ボアズ周辺宙域では、艦体の 補給作業が行われていた。

補給艦から弾薬とエネル ギー、そしてMS用資材やMS・MAの予備機を受け取り最終目標であるプラントを目指す。

だが、先鋒を務めた第4艦隊 は全部隊の約5割近くを損耗しており、次の作戦には参加は難しいであろう。

第4艦隊とともに先鋒を務め たパワーも損傷が少なくはないが…それでも彼らは同行せざるをえない……そういう指示なのだ。

代わって第6と第7艦隊は全 体の約2〜3割程度であり、すぐにでもヤキン・ドゥーエへと向かうらしい。

ドミニオンの私室でシャワー を浴びたアズラエルは補給を担当している兵士から報告を受けていた。

「で……まだ終わらないんで すか?」

《申し訳ありません…急がせ てはおりますが、今しばらく………》

正直、これだけの艦体の補給 と一口にいってもそう楽なものではない……ボアズという難所を攻略したばかりでクルーやパイロットにも疲労がある。

だが、この男にはそれは通じ ない…自分が気分を害したらそれは周囲の責任なのだから。

そして彼を取り巻く上官もそ れを当然のごとく捉えている。故にこう下手に出ているのだ。

「そうですか…サザーランド 准将の部隊はどうなりました?」

《先程、月基地を発進したと いう報告が入りました……ただ、合流時間から考えても恐らく後続になると……》

アズラエルの子飼いであるサ ザーランド率いる第9艦隊はようやく艦隊の編成を終えて遂今しがた月基地を発ったということだが……航路時間を考えてもこちらの侵攻が早いだろう。

「構いません……合流を急ぐ ようにと……」

《はっ》

通信が切れるとアズラエルは 浮遊したままややガッカリ気に肩を竦めた。

「ま、のんびり行きますか… どうせ、奴らには逃げ場などないのですから………」

既にザフトは手負いの獣…も はや逃げ場のない……そう焦ることもないとアズラエルは信じて疑わぬ未来に夢想した。

 

 

同じドミニオンの後部デッキ にナタルは立っていた。

展望室のガラスから補給が進 む友軍を見詰めながら、ナタルは瞼を閉じると先程のあの核の炎の禍々しいほどの眩さが何度も甦る。

あの炎の中で焼き尽くされた 敵兵の叫びが耳に木霊すると錯覚するぐらいに瞼の裏に焼きついている。

以前の自分であれば、ただの 感傷だと切って捨てただろう……敵を倒すのに手段を選ぶ必要はない……ただの戦闘の結果だと……ただそれだけのことだと、記憶の片隅にしまい込み、顧みる ことすらしなかったに違いない。

だが、ナタルの胸中には複雑 な葛藤が渦巻いていた…あの核ミサイルの閃光に、どれだけの人間が呑み込まれたのだろう……これは戦争…殺戮ではない。何度そう自分に言い聞かせても、そ の破壊の瞬間に対し、まるでショーでも愉しむかのように人の死を笑顔で喜ぶ男を見てしまえば……なんの意味も持たない、空虚な言葉にしか聞こえない……

 

―――――貴方なら、きっと いい艦長になるわね。

 

JOSH−Aで別れる前にそ うマリューに言われた言葉が今は何故か酷く心を苛める。

自分がそのマリューのいう 『いい艦長』だとはとても思えないからだ………

艦長でありながら実際は上層 部がおべっかを使うオブザーバーのお守りになにも言い返せない無力な自分………

 

―――――私達は、地球軍そ のものに対して疑念があるのよ!

