デュエルパラディンとスペリ
オルの2体がエンジェルを破壊しながら、突き進んでいた。
「ええいっ!」
機動性を駆使し、敵機を翻弄
するスペリオル……多彩な火力を使い、エンジェルの動きを牽制し、破壊する。
フォーメーションを崩された
エンジェルにデュエルパラディンが斬り掛かる。
「どりゃぁぁぁぁっ!」
大型ビームサーベルを振り上
げ、エンジェルを斬り裂く。破壊と同時に肩のシールドを掲げ、ビームを受け止めるとともに加速し、左手にガントレットを装着し、エンジェルに向けて叩き込
む。
頭部を殴打され、歪む……態
勢を崩すエンジェルを突き飛ばし、エンジェルをスペリオルが撃ち抜き、破壊する。
イザークとリーラの絶妙なコ
ンビネーションでエンジェルを一機一機的確に倒しながら、ひたすら真っ直ぐに目標を目指していた。
二人の向かう先には、彼らに
とって因縁の相手…テルスの駆る巨大大型MS:ウリエル…そして、相手もまたそれを待ち侘びるかのように悠然と佇んでいる。
舐めているのか…と、まった
く動かないウリエルにイザークとリーラは構うことなく加速し、先制を仕掛けようとする。
射程に捉えた瞬間、デュエル
パラディンとスペリオルはウリエルに向けて、トリガーを引いた。フォルティスUとビームライフル、ブレイクビームキャノンとビームドライバーが発射され、
ウリエルに襲い掛かる。
真っ直ぐに突き刺さるかと思
われたが、ウリエルはその巨体からは想像もできない反応で左腕の大型盾:シグマを振り上げ…シールド表面に光波シールドが形成され、エネルギーフィールド
が襲い掛かるビームを受け止める。
僅かに押されるも、完全に
ビームが拡散され…イザークとリーラは歯噛みする。
「ククク……なかなか面白い
ぜ、イザーク=ジュール…そして、リフェーラ=シリウス」
挑発すように笑みを噛み殺す
テルスにイザークが叫び返す。
「テルス! 貴様…貴様だけ
は赦さん! 俺の手で引導を渡してやるっ!」
「いいねぇ…その吼えっぷ
り!」
立ち塞がるように佇むウリエ
ルは通常のMSの倍以上の巨体を誇っている……そして、その巨体が醸し出す威圧感にイザークとリーラは僅かに気圧される。
「さあて……お望みどおり、
相手をしてやるぜ……まずは、お手並み拝見!」
刹那、ウリエルの頭部の機関
砲:デスベートが火を噴く。だが、その巨体故に機関砲でもレールガンクラスの威力がある。まともに受ければ、間違いなくそれだけでダメージになる。
「「くっ!」」
何十発という光弾をかわし、
距離を取るデュエルパラディンとスペリオル……だが、距離を取ったスペリオルは背後から衝撃を受け、振動にリーラは悲鳴を上げる。
「きゃぁぁっ!」
「リーラ! がぁぁっ!」
別の敵かとスペリオルに振り
向いた瞬間、デュエルパラディンもまた衝撃を受ける。
煙を上げるAFフレームに
リーラが顔を上げると…眼の前に加速してくる白い影に反射的にビームサーベルを抜き、相手の振り下ろした刃を受け止める。
「えっ……!?」
その機影を確認した瞬間、
リーラが驚愕の声を上げる。
全身を白いカラーリングに包
んではいたがその機体形状は、フリーダムのそれだった……だが、彼女がより驚いたのはその頭部…純白に染まる頭部……ツインアイがあるはずのその場所に
あったのは……鈍く赤に光るモノアイ………
「なっ…くぅ!」
茫然となっていたが、横から
向かってくるビームに気づき、ブリューナクを展開し、ビームを受け止める。そして…その敵機を確認した瞬間、リーラの眼がますます驚愕に見開かれる。
そこにいたのは、ビームライ
フルを構える純白のモノアイフリーダム……唖然となるリーラと同じくイザークもまた困惑のなかにいた。
「なんなんだ、こいつ
ら…っ!」
自身に襲い掛かってくる3つ
の機影……全身を純白に染めた機体:フリーダムと同型のボディを持つ機体は頭部のモノアイを不気味に動かしながら、ビームライフルで攻撃してくる。
両肩のシールドで防ぎながら
応戦する……だが、ビームを悠々とかわし、プラズマビーム砲を起動し、砲撃してくる。その火線に晒され、デュエルパラディンは装甲を僅かに抉られながら、
後退する。
「イザーク!…きゃぁっ!」
