アメノミハシラのドックで は、各艦の発進準備に追われていた。

完成したヴェルヌモジュール がケルビムに艦載され……そして、演習に出ていたフリーダムらが帰還すると、そのまま各搭乗艦に着艦していく。

ネェルアークエンジェル、エ ターナル、オーディーン、ケルビムの発進準備が進むなか……その端ではスサノオの発進準備が進められている。

M1隊がカタパルトハッチか ら搭乗し、それを見詰めるキサカは隣に立つトダカに振り向く。

「よいのか…トダカ一佐、こ の艦を私に預けても?」

「ええ……私は元々臨時の指 揮官でしたので…それに、指揮を執られるのでしたらキサカ一佐の方がよろしいでしょう」

現在、オーブ軍の母艦はクサ ナギからこのスサノオに乗り換えている……クサナギよりも、スサノオの方がMSの艦載・運用能力が高く、また武装も充実している。

そのために、トダカが艦の運 用をキサカに託す旨を具申した。

当初はキサカも難色を示して いたが、トダカの説得に折れ…結果、クサナギの指揮系統をこのスサノオに移していた。

「解かった…一佐には副長と してCICに入ってもらう。いいな?」

「はっ……必ずや汚名を削ぐ ために、この身を尽くしましょう」

静かに敬礼すると、トダカは タラップを伝ってスサノオに乗艦していく。

それを見届けると、キサカは 最後にエリカに向き直る。

「申し訳ありません、キサカ 一佐……例の調整のために、私は………」

「ああ、解かっている…シモ ンズ主任は自分のできることをやってくれ」

数日前にミナから依頼された 仕事のために、エリカはこの今回の出撃には同行できない。

そんな事情を理解しているキ サカも穏やかに頷くと、発進準備が整ったという通信が入り、キサカもタラップを伝って乗艦しようと歩き出す。

「キサカ一佐! ご無事を!  カガリ様にもよろしくお伝えください!」

エリカの最後の言葉に…振り 返ると同時に敬礼する。そして…タラップが外され、ハッチが閉じていく。

 

オーディーンに搭乗したレイ ナやリンが通路を進み…ブリッジに入る。

艦長シートに就くダイテツの 横に移動すると…そこには各艦のリンクが繋がり、艦長達の顔が映し出されている。

《こちらは発進準備完了です わ》

マリューの言葉に……タラッ プが外され、各艦のエンジンに既に火が入り、唸りを上げている。

《……参りましょう》

ラクスの呼び掛けに応じ…… ダイテツは静かに号令を飛ばす。

「全艦、発進! いざ、参ろ うぞ!!」

先陣を切るように発進する オーディーン……それに続くようにネェルアークエンジェル、スサノオ、エターナル、そしてケルビムが続く。

アメノミハシラのドックから 飛び立っていくのをアメノミハシラの者達全てが敬礼で見送る。

管制室でミナもモニターを見 据えながら、静かに敬礼するのであった。

 

 

それぞれの決意を胸に……彼 らは旅立つ…………運命という名の糸に引かれて……………

 

 

 

 

