そして……スサノオを母艦と するオーブ軍は懸命にエンジェル及び敵MS隊との戦闘を繰り広げていた。

「怯むなっ! 各機連携して 敵機に当たれ!」

戦死したグランより指揮官を 引き継いだジャンが陣頭に立ち、M1隊が固まってスサノオを背に必死の交戦を続けている。

デュエルダガーやシグーが ビームの集中砲火に晒され、撃ち砕かれていく。

その時……ジャンの眼に巨大 な物体が飛来した。

「ぬっ!」

身を捻り…その飛んできた物 体をかわす。

それは…この宙域に数多く浮 遊するデブリ……ハッと顔を上げると………スサノオ前方に立ち塞がる戦艦が数隻……軍の艦艇ではない。どちらかといえば、ジャンク屋の作業艦に近い……そ の艦の船体に備わった作業アームが周囲に無数に浮遊しているデブリを掴み、カタパルトにセットし……打ち出してくる。

数隻の艦隊から降り注ぐデブ リの嵐……それがM1隊に襲い掛かる。

ジャンは歯噛みし…M2の ビームライフルでデブリを狙うも、加速するデブリはその強度を増し…破壊しても四散するデブリの奥からさらに次のデブリが向かってくる。

戦闘能力のないジャンク屋の 作業艦……だが、この地形がその艦を最恐の存在に仕立てている。このデブリという無数の弾が漂うという地形が…………

絶え間なく放たれるデブリに 向けて必死に応戦するM1隊だが、この嵐に遮られ、完全に進軍を止められる。だが、敵はデブリだけではない……デブリを掻い潜ってくる純白の機影……エン ジェルの砲口が火を噴き、M1を撃ち抜いていく。

「た、隊長…う わぁぁぁぁ!」

破壊されていく僚機にジャン が歯噛みするも……その意識も眼前に双斧刀を振り翳してくるエンジェルに掻き消える。

反射的にビームサーベルを抜 き、受け止めるも……重さと熱量が違いすぎる。純粋にパワー負けし、押し切られようとする……だが、そのエンジェルの頭部が撃ち抜かれ…機能を麻痺させ る…その隙を衝き、機体を弾き……距離を取る。

ビームライフルを構え…放た れるビームがエンジェルの両腕、両脚部を正確に撃ち抜き、戦闘能力を奪う。

「大丈夫かよ!?」

M2の傍に現われるゲイツ 改……ミゲルが問うと、ジャンは苦く応じる。

「ああ…だが、正直マズイ状 態だ」

「そのようだ…ね!」

相槌を打ちながら身を翻 し……ゲイツ改がフルバーストし、降り注ごうとしたデブリを撃ち抜き、破壊する。

四散するデブリの破片が周囲 に降り注ぐ……それを見やりながら、悪態を衝くが…それに混じって突撃してくるエンジェルがゲイツ改とM2に襲い掛かる。

「くそっ、このままじゃヤバ イぜ……っ!」

ビームで狙撃し、距離を取る ゲイツ改……デブリの嵐に晒され、スサノオは身動きが取れず……おまけにこのエンジェルの襲来………

放たれるビームをエンジェル のシールドで無効化され、逆に火線に晒され、回避するM2。

「ああ……このままでは、部 隊も母艦も長くは保たんっ!」

ジャンも険しい面持ちで呟 く……既にMS隊の損耗も大きいなか……他の友軍艦からも半ば孤立した状態であるスサノオ…そして、エンジェルの猛攻に……どれだけ耐えていられる か………

振り被るビームクローを悠々 とかわし、ビーム弾を放つエンジェルにスラスターを掠められ、損傷が振動する。

「ぐっ…せめて、こいつらを なんとかできりゃ……っ!」

このエンジェル群をなんとか しなければ……自分達に勝機はない………ミゲルもジャンもそう憶えながら、活路を開こうと機体を駆る。

そして…母艦たるスサノオも また激しい砲火とデブリに晒され、身動きが取れず…対空砲火とMS隊の援護でなんとか持ち堪えていた。

飛来するデブリをゴッドフ リートと甲板上のアーマードM1隊がミサイルの応酬で破壊し…飛来するMS隊を対空防御で牽制し、M1がビームライフルで屠るも、いつまでも続かない…… バルファスのビームキャノンが火を噴き、M1のボディを撃ち抜き、破壊する。

