ミカエルが振るう連接錫棍が 縦横無尽…蛇のようにしならせながらエヴォリューションを翻弄する。

装甲を掠めるように襲い掛か る棍にリンは歯噛みしながら回避行動を取る。

「くそっ……!」

インフェルノではリーチが短 い……リンはインフェルノではなく、両背腰部からスクリューウィップを取り掴み、それを大きく振るう。

ウィップが舞い……振り下ろ す………泳ぐ連接棍にウィップが絡みつき、拘束する。

互いに引き合い……視線を交 錯させるリンとルン………歯噛みしながら一歩も引かず…そして、エヴォリューションは腰部のレールガンを展開し、ミカエルに放つ。

唐突に放たれたレールガンに 意表を衝かれ、ミカエルのボディに着弾し、振動が機体を揺らし、歯噛みする。

「くっ!」

睨むようにエヴォリューショ ンを見やるが…その瞬間には、リンはウィップを捨て……ミカエルに向けて加速した。

ミカエルもまた錫杖を捨て、 加速する……互いにビーム刃を構え…咆哮を上げながら交錯する。

バルカンを放ちながら、ミカ エルに向けて加速し……デザイアを放つ。だが、ミカエルは小刻みに動きながらその銃弾をかわし、掌のビームフィールドでビームを防ぎながら、キャリバーで エヴォリューションを砲撃する。

降り注ぐビームを回避し、周 囲が閃光に覆われながらも…怯むことなく突き進む。ヴィサリオンを放ち、ミカエルの周囲に閃光が満ちる。

閃光から飛び出すエヴォ リューションとミカエル……互いに相手の鼓動を感じながら交錯し…真紅の瞳が互いを見据え……銃口が相手を狙う。

「「っ!!」」

トリガーをほぼ同時に引いた 瞬間……ミカエルのキャリバーのビームがエヴォリューションの左肩を…ヴィサリオンの弾丸がミカエルのスラスターを掠め、破壊する。

互いに歯噛みし……距離を取 る……そこへ飛来するミーティアZEROとユニコーンの上に飛び乗り…2機は再び加速する。

一定の距離を取ったまま牽制 し……幾度となく交錯するエヴォリューションとミカエル…インフェルノとアシュタロスを構え、交錯を繰り返す。

ビーム刃を構え…そして突き つけて加速し……鋭い交錯音が響く………ぶつかる刃とスパークするエネルギー……互いの頭部が寄り、引き込んだと同時に弾き…距離を取る。

刹那…ミーティアZEROの 火器が一気に解き放たれ……ミカエルに襲い掛かるも、ミカエルはユニコーンを駆ってその火線のなかを駆け抜ける。

「ルイィィィィ!!」

鋭い形相でルンが吼え……そ れに呼応してミカエルも吼える…その咆哮に気圧されそうになるも……リンもまたミカエルへの火線を強める。

「………もらったっ!」

いくら機動性を誇ろうと も……いつまでも全てをかわすなどできない………エヴォリューションの火器が解き放たれ…ミーティアZEROと合わさってミカエルに襲い掛かり、遂にビー ムがユニコーンを捉える。

頭部が吹き飛ばされ…ボディ に着弾するユニコーン……煙を噴き上げながらも…ユニコーンは怯むことなく…天を天駆ける一角馬のごとく……エヴォリューションに突撃してくる。

回避しようとするリンに向 かって…ミカエルが突如ユニコーンより跳び……ユニコーンに装着していたもう一本の錫杖を構え、エヴォリューションに襲い掛かる。

咄嗟にデザイアを引き上げ、 それを受け止めるも……その勢いに押され…ミーティアZEROから引き離される。

縺れるように離れる2機…そ して……主への忠義を果たしたかのように……煙を噴き上げるユニコーンが加速したまま、コントロールを失ったミーティアZEROへと体当たりし、爆発す る。

