増援として現われた2個艦隊 と一部のエースパイロット達が道を切り拓き、戦況は膠着している。ザフト側の全体の技能は高いが、それでもやはり数で攻める連合軍は脅威だった。

ストライクダガーやメビウ ス、コスモグラスパーが一気にボアズに取り付こうとするも、撃ち込まれた弾丸に機体を撃ち砕かれ、爆発する。

他の機体が驚いて動きを止め た瞬間……下方より回り込んだ機体が銃の砲身に取り付けた重斬刀を振り上げ、メビウスのボディを両断する。

爆発が咲くなか…閃光によっ て視界が遮られた……眼を覆う連合のパイロット達……だが、爆発の向こう側から飛来した弾丸の嵐に機体を撃ち抜かれ、ここまで強行突入してきた機体十数機 が瞬く間に破壊された。

「オペ完了……次の病原体へ 向かうぞ」

《《《《はっ!》》》》

冷静な…それでいて無機質な 呼び掛けに応じ、同型のジンのカスタム機が次の目標に向かって飛ぶ。

ZGMF−1017M:ジン ハイマニューバ……ジンに高機動型改装を施したカスタム機。

開戦中期頃に完成し、その能 力の高さからゲイツ配備までに僅かに量産され一部のパイロット達に譲渡されたエース機だ。

ボアズ守備隊のなかでも選り すぐりのベテランパイロットで構成されたチーム:ゴッドハンズ……それを率いるのはザフトのエースパイロット、ゴッドハンド:ミハイル=コーストだ。

元は優秀な医者であった彼 が、作戦名や敵を医療言語で表現し任務をこなすことからこの異名がつけられた。愛機であるジンハイマニューバには彼のエンブレムたる手術用の手袋を現わし たエンブレムにリーダー機である『1』が明記されている。

その後方につくのはさしずめ 彼のアシスタントといったところだろう。

「患部を治療しなければ病原 菌はいくらでも沸いてくる……病は元から絶つ」

7体のジンハイマニューバは 加速し、手持ちのJDP2−MMX22試製27ミリ機甲突撃銃を構え、連合の艦隊に突撃していく。

第6艦隊の一部が先行し、中 央突破を試みている……それを赦すまいとザフト側も奮戦しているも、連合のMSやMAの数が多くなかなか取り付けない。そんな焦れる友軍機を尻目に戦場の 間隙を掻い潜り、ジンハイマニューバは加速しながら敵MSを過ぎるたびに破壊する。

その機動性についていけず、 次々と沈黙する連合の機動兵器を突破しながら一気に艦艇に迫る。

機甲突撃銃が火を噴き、駆逐 艦の機関部やブリッジを潰し、轟沈させる。

ミハイルの機体は護衛艦の一 隻に向かう……近づけさせまいと対空砲を放つが、ミハイルは表情を変えずにそのままメスを動かすように操縦桿を切り…狙いをブリッジに定める。

「患部発見……これより除去 する」

静かに呟き…機甲突撃銃の刃 をブリッジに向けて突き刺した。

「オペ完了」

ブリッジが貫かれ、爆発す る……それを見届ける間もなく離脱するジンハイマニューバ……誘爆により、護衛艦が爆発して散る。

「クライアントはまだまだい る……全機、オペを続行する」

そう鼓舞すると、ジンハイマ ニューバのゴッドハンズ……連合にとってはヤブ医者の部隊が襲い掛かる。

 

 

 

艦隊旗艦のワシントン率いる 第7艦隊からも無数のMS隊が発進し、ザフトMSと激突する。

ボアズ守備軍もこの第7艦隊 に主力をぶつけ、ともに一進一退を繰り広げている。

そして、切り札たるピースメ イカー隊援護のために、ワシントンの司令官は第7艦隊のエース部隊に出撃を命じる。

ワシントンの準洋艦からカタ パルトが開き……そこに乗るカラミティと同型のMS…カラミティ2号機……そしてソードカラミティ初号機の母体………リビルド1416プログラムの一環と して開発されたカラミティの近接テスト用に保管されていたカラミティ2号機をソードカラミティ初号機に改装したものの、その後の情勢変化に伴い再び元の砲 撃機へと換装し直した。

ダークグリーンとバスターに 通じるカラーリングを施された本機の左肩には乱れ桜のエンブレム……カーペンタリア攻略戦の戦績を評価され、大尉に昇進したレナ=イメリアの新たな機体で あった。

「レナ=イメリア……桜演武 隊、出るぞっ!」

気迫を込めたレナの号令に威 勢のいい返事が返ってくる。

先陣を切るレナのカラミティ に続き、新開発のバスターダガー隊が発進する。レナのエンブレムである桜吹雪をイメージさせた部隊名:桜演武……レナの戦い方である砲撃戦を得意とするパ イロットと機体で構成された部隊だ。