 

迷いもない瞳で、彼女はそう 言った……それが幾度となくリフレインする………

今の地球軍の…自分が誇りを 持って属している陣営のしていることは正しいのか……

 

――――あのですね…貴方は 確かにこの艦の艦長サンなのかもしれない…でもね、その上にはもっとこの戦争全体を見ながら、考えたり指揮したりする人間がいるんですよ……

 

そう見下すように呟いた男の 顔が過ぎり、ナタルは思わず歯噛みする。

人の死の瞬間を見て手を打っ て喜ぶような男が、その人間だと……ナタルは言い表せないほどの苦悩に拳を握り締める。

どれだけアズラエルに反発を 持っても…彼に逆らうことはナタルには許されない……軍人である自分には………

逡巡していたナタルはスライ ドしたドアの開閉音に閉じていた眼を開き、振り返った。

展望室へと入ってきたのはフ レイだった。

フレイはただドミニオン内を 徘徊し……孤独と寂しさに耐えかねてここへと無意識にやって来た。

パイロット控え室にいた自分 と同世代のあのGのパイロットの少年達も…そして自分に爬虫類のような視線を向けてきた男も……思わず身震いしてその場を横切ろうとした時、ぶつかった同 年代の少女に向けられた無機質な眼………

通信士として見る戦闘も…あ の核の炎も……無邪気に喜ぶアズラエルも………そして…この先に待ち受けることも………なにもかもが恐かった………

アークエンジェルと同じ設備 をしていても乗っているクルーは皆違う…それが余計にフレイを恐怖させていた。

「どうした、大丈夫か?」

黙ってナタルの傍に立ったフ レイに、ナタルはできるだけ優しく問い掛けた。

その気遣いにフレイは微かな 安心感を憶える……アークエンジェルに居た頃は軍事気質の強い怖いイメージを抱いていただけに、フレイはより安堵していた。

救助されて除隊を進められて も軍に残ると言うと、ドミニオンに配属できるように教鞭と便宜をいろいろとはかってくれた。

「やはり、残っていたほうが よかったのではないか? 月基地に」

沈んだ表情を覗き込みながら 問うと、フレイは無言で首を振った。

その様子に小さく溜め息をつ き…言いにくそうに声を落とす。

「……前線に出たからといっ て、アークエンジェルに出会えるとは限らないぞ」

ビクっと身を強張らせるフレ イ……フレイが何故軍に…それも敢えて危険な前線の配置を希望したのか……その理由すらナタルはとうに見透かしていた。

わざわざ安全な後方任務では なく危険な前線にまで身を置いたのはアークエンジェルとの接触を求めてのことだった。

それは儚い希望でしかな い……ドミニオンは月基地に戻ってからはずっと待機であった。そして発進したのはこの作戦……ここにいてもアークエンジェルと接触する機会も持てず…また 運良く接触してもアークエンジェルは敵なのだ………

