白き鳳凰と真紅の竜がぞれぞ れの軌跡を描きながら幾度となく激突し、火花を散らす。

ミーティアを駆るフリーダム とゲイル……ゲイルは小回りをいかし、ファーブニルのビーム砲を放つ。機動性ならフリーダムも劣らないが、ミーティアの巨体分、やはり動きがどうしても遅 れる。

ビーム砲が左舷ランチャーに 着弾し、爆発する。

「うぅっ!!」

振動に歯噛みしながらも、キ ラは残ったミサイルを一斉に発射する。弧を描くミサイルが追尾するようにゲイルを狙うも、乱雑な軌跡を描きながら回避するゲイル……迫るミサイルに向けて 胸部ハッチを開放し、クオスを放ってミサイルを撃ち落とす。

「ひゃははっ! どうし たぁ! そんなんじゃ俺は殺せないぞ!」

振り向きざまにビーム砲を放 ち、キラもフリーダムのビーム砲を展開して砲撃し、ビームが激突し、火花を散らす。

その閃光に怯むも……閃光の なかから飛び出す竜の牙がミーティアのエンジンに噛みつき、強引に噛み千切る。抉り取られた部分が爆発し、フリーダムは態勢を崩す。

「なっちゃいないな…なっ ちゃいなさすぎるぜ! それでよく今まで生き残ってこれたもんだなぁ! スーパーコーディネイター!」

嘲る言葉にキラが眼を吊り上 げ、睨むようにゲイルを見る。

「くっそぉぉっ!」

激情にかられ、残ったエンジ ンを加速させてゲイルに突進する。左腕のビームサーベルを展開し、斬り掛かるもゲイルは身を曲芸師のごとく軽やかにかわす。

左腕アームの上に立ち、眼を 見張るキラに向かって肩のベルフェゴールを展開する。ワイヤーのようなものが発射され、左腕アームに巻き付き、ゲイルはそれを力任せに引き寄せる。

「そおぉぉらぁぁっ!」

強引に引き寄せ…左腕アーム の接続部から捥ぎ取られる。またもや爆発が襲い、キラは苦悶を浮かべる。

「その程度なのか……未来へ の展望を託され…与えるものを全て与えられた……誰もが欲する力をもち…多くの愚者が欲する最高のコーディネイター……キラ=ヒビキ!」

叫び上げながら一気に距離を 詰め、ビームサーベルを抜いて残ったエンジンを斬りつける……もはや戦闘能力を失ったミーティア…キラは間髪入れずにパージし、離脱する。次の瞬間……エ ンジンが爆発し、ミーティアは砕け散った。

「っ…はぁ、はぁ……くっ」

呼吸を乱しながら、キラは歯 噛みしつつ操縦桿を握り締める。スラスターを噴かし、構えるフリーダムにウォルフは笑みを浮かべる。

「そうだ……かかってこい… 貴様の全てを俺に見せてみろ………」

フリーダムが加速し、ゲイル もその後を追う……ミーティアを失ったが、その分機動性を取り戻し、小回りがきくようになった。

ビームライフルを構え、トリ ガーを引く……放たれるビームはゲイルの頭部を狙うが、それを赦すほどウォルフは甘くない。ビームを僅かに傾けてかわし、反対にファーブニルを放ち、フ リーダムを掠める。

