C.E.71 10月2 日……その刻はきた…………

自ら審判者と……神の使徒 と…姿をもった者達の人類への審判への猶予の最終日………

太陽光が僅かに差し込む宇宙 においては時間の流れなど感じないように見える…だが、それでもその朝陽だけは人々の眼には残酷なものにも見える……

長い一日が始まる……それ は………この世界の全てをかけたもの………

 

プラント周辺宙域にて編成を 終えていた連合及びザフトの残存の有志による統合艦隊はエンジンを噴かし、作戦開始ポイントにおいて集結中のOEAFO艦 隊と合流し、まさに決戦に臨まねばならない。

そして……人々はただ静かに 祈り…待ち続けるだけ……明日という日がくることを………

その想いを託されし者達もま た、決戦の死地へと旅立とうとしていた………多くの想いを託され…そして使命を継ぎし者達の旅立ち…………

アメノミハシラに僅かに差し 掛かる太陽の光は彼らに戦場への道を指し示しているようにも取れた。

全ドックで発進準備が慌しく 進むなか……その喧騒が居住ブロックでも起き、レイナは静かに眼を覚ました。

「………」

いよいよだ……運命の 刻…………そして……自分の全てをかける刻…………

レイ=ヒビキが何を思い…そ して……何を見届けるのか……その答を得るために………

レイナは身を起こそうとした が、仰向けになっている身体の胸にのせられている腕に気づき、隣を見やると……すぐ真横に、自分が……いや…妹が眠っていた………

普段のどこかぶっきらぼうな 口調である表情とは変わった穏やかな寝顔……微かな寝息を立てる表情は、どこかあどけない………

構図的には、リンがレイナを 押し倒したような状況だ……誰かが間違えて入ってきたら間違いなく誤解するだろう……そう考えると苦笑を浮かべる。

そっと、腕を下ろす…そし て……握られた左手に気づいた………寝ながら、強く握っていたらしい……

「昔は……こうして手を繋い だこともあったんだな………」

過去の記憶……自分のもの で…自分のものではない記憶…………それはもうどうでもよかった……

不意に…レイナは右手で唇を なぞる……なにか…妙な違和感を憶えるも…特に気にした様子もなく、今一度…眠るリンを見やる。

その髪を…愛おしそうに撫で る………

「……できるのなら………貴 方は生きて…リン………」

 

 

――――――大切な… 妹………

 

 

そう心のなかで呟く…不思議 なものだと思う……彼女は自分から生まれた……だが…彼女は少なくとも自分とは違う……消えるべきは……自分だけ………だから生きてほしい……だが…それ を受け入れはしないだろう……彼女はそうだから………

それが聞こえたのかは解から ない……だが、次の瞬間リンは身じろぎし…瞼をゆっくりと開けた。

「ん…………」

微かに息を漏らし……身を起 こす……そして、レイナを見やる。

互いに無言のまま、見やりな がら起きぬけの挨拶とばかりに一瞥する。

そして……握っていた手に気 づき、ゆっくりと離す。

どこか、気まずげにお互いを 見やっていた……なにか、不思議な感覚だ…そう内心に苦笑を浮かべていると………

《全艦、間もなく発進する!  各艦のパイロットは、一時間後…各艦のブリーフィングルームにて最終ミーティングを行なう》

そこへタイミングよくダイテ ツからの艦内放送が響く。

「……いきましょうか?」

リンが問い掛けると…レイナ は不適に笑う。

「ええ……終わりの…始まり に…………」

レイナとリンは立ち上がり、 どちらかともなく腕を挙げ……互いの手を叩き合った。

 

 

数十分後……アメノミハシラ の全ドックのハッチが開放され、各艦が発進スタンバイに入る。

「全艦に告ぐ……これより、 我らは最後の作戦に入る…」

スタンバイする各艦にダイテ ツの通信が入り、クルー達は皆、武者震いするかのように緊張した面持ちで聞き入っている。

「今までよりも過酷な…苛烈 な戦闘が予想される……」

低い声で静かに話すダイテツ に息を呑む…皆、内心に不安を隠せない。これから戦う相手は連合やザフトとは違う…まったくの未知の相手なのだから………

「が! 我らは退くことはで きない……我らに託されたものは大きい……そして…それを成就するために…各員の健闘と奮闘を祈る!」

その瞬間、一斉に応じる声が 上がる。

「発進する!」

ダイテツの号令とともに…… オーディーンのエンジンが唸りを上げ、船体を押し出すように加速させていく。

ゆっくりとドックの固定アー ムが解除され、オーディーンは進んでいく。

オーディーンに続くように ドックから姿を見せるネェルアークエンジェル、エターナル、スサノオ、クサナギ、イズモ………

各艦の艦長達が緊張した面持 ちを浮かべるなか……オーディーンが先頭を切り、希望を託されし運命の戦士達は旅立った………

 

