ネェルアークエンジェルが離 脱し……後方でパワーが撃沈した。

「も、目標シグナルロス ト!」

息を切らすマリューの耳にサ イの上擦った声が響いてきた。レーダーからも完全にパワーの反応が途絶えている。

やや実感が持てずにいた彼女 らであったが……やがて微かに表情が緩む。敵艦の一隻を沈めた……これで残るはあと一隻…セラフィムのみ。

セラフィムは今、コスモ シャークとの艦対戦を行なっている……援護に回れば、少なくともこちらの優位は動かない。

「エターナルに連絡を」

エターナルとともに援護に向 かおうとし、通信を繋ぐ。

「通信、繋ぎます」

《ラミアス艦長、見事なお手 前だったぞ》

モニターに映ったバルトフェ ルドは第一声でそう労いの言葉を掛けた……バレルロールして敵艦の頭上を取り、撃沈させるなど……並みの手ではない。

冷静になって考えてみれば、 あまりに無茶な方法であったとマリューは思わず苦笑する。

「いえ……それより、動けま すか?」

《ああ、なんとかな》

「では、コスモシャークの援 護に……」

その時、ミリアリアが届いた 通信に声を上げた。

「艦長、クサナギより通信で す」

その報告に微かに眉を寄せ る。

「モニターに回して」

間髪入れず、モニターが二分 割され、そこにトダカの顔が映る。

「トダカ一佐、どうしまし た?」

問い掛けるマリューにトダカ は表情を顰めたまま……やがて、重い口調で静かに呟く。

《……こちら、ヘカトンケイ ルを撃沈しました。その際に、オーディーンとダイテツ艦長もともに……》

「え……?」

《ダイテツ艦長が……っ、間 違いじゃないのかね?》

一瞬、マリューやバルトフェ ルド…クルー達はなにを言われたか理解できなかった。だが、その逡巡に残酷な答が突きつけられる。

《……事実です。ダイテツ艦 長はクルーを退艦させ…お独り……ヘカトンケイルへと特攻され、見事な最期でした》

制帽を深く被り直し、沈痛な 面持ちを浮かべるトダカにマリューやバルトフェルドもようやく息を呑む。

「ダイテツ艦長が……」

死んだ……あのダイテツ が………その言葉に……CICにいたキョウも表情を顰め、嗚咽を堪えるように表情を俯かせる。

マリアが傷ましげに見やる も……キョウの拳が血が滲み出るほど強く握り締められ、震えており、声を掛けるの躊躇う。父親の死に……だが、今の自分の立場に耐えている……今の自分は この艦の副長なのだ。

それに……いつかは覚悟して いたことだ………

「艦長、コスモシャークと合 流を急ぎましょう……トダカ一佐、クサナギの状況は?」

低い…そしてやや苦悩を感じ させる声にマリューが沈痛な面持ちでCICを見やる。

《クサナギは既に能力を低下 させている…それに、イズモも被弾して後退した……これから我々はキサカ一佐らに合流する》

そしてトダカも……その意志 を汲み、冷静に答え返す。

「解かりました……では」

敬礼して通信が途切れ…… キョウは厳しい面持ちで前を見据える……その意志の強さにマリューも表情を引き締める。

ここで哀しみに沈んでいる暇 はない……それこそ、ダイテツの最期を無駄にしてしまう。なら、自分達にできるのはなんとしてもこの作戦を成功させること……

「バルトフェルド艦長、我々 は側面より回り込みます…そちらは?」

《解かった…こっちも正面か ら陽動を仕掛ける……油断するなよ、まだ敵艦はいるんだからな》

通信が途切れ、マリューは後 ろに振り向く。

「Gフォースは?」

「解かりません……かなり混 戦しているらしく…ですが、依然としてユニウスセブンに変化はありません」

突入したGフォースの反応は 全てレーダー外におり、今どうなっているのか解からない……だが、ユニウスセブンに変化はおきていない点から、まだ取り付いての破砕は叶わず、また敵との 交戦中と考えられる。

