互いに背中を預け合うデュエ ルパラディンとスペリオル……瞬く間に周囲のエンジェルを一掃し、呆気に取られるディアッカ達にイザークの叱咤が飛ぶ。

「貴様ら! それでも赤服 か! この程度の敵に怯むな!!」

「イ、イザーク……!?」

「お前、なんで…!?」

驚いていたディアッカとラス ティは思わず上擦った口調で叫ぶ。

まさか、自分達を助けるとは 思わなかったのだろう…だが、それに対しイザークは鼻を鳴らす。

「俺とて今の状況は理解して いる…アレが敵だということもな!」

エンジェル達を睨みながら、 身構えるデュエルパラディン……だが、そこへ嘲笑が響いた。

《クハハハ! いいねぇ、熱 血馬鹿のイザーク=ジュール》

通信越しに聞こえる小馬鹿に するような声にイザークは眉を吊り上げ、リーラはビクッと身を震わせる。

身構える5機の前にエンジェ ルを掻き分けるように現われる機影……それは、エンジェルではなく……だが、それでも同質だと錯覚させるような純白のカラーリングに身を包んだザフトの MS……バルファスであった。

「その機体…貴様、ガルド か!?」

《怒鳴るな怒鳴るな……あ あ、俺だよ………ガルド=アーレスさ》

「どういうつもりだ、貴 様!?」

ビームサーベルを突きつける も、相手はまったく意にも返さず……鼻を鳴らす。

《どうもこうもないさ……ザ フトでの俺のやる事は終わったからな………ヤキン・ドゥーエも既に地獄に変えてやった……これでようやく俺も本来の場所に戻れるってわけだ》

クッククとくぐもった…それ でも抑えられないように笑みを浮かべるガルドにイザークが問い詰めるより早く別の声が響いた。

「ヤキン・ドゥーエを地獄に 変えたとはどういうことだっ!?」

割り込んできたのはイザーク 達の援護に駆けつけたアスラン……カガリの機体をM1部隊に託し、すぐさま飛んできたところへ全周波通信での応酬のなかで発せられた言葉に反応し、思わず 回線を開いて叫んだ。

イザークらも突然のアスラン に戸惑うも……ガルドは別段困惑した様子も見せず…逆に、なにかを思いついたようにニヤついた笑みを浮かべた。

《ほう……お前か…アスラン =ザラ………もっとも、俺とお前が逢ったのは一度だけだったから、憶えてないかもしれんがな……》

「何……その声…あの時 の!?」

揶揄するような口調にアスラ ンは記憶を手繰り寄せ……そして、該当した記憶があった。以前、地上でのキラ達との死闘後、特務隊配属に伴って宇宙に戻った時……ちょうどジャスティスを 受領する前にリーラのスパイ疑惑の件時にリーラを昏倒させた少年………

《そうだ……ああ、さっきの 質問だったな。まあいい、教えてやるよ…貴様らも元ザフト兵なら聞いたことぐらいあるだろう……666をな》

明らかに一部を強調した物言 いと最後に発せられた単語に……その場にいたアスラン達の眼が見開かれた。

ヤキン・ドゥーエに関する 666というコードは、ザフト兵なら誰もが一度は聞いたことがあることだからだ。

「ガルド! 貴様まさ か……!?」

「あの…666区画の……」

掴み掛からんばかりに睨みつ けるイザークと震える口調で言葉を呑み込むリーラ……それに対し、御名答とばかりに笑みが返ってくる。

《ああ……その区画にあった ものをヤキン・ドゥーエ内に漏れるように細工してやったのさ……恐らく、今頃司令部にまで到達してるだろうよ……クハハハ! なんならヤキン・ドゥーエに 行ってみろよ……俺の言ったのがプラフじゃないって解かるぜ》