「でも…私……どうしても、 会いたいんです………」

彼女の脳裏にメンデルでの光 景が甦る。

聞きたかった声でフレイの名 を呼びながら追いかけるMS………瞳から涙が溢れてくる。

「キラ……生きてた……!」

死んだと思っていたキラが生 きていた…そして……捕虜となり死んだと同然となっていた自分もこうして生きている…それがフレイに微かな希望を抱かせていた。

実際、ナタルも驚いたのだ… あの捕獲対象となっていたMSからキラの声が聞こえた時は……それだけにフレイの気持ちも同情を憶えないわけではない。

「だからっ…私……会っ て………」

フレイの喉が震え、嗚咽が漏 れる。

「今度こそ…ちゃんと話…… わ、私………皆とも…っ」

しゃくり上げながら途切れ途 切れの口調で呟く……あの日……ポッドで宇宙に放り出された時、フレイは初めて間近で戦場を見た。

恐ろしかった……すぐ傍を火 が過ぎり……MSが頼りなく過ぎりながら次の瞬間には炎を噴き上げ跡形もなく爆発した……まさに死と隣合せの戦場を初めて体感した。

だが、それはキラが…そして レイナが……アークエンジェルのクルー達全てが味わっていたのだ………

あの恐怖のなか……彼らは 戦っていた…だが、フレイはそれを当然と考えていた。

自分は護られて当然だと…… キラやレイナは力がある………だから戦うのが当然だと……

そしてキラを戦場へと縛り付 けた醜くて愚かな自分……こんな自分は、見捨てられて当然だったのに……だがあの時、キラはフレイを助けようと必死になってくれた。

フレイの名を呼んで、必死に 手を伸ばしてくれた……

泣きじゃくるフレイを傷まし げに見やりながら、ナタルは語り掛ける。

「なら…ブリッジを出るか?  居住区にいれば、それ程怖くはあるまい……怖いのだろう?」

その気遣いが嬉しかった…… だが、またもフレイは首を振った。

「こ、怖いけど…私、知らな かったから……っ」

何も見ずにいた……アークエ ンジェルに居た頃のフレイは軍に志願しても戦闘が始まれば彼女はベッドに潜り込み、ただ震えて眼を閉じ戦闘が終わるのを待つだけ……自分は護られて当然だ と信じて疑わなかった………

だから父を護れなかったキラ やレイナを憎み……復讐のためにキラを利用し、レイナを傷つけた……

「……みんなっ…ずっと見て たのに…私………っ」

自分は何も見ず…何も知ろう とせず……ただ自分の思い通りにならないことに怒り、他人を責めていた……だからキラにも謝れず…サイにも見捨てられた……それも今は当然の報いと思え る。

だから決めた……今度は逃げ ないと………だが、そんななにかを求めるように逡巡するフレイに向かって低い声で呟いた。

「見ずにすめば…それに越し たことはない………」

どこか苦い口調にフレイは思 わずナタルを見上げる……ナタルは俯き、小さく唇を噛んでいる。

「この先、戦闘はますます激 化する…ブリッジにいれば、見たくもないものを見ることになる……さっきのような光景も……」

沈痛なナタルの言葉がフレイ に先程の光景を鮮明に甦らせ、フレイは身を強張らせた。

ブリッジのガラスに差し込ま れる眩い光……その破壊の凄まじさとあの光景に喜ぶアズラエルの姿が以前の自分と重なり…フレイは締め出したい気持ちでいっぱいであった。

震える自身の身体を抱き締め る。

「あの人……」

やり切れない怒りを込めて彼 女は仮面の男を思い浮かべる。

 

――――私ももう疲れた…だ から渡しておくれ……戦争を終わらせるための鍵を…………

 

父と同じ声で…そして酷く疲 れた表情を浮かべて縋るように自分にディスクを渡した仮面の男の声と顔が過ぎり、唇を噛む。

「これで戦争は終わるって 言ったのに!!」

あの姿に騙された……やるせ ない感情に涙を零しながら訴えるフレイから、ナタルは眼を逸らす。

「確かに終わるさ……」

奇妙なほど簡潔に述べられた 言葉にフレイは驚いて向き直る。

「……敵であるものを全て滅 ぼせば……な…」

 

―――――それが地球軍の手 に渡れば、戦争は終わる………

 

ナタルの言葉とクルーゼの言 葉が反芻する…地球軍が核を使い……プラントを滅ぼす…敵を滅ぼせば戦争は終わる……フレイはその時になって初めてその意味に気づき、鋭く息を呑む。

「……確かに、終わるの だ………」

まるで自身に納得させるよう に反芻するナタル……だが、表情が苦悶に歪む。

このままいけば…先程のボア ズと同じくプラントには無数の核ミサイルが撃ち込まれる……プラントが崩壊し、コーディネイターが全滅すれば戦争は終わる………

ヴァサリウスで見たフレイと 変わらぬ少年達も…フレイを騙したクルーゼも……赤ん坊から老人まで……コーディネイターは全て死に絶える……そして…それを可能としてしまったのは他で もない自分自身………

彼女の耳にボアズで死んだ者 達の恨みや怨念が聞こえてくるようだった……自分じゃないと叫びたかった…自分のせいじゃないと……だが、それは赦されない………

彼女はあまりの罪に足元が抜 けそうな感覚だった……騙されたクルーゼもだが…なにより赦せないのは自分自身……フレイは確かにクルーゼの言葉の騙されたが…それでもフレイも望んだの だ……この戦争を終わらせたいと………