そして、もう一隻の準洋艦か らも別部隊が発進体勢に入る。

制式量産型である105ダ ガーで構成された部隊……その先頭に立つのは月下の狂犬:モーガン=シュバリエ大尉。

ガンバレルパックを装着した 105ダガーのモーガンにはエンブレムに『1』の文字…それに続くのはエールパック装備の機体が3体、ソードパック装備が2体、ランチャー装備の機体が2 体というまさにストライカーパックのフル活用を実践した部隊構成だ。

モーガンの選んだだけあり、 狂犬の名を持つに相応しい荒くれ連中が多い……

「モーガン=シュバリエ…… 出るぞ! 俺に続け!!」

怒号と荒い返答………狂犬の 群が今、戦場に放たれる。

 

 

第7艦隊の迎撃に出てきた部 隊は巧みに動き、次々とMSや艦隊を撃破している。

ゲイツ部隊がストライクダ ガーを駆逐し、距離を詰めた戦艦から放たれたビームが地球軍艦艇のボディを貫き、轟沈させる。

ナスカ級7隻にローラシア級 9隻……そしてゲイツやバルファスといった機体で固められた主力部隊はこの防衛ラインを死守するために鬼気迫る気迫で連合軍の部隊を迎え撃っている。

そこへ砲撃が轟き……ゲイツ 3機が機体を撃ち抜かれ、爆発に消える。

増援かと身構えるザフト兵の 前に高速で迫る機体……ソード装備の105ダガーがシュベルトゲーベルを振るい、機体を両断する。

慌ててソードダガーに照準を 合わせるも…別方向からビームを2発放たれ、撃破されるゲイツ……エールダガーが編隊を組んでビームライフルで狙撃してくる。

その後方からはランチャーダ ガーがアグニを構え、友軍機の援護に徹する。

3つのストライカーパックの 性能を駆使した戦法だ……後方からのアグニの連射にバルファスが盾となるも、そのために動きを封じられ、固まるバルファスにソードダガーが一斉にマイダス メッサーを飛ばし、フィールドユニットを切り飛ばす。

フィールドが無くなったバル ファス目掛けてエールダガーが一斉射を行い、蜂の巣のごとく機体を撃ち抜かれ、沈黙する。

その攻勢に郷を煮やしたザフ ト兵の一人が怒りにかられて襲い掛かる……それに気づいたエールダガーがビームライフルで狙撃するも、ゲイツは機動性を駆使して螺旋を描くように回避し、 距離を詰めてビームクローを振り上げてエールダガー一機に振り下ろす。

その一撃をかわすも、完全に かわせず…右腕とビームライフルを破壊される。

追い討ちをかけようとする も、その時別方向からビームが四条放たれ……ゲイツの両腕と装備を破壊する。

割り込むように迫るモーガン のガンバレルダガーが展開していたガンバレルを戻し、ビームサーベルを抜く。

そのまま振り下ろし、ゲイツ を一閃する。

「おい、無事か!?」

「は、はい…助かりました、 大尉」

「油断するな…ここは奴らに とっての拠点なんだ……」

軽く嗜めると…モーガンは損 傷した機体を下がらせ……狂犬を率いて迫ってくるザフト機を睨んだ。

 