その爆発に巻き込まれ……呑 み込まれていくミーティアZERO………爆発がランチャーに誘爆し…ユニコーンとミーティアZEROは炎のなかに掻き滅えていった………

その光景をモニターで確認し たリンは表情を苦く顰める……だが、そんな微かな動揺も見逃さないように…振り被った錫杖を叩きつけ、その重さに弾かれる。

「がぁぁぁぁっ!」

苦悶を漏らすリン………歯噛 みしながらも、その衝撃に耐え…操縦桿を引いて態勢を立て戻す。

踏み堪えるエヴォリューショ ン……息を切らすリンの前に現われるミカエル………コックピット内では、ルンもまた大きく息を乱していた。

「はぁ、はぁ………」

「はぁ、はぁ……フッフフ フ…流石にしぶといわね、ルイ………だけど、いつまで持つかな?」

揶揄するようなルンにリンは 鼻を鳴らし、肩を竦める。

「言葉遣いに余裕がなくなっ ているな……冷静を失えば、死ぬということを奴から教わらなかったのか……ルン…いえ……MCナンバー05……そして…クローン・セカンド体………」

皮肉めいた言葉と視線……だ が、ルンにとってそれは激しい侮蔑の言葉だった……ギリっと奥歯を噛み締める。

「貴様……」

地を這うような低い声…そし て、操縦桿を強く握り締める……震える手………それを感じたように、リンは眼を細める。

「あんたがどれだけ私を…そ して姉さんを憎もうとも……あんた自身がいくら否定しようとも……それは永遠に消えない………」

ルンが憎むのは自身を成す全 て………その髪も瞳も輪郭も…血肉も…そして……その全ての遺伝子に至るまでが……コピーでしかない………

リンと同じ……レイナ=クズ ハという存在の………たとえ、どんなに否定しようとも…それは決して消えぬ…覆せぬ………過去であり事実…………

だが、ルンは大きく被りを振 り…声を張り上げる。

「黙れ黙れ…黙れ……黙 れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

吼えると同時にミカエルが眼 を輝かせ…錫杖を振り翳してエヴォリューションに突進してくる。

突撃した間合いで錫杖を振 り、エヴォリューションに迫る……リンも舌打ちしてそれらの一撃一撃を防ぎ、あるいは捌いていく。

「はぁぁぁっ!」

エヴォリューションが錫杖を デザイアで受け止め、インフェルノを薙ぐ……錫杖を振り下したあとの隙を衝き…絶対にかわせないと踏んだが…その斬撃は振り上げられたアシュタロスによっ て受け止められる。

その反応に息を呑むリン…… そして、口元を愉悦に歪め……ミカエルの脚部が振り上げられ…エヴォリューションを蹴り飛ばす。

鋭く襲う振動に歯噛みす る……弾かれながらも、スコーピオンを飛ばし……ミカエルの腕に噛みつく刃……それを引きながら態勢を戻し…レールガンを放つ。ミカエルはアシュタロスで スコーピオンのアンカーを斬り飛ばし……レールガンの弾道をかわし、キャリバーを放つ。

デザイアでビームを受け止め るエヴォリューション……その威力に押されるも、デザイアを離し、跳躍して両手にインフェルノを構え、ミカエルに斬り掛かる。勢いよく振り下ろされた刃 を、ミカエルもまた両手にアシュタロスを抜き、互いに振り下ろした刃を受け止め、交錯したエネルギーが両機を照りつける。

「ぐっ!」

「フフフ…アハハハハ!!  甘いわね、ルイ……これが、私の…私自身の……力だぁぁぁぁっ!!」

刃を交錯させたまま……回転 するようにボディを後転させ…エヴォリューションを蹴り上げる。

弾かれたエヴォリューション は浮遊していたデブリに激突し、身を強かに打ちつけ、リンは苦悶を浮かべる。

「……っ」

打ちつけた身に微かに呻きな がら…顔を上げるリン………そして…悠然と浮遊するミカエルのコックピットで…ルンは嘲笑を浮かべている。

「これが私の能力……お前 と…そして……オリジナルにはないもの………ウォーダンの奴は、お前達二人にはかなりの射撃能力を持たせたようだけど…私は、この力を求めた……」

その言葉に…リンの記憶が過 去へとフラッシュバックする。

十数年前……まだ、レイナと リンがメンデルにいた頃………様々な知識を受ける過程のなかで……自身の身を護り…そして……相手を確実に息の根を止める手段として……多くの殺人術と戦 闘術をレイナとリンはウォーダンによって叩き込まれた。

この戦技に関しては、ヴィア やフィリアには手が出せず……見守るしかなかった…そのために……レイナとリンは失敗作のきょうだいを相手に……身体に憶えさせられた戦い方で相手の息の 根を止め…そして……二人はその過程のなかで銃火器を扱うのを徹底的に憶えさせられた……銃は命を奪うもの……そう教えられて………