破壊されたM1の破片がスサ ノオに激突し、船体が激しく揺さぶられる。

「きゃぁぁっ!」

振動が伝わる格納庫では、 ジュリの悲鳴が上がる。

傍にはアサギやマユラの姿も ある……砲火が飛び交うなかをなんとかスサノオへと帰還した彼女達であるが……絶え間なく続く振動に神経を過敏にしている。

「ねぇ、まだ出られない のっ!?」

思わず咎めるような口調でマ ユラが整備班に向けて問うも、整備班から焦った返答しか返ってこない。

「やってますよっ! 今、ど の機体もまともに動かせるようにするだけで手一杯なんですよっ!」

そう……被弾して収容された 機体はアサギ達だけではない…バリーや他にも多くのパイロットが帰還し、なかにはほぼ全壊で収容され、重症を負い、医務室へと運ばれたパイロットも多い。

そして、整備班は被弾した MSの損傷の少ないものを優先的に修理し、なんとか発進させようとしているが………それでも艦の被弾による応急処置など、手が足りないのだ。

またもや振動が響き、アサギ 達は揺れる格納庫で悔しさに歯噛みする。

そして……激しい砲火に晒さ れるスサノオのブリッジでは、オペレーター達の悲鳴に近い報告が飛び交う。

「38区画、隔壁閉鎖!」

「MS隊、損耗率40%突 破!」

またもや船体に損傷が走り、 激しく揺さぶられ、クルー達は呻く。MS隊の損耗も大きい……そして、またもや上方より飛来する反応………

「敵艦よりデブリ、上方 8!」

「撃ち落とせ!!」

キサカの指示に呼応し、スサ ノオからゴッドフリートが放たれ、飛来するデブリを撃ち砕くも、デブリは絶えることなく敵艦より撃ち込まれてくる。

しかも、そのデブリに紛れて 向かってくる敵のMS……護衛に就いているMSもいつまでもつか解からない。

「右舷よりMS! エンジェ ル2! ダガー5!」

「対空! 近づけさせる な!!」

エンジェルを筆頭に向かって くるMS群……レーザー砲が集中して放たれ、エンジェルは回避するも、ダガーLがそれをかわせず、ボディに集中砲火を受け、爆散する。

だが、攻撃を掻い潜るエン ジェルがドラグーンを放ち、スサノオの対空火器を撃ち抜いていく。

「ぐぅぅ、このままで は……っ!」

既にスサノオの搭載火器も半 数近く沈黙している……このままでは、撃沈も時間の問題だ。

そして…オペレーションシー トでは、シルフィが必死に計器を操作し、解析を急いでいた。

(早く、早くしない と……っ!)

焦りながらも…彼女は戦況の 把握、そして同時にある機体、エンジェルの解析を大急ぎで進めていた。同時にいくつもの作業を行なうのは、相当のオペレーション能力を有する…いくら GBMが修理のために帰投し、その補佐が今は無くなったとはいえ、かなりの負担であるが、シルフィはそれを見事にこなしていた…それは……彼女に備わった 能力故か……

サブモニターに表示されるエ ンジェルの機構図へと何度も眼を走らせ…機体の弱点を探す。この絶体絶命の状況をせめて打破するには…エンジェルをなんとか無効化するしかない。

だが、焦りはなかなか回答を 彼女には赦さず……袋小路に陥り、さらに焦燥を促す。

そして……一瞬の隙を衝か れ…エンジェルの放ったビームがゴッドフリートを一門貫き、吹き飛ばした。

鋭い衝撃が船体を襲い、大き く態勢が崩れる。

「ゴッドフリート2番、沈 黙!」

「艦の損害率、53%を突 破! 推力も低下しています!」

じわじわと忍び寄る冷たい悪 寒……クルー達の表情が険しく顰まる。

シルフィは表情を泣きそうな ほど歪める……自分の力のなさを………だが…霞む視界のなかで…何気に見やったエンジェルの一点………そこは…昨夜、カムイが指摘した部分……