ザフトの主力艦隊は突然の砲 火によってローラシア級を一隻撃沈させられる。

艦長らが戸惑うなか……MS の接近が告げられる……レナのカラミティを筆頭にバスターダガー隊が一斉にインパルスライフルを構える。

「目標、敵ナスカ級! 撃 てぇぇぇ!!」

レナの号令のもとカラミティ のシュラークが火を噴き、それに続くようにバスターダガー隊のインパルスライフルが火を噴く。

一糸乱れぬその攻撃にナスカ 級の一隻が船体を貫かれ、轟沈する。

これ以上の艦隊への攻撃を赦 すまじと護衛のMS隊が桜演武隊に襲い掛かる。

砲撃支援機で固められた桜演 武隊は距離を開けて戦うことを前提にしている。

その特性を読んだザフト兵達 は接近戦を仕掛ける。

ジンやシグーが重斬刀を振り 上げ、バスターダガーに肉縛する。懐に入り込まれては対処手段が少ないバスターダガーは主兵装を戻し、ビームサーベルで応戦する。

だが、流石に接近戦ではナ チュラルの方が僅かに反応が遅い……そのために防戦一方になる。

「各機、3機で当たれ! 接 近戦は奴らの方が上だ!!」

その状況に対し、レナはすぐ さま指示を飛ばす。こういう状況下において指揮官の自信に満ちた指示と態度は兵士に言い表せない自信と力強さを齎す。

バスターダガー隊は3機で固 まり、ジンやシグーを一機一機確実にしとめる。いくらコーディネイターでも複数による攻撃を防げない。

戦争で馬鹿正直に一対一をす るような奴はそうはいない……だが、レナはたった一機でゲイツ2機を相手にしていた。

ゲイツがビームクローを振り 上げて2機掛かりで迫るもカラミティは悠々とその軌跡をかわす。

ずば抜けた反応速度と動体視 力を持つレナはコーディネイター並みの反射神経と回避行動を取れる…そして、ゲイツ一体を蹴りで弾き飛ばす。

弾き飛ばされたゲイツに向け てシュラークを放ち、ビームは正確にゲイツを貫いた。

僚機の撃破に一瞬の隙を生 む……それを見逃すはずもなく……カラミティは距離を一気に取ってトーテスブロックを発射する。

バズーカの弾頭が直撃し、爆 散する。

レナは歯応えがないとでもい いたげに鼻を鳴らす。

自身の指揮下にあるバスター ダガー隊もレナの指示に忠実に従い、敵機を撃破している。

そう遅れを取るような柔な教 育はしていない……自信を持って育て上げた部下達なのだ。

「このまま艦隊を殲滅す る……いくぞっ!」

敵艦隊を殲滅せんと桜吹雪の ごとく舞う部隊……桜吹雪が吹いた後に残るは残骸のみ…………

 

 

 

各戦線の状況は一進一退で あった……第一波の右翼は押しているものの、第二波の中央と左翼は大西洋連邦揮下の艦隊ということもあり、主力を投入しても苦戦をしいられている。

だが、ボアズも予備部隊を投 入し、前線基地であるボアズでの補給などから戦況は全体的にはザフトの優位に動いている。

MSの宇宙運用もザフトの方 が長があり、連合のMS隊も苦戦をしいられている。数で攻めてボアズに取り付こうとしても高射砲によって撃ち落とされ、未だに一機も取り付けていない。

そんななか……別行動を取る ドミニオンとアガメムノン級4隻…この膠着している戦況を破らんがためにボアズを陥とすための切り札を投入する。

そのためにはボアズへの突破 口を開かねばならない……その道先案内人としてドミニオンからゲイル、カラミティ、フォビドゥン、レイダー、ヴァニシング、ディスピィアの6機が発進す る。

発進を終えたドミニオンは先 行し……立ち塞がる艦とMSが射程内に捉えられる。

「敵艦、射程距離」

「ゴッドフリート、撃 てぇぇぇ!」

ドミニオンのゴッドフリート が火を噴き……ビームの奔流が展開していたMS数機を呑み込んでいく。

体勢を崩したザフト兵達に向 かって6つの牙が襲い掛かる。

レイダーがMA形態で飛行 し……コックピット内でクロトはモニターに表示される敵機に笑みを浮かべる。

「うふふ…いっぱいいる ねぇ……いくぜっ!」

歓喜の表情を浮かべ、レイ ダーはMS形態に変形してミョルニルを飛ばす。

鉄球がシグーの背中に直撃 し、装甲がひしゃげてシグーが爆発する。

そのままミョルニルを戻し… 再度MA形態に変形してジン3機が密集している場所へと向かう。

クローにビーム刃を展開し、 銃弾のなかを突き進みながらジン一機をクローで掴み…そのまま持ち上げる。

ビーム刃に機体を真っ二つに すると同時に変形し、口部のツォーンを構える。

「必殺!」

ツォーンから放たれたビーム がジン2機のボディを貫き、爆発する。

「ははーん……目移りしちま うぜ……そぉぅらぁぁぁぁぁ!!」

クロトに負けまいとオルガも 景気よくカラミティのスキュラを発射する。

数機がそれに機体を掠めら れ、爆発する……カラミティはなおもシュラークを放ち、展開しているゲイツやジンを撃ち抜いていく。

圧倒的な火力を推したカラミ ティにノーマル装備のジンやゲイツでは歯が立たない……そこへ少数生産のジンアサルトが立ち塞がる。

火力に対して火力……一斉射 をするジンアサルトの火線がカラミティに襲い掛かるも、そこへフォビドゥンが割り込み、ゲシュマイディッヒ・パンツァーで攻撃を防ぐ。

戸惑うジンアサルトのパイ ロット達の隙を衝き……シャニはほくそ笑みながらフォビドゥンを加速させる。

そのままニーズヘグを振り被 り……ジンアサルトを斬り裂いていく。

「うらぁぁぁっ!」

奇声を発しながらフレスベル グを発射する。

弧を描きながら放たれるビー ムに眼を剥き、シグーやゲイツが次々と撃破される。

撃墜を逃れたバルファスや無 人型のジンは攻撃目標をセットし直し、再攻撃に出ようとするもジン一機が爆発する。

突然のことにAiが混乱す る……噛み砕いたジンの残骸のなかから姿を見せる真紅の竜……ゆらりと首を擡げる竜がそのまま戻る。

伸びていたアームを引き戻し たゲイルインサニティはファーブニルのビーム砲を放つ。

だが、それはバルファスの フィールドに弾かれる。

「ほう? 生半可なビームは きかないか…なら、こいつはどうだっ!」

愉しげに笑いながら距離を一 気に詰める…バルファスはビームキャノンで応戦するも、それを掻い潜り、ゲイルインサニティはバルファスの背後を取り、ファーブニルの牙でボディを掴み上 げ、もう片方の牙で頭部を捥ぎ取る。