 

―――――――滅びと再 生……終わりと始まりの刻を告げる審判の死地へと…………

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-57  破滅の黙示 録(アーマ・ゲドン)

 

 

時間は無慈悲にも流れてい く……そしてとうとう半日が過ぎた…………デブリベルトのテリトリーよりやや離れた位置に展開する艦隊……連合・ザフトの両軍が入り乱れて布陣する大艦 隊…審判者達によって魂を壊された哀れな者達の成れの果て……ディカスティスの傀儡艦隊がデブリベルトを背に布陣する。

その数は軽く見積もっても2 個艦隊以上の規模を誇る……なにせ、ヤキン・ドゥーエ宙域に展開していた両軍の半数近くを奪取したのだから………

そして……操り人形と化した 艦隊が待ち受ける正面にもまた同じように連合とザフトの艦艇が入り乱れている艦隊……

連合とザフト、そしてOEAFOの 統合艦隊だ。

その艦隊の中枢を担うのはOEAFO艦 隊の旗艦、アガメムノン級のリンカーン。艦長は元ユーラシア連邦揮下の第2機動艦隊の提督であったラウル=アンダーソン中将。

リンカーンはシオンからの データ提供の下、連合のAA級に準じる戦闘能力確保のために強力なゴッドフリートにレーザー対空砲を装備させたアガメムノン級の改装型だ。

アンダーソンは険しい面持ち でモニターに映る敵艦隊を睨んでいる。

作戦開始まであと十数分…… だが、彼に任せられた時間は十一時間……それ以上の遅延は、赦されない………

(最速でいえば核を使いたい が、今の状勢ではな………)

それ以上のタイムオーバー時 は、最終手段として核を用いたいところだ……だが、一度核によって崩壊したユニウスセブンの破壊に核を用いれば、まず間違いなくこの統合艦隊の足並みが乱 れる。

それが現状ではベストとはい え……だが、もし最悪の場合は核によって破壊するしかない……地球が壊滅しては元も子もないのだ。

「提督、ケルビム及びヘル ダーリンより通信です」

「モニターに出せ」

オペレーターの言葉に頷き、 指示を出すと…間髪入れず正面モニターに二人の人物が映る。

《アンダーソン中将、こちら はなんとか完了した》

地球軍の残存艦隊の旗艦であ るケルビム艦長のハルバートン少将がやや苦い声で応じる。

《ヘルダーリン艦長、タリア =グラディスです……万全とはいいがたいですが…取り敢えずは作戦遂行は可能です》

片方はザフトの残存艦隊の旗 艦に就任しているヘルダーリンの艦長である女性士官のタリア……タリア自身は大それた役回りと辞退しようとしたのだが、独立部隊の指揮官であるダイテツの 推薦もあり、この大役を受けた。

ハルバートンもタリアも表情 はやや強張っている……それも仕方ないだろう…ヤキン・ドゥーエ付近での再編成で投入できた艦艇も残存艦隊の約6割ほど……やはり、編成期間が短すぎる。

だが、それでもやらねばなら ない……これ以上の遅延はできない。

「……ハルバートン少将、そ れにタリア艦長…お二方は、敵の陣容、どう見る?」

唐突に問い掛けるアンダーソ ンにハルバートンとタリアも横眼でモニターを見やり、正面に展開する艦隊を見る。

《…敵の識別はどれも見慣れ たものばかりだ……連中は愚か、奪われた中枢部隊もいない》

吐き捨てるようにハルバート ンが毒づく。

正面に布陣し、迎撃に防御を 固めているのは見慣れた連合とザフトの標準艦ばかり……識別でも、周囲に展開しているMSもオーディーンより齎された敵機動兵器に該当するものは見当たら ない。そればかりか、奪取されたなかにあった連合軍のAA級や核ミサイル搭載のメビウス艦載空母たるアガメムノン級やザフトの大型空母:ヘカトンケイルの 艦影も見当たらない。

