ミカエルと戦闘を繰り広げて いたエヴォリューションのコックピットで、リンは脳裏に感覚が走った。

「っ! 姉さん!」

ハッとモニターでインフィニ ティを確認すると、その状況に息を呑む。

「いけない……っ!」

刹那、思わずミカエルに背を 向けて加速する……その姿にルンは表情を顰める。

「余所見など…っ!」

戦いの最中に余所見など…自 尊心を傷つけられたようで、ルンは怒りのままにキャリバーを連射する。

背後から迫るビームにリンは 感覚だけを頼りにエヴォリューションの機体を操作し、紙一重で掻い潜るように回避し、加速する。

その接近に気づいたレイナは 眼を見開いた。

「リン!?」

この状況で飛び込んでくるの は自殺行為だ……静止させようとしても間に合わない。

「やらせないっ!」

だが、リンは怯むことなくエ ヴォリューションをインフィニティの前に割り込ませた。

臨界を超えて発射しようとす るゲイルの前に立ち塞がり、インフィニティの盾となろうと両腕を拡げる。兄弟機として……護衛機として生み出された運命に従って………護るべきもののため に………

その姿にウォルフは愉悦に満 ちた笑みを浮かべ…トリガーを引こうとした瞬間、別方向より放たれたビームに気づき、思わず指を止める。

それが命取りになり、ビーム は発射態勢のまま臨界を超えていたエネルギーに直撃し、集束していたビームが拡散し、装甲が融解してゲイルは態勢を崩す。

レイナとリンが思い掛けない 援護に眼を向けると……フリーダムとマーズ、そしてルシファーが急接近してきた。

フリーダムとルシファーは ビームライフルで正確にインフィニティを掴んでいたエンジェルを撃ち抜き、インフィニティを解放する。

拘束が解けた瞬間、インフィ ニティはすぐさま飛び立ち…立ち往生するエンジェルに向けてマーズがウラヌスとジークフリートで狙い撃ち、破壊する。

合流する各機……フリーダム がインフィニティの横につくと、キラが叫ぶ。

「レイナ! ここは任せ て!」

「貴方は早く!」

インフィニティを促すように 前に出るフリーダムとマーズ……その姿にレイナは苦笑を浮かべる。

「……解かった。キラ、ラク ス…頼んだわよ」

レイナが自分達を頼ったのが 意外だったのか…一瞬呆気に取られるも、すぐさま頷き、2機はゲイルに向かっていく。

リンはレイナを一瞥すると、 再度ミカエルに対峙するために離れる。

「レイナさんはいってくださ い……僕は………僕の役目を」

意志のこもった眼で見据える のは……半壊したほどのダメージを負ったヴァニシング……カムイにとって、フィリアに共に育てられた……きょうだい………

その関係を知っているからこ そ、レイナはなにも言わず……無言で身を翻し、ウェンディスを拡げてその場を離脱していく。

彼方に光の矢のように去って いくインフィニティを見送ると、カムイはキッとヴァニシングを見据える。

メンデルでの邂逅……数年振 りに再会したきょうだい………MCとして生を受けながらも、カムイはそこまで己の境遇に嘆いたことはない。

彼が生まれてすぐフィリアが カムイの教育係になり、フィリアに育てられたからだ……アディンのように失敗作と罵られることもなく……レイナやリンのように闇に囚われることもなく…… ただ能力的に異質というだけで………だからこそ…眼前のアディンは自分がなんとかしなければならない。