その卓越した射撃能力故 に……二人は銃火器の扱いに長け、生き延びてこれた……だが、ルンは………

「だから、か…あんたは…… その力を求めた………」

レイナとリン……憎悪を抱く 姉達と同じ能力は要らないと………ルン自身の能力を…その答が……あの異常なほどの反応と剣技………

「アハハハ…そうよ………私 のこの能力に…お前達が勝てるものかっ」

あの日……あの運命によって 二人の姉が自分の前から姿を消した刻……ルンは自身に誓った……必ず……二人よりも…強くなると………

ウォーダンは確かに自分を手 塩にかけて造り出した被験体と息巻いていた……だが、ルンからはどうして二人の存在が頭から離れなかった………

 

――――レイ=ヒビキとルイ =ヒビキ………

 

遺伝子上は同じ存在……関係 的には…二人の姉………たとえ、どれだけ自身を誇示しようとも……ルンの脳裏には二人の影が付き纏った………

それは…恐怖だったのかもし れない………己が違う存在と理解していながらも…呪われた出生がそれを赦さない………

なにより…自分は一歩もカプ セルから出られない……成長を促進させる特殊な溶液のなかにいただけ………そのカプセルのなかから見た二人の姉………

相手は知りもしない……自分 を………そして幾度も頭のなかに囁かれたウォーダンの言葉……自分はアレよりも最高の能力を持っていると………だが、そんな己さえ知りもしないルン に………いったいどうすればよかったのだ………

そして見せられる二人の 姉……ヴィア=ヒビキの許で生きる二人に……同じでありながら……自分とは違う存在に………ルンは次第に恐怖と嫉妬…そして憎悪を憶えていった…………同 じ闇から生まれた存在でありながら……こうまで違うと………自分はこのカプセルから見えるものだけが…あの男の冷たい声だけが世界のすべて…………だが… 二人の姉は違う……自分の眼で…耳で……肌で……感じる世界が…そして与えられる世界があった………

怯える闇のなかで聞いた 声………その声が…怯えていた自分に今まで感じなかった不思議な気持ちを齎した………

それが……カインとの出逢 い…………ルンはその刻直感した…この人こそ……自分が求める存在だと………

「私はお前達とは違う! 私 は…私こそあの方の…あの人の対の存在だ! 出来損ないのオリジナルや失敗作のクローンである貴様などとは違う!」

だからこそ……ルンは力を求 めた……レイやルイとは違う力を………そして辿り着いた結論が……剣術をはじめとした近接戦闘能力…………

囚われていた自分を救い上げ てくれたカインに……全てを捧げようと……たとえそれが……自身を生み出した存在を消すことになろうとも………

そして……己を磨き…この能 力を追求し続けた………そして今……この能力をもって姉を……リンを追い詰めている………

その現実がルンには今までに ない最高の高揚感を齎していた。

「……御託はそれだけ?」

だが……ルンの言葉を聞いて いたリンの反応は冷ややかだった。

微かにルンの眉が吊り上が り……リンは鼻を鳴らし、吐き捨てながら冷めた眼を向ける。

「そんな程度で満足するなん て…小さなプライドね……」

「なに!?」

「あんたは自己満足しただけ よ……私や姉さんとは違うと………そう自己満足し、錯覚しただけ……」

自分やレイナと違うことを求 めるあまり……その感情が歪み…卑屈な自己満足を齎した。

「戯言を……」

リンの言葉を単なる負け惜し みと取ったルンだったが………リンは微かに表情を不敵に変える。

「どうかな……?」

刹那……ミカエルの胸部に微 かな火花が散り…ルンは初めて自機の違和感に気づいた……そして…ミカエルの胸部から微かな爆発が起こる。

「なっ……ば、バカな…完全 にかわしたはずなのに………」

呆気に取られたように爆発し た胸部を抑える……ダメージ的には小規模だが…それでも傷をつけられたという事実にルンは呆然となる。

あの瞬間…ミカエルが蹴り上 げたと同時に、エヴォリューションもまた両手を振るい、インフェルノの刃をミカエルの胸部に刻みつけていた………

呆然となっている隙に…リン は操縦桿を引き…エヴォリューションを立ち上がらせる。デブリから抜け出たエヴォリューション……リンは、未だ呆然となっているルンを一瞥する。

