闇のなか……閉じていた瞼が ゆっくり開かれる…………その真紅の瞳に最初に映ったのは……何なのか……それは……当の本人にも解かっていないのかもしれない………

虚ろな瞳を上げる青年……カ インはゆっくりと立ち上がる…瞑想していたが……感じた気配に意識が呼び戻された………

「……きたか」

先程から感じる気配……同じ 存在を感じ取れる感応波………それが、『彼女』がきたというなによりの確証………

薄いクリスタルガラスの屈折 したような光が差し込むなか……カインはゆっくりと歩み寄る………

見上げる先に備わったカプセ ルに眠る人物……まるで死んでいるように眠る人物に向かい、囁く………

「じきに彼女がここにく る……運命は………どちらを選ぶのかな………ごほっげほっ」

苦笑めいた笑みを浮かべ、肩 を竦めるが…またもや咳き込む………滴り落ちる血を拭いながら、カインは自嘲めいた笑みを浮かべる。

「………レイナ=クズハ…」

背を向け……眼前に佇む純白 の天使に向かって歩み寄っていく………天使…いや………運命によって生を受けし神の出来損ないの子供は赴く………

 

――――己が運命に導かれ て…………

 

 

それを見送るカプセル内…… そのなかで……眠る人物の閉じられた瞳から微かに雫が零れた…………

誰にも気づかれることな く………なにかを哀しむように…………

 

 

 

主を乗せ……立ち上がるメタ トロンのコックピットで……カインはふと、自らが座るシートの下に設置されたサブシートを見やる。

元々は、外宇宙航宙艦の船外 作業機、そして護衛機として開発されたDEM……人造神という人が造り上げた神に似せたもの……設計したマルス=フォーシアの夢が託されたマシン……その ために、コックピットは作業効率のために複座シートを設置した。だが、後に戦闘用に改修されたDEMのカスタム機であるインフィニティとエヴォリューショ ンは単座に変更された。

だが、カインはメタトロンの 装備を強化こそすれ……外装とコックピット以外の改装はしなかった………

そのために、コックピットも 複座のまま……本来なら…その下に座るべきだった相手は…間もなくここへくる……己を殺しに………

「………いくぞ…メタトロ ン…」

小さく呟いた名に…メタトロ ンは微かな咆哮を上げる…主の意に従うように………

そのカメラアイのうち、右眼 は先にインフィニティによって砕かれたまま……奥のカメラのみが不気味な紅を放っている。

人のように全身を硬直させる ように構え…人の手によって造り出されし神は純白の8枚の翼を拡げ……今………神天使は飛翔する…………

浮かび上がったメタトロンは その場で佇み…そして……すぐ間近に見える蒼い地球に向けて眼を細めた………

「ゆけ………忌まわしき人の 業と闇とともに……未来という闇に……滅びろ」

小さく吐き捨て……カインは 視線を外した…………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-58  鎮魂歌(散 りゆく魂へのレクイエム)

 

 

C.E.71 10月2 日………神の審判者を名乗りし者達の所業………Neo Genesis Era。

永い夜の闇が世界を覆う…… 人々がその運命の審判に怯え…ただ祈り……その刻をひたすらに感じ続けるなか………それを阻止するために落下軌道に向かうユニウスセブンへと突入を試るG フォース………

全ての想いを託され…そして 決死の覚悟で突入する彼らの前に神の使徒が立ち塞がる。

インフィニティらMSを取り 囲むように布陣する純白の天使を模倣した機体……最下層の天使の名を冠するエンジェルダガー……

そして……彼らの前に立ち塞 がるは、因縁の相手…………

「くはははっ! 待ってた ぜ、イザーク=ジュール! リフェーラ=シリウス! 待ちくたびれて俺はもう退屈だったぜ」

卑下た笑みを浮かべ、哄笑を 浮かべるテルス……その正面に佇むデュエルパラディン、スペリオルのコックピットでイザークとリーラはキッと睨む。

「だがそれもお前らが満たし てくれるんだよな……俺と…ウリエルをよっ!」

天使でありながら、地獄への 道先案内人……無慈悲なものとして知られる大地を司りし天使の名を冠する巨大なMS……狂った『大地』の名を冠する者を乗せ…ウリエルが拳を鳴らす。