救えないのなら……せめ て………きょうだいとして…親友として……苦しみから解放する。

その決意を秘めるカムイ…対 峙したヴァニシングが瞳を輝かせ、ミサイルを放つ。

ルシファーはスラスターを拡 げ、ミサイルをかわすもミサイル数基が追尾してくる……バルカンで狙い撃ち、ミサイルを撃ち落とす。

だが、カムイはすぐさまバッ クパックのオーバーハングキャノンを構えて狙撃する。ビームの奔流がショットクローを撃ち落とす。

ヴァニシングは装備されてい る火器を使用し、ロングキャノンで砲撃してくる……シールドで受け止めるも、その威力に押し戻される。

「ぐっ!」

いくら半壊しているとはい え、ヴァニシングは新型GAT、ルシファーは試作型GAT…当然、能力的にはかなりの差がある。

加えて…カムイはパイロット としての能力はMCのなかでは極端に低い。

そのために防戦的になる…… ヴァニシングがステルスライザーのアシッドシザースを展開し、クローが伸びて襲い掛かる。

真っ直ぐに伸びるクローが一 点に破壊力を集束させて突進し、シールドがその勢いに破壊された。

「うわぁぁっ!」

粉々になるシールド…弾かれ るルシファーに向かい、追い討ちをかけるようにエクツァーンを連射する。

襲いくる光弾に晒されるも、 態勢を立て戻し、ビームキャノンで応戦する。だが、伸びるビームもヴァニシングのプラネットに阻まれ、機体には届かない。

このままではジリ貧で追い詰 められる……カムイは意を決して操縦桿を引き、レバーを引いた。

ルシファーが加速し、ヴァニ シングに迫るなか、カムイは周波数を合わせて叫ぶ。

「聞こえるかっ、アディン… アディン=ルーツ! 僕はカムイ…カムイ=クロフォード! 僕の声が聞こえるかっ!?」

かつて共に育てられ…共に生 きた……その呼び掛けにアディンは表情を微かに強張らせ…ヴァニシングの動きが止まる。

「僕の声が聞こえているな ら、やめてくれ! 僕達が戦う必要なんてない!」

その言葉に反応し……アディ ンは頭を抱えて苦しみ出す。

「っ……ぐっ」

アディンの脳裏を掠める映 像……だが、その激しい衝撃にアディンの脳は拒絶反応を起こす。

「ぐっ……がぁぁぁっ!」

吼えるアディン……苦しみか ら逃れたい一心で…操縦桿を動かし、トリガーを引く。

それに連動してヴァニシング のイーゲルシュテルンが火を噴き、ルシファーに着弾する。

息を呑むカムイ……その前 で、ヴァニシングはビームアクスを抜く。

振り上げて斬り掛かるヴァニ シングにカムイも歯噛みし、ビームサーベルを抜いて受け止める。

「ダメなのか……もうっ!」

葛藤に苦しみ、エネルギーが スパークする。

 

 

 

戦いがいたるところで激化す るなか……インフィニティは一路…メタトロンに向かっていた。

そして…モニターにメタトロ ンの機影を捉え、眼を細める。

「カイン……っ!」

睨むと同時にインフィニティ はメタトロンの上に舞い上がり……オメガを放つ。

対し、メタトロンもショル ダーのビーム砲を展開し、発射する。両機の中間点でエネルギーが激突し、火花が散る。

その瞬間には互いに位置を変 え……牽制するように距離を取り、メタトロンは腰部から剣を取り出す。

手に構える『魔王』の名を冠 する剣……サタンサーベルに真紅の光の刃が展開される。

インフィニティもインフェル ノを抜き、距離を詰め…互いに相手に向かって振り下ろす。

サタンサーベルの刃をデザイ アで…インフェルノの刃を翼で互いに受け止め、エネルギーがスパークする。

コックピット越しに相手を見 据え……レイナは眼を細める。

「私はイヴではなくリリ ス……アダムを殺すために地獄へとその身を堕としたもの……」

神話のなかの一節……最初の 人間、アダムの妻はリリス…だが、リリスはアダムと袂を分かち、地獄にその身を堕として同じく地獄に堕ちた天使:ルシフェルの妻となった……

堕天使の翼をその身に纏い… そして……対であった存在と敵対する……滑稽なほどなぞらえている………

吐き捨て、推し合うと同時に 弾くように離れる。

離れた瞬間、メタトロンの拡 げる8枚の翼のうち、4枚の翼にきめ細かなラインが走り…刹那、翼が幾つもパーツに分解し、宙を舞う。

「っ!?」

その光景に息を呑み、身構え る……メタトロンの周囲に舞う純白の羽……それらの先端には、砲口が一門鈍く輝く。

メタトロンがサタンサーベル を振り翳し…前に指し示した瞬間、無数の羽は飛び立つ。

あらゆる方向からインフィニ ティを包囲し、羽からビームが放たれる。

「くっ!」

数十以上のビームの攻撃をか わすのは不可能……レイナはインフィニティの両肩のリフレクターシステムを起動させ、インフィニティの周囲にフィールドを造り出す。

ビームの閃光がフィールドに 阻まれ、届かない……だが、これだけ展開させていては、焼け石に水…インフィニティのビームシールドは機体全体を覆うほどに展開できないのだ。

