迂回コースを取り、プラント へと直接攻撃に出た艦隊は既に軍本部からも捉えられ、その迎撃のためにステーションからイザークとヴァネッサの隊が他に数小隊を率いて出撃する。

「くるぞ! 散開!」

迎撃隊の総指揮を委ねられた イザークはそう命じると、MS隊は一斉に数機単位で散らばり、核魚雷を抱えたメビウスに向かっていく。

「野郎どもっ! 一発も通す んじゃねえぞ!」

そう……一発でも抜けてしま えばもうそこで終わりなのだ………しかしとイザークは歯噛みする。ジェネシスを狙わず直接プラントを狙ってくるとは……そこまで地球軍の奴らは狂ったか… いや、ジェネシスを見てそれに拍車がかかったのかと苦い思いを抱いた。

ピースメイカー隊に向かうザ フトの前に護衛艦隊から吐き出されたMSやMAが迎撃に向かってくる。

コスモグラスパーにデュエル ダガー、そしてエールストライカー装備の105ダガーだ。

第9艦隊所属だけあって、流 石に豪華な布陣だ……デュエルダガーや105ダガーのビームライフルの集中砲火にゲイツやジンが撃ち抜かれ、お返しとばかりにゲイツのビームがコスモグラ スパーやデュエルダガーを破壊していく。

イザークのデュエルパラディ ンは2丁のビームライフルを駆使し、デュエルダガーやストライクキャノンダガーを撃ち落としていく。

護衛のMSやMAを墜としな がらメビウスに追い縋ろうとするも、先行していたゲイツ2機が突然飛来したビームに撃ち抜かれ、爆散した。

「なにっ!?」

驚愕するイザークの前で虚空 からのビームが4方向から襲いくる……咄嗟に両肩のアンチビーム粒子の装甲で受け止めるも、姿の見えない敵に戸惑う。

そんなイザークの前に姿を見 せる105ダガー……ボディ中央部に映える月下の狂犬のエンブレムに展開していたガンバレルがバックパックに戻る。

「ほう…X102のザフト製 の改良型か……相手に不足なし!」

ガンバレルダガーのコック ピットで不適な笑みを浮かべるモーガンは手持ちのビームライフルでデュエルパラディンを狙い撃つ。

「ぐっ!」

歯噛みしてその攻撃をかわす も、ガンバレルダガーのガンバレルが展開され、縦横無尽に襲い掛かる。

まったく軌道の読めない攻撃 にイザークが攻めあぐねる……シホやヴァネッサ達もモーガン指揮下の狂犬部隊に足止めを受け、その間にメビウス隊は一直線にプラントへと向かっていく。

そして、一斉に放たれる核ミ サイル……今度こそダメか…と絶望が支配しようとした瞬間、再び割り込む機影が出現した。

加速でメビウス隊に追いつい たキラ達……メビウスが核ミサイルをプラントへと向けて放つ様に怒りにかられる。

「やめろぉぉ! なんでそん なことができるんだっ!!」

何故そんなに簡単にトリガー が引ける……自分の手が血で汚れないからか…それとも相手は人間ではないからか………その答は出ない…だが、今は眼の前に迫る厄災を退けるだけ。

発射された核ミサイルに向け てフリーダムとジャスティス、マーズとストライクルージュが一斉にフルバーストした。

4機の全火器が発射され、核 ミサイルを瞬時に薙ぎ払い、辺りは眩い閃光に包まれる。その光景にイザークが一瞬気を取られた瞬間、デュエルパラディンは背後から凄まじい衝撃を受け、態 勢を崩す。

