最前線では、明らかな劣勢を
しいられていた……2機のミーティアを駆るイージスコマンドによってMSは近づけず、戦艦などは餌食となる。
護衛艦がせめてもと特攻を試
みるも、スティングのイージスコマンドがミーティアの大型ビームソードを振り被り、醜悪な笑みを浮かべたまま、振り下ろす。
「ひゃははっ! お
らぁぁぁっ!」
振り下ろされた巨大な刃が正
面から護衛艦の船体を真っ二つに斬り裂き、断面から大きな爆発を起こし、護衛艦が爆発する。
ストライクダガーにメビウ
ス、ジンが何十機と一斉に襲い掛かるも。アウルは蚊を落とすように鼻を鳴らし、鬱陶しげに吼える。
「うざったいんだよ! お前
らぁぁぁぁっ!」
ミーティアの両舷ランチャー
が開放され、何十発というミサイルが放たれる。発射されたミサイルは大きく乱雑に動きながら群がっているMSを吹き飛ばしていく。
だが、それらを掻い潜って接
近戦を挑もうとするも、それを赦すほどアウルは馬鹿ではない…ミーティアは動き、ビーム砲が放たれ、ストライクダガーのボディを撃ち抜き、追い払うように
振られた刃がメビウスやシグーを一刀のもとに斬り裂く。
瞬時に周囲は流血の閃光を彩
る。
コックピット内でスティング
とアウルはただただ自らが振るう巨大な力に酔い、その快楽に身を委ねていた。
その友軍が成す術もなくやら
れていく様にハルバートンやナタルは歯噛みする。
「おのれ……っ」
ギリっと奥歯を噛み締め
る……いくらAA級でも戦艦である以上、ミーティアの機動力には追いつかない。だが、このままただ手を拱き、敗れていくのをただ待つのはできない。
「バジルール少佐……」
《はっ》
「どうやら、覚悟をせねばな
らぬようだ……君の方で、一機を相手にできるか?」
その言葉に一瞬息を呑むも…
恐ろしいほどの決意を感じさせるハルバートンにナタルは口を噤む。
《……戦艦では、残念ながら
敵の動きにはついていくのは困難ですが》
「解かっている…だが、我ら
が乗るのはAA級……囮ぐらいはできよう」
既に解かっていたかもしれな
い……この状況を打破するための最善の策を……MSでは敵を射程に捉える前に破壊される…並みの戦艦ではまず機動性が追いつかず、また装甲が保たない。
無論、AA級も抜きん出た装
備を持つとはいえ、所詮戦艦……だが、AA級なら……分厚い装甲とビーム兵器対策を視野に入れたラミネート装甲を持つこの艦なら……たとえ相手を撃破する
ことは叶わなくとも…注意を引き付ける囮ぐらいはできる。そして…その間にMS隊による強行突撃で目標を破壊する。
無論、AA級2隻に対しあち
らも2機……なら、一隻ずつ当たるのが筋だが……まず間違いなく……囮を務める自分達は……生還できる可能性は極めて…いや……零といって等しい……だ
が、これしかない……
「座して死を待つなど……到
底受け入れられん」
普通の戦闘なら、降伏だろう
が…あちらにそんな理屈は通じない……生か死か…そして、どちらを取ると言われれば生を取ろう…その可能性が高い賭けに………
「分の悪い賭けだが……すま
んな、少佐」
《いえ……覚悟はできており
ます。自分も軍人……護るものためにこの命を散らすことを……》
ずっと…いや……かつてとは
違った覚悟……軍人となり………命を落とすことに躊躇いはなかった…だが、アズラエルのような輩のためにいくら命令とはいえ命を盾とすることを躊躇った…
