白き天使が群がるように赤と
青のMSに襲い掛かる……パワードレッドとブルーセカンドLを駆るロウと劾は咄嗟に左右に分かれ、放たれる閃光をかわす。
「こんにゃろぉぉっ!」
残った右腕アームを振り被
り、巨大なビーム刃を振るうもエンジェルは悠々とかわし…眼を見開くロウに向けて衝撃が襲いかかる。
「っ!」
幾条ものビームが煌き、ロウ
のミーティアを襲う……右舷ランチャーとエンジンが撃ち抜かれ、ロウは咄嗟にパージする。爆発に振動が襲うなか、歯噛みしてミサイルを発射するも、エン
ジェルは掠りもせずかわす。
「なぁっ、なんてスピードだ
よっ、8! ちゃんと狙ってんのかっ!?」
あまりに異常なその機動性に
驚き、思わず愚痴るも8は冷静に分析し、モニターに表示する。
【敵ノ反応値ハ高イゾ】
「高いってどれぐらいだ
よっ!」
必死に回避行動を取りながら
怒鳴るロウに8は分析し…最適な比較を表示した。
【ブルーフレームト同等……
モシクハソレ以上】
「なぁっ!? マジか
よっ!」
それが半ばロウには効果的で
あった……何度か実際に対峙した時に劾の戦闘能力を垣間見ている。逆立ちしてもロウが敵うような相手ではない…しかもその劾をも上回る反応速度を持つ可能
性があるなど……勝ち目がまったくないといっていいに等しい状況であった。
そして…またもやエンジェル
の振り被った双斧刀が迫り、右腕アームを斬り裂く。
舌打ちするロウに8がまたも
や表示する。
【撃墜サレル可能性99%…
念仏デモ唱エルカ?】
なんとも有り難くない予
測……しかも最後の言葉はいったい何なのであろうか。
「お前本当にコンピューター
かよ……なんとか切り抜ける方法をせめて表示しろ、よ!」
呆れた面持ちで…だが、微か
に上擦った口調で悪態をつきながら斬り落とされたアームで接近していたエンジェルを殴ろうと振るうも、エンジェルはそれを逸早く察して反対の空いた隙から
攻めるも…ロウはニヤリと笑う。
「あまい……っ!」
振り上げた右腕アームをパー
ジし、その反動を利用してエンジェルに向けて加速し、体当たりを喰らわす。そして、両腕にガーベラとタイガーを抜き、エンジェルを斬り裂く。
ボディを斬り刻まれ、エン
ジェルが爆発する。
「へっ、どんなもん……っ
て!」
浮かれる間もなく……別のエ
ンジェルが攻撃してくる。
【喜ンデル場合ジャナイゾ…
ミーティアノエンジン臨界突破マデアト28】
「なにぃぃぃっ!?」
先程からの被弾でミーティア
も反応炉が臨界を超えている……ロウは眼を見開きながら、パージを強制解除させる。
「ったく…壊すのは好きじゃ
ねえけど……っ!」
壊れたものを直すのが生き甲
斐であるロウにとって壊すというのは正直あまりいいものではない……だが、それも時と場合だ。
「あとで必ず直してやっから
な……今は勘弁してくれよっ!」
そう詫びの言葉を呟くと……
ミーティアを着脱し、脇に備えていた巨大な鞘を取り、離脱する。刹那……ミーティアが爆発する……舞い上がったパワードレッドは鞘を纏った巨大な刀:
150ガーベラを構えるも、その巨大故に小回りのきくエンジェルにとってはいい的でしかない。
一斉に鞘に向けてドラグーン
を放つエンジェル……幾条ものビームが鞘を構えるパワードレッドへと着弾し、火花が散り…激しい爆発に包まれる。
それを見詰めるエンジェ
ル……既に破壊したものとタカを括っているのか…エンジェルのバイザーがセンサーを表示し、熱源を辿る……次の瞬間……爆煙より姿を見せる巨大な刀身……