「え……確か、エンジェルに は量子通信システムが搭載されていた……でも、それはドラグーンの操作だけに使用されているんじゃないとしたら……」

一つの可能性が脳裏に閃き… シルフィは弾かれるようにコンソールに向き直り、キーを叩いてデータを表示させていく。

(もし、私の考えが正しいな ら……エンジェルは、個体としてではなく…群体として行動しているのだとしたら……)

今までは、エンジェルは生体 コアに使用されている人間のポテンシャルを限界まで引き出し、機体を操っているとばかり思っていた。だが…人格を完全に奪われている状態で、あれ程多数で フォーメーションを取るのはいくらなんでも無理だ。なら……それらの機体を統括するものがいるはず………自分と同じ…GBMを遠隔操作によって複数同時に 補佐し、オペレートできるような…オペレーション能力に特化した人物が敵側にいるとしたら……不可能ではない。

そして…それを可能としてい るのは……エンジェル内に搭載されている量子通信システム…今までそれは搭載されている特殊装備:ドラグーンシステムのためだと考えていたが…それは武器 であると同時にカムフラージュも兼ねていた。

(もっと早く気づくべきだっ た……っ)

そう……なんでその可能性を 見落としてしまったのか………己の不甲斐なさを悔やむも、その手は止まらない。今は、後悔するよりも先に対策を講じる方が先だ。解析を進め…やがて、表示 されたデータが自身の考えの裏づけを取ってくれた。

「やっぱり……っ!」

「どうした、ストラウ ス!?」

突然声を上げたシルフィにキ サカが思わず問い掛けると…シルフィはやや表情を弾ませて答え返す。

「はいっ、敵のエンジェルに もしかしたら混乱を起こせるかもしれませんっ」

「なに? 本当か!?」

その言葉にキサカだけでなく クルー達も驚きに眼を見張り、シルフィに視線を向ける。そして、シルフィは静かに頷く。

コンソールを叩きながら…エ ンジェルの解析データを表示させる。

「敵の機動兵器に搭載されて いる量子通信システム……私は、これを当初は敵機が装備している特殊兵装用と考えていましたが、それはカムフラージュだったんです……これは…GBMと同 じ……量子通信を使用した、ある種のネットワークシステムなんです」

エンジェル一機一機がいわ ば、兵隊蜂のようなもの……そして、それを統括するネットワークにより、エンジェル達はああも連携を取り、柔軟な行動が取れる。

「だから、その量子通信の ネットワークを狂わせれば……一時的にですが、敵を無効化させることができますっ」

ネットワークに向けて、ウイ ルスを送り込めば……効果はどれ程か解からないが、一時的にせよ、行動を鈍らせられる。

「……可能なのか?」

見やるキサカに…真剣な面持 ちで頷き返す。その表情に…キサカの決意は決まった。

「解かった……すぐ掛か れっ!」

「はいっ」

シルフィは矢継ぎのごとくコ ンソールに向き直り、ネットワークに混入するウイルスを製作し始める。

「全機に通達! 敵エンジェ ルをこれより一時的にだが混乱させる! スサノオを護り抜け!!」

スサノオが残っている火器を 放ち、そしてMS隊が必死に母艦の護衛に回る。

降り注ぐデブリに敵MSの攻 撃……それらの猛攻を前にスサノオとオーブ軍は懸命に応戦し、耐え抜く。

それを見届けながら、シル フィはコンソールを凄まじい速さで打ち、ウイルスを製作していた。

そして…問題は、このウイル スを敵機に送り込む術……一機に感染させれば、それはネットワークを通じて連鎖的に繋がる…だが、その最初の一機にどうやって…その時、シルフィはハッと した。

