中央突破とは別に側面からの
奇襲を目的にデブリベルトを潜行し、突き進んでいたオーディーン、エターナル、ネェルアークエンジェル、スサノオ、クサナギ、イズモの6隻……クルー達は
身構え、パイロット達は待機室で静かにその刻を待つ。
オーディーンのパイロット
ロッカーでは、レイナ、リン、リーラの姿があった。3人は最期の作戦となる出撃に備え、パイロットスーツに着替えていた。
リーラはもう何度も着た赤い
パイロットスーツ……これを着て、初陣に立った頃がもう遥か遠い昔に感じる。
リンはアンダースーツを着込
み、スーツを纏うとホックを閉じ…最後にグローブを手に嵌める……そして…未だ着替えていないレイナを見やる。
レイナは髪を束ねようとして
いるが、元々お洒落などに興味がない彼女…髪の手入れという同年代の少女なら誰でも気遣うものも雑に扱っている。そんなレイナに苦笑を浮かべ…リンが声を
掛ける。
「してあげるわ……貸して」
無重力のなかで舞う髪を掴
み、レイナが一瞬眼を剥くも…特に気にした様子も見せず……そのまま任せる。髪をクシでとかしながら、纏めていく……髪に隠れていた肌が露になると、その
作業を見入っていたリーラの表情が微かに歪む。
背中越しでもはっきり浮かぶ
無数の傷跡……レイナにとっての罪の証………以前、風呂場で見たときはそれ程でもなかったが、改めて見ると傷々しい。
それらの傷を見やりながら、
リンはレイナの髪を首筋で纏めていく……昔…ヴィアの元で髪を編んだことがあった。長い髪が邪魔にならないようにとヴィアが結んでくれた…そして、自分も
一度だけ……ヴィアのやり方を真似て姉の髪を編んだことがあった。
銀に輝く髪に……微かな憧れ
と愛しさを持って………束ね終えると、ポンと肩を叩く。
「終わったわよ」
「……ありがと」
短く礼を述べると、アンダー
スーツを着込んで身体を覆う。
そして、パイロットスーツを
身に付け、グローブを手に嵌めてホックを閉じる。
「いきましょう」
二人を促し、ヘルメットを
持って彼女達は控え室に移動する。
作戦開始まであと十数分……
レイナとリンは眼を閉じ、静かに待ち、リーラはやや強張った面持ちであった。それも、この先にある激戦を見越してだ……多少の震えは仕方ないだろう。
レイナは眼を閉じながら……
ここまでの軌跡を振り返る………
(いろいろあった……)
そう……この一年は特にいろ
いろあった………ヘリオポリスでの発端に始まり、幾多の戦場を潜り抜け、過去との邂逅や仇敵、強敵との戦い………そして…レイ、カイン…リンとの出逢
い………
レイナは、己の手を見や
る……最初はからっぽに近かったこの身体に溢れんばかりの血を浴びた……だが、それよりも多くのものがこの短い間に起こった………
(まるで、走馬灯ね)
内心、自嘲めいた笑みを浮か
べ…それに気づいたリンが声を掛ける。
「どうしたの…?」
「……いろいろ、あったな…
と思ってね」
肩を竦め、言葉をはぐらかす
も……その言葉には思うところはリンやリーラにもある。
彼女達も確かにいろいろあっ
た……いや、あり過ぎたといえるのかもしれない……なにせ、生き方が根本的に変わってしまったこともあるのだ。
「でも……終わるんですよ
ね…これで」
胸の前で手を組み、やや震え
る声でそう呟く。
「……終わる……終わらせ
る………」
全てを……それは呑み込み…
レイナは虚空を見詰める………これで終わる……いや…終わるのだ……どちらにしても…………
「あの……お二人は、これが
終わったら…どうするんですか?」
唐突な問い掛けにレイナとリ
ンは虚を衝かれる。
この艦隊は、確かにいろいろ
あった者達が集まって構成された部隊……この戦いが無事終われば、戦争はもう続けるのは不可能だろう……両軍とも既にそれどころではない損耗を受けたのだ
から。
当然、この艦隊も解散するだ
ろう……皆、それぞれの道を行くために………だが……
「………まだ…解からな
