アメノミハシラへと帰還したネェルアークエンジェルとオーディーン…そして、同行していたケルビムとスサノオに、一同は驚愕を浮かべた。

だが、ハルバートンやトダカ は共に戦うと誓い、新たに加わった2隻……そして、帰還道中でジャンク屋組合から受け取った新型機の調査が行われていた。

格納庫では、先の衛星軌道戦 とアメノミハシラ防衛戦の折に損傷を受けた機体の整備と修理が急ピッチで行われ、ステーション内の整備士がほぼ駆り出されていた。

そんななか、整備班の責任者 達は機体の改修や完成を急いでいた。

格納庫内の一画に設けられた スペース……そこには、ルフォンを中心としたメンバーと、レイナ、リン、ラクスが訪れていた。

「で……どうなの?」

レイナが問い掛けると、ル フォンはレポートを片手に答える。

「爆弾とかの危険物はな し……特に危険はないわ…本体は8割方まで完成しとる…せやけど、肝心の武装のセッティングがまだやな」

見上げる先には、メンテナン スベッドに固定されたグレーのMSが一体……G形状を誇るデザインの機体は、ZGMF−X12A:マーズ…………

先の衛星軌道からの帰還途中 に遭遇したジャンク屋組合の輸送船が運んできたNJCの最新鋭機。

ZGMF−Xナンバーではス ペリオルらの次に開発された機体で、大火力と装備換装によるシステムを採用している。無論、この機体を設計したのもルフォンだ……奪取した連合のG:バス ター、ストライクの性能を再現し、それを追及させた砲撃支援機………

アメノミハシラに帰還後、機 体はすぐさまチェックにかけられ……遂今しがたまでルフォン達の徹底とした調査が行われていたが、時限爆弾や発信機の類などは見つからず、異常は特に見つ からなかった。

「せやけど、もう完成しとる と思っとったのに……なんでまだなんや?」

思わず自身に問い掛けるよう に呟く。

メンテナンスベッドに固定さ れたマーズは、本体と周囲には様々な火器が未だ未完成のまま吊られ、肝心の本体もケーブルなどに繋がれている。

元々はこの機体も奪取する算 段を組んでいたのだが、予定の繰り上がりで結局本体の組立作業中で放り出してきた。エターナルに艦載しようとも考えたが、警備が厳しかったあの時点ではマ イウスの工廠からアプリリウスの格納庫まで極秘裏に運び込むのは不可能だった。

この機体が何故ジャンク屋組 合によって運ばれていたのか……さっぱり解からない。

完成が遅れたのは現在のプラ ント内の圧政によるもので、またこの機体が開発凍結を言い渡され、ユーリの手引きでジャンク屋組合に手配された辺りの事情を知らないルフォン達は戸惑うば かりだったが……レイナはさして気にも留めず答えた。

「……どちらにしろ、戦力と して使えるのなら余計な詮索は無用ね」

そう……誰の思惑にしろ、自 分達に送られたなら、それをどう扱おうが構わないだろう。

こちらとしても戦力が補充で きるのなら言うことはない。

「こいつを使えるようにでき るまでどれぐらい掛かる?」

「早くても数週間掛かる な……こいつ、各火器と本体との接続や操作性もやらなあかんから………」

まずは装備の完成とその搭 載…あとは照準システムや駆動系統のチェック…やるべき事は多々ある。その後には実際に動かしてみての問題点の洗い出しをしなければならない。

リンの問い掛けに頭を掻きな がら答えるルフォンは軽く溜め息をつく。

「マードックさんやおやっさ んは今ストライクやバスターの改修に掛かりっきりやし……」

そう……現在、マードックと トウベエはカムイの提出したプランを基にストライクとバスターの改修に当たっているのだ。

さらに、エリカは先の防衛戦 で大破したフリッケライやゴールドフレーム天…ストライクルージュの再調整で忙しく、こちらへと回れない。

「ま、愚痴っても仕方ない し……なんとか早く完成させるわ」

開き直ったように顔を上げ、 手を挙げてルフォンは作業に戻っていく。

それを見送ると、残された3 人は顔を上げてマーズを見上げる。

「けど……誰を乗せるつも り?」

そう……戦力が増えるのは確 かにありがたいのだが、問題は誰を乗せるかだ。

「例の3号機……あの子が 乗ったって聞いたわ」

考え込んでいたレイナだった が、突如なにかを思い出したようにラクスに尋ねる。

「はい……タチバナ技師長の 話では、彼女があの機体に乗って出撃したそうです」

防衛戦の折、突如来襲した機 体……変形機構を備えた可変型のMSだったらしいが、交戦した劾やグランの見解では、アレはMSはパーツで本体はバックパックだという話だった。