だが……そんな思いは戦闘宙 域に放り出された瞬間、フレイの頭から吹き飛んだ。

戦場の恐怖に怯え…このまま 撃たれて死ぬのも見捨てられて一人死ぬのも嫌でフレイは叫んだ……『鍵』を持っていると………自分は特別なものを持っている…そう叫べば誰かが助けてくれ る……今までと同じく……結局、自分は浅ましいままだったのだ。

(キラ……サイ…)

彼らはどう思うだろうか…… きっと彼らは気づいている………連合軍が核を手にしたことを…そのデータを渡してしまったのがフレイであることを……今度こそ見捨てられるかもしれな い……もしかしたらもう憎まれているかもしれない………

だが……たとえそうなっても もう一度会いたい……会って伝えなければならないから……

それまで…死ぬことはできな い………

フレイはそんな小さな決意を 胸に今一度、彷徨うな視線を宇宙へと向けるのであった。

 

数時間後……補給の終えた連 合艦艇から補給船が離れていく。

第4艦隊はやはり再編成が間 に合わず、ここで第9艦隊との合流を待つだろう……先陣を切るのは第6と第7艦隊だ。

アズラエルの号令のもと…地 球軍艦隊は進軍を開始した。

 

 

 

 

進撃を開始した地球軍艦艇に 呼応するようにプラントでもまた迎撃体制に移行していた。

ヤキン・ドゥーエを中心とし た前線基地に軍司令本部にはボアズからの残存部隊を併合し、何百・何千というMSが集結していた。

艦隊の中心部には小型の衛星 に匹敵するぐらいの超巨大な空母が航行していた。

空母:ヘカトンケイル……ザ フト軍における宇宙の移動要塞……戦艦が接舷し、補給を前線で円滑に行い、尚且つMSの大規模なファクトリーを兼ね備える艦内には百近いMSが待機し、武 装も戦艦クラス以上の火力を兼ね備えている。

だが、その巨体故に機動性は 皆無に等しく……甲板には防衛用のバルファスに地上での戦線放棄において不要となったザウートの上半身を固定砲台としていた。

備わった12のカタパルトが 開き……そこからゲイツやジンアサルト、シグーが次々と発進していく。

ヘカトンケイルを旗艦とし、 その周囲にはナスカ級・ローラシア級が網目のごとく配置し、その周囲にはMS隊が布陣し、鉄壁の防衛網を築き上げている。

そして……全兵士は目前に迫 る地球軍に対し緊張した面持ちで身構える。

襲撃に備える全兵士に向けて エザリアの鼓舞するような演説が響く。

《ナチュラルどもの野蛮な核 など、もうただの一発とて我らの頭上に落としてはならない!》

地球軍の核の再度の使用…… それはコーディネイターにとって忌まわしき記憶を甦らせ、危機感と憎悪を掻き立てていた。

《血のバレンタインの折、核 で報復しなかった我らの思いを、ナチュラルどもは再び裏切ったのだ!》

演説に聞き入る兵士のなかに は息子のイザークの姿もある。

(………母上)

エザリアの言葉にイザークは 迷っていた決意を再度奮い立たせる。

地球軍は再び核に手をつけ た……そして奴らは、今度はプラントを破壊しようとしている……自分達の故郷を……同胞達を………コーディネイター全てを滅ぼそうとしている……そんなこ とを赦すわけにはいかない……

《もはや、奴らを赦すことは できない!》

リング型の軍事衛星の周囲に は艦隊とMSが埋めつくし、もはや蟻の這い入る隙間さえない……もはやこれが最後なのだ………ここが突破されたら、もうプラントはすぐそこなのだ。

