ユニウスセブンの内部を突き 進んでいたレイナとインフィニティ……そこで彼女は思い掛けない人物と邂逅した。

「どうして…何故……あんた がここにいるのっ…ヴィア=ヒビキ……っ」

見上げる先にあるカプセルに 眠る人物…ヴィア=ヒビキに向かってレイナは叫んだ。

だが、彼女はなにも答えな い……ただ静かに眠るだけ………動揺していた心持ちに必死に自制をかけ、レイナはカプセルの解析を行なう。

「これは…コールドスリー プ………生きて…いる……」

解析されたデータには、カプ セル内に充満している冷気……それは、生物の生命活動を全て停止させ、一種の仮死状態に齎す………これなら、何十年、何百年だろうとその生物の命を延命さ せることのできるもの……理論自体は既に旧世紀に確立され、実用化はされていたが……だが、それがここに…そして……彼女に使用されているということ は………

『そう……彼女は生きてい る……』

唐突に頭に響いた声にハッと 反応し、振り返る。

僅かに空けて滞空する白銀の 翼とボディを持つ純白の天使……メタトロン………だが、その頭部を確認した瞬間…レイナは息を呑む。

メタトロンの右眼のカメラア イは砕けたまま……その下にある機械的なセンサーアイが奥で不気味な光を放っている……あの刻……ヤキン・ドゥーエでの戦いでレイナが破壊したまま………

一瞬唖然となるものの……そ れに向き合いながら…レイナは眉を微かに寄せ、低い声で問う。

「どういう…こと……何故… 彼女は…ヴィア=ヒビキは死んだんじゃなかったの………」

冷静な彼女らしくない掠れた 声……それ程までに衝撃が強かった………あの日……あの運命の日………あの刻の映像がレイナの脳裏に甦る………

炎が舞い上がる阿鼻叫喚の地 獄……そのなかで邂逅した自分と眼前の相手……あの刻に…ヴィア=ヒビキは死んだ……そう考え…そして……リンの言葉からそう思い込んだ………

なのに……今…自分の後ろの カプセルで眠りに就く彼女は……………

『……君らしくないな…君 は…いや……君達は見ていなかったはずだ……彼女の死を……』

どこか、侮るような慇懃な物 言いに……レイナは不快を感じる以上に息を呑む。

そうだ……確かに……自分は ヴィアと逸れ…その後は独りでメンデルから逃亡した……リンにしても最後までヴィアと一緒にいたわけではない………レイナもリンも…ヴィアの最期を確認し たわけではなかった…………

「それじゃ…本当に………」

『そうだ…あそこに眠るの は……君にとって運命の存在………ヴィア=ヒビキ………』

肯定された瞬間……レイナは 敵の眼の前だというのに……呆然と思わず振り向き…カプセルに眠る人物を見上げる………

レイナにとっては初めて逢う 相手……レイの記憶と魂を継いだ…だが、それはあくまで彼女のもの……レイナ自身はヴィアと逢うのはこれが初めて……そして…未来永劫ない邂逅だと思って いた……

「でも…なら……どういうこ となの? これはっ?」

上擦った口調で問い詰めるよ うに呟く……カインの言葉が嘘とは思えない…自分の戦意を鈍らせるかとも考えたが、カインの性情からしてそんな姑息な真似をするとは思えない……なら…何 故わざわざこんな装置を使ってまでヴィアを生かしているのか………

『……その答が知りたいな ら……俺を倒せ………』

笑みを浮かべ…メタトロンが 構える。

それにレイナも眉を顰め る……そうだと………自分がここに来たのは決着をつけるため…予想外の事態に当惑したが…自分の戦うべき相手がいる以上……変わらない………

意識を切り換えろと自身に向 かって言い聞かせる………

「……そうね」

レイナも眼を鋭く細め……そ して…それに呼応してインフィニティも身構える…………

「それより……その眼はどう いうつもり?」

低い声でメタトロンの右眼を 睨みながら呟く。あの傷は間違いなく自分がつけたもの……だが、あの時に同じように損傷させた右腕は修復してあるようだが…何故右眼だけはそのままなの か……一瞬、侮られているのかと思ったが………

