ネェルアークエンジェル、エ ターナルの2機が協力してセラフィム、パワーを相手にしていた。

「ラミアス艦長、そっちへ追 い込む!」

「解かりました! ゴッドフ リート照準、ブルーβ48!」

エターナルの主砲が火を噴 き、パワーの側面を掠める……態勢を崩し、転進するパワーの針路方向を予測し、その移動する空間に向けて間髪入れずゴッドフリートが放たれる。

ビームの奔流は、パワーのギ リギリ側面を掠める…ラミネート装甲により、排熱が起こる……あの絶妙のタイミングで放った一撃も紙一重でかわされた。

歯噛みするも…エターナルに ミサイルが降り掛かり、爆発が船体を揺さぶる。

バルトフェルドらが歯噛みす る……追い討ちをかけるように再度、セラフィムよりミサイルが放たれるも、キョウが叫ぶ。

「コリントス! 撃 てぇぇぇ!!」

ネェルアークエンジェルより 発射されたミサイルがエターナルに迫るミサイルを叩き落し、落とし損ねをCIWSで撃ち落とす。

「ええい、くそっ! これ じゃ埒があかん!」

思わず毒づく…先程からこの ような攻防を繰り返し続けている……両者の力が絶妙なバランスで保たれており、なかなか決定打が出ない。

敵がAA級2隻というのは手 強い……他の僚艦も別宙域での戦闘が厳しく、こちらへの援護に回れそうもない…あちらに別の艦が援護に就いたらそれだけでパワーバランスは一気に崩れ、あ ちらが優位に立つ。

その前になんとかして一隻ず つ沈めなければ……布陣する敵艦隊の陣容をよんでいたキョウがある一点に気づき、眉を寄せる。

(おかしい……例の部隊は何 処に…? それに、敵も何故一気に決めようとしない……)

ここにきて浮かび上がった疑 問……敵はAA級2隻…当然、艦首にはローエングリンが双方とも備わっている。これまでそれで一気にカタをつける機会はいくらでもあったはず…なのに、先 程からそれらしい動きはまったくない。

確かにアレは威力が大きすぎ るばかりか、発射した後の隙も大きいために使いどころを見定め、限定しなければならないが……敵は2隻なのだ……どうにも腑に落ちない。

それに…もう一点気になるこ とがある。

「マリア、統合艦隊に例の部 隊は確認できたか?」

「待ってください…今、監視 衛星からの情報を索敵します」

キョウの問い掛けにマリアは 即座に統合艦隊が戦闘を繰り広げている宙域でのIFF反応を探る。

周辺に浮遊する監視衛星から 送信されたデータを分析にかけ…それが出る前にマリューは指示を飛ばす。

「転進! 左回頭40! 速 度30上昇!! 横から回り込む!」

側面を向けるパワーの横を取 ろうと回り込むネェルアークエンジェル……だが、キョウは即座に不審そうに眼を細めた。パワーがまるでわざとこちらに横っ腹を向けたかに見える。

そして、その行動に疑問を抱 いたのはキョウだけではない。

「おい艦長に副長! 敵艦の 動きがなんかおかしい…こっちを誘ってやがるぞ!」

モラシムがそう漏らし、マ リューも虚を衝かれたように眼を瞬く。

「まさか……」

その可能性を肯定するように マリアからの報告が上がった。

「目標は確認できません!」

「いかん! 罠だ!」

間髪入れずに叫んだ瞬間…… ネェルアークエンジェルの転進方向に熱源反応が浮かぶ。

「前方に熱源! 戦艦クラス 3! IFF…アガメムノン級です!!」

サイが悲鳴に近い声で叫ぶ。

ネェルアークエンジェルの前 方の宙域から浮かび上がるように姿を見せる3隻のアガメムノン級……レーダーから完全に消えるステルスによる隠密性……敵にはそれが可能な技術がある。

「おい、あの艦はもしかし て…っ!?」

冷静なバルトフェルドもやや 上擦った声を荒げる。そう……あのアガメムノン級は間違いなく………それを裏付けるかのごとく敵艦の前方の発進口が開き、そこから無数の熱源が飛び出す。

