両軍の間に割り込んでくる5 隻……オーディーンとエターナルの主砲が火を噴き、進路上に立ち塞がるナスカ級を撃ち抜く。

ネェルアークエンジェルとケ ルビム、スサノオもまたゴッドフリートを放ち、地球軍艦艇を轟沈させていく。

その猛攻を止めようと戦艦に 取り付くために急接近するMS隊ではあるが、艦を中心にした密集体勢を取るMSによって阻まれる。

メガバスターの両腕のガトリ ング砲が火を噴き、ストライクダガー数機を粉々に撃ち砕く。間髪入れずにバックパックのアグニUを構え、次の瞬間ビームが発射され、迫ってきたミサイルを 撃ち落とす。

激しい弾幕に近寄れず、立ち 往生するストライクダガーに向かいなにかが襲い掛かる……突如現われたそれはストライクダガーのボディに喰い込み、ぐいっと引き寄せられた瞬間、横にいた 僚機に激突し、2機は爆発に消える。

葬ったそれはワイヤーが引か れ、左腕へと戻る……再装着したブリッツビルガーはストライクダガーの放つビームをトリケロスUで受け止め、弾く。刹那、トリケロスUからマイダスメッ サーを掴み、投げ飛ばす。

ビームブーメランが弧を描き ながらストライクダガーの頭部を吹き飛ばし、沈黙する。

連合だけではない……ザフト のジンやゲイツもそれに向かい発砲してきた。

ビームの嵐を掻い潜りなが ら、変形したイージスディープのスキュラが火を噴く。高出力のビームがジンやゲイツの腕や脚部を捥ぎ取り、戦闘能力を奪う。

バルファスがビームシールド を展開して襲い掛かり、そのシールドの前に苦戦するM1部隊……そこへ割り込むフリッケライとハイペリオン……ハイペリオンのアルミューレ・リュミエール が展開され、フリッケライを包んだまま加速する。バルファスはその輝きに戸惑う……光波シールドを展開した内からハイペリオンとフリッケライの攻撃が飛 び、混乱するバルファスの死角に回り込んで機体を撃ち抜く……ハイペリオンのシステムと違い、バルファスはシールドを展開した状態では攻撃はできない。

そのために防戦一方にな る……懐まで飛び込むと、光波シールドが解除され、フリッケライが飛び出す。

「喰らいやがれぇぇっ!」

シンの咆哮とともにフリッケ ライの右腕のリボルビングスピアーがバルファスの頭部に打ち込まれ、針が伸縮し、頭部を破壊する。

バルファスを墜とされたゲイ ツがビームライフルで狙うも、フリッケライの前に立ち塞がり、シールドで弾くハイペリオン……ハイペリオンのビームマシンガンが火を噴き、ゲイツを撃ち砕 く。

「……やらせない…護る の…」

シンとステラは見事な連携を 見せて一機一機正確に沈黙させていく。

遊撃隊として各個に迎撃にあ たるキラ達……5隻の防衛には各艦の艦載機が行う。

M1、ジン、ゲイツアサル ト、バスターダガーが5隻の周囲に布陣しながら対空砲火を抜けてきた機体を破壊する。

「いくよっ、マユラ! ジュ リ!!」

「OK!」

「カガリ様にだけいいカッコ させられないもんね!」

アサギのM1Aが加速しその 後方に張り付くようにマユラとジュリのM1Aがつく…まるで、F1のスリップストリームに入るかのごとく並んで加速する3機のM1A……先陣を進むアサギ のM1AがアグニUとビームライフルを構え、一斉射する。

狙撃され、機体を撃ち抜かれ るストライクダガーやデュエルダガー……僚機の撃破に浮き足立つ連合兵に向かい、アサギのM1Aの陰から飛び出すマユラとジュリのM1A…マユラはロング ビームサーベルを、ジュリは2本のビームサーベルを振り被り、一気に懐に飛び込み、機体を斬り裂いていく。

加速したまま撃破し、その加 速にのってアサギのM1Aと合流し、再びフィーメーションを組んで加速する。

アメノミハシラでの訓練でレ イナに3人で行動するなら、それに応じたフォーメーションをつくれと言われ、彼女達は独自にこのフォーメーションを編み出した。もっとも、実戦で使うのは 初だが……3機のM1Aは流星のごとく周辺を駆け抜け、次々と敵機を沈黙させた。