《やはり、それらは全て彼ら の方に向かったと見るべきでしょう……》

苦い…そしてどこか悔しげに タリアも歯噛みする。

実質、自分達は囮だ……だ が、敵の大軍を引き付けなければならないというのに……肝心の敵の機動兵器は愚か、主力たる部隊までいない……自分達には、奪った兵力だけで充分という敵 の侮蔑さに怒りがこみ上げてくる。

アンダーソンも考え込む…… 確かに両軍の主力たる部隊や敵の姿は見えない………だが、それは逆に好機でもあると……

「確かに我らは舐められてい るな……だが、そうやって見下したことを後悔させるべきではないか……主力は全て連中に差し向けられているとなれば……」

その言葉に二人もやや眼を瞬 く。

そう……主力がほぼあちら側 に引き付けられているなら、逆もまた然り………あちらを陽動にこちらがこの眼前の艦隊を突破し、目標に取り付いて作戦を敢行することも可能だ。

言い方が悪いが、取れる戦法 が既に知られている時点でどちらもが囮になり、どちらもが本命になりうる………

《我々がこの囲みを突破し、 目標に取り付けばよし……》

《あちらが突破してくれるの を待つのもよし……という訳ですね?》

二人の問い掛けに頷く。

悪いが、今は地球全体の問題 なのだ……打てる手は全て打たねばならない。アンダーソンはいざ知らず、独立部隊に知人や監査員のいるハルバートンやタリアからしてみれば後ろめたいもの があったが……この状況でそんな個人的感情は邪魔でしかない。そして…恐らく彼らもそれを承知しているだろう。

どちらが囮か解からんな…と 内心毒づくと、ハルバートンは顔を上げて応じた。

《了解した……こちらは、ケ ルビム以下ドミニオンとともに突入する》

《我が方が主力の援護に回り ましょう…ナスカ級数隻をそちらに回します》

それと同時に通信が途切れ る……リンカーンを中心に布陣するOEAFO艦隊の周囲に就くザフト艦に、突入の要たる強襲艦隊をケルビム、ドミニオンのAA級 2隻を中心に数隻の艦隊が就く。

「全艦に通達……回線開け」

静かに命じるアンダーソンに オペレーターが無言で応じ、統合艦隊の全艦艇に通信がオープンになり、アンダーソンは一呼吸した後…低く語り出す。

「この戦いに参加せし全将兵 に、まずは過酷なこの戦闘に参戦してくれたことに感謝を述べる……我らはこれより、熾烈な渦へと飛び込んでいかねばならん……そして、それを阻むは我らの かつての同胞であることにもまた心傷めている者も多いと思う……」

その言葉に歯噛みする者や怒 りを露にする者もいる……致し方ないだろう……彼らの前に今立ち塞がっているのはかつての彼らの同胞なのだから……家族・恋人・友人……それらが敵となっ ている現状に戸惑い、そして嘆いている者も多い……

ヤキン・ドゥーエで回収され た機体…その内に拡がっていた光景………それは…全てを闇へと誘うかのような所業………

「だが! 我らは行かねばな らん……我らが母なる大地を護るため…そして……我ら自身の手でかの者達に辱められている同胞の魂を解放するために……諸君らの力、使ってもらいたい!」

刹那、各所で声が上がる。

「諸君らの健闘を期待する!  これより、オペレーション・オーヴァーロードを開始する! 全艦、主砲発射準備!! 人類の底力を思い知らせてやれっ!」

アンダーソンの号令にクルー 達が弾かれたように指示を実行していく。

誰もが戸惑いのなかにあっ た…だが、囚われし同胞の魂を解放する……この言葉が最高のモチベーション強化に繋がり、皆息巻いている。

 

――――――オペレーショ ン・オーヴァーロード………

 

連合政府、プラント臨時評議 会の両者の一致で決定された作戦名……かつての旧世紀において行なわれた史上最大の作戦名……統合艦隊という現在の最大総力をかけて解放する…同じ『解 放』の名を冠する天使の王に対する最高の皮肉めいた命名だろう。