その後、帰還したルフォンが その交戦データと機体を確認した瞬間、アレはザフト内部で開発されたリジェネレイドというZGMF−X11Aシリーズの2号機らしい。

モジュール構造を用いた機体 で、コアであるバックパックを中心に接続コネクターのある機体ならなんとでも一体化できるという特殊任務用に設計された機体らしい。

「しかし、あのアッシュと 戦ってよく無事でいられたな……」

リジェネレイドが任せられた パイロットはアッシュ=グレイ……国防委員会の特殊部隊に属する男で、戦闘狂ともいうべき男で『味方殺し』と一部では恐れられている。

そんな男の駆る機体と交戦 し、シンのフリッケライは中破……かなり危険な状況だったらしいが、そこへステラの駆るハイペリオン3号機が乱入し、フリッケライを助けたらしいのだ。

「互いに引かれ合う、 か………」

互いを引き寄せあい…互いに 一対として行動するように仕組まれた二人……その絆が、彼女を突き動かしたのかもしれない。

「今は、ノクターン博士が様 子を見てくれています……ただの疲労とのことですが…」

援護に入ったはいいが、戦闘 終了後にステラは意識を失い……すぐさま医務室へと運ばれ、フィリアの診察によると、急激な疲労と興奮によるものと判断…まだ、完全に治療を終えていない 今の状態ではどういった反応が起こるかまだ解からない予断を許さぬ状況なのだ。

「まあ、その辺はあの二人の 任せましょう……もし、あの子がまた戦うというのなら、止めはしない……もし、ダメならそれはそれで構わない」

わざわざ戦いに戻ることを強 要するつもりはない……どういった判断をしようがそれはステラの自由だろう。

彼女の意思を尊重したい…… そのうえでハイペリオン3号機のパイロットを選定すればいい。

「まあ、それはそれとし て……問題はこいつね」

話が脱線してしまったが、今 差し当たっての問題はこの眼前の機体のパイロットを誰に任せるかということだ。

NJCを搭載した機体である 以上、戦力としては申し分なく、是が否にでも戦力として加えたい。

だが、この機体はかなり操作 性が難しいらしい……あまりに多彩な火力を搭載した機体ゆえに、パイロットはほぽ火器の運用に手一杯であり、機動などはほぼコンピューターによる自動制御 になるらしい。

「確か、バルトフェルド艦長 が候補に上がっていた……そう言っていたな?」

思い出したようにリンが尋ね る……この機体が開発決定された時、候補パイロットとして挙がっていたのがバルトフェルドであった。

だが、肝心の本人はエターナ ル艦長として脱走……そのためにパイロットが白紙になっていた。かといってバルトフェルドはエターナルの艦長……MSに乗せて出させるわけにもいくまい。

今、パイロットに余裕はな い……適正的には、アルフあたりをインフィニートから乗換えでもしてもらおうかと考えていたが……そこへラクスが口を挟む。

「あの……もし、よろしいの でしたら…この機体、私に使わせてもらえませんか?」

あまりに唐突な申し出にレイ ナとリンは揃って眼を瞬く。

「ラクス……あんたの技術が 向上してるのは解かってるけど………」

確かにラクスの操縦技術の向 上は眼を見張るものがある……努力というか執念というか…それは認めるが、それでもやはりまだ実戦に通じるかと問われると疑問だ。

まして、この機体はそんな簡 単なものではない……扱いがラクであり、訓練で使用していたM1やストライクダガーとは根本的に違うのだ。

「解かっています……です が、これ程の機体を使わずにいることもできない…それに、私もこうしてただ見ていることはできない………衛星軌道で何があったか、私も聞き及んでいます」

相変わらず耳が早いなと…… 思わず呆れたように頭を掻く。

衛星軌道で襲ってきた天使を 模した機体……その圧倒的な戦闘能力…それが、いかに危険であるかも………そして…それを知って……ただ黙っているだけの性格ではないということも………

「決して足手纏いにはなりま せん……必ず、この機体を使いこなします」

決意を感じさせる瞳……過激 というか大胆というか………この頑固さはキラやカガリといい勝負であろう。

だがまあ、事実ラクスの適正 が砲撃支援機である以上、この機体は確かに彼女に適していると言えなくはない。問題は、それを自在に扱うということだ………

「………決して後悔しない… それは誓える?」

誤魔化しを赦さぬ鋭い視線と 口調……半端な正義感や覚悟で乗られてはどちらにしろ迷惑だ………そんなパイロットに機体を任せるわけにもいかない。

半ば、気圧されそうになった が……ラクスは気丈に頷いた。

「そう……なら、この機体の パイロットの選定……私から皆に報告しておくわ」

その言葉に、ラクスの表情が 和らぐ。

「でも、その分今まで以上に 訓練を受けてもらうわよ……」

この機体を使いこなすために はかなり高い技量が必要になる……それを荒療治で叩き込むしかない。

ラクスもそれは当然とばかり に真剣な面持ちでマーズを見上げる。

(キラ……貴方は望まないか もしれません…ですが、私ももう決めたのです……決して折れないと……自分の責任を果たすまで…………)