プラント防衛の第一次ライン のザフト軍の宇宙要塞ボアズ……かつての東アジア共和国の資源衛星:新星を改装した上部に突起したいびつな形を誇る。

L4宙域からこの宙域へと移 動させ……プラント防衛の強固な護り手となっているこの要塞にはザフト全軍の4割近い艦艇とMSが配備されている。

だが、ボアズには今まで表 立って攻撃してくるような相手はいなかった。そのために今まで大きな動揺はなかったが…それはこの日終焉を迎える。

本国よりの警戒体制の徹 底……それは遂に今日という日を迎えた……前方に迫る地球軍の大艦隊……ボアズのモニターからでもそれは捉えられた。

「敵艦隊、展開……交戦域ま であと150!」

オペレーターの声に誰もが息 を呑んでその瞬間を待つ……モニターの防衛ラインに真っ直ぐ向かってくる地球軍のマーク………

誰もがその差し掛かるまでの 時間を長く感じていた。

そして……それは始まった。

ラインに差し掛かった瞬 間……ボアズの前方宙域より無数のビームが飛来してきた。

連合軍の艦隊による一斉砲撃 だ……艦砲が間隙もなく撃ち込まれてくる。ビーム撹乱膜によってある程度は中和できるものの、その濃密さに被弾する艦もある。

「敵艦よりMS、MA多 数!!」

「全艦、発進! MS隊展 開!!」

地球軍艦隊の一部が前進し、 MSやMAなどの機動兵器を射出してきた。

何百というMSやMAがモニ ター上に展開し、それに対してザフト軍もMSを発進させた。

両軍のMSが距離を詰め…… そして始まるビームの応酬………

ここに…ボアズ攻略戦は開始 された。

 

 

 

イザークとヴァネッサ達がブ リーフィングルームに入ると、そこには歳若いパイロット達がどこか緊張気味にざわついていた。

「ジュール隊長!」

「ルーファス隊長、ボアズへ の侵攻が開始されたというのはホントですか!?」

焦ったような落ち着きのない 声……地球軍の艦隊がボアズへと侵攻を開始したというのは既に国防本部内から発信され、いい知れぬ緊張感を齎していた。

だが、カーペンタリアが陥ち た時点で既にこの刻が来るのは解かっていた…それでも、不安や焦りを抑えることはできない。なにせ、イザークやヴァネッサの下に配属されたパイロット達は 皆、ほぼ新兵上がりの歳若いパイロットが半数を占めていたのだ。

「くそっ、ナチュラルども め…!」

「敵の規模はどの程度なので すか!?」

「我々には出撃命令 は…!?」

侵攻が開始されたというだけ で正確な情報がなにも伝わっておらず、それが新兵達の不安を掻き立てていた。

上層部にしても同様だろ う……なにせ、予測していたとはいえ本土攻略戦に入る時期が想定していたよりも早かったのだ。

だが、実際に地球軍と前線で 戦っていたイザークやヴァネッサにしてみれば、地球軍も決して侮れないという認識を与えていた。

圧倒的な物量と容赦ないやり 方に…彼らにも微かな不安を齎していたが、今の自分達の立場上、それを表に出すのは決してできない。

「落ち着け、命令が出るまで は俺達は待機だ」

静かにそう呟くイザークに新 兵達は水をかけられたように静まり返る。

「状況が解からなくて不安だ ろうが、取り乱すな…俺達はいつでも出られるように待機と準備をしっかりしておけ」

その指示に全員が敬礼して頷 く。

だがそれでも、一度燻る不安 は拭えず……新兵の一人が呟いた。

「でも、万が一ボアズが陥し たら………」

ルーファス隊に配属された新 兵の少女:ルナマリア=ホークは沈痛な表情を浮かべて呟いた。先日のアメノミハシラ攻略戦にも参加した彼女は初めての実戦を経験し…そして同僚を何人も失 い、戦場の恐怖を身体に刻まれ、それがやや彼女の心情を暗くしている。

ボアズが陥落すれば次はヤキ ン・ドゥーエが……そうなれば、自分達にも出撃命令が下る。

それに触発されたように…何 人かの表情が顰まるも、そこへヴァネッサの怒号が響く。

「馬鹿野郎! ボアズが陥ち るものか! ザフトが誇る難攻不落の要塞だぞ!」

その叫びにルナマリア達はビ クっと身を強張らせる。

イザークはそのヴァネッサの 短気さにやや呆れ返るも、この状況では少しキツイが強気の姿勢でいられた方が新兵達の動揺も少ない。

だが、それでもその怒号も自 身に向けられているかもしれない……ボアズが陥落すれば次は最終防衛ラインのヤキン・ドゥーエ……ここまで突破されれば、もはやプラントへの護りは無い。

