――――私は…死人………神 によって再生された……ただの死人…………

 

その言葉がカムイの内に渦巻 く……そして…ルシファーはまたもや見えないなにかに体当たりを喰らい、弾き飛ばされる。

「ぐぅぅぅ!」

衝撃に呻くカムイ……デブリ に叩きつけられるルシファー……だが…敵機の姿は見えない……そして…ユラリと姿を見せる純白の機影………

4枚の翼を拡げるラファエ ル……先程から、このような一方的な戦いがずっと続いている……ミラージュコロイドを展開し、姿を完全に隠すラファエルに、ルシファーは完全に翻弄されて いた。

ラファエルのコックピットで は……アクイラの人形のような無機な眼がルシファーを見据え…ラファエルはヨルムガントを振り上げ…ルシファーを弾き飛ばす。

再度襲う衝撃に成す術もなく やられ……カムイはコックピットで息を大きく乱している。

PS装甲のおかげで致命傷は ないが…このままではやられるのは時間の問題……そしてなにより…カムイの意識を乱しているのは…先程のアクイラの言葉…………

(アディンが兄…それに死 人……? いったい…何のことなんだ……?)

ヴァニシングを外部から操っ ていた端末を破壊したと同時に姿を見せたラファエル…そしてパイロットであり、自分と同じMCナンバー07というナンバーを持つ少女が漏らした言葉……… その意味がまったく解からない。

だが、そんなカムイの逡巡な ど知りもせず……ラファエルは両手にビームライフル:オロチを構え…銃口にエネルギーが集束した瞬間、カムイは操縦桿を引いてルシファーを離脱させる。

放たれるビームがルシファー を掠め…後方にあったデブリを融かし、破壊する。

歯噛みするカムイは振り向く ラファエル…そしてそれを通して伝わるアクイラの冷たい眼に悪寒を憶える。

身を翻したラファエルはロン ギヌスを構え、先端にビーム刃を展開し…一気に加速し、ルシファーに突進する。

「っ!?」

半ば反射的に身を捻ったルシ ファーの脇腹を掠めるロンギヌス……そして…アクイラの機械的な声が響く。

「よくかわせましたね……で すが…」

ロンギヌスを回転させ、柄で ルシファーを弾き飛ばす。

「所詮はその程度」

弾いたルシファーに向けてヨ ルムガントを振り被り…ルシファーは吹き飛ばされる。

デブリに激突するルシ ファー……身を打ちつけ、苦悶するカムイ……霞む視界に歩み寄ってくるラファエル………

「どういう…ことなんだ…… 君と…アディン……いったい……なにが…?」

絞り出すように呟いたカムイ に…ラファエルの動きが止まる……だが、アクイラの表情は変わらない………

「言ったはずです……01は 私の兄だと……もっとも…01は知りもしないことですが………」

「どういうことだっ!? そ んな話…フィリアさんから一度も……っ!」

思わず身を乗り出しそうにな るほど叫び上げる……だが、無理もない……カムイはアディンと一緒にフィリアに兄弟のように育てられた。そのフィリアから一度もそんな話を聞いた覚えはな い。

困惑するカムイに対し…アク イラの表情は涼しいまま……そして…やや口を噤んでいたが……静かにポツポツ語り出す………

「ノクターン博士も私のこと は知りません……いえ……知るはずなどない………私は…一度死んだのですから………」

「死んだ……?」

いったいなにを言っているの か……そして…アクイラは衝撃的な言葉を口にする。

「言葉どおりです……私は… 一度死んで…この世界に再生された………ウォーダン=アマデウス博士によって………死んだはずだった私を……MCナンバー07として………01の双子の妹 として………」

アクイラの記憶が……過去へ とフラッシュバックする…………

雷鳴が轟く……そう形容すれ ばいいのだろうか………ナンバー00であったカインの感情の暴走……人類を…世界を破滅へと導こうとするその意思に………カインは封印された……ウォーダ ンによって………

そのウォーダンが次に求めた のが……エヴィデンスの遺伝子を使用しない……通常の受精卵による実験であった………

名も知らぬ男女の遺伝子…… そして…受精した母親から取り出した受精卵をMCに再調整した刻………突如、システムが一部破損し、処置を施すシステムに僅かな過負荷が掛かり…それがパ ルスとともに受精卵に影響を与えた………

そしてウォーダンやフィリア らの前で……受精卵の内にあった核が二つへと分裂した……

「まさか……」

「その片割れが……01と… 私…………ですが…私はすぐに死んだ………この世界に生まれることもなく………」

冷たく語るアクイラ……偶然 の産物……パルスと流れた電流がなにかの拍子で混ざり合い、それが受精卵に影響を与えた……二つに分かれし核………どちらが兄で妹…姉で弟か……そんなこ とは今となっては解からない……偶然の産物によって生まれた2卵生の双子…だが……それはすぐさま掻き消えた………

受精卵内の核を二つに分裂さ せた刻……片方の核が突如、衰え始めた………原因は不明だった………そして…その受精卵はそのまま破棄されるはずだった………

「ですが……私はこの世界に 誕生させられた……ウォーダン=アマデウス博士に………大きく身体を操作されて………」

破棄されようとしていた受精 卵を……ウォーダンは凍結し、密かに保管していた。フィリアも眼の前での受精卵の衰えに消えたとばかり考えていた。そのために……アディンに…01の片割 れの存在は話そうとしなかった。

残った片方の受精卵は成長 し……そして…後にMCナンバー01というナンバーを与えられえることになる。

だがその裏で……死に逝くは ずだった片割れの受精卵は……ウォーダンによってこの世界に再生された……凍結解除後に再度与えられたMCパルス……そして大量のナノマシン……それ は……崩れようとしていた遺伝子を再構築し…複数に渡って使用されたパルスの影響で遺伝子配列さえも大きく変換させた………