い……」
いや……もう解かっているは
ずだ………自分には…最初から決まっていると………はぐらかされたことにやや不審そうにするも…その時、控え室にダイテツの通信が響いてきた。
《目標まで接近……各パイ
ロットは搭乗機にて待機せよ》
その指示にレイナとリンはヘ
ルメットを取り、立ち上がる。
「……いくわよ」
静かにそう促すと…リーラも
決意を込めた瞳で立ち上がり、頷く。
そして……3人は控え室を飛
び出し………出撃の刻を待つ愛機へと向かっていく。
レイナとリンは揃って並ぶイ
ンフィニティとエヴォリューションに向かい、無重力のなかを飛んでいく。
そして……互いを見やり…数
秒…数分……時間など解からない………だが、二人は静かに頷き、手を叩き合って分かれた。
インフィニティのコックピッ
トに入ったレイナはシートに着き、ベルトを絞める。もう何度目になるか解からないほど慣れてしまった感覚……ヘルメットを被り…そして、右手に操縦桿を握
り、起動シーケンスを開始する。
全モニターに灯が入り、正面
が映し出され……インフィニティの瞳に光が灯る。
そして……全感覚を落ち着け
るように眼を閉じ……出撃の刻を待つ………
各艦でも各々の発進準備が進
むなか……エターナルでもキラ、ラクス、アスラン、カガリの4人がブリーフィングルームから格納庫へ向かっていた。
メイアとミゲルは今回の作戦
の配置上、ネェルアークエンジェルに移り、代わりにカガリと彼女の搭乗機であるアカツキがエターナルに配備されている。
揃って出撃したいという彼女
の願望もあったかもしれない。
格納庫へと降りるエレベー
ターの前に辿り着くと、ラクスがキラをチラリと見やり…そして、アスランとカガリに話し掛けた。
「アスラン、カガリさん…先
に行ってくださいますか? 私達、後で参りますので」
突然の言葉にキラは眼を瞬
き…アスランとカガリも怪訝そうになるも……ラクスの真剣な眼差しにおされ、微笑を浮かべて頷いた。
「キラ、先に行ってるぞ」
「遅れんなよ」
そう呟き、二人の姿はエレ
ベーターの中に消え……ドアが閉じると…キラはラクスに振り向く。
「ラクス……?」
「キラ……あの…これ
を………」
ラクスは左の白い指に嵌めて
いた指輪を抜き取り…それをキラへと差し出す……戸惑った顔で受け取ったキラは指輪を凝視する。
「これ……大事なものじゃな
いの?」
少なくとも身に付けていたこ
とから大切な物であるのは察せられた……だが、ラクスは首を振ってキラの手を両手で包み込む。
「大切なものだから……貴方
に預けるのです………この戦いが終わったら……私は必ずそれを受け取りに参ります…だから……貴方も必ず……」
その言葉のなかには、覚悟と
想いが込められている……彼女は気づいていた……キラの眼が…微かに赤くなっているのを………そんな傷心につけ込む自身の浅ましさを感じながらも、伝えず
にはいられない………
暫し見詰め合っていたが……
やがて、エレベーターが戻り…開いたドアにどちらからでもなく乗り込み、エレベーター内で向かい合いながら、ゆっくりとデッキへと向かう。
「……うん」
キラは強く頷き…指輪をパイ
ロットスーツの内側に抱える。
「キラ……帰ってきてくださ
いね………私のもとへ…………」
他の誰でもない……自分のも
とへ………そう心の内で呟く。
今にも涙を溢れ出しそうな程
潤ませ…切なげに……儚い表情を浮かべるラクス……いつものような強さを感じさせるものではなく……一人の少女として………
キラの心持ちの整理はまだつ
いていない……ラクスの想いに応えるのは後になるだろう…少なくとも……この戦いが終わるまでは…………
「……いこう」
ラクスの手を取り…キラは
ゆっくりと進む。
そう……けれでも……必ず
護ってみせる……ラクスもその手を強く握り締め……二人は戦いへと身を委ねていく………
目標ポイントまで迫ったとこ
