地球連合軍の宇宙における活 動拠点にしてプラント攻略の足掛かり……プトレイマイオスクレーターの衛星軌道上に無数の艦艇が集結していた。

まるで宇宙を埋め尽くさんば かりの数が犇く……それは、地球軍のプラント攻略の最終作戦:オペレーション・エルピスに集った艦隊だった。

先鋒を務める第4艦隊、そし て後続の第6、第7の機動艦隊がここに集結している。アガメムノン級第7艦隊旗艦:ワシントンをこの連合艦隊旗艦として、アガメムノン級21隻、ネルソン 級護衛艦85隻、ドレイク級駆逐艦:137隻……さらには補給艦が20隻の大艦隊であり、艦載機はMSが数百体にMAも数百機という大部隊であった。

これ程の大分隊を運用するの は開戦以来初のことであろう……

全てはプラント攻略を最終目 的とするために現在の連合の持てる戦力のまさに7割近い部隊がここに集っている。

その艦隊に別部隊として独自 の指揮系統を持たされている独立部隊がアズラエル指揮下のドミニオンとアガメムノン級4隻からなるピースメイカー隊であった。

ドミニオンのブリッジで、ナ タルは集結するその大艦隊の威容に思わず眼を奪われていた……これ程の大規模な作戦行動は彼女にとっても初の試みだ。

無論、その作戦に特別な立場 として就くことは栄えあることだが…この傍若無人なオブザーバーであり、指揮官さえいなければという条件があるが……やや苦い視線で隣のアズラエルを見や るが、アズラエルは子供のように無邪気にその艦隊の様子を見詰めている。

これから起こるであろうイベ ントを興奮げに待つようだ。

「あ…し、司令部より入 電……第4艦隊が発進します。第6、第7艦隊は集結後、ボアズへと向かえ…とのことです」

上擦った口調で慣れない報告 を行なうのはフレイ……救出後、彼女はオペレーターとしてのレクチャーを受け、少尉の階級をもってこのドミニオンに配属されていた。

ナタルの取り成しもあっただ ろうが、なにより彼女がドミニオン配属を希望したので、それはすんなり人事部に受け入れられ、叶った。

ナタルが眼を向けると……第 4艦隊がエンジンを噴かし、発進していく。その中には以前作戦を共にしたファントムペインの母艦:パワーの姿もある。

「解かりました……では艦長 さん、僕らもそろそろ出発準備を始めましょう………目的はL5………」

ニヤリと笑みを浮かべるアズ ラエルはねっとりとした視線を浮かべ……自らの意思を表わすあの言葉を呟いた………

「蒼き清浄なる世界のために ね………」

そして………やや遅れで後続 の第6、第7艦隊が発進した…………誰もがこれを最後の作戦と信じて疑わず…………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNES

PHASE-53  絶望への業火

 

 

プラント本土の宇宙ステー ション……その一基では、イザークの姿があった。先のメンデルでの攻防で旗艦であったヴェサリウスを消失したクルーゼ隊は一時的に解散となり、指揮官のク ルーゼは議長直属の参謀本部へと……そして、イザークは一兵士から十数人の部下の命を預かる隊長へと昇格していた。

ジュール隊という名をもら い、そしてプラントの本土防衛軍に配備された彼はこのステーションで部隊の機体整備を行っている。

格納庫を訪れた彼の眼には、 ジュール隊のゲイツと副官であるシホのシュトゥルム、そして自身の新たな機体を見上げていた。

それは、愛機のデュエルの新 たな姿………

 

―――――GAT− X102A:デュエルパラディン………

 

メンデル戦において小破した デュエルは以前からの機体性能の後退により、新たに改修案が持ち上がった。

改修されたデュエルはその全 貌を大きく変えていた。まず機体追加装備として装着していたアサルトシュラウドが取り外され、新たに追加装甲:ナイトメイルを装着していた。

文字通り……騎士をイメージ した神聖な鎧……ビーム兵器の浸透により、この装甲にはアンチビーム粒子を用いた対ビームコーティングが施され、またバーニア機構の導入でより高機動を高 めている。元々はアサルトシュラウドの次期モデルとして進められていたが、開発は難航を極めており、遂先日試作型が完成し、実戦テストを踏まえてデュエル に装備させた。試作とはいえ、新装備を優先的に回してくれたのは母親であるエザリアの根回しもあったかもしれないが………

