エンジェルらがまるで護衛に 就くように守護する中心点に集結する両軍……その動きに気づいたイザークらは動きを止める。

「くっ…なにがどうなって る!?」

さっぱり状況が掴めず、困惑 する……そこへリーラの声が飛ぶ。

「イザーク!」

ハッと気づくと…ラファエル が眼前に迫り、脚部を振り上げてデュエルパラディンを弾き飛ばす。

「ぐぁぁぁっ!」

衝撃に呻き、流されるデュエ ルパラディン……それにリーラとシホが声を上げる。

「イザーク!」

「ジュール隊長!」

リーラとシホはすぐ助けに向 かおうとするも、ラファエルが2機の前に立ち塞がり、ラファエルはシホのシュトゥルムに向かい、薙刀を振り下ろした。

鋭く…そして勢いよく振り下 ろされた一撃にシュトゥルムは弾き飛ばされ…シェイクするコックピット内でシホは悲鳴を上げながら、機体はデブリに激突し、その衝撃でシホは気を失った。

「ああ……っ!」

その姿に眼を見開いていた が、すぐにそんな余裕はなくなった……薙刀を振り被り、鋭く突いてくるラファエルにリーラは歯噛みする。この密着した状態ではブリューナクも火器も使用で きない。ラファエルは息つく間もない程の速さで突きを繰り出してくる。

リーラはその突きを脇に誘 い、それを脇で固めて動きを封じる。そのまま攻撃しようとするも、ラファエルは握っていた薙刀を離し、至近距離からバルカンを放ち、スペリオルに着弾して 僅かに怯む。その隙を衝き、大きく振り被って蹴りを叩き込んだ。

「きゃぁぁっ!!」

悲鳴を上げて弾き飛ばされる スペリオル…反動で離し、宙に放り出された薙刀が回転しながらラファエルの手に戻る。

制動をかけ、なんとか踏み止 まるも……リーラの呼吸は乱れている。動きの鈍いスペリオルに向かい、ビーム砲を構えた瞬間……間髪入れず振り向き、虚空に向かってビームを放つ。

放たれたビームはそのまま虚 空を過ぎるかと思われた……だが、なにかに着弾したように虚空で爆発が起こった……その爆発から姿を見せるブリッツビルガー………コックピット内でニコル は衝撃に打ちつけた身に表情が強張っていた。ミラージュコロイドで完全にレーダーから消えていたはず……もし、トリケロスUで防御できていなければ、間違 いなくコックピットを撃ち抜かれていただろう。

だが、ニコルは囮……ラファ エルはすぐさま足元から放たれた銃弾に気づき、すぐさま身を翻して回避する。

銃弾が虚空を過ぎる……眼下 には、ガトリング砲を構えるメガバスター……だが、アクイラは気づいた。

「一機……足りない…」

先程自分が弾き飛ばしたデュ エルパラディンの姿が見当たらない……その時、レーダーが急接近する機影を捉えた。

アクイラが顔を上げる……ラ ファエルの直上から急降下してくる騎士……両手にビームサーベルを構える。

「でぇぇぇぇぇぇぃぃぃっ!」

どんな相手でも直上からの攻 撃にはどうしても遅れ…また攻撃手段も限られてくる。アクイラも回避は無理と踏んだのか、ビーム砲で応戦する。

真っ直ぐに降下してくるデュ エルパラディンに迫るビーム……リーラらが眼を見開くなか…イザークは操縦桿を切り、僅かに軌道をずらす。

回転しながら軌道を変更した デュエルパラディンの真横を抜けるビーム……回転しながら軌道を戻し、加速する。

2機が交錯した瞬間、剣閃が 煌く……下方に離れたデュエルパラディンの装甲が微かにショートし…右肩から爆発が起こる。

「イザーク!!」

その光景にリーラが絶叫する が……ラファエルは追い討ちをかけない。ラファエルもまた、バックパックの翼が僅かに斬り落とされていた。

アクイラはやや驚いた眼差し で、被弾したデュエルパラディンに駆け寄るスペリオルらを見詰めていたが、そこへ無遠慮な声が響く。

「クックク…らしくねえな、 07……お前が被弾するとは……しかもその状態で」

小馬鹿にしながら近寄ってき たのは、ガルドの駆るバルファス……だが、アクイラは無言のまま……そして、集結状況を見て言葉を発する。

「どうやら、撤収するようで す……我々も、離れましょう」

動じた様子も…ましてや気分 を害した様子も見せずに淡々とするアクイラにつまらなさ気に肩を竦めると、2機は身を翻そうとする。

「ま、待て! 逃げる気 か!?」

そんな二人に向かって掛けら れた声……思わず振り向くと、4機がこちらを睨んでいた。

被弾しながらも、気丈に睨む イザークの気配にガルドは愉しげに笑う。

「逃げる? はは…逃げるっ てのは弱い奴のやることだろ? 言っただろ…俺達のやることは終わったってな……そんなに俺と戦いたきゃ、俺らの許まで来るんだな? その時は相手してや るぜ……俺も…本気でな」