「艦長! 例のシステム、ス サノオに積んでありましたよね!?」

意気込むような問いに、キサ カは一瞬思考を巡らし…やがて、思い当たったのか、頷き返す。

「ああ……確か、試作品を ネェルアークエンジェルと本艦に搭載してあるはずだ」

「それを使います! すぐに 準備してください!」

有無を言わせぬシルフィの言 葉にキサカは応じる……どの道、現状打破の要はシルフィなのだ……彼女の言うとおりにするしかない。

「例のシステムを使用する!  スタンバイさせろ!」

「りょ、了解! システム起 動!」

スサノオの艦橋前方に内部よ り昇ってくる機器……出現したそれは、巨大なアンテナにも似たもの……それは、アメノミハシラ内で試作された送電システム。戦場に布陣するMSがバッテ リー駆動のために、それらの機体へと電波に乗せて送電し、戦場でバッテリーをチャージさせるレールカノンのような機能を持つ。それだけではなく、EMPを 発信することも可能で、対連合のストライクダガー用に開発されたものだが……未だ試作の域を出ず、ネェルアークエンジェルとスサノオに試験的に装着され た。

シルフィは、この送電システ ムを使い、エンジェルの一機に向けてアクセスし…そこからウイルスを送信するという方法を取った。

敵のシステムにアクセスでき るかどうかのハッキングは自分の腕に掛かっている……シルフィはやがて、エンジェルのシステムを麻痺させるウイルスを構築すると…それを送電アンテナへと 送る。

「準備完了しました! アン テナの送信先を、エンジェルの一機へと向けてください!」

「解かった…目標エンジェ ル……いいな、絶対外すなよ!」

戦艦で機動性の高いエンジェ ルを狙うなど…正直無理な話だが……やらねば、自分達が死ぬのだ。

「照準……マーク11β」

「送電システム…チャージ、 40%…50……60…」

アンテナ内部に送電エネル ギーが集束し…微かな迸りが起こる……後少し…その時、オペレーターの一人が声を荒げた。

「敵機、接近!」

どうやら、こちらの意図に勘 付かれたらしい……アンテナを潰そうと向かってくるMS…キサカは歯噛みし、指示を飛ばす。

「対空! 持ち堪えろ!!」

レーザー砲やMS隊が弾幕を 張るも……爆発を盾とし…突破するエンジェル……

「一機、弾幕を突破! きま す…っ!」

その言葉と同時にスサノオの ブリッジに肉縛するエンジェル……真紅のバイザーとモノアイが不気味に覗き込み、クルー達の息が止まる……眼前に迫る死……エンジェルがランチャーを構 え……砲口に光が集束する………

刹那……横より割り込むよう に放たれたビームがランチャーを吹き飛ばす。微かに身を硬直させるエンジェルに向けて……鋭い衝撃が走る。

「おおおおっっ!」

オレンジに身を包む機影がエ ンジェルに突撃し、弾き飛ばした。

スサノオ正面に現われるM2 とゲイツ改……コックピット内でジャンとミゲルが意気込む。

「へっ、やらせるかよ!」

「無事か、スサノオ!?」

ジャンの呼び掛けに…呆然と なっていたクルー達はようやく思考が動き始め…生きているという感触を実感したと同時に……エネルギーの充電が完了した。

「じゅ、充電完了!」

「よしっ! 目標変更! 本 艦正面!」

キサカは逸早く我に戻り…そ して……目標を先程スサノオに肉縛し、弾かれたエンジェルへと向ける。弾かれた影響か、まだ態勢を戻していない………だが、動き出そうとしている。

「発射!」

号令と同時に……スサノオの アンテナより放たれる光の一射………送電された電磁波がエンジェルへと着弾し…エンジェルの機器がショートする。

「シルフィ!」

「はいっ!」

反射的に応じると同時にシル フィは先程繋がった回線を通してエンジェルのシステムにアクセスする。

徐々に侵入する経路…そし て……シルフィは最後のボタンを押す。

「これで……っ!」

ウイルスを送信するボタンを 押し……スサノオから繋がったラインよりエンジェルへと放たれるウイルス………打ち込まれたエンジェルは……バイザーにデータの波を表示させ…それがやが て乱れていく。