悪魔のような哄笑……だが、 イザーク達はあまりの内容に唖然となる。

そんななかで……アスランは 表情を俯かせ…拳を震わせる………そこへさらに追いうちをかけるような言葉が響く。

《最高だったぜ……あの議長 閣下の絶望に染まった顔はよぉぉ! 今頃、地獄への三途の川を渡ってるだろうよぉぉぉ》

その言葉がトドメだった…… 次の瞬間、アスランの眼が見開かれ…ジャスティスが加速する。

「きぃさぁぁ まぁぁぁぁぁぁっ!!!」

怒りに突き動かされ、ジャス ティスはビームサーベルを我武者羅に振るうも、バルファスは紙一重でかわす。

《なにを怒っている…むしろ 感謝してもらいたいものだな……お前達にとって邪魔者を消してやったんだからよぉぉぉ!!》

愉悦を感じさせるように叫 び、バルファスのシールドが展開し、ビーム刃を受け止める。

歯噛みするアスランに向か い、バルファスは至近距離でビームキャノンを発射する。

咄嗟にガードするも……ほぼ 無防備の状態で直撃を受け、ジャスティスの左腕と左脚部が破壊された。

「がぁぁぁっっっ!!」

呻くアスランと衝撃に弾かれ るジャスティス……そのジャスティスを受け止めるブリッツとバスター。

「おい、アスラン!」

「しっかりしてくださ い!!」

ディアッカとニコルが呼び掛 けるも…通信からは呻き声しか聞こえてこない……機体のダメージもさることながら……今の事実は精神的にもかなりのダメージであっただろう。

ジャスティスを抱える2機の 前に立ち塞がるデュエルパラディンとスペリオル、イージスディープ……イザークは微かに歯噛みすると、操縦桿を握り締める。無論、彼とて動揺はしている… だが、それをなんとか必死に抑え込む。

「おい、お前ら! そいつを 連れて下がれ! 今のそいつは足手纏いだ!」

辛辣ながら…それでも、それ は事実を指しており……ディアッカ達は顔を見合わせ、頷く。

「ラスティ、アスランを連れ て一度ネェルアークエンジェルに戻ってください」

「ああ、お前の機体はそろそ ろバッテリーがヤベーだろう…ここは俺達でなんとかするぜ」

二人にそう論され、ラスティ も苦く頷く。確かに今の状態のジャスティスを抱えたままではイザークの評通り、足手纏いになる。だが、この状況では少しでも友軍機がほしい…ならば、現在 一番バッテリー残量と推進剤の消耗が大きいイージスディープが妥当であろう。

「解かった…ここを頼むっ しょ!」

ジャスティスを抱え……イー ジスディープは身を翻してネェルアークエンジェルに向かい後退していく。

それを見届けると、メガバス ターとブリッツビルガーもデュエルパラディンとスペリオルらに並ぶ。

「貴様……それでもザフト兵 か!?」

イザークには信じられなかっ た……いくらなんでもヤキン・ドゥーエ内にBC兵器を使用するなど…明らかに裏切りという単純な枠組みどころか常軌を逸しているとしか思えない。

「あそこには、千人近い人が いたというのに…!」

前線基地でもあるヤキン・ ドゥーエへの配置人員は多い……だが…内部でBC兵器が横行した以上、生存者はいまい……何故そんな行為に及べるのか……それに対して、相手は鼻を鳴らす だけだ。

《はっ……それがどうした… 戦場じゃ誰だって死ぬ可能性があるんだ……基地にいれば安全なんて誰が言える?》

試すような物言い……だが、 それが事実であるために思わず言葉を呑み込む。

《お山の上で安全と思ってる 猿の大将に教えてやったまでさ……しかし、反逆者どもに手を貸すなど…お前も所詮はザフトに対し忠義などないということだな、イザーク=ジュール》

