より激しく……両手に構える ビームマシンガンを乱射するハイペリオンの攻撃に、フリーダムとドレッドノートも防戦一方になる。

「くっ……どうする!?」

キラは自身に問い掛ける…… このままではなんにもならない…そこへ、プレアからの通信が響く。

「キラさん……僕にやらせて ください!」

「プレア……」

「あの人の心の殻を……援護 をお願いします!」

プレアの意図は解からなかっ たが……それでも、それに賭けてみる気になった。

「解かった!」

フリーダムがハイペリオンの 注意を引きつけようと、ビームライフルとレールガンを連射して光波シールドに着弾させる。

それに気を取られ……カナー ドもフリーダムに照準を合わせる。

「ぐおぉぉぉっ!」

雄叫びとともに発せられる苦 しみの咆哮……それにキラは表情を顰める。

「君の苦しみと憎しみ……全 部が解からないなんて言わない…でも、人は皆苦しみと戦っているんだ! そして…その苦しみだけに捉われちゃいけない!」

回避しながら身を翻し…ハイ マットフルバーストでハイペリオンの放ったフォルファントリーを相殺する。

「苦しみも…傷みも……そし て…多くの想いが今の僕に道を示してくれた! だから…!」

苦しみ…傷みを……それを何 度も味わった…だが、味わったのはそれだけではない。

多くの想いとともに……今の キラに戦う意味を与えた………

「世迷言を……!」

想いなど……そんな曖昧で不 確かなものに頼るほど、カナードは落ちぶれていない。

ただ己の腕のみ……戦うため の力のみ………

「カナードさん! 苦しみか ら…自分の運命だけに身を委ねちゃいけない……人の…皆の想いが、僕達を支え…そして自身の生き方に気づかせてくれた!」

キラには仲間が……レイナや ラクス…そしてアスラン達……多くのかけがえのない者がいる……プレアにはマルキオやロウ達がいた……だからこそ、今その想いを別の者へと届けよう……決 して孤独ではないと………

「貴方も……貴方を包み込む 想いがある……だから僕は……ドレッドノート……!」

フリーダムに護衛されるド レッドノートのドラグーンが四方に伸び…そして……発射された光が繋がり……ハイペリオンのアルミューレ・リュミエールごと、デルタのピラミッドのような 結果に包まれた。

「なんだ…このフォーメー ションは……?」

初めて見る光景にカナードは 息を呑む。

その包み込む光の壁……キラ はそれに、プレアの想いの温かさを感じ取る。

「これが……僕の想い…貴方 を包み込む……」

表情にやや苦しさを滲ませな がらも……プレアは優しく呟く。

ロウに言われた……想いを乗 せ、飛ばせる力……それがこのドレッドノートだと………

「ぐっ…そんなもの!!」

その結界を破ろうと、カナー ドはビームマシンガンを放つも……ハイペリオンの放った弾丸は周囲に展開する自身のアルミューレ・リュミエールの壁を通らず、そのまま光波シールドの表面 に拡散していく。

「なんだと……!?」

驚愕し、何度も試すが……ハ イペリオンの弾丸は外に出る気配はない……光波シールドをドラグーンの包むエネルギーの壁が、ハイペリオンの光波シールドの能力を抑え込み、キャンセルし ている。

「弾が外に撃てない……モノ フェイズシールドが機能しないのか!?」

今まで余裕を浮かべていたカ ナードの表情が初めて歪む……それは焦り…そして負けることへの恐怖………

だが、そんなカナードの負の 感情を感じ取ったプレアは静かに呟く。

「………僕は貴方の心の殻を 無理に開けようとは思いません。ただ…貴方の全てを包み込む……」

これはプレアの最後の賭け だった……人の心を無理矢理こじ開けてはならない………相手と分かり合えるためには、静かに包むことも…ただ見守ることが大切だと……それがプレアの出し た結論だった………