「ぐっ!」

ビームサーベルを抜き、フ リーダムはゲイルに斬り掛かる……ゲイルもビームサーベルを抜き、振り下ろされた刃を受け止める。

両機の間にエネルギーがス パークする。

「貴方の言うとおり……僕 は、スーパーコーディネイターなのかもしれない……けどっ、それだけが僕の全てじゃないっ!」

自らの苦悩を断ち切るように 叫び、強引にビームサーベルを振り払い、ゲイルを弾く。

距離を開けるゲイルはバルカ ンで狙撃するも、それを受け止めながら怯むことなくフリーダムは向かっていく。

互いに機動性を駆使しながら ビーム刃を交わし、エネルギーをスパークさせる。

「貴方だって…何故そうまで して戦うんですっ!? どうして……っ!」

ウォルフもまた自分と同じ く……造られた存在……父のクローンだとしても、それは覆せぬ事実……なのに何故……どうして戦うのか………

「フッ……なら言おう! 戦 うことこそが俺の存在意義…そして、俺の生きる目的…貴様の言葉を借りれば、唯一無二の俺が俺だという証よ!!」

その言葉に意表を衝かれ、反 応が遅れて斬りつけられ、ボディに傷跡が走る。

「うわぁぁっ!」

衝撃に呻きながら弾き飛ばさ れるフリーダム……その姿に嘲笑う。

「今度は俺から問おう…貴様 がスーパーコーディネイターでありながら貴様であるというように…俺はこうして生きるのが俺自身の全てだ……それを間違っているといえるか、小僧? 所 詮、自分とそれ以外は違うんだからなぁっ!」

その言葉にキラは言い返せな い……自分が自分であるという証……それは人によって違う……もし、ここでキラがウォルフを否定すれば…それは、キラがキラ=ヤマトであるということを否 定することと同じになってしまう。

人は一人一人違う……だから こそ、協調と対立が生まれる………

「所詮この世は白か黒……己 が正しいと信じる道を選び、対立する……そんな単純な思惑しかない世界!」

ゲイルの拳がフリーダムに叩 き込まれる。

「ぐぅっ!」

「貴様も自分の理想のために 戦っているんだろうがっ! 俺と何処が違う? 答えてみろよぉぉ息子ぉぉぉぉぉ!!」

何発もボディに拳を叩き込 み、激しい振動に機体はシェイクさせられ、キラは呻く…衝撃と……言葉に………

どんなに綺麗なお題目や理想 を掲げようとも……それが違えば対立は必然的に起こる……キラの信じるものが全てとは限らない……それが現実だ……

成すがままにされるフリーダ ムに向けて、ゲイルは頭部を大きく振り、フリーダムの頭部に頭突きを喰らわせる。

アンテナが微かに欠け、フ リーダムは大きく吹き飛ばされる。

「見解の相違よ……だが、こ の俺をこう掻き立てさせたのはこの世界よ! 恨み、妬み、憎しみ…他者を振り落としながら自らの高みへと突き進むこの世界がこの俺を…破滅を望んだの よっ!」

「っ、違うっ!!」

半ば反射的にトリガーを引 き、ビームがゲイルを掠めるも、それを掻い潜るようにかわし、レールガンを放つ。

「違うものか……なら何故世 界は争いを…混沌を望む? そして…貴様やあの女はその混沌が望んだ存在だろうがっ!」

あくなき業の結晶……世界 が……それを望んだ………キラやレイナ…忌まわしき闇に生を受けし者を………そして…その世界は決して止まらぬ連鎖を繰り返し続ける………

自らを正義と称し、己の絶対 性を疑わず……だが、その果てに待っているものは終局のみ。それが世界の望みなのか……

「くそっ!」

渦巻く黒い葛藤に押し潰され そうになり、キラは精彩を欠いていく。焦りや動揺は隙を生む……それは、敵に対して大きな隙を見せる。

ビームライフルを掻い潜り、 ゲイルはファーブニルを飛ばす……鋭く迫る竜にキラはバルカンを放ち、着弾させるもバルカン程度では牽制にもならず、黒煙を裂いて迫る竜が牙を大きく拡 げ、フリーダムを弾き飛ばす。