さらに驚くべきことにこの機 体には実用化されたNJCと核エンジンが外付けで装備されていることだ。事実上、大容量エネルギーパックを内蔵したことで今まで以上の出力が出る。

だが、イザークはやや複雑な 面持ちでデュエルを見上げていたが、呼ぶ声にハッとした。

「ジュール隊長」

まだ慣れない呼び名に振り向 くと……そこには自身の部隊の副官に任命されたシホが近づいていた。

イザーク自身、隊長となるこ とを夢見ていた時期もあったが…今現実にその立場になっても心にゆとりも喜びもない……イザーク自身は自分の力に納得していないからだ。ライバルであった 者の離脱……今までの任務の失敗………単純に考えれば、部隊の指揮官など務まるほどの戦績を残していないというのに……だがそれもイザーク自身の見方で実 際、イザーク程のベテランパイロットがもうザフトには数が少ないのだ。

「ハーネンフースか……先は 御苦労だったな」

「いえ…結局、任務には失敗 しましたので……ジュール隊長にも面倒をお掛けしました」

恭しく頭を下げる……ジュー ル隊結成に当たり、本来はイザークに任されるはずであったアメノミハシラ攻略戦は、イザークの部隊編成という慣れない仕事もあり、結果…副官であるシホが 任務を拝命したのだ。

だが、それも失敗に終わ り……貴重なベテランパイロットにホーキンス隊もかなりの損耗を受ける結果となった。

「いや……敵の力が予想以上 だったということだけだ。お前の働きに期待しているぞ、ハーネンフース」

部下のメンタルケアも隊長の 役割だ…もっとも、イザークにとって相手を気遣うというのはなかなかに難しい話だが……

「はっ……」

それでも、そんなイザークの 気遣いに表情を緩ませ…シホは敬礼する。

だが、シホはその場を去ら ず……イザークは眉を寄せて問い掛ける。

「どうした…まだなにかある のか?」

「あ、いえ……やはり、私は ジュール隊長のおめがねには叶わなかったようですね…」

どこか戸惑いがちに呟いた内 容にイザークも同じように苦い表情を浮かべる。

そう……遂数日前……イザー クは久々に直に対面した母親のエザリアからシホを婚約者として紹介されたのだ。

同じクルーゼ隊で知らない仲 でもない…それに、経歴を見ても優秀な部類であろう。

エザリアも息子の将来を考え てのことだったのだろうが……イザークはにべもなく断った。

それがシホにも伝わり、シホ もどこか塞ぎ込み…顔を会わせづらいという嫌なことがあったばかりだ。

母親を尊敬してはいるが、今 回ばかりはその申し出に応える気にはなれない。

イザークの心持ちにそんな余 裕がないのと…イザークの心は決まっているからだ………

これ以上気まずい場所にいら れなくなったのか……イザークがその場を離れようと身を翻すと、シホがその背中に慌てて声を掛けた。

「あ、あの! ジュール隊 長! 私はジュール隊長を尊敬しています! だから、私のことは気にしないでください!」

シホの気遣いに……イザーク は複雑な思いを抱きつつその場を離れる。

シホも決して魅力がないわけ ではない……いや、むしろその能力といい容姿といい、充分男を魅了する魅力を持っている。家柄とて決して低いわけではない……だが、どうしても比べてしま う………

 

―――――ごめんね……ごめ んね………

 

あの時の言葉が何度もリフレ インする……胸を締め付けるこの傷みを取り除くことができないでいる……彼女と……優しさと強さを秘めたあの笑顔と…………そして…離れてしまったという 状況がなおイザークの心持ちを焦らせている。

この手に独占しておきたいと いう衝動が……少なからずあるのだ。

(ぐっ……くそっ、もう忘れ ろ!)