「ちぃっ……!!」

このさかしい結界を破るため に、ハイペリオンは身を翻してドレッドノートから距離を取ろうとする。

だが、それを逃すまいとド レッドノートも展開したまま後を追う。

キラのフリーダムも見届けよ うと追い縋る……ハイペリオンはそのまま曲芸のような飛行でなんとか振り払おうとするも、ドレッドノートはピッタリと後を追ってくる。

もっとも、ドラグーンと繋が るケーブルが断線しようとも、コントロールには差し支えない……だが、決して離れるわけにはいかない。

「振り切れないだと……なら ばっ!」

振り切るのが無理だと悟るや 否や、ハイペリオンはそのまま廃棄コロニーの外壁と突貫コースを取った。

障害物に当てて結界を破ろう と試みる……だが、そのまま外壁を突き抜け……コロニー内部へと突入する。

微かに残留していた空気が排 出され……その後を追うドレッドノートとフリーダム…2機が突入すると、非常電源が開いた外壁の穴を閉じる。

ハイペリオンはそのままコロ ニー内の廃墟を縦横無尽に飛び回るが、どうやろうともドラグーンの結界は解けない。

「カナードさんっ! 止まっ て!!」

必死に呼び掛けるプレア…… その想いがドレッドノートを通してカナードにも伝わってくる。

「もうこれ以上……自分は傷 つけるのは………!」

キラの悲痛な叫び……それら がカナードの内へと流れ込んでくる………まるで、共心するように………同じきょうだいとして………

「なんだ……暖かく、そして 強い……これが…これが想いの力だと…いうのか……?」

今まで決して感じることのな かったもの……それがカナードの内に拡がっていく………だが、それを受け入れることはできない。

それまでの自分を否定するこ とは……カナードにはできない………

「くっ……こんなもの…ただ のまやかし……俺はそんなもの、絶対に受け入れん!」

自身を奮い立たせるようにカ ナードは叫び……最後の足掻きとばかりにケーブルをフォルファントリーに接続し、核動力のバイパスを全てそちらへと繋げてバーストさせる。

「そんなもの、このハイペリ オンで吹き飛ばしてやる! フォルファントリー最大出力!!」

全エネルギーがフォルファン トリーに流れ込み……砲口にエネルギーがスパークする。

その意図に気づいたプレアは 眼を見開き、叫ぶ。

「だめだ! やめろ ――――――!」

「ぐおおおお! 発射!!」

制止は間に合わず……カナー ドの咆哮とともにトリガーが引かれ……最大出力にまで高められたフォルファントリーが発射された。

だが、光波シールドとエネル ギーフィールドの二重となった幕は…それでさえも撃ち抜けなかった……そして……行き場を失ったビームのエネルギーは密閉されたアルミューレ・リュミエー ルの空間内で暴れ狂う。

ビームの渦が暴走し、ハイペ リオンに襲い掛かる。

無防備のフォルファントリー や腕、脚部…頭部をビームが抉り取っていく………

「があああああっっ」

コックピットに迸るエネル ギーのスパーク……コンソールが破損し、ハイペリオンは爆発に包まれた。

その瞬間、アルミューレ・ リュミエールも破壊され……その爆風にドラグーンが弾き飛ばされる。

爆発から弾け出されたハイペ リオンはそのままコロニーの大地へと落下し、叩き付けられる。

大地を抉りながら、擱座し、膝をつくハイペリオン……その光景に…キラは言葉を失い…プレアもまた僅か に呆然となっていたが、すぐに気づいたように叫ぶ。

「カナードさん、大丈夫です か!?」

「カナード!」

通信から聞こえるキラとプレ アの気遣うような声……だが、それが今のカナードにはとても自分自身を惨めにするものに聞こえた。

「自分の撃った弾で…やられ るとは………失敗作の俺に…相応しい死に方だ………」

自嘲めいた笑みを浮かべ…… ヘルメットがズルっと頭から落ちる。

ハイペリオンももはや大破状 態……装甲も表面が融解し、機能も8割方エラーを表示している。

刹那……コックピットにア ラートが響く。

OS画面に 『WARNING』の文字が表示される。

バックウェストに装着した核 エンジンのラインが切れ…エネルギーが暴走を始めている。

このままでは、もう間もなく 核が爆発する……そうなれば、接続されているハイペリオンは粉々になる。カナードも絶対に死ぬだろう……だが、カナードは脱出する素振りすら見せず、己の 死すらもどうでもいいように力なく、その場に項垂れている。