弾き飛ばされたフリーダムは 大きく蛇行し、デブリに激突する。

デブリに機体を大きくめり込 ませ、コックピットに身を何度も打ちつけ、苦悶を漏らすキラ……そのフリーダムの前に佇むゲイル。

「さぁて……お喋りは終わり にしよう………あの世でせいぜい己の不甲斐なさを恨むんだな………」

胸部ハッチが開放され……3 門の砲口が牙を剥く。

集束するエネルギーが膨張 し、迸るエネルギーが一つに固まり、巨大な炎の球を造り出す。

「うぅ……っ!」

その火球に気づくも…機体が 動かない………ウォルフは眼元を歪める。

「まずは……一匹………」

ニヤリと舌を舐め回し……ト リガーを引く。それに連動して膨張した火球が放たれる。真っ直ぐにフリーダムに向かい…アレを喰らえば、間違いなく機体は蒸発するだろう。

その時、フリーダムの前に一 つの影が割り込む。

割り込んだ機影はマントを翻 し、両腕のユニットを構える…刹那、デルタユニットからエメラルドに輝く光が周囲に拡がる。それと同時に炎が着弾した……刹那、巨大な爆発が起こり、周囲 のデブリを呑み込んで蒸発させていく。

全てを灼き尽くすような炎が 周囲に拡散し……飛び火が収まり……その奥から姿を見せる機影にウォルフはニヤリと笑みを浮かべる。

「そうよ……そうでなくちゃ な」

自身の愉しみと乾きはまだ潤 されていない……そして、それを満たす相手は増えた……フリーダムを庇うように佇む機体……両手にエメラルドグリーンのエネルギーシールドを輝かせ、くた びれたマントを羽織り、右眼を眼帯で覆った胸部に髑髏を持つMS:ドレッドノートH……キラにとって浅からぬ因縁を持つ相手、カナード=パルスの駆る機 体……

「カ、カナード……」

ドレッドノートHの背中に呆 然と呟くと、通信からやや不遜な物言いが返ってきた。

「フン…情けないぞ、キ ラ……貴様はこの俺を倒したんだぞ……その貴様がこんなくだらん終わり方をされてはたまらん……」

鼻を鳴らして、一瞥するカ ナードにキラは微かに表情を緩める。

そこへ拍手が響いてくる…… ハッと顔を上げると、ゲイルが器用に手を叩き、拍手していた。

「貴様……なんの真似だ?」

低い声で睨むように呟くカ ナード……まるで小馬鹿にするような拍手に癪に障った。

「いやいや……なかなか麗し い友情を見せてくれてね………独りで旅立たせるよりも、お仲間がいた方がいいだろう。俺は優しいからな………」

カナードの殺気も何処吹く風 とばかりに流し、喉を鳴らす。

「フン……余計な心配だな… それよりも……貴様の身の心配をするんだな………何故か、貴様は無性に虫がすかんのでな!」

叫ぶや否やドレッドノートH はバックパックのビーム砲を展開し、ゲイルに砲撃する。

完全に不意を衝いたと思った 一撃であったが…それを察していたようにゲイルは跳び、ビームは目標を見失い、デブリに着弾して破砕する。

「なにっ!?」

絶妙のタイミングで放った一 撃をあっさりかわされたことに驚愕するも…間髪入れず響いたアラートにカナードが反射的に顔を上げると、ゲイルが頭上からビームサーベルを振り下ろしてく る。

「ちっ!」

舌打ちし、左腕の光波シール ドを展開してビーム刃を受け止める。

防御しながら歯噛みするカ ナード……そして…なにかを察したのか…ウォルフは片方の眉を微かに吊り上げる。

「ん?……貴様は……そう か…そういうことか……ククク……こいつは傑作だな…失敗作が成功作のお守りか? ん?」

接触回線で聞こえたその言葉 に、カナードは息を呑む。

「貴様……どこでそれ をっ!?」

表情を顰め、ビームサーバー を振るうもゲイルはバックステップでそれをかわし、回避する。

「これも運命の導きってやつ かね……いや結構結構!」

けらけら笑うウォルフにカ ナードの怒りが掻き立てられていく。

「貴様……っ!」

ギリっと歯噛みするカナード にキラが回線を繋ぐ。

「カナード、彼は……あの人 は………」

眼前に立ち塞がる相手の正体 を伝える前に……カナードは怒りに突き動かされ、加速する。

両手にビームサーバーを構 え、突進するドレッドノートHに対し、ゲイルも両手にビームサーベルを構え、不適な笑みを浮かべて呼応するように加速し、2機は相手に向かっていく。