『これは…戒めさ………俺自 身への…な』

皮肉とも自虐とも取れる笑 み……レイナとカインは互いに口を噤み……2機の間に静寂が満ちる………まるで…この世界に取り残されただけのような錯覚………

運命によってこの世界に生を 受けた存在…………

互いに対として生まれなが ら……互いに傷つけあう…殺しあう道を選んだ哀れな存在………

 

―――――堕天使と神天 使………

 

運命が隔てし二人の運 命…………

彼らの戦いの始まりはいつ だったのか……

 

―――――彼らが邂逅した刻 か……

―――――レイナ=クズハが 堕天使として天使に叛逆した刻か……

―――――カイン=アマデウ スが創造主をこの手にかけた刻からか……

 

 

――――いや……全てはあの 刻………人の未来への希望という闇が死者の魂を黄泉がえらせるという神の領域に脚を踏み入れた刻………渦巻く闇のなかより忌まわしき闇に祝福されし二つの 魂が生まれた刻に…既に避けられぬ運命だったのかもしれない………

 

 

愚かな人の闇が望んだ……未 来への……果てしない夢と希望という名の闇…………その闇によってこの世界に生を受けた………

生を与えた一人の男の望 み……新たなる生命の息吹を………自らの遺伝子を継ぐ者に与え……そして…さらには自らが愛する者の遺伝子さえも利用し………闇のなかから二つの新たな生 命を……それは人類の『後継者』なのか…『候補者』なのか………だが…それに至るまでの過程も原因も……全ては闇のなかへと消えた………

この世界に遺るのは……ただ その闇の産物たる哀れな魂のみ…………

この世界に生を受けた刻に… 決して逃れられぬ業を……闇を刻まれ………そして…同じ結論に至りながらも……相反する道を選んだ……孤独な魂…………

 

 

―――――ウォーダン=アマ デウスの子……カイン=アマデウス…………

―――――ヴィア=ヒビキの 子……レイナ=クズハ…………

 

 

レイナとカインの周囲に渦巻 く感覚の磁場がぶつかり……反発しあう…………

刹那……レイナとカインの眼 が見開かれ………インフィニティとメタトロンの真紅の瞳が煌く………

真紅の翼と純白の翼を拡 げ……咆哮を上げて2体の天使が加速し……ぶつかり合う………

世界が…未来という名の闇が 積み重ねてきた現実………誰も…神さえも解からぬ未来………その全ての答えは……二人の魂へと委ねられた………

今……全ての終わりと始まり 告げる最期の戦いが……火蓋を切る………

 

 

激しい閃光がスパークするな か……その戦いを見下ろすカプセル内で眠るヴィアは……微かな雫を零した…………

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-59  闇の囚人(ダー クネスプリズナー)

 

 

7つの純白の機影が飛び交う なかに舞い上がる2つの星………騎士と流星………デュエルパラディンとスペリオルは7体のモノアイを持つフリーダム相手に苦戦をしいられていた。

フリーダムは脳波コントロー ルによる無人機とはいえ……元々性能の高いフリーダムだけに一筋縄でいく相手ではない。

放たれるビームをデュエルパ ラディンは両肩の装甲で受け止め、受け流すとともにビームライフルで狙い撃つも、フリーダムは悠々とかわす。

「ちぃっ!」

イザークは舌打ちする……だ が、そんな余裕もなく斬り掛かる一機に向けて左手にビームサーベルを抜いて受け止める。

単純なパワーならデュエルパ ラディンもそうそう引けは取らない……そのまま押し切り、弾き飛ばす。同時にフォルティスUで狙い撃つも…割り込んだ一機がシールドを掲げて受け止める。