そのために、数で攻める羽群 は方向を変えてビームを放ってくる。デザイアで受け止め、そして同時に回避を行なう。全感覚を周囲に張り巡らして動きを読む……だが、全てのビームを受け 止めることもかわすことも長くは続かない……徐々に追い詰められ、一方向から放たれたビームに気づく。

かわせない……そう直感し た………僅かにこちらの方が遅い……目標は頭部………レイナは半ば強引に操縦桿を切り…インフィニティは機体を傾ける。コンマ数秒の差で…機体を傾け、 ビームの射線から頭部を外すも、右肩の装甲に着弾し、リフレクターシステムが破壊される。

「ぐぅぅぅ!」

衝撃に揺れるコックピットで 歯噛みする。

強化装甲のおかげフレームに 損傷はないが、それでもリフレクターシステムを破壊されてしまった以上、もうビームシールドは展開できない。

『……いい動きだ…流石に幾 多の死線を潜り抜けてきただけのことはある』

あの一撃は間違いなく頭部を 破壊するはずであった……そのカインの目論見を外したことに称賛を浮かべていた。伊達に場数を踏んでいない。

だが、レイナには余裕がな い……もうビームシールドは使えない。これだけの攻撃機動ポッドに対抗できるか……レイナは…不意に、正面パネルを見やった。

そして……なにかを決意した ように、顔を上げる。

「インフィニティ……あんた の力………今一度…私に…………」

レイナの意志に呼応するよう に…インフィニティは微かな唸りにも似た駆動音を響かせる。

埋め込まれたクリスタルが輝 き、今一度……システムが起動する………

瞳を閉じ……覆うような闇に その魂を委ねる………鼓動が大きく脈打つ。

 

DRIVE

 

コックピットが光に包ま れ……インフィニティの瞳が真紅に煌き、ウェンディスが大きく拡がる。

弾かれたように攻撃を再開す る羽……ビームが幾条も襲い掛かる。

だが、レイナは瞳を閉じたま ま……全神経を闇のなかに張り巡らせる。

 

―――――眼で追うな……相 手の気配を……闇のなかの殺気を感じろ…………

 

なまじ眼で追ってしまうか ら、どうしても反応が遅れる……なら、視界ではなく感覚を頼りに相手の動きを読む。

闇に溶け込むような感覚のな か……自身に襲い掛かってくる殺気を読み、その軌跡が全てレイナの感覚に捉えられる。

幾条も襲い掛かるビームの網 を細かな機動を駆使し、かわしていく。機体がブレ、残像のように映る。

鋭い動きでビームの隙間を縫 うように機動し、攻撃をかわす。

だが、よけているだけでは何 にも変わらない……インフィニティは徐々に距離を詰め、メタトロンに向かっていく。

距離を詰めれば、相手も攻撃 の手を変えざるをえない……徐々にビームの隙間が大きくなってくる。

その包囲網から飛び出したイ ンフィニティはヴェスヴァーを放つ。閃光が射線上の羽を数基破壊し、メタトロンに迫るも、メタトロンも肩のビーム砲を放ち、相殺する。同時にサタンサーベ ルの上下に刃を展開し、2連装に変えるとそれを勢いよく投げ飛ばす。

ビーム刃を纏い、高速に回転 しながら迫るブーメランを機体を傾けてかわすも…ブーメランは弧を描き、戻ってくる。そして、前方からはメタトロンがミサイルを構える。

百近いミサイルが発射され、 ブーメランと並んで迫る……レイナは間髪入れず、次の行動を頭に浮かべ…後方から迫るブーメランに対し、機体を捻って横殴りに蹴りを打ち込んだ。