ここに今はいない………大切 な者に向かい、ラクスは呟いた…………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-51  受け継がれる想い

 

 

L4宙域の一画……廃棄コロ ニー群…………死と静寂が支配する空間に、閃光が煌き、宇宙を明々と照らす。

天をゆく流星……ハイペリオ ンの放ったビーム弾を、自由の剣と勇敢な力……フリーダムとドレッドノートがビームで応戦し、中間地点でそれらがぶつかり合い、宇宙を照らす。

だが…それもすぐに収束 し……再び闇のなかで対峙する3機…………

今…運命という糸に引き寄せ られ………星々が交錯する……………

「貴様……キラ=ヤマト…だ な?」

緊迫した面持ちでコックピッ トに座るキラの耳に、低い少年の声が響く……その声色から感じる憎悪と憤怒にキラは身を強張らせる………

「……そう、だ……僕が…キ ラ=ヤマト…だ」

だが、それに呑み込まれそう になる心を必死に抑え込み、キラは気丈に言い返す。

刹那……くぐもった笑い声が 響いてきた。

「く、っくくく……ははは はっ! ようやく、ようやく逢えたぞ……!」

歓喜に打ち震えるように笑い 上げるカナード……失敗作と罵られ…そして蔑まされた苦痛の日々……だが、それも全ては自身のその運命を造り出した存在を憎み、そして取って代わることで 自らの命を留め続けた…………

「この刻を……どれ程待ち侘 びたか…………」

そう……この邂逅をどれ程望 んでいたか………そのために辛辣を噛み、何度苦痛を浴びようとも耐えてきた……ようやく訪れた運命の刻………もはや、カナードの眼には眼前のフリーダムし か映っていなかった。

