時を同じくしてアメノミハシ ラ……そのブリーフィングルームでは、各主要メンバーが集まり、ミーティングを行っていた。

「やはり、セイラン家は大西 洋連邦に与していると?」

ミナが問うと……トダカは静 かに頷き返す。

「仰る通りです……今回の派 兵に関しては大西洋連邦の一部から経由で指示されました。詳細は解かりませぬが……」

先の衛星軌道での戦いで加 わったオーブ残留軍……本土に残されていたほとんどの兵力を取り仕切っていたトダカに齎された無理な派兵……

ウナトが今回の派兵に関して は連合の意向ということで説明を受けたが、どうにも解せない点が多すぎた。

もはや無きに等しいオーブ軍 の兵力を必要とするなど、今の連合には不要のものだろう。

考えられるのは、今回の派兵 を要請したのが連合の上層部ではなく極一部……しかも、セイランが懇意にしている派閥からの要請であるということ。

「……セイラン家は確か、ブ ルーコスモスと内通していたはず…少なくともアズラエルではないないわね………となると、強硬派の幹部クラスか」

話を聞いていたレイナがミナ に話を振る。

アズラエルともかつては通じ ていたミナなら、少なくともそのブルーコスモスの強硬派に関しての内部事情は詳しいはずだという意見だ。

「ふむ……強硬派幹部連中は ほぼアズラエルの傀儡だ。だが、それはあくまで軍内部に関して……企業体ともなれば互いに利権があるからな。そのなかで勢力が強いのは…確か、ロード=ジ ブリールだ。強硬派のなかでもアズラエルの財団に次ぐ勢力を誇るが……」

アズラエルがブルーコスモス 盟主に収まれたのも元を辿れば、父親が前盟主であり、アズラエル財団という大西洋連邦内での最大勢力を持つバックがあったからだ。そうでなければ、いくら 能力的には優秀な部分があろうとも子供のような我侭しか知らず、まだ若いアズラエルが盟主に収まれるはずはないだろう。そうしたバックのために他を押し退 けて盟主に収まったために同業の企業体のブルーコスモス内幹部からはアズラエルは目障りな存在だ。もっとも、それを表に出すことはないが………

そして、そのアズラエルの企 業体に次ぐのがジブリールの率いる財団……軍内部にも決して安くはない出資とアズラエルと並んで殲滅戦を訴える人物でもあるが、いかんせん強引すぎて周り を見ていないというのがミナの印象であった。そのためにジブリールにも手を回し、後にアズラエルと衝突させようとも考えていたが、あの性格ではこちらの思 惑を壊しかねないとして接触は止めた。

だが、そのジブリールにセイ ランが接触していたとは予想外であった。

「で、あんた達の受けた命令 は?」

黙り込む一同のなか……リン がトダカに問う。

「連合軍への協力……そし て、クサナギの掌握とカガリ様の身柄確保です」

最後はやや躊躇いながらも… だが、はっきりとした低い声で呟く……だが、その口調には苦悩が滲んでいる。

カガリもその言葉には衝撃を 受けたようだが、苦悶を微かに浮かべるトダカに言葉を呑み込む。

「……成る程、どうやらウナ トってのはたいした狸みたいね」

鼻を鳴らし、嘲笑を浮かべる リンにミナは憮然とした表情で吐き捨てる。

「……俗物の狸がっ」

どうやら、表向きは協力しつ つ裏ではやはり自らの勢力を強めるために策を巡らせていたようだ。

現に、クサナギの掌握とカガ リの身柄確保の件は決して他言無用であったのだ。

「しかし、何故カガリ を……」

隣に座るアスランが気遣うよ うに呟く……だが、それに対しリンは溜め息をつき肩を竦める。

「解からないの? 彼女は仮 にもアスハの生き残りだ……なら、その名は効果がかなりある……内政統一のためには手に入れておきたいカードだな」

そう告げられ、カガリは眼を 見開く。

そう……オーブ国民にとって アスハの名の影響力は強い………いわば、プロパガンダに使えるのだ。カガリ個人にはどんなに魅力が少なくとも………

最悪、名前と存在だけ利用さ れるだけの傀儡人形になるという可能性も無いとは言えない。

今の世には都合のいい人形に 仕立てるための手段にはこと欠かないのだから……それは口に出すまいとは思ったが、自分がそういったものとしてか見られていないことにカガリは微かな憤り と不甲斐ない自身への悔しさに拳を握り締めた。