ドレッドノートHがビーム サーバーを振り上げ、ゲイルもビームサーベルを構えた瞬間、両機の繰り出した刃が交錯し、激しいエネルギーがスパークし、両機を照りつける。

「ぐぐぐぐっ!」

ゲイルのパワーに歯噛みする カナードに……ウォルフが高らかに叫んだ。

「被験体ナンバー 00153…確か、そう呼ばれていたな……」

「っ!?」

カナードの息が止まりそうに なる……さらに追い討ちをかけるような衝撃的な言葉が飛び込んでくる。

「産みの親の声を忘れたの か……被験体の失敗作っ!」

刹那、ゲイルが両爪先を蹴 り、振り上げた脚部がドレッドノートHを弾き飛ばした。

「ぐおぉぉぉっ!」

衝撃に呻きながら、ドレッド ノートHはフリーダムの傍にまで弾き飛ばされる。

「カナード!」

キラの叫びに答える余裕もな く……カナードの内には先程のウォルフの言葉が反芻していた。

フリーダムとドレッドノート Hにユラリと悪鬼のように歩み寄るゲイル……

「さぁて……きょうだい仲良 く…あの世へ送ってやろう……父の手で…貴様達の父に逢わせてやろう………」

コックピット内で、ウォルフ は醜悪な笑みを浮かべて喉の奥で笑った………

 

 

ルシファーのビームライフル がヴァニシングのプラネットによって防がれ、カムイは歯噛みする。

ヴァニシングのバックパック からミサイルが放たれ、それを回避し、追尾してくるミサイルをバルカンで撃ち落としながらカムイは思考を巡らせる。

(アディンの様子がおかし い……やはり、例のシステムか?)

逡巡する隙を衝き、ヴァニシ ングは加速してビームアクスを振り上げる……ビームサーベルを抜いて間一髪のところで受け止める。

エネルギーがスパークし、歯 噛みするもヴァニシングは至近距離でエルツァーンを放ち、ルシファーを弾き飛ばす。

「ぐぅぅっ!」

苦悶に呻きながらカムイは いっそうの確信を得る……先程からのヴァニシングの機械のような正確な攻撃と流れ……通常人が操縦する上での攻撃に転じる際の微かなタイムラグがほとんど ない。

そこから導き出される結 論……例のエンジェルに使用されているシステムが脳裏を過ぎる。

「FRS……っ!」

ギリっと奥歯を噛み締める。

人間の全神経感覚を機械と直 結し、機械とほぼ同じ反応速度に精密さを兼ね備える…だがそれは、現状ではあまりに非人道的なもの……そして…このヴァニシングの戦闘能力の高さは……… カムイの疑念を証明するように……ヴァニシングのコックピットではアディンが虚ろなまま、その口だけを動かしていた。

「ターゲット……攻撃を回 避………アタック続行……」

他のエンジェルのように溶液 こそ満たされたコックピットブロックではないが、その頭には幾つかの信管コードが取り付けられていた。いや……頭だけではない……腕にも微かに接続された コード……機械に取り込まれたような禍々しいコックピット内で…哀れな運命に翻弄される少年は敵と識別されたものだけを狙う。

ショットクローが発射され、 ビーム刃を展開しながら襲い掛かる……一直線に襲いくるそれらを紙一重でかわしながら、ルシファーは照準を合わせようとするも……それがカムイを迷わせ る。

あの内にいるかつて兄弟のよ うに育った相手……それがカムイを迷わせる。だが、そんなカムイの葛藤を感じもしないかつての兄弟だった少年は冷徹な機械のごとくルシファーを狙う。ビー ムガトリングガンを連射し、反応の遅れたルシファー……シールドを掲げるも僅かに遅く、まともに喰らい、シールドが破壊された。