「俺と戦えっ! キラ=ヤマ ト!!」

間髪入れず、ハイペリオンの ビームマシンガンが火を噴く。

防御しようとするフリーダ ム……そこへドレッドノートが割り込み、シールドで防ぐ。

「待ってください、カナード さん!」

コックピットに響く声……カ ナードは忌々しげに舌打ちする。

「貴様か……邪魔をするな… 俺はキラと戦う……貴様の相手はその後だ!」

一度敗れた相手……だが、そ んな事は今のカナードにはどうでもいいことだ……待ち望んでいた相手が眼の前にいる……それだけでカナードの思考も切り替わっていた。

だが、ドレッドノートはなお も立ち塞がる。

「何故、戦うしかできないん ですか……僕達は解かり合えるはずです……戦わずとも」

懸命に訴えるプレア……だ が、それもカナードには耳障りであった。

「黙れっ! 貴様の台詞…聞 き飽きた! 俺を止めたいのなら……俺を殺して止めるんだな………お前もそのためにそれに乗っているんだろう……それはそのためのものだ!」

指差すハイペリオン……ド レッドノートの背負う新たなもの……戦うことを目的に造られたものである以上、戦うしかないと………

歯噛みするプレア……やは り、戦わなければならないのかと………戦うことでしか、止められないのなら………

逡巡していたプレアは、決然 とした面持ちで顔を上げる。

「解かりました……僕も、全 力で貴方を止めるために……戦います!」

「そうか……なら、二人纏め てこの場で葬ってやる!!」

刹那……ハイペリオンのフォ ルファントリーが発射される。

キラとプレアは左右に分かれ てその砲撃をかわす……キラはそのままフリーダムの身を翻させ、ビームライフルの銃口をハイペリオンの腕にセットする。

照準が合わさった瞬間、トリ ガーを引く。

だが、カナードはそのビーム を紙一重でかわす。

息を呑むキラ……嘲笑を浮か べるカナード………

「どうしたぁ! そんな攻撃 で、この俺が倒せるか…キラァァァァ!!」

咆哮を上げ、獣のように殺気 を振り撒きながら、ハイペリオンは加速し……フリーダムに肉縛する。

そのままフリーダム目掛けて 脚を振り上げ、フリーダムを蹴り飛ばす。

「うわぁぁぁっ!」

苦悶の声を上げるキラ……フ リーダムを援護しようと、ドレッドノートが割り込む。

「キラさん!」

ハイペリオンの動きを止めよ うと、ビームライフルを構えるが……それに気づいたカナードはハイペリオンのアルミューレ・リュミエールを起動させる。

間髪入れず……瞬時にハイペ リオンの周囲を光の防御幕が覆う。

それによってビームが阻まれ る……唇を噛むプレア……カナードは口元を歪める。

「無駄だ! もはやこのアル ミューレ・リュミエールを破る手などない!」

核という無限の動力源を手に 入れ、もはや時間切れのなくなったアルミューレ・リュミエールは最強の盾……生半可な攻撃では破れない鉄壁の防御網………

ビームマシンガンを連射する ハイペリオンの攻撃をシールドで防ぎながら、ドレッドノートの腰部のプリスティスを起動させる。

ゲイツと同じ有線ケーブルに 繋がった試作型ドラグーンであるプリスティスがビーム弾の間隙を縫うように迫る。

先端から放たれるビーム…… 以前はこれで相手の不意を衝いたが、同じ手を喰うほどカナードは馬鹿ではない。

展開されたアルミューレ・ リュミエールにとって散発的なプリスティスの攻撃など、まったく効果を成さない。

「無駄無駄無駄む だぁぁぁぁぁ!!」

ハイペリオンの左腕のリフレ クター発生装置が起動し、それは鋭利な光波の刃を形成し、それを振り払う。

光波の幕をすり抜け、接近し ていたプリスティスのドラグーンを切り裂く。

「……っ!」

爆発によって消えるプリス ティス……プレアは歯噛みしながらケーブルをパージする。

カナードはそのままバック パックの核エンジンのケーブルをフォルファントリー2基に繋ぎ、砲口にエネルギーがスパークする。

「貴様などに……貴様のよう に蔑まれずにのうのうと生きている貴様に……俺のこの苦しみなど解かるまい……!」

次の瞬間、ビームの奔流が解 き放たれ……ドレッドノートに襲い掛かる。

だが、プレアはカナードの言 葉に一瞬眼を見開き……その隙を衝かれ、ドレッドノートのビームライフルとシールドがビームによって融解され、その爆発がドレッドノートを弾き飛ばす。

「うあぁぁぁぁっ!」

呻き声を上げながら、爆発に よって弾かれ……そのままコロニーの外壁に激突し、めり込む。

「フッ……その程度か……… 買い被りすぎだったか…」

一度は自分を倒した相手…… だが、あまりに呆気ない姿に失望したように鼻を鳴らす。

トドメを刺そうとビームマシ ンガンを構えるが……そこへビームが飛来し、アルミューレ・リュミエールに着弾し、カナードは振り向く。

先程弾かれたフリーダムがよ うやく態勢を立て直し、こちらへと加速してきた。

そのままウイングのプラズマ ビーム砲を展開し、狙撃する。

だが、それも光波シールドに 遮られ、ハイペリオンには届かない。

「そうだ……そうこなくては な!」

自分が待ち望んでいた相 手……あまりにあっさりと終わってしまってはカナードの気は収まらない。死の一歩手前ギリギリまで命のやり取りをし、そしてその果てに相手を倒すことがカ ナードにとっての唯一の望み………

戦い……真を倒して…自身の 真も終わらせる…………

ハイペリオンも加速し、フ リーダムとすれ違う……すれ違いざまにビームの応酬を繰り広げるが、フリーダムはシールドで…ハイペリオンは光波シールドで防ぐ。

互いに決め手が出ない……キ ラは歯噛みし、フリーダムをハイマットフルバーストさせた。

プラズマビーム砲、レールガ ン、ビームライフルが火を噴く。

フリーダムの最大攻撃……全 火器の応酬がアルミューレ・リュミエールに直撃する……その爆発の反動で、僅かに推し戻される。

だが、態勢を崩したのみで光 波シールドを破るには至らなかった。

やや眼を見張ったカナードだ が、次の瞬間には歓喜の表情を浮かべる。

「ははははっ! そうだ!!  この感じだ! 俺を満たす! 貴様を倒せば……! 俺は真実(ほんもの)になれる! 貴様を倒し、禍がいものから真実(ほんもの)にな!!」