「どうやら、セイランの愚行 は眼にあまる……奴らには、後のしかるべき報いを受けてもらおう」

ミナは淡々とした口調でそう 呟く。

別段カガリの怒りを汲んだわ けでもないが、単にセイランのあまりの蛮行ぶりに嫌悪したからだ。

国を腐らせる毒は排除せねば ならない……どのような手を用いても。

「御苦労だった、一佐……貴 君の働きぶりに期待させてもらう」

「はっ…この身に代えまして も」

恭しく一礼すると、トダカは 席に着く。

そして……ブリーフィング ルームに様々な映像が映し出される。

蹂躙されるザフトのMSに処 刑されるザフト兵……それだけでなく、大洋州連合のなかでも民衆の一部が公開処刑とばかりに射殺されるシーンが映し出されている。

それは、先のカーペンタリア 陥落の映像とその後の大洋州連合内での連合の行いであった。

「酷い………」

そのあまりに非道な行いに見 る者全てが禁忌し、ラクスやリーラなどは嘔吐感を憶え、マリューが代弁するように呟く。

「見せしめかよ……くそっ」

ムウが思わず毒づく………こ れは先日、地球全土に向けて放送された連合の報道だ。

「連中もなかなか姑息な手を 使う……だが、効果は高いな」

自らの戦果を華々しく…そし て敵となった者はこうなるとばかりの見せしめ………ダイテツの評通り、カーペンタリア陥落に伴い地上の支配権はほぼ連合の手に戻り、そしてなお連合に与さ ない者の末路がどうなるか……その恐怖を布く意味ではまさに効果的であろう。

「これで、ますます連合が台 頭するな……政府内のパワーバランスも怪しくなる」

苦々しい口調でレイナが舌打 ちする。

ここまであからさまな映像を 見せられては、誰もが逆らおうなどとは考えなくなるだろう……政治家とて弱い人間だ。我が身が可愛いだろう……そして恐怖はなお思考能力を落とさせ、連合 内にもはやブルーコスモス強硬派の政治家や軍人に逆らえる者はいなくなるということ。

このままでは最悪、殲滅戦に 突入し……その先にあるのは両者の共倒れか決して浅くない疲弊だ。

「シオンからの話だと……連 合軍は現在、戦力を宇宙に集結させつつある…その大部分が大西洋連邦の部隊らしい……」

レイナが視線をずらし……別 の場所に座るハルバートンに向けられると、ハルバートンも重々しく頷く。

地球軍の現状について少なか らず知りえているのはこのなかではハルバートンだけであろう。

「その通りだ…現在第6、第 7……そして第9艦隊が常駐し、ユーラシアと東アジアが残った兵力を宇宙へと上げて第4艦隊を再編成している」

第6、第7……大戦初期から 存在する大西洋連邦の直轄艦隊………第1から第3まではユーラシアが主力の艦隊で第4は東アジアが主力を担う艦隊であったが、世界樹攻防戦において第1、 第2艦隊は壊滅…第3艦隊も後のグリマルディ戦線にて壊滅……第4艦隊は新星攻防戦において敗退……第5、第6は大西洋連邦の管轄であったが第一次ヤキ ン・ドゥーエ攻防戦において第5艦隊は壊滅、第6艦隊も艦艇の半数を失うという打撃を受け、大戦後期にようやく再編成が済んで今は第7艦隊と並んで月基地 へ常駐している。

「ユーラシアと東アジアも随 分必死ね……そんなに面子が大事かしらね」

仮にも連合の構成国という意 地か……ここで少しでも活躍を見せておかねば、戦後の発言権にもかかわる。他の同盟国首脳部は既に大西洋連邦に媚を売るなか、それに負けてはならないとい う面子があるのだろう……だからユーラシアと東アジアはもはや絞るところまで絞って第4艦隊を再編成したのだ。