そして…その後方より2体が 全火器を解除し、フルバーストで狙い撃ってくる。いくら装甲が厚くともアレだけの熱量を受けては一溜まりもない。

回避するデュエルパラディ ン……歯噛みするイザークに向かってモノアイを不気味に輝かせながら迫る。

そのすぐ傍では……鋭い軌跡 を描きながら交錯する3つの機影………それぞれが描く機動の軌跡は白く尾を引く……純白にパープルのボディを輝かせるスペリオルを挟み込むように追う純白 のフリーダムが、高速状態のままプラズマビーム砲で砲撃してくる。

鋭い火線にリーラは息を呑 み、操縦桿を動かしてそれらを掻い潜る……流星のように…そしてまるでUFOのような乱雑な機動を描きながら回避し……リーラはAFからミサイルコンテナ を発射する。

発射されたコンテナから飛び 出す無数のミサイル……2機のフリーダムは動きを止め、全火器をフルバーストさせて迫るミサイルを撃ち落とし、周囲を閃光に包む。

「っ!」

キラのフリーダムがよく使う 方法にリーラは歯噛みする……やはり、火器を用いての砲撃戦は不利だ。

苦戦する2機を悠然と見据え るように佇むウリエル……そのコックピットでは、テルスが眼を閉じ……頭に被ったケーブルやコードで繋がったヘルメットのなかで脳裏に戦闘の状況を浮か べ……フリーダムを駆り、2機を追い詰める。

「ッククク……どうした…… その程度では、俺が相手するほどではないぞ………」

口元を歪め……侮るように鼻 を鳴らす。

状況に合わせて機体をコント ロールし、MSを操る……無人機並みの機動性と反応速度、そして高い戦闘能力を備えているフリーダムはデュエルパラディンとスペリオルを追い込んでいく。

ビームサーベルを抜き、斬り 掛かる機体にフリーダムにデュエルパラディンはビームサーベルを抜き、受け止める。

力任せに押し切ろうとするフ リーダム……イザークは歯噛みしながら左拳にガントレットを装着し、突き上げるように叩き込む。ほんの僅かな反応の速さで、致命傷にはならなかったが、ボ ディを掠める。

態勢を微かに崩すフリーダム に向けて頭部バルカンを連射し、頭部に着弾させ、火花を散らせる。続けてレーザーガトリング砲を放つも、フリーダムはシールドを掲げて受け止める。

歯噛みするイザーク…その 時、背後に衝撃が走る……後方へと回り込んでいたフリーダム2機がレールガンを放っていた。

だが、衝撃に呻きながらもイ ザークは困惑していた……何故今のはレールガンを使用したのか…ビームを放てば、まず間違いなく致命傷…下手をすれば、やられていただろう。その逡巡に思 考を巡らせる間もなく、前方のフリーダムが至近距離でビームライフルを放ってくる。

操縦桿を切り、紙一重でかわ し、機体を上昇させる……それに向かって後を追うように加速し、上昇してくるフリーダム……だが、イザークはそのGに耐えながら制動をかけた。急ブレーキ に近い制動に衝撃がイザークに重く圧し掛かるも……フリーダム3機は加速を殺せず…そのまま過ぎる。

「喰らえっ!」

上方に向けてフォルティスU を連射し……幾条も放たれる閃光が一機の脚部を掠め、破壊する。失速する一機…それに向けて加速する……だが、反転した2機が同じく加速し、ビームサーベ ルを抜いてデュエルパラディンに向かってくる。

デュエルパラディンも両手に スクリューウィップを構え……加速しながら射程に捉えた瞬間、両腕を振るった。

振り上げられたウィップがフ リーダム2機の頭部に巻きつき、デュエルパラディンはそれを強引に左右へと引いた。

頭部が加速した状態のなかで 交錯し、微かに間接部から軋む音が響く……加速した状態での砲撃戦は難しい…なればこその近接武器だが、射程はこちらの方が長い。そのままウィップを解除 し、頭部にエラーを起こしているフリーダムを置き捨て、イザークは一機に向けてそのまま加速を続行する。