そのなかへビームを撃ち込 み…離脱した瞬間、バルファスは爆発する。

間髪入れず両腕を引き…溜め た瞬間、双頭の竜が解き放たれ……ゲイツ2機のボディを噛み砕き、コックピットを握り潰す。

そのまま腕を振り被り、ゲイ ツ2機の残骸を勢いよく放り投げる。

投げ飛ばされた残骸はローラ シア級の一隻に激突し、砲台と甲板がひしゃげる。

「死にな」

舌を舐めずり回し…照準が合 わさった瞬間、胸部ハッチが開き……クオスが火を噴く。

エネルギーの光球はそのまま 弾丸のように飛び……ブリッジを焼き切った。

誘爆を起こし、ローラシア級 が轟沈する。

その戦闘能力に畏怖を感じた ザフト艦隊は砲火を集中させて先に墜とそうと躍起になる。

だが、艦隊に向かってヴァニ シングとディスピィアが襲い掛かる。

艦砲の砲撃を掻い潜り……周 辺で護衛に就いているバルファス目掛けてヴァニシングのアシッドシザースが飛ぶ。

先端のクローがフィールドを 展開する前にボディに喰い込む。

そのまま絞め付ける力を強 め……ボディからミシミシという嫌な軋み音が響き、ボディを真っ二つにされたバルファスが爆発する。

背中からビームが轟く……だ が、ヴァニシングのプラネットが展開され、ビームを弾く。

なおもビームを放つゲイツに 向かい、ミサイルポッドを展開し、ミサイルが発射される。

拡散するように放たれたミサ イルはゲイツを粉々に吹き飛ばし、ヴァニシングのビームガトリング砲がナスカ級に向けられ、トリガーを引く。

光弾のマシンガンが無数のよ うに発射され、ナスカ級の装甲を紙のように粉々に撃ち砕き、離脱と同時に爆発する。

ディスピィアは可変性を駆使 し、鳥のように戦場を舞いながら一撃離脱戦法で次々とMSをしとめる。

ライトニングを振り被り、シ グーを上下に両断する。

一拍後爆発するシグーを一瞥 し、ヨルムガントを振り被る……蛇のように伸びるロッドはそのままジンのボディに絡みつき、機体を絞め上げる。

それを大きく振り被り、ジン をバルファスに向けて放り投げる。

友軍MSの接近にAIが混乱 する…よけようともせず、ジンのボディがフィールドに直撃し、2体は爆発に消える。

MA形態に変形し、艦隊に向 けてラルヴァとビームキャノンを連射する。

何十発というビームが艦体へ と吸い込まれ、ローラシア級が轟沈する。

『狂竜』、『厄災』、『禁 断』、『強襲』、『消滅』、『絶望』とコーディネイターに破滅を齎すための6体の牙は躊躇いも良心への叱責すらなくただただ破壊と殺戮を繰り広げる。

その戦闘の様をドミニオンの ブリッジで眺めていたアズラエルはご満悦に上機嫌だった。

「うーん、いいね……初陣か らケチのつきっぱなしだったけど…なかなか強いじゃないの、アイツらもさ」

オーブ戦でデビューしたアズ ラエル自慢の機体は今まで目立った戦果を上げられなかった。それは単に今までぶつかった相手が相手なのだが……ザフト軍を駆逐していく6機の姿にアズラエ ルもようやく自分の自慢の玩具とばかりにほくそ笑んでいた。

話を振られたナタルは憮然と したままモニターを睨み、通信席に座るフレイはその眼前の戦闘の様を怯えた眼で見詰めていた。

またもや爆発の華が咲くと、 眩い閃光がモニターから漏れ…思わず眼を閉じる。

そんな彼女の手元のパネルに 僚艦からのレーザー通信が入った。

「あ……ドゥーリットルより 入電です…『ピースメイカー隊、発進する』とのことです」

慣れない手つきでやや上擦っ た声でそう報告すると、待ってましたとばかりにアズラエルが眼を輝かせ、表情が興奮げに緩む。

ゲイルインサニティら6機の 活躍でドミニオンの周辺と前方には既に敵影の姿はない……ドミニオンの後方のドゥーリットル以下の4隻のアガメムノン級からメビウスの編隊が次々と発進す る。