ここが最後の砦であり、彼ら の生命線でもある……決して通させてはならない。

《ザフトの勇敢なる兵士達 よ! 今こそ、その力を示せ! 奴らに思い知らせてやるのだ…この世界の……新たな担い手が、誰かということを……!》

激しく鼓舞するエザリアに兵 士達の士気は最高潮に達し、誰もが意気揚々と身構える。

次々と発進口から防衛隊が発 進していくなか……待機していたイザークとヴァネッサの部隊の出撃が回ってきた。

「イザーク=ジュール、デュ エル……ジュール隊、出るぞ!」

イザークのデュエルパラディ ンが先陣を切り、次いで副官のシホの機体がスタンバイする。

「シホ=ハーネンフース… シュトゥルム、出ます!」

ホウセンカのエンブレムを刻 印したシュトゥルムとジュール隊のゲイツが発進していく。

続けてヴァネッサの金色のゲ イツアサルトがスタンバイする。

既に能力不足を実感していた シグー・ディープアームズから乗り換えた…だが、最新鋭機種を渡されたというのに以前のようにそれを喜ぶような余裕は今はない。

ただただプラントのために戦 うという意志だけだ。

「ヴァネッサ=ルーファ ス……ルーファス隊、出るぞ! 俺に続け、野郎どもっ!」

威勢のいい返事とともにヴァ ネッサのゲイツアサルト、副官のライルのバルファスに部下のゲイツ部隊が発進していく。

十数機の部下を引き連れ…… ジュール隊とルーファス隊は前線へと向かう。

じりじりと距離を詰める両 軍……そして…先頭の部隊から火が迸り………戦闘は開始された。

 

 

 

 

オーディーン、ネェルアーク エンジェル、エターナル、スサノオ、ケルビムの5隻もプラントへと航路を進んでいた。

各艦のカタパルトデッキには 先行するMSが既に発進態勢に入り、パイロット達は息を潜めて出撃の刻を待つ。

オーディーンのデッキにもイ ンフィニティ、エヴォリューション、スペリオルの最終調整が進む。

インフィニティには追加兵装 である2連装の陽電子砲がバックパックに装着され、右手にはダークネスの代わりに大型ビーム砲:フェンリル…そして脱着可能なミサイルポッドを脚部に装着 している。これによって戦艦並みの火力を有するが、これはあくまで複数の目標を一気に殲滅する広域兵装……

コックピットで各兵装の最終 チェックを行うレイナの許に通信が入ってきた。

《姉さん……どう思う?》

唐突なリンの問い掛け…だ が、その意図を察していたレイナも冷静な口調で静かに答えた。

「まず間違いなく……プラン トはなにかを仕掛けてくる…このままということはないと思うけど………」

地球軍が核を用いてきた以 上、ザフトももはやなりふり構わなくなる……そもそものNJCのデータを齎してきた先はザフト……当然ザフトにもNJCがあり、核に連なる大量破壊兵器が 存在していないという保証はない。