(想いの力……か……俺も 違った生き方をしていればプレアやキラ=ヤマトのように………)

もし……戦うだけでない…己 の生き方を見つけていれば………自分も違った道があったかもしれない……己で道を狭めてしまった………今更言っても仕方がないことだと己に自嘲する。

だが……それも終わる…結 局、自分は運命を変えることはできなかったのだと………静かに眼を閉じようとした瞬間……接近するドレッドノートとフリーダムに気づいた。

「っ!? バカが……来る な! 核エンジンが暴走しているんだぞ! 貴様らも爆発に巻き込まれるぞ!!」

カナードは、先程までは絶対 に出なかった言葉を発していた……遂今しがたまで命を奪おうとした相手の身を案じる言葉を………

だが、それに構わず2機は急 加速で向かってくる。

「貴方を死なせはしませ ん!」

「安易な道を選ぶな!」

プレアとキラの予想外の返答 に、カナードは無意識にコックピットハッチを開き、機外へと身を乗り出す。

刹那……臨界を超えたハイペ リオンの核エンジンが閃光を発した。

巨大な爆発が巻き起こり、コ ロニーを激しく震動させる……爆発の噴煙が周囲にゆっくりと拡散していく………大地を大きく抉り、周辺の廃墟を吹き飛ばし…荒野が拡がる。

外壁に後少しで届く寸前で崩 壊は止まり……噴煙が晴れた後には……バラバラに砕け散ったハイペリオンの残骸が見るも無残な姿で周囲に散乱している。

そして……煙の奥からは、倒 れ込むドレッドノートと庇うようにシールドを掲げるフリーダムの姿が現われる。

互いにディアクティブモード で硬直したようにその場に佇む……ドレッドノートの両手の中には、カナードの姿があった。

あの瞬間……カナードの身体 をドレッドノートがガードし、身を屈め…爆発から少しでも護るようにフリーダムがシールドを掲げて盾となった。

そのおかげか……カナードは さして外傷もなく…やや身体に走る軽い打撲に身を押さえながら身を起こす。

ドレッドノートから降りたプ レアが、よろよろとおぼつかない足取りでカナードに歩み寄る。

やや鈍い痛みに歯噛みしてい たカナードが顔を上げると……プレアは安堵したように表情を和らげた。

「良かった……」

安堵したと同時にバランスを 崩し……そのまま前のめりに倒れ込む。

「プレア……?」

怪訝そうに鈍い身体を引き摺 り、歩み寄ると…プレアの身を起こす。

「おい…しっかりしろ」

呼び掛けるカナードに……プ レアは疲れを滲ませた声で呟く。

「……すい…ません………少 し、力を使いすぎて…………これが、僕の欠陥だったんです………」

苦しみながらも……そこに微 かな笑みを浮かべる。

その光景を……フリーダムか ら降りたキラもフラフラした足取りで近づき、静かに見詰める。

「何故……俺を助けた? 敗 北し、成功体になれないのなら…俺に生きる価値などない……」

悲観するカナードに、プレア は微笑む。

「違います……生きる価値 は、一つだけじゃない……別にもあります………」

そう言いながらも、プレアは 呼吸を荒くし、咳き込む。

「おい!?」

「はぁ…ぁ……僕の身体 は……クローニングした細胞に手を加えすぎて………あの力を使うたびに、身体に大きな負担が掛かる………」

連合内で生み出されたプレ ア……ドラグーンシステムを使うためだけに遺伝子を調整したために、虚弱体質とシステム負荷の疲労による能力低下が原因で、失敗作となった。

しかも、無理に重ねて調整さ れた遺伝子が過剰反応し、ドラグーンを使用するための能力を使うたびに寿命をすり減らしていく。

「長くは生きられない……そ う知って…貴方のように自分自身を悲観したこともありました……でも…」

自身の過去……生まれ持った 宿命………プレアもカナードのように全てに絶望したこともあった。

だが……マルキオに引き取ら れ…そして出逢った多くの人々との想いがプレアを変えた。

「マルキオ様に…ジャンク屋 の皆さんやキラさん達と出会い……人の想いが僕を変えてくれました……たとえ…どんな運命を背負っていても……人は…この世界に生きているのだと……世界 を成す一部として…………」