その数はゆうに百近い……発 進したメビウスは全機とも巨大なミサイルを一基装備されている。ピースメイカー:平和を創り出すという意味を持たされた連合の部隊が拓かれた道を突き進 む。

その機影と編隊に気づいたザ フト兵達が追い縋ろうとするも……それを赦さないとばかりに6機のGが接近しようとするMSを次々と撃破していく。

そのままピースメイカー隊の 先頭に立ち……立ち塞がるMSやボアズに設置された高射砲を破壊していく。

「ピースメイカー隊、目標ま で後400!」

ドミニオンのブリッジ内が緊 張に包まれる……アズラエルはさらに笑みを深めて身を乗り出すようにモニターに喰い付き、ナタルは怯懦ともいうべき表情を浮かべていた。

ピースメイカー隊の前に立ち 塞がるものは無くなり…遂にボアズへの射程距離に到達する。

各メビウスのパイロット達は 装備されているミサイルの信管を起動させ…トリガーに手をかける。

「くたばれぇ、宇宙の化け 物!」

「蒼き清浄なる世界のため に!!」

このピースメイカー隊に配備 されているパイロットは皆ブルーコスモス…それも殲滅や強硬手段を掲げる構成員がほとんどだった。

そして……彼らの抱えていた ものは………核ミサイル…………

メビウスから放たれる何十発 という核ミサイルは堅固な岩塊を誇る宇宙要塞ボアズ内へと吸い込まれていく。

最初に到達したミサイルが爆 発し、白色の閃光が放たれる……それは表面の岩を溶かし、視界を白く覆っていく。

その閃光に戦闘宙域に展開し ていた両軍とも一瞬動きを止める……だが、その間にも続けて放たれたミサイルが炸裂し、その熱エネルギーが一瞬にして目標を蒸発させていく。

ミサイルは表面だけでなく発 進口などからも内部に撃ち込まれ、次々と連鎖反応を起こして誘爆していく。

真空の宇宙空間に咲く熱と 光……それはボアズ内を煉獄という炎で侵食していく。

炎がドック内の戦艦やMSを 薙ぎ払い、必死に爆風に耐える人間をチリ一つ残すことなく蒸発させ、消滅させていく。

司令室にもその凄まじい熱量 が感知された……だが、それを悟る前に…司令室は四方から飛び込んできた炎によって呑み込まれ、司令室は崩壊した。

激しい閃光……まるで超新星 の誕生と錯覚するぐらいの熱量と光に包まれたボアズ…それが収まった後……再び現われたのはもはやただの岩の塊であった………

戦闘宙域に展開していたザフ ト軍は事態を悟るまでもなく撤退を始めた…だが、それを連合が逃すはずもない。

掃討戦を開始し、撤退する艦 艇やMSを撃ち落としていく。

要塞を失ったザフト兵にそれ を回避する術はなかった……次々と撃ち落とされるなか、必死に逃れようとする艦艇はなんとか離脱できた。

だが、それもボアズ全部隊の ほんの2割程度であった……ザフト軍、宇宙要塞ボアズは陥落した………

「おお、流石に早い早い」

岩屑となったボアズの残骸を 見やりながら、アズラエルはさも愉しげに笑みを浮かべる。

だが、ナタルや他のクルー… そして一部の連合兵達はその光景に息を呑んだまま微動だにせず……ただ眼前の光景に見入っていた。

難攻不落と謳われ、これまで どんな手でも陥落しなかったボアズがあまりにあっさりと崩壊したのだ…ボアズはもはや砕かれた岩の破片と融けた金属片の漂う巨大なデブリと化していた。

その非現実的な光景が自分達 が手にした力の強大さを嫌でも知らしめ、誰もがただただ呆然となり、フレイは恐怖を感じるように眼を逸らした。

「あっという間だね、核を撃 たれちゃ…ザフト自慢の要塞もさ?」

唯一、陽気な様子で…むし ろ、この光景を造り出した男はなんの感慨もないようにただ自分の力に酔っているようであった。

「アズラエル理事は……」

そんなアズラエルの様子にや や嫌悪したのか…ナタルが思わず口を開き、アズラエルは彼女に視線を向ける。

「ん? 何かな、艦長さ ん?」

「……いくら敵軍に対してで も…核を撃つことを、なんとも思われないのですか?」

最終的に勝利のためにはやむ を得ぬことと頭では理解していても良心が苛まれる……だがこの男は何千という命を奪ったというのに無邪気そうにしている。それがナタルには何故か赦せな かった。