ブーメランの中心は無防 備……機動をずらされたブーメランは蛇行し、ミサイル数基を破壊しながら飛ぶ。

残ったミサイルに対し、イン フィニティはデザイアを放ち、一掃する……爆発が両機の間を照らすなか、蛇行していたブーメランがメタトロンの手に戻り、静かに構える。距離を空けて対峙 するインフィニティ………息詰まる戦いのなか…レイナとカインは互いに相手を見据える。

だが、次の瞬間にはその場を 離れ、高速状態になって互いに剣を構える。相手が振るった刃をかわし、または受け止める。幾度となく交錯し合い、火花が散る。

『何故そこまでして戦 う……?』

唐突に…脳裏に声が響く…… 微かに眉を寄せるレイナに向かい、メタトロンの左腕のロッドを振り被り、それを叩きつける。

竜の尾のごとく鋭く振り下ろ された一撃を咄嗟にデザイアで防御するも、勢いを相殺できず、弾かれる。衝撃で左腕の機能が微かに麻痺する。

歯噛みするレイナに向かい、 声が響く。

『お前が……何故そうまでし て人間の…世界のために戦う必要がある……?』

再度問われる問いにレイナは 無言のままだ。

『あの世界は既に病んでい る……生命が互いに貪り、殺し合い、滅ぼし合う……あまつさえ、自らの世界そのものを破壊する……何故、そんな世界のために戦う?』

負の感情が横行し、自分達の 世界さえ破壊することを厭わず……自らを選ばれた者と自賛する……そんな醜く汚れた世界………

だが、レイナはそれに対し自 嘲し、肩を竦める。

「何故………か…あんた も……あいつと同じことを訊くんだね………答えは…既にあんたに示したと思うけど?」

軽く笑みを浮かべ、右手に フェンリルと左手にダークネスを構え…一斉に発射する。

メタトロンも動じず翼を拡 げ、ボディを覆ってビームを弾く。それに続くように懐に飛び込んだインフィニティがインフェルノを振り被り、メタトロンもサタンサーベルを振り上げて相手 を斬りつける。

刃が交錯し、エネルギーが機 体を照りつけるなか……互いの瞳に相手の頭部が映る。

鍔迫り合いを繰り広げ、エネ ルギーの干渉によって互いに弾かれる。

「はぁ、はぁ………」

レイナの呼吸が乱れてき た……先程からシステムをドライブさせ続け、過負荷が大きく身体と脳に掛かり、体力の消耗も激しい。それだけではない……魂を闇に喰われるような虚脱感を 同時に憶えていた。

このままシステムを酷使すれ ば、最悪自滅がありえる……だが、システムをドライブさせた状態でなければメタトロンと互角に渡り合うのは難しい。

ならば、一気に決めるしかな い……両手でインフェルノを構え、レイナは瞳を閉じ…呼吸を止める………闇に覆われる感覚……一切の音が消えた静寂のなかに全身と全感覚を委ね、構える。

メタトロンも、それに応じて サタンサーベルを構える………戦場のなか…その空間だけが切り取られたように静寂に包まれる。

互いに相手の出方を窺い…… その動きに全ての感覚を向ける………どれ程そうしていたのか……遠くで爆発が響いた瞬間………レイナとカインの眼がカッと開かれた。

刹那、インフィニティとメタ トロンは同時に加速し、相手に向かっていく。

「はぁぁぁぁっっ!!」

真紅の翼を拡げ……黒衣の堕 天使が咆哮を上げ、真紅の刃を構える。

「おぉぉぉぉっっ!!」

純白の翼を拡げ……白銀の天 使は内の黒き感情に突き動かされ、真紅の刃を構える。

互いに吼え……刃を振り上げ る。

一際大きな激突音が響いたと 錯覚するほどの交錯……瞬きするよりも速い…まさに光速のごとき一撃を相手に向かって打ち込み……互いに交錯点より離れ………

数秒後……インフィニティの ボディに一閃が刻まれていた………小規模な爆発が胸部付近で起こる。

「ぐっ!」

衝撃に呻く……致命傷ではな かったが、それでも装甲を破損してしまった。

煙を噴き上げるインフィニ ティ………対し……メタトロンも動きを止めていた………一見、無傷に見えたが……サタンサーベルを構える右腕から火花がこもれ…次の瞬間、右腕が砕け散っ た。