その言葉にカナードは戸惑 う。

自分は今まで世界に必要とさ れていないと思っていた……だから…そんな世界に憎悪し、絶望した。

「君が自分の宿命を呪い…… どれだけ深い絶望を味わったのか、僕には解からない……」

後ろから掛けられた声に振り 向く……初めて対峙する成功体の顔………今まで何度かデータで顔を見る機会があったが、こうして直に見るのは初めてだ。

「君も……犠牲者なんだと思 う………」

父の犯した過ち……それの犠 牲者…………自分もあのメンデルで自身の出生と初めて向き合い、全てに絶望しかけた。

「でも………僕には仲間がい た……かけがえのない人達が…………その想いで、今の僕がある」

仲間達の想いが自分を支え… そしてゆく道を探す手助けをしてくれた。

「僕も……プレアも……そし て君も………決して一人なんかじゃない……」

逡巡するカナードの手を、プ レアが握る。

「ナチュラルも…コーディネ イターも関係ありません………貴方は貴方です……貴方という……一人の人間です……そして…少なくとも、僕やキラさんは貴方と想いを届けられた…人と…人 の想いは繋がっています……だから決して………」

握る手の熱さに……カナード も思わず強く握り返す。

「俺は……俺は今まで相手を 倒し…自分が生き残ることが俺の望んだ勝利だった……だが…俺はどうすればいい……どうこれから生きればいい………」

もはやそれすらも叶わな い……今までの生き方を否定して生きるなど…………

そんな苦悩するカナードにプ レアは笑みを浮かべる。

「道は変えられます……貴方 は…貴方自身の道を………真実の道を見つければいい……貴方もキラさんと同じです…壊すだけじゃない………なにかを護るための手です………」

生きている限り、道は何度で も迷う……歩んできた道は消えない……だが、道は変えられる………それを見つけようとすれば………

「プレア―――――!」

沈黙が降りる一同に向かって 大きな声が掛かり……反射的に振り向くと、そこには小型艇でコロニー内へと入ってきた風花が走ってくる。

3機の戦闘を見届けながら、 3機がコロニーへと突入したために急ぎドックからコロニー内へと入ったのだが、予想以上に時間が掛かってしまった。

「プレア…プレア、大丈夫な の?」

不安げな表情でカナードに起 こされているプレアを覗き込むと……プレアは苦しげながらも笑顔で応じた。

「大丈夫…だよ……風花… ちゃん……少し、疲れただけだから………」

風花はどう言葉にしていいか 解からず口を噤む。

その時……轟音が轟い た…………

コロニー内が激しく振動 し……一同が顔を上げると……外壁を破り………白い影が姿を見せた。

「なっ……!?」

キラやカナードが驚きの声を 上げる……姿を現わしたのは、白いボディに純白の羽を拡げる天使のごとき機体………頭部の真紅のバイザーの下に隠れた眼と額のモノアイが不気味に輝き…こ ちらを見据える。

それが敵だと悟るまでもな かった……半ば弾かれるようにキラはフリーダムのコックピットへと駆け……そのまま飛び込む。

ハッチを閉じ…フリーダムが 起動すると同時に天使は右手に構えるランチャーを放ってきた。

カナードや風花達は身構えよ うとするが……間一髪、フリーダムが割り込み…シールドで受け止めるも…そのビームの熱量に先程からの戦闘でダメージを負っていたシールド表面が融解す る。