「戦場で余所見など…!」

ガンバレルの一射がまともに デュエルパラディンの背後を取ったのだ。

その衝撃でイザークも一瞬反 応が遅れ……機体を立ち戻せない………そして、その隙を逃すほどモーガンは甘くはない。

ガンバレルダガーの右手の ビームライフルがトドメを刺そうとエネルギーが集束する。

だが、モーガンの脳裏に気配 が走った瞬間……モーガンは瞬時に機体を捻った。

別方向から飛来したビームの 奔流がガンバレルダガーに襲い掛かり、回避行動の遅れたガンバレルダガーのガンバレルパックが融解し、モーガンはそれをパージする。

爆発が周囲を照らし、思い掛 けない援護にイザークはその姿を確認しようと放たれた方角に眼を向けた瞬間、そこにいた機影に思わず眼を見開く。

「リーラっ!」

イザークにとって大切な者の 駆る機体……スペリオルが腰部のビームドライバーを展開していた。

「……援護します」

コックピットに静かにその声 が響いた瞬間、スペリオルは展開していた砲身を収納し、スラスターを拡げて105ダガーに向かい加速する。

その背中を呆然と見送るイ ザーク……そこへ、シホの通信が飛び込んできた。

《た、隊長! 例のMS達 が……》

上擦った声で戸惑うシホの呼 び掛けに改めてモニターを見やると、苦戦させられていた連合の部隊を次々と撃破しているのはバスター、ブリッツ、イージス……かつての仲間達の機体……… 放たれる核ミサイルの第二波に向かい、それらは攻撃を浴びせ、核ミサイルを撃ち落としていく。

《か、彼らは…敵なのでしょ うか……っ!?》

シホだけでなく他の隊員達も 戸惑っている…突然割って入ったクライン派の機体達は連合のMSや核ミサイルを迎撃している。ならば、どう対処すべきなのか………

「………俺達の敵は連合だ。 連中は無視しろ!」

やや逡巡し、一瞬瞑目した 後…イザークはそう指示した。

《で、ですが……》

だが、やはりシホ達はまだ当 惑を隠せない……今は連合に敵対していても、彼らもまたザフトにとっては敵のはずだ。

「今はプラント防衛が第一 だ…連中の目的が連合の妨害なら、利用すればいい…こちらから仕掛けなければ奴らも撃ってはこない!」

そう…今は猫の手でも借りた い状況……プラントを護るためには利用できるものはなんでも利用するべきだという打算的な言い分だ…シホ達はまだ不了承気味だったが、イザークの物言わせ ぬ言葉に押し黙り、実行していく。

こちらから仕掛けなければ、 あちらも少なくとも反撃はしてこない……イザークの内にはそんな確信めいたものがあった。それは、戦友達に対する信頼なのかもしれない……

言葉にはできぬ熱い思いを秘 めながら、イザークは105ダガーと戦闘を繰り広げるスペリオルの援護に向かう。

モーガンの105ダガーは押 されていた…機体性能もあるが、なにより自機も主兵装のガンバレルパックを破壊され、半ば戦闘能力が奪われた状態に等しいのだから………

105ダガーの懸命のビーム も機動性を駆使し、スペリオルは回避しながらビームライフルで狙い撃つ。

精密なその射撃に105ダ ガーのビームライフルが右腕ごと破壊される。

「ちぃぃ! ここは退くべき か!」

流石に不利を悟るまでもな く……105ダガーは腰部に装着したグレネードを外し、スペリオルに向けて投げ飛ばす。グレネードがスペリオルの眼前で炸裂し、閃光を発する。

その光に一瞬視界を覆うリー ラ…その隙に105ダガーは宙域を離脱していく。それを追おうともせず……スペリオルはすぐさま別の接近してきた機体に注意を向けた。

ストライクダガーとコスモグ ラスパーが固まり、ビームライフルとビーム砲で狙撃してくる。回避しながら距離を取るも…背後に回り込むストライクダガーがスペリオルに掴み掛かり、機体 を締め上げる。

「しまっ……!」

動きを封じられたスペリオル に向かい、ストライクダガーが一斉にビームライフルを構える。銃口にエネルギーが集束した瞬間…ストライクダガーが突如爆発する。

それに戸惑うリーラとスペリ オルを抑え込む連合兵……だが、その連合兵もハッと振り返った瞬間、急接近したデュエルパラディンの拳に装着されたガントレットのクローに頭部を破壊さ れ、引き剥がされる。

