「それで……他には何か向こ うから連絡はなかったのでしょうか?」

慣れない丁寧な口調でレイナ がジュセックに問い掛ける。シオンらは少なくとも独自の戦力増強行なっていた。自分達もそれには一枚噛んでいたのだ……まあ、シオンが自軍を動かさないと いう可能性もあるが……それに対し、ジュセックは頷き、今一度アイリーンを見やる。

「その事だが……ザフト及び 連合の残存兵力は再編成後、合流するOEAFOの艦隊の指揮下に入ることになっている」

いくら再編成をしようとも、 全体的な総指揮と両軍の仲立ちのために第3者的な軍が必要になる……遂今しがたまで争っていたのだから、対立は仕方ないとしても今はそんなことに拘ってい る場合ではない。そのために、両軍はそれぞれの指揮系統の下、合流するシオンらのOEAFOの指揮下に入り、統合軍と化すことが決定している。

どうやら、シオンは本気のよ うだ……OEAFOは見方によっては私設軍、またはテロリストになるだろう。ここでアピールすること で、テロリストという先入観を壊すことも可能となり、後々に正規軍にすることも可能だ。

それに、OEAFOの 軍はほぼ無傷のはずだ。どの道全体的な総指揮を執る以上、ダメージがない彼らが適任であろう。

「なお、今後の方針である が……悪い情報が遂先程入った」

沈痛な面持ちで語るジュセッ クに一同は怪訝になり……そして、やや逡巡した後、ジュセックは静かに発した。

「観測衛星より、ユニウスセ ブンが軌道を変え、地球への降下コースに入ったと情報が入った」

その言葉に誰もが驚愕に眼を 見張る。だが、既にその可能性を予測していたレイナ達は動揺は少ないが、それでも実際に起こっていると知ると改めて事の大きさを痛感する。

「そんな! アレは安定周期 に入っているのではなかったのですか!?」

アスランが口調を荒げて叫 ぶ。無理もないだろう……あそこにはアスランの母や他にも多くの人が眠る場所だ。だが、そんなアスランに躊躇いつつも首を振る。

「残念ながら、事実だ……」

愕然となるアスラン……そこ へ、リンが口を挟む。

「軌道を変えたのは片方…そ れとも両方なのか?」

冷静な口調だった……普通な らそこまで冷静にいられることに募りを憶えようが、こんな刻こそ冷静に対処せねばならない…感傷に浸って悲観している場合ではないのだ。

「動き出したのはαの方 だ……Ωは一ヶ月前にジャンク屋組合による軌道修正作業が行われ、安定軌道にある…確認も取った」

二つに割れたコロニーの内、 動き出したのはデブリベルトの奥にあったもの……もう片方は未だ動きもなく安定軌道にのっているという確認も取らせている。

「軌道変更は明らかに人為的 なものだ……」

軌道変更にしても自然の力に してはおかしい点が多々ある……真っ直ぐにデブリを弾きながらゆっくりと落下コースを取っている。無論、その巡航速度にしても割り出すのに大変だったの だ。

「計算の結果……約5日後に は、地球へと落下する……目標は、南米…………」

「結果は……考えたくもない な」

レイナが苦い口調で舌打ちし た。

議場がシンと静まり返る…… もはや、このユニウスセブンの落下が誰の手による仕業か示唆されたようなものだ……しかも、降下地点は南米大陸……そこには、アマゾンのジャングルを擁す る地球で数少ない酸素供給の場所であり、現在の地球のバランスを保つ地帯だ。それ故に南米は大西洋連邦に併合後も永世中立地帯として両軍とも戦場にするこ とはなかった。

そこにユニウスセブンが落下 すれば……間違いなく、南米は消滅…そして、舞い上がるチリが大気を覆い、地球は冷たい闇に閉ざされるだけでなく、地軸のバランスが崩れ、各地に深刻な天 災を齎すだろう。