それに気を取られ、一瞬の隙
をつくり、弾き飛ばされるスペリオル……衝撃に耐えながら、姿勢を戻し、静止する。
「リーラ、無事か!?」
「うん…だけど……これっ
て……」
2機の周囲を取り囲むように
布陣する純白のフリーダム……キラのフリーダムとの相違点は、カラーリングの違いと頭部がツインアイではなくモノアイだということ。
そして……それらのモノアイ
フリーダムをまるで従えるように眼前に姿を見せるウリエル。
「クハハハ! どうだ…気に
入ってくれたかな? ザフトの最高技術で造られたMDは?」
嘲笑を浮かべるテルスにイ
ザークとリーラは眉を寄せる。それを見透かしたようにテルスは笑みを噛み殺しながら慇懃な物言いで呟く。
「こいつは、ザフトで試作さ
れていたMMとDシステムの集大成……」
ザフトで開発に成功したMM
とドラグーンシステム……人工知能による迎撃機は優秀なものの、柔軟性に欠け、また常に変化する戦場に対応するためにMMを統括するパイロットの脳波で操
り、起動させるという試みが行なわれた。折しもザフト内部で攻撃機動ポッドを遠隔操作するドラグーンシステムの実用化に成功し、その目処が立ったのだ。ド
ラグーンシステムをMMのボディ内に搭載し、空間認識能力に優れたパイロットにそれらを一斉に操作させ、戦場をたった一機で変える究極の機体という目的で
MD(モビル・ドラグーン)として製作され、ザフトの威信と最終兵器の一環としてプラント内部で量産を行なっていたフリーダムのボディに埋め込むも、肝心
のこのMDに搭載されたシステムをコントロールできる人間がザフトにはいなかった。
あのクルーゼでさえ、MDの
制御は敵わず、リンは残念ながらシステムの適正を試す前にザフトより離反したために、MDシステムは戦局の変化とともに凍結された。だが、葬られたこれら
をテルスは密かに持ち出し、自らの駒としていた。
完成途上であったフリーダム
の頭部にモノアイを施し……自らの駒とするために………
テルスの言葉に二人は息を呑
み、そして表情を強張らせる。ドラグーンシステムを応用した完全な無人人型兵器……しかも、搭載されているのはフリーダムという厄介なもの……しかも、そ
れが全部で7機………絶体絶命とはこういう状況を指すのであろうか……だが、二人にはそんな軽口を叩く余裕さえなかった……そして、その様子に満足したよ
うにテルスは顎をしゃくる。
「気に入ってもらえて結構…
まずは、俺の道具と遊んでくれ……そして…お前達が果たして俺が相手をするに相応しいかをな…証明してみせろ……いけ、MDども!」
高らかに見下すように言い放
ち…刹那…モノアイフリーダムが一斉に弾かれるように飛び立つ。
一斉に襲い掛かる死神の使
徒……デュエルパラディンとスペリオルは身構え…決死の覚悟で飛び込んでいく。だが、彼らは無人機ごときに敗れるわけにはいかない…眼前の倒さねばならな
い相手を倒すまで……その決意を胸に、イザークとリーラは咆哮を上げ、モノアイフリーダムに激突した。
別宙域で激しい火線が飛び交
うなかを鋭く機動し、砲火を交わす4機のMS……フリーダムとゲイルが…ルシファーとヴァニシングが激しい応酬を続けていた。
「くそっ!」
ミーティアのビーム砲でゲイ
ルを狙いながら、キラは内心に焦りを抱いていた。混戦でラクスのマーズを見失ってしまった。ラクスの援護に回りたいが、それを阻むようにゲイルが立ち塞
がってくる。
フリーダムのビームを同じウ
イングを拡げてかわし、両腕のビーム砲で狙撃してくる。
キラは操縦桿を引き、ミー
ティアの機体を持ち上げてかわし、距離を取ってビーム砲で撃ち返すも、相手も同じ武装で撃ち返してくる。
両者の中央でぶつかるエネル
ギーが激しくスパークし、キラは僅かに怯む。
閃光に視界を覆われ……次の
瞬間、閃光のなかから飛び出す竜………牙を突きたて、フリーダムを弾き飛ばす。
「うわぁぁっ!」
ミーティアの装甲が微かに砕
け、態勢を崩すフリーダムを嘲笑うようにファーブニルを引き戻し、ウォルフは笑い上げる。
「どうしたぁ? お姫様のこ
とが気に掛かるかい? 王子様!」
挑発し、胸部のハッチを開放
する。