だが、どうあれこれで最低で も4個艦隊が月基地に駐留していることになる。

それは戦力的にみればかなり の大部隊だろう。

「ハルバートン……連合の動 きについて、他になにか解かっていることはあるか?」

パイプを噴かしながらダイテ ツが問うと、ハルバートンも表情を顰める。

「私もあまり多くは知ら ん……上層部の動きはかなりの機密になっていて現場レベルの将官では一部を除いて解からんようになっている」

立場を冷遇されていたハル バートン……上層部にとって必要なのは命令を遂行できる忠実な犬だ。飼い主の手を噛みかねないような忠義の薄い人物は必要ない。

「だが、第9艦隊はまだ編成 中だ……聞いた話では、開発部で遂最近ロールアウトした新機種を優先的に配備しているという話もある」

大西洋連邦の主導で…いや、 ハルバートンは知りえないが、その第9艦隊は半ばアズラエルが中心となって艦隊の編成を進め、半ば私設軍隊と化している。

現にビクトリアでの手腕から 准将に昇進したサザーランドが艦隊指揮を任せられ、強硬派の構成メンバーが部隊内に多く組み込まれている。

そのためにアズラエル傘下の 開発部や工場から最新鋭機が優先的に配備され、後のプラント攻略の中枢を務める手筈になっている。

「それともう一つ……訊きた いことがあるんだが、よろしいかな?」

コーヒーを一杯啜り、気を取 り直すようにバルトフェルドが視線を送ると、ハルバートンも頷く。

「こいつは先日ここで改装し たユーラシアの部隊から齎された情報なんだが……月基地では、既にNJCが大量生産されていると………ホントかね?」

その言葉に一同のなかにはざ わめき、また表情を顰める者もいる。

問われたハルバートン自身も 表情を苦くし、押し黙っている。

既にここにいる中心メンバー には知るところとなっているが……先日、キラ達が連れてきたユーラシアの特務部隊X……その指揮官でもあるメリオルから改装の報酬代わりに渡された情 報………月基地では、既にNJCが大量に増産されているという事実………

現にそれを手に入れ、実際に 運用していたのだからまず間違いない。

「地球側のNJCの開発は難 航していた……それがここに来て急に増産となった…明らかに時間が合わない」

連合諸国でもNJCの開発は 進んでいたはずだが、それは芳しくなかった……しかし、ある日突然の大量生産……もし地球側独自のNJCが開発・成功していたならかなり早い時期にその情 報を得ることができたはずだ。

加えて数ヶ月前のメンデルで の行動といい……時間があまりに短すぎる。

「………私も詳しくは知ら ん…だが、軍内部で奇妙な噂を聞いた。対プラント用の特務部隊が極秘裏に編成されていると……」

そう……ハルバートンも答え あぐねていた。

ある日突然月基地の製造ライ ンに齎されたNJC……当初は月基地内部でも少しの混乱があった。どこから齎されたかは解からないが、少なくとも連合のものではない。

「十中八九……核の運用部隊 ね」

誰もがその可能性を思い浮か べ、半ば確信していたが口に出すのが躊躇われていたところへレイナの冷静な口調が響く。

そう……NJCの大量増 産……それが意味するのは核が再び連合軍の手に戻ったということ………ならば、当然その核を惜しげもなく投入するのは火を見るより明らかだ。

「ジャンク屋の情報網でも聞 いたが……大戦初期の頃に核兵器の類はほとんど太陽に投下されたと聞いていたが、どうもその全体の4割ほどが消失したらしい」

フォルテ経由で手に入れた情 報をキョウが口にする。

そう……NJのために核兵器 の類が無用の長物と化したためにそれらは太陽へと投棄されたとあったが、その全体の約4割が消息不明になり、キョウ達TFはその行方も追っていた。