「それがあんたの驕り よ………確かに…あんたのその能力には感服するわ……けどね……そんな自己満足だけで得た力を……私や…姉さんに誇るな」

その口調のなかには微かな怒 り……自分達は自己満足だけで力を求めるつもりなどなかった……ただ……生きるために…そして……戦うために必要だった………

ルンの想いには同情を憶えな いわけでもない……閉ざされた世界しか知らなかった彼女……そして…慕う者に己の全てを捧げる覚悟………その想いの強さには……

だが…力を求めるということ は闇を求めるということ………果てしない闇への回廊を……確かに、レイナやリンはどちらかと言えば銃火器類を扱う方が得意だ。だが…リンは敢えて接近戦を 望んだ………それが何故と問われても解からない……だが……メンデルから離れた後……リンは接近戦を自身の戦闘スタイルとすべく技術を磨いた………

理由はない……いや…最初か ら解かっていたのかもしれない………眼前のルンと同じく………大切な者のために………

「………私は…いや……私達 は……やはり姉妹ということかしらね」

だからこそ……これは自分と 彼女の問題だ………同情はしない……お互いに選んだ道を違えた以上……どちらも退けない理由がある以上は………

自嘲めいた言葉で肩を竦め る……だが、今まで呆然となっていたルンは我に返り……己の不甲斐なさを捨てるように振り払う。

「ほざくなぁぁぁぁぁっ!」

ルンの怒りに反応するよう に……ミカエルの周囲に展開するニビルリング………そして…錫杖を呼び戻し……右手に構える。

それを視界に収め……リンは 一瞬眼を閉じると……次の瞬間、眼を見開き……エヴォリューションに一度距離を取らせ…デザイアを手に取るとともに身構え、対峙する。

そして…エヴォリューション の周囲にドラグーンが展開され……2機の周囲に感覚の磁場が渦巻く。

鏡合わせのごとく対峙するエ ヴォリューションとミカエル………リンとルンの感覚が一種の磁場を生み出し……それがぶつかり合う………

二人の眼が見開かれた瞬 間……ドラグーンとニビルリングが二人の意識に呼応し……動き出す。

「私は…リン………レイナ= クズハの妹…リン=システィ! そしてあんたも…!」

「うるさいぃ! その口、永 遠に封じてやるっ!」

幾条も煌くビームのなか…… エヴォリューションとミカエルは駆け抜け……刃を交錯させ……互いに接近し……その視線を交わした…………

 

 

 

 

同時刻……陽動を行なってい る統合艦隊は壊滅的な打撃を受けていた。

既に全戦力のうち、約半数近 くを喪失している……それも…現われた2体の真紅の獣に……真紅のミーティアを駆る2機のイージスコマンドによって………

激しい砲火が咲き乱れる戦場 のなかで……それとは劣らない激戦がある一画で繰り広げられていた。

ノーマルのデュエルダガーに ゲイツ、そして金色のゲイツアサルトは群がるように迫る機影に苦戦をしいられていた。

「くそっ!」

コックピットでヴァネッサが 毒づき、ビームライフルで応戦するも、敵機であるジンハイマニューバは悠々と回避し、ゲイツアサルトの懐に飛び込んで蹴り飛ばす。

「うわぁぁぁっ!」

吹き飛ばされ、アサルトシュ ラウドが微かに欠ける……ヴァネッサは歯噛みしながら操縦桿を引き、スラスターを噴かしてバランスを整える。

「っ、この重装備じゃ分が悪 すぎるぜっ!」

ゲイツアサルトは砲撃戦使 用…対し、ジンハイマニューバは高速戦闘用……どう考えても最悪の相性の敵機だ。

しかも、このジンハイマ ニューバはただの機体ではない……ミハイル=コーストというザフトのエースパイロットを率いるエース部隊なのだ。

そのために、ヴァネッサだけ でなくこの場にいる友軍のエレンとジェイスも苦戦をしいられていた。

「はぁぁぁっ!」

ビームクローを展開して斬り 掛かるも、ジンハイマニューバはその攻撃を回避し、空を切る…エレンは舌打ちするが、ジンハイマニューバ機甲銃の先端の重斬刀を振り下ろす。

「くっ!」

反射的にバーニアを逆噴射さ せ、斬撃をかわすも装甲を掠める……だが、出力を上げすぎたためにバランスが崩れる。そして、その隙を衝いて二撃目を繰り出そうとするも、そこへ割り込む ビームが重斬刀の刀身を破壊する。