3つの砲口にエネルギーが集
束し、火球が生成され、地獄の炎が解き放たれる。
吹き飛ばされていたフリーダ
ムはなんとか姿勢を戻すも、接近するその火球に気づき…キラは反射的に機体を捻る。
だが、ミーティアの巨体全て
をかわすことは叶わず、右腕アームと右側面のランチャーが、掠める火球によって融解させられる。
キラは歯噛みし、右舷ラン
チャーと右腕アームをパージする。身を翻してエンジンを噴かし、ゲイルに加速する……右手にビームライフルを構え、放ちながらゲイルの中にいるパイロット
に僅かに動揺する。
「貴方が、僕の父のクローン
だとしても…っ! 僕は……っ!」
クローンとはいえ、眼の前に
立ち塞がるのは自分の父……自分をこの世に誕生させた者の影………それがキラに黒い感情を渦巻かせるも、ウォルフは愉しげに笑う。
「父親は撃てないかぁ? そ
んなことはないよなぁ……お前が憎い父だからなぁ!」
キラの黒い感情をさらに掘り
出すように叫び、ビームサーベルを抜いて斬り掛かる。
振り回すビームの刃に押さ
れ、回避に手一杯になるキラ……鋭い斬撃を小刻みに操縦桿を動かして回避し続ける。
「どうしたどうした!? そ
んな事では俺は倒せないぜ!」
コックピットに響く声……そ
れがキラの葛藤をさらに拡げていく。
葛藤は焦りを呼び、隙をつく
る……その隙を衝き、ゲイルはフリーダムの懐に飛び込み…キラが息を呑んだ瞬間、ファーブニルがボディに当てられ…勢いよく放たれる。
衝撃がコックピットを直撃
し、苦悶を上げて吹き飛ばされる。
「その程度か、スーパーコー
ディネイター…弱い…弱すぎるぞ! そんなんじゃ、俺の相手は務まらないぜ!」
嘲りながら、距離を詰める…
態勢を戻したフリーダムは左腕ビームサーベルを抜き、振り下ろすも、ゲイルの姿が消える。
キラが眼を見開き…ハッと気
づいた瞬間、上を取ったゲイルが蹴りを鋭く頭部に叩き込んだ。装甲が僅かに欠け、吹き飛ばされる。
「くはは! どうしたどうし
た!? 最高のコーディネイターさんよぉ…興ざめだな……貴様をさっさと片付けて………奴にでも相手をしてもらうか………俺の愛しいBAにな」
ポツリと漏らした言葉に、キ
ラがピクンと反応する。
レイナを狙う……それが、キ
ラにとっての黒い感情を遂に爆発させる。
「させない…させるもん
かぁぁぁっ!」
刹那……フリーダムの眼が輝
き、スラスターが火を噴き、一気にゲイルとの距離を詰める。
「まだ遊んでくれるか? あ
の女がいいか? それとも他の奴から始末してやろうか…選ばせてやるよ……貴様の後を追ってもらいたい奴をな!」
「ぐっ! 黙
れぇぇぇっ!!」
渦巻く黒い感情が爆発し……
キラは我武者羅にビームサーベルを振り回す。
先程よりも速いその斬撃に、
ゲイルも紙一重でかわす…だが、ウォルフは愉しげに笑う。
「いいねぇ、この感触! そ
れでこそ俺の息子だ!」
その言葉がさらにキラの感情
を逆撫でる。
「違う! 僕は…違う!!」
こんな……人の死に…殺すこ
とに悦ぶ男が父などではない……そう自身に言い聞かせるように被りを振り、攻撃を繰り出す。
「憎め…もっと憎め! そし
て怒り狂え!!」
高らかに笑い上げるウォルフ
に……キラは怒りに突き動かされ、ただただ激情の赴くままに攻撃を続けた。
そして……程近い宙域では、
ルシファーとヴァニシングが激しい砲火を交えていた。
ルシファーのビームキャノン
が火を噴くも、ヴァニシングはプラネットを展開し、攻撃を防ぐ。
歯噛みするカムイに向かい、
ヴァニシングはビームガトリングガンを放ってきた。
「ぐっ!」
シールドで防ぎながら、距離
を取る……ヴァニシングはそれを追うように加速し、ショットクローを放つ。クローがシールドに着撃し、衝撃で弾かれる。
「うわぁぁっ!」
苦悶を漏らすも、追い討ちを
かけるようにビームアクスを振り被ってくるヴァニシングにビームサーベルを振り抜き、受け止める。
エネルギーをスパークさせな
がら、カムイは片眼を閉じ、葛藤を浮かべながら叫んだ。
「アディン! 僕の声が聞こ
えているんだろ! 話を聞いてくれっ!」
この距離なら接触回線が使え