「それが……この私の 眼…………」

アクイラは蒼に染まる左眼を なぞる……MCの証である真紅の瞳……だが…自分は片方の瞳のみが蒼く変質したオッドアイを持った………

そして……兄である01と同 じく……感情をまったく知らない……機械として………この世界に誕生した……ナンバー07というナンバーを与えられて………

「そして私は……地球軍に潜 伏しました………あの方の命を受け…そして……01を利用するために」

アクイラの……いや……ア ディンの妹である彼女の驚愕の事実に呆然となっていたカムイはその言葉にようやく我に返る。

「それじゃ……君は…アディ ンを………」

「はい……01と私は元々一 つだった………だから……操るのは簡単でした……」

その発せられる言葉には後悔 も哀れみもない……あくまで他人事のように淡々と語る。

だが、カムイは歯噛みし…拳 を震わせる。

「そんな……アディンは…君 の兄じゃないのか……っ!?」

たとえどんな事実があったと しても………彼女の言葉が真実なら、アディンとアクイラは…まさしく偶然によって誕生した双子……MCのなかで唯一きょうだいの絆を持つ存在……なのに何 故…そんな兄を利用し……そして平然としていられるのか……だが、その問いに答えるように放たれるラファエルのビーム……隙を見せていたカムイはよけきれ ず、ビームがルシファーの脚部を吹き飛ばす。

「ぐぅぅぅぅ!」

振動に呻くカムイに……アク イラは無表情のまま見下ろす。

「……01が私の兄であるこ とも…データで知っただけのこと………01は私を知らない…そして……私にもなんの関係もないこと………私はただ…あの方の命通りに動くだけ………それだ けの存在………」

名も顔すらも知らない両 親……そして双子の兄……それらはアクイラにとってなんの意味もないもの………一度死に…そしてこの世界に再生された刻に………人間としての感情など…… 全て消えていた………

あるのは……ただ自分が存在 するのは何のためかということだけ………そして…そんな自分の存在を必要とする相手がいるのなら……アクイラは迷うことなく従う………

どんなに自分が壊れようと も………ただの道具として…………自分は…そう仕組まれた存在なのだから………

「お話はお終いです……そろ そろ…終わりにしましょう………」

オロチを構えるアクイラに、 カムイは身構える……だが、その表情が微かに歪む。

彼女も……アディンと同じ だ………死してなお…この世界に蘇生され…そして……自身さえ定かではなく…ただ己の存在に嘆くことさえない………

人形として……戦闘兵器とし ての生………だが、それは哀しい………救わねばならない……彼女も………彼女もまた……呪われた運命によって縛られた者……自分と同じきょうだいなのだか ら………

刹那、オロチが放たれ……カ ムイは操縦桿を引き、ルシファーは上昇する。だが、やはり片脚を欠損しているためにバランスが悪い。

そして…あちらは機動性に特 化した機体……風の守護天使:ラファエルの名を冠する機体……4枚の翼を拡げ、舞うラファエルはまさに優美に舞い……右手に構えるロンギヌスを回転させ、 それを振り下ろす。

「ぐっ!」

咄嗟に身を捻るも、胸部装甲 を斬り裂かれる。

牽制とばかりにバルカンを放 つも……ラファエルは掠りもさせず、さらに距離を詰めてロンギヌスを振り被り、鋭く薙ぐ。

シールドごと叩きつけられ、 衝撃に吹き飛ばされる……カムイは苦悶を浮かべながらもミサイルを放つ。

襲い掛かるミサイルをビーム キャノンで撃ち落とす。

爆煙を裂き、加速するラファ エルにカムイは叫ぶ。

「やめてくれっ! 何故君は そうまでして人形であろうとするんだっ! 君は君だろう!」

たとえどのような生を受けよ うとも……アクイラは生きている命だ……機械などでは…人形ではない……アディンと同じように…だが、そんな呼び掛けにもまったく無反応で返すアクイラは ロンギヌスを突き刺す。

ルシファーはロンギヌスの柄 を両手で掴み、動きを抑制する……アクイラの眼がルシファーに向けられ、カムイも歯噛みしながら睨む。

「君もアディンと同じだ…… 自分さえ赦されず…そして、哀しむこともできない……だから……君も…僕が助ける……っ!」

「………世迷言を」

アクイラはアディンとは違 う……握っていた柄を起点に身を捻り…蹴りをルシファーに叩き込み、背中に打ちつけられた蹴りにルシファーは態勢を崩し…手を離したロンギヌスを振り上 げ、ボディを弾き飛ばす。

「自意識さえ不安定な01と 私は違います……それに…01はもう手遅れでしょう……完全に意識が崩壊したはずですから……」

そう……アディンは自我が極 端に不安定だった……それは、分裂時に薄れてしまった遺伝子による影響か…それは解からない。

だが……フィリアとカムイと のなかで少しずつ自我の安定が見えていたというのに……その後の過剰な実験により……自意識をほぼ崩壊された………

悔しげに歯噛みするカム イ……そして……アクイラもそんなアディンの…兄の姿になんの感慨も持たなかった……ただ遺伝子的に同質というだけ………ルンとはまったく違う認識だっ た……ただ利用できればいいと………

所詮…この世界は利用する者 とされる者に分かれているのだから………

激しさを増すラファエルの猛 攻にカムイが徐々に追い詰められていく……その激しい攻防の傍で浮遊するヴァニシング………

コックピット内で……左胸部 の端末を打ち抜かれた時に襲った衝撃で頭を打ちつけ、額から鮮血を流すアディン………

その沈む意識のなかで……ア ディンは闇の袋小路に陥っていた…………

(俺は……誰だ……俺 は………俺は………)

解からない……自分の存在 も……自分自身さえも………自分がどこにいるのかも……闇を彷徨うなかで……アディンの意識は過去へとフラッシュバックする……

カプセルから眼醒めた刻…… 彼の眼に映ったのは……幾人かの研究員の顔……成功だと…なにかいろいろと聞こえていたが、アディンには認識できなかった………

その記憶さえも……あやふや なのだから………次に覚えているのは罵倒するような声……そして…薄々察した……自分はまた闇のなかへと戻るということを………

だが……そうはならなかっ た………次に覚えているのは女の顔………フィリアと名乗った女が自分に笑い掛ける……そして…フィリアが促す先にいた3人………自分と同じ…真紅の瞳を持 つ女が二人に男が一人………

そして女は言った……彼女達 が……俺のきょうだいだと…………

(きょう…だい………?)