ろで……ダイテツは全艦にデブリベルトからの浮上を指示した。
デブリのなかから姿を見せる
6隻……そして、クリアになったセンサーを監視していたクルーが叫んだ。
「前方に戦艦クラスの熱反応
多数!」
「モニターに投影します!」
正面モニターに映った光景
に……誰もが息を呑む。
既にデブリのなかから先端が
突き出しかけているユニウスセブンの片割れ……だが、その姿が大きく変わっている。天まで伸びるように突き出していた支柱部分から拡がるように覆うドー
ム……白い外格に覆われたその姿は、まるで白き星………だが、その白き輝きを放つものが向かうのは蒼き惑星……その蒼を紅く…黒く染め上げるために………
そして……その白き魔星を護
るように布陣する艦隊………
「艦隊中央にAA級2! 及
びヘカトンケイル確認!」
艦隊の中心には神の使徒たる
階層を誇る熾天使:セラフィム、能天使:パワー……そし
て、神の魔神:ヘカトンケイル……連合とザフトの技術を集約した艦が勢揃いし、周囲にはナスカ級6、アガメムノン級2、護衛艦25、駆逐艦44という2個艦隊に匹敵する規
模だ。
「流石に予想以上だ……各員
に通達、これよりオペレーション・NOIR APOCALYPSEを敢行する! これが我らの最後
の作戦となろう! 各員の奮闘を祈る!」
その号令に皆が一斉に身構え
る。
「全艦砲撃準備! 発射と同
時にMS隊出撃! MS各隊はGフォース突入を援護せよ!」
真っ直ぐに突き進むオー
ディーンら艦隊に気づいたセラフィム、パワーらでは……ブリッジでもはや人の形を留めるだけの人形と化したアズラエルが眼を大きく見開き、口元から涎を垂
らしながらほくそ笑み……クルー達もそれに続く。
もはや傀儡と化した者達に操
られる哀れな道化は臨戦態勢に入る……そして…オーディーン以下、全艦の主砲がスタンバイする。
オーディーンのタンホイ
ザー……ネェルアークエンジェルのゴッドフリート、セイレーン、ローエングリン…エターナルの主砲…スサノオ、クサナギ、イズモのローエングリンが一斉に
起動する。
砲口にエネルギーが集束
し……周囲に粒子を散りばめる。
誰もが口を噤み…誰もが息を
呑む……鼓動の音だけが大きく身に響き渡る。
静かに……そして…確実
に………遂に……その刻はきた…………
「撃てぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」
ダイテツ、マリュー、キサ
カ、バルトフェルドら……各艦の艦長達が一斉に叫び上げた瞬間………6隻の戦艦から閃光が解き放たれる。
蒼白い粒子を纏いながら伸び
るその奔流は…進路上の物体を呑み込みながら艦隊に襲い掛かる。広域に向けて放たれた閃光に敵艦隊は即座に離脱をかけるも……セラフィムにパワーはその機
動性を駆使してかわし切り、ヘカトンケイルは前門の砲台を放ち、その火力で襲い掛かる熱量を相殺するも、他の艦はそうはいかず、ナスカ級2隻に護衛艦4
隻、駆逐艦8隻が奔流によって船体を蒸発させられ、爆散していく。
――――――今……最期の決
戦の狼煙は上げられた……………
「MS各機、発進!」
先制と同時に、各艦のカタパ
ルトが開き……MSの発進体勢に入る。エターナルの艦橋下部に位置するハッチが開放され、カタパルトラインが形成される。
発進ベースに足をのせ、ぐっ
と構える。
「キラ=ヤマト…フリーダ
ム! いきますっ!」
意志を込めて操縦桿を引き、
打ち出された瞬間……トリコロールのカラーリングが機体を包み込み、蒼い翼が拡がる。
「アスラン=ザラ…ジャス
ティス! 出るっ!」
決意を秘めた眼差しとともに
続けて打ち出される機体はバーニアを噴かし、機体を赤褐色に包み、加速する。
「ラクス=クライン…マー
ズ! いざ…参りますっ!」
まるで古の武将のように名乗
り上げ……重火器という装甲に身を固めた機体が飛び立ち、その身を純白と淡い紅色に包み込む。
「カガリ=ユラ=アスハ!