「そいつを確保しておいたの が………」

「………連合の軍需理事、ム ルタ=アズラエル…奴ならそれぐらいは容易い」

ミナがやや不愉快げに吐き捨 てる。

狡猾でなにより強大な力を望 む男だ……核兵器を世界の半数近くを所有しておけば、それは未来において切り札になる可能性もある。

そしてその核兵器を横流し、 補完しておくのはアズラエルには容易なことであっただろう。

「そして、そのNJCの流出 経路についても……ある程度だけど予測はできる」

レイナが淡々と呟き、コン ソールを操作する。

モニターの映像が切り換わ り、そこに一体のMSのCG図が表示される。

「これは、先の衛星軌道での 戦いで大破したメネラオスから回収したMSだ……ハルバートン提督は、この機体をご存じなかったと聞いているが……」

リンが視線を向けると…ハル バートンはやや苦く頷く。

「ああ……そもそも、メネラ オスにこれらの機体が配備されていたということすら私には伝わっていない」

メネラオスに配備されていた 新型MS……それらの存在はハルバートンの与り知らぬところであり、ホフマンがその企みにのったという事実だけ。

「整備班の調査によると…… こいつはRGXと呼称されるナンバーの機体だ…だが、その内部構造はザフト製に近い」

その言葉にどよめきが起こ る。

レイナが促し、リンが説明に 入る。

鹵獲したこの機体はRGX− P00:テスタメントと呼ばれる機体で、内部構造の一部はザフト製のMSと似通った造りになっている。

「恐らくは、ザフトから鹵獲 した機体を改装して使用していると思うけど……この機体の駆動路にはNJCと核動力が組み込まれている」

誰もが眼を見張る前に、モニ ターには機体の内部構造が映し出され……そのボディ付近には核特有の放射能反応が検出されている。

その横にはNJCが搭載され ており、連合の手に核が戻ったのが決定的となってしまった。

「さらに付け加えるなら…… この機体の構造はある機種に近い…フリーダムの技術が一部に応用されている」

刹那、キラが息を呑み…眼を 瞬く。

「この意味……解かる?」

レイナが問い掛けるように全 員を見渡す……連合の手に収まったNJC…フリーダムと似通った機体形状………そこから導き出される結論………

「例の鍵……ですわね?」

ラクスがキラの様子に戸惑い ながらもそれを口にする。

そう……先のメンデルにおい て突如ザフト艦より解放されたフレイの叫んだ言葉……戦争を終わらせる鍵……彼女はそう叫んだ。

「じゃあ、フレイが持ってい たのが……」

「ええ…NJCのデータ…… もしくはフリーダムかジャスティスの設計図」

はっきりとは解からないが、 NJCに関するデータなのは間違いない……そして、その引渡し相手はアズラエル……

「国防産業連合理事のアズラ エルなら、これ程いい取引相手はいないな」

リンも肩を竦めながら息を吐 く。

あの時…ドミニオンにはアズ ラエルが乗っていた……NJCを連合に齎すための手段としてこれ程相応しい相手はいない………

残酷な言葉がキラに突き刺さ る……そして、それは途方もない後悔に変わる。

あの時……自分がもっと頑 張っていれば………フレイを救出していれば………と自責に念にかられるキラの肩をラクスが手を置き、苦悩するキラに向かってラクスが微笑む。

「キラだけの責任ではありま せんわ……あの時、あの言葉を聞いたのは皆です。それに反応できなかったのですから……」

キラだけが悪いわけではな い……あの時は包囲網から脱出するのと予想外のアクシデントが重なり、とてもフレイにまで気を配る余裕はなかったのだ。

レイナやリンにしてもドミニ オンを早々に沈めておけばよかったと僅かに思うところがある。

「もう過ぎたことよりも、今 はこれからどうするかを考えるべきですわ」

そう……責任を感じるのはい い。だが、それに悲観していてもなにも変わらない…ならば、なにかを起こさなければならない。

「だけど問題はそのデータを 渡した人物………まあ、予想はつくけど」

「ラウ=ル=クルーゼ……だ な」

頭を掻くレイナにムウは歯噛 みするように毒づく。

フレイが地球軍に齎したのは 事実だが……問題はフレイにそれを持たせた者の思惑だ。捕虜となっていたフレイがそんな重要な機密を独力で手に入れられるとは考えにくい。ならば当然それ を渡した者がいる。

「くそっ……クルーゼめ」

あのメンデルで邂逅したク ルーゼが叫んだ言葉………最後の扉が開く…自分が開くと…奴は間違いなくそう言った。

そのために奴は賭けたの だ……あんな戦闘宙域に小さな心もとないポッド一基を放り出すなど、無茶もいいところだ。下手をしたらそれはデータもろともフレイは死んでいたというの に………

だが、そんなムウの様子を見 詰めながら……レイナは思考を巡らせていた。

(ラウ=ル=クルーゼが齎し たのは間違いない……だけど、手際がよすぎる…………これも、奴らのシナリオなのかしらね……)