「うわぁぁっ…ぐっ」

振動に歯噛みしながら態勢を 戻し、踏み堪える……息を乱しながら思考を巡らせる。

どうすればいい…と………取 れる最善の手段は…ヴァニシングを破壊すること……個人的な感情を捨てること……だが、と奥歯を噛み締める。

たとえどんなに愚かであって も……最期まで打てる手は全て打ちたい……それで無理なら…最悪……共に……その決意を固めるカムイ……ルシファーが唸りを上げ、ヴァニシングに向かう。

とにかく一度距離を詰め、今 一度呼び掛けてみる……それで反応が返ってこなければ……その希望を胸に秘め、ルシファーはヴァニシングに向けて加速する。

ガトリングガン、ロングレン ジキャノンを両手に構え、砲撃するヴァニシング……その攻撃を掻い潜り…ビームが装甲を掠め、激しい振動に包まれながらもカムイは耐え…ひたすら距離を詰 める。

そして……ルシファーがヴァ ニシングに掴み掛かり、両手で両腕を抑え込み、拘束されるヴァニシングに向けて全周波数で回線を開く。

「アディン! 今一度聞いて くれ…僕の声を……カムイ=クロフォードの声を!」

その声に反応したのか解から ない…だが、アディンに変化はない。拘束を振り解こうともがいている。それに負けじとパワーを全開にして抑え込み、再度呼び掛ける。

「自分の意志を取り戻せ!  人は…いや……誰かに操られ、生きていくのは間違っている…生き方は…自分自身で決めるものだっ! 君が君自身の意志で戦っているのなら…止めはしない… でもそうじゃないなら……自分を取り戻せ、アディン=ルーツ!」

その言葉が届いたのか……微 かにヴァニシングの動きが鈍る……アディンの表情に変化はない……だが、モニター類に微かな変調が表示される。

虚ろな眼に眼前に映るルシ ファーの頭部が映る……真紅に輝く瞳が、アディンのなかに眠るなにかを呼び寄せる。

脳裏を過ぎる映像……無表情 であったアディンの顔に微かな変化が訪れる。

「あっ……あ…が………」

微かに声を漏らし…操縦桿を 握る手が震える。

眼が見開かれ…小さく乱れる 呼吸と唾液……コードに繋がった左手を頭に添え……アディンはもがき苦しむ。

「あっがっ……がぁっ!」

禁断症状のごとく……乱れる 脳波……硬直するヴァニシングにカムイが怪訝そうに表情を顰め、再度呼び掛ける。

「アディン!」

その言葉に引かれるよう に……アディンの脳裏に凄まじい激痛が走る。

「がぁぁぁぁっ!」

まるで電気椅子に座る死刑囚 のごとく……流れる傷みから逃れようと操縦桿を乱暴に動かし、コンソールを叩きつける。

それに連動し、ヴァニシング が暴れ出す…それに息を呑んだ瞬間、ルシファーは突如として開放されたバックパックからヴァニシングの放ったミサイルの直撃を受けた。

「うわぁぁぁっ!」

密着し、またアディンの様子 に気を取られていたために回避が間に合わず…ミサイルの応酬を全身に喰らい、弾き飛ばされる。

PS装甲のおかげでダメージ は無いが…それでもかなりのエネルギー消費を負い、装甲も焼け焦げている。

黒煙を引きながら後退し、衝 撃に苦悶を浮かべながら顔を上げるカムイの前で、ヴァニシングは硬直したように身体を震わせている。その様子に不審そうに見やる。

「アディン……?」

なにか様子がおかしいと感じ た瞬間、ヴァニシングの火器が火を噴いた。真っ直ぐ伸びるビームにカムイは咄嗟に操縦桿を引いて回避するも、ヴァニシングの攻撃は自分を狙ったものではな く……周囲に所構わず攻撃し、破壊している。