マリューはギリっと奥歯を噛 み締める。

やはり、そう簡単にいくもの ではない……だが、諦めるわけにはいかない。

「急ぎます! ネェルアーク エンジェル前進!!」

残る最後の同型艦に対峙する ために…ネェルアークエンジェルはエンジンを噴かし、飛び立っていく。

 

 

インフィニートのガトリング 砲が轟き、バスターダガーの頭部を粉々に撃ち砕く。その隙を衝き、ヴァリアブルが右手にレイピアを構える。

「はぁぁぁっ!!」

メイアの咆哮とともに突き出 された刃がバスターダガーのボディを貫き、コックピットを灼く。だが、バスターダガーはコックピットを灼かれたというのに掴み掛かり、メイアは歯噛みす る。

そこへインフィニートのビー ムシリンダーが放たれ、バスターダガーの両肩を吹き飛ばす。拘束が緩んだ瞬間、メイアはレイピアを離し、蹴り飛ばす。

弾かれたバスターダガーに向 かってヴァリアブルのアームガトリング砲とインフィニートのミサイルが放たれ、バスターダガーは爆散する。

アルフとメイアは呼吸を乱し ながらそれを見届ける……残りは…4機……逡巡する間もなく放たれるビーム弾とビームの嵐に2機は分散する。

対装甲散弾砲とインパルスラ イフルを構えるバスターダガー2体……そして、一体がミサイルを開放し、発射する。

何十と迫るミサイルが炸裂 し、視界が閃光に覆われる。

怯むアルフとメイア……その 閃光を裂くように伸びるビーム……インフィニートとヴァリアブルは反射的に身を捻るも、インフィニートの左肩のミサイルポッドとヴァリアブルの装甲を掠 め、アルフは咄嗟にミサイルポッドをパージする。

残弾が誘爆し、爆発する…… 融解した装甲を押さえながら顔を上げるメイア……その彼らの前には、カラミティが悠然と佇む。

「っ…レナ……っ!」

その機体にギリっと奥歯を噛 み締める……先程からの攻防で何度も交信を試みているが、相手はまったくそれを赦さない。

メイアの援護でなんとか指揮 下のバスターダガーを3機にまで減らしたが、こちらの損耗も大きい。

右手に構えるガトリング砲に カートリッジを装填する。

「カートリッジはこれが最 後……あとは、左右にミサイルが数十ずつか………」

既にあらかたの火器を撃ち尽 くしている……だが、ここで引くわけにはいかない。

カラミティがトーデスブロッ クを放ち、弾頭が迫る……ヴァリアブルがバルカンで狙撃し、撃ち落とすもそれに乗じてバスターダガー2機が加速し、インフィニートに向かっていく。

ガトリング砲を連射して狙う も、バスターダガーはそれを巧みにかわし、ミサイルを放つ。アルフは舌打ちしてミサイルを撃ち落とすも、何発かはそれを抜け、インフィニートに着弾する。

「ぐぅぅぅっ!」

激しい振動が機体を襲う…… インフィニートはアストレイシリーズの派生機……コックピット周辺にはPS装甲材を使用しているも、その他の装甲は軽量の発泡金属……当然、ミサルの直撃 を受けては一溜まりもない。

装甲が微かに欠け、爆煙を裂 いて迫るバスターダガーがビームサーベルを振り被り、インフィニートの残ったガトリング砲を斬り裂く。

爆発に弾かれるインフィニー ト……その光景にメイアは息を呑む。

「アルフ…っ!」

気を取られている余裕はな い……残った一体のバスターダガーはミサイルを放ちながら牽制し、インパルスライフルで狙撃してくる。

近接戦がメインのヴァリアブ ルでは遠距離からの攻撃はキツイ……レーヴァティンをライフル形態に変え、両手の2丁を中央で合体させる。

2連装のロングビームライフ ルとし……メイアはターゲットスコープに照準を合わす。セットされた瞬間、トリガーを引く。ビームが放たれ、バスターダガーもビームを放つ…両機の中央で 激突したエネルギーがスパークし……メイアはその閃光に視界を覆うも、機体を加速させる。

