前線では、激しい砲火が咲き 乱れていた。入り混じる両軍の機体が襲い掛かるなかへと突っ込んでいく真紅の機体。

「うおぉぉっっ！」

吼えながら、両手に握るシュ ベルトゲーベルを振り被り、懐に飛び込んだソードカラミティがストライクダガー２機を真っ二つに両断し、過ぎった瞬間…機体が爆発する。

コックピット内でエドは舌打 ちする。

「嫌なもんだね……お仲間 だった機体を破壊するってのは」

軽く毒づくと、その場から身 を翻す。今度はゲイツとデュエルダガーの組み合わせだ。

ビームが機体を掠める…逡巡 する間さえ与えてくれない。

エドは両肩のマイダスメッ サーを抜き、大きく振り被って投げ飛ばす。弧を描きながら高速回転で迫るブーメランが左右から襲い掛かり、ゲイツは頭部を吹き飛ばされるも、デュエルダ ガーはシールドで防御し、弾く。

同時に両肩のリニアガンとミ サイルを発射し、マイダスメッサーを破壊する。

歯噛みするエドに向かい、 デュエルダガーが狙撃してくるも…ソードカラミティの前に割り込む同型機。

デュエルダガーがシールドを 掲げて防御し、ソードカラミティの盾となる。

「大丈夫ですか、ハレルソン 中尉！」

「ユリアか、助かったぞ！」

思わず親指を立てて礼を述べ る相手はエドの部下であるユリア＝ミカゼ少尉だ。緑の髪と黒い瞳が印象的な女性だ。

「私だけじゃないですよ！」

ウインク気味に答えると、攻 撃していたデュエルダガーは敵機の反応をハッと頭上を見上げると…上方から白鯨のエンブレムをボディに刻印したデュエルダガーが舞い降りてきた。

「でぇぇぇいい！！」

猛々しくジェーンが吼え、 ビームサーベルを振り下ろす。振り下ろされた刃がデュエルダガーのボディを斬り裂き…一拍後、爆発する。

ジェーンが息継ぎをする…… だが、その背後に先程エドによって頭部を吹き飛ばされたゲイツがビームクローを振り上げて忍び寄る。

「ジェーン…！」

倒し損なったという苛立ちと 恋人の危機に声を荒げるエド……だが、それより早く隣にいたユリアのデュエルダガーが動き出した。

バッと加速し、一気にゲイツ に急接近し…交錯する……刹那、ゲイツのビームクローは左腕ごと斬り飛ばされていた。

ショートする左腕と弾かれる ゲイツに向かい、距離を取ったデュエルダガーは振り向き様にビームライフルを放つ。

態勢を崩していたゲイツは避 けきれず、ボディを撃ち抜かれ、爆散する。

爆発が赤々と照り映えるな か…ジェーンのデュエルダガーが親指を立ててユリアのデュエルダガーに答える。

「助かったよ、ユリア！」

「お互い様よ！」

同じ隊同士で年が近いという こともあるのだろう……ジェーンとユリアは気が合い、互いに軽口で呼び合うほどだ。

だが、そんな少しの余裕もな いほど…瞬く間に攻撃に晒される。今度は太いビームの光だ。明らかにＭＳの携帯火器ではない……振り向くと、ローラシア級と駆逐艦がビームを放ちながら向 かってくる。

「戦艦で突進してくるなん て…連中はよっぽどのバカだね！」

「いくよっ！」

ジェーンが悪態をつき、ユリ アは意気込む……２機のデュエルダガーは加速し、迫ってくるローラシア級と駆逐艦に迫る。流石に接近されては主砲は使えず、対空砲で迎撃してくる。

戦艦同士ならいざ知らず、そ の集中させた対空砲火にはいくらフォルテストラ装備とはいえ、耐え切れるものではない。なんとか直撃弾をかわし、弾幕を抜けたユリアのデュエルダガーが ローラシア級の艦橋に向けてビームライフルを構えるも、対空砲の銃弾が装甲を掠め、僅かに照準がずれて発射される。ビームは艦橋を逸れ、装甲を僅かに蒸発 させただけ…だが、ユリアのデュエルダガーは離脱する……これ以上接近すれば、間違いなく甲板上のバルファスから集中砲火を受ける。

「このぉぉっ！」

その後に続くジェーンだった が…ユリアが叫ぶ。

「ジェーン、ダメ…飛び込み すぎ……っ！」

ジェーンのデュエルダガーは 接近しすぎた……ヒットアンドアウェイで離脱するには突入が深すぎる……そして、接近に伴い甲板のバルファスのＡＩに反応し、ビームキャノンを向けられ る。砲口にエネルギーが集束する…弾幕のなかでは迂闊な回避行動も取れない…発射されようとした瞬間、ローラシア級は突如下方の降下ポッド部位を砲撃さ れ、バランスを崩す。甲板に伝わる振動にバルファスも態勢を崩し、照準がずれる。それによって放たれたビームは駆逐艦の船体に突き刺さり、炎上する。

