「っ! リン……?」

激しい傷みが駆け抜けるなか で…ふと感じた衝撃………レイナは呆然と呟き…そして……まるで道標に導かれるように……求める相手の名を呼ぶ………

(レイ…ヒビキ………)

あと少し………次の瞬 間………レイナの意識はなにかに引き寄せられるように闇のなかへと誘われていった………

 

 

闇の奥底へと沈んでいくレイ ナの意識………そのなかで…夢を見た………知っている…だが……知らない………

 

 

白   

白は嫌い 

白い天使は嫌い

白は嫌い 

 

黒は好き

黒は闇の煌き

黒は好き

 

 

夢のなかで……そう答え…… それを聞いていたヴィアは苦笑にも似た笑みを浮かべた。

 

 

 

――――――レイナ……レイ ナ=クズハ………

 

誰かが呼ぶ声が聞こえる…… 誰……?

 

――――――眼醒めよ…レイ ナ=クズハ…………我が半身の魂………

 

呼ぶ声に反応し…虚ろに意識 が戻った瞬間には……自分の周りには永遠とも錯覚するかのような闇が拡がっていた………

レイナは周囲を見回し……そ して………微かに表情を驚きに包んだ後…自虐めいた笑みに表情を緩めた。

「…………こうして顔をあわ せるのは初めてね…そして……」

今一度逡巡する……これまで の記憶が脳裏を過ぎり……まるで、死の瞬間を感じているようだ……そして、瞳を開け…前に佇む人影を見据える………

影に覆われていた顔が徐々に その輪郭を見せ……いや…確認するまでもなかったのかもしれない……その顔は…自分自身なのだから………

(ようやく逢えた……レイ… ヒビキ………)

らしくない感慨を抱き、苦笑 にも似た笑みを浮かべるレイナの先には………レイナ自身が佇んでいる………いや……黒髪を靡かせる本来の魂………MC−02:REI……そして…レイ=ヒ ビキ………

対峙するレイナとレイ……… 本来の魂と虚ろな魂…………一つの身体に宿りし二つの魂…………

無言のまま瞳を閉じ……ただ 静かに浮遊するレイ………そのレイに対し…レイナは呟く。

「……ずっと感じていた…あ んたを…………BAは……」

『……我の一部……そし て……汝の一部でもある…………』

眼前のレイは眠るように瞳と 口を閉じたまま……感応波を用いての会話………魂同士の干渉に…言葉など不要なのかもしれない………

レイナのもう一つの顔…… BA:Bloody Angel……だが、それはあくまで一面でしかない……完全な魂を持たない存在………レイナであり、レイでもある両者の中間に位置す る存在…………

そして……その奥に感じてい た魂………それは…あの刻に隔てられた魂……共にあった魂……誰よりも近く……誰よりも遠い………この身体の…最高のMCの一人である本来の魂………

「何故、私が生まれたの か………そして…何故存在しているのか…………」

ずっと考え続けていた……メ ンデルで…いや……もうずっと昔から…………何故『レイナ=クズハ』は存在するのか……何のために…………

「あんたを……本来の魂を護 るために………私は生まれた…………」

本来は一つであったはずの 魂……だが、その魂は眠りに就いた………いつか巡りくる運命の刻まで………その間の……運命の刻までレイ=ヒビキの魂を護るために生まれた魂………それが BAであり…レイナ=クズハだった………

『衝撃を受けた…か?』

その問いに、レイナは自嘲め いた笑みを浮かべ、肩を竦める。

「……逆よ。納得はできたけ ど……ただ……結局は私自身も…禍がいものだったということに少し嘲笑っただけ」

滑稽だろう……レイナ=クズ ハは禍がいものの魂……リンが一度は憎み…ルンのように未だ憎しみ……カインが対峙していたのは禍がいものだという事実に……何故か、彼らに対し哀れみに も似た感傷が過ぎる……