クルーゼの思惑がどうであ れ……NJCのデータを手にし、それをフレイに持たせて地球軍に回収させた……あまりにうまくいきすぎている。それこそ低い確率だ……だがそこに…別の要 因が絡んでいるとしたら………地球軍にNJCを持たせ…そうやって両陣営の疲弊するのを望んでいるのが別にいるとしたら………

全てが一本の線に繋が る………全てを破滅へと誘う奴らの……………それが事実なら、これも連中にとってはシナリオ通り………拳を握り締め、震える。

「だけど、地球軍が核を手に したということは……」

予想もしたくない…だが容易 に想像できる事態にリーラは口調を震わせる。

「まず間違いなく……核兵器 を投入するな………連中とて、楽にカタがついた方が望ましいだろうしな」

侮蔑するように鼻を鳴らしな がらリンが答える。

既に地上での戦闘を終えた以 上、連合も早期終結を狙い宇宙に戦力を集結させ、プラント攻略戦に突入するだろう。その時こそ核兵器を使用する絶好の機会だ。

「私達に……時間はない」

静かな……それでいて冷静な 声が響く。

一同に静まり返る……そう… カーペンタリアが陥ち、もはや地上においてザフトと表立って敵対する勢力がなくなった今……地球圏の覇権を握ろうと宇宙での決戦に臨む地球連合の動きは遅 くとも数週間後には開始される。

それをただ見ているわけには いかない……この戦争を終わらせるために…そして………レイナ達は決着を着けるために…………

「シオン達が連合政府内に根 回しをしている……あとはこっちの動きと私達が両軍のトップをどうするか………」

シオンの根回しと恫喝によっ てなんとか議員を抱え込んでいるものの……問題はプラント側の政権と暴走する地球軍とザフトのトップをどうにかしなければならないということ。

それは恐らく自分達の仕事に なるだろう……父親との対峙を抱き、アスランも表情を引き締める。

そして……現在開発・改装中 の機体の早期完成と部隊編成……両軍の監視と政権交代の根回しとということで会議は落ち着いた。

 

 

 

アメノミハシラ内のファクト リーでは、新型MSの組み立てと改修が急ピッチで進んでいる。

ルフォンが中心となっている メンバーが担当しているのがマーズ……ZGMF−X12のナンバーを冠する機体………

核動力をいかした様々なオプ ション兵器を使用するための換装機能を持たせた砲撃支援機……ようやく本体への武装の取り付け作業が開始した。

「ルフォン様……どうでしょ うか?」

それらの作業を見やりながら 浮遊するラクスがルフォンに問い掛ける。

「急ピッチで進めとるさか い……早かったら明後日ぐらいにでも試乗に入れるはずや」

同じように浮遊しながら、作 業状況を記したレポートを見せる。

ようやく全体的なバランスの セッティングが終わり、あとは実際に動かしてみての問題点を洗い出すだけだ。

「なんとか間に合いそうやけ ど……ほんまに乗るん、ラクス嬢?」

肝心のルフォンもまだ半信半 疑であった……正直、ラクスがMSに乗るというのは予想できない。それに、この機体はかなりの技量を必要とする……まだパイロットとしては未熟なラクスに 乗りこなせるかどうか………

「解かっています……無理を 言っていることも、重々承知しています。ですが、もう決めたことです……私は決して死にません………生きて…生き抜きます………」

不安を拭うように笑顔を浮か べる。

もう決めたことだ……そし て………決して死ぬことは赦されない…………自らの責任を果たすまでは………微かな葛藤を押し込めるようにマニュアルを抱き締める。

「………解かったで。きっち り完成させたるさかい……ラクス嬢もこいつをしっかり扱ってなぁ」

ルフォンも笑みを浮かべて頷 き、そのままマーズに張り付いていく。

それを見届けながら……ラク スは己の剣となる機体を静かに見上げるのであった。

 

 

別の一画では、二体のMSが 開発を進められている。

灰色の装甲を持つ二体……そ れは、形状を変えてはいるが間違いなくストライクとバスターであった。

マードックとカムイを陣頭に 先の衛星軌道で大破した両機はもはや性能不足が否めなかった。次々に投入される連合・ザフトの新型機に対抗するためにもはや修理するだけでは不足という結 論に至り、カムイが前々から進めていたアストレイ系統の新型パーツと改装案を基にマードックらと改装に入った。