その光景に戸惑うエンジェル………爆煙から飛び出してきたパワードレッドが両手に抱える巨大な150ガーベラを振り上げる。
鞘ごと刀身が砕け散ったもの
と油断していたエンジェルに向けて150ガーベラを振り下ろす。
「チェス
トォォォォォォォッ!!!」
振り上げられた刃が加速と合
わさって振り下ろされ……その加速と質量が加わり、エンジェルのボディを縦に斬り裂いていく。
それだけに留まらず、何機も
その刃で斬り裂きながら振り下ろすパワードレッド……次の瞬間…エンジェルが次々と爆発する。
それを見届けるパワードレッ
ドの両腕の過負荷を逃すように気圧が漏れる……コックピット内でロウはニッと笑みを浮かべる。
「へっ…こいつは簡単には折
れねえぜっ!」
自らの魂とそれに連なる者達
の意思がこめられたこの刃……そう簡単に折れはしない。だが、ロウは戦闘のプロではない。所詮はジャンク屋上がりのパイロット……今のは不意を衝いたから
こそなんとかなったが、切り札を見せた時点で既に不利さは覆されない。
いくら巨大を誇るといっても
所詮は近接武器…しかも、動きが大きすぎて小回りのきく小型兵器はやりにくい。それをすぐさま収集したエンジェルは距離を取っての砲撃戦に切り替える。
ランチャーとドラグーンの応
酬が襲い掛かり、ロウは慌てふためく。
「おわっ!」
咄嗟にガーベラを突き立てて
ガードするものの、全てを防げずに吹き飛ばされる。
「どわぁぁぁぁっ!」
弾き飛ばされるパワードレッ
ドに向けてトドメを刺そうと構えるエンジェル……バイザーの照準がパワードレッドにセットされた瞬間……密集していたエンジェルのなかに突如飛来するコン
テナ……そのコンテナに一機が激突し、態勢を崩す。
それによりエンジェルの動き
が一瞬止まった瞬間……上方より撃ち込まれたビームがコンテナを貫いた瞬間、コンテナ内に積載されていたミサイルが誘爆し、コンテナとミサイルの破片を四
方八方へと弾き飛ばす。
無重力の宇宙空間で弾け跳ぶ
破片は絶大な力を誇る……細かな幾つもの破片がエンジェルに襲い掛かり、機体を破片が幾つも貫通し、エンジェルが爆発する。
コックピットで打ちつけた箇
所を擦りながら身を起こしたロウはその光景に頭を捻り…そして、その視線が爆発の上方に位置する機影を捉えた瞬間、軽く笑みを浮かべた。
「よう、助かったぜ」
その機影:ブルーセカンドL
に向けて思わず手を挙げて親指を立てる。
「けどよっ、お前らしくない
無茶な戦法だったな」
先程の光景を作り出した過程
にロウは苦笑を浮かべる……今のは、ブルーセカンドLの扱っているミーティアのランチャーが打ち出され、それにビームを放つという戦法だった。だが、劾に
してはあまりに荒っぽい手段だけにロウもからかうように笑みを浮かべるが、劾はさして表情を変えずに呟く。
「この状況では少しでも身軽
になった方がいい……それに、お前の援護のために合理的に行動したまでだ」
「合理的…ね」
言いながら、劾はミーティア
から機体をパージさせる……正直、通常の戦力ならいざ知らず…このエンジェルを相手にしていてはミーティアは足枷でしかない。
「援護は一度だけだ……次か
らは自分でなんとかしろ…それができないようならここで帰れ」
素っ気なくロウに向けて言い
放つ……ロウとパワードレッドの組み合わせは確かに並みのパイロットに匹敵するぐらいの力量はあるものの、それではやはり分が悪い。劾も援護するのは一度