挑発するように呟くと、哄笑 を浮かべる。

「……あの方の仰ったよう に…我々を止めるのなら……5日後にまた、お会いしましょう。私はアクイラ……以後、御見知りおきを」

冷静に…無表情で淡々と述べ るアクイラ……そして、ガルドもまた敵というべき相手に向かって言い放つ。

「クハハハ…せめてもだ。俺 の本当の名を教えておいてやるよ……俺はテルス…イザーク=ジュール…リスティア=ブラッド……お前らがもし俺のとこまでこれたら、俺のウリエルでせいぜ い可愛がってやるぜ……もっとも、俺を倒すなど無理だがな……ハハハハ!!」

甲高い嘲笑とともに……バル ファスとラファエルはその場から離脱していった。

その去っていく光を見詰めな がら……イザークやリーラは決意を固めていた。必ず……次に遭ったときは……倒す、と…………

彼らの決意以上に…義務感に 突き動かされるように…………

 

 

 

ガブリエルの操るバルファス に苦戦をしいられるムウ達……防御に特化したバルファスは数機単位で全方位にフィールドを展開し、死角をなくしているために生半可な攻撃は全て無効化され る。

そのためになかなか決定打が 出ず、思わぬ苦戦をしていた。

「こんのぉっ!」

ムウのストライクテスタメン トがドラグーンを展開し、フィールドの張られていない隙間を狙う。バルファスのフィールドで全体のほとんど覆えても、どうしても僅かな隙間はできる。その 隙間を狙い、ドラグーンを小刻みに動かしながらうまくバルファスのAIを混乱させ、反応が鈍ったところへドラグーンを放ち、機体を破壊する。

「おらっ、こっちだこっち だ!」

インフィニートが火器を応酬 し、バルファスに浴びせるもフィールドで阻まれ、ダメージには至らない。だが、波状攻撃を仕掛けるインフィニートにバルファスの注意が逸れる。

そのために、攻撃がやんだ瞬 間……バルファスはインフィニートに対してビームキャノンを構える。敵機の直前に機体を晒すのは、極めて危険な行為だ……だが、この状態が今は必要なの だ。

バルファスのモノアイが不気 味に動き、ビームキャノンの狙いをつけ、砲口にエネルギーが集束した瞬間……バルファス一機は下方から真っ二つに斬り裂かれた。

下方から急上昇してきた機 影:ヴァリアブルはそのままレーヴァティンを構えて残りのバルファスに向かう。

「フィールドさえなくなれ ば……っ!」

そう…アルフのインフィニー トが囮になり、敵機の注意を向けさせ、攻撃を緩めた瞬間…相手が攻撃時に展開していたフィールドを解除する瞬間をメイアのヴァリアブルが狙う。

そのフィーメーションでヴァ リアブルはバルファスの懐に入り込み、両手のレーヴァティンを振り上げてバルファスを斬り裂いていく。

瞬きする間にバルファスを破 壊し、小さく呼吸を乱す。

「大丈夫か?」

「ええ…けど、このままじゃ 流石に……」

バルファスの数が多すぎ る……無人機全てをここへと集結させているのではないかと思うぐらいに……このままではジリ貧になる。

背中合わせに佇むインフィ ニートとヴァリアブルを取り囲むように布陣するバルファス……一斉にビームキャノンを構え……だが、発射するかと思われた瞬間、ビームが幾条も走り、バル ファスの頭部を撃ち抜く。

眼を見開くアルフとメイアの 前に、ムウのストライクテスタメントが現われる。

「大丈夫か、二人とも!」

「少佐…助かりました!」

合流したはいいが……あまり よいとはいえない状態だ………こちらも機体の損耗も大きい。

汗が頬をつたうなか……バル ファスが突如、攻撃を止め……モノアイに点滅を繰り返していたかと思うと、身を翻し、飛び去っていく。

その行動に怪訝そうに表情を 顰める……状況的にはこちらが圧倒的に不利であったはずだ。なのに何故トドメを刺さずに………困惑する彼らに向かい、声が響いた。

《申し訳ありませんね……貴 方達の相手をしている程、暇ではなくなったので》

ハッと顔を上げると……唯一 つ……宇宙にポツンと残ったかのように佇む白い機影……ガブリエル………

「どういうことだ!?」

《言葉どおりですよ……貴方 方と遊ぶほど、我々は暇ではないので。これでも忙しい身でしてね……》

肩を竦め、見下すウェンドに 3人は歯軋りする。

《ああ、睨まないでいただき たい……なに…そんなに死にたいのでしたら、待っていても5日後には全てが終わるのです……死に急ぎたいのならね………我々のもとまでくるといいですよ》