それは、アズラエルが護るべき存在に値しなかったからだ。軍人として……その誇りに殉じようとする者には……だが、今は違う………
たとえ命を落とすことになろ
うとも……それは自らに誇れるような気さえする………そうナタルは自身に思える。
《……私は、コマンド2を…
コマンド1はお任せします》
敵ミーティアの中心に確認さ
れた機影は間違いなくパワー所属であったイージスコマンド……アレは連合軍では量産採用されている機種ではない。それぞれ、コマンド1から3のコードナン
バーでパワーに配備され、グリーン、ブルー、ピンクで塗装されていた。その内のコマンド3がメンデル戦でMIAとなり、残っているのは2機………
「解かった……武運をな」
《提督も!》
敬礼するナタルに敬礼し返
し、通信が途切れると同時にハルバートンはブリッジを見やる。
クルー達は今のナタルとの会
話に強張った面持ちだ。
「聞いていたとおりだ……今
より、本艦は突撃する………非常に…いや……万に一つも生還できる可能性はあまりに低い……だが、我らがやらねばならん……これは艦長としてではない……
強制はせん……退艦する者は急げ」
静かに発したハルバートンの
言葉にクルー達は真剣な面持ちで聞き入っていたが、やがて無言で作業を再開する。逃げようとする者はいない…いや……最初に特攻じみた突破作戦の最先端翼
を担う時には皆、命を半ばかけているのだ。
「……感謝する」
制帽を深く被り直し、静かに
感謝の意を述べると…ハルバートンはキッと前を見据える。
「目標! 敵機動兵器コマン
ド1! 周辺のMS隊に通達! 本艦が敵の注意を引き付ける! その間に攻撃されたし!」
ハルバートンの指示に矢継ぎ
のごとく実行していくクルー達……やがて、ケルビムとドミニオンのエンジンが急速に唸りを上げる。
「エンジンフルブースト!
焼きついても構わん! 全速前進! 残っている火器を全て正面に回せ!!」
怒号に応じてケルビムとドミ
ニオンは左右に分かれ、それぞれ目標に向かって加速していく。
ドミニオンはコマンド2:ア
ウルのミーティアへと向かっていく。
「ゴッドフリート、及びバリ
アントに全エネルギーを回せ! ミサイル全門装填! 目標コマンド2! 撃てぇぇぇ!!」
ナタルは既にローエングリン
を切り捨てた…ただでさえ反動が大きく隙も大きい兵装なのだ……それに残っているエネルギーを回すぐらいなら別の火器に集束させた方がいい。
ゴッドフリートにバリアント
が放たれるも、アウルのミーティアはそれをかわす。
「ああん? そうか……お前
も死にたいのかよぉぉぉっ!」
新たな獲物とばかりに眼を醜
悪に歪め、ミーティアのビーム砲が火を噴き、ドミニオンに迫る。戦艦の主砲に匹敵するほどの熱量が装甲を掠め、内部温度が急上昇する。
「ラミネート装甲、危険域に
到達! 次に受けてはもう…っ!」
その報告と同時に激しい振動
がドミニオンを襲う……ミーティアのエネルギー砲がゴッドフリートの片門を吹き飛ばしていた。
「ぐっ! 怯むなっ! ミサ
イル発射!!」
ドミニオンより放たれるミサ
イルの嵐……だが、その数に劣らないミサイルがミーティアより放たれる。
ミサイル同士がぶつかり合
い、激しい火花がドミニオンの周囲で巻き起こる。
その余波により、装甲が爆発
し、エンジンからも火花が上がる。
「第一エンジンより火災!
