デブリベルトの奥深く……デブリが多く漂う区画を一隻のジャンク船が航行していた。

彼らは連合・ザフトに売買す るMSや艦艇のパーツを求めてここを訪れていた。

戦争も正念場の今、資材を確 保するためには手段を選んでいられないのが両軍の見解であり、ジャンク屋組合もまたそれに乗じていた。

艦はそのまま奥深くまで進 み……クルーの一人がなにかに気づいたように呟いた。

「そういや、この辺に確かユ ニウスセブンの片割れがあるって話だ」

血のバレンタインで破壊され たプラントコロニーの一つ、ユニウスセブンの二つに分かれた砂時計の片割れ……もう片方の部分は、先日のジャンク屋組合総出の作業で軌道をずらして安定軌 道に載せる作業が行われ、彼らもまた参加していた。

「ああ、しっかしあの時のあ の赤いMSの奴は凄かったな……」

「そうそう…あのでっかい剣 で支柱を斬るなんてたまげた真似してくれたし」

半ば興奮げに談笑する一 同……その作業で一つの大きなトラブルがあり、コロニーがバラバラになりそうになったことがあったが、そこに居合わせた一人のジャンク屋の男の駆る赤い MSが巨大な刀を使い、トラブルを解決したのはジャンク屋組合の間ではちょっとしたニュースである。

その時、モニターを見ていた 一人が声を上げた。

「おい、前方になにか熱源反 応が密集している場所があるぞ……」

その言葉に反応し、モニター を覗き込む。

最大望遠で捉えたモニターに は、戦闘と思しき火線がいくつも走っているのが見えた。

「こ、こんなとこで戦闘 か!?」

「片っぽは連合だが……こっ ちがSOS発してるぞ!」

こんなデブリベルトの真っ只 中で戦闘が起こるなど、普通ではあり得ないだけにジャンク屋の人間達にも動揺が隠せない。

だが、不思議なことに火線が 走って数分後……光は消え…デブリベルト内は再び静けさに包まれた。

戦闘が終了したのかとも思っ たが、それにしては戦艦規模の爆発の熱源も確認できていない。

「おい……もう少し近づいて みるぞ」

怪訝そうにしていたクルーの なかでリーダー格と思しき人物がそう提案すると、他のクルーは戸惑いを浮かべる。

「ち、近寄るんですか?」

「き、危険ですよ!」

そう……遂今しがたまで戦闘 が行われていたかもしれない宙域に近づくなど、無謀どころの問題ではない。

「だがよ、解せないところが 多々ある…それによ……最近この辺で同業が何チームか行方を断ってる…そいつも確かめねえとよ…なに、少し確認できりゃいい……危険だと感じたらすぐに引 き返す」

そう……すぐに終了した戦 闘…そしてこれはフォルテから回された警告文だったのだが…ここ最近、デブリベルトのユニウスセブン付近でジャンク屋組合のメンバーが消息を断っている。 海賊か…それともデブリにやられたのかは詳細は解からないが、原因が解明できるまでデブリベルトの奥深くには決して近づかないようにとお達しがあった。

その原因の究明が進んでいる のかは解からないが、この眼でそれを確かめるチャンスでもある……その言葉に、クルー達はジャンク屋特有の危ない好奇心に突き動かされ…ゆっくりと艦を進 めていった。

歴史にIFがあるなら……こ の場は逃げておくべきだったかもしれない…………

ゆっくりと進む艦のモニター に、前面の映像が映し出された。

「な、何だ………?」

ポツリと誰かが漏らす。

それ程異常な光景が眼前には 拡がっていた……伸びる柱とその下部には砕けているはずのコロニー外壁がドームのように覆い…まるで神殿のような神々しさと物々しさを醸し出している。

「お、おい……周囲に艦数が かなりある…100…いや、もっと多い!」

モニターには、その神殿の周 囲に布陣する夥しいほどの連合、ザフトの艦艇が確認できる。

「俺たちゃ……とんでもねえ もん見ちまった………」

早くこの事をジャンク屋組合 のトップに知らさねば……と反転しようとした瞬間、艦の前に突如白い影が掛かった。

強化ガラス越しに見える白い 衣を纏った姿……その真紅の眼光がこちらを捉え、手が伸ばされる。マニュピレーターがブリッジを掴み…力を込めてブリッジがひしゃげ、クルー達の表情が恐 怖に歪んだ瞬間……クルー達の意識は開かれた穴から飛び出してきた何かに視界を覆われ、意識を暗転させた。

 