真を隠す影……今まで影たる 魂を相手にしていたかと思うと………何故か、そんな感傷が過ぎる。

「………ここに私がきた以 上…影の役目はお終い………私の…いえ……『レイナ=クズハ』の魂も……もう必要のないもの……」

運命の刻がきた……エヴィデ ンスの遺伝子によって生を受けし対の存在………その邂逅の刻……これまで身体を…本来の魂を護っていた影の役目は終わる………

闇へと消える運命……恐怖は ない………だが、消える前に最期に訊かねばならないことがある。

『恐い…か……?』

静かに問うレイにレイナは眼 を閉じ、苦笑を浮かべる。

「……恐かった……かしら ね」

訝しがるようになる前で、レ イナは過去を馳せる……恐くなかった………死など……

いや……恐いと感じる感情さ えなかった………

ただただ生きるために戦うだ けでよかったのだ……だが、変わってしまった魂は恐怖という感情を憶えてしまった………

闇に消える恐怖ではない…… ただ………なにもできずに消えることが…………

その危惧さえ果たせれば…… 別に未練はない…………

意を決したように顔を上 げ……同じ顔を見詰める………リンやルンよりも……いや…完全に同じ顔を凝視しながら………レイナは言葉を発した。

 

 

――――あんたは……なにを 望んでいるの………?

 

 

真剣な面持ちで問うレイ ナ……カインと同じ道を選ぶのか………それとも………

『……それを聞いて……どう する?』

「どうもしない……けど、場 合によってはあんたも私と一緒に闇に堕ちてもらうだけよ」

微かに不適な笑みを浮かべ る……もし…カインと同じ道を選ぶのなら………その刻は……レイ=ヒビキの魂も一緒に闇へと連れていく………たとえ…それが………自身を生み出したものだ としても………

創造主に抗う……そんな結末 も悪くないと思う………禍がいものの自分に相応しい終末だ、と……内心自嘲する。

だが……レイはその問いに無 言のまま…身構えるレイナは怪訝そうに表情を顰める。

『何故……何故そうまでして あの世界を望む………人のため…か………?』

あの世界は……レイナにとっ ては苦痛しかない世界………ナチュラルとコーディネイターというどちらの枠組みにも入れず……ましてや人として生きることさえ滑稽な世界………憎しみ・怒 り・哀しみ……人のエゴとエゴがぶつかり合う呪われた世界………

そんな世界に何故執着するの か……そう問い返され……レイナは一瞬瞑目すると………肩を竦める。

「人のため……なんて綺麗な お題目は言わない………ただ………」

『ただ?』

先を促すレイにレイナは視線 を彷徨わせた後……顔を上げ、レイを凝視する。

「あいつのやろうとしている 事を認められないだけ………確かに…あの世界は混沌としている………けど、そこで足掻いている………足掻いて…足掻いて……その結果がどうなるかは解から ない……ただ、あの世界が本当に滅びる運命にあるというのなら……それはそこに生きる命が自ら幕を引く……それをやる権利が…誰にも……あの男にもないと いうだけ………」

カインの考えを否定はしな い…いや……できない………たとえ…ここで人が生き延びようとも……必ずまた歪みは起こり…人は欲望に突き動かされ……闇を求める………

レイナは世界を見た…そして それを嫌というほど見てきた………

未来というの名の闇………そ う………人の…命の生きる世界が本当に滅ぼうとしているのなら……それはいずれ必ず訪れる………どんな命さえ…滅びる運命からは逃れられない……だが…そ れを誰かが自らやるなど……そんな権利は誰にもない………

「『破滅』という終焉がある なら…それもまたあの世界が選ぶ過程よ………あいつに…カインに肩代わりさせる必要なんてない………」

凛と言い放つ……レイナは別 に人間に味方しているわけでも正義を気取るつもりもない……ただ………破滅を選ぶとしてもそれはあの世界に生きる命の問題…それに手を汚そうとするカイン の傲慢さが癪に障っただけ………