だが、アズラエルは余韻に水 を差されたように表情を顰める。

「そりゃ、軍人さんの口から 出るとは思えないセリフだね……」

嘲笑を浮かべ、見下すように アズラエルはナタルを見やる。

「勝ち目のない戦いに『死ん でこい』って自分の部下を送り出すような人達より、僕の方がよっぽど優しいと思うけど……・」

慇懃な口調と勝ち誇ったよう な視線……だが、それが正論であるためにナタルはぐっと言葉を呑み込む。確かに……戦争が長引けば失われていくのは前線の兵士達の命……最小の犠牲で最大 の戦果を得るためにあらゆる策を講じるのが上官の務めだとナタルは以前、自分でそう言っていたのだ。

「さ、次ぎはいよいよ本国 だ……これでやっと終わるよ、この戦争もさ………」

次のステージを愉しみに…ア ズラエルは席を立ってブリッジを退出していった。

残されたクルー達の間に嫌な 沈黙が充満するなか、フレイがおずおずと呟いた。

「これより、補給を開始…す るそうです……」

「……解かった。第2警戒体 制に移行…クルー達にも休息を取らせろ」

その指示にクルー達は肩の力 が抜けたようにその場で大きく息を吐き出し…ナタルも未だ消えぬ戦慄を胸にボアズであったものを再度見やった。

 

 

「目標破壊……次のフェイズ へと移行します………」

ボアズの破壊された様を見詰 めながら、イリューシアは紅と蒼のオッドアイを輝かせながら呟く。

ボアズの核による破壊……そ れは彼らの目的の過程の一つ……次はヤキン・ドゥーエ………

ヤキンを突破し、プラントの 殲滅……ただし、全滅は避ける………

「アプリリウスを含めた中央 プラントの崩壊……その後、ネクストフェイズへ……」

そう……プラントが少しでも 崩壊すれば、間違いなく次のステージの幕開けは勝手に開く………自分達はあくまでそこへ誘導するだけ………

「……了解…マイマス ター………」

あくまで無表情のまま……ア クイラは淡々と任務をこなす………己の絶対の主のために………

神々の裁きを齎すために…… 絶望と破滅への扉を開くために…………

 

 

 

 

その頃…プラント内では激震 が走っていた。

パトリック達はモニターに映 し出されていたボアズの核による崩壊に愕然としていた。

誰もが凍りついたようにモニ ターを見やり…クルーゼが微かに笑みを浮かべるなか……呆然となっていたパトリックの表情が徐々に憤怒に染まっていく。

「おのれ…ナチュラルども め………」

地を這うような憎悪の声…… 歯軋りするパトリックは怒りに拳を振るわせる。

「議長閣下……」

誰もがあまりに非現実的な光 景に動揺し、まともに思考が働かない……エザリアも縋るようにパトリックを見やるが、パトリックはすぐさま怒号のように叫んだ。

「ただちに防衛戦を張れ!  残存部隊はヤキン・ドゥーエに集結させろ! 旗艦:ヘカトンケイル、中央に配置!! 奴らを一歩たりとも近づけさせるな!!」

命じられ…それまで茫然自失 となっていた議員や補佐官達が慌てて動き出す。

もはや徹底抗戦しかない…そ れが彼らの心情であった。

そんななか、パトリックは怒 りと憎悪のなかで息子の顔を思い浮かべる……ナチュラルが核を再び用いてきた……それは地球軍にNJCを引き渡した者がいる………

そしてそれがラクスであり… 息子のアスランであった………役立たずの愚息と切り捨てていたが、まさか本当に敵に祖国を売ろうとは考えていなかった。

母親を殺した敵国に……パト リックはそう決めつけていた。もはやナチュラルへの憎しみしかないパトリックはクルーゼに示唆されたルートでしかNJCの流出経路を描けなかった。

そして……もはや彼の取るべ き道は一つとなった。

「クルーゼ!」

「はっ!」

「ヤキン・ドゥーエへ上が る! ジェネシスを使うぞ!!」

その言葉にエザリア達は戦慄 する……議長自ら最前線のヤキン・ドゥーエに上がるばかりか、アレを使うと明言したのだ。

それには流石に戸惑わずには いられない。

「議長…ジェネシスは我らの 切り札です…それを今……」

思わず反論しようとしたエザ リアだったが、次の瞬間仇を見るように血走った憎悪の視線を向けられ、思わず身を竦める。

「ふざけたことを言うな、エ ザリア! 既に奴らは撃ってきたのだ! 今使わずにいつ使うというのだっ!」

ジェネシス……極秘裏に防衛 用に建造が進んでいたザフトの最後の切り札……だが、それを実際に使う日が来るとは誰も考えてはいなかった……

獣のような表情を浮かべるパ トリックに誰もが黙り込むなか……クルーゼだけは微かに愉悦の笑みを口元に浮かべていた。

 

 

 

 