数秒後……ブリッジから手を 離し、見やる白い衣のMS……コックピット内でルンはほくそ笑む。

「フン……人間とはつくづく 愚かだな………放っておいてもどんどん集まってくる」

揶揄するように肩を竦める と、ルンは腕を振ると…突如先程のジャンク船がエンジンを噴かし、ゆっくりと中枢部に向けて発進していった………

「審判の刻は近い……… ねぇ、姉さん達……オリジネイターを殺せば…オルタナティブから真になれる…そして……あの方にとって絶対の存在になれる……」

少女のごとく夢見がちに微笑 む……そして、その決意を表わすように拳を握り締める。

「…破滅の運命に……抗える かしらね………」

小さく笑みを零し……ルンは 夢想した…………

 

 

運命の審判の刻は……刻一刻 と迫りつつあった…………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-52  終局へのプレリュード

 

 

カーペンタリア陥落からゆう に一月近い日数が経った頃………L5宙域とL3宙域の境界では、また一つの戦いが繰り広げられていた。

宇宙空間に浮かぶ小さなザフ トの宇宙ステーション型要塞に接近する3隻の艦影……一隻はリ・ホームにもう一隻はナスカ級だが、船体に蛇のマーキングが施されている。サーペントテール が使用している戦艦フレガート……そして最後に帆船を意識した船体形状にドクロを施された艦……一ヶ月前、アメノミハシラから出航した海賊兼傭兵集団 シャークレギオンの母艦:コスモシャーク………

ここに存在するザフトの秘密 基地と大量破壊兵器を叩く……それが彼らの仕事だった。

コスモシャークの船首にはマ ントを纏い、靡かせる眼帯をつけたMS……カナード=パルスの駆る新たな剣、ドレッドノートHだ。

胸部にドクロのレリーフと右 肩に刻印された鮫のエンブレムが映える。

その後方には僚機であるスト ライクダガーとストライクキャノンダガーの海賊バージョンが8機佇んでいる。それぞれが、独自のカスタマイズとパーツの代用を施しているらしく、どれもが かなり奇妙な形状だ。

コックピット内で、カナード はモニターの先にある基地を睨むように見る。

《カナード……目標より熱 源…MSです》

コスモシャークのブリッジか らメリオルの報告が飛び、カナードは操縦桿を握り締める。

「まだその大量破壊兵器とや らは見つからないのか?」

《はい……今、サーペント テールが捜しています》

「フン……別にあろうが無か ろうが構わん…いくぞっ!」

互いに射程圏内に入った…… 3隻のなかで武装を施されているフレガートとコスモシャークの艦砲が火を噴き、進路上の小惑星を吹き飛ばしながら伸びる。

この小惑星のような小さな岩 塊が密集しているために作戦行動が取り難く、また基地の規模もさほど大きくないために連合に勘付かれなかった。

その場所を彼らが発見したの もある情報屋からの情報リークが元だった。

艦砲に続き、ドレッドノート H、そしてストライクダガー改が4機飛び立つ。

フレガートからもカタパルト ハッチが開き、イライジャのジンカスタムがセットされる。

「しっかし……一度は戦った 奴と一緒に任務をこなすとはな…」

イライジャも今回の任務に同 行しているカナード達に驚きを隠せない。

以前、カナードの駆るハイペ リオンと敵対し、劾を追い込んだこともあるパイロットだ。その男が今、同じ傭兵に近い立場として同じ任務に臨んでいるのは確かに奇妙な状況だ。

《なにぶつくさ言ってんの、 イライジャ? もう準備はできたんだから早く行きなさいよ!》

通信機からは、フレガートの ブリッジにいる風花のヤジが飛ぶ。

「解かった、解かったよ!」

やや焦り口調で応じると、操 縦桿を握り締めて前を見据える。

《時間稼ぎしっかりね……今 劾とお母さん達が目標捜してるから》

そう……その目的の大量破壊 兵器の発見に劾が単機で斥候に出撃し、それに工作班としてリードとロレッタを同行させている。

とどのつまり、今フレガート を動かしているのは風花だけであり、これも経験の賜物であろう。

ぶつくさ文句を言われながら も、イライジャのカスタムジンが発進する。

先行するドレッドノートH、 ストライクダガー改……そして、今回ロウ達の応援としてやって来たのがオーブ軍クサナギ所属のパイロット、ジャン=キャリー……愛機のM2を駆り、ロウと の約束を果たすために援軍としてやって来た。