「ぐっ……!」

それを受け止め…ビームを捌 くと同時にプラズマビーム砲を放つ。

天使はそれをひらりと回避す る……だが、フリーダムも舞い上がり……ビームサーベルを抜いて天使に斬り掛かる。

だが、天使はバックパックか ら取り出した双斧刀を振り被り…ビームサーベルを受け止める。その反応速度にキラは眼を見開く。

ここでは派手な戦闘はできな い……眼下のコロニー地表にはまだ仲間達がいるのだ。

キラはそのままスラスターの 出力を上げ……天使を押し…そのままコロニーの外壁へと叩き付け……2機は縺れあうように宇宙へと飛び出していった。

気流の嵐が巻き起こり……そ れを堪えるカナード達……歯噛みしていたカナードは今一度、腕のなかで苦しむプレアを見やると……逡巡していたが、やがて舌打ちし………

「おい、そこの小僧! こい つを頼むぞ!」

いきなり小僧呼ばわり……仮 にも女の風花はいたく自尊心を傷つけられ、思わず怒鳴ろうとしたが…それより早くプレアの身体を押し付けられる。

「ちょ、ちょっとあん た……!」

風花の制止も無視し……カ ナードはそのままドレッドノートに駆け寄っていく。

シートに着くと同時に下降 し、ハッチが閉じる。

そのまま機体のAPUを起ち 上げる……基本操作はさしてハイペリオンと変わらない。

起ち上がったOS画面に従 い、スイッチを押すと……ドレッドノートに再びカラーリングが施され……ゆっくりと起ち上がる。

ハイペリオンを失った今…… カナードには剣がない……戦うための剣が…………

「お前の言葉がどうなの か……確かめさせてもらうぞ」

モニターに映るプレアと風花 を一瞥すると……ドレッドノートはバーニアを噴かし、機体を舞い上がらせ……開いた穴から宇宙へと飛び出していく。

それを見詰めながら、風花は 悪態をつく。

「もう! なんなのよ、あい つ……って、それどころじゃなかった」

そう……自分の腕のなかに収 まるプレアの身を案じ、風花は引き摺るようにして小型艇へと向かう。

残留酸素の排出が始まってお り、ここもすぐに真空になる……それ以上に、プレアの容態もある。急ぎここから脱出し、リ・ホームに合流しなくてはならない。

そして……コックピットに収 まると……小型艇は発進する。

開かれたコロニーの外壁を通 り……そのまま宇宙へと飛び出すと、真っ直ぐにリ・ホームへと向かう。

苦しむプレアを不安げに見や りながら、風花はリ・ホームに緊急治療と謎の敵の出現を打電する。

 

 

 