「敵艦よりMA多数!」

ミリアリアの報告とともにメ インモニターに拡大されたメビウス…いや、全員の眼は、そのメビウスが抱えるものに向けられていた。

「核…っ、ピースメイカー 隊……っ!?」

歯噛みし、マリューが拳を震 わせる……迂闊だった。ディカスティスによって強奪された戦力のなかでも最も注意すべきもの……何百という核ミサイルを搭載したアガメムノン級のピースメ イカー隊……ここにきて、セラフィムとパワーの不可解な行動にも合点がいった。

連中はこの空域へと追い込ん でいたのだ……核ミサイルを備えたアガメムノン級が待機するこの場所に………そして…その核が向けられるのは……自分達……

「MS隊は!?」

「ダメです! 間に合いませ ん!!」

MS隊も敵のMSと交戦で母 艦から離されてしまった……ただでさえ主戦力がほぼ突入し、残存部隊での不利は必至なのだ。

「ゴッドフリート、セイレー ンで迎撃! 同時に後退!!」

こうなったら、可能な限り撃 ち落とすしかない……もし一発でも着弾すれば、戦艦など木っ端微塵に吹き飛ぶ。

「スラスター逆噴射! 全 開!! CIWS! いいかっ! 一発も通すなっ!」

バルトフェルドの怒号にエ ターナルの対空砲がセットされ、主砲が火を噴き、ネェルアークエンジェルもゴッドフリートとセイレーンで応戦する。

ビームの奔流が真っ直ぐ向 かってくるメビウスを撃ち落とし、保持していた核ミサイルが炸裂し、周囲は眩い閃光に包まれるも、メビウスは広域に展開し、狭めるように向かってくる。さ らに小型性を駆使し、戦艦の砲火を掻い潜ってくる。

いくら旧兵器のMAとはい え、戦艦相手には小型機の優位性は覆せない……回り込むメビウスが一斉に核ミサイルを四方から発射する。

勢いよく放たれる何十発とい う核ミサイルにマリューとバルトフェルドは必死に迎撃させる。対空砲が放たれ、弾幕を張るも全てを撃ち落とすのは不可能……加えて至近距離での爆発と閃光 で弾幕が緩む。そして、その隙を衝いて抜けてきた数発が迫る。

マリューとバルトフェルド… いや………クルー達の眼が見開かれ、恐怖に歪む。

核ミサイル接近に気づいたミ ゲルらMS隊も息を呑む。

ここからでは間に合わな い……歯噛みする彼らの眼には、閃光に消えていく母艦の姿が脳裏を走る。

その時、レーダーが急接近す る反応を捉えた……

 

 

デブリ帯の戦闘宙域に向かっ て突き進む2つの白き流星……その中心部には赤と青のMS……青のMSのコックピットで青年が冷静に戦況を分析し、隣の機体に転送する。

「目標を捉えた……タイミン グを誤るな」

「へへっ、解かってるぜ!  8! 照準を任せたぜっ!」

【了解!】

青年の言葉に笑みを浮かべて 応じるもう一つの赤のMSのコックピットでパイロットスーツを纏っていない青年が隣に置いた端末ボードに呟き、ボードが応じる。

操縦桿を引き、ペダルを踏み 込むと同時にMSが駆る白き小型艇のエンジンが唸りを上げ、さらに加速する。

赤と青のMS…パワードレッ ドとブルーセカンドL……そして、その2体のアストレイを駆るロウ=ギュールと叢雲劾……彼らは今、白き小型艇:ミーティアを駆り、戦場へと舞い踊る。

目標はネェルアークエンジェ ルとエターナルに迫る核ミサイル……劾はともかくロウにはそこまでの精密射撃はできない。だが、彼にはサポートコンピューターの8がいる。これがロウの照 準の手助けを行い、彼らのモニターに照準がいくつもセットされる。

そして……2体のアストレイ の駆るミーティアから閃光が迸った。

矢のように解き放たれたビー ムとミサイルが核ミサイルに降り掛かり、それらを掠めて閃光に葬る。爆発が周囲に誘爆し、2隻の周囲は眩いばかりの閃光に包まれ、クルー達は視界を覆う。