「全艦、主砲発射準備!」

「第1戦闘配備発令!」

「MS隊、発進スタンバ イ!」

オペレーター達が矢継ぎのご とく指示を各部署に飛ばしていく。加速する統合艦隊……全艦の主砲が起動し、一斉に砲撃体勢に入る。

そして、ディカスティス艦隊 もまた砲撃体勢に入り、応戦準備に入る。

互いに艦砲の射程距離に入る まで、沈黙が続く……ほんの数秒のはずが、まるで永劫にも取れるほど永く感じる………

艦砲の砲口にエネルギーが集 束し、艦載機のMSが起動し、発進態勢に入る。

まるで鏡合わせのように対峙 する両艦隊……緊張した面持ちのなか…鼓動が強く響く。

互いに射程距離に近づき…や がて、その距離に到達した瞬間……両艦隊から一斉に砲火が咲き乱れた。

幾条もの火線が飛び交い…こ こに……戦闘は開始された…………

 

 

 

 

その頃……アメノミハシラを 発った6隻の艦はデブリベルト内を潜行し、目標ポイントに向けて航行していた。

そして、各艦のブリーフィン グルームには主要メンバー以下パイロットが集められ、リンク通信による最終ミーティングが行なわれていた。

主軸となっているオーディー ンのブリーフィングルームでは、ダイテツが戦略パネルを背後に概要を説明し、それを全員が聞き入っている。

「既に、統合艦隊による戦闘 は開始されている…が、あちらから回ってきた情報によれば、強奪された両軍の主力部隊は確認できずとある………」

腕の時計を見やり、時間を確 認したダイテツがそう告げる。

既に統合艦隊による陽動は開 始されているはずだ…恐らく、正面宙域では今頃激しい砲火が轟いている頃だろう。

そして、その事前連絡におい て確認された敵戦力は強奪された両軍の約7割ほど……主力たる艦艇や部隊は確認できていない。

《十中八九、僕らの御出迎え に回されてるってやつですかね?》

《ああ…それも、連中の主力 と一緒っつう豪華なオマケ付でな》

冗談めかしたバルトフェルド に相槌を打つムウ。

ディカスティスにとって強奪 した部隊はあくまで保険だ…保険でしかなかったはずだ……だが、表舞台に引き摺り出されたために変更せざるをえなくなった。

強奪した部隊はいわば使い捨 て……連中の主力はあの天使を模倣した機体群と4大天使の名を冠する機体……それだけでも厄介だというのに、そこに強奪された両軍の主力部隊が加わるの だ。

「強奪された戦力から見て も…恐らくAA級2、そしてザフトの大型空母…さらに両軍の中枢部隊が待ち構えていると考えた方がいい」

苦い口調ながらもダイテツは そう締め括る。

AA級が2隻にザフトの例の 大型空母…さらには両軍のエースや主力部隊……規模的には一個師団にも匹敵するだけの戦力が敵側にはある。

「……正面からの中央突破だ けじゃ、難しいわね」

レイナの言葉に誰もが息を呑 む。

そして……それら全てを相手 にしていたのでは……まず間違いなく時間が足りない………

時間を掛ければ突破は可能か もしれないが、そうもいかない…これはいかにして目標に取り付き、破壊しなければならないというスピードが要求される。

プラントから預かったメテオ ブレイカーを持って到達するのは厳しいとしか言わざるをえない。

「メテオブレイカーを持って 動くのはまず無理……なら、目標を破壊するしかない………」

破砕作業用のメテオブレイ カーを担いで目標まで潜り抜けて辿り着くのはまず不可能…たとえできても1、2基が限度。アレだけの物体を抱えて戦闘空域を突っ切るのは不可能だ。回り道 をしても恐らく無駄…時間が足りない。

ならどうするか……メテオブ レイカーなしに目標に到達し、そのまま機体の火力で目標を迅速に破壊するしかない。

「そうだ……そして、それを 行うためには目標に最速で到達し、尚且つ圧倒的な火力で可能な限り目標を破壊し、目標を細かく分散させることにある……」

パネル上に表示されるユニウ スセブンと青いカーソルの自軍と赤いカーソルの敵軍……ダイテツは手に握る差し棒で作戦の概要を説明する。

「オーディーン以下6隻で前 面に展開している敵艦隊を迎撃…そして、突破口を開く」

戦艦6隻の火力でまずは道を 切り拓く。赤い壁のマーキングが左右に分かれる。

「当然、敵側全てを沈めるの は物理的に不可能だが、混乱を引き起こせる……その後、突入隊はその間隙を縫って敵艦隊を突破…目標に向かう……戦艦及び他の艦載機はこれらの支援に回 る!」