そのためにボアズやヤキン・ ドゥーエには充実した戦力と防衛網を築いている。生半可な中央突破では敗れるはずがない。それは地球軍も解かっているはずだ…現に今までも攻めてこようと はしなかった……なのに何故…という疑念を渦巻かせながらも、イザークは萎縮する新兵達に向かって配慮するようにぶっきらぼうに言い放った。

「俺達には出撃は下らんかも しれんぞ…ボアズの方で俺達の援護など要らんと言うかもしれんからな」

「そ、そうですよね!」

その言葉に多少は落ち着きを 取り戻したのか…ルナマリアは弾んだ声を上げ、それにつられて他の兵達もホッとしたように笑い上げる。

ボアズが陥ちるはずがな い……誰もがそう信じるなか……イザークやヴァネッサは背中を這うような冷たい悪寒と不安を拭うことができずにいた………

 

 

国防本部にもボアズ侵攻の報 でにわかに騒然としていた。

その喧騒のなかを気を張りな がら歩むパトリックはそのまま自らの執務室に入ると、そこには数人の評議会議員にクルーゼをはじめとした軍人が揃っていた。

「ザラ議長閣下!」

どこか不安な面持ちを浮かべ る一同に苛立たしげに叱責する。

「うろたえるな! 月艦隊の ボアズへの侵攻など、想定外のことではなかろう!」

そう……既にこの日に備えて 万全の体制を整えてきたのだ。

「全軍への召集は!?」

「完了しております」

「報道管制!」

「はっ、既に!」

悠然とした足取りで執務室内 を横切り、矢継ぎのごとく尋ねると反射的に補佐官達が応じる。

既にヤキン・ドゥーエと全軍 事ステーションには警戒を発令し、臨戦体制に臨み、また市民の混乱を避けるためにプラント内への地球軍の侵攻の報は伏せられている。閉鎖空間であるプラン トでは情報が遮断されてしまえばそれだけで市民達には情報が伝わりにくい。この時点で既に護るべきプラント市民に対して背信行為ものだが、パトリックも補 佐官達も今は侵攻してくる地球軍の対処で手一杯なのだ。

ボアズへの侵攻の報を聞いた 時は僅かに動揺はしたが、今のところ迎撃体勢は予定通りの予測範囲内だ。

そして睨むように戦略パネル を見やる…鬼気迫る表情ではあるが、その面持ちに微かに不安を抱いていたエザリア達も落ち着きを取り戻す。

パネルにはボアズを示すマー キングに赤い矢印が突き進んでいくのが表示されている。

「……しかし、妙です な………」

不意に、一番後ろから漏れた 声に一同が振り返るとそこにはクルーゼが顎に手を当てていた。

「何だ、クルーゼ?」

やや投げやりに腹心たる部下 を一瞥し、煩げに見やるパトリックにクルーゼは内心の笑みを押し隠しながらやや遠慮がちに呟いた。

「ボアズの突破が容易ではな いことは、地球軍とて承知のはず……それが、なんの勝算もなしに侵攻を開始するなどいくらナチュラルでも少し現実的ではありません」

意味ありげに…そしてなにか を仄めかすようにクルーゼは仮面の奥の瞳をパネルへと向ける。

「我々の予定を上回るこの迅 速さ…そして、この刻に侵攻に踏み切った………それが気に掛かります………」

挑発するような問い掛けと僅 かなナチュラルへの侮りさにエザリアが表情を顰めてあしらう。

「そんなもの! おおかた例 の新型機とMS部隊であろう! たかがMSを手にしただけでボアズを陥とせるとでも思ったのだろうよ…低脳なナチュラルどもはな!」

あくまでナチュラルを卑下す る物言いでエザリアは言い捨てる……愛息の上司とはいえ、エザリアはこの男がどうにも胡散臭く信用できない。故に好感を持てないために言い方がキツくな る。

だが、エザリアの見解がこの 場にいるクルーゼを除いた者の見解であった。

オーブ及びメンデルで確認さ れた地球軍の新型GATシリーズ数機と量産に成功したMSの大量投入…MSというザフトの兵器に苦しめられていた地球軍も同じ土台に立ったと自らを過大評 価しただけに過ぎないと………