「なにぃ……!?」

反論しようとした瞬間……バ ルファスに向かってビームが轟き…バルファスはフィールドで受け止める……全員がその方向を見やると…ビームライフルを構えるスペリオル……

「……赦さない………そう やって…人の命を簡単に弄ぶなんて………」

この感覚は同じだった……あ の男と…自分の思い通りに全てを操ろうとした男に………それが、リーラには大きな怒りとなる。

《赦さない…ね……貴様のよ うななんにもできない小娘が俺に歯向かえるか? リスティア……》

その声に震えそうになる身体 を必死に抑え込もうとする……そこへ、別の声が響いた。

「……怯えるな」

ビクっと身を一瞬強張らせ る。スペリオルの前に佇むように立つデュエルパラディン……その背中から力強い声が響いてくる。

「いいか、戦場で決して弱い 部分を見せるな……死ぬぞ………お前への恐怖は俺が全部受け止めてやる…お前は俺が護る……だからお前も…自分に負けるな!」

不器用ながらも熱い想いの込 められた声……それがリーラの内に拡がっていく。

恐怖が消えていく…この人が いれば、自分は決して迷わない………この人となら、相手がなんであろうと戦える………リーラはキッと表情を引き締め…操縦桿を握る。

刹那……弾かれたようにエン ジェルの砲撃が起こり…4機は分散する。

「イザーク! リーラ! あ のムカつく野郎を倒してこい!!」

「いってくださいっ!」

メガバスターとブリッツビル ガーが火器を発射し、エンジェルを牽制する……その隙を衝き、デュエルパラディンとスペリオルは加速する。

エンジェルの間隙を抜け…… そのまま一気にバルファスへと迫る。

ガルドは舌打ちし、ビーム キャノンを連射するも、デュエルパラディンの装甲に阻まれ、ビームは拡散する。

「うぉぉぉっっ!!」

イザークが吼え、ビームサー ベルが振り下ろされる……バルファスはフィールドで受け止め、同時にビームクローを振り上げて弾く。

だが、その後方から迫るスペ リオル……ビームキャノンで応戦するも、スペリオルはその機動性を発揮し、攻撃をかわす…まるで、分身のごとき残像を残しながら連射を掻い潜る。

「もう…もう私は惑わされな い! 私は………戦う!」

身体に掛かるGに耐えなが ら…リーラが叫び……スペリオルは流星のように加速し…全火器を一斉射した。

その攻撃の渦に咄嗟にフィー ルドを張るも……それより早くフィールド発生装置のユニットが破壊され、バルファスに攻撃が着弾する。

流星と化したスペリオルが駆 け抜けた後……加速が止まるとともにリーラは呼吸を激しく乱す。

咄嗟に出た今の技……スペリ オルの超加速を利用した攻撃……流石にアレを受けては一溜まりもないはず……爆発の後からは……半壊したバルファスが現われる。

《ククク……驚いたな……… まさか、貴様がここまでやるとは………》

アレだけの損傷を自機に負っ ているというのに、ガルドは余裕の態度を崩さない……身構えるリーラとイザークは囲むように対峙する。

「強がりをっ! 貴様だけは 赦しておかん!」

単なる強がりと取ったイザー クはビームサーベルを構える……普段なら、戦闘能力を失った相手を討つのはイザークにとって不本意なことだが…この男だけは赦せない。

トドメを刺そうと振り上げよ うとした瞬間……突如、衝撃がコックピットを襲った。

「うぉっ!」

背後から攻撃を受けたデュエ ルパラディンのバックパックから火が上がり、バランスを崩す。

「イザーク…きゃぁっ!」

思わず声を荒げたリーラにも また同じように衝撃が走り……バランスを崩す。

《……なにを遊んでいるので す…08》

無機質な声がその場に響 き……半壊したバルファスの前に現われる純白の翼に真紅の瞳を鈍く輝かせる怪鳥:ラファエル………そのラファエルの横に佇むディスピィア………

《別に遊んでいたわけじゃな いね……ただ、こいつらに無意味だってことを教えてただけさ……虫けらがいくら足掻こうが無駄だとね》

肩を竦めるガルドにイリュー シア…いや……もうその名は必要ない。アクイラは表情を変えずに一瞥する。

「ぐっ……貴様は…!」

《申し訳ありませんが……お 二人には消えていただきます》

冷たい声……刹那…ラファエ ルの身体が分解する………いや…変形した……まるで鎧のように分かれるフレーム内にディスピィアがバックステップで飛び込み……フレームの鎧がディスピィ アを覆い固めていく。

白いボディに装着される白い 装甲……そして、鳥の翼が拡がる………純白の兜にも見える鎧が装着され……気圧が漏れる音が響く………クロスシステムと呼ばれる外部強化型フレームを持つ 純白の騎士に怪鳥の翼を持つ天使………ラファエルの真の姿であった。

《あまり時間は掛けられませ んので……失礼いたします》

あくまで崩さないその礼儀に イザークとリーラはまるで毒気を抜かれ……一瞬隙をつくる。

刹那、ラファエルの姿が消え る……ハッと眼を見開いた瞬間には…懐に入り込まれ、薙刀を振るってデュエルパラディンの胸部に向かって薙ぐ。

「ぐっ!」

反射的に後退したためにコッ クピットへは届かなかったものの……装甲が斬り裂かれ、傷跡が残る……だが、ラファエルは脚部を振り上げ…デュエルパラディンを弾き飛ばした。