だが、イザークは頭を振って 自分に言い聞かせるように、心の中でそう叫ぶ。

これも既に何度目になるか解 からない……悩むたびに必死に言い聞かせる……そんな葛藤をここ数ヶ月ずっと抱えていた。

自分がどう思おうとも既に リーラもアスラン達かつての戦友も敵でしかない……アークエンジェルやエターナルらと行動をともにしている限り、自分は彼らを撃たなければならない……自 分はイザーク=ジュール…ザフトの兵士でプラントを護るためにここにいるのだから………

(勝つために……勝つた め………?)

そこまで反芻し、イザークは 思わず立ち止まる。

自分はいつの間にか勝つため だけに目的が変わっている……護るためにここにいるというのに………単純に勝てばいいというものではないのはイザークにもとうに解かっている。

だが、プラントを護ることが 勝つことなら結局はなにも変わらない……

護るために…勝つため に………目指すものが勝利ならば、敵は倒さねばならない。

その定義でいえば、地球軍だ けでなくクライン派にもいえることだろう……エターナルやオーディーンの行動は、ザフトにとって利敵行為以外のなにものでもない。プラントのためと言いな がらもその行動はとても容認できるものではない。事実、自分達は母艦を沈められたのだ……それはザフトにとって敵と自ら証明してみせたものだ。

そんな簡単な図式だというの に……イザークはなにか矛盾のようなものを感じずにはいられない。

それは上層部が密かに進めて いるという対地球軍用の決戦兵器のことだ。イザークもその資料には眼を通したが、それはあまりに常識を疑うようなものだった。あんなものに頼らざる得なく なった 時点で…既に自分達のしている事は奇妙な後ろめたさを感じさせるのだ。

イザークは内心に渦巻くもや もやを内に押し込める。

今はいくら悩んでも答えが出 ない……それに、あんな兵器に頼らずとも自分は戦ってみせると……その上でリーラやアスラン達の行動を見極めようと……そう決意する。

(リーラ……っ)

もう何度目になるか解からな い大切な者の名を胸中に叫ぶと、ステーションの移動エレベーターに乗ろうとしてヴァネッサとかち合わせた。

「おかっぱ…おめえなんでこ こに居るんだ!?」

ヴァネッサの失礼な物言いも だが、イザークはその言葉に怪訝そうに首を傾げた。

ヴァネッサ達もクルーゼ隊解 散後はそのまま同じくプラントの本土防衛守備隊に編入された。だからこそ、別段自分と同じようにここにいるのはなんら不思議なことではない……だが、ヴァ ネッサの問いは違っていたらしく、隣にいたライルが補足する。

「そうじゃないんだ…実は、 各部隊長はすぐさまミーティングルームに集合するように全ステーションに連絡がきたんだ?」

その説明に息を呑む……どう やら、格納庫にまでその情報は伝わっていなかったらしく、イザークは聞いていない。それで先程のヴァネッサの質問の意図が理解できたが……新たに疑問が浮 かび上がった。

「いったい何があった?」

少なくとも全部隊の指揮官が 招集されるなど、尋常ではない事態だ。

「ああ、なんでも月基地の軌 道上に集結していた連合の大艦隊が動き出したらしいぜ…軽く見積もっても3個艦隊の規模だ」

苦々しく吐き捨てるヴァネッ サにイザークも驚愕に眼を見張る。

これまで沈黙してきた月艦隊 が遂に動き出したのだ…しかも、3個艦隊という大規模な部隊を率いて………そのために、ボアズ、ヤキン・ドゥーエや国防本部はかなりざわついている。

「連中の目標はボアズか?」

「恐らくな……だけどよ、俺 達は待機だ…くそっ」

苛立たしげに毒づく。

月艦隊が目指すのはザフトの 第一防衛ラインである宇宙要塞ボアズ…ボアズを迂回するとなればかなりの大回りになり、現実的ではない。

だが、本土防衛部隊であるイ ザークやヴァネッサ達は別部署のために命令があるまでは警戒待機だ。

この瞬間にも、既にボアズで 戦闘が開始されていると考えると焦りが浮かぶ。

そして……ミーティングルー ムに移動した彼らに、ボアズへの地球軍の侵攻が開始されたという報はすぐさま届けられたのだった。

 