言い捨てると、ガブリエルは 身を翻し、去ろうとする。

だが、逃がすまいと3機は構 える……その時、ムウは背筋が凍るような冷たい…馴染み深い感覚が全周囲から走り、叫んだ。

「二人とも! よけろっ!」

突然の叫びに……アルフとメ イアは半ば反射的に従った。3機はバーニアを噴かし、その場から離脱した瞬間……幾条ものビームが、彼らがいた空間を過ぎる。もし、少しでもよけるが遅れ たら、機体を破壊されていたであろう。

「そこかっ!」

ストライクテスタメントだけ が回避と同時にオクスタインを放ち……その放たれた先に滞空していた機体に向かう。

だが、その機体の前方にビー ムの壁が形成され、ビームが相殺される。

「クルゥゥゥ ゼェェェェェ!!」

ムウが鋭く吼える先に佇む黒 銀の天帝:プロヴィデンス……ムウの言葉に反応してアルフとメイアも表情を驚きに包まれる。

「ラウ=ル=クルーゼ!?」

「奴がアレに……!」

見張った眼でプロヴィデンス を見やる……だが、プロヴィデンスは無言のまま…ドラグーンを展開して威嚇したまま………

「まさか……クルーゼ…貴 様………」

不審に思ったムウがなにかに 思い至り、上擦った声を上げる……そして、それに答えるように言葉が横から割り込んできた。

《考えている通り……この男 もなかなかいい役を演じてくれましたよ…ピエロという役割をね……》

クルーゼというピエロ……自 らのシナリオに酔う三文作家………神と驕った愚かな道化………ムウは微かにクルーゼを哀れに思った。

《せっかくなのでね……最期 まで演じてもらいますよ……己が望んだ運命をね………では、またお会いしましょう》

ムウ達の驚きを見て満足した のか……ガブリエルは身を翻し、脚部の大型バーニアを噴かし、その場を高速で離脱していく。

やや呆然となっていたムウ達 は反応が遅れる……だが、プロヴィデンスのドラグーンが周囲に浮遊していたバルファスの残骸を撃ち抜き、周囲を爆発に包んで眼を晦ます。

怯む一同を尻目に…プロヴィ デンスも身を翻し……ガブリエルの後を追って消えていく………爆発が収まり…煙の隙間から彼方へと消え去った機影にムウは歯噛みし、コンソールを叩きつけ た。

「クルーゼ……てめえは、こ んなものが望だったのかよ………」

誰かに操られてまで……自分 の意志をなくしてまで……それでも最期まで道化を演じる…………ムウは、やるせない怒りと…静かな決意を胸に固めるのであった。

 

 

 

別の宙域では、キラとラクス が微かに呼吸を乱しながら周囲に注意を向けていた。

フリーダムとマーズは背中合 わせに僅かに距離を空けて滞空し、周囲を窺っている。

刹那、レーダーが攻撃のア ラートを鳴らす……前方から伸びるクロー……あの速さではビーム兵器は応戦が間に合わない。

キラは咄嗟にフリーダムのバ ルカンで狙撃するも、クローは怯みもせず巨大な牙を拡げる。

真紅の竜が牙を立て、フリー ダムに襲い掛かり、弾いた。

「うわぁぁっ!」

呻き声を上げ、フリーダムは 吹き飛ばされる。

「キラ……っ!」

思わずキラに気を取られたラ クスは注意が一瞬逸れる……その隙を衝き、再度アラートが鳴る。気づいた瞬間には、マーズは後方から伸びてきた竜に背中から弾かれ…態勢を崩したところへ フリーダムを弾き飛ばした竜が襲い掛かり、弾き飛ばされる。