シルフィの手元のモニターに も徐々にシステムを侵食され、設定がデリートされていく。

そして、エンジェルが突如機 体をガクガクと硬直させ、動きが鈍る。まるで…糸の切れた操り人形のごとく………それは…その一機だけでなく……周辺に展開していたエンジェルも同様だっ た。

突如、動きを鈍らせ……壊れ たように麻痺するエンジェルに………パイロット達は一瞬、眼を剥くも……ミゲルやジャンはそれを逃さなかった。

「敵の動きが鈍った…今だ!  全機反撃!!」

間髪入れず叫んだジャンに反 応し……残存のM1部隊は一斉に動きを鈍らせているエンジェルに向けて集中砲火を浴びせる。

もはや反撃どころかまともに 防御や回避さえもできなくなったエンジェルはその攻撃を浴び…次々に破壊されていく。

「いっくぜぇぇぇぇぇっ!」

ミゲルも吼え…ゲイツ改が ビームクローを振り上げて、エンジェルを斬り裂く。

無謀に貫かれたエンジェルを 振り上げ、それを同じく混乱している同型機へと投げ飛ばし、接触と同時に火器を一斉射し、エンジェル2機が爆発に消える。

M2もまた正確な射撃で頭 部、そして腕や脚部を撃ち抜き、戦闘能力を奪う……反撃し、そして降り注ぐデブリに対しての応戦が可能となったMS隊がデブリを破壊し、スサノオへの攻撃 が緩まる。

「よしっ、前進する!」

その時を逃さず……キサカが 手を振り上げ、スサノオがエンジンを噴かし……デブリのなかを突き進みながら敵艦との距離を詰める。

「目標、距離5000!  ローエングリン射程圏内!」

「よし、ローエングリンスタ ンバイ!」

スサノオの両舷後部ブロック が伸び……ハッチが開放され、その下から姿を見せる巨大な砲口………その砲口にエネルギーが集束していく。

「ローエングリン、撃 てぇぇぇぇぇ!!」

刹那…スサノオより放たれる ローエングリンの閃光が、降り注ぐデブリを破壊しながら突き進み……その先にあった作業艦へと着弾し、船体を貫く。

貫通したエネルギーにより… 作業艦が瞬く間に爆発に包まれ……バランスを崩した作業艦の一部が弾かれ…並行していた僚艦へと破片が激突し、連鎖崩壊を引き起こす。

そして、作業艦隊は爆発に呑 み込まれた……その光景に…キサカらクルーはどこか一瞬、息を吐き出すも……すぐさま表情を引き締める。

「…状況は!?」

「現在、我が方のMS隊が攻 勢に出ています…敵エンジェル、未だ機能不全!」

エンジェル群はまだ混乱から 立ち直っていない…そのために、オーブ軍は体勢を立て直し、攻勢に出ている。

だが、安心はできない……エ ンジェルのシステムダウンもいつまで続くか解からない。

「シルフィ…敵の混乱はどれ 程持つ?」

「…最短であと5分ほどで す………もっとも、それもどうかは…」

シルフィも不安な面持ちでコ ンソールを見やる……今のところ、エンジェルの混乱は収拾していないが、このウイルスが保つのは長くても10分もない…いや……それ以上に敵がすぐさま ネットワークを再構築するかもしれない。

いくらシルフィでも、そう なってはもう対処できないかもしれない。

「解かった…各機、可能なか ぎりエンジェルを狙え!」

静かに応じ…キサカは最優先 目標をエンジェルに設定し、徹底させる……こうなれば、敵が回復するまでに可能なかぎりエンジェルを破壊するしかない。

「格納庫! 修理できたMS の発進を急がせろ!」

続けて格納庫に通信を飛ば す……既に展開しているMS隊もパイロットの疲弊と機体の損耗も大きいはずだ。そのためには、現在修理中の機体をできるだけ早く戦線復帰させるしかない。