ドレッドノートHのコック ピットで、カナードは接近してきた機体をモニターに捉え、表情を顰める。

モニターに映し出されるのは ダークパープルのカラーリングを持つMS……ザフトのNJC機、カナードの今の剣であるドレッドノートの発展型に当たる機体だ。

「ククク……わざわざ死にに きたか…クズどもがぁぁぁぁっ!!」

狂気の笑みを木霊させ、アッ シュは吼え……リジェネレイドは右手のビームランチャーを放つ。

無秩序に放つそのビームにカ ナードらは舌打ちし、回避行動に入る。

ビームが機体を掠め、装甲が 焼け焦げる。

「際どい狙いだ……!」

イライジャも紙一重で回避し ながら歯噛みする……もし一発でも直撃を受ければ、ジンの装甲では間違いなく深刻なダメージを受けるだろう。

同じくビームをシールドで捌 きながら掻い潜るM2のコックピット内でジャンも微かに汗を流しながらアッシュの力量に驚く。

「性格はキレてるが……腕は 確かだ…!」

性格異常者ではあるが、流石 にXナンバーを任されただけはある。その操縦の腕は認めざるをえない。

「フン……だが、貴様のその 余裕も打ち砕いてやる!」

軽く鼻を鳴らし、ドレッド ノートHが加速する。

「はっ……最初に死にたいの は貴様かぁぁぁドクロぉぉぉぉぉ!!!」

加速し、接近してくるドレッ ドノートHの胸部のドクロのレリーフを睨みながら叫び、ビームを連射する。

ドレッドノートHはビームの なかを網目を縫うように掻い潜り、接近してくる。だが、流石に全てのビームをかわすことはできず、何発かは機体を掠めるも、それはドレッドノートHがボ ディに纏うABマントによって僅かに中和され、機体へのダメージは少ない。

アンチビーム粒子を素材に使 用されたこのABマントはビーム兵器が主流となる今日において対抗策の一環としてアメノミハシラで試作されたものだった。

直撃によるビームの熱量を周 囲に拡散させ、機体へのダメージを最小限に抑える……だが、それは無限ではなく未だ数発しか耐えられないうえに一枚製作するだけのコストも掛かりすぎるた めに実用的ではなく、結果…実戦での評価テストということでシャークレギオンに託されたものだった。

だが、カナードには別に構わ ない…元よりカナードは被弾するなどということは彼のプライド上、決してあってはならないのだ。

マントを靡かせながら迫り、 一気にリジェネレイドの懐へと飛び込む。

「もらったぁぁぁっ!!」

背部のバックパックに装備さ れた複合兵装を起動させ、ビームサーバーとして振り上げた。

それはリジェネレイドの機体 を斬り裂き……ボディに一閃の傷跡が刻まれる。

殺った……まず間違いなく致 命傷にはなった……そう確信したカナードだったが、次の瞬間……突如リジェネレイドのバックパックが外れ…ボディが弾丸のように打ち出された。

「なっ!?」

驚愕に眼を見開く間もな く……ほぼ接近していたドレッドノートHはそのボディの突進の直撃を受ける。

それに向かってバックパック の本体からビームが放たれ、それがリジェネレイドのボディに着弾し、爆発する。

「ぐぉぉぉっ!!」

衝撃に弾き飛ばされるドレッ ドノートH……その衝撃でABマントがボロボロに四散する。

もし、このABマントを羽 織っていなければ爆発の直撃で機体は深刻なダメージを負っていたことだろう。

「ハハハハ、お前は知らな かったようだな……そいつは単なる予備パーツ…そして………」

小馬鹿にするように高笑い し、アッシュがレーザー通信を送る……刹那、後方から打ち出されたカプセルが分解し…その中からリジェネレイドの本体が姿を見せる。

それに向けてバックパックが 加速し、背部に接続する。

「予備パーツを交換すれば、 こいつは不死身よ!」

バックパックをコアブロック としてそれ以外の本体パーツ交換することで何度でも再生する機体…それ故に『リジェネレイド』というコードネームが与えられた。

リジェネレイドの能力を知ら なかったカナードにしてみれば自尊心を大きく傷つける出来事だった。

「さぁ……死ねぇぇぇぇ!」

満足に動きが取れないドレッ ドノートHに向けてビームランチャーを構える。

そこへ銃撃とビームが轟き、 アッシュは機体を後退させる。

イライジャのカスタムジンと ジャンのM2が突撃銃とビームライフルを放ちながら向かってくる。

ドレッドノートHの前に割り 込み、牽制するように狙撃すると、リジェネレイドも後退しながら距離を取る。

「おい、生きてるか!?」

「フン……余計なことを」

イライジャの問い掛けに悪態 をつくと、イライジャはやや表情をムッとさせるも、ジャンの言葉に現実に引き戻された。

「くるぞっ!」

ハッと振り向くと、リジェネ レイドは別のカプセルから打ち出されたビーム砲をMSの四肢に取り付け、砲撃態勢に入る。

コネクターによるモジュール 構想の多種多様戦術に対応する機能……ゆえに装備換装も容易い。

「このハエども がぁぁぁっ!!」

チョコマカと飛ぶ3機に苛 立ったアッシュがビーム砲を所構わず乱射し、ビームの嵐が襲い掛かる。

流石の3機も距離を取り、後 退するしかなかった。

 