白き超新星の爆発と見紛うほ どの閃光が収まり……微かに霞む眼で状況を確認する。自分達は生きている……両艦のクルーにそれを自覚させたのは、艦を追い越すように飛びすぎていく2つ の白き小型艇を確認した時だった。

「アレは…ミーティ ア……?」

呆然とした表情で呟くキョウ に、クルー達もそれを見やる。

ミーティアは今、フリーダム とジャスティスが使用し、突入しているはずだ…何故ここに……それと同時に通信の受信音が響く。

「つ、通信です!」

上擦った声でマリアが通信を 繋げると、2分割されたモニターに彼らにとってよく知る者が映し出された。

「ロウ! それに劾も!」

《ようっ、久しぶりだな!》

弾んだ声を上げるキョウにロ ウは手を上げて陽気に応じ、劾は無言のままで応えた。

「ああ、なかなかいいタイミ ングできてくれた。かなりの危機一髪だったがな……助かったぞ」

バルトフェルドもやや安堵し た面持ちで応じる。

《へへ、いいってことよ…ど んぴしゃのタイミングだったしな》

ロウの言葉通り…後少しロウ と劾のタイミングがすれていたら、間違いなく核ミサイルの誘爆で艦自体にも大きな被害を受けていただろう。

「それよりロウ…君ら二人が 使っているそれは……?」

疑問はまだあった……肝心の ロウと劾が使用しているミーティアは何処で手に入れたのか……それに対し、ロウが答えようと応じる。

《ああ、こいつは…》

《ロウ、敵戦艦を叩く、援護 しろ》

《おっと…わりいわりい…… んじゃ、通信切るぜ。詳しい話は後でな!》

タイミングよく通信に割り込 んだ劾が嗜め、ロウも気を取り直す。そして、通信を切る。

呆気に取られる彼らを前に ミーティアを駆るパワードレッドとブルーセカンドLは真っ直ぐにアガメムノン級に向かって加速していく。

「こ、後方より新たな艦影… 識別グリーン……コスモシャークです!」

モニターには、後方から合流 してくる艦の姿……海賊のシンボルたる髑髏を船体に描いた海賊艦:コスモシャーク、そしてリ・ホーム……

「コスモシャークより通信」

モニターに浮かび上がる元 ユーラシア女性士官、メリオル。

《なんとか間に合いました か…御無事でなによりです》

「ああ、助かったよお嬢さ ん」

軽口で応じるバルトフェルド にアイシャがやや厳しい視線を浮かべるも、それに気づきもせず、話は続く。

《いえ……我々は、ライラッ ク女史の要請を受けて、この戦闘への協力を具申します》

それは願ってもないこと…… たたでさえ戦力的には不利なのだ…マリューはやや表情を和らげるも、毅然と答える。

「協力、感謝します」

《では……我々が敵艦を牽制 します。そちらはタイミングを合わせてください》

挨拶もそこそこに通信が切 れ……コスモシャークが動き出す。リ・ホームは戦闘用ではないので後退していく……そして、予期せぬ援軍に勇気付けられたマリューは意志のこもった口調で 指示を出す。

「コスモシャークの攻撃と同 時に敵艦に対し、砲火を集中させる! ウォンバット装填!」

「了解! 艦尾ミサイル、 ウォンバット装填! 同時にゴッドフリート照準!」

マリューの指示を復唱し、 ネェルアークエンジェルはパワーに対し、狙いをつける。

流れは……こちらに傾いた。

 

 