まるで、暴走するよう に………

「これは……」

先程とはまったく様子が違 う……機械のような正確な攻撃が突然暴走まがいの攻撃に切り換わった…まるで、苦しみから逃れたいように………それは、アディンの身になにかが起こったと いうことに他ならない。

だが、確かめようにもこの状 況ではヴァニシングに接近することもできない……打開策を捜してコンソールを操作していると、ルシファーのセンサーがなにかを捉えた。

「っ! これは…この電波 は………」

微かにキャッチした不可解な 電波にカムイはルシファーのセンサーを最大にし、逆探知をかける。

ヴァニシングに対し、どこか らか電波が発生させられている……しかも、ヴァニシングが受信側……まさかとカムイは脳裏に思考を走らせる。

「FRSに……外部からの強 制操作………」

曲がりなりにもアディンも MCの一人……いくらFRSによる脳波コントロールがあるといっても、MCにはそういったコントロールに対する耐性は少なくとも通常よりも高い。なら、外 部からのコントロールと併せて二重による強化措置……なら、今のアディンはその内外のコントロールの板ばさみにあっている状態だ。このままでは、内外から の圧力で精神が完全に崩壊する。

どちらかのコントロールを断 ち切り、圧力を解放するしかない……内側からのコントロールシステムは手が出せない…となれば………カムイは持ち前のオペレート能力でセンサーを最大限に 発揮し、ヴァニシングの機体構造をスキャニングする。

外部コントロールを受信する 端末が機体の何処かにあるはず……コントロール電波の流れを探り……そして、遂にセンサーがそれを捉えた。

「あった……これだっ!」

ヴァニシングのボディ……左 胸部……これがどうやら端末になっているらしい……だが……

「コックピットに近すぎ る……っ」

端末が備わっているのはコッ クピットブロックのすぐ真上…しかも、目標はかなり小さい…下手をすれば、撃ち抜いた瞬間に爆発の余波がコックピットブロックを呑み込む。

針の穴を通すような正確な射 撃が要求される……自分にそれができるのかと自問する。

ビームライフルの威力を絞れ ば端末だけを撃ち抜くのは理論的に可能だ…だが、もし僅かでもずれれば…間違いなくヴァンシングは破壊される。

葛藤するが……ヴァニシング の周囲への破壊はますます激しさを増してくる。

「やるしか…ないっ」

決意を固めたカムイはビーム ライフルを構え、精度向上のために左手で砲身を支え、スコープを引き出す。

前に出したスコープのなかに 映るヴァニシングの機影……ビームライフルの威力を絞り、通常の十分の一程のエネルギー量にまで調節する。

たとえ威力は弱まろうとも貫 通力は高い……だが、そのためには目標をピンポイントで狙う必要がある……構えるルシファーに向かい、暴走するヴァニシングがその機影を眼に留め、加速し て襲い掛かってくる。