閃光を過ぎり…距離を詰める と同時に腰部からスクリューウィップを抜き取り、それを振るう。しなやかに動くウィップがバスターダガーの頭部と右腕に絡む。

それを強引に引き寄せ、頭部 を捥ぎ取り…右腕を先端のドリルスクリューがアームの間接部に喰い込み、右腕を破壊する。

「今だっ!」

その瞬間を狙い……両腕に レーヴァティンを構え、加速して大きく振り上げる。

振り下ろされた刃がバスター ダガーのボディを斬り裂き、ボディを輪切りにされた瞬間…バスターダガーが爆発する。

距離を取るヴァリアブル…… 既に集中力が途切れかけている彼女の耳にロックオンを告げるアラートが響く。

ハッと顔を上げると……カラ ミティがシュラークを放つ。その閃光に身を捻るも…僅かに遅く、左腕のレーヴァティンを破壊された。

「しま……っ!」

レーヴァティンを咄嗟に離 し…爆発によって怯むヴァリアブル……そこへカラミティが追い討ちをかけるように全砲門を放ってくる。

その攻撃に晒され、素早く離 脱をかけるも装甲をビームが抉り、態勢を崩す……なんとか突破し、残ったレーヴァティンを振り上げてカラミティに斬り掛かる。

「でぇぇぇっ!!」

懐に飛び込み、レーヴァティ ンを振るうもカラミティは紙一重でかわす。だが、距離を空けられれば不利……ヴァリアブルは間合いを逃すまいと必死に纏わりつく。

メイアとレナの視線が交錯す る……それが果たして意思のあったものであるかは解からない……ただ…互いに同じ男に関わったという因縁を持つだけ………

それをお互いに……知らない だけ………そして…渾身の一撃とばかりに振り被った一撃がカラミティを捉え、左腕をケファーツヴァイとともに斬り飛ばす。

「っ!?」

レナの虚ろな眼が微かに見開 かれる……刹那、間接部から火が噴出し、カラミティは爆発する…トドメとばかりに振り被るも……カラミティは右手のトーデスブロックを投げ飛ばし、ほぼ眼 前で直撃を受け、ヴァリアブルは弾き飛ばされる。

「ぐぅぅぅ!」

苦悶を浮かべるメイアの眼 に…カラミティの胸部の砲口にエネルギーが集束するのが映る。

「……死ね」

小さく零した瞬間、カラミ ティの砲口よりスキュラが放たれる。だが、メイアもヴァリアブルの左腕を突き出す。

「させるものかっ!」

ヴァリアブルのスペクターが ビーム刃を展開し、発射される。

両機の中央で激突する……ス キュラのエネルギーとスペクターの爆発のエネルギーが干渉し合い、周囲にスパークする。

その余波に互いに弾き飛ばさ れる。

その閃光を目撃したアルフは 息を呑む。

「レナ…メイア……っ!」

早く駆けつけなければならな い……その一心で眼前に迫るバスターダガーに向けてビームシリンダーを放つ。

絶妙のタイミングで放たれた ビームに携帯火器を破壊される……怯んだ隙を衝き、ビームナイフを抜き、一気に距離を詰め、ビームナイフをバスターダガーの頭部に向けて叩き込んだ。頭部 を貫かれ、ボディまで貫通したバスターダガーのボディを蹴りで弾き…そこへ左手のビームライフルを放ち、コックピットを撃ち抜く。

