――――神は嘆き哀しんでい る………

――――自らの行いに……

 

――――神は過ちを犯し た………

――――決して救いようのな い汚点………

 

――――神は涙を流す……

――――絶望と怒りの黒き涙 を………

 

 

――――故に裁きを下そ う………

――――白き破滅の使徒 を………

 

 

 

――――――全てに審判 を……………

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-54  審判の刻

 

 

火蓋を切った地球連合軍とザ フトによる決戦……両軍とも、持てる戦力の全てをここに投入した。

両軍の艦隊からビームが轟 き、激しい砲火が咲き乱れる。

そしてMSが両軍の艦隊から 発進してくる……互いに銃口を向け、ビームの火線が幾条も飛び交う。

突進してくるメビウスやコス モグラスパーをジンが突撃銃やバズーカで撃ち落とす。

だが、コスモグラスパーが ビーム砲を放ちながら加速し、ビームによって被弾するジン…そのまま横切るも上からついたもう一機がコスモグラスパーの上に飛び乗るように掴み掛かり、零 距離から銃弾を撃ち込み、ボディを四散させる。

ストライクダガー数十機が迫 り、ビームを集中砲火させてゲイツやジンを撃ち抜いていく。

そのまま戦艦へ迫るも、艦の 護衛に就くジンアサルトが特火重粒子砲を放ち、ストライクダガーを撃破していく。

被弾したメビウスがシグーに 特攻し、次の瞬間2機はともに爆発に消える。

ゲイツがアレスターを発射 し、ストライクキャノンダガーを串刺し、爆散させる。

ジン数機が戦艦に集中砲火を かけ、機関部やブリッジを破壊し、轟沈させる。

お返しとばかりに戦艦の放っ たビームが伸び、ローラシア級一隻の船体を貫き、撃沈する。

突入するストライクダガー数 十機……だが、上方から降り注ぐ攻撃に数機が被弾し、爆発売る。加速を止めるストライクダガーの上方には、ゲイツが十数機……その中央に位置するのは白い 指揮官カラーのボディにオレンジショルダーを装備したゲイツ……だが、通常のゲイツとは異なっている。

それは、ゲイツのマイナー チェンジの一種であるゲイツ2型Pであった。制式量産化されたゲイツの簡易改良型であり、通常のゲイツよりも火力と機動性を向上させている。

そのゲイツ2型を駆るのは ホーキンス隊のハイネ……狙いをストライクダガーへとつけると、トリガーを引く。

ビームライフルと腰部のレー ルガンが火を噴き、ストライクダガーを破壊していく。

デュエルダガーの一機が距離 を詰め、ビームサーベルを抜く……ハイネは咄嗟に両肩のレールガン:ポルクスUで狙撃するも、フォルテストラによって固められた機体は被弾しながらも急接 近してくる。

「このっ!」

フォルテストラを至近距離で パージし、ビームサーベルを振り被るデュエルダガーの攻撃をビームクローで受け止め、右手のビームライフルの銃口をデュエルダガーのコックピットに合わせ た瞬間、ビームが放たれ、デュエルダガーが爆発する。