アカツキ…いくぞっ!!」
猛々しく吼え…その身を黄金
に輝く装甲で包んだ獅子の姫の想いをのせ、託されし剣の機体は戦場に舞う。
『自由』、『正義』、『軍
神』、『暁』の名を冠するMSがエターナルより解き放たれる。
ネェルアークエンジェルもま
た両舷の発進カタパルトを開く……ブリッジにいる共に戦い抜いてきた仲間達の見守るなかで、最期の戦いに飛び立つ。
「ムウ=ラ=フラガ…ストラ
イク! いくぞっ!」
新たな姿を得て…新たな息吹
を得た機体は新たなる主の決意に呼応するようにその身を躍らせる。
「アルフォンス=クオルド…
インフィニート! いくぜっ!」
白い装甲の下に輝く蒼き四
肢……風のごとき速さに身を委ね、機体が飛ぶ。
「メイア=ファーエデン…
ヴァリアブル! いくよっ!」
両腰部に帯刀した2本の剣を
構え……蒼き装甲を纏った剣士がその存在を轟かせるように出撃する。
「イザーク=ジュール…デュ
エル! 出るぞっ!」
熱い想いを秘め……護るべき
もののために命をかけし気高さを漂わせた騎士が赴く。
「ディアッカ=エルスマン…
バスター! 発進する!」
流転の運命を受け……新たに
芽生えた強さを胸に重装甲の戦士が戦いに身を委ねる。
「ニコル=アマルフィ…ブ
リッツ! いきますっ!」
一度死に…そして再びこの世
界に甦った………自ら信じるもののために戦う剣となり……
「ラスティ=マクスウェル…
イージス! いくっしょ!」
砕け散り…そして新たな器と
主を得た機体は己が使命を果たさんために戦場に舞う。
「ミゲル=アイマン…ゲイ
ツ! 派手にいくぜっ!」
夕闇と思しき鎧を身に包
み……弾丸のごとき勢いで躍り出る。
「シホ=ハーネンフース…
シュトゥルム! いきますっ!」
大切なもののために…そし
て、護りたいものために……剣を携えて機体が飛び出す。
『真理の攻』、『蒼竜巻』、
『勇気』、『聖騎士』、『高砲撃』、『強襲撃』、『深淵の盾』、『黄昏』、『疾風』の名を冠する戦士達が大天使より羽ば立つ。
それに続くのは共に戦う道を
選んでくれた仲間達……バスターダガー、ゲイツアサルト、デュエルダガーらが続けて発進していく。
クサナギ、イズモからも無数
のM1、M1A、ガンナーM1、アーマードM1が続々と発進する。
スサノオには、ミナのゴール
ドフレーム天がスタンバイし、ミナは静かに機体を発進させる。
「グラン=ハーテッド…出る
ぞっ!」
「ジャン=キャリー…出
るっ!」
「バリー=ホー…出陣す
るっ!」
ゴールドフレーム天に続くよ
うにグランとジャンのM2、そしてバリーのM1Aが出撃する。
『アストレイ』…王道ではな
い者達は今、その身を歴史の表舞台に晒す。
「カムイ=クロフォード…ル
シファー! いきますっ!」
想いを継ぎ……そして漆黒の
戒めを背負いし漆黒の機体が宇宙に舞い踊る。
「シン=アスカ…フリッケラ
イ! いくぞっ!」
幾度となく傷ついたその身を
変え…燃えるような気概を秘め、戦士が突撃する。
「ステラ=ルーシェ…ハイペ
リオン、出るの」
儚い想いとともに……堕ちし
星は再び輝きを取り戻し、飛び立つ。
『堕天使』、『継接』、『流
星』の星のもとに飛び立つ。
仲間達が全て出撃し……そし
て…この戦いの行く末の道標となりし者達がゆっくりと顔を上げ、前を見据える。
中心に位置するオーディーン
の正面カタパルトのラインが光り、進路を導く。
「リフェーラ=シリウス…ス
ペリオル! 出ますっ!」
幾度も傷つき…そしてその身
を哀しみに染めながらも……愛する者のために…共にあるために……飛び立つ剣はその身を純白と紫に染め、スラスターを拡げて舞い上がる。
続けて発進態勢に入る機
体……コックピット内で、リンはこの先にいる相手を思い浮かべる……己の影………信じるもののために敵対する道を選んだ妹………
ならば……自分の手で……闇
へと還す……これだけは誰にも譲れない……たとえ、レイナであろうとも………
「リン=システィ…エヴォ
リューション! 出撃するっ!」
操縦桿を引き……スラスター
が唸りを上げ、機体をカタパルトが打ち出す。