る…先のヤキン・ドゥーエ戦では自分の言葉に僅かに反応し、最後は自分を助けてくれた…なら、まだ望みはあるはずだ。
だが、ヴァニシングは無言の
まま……鍔迫り合いとなるビームサーベルを上へと弾き飛ばし、ルシファーを蹴り上げる。
呻き…振動に身体が打ちつけ
られる………吹き飛ばされるルシファーにミサイルポッドを開放し、発射する。
何十発と迫るミサイルに震え
る手で操縦桿を引き、胸部マシンキャノンで狙撃し、ミサイルを撃ち落としていく。
爆発が満ちるなか、カムイは
ルシファーの態勢を起ち戻す。
「アディン!」
再度呼び掛けるも、先程と変
わらず無言のまま……そこにきてカムイは眉を顰めた。
おかしい…と……先程からい
くらなんでも様子がおかしすぎる……回線は開いているはずだ……なのに、アディンは無言のまま…なんのリアクションも返ってこない……なにか様子がおかし
いと訝しむカムイに向かってヴァニシングはロングライフルで狙撃してくる。
正確な砲撃に晒され、カムイ
は必死に操縦桿を動かす。紙一重でかわすも、攻撃が機体を掠め、装甲が融解する。
翻弄されるルシファーにヴァ
ニシングが急加速で距離を詰め、眼前に迫った瞬間、アシッドシザースが伸び、機体に打ち込まれる。
弾き飛ばされ、鋭いGが身体
を圧迫する……それに追い討ちをかけるようにミサイルを発射し、周囲に炸裂する。
その爆発がルシファーを容赦
なく襲い、そこへ撃ち込まれるガトリング砲……息をつかせぬ連続攻撃にカムイは歯噛みし、息を呑む。
(速い! それに正確な攻撃
と力……まるで……っ)
思わず言葉を呑み込む……あ
まりに正確な狙いと重い攻撃………そして異様な機動力に向こう見ずな攻撃………まるで…戦闘機械………そこまで思考が至った瞬間、カムイは冷たい予感に襲
われる。
逡巡するカムイに…ヴァニシ
ングの容赦ない攻撃が続く。
躊躇いも戸惑いも困惑もな
く…ただ敵と定められたモノを破壊するために………
それぞれの戦いが激化するな
か、インフィニティとエヴォリューションもまたエンジェルとの戦いを繰り広げながら、前へと突き進んでいた。
立ち塞がるエンジェルにフェ
ンリルを放つも、エンジェルはそれをかわす。
「ぐっ!」
歯噛みし、接近戦を仕掛けて
くるエンジェルに対し、ウェンディスを展開する。
瞬時に伸びる光の翼がエン
ジェルの機体を切り裂き、破壊する……そして、フォーメーションの崩れた隙を衝き、エヴォリューションがインフェルノを抜いてボディを斬り裂き、振り被っ
てレールガンで狙撃し、吹き飛ばす。
追い討ちをかけるようにヴィ
サリオンを放つも、エンジェルは身を翻し、光波シールドで受け止める。
「くっ!」
思わず歯噛みする……エン
ジェルの行動は戦闘を重ねるごとに少しずつこちらの反応に追いついてきている。
このままでは時間が掛かりす
ぎる……その時、アラートが二人のコックピットに響いた。
ハッと顔を上げると……イン
フィニティの前方に現われる純白のボディを誇る天使:ミカエル………
「決着をつけましょう…姉さ
ん達」
ほくそ笑み……身構えるレイ
ナに向かってミカエルが加速し、インフィニティもバーニアを噴かしてそれに向かっていく。
互いに間合いを取り合いなが
ら、インフィニティはヴェスヴァーを連射する。エネルギー波をミカエルは小刻みに機体を動かし、回避する。そして、キャリバーで応戦する。
インフィニティも機体を捻り
ながらそれをかわし、周囲で起こる爆発から飛び出すように迫り、バルカンで狙撃する。
装甲の薄いミカエルではバル
カンでも喰らい続ければ、ダメージを負う…それに、わざわざ喰らうつもりもルンにはない。
ミカエルはバルカンをよけな
がら、アシュタロスを抜き、右手の錫杖とともに構え、インフィニティに肉縛する。
「くっ!」
懐に飛び込んで錫杖とアシュ
タロスで攻撃してくるミカエルにレイナは歯噛みする。今のインフィニティの形態では接近戦に特化した機体相手では分が悪い。
装備が枷となって大きく回避
行動が取れないのだ…だからこそ、ミカエルもそれを逃さず追い詰めるように離れない。
「重装備は、MS戦では不利
ということを教えてやるわっ!」
嘲笑を浮かべながら、渾身の