「へっ…流石……前よりも使 いやすいぜ」

以前使用していたゲイツの使 い勝手の悪さを克服しているだけあって、ハイネも心なしか笑みを浮かべる。

オレンジショルダーのヴェス テンフルス隊が一糸乱れぬ陣形で攻め、護衛艦の一隻に集中砲火し、撃沈させる。

火線が飛び交うなか…旗艦で あるヘカトンケイルにストライクダガーやメビウスなどが迫る。

その巨体と威容から旗艦と判 断したのか…一気に墜とそうと何十機と向かってくる。

だが、ヘカトンケイルの甲板 に下半身を固定されたザウートが上半身を旋廻し、ビーム砲やミサイルを放ち、弾幕を張る。

その弾幕に近づけず、次々と 撃破されていく…だが、その弾幕を掻い潜ってくる機体も少数ながらある。

甲板に降り立ち、破壊しよう とするも背中からビームで撃ち抜かれ、爆発する。

甲板の援護に就いているバル ファスがAIを駆使し、甲板に降り立つ敵機を瞬時に駆逐する。

そして、ヘカトンケイルの前 方から友軍が退去する。

開けたその空間に向かってヘ カトンケイルの先端が変形し…ハッチが開かれた下に見える巨大な砲口……その砲口に粒子が収束していく。

刹那…強力な陽電子の渦が解 き放たれる………巨大な奔流は進路上のMSやMAを破片すら残さず蒸発させ、艦を大破・轟沈させる。

勢いの衰えない奔流が横切 り、そのまま虚空に消え去る……あとには無数の残骸のみ。

動きの鈍る連合軍に向けてザ フト軍が襲い掛かる。

連合も既に2個艦隊の2割近 い損耗を受けているが、後続の部隊が控えている今…その侵攻を止めることなく進めている。

この防衛戦を抜かれたらもは やプラントまで遮るものはなにもなくなる…ザフトにとっては瀬戸際のデッドラインだ。

前線に出たイザークやヴァ ネッサの部隊も連合軍との戦闘を繰り広げていた。

デュエルパラディンを駆るイ ザークは両手のビームライフルを連射し、メビウスやストライクダガーを撃ち落としていく。

その後に続くシホのシュトゥ ルムとジュール隊のゲイツ……見事な連携でゲイツは敵を撹乱し、一機一機的確に撃ち落としていく。

シュトゥルムもトライデント を振り被り、そのまま加速する……突進した先のストライクダガーがシールドを掲げるも、破壊力を一点に集中させた槍にシールドはなんの役にも立たず、その ままボディを貫かれ、爆発する。

「そこっ!」

振り向いたシュトゥルムは両 肩のブラストビームキャノンを発射し…そのまま上半身を捻る。ビームの奔流が横へと振られ、それによって軌跡上にいた敵影が呑み込まれて爆発の華を咲かせ る。

「どぉりゃあぁぁぁ!!」

獣のごとく猛々しく吼え、 ヴァネッサはゲイツアサルトの火器をフルバーストさせ、ストライクダガーやデュエルダガーを撃ち砕いていく。

全身のミサイルポッドを開 き、何十発というミサイルが放たれ、固まっていたMAを襲い、破壊・分散する。体勢の崩したMA部隊をルーファス隊のゲイツがピンポイントで撃ち落とす。

「えええいぃぃ!」

ルーファス隊のなかでも一番 経験の薄いルナマリアはシグーを使っての両手の拡散バズーカを振り翳し、周囲にばら撒くように発射する。

ヴァネッサが命じたのは拡散 型弾頭を用いての敵機の牽制……特に射撃能力の低いルナマリアには精密射撃はまだ無理と踏み、こうした広域狙撃型の方が支援になるとばかりに配置したの だ。そしてルナマリアは命中などつけることなく…ただ敵機が密集している空間に向けて気前よく拡散バズーカを放つ。

地球軍のMS部隊は基本的に 単機で行動することがない……ザフト側に対抗するために複数で組んで動くのが幸いした。

ルナマリアの牽制に運悪く機 体を狙撃され爆発する機体…そして連携の崩れた隙を衝いて狙撃するルーファス隊……

ヴァネッサのゲイツアサルト は護衛を失った駆逐艦に迫り、対空砲を掻い潜りながらショルダーに背負う対艦ミサイルを発射する。二基の大型ミサイルが加速し、駆逐艦の船体に突き刺さっ た瞬間、爆発する。誘爆により駆逐艦が轟沈する。その閃光を見届けるゲイツアサルトに指揮官機と判断したストライクダガーがビームサーベルを振り被って背 後から迫る。