航行速度落ちます!」
「第18から23、及び68
から81ブロック大破!」
「第一エンジンを強制排除し
ろ! 火災区画の隔壁閉鎖! MS隊はどうなっている!?」
ドミニオンの第一エンジンが
強制的に排除され、後方に流れて爆発する。既に船体の至るところから噴出す煙……だが、敵の注意はこちらに向いている。あとは…MS隊に託すしかない。
「友軍機接近! 目標の標的
は未だ本艦です!」
その言葉にナタルは賭けるし
かなかった……自分達が沈むのが先か…それとも友軍機が攻撃するのが先か………
「イーゲルシュテルンで追い
込め! 自動照準モードでミサイルを発射しろ!」
後部より放たれるミサイ
ル……そして、ドミニオンの残ったイーゲルシュテルンがミーティアに放たれ、アウルのミーティアはそれを大きくかわしていくも…それがナタルの狙いだっ
た。
深く考えるという思考自体が
既に欠落している今……アウルは自分が誘導されているという意識はまったくなかった。そして、ある空間を過ぎった瞬間…先程発射されたミサイルの自動照準
が起動し、浮遊していたミサイルが一気にミーティアに襲い掛かる。
突如として現われた反応にア
ウルが戸惑う……全方位から放たれるミサイルにミサイルで応戦しようとするも、既にミーティアのミサイルは弾薬が尽きていた。いくら核動力とはいえ、実弾
兵器であるミサイルでは際限がある。そのために応戦が間に合わず、ミサイルは一斉にミーティアに襲い掛かり、周囲で炸裂する。それに続くようにドミニオン
の周囲に集っていたMSが一斉に爆発に向けて火器を応酬した。
無数のビームに弾頭が爆発の
なかに吸い込まれ、それは二次爆発を引き起こす。強大な熱反応が完全に覆い……攻撃が止む。
「やった……か?」
上擦った声で思わず呟く……
あれだけの攻撃を受けたのだ……通常なら戦艦でさえ木っ端微塵だ。反応を探査していたクルーの一人が熱反応の漂う爆発内部をスキャンしていると……中心部
に微かな熱反応を捉えた。
「こ、これは…も、目標
は……!」
その言葉が最後まで続く前
に……爆発のなかからビームが轟き、展開していたMSを撃ち抜く。
爆発に驚くなか、晴れる奥か
ら姿を見せるミーティア……だが、既にそれはもう半ば半壊している。両舷ランチャーは破壊され、アーム砲も残っているのは右腕アームのみ…エンジンブロッ
クも一基が欠落し、もう一基も火花を微かに迸らせている。
そして…中心のコアたるイー
ジスコマンドもまた…ミーティアによって護られていたとはいえ、ダメージは大きい。欠ける頭部……そして、コックピットでは内部機器が破裂し、破片が身体
に突き刺さり、パイロットスーツを貫通して鮮血を迸らせている。
顔を上げるアウルが吐血す
る。
「ゴプッ……まだ…ま……終
わんない…よね………」
バイザーを真っ赤に染めなが
ら……意識を突き動かすのはもはや純粋な闘争本能のみ……レバーを引き…その虚ろな眼が前方のドミニオンを見据える。
アレを破壊すれば……破壊す
ればいいと………内に囁く言葉……既に自意識すらなく…喰われた脳が負担をかけ、身体ももはやボロボロ……だが…それを制する意識はもうないのだ。突き動
かされるままにペダルを踏み……残ったエンジンが唸りを上げ、ドミニオンに向かって加速する。
「も、目標本艦に向けて急接
近!」
「特攻するつもりか……撃ち
落とせ!」
あんなもので突っ込んでこら
れたら絶対に沈む……近づけさせまいと残ったゴッドフリートが火を噴き、そして周囲に展開しているMSが一斉に攻撃する。
だが、ビームが掠めてミー
ティアを損傷させるも止まらず…ますますスピードを上げる。
「うらぁぁぁぁっ!」
断末魔の叫びのような……