コスモシャークが前に加速 し、リ・ホームはその場より下がる。

「リ・ホーム、戦闘宙域より 後退…これより、彼らの支援に回ります」

戦闘艦ではないリ・ホームで は戦いの場においては邪魔にしかならい……彼らは後方からの支援、そして負傷者の救助に当たる。

周囲には被弾し、救助もまま ならないまま漂うMSも多く浮遊しているのだ。

念のためにラミネート装甲が マウントされた両舷ブレードを展開し、船外アームで漂うM1のボディを回収しながら、先で起こる爆発に樹里は僅かに怯む。

「う……凄く怖い………」

かなり距離を空けているはず が、前線での激しさがここまで伝わってくるほど絶え間なく爆発が確認できる。

「ジョージ、レーダーにちゃ んと気を配っておいてね」

樹里とは正反対に動揺してい ない冷静な口調で呟き、煙草を噴かすプロフェッサー……彼女の考えはいつも現実的だ。自分達がこの場では足手纏いなのも承知しているし、飛び火がこちらに こないとも限らない。

もし敵に攻撃されたら、ロウ もいない今、この艦はほぼ無防備なのだ。

だからこそ、細心の注意を払 わなければならない…そして、隣に立つキャプテン・ジョージは軽薄な態度で応じる。

「任せたまえ、監視はバッチ リしておこう」

笑みを浮かべて応じ…ジョー ジは前方の戦闘を見やった………彼は知らない……この戦いの中心にいる者達が……自分がかつて持ち帰ったものの遺伝子を継ぐことを………

ジョージ=グレンであった頃 に持ち帰った…エヴィデンスの遺伝子を………無論、このことを責めてもこの男に非はないだろう……だが…ジョージもまた眼を離せないなにかを感じ取ってい るのは確かだった………だからこそ…眼を逸らさず……戦闘を見詰めるのであった…………

 

 

 

その頃……正面でディカス ティス艦隊と激突する統合艦隊もまた徐々にだが推していた。それもひとえに正面で道を切り拓くドミニオンとケルビムの2隻であろう……特装を前面に押し出 した大火力で活路を切り拓き、僚艦がそれに続く。

既に統合艦隊もまた艦隊の約 4割近い損耗をしいられている……MS隊の損耗も大きい……だが、彼らに退くことはできない。

リンカーンのゴッドフリート が放たれ、回り込んできた駆逐艦を撃ち抜き、轟沈させる。

レーザー突撃銃を乱射し、 MSを牽制しながら微速で前進するも、アンダーソンはごうを煮やす。

「ケルビムとドミニオンに通 達! ローエングリン発射準備! 正面の敵を薙ぎ払え! その後、周辺艦隊は突入させろ!」

時間が推している…既に作戦 開始から6時間が経過している……あまりに激しい戦闘のために時間の経過が知覚しにくい。もう残り時間は半分しかない…これ以上時間を掛けるわけにはいか ない。

再度この膠着状況を打破する ために、ドミニオンとケルビムに頼るしかない。

2隻のAA級のローエングリ ンで正面の敵を薙ぎ払い、それに乗じて艦隊を突撃させる一点突破しかない。

無謀だなと内心に苦々しく独 りごちる。

「付近のMS隊に通達! ケ ルビムとドミニオンを全力で死守せよ! 第7と第11独立機動軍に突入艦隊の援護をさせろ!!」

アンダーソンの怒号がブリッ ジに鳴り響き、それを各部署へと通達していく。

激しい砲火が幾条も轟く最前 線では、ドミニオンとケルビムを筆頭に数隻の艦隊が支えている。艦隊は砲火を敵艦に集中させ、その周囲では母艦を死守するためにMS隊が必至の防衛戦を張 る。

ドミニオンの上方で護りに入 るゲイツ群…ヴェステンフルス隊はチームの連携を推して一機一機確実に仕留める。

ゲイツがビームライフルで牽 制し、ストライクダガーのシールドを破壊する。そこに飛び込み、ビームクローでボディを両断する。

「おい、前に出すぎだっ!」

部下の行動に思わずハイネが 叫ぶ…ただでさえ敵の能力は高く、迂闊に前に出ればそれだけで危険だ。そして…それを現実にするかのようにそのゲイツに向かい、集中砲火が轟く。