「ロ、ロウ〜〜なんかまた戦 闘になってるんだけど………」

静観していたリ・ホームのブ リッジから、戦闘光が咲き乱れるのが確認できる。

樹里が上擦った声をあげ… リーアムが状況を分析する。

「どうやら……戦闘をしてい るのは先程の機体ではありません」

モニターに表示されてるのは フリーダムとドレッドノート……だが、もう一機はハイペリオンではなく未確認のMS。

リーアムは望遠カメラを操作 し……機体をズームアップする。

「うわっ、なにあれ……?」

「天使……かしらね」

その異様な機体形状に樹里は 眼を見開き…プロフェッサーは頭を掻きながら呟く。

映像に映るのは純白のボディ に純白の翼を拡げる天使……だが、その異様さは嫌でも感じられた。

「連合のダガー系列に似てい ますが……少なくともデータにはありませんし、IFFにも反応してません」

機体照合をしてみたが、連 合・ザフトの確認されているデータにはなく、また両軍どちらかの新型機にしてもなにかおかしい。

こんなL4の辺境でしかも単 機で行動する意図が解からない。

「ジョージ、近くに母艦 は?」

「確認したが……少なくとも 周辺宙域数キロに渡って戦艦らしき熱源はない」

キャプテンシートに着く ジョージが手元でデータを表示させ、周辺宙域の確認を行うも、MS単独で行動できる範囲に母艦らしき反応はない。

「ああっ!」

樹里の上擦った声に振り向く と……白い天使の攻撃にフリーダムとドレッドノートは危機に晒されている。

よく見てみれば、フリーダム もかなり外部装甲や武装にダメージを負っており、ドレッドノートに至っては武装もほぼ無い状態だ。

「こりゃまずいな……」

万全でない今の状態では明ら かに不利なのは火を見るより明らか……そこへ、通信が届く。

「ロウ、風花から連絡だ…… プレアが疲労困憊…すぐに治療の準備をだ」

「はぁ? んじゃ、ドレッド ノートには今誰が乗ってんだ?」

思わず眼を剥く……プレアが 風花と一緒にいるのなら、今ドレッドノートは誰が操縦しているのか……だが、その疑問にすぐ答えは返ってきた。

「どうやら、カナードという 少年がドレッドノートに乗っているらしい」

「あのあんちゃんが!?」

ロウも一度だけカナードと直 に対峙したことがあるだけに、驚きを隠せない。

何故カナードがドレッドノー トに乗って……しかも戦っているのか…逡巡していたが、モニターに天使の攻撃でドレッドノートが被弾するのが映る。

「マズイですよ、ロウ……事 情はどうあれ、今のドレッドノートはほとんど丸腰です。加えてフリーダムのダメージ率から考えて……このままでは二人にも危険が……」

やや上擦った声でコンソール を叩きながらリーアムが叫ぶ。

「……ジョージ、格納庫開け てくれ! レッドフレームで出る!」

やや逡巡していたが、間髪入 れずロウがそう答えると、周囲は困惑する。

「む、無茶だよ! ロ ウ!!」

「そうです…レッドフレーム であの機体の相手をするのは……」

ざっと簡単に確認できただけ でもあの天使は機動性に非常に優れた機体のようだ……近接戦重視のレッドフレームでは分が悪い。

「けどよ、このまま見てるわ けにもいかねえだろ! 心配すんなって、俺の悪運を信じろって……」

ニカっと笑みを浮かべるロウ はそのまま踵を返す。

「ジョージ、風花とプレアの 方を頼む!」

返事も待たずしてロウはブ リッジを駆け出し、格納庫へと向かっていく。

その背中を見送りながら、樹 里は不安げに表情を顰め、リーアムはやや頭を抱えそうになった。ロウの悪運とやらへの不安に………

 

数分後……両舷のハッチが開 き、片方に風花の操縦する小型艇が着艦する。

「小型艇、収容完了!」

「レッドフレーム、発進位置 へ!」

ハッチの入口に立つレッドフ レーム……両腰に刀を携え、ビームライフルとシールドを構える。正直、どこまでアテになるか解からないが……無いよりマシだろう。

「いくぜ、8!」

【了解!】

8のサポートに従い、ロウは レッドフレームの操縦桿を切り…ペダルを踏み込む。

刹那……バックパックのバー ニアが火を噴き、バッテリーケーブルが除去される。

ケーブルをパージしたレッド フレームは身を浮かし……ハッチから飛び立つ。

「ロウ=ギュール…レッドフ レーム、いくぜ!」

ロウの掛け声とともに…… レッドフレームは弾かれたように飛び立った。

 

 

 

天使とフリーダム、ドレッド ノートが戦闘を繰り広げる様をコロニーの破片の上から見詰める影………

ボロの布を全身に羽織り…呪 文が描かれた帯を巻き付けている機体………頭部を覆うマントの隙間から見える暗い部分に真紅の瞳が不気味に輝く。

「まさか、エンジェルのテス トに来てこんなにいい実戦相手が見つかるなんて………」

コックピットには、口端を薄 く歪めるルンの姿がある。

彼女は、先の衛星軌道での戦 いで敗北した天使の改修型の稼動テストのためにL4宙域を訪れていたが、思ってもいなかった邂逅と能力テストに内心、笑みを浮かべる。

モニターに表示される天使の 戦闘データを記録しながら、その眼をフリーダムとドレッドノートに向ける。

「確か…フリーダム…とか 言ったわね……パイロットは…あの女の子供か」

半ば、侮蔑するように吐き捨 てる。

自分達を造り出したウォーダ ン=アマデウスがライバル視した男…ユーレン=ヒビキの作品にして息子……既にフリーダムのパイロットがキラ=ヤマトであることは知れている。

だが、天使に苦戦する様にや や拍子抜けといったように肩を落とす。

「たかがエンジェル程度に苦 戦するとは……所詮は、ウォーダンの買い被りすぎだったということかしらね……」

いくら先に投入した天使の改 修型とはいえ……この程度の実力ではたかが知れている。

こんな者に勝つために自分達 を造り出した……そう考えると、ウォーダンに対してやや呆れにも似た感情が浮かばないでもない。

「まあ、いい……せいぜい データは取らせてもらう…その後で、死んでもらうけどね」

あの程度なら、危惧するまで もないだろう……データを蓄積後は撃破し、後の憂いを断っておくべきだろう。

その時、レーダーが別方向か 接近する機影を捉えた。

「新手………ジャンク屋の機 体か。大人しくしておけば、まだ暫くは生きていられたものを………」

ルンにはどの道、目撃者を生 かしておくつもりもなかった。

データ蓄積後は、フリーダム やドレッドノートだけでなく、この場にいた者全てを滅すつもりでいたのだから………

そんなルンの眼からは、戦場 に飛び込んでくるレッドフレームは自殺志願者にしか見えない。

「まあ、無様に足掻くの ね………」

絶望を味あわせてから殺すの も一興とばかりにルンはほくそ笑んだ。

 