「この現象が彼らによって起 こされたものであるなら、当然その阻止のために動く我々を迎え撃つために、奪取した戦力を使うでしょうな」

ダイテツが静かに告げ、中央 のモニターに戦略パネルが表示される。

カイン達がわざわざ連合とザ フトの双方から戦力を奪ったのは、混乱を齎す以上に自分達の手駒の少なさ所以だろう。

いくら対立しているとはい え、両軍の総戦力は侮れない物量となる……そのために、最初のデモンストレーションでジェネシスを使って月基地を破壊したのも余計な戦力補充を避けるため であろう。

「ライガ艦長、ハルバートン 提督らの見解は?」

この場での軍人としての視点 を持ち、尚且つ経験値が高い二人に目配せすると、アイリーンが操作用のコントローラーを渡す。

「恐らくですが……デブリベ ルト内を動いている以上、あれだけの規模の艦隊を随行させるのは不可能です……だからこそ、デブリベルトの外側に隠蔽していると思われます」

キーを操作し、地球を中心と したCG図が表示され、地球の周囲をリング状に囲うデブリベルトとその内に在るユニウスセブン……だが、カイン達が奪取した戦力は連合とザフトの双方の戦 力の約5割にも匹敵する。それだけの規模の部隊を随行してデブリベルトを動くなど不可能であろう。

ならば、艦隊の配置場所は何 処か……デブリベルトの外側…進攻方向しかない。

「そして、統合艦隊は正面か らこれらの敵艦隊と交戦……敵の注意をこちらに引き付けます。そして、後に時間差で側面よりユニウスセブンの破砕及び敵中枢の破壊のために少数による本命 部隊を投入します」

ハルバートンが継ぎ、シミュ レーションを表示する。

圧倒的な兵力を誇る敵艦隊を 統合艦隊による正面からの陽動により、手薄になった側面よりユニウスセブンに取り付き、破砕とそこに潜む敵の中枢を叩く。教本通りといえばそうだが、確か に理に適った方法である。

そして、これ以上に有効な手 段がないのだ……ユニウスセブン程の質量になると、地上からのミサイルでは完全な破壊は不可能であろう。故に、誰かが取り付き、ユニウスセブンをできる限 り破砕し、砕くしかないのだ。

だが、アスランやラクスらに は複雑だ……あのコロニーを…モニュメントと呼ぶべき場所を破壊するという行為にやや戸惑わずにはいられない。

「ユニウスセブンを破砕する ことは我らにとっても心苦しいことだ……」

アスラン達だけでない……プ ラントに住むコーディネイターにとってアレを破壊するというのは躊躇わずにはいられない。

「だが、我ら個人の感傷で地 球を滅亡させるわけにもいくまい……それに、このような形で利用されることほど、あの地で眠る者達を冒涜する行為はない……」

そう、心に言い訳じみたこと をしていると罵りつつ、そう思うしかなかった。

その葛藤を感じ取ったの か……アスランらも表情を引き締める…そして、自分達が止めるのだと決意を改める。

「それで……我々の処遇につ いては?」

ここにきての全体的なプラン は纏まっているが……肝心の自分達の役割…いや、訊くまでもないかもしれない………

「うむ……そして、プラント 臨時評議会と連合政府双方の意見を述べる。諸君らに、これらの突入部隊を担当してもらいたい」

息を呑む一同……敵中枢に飛 び込むには、余程の精鋭が必要になる。しかも、大部隊は避けない……そして、連合・ザフトの両軍にはもうそれらの精鋭はほぼ皆無……精鋭を多く有し、尚且 つ少数艦隊での奇襲も可能な部隊は……オーディーンらを含めた艦隊しかないというのが両政府の見解であった。