呆気に取られるジェーンとユ リアの前に陽気な声が響く。

「いやっほうっ！」

ローラシア級の上方に飛び上 がるソードカラミティ……胸の砲口からは煙が微かに燻っている…先程ローラシア級を砲撃したのはソードカラミティ唯一の中距離火器であるスキュラだ。ソー ドカラミティはそのまま甲板のバルファス向かってシュベルトゲーベルを突き下ろし、頂点から貫かれ、爆発するバルファス…そして、甲板を蹴るように離脱す る。

「ジェーン！　ユリア！！」

その呼び掛けに意図を察した 二人は瞬時に構える……刹那、ソードカラミティのスキュラとデュエルダガーのビームライフルが火を噴き、集束させたビームが艦橋に突き刺さり、艦橋を蒸発 させ、それによって誘爆し、ローラシア級が轟沈する。

「おっしゃぁっ！」

「まったく、来るのが遅いん だよ！」

喝采を上げるエドに悪態をつ くジェーンだが、心持ちは感謝していた。

「二人とも…それより、次の ポイントに……」

その時、３機のコックピット にレーザー通信が届く。

「『ケルビムまで後退…その 後、共に中央突破をはかれ』…無茶言うね」

内容は、統合艦隊の要たるケ ルビムとドミニオンに合流し、中央に回れとのことだった。

だが、確かに補給も必要…… そう思い直し、３機は身を翻して一旦後退していった。

同じ頃……ヴァネッサ率いる ルーファス隊もまた前線の右翼に展開していた。

ヴァネッサの金色のゲイツア サルトがビームライフルを放ち、ジンやストライクダガーを撃ち砕いていく。

「よっし！　敵艦を墜とす ぞ！　３から７まで俺に続け！」

突破口が開かれ、敵艦までの 防衛力が低下し、一気に敵艦に向かって加速するゲイツアサルトとそれに続くゲイツ部隊……それを援護するライルのバルファス以下、編成されている部隊機。

「レテーネ副隊長、どうして 私達が前にでられないんですか！？」

「ルナマリア、よしなっ て…」

ライルのバルファスに近づく シグーアサルトとゲイツアサルト……どこか憤るように問う声を嗜める別の声が響く。

「君達は後方支援に徹してく れ…これが命令だ」

普段なら、なかなか使わない であろうキツめの口調でそう言い聞かせる。

その言葉に猛る意気込みも尻 込みする……この作戦のなかにおいて、ザフトも３割近くは新兵だ。この作戦に失敗は赦されない。そして…これ以上の若い命を散らせてはならない。

そのためにヴァネッサやライ ルら旧メンバーは自分達だけで前線に立ち、新兵達を極力後方支援に徹させていた。

シグーアサルトのパイロット であるルナマリアは不満気味だったが…以前もそれで起こった結果があるだけに言い返せない。

「ルナマリア…気持ちは解か るけど……私らは私らのすることをしよう」

言い聞かせるように隣のゲイ ツアサルトのパイロットであるレミュ＝シーミルが声を掛ける。

彼女はルナマリアと同期のパ イロット候補生であり、彼女のライバルであり悪友だ。シミュレーションでの戦績は互角…能力は……敢えて聞くまい。

「解かったよ…でもずるいな 〜〜なんでレミュだけゲイツなのよ」

やや怒りの矛先を変えるよう に同僚の機体を見やる……自分はシグーのカスタムなのに何故悪友の機体はゲイツのカスタムなのか……それに対しレミュは気遣うどころか笑みを浮かべる。

「実力ってやつじゃない の？」

こう言いのけるあたりが実に ルナマリアの悪友という所以だろう……それに対し、当然ながらルナマリアは眉を吊り上げる。

「なによぉ、シミュレーショ ンは同績だったくせに！」

「怒るな怒るな」

口を尖らせるルナマリアにレ ミュは抑えるように話す。

不了承気味だったが…その 時、敵機の接近を告げるアラートが響く。

いくら後方支援とはいえ、こ こは前線……包囲網を突破した敵機が突っ込んでくる。雑談などをしている場合ではない……ストライクダガーやメビウスが攻撃を放ちながら襲い掛かるも、シ グーアサルトとゲイツアサルトは分散する。