もし…人が世界の終焉を望む なら……滅びればいい…………それは、人が乗り越えなければならない………

「命は滅び…そしてまた生ま れる…………私も…そして……あんたも奴も…あの世界で生まれた………」

微かにレイの表情が強張 る……レイナ=クズハの魂も………そして、カインやレイ…リン達もあの世界で生まれ…存在する………あの世界を成す一部として…………

命は生まれ…そして滅び る……その連鎖の繰り返し………そうして…生命の歴史は紡がれてきた……自嘲を浮かべながら肩を竦める。

「私も……所詮は禍がいも の………あんたから見ても、異端でしょうね」

同じ遺伝子を持って生まれた 対の存在……その内で生まれた自分………本来同じであるはずの存在とは逆の道を選んだ…だが、それも自身が禍がいものだからだろう。

『……………』

「さあ……今度はあんたの番 よ?」

自身の考えは伝えた……問題 は…この本来の魂の考え………もし万が一の場合は、既にその意志は託した。

身構えるレイナに、レイは無 言のまま………やがて…その姿が闇に消えゆく………その光景に息を呑む。

『…………我の魂……既に存 在しない………』

眼を見開くレイナ……だが、 レイは霞のように消えていく………

『…汝は確かに我の魂を守護 するために生まれた……いや……汝の魂は我にも予想できなかった……』

レイナの表情が怪訝そうに歪 む。

「どういうこと……?」

自分が予想外……レイナは自 分自身を特別に意識したことなどない………むしろ、闇にしか生きられない……そして…いずれは消えゆく虚ろな存在だと……闇に裁かれる運命だと……そう 思ってきた。

その自分が……本来の魂であ るレイにとって予想外とは………困惑しても仕方がなかった。

『BA……そう呼ばれた者 が……本来の我の守護となるべき魂………だが……運命が変わった……ヴィア=ヒビキ…そして……それに連なる者達によって………』

息を呑み、眼を見開く。

レイにとって……自らが眠り に就く間の代行者としての虚ろな魂が……BAと呼ばれる存在だった………BAであった頃のレイナ……殺すことにも…自身の境遇にさえ嘆くことも疑問に思う ことすらなかった空虚な日々……だが、それが本来の虚ろな魂である代行者の役割だった……その運命は変わった………

BAが……レイナ=クズハと いう存在として生き始めた刻………虚ろな魂であったはずの存在は……徐々にその役割から外れていった………

それは……魂の鎖からの解 放…………そして…本来の魂すら呑み込むほどの大きさへと昇華した………

『そして……汝の魂が我を取 り込んだ………汝は汝自身の魂で生きる力を得た………』

その言葉に驚愕する……既に レイの魂はレイナの魂の内に取り込まれていたという事実………影が真を取り込むなど………

『魂はこの世界に生まれ…そ して消えゆく……だが、魂に変わりはない………この世界に存在する……』

禍がいものであろうと…魂は 存在する……魂に差はない…それがどのような形で生まれでようとも………虚ろな魂であったはずのレイナ………だが、その魂がレイ魂を取り込むほど器に適合 し、その魂を強めてしまった………そのために、本来の器の魂であるレイの魂が逆に虚ろなものへと変わってしまった………

『我の魂はもう消える……… だが、汝の魂に一度触れたかった………ヴィア=ヒビキの想いの結果を………』

息を呑み、お互いに見詰めあ う……二人の生は違う………

 

――――共に過ごした記憶は あっても…想いを放棄したレイ………

――――共に過ごした記憶は なく……想いを継いだレイナ…………

 

まったく正反対の……お互い に補完しあうように………

『我は汝と奴……その運命の 先を見届けてみたい………我は汝の内で……見届ける…………汝と我は…一つになる…………』

元々は一つであった魂……そ れがレイナという一つの魂を生み出し…その内へと還る……だが、レイナは表情を顰める。

「生きる? 私が……私にな にができるの……私は所詮、禍がいもの……もう、闇に消える運命なのよ……」

魂の回帰すらない……永遠の 牢獄ともいえる闇のなかへ………生まれでた内へと還る……その刻が来ただけ………それは本来は自分のはずだ………

『運命だけに身を委ねるな… その運命を受け入れ……そして…抗え………』

だが、レイナのその意志を否 定するように……レイは首を振る。

そして……今まで閉じていた 瞳が開かれ………真紅の眼光がレイナを見据える。

そのまま静かにレイナに寄 る……そして…レイナを抱き締める…………

『………我は汝とともにあ る…………今こそ…汝に我の記憶と…想いを託す…………』

呆然となるレイナに向け て……レイが顔を近づけ………その唇が重なる………眼を見開くレイナ……

刹那…レイナの内に流れ込ん でくる記憶とレイの魂………そして…レイの背中から漆黒の翼が拡がり……レイナの身体を覆うように包み込む。

レイの身体が粒子となって消 えていく………

『我の身勝手かもしれな い………汝の進む道…………我が魂…永遠の闇とともに……汝の内で……愛する我が半魂…………』

その言葉を最期に……レイの 姿は完全に粒子となって霧散し………その粒子がレイナの内に宿る………周囲に舞い散る漆黒の羽……それを見詰めながら、呆然となっていたレイナは右手を開 き、己の掌を見詰め……瞳を閉じ、拳を握り締める。