その光景を…シルフィもまた 祈るように見詰め……彼方のユニウスセブンへと眼を向けるのであった………

 

 

 

 

熾烈を極める攻防はやがて終 結へと向かっていた………砲撃機として開発されし機体のカスタム機:メガバスターとその次世代型機:カラミティ………2機の砲撃機は今、砲火を浴びせなが ら最後の攻撃に打って出ようとしていた……カラミティの胸部からこもれるエネルギーが集束し…スキュラが放たれる。

「くぅっ!」

ディアッカは歯噛みしながら 操縦桿を切り、その砲撃をかわすも…やはり、脚部を片方欠損し、バランスが悪い。紙一重で過ぎるエネルギーに装甲が僅かに融解する。

「このぉぉっ!」

メガバスターもアグニUを放 ち、カラミティを狙う……だが、カラミティも残ったバーニアを噴かし、その攻撃をよける。

その振動に…既に原型を留め ないほどひしゃげ、変形しているコックピット内で、オルガは自身を押し潰す機器に身体を圧迫され…さらに吐血し……コックピットが真っ赤に染まる。

「あ…ああ…… がぁぁぁっ!」

だが……その虚ろな眼に映る のは眼前の敵機のみ………カラミティは残ったバーニアを噴かし……メガバスターへ加速してくる。

突撃してくるカラミティの胸 部にエネルギーが集束する…だが、それは今までよりも高い熱量だ……発射口の周囲が融け、エネルギーが周囲にこもれている。

恐らく…残ったエネルギーを 全てこちらへと集束しているのだろう………ディアッカは意を決し……敢えてその身をかわそうともせず……立ち塞がる。

「決着をつけてやる ぜ……っ!」

その時…あの機体に乗ってい るパイロットに……不意に、ミリアリアの恋人だった男の名が過ぎる………

微かに苦悶を浮かべ…躊躇う 指………だが……一瞬眼を閉じ…逡巡させた後……眼を見開いたディアッカは叫び上げた。

「こんちく しょぉぉぉぉぉぉっ!!!」

刹那………カラミティのス キュラとメガバスターのアグニUが解き放たれた………発射される閃光が中央で交錯し……ビームの熱量が互いの軌道を僅かにずらした……真っ直ぐに伸びてい たビームはまるで糸のように弛み…スキュラのビームがメガバスターの右腕を飛ばし……アグニUのビームがカラミティの胸部より上を灼き切った………

胸部より上半身を失い…露出 したコックピット……ヘルメットが外れ…血が大量に宇宙を舞う……それを呆然と見据えるディアッカの眼に…初めて見たオルガの顔が映る………

立ち往生するメガバスター に、バランスを狂わせたカラミティは加速したまま蛇行し、直撃ではなく掠めるように飛び去り……後方に流れた瞬間………遂にカラミティのエンジンが爆発し た。

爆発の炎に包まれ…呑み込ま れていくオルガ………その身さえ灼き尽くさんばかりの炎に…呑まれ……カラミティは爆散した………

その閃光と同時に…メガバス ターもPS装甲が落ち……灰色へと戻る………ディアッカは…コックピットで暫し茫然自失となっていた………

その爆発に程近い宙域…… フォビドゥンとブリッツビルガー、そしてシュトゥルム……ニーズヘグを振り上げながらフルブーストで迫るフォビドゥンに……ブリッツビルガーとシュトゥル ムもまた2機で構えるトライデントを手にフルブーストで加速する。

2機が突き上げたトライデン トと振り下ろされニーズヘグが激突し、甲高い金属音を響かせる。

互いに膠着する3機……残っ た力を全てそれに込めるように振り下ろそうとするフォビドゥン……コックピットで…シャニの眼が大きく見開かれ、口元から泡が吹き出している。