「……引き受けてもらえるか な? これは、両国からの正式な依頼ととっていい」

答えは既に決まっている…… ダイテツはレイナに目配せすると、レイナは静かに頷く。

下手に部隊を護衛に就けられ るよりもその方が身軽でいい…それに、連中は恐らくこの戦法を読んでいる……ならば、こちらには都合がいい。

「それと、ユニウスセブン破 砕のために、メテオブレイカーを貴艦らに預ける」

小惑星破壊用のメテオブレイ カー……これらをユニウスセブンの地表に打ち込み、コロニーの大地を割って破片とし、軌道を逸らす……できるのなら、メテオブレイカーの分散だけで済ませ たい……だが、もし大気圏突入を行なうようなことになれば、燃え尽きない破片を地上からのミサイルで粉砕するしかない。それはまさに最終手段だ。

勿論、メテオブレイカーは統 合艦隊にも配備させ、破砕作業に向かわせるが、本命はあくまで彼らだ。

ダイテツは今一度マリューや ラクス、そしてレイナとリンを見やり、意志を確認すると力強い視線を向ける。

「……解かりました。別働隊 の任、お引き受けします……ただ、こちらの指揮系統はどうなります?」

自分達は正規軍でもなければ 臨時統合軍の所属でもない……その際の指揮系統の混乱はないだろうかと確認を取ったが、ジュセックはそれこみとばかりに答える。

「諸君らには独自の指揮系統 を持ってもらって構わない……突入するタイミングはそちらに任せるが……統合艦隊の作戦開始は5日目の正午と同時に開始する予定だ」

つまり…相手が指示した6日 目の前日……5日目の正午と同時に統合艦隊は作戦行動に出る。流石にそれ以上の早期決行は艦隊の再編成状況などからみても不可能である。

そして、それに乗じて突入す るタイミングはこちらの判断に委ねるという……悪くないと思った。

統合艦隊の動きが解かればこ ちらで調整はできる……まあ、それでもタイムリミットは12時間もないのだ。

「了解しました……では、我 々はこれより別行動を取るために、プラントを離れようと思います」

ダイテツのその申し出に議員 のなかから微かにどよめきが起こる。

てっきり作戦行動開始までは プラントにいるとばかり思っていたからだ……不審そうにする議員達に向けてダイテツは悪びれもなく言い放つ。

「我らが奇襲である以上、本 体とは別行動を取り、我らは敵側面より仕掛けますゆえ、その準備のためにここを離れ、我らが懇意にしている場所に赴き、そこで最終準備を終えたいと思いま す」

ユニウスセブンに向かうな ら、プラントよりもアメノミハシラで構えていた方がいい。あそこならデブリベルト内を潜行し、奇襲を仕掛けるのも充分可能だ。それに、プラントの各ドック も今や艦隊の修理と補給とうの再編成にほとんど空きがない状態だ。ならば、余計な手間をかけるよりもアメノミハシラに移った方が効率はいい。

その提案に暫し考え込んでい たが……現状の再編成状況や時間とう、様々な角度から見直し……ジュセックは決断した。

「……いいだろう。既に諸君 らは独立権限を有している。すぐにメテオブレイカーの搬入に当たらせよう」

視線でユーリを促すと、ユー リは手元の通信機から指示を送る。そして、別の意志を視線に混ぜてタッドを促し、アイコンタクトで受け取ったタッドもまたどこかに指示を送る。

「では、我々は……」

失礼とばかりに議場を退席し ようとするも、ジュセックが待ったをかけた。

「待ちたまえ……諸君らの行 動について、我が軍より監査員を派遣したい」

微かに眉を寄せる……ジュ セックにしても信用しないわけではないが、やはり体面というものがある。彼らを特別扱いしていては全体的な士気に影響するだろう……そこで、名目上の監査 官ということで同行者をつけることで、あちらの行動把握と戦力増強、そして各方面への理由立てにもなる。