だが、そこへライルのバル ファスが割り込み…ビームクローで受け止めると同時に零距離からビームキャノンを放ち、コックピットを撃ち抜く。

「後ろにも気を配ってくださ いよ、隊長!」

「大きなお世話だ!」

嗜めるライルにヴァネッサも 思わず悪態をつく。だが、背後を無防備に晒させるのもフォローを行なう副官や隊のメンバーがいるおかげだとヴァネッサは深く理解している。

「まだまだ敵はいるんだ…い くぞっ!」

いきり立ち、ゲイツアサルト が加速し…軽く溜め息を零すと、バルファスとゲイツ隊も後追う。

周辺の敵機をあらかた掃討し たジュール隊とルーファス隊が戦場を移す…傍にいた宙域の友軍部隊が壊滅させられたらしい。

その宙域への援軍として向 かった二小隊の前に地球軍の部隊が現われる。

「何!? デュエルだ と……!」

その宙域に展開していた地球 軍の部隊を視界に入れた瞬間、イザークは眼を見開いて驚愕する。

その地球軍の部隊が使用して いる機種はイザークのデュエルと同型であった。

いや……型式でいえばイザー クのデュエルはテストタイプの初期型で地球軍が使用しているのはタイプUの改良型だ。

生産されたデュエルも生産分 だけ使おうとこの戦線に投入してきたのだが、イザークにしてみれば自身の愛機を汚されたような錯覚に陥り、激怒する。

「この、偽物ぶぜい がぁぁぁぁっ!」

怒りにかられて加速するデュ エルパラディンは二丁のビームライフルを放ち、デュエル一機のボディを撃ち抜き、破壊する。

似通った形状に困惑したデュ エルのパイロット達であったが、敵機と認識するやいなや慌てて応戦する。

ビームライフルを放つも、 デュエルパラディンの装甲のナイトメイルはアンチビーム粒子をコーティングしているためにビームを拡散させる。

そのままバックパックの2連 装ビーム砲:フォルティスUを構え、トリガーを引く。

ビームがデュエル2機を撃ち 抜き、爆発させる。

恐怖にかられたデュエルが ビームサーベルを振り被って上段から斬り掛かるも、イザークは持ち前の反射神経でその一閃をかわし、振り向き様に肩のレーザーガトリング砲を放つ。

何十発という光弾が防御する デュエルのシールドごと粉々に撃ち砕く。

瞬く間に連合のデュエル部隊 と周辺のストライクダガーを一掃し、一息を思わずついた瞬間、シホが声を上げた。

「ジュール隊長! 司令部よ り地球軍のAA級とアガメムノン級がこちらへと向かっているそうです!」

「例の奴らか!?」

その通信を聞いたヴァネッサ が声を上げる。

メンデルで見たあのグレーの AA級と新型GATの6機を擁する艦……だが、放っておくわけにはいかない。

そのまま身を翻し……敵の進 軍ルートへと急ぐ。

 

 

 

ザフトの主力と地球軍の主力 が激しい攻防を繰り広げるなか……それを囮にドミニオン以下の5隻のピースメイカー隊は迂回し、プラントへの直接攻撃に出ようとしていた。

ザフトの眼が完全に主力艦隊 に集中している今がチャンスであった。アガメムノン級4隻からピースメイカー隊のメビウスが次々と発進していく。

百をゆうに超える部隊の移動 は瞬時にザフト側にも気づかれたが、それによって進攻を阻もうと近づくも護衛の6機のGによって立ち塞がれられる。

「はぁぁっ! 撲殺!!」

クロトが吼え、レイダーの ミョルニルが発射され、ゲイツの装甲をひしゃげながら破壊し、葬る。

そのまま頭部を振り被り、 ツォーンを発射する。

エネルギー波が進路上のジン やシグーを呑み込み、破壊する。

「おらっおらっ!」

いきり立ちながら、オルガは トリガーを引き、カラミティは全火器を乱射する。

その無秩序な砲撃に近寄るこ ともできず、次々と撃破されるMS……カラミティが横切った後には残骸のみ……

「ウザイんだよ…う らぁぁぁっ!」

眼を細め、見下すようにシャ ニは奇声を発し……フォビドゥンのフレスベルグが放たれる。

軌道を変えるビームの湾曲に 戸惑い、眼を見開いた瞬間、ビームに機体を焼かれる。

湾曲する軌道を読めずに次々 と餌食になるゲイツ。

だが、ゲイツは果敢にも反撃 を試み、ビームクローを展開してフォビドゥンに切り掛かるも、フォビドゥンはリフターでビームの刃を受け止め、そのままニーズヘグを振り上げ、ゲイツに向 かって振り下ろした。