のみ…それ以上は回れるほど余裕もない。
「へっ、心配ありがとよ……
けどなっ、男は引いちゃならねえ時は絶対引くなって死んだ爺ちゃんが言ってたんでな!」
ロウも当然劾の意図は察して
いる……劾のお荷物にしかならない現状は理解しているが、ロウにしてもなんの覚悟もなしに飛び込んだりはしていない。当然、相応の覚悟はあるし、なにより
助けられっぱなしなのはロウにとって我慢がならない。なら、見捨ててもらった方がなにか、信頼のようなものを感じられる。
良くも悪くもプラス思考に…
そして滅多に深く考えないロウらしい覚悟であった。
劾もなにも言わずに一瞥し、
2体のアストレイは背中合わせに周囲を窺う。
「そっち、何機残ってるん
だ?」
「最初に確認した二十数機の
うち、破壊したのは十数機だ…まだ4分の1は残っている」
状況を分析する能力は流石に
一級品なのか……劾の観察眼は鋭い。最初に囲まれた時に一瞬で全体を把握し、敵機の数を大まかに把握したのだ。
【周辺ニ反応7】
やはり正確だ……劾の評通
り、パワードレッドとブルーセカンドLの周囲には未だ健在のエンジェルが約7と8の分析でも出ている。
先程まで倒した敵機のなかに
肝心の奴の姿は見つからなかった……となれば……
「それのどれかに…奴が寄生
しているってことか?」
「間違いない…奴は本体であ
るコアを使って機体を乗り換えていたからな」
ロウと劾の気に掛ける相手…
それは、遂先日のジェネシスαの攻防にて撃破したMS:リジェネレイドであった。パワードレッドのレッドフレイムで彼方へと吹き飛ばしたはずの機体がこの
戦場に…再びロウと劾の前に姿を見せた……あの機体には、コネクターのあるMSなら接続し、機体を乗っ取ることも可能となる特殊機能があった。
なら、先程からこの戦場にて
展開していたエンジェルにも当然寄生していたはずだ。まだその残骸が見つからないところを見ると……展開している7機のどれかに寄生している。
「一つずつ潰せば、奴は逃げ
場を失う……お前は敵を牽制しろ」
「へいへい…んじゃ、いく
ぜっ!」
相槌を打ちながら2機は分散
し……固まっているエンジェルに向けてパワードレッドがガーベラを振り被り、エンジェルに向けて振り下ろす。
大振りに振られた刃は掠めも
しないが……敵機を牽制することはできた……回避するエンジェルに向けてガトリング砲を放つブルーセカンドL…防御するエンジェルの形状を瞬時に視界に確
認する劾……そして、目標がないことに舌打ちする。
だが、目標は見つからなくと
も敵機は破壊する……タクティカルアームズを剣へと変形させ、一気に加速する。迫るブルーセカンドLに向けてランチャーで発砲してくるエンジェル…その射
撃の正確さ…装甲を掠めるも、正確なだけに読むのは可能だ。紙一重でかわしながら距離を詰め、剣を振り下ろすもエンジェルの反応が速く、光波シールドを掲
げて受け止める。
眉を寄せる劾……だが、エン
ジェルに向けて振り下ろされるガーベラ……突如頭上から降り掛かった巨大な衝撃に頭部をひしゃげさせ、吹き飛ぶ。その光景に微かに息を呑む劾…だが、その
好機を逃さず、腿のアーマーシュナイダーを抜き、懐に飛び込んでボディに突き刺す。
突き刺されたエンジェルが断
末魔のごとく機体を痙攣させ…機能を停止すると、蹴り飛ばし……刹那、エンジェルが爆発する。
「おっしゃぁっ!」