 

 

ドレッドノートH、M2、カ スタムジンの3機を相手にまったくひけをとらずに対峙し、激戦が繰り広げられる周囲では、ザフトのMS部隊とシャークレギオンのMS隊が激突していた。 シャークレギオンのパイロット達も元はユーラシア連邦の兵でMAの操縦経験はあってもMSを扱うのはまだまだノウハウが弱い。それゆえに、アメノミハシラ を発ってからは同業の海賊や連合、ザフトの部隊を相手に実戦を通じての慣熟訓練に臨んだ。

要たるカナードのドレッド ノートHのおかげで彼らも実戦を積み、そしてそれぞれの機体をジャンクなどから独自のカスタマイズを施し、ストライクダガー改型として運用している。

全機に刻印された海賊を表わ すドクロのエンブレム……ストライクダガー改がビームライフルを構え、狙撃する。

それを掻い潜るように回避す るゲイツにジン……そのまま接近しようとするも、一機のストライクダガー改が脚部と腰部からミサイルを発射する。

どうやらこの機体はザフト MSのD型兵装を主軸にカスタマイズされているらしい……ミサイルに牽制され、動きを抑制されるザフト側のMS……元々極秘の秘密基地だけに特機であるリ ジェネレイドを要としてほぼ防衛の任を一任しているだけにここには配備されているMSの数が少ない。

ゲイツの一機が腰部のエクス テンションアレスターを発射する……ビーム刃を展開して迫るアンカーがストライクダガー改の腕を吹き飛ばす。

だが、それにパイロットが笑 みを浮かべた瞬間……彼方より放たれた砲撃にコックピットを撃ち抜かれ、爆散する。

コスモシャークとその甲板に 立つストライクキャノンダガーだ……その後方にリ・ホームとフレガートを誘導しながら突き進んでくる。

元々民間艦のリ・ホームと今 は風花一人でほぼオートで動いているフレガートは戦力にはならない。

母艦を墜とそうとMSが迫る も、それを阻もうとストラクキャノンダガーと甲板のレーザー突撃銃が対空弾幕を張り、近づけさせない。

一旦下がった一体が突如、後 ろからコックピットを貫かれ、機能を停止する。

その背後からは、ゆらりと姿 を現わすブルーフレームセカンドG…強行偵察型……その手には、ジンのコックピットから突き出ているアーマーシュナイダーが握られている。

それに眼もくれず、アーマー シュナイダーを引き抜くと同時にリ・ホームに向かっていく。

「こちら劾……目標は捕捉し た。工作にはロレッタとリードを残してきた」

基地の偵察と目標の発見…… そのために先行して偵察に出ていた劾……このGタイプは劾が様々な任務に対応するために外部パーツを換装するのを前提に設計したブルーセカンドのもう一つ の姿………そのままリ・ホームの格納庫に入ると、すぐさま装備換装に入る。

頭部とバックパックが外さ れ……ロウの設計した頭部とタクティカルアームズがブルーに装着される。ロウが劾のために譲渡したパーツ……その奇妙な友情に敬意を表してこのタイプには Lというロウの頭文字をつけた。

その横では、レッドフレーム もまた姿を変えて出撃の時を待っていた。

《準備完了……いくわよ、ロ ウ! 劾!!》

ブリッジから聞こえるプロ フェッサーの陽気な声……それに応じてリ・ホームの両舷ブレードの上部ハッチが開かれる。

《レッドフレーム、ブルーフ レーム……カモーン!!》

せり上がるように姿を見せる 赤と青のアストレイ……L装備に換装したブルーセカンドLとその横には巨大な両腕を備えたレッドフレームの改修型…パワードレッドが姿を見せ、その両腕を 組んで佇んでいる。

これこそ、ロウがジャンから 譲り受けた強化パーツ:パワーシリンダー……パワーローダーという外部強化ユニットを使わずに150ガーベラを振るうための強靭な腕………

「いくぜ……このパワード レッドで、てめえを止めるっ!」

数日前……ロウはリジェネレ イドに襲撃を受けた。ラクス達に通じていたことがどこからか漏れ、標的にされたのだが…その戦闘でパワーローダーは大破…レッドフレーム本体にも深刻なダ メージを負った。

だが、レッドフレームは新た な力を得て甦った……ロウの信念が折れない限りは、決してレッドフレームも倒れない………

パワードレッドは150ガー ベラを抜き取り、巨大な刀を振り構える。

その姿に多少は圧倒されてい たアッシュだったが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。

「フン……少しは楽しませて くれそうだな…なら、こちらも奥の手を出すとしよう」

不遜な態度で不適に笑い…… アッシュは計器の一つのボタンを押した。

刹那……ロウ達の前方…アッ シュにとっては後方に巨大な建造物が宇宙から浮き出るように姿を見せる。

コロニーほどの大きさを誇る それは巨大な円筒の物体……先端にタワーのような砲身がセットされた巨大な砲台にも取れるものはミラージュコロイドを用いて姿を今まで隠していた。