一撃のごとく振り被った錫杖に、回避しきれず、フェイタルセイヴァーの砲身が叩き折られた。
「ちぃぃっ!」
宙を舞う砲身を確認するまで
もなく、舌打ちしてバックパックのフェイタルセイヴァーをパージする。
パージしたパーツからすぐさ
ま離脱すると同時に小規模な爆発が起こる。距離を取るインフィニティに爆発のなかから飛び出すミカエル。
「これでっ!」
トドメとばかりに錫杖を振り
下ろそうとするも…インフィニティはその一撃をかわす。
眼を見開くルン…だが、パー
ツをパージしたおかげで重量が僅かに軽くなった……そのために、先程よりも反応が速くなった。
一撃をかわし、下方へと回り
込んだインフィニティはデザイアを突っ込んできたミカエルに突きつけるように叩きつけ、ウェンディスを展開させた。
自身の突進の加速も加わり、
カウンターで喰らった衝撃にミカエルが弾き飛ばされる。
「くそっ!」
歯噛みし、態勢を立て直す
も…インフィニティはミカエルを一瞥し、その場から離脱していく。
「逃げる気っ!?」
その行動に憤怒し、後を追お
うとしたが…進行方向に撃ち込まれたビームが過ぎり、動きを止める。
「あんたの相手は私だ……」
その声とともに立ち塞がるよ
うに現われるエヴォリューション……ルンは忌々しげに舌打ちする。
「私の相手は自分だけで充分
だと……ルイ姉さん?」
自尊心を大きく傷つけられ
た……自分は、レイナと戦う資格はないと……だが、それに対しリンは微かに口元を緩めた。
「どうかな…少なくとも、私
に勝てない以上は姉さんにも勝てない……」
「ならっまずは貴様から始末
するっ! ユニコーン!!」
さらに怒りを煽られ……それ
に突き動かされてルンはサポートメカを呼び寄せる。宇宙を駆け抜けるように現われる漆黒の騎馬に跨り、ビームの手綱を取り、騎馬メカの頭部に鋭いビームの
角が展開される。
そして、手綱を動かし、右手
のアシュタロスを振り翳して向かってくる…エヴォリューションもミーティアZEROを感応波で操作し、加速させる。
右手にインフェルノを構え、
リンとルンは互いに吼えながら激突する。
高速で飛翔し、刃を交え合
う……エネルギーが交錯し合い、火花が散る。
距離を取ると同時にミーティ
アZEROのビーム砲が放たれる。だが、ユニコーンはまるで翼でもその身に生やしているように軽やかに駆け、かわす。
しかし…砲火を交わしている
のはミーティアZEROとユニコーンのみ……その上に主の姿はない……その頭上から激しい激突音が響き渡る。
振り下ろされる錫杖をシール
ドで受け止める……互いに距離を取ったと同時に跳び、上方でぶつかり合うエヴォリューションとミカエル。
「ぐっっ!」
「ぐぅぅ!」
互いに歯噛みしながら鍔迫り
合いし……刹那、互いに弾き飛ばす。
錫杖を両手で構え、突進する
ミカエルにエヴォリューションもまたインフェルノを抜いて斬り掛かる。
振り下ろす刃を、ミカエルは
左手の掌に施されたビームフィールドを発生させ、掌をビームで覆い、インフェルノを受け止める。
舌打ちするリンに向かって錫
杖を振り上げ、交錯する。
エヴォリューションは接近戦
をさらに密着した間合いで仕掛ける…錫杖はその得物のリーチ上、どうしても懐では対処が遅い。
だが、ミカエルは接近戦にお
いての格闘戦に特化した武器があるために迂闊に距離を詰めるのもできない…左手の動きに気を配りながら、インフェルノで掌を弾き、距離を取ってバルカンで
狙撃する。
装甲を掠める銃弾に、ルンは
舌打ちする。
「このミカエルを…いや……
私の力を見縊るな!」
吼え、ミカエルは弾き飛ばす
ようにエヴォリューションから距離を取り、錫杖を大きく振る。刹那、錫杖の杖に幾条もの線が走り、錫杖が幾つもの棍サイズに分解する。
「っ!?」
眼を見開くリンの前で、ミカ
エルの錫杖がワイヤーで繋がった連接棍が蛇のようなしなやかさで動き、襲い掛かる。
その軌道があまりに不規則で
あり、また蛇のように動く…先端を捉えられず、弾き飛ばされる。
「がぁぁっ!」
苦悶を漏らし弾かれるエヴォ
リューションは回転するように態勢を立て戻し、ミーティアZEROの上に飛び乗る。
「この私の……私自身の力!