いや……右腕だけではな い………メタトロンの頭部…右眼にもその斬撃は僅かに届いていたらしく…カメラアイの表面が砕け、その下の機械的なカメラが覗いていた。

だが……コックピット内 で……カインは動じることも呆然となることもなく…ただ……微かに口元に笑みを浮かべていた。

無防備に背を向けていたメタ トロンに怪訝そうになるも……レイナはそれよりもと前を見据えた。

眼前には、ジェネシスの本 体……既にシステムを行使するのも限界に近い。メタトロンをここで倒すのは難しいかもしれない……だが、このジェネシスがあの男の手にある以上、一刻も早 く破壊しておかねばならない………

レイナは操縦桿のスイッチを 押し、インフィニティの全火器を起ち上げる……フェンリル、ダークネス…フェイタルセイヴァー、ヴェスヴァー……そして、オメガ………

全火器を構え……発射体勢に 入る………全ての砲口にエネルギーが集束し、スパークする。

目標は……ジェネシスの中 心……内部への発射口………それを見据えながら…レイナは静かに呟いた。

「……レイ=ヒビキ………せ めてこれを……あんたへの餞とするわ………」

自身の内に……闇のなかへと 消えていった半魂………レイに対し、哀悼の意を述べ……レイナはトリガーを引いた。

臨界を超えたエネルギーの粒 子が周囲に満ち……解き放たれた。

眩いばかりの閃光は真っ直ぐ に伸び、ジェネシスの発射口に向かう……それは、闇からの閃光…………

『創世』を砕く地獄からの業 火……エネルギーはジェネシスの発射口に突き刺さり、エネルギーは内側へと進行していく。内部機器を破壊し、エネルギーの奔流は遂に中枢の基部である NJCと核分裂路に届き……貫いた………

エネルギーが突き刺さり、内 側からの崩壊が始まる……解放された核エネルギーは内側からジェネシスを呑み込んでいく。呑み込まれた機器は光のなかで微粒子となって消え…ジェネシスは 内側からこもれる光に包まれ、眩いばかりの光を放つ。内側から放たれる閃光が継ぎ目から割れ、ジェネシスそのものも閃光のなかへと消えていく………迸る閃 光が周辺のものも道連れにしようと呑み込んでいく………インフィニティはすぐさまその場から離脱をかける。

飛び立った空間をジェネシス から飛び散った閃光が過ぎり…浮遊していた残骸を消滅させる。

眩い……太陽と見紛うほどの 閃光が宇宙に輝き…周辺宙域を明々と照りつける…その光景に戦場にいる者は皆呆然と見入った………

 

 

やがて光が収まり……宇宙は 再び闇に包まれる…………ジェネシスの爆発した周辺は全てを呑み込み…ジェネシスさえもその光にほとんどを呑み込まれ…僅かに漂うは外装のみ……その宙域 に浮遊するインフィニティ……機体装甲が熱を帯び…微かに煙を噴出している。

コックピットでは、レイナが 大きく息を乱していた……システムがカットされ…圧し掛かるような虚脱感は消えたが……最初に使用した時よりも疲労と負担が大きい……間を空けずにの連続 使用は流石にレイナの身体を大きく蝕んでいた。

だが、今意識を失うわけには いかない……レイナは顔を上げ…相手の姿を捜す。あの程度で奴が倒れるはずもない…なにより……奴はわざと自分にジェネシスを破壊するように仕向けたよう に感じた。

気配を捜していると……感覚 が捉え、顔を上げる。

漂う残骸のなかに佇むメタト ロン……右腕を失いながらも……まったく意にも返さず佇む姿に思わず身構えるも、このままではこちらの分が悪い……そう思っていたが、次の瞬間…意外な事 態に眼を顰めた。

 

―――――人よ……この世界に存在する全てのものよ………汝らに問お う………

 