レーダーにもセンサーにも捉 えられない高度なステルス技術故に今日に至るまで発見されることはなかった。

「こいつがザフトの最終兵 器…大出力レーザー発信器、ジェネシス!」

γ線を用いたレーザー砲…… その威力はあらゆるものを分解し、消滅させる………その初期型…αタイプ。

だが、これにはまだ別の使い 方があった。

「こい……ジェネシィィ スゥゥゥ!!!」

アッシュの咆哮とともに…… ジェネシスαから放たれるレーザー……なにを思ったか、突如リジェネレイドは巡航MA形態に変形し、その射線上に躍り出た。

怪訝そうに表情を顰めるロ ウ、劾、カナードの前でレーザーがリジェネレイドの後部ユニットを直撃する。

だが、それはリジェネレイド を破壊するのではなく……次の瞬間、リジェネレイドは爆発的な推力を得て、加速する。

それはもはやMSでは決して 不可能なほどの超加速だった。

リジェネレイドに施されたも う一つの機能…それがこのレーザーによる点火装置を使い、後部推進剤を燃焼させ、機体を超加速状態に入るライトクラフト・プロバルジョン。

スペリオルとは違った可変機 構を導入されたこの機体だけの能力だった。

しかも機体自体のモジュール システムによりこの加速を維持したままのAMBACと逆噴射の減速も可能というシステムだ。

そのまま旋廻し、超加速で一 気にパワードレッドに迫る。

ロウは静かにその突進してく るリジェネレイドを見据える。

静かな面持ちのまま……ロウ は眼を閉じ…神経を周囲に張り巡らせる……蘊・奥から教 わった剣術における気配の捉え方と呼吸……研ぎ澄まされた神経が接近するなにかを捉えた瞬間……流れるような動作で……一気にガーベラを振り下ろした。

巨大な刃が振り下ろされ…そ れはリジェネレイドを捉えた。

鍛え上げられたレアメタルの ガーベラの刃とリジェネレイドの加速スピードが上乗せされ……それはPS装甲で護られたリジェネレイドの装甲を強引に打ち砕き、リジェネレイドのボディが 四散する。

「な…なにぃぃぃぃぃ!?」

その状況にここに来て余裕 だったアッシュの表情が驚愕と苦悩に歪む。

150ガーベラを振り下ろし たパワードレッドの両腕のシリンダーが動き、過負荷を逃すように空気圧が漏れる音が反響する。

その威容にアッシュは僅かな がら気圧される……リジェネレイドのMAXスピードを捉えるほどのロウの動体視力とパワーローダー時とは比べものにならないほどの振りのスピード……アッ シュは歯噛みする。

「くっ…だが、こいつの能力 忘れたか…予備パーツさえあれば、何度でも…!」

そう……特殊能力は破られた が、何度でも再生できるのがこのリジェネレイドの特性……すぐさま予備のパーツを搭載したカプセルを発射するように指示を出すも、まったく返ってこない。

訝しげに…そして苛立たしげ にボタンを押すアッシュは、機体に向かって当たった衝撃にハッと顔を上げる。

モニターには、バックパック のコックピットに先程当たった物体が漂う……それはリジェネレイドの頭部………そして…ゆっくりと周りを見ると………

「なんだとぉぉぉぉ!?」

悔しげな…苦悶の声……… バックパックの周囲には、無数のリジェネレイドのボディパーツが散乱していた。

その残骸のなかに佇むブルー セカンドLとドレッドノートH……アッシュのその声が聞こえたかは解からないが、コックピット内でカナードは不適な笑みを浮かべた。

「捜しものは……こいつか な?」

ニヤリと口元を歪めながら、 ドレッドノートHは右手に握り締めていたリジェネレイドの頭部を握り潰す。

「貴様の能力は以前の戦いで 全て把握した……二度も同じ手に敗れるほど、俺はあまくはない」

冷静な口調で呟く劾……以前 のアメノミハシラでの攻防で対峙したリジェネレイドの能力はその時にある程度把握し、また対策は練っている。

バックパックを本体としての モジュール構造と事前にルキーニより渡されたデータから予備パーツの存在を既に掴んでいた劾は即座に予備パーツが配備されている箇所の破壊に向かった。