微かに硬直するジンハイマ ニューバ……エレンはその一瞬の隙を逃さず、右手のビームライフルを狙いをつけず放つ。

半ば我武者羅に放ったビーム はジンハイマニューバの頭部を撃ち抜く……態勢を崩すジンハイマニューバに向けて弾丸が打ち込まれ、爆発する。

その爆風に弾かれたゲイツ… エレンがあさっての方角を見やると、そこにはハンドガンを構えるデュエルダガー……

「サンキュ、助かったよ、お 嬢ちゃん」

思わず親指を立てて援護に感 謝を述べると、ジェイスは微かに表情を顰める……だが、そのためにデュエルダガーの反応が一瞬遅れ、後ろに現われるジンハイマニューバ……

「っ! お嬢ちゃん、動く なっ!」

間髪入れず叫び、エレンはゲ イツのアレスターを発射する……勢いよく放たれたアレスターはデュエルダガーに真っ直ぐ伸び……デュエルダガーの脇をすり抜け、後方のジンハイマニューバ のボディにビーム刃が突き刺さる。

重斬刀を振り上げたまま貫か れ、固まるジンハイマニューバに振り向きざまにハンドガンのビームナイフを展開し、斬り裂く。

ボディに走る傷跡……一拍 後、ジンハイマニューバが分解し…アレスターがゲイツに引き戻される。

「危ないとこだったね…で も、これで貸し借りなしね」

もしデュエルダガーが僅かで も動けば…間違いなく一緒に串刺しにされていただろうが……怒っていいのか喜んでいいのか解からず、ジェイスは首を傾げる。

「さて、と……残りは6機… まだ厄介な奴が残ってるからね………」

ようやく2機を墜とした が……肝心のゴッドハンズのジンハイマニューバは全部で8機…残りは6機…だが、その内の一機は隊長機であり、厄介なパイロット:ミハイル=コーストが搭 乗している。エレンでも勝てるかどうか怪しい……周りを取り囲むように展開するジンハイマニューバ……その時、一機が後方から掴み掛かられ、内側へと流さ れてくる。

「っ!?」

「ヴァネッサ…っ!」

その光景に驚くジェイスとエ レン……一体のジンハイマニューバの背中に掴み掛かり、拘束するゲイツアサルト……縺れ合うように流れるなか、ヴァネッサは胸部のブレストバルカンポッド を開放する。

「へっ、ようやく捕まえた ぜ…この距離で…耐えられるかよっ!」

半ば自棄になったように密着 した状態で胸部のバルカンを連射する……いくらMSの装甲とはいえ、密着状態…しかもハイマニューバという軽量装甲のためにバルカンの応酬を受けたジンハ イマニューバのボディが粉々になる。だが、当然密着した状態では攻撃側にもダメージが飛び火する。

ゲイツアサルトの装甲も傷つ いていく…コックピットにアラートが響くなか、ヴァネッサはスイッチを押し、胸部装甲を強制パージした。

勢いよくパージされた装甲に 弾き飛ばされるジンハイマニューバに向けてシヴァを連射し、トドメを刺す…刹那、ジンハイマニューバは粉々に砕け散る。

「へっ、どうだっ!」

得意気に笑みを漏らすヴァ ネッサ……そのヴァネッサに呆れたように声を掛けるエレン。

「あ、あんたね…なんて無茶 すんの……」

「これぐらい…地上でやって た頃に比べりゃどうってことねえよ」

その言葉にエレンは頭を抱え そうになる……いったい、地上でどういう戦い方をしていたのだろうかと疑問に思う……彼女のチームメンバーはさぞ肝を冷やしたんだろうなと何気に思う。

「でも、ちょっと無茶しすぎ たかな……」

乾いた笑みを浮かべるヴァ ネッサ……エレンは大きく溜め息をつきながら状況を確認する。

「お嬢ちゃん、残弾は?」

「……カートリッジが残り2 つとビームサーベル一本…でも、エネルギーの消費が大きいからビームサーベルは使用できても数分」

「俺は予備バッテリーが底つ いちまったし、残弾もそんなにねえ」

エレンは自機の状態も確認 し、照らし合わせる……エレンのゲイツはビームライフルとビームクローが残っているが、エネルギーの消費も大きいために使用できてあと数発に数分……各々 の機体のダメージも決して低いわけではない。