宇宙にその身を晒す機体は漆
黒の鎧に身を包み、漆黒の鳳凰を携える。
固定具の戒めを解除し…最後
にカタパルトに乗る鉄褐色のボディを携えた機体のコックピットで……レイナは静かに前方に拡がる宇宙を見詰める………
初めて……ルシファーで宇宙
に出た記憶が過ぎる………まるで…遠い…果てしなく遠い過去のように思える………
アレから…駆け抜けてきた数
多の戦いが脳裏を過ぎる………幾多の激戦……死をその身に感じたのは一度や二度ではない……
そして……ここまで…この運
命の刻まできた………終わらせる…そう……なにもかも…………そう己に決意したレイナの瞳には、深い意志が漂う。
操縦桿を握り締め…ペダルを
踏み込む。バーニアが粒子を吐き出し…唸りを上げる。
電磁パネルが点灯し…レイナ
は顔を上げる。
「レイナ=クズハ……イン
フィニティ! 出撃するっ!」
これが最期の出撃……刹那、
インフィニティの瞳が強く輝き、咆哮にも似た駆動を響かせ、バーニアが火を噴いた。
カタパルトが動き……加速す
るGをその身に受けながら………堕天使は飛び立つ。
黒衣を纏い…真紅の翼を拡げ
て飛翔する………
『無限の翼』、『進化の
剣』、『超越の星』……3つの運命の星が解き放たれ、飛翔する。
突入部隊の要であるインフィ
ニティ、エヴォリューションの周囲につくフリーダム、ジャスティス、マーズ、アカツキ、スペリオル、デュエルパラディン、メガバスター、ブリッツビル
ガー、イージスディープ、シュトゥルム、ルシファー、ストライクテスタメント……その横を駆け抜けていくインフィニート、ヴァリアブル、ゴールドフレーム
天率いる他のMS部隊。
「くそっ、俺らはまだ待機か
よ!」
「先陣を取れないってのはな
かなかいたいっしょ」
ディアッカとラスティが軽く
ぼやく。突入部隊であるGフォースはあくまで敵艦隊の混乱に乗じて突破するのが第一だ。そのための先制を取るのはそれ以外のMSであるために最初に戦場に
入れない……軌跡を描きながら、敵艦隊より放出されてきたMS隊に対峙していく。
戦艦から援護のミサイルが轟
き、MSを追い越して敵MS隊に着弾し、前方宙域で火花が起こる。
インフィニートがガトリング
砲を放ち、デュエルダガーや105ダガーを粉々に破壊していく。ヴァリアブルが両手のレーヴァティンを振り被り、ゲイツとシグーを両断する。
フリッケライが突撃し、ダ
ガーLの攻撃を掻い潜って右腕のスピアーをボディに叩き付け、伸縮し、針がボディを打ち貫く。ハイペリオンのフォルファントリーが放たれ、閃光が過ぎり、
コスモグラスパーやジンを掠め、行動不能にしていく。
ゴールドフレーム天もまたバ
ルファスのビームキャノンをトリケロスで受け止め、瞬時に後ろを取り、トツカノツルギでボディを貫く。
そして、手を振り、指揮下の
M1隊を誘導する。グラン率いるM1やデュエルダガーの混成部隊は連携して敵機を撃ち落としていく。
激しい砲火の咲き乱れが後方
からでもよく確認できる……これに乗じて突入する……ダイテツからその指示が送られ、インフィニティとエヴォリューションが先陣を切り、他の機体が後に続
く。
「よっしっ! 俺らもいく
ぜっ!」
「坊主ども、お前らは中盤で
後ろを固めてくれっ!」
続こうとしたディアッカらに
向けてムウがそう指示し、機制を制されたディアッカは幾分かしかめっ面で問い返した。
「けどよ…っ」
「ディアッカ、言うとおりに
しましょう。後ろを固めておかないことには背中から攻撃されかねませんし、なによりディアッカ達の機体はその仕様でしょう」
ニコルの諌めどおり……ディ
アッカやシホの機体は砲戦タイプ…そして、機動力と火力の向上のためにニコルやラスティの機体もヴェルヌに換装している。ならば、後方支援に徹するのが役
割として当然だ。それに、敵陣のなかを突っ切るのだ……背中を護るというのも大事な務めだ。
渋々頷きながら、彼らの意識
もまた始まった砲火に集中した。
そうこうしているうちに敵艦
隊に突入していくGフォース…第9機動艦隊に組み込まれていたデュエルダガーにダガーL、さらにはGシリーズのストライク、そしてザフト側のゲイツにバル