「ここから先は通すわけには いきません……全力を以って…排除します………」

左右に紅と蒼の瞳を持つオッ ドアイの無表情な冷たい声で囁くアクイラ……純白の巨大な4枚の翼を拡げる………その背後には、カラミティ、フォビドゥン、レイダーが控え…ディアッカ、 ニコル、ラスティ、シホらは息を呑む。

「………ラファエル…貴方の 慈悲を……せめてさし上げましょう………」

癒しを齎し、輝きを放つ天 使……風を守護せし夜の翼………人にとっての幸を齎す者は、『鷲』のごとき狩人として……4枚の翼を羽ばたかせ、威嚇するように佇むラファエルはその爪を 向ける。

「またお会いしましたね…… もっとも、貴方方がどう足掻こうと結果は変わらないのですがね……」

気取り…そして見下すような 慇懃な物言いで呟くウェンド……全身を重装甲で固め、主と同じく右眼を覆う円形のスコープの奥で真紅の光が不気味に輝く。

そして……その周囲に取り巻 くように現われる機体群……

「エンジェル…そしてイヴィ ル………僕の最高傑作をお見せしましょう……作品は評価されてこその作品なのですからね……無論、このガブリエルもね……」

自賛するように鼻を鳴ら す……白銀のジャスティス:イヴィル、神を気取ったピエロ:プロヴィデンス……それらを従えるのは水を司りし自らが焼き払った街の名を冠する銃を構える天 使ガブリエル……

「ならば……貴方を巨匠にし てさし上げましょう………ですが…貴方の作品とやらは破壊させてもらいます……」

ウェンドの物言いに微かに震 えながらも…気丈に皮肉めいた言葉で言い返すラクス…この場でそう言い返せたのも、ひとえに彼女の精神力故か……そして、身構えるマーズに呼応するように 前に出るジャスティス、ストライクテスタメント…マーズの隣に立つアカツキ……アスラン、ムウ、カガリらも眼前をキッと見据える。

「いいでしょう…もっと も……それは敵わないでしょう。結果だけ見えててもその過程はまた別の趣がありますので………せいぜい愉しませてもらいますよ」

小馬鹿にする『水』の小悪魔 を乗せ…ガブリエルは低い唸りを上げる。

そして……レイナ、リン、キ ラ、カムイの4人の機体の前に佇む3機………

「ミラージュコロイドで隠れ ていたのか……御苦労なことね」

レーダーから完全に姿を消す そのステルス性は、最初から使用されていたのではほぼ発見するのは不可能に近い……先程のも、MCとしての感応波のおかげで先制攻撃を察することができた にすぎない………

だが…それは、機械的な技術 では自分達の……いや…その気配を覆うことなど不可能だということに他ならない………

「どんなに闇に紛れようと も…お前達の殺気はそれを超えるみたいね……」

皮肉めいた物言いで吐き捨て る……そう…眼で見るより感じられる………同じ闇から生を受けた者として…闇に紛れる気配を隠すことなどできるはずがない………その言葉に、ルンは鼻を鳴 らす。

「フン……姉さん達を相手に 姿を隠す必要などない………」

侮蔑めいた物言いで言い捨 て、相手を見据える。

「ククク……待ち侘びた ねぇ、この刻をよ………」

舌を舐めずり回し…心底愉し そうに歪んだ笑みを浮かべる。両腕に宿る竜を構え、真紅のボディが映える。

キラが身構え……そして、隣 に立つルシファーのコックピットでカムイが隣に佇む機体に視線を向ける。

無言で佇むヴァニシング…そ の視線に気づいたウォルフがニヤついたように喉を鳴らす。

「気になるか……こいつ が…」

くいっと指差し、挑発するよ うに呟く。乗り出しそうになる身に必死に自制をきかせる。そんな様子にさらに喉を鳴らす。

「こいつはもうただの人形 さ……なんなら、試してみるか………お得意の麗しい友情とやらでな」

見透かしたような言葉と侮 蔑……カムイは奥歯を噛み締め、操縦桿を握り締める。

「さあて……ここがラストス テージだ………派手に…そして……愉しませてくれよな……」

笑みを噛み殺しながら、狂気 をその身と牙に宿せし男とその狂気をのせる双頭の血塗られし竜……ゲイルは身構える。

「…よくここまで……と、褒 めてあげるわ…………」

慇懃に呟き、肩を竦める…… 本来なら………あのヤキン・ドゥーエで全て決着をつけるつもりであった…………

恐怖に縛られたアズラエルが 核でプラントを灼き尽くし…憎悪に突き動かされたパトリックがジェネシスで地球を灼く………決して自分達は闇から出ることなく……愚かな人類同士の愚行で 滅び合い…全ては終わるはずだった………