ビームの弾丸を機体全体に受 け、ゲイツが粉々に撃ち砕かれる。

「ああ…っ!」

爆発する友軍機にセラフが悲 痛な声を上げ、ハイネが歯噛みする。

友軍機の撃破に怒りにかられ てゲイツが先程攻撃を加えたバスターダガーに襲い掛かるも、この状況で怒りに突き動かされてはそれだけで致命的だ。

反射的にハイネとセラフも機 体を加速させた。

ゲイツ2機がビームライフル で狙うも、バスターダガーは両肩のミサイルを発射し、ゲイツを逆に追い込む。

ライフルが破壊され、そこへ ストライクダガーがビームサーベルを振り上げて襲い掛かる。咄嗟に斬撃をかわすも、左腕を斬り飛ばされ…もう一機はそれに動揺し、下方から加速してきたバ ルファスのビームクローに脚部を斬り飛ばされた。

パイロット達が死を覚悟した 瞬間……後方から掠めるように銃弾が過ぎり、トドメを刺そうと振り上げたストライクダガーの右腕を破壊する。

「おおおっっ!」

そこへ気迫とともに割り込ん できたゲイツ2型Pがビームクローで弾き飛ばし、ボディを斬りつけられたストライクダガーは弾かれ、その残骸を蹴り飛ばすと同時にポルクスUとビームライ フルを一斉射し、バルファスと激突した2機を貫き、破壊する。

その爆発にバスターダガーが 怯んだ瞬間、ハイネが叫ぶ。

「セラフ!」

刹那…バスターダガーに回り 込むように急加速で向かうゲイツハイマニューバ……バスターダガーがバルカンで牽制するも、それに怯みもせず…機甲銃にマウントされた重斬刀を振り上げ、 ボディを両断した。

同時に離脱し…一拍置いた 後……バスターダガーが爆発する。

それを見届けると、被弾した 僚機に声を掛ける。

「おい、大丈夫か!?」

《な、なんとか無事で す……》

苦しそうな声にどこか異常で も起こったのかと思い、機体状態も加えてセラフは呟く。

「その状態じゃもう戦闘は無 理ね……そこの連合艦に着艦した方がいいわ」

《いえ、まだいけますっ》

この状況で退くことはできな いのだろう…だが、それを嗜めるようにハイネが言い聞かせる。

「馬鹿野郎、そんな状態じゃ なんにもならないだろうが…これは命令だ!」

《《りょ、了解……》》

普段は温厚な隊長の剣幕に推 され、部下は渋々従う……ざっくばらんな性格のハイネだが、部下を想う心は誰よりも篤い…それを理解しているからこそ怒るのだ。セラフは表情を和らげ、す ぐさま近くにいるドミニオンに連絡を入れる。

「こちら、ザフト軍所属ヴェ ステンフルス隊…応答願います」

《こちら、AA級2番艦、ド ミニオンです…どうしました?》

通信を繋いだ相手がまだ少女 だということにやや驚くも、すぐに用件を話す。

「友軍機が被弾、現在近くに ある友軍艦が貴艦であるため、申し訳ありませんがそちらに収容させてもらえますか?」

《…解かりました。ビーコン を送ってください…すぐに収容作業を格納庫に通達させます。ハッチ開放させます》

赤い髪の少女はきびきびと真 剣な面持ちで実行し、セラフはどこか好感を持った。ドミニオンのカタパルトが開放され、受け入れのビーコンを発している。

「よっしっ…お前ら、後は俺 らに任せろ」

《解かりました…隊長、お気 をつけて》

《御武運を》

敬礼し、2機のゲイツはドミ ニオンに収容されていく……飛び込んだハッチからネットに絡められ、消化作業が開始され、そしてハッチが閉じられる。

「よっし…いくぞ、セラフ」

「うん」

既にヴェステンフルス隊のメ ンバーもほとんどが撃破か後退した…実質残っているのは自分とセラフだけ…だが、命がある限り…ここで退くわけにはいかない。

群がるように迫ってくる敵機 の大軍に向かい、2機は加速する。

ストライクキャノンダガーや ジンがマシンガンで砲撃し、ストライクダガーの放ったバズーカが掠める。

ゲイツ2型Pが全火器を一斉 射し、それらを打ち消す。そして、機動性を駆使して回り込み、死角からゲイツハイマニューバが攻撃し、被弾させるも敵機は怯まず突進してくる。