所詮数で攻めるしか能のない 低脳の連中だと……だが、クルーゼはなおも独り言のように呟き続ける。

「……なら、よろしいのです がね」

その神経を逆撫でるような物 言いにパトリックが苛立たしげに声を荒げる。

「何が言いたいのだ、クルー ゼ!」

「はぁ……非常に申し上げに くいことではありますが…我々には、いくつかの不安要素がありますので………」

まるで決められた台本のよう にへりくだった言い回しで一同を見渡しながら声を落とした。

「…フリーダム、ジャスティ ス…インフィニティ、エヴォリューション……ラクス=クラインという…………」

その言葉に誰もが息を呑む。 クルーゼが仄めかす内容に隠された意図を察したパトリックが茫然自失したように汗を流す。

「まさか………奴らの…ナ チュラルどもの手に再び核が戻ったと………そう言いたいのか、貴様は!?」

半ば否定するかのようなパト リックにクルーゼは表情を変えずに言葉を濁した。

「いえ……よもや、とは思い ますが…………」

この場にいる誰も気づかな い……クルーゼは内心に微かな愉悦感を憶えながら慄然としているパトリック達を見やるのであった。

一同は弾かれたように戦略パ ネルに眼を向けるのであった。

 

 

 

 

ボアズ周辺宙域では激しい砲 火が轟いていた。

戦艦同士の艦砲の応酬が轟 き、両軍の艦艇が次々に轟沈していく。

そして、距離を詰めた地球軍 艦艇から無数のストライクダガーとメビウスが放出されてきた。先方を務める第4機動艦隊はユーラシア・東アジア共和国が中心となって編成されているだけに MSもほぼストライクダガーとメビウスだけだが、それでも数百近い数なのだ。

そして、第4艦隊とともに先 鋒を担うファントムペインのパワー……ゴッドフリートを応酬しながらカタパルトが開く。

ネオの駆るストライクファン トムとユウのエインヘルヤルだ。

「ヘンケル少尉、俺らは右翼 に展開する…まずは防衛部隊の引き付けだ!」

《……了解》

機械的な返事で応じるユウで あったが、ネオは内心溜め息をつく。形式には自分の指揮下に入っているユウではあるが、彼女の主はアズラエル…当然、なにかあればアズラエルの指示を優先 するだろう。

《大佐…後続のドミニオンよ り入電…『300秒後、第6第7艦隊到着後、ピースメイカー隊によるボアズ突入作戦を開始する』とのことです》

「俺らはここで敵さんの注意 を引き付けろか…ったく、簡単に言ってくれるぜ」

軽く愚痴るが、愚痴ったとこ ろでなにも変わらない……第4艦隊で右翼から攻勢を仕掛け、ザフトの注意を引き付けている間に中央と左翼から時間差で第6、第7艦隊でボアズを陥とすとい う作戦だったが、先鋒で敵の注意を引き付ける方にはなかなか厳しい。

「リー、俺達は右翼に展開す る…発進後、艦の指揮はお前に任せる」

《はっ》

「ステイング、アウル! お 前らは俺と来い! スレイヤーはそっちの判断に任せる…だが、目的を間違うなよ…俺達はあくまで囮だ」

待機しているスティング達に そう呼び掛けると同時にAPUが分離し、発進を告げる電磁パネルが点灯する。

《APU分離確認、進路クリ ア…X105V、発進!》

カタパルトが動き、ストライ クファントムを打ち出す……それに続けてエインヘルヤルも射出される。

「けっ、ネオの奴偉そう に……」

「はっ……ようやくやらせて くれるんだ…しっかりやらせてもらうぜ」

アウルは悪態をつきながら、 スティングは高揚とした気分でイージスコマンドを発進させる。

続けてトライ・スレイヤーの ストライククラッシャーがカタパルトに乗る。

「ワイズ、解かっているな… あまり前に出すぎるなよ」

《解かってるぜ、カミュ…よ うは、向かってくる奴を片っ端から倒しゃあいいんだろ!》

したり顔で笑みを浮かべ…ワ イズの駆るストライククラッシャーが発進する。

「あの馬鹿が……クルツ、出 るぞ」

《……了解》

それに続くようにカミュとク ルツのストライククラッシャーも出撃する。

彼らの前には既にザフトの MSが迫りつつあった。

 

