフォンに手が出せなかった部分………

それが、インフィニティに内 蔵されたシステム………そして、それを起動させるために必要なもの………

無造作にペンダントを外 し……それが無重力のコックピットに浮遊する。

《APUオンライン……カタ パルト接続、EX000AT…コースクリア、発進どうぞ!》

電磁パネルが点灯し、レイナ は操縦桿を握り……ペダルを踏み込んだ。

刹那……スラスターが火を噴 き、インフィニティを打ち出す。

宇宙へと身を躍らせたイン フィニティは、漆黒の衣を纏い、真紅の翼を拡げる。

そして……戦闘宙域へと翔 ぶ……果てない闇を抱えて…………

 

 

 

デブリ帯周辺を航行していた ジャンク屋組合の輸送船……フォルテ直々からの勅命を受けた者達が、プラントからある物を預かり、とある場所へと向かっていたのだが、そこに運悪く連合の 哨戒部隊に発見されてしまった。

貨物調査を行うかと思いき や、なんと停船勧告もなしにいきなり発砲してきた。

実はこの哨戒部隊……連合内 部でも素行不良などが目立つ部隊だった。

連合の威容と力を使い、度々 民間艦を襲っては金品を略奪していたのだ。そのようなことを黙認するあたり、既に連合のモラルなど無いに等しいだろう。

「いいか、絶対にエンジンと 貨物ブロックには当てんなよ……久々の獲物なんだからな」

卑下た笑みを浮かべる男は、 どうやらこの部隊の指揮官らしい……ストライクダガーを駆り、輸送船の動きを止めようと周辺を威嚇する。

ここ最近は、制空権争いが激 化しているために民間船はなかなか衛星軌道に来ないのだ。

そのために久々に発見した獲 物を逃すまいとビームライフルを構える。

照準が輸送船のブリッジに合 わさった瞬間、舌を舐めずり回す……次の瞬間、僚機のストライクダガーが突如爆発した。

その爆発に驚き、思わず動き が止まる。

「どうした、何事だ!?」

「こ、攻撃です! 高速で接 近する機影……ぎゃぁっ!!」

最後まで言葉が続かず……ま たもやストライクダガー一機がコックピットを撃ち抜かれ、爆発する。

慌てて顔をそちらへと向ける と……こちらへと真っ直ぐに向かってくる黒い機影……それがストライクダガー隊の上に舞い上がる。

漆黒のボディに真紅の翼を羽 ばたかせる破壊の堕天使…インフィニティ………それが、恐怖を誘う。

弾かれたように応戦するが、 インフィニティはビームを掻い潜り、インフェルノを引き抜き、ストライクダガーに向かって突撃し…ビーム刃を振り上げる。

上下にボディを両断され、一 拍後爆発する……振り向きざまにインフェルノを投げ飛ばし…それが真横にいたストライクダガーのコックピットを貫き、爆発する。

それに眼もくれず、左手のデ ザイアを振り被り……刹那、ビームが幾条も放たれ、数機を纏めて撃ち抜いていく。

瞬く間に小隊が全滅させら れ……指揮官の男の顔が恐怖に歪む。

ゆっくりと振り向き……真紅 のカメラアイがこちらを射抜いた瞬間、男は恐怖に突き動かされ、背中を見せて母艦へと帰還しようとする。

その背中に向けて……レイナ は無表情でオメガを構える。

鼓動が聞こえる……そし て……頭に声が響く…………撃てと……………照準がロックされた瞬間……トリガーを引いた。

オメガから解き放たれる閃 光……ビームの奔流が背中からストライクダガーを貫き、機体を蒸発させる。それだけに留まらず、ビームはそのまま真っ直ぐ伸び……その先にあった護衛艦の 船体を貫き、護衛艦が轟沈する。

僅か数分で敵を殲滅し……残 骸が漂う宙域に静かに静止するインフィニティ………

まるで……屍のうえで佇む堕 天使のごとく………

コックピット内で、レイナは 己の手を見やる………

血で濡れている以上に……内 から叫びが聞こえる………戦えと…殺せと……血がほしいと………獣ような黒い感情が渦巻く。

地獄に堕ちし天使の頭上に光 は輝かない…永遠の闇のなかを彷徨う運命………

「結局……どうあっても…私 はこうしか生きられない…………残念だけどね」

内に燻る魂……闇への感 情……それはどうあっても否定できない……

ぼやくように……レイナは コックピットに浮遊するクリスタルに向かって語り掛けた。

そこへ、オーディーンがやっ てき……被弾していた輸送船はひとまずオーディーン艦内に収容されることになった。

 