ミーティアが流星のように向かってくる。ナタルらが死を覚悟した瞬間……ミーティア上下から急接近する機影……ゲイツとデュエルダガー……
「タイミングを誤るなよ!」
「解かってるぜ、旦那!」
デスティにヴェノムが答
え……ゲイツはビームクローをデュエルダガーはビームサーベルを抜いて加速し……ミーティアが彼らの加速の進行方向に過ぎった瞬間、それぞれの獲物を突き
出し、ビーム刃がミーティアを貫く。
だが、それで動きが止まるよ
うなものではなく……またそのスピードに突き刺した刃が機体を大きく揺らし、2機の片腕が捥ぎ取られ、その反動で吹き飛ばされる。
貫かれたミーティアが僅かに
蛇行するも、バランサーがやられて方向が狂う……それはドミニオンの艦橋突撃コースを外れ、横へと逸れる。
逸れたミーティアの火花を迸
らせるエンジンと貫かれた被弾箇所が誘爆を起こし……ミーティアが爆発する。
その爆発にドッキングを解除
する間もなく……アウルのイージスコマンドは呑み込まれた。
炎に灼かれるアウル……灼熱
のなかで……アウルの意識は完全に途切れた………巨大な爆発がドミニオンの後方で赤々と照り輝く。
その光景に…呆然となってい
たクルー達だったが、危機が去ったと自覚した瞬間…クルー達はホッと安堵の息を漏らし、ナタルも例外なく肩を落としている。
「前方友軍機に回線開け」
艦の危機を救ってくれた2機
のMSに通信を繋ぎ、ナタルは短く礼を述べる。
「こちら地球軍AA級:ドミ
ニオン艦長、ナタル=バジルールだ。貴官らの援護に感謝する」
その言葉に、ブリッジ前方で
浮遊するそれぞれ片腕の欠けたゲイツとデュエルダガーが振り返る。
「こちら、地球軍デステイン
=ノーア少尉だ。名高いドミニオン艦長よりの言葉、ありがたく思う」
「ザフト軍、ヴェノム=カー
レルだ。礼には及ばないぜ…こちらとしても冷や冷やもんの賭けだったからな」
そう……あの瞬間…デスティ
とヴェノムが取ったのは敵の動きを逸らせること…物理的に止まらせるのは不可能な以上、逸らすしか浮かばなかった。そのためには敵機の一部を破壊する必要
があった。だが、急加速している敵機を狙撃するのは容易ではない…そのために敢えて危険な接近戦を挑み、敵のスピードを計算して仕掛けた…賭けは成功し、
逸らすことに成功はしたが、代償としてそれぞれ片腕を持っていかれた。
おまけに度重なる激戦で流石
に機体が悲鳴を上げている。
「すまないが、少佐…着艦さ
せてもらえるだろうか……自分も彼ももう機体がボロボロなもので……」
「解かった…艦の恩人だ。丁
重に持て成そう……ハッチを開放する」
「感謝する」
通信が途切れると、ナタルは
後ろに振り返ってフレイを見やる。
「アルスター少尉、格納庫に
伝達…緊急機が着艦する。消火作業と救護班を向かわせろ」
「解かりました」
フレイは素早く格納庫に向け
て通信を送り、ナタルは思わずシートに身を沈めそうになる。
「ケルビムはどうなってい
る?」
そして、同じくもう一機の迎
撃に向かったハルバートンのケルビムの行方を尋ねるも、フレイは言葉を濁す。
「解かりません…かなり混乱
しているうえ、レーダー類も不調をきたしています」
ドミニオンも損傷が著し
い……戦闘能力は既に半分を切っている……ナタルは、複雑な面持ちで僚艦の無事を祈った。
そして……ドミニオンと分か
れたケルビムはスティングのイージスコマンドの駆るミーティアに向かっていた。
「ゴッドフリート照準! 発
射後ウォンバット! 撃てぇぇぇ!!」
ケルビムのゴッドフリートが
火を噴き、スティングのミーティアを狙う。だが、ミーティアはその一撃をかわす。同時にミサイルが発射され、弧を描きながらミサイルがミーティアに向か
う。
だが、スティングは鬱陶しげ
にミーティアのミサイルを放ち、ミサイルを叩き落していく。そして、その狙いをケルビムにつける。