無論、ロウが相手を引き付け ることを計算に入れてだ……それは打算的か…それともロウの腕を信頼しているかは解からないが………

だが、予備パーツが破壊さ れ、さしものアッシュも不利を痛感せざるをえない。

癪ではあるが、ジェネシスα に援護を回させようとしたが、通信が返ってこない。

「おいっ、どうした!?」

返事が返ってこないことに怒 鳴るように叫ぶ……暫し沈黙の後、返ってきたのは別の声………

《残念だったわね〜〜お仲間 さんは皆のびちゃってるわよ》

軽薄そうな女性の声……ジェ ネシスα内に潜入したロレッタだ。

劾によってジェネシスαの破 壊任務のためにリードともに潜入し、既に施設の制圧を完了していた。

通信機を握りながら笑うロ レッタが後ろを見やると、そこにはリードが不適に佇み、その横には気絶したザフト兵の山ができている。

「ぐっ……!」

《ああそう…守備隊を呼んで も無駄よ……もうあっちも全滅してるし》

アッシュの次の手を読んでい たかのごとく呟いたロレッタの言葉にアッシュは今度こそ驚愕に眼を見開いた。

ジェネシスα周辺に展開して いた数少ない友軍機は既にイライジャのカスタムジンとジャンのM2、そしてシャークレギオンのストライクダガー改によって全滅させられていた。

「き…きっさま らぁぁぁぁぁぁ!」

癇癪を爆発させたように叫び 上げ、パワードレッドを睨む。

「なめる なぁぁぁぁぁっ!!」

自棄を起こしたように突如 バックパックの先端パーツが分離し、カタパルトのごとく打ち出される。

その鋭い加速にロウは咄嗟に 反応できず、パワードレッドの左肩に突き刺さった。

PS装甲でもないパワーシリ ンダーの腕の装甲はそれに耐え切れず、左腕が破損し、150ガーベラを思わず離してしまう。

「しまっ……!」

舌打ちするロウにアッシュは 隙ができたとばかりにレーザー長距離通信を繋ぐ。

プラントに連絡を取り、援軍 を回してもらおうという魂胆だったが……返ってきたのはエラー音………

「繋がらない…だとっ!」

どこからか妨害する電波が放 たれ、通信網が遮断されている。

愕然となるアッシュ……そん なアッシュの様子を愉しんでいるかのごとく…某所でその戦闘を見詰めていたルキーニは静かにほくそ笑んでいた。

だが、そんな事情を知らない アッシュは苛立ちと焦燥にかられる……もはや、常に他者を見下し、余裕の態度を崩さなかった面影はどこにもない。もっとも、仮に通信が繋がったとしてもこ こからでは援軍がくるまでかなりの時間が掛かる。

そのために注意の逸れたアッ シュ……その隙を逃さず、一気に間合いを詰めたパワードレッドが蹴り上げた。

「うおっ!」

その衝撃にコックピットが激 しく揺れ、弾みで装着していたビームランチャーが弾き飛ばされた。

歯軋りするアッシュの前で悠 然と佇むパワードレッド内でロウは静かに見据える。

どういう理由かは解からない が、もはや手はない……降伏を促そうと考えたが、それより早くアッシュは行動に出た。

「この腐ったハエども がぁぁぁぁ! 俺をなめるなぁぁぁぁぁ!!」

狂ったように叫び、バック パックは一気にパワードレッドに接近する。そのまま直前で機体を旋廻させ、パワードレッドを飛び越える。

「なにっ?」

その行動に眼を瞬く間もな く……背後に回り込んだバックパックが伸び、パワードレッドを掴み上げる。

「ひゃははは! 油断した な……このリジェネレイドは…コネクターのあるMSなら回路を接続できる……!」

接続コネクターがパワード レッドのバックパックに備わっていた接続部分にドッキングする。

刹那……パワードレッド内の 電気系統が侵入されていく。

【コントロールヲ奪ワレル ゾ! 危険!!】

8の警告も遅く……パワード レッドの操作系統が侵食されていく。他の機体に乗り移り、器を変えることでどのような戦局にも対応でき、なおかつ混乱を起こすのもこのリジェネレイドの特 性だ。