対し、敵は残り5機……状況 的にはかなり分が悪い……どうするとばかりに身構えたまま背中合わせに敵の動きに警戒する。

その時……構えるミハイルの ジンハイマニューバが重斬刀の先端を突きつける………

「……オペ…開始……… シャァァァァっ!」

狂気に染まった医者のごと く……メスを突き立てるように構え、ジンハイマニューバが一斉に攻撃を加えようと身構える。

息を呑む3人…その時、通信 が響いた。

《隊長、その場から下がって ください! 30秒後に援護しますっ!》

「ライル…っ?」

突如聞こえた副官の呼び掛け にヴァネッサが眼を剥くより早く、エレンが叫んだ。

「散るよっ!」

その言葉に反射的に3機は迫 るジンハイマニューバの間隙を縫うようにその場より飛び出す。

刹那、高エネルギーが飛来 し……攻撃を加えたジンハイマニューバ4機は咄嗟に回避するも、2機が回避できずにエネルギーに機体を灼かれ、爆発した。

援護攻撃に眼を見張ると…… 彼方から向かってくる3機の機影………先頭を進むバルファスにゲイツアサルト、シグーアサルト……それぞれに大火力を備えている。

「いやったぁっ! 命中!」

「狙いバッチシ!!」

得意気にガッツポーズを決め るルナマリアにレミュ……3機はそのまま合流してくる。

「ホークにシーミル…あんた 達か?」

「はい、危機一髪でしたね、 教官」

「でも、教官を助けるなんて 結構驚きですよ」

その言葉にエレンは怒るより も笑い上げた。

「あははは、これは一本取ら れたわね…ま、助かったのは事実よ……サンキュ、ホーク、シーミル」

エレンのその言葉にルナマリ アとレミュは満更でもないとばかりに笑みを浮かべている。

「隊長、ご無事ですか?」

「おせえんだよ、ライル!  俺の副官ならもっとちゃんと援護しろ!」

素直に礼を言わないが、僅か に照れを隠すような上擦った言葉に苦笑を浮かべる。

「そりゃないですよ…これで も急いできたんですから」

「言い訳すんな」

あくまでぶっきらぼうに制す るヴァネッサに肩を竦め、傍にいるデュエルダガーに視線を向ける。

「隊長、その連合機は……」

「ああ、こいつは一緒に戦っ てる奴だ…敵じゃねえよ」

「そういうことだ…まあ、 ホークにシーミル、あんた達よりも腕は上だ」

エレンにそう評され、ルナマ リアとレミュはなんとなく面白くない……だが、教官にここまで言わせるパイロットというのもまた興味を憶えるのも事実……興味津々に通信を開き、相手の顔 を確認しようとした瞬間、その渦中の人物、ジェイスは呟いた。

「攻撃……よけて」

「散開しろっ!」

ボソッと呟いた瞬間、デュエ ルダガーはその場から離脱し、エレンも叫ぶ。ヴァネッサやライルは経験故に、反射的にその言葉に従えたが、緊急時の行動経験に乏しいルナマリアとレミュは 反応が遅れる。

「「え、え…きゃあっ!」」

互いに立ち往生していると、 エレンのゲイツに2機は掴み掛かられ、そのまま後ろへと跳ぶ……刹那、銃弾が過ぎり……ルナマリアとレミュの機体を庇ってエレンのゲイツが被弾する。