微かに呟かれる言葉………

そう……確かにそう言っ た………そして…俺は育てられた………あいつと一緒に………

(あいつ……誰……… だ……?)

誰だ……と……闇に覆われて いた靄に微かな兆しが差し込む………一緒にいた……そして……その瞬間……アディンの内になにかが大量に流れ込んできた………

研究所へ…ブルーコスモスの 研究所での実験の日々………そして搭乗機を与えられ……殺し合う日々……そのなかで出逢った漆黒の機体……懐かしささえ憶える機体達のなかから感じる気 配………

そして……漆黒の機体が自身 と激しく砲火を交し合う………

(俺は……なにをした……俺 は…あいつに………)

甦る記憶……そうだ……自分 は向けた……きょうだい達に銃を……それがきょうだいと知らず……だが……そのなかで自身を……既になかった自身を呼び起こした相手……ルシファーとその 内から感じる気配………

(知っている……俺は……… あいつを…そして………あいつらを…………)

霞む視界のなかで交錯する黒 と白の機影………その二つの内から感じる気配………知っている……知っているはずだと……自分は………

靄によって覆われていた記憶 に……なにかが甦ってくる………

(そうだ……俺は…あいつと 引き離され……そして……あいつらと……出逢った………)

自身がこの世界に造られるま でに分かたれたもう一つの自分……そして…その後に出逢ったきょうだい………

その二つが…今戦ってい る………自身の眼の前で……………

「俺は俺……そう言ったよ な…あんたは………」

記憶のなかで唯一優しくして くれた相手………フィリアの言葉が過ぎる……たとえなにかを喪おうとも…自分が自分であることを忘れない限り……自分以外にはならないと………

「………なら……俺は…あい つらのために……最期に力を貸してやればいいんだな」

まるで幻に向かって問い掛 け……アディンの虚ろだった眼に微かな光が戻る……そして…ケーブルで繋がれた腕が伸び…操縦桿を握り締める。

浮遊していたヴァニシングの 瞳に微かな灯が甦る……そして…小刻みに機体を痙攣させながら…身体を立ち上がらせる。

それは……縛られし鎖への叛 逆………鎖に縛られながらも抗おうとする………

「……あいつは…俺が一緒に 還す…」

その眼が純白の天使…ラファ エルを捉え………ヴァニシングは一度大きく身を伸ばした後…バーニアを噴かし、機体を交錯する戦場へと加速させた。

徐々に追い詰められていくル シファー……やはり、機体性能もさることながらパイロットとしての能力が違う。

ビームキャノンで砲撃する も、ラファエルは悠々とかわし……両手のオロチを振り、正確に狙撃してくる。

「くっ!」

シールドで受け止めるも…… その威力に融解し、吹き飛ばされる。

「……最期です…04」

冷たく言い放ち……両手のオ ロチを連結させ、大型ライフルとし…身構える。

照準が吹き飛ばされるルシ ファーにセットされ……トリガーが引かれようとした瞬間……アクイラの脳裏に微かな電流のようなものが走った。

「っ……これは……… 01……?」

機械のように冷静であったア クイラが初めて表情を崩した瞬間、ラファエルは飛来した弾丸に被弾し、弾かれる。

だが、アクイラはそのダメー ジに動じもせず……冷静に姿勢制御を取り戻す。

踏み止まるラファエル…そし て……顔を上げたアクイラは微かに息を呑んだ。

「01……何故…………」

動きを止めたラファエルと同 じく……吹き飛ばされていたルシファーは態勢を戻し、カムイも動きを止めたラファエルの見詰める先に視線を向け…そして驚きに眼を見張る。

「アディン………?」

カムイもまた…呆然と呟く。

二人の見詰める先に佇む…… ガトリング砲を構えるヴァニシングの姿に………コックピットで眼を閉じていたアディンはゆっくりと眼を開く……

そして…微かな光の灯る右眼 がラファエルを捉え……小さく口元を緩めた。

「………久しぶりだな……俺 の半身………」

運命によって分かたれた二つ の魂は…運命によって導かれ……ここに邂逅した………

 

 

戦場を交錯する2つの軌 跡……漆黒の騎士と純白の天使が己の全てをかけ……刃を交える……エヴォリューションの振り下ろすビーム刃をミカエルが刃で受け返し、片手の錫杖を振り上 げ、エヴォリューションを掠める。

距離を取る2機の周囲に展開 するドラグーンブレイカーとニビルリング……ビームを放つドラグーンブレイカーに対し、ニビルリングは鋭く回転しながら展開しているビーム刃を飛ばし、空 中で激突し、相殺される……

互いにドラグーンを使用して の戦闘能力は互角……だが、接近戦に持ち込めばリンはルンに劣る…それはやはり事実だ。

だが……接近戦はなにも力と 技の押しで決まるものではない。

回避に徹しながら…エヴォ リューションは一定の距離を保ち、ヴィサリオンを連射する。正直、遠距離攻撃においてインフィニティのような抜きん出た火力を持たないエヴォリューション では、ミカエルの機動性と両掌のビームフィールドは突破するのは難しい。

だが、何故かリンは纏わりつ くようにミカエルの周囲を飛び…ヴィサリオン、及びレールガンで狙撃する。

掌のフィールドでビーム弾を 防ぎながら、ミカエルはキャリバーで砲撃するも…エヴォリューションも高い機動力を駆使し、そのビームの奔流を沿うように回避する。

回避と同時にレールガンを放 ち、ミカエルを掠める。

「くっ……チョコマカ とっ!」

積極的に仕掛けようとせ ず……こうしてヒットアンドアウェイを繰り返すエヴォリューション……ルンとてそこまでバカではない。リンが攻撃を誘っていることぐらい……どう動くつも りなのか……だが、誘っているのなら敢えてのろう。