フリーダムがビーム砲を展開 し、砲撃してくる……それを掻い潜りながら………イザークはデュエルパラディンの両拳にガントレットを装着し……加速したまま突撃した。

突き出した拳をボディに叩き 込まれ……突撃によって弾き飛ばされるフリーダム……態勢を立て直そうとするも、片脚部を欠損しているために動きが鈍い。その隙を衝き……イザークはレー ザーガトリング砲を斉射し、ビームライフルを構える右腕を粉々に吹き飛ばす。

間接部の砕けたフリーダムは モノアイを輝かせ、ビームサーベルを抜いて斬り掛かってくる。デュエルパラディンも両手にビームサーベルを抜き、斬り結ぶ。

振り下ろされた刃を受け止 め、そのまま捌き、懐に引き寄せてもう片方のビームサーベルを振るい、ボディを斬りつける。

刻まれる一閃……ボディ内部 機器が露出し……トドメとばかりに振り上げるも…突如アラートが響き、身を翻す。

掠めるビームが装甲を僅かに 融解させる……振り向くと…先程頭部を麻痺させたフリーダム2機が機能を修復し、再度襲い掛かってきた。後少しで一機墜とせたというのに…歯噛みするイ ザークに向かって2機のフリーダムが身を翻し、フルバーストで砲撃してくる。

舌打ちし、機体を下方向へと 滑り込ませるように回避し……デュエルパラディンも全火器をフルバーストさせた。

分散するフリーダム……そし て…先程半壊にまで追い詰めたフリーダムに振り向くが、距離を取ってビーム砲を放ってくる。

「くそっ、こいつらっ!」

一機で相手をするのは難し い……だが、肝心のパートナーもまた自分と同じようにフリーダムを相手にしており、こちらの援護に回れない。

無いもの強請りをしても仕方 ないとばかりにイザークはデュエルパラディンを突撃させた。

その一方で…2機のフリーダ ムを相手にするスペリオル………滞空するフリーダムの周囲を翻弄するように小刻みな機動を繰り返している。

元々、スペリオルはフリーダ ムの機動性を考慮して開発された機体……当然、機動性は他のXナンバーの追随を許さぬほど高い。AFという強化パーツをその身に纏い、それがさらに向上し ている。

機体とAFに備わったGG キャノンで高機動を繰り返しながら狙撃する。だが、実弾ではやはり牽制程度にしかならない。

だが、この状態では大型火器 は使えない…逡巡するリーラだったが……翻弄されてばかりであったフリーダムが突如ビームライフルで狙撃してきた。

2機から放たれるビームが機 体を掠める……まだ、大きくブレはあるものの……リーラは息を呑む。どうやら、フリーダムは少しずつスペリオルの機動性へと順応してきている。

歯噛みし、AFのミサイル ポッドを開放し、ミサイルを一斉射する。何十発と迫るミサイルが襲い掛かるも……フリーダムは火器を駆使し、ミサイルを撃ち落としていく。そのまま加速 し…スペリオルに追い縋る。

ビームを放ちながら迫るフ リーダム…だが、スペリオルはそれらを掻い潜るように機動しながら回避し、一瞬動きを止めると同時にシヴァを放つ。

ボディに着弾し、弾き飛ばさ れるフリーダム……息を切らしながら、リーラは奥歯を噛み締める。

(どうする…どうすれ ば………)

このままではいずれ追い込ま れる……だが、火器で狙おうにも一撃必殺の火器は小回りのきく相手に当てるのが至難の業だ。だが、嫌な方向へと考えそうになる頭を振り、必死に自身に言い 聞かせる。

諦めるなと……そして…爆発 から立ち戻ったフリーダムが煙から姿を見せ…ウイングスラスターを展開し……2機が螺旋を描き、交錯するように向かってくる。

スペリオルを逆に翻弄するよ うな動き……眼を見張り…その動きを必死で追うが、なかなか追いつけない。

一機が動きで釘付けにし、も う一機が狙撃してくる……放たれるビームにブリューナクを展開して受け止める。

「うぅぅぅ!」

振動に歯噛みしながら…… リーラは防御と回避に専念し、そして打開策に思考を巡らせる。

視界のなかを縦横無尽に動く フリーダムに…やがて、眼が疲れてきた………瞬くも、衝撃が機体を襲う。

眼で追っていてはダメだ…… なら……どうすればいいと……自身に向かって問う。

そして……やや逡巡した後、 機体を踏み堪えさせ……リーラはキッと顔を上げた。

「眼で追ってばかりじゃダ メ……動きを読めば………」

自身に言い聞かせるよう に……フリーダムの機動を読む……次に取る行動を予測し…そこを狙う。だが、言うほど簡単ではない……敵は無人機とはいえ、遠隔操作型……状況に応じて動 きを変化させている。