「このぉぉっ！　舐めんじゃ ないわよぉぉぉっ！」

怒りをぶつけようと…トリ ガーを引き、シグーアサルトの両手の拡散バズーカから無数の弾丸が放たれ、雨霰のように襲い掛かり、ボディをひしゃげさせながら貫通し、破壊する。

気前よくばら撒かれた弾丸の なかを掻い潜り、ストライクダガーがシグーアサルトに襲い掛かるも、ゲイツアサルトが割り込み、左手のビームサーバーを展開して薙ぎ払う。

ボディを斬り裂かれ、爆発す るストライクダガー……だが、その奥からシグーが姿を見せる。

友軍機の姿に一瞬反応が遅 れ……重斬刀に弾かれる。

「うぅぅっ！」

歯噛みするレミュ……吹き飛 ばされた僚機にルナマリアが声を上げる。

「レミュ！　このっ！」

間髪入れず、両脚部のミサイ ルを放ち、シグーの右腕と左脚部を吹き飛ばす。そこへゲイツアサルトがビームライフルを構え、トリガーを引き……放たれたビームがボディを撃ち抜き、破壊 する。

爆発が起こるなか…ルナマリ アとレミュは複雑な面持ちで息切れを起こしながら見詰める。

説明はされた……アレはもう 同胞ではないと…だが、そう簡単に割り切るには二人はまだまだ兵士ではない。

「大丈夫か、二人とも！」

そこへライルのバルファスが 周囲の敵機を掃討し、近づいてくる。

「レ、レテーネ副隊長……」

「な、なんとか無事です」

上擦った声でなんとか応じる 二人にライルもどこか安堵の面持ちを浮かべる。

周囲には統合軍のストライク ダガーやジンが布陣し、敵機の掃討を行なっている…そのために微かに落ち着き、息を吐き出す。

「よしっ、ここも後詰めの部 隊に任せて、前線の隊長達に合流する」

このエリアも大体掃討が済 み、艦隊も前進してきている…なら、自分達もまた遊撃に出ているヴァネッサ達の援護に回らなければ……いくらなんでもずっと戦い続けるのは無理だろう。

「「了解！」」

二人が強く頷き返し…前線に 向かおうとしたが……刹那、アラートが響く。

ハッと振り向くと……ビーム の火線が幾条も襲い掛かる。唐突な攻撃に回避が間に合わない…だが、ライルは冷静に機体を２機の前に割り込ませ、フィールドを展開して防ぐもビームの熱量 に推される。

機種を確認しようと顔を上げ ると…ストライクダガー、ジンを引き連れたストライクが現われる。

「アレって確か、連合のスト ライクっていう機体じゃ…！？」

機種を識別したコンピュータ が弾き出した名に驚愕の声を上げる。ストライクは連合のＧとしてザフトに手痛い損害を与えた強敵として知れ渡っている。

「でも、あの機体は倒された はずでしょ！」

ストライクは討たれた……そ う認識しているのは間違いない。事実、向かってきたのは連合によって生産されたストライクの量産型だ。

だが、機種により若干気圧さ れる……ストライクがビームライフルを放ち、攻撃してくるのに続いてストライクダガーとジンが回り込んでくる。

「「このぉぉっ！」」

背中合わせに構え、迎撃する も…敵機は凄まじい機動で攻撃をかわし、波状攻撃を仕掛けてくる。

「「きゃやぁっっ！！」」

呻き声が響く……息をつかせ ぬ連続攻撃に防戦一方になる……反撃しようにもその隙を与えてくれない。このままではやられる……その時、ストライクダガーが背中から貫かれる。

攻撃が一瞬弱まったのに顔を 上げると……ボディから生えるビームの刃に…串刺しタストライクダガーを抱えるゲイツ……ゲイツはそのまま振り被り…ストライクダガーの残骸をジンに向け て投げ飛ばす。

回避しようとするも…動こう とした方角にビームが撃ち込まれ、動きが鈍る。その隙を衝くようにストライクダガーが激突し、次の瞬間にはビームが縺れ合う２機のボディを貫き、破壊す る。

友軍…と呆然と機体を確認す るよりも早く……そのゲイツは加速し、ストライクに襲い掛かっていた。ストライクはビームライフルで応戦しているが、ゲイツは素早い動きで回避し、一気に 距離を詰める。

性能的にはＧシリーズに匹敵 するゲイツ……その性能を発揮し、中距離からアレスターを発射し、ストライクのボディを貫く。

次の瞬間…ボディから火が噴 出し、ストライクが爆発する。アレスターが戻り、収納される。

「す、凄い……」

「でも、あの動き…どっか で………」

瞬く間に敵機を一掃したゲイ ツに呆気に取られていたが……ルナマリアはレミュはその動きにどこか見覚えがある…それも、極最近………そう考えていると、ゲイツがこちらを振り向く。