一機撃破にガッツポーズを決
めるロウだが……劾は表情が優れない。
敵の反応の適応能力はある程
度察していたが…ここまで適応が速いのは流石に予想外だ。時間を掛ければ、劾でも反応できなくなるかもしれない。
あまり時間は掛けていられな
い……その時、後方から殺気を感じ、振り向くと同時にエンジェルが双斧刀を振り上げて迫る。
「っ!?」
僅かに息を呑むも、劾は卓越
した反射で振り向きざまに剣を振り上げ、双斧刀を受け止めるも、その力に押される。刹那…エンジェルの後方から覗く影……劾がハッとした瞬間、機体を後方
へと跳ばせる。
次の瞬間、閃光が機体を掠
め……ブルーセカンドLの装甲を抉る。エンジェルの背中から覗いているのは…ダークパープルの蟲のようなユニット……リジェネレイドのコアパーツ…そし
て……そのコックピットにはニタァと笑みを浮かべる男…アッシュの姿があった。
「けけけけっ……青い
奴………壊してやる…壊してやるぅぅぅぅぅ」
眼前に佇むブルーセカンド
L……以前…もはや自意識を保ってもいないアッシュにはそれが自身を今の状態へと追い込んだ機体と知りもしない……ジェネシスα宙域から吹き飛ばされ…宇
宙空間をただ加速したまま漂うだけだったリジェネレイド…だが、デブリベルト付近に差し掛かった瞬間……機体は回収された……天使に………既に酸欠で虫の
息であったアッシュ……だが、哀れな狂人にはまだ舞台へと上がる資格が残されていた……
微かに残っていた自意識さえ
も無くし…自らを倒した敵の姿のみをその脳裏に浮かべる……そして……寄生されたエンジェルが牙を向く。
ドラグーンが展開され、ブ
ルーセカンドLに襲い掛かる。
微かに歯噛みし…回避行動に
入る劾……その光景にロウが声を張り上げる。
「劾っ!?」
劾がそう簡単に敗れはしない
と信じているが、それでもやはり絶対はない……援護しようとするも、阻むように残りのエンジェルがパワードレッドに襲い掛かってくる。
放たれるビームを危なげにか
わすも、動きが封じられる。
歯噛みするロウ…そこへ響く
振動………ハッと振り向くと、エンジェル一機がパワードレッドを後方から拘束し、掴み上げていた。
「なっ!?」
【敵ノ攻撃機動ポッドト思シ
キ熱源、接近】
眼を見開くロウの前に8が表
示し……ドラグーンの砲口がこちらへと向けられる。パワードレッドの後方には味方もいるというのに……お構いなしという現状にロウは当惑するも、操縦桿を
引く。
「こんのぉぉぉぉぉっ!!」
掴み上げているエンジェルの
腕を取り…パワードレッドのパワーで強引に引き剥がす…同時にドラグーンから放たれる閃光が眼前に投げるように引き剥がしたエンジェルに着弾し、爆発す
る。
爆煙が舞うなか…飛び出す赤
い機影……エンジェルの一機に向けて拳を突き出すパワードレッド……至近距離の爆発によって、機体の装甲が焼け焦げている。
だが、それに怯むことなく繰
り出される一撃……レッドフレイムの一撃がエンジェルの頭部を歪ませ、続けて振り被った片方の拳にボディを深く抉られ……弾き飛ばされるエンジェル……そ
のまま残骸に激突し、爆発する。
「ぜぇ、ぜぇ……」
【稼働率73%ニマデ低
下……エネルギー残量57%ダ、注意シロ】
「わぁってるよ!」
悪態を衝きながら、パワード
レッドは両腰部から剣を抜き、構える。150ガーベラから離れた今……使えるのはこの2刀のみ。
エンジェルの残りの数はあと