それを読み切るのは難し い……攻撃を防御、回避しながらリーラは必死に機動を読む。もうどれだけ経ったか解からないほど過ぎた瞬間……リーラはフリーダムに向けて加速した。

特攻と感じたのか……フリー ダム2機を通してテルスは嘲笑を浮かべるように鼻を鳴らし、真っ直ぐ向かってくるスペリオルに向けてフリーダム2機が火器を展開する。

それを見据えながらリーラは 鼓動が脈打つのを感じながらタイミングを読む…もし僅かでもズレれば、それで終わり……そして、フリーダムからフルバーストが放たれる。

真っ直ぐに襲い掛かるエネル ギーの奔流……刹那、リーラの眼が見開かれる。

「今っ!? 強制解除及び自 動制御!」

叩きつけるようにコンソール を操作し……スペリオルのドッキングが解除され……戦闘機形態へと変形したスペリオルと巡航形態に変形したAFが分離し、上下に分かれる。

その動きに微かに戸惑うフ リーダムに向けて……超加速で突入するスペリオルとAF…突入と同時にAFがGGキャノンとミサイルを自動制御で発射し、フリーダムを牽制する。それに続 くように背後につくスペリオルがシヴァ及びビームドライバーで砲撃し、フリーダム一機のビームライフルと右腕、もう一機の脚部と肩を吹き飛ばす。態勢の崩 れたフリーダム2機の間隙を縫うように過ぎり…間近にて今一度ドッキングシーケンスへと入る。だが、フリーダム2機はその瞬間を狙ってビームサーベルを振 り上げて迫る。

「それを…待ってたっ!」

リーラは微かに笑みを浮か べ、ドッキングを続行し……変形したAFにスペリオルが飛び込み…ドッキングした瞬間、鋭い衝撃波が周囲に拡散した。ドッキング時における各部位の気圧が 外部へと逃れるように弾け飛び、それが不用意に接近していたフリーダムに直撃し、吹き飛ばされる。

そして……スペリオルはビー ムドライバーとビームキャノンを発射する。放たれる閃光が態勢を崩していたフリーダム一機のボディを貫き…フリーダムが爆散する。

「やった……っ!?」

一機を倒したことで表情を弾 ませるも……そこへ鋭い言葉が飛ぶ。

「リーラ! 後ろ だぁぁっ!」

「え……っ?」

その言葉に振り返ろうとした 瞬間……視界に飛び込んでくる蒼白い奔流……その閃光に呆然となるリーラ…だが、飛び込んできた影に機体を弾かれ…縺れるようにして閃光の火線から逃れ る。