ペダルを踏み込み、ハイペリ オンが態勢を立て戻すと同時にフォルファントリーを発射する。

「くっ!」

ビームの奔流をフリーダムは ギリギリで回避した。

「いいぞ…もっとだ……もっ と戦え! 俺達は戦うために生まれた………お前も俺もな!」

カナードの言葉が、キラの胸 を刺す。

脳裏に……メンデルで見た冷 却槽に浸かったカプセルと棄てられた胎児………父が犠牲にしたきょうだい達の呪う声が耳に響く。

「僕が……僕が…成功だか ら……だから…僕が憎いのか………?」

苦悩を感じさせるか細い 声……成功作として造られ……そのために失敗作と罵られる………その疑問に激怒したようにカナードは吼える。

「何を言う! 俺はお前の失 敗作として、今まで生きてきた! 俺はモルモットとして生かされてきた! 失敗作としての烙印を押されながらな!!」

狂気がキラを襲う……底知れ ぬ憎悪…キラは恐怖を感じる……背筋が凍りつくような気配………

「決して逃れられない鎖に繋 げられてきた! しかしそれも今日で終わりだ!! 俺は今日という日のために、その鎖で爪と牙を磨いてきた! そう、お前を倒す今日という日のために なぁぁぁ!!」

光波シールドを展開したまま 加速するハイペリオン……フリーダムはビームライフルで狙撃するも、全て無効化され……躊躇っていたキラは回避に遅れた。

アルミューレ・リュミエール を展開したままフリーダムに突撃する。

光波の幕にボディが焼け焦 げ……そのまま弾き飛ばされる。

「うわぁっ!」

弾かれるフリーダム……だ が、容赦ないハイペリオンの猛攻が続くも、フリーダムは防御に徹するだけ。

アルミューレ・リュミエール を展開している以上、攻撃手段がないこともあるが、それ以上にキラには撃てなかった。

恐い……父の罪が……自分の 存在が………今、それが眼の前に襲い掛かっている………キラには撃てない………眼前の相手は…一つ運命が違っていれば自分であったかもしれない相手……… どうしても撃てない………

猛攻を続けるカナード。キラ はその全てをフリーダムのブースターとスラスターを駆使して回避と防御に撤する。

その行動にカナードはじれっ たく、そして不満げに叫ぶ。

「どうした! 俺と戦え、キ ラ=ヤマト!! 何もしないままで終わるつもりか!?」

「僕は……」

カナードの叫びにキラは苦悩 する。

「この俺はこの日を夢見てき た! そのために爪と牙を研ぎ澄ました! だが貴様がそんな腑抜けでは意味がない! 戦え! 俺と戦え!!」

キラを……完成体を倒す…… それはカナードにとって己の生き甲斐であると同時に存在意義……同じスーパーコーディネイターという人の果てなき欲と希望を託されて誕生した…だが、そこ に隔てられた失敗作と成功作………

成功作を超えたと…凌駕した と……偽から真へと変わるためには………成功を倒さなければならない……それを果たした時、自らを真に変えられる………

己への自己満足に過ぎないと しても、カナードにはそうやることでしか自らの存在を誇示できない………

戦うためだけに生まれた彼に しかできない生き方だった……だが、キラは戦う意思を見せない。躊躇したまま……ただ回避と防御に徹するだけ。それがカナードを苛立たせる…彼が望んだの は、こんなものではない……戦いこそ……極限の命のやり取りで己の存在を確かめること……それがカナードの求めるもの………

「どうして……どうしてそこ までして…! 僕らが戦う必要がどこにある!?」

苦悩の果てにキラは叫ぶ…… どうしても、トリガーを引く指が震える…………操縦桿を握る手が震える………

実の父によって生み出され た…同じきょうだいのはずなのに………

そんなキラにカナードは鼻で 笑い、罵る。

「なにを寝ぼけたことを…!  それこそが俺達の宿命………! 貴様という存在を生み出すためにただの試験体として生まれた俺……! ただの使い捨ての道具にされた俺にとって、貴様は 憎い……!」

機体越しに向けられる殺気と 狂気………キラは既にフィリアからその事を聞かされている。

自分という完成体のために犠 牲になった試験体のきょうだい達……それだけのために棄てられ、殺され……利用され………だから憎む…そんな自分の運命を背負わせた完成体を………