 

 

フリーダムとドレッドノート に乗り込んだカナードは苦戦をしいられていた。

眼前に迫る天使は今まで対峙 したどのMSよりも違っていた……特に驚愕するのがその機動性……とてもパイロットが乗っているとは思えないような曲芸飛行を何度も繰り返し、こちらの攻 撃をかわしている。

「ぐっ!」

カナードは歯噛みする……初 めて乗る機体というのもあるが、それ以上に今のドレッドノートはほぼ丸腰に近い状態だ。

ドレッドノートは格闘戦を臨 もうとするも、天使は距離を取って間合いを取らせない。

「カナード!」

そんなドレッドノートに向け て、キラはフリーダムのビームライフルを飛ばす。

一瞬、眼を瞬くも……飛んで きたビームライフルを受け取ると同時に構え、攻撃する。

狙撃された天使は態勢を変え るが…そこへフリーダムの砲撃が轟く。

いくら機動性が高くとも2方 向からのビームには対処が難しい……致命傷には至らなくてもダメージは与えられると踏んでいたが……次の瞬間、天使は右腕に装備されたユニットが起動し… それが真紅に色付くデルタを形成する。

その光のデルタにビームが着 弾するも…周囲に拡散され、ダメージには至らない。

「なに……!?」

その形状と能力にカナードは 驚愕する。

アレは紛れもなくハイペリオ ンの光波シールドと同じもの……何故という疑問も次の瞬間には消えた。

突如、天使の羽の裏側からな にかの飛行体が飛び出してきた。

飛び出した飛行体はビームを 縦横無尽に放ちながらフリーダムとドレッドノートに襲い掛かる。

「こ、これは…彼女の機体と 同じ……!」

その攻撃を回避しながらキラ はその装備に息を呑む……これは、リンのエヴォリューションのドラグーンブレイカーと同じもの………

光波シールドにドラグーン… そして機動性……その桁外れな能力にキラとカナードが追い込まれる。

やがて、ドラグーンのビーム が2機の装甲を掠り始める。

このままでは嬲り殺し……そ う考えていたところへ、別方向からビームが伸び……天使は額のモノアイを動かし、それを察すると光波シールドで受け止める。

注意が逸らされたことで僅か に攻撃が緩む。

援軍……そう考えていた二人 の前にロウのレッドフレームがビームライフルを放ちながら加速してくる。

「ロウさん! 無茶で す……!」

いくらなんでもロウの腕で渡 り合うのは難しい……だが、そんなことも構わずレッドフレームは天使に迫る。

「こんにゃろう!」

悪態を衝きながらトリガーを 引くも、天使は悠々と回避する。

【敵ノ回避率高シ……ビーム ライフルハダメダ】

「だぁぁ、言われなくても解 かってるよ!」

8に言われるまでもなく、 レッドフレームはビームライフルを捨て、シールドを前面に掲げて加速する。

だが、回避されるかと思った が…天使はなにを思ったか、突撃してきたレッドフレームの突進を受け止める。

【敵ダメージ軽微……ナニカ オカシイゾ】

天使の機動性と回避性を既に 考慮している8はその奇妙な行動に警戒を促すも、ロウは聞かない。

「あん? んなことはどうで もいいぜ! 近づいちまえばこっちのもん!」

シールドを押し付けたまま シールドごと殴りつけて僅かに距離を取る……間髪入れずシールドを離し…両手に両腰部から対艦刀であるガーベラとタイガーを引き抜く。

「おおおっ!!」

ロウが咆哮を上げ、両手の刀 を振り下ろす……シールドで視界を遮られた天使を斬り裂く…かに見えたが……

「なっ……! 受け止めや がった!!」

振り下ろした刃をシールドを 挟んで受け止める天使……斬れ味抜群のこの二刀を刃をマニュピレーターで受け止め…そのまま堪えている。