閃光はそのまま過ぎり……周 囲のデブリを呑み込みながら蒸発させ…虚空へと消える。

蛇行するスペリオルとそれに 縺れるように重なるデュエルパラディン……過ぎった瞬間の影響か、装甲が僅かに融解している。

そこにきて、ようやく呆然と なっていたリーラが我に返り、震える声で呼び掛ける。

「イ、イザーク! 大丈 夫!?」

「あ、ああ…なんとかな」

掠れた声ながらも…その言葉 に安堵するリーラ…そして……今の閃光が放たれた方角を見やる。

「…テルスっ」

微かに上擦った声で呟く先に は……ウリエルが悠然と佇み…肩に巨大な砲身をのせ構えていた。その砲口から微かに煙が上がっている。

「ククク…お見事お見事…… まさか、ここまでやるとは正直思っていなかったよ」

拍手でも聞こえてきそうな見 下した物言い……表情を顰めるイザークとリーラ……だが、テルスはフッと鼻を鳴らす。

「まったく……貴様も規格外 の分際で……なかなかどうして………反抗してくれるな、リスティア=ブラッド……」

慇懃な言葉と呼ばれた名に リーラがビクっと身を震わせる。

「ガルド…いえ、テル ス………貴方は、私の何なの…………何故、そこまで私を……」

ずっと感じていた疑問…… リーラはテルスと面識があったわけではない……なのに何故…テルスはここまで自分を執拗に狙い…そして……自分はこうまで気圧されるのか………

その震えるような問い掛け に……テルスは笑みを噛み殺していたが…やがて甲高い哄笑を浮かべる。

「クハハハハハ! まだ気づ いていないのか……とっくに気づいていると思っていたが…ハハハ!」

「貴様……っ!?」

嘲笑を浮かべるテルスにイ ザークが睨むも……テルスは意にも返さず、なお笑みを浮かべている。

「……薄々感じているんじゃ ないのか…お前と俺………俺達の関係をな」

「な、なにを……」

見透かすような言葉にリーラ の震えが増す……この見下すような視線と獣じみた悪寒…間違いない……あの男…義父であったジークマルと同じ感覚だ……だが、それだけではない…なに か……もっとなにか…………

だが、その先を求めることを 身体が激しく拒絶する……聞いてはならない…と………しかし、テルスはそんな悪寒を愉しむように呟く。

「俺は………ある男と女の精 子と卵子を試験官のなかで受精させ…そして処置を受けた………MCナンバー08としてな………俺に遺伝子を提供したのは……ジークマル=ブラッド…そし て………」

言わないで……とリーラが声 に出ない言葉を絞り出すように叫ぶ。聞きたくない…締め出したい…だが、テルスの言葉はハッキリとリーラの耳に届いた。

「アリシア=ブラッド……い や…アリシア=エルフィーナが……俺の遺伝子提供者さ……なあ………姉貴?」

ウリエルの周囲にフリーダム が集まる……だが、イザークもリーラも……それに反応することができない。

イザークはテルスの発した言 葉に……眼を見開き……リーラは………茫然と……そして…なにかを拒絶するように眼をキツク結び、心のなかで絶叫を上げた…………

 

 

激しい砲火が轟く戦場のなか で一際大きな閃光を幾度となく発し続ける2機……歌姫の駆る軍神と小悪魔の駆る天使………ラクスのマーズとウェンドのガブリエルが互いの持つ巨大な火器を 手に激しい応酬を続けていた。

コックピットに映るガブリエ ルに対し、照準が追い……ラクスはトリガーを引く。

「そこですっ!」

マーズのジークフリートと フォルティスUが火を噴き、ガブリエルに襲い掛かるも…ガブリエルはそれを脚部の大型ブースターで軽やかにかわす。息を呑むラクスに向けて……ガブリエル はミサイルを一斉射する。

何百というミサイルが放た れ……ラクスは反射的にウラヌスを振り被り、ビーム弾を発射し、ミサイルを撃ち落とす。

だが、その弾幕を掻い潜り迫 るミサイル……バルカン、ショルダーガトリング、シヴァUで狙撃し、寸でのところで撃ち落とすもその振動が機体を揺さぶり、ラクスは苦悶を浮かべる。

同じ重武装の機体でありなが ら…先程からラクスが追い詰められてばかり……パイロットとしての腕の差も勿論だが…機体の能力もそこうに加わっている。マーズは重武装に身を包んだため に機動性は低い。だが、ガブリエルは重武装を施しながらも脚部に大型ブースターを備えているために、高い機動性を発揮している。回避能力もさることなが ら、迂闊に近づけば火器の餌食……まさに攻防一体に優れた機体だ。