「てめえらが俺に敵うと思っ
てんのかっ」
そう……雑魚だ…全てが雑魚
だ……最初からのこの力があれば……自分は最強なのだと……脳裏を支配する言葉にスティングは突き動かされ、ミーティアはケルビムに向かってビーム砲を発
射する。
「回避!」
スラスターを全開にして火線
をずらすも、過ぎるビームが底部ウイングを溶かす。
「底部スラスター破損!」
「目標接近!」
悲鳴に近い報告……巨大な
ビーム刃を振り上げるミーティア……ハルバートンは咄嗟に叫んだ。
「ヘルダート! 撃
てぇぇぇっ!」
半ば反射的に実行するクルー
達……艦橋後部のハッチが開放され、ミサイルが発射される。ミサイルがミーティアに着弾し、構えていたスティングは操縦を僅かに誤り、振り下ろされた刃は
ケルビムの装甲を掠める。
「第37から42区画破
損!」
「バリアント2番沈黙!」
斬り裂かれた装甲から爆発が
起こり、バリアントの砲身が斬り落とされる。
「ミサイル、きますっ!」
「ぐっ…怯むなっ! イーゲ
ルシュテルンで迎撃!!」
目標を逸らし、尚且つ反撃し
たことでスティングは苛立たしげに叫び、ミサイルを発射してくる。迫るミサイルをイーゲルシュテルンで撃ち落とすも、激しい爆発が船体を揺さぶり、ハル
バートンらは歯噛みする。
トドメとばかりに喰れてやろ
うとビーム砲を構えるも、そこへ砲撃が轟く。
ミーティアの左腕アームが撃
ち抜かれ、思わず後退する……ハルバートンが眼を見開くと、クルーがどこか上擦った声で報告する。
「ゆ、友軍です! ナスカ級
ヘルダーリン以下数隻! 及びMS隊です!」
モニターには、こちらへと向
かい、ミーティアに火線を集中させる4隻の艦が向かってきている。その中心にはヘルダーリンの艦影がある。
《ご無事ですか、ハルバート
ン提督?》
「グラディス艦長!」
モニターに映ったタリアの顔
にハルバートンが声を上げる。
《援護いたします…本艦とと
もに敵機へ火線を集中させ、MS隊を向かわせます!》
ヘルダーリン以下、護衛艦に
駆逐艦2隻が主砲を集中砲火させ、スティングのミーティアを狙う。
「……感謝する!」
ハルバートンも静かに頷く
と、攻撃再開を命じる。
ケルビムのゴッドフリートが
放たれ、火線を集中させられるミーティアにスティングは歯噛みする。これだけの熱量を集束されては迂闊に動けない…とくに巨大なミーティアだ。だが、ス
ティングにはミーティアをパージするという考えが浮かばなかった。今手にしている強大な力……それを手放すという選択肢はない。
子供じみた独占欲…それが肥
大化され、スティングの内を締める。
「おおお
らぁぁぁぁぁぁっ!!」
結果……真正面からの激突し
かない。
ミーティアの残った火器をフ
ルバーストさせる。激しい攻撃の応酬が戦艦のビームの間隙を縫うように襲い掛かる。
目標にされたのはヘルダーリ
ン以下4隻……タリアは咄嗟に叫ぶ。
「急速上昇! 火線を外
せっ!」
それが幸を奏したのか……ヘ
ルダーリンは下部スラスターを噴射させ、船体を強引に持ち上げるも……全てをかわせず、下部の一部を貫かれ、爆発する。
「くっ!」
歯噛みするタリアらヘルダー
リンクルー……だが、他の艦はそうはいかず、ビームやミサイルに船体を貫かれ、轟沈する。
ヘルダーリンは損傷こそ大き
いが、それでも沈まなかっただけ御の字だ。
その状況にハルバートンは歯
噛みする。だが、スティングは自ら沈めた艦隊にほくそ笑むと、次の目標をケルビムに定め……右腕アームのビーム砲を放つ。
僚艦の被害に一瞬気を取られ
ていたハルバートンは判断が遅れ……ケルビムのゴッドフリートと後部エンジンがビームによって破壊される。
振動が船体を大きく揺さぶ
る。
「ゴッドフリート一番沈黙!