「どうだぁ、坊主?」

バスターの足元に立つマー ドックがコックピットにいるディアッカに問う。

「ああ、結構いいレスポンス してるぜ……でもよ、これって結構重くねえか?」

操縦桿を引きながら、それに 連動してバスターのバックパックにまったく新しいユニットパーツが装着され、そのスラスターとバーニアノズルが小刻みに動いている。

「しょうがねえだろ……こい つは宇宙仕様が前提だ、多少重くても問題ねえよ」

バスターのバックパックに装 着されたのは大型のリフターユニット……M23号機の実戦データから得たデータを基にバスターの欠点であった機動性を補い、さらには新開発のビーム兵器: アグニUを搭載し、内蔵した補助バッテリーにより稼働時間の低下は防いでいる。

整備士達がクレーンを操作 し、バスターの内部に新開発のバッテリーを搭載…バスターのタイプUを母体にアストレイ用に設計されていた新型ユニットパーツを搭載した機体。

 

――――――GAT− X103C:メガバスター………

 

全身にミサイルポッドを搭載 し、そのミサイル数は約80発にも及ぶ。さらには主兵装の交換により、より広範囲攻撃を可能とするツインビームガトリングガンを保持させている。

その横では、カムイを陣頭に ストライクの改修が進められている。

「しっかし……あんまいい気 はしないな」

コックピットに収まるムウに OS設定を手伝うカムイが苦笑いで応じる。

「仕方ありません……新しく こいつに装備した武装を使うためにはやはりバッテリー型では賄えませんので………それに…」

「解かってるよ……要は使う もん次第ってことだろ」

言葉を繋ぎ、ムウも苦笑を浮 かべて肩を竦める。

この新ストライクは原型を まったく変えている……母体となっているのは鹵獲した連合の新型機:テスタメント……核動力とNJCを内蔵した機体であり、未だ設計途上であったのが幸い し、それを母体にストライクのタイプUのパーツで補修する改装が始められた。

ムウ自身もあまりいい気分で はないが、このMS自体に罪があるわけではない……ならば、自分はその力に溺れずまた決して私欲のために使わない……

だからこそこいつにもストラ イクの名を冠させる……ムウの剣として………

 

――――――RGX− 105:ストライクテスタメント………

 

「以前使っていたストライク とは段違いの出力が出ますので、操作はかなりシビアになります」

「おう……」

「それと……例の装備です が、一応念のためにリンさんから渡されたエヴォリューションの攻撃モーションプログラムも組み込んでいますが、基本的にはフラガ少佐の脳波パターンに合わ せた攻撃が可能です」

「システム:ドラグーン…… ね。俺だってガンバレル使ってたんだ…やってやるぜ」

そう……このストライクテス タメントは以前のストライクと違い核動力という駆動路を使用しているために出力が異常に強く、操作性が難しい。尚且つ厄介なのはこの機体に装備された武装 だ。

ドラグーンシステム……エ ヴォリューション、スペリオル、ドレッドノートに搭載された量子通信をいかした攻撃システム……オールレンジという様々な射程から攻撃可能な機動ポッドを 操作するためには常人よりも優れた空間認識能力が必要になる。そして、似たシステムを搭載していたメビウス・ゼロのパイロットであったムウにも使えるはず なのだ。

カムイはその可能性に賭け、 ドレッドノートに搭載されていたドラグーンをロウの手を借り、ストライクに組み込んだ。

ドラグーンの機動モーション はリンのエヴォリューションが参考に一応セットされているが、基本はムウの脳波パターンで攻撃プログラムを状況に応じて変更できる。

無論、これからムウにはドラ グーンのシミュレーションを経験してもらうが………

「それと、改装に伴いストラ イカーシステムをオミットしました。その代わりと言ってはなんですが、複合兵装を装備させています。これで以前と違い様々な状況に対応できるはずです」

バックパックにドラグーンシ ステムを搭載したスラスターを装備固定させたためにストライクの長所であったストライカーパック交換による汎用性は失われているが、その代わりにロング・ ビームサーベル、71−50式ビーム砲、70−31式電磁加農砲を内蔵させたソード、ランチャーの機能を保持させた複合兵装:オクスタインを装備させてい る。