 

 

 

その頃……アメノミハシラ周 辺では、数機のMSが稼動テストを行っていた。

デブリが密集する地帯に佇む 機影……だが、それはMSにしてはあまりに過剰なほどの火器を全身に備えていた。

静かに静止する機体の周囲 に……無数の影が現われる。

刹那…機体の瞳が輝き……全 身の火器を身構える…右手の大型2連装ビームランチャーと左手の大型シールド内臓ガトリング砲、そしてバックパックのビーム砲が火を噴き、一斉にその影に 襲い掛かる。

ボディを貫かれた瞬間、影が その場に弾けるように消える……それは、模擬戦用のダミーバルーンだった。

瞬く間にダミーバルーンの目 標を撃ち落とした機体の砲口からは微かな煙が漏れている。

《凄いよ、ラクス!》

《全機撃破……照準の誤差は 許容範囲内だ、ラクス嬢》

そこへ声が響き……機体の コックピットにて、ピンクのパイロットスーツを着込んだラクスが顔を上げると……キラのフリーダムとメイアのヴァリアブルが接近していた。

《機体のセッティングもあら かた終わったみたいね……どう、調子は?》

「まだまだですわ……もっと 慣れないといけませんし」

苦笑を浮かべてバイザーを上 げ、ヘルメットを取る。

彼女が今搭乗しているのは遂 先日完成したばかりの機体…ZGMF−X12A:マーズ……多種な火器を保持した砲撃支援機。実際に動かしてみての問題点の洗い出しと機体のバランスセッ ティング……そしてラクスのMSへの搭乗経験のためにここ数日はこういった訓練を何度も行っている。

そのおかげか……ラクスも少 しずつ操縦技術を上げ、またパイロットとしての体力を備えつつある。少なくとも、新兵ぐらいの力量は身に付けつつあるだろう。

【ハロ! ラクス頑張ル!】

激励するようにラクスの周囲 を浮遊するハロ……彼女はハロの高性能AIをコンピューターに連動させ、サポートとしていた。

元々の視野の拡さと支援AI のおかげで射撃能力はなかなかのものだ。それ以上に彼女を奮い立たせているのは決意だろうが………

《だけど、今日はこれぐらい にしておこう…フラガ少佐達と合流します》

「はい」

ヴァリアブルに続き、マーズ は別宙域で稼動テスト中のムウ達の許へと向かう。

その道中…フリーダムはマー ズに近寄り……キラは回線を開く。

《ラクス……本当に凄いよ、 君は。でも、僕は君には出てほしくない……って言っても聞かないよね》

その言葉にラクスはやや厳し げな視線を浮かべる。

「キラ…それが冗談ではな かったら私でも怒りますわ。もう決めたことです……私も、この戦争に関わった者として……この戦争を生き抜きます。だから、私は………」

そう……そのために力を求め た………ただ奇麗事ばかりの理想だけではなんにもならない……たとえ矛盾していようとも………今のラクスにはこの力が必要だった………

やや悲壮な表情で俯くラクス にキラは苦笑を浮かべる。

《ごめん…僕の方こそ、君の 決意に水を差しちゃって……でも、君は僕が護るよ》

「……レイナよりもです か?」

それまでやや沈痛であった表 情が微かに緩み、意地悪な笑みを浮かべるラクスにキラは慌てふためく。

《え、あ……その…》

ラクスはともかく…レイナに キラの援護は要らないような気がする……逆はあり得そうだが……そう考えると何故か情けなくなるキラだった。

「フフフ…冗談ですわ。で も、頼りにはさせてもらいますわね」

笑みを噛み殺しながらそう呟 き、キラは頭を掻くように頷いた。

 

 

ラクス達が演習していた場所 から程近い宙域……そこに白いMSが佇む。

トリコロールカラーに右腕に は2門の砲門とビーム刃形成部を備えた大型複合兵装:オクスタインを構え、バックパックにはスラスターとそれに接続されて見える砲門……そして、頭部形状 はストライクを残しながらも、マスク外部に突起した部位を持つ形状……