青い矢印が左右に開いた壁を 突っ切り、目標に到達する。

まずは戦艦の艦砲で敵艦隊を 砲撃し、混乱を引き起こす……それに乗じて突入部隊が混乱に乗じて戦闘宙域を乗り切り、目標に到達する。そして、戦艦を含めた残存部隊で敵を引き付ける。

戦術としてはセオリーだが… この状況ではベターな作戦だろう。

《ですが、いくらなんでも MSだけの火力で目標を完全に破壊するというのは……》

マリューがやや言葉を濁しな がら呟く。

そう…確かに戦艦並みの火力 を有しているとはいえ、目標の質量が明らかに桁外れすぎる…MSクラスの火力ではそれらを完全に破壊するのは物理的に不可能だ。

「解かっている…突入部隊は できるだけ物体を少数の破片に砕いてくれたまえ……そう…大気圏で燃え尽きる程度にな…」

その言葉の意図を察した数人 は息を呑む。

「……大気圏突入前に…戦艦 の艦砲でそれらを完全に破壊する!」

そう……アレだけの質量だ… 砕いたとしてもそれが細かすぎれば当然それらは一斉に大気圏に突入し、燃え尽きるのは構わないが、なかにはそういかないのもある。大気圏で燃え尽きず、そ のまま地上に落下すれば、それは世界に飛び火する。

だが、この大きさを調節すれ ば可能だ……ようは、細かくではなく…4つか5つ程度に分散させれば………その程度の破片なら、充分破壊が可能だ。

オーディーン、ネェルアーク エンジェル、スサノオ、イズモ、クサナギには最強の陽電子砲が備わっているのだから……5隻の陽電子砲を使用すれば、破片をさらに細かに分散させ、大気圏 内で消滅させることもできる。

「だがそのためには…なるべ く割る大きさを調節し、尚且つ大気圏内でも行動可能な機体が目標の中心に向かい、中心で砕く必要がる……」

そこでダイテツは初めて苦い 口調で語った。

いわば、突入部隊はかなりの リスクが伴う…大気圏に突入しようとしている目標に取り付け、尚且つ行動可能が大前提なのだ。当然、突入部隊に編成されるべき機体は絞られる。

それも……敵艦隊を突っ切れ るだけの機動性と火力を持った機体が………

「突入部隊は相当の危険が伴 う……よって、この突入部隊の編成は志願制とする………すまん、わしらには…この手しか残されておらん」

帽子を深く被り、言い淀むダ イテツにパイロット達やクルー達の間でどよめきが起こる。

「……私はいくわ」

そのなかで最初に言葉を発し たのは、レイナだった。

レイナにしてみれば、当然 だ…それだけの条件をクリアできるというのもあるが、奥にはあの男がいるのだ……なら、余計な邪魔が入らないだけその方がいい。

「当然、私も加えさせてもら う」

それに続いたのはリン…彼女 も同意見だった。それに、その戦法は遂数日前にもやったばかりだ。

その二人の反応にダイテツは やや表情を顰めるも…それを覚悟していたように頷く。

《僕もいきます》

《俺もだ》

《私もです》

《私もいくぞ》

続けて名乗り出たのはキラ、 アスラン、ラクス、カガリ……フリーダム、ジャスティス、マーズなら充分規定条件をクリアできる。それに、カガリのアカツキもスペック的には可能だ…どの 道、ここまで来て付いていかないという選択肢はない。

「私もいきます…いかせてく ださい」

レイナの隣で今まで黙り込ん でいたリーラが逡巡を断ち切るように立ち上がる。

《俺も参加させてもらうぞ… 俺はこいつらの監査役だからな》

リーラが名乗り上げ、イザー クがもっともらしい理由をつけて志願するが、二人の心持ちはその先にいる倒すべき相手だ。その決意を感じさせるように互いに顔を見合い、頷き合う。