「油断するな! 敵はまだま だいるんだっ!」

「う、うん!」

叱咤に驚愕よりも嬉しさがこ み上げてくる……デュエルパラディンは身を翻し、イザークの言葉がリーラに響く。

「いくぞ…敵艦を墜とす…… ついてこい!」

ぶっきらぼうにそう言い放つ と、デュエルパラディンは加速する……その言葉に一瞬息を呑むも……すぐさま表情が和らぎ…スペリオルもその後を追う。

やはり自分はこの人を愛して いるのだと……そして、イザークもまた想いは変わらない……たとえ、どんなに二人の間に壁が塞がろうとも………二人の想いは決して途切れない……今、それ を改めてイザークとリーラは確信したのだ。

デュエルパラディンとスペリ オルは一気に核魚雷を艦載しているドゥーリットルへと接近する……対空砲火を抜け、デュエルパラディンのフォルティスUとスペリオルのブレイクビームキャ ノンとビームドライバーが起動し、一斉射される。

ビームの奔流が幾条も船体に 突き刺さり、ドゥーリットルは火を上げて轟沈した。

 

 

 

 

その頃……連合軍の部隊もま たジェネシスへの突入を試みていた。

防衛網を突破のために艦や僚 機を犠牲にし、ただただジェネシスの破壊だけを目的に決死の覚悟で迫る地球軍のMS隊……何十という数で突入し、激戦区を掻い潜って突破できたのは僅か数 機……十倍はいた当初の部隊は既に次々と撃破されてしまった。だが、彼の眼にはジェネシスがハッキリと映る。

後少しと迫った瞬間……突 如、全方位から発射されたビームに機体を粉々に撃ち砕かれ、パイロットは何が起こったかも認識すらできず、命を散らした。

その爆発の後から姿を見せる 鈍い輝きを放つ機体…プロヴィデンス……そのコックピット内でクルーゼは高らかに笑い上げた。

邪魔はさせない……今や、こ の宙域には憎しみが渦巻き、そして人の闇が互いを喰い合うまさにクルーゼの理想……そして、あの閃光が地球を捉えれば…もはや全てが終わる……

だが、クルーゼの愉しさはそ れだけでない……自らが今駆るこの機体だ……『天帝』の名を冠するこの機体は素晴らしい能力を秘めている……これ程の機体を今、この記念すべき刻に駆れる ことを彼は信じもしていない神に感謝した……いや…それは違う……この機体を駆るのもこの理想を創り出したのも全て自分だ……自分こそが神なのだと……揶 揄するようにクルーゼは笑い上げた。

その刻……クルーゼの脳裏に あの感覚が走った………

「ムウ……いや…奴か」

この不愉快な感覚はあの男と 似て非なるもの……自分が唯一解からないもの……そして、そのクルーゼの考えどおり……そこに現われたのは赤紫のカラーリングを誇るストライクファント ム………ビームライフルを連射し、プロヴィデンスを狙い撃つ。