「だけど、お前達は侮りすぎ たようね……現実は、そう簡単にいくものじゃない……」

達観した考えを嗜めるように 呟く。

傲慢だ……全てが個人の思い 描いた通りに進むことなどない………神でもない限り………あらゆる運命にその身を委ね……そして……全てを知ることなど人には叶わない所業でしかな い………

「どうかしらね……たとえ、 姉さん達が邪魔しようとも……結果は変わらない……あの人を止めることなど…誰にもできないのだから………」

自らが想う者の姿を思い浮か べ、ルンは笑みを浮かべる。

それに呼応するように騎馬メ カに跨る純白の天使のマスクから微かな気圧が漏れる。

「そして……それを阻もうと する者は………全て、私が闇に葬ってやるっ」

語気を荒げ……天界を駆ける 一角をその額に持つ天馬:ユニコーンは猛々しい咆哮を上げ、それを従える『火』を使役とする天使達の長……全てを統括する最高位の天使の名を冠せしも の……ミカエルは、『破滅』をその身に纏い…死界へと叩き落すために錫杖をその手に構え、破滅の鈴を鳴らす。

「私達が祝福してあげる わ………破滅への最初の血祭りとしてね…………」

惚然とした表情を浮かべ…… ミカエルに呼応するように一斉に身構える天使達…そして、レイナ達も身構える。

「……生憎…私達は、その祝 福を受けるほど清らかではないんでね………」

リンが不適に笑い……皮肉 る。

そう……天使の祝福を受ける ほど、この身が綺麗なはずがない………溢れるほどの鮮血をこの身に浴びた呪われたこの身……悪魔に魅入られることはあっても、神に祝福されるなど、最も縁 のないこと………

自嘲するリンにのるようにレ イナもまた不適に笑い…ルン達を見据える。その視線を感じたのか……ルンの表情が微かに強張る。

「私からも一つ教えてあげる わ………人は…修羅にはなれても……神には…絶対になれない………」

それは……言外にルン達のこ とを指している………同じだと……ルン達も…自らが滅ぼそうとする人間だと………

それを察した瞬間……憤怒と 恥辱に表情を歪めたルンのミカエルが動くと同時に一斉に天使が動き出す。

「なら……決定的な死を与え てやるわっ!」

「その死に包まれるのは…あ んた達もよっ」

そして……インフィニティら もまた、呼応するように対峙し…一斉に飛び出す。

刹那……幾条もの火線が飛び 交い、閃光が周囲を包み込む。

 

 

――――――破滅に抗いし堕 天使と……破滅を齎せし天使の闘いの火蓋が……切って落とされた………

 

 

 

 