「ならどうして……君はそん なに……哀しいんだ……!」

その言葉に、カナードの表情 がピクリと揺れる。

狂気に隠れるように微かに感 じる苦しみと哀しみ……キラはそれを感じ取っていた。

何故……自分を…殺そう と……心から憎んでいるのなら…何故、苦しむ必要がある………

「ぐっ……黙れっ! なにを 馬鹿げたことを……!」

微かに動揺を見せながらも、 キラの言葉を一蹴し、ハイペリオンは左腕の光波ブレードを振り翳す。

エネルギーの刃がフリーダム のシールドの表面を切り裂く。

「これが生まれ持った宿命 だ!! 俺は戦うために生まれた存在だ! そしてお前も!! それが俺達スーパーコーディネイターだ!」

「っ! 違う!」

今まで言葉を呑み込んでいた キラは声を張り荒げた。

カナードの言葉が……あの男 の声と重なる………

「違う! 僕も君も、戦うた めに生まれてきたんじゃない!」

キラは否定するように……そ う…争うために生まれたわけではない………自分は…自分達はそんなことのために生まれたわけではないと……

「はっ! なにが違う! 現 にお前はMSを駆って戦い、誰よりも強い力を誇って連合のエースになった! 敵を倒し続けてきた! 今も、そしてこれからも!」

カナードは嘲笑う……そんな ものは所詮逃避だと………

だが、キラは決して受け入れ ない………

「そんな未来、僕は望まな い! 望みたくもない! 人より優れた力なんて欲しくなんてない!」

「それは持つ者の傲慢だ!  生まれ持った宿命…俺がどれだけ望んでも手に入れることのできない力……お前は俺にないものを全て持つ! 俺はお前が憎いっ!!」

力があったために多くを傷つ け…多くを失い……そして今なお迷うキラ………こんな力が無ければ………そう思ったことも一度や二度ではない………

力が及ばなかったために全て を奪われ……幾度も辛辣を舐め……そして狂気に翻弄されるカナード……力が欲しかった……死を望んだことも一度や二度ではない………

まったくの相反する二人…… 互いに相手を羨み、そして憎む………表と裏………

ほんの一つの運命の違いがキ ラとカナードの二人を翻弄する………

ハイペリオンの猛攻は続 く……カナードの狂気と憎悪をのせて………流星は狂ったように飛び続ける。フリーダムは回避と防御に徹する……キラの迷いと己への恐怖を盾に……自由の剣 は振るわれず…ただ護るのみ………

(ぐっ……僕は…僕は…!)

自分自身が不甲斐ない……自 身の出生を受け入れてもなお……心のどこかでそれを突きつけられることを拒み、恐れている………見なければいいと…心が誘惑のように囁く。

人は誰でも己の過去の恥部を 内に封印したがる……それは一種の防衛本能だろう…己という存在を保つための………

だが、現実は無情にも突きつ けてくる…それも……最悪の形で………

「俺は戦うことしかできな い…戦うことしか知らない! だが俺はそれでいい! それだけが俺の存在意義なのだからな! お前を倒せば、全てが終わる!」

もう戦う意思を持たないキラ に見切りをつけた。

興醒めもいいところだ……こ んな奴を超えるために…こんな臆病者のためだけに……自分は今まで爪と牙を磨いできたのか……と………そう考えると、言い知れぬ苛立ちが浮かび上がる。

……失望…それがカナードの 脳裏を過ぎる………

「これで最期だ! 死ねぇ!  キラ=ヤマトォォォォ!!」

カナードはフォルファントリーを構え、2基のキャノンにケーブルを接続する。

2門の砲門にエネルギーが臨 界を超えて収束する……刹那、カナードはトリガーを引いた。

解き放たれる閃光………真っ 直ぐフリーダムと襲い掛かる。

このビームの熱量では、恐ら くシールドでは防げない……回避しなければ…だが、キラの身体は金縛りにあったように動けない………

これでラクになれるかもしれ ない……一瞬、そんな考えが過ぎりそうになるも……その時、脳裏に声が響いた。

 

――――キラ……

 

幾度となく聞いた声………柔 らかな声と穏やかな眼差し………

(…ラクス………)

苦悩する自分に言ってくれ た……生きていると…自分はこの世界に生きていると……世界の一部として………

 

―――――今度は迷うことは できない……覚悟はできたわね…………

 

続けて響く声………何度も迷 い、何度も挫けそうになった時に彼女の言葉が答への手助けになった………

(…レイナ………)

キラの脳裏に…アメノミハシ ラを発つ前にレイナから言われた言葉を思い出す。

 

――――決して迷うな……そ して…私達のようにはなるな…………それができないのなら…安易な道を選ぶのなら……勝手に死になさい………

 

そう言って送り出したレイ ナ………彼女は解かっていたのだろう……今の自分の現状を…そして……甘えるなと……悲劇の主人公を気取るなと………そんな安っぽい覚悟しか持っていない なら、勝手に死ねと………

そうだ……キラは眼を大きく 見開く。ラクスの…そしてレイナの……彼女達の言葉が響く。

決めたはずだ……眼の前の彼 は父の犠牲者……その責任は自分にもある……狂気に囚われるきょうだい……それを救うのも、また自分の責任のはずだ……それを放棄しては…自分はまさに最 低な存在に成り下がる………

安易な選択を選びそうになっ た自分自身を嗜めるように操縦桿を握り締める。

(戦うしかできない……け ど、奪うための戦いじゃない…僕は何かを護るための、救うための戦いをする。それがたとえ偽善であっても、自己満足であっても!)