「うあぁぁっ!」

その衝撃に呑まれ…呻くイ ザーク……リーラが声にならない悲鳴を上げ、眼を見開くも…その瞬間にはラファエルは次の獲物であるスペリオルに狙いをつけていた。

背筋に走る冷たい感触に咄嗟 にブリューナクを展開し…瞬きする間に懐へと飛び込んできたラファエルの薙刀を受け止める。

《……成る程…規格外とはい え……貴方もやはりMCですね》

エネルギーがスパークするな か…コックピットに声が響く。

リーラは歯噛みし、ブリュー ナクを解除し高機動モードに入る……その後を追うラファエル……互いに機動性を重視した相手同士……この状態で一撃でも当てれば致命傷になる。

ビームサーベルを構え……互 いに均衡を保つように加速し…やがて、相手に向かって突進した。

「えぇぇぇぇいい!!」

気迫とともに振り薙がれる 刃……相手も同じように返してくる……一瞬の交錯の後…互いに離れる……静寂が支配した後……スペリオルの左肩に一閃が刻まれている。そして……ラファエ ルの頭部の強化装甲にも……だが、リーラは不審に思った。

あの瞬間……互いに攻撃を繰 り出したとき…自分の方が遅かった……なら、もっと致命傷を負っていてもおかしくないはずなのに……そこでハッと気づくと…ラファエルのバックパックから 僅かに煙が昇っていた。

アクイラが動揺もしていない 表情で新手と振り向くと……離れた空間に滞空する機体…翼を大きく拡げ、両手でロングライフルを構える。

「シホ…っ!」

その機影:シュトゥルムにイ ザークが声を張り上げる……シュトゥルムはそのまま戦闘宙域に入り、スペリオルに並ぶ。

「援護します」

やや硬い声で聞こえるその言 葉にリーラはどこか呆気に取られていたが……すぐに表情を引き締めて頷く。

「ありがとう」

「礼は不要です……ジュール 隊長が貴方方を助けた…だから私もそうするだけですので」

それだけでリーラはシホのイ ザークへの想いのほどを感じ取った……そして…もう言葉は不要とばかりに身構え……一拍後、2機はラファエルに向かっていった………

 

 

エンジェルに苦戦する仲間 達……そんななか…ミカエル、ガブリエルと対峙するレイナ達……構える両者……ミカエルに向かい、エヴォリューションが加速し…ガブリエルにフリーダムと マーズが立ち向かう。

ミーティアZEROの加速に のったまま……上部で連結させたインフェルノを振り上げる。ミカエルもまたアシュタロスを抜き、同じように連結させると回転させ、構える。

リンとルンが互いに吼え、 ビーム刃を振り薙ぐ。

交錯を繰り返し…互いに肉縛 する……エネルギーをスパークさせながら、剣を振るう。

ガブリエルはゲヘナのガトリ ング砲とレーザー突撃銃、左腕のソドムを連射してくる。

広域に降り注ぐビームの弾丸 の嵐にフリーダムとマーズは防戦一方になる。

「ぐっ!」

「きゃぁっ!」

シールドで防御するも、その 濃密な火力に反撃できない。

そして、コックピット内で ウェンドはフッと鼻を鳴らし……次の瞬間、ガブリエルの全身の装甲ハッチが開き、両外肩の大型ミサイルを構える。

「フッ……サラマンダー」

静かにボソッと呟いた瞬 間……ガブリエルから数百発のミサイルと大型ミサイル:ユリウスが放たれる。

業火をその身に宿せし獣の放 つ炎……それが一斉にフリーダムとマーズに襲い掛かる。

全方位から襲い掛かるミサイ ルに今の状態ではやられると……キラとラクスは瞬時に察した。

「ラクス!」

「ええっ!」

フリーダムが全火器を構 え……背中合わせに佇むマーズも続くように胸部のスキュラ、肩のシヴァU、ショルダーガトリング、バックパックのフォルティスUと両手のジークフリート、 ウラヌスを構える。

アレだけのミサイルを防ぐに はこちらも応酬して相殺するしかない…キラとラクスはタイミングを併せて……トリガーを引いた。

刹那……フリーダムとマーズ のハイマットフルバーストが解き放たれ……凄まじいエネルギーの応酬がミサイル群と激突し合い、3機の周囲は超新星の爆発のごとき巨大なエネルギーの濁流 が荒れ狂った。