RGX−105:ストライク テスタメント……ムウの新たな剣であった。

コックピット内で眼を閉じた まま……周囲の気配を探るように静止するストライクテスタメント……そこへ、四方からデブリが襲い掛かってくる。

だが、それを予期していたよ うにムウが瞳を開いた瞬間、ストライクテスタメントの瞳が輝き、デブリを回避する。

そしてオクスタインを構え、 内臓火器の一つ、70−31式電磁加農砲を起動させた。

トリガーを引いた瞬間、砲口 から無数の光弾が放たれ、デブリを粉々に砕いていく。だが、それを掻い潜ってくるデブリ…対し、オクスタインのビームサーベルを展開して斬り裂く。

オクスタインを振りながらデ ブリを斬り裂き…やがてそれが止むと……ムウはデブリが密集する宙域に意識を張り巡らせる。

センサーのごとく展開された ムウの意識に……3つが引っ掛かった。

「そこかっ!」

ムウが吼えた瞬間……ストラ イクテスタメントのバックパックから放たれる攻撃機動ポッド:ドラグーンバレル……ドレッドノートのドラグーンを改良し、エヴォリューションなどの攻撃 モーションから調整したムウ専用ドラグーン………

それらが縦横無尽に舞い…… 内臓のビーム発射口からビームを放つ。それらはデブリを撃ち砕き……その陰に隠れていた機影を曝け出す。

姿を見せたのは3機の M1A……そのまま反撃しようとするも…その動きが止まる。

浮遊するドラグーンバレルが M1Aのコックピットに照準を合わせていたからだ……

《そこまでっ!》

冷や汗が流れるなか……演習 を静止させる声が響く。

《うっそぉっ!》

《い、一瞬で……》

《わ、私達……負けちゃっ た……》

上擦った声を上げるアサギ、 マユラ、ジュリの3人……ストライクテスタメントの演習相手を行なっていたアサギ達ではあったが…一瞬のうちに3機のM1Aはドラグーンによって砲口を突 きつけられ……これが実戦ならその場で命を落としていたところだ。

「へへっ、俺の勝ちだな、お 嬢ちゃん達」

その結果に唖然となっている アサギ達にムウは得意そうに笑みを浮かべ、意識を解くと…ドラグーンバレルがそのまま離脱し、ストライクテスタメントのバックパックに再装着される。

《お疲れ様です、少佐……流 石ですね、もうかなり使いこなせていますよ》

感嘆した面持ちで称賛の言葉 を浮かべるカムイと演習を見守っていたルシファー……それに対しムウも相槌を打つ。

「ああ…大分慣れたが……そ れでもまだこいつの操作は結構しんどいな」

やや疲れを滲ませた表情でム ウがぼやく……このドラグーンというのは量子通信の補佐があるとはいえ、不規則に動くこれらを脳波で操作するのはかなりの集中力を擁するのでガンバレル以 上に負担が掛かる。