キラの決意に呼応するかのよ うに、フリーダムの両眼に灯がともる。操縦桿を切り、ペダルを踏み込む。

刹那、スラスターを全力にし て、フリーダムはフォルファントリーを回避した。

「悪足掻きをっ!?」

その行動を単なる悪足掻きと 取ったカナードだったが、キラの声が木霊した。

「確かに僕は君よりも幸せ だった…君の苦しみを知らない……解からない。君が僕を憎むのも解かる……でも、僕にも譲れない想いがある! 負けられない理由がある! 帰りを待ってく れる人がいる! だから!!」

「だから負けない、か!?  ふん、だったらその想いとやらを俺のハイペリオンが打ち砕いてやる!!」

ハイペリオンがビームマシン ガンを乱射してくる……だが、フリーダムはそれをビームライフルを斉射して撃ち落とす。

周囲を閃光が包み込む……そ れによって視界を一瞬遮られる。

次の瞬間、フリーダムはハイ ペリオンに急接近し、ビームサーベルを振り被って光波シールドに突き刺す。

ビーム刃が干渉し合い、刃が 拡散する……それにカナードは鼻を鳴らす。

「無駄だっ!」

光波ブレードで切り裂こうと したが、フリーダムはビームサーベルを突き刺したまま距離を取り……間髪入れず、プラズマビームとビームライフルを放った。

ビームの閃光がビームサーベ ルに着弾し……それによって干渉により濃度が薄まっていた光波シールドの僅かな隙間を潜り抜け、ハイペリオンに襲い掛かった。

威力が弱められたビームだっ たが、それはハイペリオンのフォルファントリーを掠め…装甲が融解する。

それに驚愕するカナード…… だが、次の瞬間には笑みを噛み殺していた。

「ククク……そうだ…そうこ なくてはな! 先程の言、改めよう……さっきよりも殺り甲斐が出てきたぞ!」

距離を取り、ハイペリオンは ファオルファントリーを連射する。

それを掻い潜るように回避す るフリーダム……キラはフォルファントリーの連射間のタイムログを測定する。

「タイムログは0.04 秒……さっきと同じ手は使えない………」

もう、今先程の戦法は通じな いだろう……欲をいえば、あの一撃で相手の頭部を撃ち落とし、行動不能にさせたかった。

だが、やはりそれを易々と許 すほど相手も甘くはない。

同じ戦法が二度も通じるとは 思えない……一つの戦法が破られても、すぐに次を用意しておく……戦闘というのは戦法の駆け引き…………多くの手を用意しておかなければならない。それが レイナから学んだことだった。

フォルファントリーの左右ず らしてのタイムログは約0.04秒……その隙を衝いたとしても、あの光波シールドをどうにかしなくてはこのままではジリ貧だ。

逡巡するキラ……そこへ、な にかが割り込んできた。

真っ直ぐに回転しながら向 かってくる物体は、ハイペリオンの光波シールドに着弾し、爆発する。

キラとカナードが眼を向ける と……先程、コロニー外壁に叩き付けられたドレッドノートが急加速で向かってきた。

「キラさん!」

「プレア! 無事だった の!?」

「はい、なんとか……」

あの激突により、僅かに意識 を失ったものの……遂今しがた眼が覚醒し、すぐに態勢を立て直して戦線に復帰してきた。

立ち並ぶフリーダムとドレッ ドノートに、カナードは鼻を鳴らす。

「フン! 一匹二匹増えたと ころで、なんの足しにもならん! 纏めて倒す!!」

ビームマシンガンが乱射さ れ、フリーダムとドレッドノートは回避する。

「俺は敵を倒し、そして勝利 することで存在を赦される……戦え! キラァ! プレアァァ!!」

縦横無尽に襲い掛かるビーム の弾丸の嵐……フリーダムがシールドで防ぎながら、ビームライフルで撃ち落とす。

「戦いだけが貴方の存在意義 だなんて……絶対に違う! ドレッドノート!!」

プレアの叫びに呼応し……ド レッドノートのバックパックに装着されたドラグーンが起動する。X型に装着されたドラグーンは、有線ケーブルに繋がれ、そのまま縦横無尽に飛びまわる。