《ジュール隊長がいくのな ら、副官の私はお供しなければなりません》

イザークの隣に座っていたシ ホが志願するも、イザークは押し留める。

《ハーネンフース、お前は残 れ》

《しかし!》

イザークにしてみれば自分は ともかくシホまでそんな危険な任務に就かせる必要はない…部下を思うのもあるが、それ以上に母艦の護衛戦力がそれ程低下するのは避けたい。

だが、そんな気遣いもシホに は歯痒かった。そこへ、意外な助けが入る。

《よろしいのではないです か…突入部隊とはいえ、敵艦隊の奥にはまだ何が潜んでいるか解かりません……数は多い方がいいでしょう。ね、シホさん?》

ニコリと…どこか迫力を感じ させる表情でそう呟くニコル……その言葉には、自分も参加するという意志がこめられていた。

ニコルの援護にシホが表情を 和らげ…イザークは言い募ろうとしたが、ニコルの笑みに押され…渋々了承した。

《好きにしろ…その代わり、 助けてはやれんぞ》

《はい!》

喜色に染めたシホが頷き、ニ コルに頭を下げる。

《ニコルがいくってんなら、 俺もいくぜ!》

《俺もっしょ!》

それに続いてディアッカとラ スティが名乗り上げる。

《僕も御一緒します…》

そして、カムイがやや強張っ た面持ちで名乗り出る……カムイもまた、いかねばならない。先の戦いで僅かに揺らいだ親友のために……まだ救える可能性があると信じて………

《やれやれ……ガキどもばっ かじゃ不安だしな…俺がお目付け役で同行するぜ》

頭を掻き、冗談めかした口調 でそう進言するムウ……レイナやリンがいるのだから、お目付け役など必要ないかもしれないが、ムウは感じている。立ち塞がっている艦隊に奴はいないと…… その先にいると………なら、自分も行かねばならない。

《少佐…なら、俺も!》

《私も同行する…》

ムウ達だけにそんな危険な役 目を任せられないとアルフやメイアが志願しようとしたが、ムウはやや睨むように遮る。

《ダメだ……お前らまで抜け たら、肝心の母艦の防衛力が低下しすぎる。母艦を失っちまったら元も子もないんだぞ》

そう論され、グッと押し留ま る。確かに……ただでさえ主力のメンバーがほとんど抜ける以上、そこにアルフやメイアまで抜けた防衛戦力だけでは敵艦隊を迎撃するのは難しい…下手をした ら、作戦の最終フェイズが不可能になる。

《お前らは母艦を…俺らが帰 る場所を護ってくれよな》

ややキザっぽいセリフでそう 呟くムウ…その言葉のなかに懇願するようなものを感じたアルフとメイアもそれ以上は言えず、二人はならばと頷く。

「それと最後に伝えておく… 先程、統合艦隊より入電した……タイムリミット一時間を過ぎた時点で……目標の無効化が不可能な場合、統合艦隊は最終手段として核を用いてくる」

その言葉に誰もが息を呑 む……核の使用はまさに最終手段………ジェネシスを使えば、ユニウスセブンを遠距離から破壊できたかもしれないが、あの状況ではどの道ジェネシスを破壊せ ねば、両軍の仲介には至らなかっただろうし、なにより連中の手にあった時点で破壊は避けられなかった…いや……ある意味、それを見越していたのかもしれな い。

レイナは拳を握り締める…… もし、時間が間に合わなければ……統合艦隊は残った核ミサイルでユニウスセブンを破壊する。核によって崩壊し…そして核によって消滅させられる…まるで フィクションの喜劇だ………無論、誰もがそんなことを望みたくないだろう。衛星軌道で核を用いれば、最悪その影響がどう出るか解からないのだ。

なら……自分達のすべきこと は10時間内に決着をつけなければならないということだけ。

そして…ダイテツは静かに志 願したパイロットを一人一人見据える。

全員がほぼ子供……護るべき 子供に危険な死地へと赴かせなければならないという現実に苦悩するも、その悲壮感を表には出さず、静かに呟く。

「頼むぞ…諸君………最後に これだけは言っておく。決して、誰一人欠けることなく…この作戦を終わらせ、戻るのだぞ…これが私の最後の命令…いや……ここにいる者全ての願いであり、 頼みだ……それを忘れるな」

そう……ここで散るべき命で はない……彼らには、まだ次世代を担うという大切な役目がある。そして…彼らを必要とする者がいる……ダイテツの言葉にやや強張った面持ちながらも真剣に 聞き入る。