「え…きゃぁぁっ!」

突撃され、弾かれるゲイツハ イマニューバの直前で被弾のダメージにより爆発するジンの爆風を直で受け、吹き飛ばされる。

「セラフ!? ぐっ!」

救援に向かおうとするが、立 ち塞がるようにビームサーベルを振り被ってきたストライクダガーをビームクローで受け止める。

吹き飛ばされるゲイツハイマ ニューバに照準を合わせるデュエルダガー……トリガーに手をかけようとした瞬間……別方向より飛来した二条のビームに機体を撃ち抜かれ、爆発する。

それにハイネが眼を剥くより 早く…赤い影が眼前を過ぎる。

「うおおおっっ!」

甲高い気合とともに振り下ろ された刃がストライクダガーを真っ二つに斬り裂き、破壊する。眼を見開くハイネの前には赤いMS:ソードカラミティが佇んでいた。

「大丈夫か、そこのあんちゃ ん?」

気遣うように聞こえてきた陽 気な声と肩に描かれたそのエンブレムにハイネが息を呑む。

「切り裂きエド…」

連合でも名高いエースパイ ロットの思い掛けない援護に呆気に取られていたが…すぐにセラフの状況を思い出し、そちらに眼を向けると……

「大丈夫だよ、あんたの仲間 は…」

「危機一髪だったね」

2体のデュエルダガーに掴ま れ…近寄ってくるゲイツハイマニューバ。

ジェーンとユリアの駆るデュ エルダガーが先程の援護射撃を行い、吹き飛ばされていたゲイツハイマニューバの慣性を止め、合流してきた。

「あ…ありがとうございまし た」

「なあに、いいってことよ」

恐縮するセラフにエドは軽快 に応じる……なにか、抱いていた切り裂きエドのイメージと随分違っており、呆然となっている。

「ちょっとエド、私達の役目 はドミニオンとケルビムの援護でしょ…ここで呑気にしている暇はないのよ」

女性に対し気取るエドにどこ かカチンときたのか、ジェーンが睨むように嗜める。

「ああ、悪い悪い」

「ちょっといいか?」

「ん、何だ?」

悪びれなく答えるエドに先程 の会話で引っ掛かったことにハイネが問い返す。

「俺達には詳細が回ってきて ないんだが…現在の状況はどうなっているんだ?」

ずっと前線にいたために、周 囲の状況がどうなっているかはっきりと伝わらず、確認を取ろうにもかなり情報も錯綜している。寄せ集めの艦隊である以上、仕方がないが……その疑問に対 し、ユリアが答える。

「統合第13部隊に第5部隊 も壊滅……今、このケルビムとドミニオンの第8機動軍がなんとか前線を支えてる……それと、さっき艦隊司令から第8機動軍の援護に周辺のMSは集結、その 後突入部隊による中央突破をするらしいよ」

なんともいえない状況にハイ ネとセラフは表情を険しくする。楽にいくわけではないと思っていたが、まさかそこまでの損耗を既に受けているとは……

「だけど、時間がもうあまり ない……」

「ああ、一か八かだな」

確かにもう戦闘が開始されて から6時間が経過している……これ以上遅れれば、破砕作業に回れない。

逡巡する彼らの耳にアラート が響いてきた……エドが咄嗟に叫ぶ。

「散れっ!」

瞬時に反射的に分散すると、 ビームが幾条も過ぎる。

固まっていたために敵機を引 き寄せたらしい…シグーにジンアサルト、ストライクダガーにメビウスが一斉に襲い掛かってくる。

「うひょーまた大勢きたね〜 人気者は辛いってね!」

「なに馬鹿言ってるの! そ このあんた達! ボケッとしてないで援護してね!」

おどけるエドを嗜め、ユリア がハイネとセラフにそう叫び、ソードカラミティとデュエルダガーが加速する。

「強引な奴……」

「まあまあ…」

呆れるハイネを宥め、ゲイツ 2型Pとゲイツハイマニューバが援護射撃を行い、メビウスを貫き、破壊する。そして、敵機を牽制し…体勢の崩れた隙を衝き、ソードカラミティがシュベルト ゲーベルを振り被る。