Gフォースと天使が戦闘に突 入した刻を同じくして前方宙域……ディカスティスの傀儡艦隊と砲火を交わすオーディーンらの艦隊とMS………

戦艦同士の激しい艦砲の応酬 が轟き、その周囲では無数のMSが交錯し、火線と爆発の火花が絶え間なく咲き乱れる。

その戦場のなかで……水を 打ったように静まり返るような宙域があった…いや……実際にはまるで全てが掻き消えたようにその場にいる者達が錯覚したのかもしれない。

それ程までに信じられない光 景に出くわしていた……その宙域に佇むインフィニートのコックピットで、アルフは呆然と呟く。

「…レナ=イメリア………」

前方に対峙するMS部隊の中 心に佇む機体……GAT−X131−02:カラミティ2号機…その肩に描かれたエンブレムは……彼がよく知る者のもの…………

唖然となるアルフの耳に…… 聞き慣れた声が飛び込んできた………

《アルフ………》

「レナ…っ!?」

呼び掛けてきた声に思わず反 応するも……次の瞬間、相手からの冷たい返答に掻き消された。

《…死んで………》

刹那、火花が散り……カラミ ティのシュラークが火を噴き、インフィニートに襲い掛かる。

咄嗟にガトリング砲を上げて 防御するも、ビームに貫かれて左手のガトリング砲が破壊され、その衝撃に激しく揺さぶられるコックピット。

「がぁぁっ!」

「アルフ!」

呻くアルフにメイアが眼を見 開くも…それは砲撃を開始したバスターダガーによって阻まれる。

ミサイルを発射し、それらが ヴァリアブルの周囲に炸裂する……歯噛みし、防御しながら耐えるも…飛び込んでくる機体が銃身を合体させ、対装甲散弾砲を発射する。

広域に放たれる弾丸が機体を 掠め、ヴァリアブルは吹き飛ばされる。

「うわぁぁっ!」

悲鳴を上げながら、浮遊して いた駆逐艦の残骸に激突し、激しい振動がコックピットを襲う。

「うっ…くっ…くそっ!」

呻きながらも…距離を置いて シュラークを構えるカラミティに気づき、レバーを引いて機体を離脱させる。刹那、シュラークのビームが駆逐艦の船体を貫き、爆発が轟く。

吹き飛ぶ残骸にその身を晒し ながら、メイアは機体をフルブーストさせ、一気にカラミティの懐に飛び込んでいく。

カラミティは砲撃機…接近戦 に持ち込めば、こちらが有利…どの道、距離を空けての戦闘は不利だ……加速して一気に飛び込み、レーヴァティンを振り薙ぐも、カラミティは機体をずらして 回避する。

舌打ちし、もう片方の刃を振 り上げるも、カラミティは紙一重で回避していく…まぐれなどではない……この密着した状態でのこの反応のよさ………コーディネイターでもそうはいない…… そして……例のナノマシンによって引き出された力………限界を超えたもの………

「これが…乱れ桜っ!  うぁっ!」

連合の乱れ桜……その実力に 歯噛みしていたが、鋭い衝撃が機体を襲う……失念していた…敵はカラミティだけではない……レナの率いる桜演武隊のバスターダガー9機もいるのだ。

バスターダガーがライフルと ガンランチャーを両脇に構えて砲撃してくる…それを掻い潜りながら、バスターダガーの懐に飛び込み、レーヴァティンを振り下ろす。

機体を両断…とまではいかな くても……砲身を斬り落とす。

その反応に驚嘆しながらも、 メイアもまた蒼の稲妻の異名を持つ者……鋭い機動で敵を翻弄し、レーヴァティンをクロスするように斬りつけた。

X字にボディを斬り裂かれ、 爆発するバスターダガー……息を乱すメイアだったが…背中を這う冷たい感触に半ば反射的に機体を捻る。同時に背後からビームが轟き、ヴァリアブルを過ぎ る…もしあと数コンマ遅れていたら…間違いなくコックピットを貫かれていただろう。

薄ら寒い感情を抱きながら… メイアはその攻撃を行なったカラミティに向かい、再度加速する。

そして……最初に先制を喰ら い、弾かれたインフィニートは戦闘宙域よりやや離れたところまで流され…そこでアルフはようやく機体に制動をかけることができた。

「うぅぅ」

苦い表情で閃光が煌く宙域を 見やる……制動をかけるのが遅れたのも…攻撃に対して反応が遅れたのも……カラミティに乗るパイロットに動揺してだ……

「レナ…お前が、なん で……っ」

なにか理不尽なものが込み上 げてくる……レナの部隊が未帰還というのは地球軍の再編成時の報告で知ってはいた……だが、アルフは心の何処かでそんなことはないと密かに思っていたのか もしれない……レナが…自分が認める彼女がそんな不覚は取らないと……その微かな願望は…容易く打ち砕かれた……自らの身をもって………

今、あそこで戦闘を繰り広げ ているのはもう自分の知っている相手ではない……そう理性が訴えるも、感情は納得しない………

「くそっ」

頭を振り、操縦桿を握り締め る……動揺は隠せない…だが、だからといってあそこで今独りで奮戦しているメイアを…仲間を見捨てることはできない……それに…もしかしたらと淡い期待を 抱いてしまう。

あの時、レナは自分を認識し て攻撃してきた……なら、まだ可能性はあるかもしれない……アルフはそんな可能性に縋り、操縦桿を引く。

バーニアが火を噴き…イン フィニートは加速して戦場に舞い戻る………儚き望みをもって…蒼き疾風となって…………

 

 