 

艦砲が飛び交うなか、距離を 詰めた艦艇からMSが両軍から発進する。

連合のストライクダガーやメ ビウスにザフトのジン、シグー…そして最新鋭のゲイツやバルファスが襲い掛かる。

メビウス隊がバルカンやリニ アガンで狙撃するも、それらを掻い潜ってジンが突撃銃でメビウスを撃ち落とし、シグーがメビウスの上に飛び乗り、至近距離から突撃銃を放って破壊する。

ゲイツもビームライフルを斉 射し、群がるメビウスを次々に撃ち落としていく。だがそこへストライクダガーがどっと押し寄せてくる。数で迫るストライクダガーはビームライフルを集中し て放ち、ジンやゲイツを撃ち落としていく。真空中というビームが本領を発揮できるこの戦場においてストライクダガーは装備のうえでジンやシグーを圧倒して いた。

だが、彼らの前にバルファス が立ち塞がる。

バルファスはエネルギー フィールドを形成し、ビームを拡散させていく。

そのシールドの前に驚き、戦 々恐々する連合のパイロット達はビームライフルを連射するも、全て弾き返される。

そして…バルファスの頭部 AIが敵機と入力されたストライクダガーを捉えると、分散し…圧倒的な機動性で一気に迫り、ビームキャノンを連続で放ちストライクダガーを瞬く間に沈黙さ せる。

その機動性に連合のパイロッ トは眼を剥く…だが、次の瞬間にはコックピットを撃ち抜かれて爆散する。

パイロットという制約を外 し、圧倒的な機動性と冷酷無比な戦闘能力を有するバルファスはなんの感慨も得ず、そのまま設定された敵機の殲滅に向かうだけであった。

MS隊を突破したザフト側の MSが一気に艦に迫り、ジンがバズーカで…ゲイツがビームライフルを連射し、機関部やブリッジを直撃させ、戦艦を轟沈させる。

D型兵装のジンがミサイルを 発射し…それらが吸い込まれるように駆逐艦に直撃し、駆逐艦と護衛に就いていたMSを吹き飛ばす。

だが、連合のMS部隊も第4 艦隊で数少ない上位機種のデュエルダガーを筆頭にストライクダガー隊がザフト側のMSを排除し、そのまま敵艦に迫る。

ストライクダガーに対して対 空を行なうナスカ級…対空機銃に機体を撃ち抜かれ、数機が爆散するも、デュエルダガーがリニアガンとミサイルを一斉射し、対空砲を吹き飛ばす。その隙を衝 き、僚機のストライクダガーがビームライフルを放ちナスカ級を轟沈させる。

やはり僅かに押されている第 4艦隊のなかでファントムペインのパワーは奮戦していた。

「ゴッドフリート1番から4 番、目標ブルーαインディゴ8マーク23の敵戦艦! 撃てぇぇぇ!!」

イアンの号令に従い…パワー の前門のゴッドフリート4門が火を噴く。その強力なビームの奔流は進路上のMSを数機薙ぎ払い、そのまま展開していたナスカ級とローラシア級一隻の船体を 貫き…敵艦は炎上して轟沈していく。