そして遂に……全ての操作系 統がロウの手から離れ、パワードレッドは糸の切れた操り人形のごとくその場に腕をたらす。

「クゥァハハハハハ! この 機体俺がもらったぁぁぁぁ!!」

新たな器を得たリジェネレイ ド……その一部始終を見ていた劾とカナードは舌打ちする。

「あのバカが……油断するか らだ」

思わず悪態をつくカナードに 劾は無言でブルーセカンドLのタクティカルアームズを外し、ガトリング砲モードにチェンジさせ、それをパワードレッドに向けて構える。

「ロウ=ギュール……自力で それから逃れられないなら………今ここで撃つ」

躊躇いも戸惑いみなく言い放 つ劾……任務遂行が第一の傭兵にとって私情でせっかくのチャンスを不意にすることはできない。

だが、そんな劾の様子に困惑 も悲壮も浮かべず……ロウはただ静かに笑みをこぼした。

「フフフ……やっぱおめえは 最高の傭兵だぜ…クールで素早い的確な判断だ」

たとえ生業は違おうともロウ と劾はその自分の仕事に誇りを持っている……それは、たとえなにがあろうともそう簡単に曲げてはならない。

もしここで劾が逆の行動を起 こせば、ロウを劾に幻滅していたかもしれない……だが、その思い描いていた劾の態度にロウはやはり奇妙な友情を感じた。

「だがよ、俺を誰か忘れちゃ いないか……俺は悪運強い宇宙一のジャンク屋…ロウ=ギュールなんだからな!」

刹那、弾かれたようにロウは コンソールボードを引き出し、キーを叩き付けるように操作していく。

その動きに呼応して侵食され ていた電気系統が徐々に戻っていく。

その行動にアッシュが眼を剥 く……完全に支配下においたはずのパワードレッドの操作系統が取り戻されていく。

無論ロウだけの力ではな い……8という擬似コンピューターのサポートだ。以前、8のおかげでコントロールを奪われたレッドフレームの奪回に成功したのだ。

あの時と同じく、8の的確な サポートによって侵食領域はどんどん最適化され、繋がっていたバックパックが軋み音をあげる。

「よっしゃぁ!」

威勢のいい掛け声で最後の キーを叩いた瞬間、全ての操作系統がロウに戻り、リジェネレイドのバックパックは強制解除され、弾かれる。

「ぐぅぅ……きさ まぁぁぁ…!?」

予想外の展開に驚く間もな く……次の瞬間、ジェネシスα内から突如爆発が起こり、ジェネシスαが爆発に包まれていく。

ロレッタ達が仕掛けた爆弾を 起爆させたのだ……量的には小規模コロニーの外壁を破壊するぐらいの爆発であったはずだが……だが、その爆発に呼応して起こったのはジェネシスαの再起動 であった。

この事態にロレッタとリード は困惑し、アッシュは一瞬ヒヤッとしたもののすぐさま元の笑みを浮かべる。

「はっ……お生憎…ジェネシ スαは内部材にPS装甲を用いている…その程度の爆発で壊れるほどやわじゃないんだよ!」

嘲笑を浮かべながら最後の賭 けとばかりにリジェネレイドは機体の駆動箇所を駆使し、パワードレッドにしがみ付く。

爆発からほぼ無傷で姿を見せ たジェネシスαにやや呆然となっていたロウはそれを赦し、後ろから拘束され、身動きを封じられる。

「動けまい……そして…貴様 らもだ!!」

羽交い絞めにしたパワード レッドを抱えたまま加速するリジェネレイド……そして、アッシュはブルーセカンドLとドレッドノートHの周囲に漂っているボディの残骸に向けて意識を飛ば す。

それに連動し……突如、浮遊 していた残骸が動き出し、それが一斉に2機に襲い掛かった。

そのあまりに非常識的な状況 に劾とカナードは動きが遅れ、2機はその残骸に動きを拘束され、そのまま加速する。

量子通信をいかしたパーツの 呼び寄せによる合体……スペリオルがブリューナクという外部防御ユニットに使用したものをリジェネレイドはパーツの呼び寄せに使用していた。

「むっ……!」

「ちっ…往生際の悪 い……!」

劾はやや眉を顰め、カナード は相手の悪足掻きに舌打ちする。だが、そう簡単に離してくれるほど拘束は緩くない。

3機はそのままジェネシスα のレーザーの射線上へ運ばれていく。

「ひゃははは! これで貴様 らは終わりよぉぉ…俺の機体はジェネシスのレーザーを受けても脱出が可能だが、貴様らにはそれができまい……最後に笑うのはこの俺よぉぉぉ! ヒャーハハ ハハハ!!!」

もはや自身の勝利を信じて疑 わないアッシュ……確かに、ジェネシスαから放たれるレーザーの直撃を受けては、パワードレッドやブルーセカンドLはおろか、PS装甲のドレッドノートH も保たないだろう。

だが、そんなアッシュの思惑 にのるつもりなど3人にはさらさらなかった……劾とカナードは互いを見合い……次の瞬間、ドレッドノートHの後部ビーム砲が起動し、火を噴いた。