「ザフトの新型かよ……けど な、今はお前の相手をしている暇はないんでね!」

コックピット内でネオは毒づ き、ガンバレルを展開する……不規則に動くガンバレルがプロヴィデンスを狙い撃つも、クルーゼはほくそ笑む。

「そんなもので……この私が 墜とせるものかっ!」

狂ったように吼え、プロヴィ デンスのバックパックに装着されたドラグーンが飛び立ち、一斉にビームを放つ。

「何!?」

そのはじめて見る攻撃方法に ネオは戸惑う……間一髪機体はかわせたが、展開していたガンバレルが撃ち抜かれ、爆発した。

「この感じ……あの男か よ!」

その時になってネオもようや く相手がメンデルで出遭ったクルーゼだと気づいた。

そして、クルーゼもまたネオ の正体におぼろげながら勘付いた。

「君も私と同じか……ならば 問おう…何のために戦う? この世界は滅ぶべきと思わんかね!?」

揶揄するように叫び、ドラ グーンがストライクファントムを狙い撃つ。

「なに寝ぼけてやがる……俺 は、ただ戦うだけだ………敵とな!」

ビームライフルで応戦する も、プロヴィデンスは悠々とかわす……そして、クルーゼは失望したように鼻を鳴らす。

「残念だな……君も私と同様 にこの世界に絶望してくれるかと思ったが………所詮はあの男の出来損ないでしかないか」

見透かしたような皮肉る物言 いにネオは微かに表情を強張らせる……そのために、僅かに隙が生じ…それを逃すほどクルーゼは甘くはなかった。

急接近し、懐に飛び込んだプ ロヴィデンスの左腕の複合兵装防盾から伸びるビームの刃がストライクファントムのビームライフルを斬り裂く。

ネオは舌打ちして、ライフル を捨て、シールドで防御する。

「アハハハハ! 君も奴と同 じである以上、私には勝てないのだよ! そして!」

高らかに笑い上げ、キッと表 情が狂気に染まる。

「あの男に関する全ては私が 滅ぼしてやるのだよ!!」

ドラグーンが一斉にストライ クファントムに狙いをつける。

(俺の悪運も、ここまでか な……)

自嘲気味な笑みをうかべ、死 の覚悟をしたネオ……ドラグーンが放たれるまでが酷く長く感じる………その時、彼方からプロヴィデンスに向かってビームが迫ってきた。

「むっ!」

そのビームに思わず身を捻 り、攻撃を中止する……そして、クルーゼの脳裏に走る感覚……このざらつくような感覚は間違えようがない。

「きたか……ムウ=ラ=フラ ガ!」

視線をそちらへ向けると…… 白き機影が高速で迫ってくる。

「クルー ゼェェェェェェ!!!」

ようやくその姿を確認したム ウはプロヴィデンスに向けて攻撃を開始する。

唯独り……仲間達とは別行動 を取ってまでムウはこの敵陣へと切り込んできたのだ……互いに相手を感じる不快な感覚…決して切れぬ因縁の鎖………故に、眼前の機体に『奴』が乗っている と確信した。

吼え、ストライクテスタメン トのオクスタインが火を噴き、プロヴィデンスを狙う。

「ほう……機体を変えたか… だが!」

以前メンデルで大破させたス トライクの面影は残しているものの、ほぼ別の外観にクルーゼは嘲笑を浮かべる。いくら機体を乗り換えようとも…この神にも等しい力を得た自分の敵ではない と……ビームの連射をプロヴィデンスは上昇して回避する……Gに似通った形状デザインに背中に装備された光背のような突起の付いた特殊なバックパックを背 負った機体は、キラ達の愛機であるZGMF−Xナンバーの同系に違いないと確信しつつも、その用途の掴めない装備に思考を巡らしていると、自分の周囲から 感じる冷たい殺気に気づき……刹那、反射的に操縦桿を切る。

咄嗟に回避したストライクテ スタメントの空間を幾条ものビームが過ぎる……眼前のプロヴィデンスがまったく動いていないにも関わらずだ。

だが、それを確認する間もな くビームは網目を縫うように全方位から薙ぐように撃たれ、ムウはかろうじて回避する。

(まさか…こいつはっ!)

その攻撃方法に勘付いたムウ だったが…次の瞬間、プロヴィデンスが手持ちのライフルでビームを放ってきた。

「ぐっ!」

歯噛みしてシールドで受け止 めるも、その反動で押し返される。

「これが望みか!? 貴様 の!!」

弾かれた勢いのまま流れるよ うに態勢を戻し、再度オクスタインのモードを切り替え、ビーム砲とレールガンを同時斉射すると同時に毒づくように叫ぶ。

核を用いる地球軍……ジェネ シスで反撃するザフト………連鎖的に繰り返される憎悪の鎖……それがクルーゼがお膳立てした破滅への道標………

「はっ、私のではない!」

だが、その問いにクルーゼは 鼻を鳴らし、勝ち誇ったような笑みとともに再度ドラグーンを展開して反撃してきた。

「これが人の夢! 人の望 み! 人の業!!」

プロヴィデンスの背負うバッ クパックのドラグーンが次々と展開される。ムウは既にそれがかつて自身が愛用したガンバレルと同質…そして、今現在自身が扱う機体に装備されたものと同じ であることに気づいた。