逆にその目論見の甘さを崩 す……と自機を加速させ…ミカエルがアシュタロスを振り被り、エヴォリューションに肉縛しようとする。

リンもそれに気づき……ス コーピオンを放つ。

リーチはこちらの方が長 い……ビーム刃を展開するスコーピオンがミカエルの頭部目掛けて襲い掛かろうとするが、ルンは操縦桿を切り、瞬時にバーニアを噴かした。

身を大きく振り上げたミカエ ルはスコーピオンを蹴りで弾き、回転と同時に振り被った刃でワイヤーを切断する。

「そんな手が…私に通用する かっ!」

高らかに吼え…そして、振り 被る錫杖が分離し……連結状態となって幾つもの棍を形成し、蛇のように襲い掛かる。

だが、リンはその棍の動きを 読み……機体を加速させる。棍がうねる間隙を縫い…一気に懐に飛び込んでくる。

「なにっ!?」

その鋭い動きにルンが眼を見 開く……リンは微かに笑みを浮かべる。

「一度見せた動きが…私に何 度も通用するものかっ!」

先程から幾度となく見せられ たルンの手……当然、それに対するパターンはある程度だが蓄積できた。リンとルンの能力の違いがここで明確となった……ルンには…リンのように多種な状況 に対応できるだけの柔軟性が低い……それは…明らかに経験の差であろう……

今まで多くの戦場…そして敵 と戦ってきたリン……可能かどうかは一か八かの賭けだったが……エヴォリューションは鋭い機動で一気にミカエルの懐に飛び込む。

インフェルノを振り被る…だ が、ルンは鼻を鳴らす。

確かにリンの動きに一瞬意表 を衝かれたが……懐に入り込まれても、ミカエルにはまだ掌のビームフィールドがある。

振り上げられた刃に呼応して ミカエルの掌が舞うも…リンは即座にモーションを切り換え、エヴォリューションの振り上げられた蹴りが無防備となっていたミカエルの死角へと叩き込まれ る。

「ぐぁぁっ!」

予想できなかった攻撃にミカ エルは弾き飛ばされ、ルンが苦悶を浮かべる。

弾いたミカエルを追撃せず… リンは静かに見据え…そして呟く。

「脳波に直結させたインター フェイスなら、確かに反応は異常なほど速くなる…けど、それが裏目にも出る……先に拘りすぎたようね」

嗜めるように呟く……ルンの あの間合いでの異常な反応速度……いくらMCでもその反応値が異常すぎた。

そして……その反応速度を叩 き出しているのは………恐らくエンジェルに搭載されている例のシステム………

「ぐっ……」

態勢を立て戻したミカエルの コックピットで……ルンは歯噛みしながらエヴォリューションを睨む…そして……その頭部の耳の奥から伸びるコード………

「FRS……そんなにまでし て、私達を殺したいの………」

どこか、哀れむように呟 く……FRSを用いた反応速度だけでなく諸々の能力倍化……完全に機体とシンクロし、その反応ゆえに相手が行動を起こしてからでも速い対応が可能……後で ありながら先を取れる………だが、それ故に問題もある。

反応が速すぎてフェイントに 引っ掛かりやすいのだ……接近戦において…それが唯一の死角………そして…FRSは能力を引き出すだけに留まらない。

長時間の使用は……使用者の 全神経を破壊しかねない………だが、ルンはそれに対し肩を竦める。

「お前達を殺せるのな ら………私はなんだってする……してやる………」

低い声で言い放ち……構える ミカエル……その姿に…リンはどこか哀れむような視線を向ける。

「………哀れね」

「なに……」

リンは眼を閉じ……そして逡 巡した後…眼を見開き………その真紅の瞳にミカエルを…いや……それを通してルンを見据える。

「あんたはまるで以前の私 ね……己の存在に禁忌し、憎む対象が必要になる……そう……鏡を壊そうとするところがね!」

ルンの姿が……過去の自分と 重なる………あの……迷い…そして……己の存在に嫌悪感を抱き、そしてそのぶつける先を……レイナへと向けた………

愛する存在を……鏡に映る自 身への憎しみをぶつけた………その過去の己の姿が…今…眼の前に立ち塞がっている………

自分を見るのが嫌とは…こう いった状況を指すのかなと……リンは内心自虐的に笑う。

ルンも…同じだった………出 生と同時に付いて回る二人の姉の影………それが…ルンを蝕み、そして憎しみを駆り立てる…………

己を確立するために……そし て……自身であるという証明を示すために……リンを…そしてレイナを………鏡の存在を憎み……殺す…………

「っ……ほざくなっ!」

刹那…ルンの顔が羞恥に染 まったように歪み、吐き捨てる。

「なら……何故あんたは…そ んなに哀しいの………」

「っ!?」

今度こそ…ルンの眼が大きく 見開かれ、息を呑む。だが、リンの言葉は止まらない。

「あんたのその顔……以前の 私と同じよ………哀しみを隠して…仮面を被る……酷く…醜悪な顔をね………」

そう……互いに見えるのは以 前の自分………感情を…哀しみも…全てを仮面で覆い…だが…その仮面は醜悪な顔そのもの…………

「ぐっ……黙れ、黙 れぇぇぇぇぇぇっ!」

ルンにはこの上ない屈辱だっ た……よりにもよって………姉に…リンに見透かされるなど……自身さえも気づいていない感情………鏡に映る自身に………

ミカエルは錫杖を構え……ユ ラリとエヴォリューションの前に立ち塞がる………コックピットで顔を上げたルンは……鋭い形相を浮かべている………

「………赦さない……お前だ けは……私の全てをかけて……その存在を滅してやるっ」

低く冷たい声……そして…… リンはその凄まじい殺気から…ルンの感覚を感応し……そして…ルンのコックピットでの状況が脳裏を掠める。

「まさか……やめろっ! そ れ以上システムをオーバードライブしたら、自滅するぞっ!」

FRS解析に当たり…カムイ から聞かされたシステムの可能性………もし…FRSを死人ではなく生きている人間が使用した場合はどうなるのか……それは…異常な能力と同時に…自身への 破滅を齎す………