周囲に拡散するエネルギーの 濁流が周辺の浮遊物だけでなく展開していたエンジェルにも襲い掛かり、浮遊物は消滅し、エンジェルも装甲が融解し、爆発する。

エネルギーが粒子となって周 囲に溶け込んだ後……3機の周囲は静寂に包まれる。

だが、キラとラクスは息を切 らしている……その光景と相手の恐ろしさに………

「ほう……サラマンダーに耐 えるとは………少しは愉しませてくれるかな?」

自身の攻撃を防がれたという のに……ウェンドは余裕を崩さない。

精神的に衝撃を受けたキラと ラクスは反応が遅れる……だが、ウェンドは別方向からの攻撃に気づき……機体を捻る。

フリーダムとマーズの前に現 われるストライクテスタメント、インフィニート、ヴァリアブル……その姿にキラとラクスが表情を和らげる。

「ムウさん! アルフさ ん!」

「メイア様!」

弾むラクスの声に応じ、僅か に振り向いた3機が頷く。

「少年、ラクス嬢…少し休ん でなさい」

「ああ、さっきのはかなりき てるだろうからな」

その評通り…先程の衝撃が強 すぎ、未だ操縦桿を握っていても手が震えているのだ。

「さぁ、第2Rは俺らが相手 だぜ!」

睨むムウにウェンドは肩を竦 める。

「いいでしょう……くるがい い…もっとも……僕の手を煩わせる必要などないですが」

見下すように呟くと…ウェン ドはコンソールのボタンを押す。それに連動するように…なにかのスイッチが入った。

身構える3機…攻撃に入ろう とした瞬間……周辺から急接近してくる反応を捉え、息を呑む。

「これは…ザフト軍機!?」

識別を確認したメイアが怪訝 そうに声を上げる。

今現在のこの混乱状態でまと もに動けるのはいないはず……だが、周辺から集まってきた機影にさらに疑念を膨らませる。

周辺から集まってきたのはザ フトのバルファスがほとんど……眼を見開く3人の前でガブリエルの周囲に護るように集結するバルファス。

「おい、いったいどういうこ とだ……なんで奴に…!?」

アルフの問いにムウとメイア も答えられない……だが、それに答えたのは他でもないウェンドだった。

「驚くことはないでしょ う……この機体が何なのか、お忘れですか?」

疑念を膨らませる一同に向 かって囁かれる言葉……その言葉に流されるように思考を巡らせる……バルファスは、ザフトが開発したMMシリーズの一号機……AIによる完全自立型無人兵 器……そこまで考えて、なにかに思い至ったように3人は眼を見開いた。

「まさか……っ!」

それに気をよくし…見透かし たようにウェンドは笑った。

「そう……機械は説得が楽で いいですね………僕は面倒くさいことは嫌いでしてね…僕の相手がしたいなら…まずはお人形を倒してからにしてくれますか?」

挑発するように慇懃に囁く と……バルファス群は弾かれたように3機に襲い掛かる。

慌てて応戦する3機にウェン ドの言葉が響く。

「ああ、貴方方が倒されない かぎりは…僕もここを動きませんので」

明らかに傍観者の立場となっ たウェンド……傀儡と化したバルファス群を相手に、ストライクテスタメント、インフィニート、ヴァリアブルは必死に応戦する。

 

 

 

ミカエルとエヴォリューショ ンが…ガブリエルとムウ達がそれぞれ戦闘を繰り広げ…レイナのインフィニティはウェンディスを羽ばたかせてジェネシスに向かっていた。

立ち塞がるエンジェルに向か い、インフェルノを一閃する。

ボディが上下に斬り離れ…… 鮮血とも錯覚するオイルが飛び散り、インフィニティに降り注ぐ。

血を浴びながら加速するイン フィニティ……だが、レイナは突如脳裏に走った感覚に身を捻った。

空いた空間を過ぎる炎の光 球……上を見上げると………立ち塞がるように佇む同じように真紅の鮮血に身を包んだボディを持つ機体…ゲイルインサニティと漆黒の傀儡、ヴァニシング……

「ウォルフ……っ!」

フィリアから聞かされた…… 自身の遺伝子提供者…ヴィア=ヒビキの伴侶……ユーレン=ヒビキのクローンであり、強化人間………だからといって、レイナにはなんの感慨もない。