だが、メビウス・ゼロの有線 式ガンバレルシステムに対し無線式のそれを、ザフトではドラグーンシステムと呼んでいた。有線という制約を完全に排除した全方位からのビーム攻撃は恐るべ き脅威だ……以前からも、リンのエヴォリューションがその兵装を扱う様を見てきたムウには、それが自身に向けられることの恐ろしさを感じ取っていた。漆黒 の宇宙空間では小型のドラグーンの攻撃機動兵装自体を認識するのは難しく、センサーやレーダーでも捉えにくい。しかも発射と同時に目標を捉える高速性はほ ぼ見切るのは不可能だろう……ならば、これを向けられれば、通常ならほぼ何が起こったか解からずに撃破されるだろう……だが、ムウはその軌道を持ち前の直 感を頼りにナチュラルとは思えない反射速度で回避していた。

「このっ、調子にのるんじゃ ねぇぇぇ!!」

ドラグーンに翻弄されていた ムウだったが、眼には眼を…歯には歯をの言葉どおり、ドラグーンには同じ装備で対抗するしかないとストライクテスタメントのドラグーンを展開する。

「何っ!?」

今まで余裕気であったクルー ゼの表情が微かに強張る。

ストライクテスタメントから 分離したドラグーンがビームを放ち、プロヴィデンスに幾条も襲い掛かる。

「ちぃぃぃっ!」

クルーゼは瞬時にドラグーン のビームを自身の前方に発射する…発射されたビームが壁をつくり、ビームを相殺する。

ムウが舌打ちするなか……ク ルーゼは驚きにやや強張っていた表情に歪んだ嘲笑を戻る。

「そうか……貴様も私と同じ 力を得たか………アハハハ! まったくもって素晴らしいよ、ムウ!」

ムウが……自身の宿敵が自身 と同等の力を得た……これで完全に対等の条件になった…この条件で叩き潰してこそ、クルーゼの渇きは満たされる。

そしてなによりも……この記 念すべき瞬間にこの最高の歓喜を齎してくれた運命にクルーゼはらしからぬ感謝の意を内心に浮かべた。

そしてなによりも……自身の 取った道の正しさが証明されたのだから………

「ムウ! 貴様は力を得 た……この私を倒すためにな!」

一斉に襲い掛かるドラグーン に対し、ムウもドラグーンで応戦する。

2機の周囲に幾条も飛び交う ビームが相殺し合い、爆発の華が咲き乱れる。

「何だと!?」

「他者より強く! 他者より 先へ! 他者より上へ! ムウ! 貴様は私を倒すためにその力を得た……より大きな力をな! 所詮、貴様もそうやって力を求める…それが人なのだよ!!」

その言葉にムウは咄嗟に言い 返せず、口ごもる。

「ぐっ、ふざけるなっ!」

だが、ムウは気丈にも叫びオ クスタインのビームサーベルを展開して加速する。それに対し、クルーゼもプロヴィデンスのビーム刃を展開し、敢えて接近戦に入る。

幾度も交錯し、互いに振るう 刃が交錯し、エネルギーがスパークする。

だが、意を得たりとばかりに クルーゼはなおも謳うように叫ぶ。

「なにが違う? 競い…妬 み…憎んで……その身を喰い合う! 今の我々がまさにそれではないかっ!」

まるで自賛するように高らか に笑い、押しの緩んだストライクテスタメントを弾き飛ばす。

「そんな貴様の理屈……!  思い通りになど……!」

すぐさまスラスターで制動を かけ、加速して一気に懐に飛び込みビームサーベルを振るうもプロヴィデンスは回避する。

追撃するように胸部のミサイ ルを発射する。

だが、微かに動揺するムウの 動きは見切られ…プロヴィデンスはバルカンでミサイルを撃ち落とす。

「どう言おうとも、既に遅い さ、ムウ! 私は結果だよ……だから知るっ!!」

再度ビームサーバーを展開 し、斬り掛かるプロヴィデンス……その一撃をシールドで受け止め、お返しとばかりにストライクテスタメントもビームサーベルを振るうが、プロヴィデンスは 身を捻ってかわし、脚を振り上げてストライクテスタメントを弾き飛ばす。