どんなに強靭な身体を持つ者 でも…遺伝子的に強化されたMCでさえも……オーバードライブさせれば……命はない………

だが、ルンはその言葉に笑み を浮かべる………

「言ったはずよ………姉さん 達を殺すためなら…そして……あの人のためなら……私のこの身…そしてこの命さえ……惜しくなどないっ」

刹那……ルンの周囲に膨大な データが処理され………身体が内側から張り裂けそうなほど鋭い傷みが駆け巡る。

 

ANGEL EQUIPMENT MACHINE  TYPE-001】

 

FRS OVERDRIVE】

 

コンソールに表示されるシス テムのリミッター解除………

通常なら…廃人になりかねな い激痛………苦悶に歪む表情…だが…ルンはそれを抑え込み…操縦桿を握る。

ルンの覚悟に呼応し……ミカ エルもまた瞳を輝かせ…咆哮を上げる。

次の瞬間……ミカエルはエ ヴォリューションの視界から消える……息を呑むリン…だが、その瞬く間に……懐に現われるミカエル……鋭い衝撃がエヴォリューションを襲う。

「うぁぁぁぁぁっ!」

そのあまりに異常な加速に反 応できず…無防備に錫杖の一撃を受け、弾き飛ばされるエヴォリューションは周囲のデブリを弾きながら浮遊していた戦艦の残骸へと激突する。

朦々と煙を噴き上げ……数 メートル弾き飛ばされたエヴォリューションを見据えるミカエル…錫杖を振り下ろした態勢のまま……ルンは荒く呼吸を乱しながら、弾き飛ばした先を見詰め る………

あれで倒したなどと思ってい ない……そして…それを証明するように……戦艦の残骸から飛び出すエヴォリューション………

ミカエルの眼前に佇み……リ ンもコックピットで息を切らす……そして…バイザーを上げ、ヘルメットを脱ぎ捨てる。

無重力に舞う髪……そして… その額から鮮血が流れ落ちる………それを拭いながら、呼吸を呑み込み…ミカエルを見据える……耳に…ルンの声が響く。

「無駄な足掻きを………今度 こそ……闇へと還してやるわ………姉さん………私達が生まれた……永遠の闇へね………」

そう……ルンも…そしてリン も……いや……MC達が生まれた永劫の闇……その闇へと還す………だが、リンは肩を竦め…眼を細める………

「永遠なんて…ありはしな い………」

口を噤むルンにリンは静かに 呟く。

「どんなものだろうと……等 しく滅びはやってくる………この世界に…永遠などありはしない………私も…いつかは闇へと還る刻がくる………」

避けられぬ運命……リンもま た…いつかは闇に包まれる………闇に還る刻がくる……だが…その前に………

「だけど……それは今じゃな い………私は…私の成すべきことを果たす………あんたの闇を……解き放つ………っ」

リンは胸元のホックを外 し……飛び出したクリスタルを掴み、乱暴に引き千切る。

右手に収まるクリスタル…… それを一瞥すると………リンの意志に呼応し…エヴォリューションが低い唸りにも似た駆動音を響かせ……眼前のモニターに起動コードが表示された。

 

【IRPAsystem  STAND  BY READY】

 

エヴォリューションはイン フィニティの護衛機……それ故にシステムはインフィニティのデッドコピー機………だが…一点の違いがあった………

エヴォリューションの胸部起 動基盤と……システムの中枢がリンクしていなかった……頭部に埋め込まれていたはずのインフィニティと同じ中枢を………封印されていた力を解き放つ……… 最後のもの…………

起動プログラムとリンクし… エヴォリューションの頭部に封印されていたシステムが起動し…それに連動して、コンソール中央の計器がスライドし、その下からクリスタルを差し込む基盤が せり上がる。

リンは躊躇うことなく……ク リスタルをその窪みへと差し込み…刹那、基盤はそのまま沈み……それに連動するようにシステムがシーケンスへと突入していく。

 

 

――――――無限の翼より受 け継ぎし進化の剣……眠りしもう一つの人造神の覚醒……………

 

 

【SYSTEM   ALL  AWAKING】

 

 

―――――――ドックン………

 

 

眼を閉じ……全感覚を委ね る………

大きな鼓動が内に脈打つ…… 内になにかが流れ込む………そして…自身の感覚が周囲に溶け込み、感覚が鋭くなる……操縦桿を握り締め、スロットルを全開にする。

 

 

DEUS EX MACHINA  TYPE-X000-02】

 

DRIVE】

 

刹那……エヴォリューション の瞳が煌き…咆哮を上げる…………スラスターが紅い粒子を吐き出し、エヴォリューションは身構える。

「あんたは私と同じよ……大 切なもののために…愛するもののために……全てをかける……だから私も……ここでまだ殺されるわけにはいかない……」

リンとルン……鏡合わせのよ うにこの世界に生を受けた存在…………

だから解かる……その哀しみ も…強さも………だからこそ…相手の存在が赦せない…そして……惹かれあう以上に反発する………

互いに退けない想いがある以 上……それが…己の全てである以上……どちらも退けない…どちらかが倒れるまで………

「……いつかは終わる……こ の世界も……そして…私達の闇も……」

逡巡していた眼が見開か れ……エヴォリューションがインフェルノを構える。

哀しみも…怒りも…憎しみ も……全てが消える………永遠などありはしない……それは…この世界へと縛るものではない……永遠の闇は……己の内にあるのだから………

「お前を解き放つ……その鎖 からね!」

縛られた呪縛の鎖……自身も それに縛られ……そして解放された………レイナとの戦いのなかで…レイナへの……姉への想いのなかで……

なら…今度は自分の番……… 哀れな闇に囚われた妹を……呪縛する鎖を断ち切る………

眼を細めるルン……錫杖を構 えるミカエル……対峙するエヴォリューション……2機の周囲に……感覚の嵐が吹き荒れる…………

互いに……決着をつけるため に…………

 

 

 

 