真正面から襲いくるヴァニシ ングに臆することなく……カムイは真剣な面持ちでスコープの照準が合わさるのをひたすら待つ。

「アディン……これで君が救 えるのか解からない……だが…せめて…その苦しみからは解き放つ………っ」

照準がヴァニシングの左胸部 にセットされる。刹那、トリガーが引かれた。

放たれるか細いビーム…だ が、その小さな閃光は光のごとく真っ直ぐに伸び……ヴァニシングの左胸部に向かう。

ヴァニシングは回避行動を取 らず……ビームは左胸部に突き刺さる。

内部を針のように飛ぶビーム が先にあった端末を破壊し、貫通する……次の瞬間、アディンは突如なにかが弾けるように割れ…ヴァニシングは機能を停止させる。

「やった…か……?」

恐る恐るヴァニシングに近づ く……なんとか目標を撃ち抜くことには成功したが……まだ肝心のアディンへのフィードバックがどうなっているのか解からない。

だが、機能が完全に停止して いる様子から、どうやら危険はないようだ……だが、このまま放置しておくこともできない……

「仕方ない……」

カムイはヴァニシングを連 れ、一時後退しようとするも……そこへ突き刺すような感覚が走る。

「っ! この気配……っ!」

刹那、ルシファーは見えない 何かに弾き飛ばされた………

「うわぁぁぁっ!」

浮遊するデブリに激突するル シファー……苦悶に呻くカムイの前に…虚空からユラリと影が現われる。

純白のボディを持ち、4枚の 翼を拡げる天使………ラファエル…そのなかから少女の声が響いてくる。

「所詮、失敗作でしたか…… 01……なら、貴方はもう用済みです」

無機質に言い放つ少女にカム イが歯噛みしながら呟き。

「き、君は……」

ヴァニシングを一瞥し、振り 向くラファエルの真紅の瞳がカムイを射抜く……まるで、人形のような冷たい眼を……そのコックピットでは、片眼に蒼を持つオッドアイの少女:アクイラが無 表情にルシファーを見下ろす。

「貴方の相手は私がしましょ う……04……失敗作の兄に代わって………」

冷たく発せられた言葉…だ が、その言葉に驚愕する……カムイが眼を見開く。

「な、に……?」

どういうことなのだ……アク イラが今呼んだ………アディンを兄と………そんな話はフィリアからも聞いた覚えがない。

困惑するカムイに向かって、 アクイラは表情を変えずに呟いた。

「……ノクターン博士が伝え ていませんか? まあ、仕方ないですね……私は…一度死んだ身ですから………」

「死んだ……?」

あまりに不可解な言葉に眉を 顰めるも……アクイラは暫し間をあけ…静かに言い放った。

「私は…死人………神によっ て再生された……ただの死人…………」

なんの感傷も哀しみもな く……アクイラのオッドアイがどこか切なげに揺れるだけであった……

 

 

 

 

ネェルアークエンジェルがパ ワーを撃沈した頃……出現したピースメイカー隊と戦闘を繰り広げていたパワードレッドとブルーセカンドLはミーティアを駆り、メビウス隊を撃破していた。

ミーティアの火力に押され、 ノーマルのメビウスではやはり対処手段がなく、次々に撃破されていく。

「……遅い」

照準が一斉にロックされた瞬 間、劾は冷静に呟き、トリガーを引く。ブルーセカンドLのミーティアは劾の戦法らしく、多彩な火器を応用した戦闘を繰り広げている。的確に敵機に狙いをつ け、ビーム砲とミサイルを一斉射し、メビウスを撃破していく。そして、パワードレッドのミーティアは、それらメビウスの相手を劾に任せ、突っ切るように突 破し、敵アガメムノン級母艦に迫る。

「もらったぁぁぁぁっっ!」

ミーティアの大型ビームサー ベルを展開し、大きく振り被る。元々150ガーベラなどの大型近接兵装を使うロウらしい戦法だ。ビームサーベルでアガメムノン級母艦を斬り裂き、撃沈させ る。流石にこの形態では、ミーティア側面に装着した150ガーベラは使用できない。だが、剣技に関してはロウには僅かだが憶えがある…そのために、ビーム サーベルを大仰に振り回し、周囲に展開するメビウスごと、横薙ぎで敵艦を真っ二つに斬り裂き、残り一隻に狙いをつける。

「おぉぉ りゃぁぁぁぁっ!!」

雄叫びとともに振り下ろされ た二対のビーム刃がアガメムノン級の船体を輪切りにするかのように3つに斬り裂き…一拍後、斬れ目から爆発し…戦艦が閃光に包まれる。

それを見届けると……パワー ドレッドの傍に近づくブルーセカンドL……ロウが声を掛ける。

「ようっ、そっちは終わった ようだな」

「ああ」

メビウスをほぼ一機で一掃し た劾……この宙域にいたピースメイカー隊はほぼ全滅させた。

「よっしっ…んじゃ他んとこ へ……」

二人は次の宙域に向かおうと したが……そこへ幾条もビームが走り…劾は卓越した反応もあり、それに反応できたが…ロウはそうはいかず……ビームがミーティアを掠め、エンジンブロック に左舷アームが撃ち抜かれ、爆発する。