袈裟懸けにボディを両断さ れ……ゲイツが一拍置いた後、爆発する。

バルファス数機がAIに敵機 を捉え、襲い掛かろうとするも…そこへ真紅の竜が業火を放つ。

ビームを放つファーブニルが 牙を突き立て、バルファスの頭部を噛み砕く。

ウォルフはフフンと愉しげに 鼻を鳴らし、再度ファーブニルを左右に向けて伸ばす。

左右から迫っていたバルファ ス二機のボディを貫き、爆発が咲き誇る。

その態勢のまま、ウイングの ビームキャノンが火を噴き、上空に回り込んでいたジンを撃ち抜く。

ファーブニルを戻し、接近戦 を挑むゲイツやシグーに向かい、拳を構え…振り下ろされた刃を流すようにずらし、拳を叩き込み…蹴りで弾き飛ばす。

流れるように一回転し…裏拳 をゲイツに叩き込み、頭部が鈍い音を立てて砕ける。

両肩からジュテーブを抜き、 左右から投げ飛ばす……弧を描くように回転し、ジュテーブはゲイツのコックピットを前後から切り裂き、破壊する。

圧倒的な戦闘能力で次々と立 ちはだかるザフトのMSを撃破していくその勢いに気づいたイザーク達……なす術もなくもはや虫のように散っていく仲間達の姿に、イザークやヴァネッサはギ リッと唇を噛んだ。

「くそッ! あいつ らぁぁぁぁぁっ!!」

「赦さねえぜっ!」

怒りにかられてイザークや ヴァネッサ、そしてシホやライルもゲイルインサニティらに襲い掛かる。

MA形態で飛行するレイダー に向かってデュエルパラディンのフォルティスUが火を噴く。

だが、それを掻い潜るように 飛行するレイダー…クロトはその機影に鬱陶しげに悪態をつく。デュエルパラディンはビームライフル、ガトリング砲、ミサイルポッド、フォルティスUを一斉 射する。

いくらなんでもこれだけの集 中砲火はかわせないと踏んだが…レイダーの前に割り込む機影……プラネットを展開したヴァニシングが盾となり、その攻撃を防ぐ。

爆発の後から現われる無傷な 姿にイザークが歯噛みしたのも束の間…アラートが響き、上方からゲイルインサニティがビームサーベルを抜いて斬り掛かる。

「ぐっ!」

歯噛みし、反射的にビーム サーベルを抜いて受け止める。

「ほう…なかなかいい反応 だ……結構結構」

エネルギーの火花が散るな か…ウォルフはニヤついた笑みを浮かべ、至近距離から胸部のクオスを構える。

「なっ!」

それに気づいたイザークはほ ぼ無意識に操縦桿を引き、鍔迫り合いを放棄して後退する。

刹那…クオスが放たれ、デュ エルパラディンの装甲を掠める。この距離では直撃しなかったとはいえ、その熱量を完全に排熱できず、装甲が僅かに焦げ、融解する。

「あんな距離で…正気 か!?」

思わず相手の神経を疑いたく なる…あんな密着した状態でこんな大火力の砲を使うなど……下手をしたら自分もただでは済まないのに……だが、そんなイザークの混乱を覆すようにゲイルイ ンサニティはビーム砲を連射しながら接近してくる。

イザークも逡巡しながらフォ ルティスUを放ち、牽制する。

そして…別の宙域ではシホの シュトゥルムとディスピィアが激しい攻防を繰り広げていた。

鳥を思わせるバード形態へ変 形したディスピィア……獣のような頭部が吼え、ビームキャノンで砲撃しながらヒットアンドアウェイで襲い掛かる。

ビームを両肩のリフレクト シールドで防ぎながら懸命に応戦するも、高速で動き回るディスピィア相手では分が悪い。

シホもシュトゥルムを変形さ せ、巡航MAモードに変形すると同時に加速する。

そのままディスピィアの背中 につき……固定したルプスビームライフルで狙撃するも、ディスピィアは無秩序な軌跡を描きながら回避する。

旋廻し、逆に背中をとら れ……ビームキャノンで砲撃してくる。

「くっ!」

後方からのビームをかわしつ つ、なんとか距離を取ろうとする…だが、ディスピィアはミサイルポッドからミサイルを発射する。

一斉に放たれるミサイルが シュトゥルムに襲い掛かる…周囲で一斉に炸裂し、その爆風でバランスを崩す。

「きゃぁぁっ!」

悲鳴を上げながら…シュトゥ ルムはMSに戻り……残骸に叩きつけられる。

「うっ……うぅぅ」

呻き声を上げながら顔を上げ ると…眼前にディスピィアが迫り……MS形態になってビーム薙刀:ライトニングを振り被ってくる。

舌打ちし…シュトゥルムもト ライデントを抜き…突き上げる……三椏のビーム刃が薙刀のビーム刃を受け止め、エネルギーがスパークする。

「こんのぉぉぉぉっ!!」

ヴァネッサが吼え、ゲイツア サルトがビームライフルとシールドのビーム砲を放つも、フォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーに阻まれ、全てあさっての方角へと逸らされる。