「きゃぁぁぁっ!」

コックピット内で激しくシェ イクされ、ラクスはシートに背中を強く打ちつけ、マーズは武装を破損して残骸のなかへと吹き飛ばされ、残骸が鋭く機体を襲う。

鋭い勢いで残骸の密集する地 帯に弾かれたマーズは機体を残骸に晒しながら、戦艦の残骸に叩きつけられ、動きを止める。

PS装甲のおかげで機体に致 命傷はないが、それでも武装の方がかなりのダメージを負っている…いや……それ以上にコックピットのラクスのダメージも大きかった。

何度もコックピット内で衝撃 にシェイクされ、身をシートに打ちつけて痛みに苦悶を浮かべている。

そんなマーズの前にユラリと 姿を見せる真紅の双頭竜……その奥からは真紅の狂竜:ゲイルが姿を現わす。

「ククク……さて…どうされ たい?」

聞こえているかも解からない 言葉を呟き……ゲイルはファーブニルのビーム砲を構える。

「脚か? 腕か? それとも 頭か………なぁに…俺は優しいんだぜ…コックピットを潰すのは最期にしてやるよ」

爬虫類じみた笑みと舌を舐め 回し……ファーブニルの砲口にエネルギーが集束していく。

「決めたぜ…まずは……腕か らだ」

朦朧とする意識のなか……ラ クスは麻痺する腕でなんとか操縦桿を握ろうとするも…回避するよりも早く…ビームが放たれる。

真っ直ぐに伸びるビーム…… だが、マーズの前に割り込む影………フリーダムがシールドで防御する。

ほぼ至近距離のためにビーム の熱量でシールドが融解し、その勢いに押されそうになるも、懸命に耐える。

歯噛みしながら耐え抜いた後 に……シールドの表面が融解し、煙を上げながらも耐え切ったフリーダムの姿が現われる。

「うっ……ラクス…大丈 夫?」

「…キラ……ええ、無事です わ」

弱々しい声であったが…僅か に安堵したのも束の間……ゲイルから哄笑が響いてきた。

「いいね〜〜お姫様を護る皇 子様か………カッコいいね〜〜最高のコーディネイター君?」

揶揄するような口調で最後に 発せられた言葉にキラはビクっと身を竦める。

「どうした? 動きが鈍って るぞ……俺が知らないとでも思ったか? 俺は……お前の父親なんだぜ」

一番聞きたくなかった現 実……それがキラの前に突きつけられる。

この眼前の機体のパイロット は……フィリアが語った…キラの本当の父親のクローン………遺伝子上の繋がりにおける……

息を呑み込む音が聞こえ る……操縦桿を握る手が震える。そのために、フリーダムの動きが止まる……その隙を逃さず、ゲイルはフリーダムの懐に飛び込み、両手にビームサーベルを構 え、それを逆手で振り下ろした。

ビームの刃がフリーダムの両 肩に突き刺さり、爆発する。

「うわぁぁっ!」

両腕を捥ぎ取られ、弾かれた フリーダムはそのままマーズの傍へと激突する。

「キラ……っ!」

悲痛な叫びが聞こえるも…キ ラも爆発の衝撃により、コックピットの計器類の一部が破損し、また身体を強かに打ちつけたため、苦悶を浮かべている。

フリーダムも両腕を失い、も はや満身創痍だ……そんなフリーダムとマーズに悠然と歩み寄るゲイル……背中の翼と悪魔のごときフェイスが薄ら寒いものを感じ取らせる。

ゲイルは先程の衝撃で外れた フリーダムのビームサーベルを拾い、両手に展開させる。

「フフフ……自分の武器で死 ぬ…なかなかいいシチュエーションじゃないか………貴様があの女の息子とは到底思えんほどの弱さだ………」

何気に発せられた言葉に、キ ラの表情が顰まる。

「安心しろ…俺は優しいんだ ぜ……仲良く地獄へ葬ってやるよ…………」

眼前まで歩み寄り……フリー ダムとマーズに向かってビームサーベルを振り上げる。その先端が向けられる先は……2機のコックピット…………

「死に なぁぁぁぁぁっ!!!」

愉悦を帯びた声とともに…刃 が振り下ろされ……キラとラクスは眼を閉じる。

だが…いつまでたっても来る べきものがこない……恐る恐る眼をあけた二人の眼前には…黒い影が立ち塞がっていた。

「ぐっ……くぅぅぅっ!」

振り下ろされたゲイルの両腕 を掴み…耐えているエヴォリューションのコックピットでは、リンが歯噛みし、操縦桿を引いてゲイルの両腕を押し返している。

「うぉぉぉぉっ!!」

咆哮とともに、エヴォリュー ションの瞳が煌き…ゲイルの両腕を押し上げ、その空いたボディに向かってエヴォリューションはレールガンを撃ち込んだ。

起動したレールガンから放た れる光弾がゲイルのボディに直撃し、TP装甲でダメージには至っていないが、それでも弾くことには成功した。

衝撃で離したビームサーベル ごと弾かれ、距離を取るゲイルと対峙するエヴォリューション。

「ほう? 今度は貴様が俺と 遊んでくれるのか?」

今の反撃にもまったく動じて いないウォルフの軽口に答えることなく…リンは無言でエヴォリューションを構えさせる。

「その女は私の獲物……手は 出さないで」

緊迫する両者に掛けられる言 葉……エヴォリューションとゲイルの頭上に滞空するミカエル……右手に錫杖を構え、輪の鈴を鳴らしながら降下し、エヴォリューションと対峙する。ミカエル との戦闘中にこの状況に出くわし、勝負を放棄して2機の援護に回ったのだ…ルンにしてみれば気に喰わないどころではない。