「まったくあんた達は……補 習でやったのに全然身についていないようね、ホークにシーミル」

コックピットに突如響いた女 性の声に……ルナマリアとレミュは身をビクっと強張らせる。

「そ、その声……」

「ま、まさか…エレン教 官……殿ですか……」

震えた声で…どこかビクビク して問うと、相手のゲイツから不適な声が返ってくる。

「なんだ…あんだけ世話して あげたのに……あたしの愛が足りなかったのかしらね？」

その言葉にルナマリアとレ ミュはブンブンと首を振って、声にならない否定を示す。

エレン＝ブラックストン…… アカデミーのＭＳの演習教官であり、新兵達の訓練を行い、二人も遂数ヶ月前までお世話になったばかりだ。主に補習で……みっちり愛の鞭を受けた。

パイロット不足を補うために 前線に回されたために、彼女は赤を与えられていた。

「囲まれた場合の対処もちゃ んと教えておいただろう…それも満足にできないようじゃ、後でみっちり補習ね」

ニヤリとする声に二人は震え 上がる……この人の補習はとんでもない目に合わされる…そう既に身体に染み込まされているのだ。

その光景に呆気に取られるラ イル…そして、口を噤むルナマリアとレミュを横に、まるで流れるように視線を向ける。

「そこのあんた…確か、ルー ファス隊だっけ？」

「え？　あ、はい…副官のラ イル＝レテーネです」

唐突に指名され…上擦った声 で戸惑いながら応じると、エレンは頷く。

「前線の援護にはあたしが回 るから、あんたはその二人を連れて一旦補給に戻りな…その二人がアレだけ派手にばら撒いてたら、いい加減、弾薬も機体の方のエネルギーも尽きかけてくるだ ろうしね」

そう指摘され、二人はぐっと 表情を強張らせる……伊達に二人の教官ではない。ルナマリアとレミュの戦い方を熟知しているようだ。それを証明するように、先程から派手に攻撃を繰り返し ていた二人の機体の弾薬とエネルギーの消耗も大きい。

そして、ライルのバルファス も当然バッテリーと推進剤の消耗が大きいはずだ。

「ＭＳはあたしらの武器であ ると同時に棺桶だよ…ちゃんと気を配っておけと、あれ程言っただろうが……すぐ近くにいる艦に着艦してきな…あんた、その二人いろいろと面倒をかけるだろ うけど…世話よろしく」

軽く嗜めると、手を振って身 を翻す…遂今しがた補給を行い、前線に出ても大丈夫なはずだ。

「ホーク、シーミル……死ぬ なよ」

そう言い残すと……ゲイツは スラスターを噴かし、眼を見開く二人の前から遠ざかっていく。

その背中を見送るルナマリア とレミュに…ライルが穏やかに話し掛ける。

「いい教官だな……」

ライルらの頃は開戦初期とい う頃もあり、ＭＳの運用を指導する教官という役職はまだなく…皆それぞれ基礎だけを教えられ、競い合っていた。そんなライルから見ても、エレンという女性 はよい指導者に見える。

そして、それに応じるように ルナマリアは頷く。

「はい…少し手厳しいですけ ど……」

幾度となく怒鳴られても…頼 れる感じが嫌いではなかった。

「ルナ、んじゃ早く補給して 戻ろう……また教官に怒鳴られる前に」

冗談めかしたレミュの言葉に 当然とばかりに応じ、２機は後退しようと戦場に背を向けるが…一瞬、振り向く。

そして……閃光が絶え間なく 咲く戦場に飛び込んでいった教官の無事を祈り、補給のために後退していった。

一進一退の攻防を繰り返しな がら前進するも……艦隊は思うように進めない。やはり、ここにきて寄せ集めの部隊という弱点が露出されている。

あちらも条件は同じだが、あ ちらは個人の意志がないという点で既に勝負にならない。しかも、こちらのパイロット達も元同胞を討つのに躊躇う者も多く、なかなか前進できない。