 

「ジャンク屋組合の輸送船、 及びインフィニティ収容完了!」

オペレーターの報告に頷く と、ダイテツは先行する3隻との合流を指示する。

「……流石、お前の娘だ な…」

ブリッジには、先程の会議で オーディーン艦内に残っていたハルバートンだった。サブシートに腰掛け、戦闘の様子を見詰めていた。

「皮肉か?」

「いや、お前の若い頃にそっ くりだ……無茶で…そして、不器用な戦い方しかできなかったお前にな」

軽く睨むような視線を向ける ダイテツにハルバートンは肩を竦める。

かつては大西洋連邦の宇宙軍 に属し、ともにMA乗りでもあったダイテツとハルバートン……宇宙での海賊達との戦闘など、多くの死線を経験し、潜り抜けてきた。

互いに無茶とも思えることも やった……あの頃は若く、そしてどんな困難でもやり遂げる自信があった…今思えば、それは過信で自惚れであったかもしれない。

「お互いに、歳をとったもの だな………」

ダイテツも苦笑めいた表情を 浮かべる。

「ああ……だが、未来をつく るのは老人ではない………若者達だ……そのために、あやつらには生きてもらわねばならん………」

静かに前を見据えるダイテ ツ……ハルバートンも同じように視線を向ける。

「歳をとると、いらぬ気苦労 まで背負い込むものだな………ハルバートン、アメノミハシラへと戻ったら、一杯付き合わんか?」

「そうだな……では、久々に お前の秘蔵を飲ませてもらおうか」

軽く笑みを浮かべるハルバー トンに、ダイテツはやや表情を顰めて頷く。

「艦長、収容した輸送船のパ イロットが会見を求めています」

唐突に掛けられたその報告 に、ダイテツは振り向き……眉を寄せる。

「礼ならいらん……輸送船の 修理が済み次第、離れてもらえ」

「いえ……どうしてもと」

言い淀むオペレーターに、思 考を巡らせ……やがて答え返す。

「解かった……話をしよう… 格納庫で待てと伝えろ。それと、レイナ達も格納庫に待機させておいてくれ」

「はっ」

指示を出すと、ダイテツは シートから立ち上がり、ハルバートンを促す。

二人は揃ってブリッジを後に し……格納庫へと向かった。

 

 