バイザーに亀裂が走り、尚且 つ出血も激しい……通常なら、生きていることさえ不可能な状況…だが、狂気に染まったシャニにはそんな状況を理解する思考も残っていない。

あるのはただの破壊衝動の み……奇声を上げ…右腕を振り上げる。

声にならない奇声…そして鋭 く何度も振り下ろされる鎌に衝撃に呻くニコルとシホ……このままでは押し切られる………

だが、ニコルとシホの眼は露 出したコックピットから顔を覗かせるシャニに向けられている……もはや狂人と化した同年代の少年に………ニコルやシホは微かな躊躇いを持つ。

だが……と……逡巡する思考 に別の言葉が走る………ただ相手を放っておくこともあれば……解放するのも務めだと………

もう……苦しみ…そして囚わ れているのなら……その魂を解放することも……自分達にできる唯一の救いだ………

「シホさん……っ」

「……はいっ!」

ニコルの決意が伝わったの か……シホも強く応じ………トライデントを握り締めるブリッツビルガーとシュトゥルムの手に力が込められる。

そして……フォビドゥンがト ドメと振り被った瞬間………ニコルとシホの眼が見開かれる。

「「ええええいいい いぃぃぃぃっ!!!」」

二人の声が合わさり…それに 呼応するようにブリッツビルガーとシュトゥルムは握り締めるトライデントを突き上げる。

二人の想いと力をのせ……突 き出された三椏の刃が振り下ろされたニーズヘグを突き折り……突き出された刃がフォビドゥンのボディを貫いた………

胸部ハッチを破り……内部に 到達した刃がシャニの身体を灼き………バイザーが完全に砕け…大量に吐血する………

ニーズヘグを離し……突き刺 されたフォビドゥンは身体を数秒硬直したように麻痺させ…やがて……カメラアイから光が消え……操縦桿を握っていたシャニの手が緩み……フォビドゥンは前 のめりに倒れる……命の灯が消えるように………

その光景を……震えるように 見るニコルとシホ………その断末魔に………トライデントを離した瞬間…支えを失ったフォビドゥンは後方へと流れ………そして……突き刺さった箇所から発生 する電流の迸り……それが二、三度迸った瞬間、フォビドゥンは爆発のなかへと消えていった………

その閃光は……ブリッツビル ガーとシュトゥルムをより赤々と照りつけ……暫し、2機はその場に漂う………

コックピットでは、シホはや や悪寒を憶えていた……戦場で…初めて見た……敵MSのパイロットの顔…その最期の死に顔を………今までMSを墜としている時には感じなかった冷たいもの を……シホはその身に感じていた。

「シホさん…大丈夫です か?」

そんな震えるシホに向かって 声を掛けるニコル……無論、ニコルとて動揺は大きいが、そこはやはり経験と覚悟の違いであろう……

「あ…私……私………」

優しい言葉にどう反応してい いか解からない……そんなシホにニコルは静かに告げる。

「これが、現実なんです…… 僕達にできるのは…せめて……僕達が奪った命の重さを…決して忘れないことです………」

偽善かもしれない……だが、 これが現実だ………その悲壮な決意に……シホも僅かながら冷静さを取り戻す。

そして……ニコルとシホは眼 を閉じ……静かに黙祷した………囚われ…解放された魂に…せめてもの救いがあらんようにと…………ただ静かに…………

その時……巨大な爆発が再び 轟き…ニコルとシホはハッと顔を上げ……そちらへと意識を向け………その宙域に向けて加速した。

その数分前………その宙域で は、青と黒の機影が折り重なっていた………頭部を失ったレイダーに噛みつき掛かる牙を持つイージスディープ…その爪がレイダーを拘束し、離そうとしない。

そして……噛みついた中央に 備わる砲口に、エネルギーが集束し………ラスティはトリガーを引いた。

刹那……スキュラより放たれ るエネルギーがほぼ零距離でレイダーのボディに突き刺さった……視界全てを覆うような閃光が眼前から溢れ……次の瞬間には、クロトの身体は閃光に呑み込ま れていった………