リンやリーラでもこの操作の 集中力はかなりの疲労を負うのでなかなか連続使用は難しい。

《そればかりはどうにも…… 取り敢えず、使用する状況は少佐の判断に任せます》

集中力を擁するのはある意味 仕方がないしこれ以上のシステムの改良は時間が無いから不可能だ……ならば、使用する状況を自ら決めるしかないだろう。

《でも少佐、驚きました よ……》

《そうそう……こんな凄い芸 当ができたなんて……》

《ただのセクハラパイロット じゃなかったんですね〜〜》

その言葉に思わずコックピッ ト内で頭をぶつけそうになった。

「なっ…おい待て! 誰がそ んなこと言った!?」

なにやら聞き捨てならない評 価に怒鳴り返すと、アサギ達は眼を剥いて首を傾げる。

《え…カガリ様が言ってまし たよ〜〜》

《フラガ少佐はああ見えて少 し馴れ馴れしいところがあるから注意しろって〜〜》

《そうそう……誰もいないブ リッジで女性を押し倒したとか〜》

なにか……今までの悪行が妙 な尾ひれをつけて広まっているらしい………ムウ自身、あまり憚ることも少なかったので……それが余計に助長したようだ。

悪びれもなく言いのける3人 に……ムウがガックリと肩を落とし、誤解だとコックピット内でいじけ始めた。

その様子にカムイは乾いた笑 みを浮かべるしかなかった。

そこへちょうどキラ達がやっ て来た。

《カムイ君、こっちは演習終 わ……どうしたの?》

なにか様子がおかしいことに 疑念を浮かばせながら尋ねると、カムイは上擦った声を上げた。

《あ、その……ぼ、僕はもう 一つの方へいくので、ここお願いします!》

なにやら慌てて身を翻し…… ルシファーがその場を離れていく。その光景に呆気に取られ、顔を見合わせて疑問符を浮かばせるキラ達……

《あの……少佐、何………》

キラはムウに問おうと思った ものの……通信からはなにやら愚痴のようなものが聞こえ…言葉を失い、その場にフリーズした。

 

 

そんな光景が繰り広げられて いるなか……別の宙域では、3つの機影が飛行していた。

密集するデブリのなかを掻い 潜る3機…先頭をいくイージスディープにブリッツビルガー……その後方に追い縋る機体………

《どうっしょ、ディアッ カ?》

「マードックのおっさんの 言ったとおり、前よりいい加速力に機動力だぜ」

笑みを浮かべてディアッカは 操縦桿を切る。

それに連動してディアッカの 搭乗する改修バスターのバックパックのスラスターが小刻みに稼動し、方向転換を行なう。

《ディアッカ、飛行項目はこ れで終わりです…次は、武装の評価試験に入ります》

「おうっ!」

威勢のいい返事で頷き……3 機は制動をかけ、その場で停止する。

そして……バスターが顔を上 げ…バックパックの連装砲が起動する。

大型ビームキャノンであるア グニUとガトリング単装砲の照準が合わさった瞬間……トリガーを引いた。次の瞬間、ビームの奔流と弾丸の嵐が放たれ…周辺のデブリを一掃していく。

続けて、ブリッツビルガーが 放出した物体が膨らみ……人型のダミーバルーンを形成する。

それに向けて両手の複合兵装 のビームガトリングガンを構え……4つのガトリング砲から光弾が放たれ、ダミーバルーンを破っていく。

全てのダミーバルーンが沈黙 すると……砲撃が止み…砲口からは煙が立ち昇る。

《すげえっしょディアッ カ!》

「ああ、これでバスターもパ ワーアップだぜ」

改修されたバスター…… GAT−X103C:メガバスター……大型リフターと強化装甲という宇宙仕様が前提となってしまったが、それに見合うだけの機動性と火力を持つことができ た。