「構いませぬが……誰を?」

その思惑と理由を察して か……当惑した様子を見せず、問い返す。しかし、問題は誰を同行させてくるかだ。

「今呼び寄せた……間もなく 来る」

無骨に言い放つタッド……そ れから数分後、議場へのドアが開き、そちらに振り向くと、アスランが驚きに眼を見張った。

声には出さなかったが……そ こには彼のよく知る者が立っていた。

「ジュール隊隊長、イザーク =ジュールであります!」

「同じく、副官のシホ=ハー ネンフースであります!」

入場してきたイザークとシホ の二人が敬礼し、ジュセックが頷く。

「君らを呼んだのは他でもな い……臨時評議会は君ら二人に特務を言い渡す……行動監査官として、彼らに同行せよ」

その言葉にイザークとシホは 驚き、やや眼を見開いて…そして、アスランらも同じように互いを見やる。

二人を呼んだのも、ザフト軍 内部でも屈指のパイロットであることもあるが、なにより元クルーゼ隊の者同士ということもある。

「では、頼んだぞ」

「…は……はっ!」

やや呆気に取られていたイ ザークであったが、すぐさま表情を引き締め、敬礼する。

「すぐさま君らの機体の搬入 作業を開始させる……よろしいかな、ダイテツ艦長」

「了解しました」

その返事に頷くと、改めて一 同を見渡す。

「作戦開始は5日後の10月 2日……諸君……よろしく頼むぞ」

深々と頭を下げ、敬礼する 者…深く決意する者………そして、彼らは議場を退出していく。残された彼らには、もうできることはない……彼らの勝利を信じるしか…そして、その後の世界 のために………

 

 

議場より退出した一同は、そ こで分かれようとする。

「ではハルバートン少 将……」

「うむ…出戻りの老人だが、 最善を尽くそう」

ナタルの促しにやや苦い表情 で頷くと、ハルバートンはマリューを見やる。

「マリュー=ラミアス……君 らは私よりも強く、そして成長した……老兵として、過酷な戦場に赴く君らを誇りに思うよ……」

部下の成長を喜ばしく思うハ ルバートンにマリューの表情が和らぐ。

「死んではならんぞ……ダイ テツ、それに君達も………これからの時代をつくっていくのは諸君らなのだ……健闘を祈る」

静かに敬礼し、ハルバートン は踵を返していく。その背中を見送ると、ナタルがマリューに囁く。

「ラミアス艦長……艦に戻ら れたら、ヤマト達に伝えてくれませんか。アルスターは私が責任をもって預かります。戦いが無事終わったら、逢ってやってほしい、と……」

その言葉にマリューは一瞬驚 く……以前のナタルならあまり考えられない気遣いだろう。

だが、そんな変化を嬉しく思 う自分もいる……マリューは微笑むと、頷き返す。

それに満足し、ナタルも敬礼 して去っていく。

今度こそ……全てが終わった 後でゆっくり逢いたいと…マリューも思った。

そして、互いに背を向けてそ れぞれの戦場へと足を踏み出す。

ドックに戻ると、既に搬入作 業が始まっている……各種補給品と破砕用のメテオブレイカーが艦載され、そしてネェルアークエンジェルにイザークのデュエルパラディン、シホのシュトゥル ムが搬入されていく。

その機影を確認すると、ディ アッカやニコルらは驚きに眼を見張っていた。

「驚いたよな〜まさかイザー クが俺らに同行するなんて……」

正直、ザフトに対し忠義が一 番篤いだけにいくら協力体制を確立させたとはいえ、ネェルアークエンジェルに同行してくるとは思えなかった。

「いいじゃないですか…イ ザークが仲間になってくれるのでしたら、心強いですし」

先のヤキン・ドゥーエ戦では 見事に助けられた身としては、心強いことこの上ない。

そのイザークはシホを伴い、 ネェルアークエンジェルの格納庫でなんともいえない表情を浮かべている。

「なにか不思議ですね、 ジュール隊長……」

評議会からの命令とはいえ、 シホはザフト艦以外に乗るのは初めてで戸惑っている…それがしかも連合の…いや……敵対していたものの艦なのだから………イザーク自身もなにか当惑を抱え ていた。まさか、こうして因縁深い艦に自分が乗り込むことになろうとは夢にも思わなかっただろう。