揺さぶられるコックピット内 でラクスは必死に耐えながら、操縦桿を切り…マーズを離脱させる。

飛び出すマーズに狙いをつ け……右眼のセンサーアイが捉える。同時にソドムとゴモラが火を噴き、マーズに襲い掛かる。

ウラヌスのシールドを掲げて 防御するも、機体を掠めるビームがミサイルポッドを掠め…アラートが鳴ると同時にラクスはポッドをパージする。

パージされたポッドが爆発 し、両機の間を赤々と照りつける。

息を乱しながら対峙するラク スに……ガブリエルのコックピットでウェンドは微笑を浮かべる。

「なかなかやりますね、歌 姫……正直、ここまでしぶといとは……」

揶揄する口調ながら……ラク スは反論はせず…そして……弱みを見せぬように皮肉る。

「それは…ぁ……ありがとう ございます」

こんな状況ながらも不適に返 せるラクスにウェンドはますます笑みを浮かべる。

「その精神力、称賛に値しま すよ……歌姫。ますます貴方を僕の手で殺したくなった」

高らかに笑い…ショルダーの 3連装大型ミサイルを放つ……巡航ミサイルに匹敵する対艦ミサイル……だが、ラクスは眉を寄せる。

(おかしいですわ……あの大 きさなら、到達する前に……まさかっ!?)

その結論に至るやいなや、ラ クスは操縦桿を切り……マーズを離脱させる。同時にミサイルが空中で分解し、弾頭に備わっていた小型の爆薬が飛び散り、マーズに襲い掛かる。

拡散する爆薬に近接防御機関 砲で応戦するも、全てを落とせない……潜り抜けてくる爆薬がマーズに着弾し、機体を吹き飛ばす。

「きゃぁぁぁぁっ!」

呻き声を上げ…吹き飛ばされ るマーズ………装甲を焦がし、左肩のシヴァUが破壊された。

そのまま飛ばされ、残骸へと 打ちつけられる。

衝撃に呻くラクス……すぐに 回避行動を取ったから直撃ではなかったが、それでも機体各所にレッドが表示されている。

悠然と歩み寄るガブリエ ル……ウェンドのくぐもった笑みが聞こえてくる。

「咄嗟の判断力と決断力…… だが、貴方のその身体機能は思考に付いていけないようですね」

そう……ラクスは確かに咄嗟 の機転は優れているが、身体能力はコーディネイターといっても並みの少女と変わらない。たとえ反応できても、身体の方が追いつかないのだ……ここにきて、 自分の身体能力の低さを恨めしく思う。もし、重装甲のマーズでなければ、今の一撃でやられていただろう……