特と味わえ!」
高らかに叫び、連接錫棍が襲
い掛かる……それに翻弄されながら、必死に回避行動を取る。
蛇の牙に錯覚するかのごとき
動きを読み…インフェルノで弾き返す。
熾烈を極める激突……互いの
全てをかけ………リンとルンの二人はぶつかり合う………
激化する最前線と同じく、激
しい砲火が咲き乱れるなか……セラフィム、パワーの2隻と砲火を交わしていたネェルアークエンジェルとエターナルの危機を救ったロウと劾……2体のアスト
レイは今、伏兵として忍んでいたピースメイカー隊にぶつかり、2隻の援護にコスモシャークが回っていた。
ネェルアークエンジェルの前
に出るコスモシャークの主砲が火を噴き、セラフィムを掠め、牽制する。
《ラミアス艦長、バルトフェ
ルド艦長…敵艦の一隻は我々が抑えます。まずは、そちらの一隻をお願いします》
一隻ずつ撃沈させていくのが
艦隊戦のセオリーだ……メリオルの言葉に即座に応じる。
「ええ、解かったわ」
「頼んだぞ」
強く頷き返すと、コスモ
シャークはビームを放ちながらミサイルを発射し、加速する。
セラフィムも迫るビームをか
わしながら、ミサイルをヘルダートとイーゲルシュテルンで撃ち落とす。
そのために、位置を変えなけ
ればならず、パワーから離される。そして、それを拡げるためにコスモシャークはその間に割り込み、さらに追い討ちをかけるように側面からランチャーを発射
する。
離されたセラフィムに孤立す
るパワーにネェルアークエンジェルとエターナルが一気に攻め込む。
エターナルの主砲が火を噴
き、パワーの側面を掠め、バリアントの砲身を蒸発させるも…パワーもまた4門のゴッドフリートを同時に斉射する。
4門に2門の計8つのビーム
の光条が迫り、バルトフェルドは回避を急がせるも、それだけの火線をかわすのは不可能であり、直撃はなんとかかわしたが、左側面とブリッジ下部側面を掠
め、装甲が蒸発し、対空砲の数基が破壊される。
衝撃に呻くバルトフェルドら
に蛇行するエターナル。
「バルトフェルド艦長!」
マリューが叫ぶも、間髪入れ
ずに叫んだキョウにハッと引き戻される。
「回避!」
パワーのもう片方のバリアン
トが発射され、ネェルアークエンジェルの左舷ブレードの装甲に直撃し、爆発が起こる。
「第2装甲版まで貫通! 左
舷陽電子ライン、回線不通! 左舷ローエングリン使用不可能!」
「出力88%にまで低下!」
「第21から24区画隔壁閉
鎖!」
今の一撃でアークエンジェル
に被さっていたポセイドンの装甲が破壊された…もし強化していなければ、間違いなく左舷ブレードは吹き飛んでいただろう。だが、最大兵装のローエングリン
が一門使用が不可能にされたのは、状況的に厳しい。
「舵を戻せ! ウォンバット
装填! 撃てぇぇぇぇ!!」
爆発で態勢を崩していたネェ
ルアークエンジェルの位置を戻し、艦尾より放たれるミサイルがパワーに襲い掛かるも、パワーはイーゲルシュテルンを駆使して撃ち落とす。
そして、両舷ブレードと本体
の接続部位のハッチが開放され、細かなガス粒子が散布されていく。それを捉えたマリアが叫ぶ。
「敵艦よりコロイド粒子の散
布を確認! ミラージュコロイド、展開します!」
「何!? マズイ…っ!」
この状況で姿を隠されたらよ
り不利になる……闇雲に攻撃すればいいというわけでもないのだ。
その時、パワーの側面に向
かって放たれる光条がパワーの艦本体を撃ち抜き、コロイド粒子を散布していたハッチを貫通したビームにより、パワーに爆発が起こる。
思い掛けない事態にハッと振
り向くと……被弾したエターナルの主砲が向けられていた。
「バルトフェルド艦長、ご無
事で!?」
「あんまり無事じゃないが
ね…決めは任せる!」
苦笑でそう言い放ち、マ
リューはキッとパワーを睨む。そして、朦々と煙を上げ、もはやいつ爆発轟沈してもおかしくないパワーが突如エンジンを噴かし、ネェルアークエンジェルに向
かってくる。
「敵艦! 加速! 本艦への
衝突コースを取っています!」
「特攻する気か!?」
眼を見開き、息を呑む。既に
撃沈間際の状態なうえ、この位置からでは下手にエンジンを爆発させればネェルアークエンジェル自体もタダではすまない。
「艦長! 回避を!」
どの道、あの状態なら放って
おいても沈むだろう……だが、マリューは一瞬逡巡した後、顔を上げた。
「回避はしません! 敵艦の
正面に出ます! ノイマン少尉、モラシムさん! 敵艦の上を取ります!」
その言葉にクルー達は一瞬眼
を瞬くも…やがて、その意志を察して頷き返す。
「了解しました!」
「おうよ! そうこなくちゃ
なっ!」
マリューの意図を察したノイ
マンが強く頷き、モラシムも望むところといわんばかりに小気味よく笑う。
「キョウ君、バリアントの照
準任せるわ」
「…了解!」
キョウも苦笑混じりに頷き、
マリューは微笑を浮かべ…クルー達を信頼して前を見据える。
「ネェルアークエンジェル!