ファスが阻もうと銃を向けてくる。
放たれる砲火を掻い潜りなが
ら、デザイアで受け止め…その奥からヴェスヴァーを放ち、前方にいたデュエルダガーとジンを破壊し、突破するインフィニティ…それに気を取られたストライ
クだったが……次の瞬間には、胴体を巨大なビーム刃で真っ二つに両断され、爆発に掻き消える。その爆発を背に加速するエヴォリューションはミーティア
ZEROの対艦用の拡散型ミサイルポッドを発射する。
発射されたミサイルコンテナ
は敵の密集地帯で炸裂し、周囲四方八方に飛び散るミサイルが周辺に布陣していた敵機に着弾し、破壊していく。
加速したまま敵艦隊を突破し
ていくインフィニティとエヴォリューションに続くフリーダムとジャスティス……ビーム砲を放ち、敵MSを沈黙させ、ミサイルを放って道を切り拓く。
2機のミーティアに乗せても
らう形で同乗しているマーズとアカツキ……この空域を突破するまでは、加速力が必要になるためにミーティアへと同乗し、フリーダムとジャスティスの支援に
徹している。
そして、AFのスペリオルは
高機動モードに入り、デュエルパラディンがそれに掴まれ、加速する。
そして、ヴェルヌを装着した
ブリッツビルガー、イージスディープ、ルシファーにそれぞれシュトゥルム、メガバスター、ストライクテスタメントが同乗し、加速して敵陣を突っ切ってい
く。
後少しで艦隊を突っ切る……
そう確信すると同時に立ち塞がってくるMS群……モニターの前に割り込むように現われるダガーLに向かい、レイナが叫ぶ。
「邪魔を…する
なぁぁぁぁっっ!!」
その咆哮に呼応し……右手の
フェンリルが火を噴く……高出力のビームが一直線に伸び…ダガーLを直撃し、そのまま伸びたビームは後方にいた数機を呑み込み、爆発の華が咲き乱れる。
そして……敵艦隊の防衛網を
突破した『GUNDAM』の名を冠するGフォースはユニウスセブンに向かって加速していった。
それを見詰める仲間達は、彼
らの健闘と…生還を祈った…………そして、彼らはこの敵艦隊との戦闘に突入する。
残存の艦隊から無数のMSが
出撃してくる。
オーディーン以下、6隻の艦
は対空砲を駆使し、敵機を牽制する。元々デブリ宙域ということもあり、戦艦は大きな回避行動を取れない。
対空砲を受け、爆発するMS
だが、それらを掻い潜ってくるダガーLや105ダガーはエールパック装備で狙撃してくる。
ジンアサルトの放つ弾丸が装
甲に着弾し、オーディーンは振動に包まれる。
「第一装甲板、損壊率
21%!」
「航行支障なし! CIWS
システム稼働率93%に低下!」
「怯むな! 副砲で迎撃し
ろ!」
鋭い機動力を駆使して懐に飛
び込んでくるMSに向かって対空砲を集中させ、動きを牽制し、そこへ必殺の一撃を撃ち込む。副砲塔のビーム砲が火を噴き、ダガーLを蒸発させる。
「艦長! ヘカトンケイルよ
り荷電粒子砲きますっ!」
「回避! 取り舵!!」
まだ距離が離れているはずの
ヘカトンケイルの大型荷電粒子砲が放たれ、回避行動に移ったオーディーンを掠める。
閃光と振動に歯噛みするク
ルー達……態勢を崩したオーディーンに向けて好機とばかりにMS隊が襲い掛かろうとするが、そこへ巨大なビームの奔流が襲い掛かり、機動性に特化した機体
は瞬時に逃れたが、数機が呑み込まれて爆発する。
「オーディーンの援護に回
る! イズモ及びクサナギに通達! ゴッドフリート照準、目標敵ナスカ級!」
援護したスサノオのブリッジ
でキサカが叫び、スサノオに追従するイズモとクサナギのゴッドフリートが起動し、オーディーンに接近していたナスカ級に照準を合わす。
「撃てぇぇぇっ!」
その叫びとともに放たれる
ゴッドフリートがナスカ級の船体を貫き、ナスカ級が轟沈する。
爆発が船体を照り映えるな
か……爆発の奥から姿を見せる護衛艦がビーム砲を放ち、スサノオを掠める。
「ラミネート装甲内熱量上
昇!」
スサノオの装甲はラミネート
装甲であるため、減衰は可能であるが何度も受けては保たない。
「前方にさらに護衛艦2!