両手のビームガトリングガン もより広範囲攻撃という能力追求とシールドが無かったバスターにアンチビームシールドとビームナイフを装備させた複合兵装になっている。

《これで任されていたテスト は終了ですね…あとは、OSの微調整と機体バランスのセッティングですね》

カムイから渡されていた チェック項目に印を入れ、一息つくニコル。

そこへ接近を告げる音が響 き……全員が顔を向けると、ルシファーが近づいてきた。

「ん? カムイ、おっさんの 方は終わったのか?」

同じ時間帯にムウも新型のス トライクのテストに出ており、そのチェックを担当しているはずのカムイに尋ねると、カムイはやや戸惑った声で応じる。

《え、ええ……なんとか…》

なんとも歯切れの悪い返答に 一同は首を傾げる。

《そ、それよりも…そちらの テストはどうですか?》

《あ、はい…取り敢えず全て 終えました。問題点は以前までの稼動テストからさほど大きな問題点は出ていません》

論点を摩り替えるように逸ら したカムイの問い掛けにニコルがやや上擦った声で応じる。

《解かりました…それじゃ、 帰還しましょう》

《賛成…俺も腹減ったしょ》

「お前はただ付き添うだろう が!」

ぼやくように呟くラスティに ディアッカが突っ込む。

カムイやニコルはその様子に 苦笑を浮かべつつ……アメノミハシラに帰還しようとする。

そこへ、緊急のレーザー通信 が入る。

怪訝な表情でカムイが受信 し…モニターに表示される文章に眼を通す。

「おい、何だ?」

ディアッカ達がやや眉を寄せ て尋ねると……カムイが文章を読み上げていく。

《『全艦、発進準備……至 急、各艦へと搭乗せよ』》

《出撃!?》

《何かあったんでしょう か……?》

アメノミハシラに駐留してい る全艦に発進準備が下るなど……随分と異常事態だ。

裏を返せば、それ程の大きな 事態が起こったということだ。

《『地球軍の艦隊が、ボアズ に向けて進軍を開始……』……》

その言葉に……一同は、驚き に眼を見張った。

 

 

 

数十分前……アメノミハシラ の談話室に入室したリーラは、部屋の一画で座っているレイナとリンを見つけ、歩み寄る。

近づくと、レイナは壁に身を 預けて腕を組み…リンはシートに腰掛けて片手を顎に当てて、二人揃って難しげな表情を浮かべて眼下を見詰めている。

その視線を追い…その先に は、チェスのボードが置かれていた。

「何やってるんですか?」

覗き込むように尋ねると、リ ンが気づいたように顔を上げる。

「ああ、リーラか…ちょっと ね」

そう言ってまた視線を戻 す……リーラが盤面を覗き込むと、そこにはどこかおかしな布陣があった。

チェス盤の上に並べられた駒 の不自然さ……片方には黒のクイーンにナイトとビショップが一体ずつ…反対側の陣地には白のキングにナイト、ビショップが一体ずつとルークが2体、ポーン が8体………どう見ても不可解な布陣だ。

「あの……これって、どうい う意味なんですか………?」

両方の駒を合わせれば丁度一 人が使える駒の数だが……どうしてこんな不可解な分け方なのか…それに対し、レイナはやや苦い口調で呟く。

「それが今の私達の戦力 差……黒は私達…そして……白は天使……奴ら」

そこまで言われて……リーラ はハッとした。そしてもう一度眼前の盤面を見やる。

黒い駒3つはレイナ、リン、 カムイ……そして白い駒は………

「どう考えても不利なのは明 らかね」

駒を動かしながら、リンは悪 態をつく……明らかに戦力差があり過ぎる……たった3つで相手を制するというのは……どう動かしても、あちらの手数の方が多い。

だが、これは紛れもない今の 状況……そして、こちらが手をこまねいている間に積まれてしまう。

逡巡するレイナとリンに向 かって……リーラは意を決したように何故か近くにあった将棋盤を持ち出し、その駒を無造作に掴み取り、訝しげに見るレイナ達の前でその駒を黒の駒側に並べ 始めた。

「これで戦力的には五分で す……あまり、役には立たないかもしれませんけど………3人だけじゃありません、私達がいます!」

真剣な面持ちでそう言い放つ リーラ……つまり、今付け足した駒は自分やキラ達……自分達がいると………

「……前に言ってましたよ ね? 私が可能性だって……私達じゃ、一緒には戦えないんですか?」

リーラは悔しかった……レイ ナやリンが自分達を頼ってくれないことを………無論、自分達の助けなど必要ないかもしれない。だが、それでもリーラは…いや、リーラだけでなく他の誰もが レイナ達の仲間だと思っている。