「自ら育てた闇に喰われて、 人は滅ぶとな!!」

距離を取り、バランスの崩し た隙を衝いてドラグーンを展開する……全方位から放たれるビームが追い詰めるように襲う。

それらを紙一重でかわしなが らムウは心に毒づく。

結果……クルーゼが…そして 今のこの状況が……これが…こんなものが人の望んだものだと……惑いながらも、ムウは必死に操縦桿を切る。

ムウは、クルーゼを哀れに 思った……神と自賛する哀れな存在と………だが、だからといって奴を認めることはできない。

攻撃をかわしながら、オクス タインを放ち、ドラグーンを狙い撃つ。

『天帝』と『真理』をそれぞ れ与えられた機体を駆るクルーゼとムウの戦いに呆然と見入るネオ……まるで世界が違うと………そこだけが戦場であることを忘れたように………

ただただ……己と切れぬ因縁 を抱えた二人のぶつかる様を………

 

 

 

 

誰もが戦い……誰もが望 み………誰もがただトリガーを引き続ける…………

その戦場において飛翔するイ ンフィニティ……その視線の先にある破滅のミラーを目指して………だが、それに立ち塞がるようにザフトのMS隊が阻んでくる。

人工知能を搭載されたジンや シグー、バルファスが恐怖さえ憶えず、ただただ敵と認識したものだけを狙う。

攻撃を回避しながらレイナは 歯噛みする。

「邪魔よっ! ど けぇぇぇぇっ!!」

吼えながら、インフィニティ のバックパックの陽電子破壊砲:フェイタルセイヴァーが火を噴く。

閃光がバルファスのシールド ごとボディを灼き、ジンの機体を蒸発させる。

咲き乱れる爆発に気を向ける 間もなくひたすら前へと突き進む。

ルンの妨害で思わぬロスを 負ってしまい、もう時間がない……だが、まだミラーまでの距離は遠く、またザフトのMMが立ち塞がり、思うように進まない。

(ぐっ! どうす る……っ!?)

焦りがレイナの内に悪寒を走 らせる……刹那、機体が衝撃を受け…態勢を僅かに崩す。

バックパックにジンの放った 突撃銃が着弾したのだ…ダメージではないが、加速が僅かに落ちる………この状況では致命的だ。

その刻……唐突に眼前のモニ ターに何かが表示された。

 

【IRPAsystem   STANDING BY】

 

「っ!? これは……」

今の衝撃で、インフィニティ のあのブラックボックスのシステムが起動したらしい……この現象は、以前オーブ離脱の際にも起こった。

だが、あの刻とは違ってい た……コンソール中央の計器がスライドし、その下から別の差し込む装置がせり上がっていた。

その中央にある窪みは……ペ ンダントのクリスタル………レイナは逡巡を捨て、間髪入れずにヘルメットのバイザーを上げ、脱ぎ捨てる。

同時に胸元のホックを外 し……露出した内から零れるペンダント……それを掴み、無造作に引きちぎると、クリスタルを一瞬凝視する………そして、意を決したようにクリスタルをその 窪みへと差し込む。

刹那、基盤はそのまま沈 み……それに連動するようにシステムがシーケンスへと突入していく。

ヴィアから託された起動プロ グラムが先の戦いで偶然作動したシステムのエラーを解消し、システムをドライブさせるクリスタルキーが促す………

 

 

――――――真なる無限の 翼…宿りし人造神の覚醒……………

 

 

【SYSTEM   ALL  AWAKING】

 

 

―――――――ドックン………

 

内に響く鼓動……全感覚がま るで光になったかのような感覚………自身の進むべき道が幾つも指し示される……操縦桿を握り締め、スロットルを全開にする。

 

 