グランのM2はジャンとバ リー、以下数名を引き連れて遊撃隊に加わっていた。ジャンとバリーを小隊長に見事な連携を見せるM1隊……ジャンの率いる部隊は火力を有した支援隊で接近 戦を得意とするバリーの部隊を援護する。

そしてそれに全体の指示を送 るグラン…眼前に迫るジンが重斬刀を振り被るも、それをシールドで受け止め、相手の腕を弾き、空いたボディに向けてキリサメを突き刺す。

コックピットを貫かれ、沈黙 するジン…その時、別の方角からなにかが煌き…グランは反射的に身を後退させた。

離れた瞬間…2方向から弧を 描くように回転してきた刃がジンに突き刺さり、ジンが爆発する……その爆発の奥から姿を見せる真紅の機体……手に2本のシュベルトゲーベルを構えるソード カラミティが佇んでいた。

無言のまま見据えるグラン… そして、ソードカラミティのコックピット内でエドも相手を見据える……暫し、静寂が支配する……だが、次の瞬間には弾かれたように2機は加速し、中央で刃 を振り上げる。

キリサメとシュベルトゲーベ ルが激突し、火花が散る……もはや、言葉は不要であった。

その横では、ジェーンのデュ エルダガーとジャンのM2がビームライフルを撃ち合う。

「はっ、煌く凶星…姿を消し たと思ってたら、こんなとこで遭うなんてね!」

連合内でも有名なジャンの異 名にジェーンは沸き上がる高揚感に突き進み、M2を狙い撃つ。

「白鯨……成る程、流石に海 だけが己のフィールドではないか」

対し、ジャンもまた相手の存 在を知っている…そして、相手が得意とする水中戦ではなく宇宙戦を挑むことにパイロットとしての感覚が疼く。

 

 

 

両陣営の間に割って入る艦隊 に戸惑いつつも、両軍は狙い撃つ。

「あの忌々しい連中を沈め ろ! 奴らは敵だ! コーディネイターどもと合わせて墜とせ!!」

セラフィムのブリッジでヒス テリックに叫ぶアズラエル。それに応じるサザーランドは全軍に指示を出す。

同じような命令はヤキン・ ドゥーエのパトリックからも放たれていた。

「惑わされるな! 我がザフ トの兵達よ! くだらん理想を掲げる愚かな者どもをナチュラルとともに叩け!」

 

―――――コーディネイター の化物とともに討てと………

―――――ナチュラルの猿と ともに討てと………

 

 

既に相手の存在さえ認めな い……自らの正義に反する者達は全て敵……それが果てしない破滅へと続く。

両軍のMSが5隻に向かう も、それらを迎撃しながらラクスが叫ぶ。

「撃たれた傷み…そして撃ち 返す愚かさ……何故解からないのです! 傷みを知ってなお、その代価を求めるのですか!? 傷みは次の傷みを呼び…そしてより大きな傷みとなって還ってき ます! その傷みを知っていながら…何故貴方方は戦うのです!?」

傷つけられた傷み……それは 決して消えない…そして……その傷みの代価を求めて相手に傷みを返す……だが、その傷みは次なる大きな傷みの始まり………

それを知っていて何故繰り返 すのか……本当にそれしかできないのなら………

「それさえも解からないのな ら……貴方方は滅びたいのですか!? この世界とともに…!」

本当に止められないのな ら……もう人は種としての限界を迎えているのではないか……滅びたがっているのかと……全てに向けて問う………その問いに戸惑う者達……戦場は混戦を極め る………

 

 

 

 

派手に立ち回り、そして両軍 の間に割って入る5隻とラクスの叫びに両軍の眼が引きつけられ、そして戸惑い、困惑している。

その隙を衝き…インフィニ ティとエヴォリューションは超加速でジェネシスへと向かっていた。

2機という最小単位の小隊単 位での行動は基本的に奇襲が前提となる……だが、相手もまさか敵陣の奥深くまで来るとは考えつかない…そう……通常なら………だが、インフィニティとエ ヴォリューションを駆るレイナとリンにはそれが可能となる。

防衛ラインに突如現われた2 機に慌てて応戦しようとするも、反応が遅い……攻撃を始めた瞬間にはもう2機はラインを突っ切っていた。

真紅の翼を羽ばたかせるイン フィニティ…漆黒の流星と化すエヴォリューション……その威容さに恐れおののく者達は思わず回避し、道を空ける。

限界まで引き上げられた加速 で防衛ラインに布陣するMSや艦艇の網目を縫うように突き進む……わざわざ相手をする必要などない……戦闘は極力回避し、最短航路で目標へと辿り着く…… 奇襲は相手の意表を衝いてこそ奇襲となる………