発進!!」
エンジンを噴かし、加速する
ネェルアークエンジェル……急接近する2隻…そして、パワーより正面に向けて放たれるミサイル……ネェルアークエンジェルもまたイーゲルシュテルンでミサ
イルを撃ち落とし、2隻の前方でいくつもの爆発が咲き乱れる。
その爆発を裂くように衝突
コースを取るが……ノイマンとモラシムはギリギリのタイミングでスラスターを噴射させた。
「エネルギー供給を左舷スラ
スターに伝達! 推力全開!!」
「おおおおっっ!!」
気迫とともに二人が操縦桿を
大きく切り、ネェルアークエンジェルは大きく回転していく。
その光景にパワーのブリッジ
で狂った人形と化していたイアンが唾液を零しながら戸惑う。
直前でバレルロールし、衝突
コースを外したネェルアークエンジェルはパワーのほぼ頭上を取り、影がパワーの艦を覆う。
今だとマリューは叫んだ。
「バリアント! 撃
てぇぇぇっ!!」
下方に向けて傾いたバリアン
トが発射され、光弾がパワーの両舷スラスターに着弾した。
ゴッドフリート4門が吹き飛
び、両舷ブレードが損壊する。爆発とともに火柱が艦より立ち昇り……ネェルアークエンジェルが距離を取った瞬間、パワーはその船体を爆発に包み込んでい
く。
やがて…爆発がブリッジにま
で到達し、ブリッジが巨大な炎に包まれ…イアン達クルーを炎が呑み込んだ。
刹那…激しい閃光を発しなが
ら、パワーは爆発した………能天使の名を冠する艦は、宇宙に散った…………
――――C.E.71.10.2 18:20……
――――AA級4番艦:パ
ワー轟沈………
激しい閃光が遠くに満ちるな
か……程離れた宙域でも……決着がつきつつあった……
戦場のなかで折り重なるよう
に静止する機影……バリーのM1Aとワイズのストライククラッシャー……渾身の一撃を互いにぶつけ合った……
その結果は……ストライクク
ラッシャーの繰り出したドリルがM1Aの左肩を抉り…M1Aの突き出したビーム刃が…コックピットを掠めるように貫通していた………
一拍後……M1Aの左肩が爆
発し、その衝撃でコックピットにも火花が微かに走り、バリーは歯噛みしながら右手のウィップを離し、後退する。
左肩の接続部から微かに火花
が散るM1A…バリーは無言でストライククラッシャーを見詰める……そして、バリーはモニターを拡大し…亀裂によって僅かに露出したコックピットの内部に
息を呑んだ。
コックピットの半分は貫通し
たビーム刃によって融解し…コックピットに座るワイズは…身体が半分無くなっていた……ビームによって身体を焼かれたのだ……
血を大量に吐血し……もはや
焦点の合わない眼で残った右腕をバリーの方へと伸ばし…凝視するバリーの前で……右手を握り締め、親指を立てる……その光景に息を呑むバリーの前で……ス
トライククラッシャーは爆散した………
目前で照りつける閃光に…バ
リーは眼を閉じ……コックピット内で右拳を左手の掌に当て、黙祷した……最期の最期で……ワイズは自分を取り戻し…逝った………そして…その散りざまに哀
悼の意を述べるように……バリーはその場で漂いながら暫し瞑目した……
そして……彼女ら3人もま
た………
「うっ…う〜ん………」
やや虚ろな意識のなか……ア
サギは眼を開け…今の状況を確認する。
「あれ、私……つっ」
刹那、身体に鈍い痛みが走
る……パイロットスーツを着ているためにはっきりとは解からないが、痣でもできたかのように錯覚するほどの痛みを感じる。
どうやら、身体を随分強か打
ちつけたらしい……そこまできて、アサギはようやく意識を失う前の状況を思い出す。
確か、あのストライククラッ
シャー2機に向かって3機でフォーメーションを組んで突撃し、最前で盾となっていた自分はシールドの破壊と機体を撃ち抜かれ、吹き飛ばされたのだ。