3機……内一機が劾側へと回り…残り2機は劾の戦闘宙域へと向かう進行方向に滞空している……問題は、装甲の薄いパワードレッドが耐え切れるかどうか
だ……
「いくぜっ!」
だが、そんな恐れなど感じさ
せず…ロウはペダルを踏み込み……パワードレッドが加速する。
パワードレッドに向けて砲撃
してくるエンジェル……ロウは両手のガーベラとタイガーを振り…斬撃の壁を作り出す。その斬撃が飛来するビームを斬り裂く。
戸惑うエンジェル……ロウは
鼻を鳴らす。
「へっ! 爺さん仕込みのこ
の刃は、そう簡単には折れねえぜっ!」
一度折れたガーベラと蘊・奥の形見であるタイガー……かつて、蘊・奥のジンがタイガーを使ってビームを斬り裂いた光景を見たロウは一か八かの賭けで実践し
た。
高速で振られる刃と匠の技の
結晶である2刀には、強靭ななにかが宿っている……ドラグーン程度のビームでは砕けない。
だが、それでも逸れるビーム
が装甲や両腕のパワーシリンダーを掠め、レッドシグナルが表示される。
【危険危険! パワーシリン
ダー内の圧力上昇!】
限界が近いパワーシリンダー
だが、ロウは構うことなくエンジェルに向けて突撃する……至近距離まで迫った瞬間……ロウは口端を微かに吊り上げた。
「もらったぜっ! 撃て、
8!」
背腰部に固定していたビーム
ライフルを外し……ロウはキーボードを操作しながら怒号を上げる。
【了解! オートロック…
ファイヤ!】
それに応じる8のモニターに
大きな文字が表示され……ビームライフルからビームが放たれ……エンジェルの頭部を撃ち抜く。
態勢を崩す一機に向けて両手
の刃を突きつける……ボディ胸部を串刺しにする刃……そのまま横へと振り、両腕を斬り飛ばす。流れるように下方へと振り、残った脚部を斬り落とす……ダル
マとなったエンジェルから離れ…袈裟懸けに振り上げた刃が脇にいたエンジェルの頭部を突き刺し……機能を停止する。
「ぜぇ、ぜぇ…け、結構やば
かったな……」
パワードレッドの頭部が半
壊……ガーベラもタイガーもビームの応酬を受け続けたせいで刀身が異常な熱を帯び、パワーシリンダー内も連続した動きにオーバーヒート気味だ。
【無茶シスギダ……私ノ計算
デモ成功確率ハ1%未満ダッタゾ】
確かに天文学的な確立に近
かったかもしれない……パワーシリンダーと対艦刀を盾にして懐に飛び込んだまではよかったが…その先はまさに出たとこ勝負の行き当たりばったりだ。8によ
るビームライフルの遠隔操作を行なえるという改修がなければ…まず間違いなく自爆していた可能性が高い。
「へっ、俺の悪運は宇宙一だ
ぜ!」
そんな奇跡と称するほどの可
能性を己の悪運と片付ける男……そして、ロウは劾の方を見やる。
「そういや、劾は……っ」
【急ゲ】
「わぁってるよ!」
すぐ近くで咲き乱れる火線に
向けて加速するパワードレッド……その先では、2体のエンジェル相手に劾が苦戦をしいられていた。
ブルーセカンドLのガトリン
グ砲をエンジェルは光波シールドで防ぎながら、ドラグーンを展開する。
劾は舌打ちして回避する……
機動性の高いブルーセカンドLのおかげで今のところ致命傷はないが、このままではエネルギー切れが起こる。
打開策を逡巡する劾に向けて
エンジェルが双斧刀を抜き、斬り掛かる……間髪入れず、剣へと変形させ受け止める。エネルギーをスパークさせながら、劾は後方にリジェネレイドが確認でき
ないのに眼を見張った。
「しま…っ!?」