「ま、まだまだです… わ………」

悪態を衝いても事態が好転す るわけでもない……懸命に身体に鞭打ち、操縦桿を引いて機体を立ち上がらせようとするも、機体が麻痺したように動かない。

「え……回線が、エ ラー……?」

今の攻撃と激突時に回線の一 部が麻痺し、エラーを表示している……このままでは、起き上がれない。

ラクスは計器を操作しながら 必死に回線を戻そうとするが……それを待つほどウェンドは寛大でもない。

動けないと察するや悠然と マーズに寄り……眼前でそのボディに脚部を叩きつけ、その衝撃にまたもや苦悶するラクス。

だが、決して怯まずに見上げ る。

そして、ガブリエルの右手が マーズのコックピットに据えられ…頭部が近づき…不気味にセンサーが煌き、ラクスは息を呑む。

「フフフ…貴方のその恐 怖……そして、息を潜めるのがよく解かりますよ………」

ガシッとコックピットを抑え 込み……ラクスは揺れる振動に表情を顰める。

「貴方はただ歌うだけでよ かった……そして、そのお得意の理想とやらを振り翳し、虫けらどもを扇動してくれさえすればいい駒だったのですよ……っ」

揶揄するようなウェンドの物 言いに、ラクスが怪訝そうに眉を寄せる。

「どういう…ことでしょ う?」

「言葉どおりの意味です よ……貴方はただ、理想を掲げ、虫けらを戦いへと追いやり、ただ世界を混迷させてくれる愚かなお姫様であればよかったのですよっ」

その瞬間、微かに言葉が荒 れ……ガブリエルはマーズから距離を取り、ミサイルを放つ。ミサイルが周囲で炸裂し、マーズを吹き飛ばす。

打ちつける振動にまたも歯噛 みし、苦悶を漏らす。

「うっ……理想を……掲げ る………」

呻きながらも…先程のウェン ドの言葉を反芻する。

そして…それに頷くように ウェンドが鼻を鳴らす。

「そう……貴方も僕にとって は駒の一つでした。理想に酔い、現実を見ない愚かな歌姫…というね」

侮蔑したような言葉……ウェ ンドが組み立てていた計略………ラクス=クラインという存在も彼にとっては駒の一つであった。

ラクス自身は無自覚でも…… 彼女はウェンドにとって都合のいい駒だったのだ。彼女は確かに高いカリスマ性を持っているが、それだけであった。

「パトリック=ザラが強硬に 走れば、当然貴方はそれに反発したでしょう……そして貴方は、愚かな理想を掲げ、それに真っ向から立ち向かおうとプラント内をさらに混乱させてくれる…… 貴方はそれだけでよかったのですよ」

眼を見開き…息を呑む…… ウェンドの言葉は…確かにラクスにとって心を見透かされたようなほど衝撃を与えていた。パトリックが徐々にナチュラル殲滅へと意識を傾けるのを薄々察した 彼女は、それを善しとはせずそれに反するために理想を掲げた。

そして…その結果は……プラ ント内のさらなる混乱であった。

「……だが、貴方はそれだけ で終わればよかったものを…徐々に理想を変え、現実を見据えるようになった……ただ理想に狂い酔うだけの歌姫であればよかったものを……」

心底、悔しげに舌打ちす る……憤りを憶えるも、それに反論できないのも事実……現に、ラクスは理想を掲げ、それに多くの同志が従ってくれた…だから自分のしていることを正しいと 思っていた。だが……そんな甘い考えは看破された……他でもない…親友の少女に………

「……否定はしません。私 は、現実を知らない小娘でしたから」

低い声で……そして、半ば自 嘲するように呟き返す。そう……自分は確かに現実を知らなかった…理想を掲げるだけで…それを押し通せばなると……だが、それだけではなにも変わらない と……レイナが…親友が教えてくれた………

世界を……自分の浅はかさと 覚悟の甘さを…………

だが、そんなラクスに対し嘲 笑い、ウェンドは見下すように一瞥し……ガブリエルが未だ起き上がれないマーズに近づき…その首を掴み上げる。

ゆっくりと持ち上げられる マーズ……そして…ウェンドは歪んだ笑みを浮かべる。

「……そう…貴方にはそれで 充分だったのですよ。僕の駒としてね……貴方が駒としての役割を放棄しなければ……貴方を僕の人形にしてもよかったのですけどね…ですが、壊れた駒や、役 割も果たせぬ駒に用はありません………」

強く込められる力……マーズ の首から微かな軋む音が響き、コックピット内にも微かに計器類がショートし、ラクスは気圧されるも…気丈に睨み返す。

「私は、愚かで無知な存在で す……ですが…私は貴方の思い通りに動くような駒でもありません………」

瞳に微かに意志を取り戻しな がら……計器を操作し、回線のエラーを修復していく。操縦桿を動かし…マーズの瞳に光が灯る。

「私は……ラクス=クライン ですっ!」

マーズのバルカンが火を噴 き、ガブリエルの右眼のセンサーに着弾し、微かにエラーを発する。

その隙を衝き…マーズは至近 距離で胸部のスキュラにエネルギーを集束させ……ウェンドが初めて表情を微かに歪ませた瞬間………

「この道がどのようなもので あれ…私は進みましょう………私に道を指し示してくれた方達のためにもっ貴方の思い通りにはさせませんっ!」

キラやレイナ……そして多く の者達が進むべき道を指し示してくれた……それに応えるためにも…ここで無為に死ぬことは赦されない。

刹那、胸部からスキュラが放 たれた……ガブリエルとマーズの密着する部分から……エネルギーがこもれた………

 


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