「くそっ、なんてインチキ野 郎なんだっ!」

思わず毒づき、接近戦に切り 替えるも…ビームサーバーをニーズヘグで受け止め、そのまま振り払う。

「ウザイんだよ…お前」

吐き捨てるように呟くと、フ レスベルグを放つ。

ビームの火線がゲイツアサル トに迫るも、間一髪バルファスが割り込み…フィールドでビームを拡散させる。

「隊長、敵は特殊な装備を 持っています…まともにぶつかるのは危険です!」

「ちっ…解かってるよ、挟み 込むぞ!」

言うやいなや、ゲイツアサル トとバルファスが分散し、フォビドゥンを挟み込むように迫る。あの装備では片方にしか対応できないと踏んでの戦法だ。バルファスがビームキャノンで砲撃す ると、それに応じてフォビドゥンもリフターの向きを変え、ビームを逸らす。

そして、がら空きになった背 後にゲイツアサルトが狙いをつける。

「もらった……っ!」

照準がフォビドゥンの背中に セットされた瞬間……衝撃がコックピットを襲った。

「どわぁぁっ!」

背後からの衝撃に呻き、ゲイ ツアサルトは態勢を崩す。

その背後にはミョルニルを構 えるレイダー……別段シャニを助けたわけではなく、単に眼についたから攻撃しただけだが、結果的には援護になってしまった。

「くそっ…こいつら!」

敵はフォビドゥン一機ではな い……実感するまでもなくレイダーがミョルニルで破壊できなかったゲイツアサルトに向かってくる。

今の一撃でバックパックが変 調をきたしているが、この状況では逃げの一手もできない。

必死に応戦するイザークら4 機は前方の宙域でカラミティとヴァニシングが防衛隊の艦を撃破しているのに気づく。

ゲイツやジンをシュラークや スキュラで沈黙させ、無防備になった艦艇にヴァニシングが迫り、ショットクローを発射して砲台を潰し、仕上げにガトリング砲でブリッジを粉々に砕き、轟沈 させる。

艦艇から発射されたMS用の 拡散弾頭が分散し、無数の小型弾が迫る…だが、ヴァニシングはバックパックのミサイルポッドを開き、ミサイルを発射して中和する。

そして次の瞬間には、その艦 艇はカラミティの火力の応酬を受け、撃沈した。

立ち塞がるMSや艦艇を圧倒 的な火力で次々と駆逐するカラミティとヴァニシングに護られるように航行するMAの編隊にイザークはハッと息を呑んだ。

百近い数のメビウスの部隊 が、戦闘には眼もくれず真っ直ぐにプラントへと向かっている。

「くそっ、アレは……!」

モニター上に機影がズームさ れ、それらが抱える大型の装備が眼に入り、身を凍らせた。

「核かっ!?」

その機影に気づいたのはイ ザークだけでなく、シホやヴァネッサ達もだった。

慌てて今戦闘している敵影を 振り解き、追い縋ろうとするもそれを赦すような甘い相手ではない。

デュエルパラディンの前に立 ち塞がるゲイルインサニティはその意図を察したように邪魔をする。

ファーブニルを放ち…その伸 縮クローにイザークは歯噛みする。

シホやヴァネッサ達もそれぞ れの相手を振り切れず、追い縋れない。

舌打ちしたイザークは通信機 で叫んだ。

「あのミサイルを落とせ!!  プラントをやらせるなぁぁぁぁっ!!」

その叫びに反応した数機が、 すぐにメビウス隊へと向かっていく。

ジンやゲイツが銃口を向けた 瞬間、カラミティがシュラークで狙い撃ち、機体を撃ち抜かれて爆散する。

別方向から向かう機体もヴァ ニシングの持つガンバレルの縦横無尽な機動と多彩な火器になす術もなく撃破されていく。

イザーク達もゲイルインサニ ティら4機を相手に向かえない……G6機はメビウスの護衛を最優先としている。イザークらだけで彼らを抑え込むには戦力が足りなかった。

焦りと不安に歯噛みするイ ザークらの眼前で、メビウス編隊から一斉にミサイルが発射された。

イザークが眼を見開き、シホ が悲痛な叫びを上げ、ヴァネッサやライルはその光景に一瞬我を忘れる……無数の核ミサイルが矢のように白銀の砂時計へと向かっていく。

その進攻を妨げるものはもは やなにもない……自分達の祖国が、ユニウス・セブンのように……ボアズのように………あの白い光に飲み込まれる光景が、イザーク達の脳裏を支配した。