迂闊と毒づく前に別方向より
放たれたドラグーンによって、ブルーセカンドLの右脚部が破壊される。それと同時にもう一体のエンジェルがブルーセカンドLに掴み掛かり…その背中に寄生
していたリジェネレイドのアームが機体を掴む。
「ひゃははははははっ」
嘲笑を浮かべながら…リジェ
ネレイドのアームが伸び、ブルーセカンドLのボディに掴み掛かり…背後を取る。刹那…リジェネレイドのコネクターがブルーセカンドLのバックパックのコネ
クターに接続される。
瞬時にシステムが掌握されて
いくブルーセカンドL……コックピット内で劾は歯噛みして外部アクセスを遮断しようとするも、侵食は速い…システムのハッキング対策も行なってはいるもの
の、その異様なほどの侵食速度に成す術もなくシステムが乗っ取られ…コックピット内のモニターがブラックアウトする。
ブルーセカンドLの瞳から光
が消え……糸が切れた操り人形のように四肢から力を抜く。
「劾っ!? お前まさ
か……っ!」
その時になってようやく到着
したロウはそのブルーセカンドLの姿に眼を見開く。
【ブルーフレームノシステ
ム…完全ニ敵ニ侵食サレテイル……マズイゾ、ロウ】
背後に寄生しているリジェネ
レイド……以前、ジェネシスαでの攻防でもロウはこのシステムに一度やられかけた事がある……あの時は、8という量子コンピューターのサポートのおかげで
なんとか完全にシステムが掌握されるのは避けたが………しかし、今度はブルーセカンドL……よりにもよって一番やり難い相手だ。
「……おまぁえぇぇは……お
おう…頭がジンジンしてくるぜぇぇ…おまえぇをぉぉ見ているとなぁぁぁぁ」
眼前に佇むパワードレッ
ド……その姿がアッシュの脳裏に不快な痛みとなって駆け巡る………アレを破壊しろと…脳裏に声が響く。
それに導かれるままに……
アッシュは口元を歪め……寄生するリジェネレイドのバックパックによって操られるブルーセカンドLがユラリと身を起こし……その消えていた瞳に赤が灯
り……パワードレッドを睨む。
ロウが息を呑んだ瞬間……ブ
ルーセカンドLは加速し……剣を振り上げ…ロウも反射的にガーベラとタイガーを引き上げ、クロスさせて受け止める。
金属の摩擦音が響き……鍔迫
り合いしながら対峙するパワードレッドとぶるーセカンドL……ロウは歯噛みする。
「くそっ、8! 劾と通信
は…!?」
【通信システム及ビ全テノシ
ステムヘノ外部アクセス不可】
システムが完全に掌握されて
いる……歯噛みするロウ…迫るブルーセカンドL………互いに鍔迫り合いを続け、弾き飛ばして距離を取る。
ガトリング砲を放つブルーセ
カンドL…それに合わせて背後のリジェネレイドのビームキャノンが火を噴く。
それらをかわしながら……ロ
ウはブルーセカンドLを…そのなかにいる劾を見据え…静かに苦笑を浮かべて肩を竦める。
「あんたらしくねえな……あ
んたなら、任務に失敗した以上、自分ごと自爆とかやりそうだけど………」
攻撃を掻い潜りながら…パ
ワードレッドは加速する。
「けどよ、俺の前でそいつを
壊されるのは嫌なんでね…さっきの借り………返すぜ、劾!」
加速するパワードレッドが両
手のガーベラとタイガーを離し、ブルーセカンドLに掴み掛かる。そして…片手でブルーセカンドLの頭部を掴み、もう片手でリジェネレイドを抑え込む。
「っ!?」
眼を見開くアッシュ…そし
て、ロウはニヤリと笑みを浮かべる。
「8! 強制アクセスだ!