エンジンにて火災発生!」
「エンジンブロックを切り離
せ! クルーを退避させろっ!」
歯軋りしながら指示を飛ば
し、ケルビムのエンジンが切り離され、爆発する。もはや満身創痍に近いケルビムであったが……スティングの注意は逸れていた。
それらの艦に気を取られてい
たために接近するMSに気づくのが遅れ、接近を許していた。
エドのソードカラミティが
シュベルトゲーベルを振り被り、斬り掛かる。
「おおおっっ!」
吼えるエドに対し、スティン
グも吼え返す。
「おおおおっっ!」
眼球が飛び出さんばかりに叫
び、右腕アームを強引に振り被る……巨大な質量を持つアームの一撃により、シュベルトゲーベルを叩き折られ、両腕が過負荷によって内部からショートし、爆
発する。
「どわぁぁぁっ!」
弾き飛ばされるソードカラミ
ティ…エドは苦悶に歯噛みする。
「エド!」
「くそっ!!」
ジェーンとユリアのデュエル
ダガーがビームライフルで狙うも、ミーティアの残ったミサイルが発射され、2機の周囲で爆発する。
幾つも咲く閃光にフォルテス
トラが欠け、ジェーンとユリアは咄嗟にフォルテストラをパージするも、そこへ急加速で肉縛するミーティア……大きく振り薙がれたアームの一撃が直撃し、2
機のデュエルダガーは一緒に弾き飛ばされる。
「「きゃぁぁぁぁっ!!」」
PS装甲さえも持たない量産
機であるデュエルダガー……そのために、最初の一撃を喰らったジェーンのデュエルダガーは装甲がひしゃげ、コックピットが半ば変形している。そして、2機
は縺れ合うように戦艦の残骸へと激突する。
「ジェーン!」
弾き飛ばされたソードカラミ
ティを受け止めるゲイツ2型P……ハイネは苦々しく舌打ちし、セラフはミーティアのアーム部分に眼を向ける。
そして、なにかに気づいたよ
うにケルビムへと通信を入れる。
「連合艦、聞こえますか?
用件だけ伝えます…一度で構いません、敵の注意を逸らしてください!」
返事を待たずして加速するセ
ラフのゲイツハイマニューバ…その行動にハイネが声を張り上げる。
「お、おい! セラフ!!」
「話てる時間はないの! ハ
イネ、敵の注意が逸れたらミーティアのアームの接続部を狙って!」
問答は無用とばかりに通信を
切り、ゲイツハイマニューバは機甲銃を乱射しながらミーティアに攻撃を加えている。
「っ、しゃあねえな…おい、
あんた……残ってる武器は?」
「胸部のスキュラだけだよ…
悪いね、あんま役に立ちそうもないな」
苦い表情で呟くエド…だが、
ハイネは首を振る。
「それで充分だ…いいか、合
図と同時に敵のアーム接続部分を狙ってくれ!」
間髪入れず、ケルビムより
ゴッドフリートが轟き、ミーティアを牽制する……ひょいっとかわすミーティアの動きを読み……ハイネが叫んだ。
「今だっ!」
刹那、ゲイツ2型Pのビーム
ライフルとソードカラミティのスキュラが放たれ、ミーティアのアーム接続部へと直撃する。
「うあっ!?」
2つのビームが直撃し、ミー
ティアの右腕アームが接続部から破壊され、爆発が揺さぶる。
歯噛みするスティング……怒
りにかられ、残った両舷ランチャーのエネルギー砲を発射する。
発射されたエネルギーは一方
がケルビムに…もう一方がソードカラミティとゲイツ2型Pに襲い掛かる。
エネルギーがケルビムのブ
レード先端に着弾し、陽電子砲を破壊する。
2機はエネルギーから逃れよ
うとするも、既に身動きが取れないソードカラミティを抱えているゲイツ2型Pでは素早い回避は無理……本来なら、連合の機体にそこまで義理立てする必要は