展開されるドラグーンが弾丸 を次々と撃ち落とす。

「貴方はどうして自分の存在 を否定するのですか……貴方も…そしてキラさんも……人々の夢を託された存在なのに……!」

プレアが発した言葉にキラが 息を呑み……カナードは一瞬、忌々しそうに舌打ちする。

「違う!! 俺はただの失敗 作! そう奴らが言った……! 戦うしかできないただの戦闘狂の失敗作だとなぁぁぁ!!!」

今でも憶えている……メンデ ルでの研究所の出来事………カプセルの中に浮かぶ自分を嫌な眼で見る研究員達………

侮蔑の視線とともに吐き棄て られた『失敗作』という烙印……それが今でもカナードの心を縛る。

「こんな能力……戦う以外に なにに使えばいい! 貴様らに言われる筋合いなどない! 完成体と秀でた能力を持つ貴様らに……!」

全てを与えられた完成体と特 殊な秀でた能力を持つ者………それがカナードの神経を逆撫でる。

その言葉に、キラとプレアは 苦しげに表情を歪める。

「僕こそ……僕は、クローン です!」

微かに呼吸を乱すプレアが発 した言葉……それにキラだけでなくカナードも衝撃を受ける。

「このドラグーンが使えるの も…元はといえば僕のオリジナルの力……それを欲して軍が造った………」

苦悩するプレアの悲痛な 声……その瞬間、キラはようやくプレアから感じていた違和感に気づいた。

この違和感と……既視 感………知っているような気が何度もした………そして今気づいた。

プレアの脳裏を掠める実験の 日々……造られ…そして繰り返された悪夢……それが今なお燻り続けている……

「だけど……僕は兵器として 生きることは望まない!」

そう……それがプレアのかけ た誓い………自分自身で生き方を決めると………道は自分で選ぶと………

「クックク……ハーハハハ ハ! そうか……なら、お前も俺と同じだ……戦うために生まれ、戦うことしか知らない……俺達は戦うために存在しているんだ!」

まるで……同郷の仲間を得た ような感覚………兵器として求められ、造られたプレア……戦闘能力を突き求めるために造られたカナード……同じだと…………

だが、そこへ否定の声が割り 込む。

「違うっ!」

それまで無言でプレアの叫び を聞いていたキラが声を張り上げ、ビームライフルを斉射謝し、ハイペリオンを怯ませる。

「ぐっ!」

歯噛みするカナードは鬱陶し いとばかりにビームマシンガンを乱射する。

フリーダムは回避するも、全 てをかわせず、弾道が機体を掠め……装甲が融解する。

「どうしてそこまで自分を追 い詰める…否定するんだ……! たとえ、君やプレアがどんな目的で生まれたとしても、君達の道は君達自身で決めるものだ!」

自分がそうであるよう に………誰も、望んで生まれてくることなどできない………歪んだ生を受けてこの世に生まれた者もいる……自身の出生を呪い、全てに絶望した者もいる……だ が、それでも生き方は誰でもない……自分自身のためにある。

生き方を…進む道を決めるの は他でもない………自分自身だ。

出生に縛られ、そして道を閉 ざす必要などない……キラもまた、悩み…苦しみ……そう決めたのだ。

「僕は確かに君から見れば憎 悪の対象かもしれない……でも、僕はこの力を憎む…そして……決してこの力を奪うことだけに使わない! 護るために……大切な全てを護るために……!」

誰に言われたからではな い……それはキラ自身が決めた道………出生に秘められたものを……それを護るために……大切なもののために使う………

迷う必要などなかった……最 初はそのためにキラは銃を手に取ったのだから………

「たとえ矛盾したことだとし ても…僕は……僕はキラ=ヤマトだ!」

キラ=ヒビキとしての誕生よ りも……キラ=ヤマトとして生きたことがキラ自身であるという証……

なにかを振り切ったようにフ リーダムはハイペリオンの光波シールドを展開しているユニットに向けて攻撃を集中させ始めた。

いくら受けようとも無意味だ が、流石にカナードの気に障る。

だが、そのハイペリオンに向 けてドレッドノートもドラグーンを駆使して光波シールドのユニットを狙ってくる。

「キラさんの言うとおりで す! 人は決して生まれた宿命だけに縛られることなんてない! どう生きるかは自分自身で決めることです! 戦うだけの生き方なんて…哀しすぎます!!」

キラとプレアの言葉が……カ ナードの神経を逆撫でる。

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!

張り裂けんばかりに声を荒げ る……憎悪に鋭く染まる瞳………

「貴様らの言葉など、所詮は 詭弁! 誰も生まれ持った宿命を変えることなどできはしない……!」

そう……それを認めるわけに はいかない。

ならば……自分の出生に嘆 き、苦しみ………死という道を捨ててまで戦いに生きた自分はどうなる……今までの戦いのために自らの牙と爪を磨いてきた自分の存在意義が失われる……それ が無意識に怖かったのかもしれない。

 


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