膠着していたが……刹那、 レッドフレームの両脚部が撃ち抜かれ…爆発する。

「うおわっ!」

バランスを崩すレッドフレー ム……後方には、砲口を向けるドラグーン……ロウはすっかり失念していたようだ。

そのままバランス感覚を失 い、浮遊するレッドフレームを天使は蹴り飛ばす。

「どわぁぁぁぁぁっ!」

慣性に従い…そのまま回転す るように弾かれるレッドフレーム………

「ロウさん!」

キラの叫びに……遠心力に 引っ張られながらも、ロウは歯を食い縛り、操縦桿に手を伸ばす。

【警告! 警告! 早ク機体 ノ重心ヲ整エロ】

8の警告に答える余裕もな く……必死に操縦桿を握ったロウは押した。

次の瞬間……レッドフレーム は右手のガーベラを近くを浮遊していたデブリに突き刺し、それによって動きを止める。

「ふぅ……止まった ぜ………」

【安心スルナ……敵ハダメー ジ0ダゾ】

そう……ロウの攻撃は結局徒 労に終わった。

天使はもうレッドフレームに 興味をなくしたようにフリーダムとドレッドノートに矛先を向けている。

 

 

「ふむ……装甲値、反応速 度……パワー…少なくとも許容範囲内ね」

戦闘をモニターしているルン がコンソールを叩きながら、データを表示させていく。

フリーダムらを翻弄する機動 性に、対艦刀をマニュピレーターで受け止める装甲強度…さらには反応速度にパワー……

これなら、もう充分だろ う……データの蓄積は果たした。

「さて……お遊びはお終い… 絶望の闇へ……誘ってやれ…………」

冷笑を浮かべ……ルンは非情 に命令を下した。

 

 

 

天使の攻撃が激しくなる…… ドラグーンは縦横無尽に襲い掛かり、フリーダムとドレッドノートの2機を翻弄する。

「ぐっ……これ程、あの武器 には高い攻撃力があったのか……」

カナードは改めてこのドラ グーンと呼称される無線遠隔兵器の能力に畏怖感を抱く。

ドレッドノートにしろ、エ ヴォリューションにしろ……似た武器を使っていた。突き止めると、今と同じような芸当が可能ということ。

全方位からのオールレンジ攻 撃……あらゆる局面に対抗できる万能兵装だ。

ドレッドノートは右手のフ リーダムのビームライフルでドラグーンを狙うも、的が小さくてなかなか掴まらない。

キラもまた歯噛みしてい た……リンとエヴォリューションがこの装備を使う様は何度か見たが…味方にいればこれ程頼もしいものはなく…また敵に回せば厄介なものだということを改め て知った。

プラズマビーム砲、レールガ ンを駆使して狙い撃つも、ドラグーンは網目を潜るように動き回り、ビームを放ってくる。

その一射がやがて、フリーダ ムを捉え…ビーム砲の一門が撃ち抜かれ……右翼のスラスターが破損する。

「ぐぅぅぅっ!」

衝撃に呻くキラ……流石にハ イペリオンとの連戦で疲労を負っている今のキラでは通常の半分ほどぐらいしか実力を発揮できていない。

息切れが起こる……動きが鈍 るフリーダムを墜とそうと…ドラグーンが狙いをつける。

ロックオンのアラートが響 く……ハッと気づいた時には遅く…ビームが放たれた。

かわせない……その認識同時 に迫るビーム…だが、フリーダムの前に割り込んだドレッドノートがビームライフルで狙撃し……ビームを相殺させた。

その姿に眼を見開くキラ…… そんなキラに向かってカナードのやや鼻を鳴らすのが聞こえてきた。

「勘違いするな……俺は、こ んなことで貴様にやられてほしくないだけだ……」

ぶっきらぼうにそう言い捨て ると……再び攻撃を開始する。

やや呆然となっていたキラ だったが……やがて表情を引き締めると、攻撃を再開する。

 


BACK  BACK  BACK


 

inserted by FC2 system