その威容と艦形状にAA級と 感じ取ったのか、ザフト側のMS隊はパワーを沈めようと向かってくる。

「敵MS接近!」

「ミラージュコロイド展開!  敵機撹乱後、ファントム部隊に迎撃させろ!!」

素早い指示にパワーはミラー ジュコロイドを展開してその身を宇宙のなかに溶け込ませる。

消えていくパワーに驚き…距 離を詰めた時にはもはや肉眼はおろか、レーダーやセンサーでも捉えられなくなってしまった。

混乱するザフト兵であった が…戦場ではそれが命取りだった。次の瞬間、突如僚機のジンが爆発する。

MMとして改良されているジ ンもAIがその不可解さに混乱を起こしている…浮き足立つところへ虚空からビームが飛来し、ボディを撃ち抜く。

このMM隊を率いていたゲイ ツは困惑する……その時、前面モニターにゆらりと影が動く。

姿を現わしたのはブリッツダ ガー……そのままトリケロスを振り被り、ゲイツを一閃する。

母艦の援護をブリッツダガー らファントム隊が受け持つなか……前線に出ているネオ達も押されている戦況のなかで奮戦していた。

ストライクダガーを掻い潜っ て艦隊に迫るジンにスキュラが撃ち込まれ、機体を半壊させ、爆散させる。

「ひゃっほう!」

アウルが吼え、そのままス キュラを連射し、ジンやシグーを撃墜していく。

そこへバルファスがフィール ドを展開して迫る…イージスコマンドがビームライフルを発射するもフィールドに阻まれてしまう。

「へぇ…面白いじゃん かぁぁぁ!」

それに動じるどころか愉しげ に吼え、アウルはイージスコマンドを高機動形態に変形させて突撃する。バルファスはビームキャノンで狙撃するも当たらない。

一気に回り込み、後ろを取っ たイージスコマンドはバルファスのコックピットに向けて至近距離からスキュラを放った。

いくらMMといってもスキュ ラの一撃を受けては一溜まりもなく…そのまま上半身を焼かれ、爆発する。

「ははは! ごめんねぇぇ強 くってさぁぁぁぁ!!!」

高らかに自己の力に酔いなが ら次ぎの獲物を求めて機動する。

もう一機のスティングの駆る イージスコマンドもまた高機動形態で敵MS部隊に突撃していた。ジンやシグーが突撃銃で狙撃するも、ゲシュマイディッヒ・パンツァーに護られたイージスコ マンドには無効化され…そのまま脚部のビームクローと両手にビームサーベルを構える。

「おらぁぁぁぁっ! 切り刻 まれろぉぉぉぉぉっ!!」

猛スピードで敵機のなかを 突っ切り……4つのビームの刃がジンやシグーの機体を切り刻み、横切った瞬間……ボディを輪切りにされたMSが真空に華を咲かす。

「はははっ、最高だぜこりゃ あ!!」

これ程愉しく…高揚するのは 初めてだ………スティングもまた次の獲物を求めて戦場に舞う。

エインヘルヤルも正確な射撃 で次々と敵機を撃破していた。

照準がセットされた瞬間には ほぼピンポイントでトリガーを引き、機体を撃ち抜く……瞬く間に敵機を一掃し、敵戦艦へと迫る。

それを阻もうとバルファスが 砲撃するも……掻い潜るように回避する。機械ゆえの正確な射撃だけにその軌跡を読むのはさほど難しくない。なにせ…ユウも機械並みの思考能力しかないのだ から………そのままレールマシンライフルを起動し、弾丸を連射する。

その弾丸の嵐はフィールドに 阻まれるも、その濃厚さと威力に弾き飛ばされる。弾き飛ばされたバスファスはそのまま敵艦に激突し、爆発する。

その光景に唖然となるゲイツ に向かい加速し、両手のビームサーバーを展開し、機体を真っ二つに斬り裂く。

間髪入れず振り向くやいなや ハンドカノンで周辺の残存ジンを撃ち砕いていく。

最後の仕上げとばかりにウイ ングのブラスタービームキャノンを展開し、敵戦艦に向かって撃ち込む。

ビームは艦に着弾し、機関部 が爆発して戦艦が大きな爆発に消える。

「目標……消去………次目標 索敵…迎撃に移る…………」

機械のように片言で呟き、エ インヘルヤルはハンドカノンを構えて次の目標を捜す。

「くそっ、何なんだあいつ ら!」

「司令部! こちらデューク 隊! 援軍を…ぎゃぁぁ!!」

2機のイージスコマンドとエ インヘルヤルの攻勢に押されていたザフト軍のMS部隊は援護を要請しようと通信を入れるも、次の瞬間には四方から降り注いだビームに機体を撃ち抜かれて爆 散した。