命の煌きのごとく……止まぬ 砲火と閃光…そして命の砕け散る響き…………

その中心において……刃を交 える黒と白の天使………かつて、天使でありながら神に叛逆し、地獄へとその身を堕とせし黒衣の姿に真紅の翼を持つ堕天使……そして…神の使徒たる天使を統 括する天使の王に立ち、全てを超越したかのごとく純白の身と翼を持つ天使………互いに刃を構え、幾度となく交錯する。

「はぁぁぁぁっ!」

インフィニティの振り被った インフェルノがメタトロンへと振り下ろされる。

だが、メタトロンはその斬撃 をかわし……右手のサタンサーベルを振り上げ、インフィニティはデザイアで受け止める。

互いにエネルギーのスパーク が照り映えるなか……離脱し……距離を取ると同時に跳躍するように加速し、中央で交錯する。

交える刃の閃光がレイナとカ インの瞳に映り…その奥に存在する相手を捉える。

「流石だ……あの刻よりも腕 を上げたかっ」

称賛を浮かべながら弾くメタ トロン…距離を取るインフィニティはマシンキャノンで狙撃し、牽制する。

「っ」

軽く舌打ちする……この空間 では、インフィニティの機動力を十二分に発揮できない。

意を決したレイナはダークネ スを天上部へと向けて放ち、ビームが覆っていた氷を融かす…その穴に飛び込む。

その様子に…カインも薄く笑 みを浮かば……メタトロンもまた氷の天井へと向かって突撃し、氷を抉りながら後を追う………

残された空間内で……静か に…そしてなにも感じない…なにもできないカプセル内で…ヴィアは無言のままただ沈黙するだけ……そして…そのカプセルが突如、巨大な主柱のなかへと取り 込まれていく………闇に呑まれようとするなかで…砕けた天井を一瞥し……そして……また静かに雫を零した…………

その頃……氷を突き崩しなが ら突破したインフィニティはユニウスセブンの上空に舞い、それを追うように氷を突き破り、飛び立つメタトロンが追う。

外に出たなら、インフィニ ティの機動力を十二分に発揮できる……だが、それは相手も同様……8枚の翼を拡げ、加速するメタトロンにインフィニティも真紅の翼を拡げ、加速する。

レイナとカインは互いに相手 に向けて咆哮を上げながら、刃を交える。

弾くと同時にインフィニティ のダークネスが放たれるも、メタトロンはそれを沿うようにかわし、両肩のビームキャノンを放つ。

デザイアを掲げて受け止める も、その熱量に推され、弾かれる。

だが、弾かれたまま流れるよ うに振り向き、オメガを撃ち返す……メタトロンもバックパックから大型ビーム砲:アポロンを展開し、発射する。

両機からこもれるエネルギー が中央でぶつかり合い、激しく火花を散らす。その干渉の余波が周囲に飛び火し、インフィニティとメタトロンは互いに距離を取り、滞空する。

「……最高だな……やはり君 との戦いは俺を満たす……こんなに愉しいのは初めてだ」

揶揄するような笑みを浮かべ るカインにレイナが眉を寄せる。

そして…徐にメタトロンが向 きを変え……2機の眼下に拡がる蒼い惑星に向ける。

「見えるか……あの惑星の蒼 さが………あの蒼が、この世界を…やがては全てを蝕んでいく………」

対峙するメタトロンから発せ られる言葉に、レイナも表情を顰める。

「そうね………所詮は上辺だ け…………人の夢も希望も……その結果が……私達なんだから……」

低い声で呟き返す………蒼く 輝く地球………それは、確かに宇宙の闇のなかで際立った美しさを放っている……だが……その蒼さも所詮は見かけだけ………

その内に棲むのは果てしない 闇……夢や希望………明日という上辺だけを求め、溺れ、驕り……それが新たな闇を生み続ける………

その闇から……自分は……… いや…自分達は生まれた…………否定はしない……そんな世界に……

「確かに……あんたのやり方 が一番手っ取り早いんでしょうね………」

そう……自分達のような闇に 祝福された忌み子を生み出す世界………それらを滅ぼす道を選ぶのも…確かに道の一つだ……最も効果的で……簡単な………

世界が滅びればいい………カ インがその考えに至ったのもある意味では正しい………レイナも……それが一番効率がいい方法だとは思う………

考えは……その奥底にあるも のは同じ…………闇を抱える世界……滅びるには充分すぎるほどの業と闇…だが……その先は違う………

「でも……だからといって… あんたのやろうとしている事を見逃すつもりもない………」

冷たく吐き捨て、レイナは操 縦桿を握り締める。

そう……世界が滅ぶ運命にあ るなら………それはこの世界が齎したもの………人と…そこに生きる全てが………だが……

「あんたがやろうとしている のは傲慢よ……世界を滅ぼすなんて………そんなもの、私達を造った連中と同じ……」

世界を自分の手で滅ぼす…… 自分には全てを滅ぼす権利に資格があると……そんな考えを持つ時点で傲慢だ……多くの命を弄び…そしてそれを当然のことと捉え、自身は神などと驕った連中 と………

人のあくなき夢や希望……そ れらが闇を生み…その闇から生まれたMC達……だから……今度はその手で世界を……自分達が生まれた闇へと誘おうとする………

世界を…全ての命を滅ぼすな ど………傲慢でしかない……少なくとも…神以外には……

相手を否定するのは……自分 の内に宿るもう一つの因子ゆえか………それとも…レイナ=クズハとしての考えなのか………

「カイン……あんたも…そし て…私も……所詮は闇から生まれただけのただのクズよ……この世界にとってのイレギュラー………」

MCは使徒でも…ましてや神 でもない………ただの闇から生れ落ちただけの哀れな存在………闇のなかでしか生きられない……業を背負いし存在………

「そうだ……俺達はこの世界 にとっての異端………だからこそ…世界をあるべき方向へと戻さなければならない………」

達観した言葉にレイナがます ます表情を顰める。

「あるべき方向……?」

「そう……それが知りたいな ら………俺を倒せ……レイナ=クズハ!」

振り向きざまにアポロンを放 ち、インフィニティは反射的に身を捻る……目標を見失ったビームがデブリを蒸発させ、拡散する。

息を呑むレイナに向かってサ タンサーベルを振り上げ、斬り掛かるメタトロン……インフィニティはデザイアで受け止め、防御しながら弾き…ミサイルを放つ。

幾つものミサイルが放たれ、 メタトロンに着弾するも……メタトロンを覆う羽がガードし、致命傷には至らない。

「くっ!」

歯噛みし、メタトロンのビー ムキャノンが放たれ…回避しながら、インフェルノを抜き、懐に飛び込む。

懐に飛び込むと同時にイン フェルノを振るうも、メタトロンは悠々と翼を掲げ、受け止める。レイナはそれを起点に脚部を振り上げる……だが、カインもそれを読み……メタトロンの脚部 を振り上げ、膝をインフィニティの腹部に叩き込もうとする。