自機の状態を確認すると、右
腕に左脚部、さらには頭部まで損失しており、これでよく助かったと思うほどのダメージだが…それよりも今はマユラとジュリの方が気に掛かった。
自分が気を失う前、二人は無
事に突破し、相手に攻撃を仕掛けたはずだ……焦燥感にかられながら、必死にカメラを操作する。
「もうっ早く繋がりなさいよ
ねっ」
頭部が欠損し、モニターをサ
ブ回線に繋げて表示する手間に思わず愚痴る。
そして、ようやく非常モニ
ターに接続し……画面が映し出され………そこに映っていた映像に息を呑んだ。
ビームサーベルを振り被るカ
ミュのストライククラッシャーによって左腕を斬り飛ばされているマユラのM1A……だが、マユラの突き刺したロングビームサーベルは、ストライククラッ
シャーのコックピットを貫いていた……そして、ジュリのM1Aは敵機と交錯した瞬間、離れ……頭部が損壊していた……だが、クルツのストライククラッ
シャーにはボディに2本のビームサーベルが突き刺さっていた………まるで、時が止まったかのように一瞬言葉を呑み込むも、やがてアサギが叫ぶ。
「マユラ! ジュリ!!」
上擦った声で呼び掛ける
と……聞き慣れた声がノイズ混じりに返ってきた。
「聞こえてる…よ……なんと
か、生きてるみたい………」
「うん……ほんと…なんと
か…って感じだけど……」
どこか苦い…そして疲れたよ
うな口調で聞こえてくるマユラとジュリの声にアサギはホッと安堵の息を漏らす。
マユラはロングビームサーベ
ルのリーチ分、相手との間合いが取れ…カミュの攻撃は咄嗟にコックピットを庇うように引き上げた左腕を斬り飛ばされるも、そのおかげで威力が半減し、コッ
クピットへの攻撃を避けられた。ジュリは相手の機体が砲撃重視の分、宇宙空間での機動性を向上させていたM1Aの軽量分だけ、素早く相手に接近できた。だ
が、相手も流石に一筋縄ではいかなく、バズーカの弾頭によって頭部が吹き飛ばされ…至近距離で放ったシュラークによって両肩の上部の装甲は半ば蒸発してし
まっている。
だが、二人の決死の一撃は、
それらのダメージとともに彼女達に勝利を齎した……距離を取るマユラとジュリのM1A……2機のストライククラッシャーはボディ付近から火花が散り、
ショートした瞬間……爆発に包まれた………その光景を、合流した3機のコックピットで見送る。
「終わった…んだよね……」
「うん……あいつらとも、な
んだかんだで長い付き合いだったけど……」
「ちょっと哀れだった
ね……」
オーブ戦で初陣を切った戦い
から執拗に何度も砲火を交えた相手……どんな奴が乗っているかは解からなかったが…それでも、最期はこんな形になって少しばかり同情を憶えないわけではな
いが……
「それより、二人とも…悪い
んだけど、スサノオかクサナギに戻ってくれない…私の機体、全然もう動かないのよ」
沈みかけた気持ちを払拭する
ようにアサギがそう呟くと、マユラとジュリもそれにのるように応じる。
「そうね、私達の機体も結構
損傷大きいし……」
「アサギほどじゃないけ
ど……」
アサギのM1Aが一番ダメー
ジが大きいだろう…なにせ、ほぼ四肢が欠けているために、既にスクラップ同然だ。
グウの音も出ないアサギの機
体を両隣に抱え……宿敵との戦いを終えた彼女達は静かにその場を去った。
――――C.E.71.10.2 18:42……
―――――傭兵部隊:トラ
イ・スレイヤー所属・カミュ=ノルスタン戦死………
―――――傭兵部隊:トラ
イ・スレイヤー所属・ワイズマン=メネス戦死………
―――――傭兵部隊:トラ
イ・スレイヤー所属・クルツ=シュナイダー戦死………