慌てて迎撃に入ろうとするゲ イツの前にストライクファントムが迫る。

「わるいねぇ…俺も給料分は 働かないと立場弱いんだよっ!!」

どうでもいいようなことを叫 び、ネオはゲイツに向けてガンバレルを展開する。

不規則に動くガンバレルが縦 横無尽にビームを放ちゲイツの装備や腕部、脚部を撃ち抜き動きを止める。

そのまま距離を詰め…ビーム サーベルで機体を一閃する。

爆発がストライクファントム の赤紫のボディを赤く照り映える……ネオはハッと顔を上げるとそこへバルファスのビームが轟く。

「おっと!」

身を捻って攻撃をかわし…… ビームライフルを連射するも、フィールドに弾かれる。

「おいおい……ザフトも厄介 な機体を導入してくるな…パワーゲームかよ」

連合が新型を投入すれば当然 ザフトもそれに見合った機体を投入してくる……それが戦争だ。

だが、ネオは冷静にバルファ スの動きを読み…ガンバレルを展開する。そのままワイヤーが伸び、背中に回り込んだガンバレルがビームを放ち、バルファスを撃ち抜く。

だが、その爆発の衝撃でワイ ヤーが切られ、ガンバレル二基が脱落した。

「ちっ!」

微かに舌打ちする……どうも このガンバレルというのは制約があり過ぎる。

「ふぅ……なんで俺はこんな ことしてんのかね………とっとくたばれりゃいいものを」

どこか感傷的にぼやき……ネ オはストライクファントムを敵陣へと突撃させた。

 

 

 

 

ボアズ宙域で戦闘が開始され てから既に数時間の時が経っていた…それさえも気に掛からないようにボアズ司令部では戦況の確認に皆意識を集中させていた。

先程から司令部には各戦線で の状況と連合の布陣…そして防衛状態などの報告が飛び交っている。

一部では連合に奮戦され、苦 戦しているところもあるが全体的にはボアズ守備軍の優位に進んでいる。MSの性能は互いに一進一退だが、数では連合に劣るものの、やはりMSの運用にかん しての長は譲れず、ボアズの守備隊は奮戦していた。