「うおわっ!」

態勢を崩すロウとは逆に劾は ビームの軌道を読みながら、ミーティアの火器をフルバーストさせ、周辺を狙い撃つ。

今の攻撃はかなり広域からの 狙撃だった……だが、MSにしては機影が確認できなかったために、攻撃してきたと思しき空域に向けて火器を一斉射した。

その攻撃に周辺のデブリに混 じって幾つかの熱を帯びた爆発が確認できた。

「いってぇ…何なんだ、った く」

「囲まれているぞ」

「って何ぃぃぃ!?」

打ちつけた頭を押さえなが ら、ぼやくロウに劾が冷静に呟き…その内容にロウが声を張り上げる。

そして…よく確認する と………パワードレッドとブルーセカンドLの周囲には、白い機影が十数機……その形状を確認した瞬間、ロウが表情を顰めた。

「アレは…あの時の……っ」

布陣している機影は、一ヶ月 前のL4で起こった件で乱入してきた謎の機体……漏らした呟きに劾が反応する。

「知っているのか?」

「ああ…以前襲ってきた奴な んだけどよ……気をつけろよ、あのあんちゃん達が苦戦したぐらいだからな」

低い…そして、神妙な口調で 語るロウに劾はさして表情に変化はないが、警戒した面持ちを向ける。

劾は相手を侮ることも過小評 価することもない……それに、先程の攻撃にしても油断のできない相手であるのは明白だ。

対し、ロウもやや表情が苦し い……前回の戦闘では、まったく相手にならなかった……おまけに、ミーティアも半壊……どこまで戦えるか…と思案するロウ。その時、敵機の数を確認してい た劾がある一点に眼を留めた瞬間、微かに息を呑んだ。

そして……一度瞬きをし…今 一度、その機影を凝視する……眼が細められる。

「ロウ……お前から見て左の 敵を見てみろ」

「あん?」

唐突に示した劾にロウは首を 傾げるも…劾は少なくとも何の意味もないことをやらせる相手ではない…ロウは視線を向かって左に向ける。

そこには、取り囲むエンジェ ルと同じ機影が……変化はない。

「アレがどうした?」

「奴の背中をよく見てみろ」

いまいち要点が掴めず…劾の 言葉通り、そのエンジェルの背後をズームに表示すると……バックパックの形状が微かに違う。

「ん? 8、あの機体のデー タを表示しろ」

【了解】

そこまできてようやくロウも 不審を憶え…その機体の背後を8に解析表示させる。モニターに表示されたその機影の背後には…何かが覆い被さるように装着されたパーツ…そして…その形状 はデータにある。

「こいつは…まさか…」

【データ適合率98%…例ノ 機体ダ】

ロウの疑念を証明するよう に、データを検索・確認を取った8がそう応じる。

エンジェルの背後に貼り付い ているパーツは……ジェネシスαでの攻防でロウによって倒されたザフトのMS…リジェネレイド………その本体であるバックパックパーツ……

あの時…パワードレッドの レッドフレイムで彼方へと吹き飛ばしたはずの機体が、何故ここに…しかも、何故エンジェルに寄生しているのか………

「例の宙域から弾かれた後、 奴らに回収されたのか……」

劾は冷静に可能性をシミュ レートするが……そんな事は無意味だ。現実に…それが眼の前にいるのだから………

あの狂気の男:アッシュ=グ レイを乗せて……緊張感を漂わせるロウと劾は身構え…暫し、静寂が支配するも………リジェネレイドに寄生されたエンジェルが突如全身が麻痺したようにカク カクと操り人形のように動き出し……その眼が鈍く光った瞬間……エンジェルのランチャーがパワードレッドとブルーセカンドLに襲い掛かった………

 


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