ザフトが恐れ、地球軍がほく そ笑む……だが、翼が舞い降りる…………

 

 

 

遥か彼方から飛来する堕天使 達……コックピットでレイナは素早く戦闘宙域のデータを解析させる。核を運用するのは、恐らく別働隊……あの男がいるドミニオン………

そしてドミニオン以下、4隻 のアガメムノン級の識別反応を捉え……そこから発進するメビウス編隊…各機に核魚雷を備えた部隊。

レイナはそのデータをすぐさ ま各機へと転送した……後続は無理だが、先行したインフィニティら6機なら間に合う。

そして、狙いをつける必要は ない…核魚雷は纏まって放たれている。一発でも掠めれば連鎖反応で誘爆し合う。ラクスとカガリの撃ち漏らしはキラとアスランがフォローする。

あの二人なら、照準は外さな い。

瞬時にそれらを張り巡ら せ……戦場に舞い降りたインフィニティ、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティス、ストライクルージュ、マーズ……コックピットの照準モニターが起 ち上がり、ミサイルに照準がセットされる。

刹那、インフィニティとエ ヴォリューションのミーティアZERO、フリーダムとジャスティスのミーティア、マーズとストライクルージュのヴェルヌから幾条ものビームと無数のミサイ ルが発射された。

それらは光のごとき速さで核 ミサイルに迫り、襲い掛かる。

それらがミサイルを掠めた瞬 間、一基が爆発し…その誘爆が連鎖反応を起こし、白き閃光を解き放つ。無数の眩い閃光が宇宙に煌く…漆黒の闇を照らすその業火の閃光に戦場は一瞬、支配さ れる。

誰もが驚愕に眼を見張るな か……閃光が消え去ったあとには、無傷のプラントが存在している。喪われた砂時計は一基もない……

連合軍もザフト軍も、何が起 こったのかわからずに呆然とする中、まったく違う方向から6機のMSが現われた。

イザークは安堵したのも束の 間…それらの姿を見納めようと眼を向ける。

戦場を舞う真紅の翼……漆黒 のボディを持つ天使と漆黒の飛行艇を携えた追随する黒衣の騎士……2機はそのまま地球軍艦艇に迫り、真紅の翼を羽ばたかせる堕天使、インフィニティは対 艦・対広域戦用のアサルトブラスターを構える。

次の瞬間、バックパックの小 型陽電子砲:フェイタルセイヴァーと腰部のヴェスヴァー、右手のフェンリルが火を噴き、前方宙域に展開していたMSと艦艇を瞬時に薙ぎ払った。

その圧倒的な破壊力に唖然と するなか……ミーティアZEROのエヴォリューションはその巨体からは想像もできないような機動力で飛行し、対艦ミサイルを発射する。

ミサイルが護衛艦と駆逐艦2 隻の船体を瞬時に穴だらけにし、轟沈させる。群がるように迫るMSも発射されたドラグーンブレイカーとZEROに備わったCIWSシステムによって全て撃 ち墜とされる。

核ミサイルを抱えて運用する ためだけに編成されたメビウス隊には総じて武装がない…いわば、核ミサイルを失っては戦闘力が無いも当然だ。そのためには確固たる援護が必要なのだが、今 は頼りのG6機は釘付けとなり…恐怖にかられて逃げまとうパイロット達の眼前に迫る真紅のカメラアイの眼光……先程までの自己陶酔は何処へやら……完全に 混乱したパイロットは次の瞬間、迫りくる閃光が最期の光景になり……その意識を消え去った………もはや単なる的となったメビウスは次々とインフィニティと エヴォリューションによって撃破された。

爆発の閃光がいくつも煌く宙 域に舞う漆黒の翼と剣に誰もが畏怖を感じる。

その戦闘に眼を奪われていた イザークは次の瞬間、背後から矢のように飛び出してきた飛翔体に眼を向ける。飛行の推進剤が描く軌跡の先に純白の小型艇と見紛うほどの強化パーツを装着し た4つの機影……その中心部に位置するは見慣れたフリーダムとジャスティス、あとはカラーリングは違うがストライクと見慣れぬ機体……