ないかもしれない…だが、ハイネは機体を抱えたままスラスターを噴かし、火線を外そうとするも、僅かに遅く…左腕を捥ぎ取られ、爆発の反動で吹き飛ばされ
る。
「「がぁぁぁぁっ!!」」
反動で吹き飛ばされた2機は
そのままケルビムへ流される……その様子に鼻で笑うスティング……だが、頭上から降り注ぐ銃弾にハッとする。
「それ以上はやらせな
い……っ!」
セラフが怒りに突き動かさ
れ、真っ直ぐに落下しながら機甲銃を放ってくる……イージスコマンドはビームライフルを構えて右腕を上げるも……その右腕は横から降り注いだビームに貫か
れ、爆発する。
眼を見開き、そのビームが放
たれた方角を見やると……半壊したデュエルダガーを抱えるデュエルダガー……微かに亀裂が走り、欠けた頭部バイザーが光る。コックピットで額から血を流
し、息を切らしながら見据えるユリア………
その僅かな気の逸れが……ス
ティングの運命を分けた。
なおも降下しながら機甲銃を
放つゲイツハイマニューバ……放たれる銃弾がミーティアのランチャーやエンジンを撃ち抜く。
そして…加速を止めることな
く……セラフは機甲銃の先端に取り付けた重斬刀を構えて突進する。
「えええいいいい
いっっ!!」
気迫とともに突き出された刃
が、イージスコマンドのボディを貫き、コックピット天井部から突き破ってくる刃にスティングの身体が押し潰されるように貫かれる。
刃を突き立てるゲイツハイマ
ニューバ……歯噛みするセラフ……イージスコマンドのコックピットで、スティングはヘルメットのバイザーが砕け、鮮血を流しながら吐血する。
真っ赤に染まる刃……朦朧と
し、薄れ逝く意識のなかで……スティングはなおもほくそ笑んでいた………
「…へ…へへ……お、俺
の………ップ…」
誰にも渡さないと……自分の
力だと……得た力への執着心だけを燻らせながら…スティングの意識が事切れた………
機甲銃を離し、離脱するゲイ
ツハイマニューバ……距離を取り、イージスコマンドが炎に包まれる。やがて、ミーティアのエンジンが火を噴き上げ…激しい閃光とともに……イージスコマン
ドはミーティアとともに爆散する……
その閃光を……その場にいる
者達はただ呆然と見詰める………ケルビムの甲板に強制着艦したゲイツ2型Pとソードカラミティ……浮遊する2体のデュエルダガー…その爆発を間近で見届け
るゲイツハイマニューバ………
ケルビムのブリッジでもま
た、ハルバートンがどこか夢現のような視線を向けていた。
そこへ、並ぶように現われる
ヘルダーリン……モニターにタリアの姿が映し出される。
《……目標は沈黙したのです
か?》
「ああ……恐らくな」
静かに問うタリアにハルバー
トンもどこか低い声で応じる……未だ、実感ができていないのだろう。
《大した手助けができず…申
し訳ありません》
いきり立って援軍に駆けつけ
たものの、大した援護もできずに敗れた不甲斐なさゆえに萎縮するタリアにハルバートンは首を振る。
「いや、貴艦と…沈んだ艦の
クルー達に感謝する」
そう……もしあそこで援護が
なければ、間違いなくケルビムも沈められていただろう。そう考えればタリア達の援護は決して無駄ではなかった。タリアはその言葉に些か表情を和らげる。
そして、ハルバートンも僅か
に緩んでいた表情を引き締め、指示を出す。
「先程の戦闘で被弾した友軍
機の収容急げ……ドミニオンの方はどうなっている?」
もう一機を担当しているはず
のドミニオン側はどうなったのか……レーダー類がほぼ難所を示す現状で……CICは必死に状況を確認する。