「おーい! イザーク」

呼ぶ声に顔を上げると、ディ アッカやニコルが近づいてきた。

「よ、まさかお前がくるとは な……」

「フン! 俺は貴様らの行動 を監査するために派遣されただけだ! 妙な行動をしたらただでは済まんぞ」

ぶっきらぼうに言い捨て…… 素直に力を貸しにきたといわないのがイザークらしく、二人は笑みを浮かべる。

「それよりさ、そっちの美人 は誰なんだよ? まさか、浮気かよ?」

シホに眼を向け、声を掛けら れたシホは戸惑い、イザークは無言でディアッカを叩き伏せた。ニコルも注意しないあたり、どこか歪んでいるかもしれないが……

「ハーネンフースは俺の副官 だ…今度の件で同行することになった。貴様よりも腕は上だ」

悶絶するディアッカに言い放 つと、ニコルが答える。

「そうなんですか……初めま して、ニコル=アマルフィです」

「あ、はい…シホ=ハーネン フースです……若輩者ですが、よろしくお願いします」

やや慌てて頭を下げるシホに ニコルは頷く。

「つつ…それよりさ、リーラ には逢ったのかよ?」

叩かれた部分を押さえながら ディアッカが問うと、イザークは無論だとばかりに頷く。プラント上陸後、リーラは再びオーディーンに戻っていったが、別れる前に嬉しそうな表情を浮かべて いたのに安堵した。

「それよりも、フリーダムの パイロットは何処だ?」

イザークにしてみればこの部 隊に来たのもある意味自身の希望でもあったが、なにより未だ顔も知らぬフリーダムとインフィニティのパイロットの顔を拝みたかったからだ。

「レイナさんにはもう逢われ たんですか?」

「ああ……流石に奴の姉だけ ある……すました態度までそっくりだ」

思わず毒づくイザークに苦笑 を浮かべる……議場での顔合わせでレイナと初めて顔を合わせたイザークであったが…姉妹、と以前聞いたが、実際に逢うと成る程と納得する部分もあった。

リンと同じ顔はあるが、それ 以上に内から感じる雰囲気というものが似ていた……掴み所のない部分も含めて……そして、フリーダムのパイロット………アスランの親友だという人物……自 分に傷をつけたパイロット………今ではもう傷の恨みがどうこういうつもりはない。あの時点では自分は奴より劣っていたと今は思える。

だからこそ、その顔を拝んで おこうと思ったのだ。

「キラさんはエターナルです から……顔合わせは向こうについてからでしょうね」

ゲイルとの戦闘で大破したフ リーダム…そして負傷したキラは今、エターナルで療養している。間もなく発進のため、顔合わせはアメノミハシラ到着後だろう。

やや不満げであったが、イ ザークは肩を竦める。

「君か、プラントからの監査 官ってのは?」

そこへ、声が掛かり振り返る と……連合の士官服に身を包んだ男が立っていた。

「お、フラガのおっさん。こ いつだぜ」

「おっさんじゃない!」

ディアッカが親しげに話し掛 ける男、ムウの登場にイザークは生来の喧嘩腰の視線を浮かべる。

「そう睨むなって…ムウ=ラ =フラガだ」

イザークの睨みにも特に害し た様子も見せず、苦笑を浮かべて名乗った名にイザークは微かに眉を寄せる。

(この男が、エンデュミオン の鷹か)

地球連合内でも宣伝されてお り、またクルーゼが時折名を発していたのでイザークは驚きに眼を見張る。

「それより、艦長に挨拶しな いとな……付いてきてもらえるかな?」

にこやかな表情だが、隙を見 せない物腰にイザークは緊張を緩めず…表情を強張らせたままムウに付いていった。

その背中を見送ると、ディ アッカが肩を落とした。

「あいつ…あんなに肩張って て大丈夫か?」

いくらなんでも来て早々アレ では、この先この艦隊の空気に慣れるより気苦労を背負い込むのではと思う。

「慣れますよ……まあ、イ ザークの場合真面目ですから」

自分達もそうだったのだ…… イザークも慣れていくだろう。そして、二人は発進のためにその場を離れた。

 

 