4機は戦闘宙域を横切り、カ ラミティやヴァニシングらが照準を合わせるも、他の機体がフォローし、離脱する。

「アスラン! リン!? そ れに……!」

エヴォリューションとジャス ティス…そしてインフィニティとフリーダム……だが、何故彼らがここに…そして何故プラントを護った……と自問する。

だが、そんな疑問と戸惑いを 感じながらもイザークの胸には熱い感慨が溢れる。

突然の乱入者に戸惑う戦場に 新たなる艦影が姿を見せる……オーディーンを先頭にエターナル、ネェルアークエンジェル、スサノオにケルビムの5隻。

そして、戦場に凛とした少女 の声が響く。

《地球軍に告げます……これ 以上の核の業火を用いることは赦されません……貴方方は、傷みを解からないのですか……灼かれていくものの悲痛な声が……!》

マーズのコックピットからラ クスが叫ぶ。

なんの躊躇いもなく核の業火 を人間に放つ者への怒りと脅迫めいた物言いしかできない今の自身への怒り………

だが、その全周波を通して響 き渡る糾弾にザフト兵は戸惑い……地球軍内部の核を用いてのプラント直接攻撃に困惑を感じている一般兵の動きが鈍る。

地球軍全てがコーディネイ ターを滅ぼすことを望んでいるわけではない……だが、それはあくまで個人の感情……それらの上に居座る者達にはなんの意味も持たない。

 

 

そのラクスからの通信を聞き 及んでいたアズラエルもドミニオンのブリッジで鬱陶しげに鼻を鳴らした。

「何なんですか、この子 は?」

せっかくのショーを邪魔され たとばかりに不満げに漏らすもクルー達には聞こえていない。

ナタルもフレイもモニターに 表示されるネェルアークエンジェルの艦影に注意を取られていたからだ。

そんな様子に呆れたように肩 を竦め、アズラエルは気を取り直す。

「ま、いいでしょう…なんで あれ、邪魔をするなら敵です……アレも厄介なものですからね……ちょうどいい、ここで消えてもらいましょう……プラントとともに」

裏切り者と厄介者……それが 双方揃ってくれたのだからここは僥倖ととったのか……すぐさま次なる展開を自らの内で組み立て、ほくそ笑むアズラエルにナタルは厳しい視線を向けるも、ア ズラエルはまったく気にも留めず第二陣のメビウス隊を見やった。

 

 

第一陣を防がれたものの、第 二陣のピースメイカーのメビウス編隊がアガメムノン級から発進してくる。

第一陣に匹敵する数だ……次 々と発射される核ミサイル。

邪魔をしていたGの注意が乱 入者に逸れたおかげで手が空いたイザーク達は即座に迎撃に移る。

「ハーネンフース!」

《了解!》

言うやいなやデュエルパラ ディンはフォルティスU、シュトゥルムはブラストビームキャノン、ゲイツアサルトがビームライフルで狙撃する。

だが、それだけでは全て落と せない……その時、別方向から援護射撃が轟いた。

眼を見張るイザークの前に見 慣れた機体達が現われた。

形状は若干違うが、間違いな くストライクにルシファー、そしてバスターにブリッツ、イージスディープとゲイツ改。そして先程のジャスティスらと同じヴェルヌを装備したヴァリアブルと AFを装着したスペリオルだ。

後続の彼らは第一陣には間に 合わなかったが、第二陣の迎撃に回る。

ストライクテスタメントのオ クスタインとドラグーンバレルがビームを放ち、メガバスターが両手のガトリング砲とアグニUで砲撃し、ブリッツビルガーは3連装ビーム砲で狙撃する。

瞬時に核ミサイルはほぼ落と されるもその砲撃を掻い潜った残存の核ミサイルが閃光から抜けるも待ち構えていたイージスディープのビームライフルとゲイツ改のフルバースト、ルシファー のビームライフルとビームキャノンが撃ち砕く。

ヴァリアブルの高エネルギー 収束火線砲が火を噴き、スペリオルのブレイクビームキャノンが続き、発射された核ミサイル全てを薙ぎ払い、地球軍はピースメイカー隊の半数を失い、浮き足 立つ。

(リーラ……っ!)

メビウスや核ミサイルを迎撃 するスペリオルの姿にイザークは熱い想いが込み上げてくる。やはり彼女は撃てない……彼女もまた愛している……このプラントを…祖国を……裏切り者の汚名 をきようとも……それを痛感したイザークには、銃を向けることはできなかった。

 


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