オリジナルより先にファース ト体を葬る……殺気を滲ませ、錫杖を構える。リンは内心舌打ちする……こちらは動けない2機を抱えている。対し、あちらは2機…どちらかを相手にするにし ても、もう片方がフリーダムとマーズを破壊しないとも限らない。だからといってここで防御をさせてくれるほど、あちらも甘い相手ではない。

「やるしか…ないかっ!」

多少無茶だが……なんとか2 機を抑え込むしかない………エヴォリューションはスラスターとバーニアを噴かし…ミカエルとゲイルに向かって突進した。

突如特攻じみた行動に出たエ ヴォリューションに怪訝そうになる……エヴォリューションは加速しながらデザイアを放つ。

デザイアから放たれた閃光は 2機の足元に撃ち込まれ、周辺のデブリを破壊して撒き散らす。それによって視界を一瞬遮られる……その隙を衝き、エヴォリューションは突進し、ミカエルの 首に手を伸ばし、首筋を掴んで加速した。

首を掴まれたミカエルはエ ヴォリューションの加速に押され……デブリを破壊しながら押される……衝撃に揺れるコックピットでルンは歯噛みし、エヴォリューションを睨む。

「この……っ!」

怒りにかられ、ミカエルはア シュタロスを抜き、突き刺そうとするも…それより早くエヴォリューションは首を離し、ミカエルのボディを蹴りつけ、その反動で離れる。

蹴り飛ばされたミカエルはそ のままデブリに激突する……それを確認する間もなく、エヴォリューションはゲイルに向かっていった。

ヴィサリオンを構え、トリ ガーを引く……ビームの弾丸が撃ち込まれるも、ゲイルは軽やかにかわし、胸部ハッチを開口してクオスを放つ。

高出力のビームに弾丸のビー ムが掻き消され、エヴォリューションに向かう。咄嗟にデザイアで防御するが、その熱量に耐え切れず、弾かれる。

「ぐっ!」

歯噛みし、態勢を立て戻そう とするも……脳裏に走った感覚に反射的にデザイアを引き上げる…高速回転で迫るビーム刃がデザイアに着弾し、その衝撃によって再度弾かれる。

弾いたリング状の刃が戻る先 には、ミカエル……憤怒の表情を浮かべるルンはバランスを崩すエヴォリューションにキャリバーを放つ。

2筋のビームの閃光が向かう も、エヴォリューションはレールガンで応戦し、中間点でぶつかり合い、エネルギーがスパークする。刹那、背中から衝撃が襲った。

ゲイルの放った竜の牙がエ ヴォリューションに襲い掛かり、翻弄する。ボディに叩き込まれ、エヴォリューションは浮遊していたデブリに激突し、めり込む。

「しまっ……くそっ!」

舌打ちし、脱出しようとする も…深くまで機体にめり込んだらしく、なかなか動けない。おまけに今の衝撃か、回路の一部が麻痺したらしく、動きが鈍い。

操縦桿を必死に操作するも、 エヴォリューションは起き上がれない……身動きの取れない前に滞空するミカエルとゲイル。

「フフン……なかなか愉し かったぞ…トドメをくれてやるか……」

鼻を鳴らし、ゲイルがファー ブニルを構えるが…それを遮るようにミカエルが腕を横へと突き出す。

「トドメは私が刺す……貴様 などにくれてやるつもりはない」

憮然と言い捨てると、ミカエ ルはアシュタロスを投擲に構える……リンが息を呑む。

「サヨナラ………ルイ姉さ ん…レイ姉さんも……すぐに後を追わせてあげるわ…地獄で再会することね」

ニヤリと笑みを浮かべ…ア シュタロスを大きく振り被った瞬間……ビームがミカエルの右腕を貫いた。

突然のことに眼を見開くル ン…次の瞬間、ミカエルの右腕が爆発する。

「ぐっ!」

ルンが歯噛みした瞬間、別方 向からも攻撃が轟き、ゲイルは回避する。

リンが顔を上げると……別方 向からスペリオル、デュエルパラディン、ストライクテスタメント、インフィニート、ヴァリアブルが急接近してきた。

「リンさん! 無事です か!?」

「貴様! それでも漆黒の戦 乙女か!」

リーラの気遣うような声とイ ザークの叱咤にリンは苦笑を浮かべ、肩を竦める。

「……言ってくれるな」

エヴォリューションの傍に降 りたヴァリアブルが手を取り、引き起こす…インフィニートは防御するように佇み、エヴォリューションが引っ張り出される。

「まったく…無茶をする」

呆れるようなメイアにそっぽ を向き、アルフの声が響く。

「キラ達はディアッカ達が助 けてる……あとは…」

そう……ミカエルとゲイルの み………顔を上げる先では、スペリオル、デュエルパラディン、ストライクテスタメントがミカエルとゲイルに相対していた。

デュエルパラディンとスペリ オルがフォルティスUとビームドライバーで砲撃し、ミカエルを翻弄し、ストライクテスタメントがドラグーンを駆使してゲイルを四方八方から狙い撃つ。