バックパックを銃弾が掠め、 爆発が起こる。

「ぐっ!」

「「教官!!」」

苦悶を浮かべるエレンにルナ マリアとレミュは焦った口調で呼び掛け…やや掠れた声が返ってくる。

「まったく……あんた達は咄 嗟の反応が遅いんだから……戦場は死と紙一重ってちゃんと教えたでしょうが」

やや苦い声で呟くエレンに二 人はさらに募り、焦る。

「こんな時になに言ってるん ですかっ!?」

「そうですよ、大丈夫なんで すかっ!?」

こんな時にまでなに説教めい たことをするのか……だが、エレンは苦い声のままで答え返す。

「大声出すな…バランサーが いかれただけだ…それよりも、気をつけなさい…数は減ったけど、相手はゴッドハンズよ」

そう…やや注意が疎かになっ ていたが……敵はまだ健在なのだ………残存のジンハイマニューバにゲイツアサルト、バルファス、デュエルダガーが既に迎撃に向かっている。

「ゴッドハンズって……あの ドクターの!?」

「面白いじゃない…教官の 仇、討ってやるわよ!」

ルナマリアやレミュもゴッド ハンズ…そしてそれを率いるドクター:ミハイルの名を聞いたことはある。その強敵がいる……エレンが被弾させられ、いきり立つ二人は上等とばかりに機体を 加速させる。

「あ、ば……っ!」

その様子に苦々しく舌打ちす る……いくらなんでも二人の腕ではミハイル相手は荷が重いというのに……エレンは歯噛みしながら迂闊だったと毒づき、素早く自身のやるべきことを開始す る。

ジンハイマニューバ部隊と激 突するヴァネッサ、ライル、ジェイスの3機……だが、ジンハイマニューバはトリッキーな動きで翻弄するように攻撃してくる。

「ライル、お前はそっちの奴 の援護に回れ! そいつはもうエネルギーがほとんどないはずだ!」

「りょ、了解!」

一瞬戸惑ったものの…ライル はバルファスをデュエルダガーの前に割り込ませ、フィールドを展開する。放たれる銃弾を無効化し、ビームキャノンで狙い撃つ。だが、ジンハイマニューバは バーニアを噴かして悠々と回避する。

「くそっ…なんとか脚部の バーニアを無効化しないと……」

ジンハイマニューバの高機動 を補っている脚部バーニア…アレを破壊すれば、敵の機動性を大きく損なえる……だが、高機動で動くジンハイマニューバを捉えるのは容易ではない。

その時、ジンハイマニューバ の後方からビームが轟き、ジンハイマニューバは思わず動きを硬直させる。

「このぉぉぉっ!」

「墜ちなさいぃぃぃっ!」

ルナマリアとレミュの二人が 吼えながら、手持ちのビームライフルで攻撃してくる。

それに晒されたジンハイマ ニューバの動きが微かに止まる……その隙を逃さず、ライルはビームキャノンの砲口をセットし……脚部バーニアに照準が合わさった瞬間、トリガーを引いた。

ビームが轟き、ジンハイマ ニューバの脚部バーニアを掠め、融解させる。

「今だっ!」

ライルの叫びに呼応し、ゲイ ツアサルトとシグーアサルトは火器を一斉に応酬し、ジンハイマニューバが粉々に砕け散る。

「やったっ!」

「よっし、残る……っ!」

残るは隊長機と一機……だ が、刹那……残りのジンハイマニューバが機甲銃を乱射して2機に襲い掛かってきた。

「「きゃぁぁっ!!」」

狙いもつけることなく乱射さ れる銃弾に装甲が歪む……だが、ジンハイマニューバは加速したまま、ゲイツアサルトとシグーアサルトに掴み掛かる。

「ちょっ、なに…!?」

「こいつ、離しなさい よっ!」

抱え込むように2機に掴み掛 かるジンハイマニューバ……離そうと、拳で叩きつける。頭部がひしゃげ、装甲が歪む。だが、ジンハイマニューバは離そうとしない……その光景にヴァネッサ がハッとし、叫ぶ。

「いかんっ! はやく離れ ろっ! そいつは……っ!」

その言葉が届くよりも早 く……ジンハイマニューバの内側から閃光がこもれる。

その閃光にルナマリアとレ ミュが一瞬呆気に取られた瞬間……ジンハイマニューバが爆発した。

自爆の閃光が2機を呑み込 み、周囲に震撼する。

「くそっ! おい、ホーク!  シーミル! 応答しやがれっ!」

爆風に耐え、ヴァネッサが叫 ぶように怒鳴ると……爆発から抜け出してくる2機………その姿に安堵を浮かべる。

「お前ら、無事だった か!?」

「な、なんとか生きてますけ ど……」

「あ、あんま無事じゃないで す……」

弾き出されるように出てきた ゲイツアサルトとシグーアサルトはアサルトシュラウド装甲がほぼ全壊し、機体も大きく損傷している。

ルナマリアのシグーは装甲は 全壊、左脚部が欠損している…また武器もほとんどが破壊された。レミュのゲイツは主だった武器以下、肩に背負っていた対艦ミサイルを切り離すタイミングが 遅れ、両腕と頭部が吹き飛び、半ばコックピットブロックが露出している。