何故それに気づかないの か……地球軍のトップはそこまで無能かと内心悪態をつく。

だが、その無能でただ己の力 に酔うように操っている影……

「だけど、恐らくそれも奴ら の思惑が絡んでいる……だとしたら…」

《奴らが狙うのは…プラント の全滅か………》

地球軍をいいように操り、殲 滅戦へと移行させた以上…そして核を使うという方法を取った時点で奴らの思惑が僅かながら見え隠れしている。

だとしたら…次に奴らが狙う のは何か………

「私と…あの男は……一番近 い存在……なら、その思考もある程度は読める…………」

ポツリと呟いたレイナにリン は息を呑む。

自分と…あの男は同じ遺伝子 を共有する存在……なら、その思考パターンもある程度は予測できる……自分ならどうするか………

「一つは闇に紛れて………」

奴らは決して表に出ない…… 闇のなかから全てを見下ろしている…闇に紛れて……裏から全てを操り、実行する……その条件は満たしている。

「そしてもう一つ……シナリ オを演出するために役者を動かす…………」

表に出ないが、全てのシナリ オを進める以上、駒を動かす必要がある……ならば、その役者を自分のシナリオ通りに動くように誘導する………

「プラントを崩壊させ…コー ディネイターのナチュラルへの憎しみを決定的なものにし……両陣営の完全なる対立と破滅を促す………」

両者を和平させるよりももっ と簡単でしかも容易な手段……怒りと憎しみを増長させるのはどんな事よりも容易いことだろう………

核によってプラントが崩壊す れば、それはもう両者の潰し合いの合図……互いに疲弊し、滅ぼし合う……

それが『滅びの刻』……な ら…『再生の刻』とは………それだけが未だに解からない。

《どちらにしろ……核を落と すしかない…かしらね》

やや溜め息混じりに呟く…… 別に正義の味方を気取るつもりではないが……連中のシナリオ通りにことを進ませるのは癪だ。

どの道、連中との戦いは避け られないのだ……ならば、シナリオを崩して少しでも奴らの思惑を壊すしかない。

「そうね……一つ間違えばシ ナリオは変わる…連中も表に出ざるをえなくなる………」

闇に隠れて出ないなら……奴 らのシナリオを崩し、連中を表舞台に引きずり出すしかない。

その刻こそ……決着の刻だろ う………互いに闇に生を受けた者同士の…………

《目標まで後3000…… MS隊、スクランブル!》

管制官の指示にレイナとリン も顔を上げる。

彼女達の決意と意志をの せ……2体のDEMは起動する。

 

 

ヤキン・ドゥーエ付近まで来 た5隻……そして、先行する機体が順次発進に入る。

エターナルのカタパルトが開 き……フリーダムがスタンバイに入る。

「キラ=ヤマト、フリーダ ム! いきます!」

「アスラン=ザラ、ジャス ティス! 出る!」

フリーダム、そして次いで ジャスティスが飛び出す。

「ラクス=クライン…マー ズ、参ります!!」

初陣となるラクスの駆るマー ズ……軍神の意味を冠する機体がその身を宇宙に躍らせ、前身を白とピンクに近い紅色を機体に走らせ、飛び出す。

「メイア=ファーエデン、 ヴァリアブル! いくぞっ!」

「ミゲル=アイマン…ゲイ ツ、いくぜっ!」

ヴァリアブル、そしてゲイツ 改がエターナルから最後に飛び出す。続けてネェルアークエンジェルの左右のカタパルトが開き、ストライクテスタメントとインフィニートがスタンバイする。

ブリッジでマリューが見守る なか、ミリアリアの管制に従い、発進していく。

「ムウ=ラ=フラガ…ストラ イク、出るぞ!」

「アルフォンス=クオルド… インフィニート、出るぜっ!」

左右のカタパルトが機体を打 ち出す。

ムウの新たな剣……ストライ クテスタメントとインフィニートが宇宙に舞い踊る。

「ディアッカ=エルスマン、 バスター! 発進する!」

「ニコル=アマルフィ、ブ リッツ! いきます!」

「ラスティ=マックスウェ ル、イージス! いくっしょっ!」

改修を施されたメガバス ター…そしてブリッツビルガー、イージスディープが発進する。

スサノオからはカガリのスト ライクルージュとカムイのルシファーが発進準備に入る。

《カガリ様、ご武運を》

「ああ……カガリ=ユラ=ア スハ…ストライクルージュ! いくぞっ!」

トダカからの激励に応じ、カ ガリもキッと前を見据える。

発進OKが告げられると、 エールストライカーを装備したストライクルージュが発進する。

「カムイ=クロフォード…ル シファー、いきますっ!」

続けてオーバーハングパック を装着したルシファーが飛び出していく。

残るはオーディーンのみ…… カタパルトハッチが開くなか…レイナは静かに宇宙を見据える。

まだカインとの邂逅の刻…自 分は戦えるのか……ハッキリと確証は持てない。だが、このまま奴らの思惑通りに進ませはしない………

電磁パネルが点灯すると、レ イナは操縦桿を握り締め…ペダルを踏み込む。

スラスターとバーニアが火を 噴き、粒子を吐き出す。

顔を上げた瞬間、レイナは意 志の込めた声で叫んだ。

「レイナ=クズハ! イン フィニティ、出撃する!」

カタパルトが打ち出し、イン フィニティは宇宙に舞う……漆黒のカラーリングが全身に施され、巨大な火器を兼ね備えた姿………

それを見送ると同時にリンが 発進に入る。

「リン=システィ…エヴォ リューション! 出撃する!」

自らの運命に決着をつけるた め……リンの決意と意志をのせ、エヴォリューションもまた戦場にその身を躍らせる。

「リフェーラ=シリウス…ス ペリオル、いきますっ!」

仲間のため…愛する者のた め……そして自身の信じるもののために戦う……壊れそうなほど儚い…だが、そこに意志の強さを秘めた眼で前を向き進む。

 