再び言葉を発したカイン…… それに呼応するように戦場は静まり返る。戦場にいる者達…そして、地球、プラントにおける全てのメディアを見る者達……誰もが戦々恐々と見守るなか……僅 かに欠けた右眼の奥の機械的な円形のカメラが不気味に輝く。

 

―――――お 前達の5日間の猶予を与える……… 5日目の終了とともに…我らは、Neo Genesis Eraの発動を開始する。

 

一部の者以外はその言葉の意 図が掴めず、困惑する。

だが、レイナは別の意味で当 惑した……何故、5日間も待つのか……だが、その疑念も次ぎに発せられた言葉に掻き消えた。

 

―――――5日後の翌……6日目と同時に我らは地球に対し、セイン ト・メテオを敢行する………地球全て の生命は、死に絶える…………

 

誰もが息を呑む……地球が… 滅びる………あまりに現実味のない言葉に誰もが驚愕に眼を見開き、また戸惑う……だが、それが単なる出任せでもないのもひしひしと感じるほど、メタトロン の発する気配から察する………

 

―――――そして……7日目………我らは宇宙に生きる全ての人間を滅 ぼす………8日目の訪れととも に……生命の歴史は幕を閉じる……

 

神々が行なったのと同じく… 8日目には全てが変わる………コーディネイターの造り出した紛い物の『創世』などとは違う……全てを無に帰し…そして……新たなる世界を造り出す………

 

―――――されど…汝らに今一度問う………この世界に生きる者達 よ……汝らに意志あるなら……我らを止 めるがいい………お前達が、この世界を望むのなら……自らの全てをかけて………我らを止めてみよ…………

 

鐘が鳴り響く……天より響き せしアン・ジェラス…………神の啓示…………今この瞬間……荘厳な響きとして……世界に降り注いだ…………

 

―――――我らを止めることができねば……お前達にこの世界を生きる 意味などない……この世界に……未 来などない………忘れるな……………

 

その言葉を最後に………メタ トロンの姿は消えていく…………

「まっ…待て、カイ ン………っ!」

レイナは無意識に叫んだ。

何故こんな真似をする……そ の真意を掴めない苛立ち………だが、それに答えることなく…メタトロンの翼が閉じ…繭となって再びその身を覆っていく………インフィニティもダメージを 負っており、レイナもまた疲労が大きく……動きが遅い………

そして…レイナの眼がメタト ロンの瞳を捉えた瞬間……思わず動きを止め、息を呑んだ。

欠けた右眼の奥に鈍く光る真 紅の眼光………悲哀・憎悪・苦悶・歓喜……様々な感情が入り交ざった光………

 

――――――俺を……殺しに こい………闇へと………

 

そう…視線が語っているよう な気がした………言葉を交わすことなく……メタトロンの姿は闇のなかへと掻き消えた…………

メタトロンが消失したと同時 に……戦場でも変化が起こっていた。

 

 

カイン達ディカスティスに よってインヴェードされた者達………連合・ザフトの両軍の約半数が一ヶ所に固まり出し……その周囲にエンジェルらが布陣し始めた。

突然の同士討ちに混乱してい た両軍の兵士達……だが、それを阻むことも確かめることもできない……既に彼らの脳裏からは戦う意思が半ば消失しているのだ。

ましてや……エンジェルに敵 う機体は両軍にはそうはいない…………呆然と見詰める連合軍の一部隊……エドのソードカラミティとジェーンのデュエルダガーもまたその光景に茫然自失と なっていたが……集結していくMSや艦艇のなかに見知った機体を見詰めたジェーンが思わず叫んだ。

「教官?……レナ教官!?」

向かっていくMSのなかに教 官であり、戦友でもあったレナのカラミティ2号機の姿を見つけたジェーンは思わず後を追おうとするも、その腕をソードカラミティに掴まれ、制止させられ た。

「エド? なにすんのよ!  教官が……!」

噛みつかんばかりの剣幕で怒 鳴るも、エドは無言で首を振る。

「レナ教官は……恐らくもう 俺達の知ってる教官じゃなくなっちまった………お前がいっても…躊躇うことなく撃つぞ」

やるせない…苦悩を感じさせ る声でエドは苦く吐き捨てる……それは、己にも向けられているのだろう。

突然の友軍の叛乱と不可解な 行動………それは、あの天使達の出現も関係しているのだろう。モニター越しに発せられた連合…いや……この世界全てに対しての布告………冗談で済ますよう なエドさえもそんな軽口を叩けなくなるほどの衝撃だった。