爆発が轟くなか……加速する インフィニート……行く手を遮ろうと立ち塞がるバスターダガーが対装甲散弾砲を向けるも、アルフは構うことなく操縦桿を引く。

「邪魔をするなぁぁぁっ!」

インフィニートの瞳が煌 き……ミサイルが発射される……無数のミサイルが発射される弾丸を相殺しながら爆発が起こり、そのなかへと飛び込むインフィニートはビームナイフをバス ターダガーのボディに向けて突き貫き…そのまま過ぎる。

コックピットを貫かれたバス ターダガーは離れていくインフィニートの後方で爆散する。

桜演武隊……全滅……だが、 それに構うことなくアルフはひたすらヴァリアブルとカラミティが激突する宙域を目指す。

先程の衝撃で互いにエネル ギーの余波を受けたヴァリアブルとカラミティ……互いに装甲表面が焼け焦げ、衝撃に身体を打ちつけたメイアは表情を顰めている。

「くそっ……出力が落ちてい る…おまけに、武器もほとんど使い切ってる……」

自機の状態を確かめながら悪 態をつく……既に内臓火器はほとんど弾薬を撃ち尽くし、おまけにレイピアやスペクターも欠損し、主兵装のレーヴァティンも一刀喪っている。機体の方のダ メージも大きい。

その時、レーダーがアラート を示し…メイアが正面を見やると……爆風のなかから姿を見せるカラミティ……その姿に息を呑む。

自分と同じように衝撃を受 け、機体の損傷が目立っている…左腕は欠損、おまけに胸部スキュラは先程の影響か、砲口が焼け焦げ、もう使用は不可のようだ。だが、まだ背部のシュラーク は健在……この状況では機体のコンディションはともかく、砲撃戦に持ち込まれたら不利……メイアは周囲を見渡し…近くを浮遊していたデブリの鉄の板を手に 取り、無いよりはマシと防御する。

そのヴァリアブルに向けて シュラークを構えるカラミティ……そこへ砲撃が轟く。

メイア…そしてレナもまた振 り向くと……インフィニートがビームライフルを放ちながら加速してくる。

「アルフ…っ!」

微かに弾んだ声を上げるメイ ア……アルフは無言で頷き、カラミティに向き合う。

「レナ……聞こえている か……俺だ…アルフだ」

全周波で通信を送る…この距 離なら、聞こえているはずだ……息を呑むアルフの耳に掠れた声が聞こえてきた。

「……アル…フ…………私 を……裏切…た………」

「っ、違う!」

途切れ途切れの声で聞こえて きた言葉に思わず否定するも……レナの言葉は止まらない。

「………赦さ…ない……」

間髪入れずシュラークが放た れ、インフィニートは身を捻ってかわす……追い討ちをかけるように向かってくるカラミティにアルフは歯噛みする。

裏切ったわけではない……少 なくともレナを………だが、そんなアルフの考えもレナから見れば裏切りでしかない………歯噛みし、回避するインフィニート……だが、カラミティは脚部に ソードの換装時にそのまま残されたアーマーシュナイダーを抜き、突いてくる。

装甲の薄いインフィニートで はまともに喰らえば危ない…鋭く突いてくるカラミティにインフィニートは回避に手一杯になる。

「レナ……っ!」

再度呼び掛けるも……拒絶す るかのような突きが返ってくるだけ……葛藤するアルフだったが、そのために注意が散漫となり、インフィニートが浮遊していたデブリに激突し、動きを鈍らせ る。

「しま……っ!」

眼を見開くアルフの前に舞い 上がるカラミティ……コックピット内でレナは冷たく言い放つ。

「死んで……アルフ………」

突き出されるナイフ……その 狙う先はコックピット……だが、そこへ割り込む影…ヴァリアブルがレイピアを突き入れてアーマーシュナイダーを受け止める。

「アルフ、何やってるの!  死ぬつもりっ!」

叫びながらレイピアを振り上 げ、刀身を叩き折ると同時に蹴り飛ばす。弾かれるカラミティはシュラークを放ち…メイアは咄嗟に鉄板を振り上げる。

だが、鉄板では受け止めきれ ず……衝撃にヴァリアブルは吹き飛ばされる。

「うあぁぁぁぁぁっ!」

「メイア……っ!」

弾かれるヴァリアブルを受け 止めるインフィニート……あの瞬間、ヴァリアブルだけ離脱すれば助かっただろう…だが、その射線上にインフィニートがいた以上、逃げるわけにはいかなかっ た。