その頃……L5宙域へと向 かっていたレイナ達にボアズの続報が届けられていた。

「続報?」

オーディーンのブリッジに上 がったレイナとリンはダイテツに問い返す。

発信者はリード=ウェ ラー……なんと、今回は戦闘アドバイザーというなんとも怪しげな肩書きで連合のボアズ攻略部隊に紛れ込んだらしい。

そのリードからの続報に各艦 のクルー達の間に戦慄が走っていた。

聞くまでもなかったのかもし れない……もうこの未来は見えていたのだから………

その時、アラートと共に全艦 へ緊急加速の艦内放送が掛かる。

事態に進展があったのかもし れない……そう思ったキラとアスランも機体の整備を放り投げ、ブリッジを目指す。

二人がブリッジに到着する と…ラクスは艦長席に着き、既に発進準備が着々と進められていた。

「ラクス」

呼び掛けながら傍らにより、 アスランが問い掛ける。

「動くのか? 月艦隊のボア ズへの侵攻はどうなった……?」

地球軍のボアズへの侵攻は既 に艦の誰にも伝わっている……だが、戦況がどうなっているのかはっきりと掴めていない。

無論、アスランも元はザフト 兵…ボアズの堅固さは熟知しているが……だが、振り返ったラクスの表情が蒼褪めた表情を浮かべていたのを見た途端、その事態を悟る。

そして、ラクスも硬い口調で 戸惑いながら答えた。

「いえ…事態はもっと早 く……そして、最悪な方向に進んでしまいました………」

言い淀むラクスの言葉をバル トフェルドが紡ぐ。

「こっちのルートからさっき 入った情報だと……ボアズはもう陥ちた………」

その言葉に耳を疑う……ボア ズが陥落した……あり得ない現実と考えていた二人に衝撃的な言葉が飛び込んできた。

「……地球軍の核攻撃でな」

今度こそ、キラとアスランは 息を呑み…驚きに眼を見開く。

リードから齎されたのは核に よるボアズ崩壊の瞬間の映像……核の運用が既に可能と考えていただけにあり得ないことではなかった。

だが、キラは思わず拳を握り 締める……核を使用可能にした責任の一端は自分にもあるのだ……あの時の嫌な悪寒が…こんな形で表われるとは………

こんな事なら、なにがなんで もフレイの乗った脱出ポッドを回収しておけば良かった。

だが、過去の事をどう悔やん でも、時間が戻ることはない……ならば自分にできるのは、これ以上の地球軍の核攻撃を赦してはならないこと……

「……急ぎましょう、私達 も」

ラクスがすっと立ち上がり、 バルトフェルドが頷くと…3人はブリッジを後にし…MSデッキへと向かう………

キラ、アスラン、ラクスの3 人の眼には……新たな決意と覚悟が強い光をその瞳に宿した。

 

 

ネェルアークエンジェル、エ ターナル、オーディーン、ケルビム、スサノオが加速し…全艦で緊急スクランブルがかかるなか……ネェルアークエンジェルのブリッジでマリューはやや信じら れない思いで呟いた。

「まさか、本当に核を使うな んて……」

苦い口調で呟く……既にその 可能性を示唆されていたとはいえ、実際にそれが起こると平然とはしていられない。

「あんま、驚きゃしないが ね……」

だが、ムウだけは冷静な口調 でぼやく……見やるマリューにムウも苦い笑みを浮かべる。

「…JOSH−Aの後だ し………」

そう……既に地球軍が…い や、アズラエルを筆頭とするブルーコスモス強硬派がもはや手段を選ばないのは既にアラスカで実証済みだ。あの時にサイクロプスを使って友軍さえも切り捨て た彼らが敵に核を使うのを躊躇うだろうか……しかも、今回は敵の拠点が爆心地だ。汚染の心配すら必要ない………

「けど、あの野郎……っ」

だが、この事態を招いたのは ある男の暗躍だ……全てはクルーゼが思い描いた通りに進んでしまった……封じ込められていた核を再び使えるとなった時、もはや止める者はいない……

クルーゼは賭けていた……だ が、その己の全てを賭けた博打さえも誰かの思惑なのだ……神を気取ったピエロの男………ムウは己の全てを賭けてでも止めることを改めて誓い、決意を胸に MSデッキへと向かう。

 

 