発進が整い、ドックから発進 していくエターナル、スサノオ、ネェルアークエンジェル…最後に発進するオーディーンの展望室で、リーラはやや苦い表情で離れていくプラントの一つを見詰 めている。

「どうしたの?」

唐突に声を掛けられ、振り返 ると、そこには展望室に入ってきたレイナとリンが佇んでいた。

「母親と逢えたそうね……よ かったわね」

リーラがプラント上陸し、母 親に逢いにいったというのは既にダイテツが聞いている……アリシア=ブラッド……旧姓アリシア=エルフィーナ…メンデル出身の研究者…そして……ヴィア= ヒビキの友人……

詳細は知らないが、リーラが プラントに送還されてからの事件は聞いている…その件で死亡したと思われていたアリシアが昏睡状態ながらも生きていると聞き、リーラはさぞ驚いたことだろ う。

「はい……生きててくれて… 本当に」

またもや涙が溢れそうにな り、リーラは眼元を拭う。

そして、決然とした面持ちで プラントを今一度見やる。

「私……絶対に生きて還って きます………お母さんとも…まだ話したいこともいっぱいあるし…」

それに……母に紹介したい人 がいる…自分の大切な人を……無意識に胸元のペンダントを握り締め、祈るように佇む。

その姿に苦笑を浮かべなが ら……レイナとリンもプラントを見やる。

かつてこの宇宙に間違いなく 生きていた生命体……その存在が、この事態を引き起こした要因だとしたら………ウォーダンはエヴィデンスのなかになにを求めたのか………

そして、ヴィアはどんな思い で自分達に接したのか………全ての始まり………人類という種が生まれる遥か以前の………

エヴィデンス01を見たとき にざわついた心の内……その感情はいったい何だったのか……だが、最期の戦いを前にエヴィデンスを見れたことは良かったのかもしれない。

そう思える自分がいるのも否 定できない……そして…次で全てを終わらせる………闇から生まれし者達の闇への回帰………それで…全て終わる…………そう…アプリリウスの奥に存在するエ ヴィデンスに向かい呟いた。

 

 

 

 

レイナ達がプラントを旅発 ち、アメノミハシラに向かっている頃……宇宙空間に浮かぶジェネシスαに接続されて建造されているステーション……先の攻防戦により、ジャンク屋組合によ り運用されることになったこのステーションは、地上のギガフロートと並ぶ本部となるべく改装が進められている。

そして、そのステーションに 停泊しているリ・ホーム、フレガート、シャークレギオンの3隻……そして、ジャンク屋組合のマークが入れられたステーションの通信室に座る壮年の女性…… ジャンク屋組合の組合を纏めるフォルテ=ライラックは通信相手である人物と話を行っていた。

「そうかい……あんたの演 説、なかなか見物だったよ」

《恐れ入る》

どこか皮肉めいた物言いだっ たが……それに対し、不適な笑みを浮かべて応じるのは…シオンであった。

「これで、連合政府はあんた の思いのままってかい?」

《いや、そう簡単にはいかん だろ……だが、流石に今の事態を理解できていないほど愚か者も少ない…大西洋連邦も既に主力を失いガタガタだからな……ユーラシアや東アジアでもかなり混 乱が起こっている》

連合議会においてアレだけ大 々的に自らの存在をアピールしたシオンはシンパたる政治家を増やし、政府の意向をプラント臨時評議会との協力にまで向けさせた。あちらもどうやら主戦派の パトリック=ザラを失い、政権交代が起こったためにさして衝突はなかった。

「そうかい…パトリックの奴 も逝ったのかい……」

シーゲルと並んで交流のあっ たフォルテ……ジャンク屋組合にプラントへの協力を強化しろといわれても首を縦には振らなかった。妻を失ったのは気の毒だが……それでも戦争を起こしたか らといって妻は生き返らないと……何度か漏らしたが聞く耳もなかった。