苦悶を浮かべるメイアにアル フが思わず叱咤する。

「ばか…なんでこんな無茶 を……っ」

「…や、約束したでしょ う……これが終わったら…一杯付き合ってもらうって………それに…あんたにここで死なれたら、私が困るのよ………」

苦い声で……そう呟くメイア に、アルフは眼を瞬く。

「あんたと…あのパイロット がどういう関係かは知らない………けど、今私達はなんのために戦ってるの………ここで…あのパイロットに撃たれるのが…あんたの望みなの……」

問い詰めるような声……アル フは表情を顰め、口を噤む。

そして、静かにヴァリアブル を離し……カラミティに向き直る。

「………解かっている。俺 は、ここで死ぬわけにはいかない………レナ!」

インフィニートが加速し、カ ラミティに向けてビームライフルで狙撃する……カラミティもそれをかわすも、先程と違って際どい精度を誇っている。

レナの表情が微かに歪む。

「レナ…俺を恨むなら構わな い……だが、俺もここでまだ死ぬわけにはいかない…そして…お前のそんな姿をこれ以上見たくない……っ!」

たとえどれだけ憎まれようと も……今の自分はまだ無意味に死ぬことは赦されない………そしてなにより…これ以上……レナのそんな姿を見たくなかった………偽善と罵られても構わな い……その自身に悪態をつき、トリガーを引く。

カラミティはシュラークを連 射し、その一射がビームライフルを捉え、爆発する。

「っ!」

舌打ちするアルフ……カラミ ティが一気に距離を詰めて破壊しようと向かってくる。

「アルフ! これ を……っ!」

刹那……ヴァリアブルが右腕 を振り被り、レーヴァティンを投擲する。飛んでくるレーヴァティンを受け取ると同時にアルフは機体を加速させ、カラミティに肉縛し、レーヴァティンを振り 被る。

振り薙がれた一撃がシュラー クの砲身を斬り飛ばす……そして、アルフの眼がボディを見据える。

「レナ……せめてお前を解放 する……その呪縛からなっ!」

鋭く突かれるレーヴァティン の一撃がカラミティのコックピットを捉え、装甲を破壊して内部にまで到達する。

押し潰す装甲に身体を挟ま れ、レナは血を噴出す……そして…虚ろだった眼に微かな光が戻り…その眼が眼前のインフィニートを捉える。

アルフもまた……悲痛な表情 で自らが潰したコックピットを見据える……そして…露出したコックピットにいるレナの姿が映る。

「レナ……俺は………っ」

詫びすらできない…だが、レ ナの表情が微かに微笑んでいるのに気づき、息を呑む。

そして……唇が微かに動く… 『ア・リ・ガ・ト・ウ』……そう見えた………言い終えるとともに…レナは安かな表情を浮かべ、事切れる………

刹那、カラミティが炎を上げ てインフィニートから離れていく……そして…カラミティが爆発する。

「レナァァァァァァ!!」

その爆発にアルフは絶叫す る……そして、微かに嗚咽を漏らす………そのインフィニートに近づくヴァリアブル………

「……あんたは、あのパイ ロットを解放してあげたのよ………だから…せめて今は……」

泣けばいい……そう心の中で 呟き……それが伝わったのか……アルフは絶叫し続けた………最期の最期で安らかな微笑を浮かべたレナ…それは……なにに対してあったのだろう………だが、 アルフには救いにはならない……自ら殺した者に対して……泣く資格さえないのに……哀しむ戦士を包み込むように、ヴァリアブルがインフィニートを抱く。