大半の機体はその加速に驚い て巻き添えを恐れて道を空けるも、それが通じず、逆に墜とそうと向かってくる機体はインフィニティの翼に機体を斬り裂かれ、立ちはだかるように壁となる艦 艇に向かい、エヴォリューションは大型ビームサーベルを展開し、横に構えたまま直進し、交錯した瞬間…ブリッジを斬り裂かれ、艦が轟沈する。

コックピット内で身体に襲い 掛かる圧倒的なGに歯噛みしながら黒衣の堕天使と漆黒の騎士はまるでモーゼが海を割ったかのごとく拓かれた道を突き進んでいく。

ジェネシスまで後少し……キ ラ達にしてもあまり長くは釘付けにはできない……いや、それより早くミラーブロックの換装が終わる方が早いかもしれない。

ここからでも確認できるだけ で既にミラーブロックはジェネシス本体の中央にほぼ移動し終えている。あとは照準と射角合わせ…そして最後のスイッチを押すだけ………

あの光は破滅を齎す閃光…… ならば、なんとしても止めてみせる……これ以上、奴らのシナリオ通りに進ませはしない………

その決意を抱き、2機は立ち 塞がるMSや艦艇を回避、または撃破しながら距離を詰めていく。

 

―――――無駄なこと を………

 

その刻……レイナとリンの脳 裏に電流のような感覚と声が響いた。

ハッと息を呑む……この気 配………刹那、インフィニティとエヴォリューションの前方の空間から閃光が轟いた。

「「っ!?」」

半ば反射的に操縦桿を切り、 その閃光をかわす……だが、そのために制動をかけねばならず、加速が殺されてしまった。

歯噛みする二人の前方の空間 が歪むようにぼやけ……虚空から浮き出るように姿を見せる機影………白の衣で全身を覆い、隙間から見える腕や脚部に巻き付く呪符のような帯…顔すら覆う衣 の奥に鈍く光る真紅の眼光……

墓場から這い上がった亡者の ような雰囲気を醸し出す機体…そして、その内から感じる気配にレイナとリンは即座に察した。

「………ルン」

レイナがポツリと呟いた瞬 間……嘲りを含んだ哄笑が響いた。

「アハハハ…憶えててくれて 嬉しいわ……レイ姉さん」

微かに表情を顰めるレイナの 心の内を見透かしたように相手は皮肉る。

「やはり…アレもあんた達の シナリオの一つか?」

「さあ……私はただ、あの方 の望のままに行動するだけ………そして…姉さん達を殺すだけ!」

リンの問い掛けに吐き捨てた 後、相手は弾かれたように加速し…右手に錫杖を構える。

標的にされたのはインフィニ ティ……先端に幾つもの輪が付いた杖を振り被り、インフィニティに向けて振り下ろす。

レイナは舌打ちし、デザイア を掲げて受け止める……エネルギーがスパークするなか、互いに歯噛みし、レイナはインフィニティのバーニアを噴かし、相手を弾くように距離を取る。

「ぐっ…今はあんたと戦って る暇はないのよっ!」

そう……こんなところでグズ グズはしていられない…時間は刻一刻と迫っているのだから…だが、それこそが目的だといわんばかりにルンは歪んだ笑みを浮かべる。

「なら尚のこと…ここで私の 相手をしてもらうわ……アレが破滅の閃光を齎すまでね!」

振り被った機体の衣の奥の バックパックから連動して脇に構えられるビーム砲……刹那、高出力のビームが放たれ、2機を掠める。

「邪魔をするなっ!」

リンが吼え、エヴォリュー ションはミーティアZEROのエネルギー砲を発射する。

真っ直ぐ伸びるビームの奔 流…だが、相手は回避しようという素振りすらみせず…訝しげになる二人の前で、衣に着弾したビームが周囲に拡散する。

「アンチビーム……!?」

言葉を最後まで続ける前に… 衣を靡かせ……杖の先端の輪が揺れ、まるで耳に鈴の音が響くようであった……杖を振り被り、インフィニティに襲い掛かる。

鋭く振り下ろされる杖に、レ イナはその軌道を読みながら…咄嗟にインフィニティは両手のフェンリルとデザイアを離し…両手で杖を受け止める。

「なに……っ!?」

白羽取りで杖を受け止め…ル ンが眼を僅かに見張った隙を衝き、両腰部のヴェスヴァーが起動し、至近距離からビームを放つ。

ほぼ零距離で放たれたビーム が直撃し、機体の衣に燃え移る。

距離を取り、再度フェンリル とデザイアを取り…炎に包まれる機体を見詰める……あの衣はどうやらアンチビーム粒子をコーティングされていたようだが…流石にあの距離での直撃は許容範 囲を超えたようだ。