別宙域では、スサノオ…そし て、その周囲に布陣するMSの激しい戦闘が繰り広げられている。

スサノオの主砲が火を噴き、 展開するMSを吹き飛ばすも…艦の護衛に就くバルファスが数基掛かりでフィールドを密集させ、フィールドの濃度を何倍にも上げて戦艦の主砲を防いでいる。

完全な防戦だが、これでは両 方に決定打が出ない。最も、時間を掛ければこちらが不利なのは明白……キサカは歯噛みし、なんとか突破口を開こうと思考を巡らせる。

MS隊はまさに一進一退の熾 烈を極めており、撃ち落とされては撃ち返すを続けている。

アーマードM1のミサイルコ ンテナが一斉射され、何十というミサイルが襲い掛かり、シグーやゲイツ、ストライクキャノンダガーを牽制・破壊していく。

それに乗じてM1がビームラ イフルで機体を撃ち抜き、破壊するも…接近戦を挑むゲイツがビームクローを振り上げ、M1もまたビームサーベルを抜いてカウンターで応戦するも、繰り出さ れた2機の刃は互いのボディに突き刺さり、次の瞬間には2機は爆発に消える。

ガンナーM1と護衛艦の援護 に就くバスターダガーが撃ち合い、ガトリング砲と対装甲散弾砲がぶつかり合い、弾丸を撃ち落としていく。乱射するガトリング砲がバスターダガーの足元を破 壊し、装甲を破壊された護衛艦から火が上がり、バスターダガーはその炎に包まれる。

マシンガンを乱射し、装甲を 掠めるストライクキャノンダガーが態勢を崩したM1をリニアガンで砲撃し、破壊する……だが、背後から回り込んだM1Aがビームサーベルで斬り払い、破壊 する。

咲き止まぬ爆発のなかでも激 しい応酬を轟かせるのが数ヶ所……その内の一つ……バリーのM1Aとワイズのストライククラッシャーがあった。ドリルアームを振り上げ、回転させながら殴 りつけるように突く一撃を機動性を駆使してかわし、バリーはヒットアンドアウェイを繰り返す。だが、相手もそれらを紙一重で見切り、なかなか決定打が出な い……クローを振り被って薙ぎ払う…装甲を掠め、抉り後が刻まれる…歯噛みし、距離を取ってバルカンで狙撃するも、ストライククラッシャーはドリルアーム を振り上げて弾き、火花が散る。

だが、相手が大きく動いた僅 かな隙を衝き……加速して懐に飛び込み、腕を振り上げて相手の顎を拳で弾く…機体が大きく跳ねると同時にバーニアを噴かして上に跳び、脚部を下方へ突き下 ろす。蹴りをバックパックに受け、そのまま勢いよく弾き飛ばされ…ストライククラッシャーは浮遊していたデブリに激突する。

煙を上げるその様を見詰めな がら、バリーは息を乱す。

「流石に速いな……このまま では、いずれ追いつかれる……」

敵の反応がこちらよりも速く なっている…機動性に抜き出たM1Aのスピードに追いつかれたら、不利なのは明白だ。早々に決着をつけなければ……そして…相手もまたタフらしく、煙のな かから立ち上がってくる。

通常なら、あの衝撃でパイ ロットは失神してもおかしくないはずだ……手強さに笑みを浮かべるも、心の内で残念に思うことも否定できない………

「せめて……本当のお前と戦 い、拳を交えてみたかった………」

魂のこもらぬ拳……それだけ がバリーにとって唯一の心残り………だが、囚われた相手を解放するのもまたこの拳……見据えるバリーは立ち上がったストライククラッシャーに対して身構え る。

既に各関節の異常や装甲の磨 り減りも大きい……元々、MSは格闘戦を前提に設計などされていない。携帯武器を使用した近接戦は考慮されていても、基本は電子精度の高い精密機械である MSで格闘家のような激しい動きを行なえば、それだけ機体への負担は増す。

故に、これ以上時間を掛ける わけにはいかない………

「くきゃきゃきゃ…俺は、最 強だぁぁぁぁっ!」

狂ったように叫び…自らの肉 体と拳のみで生き抜いてきたワイズにとって、戦うことと強さを求めることは己が本能……タガが外され、それが完全に思考を支配し…ただただ敵と認識した者 のみに襲い掛かる。