せめて、この哀しみを分かち 合いたい……少しでも和らげたい………そんな想いにかられながら……メイアは静かに見守った………

周囲に散らばるカラミティの 残骸………散った戦士への哀悼の意を述べるように…そして……儚く散っていく桜のように………宙域に浮遊する………

 

――――C.E.71.10.2 20:17……

――――GAT−X131− 02:カラミティ2号機撃破………

――――乱れ桜:レナ=イメ リア戦死…………

 

 

エインヘルヤルを相手に奮戦 するフリッケライ、ハイペリオン……シンが咆哮を上げ、フリッケライのリボルビングスピアーがエインヘルヤルに向けて叩き込まれ、機体を吹き飛ばされる。

「……機体バランス…コン マ……ズレ………」

吹き飛ばされる衝撃にも動揺 せず…ただ冷静に自機の状態を確認しながら、ターゲットの行動に眼を光らせる。

「ターゲットA…ターゲット B……移動…ターゲットBの攻撃確立79%………」

機械のように分析するユウ… それに伴い、エインヘルヤルがブラスタービームキャノンを放つとともにハイペリオンのフォルファントリーが火を噴き、中央でエネルギーが激突し、スパーク する。

「くそっ!」

歯噛みするステラに毒づくシ ン……このままではジリ貧だ。レールマシンライフルを展開するエインヘルヤルが光弾を放ってくる。

ハイペリオンが瞬時に光波 シールドを展開し、2機を包み込む……光の盾に護られ、攻撃は届かない。だが、敵はなかなか隙を見せない………まるで、こちらの動きを全てよまれているよ うに………

「…シン………護る…ステ ラ…護るの………」

突然呟くステラにシンが怪訝 そうになる……次の瞬間、ハイペリオンのスラスターが火を噴き、エインヘルヤルに向けて加速する。シンは一瞬呆気に取られるも、置いていかれまいと同じよ うにバーニアを噴かし、光波シールド内を加速する。

「ターゲット…突撃………回 避行動………」

その突撃にも動じた様子を見 せず……冷静に分析し、最適な回避ルートを選別する……そして、ハイペリオンが放ってくるビーム弾をかわしながら、エインヘルヤルは突撃コースから飛び上 がり、上に跳ぶ。

「シン…今……っ」

だが、刹那……突如ハイペリ オンの光波シールドの一部が開放され…そのなかから飛び出すフリッケライ……その加速コースはエインヘルヤルとの交錯………

「なに………?」

微かに戸惑いを浮かべるユウ の眼にフリッケライが突撃してくる。ステラの行動を逸早く把握し、そしてそれに備えていたシン……気迫とともに突き出されたスピアーがエインヘルヤルの ビームキャノンの砲身を突撃で叩き壊し、2機は激突によって弾き飛ばされる。

「ステラ……っ!」

激突の衝撃でボディが欠け、 苦悶を浮かべながらも叫ぶシン……それに反応してステラはトリガーを引く。

ハイペリオンのフォルファン トリーが唸りを上げ、ビームが放たれる……その火線方向には、吹き飛ばされて流れてくるエインヘルヤル……ユウの眼にその閃光が映った瞬間、エインヘルヤ ルにビームが直撃し、爆発が起こる。

「やった…っ!」

それに表情を弾ませるシ ン……なんとかフリッケライの態勢を立て直し、踏み止まる。

「シン……大丈夫…?」

「ステラ…ああ、俺は大丈 夫」

気遣うようなステラの声…… 絶妙のコンビネーションであっただろう……まるで以心伝のように互いに自分のやるべき事が伝わり…行動があれ程流れるように合わせられた……それは、二人 が知らない二人の力の一片………