スペリオルがビームサーベル を抜いてミカエルに斬り掛かるも、ミカエルもアシュタロスを抜いて斬り上げる。両の刃が交錯し、エネルギーがスパークする。だが、ミカエルは右手の錫杖を 回転させ、それを振り薙いだ。

回避が間に合わず、錫杖にボ ディを叩きつけられ、弾き飛ばされる。

「きゃぁぁっ!」

悲鳴を上げ、吹き飛ぶスペリ オルに向かいキャリバーを構える。

「ミスクリエーション風情 が……っ!」

侮蔑の言葉と視線をぶつけ、 ビームが放たれる…だが、スペリオルの前に割り込むデュエルパラディンが装甲を前面に出してビームを防ぐ。ビームの熱に装甲が融解し、イザークは歯噛みす るも、デュエルパラディンは耐え切る。

「くっ……っ?」

歯噛みした瞬間、程近い宙域 で交戦するルシファーとヴァニシングに気づいた。ルシファーはヴァニシング相手に集中し、こちらに注意が向かっていない。この状況ではこちらがやや不利… それに、そろそろ退く頃合だ。だが、一機も墜とさず退くことはルンのプライドが赦さない。

(ルシファーのパイロッ ト……確か、04だったわね……せめて…お前の命だけでもこの場で……っ!)

狂気に染まった眼でルシ ファーを睨み、ミカエルは背中を向けるルシファーに向かって加速した。

ミカエルの接近する少し前… ルシファーとヴァニシングは交錯を繰り広げながら、カムイは懸命に呼び掛けていた。

「アディン! 君は、そんな に弱い奴だったのか……!?」

振り下ろされたビームアクス をビームサーベルで受け止め、エネルギーがスパークし、両機を照りつけるなか、カムイは叫ぶ。

「君も、フィリアさんに…僕 達と一緒に育てられたっ! 思い出してくれっ!」

その言葉にアディンは頭に響 く苦痛に呻く。

「ぐっ……うぅぅ…お、俺… は………」

ぼやけた映像とともに脳裏を 過ぎる光景……ヴァニシングは動きを止め、僅かに後退する。

「アディン……っ!」

ゾクリとするほどの冷たい殺 気……一瞬の隙を見せ…背中を向けたルシファーにミカエルが向かってくる。

アシュタロスを振り翳し…ル シファーに向かって斬りつける。

ルシファーの右腕が斬り飛ば され、ボディに刻まれる一閃……爆発がルシファーを襲う。

「うわぁぁぁっ!!」

コックピットにもその衝撃が 届き、計器類が爆発し、飛び散った破片がカムイに突き刺さる。慣性に流されたルシファーの姿にアディンはスローモーションを見ているような錯覚に陥る。

「あ……カ…ム… イ…………」

片言で呟き……無意識に…ロ ングビームライフルを構える。

それに気づかず…機能を停止 したルシファーを見据えるミカエル。

「トドメよ……」

もはやPS装甲もダウンし、 遮るものはない……錫杖をせめてくれてやろうとゆっくり振り上げる。

ある高さまで構えると……そ の光景に気づいたリーラ達は言葉にならない悲鳴を上げる。

だが、次の瞬間……誰もが予 想外の展開に困惑した。

振り下ろされ…ルシファーの コックピットを貫くかと思われた一撃…だが、ミカエルは横殴りに衝撃を受け、態勢を崩した。

「なに……っ!?」

予想外の攻撃をした相手に眼 を向けると…眼を不可解に見開く。

「……01っ!」

ヴァニシングのロングライフ ルがミカエルのボディを破損させていた。

「くっ…貴様……所詮、出来 損ないかっ!」

殺気と憤怒を露にするルン… だが、ヴァニシングは硬直したまま……アディンも虚ろな視線のまま……頭を抱えて苦しむ。

「ぐっうぅぅ……ぐぅ あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

頭を破壊するほどの激痛に… アディンは絶叫を上げ、意識が途切れた………その感応波の乱れと途絶を察したルンは動きを止める。

(拒絶反応を起こした……所 詮は奴も初期ナンバーの出来損ないか)