このままでは、時間が掛かっ てしまい、尚且つ損耗も大きくなってしまうだろう…なにせ、既に統合艦隊の内、約２割近い戦力が敗れているのだから。

前線に出るドミニオンとケル ビム……ゴッドフリートを放ち、迫る護衛艦とナスカ級を破壊する。

だが、爆発の奥から群がるよ うに現われるＭＳと艦隊に歯噛みする。

《ハルバートン提督、このま まではジリ貧です！》

ナタルの苦しい表情にハル バートンも表情を顰める。

物量差は劣っているが…それ でも覆せないほどではない……厄介なのはあちら側に奪われた戦力のほとんどが機体性能の限界以上に強化されているという面だ。

最悪突破できても…そのとき には間に合わないか……もう破壊するだけの戦力がないということ……なにせ、ここ以外にも主力が存在するのだから。

ハルバートンはこの状況を打 破する策を巡らせ……やがて、なにかに思い至り、眼を細める。

「……バジルール少佐…前に 出られるか？」

やや低い声でそう問うと…… 一瞬眼を瞬くも…その意図を察したナタルは息を呑む。逡巡するも……やがて頷き返す。

《勿論です…それが、私の務 めですので》

その言葉に頷くと……ハル バートンはＣＩＣを見やり、驚く指示を出す。

「アンダーソン中将に通 信……本艦及びドミニオンで敵防衛網に特攻をかける！」

クルーの誰もが眼を見開く。

「何をしている、早くし ろ！」

怒鳴られ、反射的に通信が開 き……正面モニターにリンカーンのアンダーソンが映し出される。

《何事だ、ハルバートン提 督？》

迎撃に手を取られているの か、アンダーソンの口調はやや上擦っている。

「中将、このままではこちら の損耗も増加するだけです…よって、我が艦とドミニオンの２隻で中央に特攻をかけ、活路を切り拓きます！」

静かに…そして意志のこもっ た視線をぶつけ、そう進言するハルバートンにアンダーソンは眼を剥くも、やがてすぐさま思考を巡らせる。

確かに……この状況ではこれ 以上時間を掛ければ友軍の損耗も増加する一方……ならば、敢えて一か八かの中央突破を試みるのも手だろう。

ＡＡ級という特殊艦が２隻あ るのだ……やれないことはない……だが、特攻をかける戦艦は危険が大きすぎる。

無論、艦隊の総指揮官として は、取れるべき最善の手は取らねばならないという責任もある……そして…アンダーソンは決断した。

《……解かった…諸君らに賭 けよう。護衛として、ＭＳ隊をそちらに付ける……幸運を祈る！》

敬礼し、敢えて危険な作戦に 買って出た者に対し敬意を送ると…ハルバートンとナタルもそれに不屈の意志を込めて敬礼で返した。

通信が途切れると、ハルバー トンは改めてＣＩＣに指示を出す。

「新兵、衛生兵及び負傷兵は すぐさま退艦準備を急がせろ！　ＭＳ隊に本艦の援護を伝達！！」

ハルバートンの指示に……使 命に共感したクルー達は頷いて指示を実行していく。艦内にいる戦闘とは無関係の衛生班や新兵、そして負傷した兵士などはすぐさま退艦準備に入る。

十数分後、兵士を乗せたラン チがＭＳに護衛され、ケルビムとドミニオンより離脱していく。

そして、ケルビムとドミニオ ンはエンジンを噴かし…加速する。

汗ばむ手……ナタルは微かな 武者震いを起こし、ハルバートンもこのような作戦に臨むのは初なだけに緊張を隠せない。

だが、元アーマー乗りとして の感触が…パイロット時代に感じていた昂ぶりが内に甦ってくる。

その時……レーダーに別の反 応が映る。

「か、艦長！」

その声に反応し、モニターに 眼を向けると……２隻に続くようにナスカ級２隻、駆逐艦６隻、護衛艦４隻が周囲に展開してきた。

「ゆ、友軍艦より通信！　 『我らも共する』とのことです！！」

２隻の行動に感化された馬鹿 が他にもいたようだと……内心に込み上げてくる熱いものを抑え切れない。

連合もザフトも関係ない…… ナチュラルとコーディネイターという垣根は越えられる…そう確信したハルバートンは頷くと、通信機を取る。

「各員に通達！　ここが我ら の正念場！　ゆくぞっ！！」

その声に応じ、士気は上が る。

加速する艦隊が一気に敵の防 衛網を突き崩そうと迫るのを察した敵艦隊も艦隊迎撃のためにＭＳを向かわせる。

だが、艦の周囲にはアンダー ソンの指示により、友軍のＭＳの実に３割近い機体が護衛に就いている。

OEAFOより合流したＭ１やストライクダガー、ジンの混成部隊が艦の護衛に就き、ＭＳを近づ けさせない。

護衛のＭＳにより、防衛がな される今、戦艦は正面への攻撃のみに集中し、ケルビムとドミニオンのゴッドフリートが火を噴き、立ち塞がる戦艦を撃ち抜き、沈めていく。

その火力に脅威と感じ取った のか、ケルビムとドミニオンの２隻に集中砲火を浴びせようと向かってくるＭＳ群に、護衛のＭＳが阻む。

「やらせるかぁぁぁっ！！」

吼えながら、ゲイツのビーム ライフルが火を噴き、ストライクダガーやジンを破壊していく。

だが、爆発に怯むことなく… そしてまるで際限なく向かってくる敵機にゲイツのパイロットであるヴェノム＝カーレルは毒づく。

「くそっ、こいつらいったい どれだけいんだよっ！」

それは、奪われた戦力そのも のなのだから……軽く見積もっても千以上のＭＳはあると考えた方がいいだろう……だが、そんな事も構うことなくひたすらに青い瞳に映る敵機に照準を合わ せ、トリガーを引き続ける。