その振り上げられた膝に向け てレイナはインフィニティの蹴りを上げ……振り上げられた勢いを利用し、膝を蹴ってインフィニティはメタトロンの上を取る。同時に左腕を振るい、ケルベリ オスが起動し、鋭く回転しながらメタトロンの頭部を過ぎる。

致命傷とはならなかった が……展開していたビーム刃がボディを僅かに掠め、一閃が刻まれる。

浅かったことに内心舌打ちす るも……次の瞬間にはメタトロンのバックパックから放たれたミサイルが縦横無尽に襲い掛かり、インフィニティはバルカンを駆使してミサイルを撃ち落とす。

爆発が宙域に立ち込め、照り 輝く……その輝きのなかで加速し…過ぎった瞬間には互いにビームを放ち、機体を掠める。

「世界は今闇のなかを彷徨っ ている……だからこそ、世界をあるべき方角へと戻さねばならない……滅びと再生………生は死を産み…そして死は現実の続きでしかない………」

冷静に言い放ちながら、メタ トロンが振り被ったアポロンが放たれ……周囲のデブリを破壊し、その破片が一気にインフィニティに襲い掛かる。

「ぐっ!」

それを受け止め、捌きながら レイナは苦悩する。

夢や希望……神への試 み………上辺だけを見ればそれはまるで望まれたように…祝福を受けたかのごとく見える……だが、それはあくまで一面……それら全てが正しいと…いや……正 しいことなどない……同時に間違いもない………

世界の進む方向を判別するな ど、誰にもできはしない……そして…それに干渉することも……光と闇は常に存在し……常に傍にある………

願いや希望……そして人が望 む幸福………だがそれは……全てが同じであるはずなどない……その望む先をどう捉えるかによって……それは大きく変わる………

自分達が生まれた闇も……そ の一つ……歪んだ幸福と夢………レイナは矛盾している…この世界への干渉を嫌い…破滅を齎そうとするカインを止めようとしながら……その心の内はカインの 行動を認めている。

「俺達は死から生まれた…… そして……この世界もまた……今一度死へと戻さねばならないっ!」

デブリに続くように接近した メタトロンがサタンサーベルを薙ぎ、防御しきれず……インフィニティは弾かれ、氷の大地へと身を打ちつける。

「うあっっ……ぐぅぅ」

苦悶を浮かべながら……レイ ナはメタトロンを睨む。

「君も解かるはずだ……俺と 同じ……死から再生された者として………」

カインの言葉……そして、交 錯する度に内に駆け巡るカインからの黒い闇……レイナの鼓動が脈打つ…黒い感情が渦巻く………身が焦がされるほどの衝動………

 

 

―――――――黄泉がえさせ られし因子…………

 

 

二人の内に流れる血の半分 は……元々同じもの…………静かに眠りに就いていた死者の骸を利用し……その遺伝子を黄泉がえらせるという神の領域…いや……闇へと脚を踏み入れ、レイナ とカインは……別の遺伝子とともに…この世界に再生された………

死から……現実のこの世界 へ…………

「うっ……うぁぁぁっ」

レイナの呼吸が荒くなる…… 激しい眩暈と嘔吐感………瞳の焦点が合わないように霞む………虚空を見詰めるレイナの脳裏に声が響く………

それはレイの…自身の内に消 えた半身のものではない……それより深い……闇から…闇で死んだ自分と同じだったもの………

レイの闇を継いだ刻に覚悟し ていたもの……レイが見た闇…そして……地獄………それらがレイナの内に駆け巡る………

それだけではない……カイン の……カインの持つ闇もまたそれに合わさってレイナの内で飽和する……

「あっ…が……っっ!」

息が苦しい……身体が切り裂 かれそう………抑えるものが噴出しそう………二つの闇が干渉し、それが巨大な奔流となってレイナを蝕み…そして苦しませる…………

脳裏を掠める記憶……レイと カイン……二つの闇…………

幾多の犠牲を齎して……いっ たい…自分とこの男の誕生のために何人の自分達と同じ被験体が犠牲になった………

数十? 数百? いや……数 えるのも馬鹿らしいぐらいに………自分とこの男と同じ遺伝子を持ったきょうだいが闇から生まれ…闇に殺された…………

その果てに生を受けた二 人……成功? 失敗? 最高傑作?

哂わせてくれる……なにが成 功だ…なにが失敗だ……なにが最高傑作だ………結局…あの男の自己満足だ………なにをもって成功なのだ? なにをもって失敗なのだ………

そんな理屈で弄ばれ…殺さ れ……晒されたきょうだい達………数え切れないほどの闇の果てに……自分という魂が選ばれた………

幾多の血と闇が凝縮されたこ の身体に……最高の被験体とやらの身体に………

自身の内に渦巻く黒い感情に 激しい吐き気とどうしようもない衝動が込み上げてくる……

「…うっ…う あぁ…………っ」

黒い感情を抑え込みなが ら……レイナは自身に問われる…………

自分は何だ……何故戦ってい ると………何のために………何故そうまでしてこの男と戦うと………レイナの内に燻る黒い感情が荒れ狂う……滅ぼせと…全てを……壊せと……

内へと還ったレイの意識では ない……それは…紛れもなくレイナ=クズハ…いや……レイナ=クズハに受け継がれた犠牲になった幾人もの怨念………自身が殺した者ではない…自身のために 犠牲にされた者の闇…………