燃え落ちる衣が周囲に霧散 し……その下から露になる機体の姿……全身を純白に染めた機体……だが、驚いたのはその頭部形状……

「……フリーダム…?」

完全に露になったその機体の 頭部は、フリーダムとどこか似通った形状を持っていた。だが、違うのはマスク部分がまるで牙のように禍々しくデザインされていることと、カメラアイが真紅 に輝くこと。

「ぐっ……よくも、このミカ エルの姿を晒させてくれたわね………」

完全に衣と全身に纏わりつい ていた呪符が剥れた純白の翼とボディを持つ天使を思わせる機体……ミカエルのコックピット内でルンは怒りと屈辱に身を震わせていた。

その底冷えするような殺気に 身構えるレイナとリン……刹那、ミカエルは錫杖を構えてインフィニティに突進してきた。

ルンの咆哮とともに振るわれ る錫杖の捌き……縦横無尽に…しかも乱撃で繰り出す攻撃に回避に手一杯になる。

振っていた杖を一瞬戻し…そ れを勢いよく突き出す。

だが、レイナはその一撃を横 へと跳んでかわす……だが、心持ちはかなり焦りを抱く。

ここで手をこまねくわけには いかない……その時、エヴォリューションが大型ビームサーベルを展開してインフィニティとミカエルの間に割り込んできた。

「はぁぁぁっ!」

大きく振り払われた一撃にル ンは舌打ちし、錫杖で受け止めるも…その巨大さと勢いを受け止めきれず、弾き飛ばされる。

「リン!」

「姉さん、こいつの相手は私 がする…姉さんはジェネシスへ!」

その言葉に微かに息を呑 む……だが、逡巡する間もなく弾かれたミカエルは流れるように態勢を戻し、再度ビーム砲で砲撃してきた。

「早く!」

注意を引きつけるようにその ビームをビーム砲で応戦し、相殺させる。

閃光が周囲に煌く間……レイ ナは無言で頷き、インフィニティは身を翻して翼を展開し、飛翔する。

閃光に視界を一瞬霞まされた ルンはジェネシスへと向かうインフィニティに気づく。

行かせまいと睨むルンだが、 脳裏に感覚が走った瞬間……閃光のなかから飛び出すエヴォリューション……そのままビームサーベルを振り上げ、ミカエルに向かって振り下ろす。

「ちぃぃっ!」

咄嗟に錫杖と左脚部から取り 出したビームサーバーを展開し、クロスさせて受け止める。

エネルギーがスパークするな か、互いに相手をコックピット越しに睨む。

「解かるだろう……お前も… そして…私も……同じなんだからな!」

そう……繋がった感覚…ある 意味では、自分と眼前のこの女の方がよりきょうだいに近い………同じ存在の遺伝子から生まれ……だが、根本的なものが二人の生き方を完全に隔てた。

「ほざくなっ!」

それが癪に障ったらしく、ル ンは吐き捨てるように叫び、弾き返す。

「きょうだい…私にはきょう だいなどいないっ……不完全なオリジナルも…そして失敗作のファーストも………私は、あんたとは違うのよ……ルイ姉さん!」

そう……ウォーダンは見切り をつけて自分を造り出した………オリジナルやファーストに失望して……

「だから、私は倒す……あの 方の対の遺伝子は………私だけでいい」

そう……彼に必要なのは自分 だけでいい………同じ存在は…必要ない………眼を鋭く細め、錫杖とビームサーバーを構えて突撃する……それに対し、リンも表情を引き締める。

「こい………あんたのその憎 しみ…私が闇へと還す!」

エヴォリューションもミー ティアZEROのバーニアを噴かし、ミカエルに向かう。

交錯すると同時に距離を取る も…エヴォリューションの上を取るミカエル。

リンは咄嗟に反応するも、や はりミーティアZEROの巨体分、動きが鈍い……コンマ遅れで振るわれた刃を相手は悠々とかわす。

「フッ……この完璧に造られ た私のミカエル……裏切り者のガラクタなどとは違う……っ!」

スラスターが火を噴き、ミカ エルは蒼白い粒子を吐き出す。

「そんな枷をつけた状態で私 の相手をするなど…軽く見られたものねっ!」

鼻を侮蔑に鳴らし、錫杖を構 えて加速する……懐に飛び込んで振るう杖をビームサーベルを振り上げて受け止める。

だが、それと同時にリンは ドッキングを解除し、エヴォリューションが飛び出す。

インフェルノを抜き、間髪入 れずミカエルに向かって振り下ろす。

 