これでストライクテスタメン トは汎用型から万能型へと変わることになる。

あとはムウの腕次第だ…… ディアッカ、ムウらの決意とともに……彼らの新たなマシンはその眼醒めの刻を静かに待つ………

 

 

「ホントにいいの……これに あの子を乗せるので?」

エリカが半信半疑の表情で問 うと、問われた人物…シンはやや躊躇いながらも頷く。

「はい……どうしてもって、 聞かなくて」

気がのらない表情で……視線 をハンガーに固定された機体:ハイペリオン3号機に向ける。

先のアメノミハシラ防衛戦の 折、ステラが搭乗した機体……皮肉にもそれによって実戦でのデータを得ることができ、オーブ側のリフレクター技術は飛躍的な進展をみせた。

そして……戦闘後に意識を 失ったステラ…フィリアの診察によれば、急激な興奮と軽い疲労による肉体的な負荷とのこと。身体状態が以前とはかなり変わり、安定しているために外部的な 要因には過敏になっている。

数日休めば大丈夫との言葉ど おり……遂先日眼を覚ましたステラは、シンに向かってこう呟いた。

自分も戦うと……シンと戦う と………それを聞いた瞬間、シンは嫌も応もなく即座に思い止まらせた。あんな世界へステラを返すわけにはいかないと……必死に言い聞かせようとしたもの の、ステラは幼子のように首を振るばかりだ。

それは小さな我侭と失うこと への恐れ……護るという言葉に突き動かされる純粋な想い…………

「護る……だから戦 う…………俺には止められませんよ」

やや悔しげに悪態を己につ く。

自身への不甲斐なさであろう か……無理に止めても恐らくステラは出るであろう………自分の知らないところで無茶をされてはたまらない。

ゆえにシンも一緒に行動する という条件でステラを論した。

「解かったわ……整備は万全 にやっておく。あの子を護ってあげなさい……貴方の機体の方のチェックもしておいて」

子供達の決意にエリカは微か に微笑み……自分達にできるのは機体の整備を万全に仕上げ、彼らが無事に帰還できる確立を少しでも上げるしかない。

そして、シンもまた死なせな いために……護るために今まで以上に戦わねばならない。

その決意を胸にシンは身を翻 し、追加武装を施されているフリッケライの許へと向かっていく。

それを見送りながら、エリカ はハイペリオン3号機を一瞬見やると……その視線を横へと移す。

そこにはハンガーに置かれ、 開発されているIWSPストライカーUがあった。

カガリの模擬演習や他のパイ ロット達からもらった意見を参考にカガリ用にカスタマイズを施しているものの、問題はそれを扱う機体の方だ。

「ルージュではこれの能力を 100%引き出すのは難しい……」

そう……ストライクルージュ ではこのIWSPストライカーUの能力を完全に発揮するには機体の方が明らかに能力不足なのだ。おまけに先の衛星軌道での戦いにおいてカガリのストライク ルージュの戦闘データを解析したところ、ほんの僅かだがカガリの操縦はストライクルージュの限界を超えていた。

「どうしたものかしら ね………」

溜め息をついていたエリカに 声が掛かる。

「エリカ=シモンズ……」

「はい? あ、ロンド様…そ れにキサカ一佐も」

振り返ると、そこにはミナと キサカの姿があった。

「キサカ一佐から話は聞い た……どうやらカガリの操縦技術の向上は目覚ましいものがあるようだな……」

「はぁ……」

ミナもカガリの戦いの程は聞 き及んでいる……無論、まだまだ荒削りな一面があることは否めないが輝くものがある。

「我が軍の旗頭である以上… それに相応しい機体の方がよかろう………例のプロトタイプをお前の任せる」

その言葉にエリカの表情が驚 愕に染まり、眼を見開く。

「アレが…ここにあるのです かっ!?」

「ああ……オノゴノ陥落前に ウズミがここへと送ってきた………第7格納庫にて保管してある」

「しかし、アレは元々ミナ様 の………」

「構わん……私には天があ る…ならば、暁にはアスハの後継者の方がよかろう………」

意味ありげに笑うと、ミナは 身を翻す。

そのまま去っていくと……エ リカはキサカを見やると、キサカも同意見奈なのか…重々しく頷くと、エリカも頷き返す。

そして……極秘裏に作業は開 始されるのであった…………


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