自分という存在が造られるま で……何人が犠牲になった………そのなかで皮肉にも奴に最高傑作という言葉を与えられた自分…いや…この身体…………

なにをもって最高なのか…… 偶々…自分は奴のエゴを満たす能力があっただけ…ただそれだけ………それが奴のエゴに満たなかったならば……恐らく…今ここにいる自分はこの世界に存在さ えしなかっただろう……あのメンデルで見たきょうだい達と同じく……冷たい闇のなかで……もがき苦しみ…そして…闇に喰われていただろう………

それが今…こうして自分はこ の場に立っている……あろうことか………きょうだい達の怨念…闇を世界へと齎そうとする相手を殺すために………

何故……何故…何故……… と…無限のループが繰り返される………

 

 

―――――私ハ何故戦 ウ………?

 

 

その言葉が脳裏を過ぎった瞬 間……レイナは掠れたように声を漏らす…………

「フッフフフ………アハハハ ハハッ」

理由などない……自分は…明 確な理由などない……しいて言えば……ただこの男の傲慢さが…いや……そんなものは理由にならない………

そんなものは所詮建前……自 分は心の何処かで求めているのだ………この闇をぶつける相手を……壊す相手を………そう考えた刻……レイナは自分自身を軽蔑した………

レイナは狂ったように哂 う……そうだ……結局…自分は壊れているのだ……壊れた人形だ……最高傑作と誇ったあの男に向けて言ってやりたい気分だった……最高傑作と思った被験体も ただ壊れていただけだと…………

いや……ヴィア=ヒビキの存 在がそうさせたのかもしれない………彼女がどう望んだのかは知らない…だが……その結果…自分は壊れた人形という役割を与えられた………

「私は……レイナ=クズ ハ……ただの…壊れた人形………」

哀れだとは思わない……た だ……自分という魂がこの役割を与えられただけ……運命は哀れな人形という役に……破滅を止めるために…きょうだいを裏切らせる堕天使に…自分という魂を 選んだ…………ゲームの駒のごとく…………

自分は闇にしか生きられない 思っていながら…結局闇をどこかで恐れている………自分は臆病で卑怯者だ………やはり…自分は存在してはならないものだと…生きようとした自身を嘲笑 う………

ならいい……それでも…元 々……自分は闇に還る運命なのだ………結局…自分はきょうだい達にとっては裏切り者でしかない………

いや……きょうだいだけでは ない………ヴィア=ヒビキも……レイナ=クズハのなかに消えて逝ったレイをも……裏切る………

裏切りの堕天使……それに身 を堕とした刻に………もう……避けられぬ運命なのだ……

インフィニティはユラリと身 を起こす……地獄より這い上がりし天使…いや………悪魔として………

自身は裏切り者……闇にその 魂さえ喰われる存在………今の世界にも…そして……その先の世界にも救いなどありはしない………

なればこそ………裏切り者ら しく……壊れた人形として………最期の役割を果たす……

瞳を閉じ……そして…次に開 いた瞬間…その奥に宿るのは………果てしない闇……海の底よりも……地獄よりも……さらに深い闇………

操縦桿を握り……インフィニ ティを加速させる。

振り上げた刃と刃が交錯し、 エネルギーをスパークさせるなか……インフィニティの真紅の瞳が輝き、メタトロンの右眼の奥で鈍く真紅に輝く瞳……それらがぶつかり、激しいうねりが巻き 起こる…………

互いに『破滅』という闇をそ の身に纏い………狂気に染まりし刃を掲げて……二人の天使はぶつかり合う………

その果てに……何もないと知 りながらも………無意味なことだとしても………

ただ……己が全ての闇を吐き 出すように…………そして…全てを………自分を含めた全てを……終わらせるために…………

 

 

 

 

 

ユニウスセブンの最深部…… そこに設置された一つの巨大なコンピューター………そのコンピューターの周囲に表示されるモニターには…ユニウスセブンの周囲で繰り広げられている戦闘が 逐一表示されている。

そのモニターが……一つの映 像を映し出す。

モニターのなかで激しい交錯 を繰り広げる黒と白の機影………

 

――――――インフィニティ とメタトロン…………

 

運命によって戦う宿命を持っ た二人を乗せて……火花を散らす2機の戦い………その戦いを映し出しながら…声が響く…………

『戦え……もっと…もっ と………戦え…………そして…見せろ………その答を………』

闇のなかで蠢く影………機械 的な声で発せられる言葉…………

狂気が渦巻く闇を……その闇 を貪るように………ただ高みから見下ろす………待ち焦がれる運命の刻を………

運命に選ばれる者を……ただ 静かに……そして…傲慢に…………

 

 

 

 

 

 

渦巻く運命は今……最期の刻 を迎えようとしていた………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

運命によって隔たれし二人の 存在………

この世界に生を受けた刻に は……既に呪われ…どちらかが淘汰されると宿命づけられていた………

逃れられぬ運命…………

未来に絶望した少年と未来を 捨てた少女………

 

全てが終わりへと向かってい く……全ては………運命の嵐のなかへと消えていく…………

それに翻弄されながも……誰 もがただ戦い…誰もがただ終わりを望み………

誰もが諦めていなかっ た…………

 

黒き感情を内に燻らせ……少 女は己の破滅を望む…………

譲れぬ願い…譲れぬ想い…… 譲れぬ業…………

未来が指し示す光と闇へと続 く道…………

終わりが齎すのは…新たなる 始まり………

 

 

そして……最期の審判が降さ れる………それは……少女を未来へと誘う新たな翼………

――――『無限』という名 の………『GUNDAM』の力…………

 

少女の翼は……破滅の運命を 超え…未来へと向けて舞い羽ばたく…………

 

最終回、「TWIN DESTINY OF DARKNESS(未来への翼)

 

闇を超え…そして闇を纏い て………翼を拡げ……舞え、インフィニティ。



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