DEUS EX MACHINA  TYPE-X000-01

 

DRIVE

 

 

コックピットが一瞬の光に包 まれる。

インフィニティの瞳が真紅に 煌き……咆哮を上げる。

それは、機械の内に宿りし神 の咆哮…………

 

 

その感覚は戦闘を繰り広げる リンとルンの脳裏にも感応した。

「っ!?」

「これは……!?」

思わず戦闘を中断し、二人は ジェネシスの方角を見やる。

「……姉さん!?」

リンが呆然と呟く……いった い、レイナの身になにが…………だが、その疑問を彼女の脳裏に走る光景に掻き消えた…………

 

 

宇宙に響き渡るような咆 哮……そして、それに呼応して真紅の翼が大きく拡がり、バーニアが粒子を吐き出す。

神に逆らいし叛逆の堕天 使………刹那、インフィニティは光の矢のごとく加速した。

 

 

 

「ミラーブロック換装終 了!」

戦闘宙域の異常も気づか ず……パトリックは待ち侘びていた報告に表情を不適に歪める。

「Nジャマーキャンセラー起 動! ニュークリアカートリッジを単発発射に設定!」

「全システム、接続オールグ リーン!!」

次々と進むシーケンス……モ ニターに表示されるジェネシスの全ラインが繋がり、中枢の核の爆発エネルギーがカウントダウンに入る。

「カウントダウン開始…… 30、29、28……」

秒読みが開始される……ジェ ネシスの照準は…月……プトレマイオスクレーター………パトリックはその瞬間を今か今かと待ち侘びる。

 

 

 

――――18、17、 16………

 

秒読みが続く……破滅への秒 読み………ジェネシスに辿り着こうと攻撃を繰り広げる地球軍とそれを阻むザフト軍………

 

――――10、9、8………

 

地球軍の核攻撃隊を退ける ネェルアークエンジェルと共同戦線を張るザフト軍………周囲のピースメイカー隊のメビウスをほぼ一掃した一同はジェネシスを見やる。

 

――――5、4、3…………

 

交錯を繰り返すエヴォリュー ションとミカエル………漆黒の騎士は漆黒の堕天使を信じ…純白の義の天使は破滅を望む………

 

――――2、1…………

 

光の矢のように一直線に向か う真紅の翼……その羽ばたきは全てを超越したかのごとく……宇宙の闇を駆け抜ける………闇に煌く真紅の翼が舞い散り、その幻想的な輝きに戦場は包まれる。

インフィニティの……レイナ の瞳に映るは破滅の光を齎す悪魔……………いや……破滅を齎す神の降した魔物…………

超加速に突入し……真紅の翼 を拡げ、照準の定められる砲身の先端へと真っ直ぐ突き進む。

そして……遂にその光がこも れる………

 

―――――0………

 

カウントが刻まれた瞬間、 ジェネシス内部に炸裂した核の膨大な熱量が弾け、閃光となってミラー本体から迸る。

本体から発せられる閃光…… その光の動きが…まるでスローモーションのようにレイナに映る………そして…どうするべきか………

操縦桿を押し、スロットルを 踏み込み……出力を全開にまで引き上げる。

核融合というエンジンが唸り を上げ、リミッターが解除されたように翼が大きく拡がる……そのまま加速し、ミラーブロックに向かって翼を……斬りつけた………

 

 

 

 

――――――真紅の翼が…… 破滅の光を斬り裂いた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

破滅の閃光……それは、序章 でしかなかった…………

遂に姿を現わせし破滅神を冠 する神天使………

世界に放たれる絶望の白き 影………

 

 

白き天使達に抗う者達……… そして…少女は遂に相対する…………

……真の自身と………それ は…影たる魂の消滅…………

 

起こされる破滅への流 星………絶望の饗宴……………

破滅の創世を砕くために…… 今……神へと抗う最期の刻が始まりを告げる………………

運命という星のもとに生を受 けし魂の…………

 

 

次回、「運命の魂(レイナ=クズハ)

 

運命の刃を手に…抗え、イン フィニティ。


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