ドリルアームを振り上げて機 体を加速させ……突進する……ドリルを突き出すも、M1Aはそれを捌くように回避し、拳を叩き込む。

「はぁぁっっ!」

正拳、裏拳、肘打ち、横蹴 り……次々と連打でストライククラッシャーのボディに叩き入れるも、TP装甲であるためにダメージは少ない…だが、コックピットはそうはいかない。激しく 揺さぶられ、ワイズは焦点の定まらず、翻弄される。

「でぇぇっ!」

掌をぶつけ、相手のボディを 弾き飛ばす……だが、ストライククラッシャーも弾き飛ばされながらもイーゲルシュテルンで狙撃し、それがM1Aの頭部を掠め、カメラアイに亀裂が走り、メ インカメラが麻痺し、コックピットのメインモニターがブラックアウトする。

舌打ちする……だが、バリー は取り乱さず……呼吸を落ち着け…眼を閉じる。

無明の境地……視界が見えず とも……相手の気配を読み、戦うことこそ武道家としての理……完全に全ての神経を研ぎ澄ませ…相手の気配のみに絞り……周囲がまったくの無音と闇に包まれ る。

そんなM1Aにもはや警戒す るという思考すらできないワイズ…そして……ドリルを最高出力で高速回転させる。そのドリルを見据え、ニターっとした笑みを浮かべる。

まるで、獲物を弄ぶよう に……ドリルを水平に構え……ブースターが火を噴き、フルブーストの最高速にのって突き進む。

気配を探るバリーの気配がそ れを捉え……右拳に備わったファングウィップにビーム刃を展開し、構える。

チャンスは一度のみ…外せ ば……命はない……極限まで高まった感覚に導かれるように…眼を大きく見開いたバリーも機体をフルブーストさせ、真っ直ぐに突き進む。

互いに相手に向かい最高速で 突進する……2機が中央でぶつかった瞬間、閃光が飛び散った。

 

 

程離れた別宙域では、アサ ギ、マユラ、ジュリの3人のM1Aとストライククラッシャー2機が銃火を交わしている。

クルツのストライククラッ シャーが血走った眼で照準を合わせ、シュラークを放ち、その砲撃に足を止められるアサギ達……分散しようにも、カミュのストライククラッシャーが周囲に張 り付くように先程から攻撃してくるために動けずにいた。

周囲で炸裂する爆発にシール ドで防御していても少しずつダメージが加算される。

「うぅぅぅっ!」

「ちょ、ちょっとヤバイか も!」

「ちょっとどころじゃない よっ!」

振動に呻きながら、交わす軽 口にも微かな震えが滲み出ている……やはり、パイロットとしての腕の差が大きい。いくら彼女達も激戦を潜り抜け、エース並みの腕を備えたといってキャリア の問題がある。あちらは傭兵として荒事で腕を磨き、さらにはその身体能力を限界以上まで引き上げられている……この状況では数の差などまったく意味を成し ていない。

だが、このままでは嬲り殺し だ……アサギは、マユラとジュリを見やり、真剣な面持ちで話し掛ける。

「マユラ、ジュリ……貴方達 の命、私に預けてくれるっ?」

唐突な言葉に二人は眼を見開 き、息を呑む。

「ちょ、どういうこと!?」

「私が前に出る…例のフォー メーションで……一気に」

「でも、それじゃアサギ が……っ!?」

アサギの提案は二人を驚愕さ せるには充分だった……この砲火に晒されたなかへ突入するなど、無謀どころの話ではない。しかも、自ら盾になるなど…そんなことをすれば、まず間違いなく アサギの危険度は増すばかりか、最悪の可能性も考えられる。

そんな無謀な行為に親友をさ せられない……だが、そんな二人に対しアサギは低い声で嗜める。

「でもやるしかないんだ よっ…このままじゃ、3人ともやられるだけ…だったら、少しでも可能性の高い方にかけてみようよっ! 大丈夫! 幸い、私の機体は今一番防御力が高いか らっ」

覚悟を秘めた声……どの道、 この状態ではいつか、やられる…この状況では援護は期待できない……ならば、一か八かだが賭けに出るというのは確かに可能性がある。

だがそれでも……親友にそれ を任せるというのは心苦しい……そんな躊躇う二人に促すようにアサギのM1Aがマユラの機体からシールドを奪うように取り、両手にシールドを構える。