「けどっ!」

それでも納得がいかないの か…なおも言い募ろうとしたジェーンにエドは低い声で怒鳴った。

「ジェーン! 解かってく れ……俺は…お前まで失いたくはないんだ」

鋭い声にビクっと身を一瞬竦 めるジェーンだったが……最後に聞こえたか細い…懇願するような言葉に荒ぶっていた心持ちに冷水をかけられたように冷ましていった………

そして……自身の不甲斐なさ と行き場のない怒りにコンソールを強く叩きつけ、コックピットで絶叫した。

 

 

 

同時刻……ザフトの軍事衛星 の中央管制室。

そこに詰めていたエザリアや 付き従う幹部達も呆然とした面持ちで事態を見守っていた…いや……もはやそれ以外にできることがなかったのだ。

ジェネシス二射目のシークエ ンスに入ったと同時にヤキン・ドゥーエとの交信途絶……その二射目も突如として乱入したクライン派所属と思しきMSによって阻止され……その後突然に現わ れた謎のMS群による宣戦布告………ヤキン・ドゥーエに連絡を取ろうにも全ての通信が遮断され、前線の状況が掴めない。

だが、軍本部とプラント全て のメディアに強制割り込みをかけた映像から、友軍同士での同士討ちやジェネシスの使用による連合軍基地壊滅………さらには、それらの映像に関しての事態の 把握をとプラント全市からの抗議………

オペレーター達は懸命に事態 の収集に動いていたが、まったく意味も成さない。

「エザリア様……」

補佐官の一人が不安な面持ち で問うも、エザリアにはそれに答えることができない。

エザリアは愚か、この事態の 情報を正確に知っている者はこの場にはいない……いったい議長はどうしたのだ……何故ヤキン・ドゥーエの司令部との交信が途絶されているのか……ヤキン・ ドゥーエの現状を知りえないエザリア達には、放棄もされていないはずの司令部との交信が途絶している理由を知れるはずがない。

おまけに友軍の一部が勝手に 行動し、なんと連合軍の部隊と合流を開始する始末………戸惑うばかりであったエザリアであったが……その時、突如司令室へと通じるドアが開き、慌しい駆け 込み音が響き、エザリアやその場にいた者達が思わず振り向く。

司令室へと乱入してきたのは 武装したザフト兵士……十数人が銃を突きつけ、エザリア達は愕然と立ち竦む。

言葉にできないほど呆然と なっていたが、武装した兵士達の奥から姿を見せた数人の自分と同じ議員服に身を包んだ者達の姿を見つけ、思わず呟く。

「ジュセック……それに、ア マルフィとエルスマン…………」

兵士達の奥から姿を見せたの は、パーネル=ジュセックとその傍にはユーリ=アマルフィとタッド=エルスマンの姿もある。

「すまんな、ジュール議 員………我々としても不本意だが………ここは敢えて力押しさせてもらおう…君らがやったようにな」

どこか、皮肉を込めて言い放 つ無骨な表情のジュセック…その心持ちは今、苦くなっていることだろう。

そして、彼らの後方からは拘 束されていたはずの穏健派のアイリーン=カナーバやアリー=カシムらの姿もあった。

「抵抗はなさらないで、エザ リア……あの光景に戸惑っているのは我々も同じです。ですが……ここは、我らが対立するのは好ましくありません」

クーデターの算段を組んでい たジュセック達にとって、この状況は予想外どころの問題ではないが……それでも、今は冷静に対処せねばならない。

そのためにも……ここで争う わけにはいかない。

エザリアは、どこか魂が抜け たようにその場に愕然と佇むのであった…………

「すぐさま全部隊に通達!  戦闘を中断し、軍司令部に集結をさせろ! ヤキン・ドゥーエとの交信も続けろ!」

ジュセックは怒号のように指 示を飛ばし、兵士達は戸惑いながらも実行していくのであった。


 


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