その奴も逝った……なにか空 しいものを感じていたが、やがて気を取り直す。

「で……いよいよあんた達の デビューってわけかい?」

《そういうことになるな…… 艦隊指揮はアンダーソン中将に一任してある。そちらのおかげと礼を言っておこう》

シオン達の軍勢であるOEAFO艦 隊の編成にはフォルテらの協力も大きかった。おかげでアガメムノン級6隻にナスカ級7隻、ローラシア級10隻、護衛艦23隻に駆逐艦37隻という一個艦隊 以上の規模を編成できた。

大西洋連邦も後々のためとば かりに主力をほとんど宇宙に上げていたために、そのほとんどを損失し、もはや国力を低下させている。そのために統合艦隊の中枢にOEAFOを 据えられたのだ。

L3宙域に集結中だった艦隊 は移動を開始し、集結ポイントにて連合とザフトの残存艦隊と合流する手筈だ。

「しかし、ユニウスセブンが 動くとは……なかなか趣向を凝らす神様だねぇ」

慇懃な物言いで鼻を鳴ら す……軌道を変え、地球へと降下コースに入ったユニウスα…この付近でここ一ヶ月程、ジャンク屋組合の仲間が次々と行方を絶っていると思ったら、こんな裏 があったとは………

「それで……どう攻めるんだ い?」

《我々が恐らく正面から敵の 注意を引き付けることになるだろう……その後、恐らくだが側面から突入部隊が攻撃を仕掛ける》

統合艦隊の進攻航路は既に完 成している……自分達は囮なのだ。そして、独自の指揮系統を与えるというのはやや難であったが……彼らがそれを果たすであろう。

フォルテもシオンの示唆して いる者達が誰なのか、おぼろげに察していた。

《……すまんな。あまり長話 もできん》

唐突に呼び出し音が鳴り、シ オンは手を振る。

地球内での混乱はやはり大き く、収拾のためにシオンは今仕事に手を取られているはずだ。

「ああ、解かったよ……ま、 あたしもあたしで勝手にやらせてもらうよ」

《フッ……好きにするがい い》

どこか不適に笑い、鼻を鳴ら すと通信を切る。同時にフォルテはシートに身を預けた。

「やれやれ…相変わらず大胆 不敵な奴だねぇ」

軽く毒づくと、通信室へのド アが開き、人の気配を感じてフォルテはシートの向きを変えて振り向くと、そこにはロウや劾、カナード達がいた。

「フォルテの婆さん、俺らに 用ってなんだ?」

「ロウ、婆さんは余計だよ」

真顔で問うロウにフォルテは やや睨むように視線を向けるが、ロウは悪びれもなく笑みを浮かべて謝罪する。

「わりいわりい…で、なんだ よ?」

「……例の謎の一団か?」

ロウの疑問を遮って呟く劾 に、フォルテは神妙な面持ちで頷く。

「あんた達も既に知ってると 思うけどね……」

「あんなのタダのはったりだ ろ? 大袈裟なんだよ……」

「ロウ……お前さんみたいに 誰もがお気楽に考えられないんだよ、少しは深刻に考えられるように頭を使いな」

肩を竦めていたロウだが、 フォルテの扱き下ろしに言葉を詰まらせる。

「状況は悪いのか?」

「最悪だねえ……連合もザフ トも互いに争っている場合じゃなくなるぐらいだしね」

ロウのことを完全に横に置 き、話を進める劾とフォルテ……犬猿の仲以上に対立していた連合とザフトが上層部の改革があったとはいえ、統合艦隊を編成しなければならないほどだ。