そして……爆煙を見詰めてい たが……突如、煙を裂くように物体が飛び出してきた。

「なっ!?」

眼を見開く瞬間に……間合い に飛び込んだ影が振り上げたビーム刃にフリッケライの左腕が斬り飛ばされる。

息を呑む前に振り上げられた 脚に蹴り飛ばされる。

「うわぁぁぁぁっ!」

「シンっ…ううっ!」

その光景に驚く間もなく…… 振り返った影…エインヘルヤルがこちらを睨み、ハンドガンで狙い撃ってくる。

光波シールドを左腕に展開し て防御するも……弾かれる。

半壊するエインヘルヤル…… 背部のキャノンは2基とも砲身が全壊し、装甲も半ば欠けている……そして…頭部が僅かに欠け、機械的な部品が露出している。まるで…地獄から這い上がった 亡者のごとく………

幽霊の処刑人……そう名を与 えられたパイロットを表わすように……コックピットでは、ユウがゆらりと顔を上げる。

その左眼に割れたヘルメット のバイザーが突き刺さり、完全に眼球を潰している。血が溢れる左眼…そして、残った右眼でそんな傷さえも意識外に追いやり…戦況の分析を行なう。「機体損 壊率53%……ターゲットA及びターゲットB健在………排除……排除…する………」

血を計器に零しながら、操縦 桿を動かす……亡者のように機体を痙攣させ、両腕のビームサーバーを展開し、ハイペリオンへと襲い掛かる。

「い、いやっ…こない でっ!」

その姿がステラの眼にはあま りに恐ろしい形相に映る……反射的にビームナイフを抜き取り、突き刺す。

だが、エインヘルヤルはその 突きをかわし…回り込んで振り上げたビーム刃がハイペリオンの右腕を斬り飛ばす。

爆発の振動に呻くステラ…… トドメを刺そうとするも、そこへ打ち込まれる弾丸がバックパックに着弾し、態勢を崩す。

フリッケライがレールガンを 展開して発砲してきた。加速したままエインヘルヤルに突撃し、体当たりで弾く。そして至近距離でバルカンを連射し、エインヘルヤルは左腕を引き上げてコッ クピットを庇うも、既に内部装甲が露出していた左腕はTP装甲の効果を果たさず、掠める弾丸に内部機器が破損し、内部から砕け散る。

追い討ちをかけるように蹴り 離し、距離を取らせる……だが、エインヘルヤルはそれに堪え…ユラリと幽霊のようにこちらを見やる……その手に…処刑の鎌を携えて………もうあちらも既に 余力はないはずなのに……いい知れぬ不気味さを憶えさせる………

こちらももうあまり余力はな い……一気に決めなければ………

「ステラ………」

無言でハイペリオンを見やる と……その考えが伝わったのか…ハイペリオンは頷く。

「……仕掛けるっ、いく ぞっ!」

右腕を引き、フリッケライが 身構え、加速する……そして、ハイペリオンがフォルファントリーで砲撃する。

ビームの攻撃にエインヘルヤ ルはかわすも……そこへ撃ち込まれる弾丸……フリッケライがサイドレールガンを展開し、エインヘルヤルは態勢を崩す。そこへ急接近してくるハイペリオンが ビームナイフを抜き、エインヘルヤルに突き刺してくる。