ブルーのシステムをハッキングしろ!」
【了解!】
掴んだ手のデバイスからブ
ルーセカンドLの頭部の回線を通してブルーセカンドLのシステムへと侵入する8……元々、ブルーセカンドLの頭部はロウがレッド用に造ったもの…当然、内
部構造も把握している。システムのリンクが可能かは一か八かだったが…どうやら、劾も頭部に変更はさほど加えていなかったらしく、直接のアクセスは成功し
た。
8によってブルーセカンドL
内のシステムが徐々に取り戻され…ブルーセカンドLの瞳に元の色が戻る。逆にリジェネレイドの方にはウイルスが押し流され…機体が麻痺を起こしている。
【COMPLETE】
その文字が表示された瞬間…
パワードレッドは掴んでいたリジェネレイドを強引に引き剥がし……投げ飛ばす。
「よっしゃぁぁっ! っ
て!」
投げ飛ばしたリジェネレイド
を受け止めるエンジェル…そして……ドラグーンの砲口がこちらへと向けられるが、それに向けて飛ぶナイフ……砲口に着弾し、爆発する。
ロウが見やると…ブルーセカ
ンドLが静かに顔を上げる。
「へっ、ようやくお目覚め
か、劾?」
「フッ……礼は言っておこ
う」
口元に微かな笑みを浮かべ、
劾は呟く……あの瞬間……8のハッキングを確認したと同時に劾もシステムをアクセスし、コントロールを戻した。
二人は身構えて敵機を見やる
が……リジェネレイドはエンジェルに抱えられたまま動きが鈍い。
眉を寄せる劾にロウがしたり
顔で鼻をこする。
「へっ、さっきのアクセスで
奴にウイルスを流してやったのよ……以前、俺達に使われた奴をな」
以前……ロウ達はカナードら
がまだ特務隊Xだった頃に襲撃され、その時に艦内にウイルスを使用されたことがあった。ウイルスはジョージが駆逐したものの、次に備えてウイルスを解析し
ていた。そのウイルスを応用したクラッシュシステムだ。
「ジョージのお手製だから
な…すぐには回復しねえ……チャンスは今しかねえ」
なにか気合の入ったジョージ
がつくったウイルスだが、長くは保たない……だが、既にパワードレッドもブルーセカンドLもほぼ満身創痍だ……エネルギーも残り少ない……チャンスはもう
一度しかない。
エンジェルは残り2機……そ
して……劾は決断する。
「一機ずつ仕留める……お前
は右をやれ」
本来なら、傭兵が素人にこん
な事を任せるのは不本意であろうが……それはロウの力量を信頼してのことか……ロウも不適に笑い……ガーベラとタイガーを構える。
そして…どちらからともなく
駆け出す………ブルーセカンドLのガトリング砲が放たれ、エンジェルを牽制する。その隙に左右に跳び……パワードレッドが両手の対艦刀を振り上げ、エン
ジェルを斬り飛ばす……装甲がひしゃげたエンジェルが宙を舞い……ブルーセカンドLは懐に飛び込み……光波シールドをタクティカルアームズの犠牲とともに
無効化し、アーマーシュナイダーをコックピットへと突き刺す。
加速したまま突破した2機は
一気にリジェネレイドへと迫る……だが、その瞬間にはリジェネレイドはコントロールを取り戻し……唯一残ったビーム砲を放ってくる。
「死ねぇ死ねぇえ死にやが
れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
幾条も放たれるビームが2機
を掠め、装甲を融解させるも…ロウと劾は怯まず……加速する。パワードレッド上を取り、刀を振り上げてアームの間接部へと振り下ろした……加速とともに振
り下ろされた刃がアームを斬り飛ばし……アッシュの眼が見開かれ、その眼が瞬いたほんの一瞬……アッシュの眼に映るのは眼前へと迫る光の刃……
「……貴様とは、これでお別
れだ」
静かに呟き…劾の眼がリジェ
ネレイドのコックピットハッチへと向けられ……突き出されたビームコーティングのアーマーシュナイダーがハッチを突き破り……アッシュの身体へと突き刺さ
る。
「ゴッ…ップ……あ、ア
レ………俺ぁ、死んだんじゃなかったのか………」
眼に微かな色が戻る……流れ
る血…………記憶が微かに脳裏を過ぎる………パワードレッドによって吹き飛ばされたあの瞬間に……そして…その記憶が再び眼前で再現されようとしてい
る………
裂けたハッチの隙間……そし