「この野郎この野郎！」

悪態をつきながらトリガーを 引き、ビームが連射され、シールドを掲げるストライクダガーを撃ち砕いていく。

その爆発の奥から姿を見せる バルファスのフィールドは、ビームが無効化される。

ビームキャノンで反撃してく るバルファスにゲイツは回避する…距離を保ったまま狙撃するも、全てフィールドに無効化され、ヴェノムは歯噛みする。

「くそっ、卑怯なもんに頼り やがって…っ！」

元は自軍の兵器ながら……文 句を吐くも事態は好転しない………バルファスは機械の正確さを用いた精密な砲撃を続けてくるため、回避に手一杯になる。

「俺は死ねないんだよっ！　 あいつのために…っ！」

プラントに残してきた婚約者 のためにも…ここで死ぬわけにはいかない……接近戦を仕掛けようとビームクローを展開してバルファスに斬り掛かるも、バルファスはそれをかわし、同じビー ムクローを展開し、振り払う。

「うおわっ！」

反射的に身を捻り、回避する も…ビームの刃が装甲を掠める……そのまま至近距離でビームキャノンを構える。

この距離では回避も防御も無 意味……そう逡巡する時間さえない……エネルギーが砲口に集束した瞬間、バルファスは機体を撃ち抜かれて爆発する。

「そこのザフト機…大丈夫 か？」

呆気に取られるヴェノムだっ たが…コックピットに響いた声と接近してきた友軍の反応に振り向くと、デュエルダガーが近寄ってきた。

「あ…ああ……助かった」

「礼は要らん……それに、今 は仲間だからな」

冷静な口調で応じるデュエル ダガーのパイロットはデステイン＝ノーア少尉……黒髪に茶色の眼を持つヴェノムとも歳近い青年だ。

改めて思うと、いくら今は同 じ軍指揮下に組み込まれているとはいえ、こうして敵兵と会話するなどなかった。

不思議な感傷に浸る間もな く……母艦を墜とそうと躍起に向かってくる敵機の数は衰えない。

「俺達の役目はこいつの援 護……やらせるわけにはいかない！」

デスティは敵機を睨み付け、 デュエルダガーを加速させる……敵機に向かいリニアガンを放ち、牽制する。一気に懐に飛び込み、ビームサーベルで一閃する。

ボディに走る一閃……刹那、 シグーが爆発する。

その爆発に紛れて敵機に接近 し、シールドで弾き飛ばしてリニアガンで撃ち抜く。

ビームサーベルを振り上げて きたストライクダガーに対し、ビームサーベルを振り被って受け止める…同時に左手のライフルの発射口をコックピットに構えてトリガーを引く。ビームがコッ クピットを貫き、ストライクダガーが爆発する。

「す、すげえ……」

ヴェノムはその戦い方に見 入っていた……どちらかといえば距離を空けての遠距離戦を主眼としている彼にとって接近戦で分を発揮する眼前のデュエルダガーのような戦い方はできない。

だが、そのデスティのデュエ ルダガーも距離を空けて攻撃してくるバスターダガーには推されていた。接近戦を好むために、遠距離からの砲撃に対してはなかなか対処が難しい。