「迷ってる時間はないよっ」

そう…シールドの耐久度もそ う保ちはしない……アサギの決意に…マユラとジュリは頷く。

「解かったわ、アサギ…私達 の命、あんたに預けるからっ」

「だから、絶対に死なないで よねっ」

その言葉に強く頷く。

「解かってる…私だって、ま だ死にたくないし……それに、カガリ様の結婚式を見届けないとねっ!」

上擦っていた声で…最後は緊 張を解すように呟く。

その冗談にマユラとジュリも 苦笑めいた表情で応じる。

「そうだね、カガリ様のドレ ス姿で笑わないとね!」

「だね!」

本人が聞いたら激怒ものの軽 口を交わし合い……3人はキッと前を見据える。

「いくよっ!」

「「OK!!」」

アサギの号令に応じると同時 にアサギのM1Aが加速し、その後方に張り付くようにマユラとジュリのM1Aが続く。

「「「アストレイストリームアタァァァッッックゥゥッ!!!」」」

3人の声が重なり……3体の M1Aは矢のごとき速さで爆発が咲き乱れる戦場を駆け抜ける。

その行動に疑問を浮かべるこ となく…ただただ敵と認識したもののみに反応する。ストライクキャノンダガーやデュエルダガー、ゲイツが一斉射する。

「死にたまえ…この僕の手 でっ! 僕の…この手でねええっ!!」

白眼を剥くほど見開いた眼で 叫び、カミュのストライククラッシャーがエクステンションライフルを連射する。

集中砲火が轟き、それは前方 を進むアサギの機体に襲い掛かる。シールドを両手に構え、そしてGBMのアンチビーム粒子が機体を覆っているとはいえ、限界がある。シールドの表面が融解 し、粒子の隙間を縫って貫通するビームが機体を掠める。

それでも、アサギは怯まな い…ここで自分が脱落しては、マユラとジュリが相手を射程に捉える前にやられてしまう。

「負けられない…負けられな いっ!」

自らを奮い立たせるように叫 び…アサギは操縦桿を引いてスロットルを加速させる。

スラスターが火を噴き、 M1Aはその身に砲火を受けながら突進する。シールドが半ば融解した刻……遂に射程に入った。

飛び出すようにマユラとジュ リのM1Aが相手に向けてトリガーを引いた。

ロングビームライフルとビー ムライフルが火を噴き、ゲイツやデュエルダガーを撃ち抜く。だが、それは加速にのったまま…前方に立ち塞がるダガーLがシュベルトゲーベルを振り上げて迫 るも、アサギのM1Aの両肩のアグニUが放たれ、刀身を破壊する。そのまま過ぎり、後方のジュリ機がビームサーベルを斬りつけ、加速したままボディを両断 する。横切ると同時に跳び、ビームでバルファスの頂点から撃ち抜き、破壊する。

一糸乱れぬ見事な連携で遂に ストライククラッシャーの直前まで迫るも……クルツのストライククラッシャーのシュラークが連射され、シールドに亀裂が走る。

とうとう限界を超えたのだ… いや……よくここまで保ったと考えた方が自然だろう……そして…亀裂の入った箇所から崩壊が始まり…両手のシールドが粉々に砕け散る。

息を呑むアサギ…そして…… 無防備となったアサギ機に集中砲火が轟く。もうアンチビーム粒子も意味を成さない。

GBMの装甲が破壊され、 腕、肩、脚部と捥ぎ取られ…頭部に被弾と同時に弾き飛ばされる。

「きゃぁぁぁぁっ!」

悲鳴を上げ…弾かれる……だ が、マユラとジュリは振り返らない……ここで振り返ったら、もうチャンスはこない……アサギが…仲間が自らを盾として切り拓いたこのチャンス…決して逃さ ない……カミュとクルツの機体から砲火が轟く。

装甲を掠め、表面が抉り取ら れるも…2機は怯まない……そして、その瞬間がきたとき、2機は左右に跳ぶ。

「左っ!」

「右っ!」

マユラ機がロングビームサー ベルを振り被って右に…ジュリ機が両手にビームサーベルを構えて左に跳ぶ…掛け声を合わせての同時攻撃……ビーム刃が真っ直ぐ向かう……それに対し、カ ミュ機はビームサーベルを…クルツ機は至近距離でバズーカを構える……それぞれの機体が…交錯した瞬間………甲高い音が響いた…………

 

 


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