5隻の前に布陣するMS…さ ながら、それは畏怖と気高さを醸し出している。

そして、エターナル、オー ディーン、ケルビムから別のパーツが発進する。

《ミーティア、リフトオ フ!》

バルトフェルドの号令に従 い、エターナルの艦首側部に備わった砲台のカバーが外れ、白き砲台が離脱する。エターナルの砲台であると同時にMSの火力・推力強化のパーツが自動制御で 変形し、そこへフリーダムとジャスティスがバックの体勢でドッキングを開始する。

2機のバーニアスラスターと リフターが持ち上がり、凹に変形したスペースへと身を乗り入れ、機体が接続された。

《ヴェルヌ1から3を射 出!》

ハルバートンの指示のも と……ケルビムのカタパルトから3基のミーティアと似た形状のパーツが発進する。

こちらも自動制御を行ないな がらMSの受け入れ体勢に入る。

そのなかへと飛び込むのは マーズ、ストライクルージュとヴァリアブル……マーズはバックパックのビーム砲を起動状態で…ストライクルージュもエールストライカーのスラスターを上げ て……ヴァリアブルは接続時にレーヴァティンが外れ、側部へと装備される。

ドッキングを終えた3機はそ のまま両腕を側部の大型アームへと伸ばし、そのトリガーを持つ。

《ZERO及びAF、射出せ よ!》

最後にオーディーンの艦内か ら飛び出す漆黒とダークパープルを施された小型戦闘機にも似た形状のパーツ………

漆黒のパーツは変形し…ミー ティアと通じる形状になった瞬間、その凹部分にエヴォリューションが飛び込んでいく。

スラスターを上げ…レールに 繋がれるようにドッキングし、アームのトリガーを握る。

ダークパープルの戦闘機はよ り大きな変形を行い、四方に分かれるように拡がっている。

より人型の外部骨に近い形状 となったその中へとスペリオルが導かれるようにドッキングする。

刹那、脚部が巨大なバーニア 機構を備えたパーツに覆われ、鎧でも装着するように装甲がセットされる。そしてショルダーに大型ビーム砲がセットされ、巨大なスラスターが拡がる。

ミーティアZEROと AF……EXナンバー専用の外部強化パーツ………爆発的な火力と推進力を与えるミーティアの試作型と発展型であるAF……MSの外部強化装甲となり、MS に高速機動と巨大な火力を施す。

MSが持ちえない火力と推進 力を擁したそれぞれの強化パーツを装着した機体が静かに前方を見据える。

こり以上の悲劇を繰り返さな いために………憎しみの連鎖を断ち切るために………

刹那、インフィニティのウェ ンディスが大きく拡がる。

巨大な真紅の翼を羽ばたか せ……堕天使が宇宙を駆ける。

それに続くように各機もバー ニアを噴かせ……凄まじい加速で突き進む………

 

 

 

彼らは翔び立つ………

白き闇を打ち砕くため に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

熾烈を極める戦場……憎しみ が憎しみを呼び…怒りが新たな哀しみを生む…………

そんな戦場へと放たれる業 火……

だが、それはさらなる業火へ の火種でしかなかった………

 

戦場へと放たれる創世の 光……だがそれは破滅への鎮魂歌…………

混迷を極める戦場に堕天使達 が舞う刻……天使は現われる………

 

 

闇を抱きし白き使徒達………

滅びと…審判を誘うため に…………

 

そして……真の無限の翼が覚 醒する……………

 

 

次回、「審判の刻」

 

全てを審判せよ、ミカエル。


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