駆逐艦5!」
オーブ艦群を葬ろうと群がる
ように密集してくる艦隊……ビーム砲が轟き、バスターダガーやゲイツのビームライフルが伸び、護衛に就いているM1を撃ち抜き、破壊する。
3隻は敵艦への砲撃のために
火器を回し、周囲に群がるMS群には対空砲と護衛のMS隊が受け持つ。
クサナギやイズモ甲板に立つ
アーマードM1が全身のミサイルポッドを開放し、何十発というミサイルを放つ。
ミサイルが周囲に炸裂し、態
勢を崩すMSは対空砲に撃ち抜かれて爆発するも、攻撃を放ち、艦もまた被弾する。クサナギの艦橋に着弾し、艦長席のトダカが歯噛みする。
「怯むなっ! イーゲルシュ
テルン及びレーザー砲を密集させて追い込め!!」
新たにクサナギの艦橋に増強
されたレーザー砲塔が旋廻し、イーゲルシュテルンと併せて弾幕を張り、掻い潜ってきたデュエルダガーの腕と脚部を吹き飛ばし、身を翻した背中にレーザー砲
が直撃し、爆発する。
イズモの甲板上では、フォー
の駆るソードカラミティがゲイツとバルファス相手に斬り結んでいる。甲板に降り立ったゲイツとバルファスはビームクローを展開し、凄まじいスピードで振り
かざしている。
ソードカラミティもシュベル
トゲーベルを駆使して受け止め、捌くも足場を気にしてなかなか本領発揮ができない。
そこへシックスの駆るM1A
が助太刀に入り、ビームサーベルを突き刺し、ゲイツのボディを貫く。爆発させないようにコックピットのみだ……ここは甲板上…下手な爆発は命取り……その
まま投げ捨て、残りのバルファス目掛けて接近戦を挑む。ミナの命により、このイズモの護衛を受け、極力傷つけないように戦闘するように指示されたため、彼
らは接近戦を駆使して敵の掃討に当たる。
その頃……ネェルアークエン
ジェルはセラフィムと戦闘を繰り広げていた。大天使と熾天
使……天使のなかでも明らかに違う階層の名を与えられた2隻……セラフィムが放つミサイルをネェルアークエンジェルの対空砲が旋廻して撃ち落とし、周囲は
爆発に包まれる。
「艦首下げ! ピッチ角
40! 同時にバリアント照準!」
キョウの指示に従い、ノイマ
ンとモラシムがネェルアークエンジェルの艦首を下げる。同時に爆煙を裂くようにビームが轟く。セラフィムのゴッドフリートだ…それは直上を過ぎり、バリア
ントが向きを変え、光弾を放つ。
だが、セラフィムもまたバリ
アントで応戦し、光弾を掻き消す。
「くっ……っ」
マリューは歯噛みし…キョウ
が何かに気づいた。
敵にはセラフィム一隻……だ
が、AA級はもう一隻ある……それが先程から見当たらない。
「索敵! もう一隻を捜
せっ!」
怒号を上げ、反射的にレー
ダーを見やるも……レーダー類には周囲に反応はない。
その時だった……突如レー
ダーに反応が現われたのは………
「て、敵艦! 距離…本艦左
斜め……眼の前です!」
トノムラの上擦った声……マ
リューがハッと眼を凝らすと同時にネェルアークエンジェルの左斜めの空間から浮き出るように姿を現わす船体……ミラージュコロイドを解除したパワーがほぼ
間近に迫っていた。ミラージュコロイドを展開して完全に息を潜め、セラフィムがこの地点へと誘導したのだ。
「回避ぃぃぃぃっっ!!」
あらん限りの声を張り上げる