また…厄介事を押し付けられ たな………と内心に苦笑を浮かべ……身体を抱き締めた。

(……レイ…あんたの魂…… 確かに受け取ったよ………お還り……もう一人の私…………あんたの想いは……あんたの闇は……私が継いでいく………)

 

 

―――――『レイナ=クズ ハ』として………

―――――『レイ=ヒビキ』 の魂を継ぐ者として………

 

 

内に燻る魂の鼓動……どこま でも暗く…虚ろで………温かい……小さな雫が…瞳から零れる………

レイナの意識が暗転する…… 彼女を戦場へと誘う闇の道標………運命という名の糸…………堕天使は闇より飛翔する………

託された想いをのせて……真 紅の無限の翼を拡げて……………

 

 

 

「っ!?」

意識が覚醒したレイナはコッ クピット内で眼を開いた。

まるで、随分と永い夢から醒 めたような感覚………だが…以前とは違う………内になにかが……今まではなかった何かがレイナの内に燻っている………

レイ=ヒビキの魂が……そし て…逡巡していた顔を上げ…モニターに映るメタトロンを見据える………

まだ僅かに響く傷み……だ が、レイナは操縦桿を握り締め…眼を細める。

俯いていたインフィニ ティ……その瞳が真紅に煌く。

その様子にカインは微かに眉 を寄せ……次の瞬間、インフィニティのフェンリルが火を噴いた。

真っ直ぐに伸びるビーム…… そのビームを、ミカエルが掌を翳して受け止め、拡散させる。

周囲に静寂が満ちる……対峙 するインフィニティと天使達…………

『……これが…答か?』

「そうよ……生憎…私は…… 王子様を待っているお姫様じゃない………」

どこか冗談めかした口調で肩 を竦める。

眠りに就いているお姫様は王 子様のキスで目覚める……どこにでもある御伽話…だが、お姫様はもういない……お姫様は王子様を殺す魔女に変わったのだから………

「私は……私は…レイナ=ク ズハ………神を裏切り、地獄にその身を堕とした漆黒の天使!」

そして……魔女は悪魔に魅入 られ、地獄で天使となる………真紅の翼を持つ漆黒の堕天使に………

「カイン…私は別に、あんた の考えを否定しない……けど! あんたのやろうとしている事は認められない!」

吐き捨てると同時に身構える インフィニティに対し、ミカエルらメタトロンを取り囲む天使達が臨戦態勢に入る。

だが、その答にどこか満足げ に笑みを浮かべるカイン……それは、誰も気づかない……

『そうか……なら…その全て をかけて…俺を……殺しにこい………!』

刹那、天使達が弾かれたよう に周囲に飛び……メタトロンもジェネシスの上部に上がる。

その行動に不審そうに眉を顰 めるも……突如として稼動し始めたジェネシスに息を呑んだ。

「ジェネシスが……!?」

『今や、ジェネシスの制御は 俺の手の内にある……遠隔操作ぐらい造作もない』

驚くレイナの前で悪びれもな く言い放つ。

ヤキン・ドゥーエ内の駆除は 既にウェンドによって行なわれている……レイナ達戦闘宙域にいる者はまだ気づいていないが、ヤキン・ドゥーエはもはや地獄と化しているのだ。

とてもではないが、ジェネシ スの外部操作に対応できるはずもない……だが、レイナの疑念は別にあった。

「ミラーは私が破壊した!  すぐには撃てないはず!」

そう……先程まで発射体勢に あったジェネシスのミラーブロックはレイナが破壊したのだ。

予備のミラーを換装をゆるす ほど、呆けていたつもりもない……肝心のミラーブロックが無い状態でジェネシスを今一度発射すれば、今度こそそのγ線のエネルギーによって本体が吹き飛 ぶ。

たかがジェネシスを破壊して も周辺には影響がない……爆発させてプラントへと影響を与え、尚且つこの宙域にいる者達への誇示のつもりかと思っていたが…次の瞬間、眼を見開いた。

「なっ……!?」

前方宙域からユラリと姿を見 せる三角錐の巨大な建造物……それは紛れもなく…ジェネシスのミラーブロック………

「フフフ……甘いですね、 02………コーディネイターの間抜けどもはわざわざこれにもミラージュコロイドを使ってくれましてね……一基を隠すなど簡単なことでしたよ」

嘲笑うウェンドにレイナも内 心ハッとし、迂闊だったと瞬時に毒づいた。

ジェネシスが最初に姿を見せ たときもミラージュコロイドでその巨体を隠していた……当然、ミラーブロックも…なら、それを利用してカイン達がミラーブロック一基ぐらいを確保し、運用 するのなどわけない。