格納庫に収容された輸送船の 周囲には、万が一に備えての警備兵を配置し、レイナやリン、アスランとリーラが輸送船のハッチ付近に待機する。

「いったい、どういうことな んでしょう?」

何故ジャンク屋組合の輸送船 が自分達に用があるのか……補給に来るという話は聞いていない。

誰も無言のまま……静かに ハッチを見詰めていると、やがてダイテツとハルバートンが格納庫に現われ……ハッチが開放され、輸送船のパイロットらしき人物が出てくる。

「どうも、おかげで助かりま した…ここ最近の連合のやり口が悪質になっていて……」

「いや…そちらこそ無事でな により…わしが、当艦の艦長、ダイテツだ」

思わず愚痴りそうになったパ イロットをやんわり制すると、用件を切り出す。

「して………いったい、どの ような用件かな?」

「はい……実は、ライラック 女史から貴方方へ言付かってきたものがあるのです」

その言葉に、一同はやや戸惑 う。

「そのような話は聞いていな いが……」

フォルテからそのような話は 聞いていない……補給にしても妙な点が多い。

「今回は、随分と急でかなり 極秘裏に請け負った仕事なので……そちらには恐らく回らなかったのでしょう」

軽く謝罪すると、パイロット は事情を説明する。

「この積荷は、プラントから 依頼されたものです……これを、貴方方に渡すようにと」

「プラントから?」

予想外の依頼主に首を傾げる なか、輸送船の貨物ハッチが開かれ…そこからトレーラーに引っ張られたMS用の大型輸送台が引かれてくる。

誰もが困惑した面持ちで見守 るなか……係員が輸送台に飛び乗り、シートを固定している拘束具を解除する。

流れるように落ちるシー ト……その下からは、グレイのボディを持つMSが姿を見せた。

その形状に驚愕する。

Gと同じ形状デザインを持つ 重装甲の機体………まだ、完成はしていないが、それは紛れもなくZGMF−Xナンバーの機体であった。

「これは……」

さしものダイテツも二の句が 次げないほど眼を見開いている。

「こいつと、あと専用のパー ツ……これがプラントから依頼された積荷です。確かに渡しましたよ」

あくまで冷静に仕事をこなす パイロットに、ダイテツは上擦ったまま返事をする。

「これ、こいつの仕様書で す……それじゃ、確かに」

マニュアルを手渡すと、パイ ロットはそのまま輸送船内へと戻り……トレーラーを下ろした面々も輸送船内へと戻っていく。

やがてハッチが閉じられ、や や呆然とした面持ちでいた一同は素早く我に返ったレイナがすぐに退避を促し、すぐさま離れる。

輸送船はゆっくりと動き…… ハッチから出て、オーディーンより発進していった。

後に残った一同は、やや唖然 とした面持ちで、トレーラーに固定される機体を見やった。

レイナはダイテツに渡された 仕様書に眼を向ける。

「ZGMF−X12A……… マーズ………」

仕様書の一番上に記載された この機体の名…………

整備士達が困惑するなか…… そこへ天使の解析を担当していたルフォンが格納庫にやってきて、その状態に首を傾げる。

「なんやなんや……いった い、なに驚い………いいっ!?」

掻き分けながら、視線の先を 覗いた瞬間……ルフォンの眼が驚愕に見開かれた。

「な……なんでマーズがここ にあるんやぁぁぁぁ!!」

さも訳が解からないとばかり に叫ぶ。

軍神の意味を冠するマシ ン……突如として齎された新たな力………ナンバー12の新たな剣…………

誰もが困惑と驚きに包まれる なか……4隻はアメノミハシラへと帰還していくのであった………

 

 

 

 

同時刻……レイナ達と別行動 を取り、キラが同行していたリ・ホームはL4宙域の廃棄コロニー群へと向かっていた。

この宙域に、例の戦艦がいる という情報を劾から受け取り、ロウ達の表情が緊迫したものに変わっていた。

「周辺宙域に今のところ反応 はありません……」

レーダーを見詰めながら、 リーアムが呟く。

「ジョージ、格納庫のあいつ らに準備進めさせてくれ……見つけたらすぐおっ始めるからな」

「解かった」

ジョージはすぐさま格納庫に いるパイロット2名へと文字通信を送る。

 

 

リ・ホーム格納庫では、固定 されているレッドフレームの隣に立つフリーダムとドレッドノート………

そのコックピットでは、キラ とプレアが最終調整を進めている。

メンデル戦で大破したフリー ダムは無事修復を終え、キラはOSのセッティングを終えると、コックピットから出る。

「キラさん……」

フリーダムを見上げていたキ ラに向かって、ドレッドノートの整備を終えたプレアが近づいてきた。

「あ、プレア……」

「相手を……カナードさんの ことを考えていたんですか?」

核心をつくような問い掛け に……キラはやや俯きながら頷く。

「うん……正直、僕も混乱し ているんだ………きょうだいかもしれないって聞かされて……」

自分の出生を少しずつだが受 け入れている今のキラにはまだ辛い事実だ。自分以外にも父親によって生み出された存在………

そして…自分を狙うのは、自 分という存在に対しての憎しみ………脳裏に、クルーゼの顔が過ぎる………

あの男のように、全てに絶望 し……そしてその憎しみの矛先を自分へと向けているのか………だとしたら、キラにはどうしようもない後ろめたさが渦巻く。

無論、キラという存在に罪は ない……だが、実の父が犯したという事実がそこまでキラに暗い感情を抱かせていた。

「僕が行っても……何の役に も立たないんじゃないかって………」

確かに自分は最高傑作として 生み出されたかもしれない……だが、キラはとてもでないがそんな事を誇ることもまた自覚することもできない………むしろ、自分は弱いと……最低だと……そ んな被虐めいた考えがキラを占めている。

俯くキラに向かい、プレアは 静かに肩に手を置き、首を振る。

「いえ……そんな事はありま せん……あの人を救うためには、貴方の力が必要なんです……僕だけじゃ、どうしようもないぐらいあの人の憎しみが強くなってしまった」

やややるせなさを感じさせ、 唇を噛むプレア……自分は、自分の力に嫌悪しながらもその力を使って相手を傷つけた………ただ、相手を倒すためだけに力を使ったということが、プレアの忘 れかけていた己の本来の存在意義を甦らせ、苦悩させる。

「僕自身が情けなく思いま す……このドレッドノートの力………勇敢な者…遠くへと想いを飛ばす力だとロウさんは仰ってくれました…でも、僕はその自信がない……恥ずかしいことです が………」