あるのは敵という感覚の み……身構えるレイナに向かって既に馴染みになっているウォルフの哄笑が響いてきた。

「ッククク…お前の相手は俺 だといったはずだぞ………BA」

揶揄するような口調とともに ゲイルの翼が開き、ファーブニルを構えて突進してくる。それに続くようにヴァニシングもガトリング砲を構えて向かってくる。

ファーブニルが伸び、竜の牙 が襲い掛かるも……デザイアで捌き、マシンキャノンで狙撃する。

「どけぇっ、ウォルフ! 今 はあんたと戦ってる暇はないのよっ!」

吐き捨て、ヴァニシングから のガトリング砲をかわしながら距離を取る。だが、それに対しウォルフは鼻で笑うだけだ。

「ひゃはは! つれない ねぇ……俺と遊ぼうぜぇ、BA!」

ゲイルのウイングから起動す るプラズマビームが放たれ…インフィニティはデザイアで受け止める。

「もっとも…そんな戯言はこ の俺を倒してからにするんだなぁ!」

歯噛みするレイナ……横に回 り込んだヴァニシングに間髪入れず気づく。ヴァニシングのガンバレルが展開され、生き物のように動きながらインフィニティを狙い撃つ。

操縦桿を小刻みに動かし、ガ ンバレルの軌道を見切りながら回避する……網のように放たれるビームの膜を細かな機動で紙一重でかわす。

リンのドラグーンの攻撃とシ ミュレーションを行なったレイナにしてみれば、ガンバレルの動き程度なら見切れる。

眼のなかを瞳が縦横無尽に動 き、ガンバレルの動きを読む。全神経を集中させ……張り巡らせた感覚が捉えた瞬間、トリガーを引いた。

フェンリル、ヴェスヴァー、 フェイタルセイヴァーが火を噴き……ガンバレル4基を貫き、破壊する。

ガンバレルの破損にヴァニシ ングの動きが鈍る……その隙を衝き、一気に懐へと飛び込むインフィニティ……ヴァニシングを見据えながら…デザイアを押し付け…トリガーを引いた。

刹那…デザイアのビーム砲が 放たれ………ヴァニシングの装甲を融解させる。

ラミネート装甲によって全壊 は避けられたものの…装甲表面がほぼ融解し、蛇行する…それを見詰めながら軽く息継ぎする。

だが、背筋に走る冷たい気配 に反応し……反射的にインフェルノを抜き、振り被る。

背中から振り下ろされたビー ム刃を受け止め、エネルギーがスパークする。流れるようにフェンリルをゲイルに向けた瞬間……ゲイルは左手で砲身を掴み、照準をずらす。次の瞬間、振動で トリガーが引かれたフェンリルの砲口から高出力のビームが放たれ…その進路上にいたエンジェルを撃ち抜き、破壊する。

爆発が両機を照りつけるな か……漆黒の堕天使と真紅の狂竜は対峙し、膠着する。

「ウォルフ……これがあんた の望みか!? こんなことが…!」

侮蔑するような言葉……だ が、すぐに返答は返ってこず……返ってきたのは低く笑う声………

「なんのため……か? なん のためなのかねぇ……」

喰った…小馬鹿にするような 挑発………レイナは表情を顰める。

「お前が教えてくれるか い……愛してるぜぇぇ! BAェェェェェェェ!!!」

膠着を振り解き……互いに弾 かれるように離れるインフィニティとゲイル………ウォルフの真意がどうであれ…これ以上ここで時間を掛けるわけにはいかない。

そんな逡巡するレイナに再び 衝撃が轟いた。

「ぐっ!」

ゲイルの攻撃ではない…… ハッと気づくと、周囲にいたザフト軍機………一瞬怪訝そうになるも……エンジェルに眼もくれずインフィニティを狙う動きから、カインの言ったインヴェー ド・ナノマシンとやらに脳を喰われた者達………

ゲイツやジンがビームライフ ルや突撃銃で狙撃してくる…こんな状況で……と内心に毒づき、ヴェスヴァーを発射する。

ビームに機体を撃ち抜かれ、 爆発する…その爆発に怯みもせず突撃してくる機体……それが雪崩れ込むようにインフィニティに掴み掛かる。

「しま……っ!」

迂闊と毒づく前に亡者のごと く群がるようにインフィニティに掴み掛かり、動きを拘束する……完全に動きを封じられたインフィニティ…レイナが操縦桿を動かすも、拘束は強く…振り解け ない。