こいつをこのままにしておけ ば、後々の不確定要素になる……たかが狂った人形一体…大事には至らないだろうが、放置しておく理由もない。こいつの邪魔のおかげで仕留め損なったの だ……ゆっくりとアシュタロスを振り上げようとしたが、突然ゲイルが乱入し、浮遊していたヴァニシングを掴む。

「貴様…どういうつもり だっ!?」

「こいつにはまだまだ使い道 がある…お前の八つ当たりで死なすには惜しい駒なんでな」

心持ちを見透かされたみたい で、ルンの表情が羞恥に染まる。

「睨むな睨むな…頃合だ ろ……アレだけ派手にやりゃ十分だろうよ…お愉しみは次の最終章でってね」

くぐもった笑みを浮かべなが ら喉を鳴らすウォルフにルンの表情が苛立ちに歪む。確かにもうこの場での目的は果たした……カインも撤退した以上、もはやこれ以上の戦闘は無意味であり、 なによりカインの意志に反する。

葛藤するルンだったが…突如 感じた殺気に身を捻った。

「ルゥゥゥンンンンン!!!」

鋭い咆哮とともにミカエルに 斬り掛かるエヴォリューション……インフェルノを残った左手のアシュタロスを振り上げて受け止める。

「フン……調子にのらいでほ しいわね、ルイ姉さん」

鼻を鳴らし、慇懃な物言いで 吐き捨てるルンにリンは眉を寄せる。

「既に破滅への鐘は鳴ってい るのよ……そして…その刻こそ、この世界全てが消える刻…私達が望んだものがねっ!!」

鍔迫り合いで互いに押し込ん だ後、弾くように離れ…その反動を利用してミカエルは撤退していく。

「待て……っ!」

追おうとするも、ゲイルがク オスを放ち、行く手を遮る。一瞬怯んだ後、ミカエルとヴァニシングを抱えたゲイルはその場を離脱していった………

リンは追撃はしなかった…ど の道、深追いできるほどの余裕はない……インフェルノを装着し、一息つく。

「リンさん…大丈夫です か?」

気遣うように傍に寄るスペリ オルに頷き返すと、リンはその場を離れようとする。

「ここを頼む…」

「え? リンさんは何処 へ……?」

意図が掴めずに頭を捻ると、 リンは無言のまま機体を発進させた。

今のリンにはもう一つ…気に 掛かっていることがある……カインのメタトロンとの戦いに向かったはずのインフィニティとレイナだ………

ジェネシスがあったと思しき 宙域に向かい、エヴォリューションは飛んだ。

 

 

 

 

エンジェルに守護されるよう に集結した連合とザフトの部隊……怪訝な面持ちでそれらを見詰める一同の前で……艦隊が突如消滅するようにその場に消えていく………まるで、宇宙の闇に呑 み込まれるように………それは、取り囲んでいるエンジェルらが発するミラージュコロイドを用いたステルスシステムだ。

艦隊丸々一つを覆い尽くすほ どのステルス性……完全にレーダーやセンサーから反応が消え、彼らは消え去った………無論、ステルスとは消滅ではなくあくまで姿を消すもの…あれだけの規 模なら攻撃すれば、その場にまだいるであろういくつかを墜とすことは可能だが、混乱し…尚且つ損耗と疲弊の著しい今の両軍と彼らには無理な話であった。

天使達が去り…そして彼らの 同胞までそれに付き従うように消えたため……ヤキン・ドゥーエ宙域は嵐が過ぎ去ったかのごとく静まり返っていた……無事な艦やMSは少なく…また彼らの中 枢がほとんど消えたためにどう行動していいか解からないのだ。

もはや墓場に近い雰囲気を醸 し出していた宙域に、全周波での声が響いてきた。

《ヤキン・ドゥーエ宙域に残 存するザフト軍及び連合…そして生き残っている者達に告げる……》

あまりに目まぐるしい激動に 憔悴しきっていた両軍兵士達はその声に半ば夢うつつで聞き入る。

《私は、プラント臨時評議会 代表、パーネル=ジュセックである……我々は、地球との停戦協定に向けて準備を進めていたが、このまったくの予想外の事態に混乱している。だが、もはや我 らが戦う必要はないはずである……故に、現宙域における全ての戦闘行為の停止と、今しがた起こった現象に対しての究明と解決のため、協力を提案す る………》