ミラージュコロイドをといた ミラーブロックはジェネシスの発射位置に既にセットされている……ここからでは間に合わない。

ハッと感覚を瞬時に背後へと 回す……後方では、連合とザフトの両軍の混乱が未だに続いている。

そして……その射線上には仲 間達の艦も。

「オーディーン! 今すぐ離 脱をかけろ! ジェネシスが撃たれる!!」

すぐさま通信に向かって叫 ぶ。

その通信が届いたのか…… オーディーンの方でもジェネシスの状態に気づいた。

次の瞬間……ジェネシス内部 で核爆発が起き………γ線が幾条ものレーザーとなって迸り、集束していく。

発射口から放たれるジェネシ スの閃光……それは真っ直ぐに混迷する戦場へと向かう。

「機関最大! 全艦急速離 脱!!」

ダイテツが一瞬早く指示を出 し…その怒号に反応し、クルー達は反射的に実行した。

それが幸をそうし、オー ディーン以下5隻はエンジンを急速させ、射線からなんとか外す。

周囲に展開していたMS達も なんとか分散し、事なきを得た…だが、他はそうもいかない。

突然のことに認知すらでき ず……駆け抜ける閃光に混乱を起こしていた連合とザフトの両軍の艦艇やMSが呑み込まれ、灼かれていく………

MSの装甲がひしゃげ、灰の ように崩れ去り……戦艦のエンジンが爆発し、撃沈していく。

それでも勢いの衰えない閃光 はそのままある方向へと向かっていた。

「あの方向は……!?」

ほぼ直前にいたインフィニ ティも身を翻し、閃光をかわしたが……その射線上に位置しているものに気づいたとき……レイナは歯噛みした。

やはり、わざわざジェネシス を使ったのはこのためか……と内心に毒づいた。

ジェネシスの閃光が向かう先 は……月…プトレマイオスクレーター………地球連合軍月基地………閃光が真っ直ぐに伸びる。その射線上には、増援として集結していた艦隊があった。

だが、そのあまりに突然な閃 光に反応すらできず……γ線を浴びた艦艇内では身体が一瞬にして膨張し、破裂して肉片が消滅するクルー達……戦艦は装甲が吹き飛び、エンジンから火花が迸 り、爆発する。

瞬時に艦艇を薙ぎ払った閃光 は遂に月基地に差し掛かった。

近づく閃光に基地内部のオペ レーター達の肉片が飛び、奥深くにていた強硬派の将校達がほとんど何が起こったかも解からずにこの世から消滅し、基地内部のありとあらゆる機器が爆発 し……月基地から巨大な火柱が上がった。

その光景をモニター越しに見 詰めていた者達は誰もが息を呑んだ……朦々と立ち昇るキノコ雲………その下では、連合の何千・何万という命が一瞬にして失われたことを意味していた。

無論、この映像はプラント内 部にも流されている……情報規制されていた市民達は初めて自分達の支持していた者達の行いを知った。

誰もが呆然となるなか……唯 一人…レイナはキッと天使達を睨む。

身体から溢れんばかりに感じ る殺気……佇むインフィニティの瞳が深く真紅に輝き………その気配にルンやウェンドは僅かに気圧される。

「ほう…凄い殺気です ね……」

今まで余裕であったウェンド の口調が僅かに上擦る。

「な……この私が…っ」

決して恐れるなどないルン が……その殺気に微かな恐怖を抱く……決して認めない感情を………まるで、レイナの内のなにかがオーラとなって滲み出ている。

顔を上げるインフィニ ティ……気圧が漏れ、バックパックから真紅の翼が拡がる………その姿は…天使を裁くために舞い降りた地獄よりの使者…………

「くっ! エンジェル!!」

振り払うように叫んだルンに 反応し、エンジェルが弾かれたようにインフィニティに襲い掛かる。

純白の翼を拡げ……一斉に襲 い掛かる天使…それに向かい……インフィニティが咆哮を上げた。

 

ウォォォォォォォォォォォ!!