その隙を逃さず……インフィ ニティの前方に現われるゲイル…見下ろしながら……ウォルフはほくそ笑む。

「いい格好だな……まるで亡 者どもがお前を呼んでいるようだぞ」

インフィニティの様相にクク と喉で笑いながら、ゲイルはファーブニルを構え…刹那、ファーブニルが伸び、インフィニティのボディに噛みつく。

牙がボディに喰い込むように 抉り込み…軋む音と機器のショート音がコックピットに木霊する。

「さぁて……このまま握り潰 されるのがいいか…それとも……灼かれて消えるのが好みか な?」

まるで死を愉しんでいるよう な声……だが、レイナは表情を変えない。

「俺がなにを望んでいるか… そう訊いたよなぁ、BA……俺は、ただ俺が満足できりゃそれでいいのよ………人間なんぞ所詮宇宙のゴミだ…ゴミを片づけて感謝こそされ、非難される謂れは ないと思うがね」

ピクっとレイナの表情が僅か に強張る。

「世界を新たに創り変えるの は……神の特権だろうよ!」

そう宣言したウォルフ……だ が、レイナの視線と殺気は鋭くなる。

「御託はそれだけ? 大した 夢想家よ、あんたは」

低い声で吐き捨てると、特に 気にした様子も見せずウォルフは視線を向ける。

「神なんていない……まして や…貴様達が神を気取るなんて………見当違いもいいとこね………私は…そうやって自分が神なんて気取ってる奴が………」

呟きながら操縦桿を握り締 め……レイナの気配に呼応するようにインフィニティも低い唸りを上げる。

「気に喰わないっ!」

レイナの内の獣が牙を剥 く……インフィニティの瞳が強く煌き、ウェンディスが大きく拡がる。展開された真紅の翼に機体を斬り裂かれ、数機が爆発する。

拘束が僅かに緩まった一瞬を 衝き、インフィニティは両腰からインフェルノを抜き、周囲に向かって振った。幾条も煌く閃……次の瞬間……機体を斬り裂かれ、細切れになるMS……その包 囲網から飛び出した瞬間、閃光が轟く。

やや瞑目するが…やがて迷い を振り切ったように視線を細め……ゲイルを見据えた瞬間……インフィニティは加速する。

正面から向かってくるイン フィニティに対し、ゲイルはファーブニルを飛ばす。

その軌道を見切り…添うよう に回避する………一度伸びたファーブニルを戻すのには僅かに時間が掛かる。

その隙を衝き、懐に飛び込ん だインフィニティはインフェルノを振り下ろし、ゲイルを斬りつけるも……ゲイルも咄嗟に身を倒し…致命傷は避けたものの、胸部に一閃が刻まれる。

「ウォルフ! 貴様との因 縁…ここで終わらせてもらうっ!」

脚を振り上げてゲイルを蹴り 飛ばす。

弾かれるゲイル……だが、弾 かれた勢いのまま一回転し、浮遊していたジンの残骸を足場にし、蹴り飛ばして再度向かってくる。

「つれないねぇ、BA! 地 獄まで洒落込もうぜぇぇぇっ!」

拳を振り被り、ファーブニル を飛ばす…そのファーブニルの横をすり抜け、懐に飛び込んだインフィニティがカウンターで拳をゲイルの頭部に叩き込む。

「あんたと逝くつもりは…な いっ!」

冷たく言い捨て、バーニアが 火を噴き、そのまま弾き飛ばす……今度は逃さない…オメガを構えようとするも……背後に殺気を感じた瞬間、インフィニティはエンジェルに機体を拘束され た。

腹部、腕部、脚部と数機掛か りで拘束され、ウェンディスを展開しようとするも…エンジェルはスラスターの噴射口を抑え込んでいる。この状態では展開した瞬間、スラスターが爆発する。

歯噛みするレイナの前で…態 勢を戻したゲイルが接近し……距離を空けて静止すると、胸部ハッチと両腕のファーブニル、そしてプラズマビーム砲を構える。

アレだけの火器を無防備に喰 らえば、いくらインフィニティでも保たない……必死に操縦桿を動かすも、機体は動かず…完全に封じられている。その隙を逃さず…ゲイルの火器の発射口にエ ネルギーが集束し、エネルギーがスパークする。

 

 

 


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