「それとだけど……ユニウス セブンの軌道が変わったのが確認できたよ」

その言葉に一同は息を呑む。

「嘘だろ? あれはもう長い こと安定周期にあるんじゃないのか?」

「そういった常識が通用しな いんだよ……タイミングからいって、あの訳が解かんない連中の仕業ってのは間違いないだろうけどね」

ぼやくように溜め息をつき、 改めてロウ達を見渡す。

「それで、あんた達に少しば かり頼みたいことがあるんだがね………」

やや強張ったような…それで いて低く響く声……女ながらにジャンク屋組合を取り仕切ってきた強さを垣間見せる表情で呟く。

「あの子達の手助けに…いっ てもらいたい……あんた達がよく知ってる連中のね」

ここにいる全員の知っている 者……それだけで誰を指しているかは明白であった。

「やはり、連中が要か?」

「ああ、そうだよ……今頃ア メノミハシラに到着した頃だろうね………統合艦隊は派手に暴れるけど、それだけでどうにかなる相手じゃない。あの子達が恐らく連中の懐に飛び込んでい く……あんた達には、その手助けをしてもらいたいのさ」

一筋縄でいく相手ではないの はフォルテにはひしひしと感じられる……そして、彼らはその懐へ飛び込んでいくのだ。当然、危険も大きいだろう……だが、自分にはどうしようもない。この 老体では戦うなど不可能……なら、フォルテにできるのは間接的な援護だけである。そして、自分の知るなかで手助けできるのは彼らと関係の深いこの面 々………

「当然、報酬は払うよ……い い値でね」

危険が大きい以上、劾やカ ナードなどの立場にはそれ相応の見返りが要るであろう。

二人が考え込む横で、ロウは ニッと笑みを浮かべた。

「俺は構わねえぜ……あいつ らが助けを必要としてるんなら、手を貸してやらないとな!」

生来の御人好し故か…それと も、レイナ達を仲間だと思っているロウ個人の考えか……だが、ロウは以前レイナに言ったのだ。道が重なり合うなら、共に力を貸すと……それに、ロウ自身も 好奇心に突き動かされていた。あの久々に感じた大きな危険……リスクなしにリターンはないのがジャンク屋……ロウ=ギュールである。

「……俺も構わん。奴らには 借りがあるしな」

カナードも頷き返す。自身の 道をゆく上でいろいろと世話になった……それに、キラ達が戦うなら、それを傍観していることもできない。なにより、カナード自身あの敵と戦ってみたい…… そんな高揚にも似た昂ぶりを抑えることができない。

「………いいだろう。その依 頼、受けよう」

傭兵はリスクの高い依頼は受 けない……今回の依頼は、正直リスクが高すぎるといわざるをえない。だが、劾はただ報酬のために戦うような傭兵とは違う……彼はあくまで世界の流れを少し でもよい方向にもっていく手助けをするという信念を持っている。連中の思惑がどうであれ、世界を滅ぼすなどという狂った連中を野放しにしておくほど劾も甘 くはない。連中は世界全てに宣戦布告したのだ……なら、劾にとっても敵ということだ。

それぞれの返答を聞き、フォ ルテは表情を緩める。

「そうかい……助かるよ。餞 別代わりってわけじゃないけどね……アレを持っていくといいさ」

意味ありげに目配せする…… すると、ロウが思い至ったのか、声を上げる。

「ええっ! アレ使うのか よ!?」

「当然だろ……アレはαに あったんだ。ここはもう所有権はうちにあるんだからね…どう使おうと構わないだろうよ」

なにか、随分自己本位で物騒 な発言だが……フォルテは不敵に笑うだけだ。

その態度に無駄と悟ったの か、ロウは肩を落としながら頷く。

「解かったよ…すぐ準備に取 り掛かる」

「俺達も出発準備を進めよ う」

「作戦開始は連中の指示した 猶予の最終日……正午と同時に開始するそうだからね…モタモタしてると遅れてしまうからね…急いで取り掛かりな」

フォルテの激に頷き、ロウ達 は通信室を退出していく。

それを見送ると、フォルテは 今一度通信を開き、ジェネシスα内の一画に内線を開く。

「聞こえるかい? 例の5号 機と6号機をすぐリ・ホームに搬入しな! いいかい、モタモタするんじゃないよ」

ぶっきらぼうに言い放つと、 通信を切ってシートに凭れ掛かる。

「あたしにできるのはここま でだ……あとは…あんた達に託すよ………」

祈るような思いで、フォルテ はその場で瞑目した。

 

 


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