ビームの火線はそのまま伸 び、ブルーセカンドLを拘束していたパーツを吹き飛ばした。

その緩んだ隙を衝き、拘束を 引き千切るブルーセカンドL……同時にガトリング砲を構え、それを今度はドレッドノートHに向けて放った。

ガトリング砲は拘束部分にピ ンポイントで着弾し、拘束が緩む。そしてドレッドノートHもそれを弾き飛ばした。

あの一瞬で意図を交し合った 劾とカナード……だが、あまりに無茶な脱出ではあったが、彼らは見事脱出した。

「バカな…ぐっ、せめてこい つだけでも!」

その光景にアッシュが眼を剥 く……だが、どうせ死ぬのならと道連れにしようと掴んでいるパワードレッドを睨むが、ロウはそんな自殺劇に付き合うつもりはない。

「そうは……いくかよ!」

パワードレッドの腕が伸び、 巨大な手がリジェネレイドのパーツを掴み、握り潰すように引き寄せる。

その桁外れな握力と腕力に機 体が軋み、嫌な音を響かせる。

もはや状況を把握できずにい たアッシュの前で、パワードレッドは力任せに拘束を解き、リジェネレイドを前へと引き寄せた。

左手に捕まえるリジェネレイ ドに向けて、ロウは静かに呟く。

「今からてめえに一発繰り出 す前に一言言っておくぜ……俺の強さは、お前のような特殊な能力の機体のおかげじゃねえ……このパワードレッドを造るために手を貸してくれた俺の仲間…… こいつに込められた想い…!」

そう……メカには魂が宿って いる………それはこちらからメカを信じ、そしてともにあるべきもの……それがロウの信条……それを根本的に否定する眼の前のこのアッシュ……壊れた機械は 仕方がない…だが、それを修理するのでもなく消耗パーツのように捨て、他人のメカを奪う…………自らの快楽のために……それがかつてないほどロウに怒りを 掻き立てさせていた。

「そして…! これが……俺 とパワードレッドの…………拳だぁぁぁぁぁ!!!

右拳を引き、構えた瞬間…… 出力を全開にして繰り出した。

我を喪失していたアッシュに 向かって……パワードレッドの拳が打ち込まれた。

レッドフレイム……パワーシ リンダーの力を用いた一撃…それは非常に重い一撃となってリジェネレイドの装甲から衝撃が内部機器に振動のごとく伝わり、電気系統がショートした。

装甲の薄い箇所と見える接合 部……衝撃はそこから内部へと浸透し、リジェネレイドの操作系統を完全に破壊した。

その衝撃に弾き飛ばされるリ ジェネレイド……アッシュはコックピット内で動作を止めようと操作するも、全てのシステムがフリーズした今、もはやリジェネレイドはただの移動物体でしか ない。

「電気系統が……!  AMBACが不能…逆噴射も……! うっ…ふわぁぁぁぁぁ!!」

もはや精神が崩壊したかのご とく……コックピット内で奇声を上げるアッシュ……空気抵抗のない宇宙空間では一度掛かった力は決して消えない。

弾かれたリジェネレイドはそ のまま流されていくしかなかった……彼方へと消え去ったリジェネレイド……それを見詰めるパワードレッド、ブルーセカンドL、ドレッドノートH………

「方向転換が不可能になった 奴の行く先は連合の勢力圏か……いずれ、あのメカは接収され、奴も拘束されるだろう」

リジェネレイドの行く先は 月……連合の勢力圏だ。もっとも、もはやNJCを手に入れた連合にとって、リジェネレイドなど価値のない機体かもしれないが…そして、パイロットの扱い も………これまで人殺しを快楽としてきた者にはお似合いの末路だろう。

「フン……あれでは着く前に デブリに激突する方が早いかもしれんぞ」

劾の囁きに突っ込むように呟 くカナード……ここから月までの間には無数のデブリが浮遊している場所がある。そこを無事に通過できる可能性は低い…最悪、デブリ内で激突のシェイクを繰 り返し、くたばる方が早いかもしれない。

だが、そんな感慨もなくロウ は無言のまま……見詰めたままだ。

「終わったな……ロウ= ギュール」

何気に劾がそう声を掛ける と、ロウもやや肩の力を抜き、溜め息をつく。

「ああ……ミッション・コン プリート………だろ?」

劾のお得意の口調を真似てお どけるロウ……そして、その視線を変える。

「けどよ……俺の仕事はまだ 終わってねえぜ………この馬鹿でかいジャンクの後始末さ」

ジェネシスαに向き直り、ロ ウはしたり顔で笑みを浮かべる。

人殺しの兵器として使用され るジェネシスα……だが、これも使い方次第ではその意味を変えられる………メカは皆そうだとロウは信じていた。

「大仕事になるぜ………それ に、なんてたって…俺はジャンク屋…ロウ=ギュールなんだからな!」

親指を立ててそう明言する。

その言葉に劾もカナードも口 元を微かに緩めるのであった。

この後……ジェネシスαは改 装を施され、ジャンク屋組合のギガフロートに続く本部となるのであった………

 


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