て割れたモニターに微かに映る赤い機影………巨大な腕を大きく振り被る………
「ひゃははは……そうかよ…
また……貴様が…俺をころすのかよぉぉぉ…最高じゃねぇぇかぁぁぁぁ! ひゃはは……がはっ!」
笑い上げた瞬間……繰り出さ
れたレッドフレイムが突き刺さったアーマーシュナイダーの柄へと叩き込まれる。
「これで……最期だっ!!」
残された全エネルギーを込め
たレッドフレイムが突き刺さり……重い衝撃がリジェネレイドに襲い掛かり、機体を大きく歪ませ…弾き飛ばされる。
吹き飛ばされたリジェネレイ
ドは浮遊していたデブリに激突し……コックピット内でアッシュの身体から破片が貫通して突き出し、吐血する。
ショートし……沈黙するリ
ジェネレイドにパワードレッドとブルーセカンドLは警戒しながら近づく。
「やった…か?」
もう余力はない……これで決
着がつかなければ………もう機体はほぼ全壊で動くのもままならない。機体状態を確認する劾……そして……近づく2体をもう半ば死人と化したアッシュがユラ
リと顔を上げ、その視界に収めると……口元を歪め………
刹那、リジェネレイドが飛び
出し……不意を衝かれたロウと劾は縺れるように掴み掛かるリジェネレイドに眼を見開く。
「ひゃ…はは! い、一緒に
逝こうぜぇぇぇ!! 地獄へなぁぁぁぁぁっ!」
アッシュの断末魔の叫び…そ
れに呼応して起こるリジェネレイドからの閃光………ロウと劾がそれをなにかと悟った瞬間………衝撃となにかの発射音………
2機の間を掠め…打ち込まれ
た3本の槍………リジェネレイドのボディに突き刺さると同時に鋭い衝撃が二人を襲う……刹那…巨大な爆発が轟いた…………
その爆発を見下ろす3つの機
影………
「あっぶねぇ…」
ロウがどこか呆然と上擦った
声で呟く……あの爆発に巻き込まれていたら、まず間違いなく装甲の薄いアストレイでは木っ端微塵になっていただろう…それこそ奴とともに……
「……感謝する、ロンド=サ
ハク」
劾は無感動にそれを一瞥する
と、パワードレッドとブルーセカンドLを抱えている機体:ゴールドフレーム天に向けて短く礼を述べた。
「……礼を言われるほどでは
ない……だが、奴には私も借りがあった。それを返せなかったのは少々口惜しいな」
不適な笑みを浮かべて応じる
ミナ……あの瞬間……リジェネレイドが2機に掴み掛かると同時に背後から姿を見せたゴールドフレーム天がトリケロス改のランサーダートを発射し、リジェネ
レイド串刺すと同時に2機の腕を取り、急加速であの場から離脱したのだ。アームが破壊され、拘束が不可能であったリジェネレイドの状態を差し引いてもギリ
ギリのタイミングであっただろう。
だが、ミナにしてもやや残念
なのは自分も戦いに加われなかったこと……あのリジェネレイドには少々借りがあった。アメノミハシラ攻防戦に折に自機に傷をつけられたという借りが……だ
が、二人を道連れにしようとしたアッシュの思惑を壊し…また、最後に手痛いダメージを与えた……それだけでも満足とはいい難いが、一応の借りは返せたと思
い直すことにした。
「それより、どっかに収容し
てくれねえか…もう機体がボロボロでよ……」
「近くに貴様の艦が来てい
る……私も補給がしたい。着艦させてもらうぞ」
「ああ、いいぜ」
ゴールドフレーム天も先程か
らの戦闘で弾薬とエネルギーの消耗が大きい……スサノオに戻って補給したいが、遠すぎる。
近くにいる友軍艦…とはいい
難いが、民間艦のリ・ホームしかない。
牽引され……パワードレッド
とブルーセカンドLを引き連れ…ゴールドフレーム天はリ・ホームへと向かう……かつては敵対していた3機……兄弟機として開発されながらも数奇な運命を辿
り、バラバラとなった3機は……今…僅かな刻ながら共にあった………
後退するなかで……ロウと劾
は今一度……既に細かな破片となったリジェネレイドを見やる…あの爆発では、もう流石に生きてはいないだろう………
あいつは……アッシュは恐ら
く、生きる時代を間違ったのだ………そして…その地獄から解放されたのか…それは二人にも解からない………
――――C.E.71.10.2 20:41……
――――ZGMF−X11A
U:リジェネレイド撃破………
――――元ザフト軍特務隊:
アッシュ=グレイ戦死…………