静かな…それでいて力強い声 に……両軍の兵士達はまるで肩の力が抜けたようにその場に座り込んだ……もはや、彼らには戦闘を続行する気力など…皆無に等しかったのだ。

ジュセックの通信を聞いてい たオーディーンやその他の艦艇でも、クルー達はどこか大きく息を吐き出し、肩を落としていた。

月基地の崩壊とジェネシスの 損失……さらには両軍の中枢の消失により、この場での戦闘は一応の終結を見るだろう。

だが、まだそれで終わらない のだ……彼らにはまだ…最期の試練が残されている………

「艦長、プラントより入電で す」

オペレーターの一人がやや上 擦った声で呟いた…誰もがどこか疲れ切っているなか、ダイテツが振り向く。

「内容は聞かなくても解かる がな…読み上げてみろ」

「はっ…『事態収拾及び究明 のため、オーディーン以下僚艦のプラント寄港を具申する。寄港後、艦の責任者及び代表者同行のうえ、アプリリウス最高評議会議場に出頭されたし』とのこと です」

「……了解したと返信しろ」

その指示に戸惑いながら、オ ペレーターは実行する。

「宙域に展開中の友軍を回収 後、オーディーン以下5隻はアプリリウスへと入港する。全艦に打電しろ」

そう……問題はこれからなの だ。あの敵に……審判者達に対抗するためには…地球圏の全てを結集せねばならない。人の…この世界のために………

静かな決意を胸に、ダイテツ はパイプを噴かした。

 

 

 

 

ジェネシスの残骸が浮遊する 宙域……ポツンと漂うインフィニティ……コックピット内でヘルメットを取ったレイナは瞳を閉じ……内に感じる闇に意識を落としていた。

 

―――――俺を殺しに…闇へ こい………待っているぞ……………

 

耳に、声が響く。

闇のなかへと消え去ったカイ ン……いったい、なにを考えているのか……戸惑いながらも…レイナは静寂漂うなかに静かなものを感じていた。

まるで、世界が全て滅び…自 分だけしかいないような感覚………唯独り……孤独で…静寂の闇………それを心地良いと感じるのは、やはり自身が闇から生まれたからだろうか……一瞬、そん な考えに苦笑を浮かべる。

別にカイン達の考えを否定す るつもりもない……この世界に…カインの言うように醜さに満ちている……だが………

その時、レイナは接近する反 応に気づき、モニターに眼を向けた。

モニターには、接近してくる 相似の機体…自身の妹たる存在の駆る機体………

「姉さん、大丈夫?」

傍に寄り、接触回線で響く声 にレイナは笑みを浮かべる。

「ええ……それよりも、取り 敢えずは…終わったわね………」

何がであろう…連合とザフト の戦いがだろうか……それとも………きょうだい達との最初の戦いがだろうか………いや…レイナの内の決着かもしれない…………

レイナは激しい睡魔に襲わ れ、眼を閉じていく。

「少し…疲れた………少し… 眠る………わ…ね……」

小さく…弱い声で呟く と………レイナはシートに身を沈め……深い…深い闇の内へ…意識を落としていった………

運命の魂は虚ろな魂ととも に……刃となる魂を包む鞘として……内に宿った………

小さく寝息を立てながら眠る レイナ……その姿に、リンは苦笑を浮かべ、インフィニティをそっと……静かに抱える。

「眠ればいい……今は…今だ けは………ね……姉さん」

初めて浮かべるような優しい 眼差しを向け、リンも微笑む。

そして、エヴォリューション はインフィニティを抱えて静かに帰還する……傷つき…最期の戦いに向けて今は眠りに就く堕天使に安らぎを与えるために…それがたとえ……どんなに短いもの であっても…………

闇に落ちるなかで…レイナは 闇の奥にいるであろう相手に向かって呟いた………

 

 

――――けど……それで も………この世界は…私達が生まれた世界だ………と……醜くも美しい世界だ………と………

 

 

 

 

そして……この瞬間、日付は 変わった………破滅へのカウントダウンが開始された………

遂に世界に降された神々の審 判……アン・ジェラスの鐘………世界を破滅の終焉に導く黙示録………

人々は知り…そして抗わねば ならない…………

これから起こるであろう戦い のなか…彼らはなにを想い…なにを信じ…なにを願うのか………そして…なにを見出すのか…………

今こそ語ろう………

 

 

――――――神話 を……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

世界に降された審判………だ が、それはその世界に生きる全てへの試練………

抗わねばならない……破滅の 運命に…………

戦士達は決意を胸に…想いを 胸に集結する…………

 

最期の戦いを前に、彼らは愛 する者に誓い…また願う………

必ず……終わらせる と…………

 

長く…そして募る想いを胸 に………そして…この戦いを最初から戦ってきた二人………

その想いの行き着く先 は…………

 

 

想いと願い…世界の命運を背 負い……彼らは旅立つ…死地へと………終わりと始まりの地へと…………

 

次回、「想い」

 

秘められし想いを胸に…羽ば たけ、ガンダム。


 


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