接近しようにも迂闊に接近で きないのだ……そこへ援護射撃が轟く。

デスティがそちらに顔を向け ると、ゲイツが援護していた。

「へっ、これで貸し借りなし だ…援護してやるぜ！」

勇んでビームライフルを放つ ゲイツから聞こえてきた声にデスティは眼を剥く。

「お前、さっきの……」

先程自分が助けたゲイツのパ イロットの声をすぐ忘れるはずもない。だが、すぐ意識を切り替えて機体を加速させる。

ゲイツに気を取られたために 攻撃の緩んだバスターダガーに接近し、ビームサーベルで砲身を斬り落とすと同時に蹴り飛ばす。

「今だ！」

その声に反応するまでもな く……ヴェノムはトリガーを引き、ビームが弾かれたバスターダガーのボディを貫き、爆発する。

爆発を見届けるデュエルダ ガーとゲイツ。

「なかなかいい狙撃だ」

「へっ、そういうあんたも大 した腕じゃねえか！」

親指を立てて互いに称え合 う……だが、そう馴れ合っている暇はない。

絶え間なく襲い掛かる敵ＭＳ に向けてどちらからでもなく揃って加速する。

「俺はヴェノム＝カーレル だ、あんたは！？」

「デステイン＝ノーアだ…デ スティで構わん……それよりも、俺達の役目はこの艦の護衛だ……あまり離れるなよ」

「言われるまでもねえぜ！」

互いに連携を取り、デュエル ダガーとゲイツはケルビムとドミニオン周囲の敵機の掃討に奮闘する。

数多くのＭＳ達に護衛される なかを突き進むケルビムとドミニオン以下、数隻の艦隊…先頭を進む２隻は強襲機動特装艦ＡＡ級という本来想定されていた役割を見事に果たしながら突き進ん でいる。高速性を活かし、尚且つラミネート装甲などによる対艦戦を想定した装備も充実させた斬り込み艦……護衛機であるＭＳが就き、敵の攻撃を軽減、ある いは喰い止めることでその攻撃を前方に向けられる。

イーゲルシュテルンの弾幕が ＭＳの防衛網を突破してきた敵機を撃ち砕き、そしてバリアントが発射され、固まっていた敵機を破壊・分散させる。

「ゴッドフリート発射と同時 にローエングリン起動！」

ケルビムより放たれるゴッド フリートのビームが伸び、ローラシア級の船体を貫く。

爆発が進路上に起こるも…そ れに怯むことなく突っ込み、爆発を突き破るように進軍する…煙より姿を見せるケルビムとドミニオン……その両舷ブレードの先端に備わった発射口は既に展開 され、エネルギーが集束している。

臨界を超えた瞬間……２隻か ら陽電子の渦が解き放たれた。

伸びる光条が進路上のＭＳや 戦艦を呑み込み、破壊していく……彼方へと拡散した後には、爆発の華が咲き乱れる。

中央突破をはかる艦隊に続く ようにリンカーン率いる本体も進軍する。

艦隊の護衛に就くＭＳのなか で正確に敵機を殲滅するデュエルダガーがあった。フォルテストラもなく、シールドさえ保持していないその機体だが、右手には、ビームナイフとハンドガンを 併用した複合兵装を保持し、距離を空けての狙撃から接近しての近接戦までをこなす。

ハンドガンでジンを狙い撃 ち、ボディや頭部を吹き飛ばす…態勢を崩した隙を衝き、急接近してビームナイフでコックピットを貫き、葬る。

左眼の赤にその爆発の赤が混 じる……右眼には覆うような黒い眼帯とアルビノの容姿を持つパイロット：ジェイス＝テグリナスは無表情にそれを見詰めるだけだ。

彼女は強化人間の一体……ア ルビノという肉体的先天欠陥の強化を受け、自分の意識は僅かながらに保っているものの、肉体改造の影響か、感情が乏しかった。

なんの感慨も抱かず、すぐさ ま次の目標へと向かう。彼女の役目は敵部隊の排除……艦の護衛だ………それが、自分の生きる術だといわんばかりに彼女の駆るデュエルダガーは敵ＭＳに向 かって加速する。

ストライクダガーがビームラ イフルで狙撃してくるも、それを掻い潜っていく。強化装甲を排除した機動性を重視した故に回避するのを前提にしている酔狂な機体だが、ジェイスはただただ 真っ直ぐに敵と認識された機体の上を取り、ハンドガンでストライクダガーの頭部カメラや武装を破壊し、動きを奪うと同時に最期にボディを撃ち抜き、破壊す る。

「はぁ…はぁ……ぼ、ボク は……ボクは…生きるんだ………」

軽く呼吸を乱す彼女は、コッ クピットに響いたアラートに振り返ると……自機の周囲を取り囲むようにゲイツやジン、ストライクダガーが十機近く向かってきた。

いくらなんでもこれでは不利 どころか絶望的だ……なんとか囲みを突破しようとするも、敵機は一斉に狙撃してくる。

操縦桿を動かし、攻撃をかわ そうとするもその全てをかわすのは不可能であり……突撃銃の弾丸が機体を掠め、バランスを崩す。

「うっっうぅぅ」

振動に呻くなか……トドメを 刺そうとビームクローを展開して襲い掛かるゲイツ……アレを喰らっては恐らく一撃で終わる……そう認識すると同時に相手の動きがスローモーションのように 映る。