も…こんな密着状態で回避できるのか……だが、ノイマンとモラシムは瞬時に操作を入力した。
「推力最大っ! 左舷スラス
ラー全開!!」
モラシムが出力を上げ、左舷
の全スラスターが唸りを上げ、ノイマンが必死に操縦桿を切る。それに連動してネェルアークエンジェルは右舷に重心を置き、艦の向きを変えていく。
激突寸前で艦を斜めへと移動
させ…なんとか激突だけは避けられた……その神業的回避にマリューらは安堵の息を漏らし、当のノイマンとモラシムは大きく息を吐いた後、互いに見合って指
を立て、互いに称え合う……あの瞬間、半ば無意識に行なったにしては見事な連携であっただろう……だが、喜んでばかりはいられない。
「っ!? ミサイル接近!
イエロー11マークα!!」
パワーの放ったミサイルが凄
まじい勢いで襲い掛かってくる。
「底部イーゲルシュテルンで
迎撃! 同時に右回頭30!」
底部対空砲が火を噴き、ミサ
イルを撃ち落とす……その爆風が船体を推し、それにのって艦の向きを変える。
「ゴッドフリート照準! 撃
てぇぇぇぇっ!!」
マリューが叫び、側面に向け
てゴッドフリートが放たれ、パワーに襲い掛かる。ゴッドフリートのビームがパワーの左舷ブレード上部を掠め、左舷のゴッドフリートが破壊された。
煙を上げ、蛇行するパワーを
横にネェルアークエンジェルはセラフィムに再度向かう。
エターナルは機動性を発揮
し、MS隊の砲火のなかを駆け抜けていた……戦艦らしからぬその機動性には驚かされる。
「取り舵! 次いで加速
20! 同時に副砲塔で迎撃!!」
鋭いバルトフェルドの指示に
エターナルは船体を傾けながら副砲塔を旋回させ、砲撃する。
射撃管制はアイシャが担当
し、ラゴゥ時と同様に息の合ったコンビネーションを見せている……ビームが向かった先に移動するデュエルダガーを呑み込み、破壊する。
敵の配置をモニターやセン
サーを駆使し、全方位を見据える。
その時、バルトフェルドの眼
が僅かに細まった。
「回避! 艦首上げ、ピッチ
角40!」
慌てて操舵士が操縦桿を引
き、エターナルの艦首が持ち上がり、前方から放たれたビームの奔流が艦底を掠める。
そこで初めてレーダーに前方
の離れた位置でインパルスライフルを構えるバスターダガーの存在に気づいた。
改めてこの隊長の野生の勘と
いうか反応に驚かされるクルー達に対し、バルトフェルドは不適な笑みを浮かべる。
「ふむ…宇宙の感覚も鈍って
いない……これからは、砂漠の虎ならぬ宇宙の虎とでも名乗ろうかね!」
いつもの軽薄な調子でそう漏
らすバルトフェルドにアイシャがプッと噴き出し、ダコスタは大きく肩を落とし、クルー達も笑みを噛み殺す。この隊長だからこそ付いていけるのだ。
「さぁて…主砲発射準備!
目標地球軍駆逐艦! 発射と同時に後退! CIWSを前方に集中させろ!」
エターナルの主砲がセットさ
れ、前方の駆逐艦に照準が合わさる……そして、主砲から光がこもれる。矢のように伸びるビームが駆逐艦の船体を貫き、轟沈する。
そして、隣に布陣していた護
衛艦からミサイルが発射されるもエターナルは後退し、CIWSを前面に集中させ、撃ち落とす。
前方宙域が閃光に彩られると
同時に今一度エターナルの主砲が火を噴き、護衛艦一隻の側面を掠め、誘爆を起こして護衛艦が撃沈する。