一度相手を傷つけたことがプ レアを億劫にさせている……自分にそんな想いを飛ばす力があるのかと……自身に問い掛けても答えは返ってこない。

「でも……僕はあの人を助け たい…暗い闇の憎悪から………あの人自身を覆う殻から……僕は卑怯です……そのために、キラさんを利用しようとしている………」

自虐めいた笑みを浮かべ、表 情を俯かせる。

どんなに言い繕っても……結 局は自分の自信の無さを理由にしているだけ。そして…キラに助けを強要していると………

「でも……僕はどんなに罵ら れてもいい……どんなに蔑まれても構わない……だから、キラさんの……自由の力を貸してください」

深々に頭を下げるプレアにキ ラは慌てる。

「か、顔を上げて……僕は、 そんな立派な人間じゃない…………」

買い被りすぎだと……自分の 方こそ、そんな価値がないとキラは思っている。

「僕こそ……怖いん だ………」

小さく…そして苦悩を噛み締 めるように呟く。

怖い……父の犯した罪と向き 合うことが………お前のせいだと……自分のために犠牲になったと……そう罵られるのが怖かった………

「そんな僕の手で………誰か を救えるのかって…ずっと考えてた…………」

臆病な自分……結局、肝心な ところで竦んでしまう自分………結局、都合の悪い一番肝心なことから逃げている自分………なにも変わっていないと………

そんな自分が酷く恨めし い………

「……臆病で…いいと思いま す」

唐突に漏らした一言に……キ ラは顔を上げる。

「人は……一人一人違いま す…その人の心がどうなっているのか……それは誰にも解からないと思います……そして…誰もがその深淵を隠す……それに触れようとするのは、誰でも躊躇い ます………」

人の心の内を無理矢理こじ開 けてもなんにもならない……それを開かせようとするのは果てしなく難しい………だから…それは臆病でも構わないのだ………

「ほんの少しの勇気でもい い……その人に自分の想いを届ける……それでいいと思います。それに……」

プレアは徐にキラの手を取 る。

「貴方の手は……なにかを護 るための手です………なにかを奪い、壊すためのものじゃない………そして…あの人も」

勇気付けるような笑顔に…… キラも苦悶に歪んでいた表情に少しずつ意志が戻る。

そして、互いに手を取り…… 頷きあう。

自身の覚悟と勇気を胸 に………

 

 

L4宙域の端に入ったリ・ ホーム……周囲には、既に廃棄された無人のコロニー群がひっそりと残っている。

かつてはこの宙域に人々が行 き交っていたとは思えないほどの荒廃ぶりだ。

墓場とも形容できるその廃棄 コロニー群を航行していると……リ・ホームのセンサーが信号を発した。

「!? ロウ! 大型の熱量 を感知……戦艦クラスですね」

コンソールを素早く叩きなが ら、リーアムは同時に艦の特定を急ぐ。

「例の奴か、リーアム?」

「……ええ。あの時のアガメ ムノン級です」

一拍後に答え返す。

以前、ザフトの特殊部隊に襲 われたロウ達は、そこでハイペリオンと初遭遇した。

結果的に助けられたわけだ が、その後は母艦であるオルテュギアに接舷され、乗っ取られそうになったことがあった。

そこへ劾とブルーフレームの 乱入…そしてドレッドノートの起動で撃退した。

その因縁ともいうべき相手で あるハイペリオンと母艦であるオルテュギア……その反応がL4宙域の廃棄コロニーの近くから発せられている。

恐らく、この宙域で補給と整 備を行っているのだろう。

「流石、劾の情報は正確だ ぜ………樹里、二人に連絡だ」

「う、うん!」

上擦った返事で答えながら、 樹里は格納庫に向けて通信を送る。

 

格納庫内に響く警報……遂に 来たかというように待ち構えていたキラとプレアは今一度頷き合うと、それぞれの機体へと乗り込んでいく。

《目標と遭遇……発進準備に 入って》

ぎこちない樹里の誘導…… コックピットに収まった二人はハッチを閉じ、APUを起ち上げる。

全システムがグリーンを示 し……灰色の衣を脱ぎ捨て、フリーダムとドレッドノートにホワイトのカラーリングが走る。

リ・ホームのカタパルトハッ チが開き……宇宙が拡がる。

アークエンジェルやエターナ ルと違い、発進用の打ち出し式カタパルトではないリ・ホームから飛び立つには、そのまま自機のバーニアを使って飛ぶしかない。

「キラ=ヤマト……フリーダ ム、いきますっ!」

開かれたハッチからスラス ターを噴かし、機体を飛び上がらせ…フリーダムが飛び立つ。

その背中を見送りながら、プ レアもドレッドノートのバーニアを噴かせる。

ドラグーンユニットにもPS 装甲ONが表示され……プレアは操縦桿を握り締め、強く前を見据える。

「Xアストレイ……僕に力 を………プレア=レヴェリー、ドレッドノート…いきます!」

機体を浮かび上がらせ、バー ニアが機体を押し出す。

そのままハッチから飛び出 し……フリーダムの後を追うように飛び立つ。

今……自由と勇敢な剣を携 え……戦士は飛び立つ…………

 