だが、眼前で振り上げられた ビームクローは左腕ごと下方より轟いたビームによって撃ち抜かれ、破壊される。

次の瞬間、ゲイツは下方より 乱入してきたゲイツにビームクローでボディを斬り裂かれ、同時に蹴り飛ばされてその後方にいたジンに激突し、２機が爆発する。

「はいはーい…たかが一機に 集団で襲い掛かるのは関心しないな〜〜」

どこか、ドスのきいた低い声 で不適な笑みを浮かべるのはエレン……だが、相手にはそんなこと構うことなく攻撃を再開しようとするが、そこへ新たな機影が乱入してきた。

「おらっおらっ！　おめえら の相手は俺だぁぁぁっ！」

猛々しい咆哮とともに放たれ る大火力……金色のゲイツアサルトからミサイルが一斉に発射され、周囲を取り囲んでいたＭＳを牽制・破壊する。

「そこのあんた、今よ！」

エレンの呼び掛けにやや思考 をフリーズしていたジェイスも弾かれたように手持ちのハンドガンで狙撃し、ゲイツとともに敵機を貫き、破壊する。

態勢の崩れた敵機は回避すら できず……次々と破壊され、周囲の敵は瞬く間に掃討された。

「全機破壊…ヴァネッサ＝ ルーファス、流石ね」

肩を一瞬落とし、近くに付い たゲイツアサルトに眼を向けて軽く笑みを浮かべる。

「へっ、褒められるこっちゃ ねえよ」

満更でもないといった調子で 鼻をこするヴァネッサ……彼女もエレンと直接的な面識はなかったが、それでも悪い気はしないしなにか馬が合うとでもいうのだろうか……妙に意気投合した二 人はこうして特攻じみた突進をかける艦隊の援護にやってきたのだ。

金色のグリフォンとして名を 馳せるヴァネッサの戦い方にやや厳しい評価をするも、ヴァネッサも特に怒りを感じず、それを受けていた。

「そこのあんた…大丈夫か よ……しっかし無茶しやがるな…たった一機でアレだけ相手にするなんて……」

ライルが聞いたら、過去の自 分を思い出してくださいというような物言いだが……ジェイスは特に無関心に礼を述べた。

「はい……ありがとうござい ます」

聞こえてきた幼い声にエレン とヴァネッサは驚きに眼を見張った。

声だけだが、それでも自分達 より下の……１０代ぐらいの少女の声だ。ザフトではこの歳ぐらいで前線に出るのは珍しくないが、それでも少女のパイロットでしかも連合というのは少し異様 に思えた。

だが、それを今言っても仕方 がないだろう……今は少しでも戦力が必要なのだ。かといって、いくら連合とはいえ、この少女独り置いていくのはエレンには気が引ける。教官であり、なにか と新兵の面倒を見ていた彼女はやや溜め息をつき、呟いた。

「あんた…この先は独りで行 動するのは危険だから、あたしらと行動しなさい」

その申し出にジェイルは眉を 僅かに顰め、ヴァネッサは驚いて見やる。

「何故ですか……？」

「何故も是非もないの！　い いから言うとおりにしなさい…あんただって、生きて帰りたいでしょ……」

その言葉に、ピクっと表情が 強張る。

「生きる……？」

「そう…あんたみたいなお嬢 ちゃんが死ぬには早いっての……だから、生きる確率を少しでも上げるためにあたしらと行動した方がいいって言ってんの」

有無を言わせぬ口調でそう詰 め寄るように言い聞かせる…まったくと内心に思う。この歳で死なせるのは正直嫌なものだと………

「いいわね……ほら、いく よ………っ！」

その場から動こうとした瞬 間、エレンは瞬時に気配を感じ、半ば反射的にデュエルダガーの腕を取り、その場から身を捻った。

ヴァネッサもまた戦士として の感覚か…その場より身を翻す。

刹那、空いた空間を過ぎる銃 弾……バッと顔を上げると……そこには数機のＭＳの機影。

「アレは…ハイマニューバタ イプ…それに、あのエンブレム……っ！？」

視線の先に滞空していたのは ジンハイマニューバタイプが８機……そして、その機体群が身に付けているエンブレムは………

「ゴッドハンド…ミハイル＝ コーストかよ……っ！」

苦々しげにヴァネッサが吐き 捨てる。

そう……前方に佇むのはザフ トのエース部隊：ゴッドハンズと指揮官機であり、エースパイロットでもあるドクター：ミハイル＝コーストだ。

ヤキン・ドゥーエ戦終結後の 再編成時には確認できなかった部隊……撃墜されたか…あるいは……彼らの能力からして前者はあり得ないと思っていたが…前者であってほしかったというのも また事実だった。

かつての同胞のエースが牙を 剥く……友軍が敵になるのが戦争では常だ……そう改めて思い知るも…攻撃を開始したジンハイマニューバに葛藤が消えた。

次々と襲いくる敵艦隊と敵部 隊に、戦場は熾烈を極める。