「健闘を祈る!」

ダイテツの敬礼に全員が一斉 に敬礼で応じる。

「では……作戦前に…突入部 隊:Gフォースの要たるレイナ=クズハ……お前に作戦名を命名してもらいたい」

不意打ちに近いその言葉に… レイナは一瞬眼を剥く。だが、ダイテツのなかの微かな笑みを見抜き、やや悪態をつくように一瞬逡巡する。

当然、大掛かりな作戦名はあ ちらの統合艦隊で既に決まっているはずだが…自分達は独立部隊……敢えて別の作戦名を命名することで士気を高めようということだろう。

「……そうね……オペレー ション・NOIR APOCALYPSE

神殺し………または黒き黙示 録……神に歯向かう自分達には相応しい名だろう。

不適な笑みを浮かべるレイナ に、ダイテツが周囲を見渡すと…反対はない。

それに頷くと…静かに腕を挙 げ……刹那、怒号が響いた。

「総員! 戦闘配置!! こ れよりオペレーション・NOIR APOCALYPSEを敢行する!」

次の瞬間、弾かれたように全 員が一斉にブリーフィングルームを飛び出し…艦長以下クルーはブリッジに……パイロット達は搭乗機に向かっていった。

 

 

 

 

デブリベルトの外側では、激 しい砲火が轟いていた。

統合艦隊とディカスティス艦 隊の艦砲の応酬が絶え間なく迸っていた。火線に晒され、轟沈する両軍の艦隊……駆逐艦や護衛艦、ローラシア級が船体を撃ち抜かれ、激しい閃光を発しながら 撃沈する。

「ケルビム、及びドミニオン を前面に出せ!」

アンダーソンの指示に、ケル ビムとドミニオンの2隻が前面に出る。ラミネート装甲という分厚い装甲とアンチビーム粒子の併用で簡単には沈まない2隻が前面に立ち、前門のローエングリ ンが起動する。

ハルバートンとナタルの号令 とともに、2隻から陽電子の渦が放たれる。蒼白い光の渦が伸び……展開していたナスカ級と護衛艦2隻、駆逐艦4隻を呑み込み、破壊する。

そして、両軍の距離が縮ま り……両艦隊からMSとMAが放出される。

統合軍、ディカスティス…と もにストライクダガー、メビウスやジン、シグーにゲイツといった混合軍だ。だが、一点の違いがある……ディカスティス側にあるバルファス…MMシリーズ だ。全て人工知能で無人機であるMMは稼動していたほぼ全てがウェンドによってシステムを掌握され、奪われていたのだ。

距離を詰めた瞬間、両軍から 火線が飛び交う。

ストライクダガーとジンが一 斉にビームライフルと突撃銃を放ち、ゲイツを破壊する。

突進してきたストライクダ ガーがビームサーベルを振り被り、メビウスを斬り裂く。斬り裂いたストライクダガーに向かい、シグーが重斬刀を薙いでボディを両断するも、次の瞬間にはゲ イツのビームライフルを喰らい、破壊される。

傍目には誰が敵で誰が味方か さえ判別できないほど混戦している戦場…そのなかでの唯一の見極めは識別信号のみ……それだけが自軍の機体を教えてくれるも、なかにはやはり戸惑い、動き が遅れて攻撃を喰らい、破壊されるMSも多い。

ディカスティス側のMS隊は まったく戸惑うことなく正確に敵機のみを識別して攻撃するに対し、こちらは遂数日前まで互いに争っていた者同士……どちらの方が優勢か、問うまでもないだ ろう。

防衛戦力を突破したゲイツや デュエルダガーが一気に統合軍の艦隊に迫る。艦の護衛に就くジンやストライクダガーが応戦するも、割り込んだバルファスのフィールドによって無効化され、 攻撃は届かない。その隙を衝き、ゲイツのアレスターがジンを…デュエルダガーのビームがストライクダガーを貫き、破壊した。