重火器を背負っていただけに 自爆されて、よく無事だったと思えるほどだ。

当の二人もコックピットで身 を大きく打ちつけたらしく、苦悶を浮かべている。

その時、敵機を告げるアラー トが響く……ルナマリアとレミュはそれに反応するも、鈍い。

残った最後の一機……隊長機 であるミハイルのジンハイマニューバが突撃機甲銃を放ってきた。

「フフフ……安らかなる死 を…くれてやろう………」

眼を見開き、狂気の笑みを浮 かべる……医者は人を治すと同じく人を殺す術を心得ている…その狂気に支配されたように……ミハイルは半壊した2機に向かって銃を乱射する。

「「うっ…あ、あ あ………」」

銃弾が機体を掠め、振動が揺 さぶる……逃げたくても自機は既に半壊し、満足に動くのも叶わない。それが、避けようがない恐怖をルナマリアとレミュに感じさせる。

迫る死……だが、突入してく るジンハイマニューバに向かって割り込むように放たれるビーム刃……それに気づいたジンハイマニューバはバーニアを逆噴射させ、制動をかけてその攻撃をか わし、機体を過ぎり、伸びるワイヤーケーブルに重斬刀を叩きつける。

ケーブルが切断され、先端の ビーム刃を展開したアレスターは虚空へと飛び去る。

「くっ、流石にやるな……け どっ! 私の教え子をやらせるわけにはいかないっ!」

アレスターをパージし、エレ ンのゲイツがビームライフルでジンハイマニューバを攻撃し、それをよけるために後退するも、それを逃さない。

「おらっ、逃がすかっ!」

「おおおっ!!」

ヴァネッサとライルのゲイツ アサルト、バルファスが火器でジンハイマニューバを狙う…絶え間なく放たれる火器の応酬にジンハイマニューバの動きが鈍る。

「今だっ!」

咄嗟にライルがバルファスの フィールド発生ユニットを展開し、ジンハイマニューバの周囲を取り囲むように展開させる。フィールドのエネルギーが機体を覆い、そしてジンハイマニューバ の動きを拘束する。

だが、そのために広範囲に展 開せねばならず、エネルギーフィールドの濃度は薄い…大した時間稼ぎはできない。

案の定、ジンハイマニューバ は機甲銃で発生ユニットを破壊しようとトリガーを引く。

「隊長!」

「おうっ!」

崩された一画より……ゲイツ アサルトが突撃し、フィールドを破壊し、その僅かな敵の硬化時間を狙い、残った火器を一斉射する。

動きが遅れたジンハイマ ニューバにそれは直撃し、激しい閃光が周囲を覆う。

視界を覆う……あれで決着が ついたと思いたい……だが、爆発が収まった向こう側から……機影が出現する。

だが、既に片腕、片脚、そし てスラスターを大きく破損し、各部が欠けたジンハイマニューバ……そのコックピット内でミハイルは血を流しながらも狂気の笑みを止めようとしない。

「…治療……切り…刻 む………クランケ…は何処だ………」

もはや錯乱する頭は現実を認 識できていない……そして…自らに迫る機影にも………

ゲイツとデュエルダガーが加 速し、一気にジンハイマニューバに迫る。

「悪いわね、ドクター……せ めて地獄で…開業医をやりなっ!」

エレンが哀れむように呟き、 ビームクローを構える。

「……終わりだよ…」

ジェイスは静かに囁き……ハ ンドガンのビームナイフを構える。

2機が左右からジンハイマ ニューバに襲い掛かり、デュエルダガーのビームナイフがボディを大きく裂き、コックピットを露出させる。そして、ゲイツのビーム刃が突き込まれた。

迫るビームが最期の光景とな り……ミハイルの身体が蒸発する………コックピットを貫かれたジンハイマニューバ……

ゲイツはビームクローを離 し、エレンは機体を瞬時に後退させる。

刹那……彼らが見守るなか で………ジンハイマニューバは爆散した………

 

――――C.E.71.10.2 19:49……

――――ドクター・ミハイル =コースト戦死…………

 

 


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