そして、クルーの一人が声を
上げた。
「け、健在です! ドミニオ
ンは目標を破壊……現在、リンカーンを主軸とした艦隊が前進しています!」
その報告にクルーだけでなく
ハルバートンもどこか弾んだ表情を浮かべる。どうやら、ドミニオン側も目標の破壊に成功したらしい……そして、あの2機が破壊されたことで実質的に敵艦隊
の反撃が弱まり、残存部隊が一気に攻勢に出たということだろう。
このケルビムも半ば艦の機能
が低下しているが……ここでのんびり構えているわけにもいかない。
「艦の応急処置を急がせろ、
収容したMSの整備と補給を急げ!」
まだ戦闘は終結してわけでは
ない……引き締めるように言い放つと、クルー達は動き回り、ハルバートンはシートに少々身を沈めた。
ケルビムの甲板に集結する被
弾したMS……セラフが甲板に擱座しているゲイツ2型Pに通信を繋ぐ。
「ハイネ、大丈夫?」
「ああ……なんとかな…け
ど、左腕欠損にバランサーもいかれちまったみたいでな……これ以上は無理だわ」
ぼやくように肩を竦める。
「あんたはどうだい?」
「こっちも似たようなものだ
な……ソードはもう使用に耐えん…こいつも、結構連戦だったからな……」
エドも苦い声で計器類を操作
しながら答える。ソードカラミティも両腕を失い、しかも主兵装のシュベルトゲーベルも失い、もはや丸裸も同然だ。そこへ、ユリアのデュエルダガーがジェー
ンのデュエルダガーを抱えて甲板に降り立つ。
「っ、おいジェーン! しっ
かりしろ!」
ジェーンのデュエルダガーは
左腕が抉られ、ボディも大きく歪んでいる。焦った声で呼び掛けるエドに弱々しい声が聞こえてきた。
「うる…さいね……ちゃんと
聞こえてるよ……」
憎まれ口を叩きながら応える
ジェーンに思わず安堵の息をつく。
「ジェーン、無理はしない
で……あんたの方はかなりダメージが大きいんだから…」
ユリアも気遣うように声を掛
ける……確かに、気丈に振る舞っているものの、ジェーンは額に脂汗を浮かべている。あの衝撃であばらの何本かをやられたらしい……
「ケルビムから着艦のビーコ
ンがきてる…流れもこっちに傾いているみたいだし……一度戻るよ」
ミーティア2機を沈黙させた
ことで流れは統合艦隊の方に僅かに傾いている……どの道、今の自分達の状態では戦闘はもう無理だ。
「ユリア、ジェーンを頼む…
あんちゃん、悪いんだが俺を連れてケルビムに行ってくれないか……どうももう自分で動くのもままならなくてな」
軽薄な物言いだが、ハイネは
笑みを浮かべる。
「ああ、いいぜ…セラフ、お
前はどうする?」
「私は損傷がまだ少ない……
周辺の警戒に回る」
セラフのゲイツハイマニュー
バは携帯火器を失ったが、まだ五体は無事だ。予備の突撃銃を構え、促すセラフにハイネも溜め息混じりに一瞥し、ソードカラミティを抱える。
「……死ぬなよな」
「お互いにね」
短く言葉を交わし……2機の
デュエルダガーとソードカラミティ、ゲイツ2型Pはケルビムの開放されたハッチから内部に収容されていく。
それを見届けると、セラフは
軽く笑みを浮かべる。
「さて、と……取り敢えず、
警戒をしますか」
突撃銃を構え、ゲイツハイマ
ニューバは残存の友軍機と共にドミニオンとの合流を目指すケルビム、ヘルダーリン周辺の警戒に回り、彼らもまた少しずつ衛星軌道に迫りつつあった………
――――C.E.71.10.2 20:04……
――――スティング=オーク
レー戦死…………
――――アウル=ニーダ戦
死…………