各MSの発進準備が整うな か……パイロットスーツに着替えたキラ、アスラン、ラクスの3人は各々の機体へと向かっていた。

「ラクス、いきなりこんな状 況だけど…気をつけて」

「はい」

今回がラクスの初実戦…それ がこんな大きな作戦になるとは……キラもラクス本人も緊張を隠せないが、それでも意志を確かめ搭乗していく。

フリーダムのコックピットに 乗り込んだキラは思わず通信を開く。

「プラントも…核・……撃っ てくると思う…?」

フリーダムのAPUを起ち上 げ、調整をしつつキラは通信機越しにアスランにポツリとそう尋ねた。

無論、これを訊くのは躊躇う が…その問いに一瞬、アスランの表情が強張ったものに変わる。

「父が正気なら……まさか、 と思うが………今は…解からない………」

今プラントの命運を握ってい るのは紛れもなく自分の父…だが、自らの理想のために息子を撃ち…そしてナチュラルを滅ぼすことを掲げる男が核を撃たれてもはや黙っているとは思えな い………そう考えると心がざわつく。

沈んだ表情で呟くアスラン に、キラとラクスは傷ましい気分になる。

想いを託して逝ったウズミや シーゲル……狂気に捉われるパトリック……同じ父でも人は違う……それを改めて思い知る………

「……なんで、人は大きな力 を求めるのかな………」

その言葉に、アスランとラク スは問うような視線をキラに向け、キラは呟くように言葉を続ける。

「MSや銃も……核兵器 も…………」

その言葉に、モニター越しの 2人の表情も悲しげな顔で黙り込む。

人は力を求める……より大き な力を………最初に銃を取り…そして次にMS……最後は禁断の炎にまで手を伸ばす………

だが、その問いは他でもない 自分達自身に向けられている……自分達もまた…戦争を止めるためにと謳いつつ力を求めている………

結局……人は力を求めてしま うのか……それらがより大きな悲劇を生む…それが解かっていてその誘惑には抗えない………

兵器には罪がない……そう… それに負けてしまう人に…………自らをも滅ぼしかねない業火を欲し………そう考えると、人という種は生まれながらの罪人ではなかろうか………

幾ら問うても、答えの出ない 問いをグルグルと続けてしまう。

だが……

《おいお前ら……そうやって 悩むのは後回しだ》

そこへ嗜めるような声が響 き、ハッと顔を上げると…モニターにミゲルが映っている。

どうやら、先程までのキラ達 の会話を聞いていたらしい。

《そんなもん、いくら悩んで も今すぐ答が出るわきゃないだろ……そんな事より、俺らには今やらなきゃならないことがあるだろうが!》

「ミゲル……」

その気遣いにアスランは眼を 見張る。

《その通りだ……今、私達が しなければならないのは核を絶対にプラントに撃たせちゃいけないってことだけ》

同じように回線に入ってきた メイアに一同は言葉を呑み込む。

確かに……いくら悩んでも 『人』がどうなのかなど答は出ない……今はっきりしているのは一つ…プラントを撃たせてはならないということ……先は見えなくとも、今は自分達の信じるも ののために一歩ずつ進むしかないのだ………

「そうだな…もう、ユニウス セブンのような犠牲は…たくさんだ………」

やるせない口調でアスランは 操縦桿を握り締める。

母が……なんの罪もない人達 が一瞬にしてその命を散らされた核の炎……あの悲劇を二度と繰り返さないために自分はこの道を選び…今まで戦い続けてきたのだ………

ラクスはやや瞑目すると…… 凛とした声で静かに…自らに言い聞かせるように発する。

「そうです……私達はまたな にもできなかった……ですが、これ以上の悲劇を起こしてはならない………」

通信を通してその言葉はキラ 達、そしてエターナルのブリッジにも響く。

地球軍に核を撃たせてしまっ たのはある意味では重大な過失であろう…これで、またもや憎悪を掻き立てられ、戦いの連鎖は続く。

どのような形であれ、戦争を 終結させようとしている彼らには致命的であった。

「核を……たとえ一つでも、 プラントに落としてはなりません。撃たれる謂れなき人々の上に、その光の刃が突き刺されば…それはまた、果てない涙と憎しみを呼ぶでしょう……」

ボアズが核によって陥落した のはもう変えられない過去だ……だが、それに悲観していてもなにも変わらない…今やるべきはこれ以上の核の炎を止めること。

プラントを…軍人でもないた だ戦う力もなく静かに終わりを待つ人達を犠牲にしてはならない………

「平和を求め…叫びながら、 その手に銃を取る………私達もまた罪人でしょう………」

平和を叫び、敵対する両陣営 に戦いを止めるために銃を向ける……これ程の矛盾はないだろう……だが、現実はいつも矛盾しかない………

だからこそ……その矛盾を刻 みながらも…この戦争を終わらせるために戦わねばならない……戦いに善も悪もない………戦争に加担するのは、皆…罪人なのだ…………

罪人として……戦う道を選 び……力を求める………全てを終わらせるために…全ては…ただ悲劇を繰り返さないために………

「でも……この罪の証を背負 いてでも………今続く果てない争いの連鎖を……断ち切るために……っ!」

顔を上げたラクスの瞳には強 い決意と覚悟が映り……キラとアスランも頷き返す。

 


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