第一波攻撃を仕掛けてきた第 4艦隊も既に艦隊の3割を損失している。

その時だった…司令部に新た な震撼が起こったのは………

「中央及び左翼に新たな敵影 を確認! 連合の第二波と思われます!」

パネルに表示される新たな艦 影……中央からは第6艦隊…そして左翼からは第7艦隊が向かってくる。

「中央にはネール隊、カリオ ン隊を!」

「左翼後方にさらに別部 隊……AA級1、アガメムノン級4!」

左翼方面に出現する艦隊とは 別の方角に出現する5つの艦艇…前方を進む艦から6体のMSの発進が確認された。

「目標よりMS発進を確認!  数6…クルーゼ隊より報告のあった、例の6機です!」

メンデルで確認した地球軍の 新型GATシリーズの6機……そのデータは既にクルーゼにより上層部に齎され、地球軍のなかでも最重要目標として挙がっている。

「砲火を左翼に集中させ ろ!」

怒号が飛び交うなか、緊張が 入り混じる……連合の大艦隊はやはり尋常ではない数だ。

だが、司令官はその数に恐れ るどころかさらに意気込む。

「左翼支援にハリソン隊とア イザワ隊を出せ! 奴らを決して進ませるな!!」

第二波として出現した2個艦 隊に対し、ボアズも待機戦力のほぼ全てを投入した。

全軍をあげて迎え撃たねば突 破される……流石に司令官もそう感じたのだろう。

ボアズのドックから発進する ナスカ級9隻にローラシア級11隻……それぞれに分かれ、左翼に展開している第7艦隊へと半数以上が迎撃に向かう。

司令官はこの布陣と左翼への 部隊配備から左翼の艦隊が主力と睨み、そこへボアズの精鋭部隊を向かわせた。

「このボアズ…抜かせはせん ぞ……思い上がったナチュラルどもめっ!」

士気を鼓舞するように叫び、 ボアズでの戦いは熾烈を極める。

 

 

 

 

第二波として出現した地球軍 の第6、第7艦隊からMSが発進する。

ストライクダガーに併せて デュエルダガー……メビウスにコスモグラスパーらが編隊を組んで真っ直ぐ突き進む。

中央の第6艦隊から発進した 部隊の先頭を進むのは真紅のMS……剣が交錯したエンブレムを輝かせるソードカラミティとシールドに白鯨のエンブレムを入れたデュエルダガー……エドと ジェーンの機体であった。

カーペンタリア陥落後、再び 宇宙に上がった彼らはこの第6艦隊へと配属された。愛機であるフォビドゥンブルーが地上用ということもあり、ジェーンにはデュエルダガーが与えられ、エド の下に組み込まれた。

「よーし……俺に続けっ!」

力強く叫び……ソードカラミ ティがバーニアを噴かして加速する。

群がるように迫るジンやシ グーに向かいシュベルトゲーベルを構え……加速したまま刃を振るう。横切った瞬間……ジン2体は胴体を真っ二つにされ爆発する。

ソードカラミティはシュベル トゲーベルを振るい、敵の密集地帯に飛び込んで2本の刃を振り回す。それによって次々と斬り裂かれ、MSが次々と爆発に消える。

斬り裂いた瞬間飛ぶオイルが 機体を濡らす……切り裂きエドの異名に相応しい戦い方であった。

だが、ソードカラミティが近 接戦闘型と解かるや否やゲイツは距離を取ってビームライフルで狙撃する。

それには流石のエドも歯噛み する。

「おおっと! やるねえ…… そうでなくちゃな!」

さして危機感も憶えず…… シュベルトゲーベルを装着し、両肩のマイダスメッサーを掴んで投げ飛ばす。

二つのブーメランは回転しな がら弧を描き、そのままゲイツの腕部をビームライフルごと切り裂く。その攻撃によって腕と武装を失ったゲイツは後退するかと思いきや、溜め込み…刹那、エ クステンションアレスターを発射する。

「うわっと!」

慌てて回避するも、弾かれた ように伸びるアレスターがソードカラミティのボディを掠め、傷が微かに刻まれる。

だが、そのアレスターのアン カーが割り込んでデュエルダガーのビームサーベルに斬り裂かれ、沈黙する。

間髪入れずそのままリニアガ ンとミサイルを斉射し、ゲイツ2機を破壊する。

「まったく…調子にのって 突っ込んでどうすんのよ!」

咎めるような口調で悪態をつ くジェーンにエドは軽薄に答え返す。

「わりい、助かったぜハ ニー」

「っ、ば……っ! こんな時 になに言ってんのよ!」

顔を真っ赤にして怒鳴る ジェーンは思わず右手に握っていた操縦桿を小刻みに動かし…それに連動してデュエルダガーもビームライフルを持った手をソードカラミティの前で大仰に振 る。

「うおっ、悪かった悪かっ た! だから落ち着け!」

ビームをこんな至近距離…し かも友軍で恋人に撃たれてはたまらないとエドは慌てて静止させる。

「もう……っ、馬鹿言ってな いでさっさといくよ!」

内心、自身の態度にやや反省 しながら返事を返す。

「おう!」

その返事にジェーンも満足げ に頷き……2機はそのまま加速し、先頭に立って友軍機の道をつくっていく。

 


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