 

 

一方のオルテュギア……先の 月面基地襲撃後、このL4宙域を拠点に改修し、NJCと核エンジンを外付けしたハイペリオンのテストを行っていた。

核という大容量エネルギー機 関を搭載したスーパーハイペリオンはまさに向かうところ敵なしという獅子奮迅の活躍をみせていた。

制限のあったアルミューレ・ リュミエールはもはや時間切れで切れることもなく、主兵装のビームマシンガンやフォルファントリーといった武装にもエネルギーカートリッジは必要なく、何 発だろうが撃てる。

まさに最強の盾と矛を得たか のような錯覚をカナードに齎していた。

事実、改修してからすぐのザ フト軍との戦闘において、たった一機で戦艦2隻にMS十数機を撃墜した。

これでもはや自分は最強に なった……あとは自分を倒した者達と倒さなければならない相手を倒せば、自分は名実ともに最強であり、本物になれるのだ。

そして……その刻が来るのを 意気揚々と待つカナード………彼は待っていた……自分が倒すべき相手が来るのを……ただ静かに………

「………っ」

暗闇のコックピットで……瞑 想していたカナードの眼が見開かれる。

「この感じは………」

この懐かしさにも似た奇妙な 既視感……今まで決して感じず…また……ずっと求めていたもの………自身の存在意義を問う相手…………

「来たのか………遂に」

歓喜に打ち震えそうになり、 口元が吊り上がる。

そこへ、通信モニターが開 く。

《カナード、MSが二機接近 中です……片方はドレッドノート…ですが、もう一機はデータベース未登録の機体です》

メリオルからの通信に、カ ナードはさして懸念感を見せず、ほくそ笑む。

「出るぞ……」

《解かりました》

短く応じるとともに、カナー ドは機体のAPUを起ち上げる。

先程まで闇に包まれていた コックピットに光が満ち、計器類に光が灯り、モニター画面が光る。

ハイペリオンの瞳が煌 き………オルテュギアのハッチが開く。

《援護は?》

「要らん……手出しはする な………」

半ば脅すような口調で断りを 入れる……援護など無粋な真似は必要ない………これは自分だけのもの………自分自身が乗り越えねばならぬ戦い………

「カナード=パルス……ハイ ペリオン、出す!」

刹那……ドッキングが解除さ れ、浮遊したハイペリオンのバーニアが火を噴き……ハイペリオンが加速する。

「ようやく……ようやく逢え たな………キラ=ヤマト!」

失敗作という烙印を押された 自分……成功作という祝福を受けた相手…………

偽物である自分にとって倒さ ねばならぬ相手………真が消えれば、偽も真になる………

歪んだ想いを胸に……流星は 飛び立つ…………

 

 

 

 

廃棄コロニーを並行して加速 し、飛翔するフリーダムとドレッドノート………

緊張した面持ちで操縦桿を握 り、キラとプレアは前を見据える。

そして……レーダーが反対側 から急接近してくる機影を捉えた。

身構えるキラとプレア……向 こうももう既にこちらの存在は感じ取っているはずだ……

フリーダムはスラスターを噴 かし、ドレッドノートはバーニアの出力を上げる。

そのまま加速を上げてい き……互いの有視界に機影を捉える。

急加速のまま……フリーダム とドレッドノート……ハイペリオンは交錯する………

互いに死線が絡み合 う…………

そのまま旋廻し……ハイペリ オンのビームマシンガンが発射された……迫りくる光弾を、振り返るように旋廻し、フリーダムとドレッドノートのビームライフルが火を噴き撃ち落とす。

閃光が宇宙に煌く…………

 

 

自由と勇敢な剣………そして 天をゆく流星…………

運命に導かれし星々は…… 今…邂逅した……………

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

互いの想いをのせ……少年達 はぶつかり合う………

交錯・拒絶……それが交じり 合い…宇宙は閃光に彩られる………

 

天をゆく流星……

勇敢な想い飛ばす者……

自由の剣………

 

3つの想い交錯する閃光の映 える戦いの行き着く先は………

そして………想いは次が れ……新たな力となる…………

 

 

そして……世界は最後のス テージへとゆっくり移っていく………

 

次回、「受け継がれる想い」

 

想いをその胸に次げ、ドレッ ドノート。


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