護衛が蹴散らされた護衛艦に 向かい、一斉に攻撃を放ち、主砲や機関部、ブリッジを破壊し、護衛艦が轟沈する。

その爆発に眼も留めず、次な る獲物を狙おうと飛び立とうとするも、そこへ銃弾が轟く。

その動きに気を取られ、一瞬 動きを止めたストライクダガーは下方から回り込んできた機影が振り上げた刃にボディを両断され、爆発する。

それだけに留まらず、機影は 横にいたゲイツのボディを蹴り上げ、態勢を崩させる。

「ごめんね……」

微かに懺悔の言葉が響いた瞬 間、手持ちのJDP4−MMX44試製30mm機甲突撃銃 を放ち、コックピットを破壊する。

爆発が映えるなか…浮かび上 がる機影はゲイツハイマニューバ……コックピットには、緑のパイロットスーツの少女が座っている。そのヘルメットのバイザーの下には映える金の髪とライト グリーンの瞳が切なげに揺れている。

ザフト軍のパイロット、セラ フ=クリオトレンダ…まだ16歳の少女である彼女はゲイツの破壊にやや息を乱している。いくら操られているとはいえ、同胞だった相手を殺したのだ…その葛 藤は深い。

だが、迷ってはいられない… 今は戦わなければならない……そう自身に言い聞かせ、セラフの駆るゲイツハイマニューバは次の目標に向けて機体を加速させる。

ストライクダガーやメビウ ス、ジンが立ち塞がる密集地帯に飛び込み、突撃銃に複合された重斬刀を振り上げ、メビウスを貫き、それを勢いよく放り飛ばす。飛ばされたメビウスはバル ファスのフィールドに激突し、爆発する。本体にはダメージはなかったが、フィールドの発生装置が破壊される。その隙を衝き、トリガーを引いて銃を放ち、弾 丸がバルファスのボディを撃ち抜き、破壊する。

だが、敵は怯むことなく襲い 掛かってくる……ストライクダガーとジンがビームサーベルと重斬刀を握り締め、接近戦を挑んでくる。その速い斬撃にセラフは翻弄される。インヴェード・ナ ノマシンにより能力を限界以上に引き上げられているパイロットだった生体コアはその殺人的な機動に文句もなく繰り返す。いくら機動性が向上しているハイマ ニューバタイプとはいえ、このままではいずれやられる……そう思考を掠めた瞬間、セラフは後方に跳ぶように後退する…だが、その後退した先に浮かぶ識別不 能の機影……

「3機目!?…し ま……っ!」

潜んでいたのはゲイツ……あ の2機は自分をここへと追い込むのが目的だった…そう考える間もなくビームクローを展開してゲイツは振り被る。防御も回避も間に合わない……これまでかと セラフが眼を閉じた瞬間……別方向から放たれたビームがゲイツを貫き、ゲイツが爆発する。

「っ!?」

その爆風に機体バランスを崩 しかけるも、呆然として状況を把握できない。

先程のビームの一射に続くよ うに幾条も降り注ぐビームがセラフの周囲に展開していたストライクダガーやジンを撃ち抜いていく。

「大丈夫か…まったく、お前 はやっぱ単独で行動させると碌なことしないな」

周囲に敵が掃討された後にセ ラフのコックピットに響いた声……聞き覚えのある声に顔を上げると、上方から加速するオレンジショルダーのゲイツ隊。

「皆……!? じゃ…」

「無事か、セラフ?」

振り向いた先には、オレンジ ショルダーを持つ純白のゲイツ2型P…気遣うように聞こえた声はセラフにとって久方ぶりに聞くもの。

「ハイネ!」

先程までの悲壮なものではな く…やや弾んだ声を上げるセラフ……彼女は元々、ホーキンス隊所属のパイロットだったが、アメノミハシラ攻略戦前に起こった通商防衛戦で負傷し、ヤキン・ ドゥーエ戦には出撃していなかった。不幸中の幸いか…それであの騒動に巻き込まれずに済み、またこうして戦線復帰を臨んだ。

だが、ハイネのヴェステンフ ルス隊はどうなっているのか、部隊再編成のゴタゴタで確かめられず、今までずっとやきもきしていた。

滞空するゲイツ2型Pとゲイ ツハイマニューバだったが、轟くビームにバッと身を翻す。

新たな敵影が向かってきた。

「いくぞ、セラフ! 俺につ いて来い!」

「了解、何処へでもついてい くわよ!」

冗談めかした口調で頷き合 い、ハイネとセラフ…そしてヴェステンフルス隊のゲイツは敵機の迎撃に加速した。

 


BACK  BACK  BACK




inserted by FC2 system