―――――殺った……

 

絶対にかわせない密着状態で の一撃……いくらなんでもかわせないと踏んだが、ミカエルは突如右手を突き上げる。

訝しむリンの前でミカエルの 右手の掌に光が満ち…インフェルノのビーム刃が受け止められる。

ビームが周囲にスパークす る……ビームの干渉でミカエルは握り締めたビームの刃をそのまま破壊するように周囲に拡散させる。

「ぐっ!」

ビームでビームを破壊するな ど……あまりに出鱈目な展開にリンが歯噛みし、それを感じ取ったルンは笑みを浮かべる。

「なかなかいい手だったけ ど…私には通じない……! あの女より先に、貴方から始末してあげるわ! ルイ姉さん!!」

ビームの刃が交錯し、金属の 激突音が響く……同じ遺伝子を持ちながら……同じ存在でありながら………彼女達自身の信じるものが二人の関係を隔てた………漆黒の騎士と純白の天使は宇宙 に火花を煌かせながら交錯し合う…………

 

 

 

 

「くそっ、なにやってんだ よ! さっさとプラントを攻めろ!」

先程から一向に進攻が進ま ず、アズラエルは内心苛立ちを抑え切れずに切れて愚痴るだけだ。

「今しばらく」

そんなアズラエルを必死に宥 めるように抑えるサザーランド……だが、そんな努力も虚しく、アズラエルは指を何度も叩きながらパネルを見詰める。

「サザーランド准将、ドゥー リットル以下4隻を転針させろ! 迂回してプラントを叩けと指示を出せ!」

「部隊を二つに分けると?」

現在核魚雷を有しているのは セラフィム以下、アガメムノン級7隻の計8隻。内半分の4隻を激戦区より迂回させ、横っ腹からプラントを陥とそうという魂胆だ。

こちらも正面から進み、そし て両方向からの波状攻撃を仕掛ける。そうなれば、いくらザフトでも防衛に手が回らないだろう。

「ああ、そうだよ! セラ フィムと残りは進路そのまま! あとは迂回して攻め込ませろ! あちらが抑えられてもこちらがいける!」

「はっ!」

逡巡もなく妄信的にアズラエ ルの弁に応じ、サザーランドは指示を出す。

それに応じてドゥーリットル を中心とした4隻が艦隊より離れ、転針していく。

「奴らの眼をこちらに引き付 けろ! ドミニオンを前面に出して道を拓かせろ! 連中はセラフィム以下の艦隊の援護に回せ!」

迂回していく艦隊の援護のた めにザフトの戦力をこちらへと貼り付けておかなければならない……無論、あちらにも予備戦力は向かうだろうが、こちらも墜ちるつもりはない。そのためにド ミニオンに前線を任せ、道を拓かせようとする。

だが、その指示にドミニオン のナタルは困惑した。

「前に出ろだと…この状況 で!?」

その命令には流石に戸惑わず にはいられない……ジェネシスの防衛のために、敵は中央にかなり厚い防衛網をしいている。

敵の艦隊旗艦と思しき巨大戦 艦や何十という艦艇とMSの防衛により先程から自軍の戦力は次々と撃破され、なかなか思うように進めない。

こんな状況で前に出るなど… 半ば死ねと言われているようなものだ。

もし、この命令がジェネシス を破壊するための作戦ならば、ナタルは戸惑いつつも毅然とその指示を実行したであろう…軍人である以上、上から命令されれば、死すら実行しなければならな いのだから……だが、アズラエル達の目的はジェネシスではなくその後方のプラント群……プラントを陥とすために死ね……プラントを陥としてもあの兵器を破 壊しないことには何の解決にもならないのではないか……そう問い掛ける自分がいるのを否定できない。

そんな先が見えない命令のた めに自分だけでなく部下まで巻き添えにしなければならないことにナタルは躊躇わずにはいられない。

 

――――自軍の損失は最小限 に…敵には最大の損害……戦争ってのはそうやるもんだろう

 

ドミニオンを去る前……アズ ラエルがナタルを侮蔑し、吐き捨てた言葉が脳裏を掠める。

そう……アズラエルの考えは まさにナタルの行動理念だったのだ……

 