「おりゃぁぁぁっ!」

勢いよく振り下ろされた刃に ボディをクロスに斬り飛ばされ、爆発するシグー……デュエルダガーがリニアガンで狙撃するも、ジンアサルトもマシンガンで応戦する。ミサイルを発射する も、装甲で護られたジンアサルトはそれに怯みもせず発砲してくる。

「ええいっ!」

舌打ちするジェーン…その 時、後方から過ぎった銃弾がジンアサルトの頭部を吹き飛ばす。それによって行動不能になるジンアサルト…バッと振り向くと、ゲイツハイマニューバが機甲銃 を構えていた。

「あの距離で…やるねっ!」

ユリアは笑みを浮かべ、スト ライクダガーをビームサーベルで斬りつけるも、相手もシールドで防ぎ、弾き飛ばす…大きく空いたボディにバルカンが撃ち込まれ、振動に僅かに動きが鈍 る……そして、ビームサーベルを突き刺すように構える…だが、次の瞬間…ストライクダガーは下方より突進してきたゲイツ2型Pのビームクローにボディを貫 かれ、爆発する。

「サンキュ、色男さん」

軽く笑みを浮かべると、ハイ ネも肩を竦めて応じる。

「そこのあんたら、なかなか の腕だ…今は少しでも戦力がほしい、俺達と一緒にきてくれっ!」

それだけ言い放つと、ソード カラミティは身を翻し…次の敵機に向かっていく。それに続くデュエルダガー……有無を言わせぬその言葉にハイネとセラフは顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。

「ナチュラルと共同をはる… まったく、人生ってのは解からないもんだぜ」

「いいじゃない…先が解から ないから、人生ってのは楽しいんだよ!」

軽口を叩きながら分散し、攻 撃してきたストライクダガーを集中砲火で破壊する。

そして、エド達の援護に向か うために加速する。

そう……先のことなど誰にも 解からない……だが、今必要なのは……戦友であった………

彼らの援護を受け、ドミニオ ンとケルビムの2隻は敵艦隊正面の射程にまで到達し、ローエングリンの発射態勢に入る。

そして、正面で敵部隊と交戦 していたMS達がタイミングを見計らって一斉に後退する。

「「目標、正面敵艦隊!  ローエングリン、撃てぇぇぇぇ!!」」

ハルバートンとナタルの声が 重なり……砲口に集束していたエネルギーが臨界を超え、陽電子の波が解き放たれる。

真っ直ぐに伸びる光条が前方 に展開していた艦隊を薙ぎ払い、爆発と閃光が轟く。ポッカリ空いた空間に向かい、突撃隊が加速する。

ナスカ級8隻、護衛艦13 隻、駆逐艦21隻の統合艦隊の約3割にも匹敵する戦力でOEAFOの主力部隊だ。

高速性をいかし、加速する艦 隊は主砲を絶え間なく放ち、周囲に展開している浮き足立つ残存艦を轟沈させていく。

ストライクやデュエル、M1 を筆頭としたMS部隊もこれに続く……そして、ジンやシグー隊が奮戦し、敵MS隊を撃破しながら突き進む。

そのなかで並んで加速するゲ イツとデュエルダガー……奇妙な共同戦線を張ることになったヴェノムとデスティの2人の駆る機体だ。

ゲイツがビームライフルで敵 機を狙い、態勢を崩した隙を衝き、デュエルダガーが加速し、懐に飛び込んでシールドでジンのボディを弾き、空いたボディにリニアガンを至近距離で放ち、破 壊する。だが、デスティはすぐさま迫ってくるストライクダガーに歯噛みする…ビームサーベルを両手に構え、我武者羅に振り払ってくる。