 

それは……戦いへの怒 り………インフィニティの内に宿りし人造神の咆哮………インフィニティもまた弾かれたように飛び出し……インフェルノを構える。

真紅のバイザーの奥の瞳を煌 かせ、襲い掛かるエンジェル一機の頭部に向かって突き刺し、そのまま力任せに放り飛ばす。

飛ばされた先のエンジェルに 激突し、2機はバランスを崩す。

刹那、瞬時に懐に飛び込 み……左手を伸ばしてエンジェルの首を掴み上げる。

機械の軋む音が上がり、エン ジェルを絞め上げる……振り被り、掴んでいたエンジェルを投げ飛ばす。

同時に右手のフェンリルを発 射し、機体を撃ち抜いて破壊する。

レイナの目的は…ジェネシ ス……あんなものは必要ない………ジェネシス破壊のために突き進むインフィニティを止めようとするも、エンジェルは弾き飛ばされるようにして近づけず、運 良く接近できてもインフィニティの反応に追いつけず、機体を両断される。

鬼神のごとき戦闘を見せるイ ンフィニティ……だが、業を煮やしたルンとウェンドが動いた。

ミカエルが錫杖を身構え、そ の後方からガブリエルがつき、ガブリエルの右手の大型複合兵装:ゲヘナからガトリング砲とビーム砲が放たれる。

その威力にレイナは舌打ち し、身を捻ってなんとかかわすも周囲に展開していたエンジェルも数機巻き込まれ爆発する。

「こいつら…っ!」

自分達の部下であっても見境 なしか……それを肯定するように躊躇うことなく加速するミカエルが眼前で錫杖を振り被り、インフィニティに向かって振り下ろす。

咄嗟にデザイアを掲げて受け 止めるも、その勢いと力に押し切られる……弾かれたインフィニティに向けてガブリエルが照準を合わせる。

右眼のスコープとコックピッ トのウェンドの右眼のインターフェイスが連動し、照準が態勢を崩しているインフィニティにセットされる。

トリガーを引こうと指にかけ た瞬間……別方向より飛来したビームに気づき、機体の脚部大型バーニアを噴かし、回避する。

ルン達がその方角を見据える と、流星のように加速してくる漆黒の機影……鳳凰のごとき気高さと雄々しさを携えた機体…進化の剣………

「これ以上、貴様らの好きに はさせないっ!」

リンが吼え……それに呼応し てエヴォリューションも咆哮を上げ、乗るミーティアZEROからビーム砲とミサイルが発射される。

だが、ガブリエルはバック パックの陽電子砲:ソロモンを構え……解き放たれた閃光がビームとミサイルに着弾し、相殺する。

周辺はまるで太陽に照らし出 されるように光が満ち満ちる。

閃光のなか……インフィニ ティの横につくエヴォリューション………

「姉さん…どうやら、杞憂 だったようね」

苦笑めいた言葉にレイナも微 かに笑みを浮かべる……そして、レイナとリンは前方を見据える。

「出来損ない無勢 が……っ!」

ミカエルのキャリバーが火を 噴き、2機に襲い掛かる……だが、インフィニティとエヴォリューションは分散し、レイナとリンはタイミングをあわせ、火器をフルバーストさせる。

一斉に解き放たれる閃光にミ カエルは回避するも、その全てをかわせず、攻撃が機体を掠める。

ルンは舌打ちし、一旦距離を 取るも……周囲に展開していたエンジェルが爆発した。

戸惑いながらあさってを見る と…こちらへと向かってくるフリーダム、ジャスティスら…そして、その後方にはオーディーンを含めた艦隊………

「レイナ!!」

キラが叫び、フリーダムらが 一斉に攻撃を開始し、エンジェルを破壊していく。

その増援に歯噛みする。

「ぐっ…何度も邪魔を……!  エンジェル! 連中を片づけろ!!」

弾かれたようにエンジェルが フリーダムらに襲い掛かる……ドラグーンを展開し、幾条も放たれるビームの膜にフリーダムらは分散する。

フリーダムがドラグーンを回 避し、一機に狙いをつけると同時にハイマットフルバーストし、頭部や腕部、脚部を破壊する。

接近戦を挑んできたエンジェ ルに向かい、ジェスティスがシールドで双斧刀を受け止め、流れるように至近距離でビームライフルを放ち、機体を撃ち抜く。

懐に入り込まれないように火 器を一斉に放ち、相手の攻撃を相殺しつつジークフリートで一撃に相手を破壊するマーズ。

核エンジン装備のフリーダム らはその機体性能を駆使し、一体でもなんとか互角に渡り合っているが、その他の機体では一対一では分が悪い。

メガバスターがミサイルを一 斉射し、固まっていたエンジェルを分散させる。分散したエンジェルに追い討ちをかけるようにイージスディープのスキュラが火を噴き、エンジェルを破壊す る。