――――軍には厳しく統制さ れ、上官の命令を速やかに実行できる兵と広い視野で状勢を見据え、的確な判断を下すことのできる指揮官が必要です。でなければ、隊や艦は勝つことも生き残 ることもできません………

 

かつて、マリューに向かって 言った言葉が、まさに実行されているというのに……なのに何故戸惑うのだと……いや………戸惑う必要などないはずなのに……軍人は上官の命令に従うのが絶 対なのだ……だが、アズラエルの言うようにプラントを核で破壊し、コーディネイターの民間人を殺すことが軍人としてしなければならないことなのか……そし て、そんな命令を平然と出せ、かつ自分達の同僚を役立たずと罵り、見捨てたアズラエルこそが、従うべき上官なのか……迷い、戸惑うナタルはただ歯噛みして 拳を握り締めるだけ……たとえ逡巡しようとも……自分にはこうするしかできない………

ならば、部下をせめて生き残 らせるために最善の方法を取るのが務めであり、責任だとでもいうように指示を出す。

そんなナタルの前で、転針 し、迂回コースでプラントに向かうドゥーリットル以下4隻から核魚雷を擁するピースメイカー隊のメビウスが発進していくのがモニターに映る。

不意に……マリューの顔が過 ぎるのであった………呪縛のように…………

 

 

 

 

連合艦隊の一部の奇妙な行動 はすぐさま5隻にも探知できた。

「アガメムノン級4隻他数 隻! 転針します!」

ミリアリアの叫びがネェル アークエンジェルのブリッジに響き、一同は一瞬息を呑む。

「撤退…いや、プラント か!?」

一瞬、撤退かと思ったが…方 向が違う……パネルに表示される艦隊の進行方向は戦闘宙域から外れ、機首を向ける先はプラントへの迂回コースだ。

戦闘宙域を無視してどうやら 一部の部隊をプラントへの直接攻撃に向かわせる作戦のようだ。

《ラミアス艦長!?》

その行動を察した各艦のモニ ターが開くと同時にマリューは素早く応じた。

「ネェルアークエンジェルで 追います! ダイテツ艦長達はここを!」

囮役がここで一斉に移動して は意味がない……核攻撃阻止も大事だが、ジェネシス破壊のために向かったレイナとリンの援護のためにここの囮を放棄するわけにはいかない。

《解かった! フリーダム以 下4機もそちらに同行させる! 頼むぞ!!》

少ない言葉の内に込められた 信頼感に強く応じ、マリューは針路を変更させる。

「取り舵! 地球軍艦隊を追 う!」

艦首の向きを変え、ネェル アークエンジェルは艦隊から外れ、迂回コースに入った地球軍艦隊を追う。

そのネェルアークエンジェル に追従するフリーダム、ジャスティス、マーズ、ストライクルージュ、スペリオル、メガバスター、ブリッツビルガー、イージスディープ……

戦闘宙域を横切るというのは かなり無謀な行動だ……だが、護衛に就くフリーダム達の援護のおかげでネェルアークエンジェルもなんとか宙域を突っ切り、そして迂回する艦隊を捉えた。

キラ達は護衛艦と駆逐艦の中 心に位置する4隻のアガメムノン級から発進してくるメビウス隊が抱えるものをズームに表示させ、驚愕に呻く。

「あの部隊は…!」

「核っ…なんてことを…!」

キラとラクスは微かな怒りに 歯噛みする……前回の第一波と同じく核魚雷を装備したメビウスからなるピースメイカー隊だ。アレが平和を齎すものだと……絶対に信じない。

「この状況でプラントを狙う なんて……!」

リーラもその行動の異常さに 表情を顰める……ジェネシスを攻めるならいざ知らず……まさかプラントを直接狙うとは……あのジェネシスの報復として地球軍が取った作戦がこれなのだ…… あまりに常軌を逸する行動に嫌悪感を抱かずにはいられない。

そんなことをしても……なに も終わらないというのに………

「くそっ!」

「やらせるか……っ!」

カガリも怒りに歯噛みし、ア スランも決してプラントを撃たせまいとその部隊を追う。

ミーティア、ヴェルヌ、AF を駆り、フリーダム、ジャスティス、マーズ、ストライクルージュ、スペリオルはメビウス隊を必死に追い…同じくその先にあるメビウス隊を確認したディアッ カ、ニコル、ラスティの3人も各々の機体を駆り、それに続いた。

 


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