だからこそ自分達を頼ってほ しい……まるで懇願するようなその視線に、やや呆気に取られていたレイナやリンであったが、二人揃って口元を薄めた。

「……どうやら、一本取られ たようね…姉さん?」

意地悪な視線を浮かべるリン にレイナも肩を竦める。

「そうかもね……でも、確か に………こういった状況もあり得るか…なら………」

レイナは身を起こし、徐に駒 に手を伸ばし…駒を動かしていく。

両陣営の駒が膠着し……そし て…クイーンを動かし……キングの前に立てる。

「戦法的には、他を抑え込 み…一気にキングを落とす」

言わば、一点突破の作戦 だ……キングをチェックメイトさせれば、少なくとも勝機はある。

「攻撃は最大の防御……ね。 だけど、連中の戦力がこれだけとは思えないけど………」

実際……これはあくまでシ ミュレーション………相手の戦力がどの程度なのか、検討もつかないのだ。

またしても考え込むレイナと リンにリーラはできる限りの笑顔と声で話し掛ける。

「なんとかなりますよ! い え…絶対してみせます!」

その自信はどこから来るの か……一瞬、そう思ったが…その前向きさにどこか悩むのが馬鹿らしくなったのも事実だった。

「まあ、確かにね……連中が どういった手でくるにせよ………私達を狙ってくる以上、なるようにしかならないわね」

相手が話し合いに応じるなら まだ手は打てようが……相手にはそれが通じない。

そして……相手の目的が決し て認められない以上……自分達のきょうだいである以上…対決は決して避けられない。

その時……談話室に緊急コー ルが入った。

《緊急事態、緊急事態! 各 科員はすぐさま発進準備にかかれ! 繰り返す……》

そのアナウンスにレイナ達は 眉を寄せる。

「……どうやら、刻が近づい てきたようね…連中のいう………『滅びと再生の刻』が…」

この緊急事態のスクランブル はこのアメノミハシラを離れる刻が来たということ……それは、最後の戦いが近いことを意味していた。

レイナは無言でクイーンの駒 を掴み…それをキングの前面に立たせる。

「リン、私達は一度管制室 へ」

「ええ…リーラ、あんたは先 にオーディーンにいけ」

「は、はい!」

3人はそのまま談話室を飛び 出す……残された盤上は、静かにその場に置かれるのであった………

 

 

 

慌しくなるなか…管制室に飛 び込んだレイナとリンはそのまま無重力のなかを移動し、ミナのもとへ降り立つ。

「どうしたの…只事ではなさ そうだけど……」

「……月基地に動きがあっ た。連合の艦隊がプラントに向けて進軍を開始した」

冷静な口調で簡潔に述べるミ ナ……対し、レイナもリンも半ば予想通りといった表情だ。

カーペンタリアが陥落して既 に一ヶ月……連合もそこまで遅延ではなかったということだ。

「編成されている艦隊の規模 は?」

「ざっと確認しただけでも3 個艦隊だな……それに、後続の部隊もある」

連合は月基地に駐留している 艦隊の約7割近くを投入してきた。これが最終決戦ということもあり、連合も持てる戦力の全てを投入してきたのだ。

「……艦隊がボアズに差し掛 かるまで…あちらが早いな………」

どの道、ここからではどうし ようもないが……それに、ボアズ戦に介入しても無意味だろう。

連合の艦隊はもう間近にまで ボアズに迫っている……この瞬間にも、ボアズでは防衛体制が発令されていることだろう。

「だが、諸君らが動くにはこ の刻をおいて他にあるまい?」

試すような物言いで呟くミナ に、レイナも不適な笑みを浮かべた。

確かに……いろいろと根回し と工作はしたが、その最大の障害を取り除くためには自分達が最後に介入する必要がある。

ならば、この辺がタイミング 的にも頃合だろう……ずっとここに隠れているわけにもいかない。

「……ここからなら、ヤキン に向かった方が早いな……どの道、ボアズは陥ちる」

やや諦めが入ったようにリン が吐き捨てる。

ボアズの護りの程はリンはよ く解かっているが……それでも…連合が核を再び手にした以上、ボアズでも防ぎきれないだろう。

ならば……自分達の行き場所 はヤキン・ドゥーエしかない。

これからの方針が決まり、二 人は管制室を退室する…だが、レイナが立ち止まり…軽く振り返ると、ミナに向けて笑みを浮かべる。

「世話になったわね……ロン ド=ミナ=サハク…あんたなら、きっといい指導者になれるわ………」

感謝と敬意の意を述べると… レイナも静かにその場を去っていった。

その背中を見送ったミナは、 軽く笑みを浮かべると……小さく呟いた。

「貴様達の健闘と無事を祈ろ う………」

その言葉は…誰に聞こえると もなく消えていくのであった………

 


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