閃光がレイダーのボディを貫 通し……ボディが融解する…だが、その余波は発射したイージスディープにも及び……イージスディープの装甲もまた融ける。

そして、スキュラが完全に貫 通した瞬間……レイダーが爆発した。その爆発に…噛みついていたイージスディープをも呑み込んで………

その光景を……その宙域へと 到達したメガバスター、ブリッツビルガー、シュトゥルムが見届け…3人は眼を見開く。

「ああ……っ」

「「ラスティ……っ!?」」

シホが悲痛な声を上げ、ディ アッカとニコルは震えるような口調で仲間の名を叫んだ。

閃光が2機を完全に覆い…3 機の前で輝いている……あたかも命の輝きのごとく………

歯噛みし、悔しげに拳を振る わせるディアッカやニコル………

「ラスティ…こんなとこで死 んじまいやがって………」

思わず悪態を衝いたディアッ カ……その時…それに答える声が聞こえてきた。

「おいおい…酷いっ しょ………」

「「っ!?」」

聞こえてきた軽口にディアッ カとニコルはハッと顔を上げ…慌てて爆発へと眼を向ける。

そして、閃光のなかから抜け 出すように飛び出してくる機影……両腕、そして頭部も半壊させ、PS装甲の落ちた状態ながらも……なんとか原型を留め、現われるそれは…イージスディープ だった。

「ラスティ、お前…無事だっ たのかよ!?」

「あ、当たり前っしょ……勝 手に殺すなっ……」

咳き込むように問うディアッ カに苦い口調で応じるラスティ……ラスティ自身も、あの爆発に呑まれてよく無事だったと思えるほどだ。

「でもよかった……」

ニコルもホッと肩の力を抜 く……そして…半壊したイージスディープを支えるメガバスター………

「なんとか倒しましたけ ど……それでも、二人はダメージが酷いですね。ディアッカとラスティは後退してください…幸い、ここは後方ですから……」

メガバスターとイージス ディープは損傷が大きい……この状態では、これ以上の戦闘は不可能だろう。それに、自分達は後方で戦っていた…なんとか後退はできるはずだ。

「ああ、わりいけどそうさせ てもらうわ」

さしものディアッカもそれに は素直に応じる……機体も一部欠損し、弾薬やエネルギーも残り少ないのだ。

「ニコル…お前はどうするっ しょ?」

「僕の方はまだ大丈夫です… このまま前線に向かいます。シホさんは?」

「私の方もまだ大丈夫です」

損傷の激しいメガバスターや イージスディープとは違い、ブリッツビルガーとシュトゥルムはまだなんとか行動は可能だ。この状況では…皆それぞれ苦戦をしいられている……なら、その援 護のために今は一機でも戦力が必要なのだ。

「解かったぜ……ニコル、死 ぬなよ!」

「そうっしょ…俺らもまた必 ず戻る!」

言葉を交わし……そして、仲 間への信頼を信じ……メガバスターとイージスディープは後退していく。

「ええ……必ず」

その背中を見送りながら…ニ コルも強く頷いた。また必ず……生きて逢うと………そして…ニコルは前を見据え…シホもそれに続く。

「ニコルさん、シュトゥルム の上にっ」

「お願いします」

巡航モードに変形したシュ トゥルムの上に飛び乗るブリッツビルガー……エンジンが唸りを上げ、シュトゥルムが加速する。

未だ激しい砲火を咲かせる前 線へ……残された宙域に漂う3機の残骸………それは…散った魂の欠片………人としての尊厳を奪われ続けた者達の……哀しき解放の証………

『災厄』・『禁断』・『強 襲』……その名を冠せしMSは戦場に散った…………

 

――――C.E.71.10.2 20:53……

――――GAT−X131: カラミティ撃破………

――――オルガ=サブナック 戦死…………

――――GAT−X252: フォビドゥン撃破………

――――シャニ=アンドラス 戦死…………

――――GAT−X370: レイダー撃破………

――――クロト=ブエル戦 死…………

 

 


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