だが、なおも迫るエンジェル は双斧刀を構えてくる…メガバスターとイージスディープが狙撃するも、今度はかわされ…加速したまま体当たりを喰らい、弾かれる。

「うおわっ!」

「さっきと動きが違うじゃね えか!」

先程は当たった攻撃がかわさ れ、逆に追い詰められる……接近戦を仕掛けようとするエンジェル…だが、突如前方の宙域がユラリと歪み……虚空から姿を見せたブリッツビルガーが対艦刀で 不意打ちに弾き、バランスを崩したエンジェルに向けて3連装ビームキャノンを放ち、撃墜する。

「ディアッカ、ラスティ、気 をつけてください! 敵の能力は僕達の想像以上に高いです!」

苦い声で叫び、3機は再度分 散する。

オーディーンら艦隊に迫るエ ンジェルに対しても、防衛に就く機体らが阻む。

ブリッジに回り込むエンジェ ルに向かい、ゲイツ改がすれ違うと同時にビームライフルを放ち、後方から破壊する。

ドラグーンを一斉射するエン ジェルに対し、ハイペリオン3号機はアルミューレ・リュミエールを展開して防御し、内部からのビームマシンガンの連射でドラグーンを破壊する。

ドラグーンを撃ち落とされ、 動きの鈍るエンジェルに向かい、フリッケライが突撃し、シンの咆哮とともに突き出されたスピアーがエンジェルのボディを貫き、カートリッジが動き、相手に 弾丸のごとくスピアーを機体の奥深くまで刺し込み、破壊する。

ストライクルージュがビーム ライフルを手に狙撃するも、エンジェルは悠々とかわし、懐に飛び込む。右手のランチャーを至近距離で向け、トリガーを引く。

ビームの弾丸に咄嗟にシール ドで防ぐも、その威力にシールドが破壊され、ストライクルージュの左腕ごともっていかれる。

「カガリ!」

アスランが眼を見開き、ジャ スティスが援護に割り込む……ドラグーンの一斉射をシールドで防ぐも…その熱量に表面が融解する。

さらに濃度を集束させようと 他の機体が援護に回ろうとする…これ以上熱量が増加すれば、排熱できずにシールドごと破壊される。

その時、援護に回ろうとした エンジェルが撃ち抜かれた……援護とアスランが顔を上げると…後方から高速で迫る2機……一機はスペリオル…だが、もう一機の機影をモニターで確認した瞬 間、アスランは眼を見開いた。

「イザーク……!?」

そう、形状が変わっていたた めに最初は解からなかったが、それは紛れもなくイザークの愛機であるデュエルパラディンだ。

スペリオルのビームドライ バーとビームキャノン、デュエルパラディンのフォルティスUが火を噴き、エンジェルを破壊、または牽制する。

「なにを手こずっている!  貴様らしくないぞ、アスラン!」

通信越しに聞こえてきた怒鳴 り口調……だが、その返答に苦笑を浮かべる。

「すまない、助かった」

「フン……貴様にはまだチェ スの借りを返していない! ただそれだけだ!!」

ぶっきらぼうに…そして素直 に助けにきたと言わないあたりがイザークらしい……デュエルパラディンはそのまま身を翻す。

「リーラ! いくぞ!」

「はい!!」

阿吽の呼吸のごとく……デュ エルパラディンとスペリオルは駆け抜ける。

苦戦するメガバスターら3機 のもとに駆けつけ、スペリオルが機動性を駆使し、エンジェルを翻弄する。

その隙を衝き、デュエルパラ ディンは大型ビームサーベルでエンジェルを斬りつけ、蹴り飛ばすと同時に肩のレーザーガトリング砲を連射し、エンジェルを粉々に撃ち砕く。

背後に回り込み、背中を狙お うと構えるエンジェル…だが、その背中を無防備に晒したまま……そこへ割り込むスペリオルがシヴァとビームライフル、ビームドライバーを一斉射し、エン ジェルを破壊する。

 

 


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