無秩序な軌道に読み切れず、 防戦になる…そこへ割り込む刃……アンカー付きのビーム刃がストライクダガーの頭部とボディに突き刺さり、動きが止まる。

離脱するデスティの前で爆発 し、アンカーが引き戻され、収納するゲイツ…ヴェノムはやや汗を垂らして息を吐いた。

「ギリギリだったな、旦那」

「助かった」

軽く意志を交わし合うと同時 に前線を見やると、統合艦隊のMS隊がなんとか勢いにのって押している。

「なんとかなるか……」

加速して勢いづく友軍にやや 安心する。だが、そんなヴェノムをデスティは嗜める。

「いや、まだ油断するな…… 敵は何を使ってくるか……っ!?」

刹那、前方宙域で派手な爆発 が起こり……眼を見開く彼らの前で、突然ナスカ級2隻に駆逐艦3隻、護衛艦1隻が爆発したのだ。

その光景にハルバートンやナ タルは愚か、アンダーソンに周辺宙域にいた友軍は息を呑む。

突然友軍艦が爆発した…い や、爆発ではない……次の瞬間……赤い影が現われる。

「目標をスクリーンに拡大し ろ!」

メインモニターにズームで表 示させる機影を凝視し…ハルバートンが眼を細める。

「アレは…ミーティ ア……?」

その閃光をバックに佇む小型 艇規模の機影をモニターに拡大させ…その形状を確認したハルバートンが呆然と呟いた。

閃光のなかから出現したの は、エターナルに装備されていたMS用の強化モジュール:ミーティア……だが、カラーリングが違う。

エターナルのミーティアは白 だったが…眼前に現われたミーティアのカラーは血のような真紅……そして、その中心に座しているMSは……ファントムペインの機体:イージスコマン ド………

そのコックピットでは、取り 込まれたスティング=オークレーとアウル=ニーダの姿があった……眼が血走り、獣ような笑みを浮かべ、操縦桿を引く。

真紅のミーティアを自らの手 足とし、アウルのイージスコマンドは大型ビームサーベルを展開し、護衛艦に加速する。護衛艦は対空砲を放つも、それをものともせず突進し、直前で振り上げ る。

「アハハハ! 死ね よぉぉぉっ!!」

狂ったように笑い、振り下ろ された巨大な刃が護衛艦のブリッジを斬り裂き、そのまま船体を斬り飛ばし、護衛艦が轟沈する。

振り向きざまに一閃し、横薙 ぎに駆逐艦の船体が真っ二つに斬り裂かれ、またもや爆発が彩られる。

化物と錯覚し、M1やストラ イクダガー、ジンが攻撃を行なうも…スティングのミーティアが立ち塞がり、搭載されているミサイルやビーム砲を一斉射する。雨霰と襲い掛かるその攻撃を回 避できず、成す術もなく迂闊に近づいた機体が破壊されていく。

「ひゃははっ! 最高だぜ、 こりゃあ!」

脳裏を駆け抜ける快感……そ して高揚感………もはや意志などなく……圧倒的な力に酔うスティングとアウル……そして……眼の前に立ち塞がる敵の反応が自分達にとって最高の快楽を齎す ものと錯覚し、躊躇いも戸惑いもなく…ただただその力を振ることへの悦びに突き動かされ、2体のミーティアが全砲門を開放する。

「っ!? いかん! 後 退……っ!」

その光景にミーティアの破壊 力を知るハルバートンが突入艦隊に向かって叫ぶも……既に遅く……2機のミーティアから激しい火線が走った。

圧倒的な火力が一斉に解き放 たれ、突入のために加速していた艦隊や周囲に展開していたMSに襲い掛かり、それらを破壊していく。

MSは吹き飛ばされ、戦艦は 船体を撃ち抜かれ、機関部が爆発して轟沈していく……火線が駆け抜けた後…そこには無数の残骸と真紅の鎌を得て愉悦する二人の哀れな人形が佇んでい た………

彼らが使うのは、ミーティア 3号機と4号機……エターナルに搭載された1号機と2号機のボディに核エンジンを内蔵させたロウと劾が使用した5号機と6号機のテスト機……ヴェルヌ 35Aの雛形ともなり、プラント内部で製造され、作業途中で置いておかれたのをテルスが密かに持ち出していた。

そして……それは今、恐るべ き脅威となって統合艦隊の前に立ち塞がった。

 

 


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