突き出された刃が右肩に刺さ り、右肩が爆発する……ユウがその振動に眼を微かに瞬く。

「そこ…もらうのっ」

その隙を衝き、ハイペリオン のビームマシンガンがエインヘルヤルの背部から放たれ、エインヘルヤルの四肢を撃ち抜いていく。

「今だっ!」

既にボロボロになったエイン ヘルヤルに向けてリボルビングスピアーを構え、下方から突き上げるように加速するフリッケライ。

だが、エインヘルヤルも残っ たレールマシンライフルを連射する……弾丸の嵐に晒されるフリッケライ……装甲が吹き飛び、爆発が機体を襲う。

「ぐぅぅっ!」

歯噛みするシンに向けて、ユ ウが呟く。

「ターゲットA……破壊…破 壊………破壊…」

壊れたように反芻し……右腕 のビームサーバーを展開し……エインヘルヤルも加速する。

接近での機動性は…明らかに エインヘルヤルの方が高く、また武器の射程が長い……ビームサーバーがフリッケライのコックピットに向かう……

「シン……っ!」

ステラが眼を見開き……眼前 に迫るビームの閃光にシンの呼吸が荒くなる……死という迫りくる恐怖……それがシンの内で大きく脈打ち、弾ける。

眼が微かに虚ろになったシン が顔を上げた瞬間……フリッケライのバックスラスターの片方を強制排除し、機体重心をずらす。

ずれたフリッケライ…そのた めに、突き出されたビームサーバーはボディから逸れ……フリッケライの左肩を貫く。

「なに……?」

微かにユウが瞬いた瞬間、シ ンは相手の加速を利用し…カウンターの要領で繰り出したスピアーがエインヘルヤルのボディに突き刺さる。

「おおおおおっっ!」

あらん限りの力でTP装甲の 隙間を縫い、打ち込まれる一撃がコックピットの計器を押し潰し、ユウは血を吐き出す。

トリガーを引き、それに連動 してリボルビングスピアーのリボルバーが動き、薬莢を飛ばしながら打ち出されていく。

喰い込む先端がユウの身体を 抉り……身体を裂かれ…ユウの眼が微かに見開かれる……

「……は…か……い……… ター…ゲット………損壊…率………93…………」

既に身体が抉り取られ、胸か ら上しか残っていない状態で……その状態でもなお…まるで…機械のごとく呟くユウ………度重なって施された強化手術…それは……既に彼女の頭を完全に破壊 していた………

やがて……眼から完全に光が 消え……少女の意識は深い闇のなかへ………いや…元より認識する思考さえなかった少女には……もうなにが現実なのかさえ理解するのも叶わない……最期の最 期まで機械で…処刑人であり続けた哀れな……いや……哀しき少女の眼が…永遠に閉じられる………

離脱するフリッケライ……… 一拍後……コックピットから火が噴出し、機体を呑み込んでいく炎………

炎に灼かれていく様は……ま るで崩れ落ちていく様であった…………半壊した頭部がこちらを見ているようでシンは思わず眼を逸らす……そして…スピアーの先端に付着した微かに紅い液体 に気づく………

それが血だと認識した瞬 間……今一度炎に包まれるエインヘルヤルに眼を向けた瞬間……半壊した頭部が融け…エインヘルヤルは爆発した…………

その爆発を見届けながら…シ ンは内に巣食う冷たさに思わず計器を叩きつけた………

「くっそぉぉぉぉぉっ!」

倒したというのに…敵を倒 し……大切なものを護り切ったというのに……この後味の悪さはなんなのであろう………

そのシンに掛かる不安げな 声………

「シン……?」

寄り添うように近づくハイペ リオンに…シンが呆然と呟く。

「ステラ……」

「泣いている……シ ン……?」

無邪気に…そしてなによりも 純粋に心配するステラに……シンは眼に溢れる涙を抑え切れなかった………

「うぅううぅ……う わぁぁぁぁぁっ!」

「シン……シン………」

泣き続けるシンに……ステラ はただ静かにシンの名を呼び続けるだけであった………

敵を倒した…それは空想のな かにあるヒーローの所業であろうが……現実は違う……現実は…果てしなき業の深いものだと……漠然と少年の心に刻み込まれた………

そして……散った少女の心 は………救われたのか…それは誰にも解からない……所詮…人は神ではない…全てを……知ることも救うことも……叶わない……だがせめて…散った少女の心に も救いがあらんことを………

 

――――C.E.71.10.2 20:24……

――――RGX−P00U: エインヘルヤル撃破………

――――幽霊の処刑人:ユウ リョング=デル=ヘンケル戦死…………

 

 


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